説明

天然繊維成形品の抄造素材およびその製造方法

【課題】天然繊維材料の含有比率が高いことにより軽量で安価で自然環境に優しく且つ高い機械的強度が得られる天然繊維成形品の抄造素材を提供する。
【解決手段】繊維周囲にバインダー樹脂粉末6を付着させた天然繊維2,4を分散した分散水から抄網で抄き取られた抄造物を脱水および乾燥して得られる天然繊維成形品用の抄造素材1であって、天然繊維2,4は前記成形品において50重量%を超える含有量を占めると共に、バインダー樹脂粉末6は後工程の加熱圧縮成形時に、互いに絡み合った天然繊維2,4を各接合点において結合させるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然繊維成形品の抄造素材およびその製造方法に係り、特に、過半数重量%の含有量を占める天然繊維から構成される成形品用の抄造素材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、化学繊維、ガラス繊維、金属繊維、炭素繊維等の繊維材料を強化材として母材であるプラスチックに含有させた繊維強化プラスチックまたはFRP(Fiber Reinforced Plastics)が知られている。このようなFRPは、加熱により流動性をもたせた熱可塑性プラスチック中に比較的短い繊維長(例えば3〜12mm)の繊維材料を混練した後に、射出成形や押出成形等の方法によって所望の形状に成形品に仕上げられることが多い。
【0003】
例えば、特許文献1には、熱可塑性樹脂に天然繊維を強化剤として添加し、さらに相溶化剤を加えて押出し、引き抜き、圧縮等などにより所定の形状に成形することにより、車両ボディに用いられる木材の代替材とする技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−235747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示される技術では、強化材である天然繊維に比べて母材および相溶化剤であるポリプロピレン、ポリエチレン等や石油由来の樹脂の構成比率が圧倒的に多いため、石油資源の高騰や枯渇が懸念される昨今においてはコスト面や環境面において好ましくない。特に、このような成形品が廃棄物となったときに、石油由来の樹脂は自然界において生分解されないため、環境面における問題が大きい。
【0006】
また、射出成形時や押出成形時の樹脂の流動性を阻害しないよう比較的短い繊維長の天然繊維用いる必要があるが、天然繊維に限らず比較的短繊維の繊維材料を強化材として含有するFRPにおいては繊維材料の配向が成形時の樹脂の流動方向に揃ったものになり易く、これにより最終製品である成形品の機械的強度が方向によって異なってくる場合がある。
【0007】
本発明の目的は、天然繊維材料の含有比率が高いことで安価で自然環境に優しく、且つ、天然繊維が互いに絡み合った状態で結合されることでどの方向についても高い機械的強度が得られる天然繊維成形品の抄造素材とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る天然繊維成形品の抄造素材は、繊維周囲にバインダー樹脂粉末を付着させた天然繊維が分散される分散水を抄網が配置されている抄造槽内に均等に放水して前記抄網上に一時貯留し、前記抄造槽の下部から排水することにより前記抄網によって前記天然繊維を互いに絡み合った状態で抄き取り、その後、前記抄網上に抄き取られた抄造物を脱水および乾燥して得られる天然繊維成形品用の抄造素材であって、前記天然繊維は前記成形品において50重量%を超える含有量を占めると共に、前記バインダー樹脂粉末は後工程の加熱圧縮成形時に前記絡み合った天然繊維を各接合点において互いに結合させることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る天然繊維成形品の抄造素材において、前記成形品における前記天然繊維の含有量は70重量%以上で100重量%未満であり、前記成形品における前記バインダー樹脂粉末の含有量は30重量%以下で0重量%よりも多いことが好ましい。
【0010】
また、本発明に係る天然繊維成形品の抄造素材において、前記成形品における前記天然繊維の含有量は80重量%以上で95重量%以下であり、前記成形品における前記バインダー樹脂粉末の含有量は20重量%以下で5重量%以上であることがより好ましい。
【0011】
