説明

太陽電池セル用洗浄液及びそれを用いた洗浄方法

【課題】
太陽電池セルの配線工程中またはその前後において付着した汚れ、及びバスバー電極、フィンガー電極等の電極中に含まれる絶縁体の少なくとも一部を除去するための太陽電池セル用洗浄液を提供する。
【解決手段】
20℃乃至25℃における誘電率が10乃至60である極性溶剤を含む、太陽電池セル用洗浄液。前記洗浄液はさらに界面活性剤を含有することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池セルの配線工程中またはその前後において付着した汚れ、及び電極中に含まれる絶縁体の少なくとも一部を除去するための太陽電池セル用洗浄液、及びその洗浄液を用いた洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池セルの配線工程では、太陽電池セルのバスバー電極にフラックスを塗布した後、インターコネクタをはんだ接続する。フラックスは光電変換層が利用できる波長領域に吸収を有するため、バスバー電極からはみ出したフラックスは光取り込み効率を低下させる。そのため、はみ出したフラックスを除去することができれば、太陽電池の変換効率向上が期待できる。
【0003】
また太陽電池セルの配線工程後、太陽電池モジュール作製工程を行うまでの間に太陽電池セルに付着した塵、埃などは、光取り込み効率を低下させる。そのため、この太陽電池セルに付着した塵、埃などを除去することができれば、変換効率の向上が期待できる。
【0004】
さらに、バスバー電極及び該電極と交差するフィンガー電極を形成するための電極ペースト組成物には絶縁性のガラスフリット及び有機ビヒクルが含まれる(下記特許文献1)。電極ペースト組成物は最終的に500℃以上で焼成されるものの、ガラスフリット及び一部の有機ビヒクルは残存していると考えられる。そのため、これら絶縁体を溶剤により除去することができれば、太陽電池の変換効率の向上が期待できる。
【0005】
太陽電池の洗浄法に関しては、例えば下記特許文献2に、集積型薄膜太陽電池のレーザースクライブ工程にて発生したパーティクルの除去法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−109016号公報
【特許文献2】特開2001−44466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし上記特許文献2では、太陽電池セルの配線工程でインターコネクタをはんだ接続させた後の洗浄、及びバスバー電極、フィンガー電極等の電極中に含まれる絶縁体の除去に関し、課題及び解決方法は見出されていない。そのため、当該特許文献2を参照しても、太陽電池の変換効率を十分に向上させられない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、太陽電池セル用洗浄液であって、所定の範囲の誘電率を有する極性溶剤及び任意成分として界面活性剤のような添加剤を含む。さらに本発明は、前記洗浄液を用いた洗浄方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る太陽電池セル用洗浄液を用いることで、太陽電池セルの配線工程中またはその前後において付着した汚れ、及びバスバー電極、フィンガー電極等の電極中に含まれる絶縁体の少なくとも一部を除去することができ、その結果太陽電池の変換効率が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る太陽電池セル用洗浄液に含まれる極性溶剤としては、種々のものを使用することができるが、特に汚れ、フラックス及び絶縁体に対する親和性、溶解性の高い極性溶剤が好ましい。溶剤の極性は例えば誘電率で評価されるが、本発明に係る洗浄液に含まれる極性溶剤の20℃乃至25℃における誘電率は10乃至60であり、より好ましくは13乃至50である。このような極性溶剤の例として、アセトン、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、アセトニトリル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、乳酸エチル、シクロヘキサノン、N−メチルピロリドン、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルホルムアミド及びジメチルスルホキシドを挙げることができる。誘電率が上記の範囲であれば、本発明に係る太陽電池セル用洗浄液に含まれる極性溶剤としては、前記極性溶剤のうち1種からなる溶剤、2種以上からなる混合溶剤、どちらも使用することができる。前記極性溶剤が混合溶剤である場合、該混合溶剤を構成する成分の少なくとも1つの誘電率が上記範囲外であっても、該混合溶剤の誘電率が上記範囲内であればよい。
