説明

天然脂肪酸および/またはエステルからの二酸またはジエステルの合成方法

本発明は、式CH−(CH−CHR−CH−CH=CH−(CH−COOR(式中、Rは、Hまたは1個から4個の炭素原子を含むアルキル基を表し、Rは、HまたはOHであり、ならびにnおよびpは、同一であり、または異なっており、および2から11の数である。)の分子当たり少なくとも10個の隣接炭素原子を含む長鎖天然一価不飽和脂肪酸またはエステルから出発して一般式ROOC−(CH−COOR(式中、nは、5から14の整数を表し、およびRは、Hまたは1個から4個の炭素原子のアルキル基である。)の二酸またはジエステルを合成する方法であって、第1の段階において、前記天然脂肪酸またはエステルを、熱分解またはエテノリシスにより、一般式CH=CH−(CH−COOR(式中、mは、処理される脂肪酸/エステルの性質および使用される変換に応じてpまたはp+1である。)のω−一価不飽和脂肪酸またはエステルに変換し、次いで、第2の段階において、こうして得られた生成物をメタセシス反応のホモメタセシスに供して式ROOC−(CH−CH=CH−(CH−COORの化合物を得、または式ROOC−(CH−CH=CH−R(式中、Rは、Hまたは1個から4個の炭素原子を含むアルキル基であり、rは、0または1または2であり、およびRは、H、CHまたはCOORである(COORの場合においては、環式または非環式分子を形成する。))の化合物との交差メタセシスに供して式ROOC−(CH−CH=CH−(CH−COORの不飽和化合物を得、次いで、第3の段階において、最後に不飽和化合物を二重結合の水素化により変換して飽和化合物を生じさせる方法を対象とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然であり、もしくは天然油の直接的変換に由来する一価不飽和脂肪酸または脂肪族エステルから出発する飽和長鎖二酸またはジエステルのメタセシスによる合成方法を対象とする。
【背景技術】
【0002】
二酸は種々の方法により工業的に得られるが、これらの方法は全て、幾つかの欠点を示している。多種多様なこれらの方法は、Kirk−Othmer Encyclopedia,Vol.A8,pages 523−539に詳述されている。
【0003】
この文献においては、植物性脂肪酸の分解、例えばオゾン分解または酸化による方法を特徴付けることができる。
【0004】
【化1】

【0005】
オレイン酸、ペトロセリン酸およびエルカ酸のオゾン分解により、ペトロセリン酸についての上述の反応プロセスによりそれぞれ9個、6個および13個の炭素原子を含む二酸を製造することができる。
【0006】
別の例は、180℃超の温度における水酸化ナトリウムの作用によるリシノール酸の開裂である。工業的に使用されるこの方法により、10個の炭素原子を含む二酸を得ることができる。
【0007】
以下のスキームに例示の同一の方法はレスケロール酸(lesquerolic acid)に適用することができ、12個の炭素原子を含む二酸の形成をもたらす。この方法は、再生可能な出発材料を使用するという利点を示しているが、C10二酸に本質的に制限され、レスケロール酸は依然として十分普及していないので、この方法は使用されることが比較的少ない。
【0008】
【化2】

【0009】
の作用によるモノカルボン酸の酸化的分解を挙げることもできる。ステアリン酸の酸化によりセバシン酸およびカプリル酸の混合物を得ることができ;スベリン酸はパルミチン酸から得ることができる。
【0010】
カルボニル化の種々の技術を使用することにより、より小さい分子から二酸を得ることもできる。
【0011】
最後に、鎖長が可変の数多くの二酸を得ることができる十分公知の方法であるパラフィンの細菌発酵を挙げることができる。しかしながら、この方法では、パラフィンは融点が極めて高すぎて変換することができないので、16個超の炭素原子の長さを有する二酸を得ることができない。別の主な欠点は、細菌がパラフィンの一部を消費して細菌の増殖に提供し、収量が低下し、生成物の精製が必要になることである。
【0012】
ポリマー工業においては、特に二酸/ジアミンタイプのポリアミドまたは工業用ポリマーの製造のため、二酸を単純な化学反応により同一の鎖長のジアミンにさらに変換することができる出発材料としての二酸の全範囲を利用可能であることが必要である。
【0013】
従って、二酸の事実上全ての範囲を得ることができ、さらに天然由来の再生可能な材料を使用する方法のタイプを見出すことが必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Kirk−Othmer Encyclopedia,Vol.A8,pages 523−539
