説明

太径雌ねじ加工用盛上げタップ

【課題】タッピングトルクの増大を効果的に軽減して呼び寸法がM40×3以上の雌ねじ加工を短時間で行なえる太径雌ねじ加工用盛上げタップを提供する。
【解決手段】本体1の外周に複数のラジアル部6a〜6hがねじ状に配設されて雄ねじ2が形成され、本体1を一方向に回転させて素材の内周面をラジアル部6a〜6hによって塑性変形させることにより呼び寸法がM40×3以上の雌ねじを形成する太径雌ねじ加工用盛上げタップにおいて、雄ねじ2には、先端に向って漸次小径となる食付き部3と完全山部4と後端に向って漸次小径となる後食付き部5とが軸方向に連続して形成されると共に、完全山部4におけるラジアル部6a〜6hには、ラジアル数が偶数の場合は三つに一つの割合で又は奇数の場合は一つ置きに山痩せしたラジアル部6c,6fが形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工素材の下穴を塑性変形させて呼び寸法がM40×3以上の雌ねじを形成する太径雌ねじ加工用盛上げタップに関する。
【背景技術】
【0002】
呼び寸法がM40×3以上の太径雌ねじ加工は、従来、切削タップを使用して行なわれていました。しかし、切削タップでは、大量に発生する切屑が原因となり、タッピングトルクの増大、雌ねじ面のムシレ,カジリによる不具合、切屑の噛み込みによる刃欠け等のトラブルが多発していました。
【0003】
ところで、近年、3軸制御のNC(数値制御)機械が開発されてからは、タップに代わり、ねじ切りフライス・チップによる雌ねじ加工が主流になってきました。しかし、この加工方法でも、機械の精度が悪くなると雌ねじ精度が基準の精度に達しなくなったり、工具に欠けや摩耗が発生すると雌ねじ面にムシレ,カジリが発生するし、加工終了後に多量に発生した切屑を除去し、雌ねじの仕上がりを確認しないと次の工程に進めないため、高価な機械の稼働率を上げられないという不具合があった(例えば、呼び寸法がM64×3で有効ねじ長73mmの太径雌ねじ加工を35ヶ所行なうのに4時間要していた)。
【0004】
このような支障を解消し、生産性を向上させるためには、切屑が発生しない盛上げタップを使用するしかないことから、その開発が或るプラント関連のユーザからタップメーカである本出願人に強く求められ着手することに至りました。
【0005】
盛上げタップは、雌ねじ加工業界では、数十年前から使用されていましたが、切削タップに比べタッピングトルクが2〜3倍大きいため、比較的に変形抵抗値の小さな非鉄金属や純鉄等の材料加工用と限定されていました。しかし、最近では、盛上げタップは、切屑が出ず、雌ねじ精度が安定する等の長所が認められ、且つタッピングマシンの剛性・チャック類の開発・切削油の改良等周辺環境が改善され、炭素鋼・合金鋼・ステンレス等変形抵抗値の大きな材料へ使用範囲が拡がって来ましたが、それでも依然として、タッピングトルクが大きいため、雌ねじの呼び寸法がM20×2.5の範囲に限られていた(特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2006−116674号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、タッピングトルクの増大を効果的に軽減して呼び寸法がM40×3以上の雌ねじ加工を短時間で行なえる太径雌ねじ加工用盛上げタップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するための本発明に係る太径雌ねじ加工用盛上げタップは、本体の外周に複数のラジアル部がねじ状に配設されて雄ねじが形成され、前記本体を一方向に回転させて素材の内周面を前記ラジアル部によって塑性変形させることにより呼び寸法がM40×3以上の雌ねじを形成する太径雌ねじ加工用盛上げタップにおいて、
前記雄ねじには、先端に向って漸次小径となる食付き部と完全山部と後端に向って漸次小径となる後食付き部とが軸方向に連続して形成されると共に、
前記完全山部におけるラジアル部には、ラジアル数が偶数の場合は三つに一つの割合で又は奇数の場合は一つ置きに山痩せしたラジアル部が形成されることを特徴とする。
【0009】
また、前記食付き部の長さが略4Pであることを特徴とする。
【0010】