【0011】
上記極性溶剤の誘電率は、例えば日本ルフト(株)製液体用誘電率計、Model871によって測定することができる。
【0012】
各溶剤の誘電率は、アセトン:21(20℃)、メタノール:33(20℃)、エタノール:25(20℃)、1−プロパノール:21(20℃)、2−プロパノール:20(20℃)、アセトニトリル:37(20℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテル:12(25℃)、乳酸エチル:13(20℃)、シクロヘキサノン:16(20℃)、N−メチルピロリドン:32(25℃)、γ−ブチロラクトン:39(20℃)、N,N−ジメチルホルムアミド:37(25℃)、ジメチルスルホキシド:47(20℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート:8(25℃)及び水:80(20℃)である。上記各溶剤の誘電率は、20℃における値又は25℃における値である。
【0013】
本発明に係る太陽電池セル用洗浄液には、さらに界面活性剤を含有することができる。前記界面活性剤は公知のものが使用でき、その添加量としては、上記極性溶剤に対して例えば0.001質量%乃至5質量%、好ましくは0.005質量%乃至2質量%である。前記界面活性剤を含む場合、その添加量が少なすぎると、塗布性改善やレベリング性などの効果が期待できない。界面活性剤の添加量が多すぎると、太陽電池セル上に界面活性剤が残存し、光取り込み効率を低下させる要因となる。
【0014】
上記界面活性剤の例として、例えばポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンオクチルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェノールエーテル等のポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート、ソルビタントリステアレート等のソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等のノニオン系界面活性剤、エフトップ(登録商標)EF301、同EF303、同EF352((株)ジェムコ製)、メガファック(登録商標)F171、同F173、同R−30(DIC(株)製)、フロラードFC430、同FC431(住友スリーエム(株)製)、アサヒガード(登録商標)AG710、サーフロン(登録商標)S−382、同SC101、同SC102、同SC103、同SC104、同SC105、同SC106(旭硝子(株)製)、FTX−100、FTX−150、FTX−501、FTX−220P、FTX−250、FTX−300、FTX−400SW((株)ネオス製)等のフッ素系界面活性剤、BYK(登録商標)−307、同−310、同−322、同−370(ビックケミー・ジャパン(株))、KP341(信越化学工業(株)製)等のシリコーン系界面活性剤を挙げることができる。
【0015】
本発明に係る太陽電池セル用洗浄液を用いた太陽電池セルの洗浄方法は、太陽電池セルに該洗浄液を塗布する工程と、その後該洗浄液が塗布された太陽電池セルを乾燥させる工程とを有する。前記塗布工程としてはスピンコート法、スプレーコート法、ディップコート法など種々の塗布法を使用することができる。前記乾燥工程としては自然乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥、加熱と減圧を併用した乾燥、スピン乾燥など、種々の乾燥法を使用することができる。前記塗布工程と前記乾燥工程の間には前記太陽電池セルを搬送する工程を挿入することもできる。
【実施例】
【0016】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0017】
本明細書に記載の実施例で用いた太陽電池セル、封止剤、タブ、バックシート及び強化ガラスは、次のとおりである。
<太陽電池セル>
Motech社製、125mm角の結晶シリコンセル
<封止材>
サンビック(株)製、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)からなる封止材
<タブ>
丸正(株)製 1.5mmPV−ribbon wire
<バックシート>
(株)エムエーパッケージング製、バックシート
