説明

太陽電池パネル

【課題】従来の太陽電池パネルの構造と異なり、軽量で生産コストが低廉で、しかも太陽電池パネルの大きさに対する設計自由度の高く耐風圧性能にも優れた太陽電池パネルを提供することである。
【解決手段】透明樹脂基材上に、単又は複数枚の太陽電池素子をウレタン樹脂によって封入し、透明樹脂基材側を受光面とすることを基本とし、ウレタン樹脂としてヒマシ油系ポリオールを含むものとすること、ウレタン樹脂としてヘキサメチレンジイソシアネートを含むものとすること、ウレタン樹脂として水素添加によって二重結合を含まない構造としたヒマシ油系ポリオールを含むものとすること、およびこれらを組み合わせること、また、少なくとも太陽電池素子の配列範囲内に、透明樹脂基材からウレタン樹脂までを貫通する複数の通気孔を設けた構造とすることである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池パネルの製造技術の分野に属するものである。特に、従来の太陽電池パネルに対して、軽量かつ生産コストが低廉で設計自由度が高く、しかも高い信頼性を実現できる太陽電池素子の封入技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽電池パネルとは、複数のシリコン等半導体からなる太陽電池素子を、樹脂等によって封入したものである。図11には、従来の太陽電池パネルの最も一般的な構造を示している。配線材2によって複数の太陽電池素子4を接続したストリング6を、ガラス基板8上に、EVA樹脂(エチレンビニルアセテート)10によって封入し、PET樹脂(ポリエチレンテレフタレート)シート12によって裏面をシールした構造である。この構造において、太陽光は矢印A側から入射する。
【特許文献1】
【0003】
このような従来構造の太陽電池パネルは、例えば、特開平5−121772号公報等に開示されている。しかし、この従来構造の太陽電池パネルは1980年代から業界で一般的な構造であり、その基本構造のみに関する特許文献は存在していないのが現状である。
【0004】
この構造を作製するには、ガラス基板8上に架橋前のEVAシートを載せ、その上にストリング6を載せ、さらにその上に架橋前のEVAシートを載せ、最後にPETシート12でカバーした積層物を作る。次に、この積層物を加熱しながら真空ラミネートによって一体化する。真空ラミネート中に加熱されて流動化したEVA樹脂10によって、ストリング6全体が一体封入される。このようにして一体封入された積層物を再度加熱し、架橋処理を施すことによって完成となる。
【0005】
架橋処理によってEVA樹脂10が完全に硬化し、太陽電池パネルとしての信頼性が得られることになる。さらに、端面からの水分の浸入などを防止するため、端面にはブチルゴム等のシール材14を充填し、アルミニウムなどのフレーム16を額縁状に取り付け、従来構造の太陽電池パネル18が完成する。フレーム16は、端面からの水分浸入を防止するとともに、太陽電池パネル18の取付具として機能している。なお、フレーム16には、ネジ止めのための取付用孔20が開設されている。これは、ガラス基板8への開孔にはクラックの発生といった信頼性上のリスクが伴うので、通常はガラス基板8には孔を設けられないからである。また、EVA樹脂10とガラス基板8やPET樹脂シート12との界面からも水分が浸入しやすいので、シール材14の充填によって端面を保護するためにも、フレーム16は不可欠な部材となっている。
【0006】