また、前記完全山部の長さは略4〜6Pであることを特徴とする。
【0011】
また、前記後食付き部の長さは略1.5〜2Pであることを特徴とする。
【0012】
また、前記雄ねじのねじ山頂部はR形状に丸まっていることを特徴とする。
【0013】
また、前記雄ねじのねじ山谷部はR形状に丸まっていることを特徴とする。
【0014】
前記山痩せしたラジアル部は、前,後両側面に略0.01〜0.05mmの山痩せ加工が施されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
前記構成の本発明によれば、完全山部に形成された山痩せしたラジアル部によりタッピングトルクの増大を軽減しつつ、また、完全山部に連続して形成された後食付き部によりタップの戻りを円滑にして、呼び寸法がM40×3以上の太径雌ねじ加工を、切屑を発生することなく短時間で行なえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る太径雌ねじ加工用盛上げタップを実施例により図面を用いて詳細に説明する。
【実施例】
【0017】
図1は本発明の一実施例を示す太径雌ねじ加工用盛上げタップの側面図、図2Aは完全山部の正断面図、図2Bは図2AのA矢視からの山痩せしたラジアル部の模式図、図3は完全山部の形状説明図、図4はねじ山の形状説明図である。
【0018】
図1及び図2A,図2Bに示すように、太径雌ねじ加工用盛上げタップは、その高速度鋼(ハイス)等からなる本体1の外周部に複数(図示例では八つ)のラジアル部6a〜6hがねじ状(図2Bの角度θ≒3°参照)に配設されて呼び寸法がM64(mm)×3(mm)の雄ねじ2が形成される。
【0019】
前記雄ねじ2には、先(前)端に向って漸次小径となる食付き部3と完全山部(平行ねじ部)4と基(後)端に向って漸次小径となる後食付き部5とが軸方向に連続して形成される。
【0020】
また、雄ねじ2の周方向には、各ラジアル部6a〜6h間を結ぶレリーフドロップ部7a〜7hの中間部に位置して本体1の軸方向に延びる複数条(図示例では8条)の油溝部8a〜8hが形成される。尚、図2A中D1は谷径,D2は有効径,D3は外径で、Wはラジアル幅である。
【0021】
そして、本実施例では、前記食付き部3の長さが4P(ピッチ,4山)、完全山部4の長さは4P(ピッチ,4山)、後食付き部5の長さは2P(ピッチ,2山)で、ねじ長は10P(ピッチ,10山)に設定されている。尚、完全山部4の長さは略4〜6Pで、後食付き部5の長さは略1.5〜2Pでも良い。
【0022】
また、図4に示すように、前記雄ねじ2のH/8以下に設定されたねじ山頂部はR1形状に丸まって形成されると共にH/4以下に設定されたねじ山谷部はR2形状に丸まって形成される。
【0023】
さらに、図2A,図2B及び図3に示すように、前記雄ねじ2の完全山部4におけるラジアル部(ねじ山)6a〜6hには、正規のラジアル部(ねじ山)6a,6b,6d,6e,6g,6hの間に位置して山痩せしたラジアル部(ねじ山)6c,6fが形成される。この山痩せしたラジアル部(ねじ山)6c,6fは前,後両側面(フランク部)に略0.01〜0.05mmの山痩せ加工が施され、タッピング時に雌ねじと非接触となるようになっている。
【0024】
また、山痩せしたラジアル部(ねじ山)6c,6fは、図2A及び図2Bに示すように、雄ねじ2に例えば8つ(偶数)のラジアル部(ねじ山)6a〜6hが形成される場合は、3山に1山宛形成される。図2A及び図2B中6c,6fが山痩せしたラジアル部(ねじ山)で外径D3,谷径D1の寸法は変化しないで有効径D2のみ小さくなっている。尚、ラジアル数が奇数の場合は、1山置きに山痩せしたラジアル部(ねじ山)を形成すると好適である。
【0025】
このように構成されるため、本盛上げタップを用いて高温高圧用鋳鋼(SCPH)等からなる素材の内周面をラジアル部6a〜6hによって塑性変形させて例えば呼び寸法がM64(mm)×3(mm)の雌ねじを形成する際には、雄ねじ2の完全山部4に形成された山痩せしたラジアル部6c,6fによりタッピングトルクの増大を軽減しつつ、また、完全山部4に連続して形成された後食付き部5によりタップの逆転時の戻りを円滑にして、切屑を発生することなく短時間(1穴2分30秒)で加工することができる。