また、本発明に係る天然繊維成形品の抄造素材において、前記天然繊維は、大部分を占める比較的長繊維の第1の天然繊維と、残りの比較的短繊維の第2の天然繊維とからなってもよい。この場合、前記第1の天然繊維はケナフ、バガス、稲わら、および麦わらの少なくとも1つから得られるセルロース繊維であり、前記第2の天然繊維は木材パルプであってもよい。
【0012】
さらに、本発明に係る天然繊維成形品用抄造素材の製造方法は、天然繊維成形品において50重量%を超える含有量を占める天然繊維を、後工程の加熱圧縮成形時に前記天然繊維の絡み合った各接合点を結合するバインダー樹脂粉末を付着させた状態で分散した分散水を抄網が配置されている抄造槽内に均等に放水して前記抄網上に一時貯留し、前記抄造槽の下部から排水することにより前記抄網によって前記天然繊維を互いに絡み合った状態で抄き取り、その後、前記抄網上に抄き取られた抄造物を脱水および乾燥して前記抄造素材を得るものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る天然繊維成形品の抄造素材およびその製造方法によれば、成形品における天然繊維が50重量%を超える含有量を占めることで、石油由来の樹脂の使用量を抑制することができ、軽量、安価で自然環境にも優しい天然繊維成形品を提供できる。
【0014】
また、抄網上に抄き取られる抄造物は天然繊維が三次元的に互いに絡み合った状態に抄造され、かつ、繊維周囲に付着したバインダー樹脂粉末によって後工程の加熱圧縮成形時に天然繊維の絡み合った各接合点が結合されるため、この抄造素材から製造された天然繊維成形品はどの方向の曲げや引っ張りに対しても高い機械的強度を有することができる。
【0015】
さらに、上記のように天然繊維を多く含む成形品は、天然繊維が外観上に見て取れる表面性状を有することで、看者に対して自然環境に優しい製品であることをアピールできる効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】抄造装置の全体概略構成図である。
【図2A】分散ノズルの斜視図である。
【図2B】分散ノズルの底面を示す平面図である。
【図3A】貯水槽の底面を示す平面図である。
【図3B】図3Aに示す貯水槽の底面上に移動可能に載置される開閉弁を示す平面図である。
【図4】抄造方法の各工程を順番に示す工程図である。
【図5】貯水槽底面から上部抄造槽へ落下した分散水の動きを示す図である。
【図6】抄き取った抄造物を抄網と共に複数段積み上げてプレス脱水する様子を示す図である。
【図7】抄造物または抄造素材の一部側面図とその部分拡大図である。
【図8】天然繊維成形品の外観に天然繊維が現れている表面性状を示す図である。
【図9】立体的形状の抄造物および抄造素材を得るための抄網および抄網ホルダを示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明に係る実施の形態について添付図面を参照しながら詳細に説明する。この説明において、具体的な形状、材料、数値、方向等は、本発明の理解を容易にするための例示であって、用途、目的、仕様等にあわせて適宜変更することができる。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態に係る天然繊維成形品の抄造素材を製造するための抄造装置10を示す概略構成図である。抄造装置10は、計量された原材料である第1および第2の天然繊維2,4(図7参照)などを所定量の水にモータ駆動攪拌機12で攪拌しながら分散させる分散水14とする分散槽16と、非イオン界面活性剤などの添加剤18を収容しモータ駆動攪拌機20を備えた添加剤槽22と、開閉弁24,26を開くことによって分散槽16および添加剤槽22からそれぞれ供給される分散水14および添加剤18を収容してモータ駆動攪拌機28で攪拌して混合する混合槽30と、混合槽30内で分散水14に添加剤18が加えられて生成した分散水32が混合槽30から放出され一時貯留する貯水槽34と、貯水槽34の下方に落下した分散水32を収受して一時貯留する上部抄造槽36および下部抄造槽38と、上部抄造槽36と下部抄造槽38の間に設けられた抄網40と、抄網40を載置支持する抄網ホルダ42と、下部抄造槽38の底部に設けられて下部抄造槽38内に満たされている水44を抜き取る止水弁46とから、主に構成されている。上記貯水槽34、上部抄造槽36、および下部抄造槽38の上側部分は例えば縦横約950mm寸法の平面視角筒状に形成されている。ただし、各槽は角筒の平面形状や上記寸法に限るものでない。