さらに別の従来構造について、図12に示す。図例の太陽電池パネル28は、ポリカーボネートなどの透明樹脂製の容器22内に、シリコーン樹脂24によって、ストリング6の全体をポッティングしたものである。この構造において、太陽光は矢印A側から入射する。シリコーン樹脂を使用する理由は、太陽光に対しての耐久性に優れるからである。また、透明樹脂製の容器22側から太陽光を入射させる使用形態は、シリコーン樹脂24が外気に暴露されると、その自己粘着性から埃や汚れの付着を招くこと、シリコーン樹脂は透水性があるため、浸入した水分によって太陽電池素子4が腐食されるからである。ここで、ストリング6は、図11と同様、配線材2によって複数の太陽電池素子4を接続した構造である。この太陽電池パネル28を取り付ける際にも、図11と同様に、透明樹脂製の容器22の端部に設けられた取付用孔26にネジ等を挿通して固定する方法が採られる。この構造は、図11の構造よりも以前から業界内で一般化しており、この構造のみを開示する特許文献を、本発明者は発見できなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のような従来構造の太陽電池パネルには次のような問題点があるものの、これといった代替構造がないため、長年にわたって業界内で定着している。
【0008】
先ず図11の構造については、真空ラミネートという手法を用いることによる生産性の問題と、ガラス基板を用いることによる重量の問題、さらにコストの問題等が主として指摘できる。
真空ラミネートという手法は、真空に減圧するチャンバー内にガラス基板/EVAシート/ストリング/EVAシート/PETシートの積層体をセットして加熱し、そのチャンバーを大気圧に開放するときの圧力を利用して一体封入するものである。したがって、必ずバッチ処理となることから、生産性のネックになってしまう。
【0009】
また、ガラス基板を使用するため、どうしても太陽電池パネルの重量が大きくなってしまう。重量を小さくするためにガラス基板を薄くすると、雹の落下などに対する耐衝撃性が低下するので好ましくない。しかし、戸建住宅の屋根などに設置する太陽電池パネルでは、このような重量が大きくなるということはさほど問題にならない。建材として建築物に組み込まれるからである。
一方、道路標識用の太陽電池など小型のものになると、太陽電池パネルの大きさの割にはガラス基板が相対的に厚くなり、重量の問題が無視できなくなる。ガラス基板の厚みは、雹の落下などに対する耐衝撃性によって決まるので、太陽電池パネルの大きさが小さくなっても、それに比例して薄くすることはできない。さらに、マンションのベランダなどに住民の好みによって少量の太陽電池パネルを設置する場合も、戸建住宅のように建材として設置することが出来ないので、その重量ゆえに取り扱いや落下に対する安全性が問題となる。
【0010】
加えて、すでに述べたようにガラス基板とEVA樹脂、EVA樹脂とPETシートの界面からの水分の浸入を防ぐためにもフレームを設けなければならず、コストの面でもマイナスとなる。また、太陽電池パネルは板状なので、設置後の風圧荷重を考慮すると取付支柱などを太くしなければならず、この点もコスト上昇の要因となっている。
【0011】
次に図12の構造については、透明樹脂製の容器を使用しなければならないことから、コストや設計自由度の点で問題となる。すなわち、透明樹脂製の容器は金型を使用する樹脂成形品であり、ストリングの大きさごとに、金型を製作しなければならない。図12の構造の太陽電池パネルは、現在主として道路標識用の電源として普及している。このような太陽電池パネルが使われる道路標識は、停止標識や山間部のカーブサイン、降雪地帯の路肩表示等などのLED式発光標識であり、その消費電力も大小さまざまである。消費電力の違いは太陽電池の面積(ストリングの大きさ)によって調整されるが、多様な消費電力のものに必要最低限の経済的な太陽電池の大きさで対応するには、それに対応するさまざまな大きさの透明樹脂製の容器を準備する必要がある。したがって、そのために多様な金型を製作する必要があり、生産コストの上昇を招いてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、このような従来構造の太陽電池パネルの諸問題を解決し、軽量で生産コストが低廉で、しかも太陽電池パネルの大きさに対する設計自由度が高く、耐風圧性能にも優れた太陽電池パネルを提供するものである。
【0013】