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の課題は、天然由来の脂肪酸から出発して一般式ROOC−(CH−COORの飽和二酸またはジエステルの全範囲を製造する方法である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
提供される解決方法は、長鎖天然一価不飽和脂肪酸から出発する操作を実施することからなる。長鎖天然脂肪酸は、藻類を含む植物または動物資源、より一般には植物界から得られ、こうして再生可能であり、分子当たり少なくとも10個、好ましくは少なくとも14個の炭素原子を含む酸を意味するものと理解される。
【0017】
このような酸の例として、C10酸のオブツシル(シス−4−デセン)酸およびカプロレイン(シス−9−デセン)酸、C12酸のラウロレイン(シス−5−ドデセン)酸およびリンデル(シス−4−ドデセン)酸、C14酸のミリストレイン(シス−9−テトラデセン)酸、フィゼテリン(physeteric)(シス−5−テトラデセン)酸およびツズ(tsuzuic)(シス−4−テトラデセン)酸、C16酸のパルミトレイン(シス−9−ヘキサデセン)酸、C18酸のオレイン(シス−9−オクタデセン)酸、エライジン(トランス−9−オクタデセン)酸、ペトロセリン(シス−6−オクタデセン)酸、バクセン(シス−11−オクタデセン)酸およびリシノール(12−ヒドロキシ−シス−9−オクタデセン)酸、C20酸のガドレイン(シス−9−エイコセン)酸、ゴンド(シス−11−エイコセン)酸、シス−5−エイコセン酸およびレスケロール(14−ヒドロキシ−シス−11−エイコセン)酸、ならびにC22酸のセトレイン(シス−11−ドコセン)酸およびエルカ(シス−13−ドコセン)酸を挙げることができる。
【0018】
これらの種々の酸は、種々の植物、例えばヒマワリ、セイヨウアブラナ、トウゴマ、ブラダーポッド(bladderpod)、オリーブ、ダイズ、ヤシノキ、コエンドロ、セロリ、イノンド、ニンジン、ウイキョウまたはリムナンテス・アルバ(Limnanthes alba)(メドウフォーム)から抽出された植物油から得られる。
【0019】
これらの種々の酸は、陸生または水生動物界からも得られ、水生動物界からは、一方は魚類または哺乳類の形態、他方は藻類の形態の両方から得られる。これらの種々の酸は、反芻動物、魚類、例えばタラまたは水性哺乳類、例えばクジラもしくはイルカに由来する一般油脂である。
【0020】
本発明は、式CH−(CH−CHR−CH−CH=CH−(CH−COOR(式中、Rは、Hまたは1個から4個の炭素原子を含むアルキル基を表し、Rは、HまたはOHであり、ならびにnおよびpは、同一であり、または異なっており、2から11、好ましくは3から11の数である。)の分子当たり少なくとも10個の隣接炭素原子を含む長鎖天然一価不飽和脂肪酸またはエステルから出発して一般式ROOC−(CH−COOR(式中、xは、5から24の整数を表し、およびRは、Hまたは1個から4個の炭素原子のアルキル基である。)の二酸またはジエステルを合成する方法であって、第1の段階において、前記天然脂肪酸またはエステルを、熱分解またはエテノリシス(エチレン交差メタセシス)により、一般式CH=CH−(CH−COOR(式中、mは、処理される脂肪酸/エステルの性質および使用される変換、エテノリシスまたは熱分解に応じてpまたはp+1である。)のω−一価不飽和脂肪酸またはエステルに変換し、次いで、第2の段階において、こうして得られた生成物をメタセシス反応のホモメタセシスに供して式ROOC−(CH−CH=CH−(CH−COORの化合物を得、または式ROOC−(CH−CH=CH−R(式中、Rは、Hまたは1個から4個の炭素原子を含むアルキル基であり、rは、0または1または2であり、およびRは、H、CHまたはCOORである(COORの場合においては、環式または非環式分子を形成する。))の化合物との交差メタセシスに供して式ROOC−(CH−CH=CH−(CH−COORの不飽和化合物を得、次いで、第3の段階において、最後に不飽和化合物を二重結合の水素化により変換して飽和化合物を生じさせる方法を対象とする。
【0021】
一般式CH−(CH−CHOH−CH−CH=CH−(CH−COORの天然一価不飽和脂肪酸またはエステルは、熱分解反応に供することができる。
【0022】
第1の段階から得られた式CH=CH−(CHp+1−COORの酸またはエステルは、ホモメタセシスに供することができ、この生成物ROOC−(CHp+1−CH=CH−(CHp+1−COORを水素化する。
