説明

天然精油含有木質床材

【課題】 本発明は、床材からの樹木精油成分の適度な発散によって、ダニ抑制性能、抗菌性能、カビ抵抗性能等の効能を付与すると共にその長期間持続性を改善した天然精油成分を含有させた木質床材を安価に提供することを課題とする。
【解決手段】 木質基材表面に木質単板が積層接着され表面に塗装が施され、木質基材、接着剤層、木質単板、塗膜層からなる複数の層で構成された木質床材において、該木質床材を構成する各層のうち、少なくとも塗膜層と接着剤層に樹木の天然精油成分が含有されるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は住宅等建築物の内装に使用される木質床材で、詳しくは少なくとも床材の上塗り塗装膜及び木質単板貼り接着剤中に、天然樹木の精油成分を含有させた床材であり、樹木精油成分が長期にわたって床材から徐放し、その効能が長期間持続する天然精油含有木質床材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、健康で快適な住空間を創出することが望まれる風潮が強まる中、表面に化粧単板を貼着して作製された木質床材で、化粧単板を合板などの木質基材上に貼着する際の接着剤中に樹木の精油成分を含有させた木質床材が種々提案されている。しかし、それらいずれにおいても、樹木精油成分の効能については、床材が製造された直後は充分な効能を発揮するが施工後、期間が経過するとともに、その効能が徐々に低下するという問題点があり、長期間持続可能な効能を具備した木質床材を目的として種々工夫された木質床材が提案されている。例えば、台板と突板との間に合成樹脂シート層を設け、該合成樹脂シート層に樹木精油成分を含浸させてなる床材がある(特許文献1参照)。また、印刷紙貼り接着剤中に樹木精油成分を含有させた木目プリント化粧板がある。(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−138816号公報
【特許文献2】特開平5−004320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特開平5−138816号公報においては、台板表面に突板を貼着する際に、台板と突板との間にエチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等の合成樹脂シート層に害虫忌避成分を含浸させ、防虫、防カビ効果を長期間にわたって持続させることが記載されているが、現実の製造工程では、合成樹脂シート層に樹木精油成分を含浸させることは床材製造工程の複雑化と製造コストの高騰を招き、現実性に乏しいものであった。
【0005】
また、上記特開平5−004320号公報においては、木目模様が表面に印刷された化粧紙を台板上に貼り化粧板を製造する際、前記接着剤中に樹木精油成分を含有させて、しかも、化粧板表面の塗装面に部分的塗欠部を形成させて該塗欠部から樹木精油成分を徐々に発散させ、このことによって、接着剤中の樹木精油成分が短期間に外部へ発散することを防いで、効能の長期間持続性を発揮できることが記載されているが、プリント化粧板の表面の一部に表面塗装膜の塗欠部を生じさせることは、高度な技術を必要とし、製造コスト高につくばかりでなく、表面塗装膜の塗欠部から空気中の湿気が侵入し、表面化粧板の剥離、脱落等が生じる恐れがある。さらにまた、前記塗欠部は特定の1箇所では効果が生じないので、化粧板の前面の複数箇所に偏在させることなく設ける必要があり、そのために表面意匠を著しく低下させる恐れがあった。本発明は上述した事情に鑑みてなされたもので、本発明の目的は、樹木精油成分の適度な発散による害虫忌避性能等の効能の長期間持続性を改善した天然精油成分を含有させた木質床材を安価に提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためになされた請求項1に記載の本発明の天然精油成分含有木質床材は、木質基材表面に木質単板が積層接着され表面に塗装が施され、木質基材、接着剤層、木質単板、塗膜層からなる複数の層で構成された木質床材において、該木質床材を構成する各層のうち、少なくとも塗膜層と接着剤層に樹木の天然精油成分が含有されていることを特長とする。
【0007】
係る構成によれば、天然樹木の持つ精油成分の働きによってダニ抑制効果、抗菌効果、防カビ効果、ゴキブリ等に対する防虫効果等の効能が得られる。
【0008】
本発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の天然精油成分含有木質床材において、前記塗膜層に少なくともヒノキチオールを含む精油成分を含有し、前記接着剤層中に精油成分を含むエマルジョンを含有することを特長とする。
【0009】
係る構成によれば、前記天然精油成分の発散が徐々に確実に行われ徐放性が向上し、しかも接着剤層中に含有させた精油成分と塗膜層中に添加した精油成分の相乗効果によって、ダニ抑制効果、抗菌効果、防カビ効果、ゴキブリ等に対する防虫効果などの効能が、よりいっそう確実になる。
【0010】
本発明の請求項3に記載の発明は請求項2に記載の天然精油成分含有木質床材において、前記エマルジョンが、天然精油成分が内包された樹脂重合体粒子のエマルジョンであり、前記樹脂重合体粒子が内層と外殻層で構成される多層構造の樹脂重合体粒子からなり、該樹脂重合体粒子の内層に天然精油成分が含有されていることを特長とする。
【0011】