【0019】
上記混合槽30の下部には、止水弁48によって開閉される連通管50を介して分散ノズル52が接続されている。止水弁48は例えばモータにより開閉駆動される。図2Aの斜視図に示すように、分散ノズル52は、例えば縦が約150mmで横が約400mmの大きさであって側面視略半円形状をなす箱体からなっている。そして、分散ノズル52の底面54には、図2Bの底面図に示すように、多数の噴水孔56が形成されている。噴水孔56は例えば長径が約40mmで短径が約20mmの長円形状の貫通孔として形成され、混合槽30内の分散水32が貯水槽34の底面58全体に向けて均一に放水されるよう底面54に、例えば千鳥状またはマトリックス状に適宜配置されている。
【0020】
上記貯水槽34の底面58には、図3Aの上面視図に示すように、多数の抜水孔60が形成されている。一方、貯水槽34の底面58には、矩形板状の開閉弁62が摺動可能に載置されている。開閉弁62には、図3Bの上面視図に示すように、上記貯水槽34の底面58の抜水孔60と同等形状であって対応位置に多数の連通孔64が形成されている。これらの抜水孔60および連通孔64は短径が約5mmで長径が約20mmの長穴に形成されていて、開閉弁62は連通孔64の短径方向に移動可能とされている。
【0021】
そして、上記開閉弁62の両側面には、ガイドロッド66と、エアシリンダなどのアクチュエータ68の駆動軸と連結された駆動ロッド70とが突設されている。これらのガイドロッド66と駆動ロッド70は貯水槽34の両側壁面をそれぞれ貫通して設けられ、各水封軸受72で水洩れが防止された状態で軸方向に移動可能に支持されている。
【0022】
上記上部抄造槽36は上面開口と下面開口とを有する角筒状に形成されていて、分散水32を混合槽30から収受したときに槽内の抄網40の上方に空間部74を形成し得る大きさのものが使用される。
【0023】
上記抄網40は、例えばステンレス鋼で構成された約60メッシュの網体である。抄網40を載置支持する抄網ホルダ42は、いわゆるパンチングメタルや合成樹脂板などで構成されていて、多数の通水孔76が全面にわたって穿設されている。
【0024】
なお、抄造装置10において、上下方向に離間可能に組み立てられる貯水槽34の底面58の周縁部と上部抄造槽36の上面開口周縁部とは図示しないシール部材によって水封されている。また、上下方向に離間可能に組み立てられる上部抄造槽36の下面開口周縁部、抄網40の周縁部、抄網ホルダ42の周縁部、および下部抄造槽38の上面開口周縁部は、図示しないシール部材により水封されている。
【0025】
下部抄造槽38の底部は、止水弁46が設けられる連結管78を介して貯水タンク80に接続されている。下部抄造槽38から排水されて貯水タンク80に貯められた水は、ポンプ82の駆動により戻り配管84から分散槽16へ送水されて再利用される。また、水が不要の場合は排水管86から系外へ排出されるようになっている。
【0026】
続いて、上記構成からなる抄造装置10を用いた天然繊維成形品用抄造素材1(図7参照)の製造工程について図4を参照して説明する。この実施形態では、比較的長い繊維長の第1の天然繊維としてケナフから生成されたセルロース繊維およびその集束物(以下、単に「ケナフ」という)を用い、比較的短い繊維長である第2の天然繊維として木材チップを薬品処理して得られるセルロースパルプ(以下、「木材パルプ」という)を用い、バインダー樹脂粉末として熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂粉末を用いた例を挙げる。ここで用いる原材料の処方を最終成形品における重量%で以下に示す。
(1)ケナフ: 70〜80重量%
(2)木材パルプ: 10〜15重量%
(3)フェノール樹脂粉末: 5〜20重量%
【0027】
ここで、比較的長い繊維長の第1の天然繊維は、ケナフ以外に、例えば、サトウキビを搾ったあとの廃材であるバガス、稲わら、麦わら、竹、雑草等から得られるセルロース繊維を用いてもよい。また、比較的短い繊維長の第2の天然繊維は、木材パルプに限定されるものではなく、第1の天然繊維を短く切った同種の天然繊維を用いてもよいし、他のいかなる天然繊維であってもよい。
【0028】