このような本発明は、透明樹脂基材上に、単又は複数枚の太陽電池素子をウレタン樹脂によって封入し、透明樹脂基材側を受光面とした太陽電池パネルとすることで、実現できる。
【0014】
前記ウレタン樹脂が、ヒマシ油系ポリオールを含むものであると、耐水性に対して特に好ましい性能を得ることができる。
【0015】
前記ウレタン樹脂が、ヘキサメチレンジイソシアネートを含むものであると、耐光性に対して特に好ましい性能を得ることができる。
【0016】
前記ウレタン樹脂が、水素添加によって二重結合を含まない構造としたヒマシ油系ポリオールを含むものであると、耐水性と耐光性を両立できるものとして、好ましい性能を得ることができる。特に、ヘキサメチレンジイソシアネートとの組み合わせは、ポリオールとイソシアネートの両方が二重結合を含まないものになるので、極めて高い水準で耐水性と耐光性を両立させることができる。
【0017】
少なくとも太陽電池素子の配列範囲内に、透明樹脂基材からウレタン樹脂までを貫通する複数の通気孔を設けた構造とすると、太陽電池パネルに風が当たったときにその風が太陽電池パネルを通り抜けるので、太陽電池パネルの支持材への荷重負荷を軽くすることができる。
【発明の効果】
【0018】
請求項1によれば、アクリルや透明硬質ウレタン、ポリカーボネートその他種々の基材を用い、ウレタン樹脂のみで太陽電池素子を封入することができるので、軽量で低コストかつ設計自由度の高い太陽電池パネルを実現することができる。特にウレタン樹脂は、電機部品のモールドや床材として広く普及しており、非常に安価な材料である。
アルミなどの基板上にエポキシやアクリル樹脂等によって太陽電池素子を封入した太陽電池パネルは、従来から存在していた。しかし、エポキシ樹脂やアクリル樹脂では、その高い硬度ゆえに膨張収縮の影響が大きく、太陽電池素子の割れの発生といった物理的要因から、太陽電池パネルとしての長期信頼性を得るものは実現できなかった。したがって、これらの太陽電池はパネルは、あくまで教材用や実験用といった用途に限定されていた。
一方、ウレタン樹脂によって太陽電池パネルを作製することは、これまで業界内では行われてこなかった。その理由としては、ウレタン樹脂は光照射によって黄変するとの危惧があり、物理的特性についても、エポキシ樹脂やアクリル樹脂に劣るとの定説があったからではないかと、本発明者は類推している。しかし、例え黄変したとしても、太陽電池の出力低下は約5%程度であってその影響が低いこと、ウレタン樹脂は硬度がコントロールしやすく、太陽電池素子の膨張収縮に追従させることで物理的要因の影響を受けないことが実現できることを知見した。さらに、請求項2〜5の構成によれば、黄変そのものが防止できる。具体的には、後述する構造の複数の本発明品について、耐湿試験や屋外暴露試験を行った結果、確かにわずかな黄変が見られたものもあるが、その出力はいずれも初期特性の95%以上を維持していた。このような信頼性試験の結果として、初期特性の95%以上が維持できれば、実用上はまったく問題ない。
【0019】
なお、本発明で好ましいウレタン樹脂の硬度としては、A硬度(65℃)で40〜95、D硬度(20℃)で10〜80程度である。しかし、本発明の効果を得るための硬度としては、この範囲に限定されるものではない。
【0020】
請求項2によれば、高い耐水性を得ることができる。耐水性能は、屋外で使用される太陽電池にとっては、必要不可欠の性能である。請求項2の構成によって耐水性能が向上する理由は、本発明のウレタン原料となるヒマシ油系ポリオールの効果によるものである。ヒマシ油は、ヒマ(トウタイグサ科)という植物の種子から得られる油であるが、この油は、脂肪酸とグリセリンのエステルであり、脂肪酸の約90%がリシノレイン酸であるため、他の植物油脂とは異なった性状を示す。特に耐水性に優れる点が特徴としてあげられる。