係る構成から、最初に塗膜層中の精油成分が大気中へと発散し、続いて、接着剤中の樹脂重合体粒子の内層に含有されている天然精油成分が、外殻層、接着剤層、木質単板層、塗膜層を通過して徐々に大気中に発散していくので、気中における、初期の天然精油成分濃度を一定レベル維持した上で長期間にわたって精油成分の発散が維持可能となる。従って、床材の精油成分徐放性能にとってよりいっそう好適である。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、天然樹木の持つ精油成分の働きによって、ダニ抑制効果、抗菌効果、防カビ効果、ゴキブリ等に対する防虫効果などの効能が得られる。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、前記天然精油成分の発散が徐々に確実に行われ徐放性が向上し、しかも接着剤中に含有させた精油成分と塗膜層中に添加した精油成分の相乗効果によって、ダニ抑制効果、抗菌効果、防カビ効果、ゴキブリ等に対する防虫効果などの効能が、よりいっそう確実になる。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、最初に塗膜層中の精油成分が大気中へと発散し、続いて、接着剤中の樹脂重合体粒子の内層に含有されている天然精油成分が、外殻層、接着剤層、木質単板層、塗膜層を通過して徐々に大気中に発散していくので、気中における、初期の天然精油成分濃度を一定レベル維持した上で長期間にわたって精油成分の発散が維持可能となる。従って、床材の精油成分徐放性能にとってよりいっそう好適である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の天然精油成分含有木質床材の一実施形態を示す断面図。
【図2】図1の要部拡大断面図。
【図3】樹脂重合体粒子の概念を示す拡大断面模式図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の詳細を図面に従って説明する。図1は本発明の天然精油成分含有木質床材の一実施形態を示す断面図、図2は図1の要部拡大断面図、図3は樹脂重合体粒子の概念を示す拡大断面模式図である。図中の符号、1は木質床材、2は木質基材、3は木質単板、4は接着剤層、5は塗膜層、6は嵌合凸部、7は嵌合凹部、8は樹脂重合体粒子、8aは外殻層、8bは内層周辺部、8cは内層中心部、Pは天然精油成分、Eは精油成分含有エマルジョンを示す。
【0017】
図1は本発明の天然精油含有木質床材の一実施形態を示す断面図である。本発明の木質床材1は、裏面側から順に、木質基材2、接着剤層4、木質単板3、塗膜層5の複数の層がこの順で積層されて構成されている。
【0018】
本発明の木質床材1の台板として用いられる木質基材2は、合板、中比重繊維板、木削片板などが適するがこれら以外の木質基材であってもよい。より詳しくは、木質基材2として、ラワン材、カポール材、アピトン材、ジョンコン材、その他、合板用用途又はその他の用途に用いられる南洋材がコスト、入手し易さ等を考慮すると好適である。また、合板の他に、MDFなどの中比重繊維板や、パーティクルボードなどの木削片板、OSBなどの繊維配向ボードなどを好適なものとして例示できる。これらのうちでは一般的にラワン合板と称されるものが、コストや入手し易さ、使いやすさ等を配慮して好適である。
【0019】
また、床材表面化粧材として、木質基材2の表面に木質単板3が接着剤層4を用いて貼着されている。さらに、木質単板3の表面には表面塗装仕上げとして、塗膜層5が設けられている。
【0020】
前記木質単板3としては、床材としての使用に好適な木質単板で、しかも、外観に優れた木目を有する木質単板が好適である。ナラ材、カバ材、ケヤキ材、サクラ材、チーク材、メープル材等の銘木単板が、堅木で、しかも、銘木の持つ木目が外観意匠性にも優れているゆえ好適であるが、これら以外の樹種であっても、床材として使用に耐える固さ及び耐久性を有する樹種であればよい。
【0021】
また、木質単板3を貼着する接着剤としては、ユリア樹脂系接着剤、メラミン樹脂系接着剤、ユリアメラミン共縮合樹脂系接着剤、ウレタン樹脂系接着剤、酢酸ビニル樹脂系接着剤、スチレン・ブタジエンゴムラテックス樹脂系接着剤、メラミン変性ラテックス樹脂系接着剤等が好適に用いられる。しかし、これら以外であっても、勿論よいものとする。木質系材料を接着可能な水溶性接着剤が好適である。
【0022】
また、本発明の木質床材1の表面に塗装仕上げし塗膜層5を構成する塗料としては、熱硬化型又は紫外線硬化型の合成樹脂塗料が製造作業性等を考慮すると好適である。ウレタン樹脂系塗料、エポキシ樹脂系塗料、ポリエステル樹脂系塗料、アミノアルキッド樹脂系塗料等を木質単板3の表面塗装に好適な塗料として例示できる。しかし、これらに限定されるものではない。また、これらの合成樹脂系塗料を下塗り、中塗り、上塗りと複数層組合せて使用してもよい。
【0023】
また、本発明の木質床材1は平面図(図示せず)で見て四辺形からなり、該四つの辺の対向する二辺又は四辺に、必要に応じて、図1に一例を示すような嵌合凹凸部が形成されている。図1に示す断面図でみると、一方の辺に嵌合凸部6が形成され、それと対向する辺に嵌合凸部6と嵌合する嵌合凹部7が形成されている。
【0024】
図2は図1に示す本発明の天然精油含有木質床材1の要部拡大断面図である。本発明に用いられる天然精油は樹木から発散され、人が森の中を散策した際に気分をしずめ、すがすがしさを感じさせる物質として、フィトンチッドと一般に称される物質である。そして、森を散策する人に森林浴効果を与えるものである。前記フィトンチッドと称される物質は森林の樹木から発散され、抗菌性、防虫性、防カビ性、防ダニ性等の効能の他に、人の気分を沈静化させリフレッシュさせる効果を有している。
【0025】
図2に示すように、天然精油成分Pを含む微粒子が、樹脂重合体粒子8として接着剤層4の層中に含有されている。この天然精油成分Pは、接着剤層4の層中にエマルジョン化して適量添加されており、天然精油成分Pが所定の量となるように調整されている。
【0026】
この場合の天然精油成分Pとして、スギ、ヒノキ、ユーカリ、ヒバ等の主として葉から水蒸気蒸留法によって得られる、モノテルペン類、セスキテルペン類、ジテルペン類が好適である。このうち、沸点が比較的低くしかも蒸留法で容易に得られるモノテルペン類、セスキテルペン類が最も好適である。具体的には、モノテルペン類として、α−ピネン、リモネン等を、また、セスキテルペン類としてセドロールを好適なものとして例示できる。このうち、α−ピネンとリモネンの組合せが最も好適なものの組合せとして例示できる。
【0027】
すなわち、接着剤層4の層中にエマルジョン化して適量添加される、モノテルペン類の組合せは、互いに沸点が異なるものが好ましい。その一例として、α−ピネン、リモネンの組合せがある。