<強化ガラス>
(株)新協和製、強化ガラス
【0018】
[太陽電池セル用洗浄液の調製:実施例1乃至5、比較例1]
次の表1に示す(A)成分:極性溶剤、及び(B)成分:界面活性剤を混合し、室温(約25℃)で3時間以上攪拌して均一な太陽電池セル用洗浄液とした。但し、実施例1、実施例5及び比較例1は(B)成分を含まない。
【表1】

【0019】
[太陽電池セル用洗浄液の塗布]
(株)ワイディー・メカトロソリューションズ製スプレー塗布装置を用いて、前記太陽電池セル上に上記表1に示す太陽電池セル用洗浄液のいずれか一種をスプレー塗布した。
【0020】
[太陽電池モジュール作製]
太陽電池モジュールの作製は、(株)エヌ・ピー・シー製ラミネータ、LM−50×50−Sを用いて行った。前記強化ガラス上に、前記封止材、前記太陽電池セル、前記封止材、及び前記バックシートの順にのせ、130℃で20分間ラミネートした。
【0021】
[IV測定]
IV測定は、山下電装(株)製のソーラーシミュレータ、YSS−150を使用した。25℃中、上記方法で作製した太陽電池モジュールにキセノンランプを用いた擬似太陽光を6回照射し、得られたIV測定データを平均化した。
【0022】
[実施例6乃至実施例10、比較例2乃至比較例4:太陽電池モジュール作製及びIV特性評価]
前記表1に示す実施例1乃至実施例5の太陽電池セル用洗浄液を、スプレー装置を用いて前記太陽電池セルにスプレー塗布し、下記表2に示す条件で乾燥させた後、その太陽電池セルを用いて太陽電池モジュールを作製した。実施例1乃至実施例5の洗浄液を用いた洗浄方法を適用した太陽電池セルを用いて太陽電池モジュールを作製した例を、それぞれ実施例6乃至実施例10とした。比較例1の洗浄液を用いて洗浄した太陽電池セルを用いて太陽電池モジュールを作製した例を比較例2とした。さらに、太陽電池セル用洗浄液を用いずに太陽電池モジュールを作製した比較例として、太陽電池セル用洗浄液のスプレー塗布及び乾燥を行わずに太陽電池モジュールを作製した例、及び乾燥のみ行い太陽電池モジュールを作製した例を、それぞれ比較例3、比較例4とした。
【0023】
作製した実施例及び比較例の太陽電池モジュールを用いて電流−電圧(I−V)測定を行い、最大出力(W):Pmaxを得た。そして、比較例3(洗浄、乾燥共に行わない)の太陽電池モジュールにおけるPmax値を100%としたときの、実施例6乃至実施例10及び比較例2乃至比較例4の太陽電池モジュールの、Pmaxの相対値(%)及び変換効率の相対値(%)を求めた(下記式参照)。得られた結果を表2に示す。
変換効率の相対値(%)=Pmaxの相対値(%)=
100×実施例及び比較例のPmax値/比較例3のPmax
【0024】
【表2】

【0025】
[評価結果]
上記表2に示すように、本発明の太陽電池セル用洗浄液を用いることにより、太陽電池モジュールの変換効率を比較例3の太陽電池モジュールに対し2〜7%上昇することが、実施例6乃至実施例10の結果より明らかとなった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
20℃乃至25℃における誘電率が10乃至60である極性溶剤を含む、太陽電池セル用洗浄液。
【請求項2】
前記極性溶剤は、アセトン、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、アセトニトリル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、乳酸エチル、シクロヘキサノン、N−メチルピロリドン、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルホルムアミド及びジメチルスルホキシドからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の太陽電池セル用洗浄液。
【請求項3】
前記極性溶剤は20℃乃至25℃における誘電率が13乃至50である、請求項1に記載の太陽電池セル用洗浄液。
【請求項4】
さらに界面活性剤を含有する、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の太陽電池セル用洗浄液。
【請求項5】
太陽電池セルに請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の太陽電池セル用洗浄液を塗布する工程及びその後前記洗浄液が塗布された太陽電池セルを乾燥させる工程を有する洗浄方法。
【請求項6】
請求項5に記載の洗浄方法を適用した太陽電池セルを用いた太陽電池モジュールの作製方法。