また、上記においてはバインダー樹脂として、熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂を例示するが、フェノール樹脂以外に、例えばフラン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。さらに、熱可塑性樹脂がバインダー樹脂として用いられてもよく、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂などが挙げられる。さらにまた、バインダー樹脂として、熱硬化性又は熱可塑性を有する生分解性樹脂(例えば、乳酸、ポリ乳酸等)を用いれば、最終製品である天然繊維成形品が自然界で完全に分解して消滅することが可能になり、環境に対して極めて優しいものになる。
【0029】
抄造工程を開始するに際し、抄造装置10では、止水弁46を閉じた状態で下部抄造槽38の底部から抄網ホルダ42ないし抄網40までの間には空気層を形成しないように、予め水44が満たされている。これにより、分散水32から分離した水を抄網ホルダ42の通水孔76を円滑に通過させられるため、抄網40上に貯留される分散水32の状態を乱すことがない。この場合に抄網ホルダ42の下方を満水にさせていないと、分散水32から分離した水が通水孔76を流下する際に下部抄造槽38内にある空気が抄網ホルダ42の通水孔76および抄網40を遡上して上部抄造槽36内で静置されている分散水32をかき混ぜることとなり、仕上がった抄造素材に空気が通った跡の空洞部を生じたり、ケナフ2および木材パルプ4(図7参照)がその空洞部の向きに揃ったりするので好ましくない。
【0030】
抄造工程の最初の工程として、開閉弁24を閉じた状態で分散槽16へ所定量の水を計量して投入し、そこに原材料であるケナフ2、木材パルプ4およびフェノール樹脂粉末6(図7参照)を水の投入量(100重量%)に対し上記原材料(1)〜(3)の合計重量が約5重量%となるように上記処方に応じてそれぞれ計量して分散槽16へ投入し、モータ駆動攪拌機12で攪拌することにより上記各原材料が均一に分散された分散水14を生成する(工程S10)。また、開閉弁26を閉じた状態で添加剤槽22には、上記原材料の合計重量に対し0.08重量%の非イオン界面活性剤(添加剤)18、例えば住友精化社製の商品名「PEO−PF」でポリエチレンオキサイドを主成分とするものを投入してモータ駆動攪拌機20で攪拌しておく(工程S10)。
【0031】
そして、上記分散水14の生成および非イオン界面活性剤18の準備が整ったら、各開閉弁24,26を開放して分散槽16および添加剤槽22から混合槽30へ分散水14および非イオン界面活性剤18を投入して混合する(工程S12)。このとき、モータ駆動攪拌機28をしばらく作動させることにより、混合槽30において原材料を含む分散水14と非イオン界面活性剤18とが均一に混合されて分散水32が生成される。
【0032】
上記混合槽30内の分散水32中において、低濃度(0.08重量%)の非イオン界面活性剤は高分子凝集剤として機能する。この非イオン界面活性剤の機能により、フェノール樹脂粉末6が繊維表面に付着した状態でケナフ2および木材パルプ4が互いに絡み合って約10〜15mm径程度の柔らかい纏まりになった多数のフロックF(図5参照)が形成され、そのフロックFが分散水32中に浮遊し安定に分散する。続いて、止水弁48を開くことにより、混合槽30内の分散水32は分散ノズル52の噴水孔56から貯水槽34内の全面にわたり均等に噴射されて貯留される(工程S14)。
【0033】
それから、図5に示すように、分散水32中のフロックFが水中を漂っている間(数秒間程度)にアクチュエータ68により開閉弁62を矢印B方向に駆動し、貯水槽34の全ての抜水孔60を同時に開放して分散水32を放出させる(工程S16)。このとき、貯水槽34の底面58の全体にわたってほぼ均等に、分散水32を落下させることが望ましい。同時に、貯水槽34の上部から一部の水を抜き取っても構わない。なお、分散水32を長時間放置しすぎて貯水槽34内でフロックFが沈降してしまうと、フロックFを形成するケナフ2および木材パルプ4が一定の向きとなって絡むことになり、後に得られる抄造素材1の厚みが均一にならないという不都合が生じる。
【0034】
貯水槽34の抜水孔60から落下した分散水32は空間部74を経て上部抄造槽36内で抄網40上方に収受されて貯留される。そうして、次第に分散水32の貯留量が増えていくと、空間部74を落下する落下流88の勢いにより、上下方向の渦巻流90を生じ、フロックF中の天然繊維2,4、特に比較的長繊維であるケナフ2が上下左右前後の3次元のあらゆる方向にランダムに向いて相互に絡まっていく。そして、上部抄造槽36内に一時的に貯留された分散水32は適当な時間だけ静置される(工程S18)。これにより、フロックFが抄網40に向かって沈降し、その際に隣り合ったフロックF間でも天然繊維2,4が互いに絡み合っていくのである(図7中の部分拡大図C参照)。