【0023】
第1の段階から得られた式CH=CH−(CHp+1−COORの酸またはエステルは、交差メタセシスに供することができ、得られたこの生成物を水素化する。
【0024】
一般式CH−(CH−CHOH−CH−CH=CH−(CH−COORの天然一価不飽和脂肪酸またはエステルは、エテノリシス反応に供することができる。
【0025】
第1の段階から得られた式CH=CH−(CH−COORの酸またはエステルはホモメタセシスに供することができ、この生成物ROOC−(CH−CH=CH−(CH−COORを水素化する。
【0026】
第1の段階から得られた式CH=CH−(CH−COORの酸またはエステルは交差メタセシスに供することができ、得られたこの生成物を水素化する。
【0027】
交差メタセシスは、R=Hであり、x=0であり、およびR=Hであるアクリル酸により実施する。x=1であり、R=Hであり、およびR=CHである場合、化合物はHOOC−CH−CH=CH−CHであり、例えばブタジエンのヒドロキシカルボニル化により得られる。この場合、交差メタセシスの間にプロピレンが生成され、反応媒体から除去される。
【0028】
好ましくは、RがCOORである場合、ROOC−(CH−CH=CH−Rは、r=0で対称分子である。RがCHである場合、ROOC−(CH−CH=CH−Rは、交差メタセシスにより脂肪酸と反応し、反応は二酸およびより短い脂肪酸をもたらすが、プロピレンをももたらす。プロピレンは形成時に反応媒体から除去され、所望生成物への反応に置き換える。
【0029】
OOC−(CH−CH=CH−COORが環式分子、例えば無水マレイン酸を形成する場合、交差メタセシスは無水物官能基をも含む不飽和脂肪酸をもたらす。二酸および脂肪酸は、加水分解により放出させることができる。
【0030】
本発明の方法においては、脂肪酸は、この酸の形態またはこのエステルの形態で処理することができる。一方の形態から他方の形態への変化は、メタノリシス、エステル化または加水分解により実施する。
【0031】
本発明の方法においては、天然由来の、即ち抽出された油または油脂中に存在する脂肪酸またはエステルを使用する。抽出された油脂中に存在する脂肪酸またはエステルは、実際上、反応に関与するエステルまたは酸の他に、類似の式を有するエステルまたは酸の混合物から構成されている。例として、ヤシ油はオレイン酸の他にリノール酸を含み;ヒマシ油はリシノール酸の他にオレイン酸およびリノール酸の両方を含み;ならびに菜種油はオレイン酸の他に、リノール酸、リノレン酸およびガドレイン酸を同時に含む。これらの二価不飽和酸または多価不飽和酸の存在は、第1の段階の間、エテノリシスの場合において、リノール酸が短いジエンおよびα−オレフィン少量とともに一般式CH=CH−(CH−COORのω−一価不飽和脂肪酸をも形成する限り、方法の進行に関してそれほど重要ではない。リシノール酸の場合においては、熱分解反応はこれらの類似の酸を変換しない。
【発明を実施するための形態】
【0032】
二酸の合成例を以下に挙げる。以下に詳述する機序は全て、説明を容易にするため、形成される酸を例示する。しかしながら、メタセシスは、エステルによっても有効であり、媒体が一般にさらに無水である場合、よりいっそう有効であることが多い。同様に、スキームは酸(またはエステル)のシス異性体による反応を例示し;この機序はトランス異性体にも適用できることは明らかである。
【0033】
二酸は、オブツシル(シス−4−デセン)酸、リンデル(シス−4−ドデセン)酸およびツズ(シス−4−テトラデセン)酸から、第1の段階においてエテノリシスを実施し、次いでアクリル酸との交差メタセシスを実施し、次いで水素化を実施することにより得ることができる。
【0034】
二酸は、ラウロレイン(シス−5−ドデセン)酸およびフィゼテリン(シス−5−テトラデセン)酸から、第1の段階においてエテノリシスを行い、次いでアクリル酸との交差メタセシスを行い、次いで水素化することにより得ることができる。
【0035】
二酸は、オブツシル(シス−4−デセン)酸、リンデル(シス−4−ドデセン)酸およびツズ(シス−4−テトラデセン)酸から、第1の段階においてエテノリシスを実施し、次いでホモメタセシスを実施し、またはペトロセリン酸から、第1の段階においてエテノリシスを実施し、次いでアクリル酸との交差メタセシスを実施し、両方の場合において水素化により完成させることにより得ることができる。
【0036】
10二酸は、ラウロレイン(シス−5−ドデセン)酸およびフィゼテリン(シス−5−テトラデセン)酸から、第1の段階においてエテノリシスを行い、次いでホモメタセシスを行い、水素化により仕上げることにより得ることができる。