具体的には、ヒマシ油系ポリウレタンは、ポリプロピレングリコール系、ポリエステル系、ポリブタジエン系のポリウレタンと比較すると、ポリプロピレングリコール系、ポリエステル系のポリオールに比べて耐水性や耐加水分解性、電気絶縁性に優れている。これらは、いずれも太陽電池に要求される信頼性特性である。また、ポリブタジエン系、ポリエステル系のポリオールに比べて低粘度であるため、生産性や作業性に優れている。
【0021】
請求項3によれば、高い耐光性を得ることができる。イソシアネートはポリオールとともにウレタン樹脂の主原料であるが、ヘキサメチレンジイソシアネートは脂肪族イソシアネートであり、トリレンジイソシアネートやジフェニルメタンジイソシアネートなどの芳香族イソシアネートとは異なり、黄変が起こりにくいという特性を有している。これは、その化学構造として二重結合を含んでいないという点が、寄与していると考えられる。
【0022】
請求項4によれば、ヒマシ油の二重結合を水素添加によって除去しているので、ヒマシ油の有する高い耐水性に加えて、高い耐光性も併せて得ることができる。ウレタン樹脂が光照射や高温の影響などによって黄変するのは、二重結合がこれらの外部エネルギーによって切られるからである。したがって、二重結合がなければ、太陽光のような全波長にわたる強い光が照射されたとしても、黄変を防止することができる。特にヘキサメチレンジイソシアネートとの組み合わせは、ポリオールとイソシアネートの両方が二重結合を含まないものなるので、極めて高い水準で耐水性と耐光性を両立できるという効果が得られる。
【0023】
請求項5によれば、太陽電池パネル面に吹き付ける風が通気孔を通り抜けることにより、太陽電池パネルを支える支柱などの構築部材への荷重負荷が低減し、結果として、太陽電池システムのトータルコストを大きく低減することができる。この効果は、太陽電池システム全体としては、太陽電池パネルの軽量化と等価的効果となって表れる。また、ほどよい硬度特性を有するウレタン樹脂を使用することから、この通気孔は後加工でクラックの発生等なく開設することもできるので、想定風速が高い地域に設置する必要が生じた場合でも臨機応変に対応することができ、生産性の向上にも寄与できることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1には、本発明を実施するための最良の形態例を示す。図例は、透明樹脂基材1上に、複数枚の太陽電池素子3をウレタン樹脂5によって封入し、透明樹脂基材1側を受光面とした太陽電池パネルである。複数枚の太陽電池素子3は、配線材7によって直列接続されてストリング9を構成し、配線材7の両端を取出電極11、13として、ウレタン樹脂5側に取り出している。配線材7としては、半田コートの銅箔などが使用可能である。なお、取出電極11、13は、ウレタン樹脂5側に設けた端子ボックス(図6で図示する)内に取り出している。
p型のシリコンウェハーによる太陽電池素子3の場合、その表面側の取出電極11が負極、同裏面側の取出電極13が正極となる。太陽電池素子3の表面側にもウレタン樹脂が回り込むよう、透明樹脂基材1と太陽電池素子3との間に隙間15を設けている。
【0025】
図2は、生産性を高めるとともに生産コストを低減するため、図1の隙間15に代わって、中間層としてのウレタン樹脂17を設けた例である。この説明のため、先ずは図1の構造についての生産工程を、以下に説明する。
【0026】
はじめに、透明樹脂基材1の所定位置にストリング9を治具などで隙間15を維持し、取出電極11、13を裏面側に起こしておく。この時、治具によってストリング9(各太陽電池素子3)と透明樹脂基材1との間に隙間が維持された状態で、固定される。なお、治具の構造は、本発明の構成とは一義的に関係がないので、図中では省略している。次に、ポリオールとイソシアネートを混合して真空脱泡したウレタン樹脂原料を全面に滴下し、加工物全体を50℃程度に加熱する。この加熱によって滴下したウレタン樹脂原料の粘度が低下し、太陽電池素子3の表裏を取り囲むように回り込む。その後、70℃〜100℃程度に全体を加熱し、ウレタン樹脂原料を反応硬化させ、ウレタン樹脂5によって封入された太陽電池パネルが完成する。このウレタン樹脂原料の硬化前または硬化途中に端子ボックス(図6で図示する)を取り付ける。