【0035】
その後、止水弁46を開くことにより下部抄造槽38から水抜きが実施される(工程S20)。すると、上部抄造槽36と下部抄造槽38の間に配置された抄網40で、フェノール樹脂粉末6が繊維周囲に付着した状態の天然繊維2,4が抄き取られて、抄網40上に抄造物96(図7参照)が形成される(工程S22)。
【0036】
なお、上記の水抜き操作は、上部抄造槽36内における分散水32の水面が平定しているときにいずれの通水孔76からも均等に一気に抜くのが好ましい。因みに、抄網40上の分散水32の水面が波打っているときに水抜きすると、抄網40上の抄造物の上面が側方から見て波打って仕上がるので好ましくない。
【0037】
この水抜きの際に、非イオン界面活性剤の機能により、フェノール樹脂粉末6はケナフ2および木材パルプ4の表面にしっかりと吸着されている。ここで、本実施形態のように比較的短繊維の木材パルプ4を原材料として混合した場合、互いに絡み合ったケナフ2間の隙間を埋めるように木材パルプ4が位置することにより、ケナフ2だけを天然繊維原材料とする場合と比べて、フェノール樹脂粉末6を水抜きと共に流出させずに抄造物内に留めておくのに有効である。ただし、ケナフ2等の比較的長繊維の天然繊維に付着しているフェノール樹脂粉末6だけでも、後工程の加熱圧縮による成形工程において互いに絡み合った天然繊維を各接合点で結合させるバインダー効果が得られるため、比較的短繊維の天然繊維を原材料から省くこともできる。
【0038】
上記のように水抜きした後に、上部抄造槽36はエアシリンダ等のリフト機構(図示省略)により持ち上げられて下部抄造槽38から分離される。そして、水を多量(含水率=約85重量%程度)に含む抄造物96が抄網40を付けたまま下部抄造槽38上から取り外される。ここまでの工程S10〜S22は常温・常圧下で実施される。
【0039】
下部抄造槽38から取り外された抄造物96および抄網40は、図6に示すように、プレス台92上に複数段重ね合わせられて載置され、プレス板94により圧下されて脱水される(工程S24)。プレス脱水後、抄造物96は抄網40から容易に剥し取ることができる。そして、プレス脱水された抄造物96は、適当な温度および時間(例えば約110℃で90分間)で乾燥させられ(工程S26)、これにより図7に示すようにシート状をなす天然繊維成形品用抄造素材1が出来上がる。
【0040】
このようにして製造された抄造素材1は、後工程である加熱圧縮工程において例えば200℃程度の高温で圧縮成形されることで、二次元的あるいは三次元的な所望形状の成形品に成形される(S28)。この加熱圧縮成形時に、各天然繊維2,4に付着しているフェノール樹脂粉末6は、一旦溶融したのちに硬化して極めて機械的強度の高い3次元網目構造体を形成して、互いに絡み合った天然繊維2,4を各接合点において強固に結合する。その結果、出来上がった成形品は、いかなる方向の曲げや引っ張り等の外力に対して極めて高い機械的強度を有するものになる。このような天然繊維成形品は、例えば自動車の内装部品やボディ部品、建材、家具材、機械部品等の広い分野において利用可能である。
【0041】
上述したように製造される天然繊維成形品の抄造素材1によれば、最終製品である成形品におけるケナフ2および木材パルプ4で構成される天然繊維の含有量が80〜95重量%を占めることで、従来のFRPなどに比べて石油由来の樹脂の使用量を大幅に抑制することができ、軽量で、安価で、且つ、廃棄されても大部分が生分解される天然繊維で構成されるため自然環境にも優しい天然繊維成形品を提供できる。
【0042】
また、抄網40上に抄き取られる抄造物96は天然繊維2,4が三次元的に互いに絡み合った状態に抄造され、かつ、繊維周囲に付着したフェノール樹脂粉末6によって後工程の加熱圧縮成形時に天然繊維2,4の絡み合った各接合点が強固に結合されるため、この抄造素材1から製造された天然繊維成形品はどの方向の曲げや引っ張り等の外力に対しても高い機械的強度を有することができる。
【0043】
さらに、上記のように天然繊維2,4を多く含む成形品は、図8に示すように、天然繊維(ここではケナフ2)が外観上に見て取れる表面性状を有することで、看者に対して自然環境に優しい製品であることをアピールできる効果もある。