【0037】
11二酸は、オレイン(シス−9−オクタデセン)酸、エライジン(トランス−9−オクタデセン)酸、ガドレイン(シス−9−エイコセン)酸およびミリストレイン(シス−9−テトラデセン)酸から、第1の段階においてエテノリシスを行い、次いでアクリル酸との交差メタセシスを行い、各場合において水素化により完成させることにより得ることができる。オレイン酸の場合においては、以下の反応プロセスを利用する。
【0038】
1)CH−(CH−CH=CH−(CH−COOH+CH=CH⇔CH=CH−(CH−COOH+CH=CH−(CH−CH
2)CH=CH−(CH−COOH+HOOC−CH=CH⇔HOOC−CH=CH−(CH−COOH+CH=CH
3)HOOC−CH=CH−(CH−COOH+H→HOOC−(CH−COOH
この反応のための反応機序を、この反応機序の種々の代替形態において、以下のスキーム1により例示する。
【0039】
【化3】


【0040】
12二酸は、ペトロセリン酸およびリシノール酸から、2種の異なる反応機序により得ることができる。ペトロセリン(シス−6−オクタデセン)酸は、第1の段階においてエテノリシスを行い、次いでホモメタセシスを行い、水素化により仕上げることにより変換される。リシノール(12−ヒドロキシ−シス−9−オクタデセン)酸は、この酸に関する限り、ω−ウンデセン酸を合成することができる熱分解に供され、アクリル酸との交差メタセシスに供して11−ドデセン二酸を生じさせ、水素化によりドデカン二酸に変換される。
【0041】
ペトロセリン酸によるこの反応のための反応機序(スキーム2)は、以下の通りである。
【0042】
1)CH−(CH10−CH=CH−(CH−COOH+CH=CH⇔CH=CH−(CH−COOH+CH=CH−(CH10−CH
2)2CH=CH−(CH−COOH⇔HOOC−(CH−CH=CH−(CH−COOH+CH=CH
3)HOOC−(CH−CH=CH−(CH−COOH+H→HOOC−(CH10−COOH
【0043】
【化4】



【0044】
リシノール酸による反応プロセスは、以下の通りである。
【0045】
1)CH−(CH−CHOH−CH−CH=CH−(CH−COOH(Δ)→CH−(CH−CHO+CH=CH−(CH−COOH
2)CH=CH−(CHCOOH+HOOC−CH=CH⇔HOOC−CH=CH−(CH−COOH+CH=CH
3)HOOC−CH=CH−(CH−COOH+H→HOOC−(CH10−COOH。
【0046】
12二酸は、オレイン酸のエテノリシスを行って不飽和酸CH=CH−(CH−COOHを生じさせ、次いで酸CH−CH=CH−CH−COOHとの交差メタセシスを行い、最後に水素化することにより得ることもできる。
【0047】
13二酸は、バクセン(シス−11−オクタデセン)酸、ゴンド(シス−11−エイコセン)酸およびセトレイン(シス−11−ドコセン)酸から、第1の段階においてエテノリシスを行い、次いでアクリル酸との交差メタセシスを行い、各場合において水素化により完成させることにより得ることができる。
【0048】
14二酸は、レスケロール酸から、ヒドロキシル化脂肪酸を熱分解して式CH=CH−(CH10−COOCHの酸を形成し、次いでアクリル酸との交差メタセシスを行い、最後に水素化することにより得ることができる。C14二酸は、バクセン酸のエテノリシスを行って不飽和酸CH=CH−(CH−COOHを生じさせ、次いで酸CH−CH=CH−CH−COOHとの交差メタセシスを行い、最後に水素化することにより得ることもできる。
【0049】
15二酸は、エルカ酸から、第1の段階においてエテノリシスを行い、次いでアクリル酸との交差メタセシスを行い、水素化により完成させることにより得ることができる。
【0050】
16二酸は、ネルボン酸から、第1の段階においてエテノリシスを行い、次いでアクリル酸との交差メタセシスを行い、水素化により完成させることにより得ることができる。
【0051】
必要に応じて、本発明の方法を使用することによってより高級な二酸、例えばC18、C20、C22またはC26二酸を生産することが全く可能である。
【0052】
本発明はまた、5−ラウロレイン酸もしくは5−フィゼテリン酸またはエステルから式ROOC−(CH−COORの二酸またはジエステルを、第1の段階において前記酸または前記エステルのエテノリシスを行って式CH=CH−(CH−COORの酸またはエステルを生成し、次いでホモメタセシスを行い、水素化により仕上げることにより合成する方法に関する。
【0053】