【0028】
また、接着剤層4の層中に含有された天然精油成分Pは、発散していく際、接着剤層4、木質単板3、塗膜層5を通過しなければならず、モノテルペン類よりも比較的高沸点のセスキテルペン類やジテルペン類を用いると発散速度が遅くなる。従って、モノテルペン類の方が好適である。
【0029】
前記モノテルペン類の好適なものとしては、上記したように少なくとも2種類以上の沸点の異なるモノテルペン類の組合せがよい。もう少し詳細に述べると、α−ピネン、リモネンの組合せを好適なものとして例示したが、その理由は、α−ピネン、リモネンの組合せは、それらが沸点が互いに異なる組合せであるので、住環境の温度湿度などの変化に対する対応力が大きくなり、長期間の床材使用に対しても、天然精油成分Pの持つ効果が長期間維持でき、従って安定した効能を発揮できるからである。
【0030】
すなわち、天然精油成分Pとしては、α−ピネンとリモネンの組合せ、テルピネオールとシネオールの組合せ、リモネンとシネオールの組合せ、ピネンとシネオールの組合せ等が考えられる。これらは、樹脂重合体粒子8に対する親和性が異なり、そのことによって、樹脂重合体粒子8に対する含浸吸収位置が異なるのである。
【0031】
すなわち、本発明の樹脂重合体粒子8は内層樹脂と該内層樹脂を覆う外殻樹脂からなり、その一例は、内層樹脂に天然精油成分Pが含有され、その外側を外殻樹脂で覆われた二重構造である。また、さらに好適な一例は、天然精油成分Pが含浸される内層樹脂が、精油成分の親和性の相違によって、内層周辺部8bと、内層中心部8cに分けられ、その外側を外殻樹脂で覆われた三重構造である。また、それ以上の四重以上の多層構造であってもよいものとする。
【0032】
以下、本発明に用いる樹脂重合体粒子8の最も好適な例として、上記の三重構造からなる多層構造の例を中心として述べる。樹脂重合体粒子8は、下記に述べるように、主としてα−ピネンが含浸される内層周辺部8bと、主としてリモネンが含浸される内層中心部8cの、内層が二重構造からなり、そして前記したように、その外側を外殻樹脂が覆い外殻層8aが形成されており、三重の多層構造である。
【0033】
そして、樹脂重合体粒子8を構成する樹脂として、酢酸ビニル樹脂を用い、精油成分Pとして、上記したα−ピネンとリモネンの組合せが安価で入手し易く、最も好適である。このようにして前記したように、樹脂重合体粒子8の内層中心部8cに主としてリモネンが含浸し、樹脂重合体粒子8の内層周辺部8bには主としてα−ピネンが含浸される。リモネンと比べるとα−ピネンの方が若干沸点が低い。
【0034】
天然精油成分Pが発散する徐放性の仕組みについて述べる。すなわち、本発明の木質床材1に用いる天然精油成分Pは、互いに沸点が異なる少なくとも2種類のモノテルペン類からなるのが好適であり、沸点の低い方(本例ではα−ピネン)からなる天然精油成分Pが一足早く発散し、初期効能を一定レベル維持した上で、沸点の高いもう一方(本例ではリモネン)からなる天然精油成分Pが少しづつ比較的ゆっくりと発散する。従って、長期間にわたって効能を維持しつづけることが可能となる。このように、二段階の仕組みを有しているので、天然精油成分Pの発散速度をコントロール可能となり、天然精油成分Pが持つさまざまな効能の維持という観点から見て、初期効能の維持から、長期間効能の維持まで、効能の長期間持続可能な本発明の木質床材1が完成する。
【0035】
また、あとで詳細を述べるが、上塗りの塗膜層5にトロポノイドであるヒノキチオールからなる天然精油成分Pが含有されている。接着剤層4の層中にエマルジョン化して含有されているα−ピネン、リモネンなどのモノテルペン類の組合せとの相乗効果で、よりいっそうの効能発揮と、その長期間持続性が確保されるのである。
【0036】
上塗りの塗膜層5に含有されているヒノキチオールが最初に大気中へと発散する。続いて前記、接着剤層4の層中に添加された精油成分含有エマルジョン中の多層構造の樹脂重合体粒子8の内層周辺部8bに含浸しているα−ピネンが発散していく。そして、塗膜層5から発散したヒノキチオールとの相乗効果が発揮されるのである。最後に内層中心部8cに含浸しているリモネンが発散していく仕組みである。
【0037】
次に、木質基材裏面にも精油成分含有エマルジョンEを塗布した場合の有効性について詳細に述べる。木質単板3が貼着された木質基材2の裏面に、精油成分含有エマルジョンEからなる裏面コート層(図示せず)を施すと、精油の持つ効能がよりいっそう向上する。この時の精油成分含有エマルジョンEは前記木質単板3を貼着した際の接着剤層4に添加したものと同様のものでよい。この精油成分含有エマルジョンEに防虫剤やホルマリンキャッチャー剤等を添加すると、木質床材のシロアリ等に対する防虫効果等が向上し、さらに、床材施工後、基材合板に使用された接着剤や床材表面の塗料等から発散される有害なホルマリン臭などの弊害を有効に防止する効果がいっそう向上する。
【0038】
前記防虫剤の一例として、非リン系のイミダクロプリドを主成分とするクロロニコチル系防虫剤が防虫効果や安全性、コスト等の観点から好適である。精油成分含有エマルジョンEに防虫剤、ホルマリンキャッチャー剤等を添加し水を加えて調整し、裏面コート剤とする。前記裏面コート剤の好適な配合例として一例を示すと、重量比率で防虫剤約1〜2%、精油成分含有エマルジョン約3〜9%、ホルマリンキャッチャー剤約40〜45%、水約50%程度が好適である。塗布量は約30〜50g/m程度が好適である。しかし、これに限定されるものではない。
【0039】
好適な一例を示すと本例では、防虫剤2%、精油成分含有エマルジョン5%、ホルマリンキャッチャー剤43%、水50%として配合し裏面コート剤を作製し、これを3尺×6尺サイズ(長さ約1830mm×幅約920mm×厚さ約12.0mm)のラワン合板からなる木質基材2の裏面に約67g塗布し、床板1m当たりの塗布量を約40g/mとする。溝付きロールスプレッダーにて塗布し約5分間、常温にて養生した後、約50〜70℃の乾燥炉中で約15分間乾燥させるとよい。
【0040】