【0027】
このような図1の太陽電池パネルの製造に対して、図2のものは、先ず透明樹脂基材1の全面に中間層17となるウレタン樹脂原料を塗布し、その上にストリング9を配置する。その後、ポリオールとイソシアネートを混合して真空脱泡したウレタン樹脂原料を全面に滴下し、70℃〜100℃程度に全体を加熱することでウレタン樹脂原料を反応硬化させ、ウレタン樹脂5によって封入された太陽電池パネルが完成する。中間層のウレタン樹脂17と封入用のウレタン樹脂5は全く同一の材料でよく、完成後には、中間層のウレタン樹脂17と封入用のウレタン樹脂5との境界は区別できないほど一体化する。ここでは説明の都合上、2層に分けて描いている。この場合は、図1のように、太陽電池素子3の透明樹脂基材1との隙間15にウレタン樹脂原料を回り込ませる必要がないので、その粘度を低下させるための温度保持時間をとる必要はない。
【0028】
以上のように、図2の構造は、ウレタン樹脂原料を太陽電池素子3と透明樹脂基材1との隙間に回り込ませるための温度保持が不要となることから、生産性を高めてコストを低減することができる。なお、図2の構造において、中間層17の厚みは太陽電池素子3がウレタン樹脂原料で濡れる程度で十分であり、その使用量はごくわずかである。したがって、図1の構造と比較しても、使用するウレタン樹脂原料の量は、ほぼ同じである。
【0029】
続いて、図3について説明する。図3は、図1や図2の太陽電池パネルを、受光面側から見た構造であり、4枚の太陽電池素子3を直列に配置したものである。また基材1の4隅には、取付用孔19を設けている。なお、この取付用孔19は、図1、図2では省略している。
【0030】
図4は、透明樹脂基材1として、容器状の構造のものを用いた例である。図例は、透明樹脂基材1としてアクリルや透明硬質ウレタン、ポリカーボネート製の容器を用い、その内部に複数枚の太陽電池素子3をウレタン樹脂5によって封入し、透明樹脂基材1側を受光面とした太陽電池パネルである。複数枚の太陽電池素子3は、配線材7によって直列接続されてストリング9を構成し、配線材7の両端を取出電極11、13として、ウレタン樹脂5側に取り出している。
この構造も図1のものと同様、太陽電池素子3の透明樹脂基材1側の隙間にもウレタン樹脂が回り込むよう、透明樹脂基材1と太陽電池素子3との間に隙間を設けている。
【0031】
図5は、図2の構造に対して、透明樹脂基材1をアクリルや透明硬質ウレタン、ポリカーボネート製の容器としたものである。図2と同様、生産性を高めるため、中間層のウレタン樹脂17を設けた例である。
【0032】
続いて図6は、本発明の太陽電池パネルの端面外観図の一例である。図1〜図5は、説明用の図として、取出電極11、13に特別な被覆を設けない構造として描いた。一般に太陽電池パネルは、水分の浸入を防止するために、取出電極の部分を通常はシリコーン樹脂などによってモールドするか、端子ボックスなどによって封入するといった方法が採られる。図6の構造についても同様に、端子ボックス23を介して、取出電極11、13を設けたものである。なお図6では、取出電極11、13は、被覆電線の例として描いているが、被覆電線と太陽電池素子から引き出される配線材は、端子ボックス23の内部で接続されている(接続部は図示せず)。
【0033】
図7は、請求項5の構造例を示している。図例は、太陽電池素子3の配列範囲内に、受光面から基材までの複数の通気孔25を設けたものである。このような構造とすると、太陽電池パネルに風が当たったときにその風が太陽電池パネルを通り抜けるので、太陽電池パネルの支持材への荷重負荷を軽くすることができる。太陽電池パネルが風の影響をより受けるのは、その面積が大きくなった場合である。したがって、本図は太陽電池素子3を4枚直列接続したストリング9を2並列に接続した構造であり、図3のものより大型のものである。