【0044】
上記において本発明に係る一実施形態について十分に説明されているが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく種々の変更や改良が可能である。
【0045】
例えば、上記実施形態では、いずれも平坦な二次元形状を有する抄網40および抄網ホルダ42を用いて抄造を行ったが、図9に示した形状の抄網40aと抄網ホルダ42aを用いると、下向きに陥入した凹部98を有する三次元的形状の抄造物96aを抄造することが可能になり、ひいては三次元的形状の抄造素材1を製造することが可能になる。
【0046】
また、上記実施形態では、ケナフおよび木材パルプで構成される天然繊維の含有量を80〜95重量%、フェノール樹脂粉末で例示されるバインダー樹脂の含有量を5〜20重量%として説明したが、これに限定されるものではない。例えば、天然繊維の含有量が70重量%以上で100重量%未満であってバインダー樹脂の含有量が30重量%以下で0重量%よりも多いものとしてもよく、この場合にも程度の差はあるものの上記実施形態と同質の作用効果を得ることができる。このことを拡張すれば、天然繊維成形品用抄造素材において天然繊維が、石油由来の樹脂含有量よりも多く、すなわち50重量%を超える含有量を占めるように構成されていればよいと言える。
【0047】
次に、別の実施形態について説明する。この実施形態では、原料である天然繊維を上記実施形態と同様とし、バインダー樹脂の粉末としてポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリスチレン樹脂などの熱可塑性樹脂を用いて抄造素材1を製造し、この抄造素材1をコールドプレス成形することによって所望形状の天然繊維成形品に仕上げる例について説明する。
【0048】
この実施形態において、コールドプレス成形後の最終成形品に占めるバインダー樹脂の重量比率は、最終成形品が軽量化が重視される製品に適用される場合には5〜20重量%であることが好ましい。バインダー樹脂が5重量%より少ないと最終成形品における天然繊維間での十分な結合を得にくくなり、一方、20重量%よりも多いと最終成形品の重量増加およびコストアップにつながるからである。
【0049】
抄造過程において天然繊維同士が互いに絡み合い易くするために長繊維である第1の天然繊維の少なくとも一部をフィブリル化させたものを用いた場合には上記5〜20重量%の範囲内で多めのバインダー樹脂量を選択するのが天然繊維間の結合強度を高くうえでより好ましい。また、原料に用いられるバインダー樹脂粉末は、粒径が1〜100μmであることが好ましい。1μmよりも小径の粉末では凝集し易くて取り扱いにくくなり、一方、100μmよりも大径になると抄造過程においてバインダー樹脂粉末が天然繊維の周囲に付着せずに分離して貯水槽内で沈殿しやすくなるからである。
【0050】
上記のような原料を用いて、図4等を参照して上述した抄造プロセスによって天然繊維成形品の抄造素材を製造した。そして、この抄造素材を赤外線ヒータなどで用いて、バインダー樹脂が十分に軟化して天然繊維同士を接着できる温度、例えば230〜270℃に加熱した後、冷えた又は常温の型でプレス成形するコールドプレス成形を行って、所望の形状を有する最終成形品である天然繊維成形品に仕上げられる。なお、必要に応じて窒素などの不活性ガス雰囲気中でコールドプレス成形を行ってもよい。
【0051】
この実施形態におけるコールドプレス成形は、1回に限られるものではなく、再加熱によって、複数回行うことが可能である。これは、比較的長繊維である第1の天然繊維が3次元的に互いに絡み合っているために、加熱により樹脂が軟化して拘束力が低下しても抄造素材1を構成する天然繊維がばらけてしまうことがないからである。そのため、1つの抄造素材1に対して型精度を順次に上げていって複数回プレス成形を行うことで、所望形状の最終成形品に仕上げることができる。
【0052】
また、コールドプレス成形において、1つの抄造素材1に対してプレス回数およびプレス圧力の少なくとも一方を部分的に多く適用することによって、高密度部分を形成してもよい。このように形成された高密度部分は、他の低密度部分に比べて機械的強度が高くなることから、最終成形品を別の部材に対してボルト固定等する場合に上記高密度部分を固定部として利用するのに好適である。
【0053】