続いて、3尺×6尺サイズの仕掛かり製品を床板仕上がりサイズに加工機にて切断し、必要に応じ、表面溝加工を行う。先ず、三ツ割加工機にて約1尺×6尺サイズに切断し、必要に応じて、テノーナーを用いて本実加工する。床材を平面で見て四辺形の二辺又は四辺に本実加工を施す。対向する二辺に、凸部とこれに嵌合する凹部を形成する。図1の断面図に示すような嵌合凸部6及び嵌合凹部7を加工する。形状はあくまでも一例であって、これ以外のものであっても勿論よいものとする。さらに、図示しないが、床板表面に必要に応じて縦溝及び又は横溝を加工する。溝形状は断面視、V字型形状、角型形状、U字型形状等、床板意匠性を考慮して適宜選定する。そして、次に、塗装工程に入る。
【0041】
次に、塗装工程の概略を述べる。本例では下記に示す塗装工程の好適な一実施例の詳細のように、塗装工程は下地シーラー工程、着色補色工程、下塗り工程、中塗り工程、上塗り工程の順で進められる。前記上塗りの塗膜層5に上記したように精油成分を添加する。
【0042】
添加する精油成分としては、トロポノイドであるヒノキチオールが好適である。天然精油成分Pは、例えば上塗りの塗料樹脂主剤16kgに対して、トロポノイドであるヒノキチオールを約15〜30g程度(重量比添加率で、約0.1%〜約0.2%程度)が好適である。上塗り塗装工程で、塗料配合時に適量添加して塗料粘度9〜10秒(Z/C#5)程度で、上塗り塗布量を約5.5〜7.5g/mとし上塗り塗装工程を行う。
【0043】
前記上塗り塗膜層5に添加する精油成分は、少なくともヒノキチオールを含む精油成分で、ヒノキチオール以外には、例えば、シネオール、セドロール等を好適なものとして例示できる。すなわち、ヒノキチオール単独か、又は、ヒノキチオールとそれらを混合して用いてもよい。また、ヒノキチオールと、その他の、モノテルペン類、セスキテルペン類、ジテルペン類等を混合して用いてもよい。しかし、ヒノキチオール単独の場合は、効能、コスト、作業性等を考慮すると最も好適である。
【0044】
塗装工程は概略、下地シーラー工程、着色工程、補色工程を経て、下塗り及び中塗り工程に入る。下塗り及び中塗り工程の塗布量は合わせて約55〜65g/mとするのが好適である。続いて上塗り工程で仕上げ塗装を行う。上塗り工程での塗布量は一例として、約5.5〜7.5g/mとするのが好適である。各塗装工程の間には例えば紫外線硬化ランプで照射し塗膜層5を十分に硬化させ、中間研磨を経て次ぎの塗装工程に入る。用いられる塗料としては、前記した熱硬化型又は紫外線硬化型の合成樹脂塗料が製造作業性等を考慮すると好適である。塗装作業性、特に生産効率等を考慮すると紫外線硬化タイプの塗料の方がよりいっそう望ましい。ウレタン樹脂系塗料、エポキシ樹脂系塗料、エポキシアクリレート樹脂系塗料、ポリエステル樹脂系塗料、アミノアルキッド樹脂系塗料等を木質単板3の塗装に好適な塗料として例示できる。
【0045】
しかし、上記塗装工程、塗料、塗布量等はこれに限定されるものではない。特に、塗布量については、床材表面の外観向上のため、これらの約50%程度増やして厚塗り塗装しても効能等に変わりないので勿論よいものとする。
【0046】
本発明の天然精油成分含有木質床材1の最表面層に位置する上塗りの塗膜層5に含有する天然精油成分Pが初期において発散し、続いて、接着剤層4の層中のα−ピネンがそれに続き、最後に、リモネンが発散していく仕組みである。塗膜層5から発散する精油成分と接着剤層4から発散する精油成分との相乗効果によって、精油の持つ効能がよりいっそう向上する。このようにして床材施工の初期状態から床材の長期間使用後においても安定した天然精油成分の効能が発揮できるのである。
【0047】
図3は樹脂重合体粒子8の拡大断面模式図である。接着剤層4の層中に添加する天然精油成分Pを含有するエマルジョンは図3に模式的に示すような多層構造を有する粒子であり、該粒子を水中に分散させた精油成分含有エマルジョンEである。そして、前記多層構造を有する粒子は図3に示すような構造を有する樹脂重合体粒子8である。
【0048】
そして、該樹脂重合体粒子8は合成樹脂からなる外殻層8aと内層周辺部8bと内層中心部8cとからなる多層構造の樹脂重合体粒子8である。該樹脂重合体粒子8の内層周辺部8b及び内層中心部8cに天然精油成分Pが分散している。そして外殻層8aは、例えばアクリル樹脂の樹脂重合体等からなる樹脂重合体粒子8である。そして、前記樹脂重合体粒子8の内層周辺部8bと内層中心部8cは、例えばエチレン酢酸ビニル共重合樹脂、又は、酢酸ビニル樹脂等からなる。
【0049】
このようにして、樹脂重合体粒子8の内層として酢酸ビニル樹脂又はエチレン酢酸ビニル共重合体樹脂を用い、精油成分として、α−ピネンとリモネンの組合せとするのが、安価で入手し易く最も好適である。樹脂重合体粒子8の内層中心部8cに主としてリモネンが含浸し、樹脂重合体粒子8の内層周辺部8bに主としてα−ピネンが含浸される。
【0050】
前記樹脂重合体粒子8についてさらに詳述する。樹脂重合体粒子8を構成する樹脂層のうち天然精油成分Pを内蔵させるための内層周辺部8b及び内層中心部8cを形成する樹脂としては、酢酸ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂、アクリル酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂などを好適なものとして例示できる。これらのうち、上記したエチレン酢酸ビニル共重合体樹脂、又は、酢酸ビニル樹脂が製造作業性、コスト等を考慮して最も好適である。
【0051】
本発明の木質床材1から発散される天然精油成分Pは床材製造後、かなり長期間にわたって徐々に床材表面から発散され、所謂、除放性能を具備している。これは、樹脂重合体粒子8が内蔵する天然精油成分Pが、少なくとも2種類の互いに沸点の異なるモノテルペン類からなることによって、よりいっそう好適に、達成されるものである。
【0052】