【0026】
即ち、前記後食付き部5の形成により、完全山部4の長さを食付き部3の長さと同じく短く形成しより一層タッピングトルクの増大を軽減するようにした分、タップの逆転時には、素材の収縮の影響を強く受け、タップが戻り(抜け)不能となるのを効果的に回避することができるのである。
【0027】
また、前記雄ねじ2のH/8以下に設定されたねじ山頂部に加えてH/4以下に設定されたねじ山谷部がR形状に丸まって形成されるので、より一層タッピングトルクの増大が軽減されると共に、コーティング等の表面処理の長寿命化が図れる。
【0028】
このようにして本実施例では、雄ねじ2における完全山部4の一部山痩せ加工と食付き部3及び完全山部4の上述した長さ設定と後食付き部5の新設等により、タッピングトルクの増大軽減とタップの戻りを円滑にして、従来不可能であった呼び寸法がM64(mm)×3(mm)の太径雌ねじ加工を可能にした。
【0029】
尚、本願発明者等の実験等により、例えば略5m/minのタッピングスピードで加工した場合、通常は略700N・mのタッピングトルクを要するところを、本盛上げタップによれば略600N・mのタッピングトルクで太径の雌ねじ加工が可能であることが解明されている。
【0030】
尚、本発明は上記実施例に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、本体の材質や雄ねじの呼び寸法とラジアル部や油溝部の数の変更等各種変更が可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施例を示す太径雌ねじ加工用盛上げタップの側面図である。
【図2A】完全山部の正断面図である。
【図2B】図2AのA矢視からの山痩せしたラジアル部の模式図である。
【図3】完全山部の形状説明図である。
【図4】ねじ山の形状説明図である。
【符号の説明】
【0032】
1 太径雌ねじ加工用盛上げタップの本体
2 雄ねじ
3 食付き部
4 完全山部(平行ねじ部)
5 後食付き部
6a,6b,6d,6e,6g,6h 正規のラジアル部
6c,6f 山痩せしたラジアル部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体の外周に複数のラジアル部がねじ状に配設されて雄ねじが形成され、前記本体を一方向に回転させて素材の内周面を前記ラジアル部によって塑性変形させることにより呼び寸法がM40×3以上の雌ねじを形成する太径雌ねじ加工用盛上げタップにおいて、
前記雄ねじには、先端に向って漸次小径となる食付き部と完全山部と後端に向って漸次小径となる後食付き部とが軸方向に連続して形成されると共に、
前記完全山部におけるラジアル部には、ラジアル数が偶数の場合は三つに一つの割合で又は奇数の場合は一つ置きに山痩せしたラジアル部が形成されることを特徴とする太径雌ねじ加工用盛上げタップ。
【請求項2】
前記食付き部の長さが略4Pであることを特徴とする請求項1記載の太径雌ねじ加工用盛上げタップ。
【請求項3】
前記完全山部の長さは略4〜6Pであることを特徴とする請求項1記載の太径雌ねじ加工用盛上げタップ。
【請求項4】
前記後食付き部の長さは略1.5〜2Pであることを特徴とする請求項1記載の太径雌ねじ加工用盛上げタップ。
【請求項5】
前記雄ねじのねじ山頂部はR形状に丸まっていることを特徴とする請求項1記載の太径雌ねじ加工用盛上げタップ。
【請求項6】
前記雄ねじのねじ山谷部はR形状に丸まっていることを特徴とする請求項1記載の太径雌ねじ加工用盛上げタップ。
【請求項7】
前記山痩せしたラジアル部は、前,後両側面に略0.01〜0.05mmの山痩せ加工が施されていることを特徴とする請求項1記載の太径雌ねじ加工用盛上げタップ。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−101485(P2009−101485A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−277055(P2007−277055)
【出願日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(000151014)株式会社田野井製作所 (8)