さらに、従来は発泡剤を添加することによって成形時に全体を発泡させて密度を下げることで樹脂成形品にクッション性を付与していたが、本実施形態の抄造素材では、加熱時にバインダー樹脂が軟化することによって天然繊維が自己の弾力による復元力で成形品の厚み方向に膨らむので、発泡剤を使用することなく成形品にクッション性が付与される利点がある。
【0054】
なお、本実施形態では、バインダー樹脂の重量比率は最終成形品について軽量化が重視される場合に5〜20重量%であることが好ましいと説明したが、これに限定されるものではない。例えば、コールドプレス成形後の最終成形品に占めるバインダー樹脂の重量比率は、最終成形品が軽量化よりも平坦性重視の製品に適用される場合には20〜70重量より好ましくは30〜70重量%とするのが好ましい。このとき、バインダー樹脂の重量比率が過半を占める場合でも、抄造されて互いに3次元的に絡み合った状態で結合された天然繊維による成形品の補強効果を見込むことができる。
【0055】
ところで、天然繊維成形品用抄造素材をバガスから得た比較的長繊維のセルロース繊維およびその集束物だけを原材料として用いて(すなわちバガス100重量%)、上記と同様の抄造方法で抄造物を抄造し、これを脱水および乾燥させて得た抄造素材を加熱圧縮成形したところ、バインダー樹脂を用いずとも成形可能であることが確認された。これは、上記成形時にバガス自身から染み出た樹脂成分によって互いに絡み合っているバガス繊維が結合されているためと考えられる。ただし、上記実施形態のようにバインダー樹脂を含む天然繊維成形品に比べると機械的強度等の特性は劣るため、作用する負荷や外力が比較的小さい部品または製品に利用されることが好ましい。
【符号の説明】
【0056】
1 天然繊維成形品の抄造素材、2 ケナフ(第1の天然繊維)、4 木材パルプ(第2の天然繊維)、6 フェノール樹脂粉末(バインダー樹脂粉末)、10 抄造装置、12,20,28 モータ駆動攪拌機、14 分散水、16 分散槽、18 非イオン界面活性剤、22 添加剤槽、24,26 開閉弁、30 混合槽、32 分散水、34 貯水槽、36 上部抄造槽、38 下部抄造槽、40,40a 抄網、42,42a 抄網ホルダ、44 水、46,48 止水弁、50 連通管、52 分散ノズル、56 噴水孔、58 貯水槽底面、60 抜水孔、62 開閉弁、64 連通孔、66 ガイドロッド、68 アクチュエータ、70 駆動ロッド、72 水封軸受、74 空間部、76 通水孔、78 連結管、80 貯水タンク、82 ポンプ、84 戻り配管、86 排水管、88 落下流、90 渦巻流、92 プレス台、94 プレス板、96,96a 抄造物、F フロック。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維周囲にバインダー樹脂の粉末を付着させた天然繊維が分散される分散水を抄網が配置されている抄造槽内に均等に放水して前記抄網上に一時貯留し、前記抄造槽の下部から排水することにより前記抄網によって前記天然繊維を互いに絡み合った状態で抄き取り、その後、前記抄網上に抄き取られた抄造物を脱水および乾燥して得られる天然繊維成形品の抄造素材であって、
前記天然繊維は前記成形品において50重量%を超える含有量を占めると共に、前記バインダー樹脂の粉末は後工程の加熱圧縮成形時に前記絡み合った天然繊維を各接合点において互いに結合させることを特徴とする、天然繊維成形品用の抄造素材。
【請求項2】
請求項1に記載の天然繊維成形品の抄造素材において、
前記成形品における前記天然繊維の含有量は70重量%以上で100重量%未満であり、前記成形品における前記バインダー樹脂の含有量は30重量%以下で0重量%よりも多いことを特徴とする天然繊維成形品用の抄造素材。
【請求項3】
請求項2に記載の天然繊維成形品の抄造素材において、
前記成形品における前記天然繊維の含有量は80重量%以上で95重量%以下であり、前記成形品における前記バインダー樹脂の含有量は20重量%以下で5重量%以上であることを特徴とする天然繊維成形品の抄造素材。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の天然繊維成形品の抄造素材において、
前記天然繊維は、大部分を占める比較的長繊維の第1の天然繊維と、残りの比較的短繊維の第2の天然繊維とからなることを特徴とする天然繊維成形品の抄造素材。
【請求項5】
請求項4に記載の天然繊維成形品の抄造素材において、
前記第1の天然繊維はケナフ、バガス、稲わら、および麦わらの少なくとも1つから得られるセルロース繊維であり、前記第2の天然繊維は木材パルプであることを特徴とする天然繊維成形品の抄造素材。