接着剤層4に添加された天然精油成分Pは、先ず、樹脂重合体粒子8の外殻層8aを通過しなければならず、その後、接着剤層4からなる層を通り、その上側に貼着されている木質単板3の層を通過し、さらにその表面に設けられている塗膜層5を通って外部の空間に発散され、室内空間にフィトンチッドが少しづつ発散される。このようにして、ダニ増殖抑制効果、抗菌効果、防カビ効果、さらには、森林浴効果などが得られるのである。このように、接着剤層4の層中の天然精油成分Pは、樹脂重合体粒子8の外殻層8aを通過し、接着剤層4、木質単板3、塗膜層5を順次通過して外部へ発散されるので、モノテルペン類からなる天然精油であっても、かなりゆっくりとした発散速度となる。
【0053】
また、前述したように、本発明の木質床材1に用いる天然精油成分Pは、互いに沸点が異なる少なくとも2種類のモノテルペン類からなるので、沸点の低い方の天然精油成分Pが一足早く発散し、初期効能を一定レベル維持した上で、沸点の高いもう一方の天然精油成分Pが少しづつ比較的ゆっくりと発散する。従って、長期間にわたって効能を維持しつづけることが可能となる。このように、二段階の仕組みを有しているので、天然精油成分Pの発散速度をコントロールすることが可能となり、天然精油成分Pが持つさまざまな効能の維持という観点から見て、初期効能の維持から、長期間効能の維持まで、効能の長期間持続が可能な本発明の木質床材1が完成する。
【0054】
また、接着剤層4の層中に添加されている天然精油成分Pの含有量は、使用する床材の材質、床材を施工する部屋の広さと施工する床材の面積の割合等で変わるが、床材1m当たり、2.0〜10.0gの範囲であることが好適である。2.0g以下では発散期間が短期間になり効能持続性に劣る。従って、その効能を十分に発揮することができない。また、10.0g以上の場合は、木質単板3の接着強度の低下を招くことになり、木質単板3の積層剥離を招く恐れがある。2.0g〜10.0gの範囲であることが、天然精油成分Pの効能の長期間持続性、効能の十分な発揮といった観点と、床材の品質の維持といった観点の両方から見て、バランスがとれたものとなるので、この範囲が好適である。さらに、前記効能の長期間持続性、効能の十分な発揮、床材の品質といった観点から見て、天然精油成分Pの最も好適な含有量は、床材1m当たり、3.0g〜8.0gの範囲である。
【0055】
天然精油成分Pを含有する樹脂重合体粒子8はエマルジョン化し精油成分含有エマルジョンEとして木質単板3を木質基材2の表面に貼着する際の接着剤層4の層中に適量混入して用いるとよい。以下、精油成分含有エマルジョンE、精油成分Pなどの好適な成分比を重量比率で示す。この場合、接着剤層4の層中の精油成分含有エマルジョンEの添加割合は約7〜40%程度以下とするとよい。また、精油成分含有エマルジョンE中の樹脂重合体粒子8の比率は約60%〜約80%程度が好適である。また、樹脂重合体粒子8内の精油成分Pの割合は、樹脂が約60%に対して精油成分Pを約40%程度とするのがよい。
【0056】
また、この場合、床材面積1m当たりで、前記樹脂重合体粒子8の塗布量は約5〜25g程度が好適である。こうすると、床材面積1m当たりで、前記天然精油成分Pの塗布量は約2〜10g程度となり、精油成分Pの効能や床材の単板積層剥離防止といった観点から好適である。
【0057】
また、接着剤塗布量は床材面積1m当たり、約80g/m〜約120g/m程度が好適である。少なすぎると木質単板3の接着不良が生じやすくなり、また、多すぎると接着剤が単板層から表面へしみ出して床材表面の汚染の原因となる。
【0058】
また、上記のように、床材面積1m当たりで、前記樹脂重合体粒子8の塗布量を約5〜25g程度とするためには、例えば、接着剤塗布量を床材面積1m当たりで、約80g/mとした場合、精油成分含有エマルジョンE中の樹脂重合体粒子8の比率を約60%〜約80%とし、接着剤層4の層中への精油成分含有エマルジョンEの添加量を約10〜38%程度とすればよい。
【0059】
また、床材面積1m当たりで、前記樹脂重合体粒子8の塗布量を約5〜25g程度とするためには、例えば、接着剤塗布量を床材面積1m当たりで、約120g/mとした場合、精油成分含有エマルジョンE中の樹脂重合体粒子8の比率を約60%〜約80%とし、接着剤層4の層中への精油成分含有エマルジョンEの添加量を約7〜25%程度とすればよい。
【0060】
また、他の例を示すと、床材面積1m当たりで、前記樹脂重合体粒子8の塗布量を約5〜25g程度とするためには、例えば、接着剤塗布量を床材面積1m当たりで、約120g/mとした場合、精油成分含有エマルジョンE中の樹脂重合体粒子8の比率を約60%とし、接着剤層4の層中への精油成分含有エマルジョンEの添加量を約7〜35%程度とすればよい。
【0061】
本発明の天然精油成分含有木質床材1の製造方法は、台板となる木質基材2として例えば合板等を用意し、さらに床材の表面化粧のために用いる木質単板3を用意する。そして、木質単板3を台板上に貼着するための接着剤を木質単板3の材質や台板合板の樹種、製造コスト、作業性などを考慮して、適宜選定し用意する。さらに、天然精油成分Pを含有させた精油成分含有エマルジョンEを適量用意する。
【0062】
前記精油成分含有エマルジョンEは天然精油成分Pとして、互いに沸点の異なる2種類以上のモノテルペン類を少なくとも約20重量%以上、好ましくは約40重量%程度内蔵させた樹脂重合体粒子8を水中に分散させ、エマルジョン化して得られる。接着剤中に重量比率で約7%〜約40%程度添加するとよい。
【0063】
また、一例としてメラミン変性ラテックス樹脂接着剤を用いて木質単板3を台板合板上に貼着する場合について詳細に述べる。上記したように、接着剤の塗布量は床材面積1m当たりで、約80〜120g/mとするのが好適である。ロールスプレッダー又はそれに代わる塗布装置にて塗布する。そして、前記樹脂重合体粒子8を床材面積1m当たりで、約5〜25g/m程度とするのが好適である。また、木質単板3はホットプレス等を用いて熱圧締するとよい。好適な条件は、一例として、圧締圧力約7.0〜12.0kg/cm程度、圧締温度は約100℃〜120℃で、圧締時間は木質単板3の厚み、及び、接着剤の種類にもよるが、木質単板3の厚みが、約0.2〜0.25mmの湿式貼りの場合で、約50〜90秒程度である。また、木質単板3が厚み約3.0mm程度の乾式の厚単板の場合は、約3〜4分程度必要である。