【0034】
続いて、図7の構造の太陽電池パネルの設置形態の例を、図8〜図10を用いて説明する。図8は、図7の太陽電池パネルを取り付けるための取付具27の例である。この取付具27は、金属などの額縁状の枠の4隅に、取付孔29を開設した取付ステー31を設けた例である。図9は、図8の開口部33に、請求項5の太陽電池パネル35をはめ込み、取付孔29を介して太陽電池パネル35と取付具27をネジ止めしたものである。また、取付金具37を、取付孔29を介して太陽電池パネル35と取付具27とともに、一体締結している。図10は、図9で示したものを支柱等(図示せず)に取り付けた状態を表している。太陽電池パネルは、通常は太陽光線をより効率的に受け止めるため、図のように南向けに傾斜させて設置する。このような取付形態においては、風が太陽電池パネルに当たったとき、その面積全面で風を受け止めるため、取付金具37の根元部分Bに大きな負荷がかかってしまう。しかし本発明では、図のように風(図中点線矢印で表示)が太陽電池パネル35を通り抜けるため、取付金具37の根元部分Bに大きな負荷がかかることがない。したがって、支柱などの構造部材を細くできることから、太陽電池システム全体としてのコストダウンに寄与することができる。
【実施例】
【0035】
以下、具体的に実施例について説明する。
【実施例1】
請求項1の実施例として、58mm×72mmの低膨張アクリル基板と、8mm×52mmにカットした単結晶太陽電池素子を半田コート銅箔によって7直列に接続したストリングを用い、図1の構造の道路標識用太陽電池パネルを作製した。用いたウレタン樹脂原料は、水酸基価300(KOHmg/g)のポリエステルポリオール100重量部(日本ポリウレタン工業株式会社製)、NCO含有量29%のジフェニルメタンジイソシアネート(日本ポリウレタン工業株式会社製ミリオネートシリーズ)をNCOインデックス=1.05として74重量部、これに適量の触媒と消泡剤を混合し、真空脱泡したものである。硬化条件は70℃で30分とした。その後24時間養生し、完全硬化を確認した。この太陽電池パネルに、80℃85%〜−40℃の温湿度サイクル試験10サイクルと80℃85%の耐湿試験1000時間を連続して施した。その結果、ウレタン樹脂が若干黄変したものの、太陽電池パネルとしての電気特性は初期値の95%以上を維持していた。
【実施例2】
【0036】
請求項2の実施例として、180mm×320mmの低膨張アクリル基板と、15mm×78mmにカットした単結晶太陽電池素子を半田コート銅箔によって2列構成の34直列に接続したストリングを用い、図1の構造の道路標識用太陽電池パネルを作製した。用いたウレタン樹脂原料は、水酸基価220〜240(KOHmg/g)のヒマシ油系ポリオール100重量部(伊藤製油株式会社製URIC−Fシリーズ)、NCO含有量29%のジフェニルメタンジイソシアネート(日本ポリウレタン工業株式会社製ミリオネートシリーズ)をNCOインデックス=1.05として60重量部、これに適量の触媒と消泡剤を混合し、真空脱泡したものである。硬化条件は70℃で60分とした。その後24時間養生し、完全硬化を確認した。この太陽電池パネルに、80℃85%〜−40℃の温湿度サイクル試験10サイクルと80℃85%の耐湿試験1000時間を連続して施した。その結果、ウレタン樹脂が若干黄変したものの、太陽電池パネルとしての電気特性は初期値の95%以上を維持していた。
【実施例3】
【0037】
請求項3の実施例として、110mm×175mm、深さ3mmのポリカーボネート製容器と、8mm×51mmにカットした単結晶太陽電池素子を半田コート銅箔によって2列構成の36直列に接続したストリングを用い、図4の構造の道路標識用太陽電池パネルを作製した。用いたウレタン樹脂原料は、水酸基価200〜250(KOHmg/g)のポリエステルポリオール100重量部(日本ポリウレタン工業株式会社製)、NCO含有量21%のヘキサメチレンジイソシアネート(日本ポリウレタン工業製コロネートシリーズ)をNCOインデックス=1.05として85重量部、これに適量の触媒と消泡剤を混合し、真空脱泡したものである。硬化条件は70℃で30分とした。その後24時間養生し、完全硬化を確認した。この太陽電池パネルに、80℃85%〜−40℃の温湿度サイクル試験10サイクルと80℃85%の耐湿試験1000時間を連続して施した。その結果、実施例1や実施例2よりもウレタン樹脂の黄変は少なく、太陽電池パネルとしての電気特性は初期値の95%以上を維持していた。