【請求項6】
天然繊維成形品において50重量%を超える含有量を占める天然繊維を、後工程の加熱圧縮成形時に前記天然繊維の絡み合った各接合点を結合するバインダー樹脂の粉末を付着させた状態で分散した分散水を抄網が配置されている抄造槽内に均等に放水して前記抄網上に一時貯留し、前記抄造槽の下部から排水することにより前記抄網によって前記天然繊維を互いに絡み合った状態で抄き取り、その後、前記抄網上に抄き取られた抄造物を脱水および乾燥して抄造素材が得られる天然繊維成形品用抄造素材の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の天然繊維成形品用抄造素材の製造方法において、
前記成形品における前記天然繊維の含有量は70重量%以上で100重量%未満であり、前記成形品における前記バインダー樹脂の含有量は30重量%以下で0重量%よりも多いことを特徴とする天然繊維成形品用抄造素材の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の天然繊維成形品用抄造素材の製造方法において、
前記成形品における前記天然繊維の含有量は80重量%以上で95重量%以下であり、前記成形品における前記バインダー樹脂の含有量は20重量%以下で5重量%以上であることを特徴とする天然繊維成形品用抄造素材の製造方法。
【請求項9】
請求項5から7のいずれか1項に記載の天然繊維成形品用抄造素材の製造方法において、
前記天然繊維は、大部分を占める比較的長繊維の第1の天然繊維と、残りの比較的短繊維の第2の天然繊維とからなることを特徴とする天然繊維成形品用抄造素材の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の天然繊維成形品用抄造素材の製造方法において、
前記第1の天然繊維はケナフ、バガス、稲わら、および麦わらの少なくとも1つから得られるセルロース繊維であり、前記第2の天然繊維は木材パルプであることを特徴とする天然繊維成形品用抄造素材の製造方法。
【請求項11】
繊維同士が互いに絡み合った状態で抄網によって抄き取られた天然繊維からなる抄造物と、この抄造物の抄造過程において天然繊維の周囲に付着させたバインダー樹脂の粉末とから構成される天然繊維成形品用の抄造素材であって、
前記バインダー樹脂が熱可塑性樹脂であり、所定温度に加熱された後にコールドプレス成形されることによって前記互いに絡み合った天然繊維同士が前記バインダー樹脂により結合され、前記コールドプレス成形が1回以上実行されて所望形状の天然繊維成形品に仕上げられることを特徴とする、天然繊維成形品の抄造素材。
【請求項12】
請求項11に記載の天然繊維成形品の抄造素材において、
前記コールドプレス成形時に、1つの抄造素材に対してプレス回数およびプレス圧力の少なくとも一方を部分的に多く適用することによって天然繊維成形品に高密度部分が形成されることを特徴とする、天然繊維成形品の抄造素材。
【請求項13】
請求項11に記載の天然繊維成形品の抄造素材において、
前記プレス成形後の天然繊維成形品が軽量化重視の製品に適用される場合、前記成形品における前記バインダー樹脂の含有量が5〜20重量%であることを特徴とする天然繊維成形品の抄造素材。
【請求項14】
請求項11に記載の天然繊維成形品の抄造素材において、
前記プレス成形後の天然繊維成形品が平坦性重視の製品に適用される場合、前記成形品における前記バインダー樹脂の含有量が20〜70重量%であることを特徴とする天然繊維成形品の抄造素材。
【請求項15】
請求項11ないし14のいずれか1項に記載の天然繊維成形品の抄造素材において、
前記バインダー樹脂の粉末の粒径が1〜100μmであることを特徴とする天然繊維成形品の抄造素材。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−265571(P2010−265571A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−240249(P2009−240249)
【出願日】平成21年10月19日(2009.10.19)
【出願人】(000241485)豊田通商株式会社 (73)
【出願人】(598159908)株式会社ワメンテクノ (5)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】