【0064】
次に銘木単板3を貼着した床材表面を研磨し平滑に仕上げて、その後、テノーナー、グルーバー等の木工機械を利用した加工工程、及び、塗装機械を用いた塗装工程に入る。
【0065】
塗装工程についてさらに詳しく述べる。下記に述べる塗装工程はこれに限定されるものではない。また、塗布量については前述したように、下記記載の塗布量の約50%程度増やして塗装してもよいものとする。
【0066】
最も好適な塗装工程として、紫外線硬化タイプの塗料を用いた高品質塗装を例示する。塗装工程直前に、塗装前の床材の木質単板表面を平滑に研磨する。例えば、番手#180〜#240番手のサンドペーパーを用意し、ワイドベルトサンダー等を通過させ、下地の生地研磨を行う。続いて塗装工程に入る。シーラー工程、着色工程、補色工程、下塗り工程、中塗り工程、上塗り工程の順に進められる。スポンジゴムロールコーター、ウレタンゴムロールコーター等を用いて、ロール回転方向を正回転及びリバース逆回転を適度に組み合わせて、複数のロールで塗装する。
【0067】
下塗り及び中塗り工程の塗布量は一例として、下塗り工程で約25〜30g/mとし、中塗り工程で約30〜35g/mとし、合わせて、約55〜65g/mとするのが好適である。上塗り塗布量は一例として、約5.5〜7.5g/mとするのが好適である。
【0068】
また、前述したように上塗り塗料には、精油成分を重量比率で約0.1〜0.2%程度添加するとよい。精油成分としては、少なくともヒノキチオールを含む精油が好適である。そのうちでも、ヒノキチオール単独の場合が上塗り塗料中に添加するものとして、効能やコストや作業性等を考慮すると最も好適である。
【0069】
各塗装工程の間には、例えば紫外線硬化ランプにて紫外線を照射し、比較的短時間で塗膜を十分に硬化させる。硬化した塗膜表面を番手#320〜番手#400程度の比較的細かな番手のサンドペーパーを用いて中間研磨する。エアープラテン方式のワイドベルトサンダー、又は、比較的柔らかいシートで覆われたロール表面にサンドペーパーが巻かれたドラムサンダーにて中間研磨を軽く行う。
【0070】
中間研磨を経て次ぎの塗装工程に入る。用いられる塗料としては、前記した熱硬化型又は紫外線硬化型の合成樹脂塗料が製造作業性等を考慮すると好適である。特に、塗装作業性、生産効率等を考慮すると紫外線硬化タイプの塗料の方がよりいっそう望ましい。ウレタン樹脂系塗料、エポキシ樹脂系塗料、ポリエステル樹脂系塗料等を木質単板3の上塗りに好適な塗料として例示できる。しかし、これらに限定されるものではない。
【0071】
さらに、好適な塗料の一例として、紫外線硬化タイプの無溶剤系のエポキシ樹脂塗料、及び、溶剤系のポリエステル樹脂塗料の組合せを例示できる。製品の仕上がり性、塗膜性能、作業性、生産性、製造コスト等の観点から好適であるが、これ以外であっても、勿論、よいものとする。塗装機械は、ロールコーターが作業性、生産効率等を考慮すると好適であるが、ロールコーター以外に、フローコーター、自動スプレー塗装機等公知の塗装機を用いても勿論よいものとする。
【0072】
次に、天然精油成分Pを含有する多層構造の樹脂重合体粒子8の製造方法について述べる。樹脂重合体粒子8を構成する樹脂として、酢酸ビニル樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂、アクリル−酢酸ビニル共重合体樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂等が用いられる。
【0073】
天然精油成分Pとしては、α−ピネンとリモネンの組合せ、テルピネオールとシネオールの組合せ、リモネンとシネオールの組合せ、ピネンとシネオールの組合せ等が考えられる。これらは、内層となる樹脂重合体に対する親和性が異なり、そのことによって、樹脂重合体に対する含浸吸収位置が異なるのである。
【0074】
このうち、樹脂重合体を構成する樹脂として、酢酸ビニル樹脂を用い、その外側をあとで述べるようにアクリル樹脂で覆う構成がよい。また、精油成分Pとして、α−ピネンとリモネンの組合せを用いるのが安価で入手し易く、最も好適である。樹脂重合体の内層中心部8cに主としてリモネンが含浸し、樹脂重合体の内層周辺部8bには主としてα−ピネンが含浸される。
【0075】
前記内層が酢酸ビニル樹脂からなる樹脂重合体は、非イオン系界面活性剤の存在下で乳化重合によって、酢酸ビニル樹脂重合体からなる樹脂エマルジョンとして得られる。この酢酸ビニル樹脂エマルジョンに前記精油成分のうち、樹脂重合体の中心部に含浸するリモネンを添加し、必要に応じて加熱しながら攪拌し、酢酸ビニル樹脂からなる樹脂重合体のエマルジョンに、リモネンを含浸させる。次に、同様にして、酢酸ビニル樹脂からなる樹脂重合体のエマルジョンに、α−ピネンを含浸させ、精油成分含有樹脂エマルジョンが得られる。
【0076】
次に、精油成分含有エマルジョンEについて詳細に述べる。精油成分含有エマルジョンEは、一例として酢酸ビニル樹脂重合体を内層樹脂として、その外側を外殻樹脂で覆い、多層構造の樹脂重合体粒子8とする。この場合の、外殻樹脂の好適な一例はアクリル樹脂である。この時、樹脂重合体のエマルジョンに、重合性モノマーと重合開始剤を加え、必要に応じて加熱攪拌しながら、樹脂重合体の外殻を高分子化合物で覆い、外殻層8aを形成する。そして、外殻層8a、内層周辺部8b、内層中心部8cの三層構造からなる、多層構造の樹脂重合体粒子8を含有するエマルジョンEが得られるのである。
【0077】
前記外殻を構成する樹脂としては、アクリル樹脂の他には、例えば、プロピレン樹脂、ポリエステル樹脂等が好適に用いられる。これらのうち、内層を構成する樹脂が酢酸ビニル樹脂の場合、外殻樹脂としてアクリル樹脂が、精油成分と樹脂との親和性を考慮し、さらに、精油成分の発散の徐放性を考慮すると、最も好適である。
【0078】
このようにして、本発明に用いられる天然精油成分Pを含有する多層構造の樹脂重合体粒子8からなる精油成分含有エマルジョンEが製造される。
【実施例】
【0079】
以下、実施例によって本発明を更に詳述するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