メタセシス反応は、たとえメタセシス反応の工業的用途が比較的限定されるにしても、長きにわたり公知である。脂肪酸(エステル)の変換におけるメタセシス反応の使用に関しては、Topics in Catalysis,Vol.27,Nos.1−4,February 2004(Plenum Publishing Corporation)に掲載のJ.C.Molによる論文「Catalytic metathesis of unsaturated fatty acid esters and oil」を参照することができる。
【0054】
メタセシス反応の触媒は、極めて多くの研究の対象および複雑な触媒系の開発を形成している。例えば、Schrock et al.,J.Am.Chem.Soc.,108(1986),2771またはBasset et al.,Angew.Chem.,Ed.Engl.,31(1992),628により開発されたタングステン錯体を挙げることができる。さらに近年、ルテニウム−ベンジリデン錯体である「Grubbs」触媒が出現した(Grubbs et al.,Angew.Chem.,Ed.Engl.34(1995),2039およびOrganic Lett.,1(1999),953)。これらの触媒は、均一系触媒に関する。アルミナまたはシリカ上に堆積された金属、例えばレニウム、モリブデンおよびタングステンをベースとする不均一系触媒も開発されてきた。最後に、固定化触媒、即ち活性原理が均一系触媒、特にルテニウム−カルベン錯体の活性原理であるが、不活性支持体上に固定化されている触媒の調製に関する研究が実施されてきた。これらの研究の課題は、一緒に用いられる反応物間の副反応、例えば「ホモメタセシス」に関して反応の選択性を増大させることである。これらの副反応は、触媒の構造だけでなく、導入され得る反応媒体および添加物の効果にも関連する。
【0055】
任意の活性および選択性メタセシス触媒を、本発明の方法において使用することができる。しかしながら、ルテニウムおよびレニウムをベースとする触媒を使用することが好ましい。
【0056】
第1の段階のエテノリシス(メタセシス)反応は、慣用のメタセシス触媒の存在下で、20℃から100℃の温度で1barから30barの圧力で実施される。反応時間は、利用される反応物に応じて、反応の平衡に最短時点で達するように選択される。反応はエチレン圧下で実施される。
【0057】
第1の段階の熱分解反応は、一般に400℃から600℃の温度で実施される。
【0058】
第2の段階のホモメタセシス反応は、慣用のメタセシス触媒の存在下で、一般に20℃から200℃の温度で実施される。
【0059】
第2の段階の交差メタセシス反応は、ルテニウムベースの触媒の存在下で、一般に20℃から200℃の温度で実施される。
【0060】
第3の段階の水素化反応は、例えばニッケル、コバルト、白金またはパラジウムなどを含む触媒の存在下で、一般に20℃から300℃の温度で水素圧下で実施される。本発明の方法は、以下の実施例により例示される。
【実施例1】
【0061】
本実施例は、オレイン酸から出発するC11二酸の合成を例示する。第1の段階において、オレイン酸のエテノリシスをタングステンベースの触媒の存在下で30℃で実施して9−デセン酸CH=CH−(CH−COOHを得る。第2の段階のため、Chen−Xi Bai et al.による刊行物Tetrahedron Letters,46(2005),7225−7228に記載のビスピリジンルテニウム錯体(8)触媒を使用し、9−デセン酸とアクリル酸メチルとの交差メタセシスを実施する。反応を、CHCl中で0.1Mの9−デセン酸濃度および0.2Mのアクリル酸メチル濃度で50℃の温度で12時間実施する。収率をクロマトグラフィー分析により測定する。本例においては、酸に対してアクリル酸メチル2当量を使用し、触媒濃度は0.5mol%である。生成物CH−OOC−CH=CH−(CH−COOHの収率は、50mol%である。この生成物を、慣用の方法により100%の収率で水素化することができる。
【実施例2】
【0062】
本実施例は、リシノール酸から出発するC20二酸の合成を例示する。第1の段階の間、リシノール酸メチルを550℃の温度で熱分解に供して10−ウンデセン酸メチルを形成し、加水分解により酸の形態に変換する。第2のホモメタセシス段階において、Stefan Randl et al.による刊行物Synlett(2001)、10、430に記載の、極めて安定しており、空気または水への曝露時に分解しないルテニウム錯体(3)触媒を使用する。ホモメタセシス反応を、CHCl中で0.15Mの10−ウンデセン酸濃度で0.5mol%の触媒濃度で30℃の温度で2時間実施する。収率をクロマトグラフィー分析により測定する。二酸HOOC−(CH−CH=CH−(CH−COOHの収率は、67mol%である。この生成物を、慣用の方法により100%の収率で水素化することができる。