(実施例1)まず、変性ラテックス樹脂30重量部、変性メラミン樹脂30重量部、増量剤としての小麦粉22重量部、水2重量部を配合し、これに精油成分含有エマルジョンを16重量部配合して木質単板貼り用接着剤を調整した。
【0080】
この時用いた精油成分含有エマルジョンは次に示すようにして作製したものを用いた。すなわち、非イオン系界面活性剤の存在下で乳化重合させ酢酸ビニル樹脂重合体からなる樹脂エマルジョンを得た。このエマルジョンに前記精油成分のうち、樹脂重合体の中心部に含浸するリモネンを添加し、必要に応じて加熱しながら攪拌し、リモネンを含浸させる。次に、同様にして、エマルジョンに、α−ピネンを含浸させ、精油成分を含有する酢酸ビニル樹脂重合体からなる樹脂エマルジョンを得た。次に、該エマルジョンにメタクリル酸メチル、アクリル酸混合モノマーからなる重合性モノマーと重合開始剤を加え、必要に応じて加熱攪拌しながら、樹脂重合体の外殻をアクリル樹脂からなる高分子化合物で覆い、多層構造の樹脂重合体粒子8を含有する精油エマルジョンが得られた。この時、樹脂重合体粒子8に含まれる精油成分の重量比率を40%とした。また、精油成分含有エマルジョン中の樹脂重合体粒子8の重量比率を70%とした。
【0081】
次に、厚さ12mmの合板に、上記接着剤を100g/m塗布したのち、木質単板として、厚さ0.22mmのナラ材の銘木単板を貼り合わせ、ホットプレス条件として、圧締温度100℃、圧締圧力7.0kg/cm、圧締時間55秒として、熱圧締して塗装前の床材が得られた。この時、床材1m当たりの精油成分は、約4.5g/mであった。その後、24時間養生堆積し、表面温度が常温に戻ったのち、塗装工程にて塗装を施した。
【0082】
塗装工程は、シーラー工程、着色工程、補色工程、下塗り工程、中塗り工程、上塗り工程の順に進めた。塗料は紫外線硬化タイプのものを用いた。シーラー工程では無溶剤系エポキシ塗料を約6g/mロール塗布し、紫外線ランプにて紫外線を照射した。照射エネルギー300mjとした。続いて、着色及び補色工程にて、木質単板3にロールコーターにて着色剤を塗布しリバースコーターにて余剰の着色剤を掻き取ると共にナラ材銘木単板の導管等の木目孔内に着色剤を刷り込んだ。
【0083】
続いて、下塗りには無溶剤系エポキシ樹脂塗料をロールコーターにて28g/m塗布し、紫外線ランプにて紫外線を照射した。照射エネルギー290mjとした。中塗りには溶剤系ポリエステル樹脂塗料をロールコーターにて32g/m塗布し紫外線ランプにて紫外線を照射した。照射エネルギーを380mjとした。上塗りには無溶剤系エポキシ樹脂塗料をロールコーターにて6g/m塗布し紫外線ランプにて紫外線を照射した。照射エネルギーを380mjとした。
【0084】
この時、塗装工程の上塗り工程において、上塗り塗料中に、ヒノキチオールを適量添加した。前記ヒノキチオール添加量は、無溶剤系エポキシ樹脂塗料16kgに対してヒノキチオールを20g配合した。添加率の重量比は0.125%であった。この時、塗装膜によって付加される床材1m当たりの精油成分は約0.01g/m程度であった。このようにして、本発明の木質床材の実施例1のサンプルを作製した。
(比較例1)単板貼り工程において、接着剤中に添加するエマルジョンとして、精油成分を全く添加しないエマルジョンを用いた。そして、塗装工程において、上塗り塗料中に、ヒノキチオールを全く添加しなかった。この点以外は実施例1と同様にして比較例1のサンプルを作製した。
(効能試験)
上記、実施例1、及び、比較例1の各サンプル床材について、ダニ抑制性能試験、抗菌性能試験、カビ抵抗性能試験を実施した。試験結果を表1〜表6に示す。
(1)ダニ増殖抑制性能試験について。
(試験方法)検査ダニとして、ヤケヒョウヒダニを用い、サンプル床材上にダニ増殖装置を置き、ウエットチャンバー内に設置した。該ウエットチャンバー内の環境を温度25℃、相対湿度75%に調整した。このような環境下でダニの増殖状況を観察した。観察期間は、設置開始後、4週目、8週目とした。
【0085】
ダニ増殖装置の概要は以下のとおりであった。厚み3mm×縦30mm×横30mmの平面視30mm角の正方形で、高さ3mmのアクリル樹脂製角柱を用意し、該角柱をサンプル床材上に、3mm方向が高さとなるように載置した。そして、該角柱を平面で見て、中央部に直径10mmの円形の貫通孔を3mmの高さ方向に設けた。前記貫通孔の中に所定数のダニとその飼料を入れ、円形の貫通孔が設けられている角柱の天面と底面を和紙で被覆した。角柱は和紙で被覆されているので、フィトンチッドを含む空気及び湿気や水分は通過可能であるが、ダニそのものは脱出できない。
【0086】
実施例1、及び、比較例1サンプル床材を190mm×190mmの正方形にカットし、それぞれ各3枚づつ計6枚用意し、ヤケヒョウヒダニを60匹用意した。上記ダニ増殖装置を実施例用として3個、比較例用として3個、計6個用意した。ウエットチャンバーを6個用意し、各ウエットチャンバー内に190mm角の正方形の実施例1サンプル床材及び比較例1サンプル床材を各1枚づつ設置し、前記アクリル樹脂製角柱に、ヤケヒョウヒダニを10匹と飼料を入れ和紙で被覆したものを1個づつ、各ウエットチャンバー内の床材サンプル上に載置した。このようにして、実験開始直後、4週後、8週後のダニの総数をカウントした。結果を、表1、表2に示す。
(表1)ダニ抑制性能試験結果。(単位、匹)

【0087】
(表2)ダニ抑制性能試験結果。(単位、匹)

【0088】
(試験結果の考察)
実験開始直後から4週後までの期間、実施例1サンプル、比較例1サンプル両方ともダニの増殖が認められたが、4週後のダニ数の平均は、実施例1サンプルの方が比較例1サンプルのダニ数の、約70%弱に抑制された。また、4週後から8週後までの期間においては、比較例1サンプルは、ほぼ横ばいか、又は、あいかわらず増殖を続けたが、実施例1サンプルは、明らかにダニ数が減少し抑制効果が認められた。実施例1のサンプルは、4週後のダニ数に比べて8週後のダニ数は、平均で約15%減少した。
(2)抗菌性能試験について。
(試験方法)JIS、Z、2801(2000)抗菌加工製品−抗菌性試験方法、抗菌効果に従って実施した。
【0089】
供試サンプルとしては、実施例1サンプル、比較例1サンプルとも、基材合板及び木質単板部分を除去し、上塗り塗装膜部分を試験に供した。実施例1サンプルはヒノキチオールが0.125%添加されているが、比較例1サンプルは全く添加されていない。基材合板及び銘木単板部分を除去した理由は、木質部分に菌が入り込み、回収できないためである。
【0090】
詳しくは、ヒノキチオールを添加した上塗り塗装膜をフィルム状に固化させ実施例1のサンプルとした。添加量は塗料樹脂16kgに対してヒノキチオールを20g添加(添加量の重量比率は0.125%)した。また、ヒノキチオールを全く添加しなかった以外は実施例1と全く同様にして比較例1のサンプルとした。
【0091】
上記のようにして実施例1のサンプル、及び、比較例1のサンプルを作製し、これに菌液を散布し、散布した菌液を回収し、JIS、Z、2801に従って試験した。結果を表3、表4に示す。
(表3)抗菌性能試験結果(大腸菌)。
試験菌として大腸菌で試験した結果を下記に示す。

【0092】
(単位)試験片1個当たりの生菌数
(表4)抗菌性能試験結果(黄色ぶどう球菌)。
試験菌として黄色ぶどう球菌で試験した結果を下記に示す。

【0093】
(単位)試験片1個当たりの生菌数
(試験結果の考察)
上記試験結果を見てわかるとおり、抗菌剤としてのヒノキチオールを上塗り塗料中に重量比率で0.125%添加した実施例1のサンプルは、大腸菌、及び、黄色ぶどう球菌のいずれの場合においても、35℃、24時間後の生菌数は検出されなかった。しかしながら、比較例1のサンプルにおいては、生菌数が明らかに増加している。大腸菌の場合で約5倍増加しており、黄色ぶどう球菌の場合で約1.6倍増加している。
(3)カビ抵抗性能試験について。
(試験方法)カビ抵抗性能試験として、JIS、Z、2911(1981)カビ抵抗性試験方法に従って実施した。実施例1サンプル床材、及び、比較例1サンプル床材について試験した結果を表5、表6に示す。
(結果の表示方法)
カビ抵抗性能について、評価を3段階評価とした。カビ抵抗性能が最も良好なものを3、やや良好なものを2、不良を1とした。
(評価基準)

【0094】
(表5)カビ抵抗性能試験結果。
実施例1の床材サンプルについて、カビ培養14日後、カビ培養28日後の菌糸発育状況を下記に示す。

【0095】
(表6)カビ抵抗性能試験結果。
比較例1の床材サンプルについて、カビ培養14日後、カビ培養28日後の菌糸発育状況を下記に示す。

【0096】
(試験結果の考察)
上記実施例1の床材サンプル、及び、比較例1の床材サンプルについて、対比させると床材サンプルの表面のみならず側面においても、実施例1サンプルの方が比較例1サンプルと比べて、菌糸発育を抑制する効果があることがわかる。いずれにおいても、カビ抵抗性能評価値の差が1以上有り、実施例1の床材サンプルにおいてはカビの発育の抑制にとって有効であることがわかる。
(徐放性試験)
次に、上記、実施例1のサンプル床材について、精油成分の長期間徐放性について試験した。試験結果を表7に示す。
(試験方法)
供試床材として、厚み12mm×幅303mm×長さ1818mmの実施例1の床材サンプルを24枚用いた。根太方式の床下地を有する8疊間の大きさの部屋を用意し、根太上に前記24枚の床材サンプルを施工した。室温は20℃で一定とした。部屋の換気回数を0.6回/時間とした。ここでいう、換気回数とは、単位時間当たり、部屋の空気をそっくり新しくする回数のことである。そして経過日数が経過した時点における精油成分(総テルペン量)の気中濃度(単位:ppb)を測定した。
【0097】
精油成分の気中濃度の測定方法は、室内の空気をTENAX−GC管に吸着させた後、ガスクロマトグラフ−マススペクトロメトリーによって定量分析し、実測値とした。
(表7)精油成分徐放性試験結果。

【0098】
(試験結果の考察)
上記実施例1の床材サンプルは、約6ヶ月後においても、実測値11ppbの値を示し、また、約1年後においても、実測値6ppbの値を示しており、十分に効果が維持されている。さらに、1000日後(約3年弱)経過後においても、実測値2ppbであり、最低限の効果が維持され続けている。このように、長期間にわたって、精油成分が徐放されているのがわかる。
【符号の説明】
【0099】
1 木質床材
2 木質基材
3 木質単板
4 接着剤層
5 塗膜層
6 嵌合凸部
7 嵌合凹部
8 樹脂重合体粒子
8a 外殻層
8b 内層周辺部
8c 内層中心部
P 天然精油成分
E 精油成分含有エマルジョン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質基材表面に木質単板が積層接着され表面に塗装が施され、木質基材、接着剤層、木質単板、塗膜層からなる複数の層で構成された木質床材において、該木質床材を構成する各層のうち、少なくとも塗膜層と接着剤層に樹木の天然精油成分が含有されていることを特長とする天然精油成分含有木質床材。
【請求項2】
前記塗膜層に少なくともヒノキチオールを含む精油成分を含有し、前記接着剤層中に精油成分を含むエマルジョンを含有することを特長とする請求項1に記載の天然精油成分含有木質床材。
【請求項3】
前記エマルジョンが、天然精油成分が内包された樹脂重合体粒子のエマルジョンであり、前記樹脂重合体粒子が内層と外殻層で構成される多層構造の樹脂重合体粒子からなり、該樹脂重合体粒子の内層に天然精油成分が含有されていることを特長とする請求項2に記載の天然精油成分含有木質床材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−111841(P2011−111841A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−271060(P2009−271060)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(398051497)株式会社パル (65)
【Fターム(参考)】