【実施例3】
【0063】
本実施例は、リシノール酸から出発するC12二酸の合成を例示する。第1の段階は、実施例2の第1の段階と同一であるが、第2の段階において扱われるのが10−ウンデセン酸のメチルエステルCH=CH−(CH−COOCHであるという条件が異なる。この第2の段階は、アクリル酸メチルとの交差メタセシスである。この反応のため、Chen−Xi Bai et al.による刊行物Org.Biomol.Chem.(2005),3,4139−4142に記載のビスピリジンルテニウム錯体(8)触媒を使用する。反応を、CHCl中で0.05Mの10−ウンデセン酸のメチルエステル濃度および0.1Mのアクリル酸メチル濃度で、10−ウンデセン酸のメチルエステルに対して1mol%の濃度の触媒の存在下で30℃の温度で12時間実施する。収率をクロマトグラフィー分析により測定する。ジエステルCH−OOC−CH=CH−(CH−COOCHの収率は、70mol%である。この生成物を、この生成物のエステルまたは酸の形態で、慣用の方法により100%の収率で水素化することができる。
【0064】
このように、本実施例は、リシノール酸のメチルエステルから出発し、第1の段階において熱分解に供して、式CH=CH−(CH−COOCHのエステルを形成し、続いてアクリル酸メチルとの交差メタセシスに供して式CHOOC−CH=CH−(CH−COOCHのジエステルを形成し、続いて水素化するために、式CHOOC−(CH−COOCHのジエステルを合成する方法を例示する。
【実施例4】
【0065】
メタセシス触媒AおよびBを、Sigma Aldrichから入手した(カタログ照会番号はそれぞれ569747および569755)。これらの触媒は、第2世代Grubbs触媒および第2世代Hoveyda−Grubbs触媒としても公知である。
【0066】
触媒A:ベンジリデン[1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−2−イミダゾリジニリデン]ジクロロ(トリシクロヘキシホスフィン)ルテニウム。
【0067】
触媒B:(1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−2−イミダゾリジニリデン)ジクロロ(o−イソプロポキシフェニルメチレン)ルテニウム。
【0068】
ウンデシレン酸は、Arkemaにより、ウンデシレン酸のメチルエステル(これ自体はリシノール酸のメチルエステルの開裂により得られる。)の加水分解により製造される。リシノール酸のメチルエステルは、塩基性触媒中でのメタノールによるヒマシ油のトランスエステル化により得られる。これらの生成物は、Marseille Saint−MenetのArkemaの工場により製造される。
【0069】
本実験においては、脂肪酸(ウンデシレン酸)のエステル2.5gおよび/または過剰のアクリル酸メチルを使用する。テトラデカンを内部標準として使用する。反応混合物を50℃で撹拌し、アルゴンによりガス抜きする。触媒を、溶媒を添加せずに溶液に添加する。反応生成物の試料をクロマトグラフィーにより分析する。
【0070】
以下の実施例NおよびMはウンデシレン酸メチルのホモメタセシスの実例を例示し、実施例Oはウンデシレン酸メチルとアクリル酸メチルとの交差メタセシスの実例を例示する。
【0071】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式CH−(CH−CHR−CH−CH=CH−(CH−COOR(式中、Rは、Hまたは1個から4個の炭素原子を含むアルキル基を表し、Rは、HまたはOHであり、ならびにnおよびpは、同一であり、または異なっており、および3から11の数である。)の分子当たり少なくとも10個の隣接炭素原子を含む長鎖天然一価不飽和脂肪酸またはエステルから出発して一般式ROOC−(CH−COOR(式中、xは、5から24の整数を表し、およびRは、Hまたは1個から4個の炭素原子のアルキル基である。)の二酸またはジエステルを合成する方法であって、第1の段階において、前記天然脂肪酸またはエステルを、熱分解またはエテノリシスにより、一般式CH=CH−(CH−COOR(式中、mは、処理される脂肪酸/エステルの性質および使用される変換に応じてpまたはp+1である。)のω−一価不飽和脂肪酸またはエステルに変換し、次いで、第2の段階において、こうして得られた生成物をメタセシス反応のホモメタセシスに供して式ROOC−(CH−CH=CH−(CH−COORの化合物を得、または式ROOC−(CH−CH=CH−R(式中、Rは、Hまたは1個から4個の炭素原子を含むアルキル基であり、rは、0または1または2であり、およびRは、H、CHまたはCOORである(COORの場合においては、環式または非環式分子を形成する。))の化合物との交差メタセシスに供して式ROOC−(CH−CH=CH−(CH−COORの不飽和化合物を得、次いで、第3の段階において、最後に不飽和化合物を二重結合の水素化により変換して飽和化合物を生じさせる方法。
【請求項2】
一般式CH−(CH−CHOH−CH−CH=CH−(CH−COORの天然一価不飽和脂肪酸またはエステルを熱分解反応に供することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第1の段階から得られた式CH=CH−(CHp+1−COORの酸またはエステルをホモメタセシスに供し、この生成物ROOC−(CHp+1−CH=CH−(CHp+1−COORを水素化することを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
第1の段階から得られた式CH=CH−(CHp+1−COORの酸またはエステルを交差メタセシスに供し、得られたこの生成物を水素化することを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
一般式CH−(CH−CHOH−CH−CH=CH−(CH−COORの天然一価不飽和脂肪酸またはエステルをエテノリシス反応に供することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
第1の段階から得られた式CH=CH−(CH−COORの酸またはエステルをホモメタセシスに供し、この生成物ROOC−(CH−CH=CH−(CH−COORを水素化することを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
第1の段階から得られた式CH=CH−(CH−COORの酸またはエステルを交差メタセシスに供し、得られたこの生成物を水素化することを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
リシノール酸のメチルエステルから出発し、第1の段階において、熱分解に供して式CH=CH−(CH−COOCHのエステルを形成し、続いてアクリル酸メチルとの交差メタセシスに供して式CHOOC−CH=CH−(CH−COOCHのジエステルを形成し、続いて水素化して式CHOOC−(CH−COOCHのジエステルを合成する方法。
【請求項9】
レスケロール酸のメチルエステルから出発し、第1の段階において、ヒドロキシル化脂肪族エステルを熱分解して式CH=CH−(CH10−COOCHのエステルを形成し、次いで、第2の段階において、アクリル酸メチルとの交差メタセシスを行い、最後に水素化することにより式CHOOC−(CH12−COOCHのジエステルを合成する方法。
【請求項10】
バクセン酸またはエステルから出発し、第1の段階において、この酸またはエステルのエテノリシスを行って不飽和酸またはエステルCH=CH−(CH−COORを生じさせ、次いで、第2の段階において、酸またはエステルCH−CH=CH−CH−COORとの交差メタセシスを行い、および最後に、第2の段階からの生成物を水素化することにより式ROOC−(CH12−COORの二酸またはジエステルを合成する方法。
【請求項11】
5−ラウロレイン酸もしくは5−フィゼテリン酸またはエステルから出発し、第1の段階において、前記酸または前記エステルのエテノリシスを行って式CH=CH−(CH−COORの酸またはエステルを生成し、次いでホモメタセシスを行い、水素化により仕上げることにより式ROOC−(CH−COORの二酸またはジエステルを合成する方法。

【公表番号】特表2010−529180(P2010−529180A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−511703(P2010−511703)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【国際出願番号】PCT/FR2008/051038
【国際公開番号】WO2008/155506
【国際公開日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(505005522)アルケマ フランス (335)
【Fターム(参考)】