【実施例4】
【0038】
請求項4の実施例として、240mm×450mmの透明硬質ウレタン基板と、51mm×51mmにカットした単結晶太陽電池素子を半田コート銅箔によって4列構成の32直列に接続したストリングを用い、図1の構造のソーラー街路灯用太陽電池パネルを作製した。用いたウレタン樹脂原料は、水酸基価110〜120(KOHmg/g)で水素添加によって二重結合を除去したヒマシ油系ポリオール100重量部(伊藤製油株式会社製URIC−Yシリーズ)、NCO含有量21%のヘキサメチレンジイソシアネート(日本ポリウレタン工業製コロネートシリーズ)をNCOインデックス=1.05として40重量部、これに適量の触媒と消泡剤を混合し、真空脱泡したものである。硬化条件は80℃で60分とした。その後24時間養生し、完全硬化を確認した。この太陽電池パネルに、80℃85%〜−40℃の温湿度サイクル試験10サイクルと80℃85%の耐湿試験1000時間を連続して施した。その結果、ウレタン樹脂の黄変はまったく見られず、太陽電池パネルとしての電気特性は初期値の95%以上を維持していた。また、1000時間の屋外暴露試験でも黄変は見られなかった。
【実施例5】
【0039】
以上の実施例1〜4の太陽電池パネルとそれぞれ同じ構造と同じウレタン樹脂原料を用い、太陽電池素子の配置を間引き、その間引いた部分に2個ずつの通気孔を設けた太陽電池パネルを作製し、実施例1〜4で行った温湿度サイクル試験と耐湿試験を行った。なお、通気孔は、ウレタン樹脂の完全硬化後の後加工として設けた。その結果、初期特性の95%以上を維持しており、通気孔の開設部分からの水分浸入など、太陽電池パネルの特性に影響を及ぼす作用は確認されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
以上のように、本発明の太陽電池パネルは、道路標識やソーラー街路灯、その他種々の小型〜中型の太陽電池用途に幅広く応用展開することができ、かつ、ガラス板や金型を使用する必要がなく、生産性や材料コストを大幅に低減することができる。したがって、これまで価格や形状設計の自由度の制限から太陽電池が利用できなかった分野にも、幅広く展開することができる。また、通気孔を設けることによって耐風圧設計が行いやすく、この点でも太陽電池の利用分野を広げることに寄与できるものである。これより、省エネルギーの機運が高まる昨今において、本発明の産業上の利用可能性は非常に大きい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の太陽電池パネルの断面構造例の説明図
【図2】本発明の太陽電池パネルの断面構造例の説明図
【図3】本発明の太陽電池パネルの受光面側構造例の説明図
【図4】本発明の太陽電池パネルの断面構造例の説明図
【図5】本発明の太陽電池パネルの断面構造例の説明図
【図6】本発明の太陽電池パネルの端面外観例の説明図
【図7】本発明の太陽電池パネルの受光面側構造例の説明図
【図8】本発明の太陽電池パネルの取付具の例の説明図
【図9】本発明の太陽電池パネルの取付態様例の説明図
【図10】本発明の太陽電池パネルを風が通り抜ける様子を表す説明図
【図11】従来の太陽電池パネルの断面構造の説明図
【図12】従来の太陽電池パネルの断面構造の説明図
【符号の説明】
【0042】
1 透明樹脂基材
2,7 配線材
3,4 太陽電池素子
5 ウレタン樹脂
6,9 ストリング
8 ガラス基板
10 EVA樹脂
11,13 取出電極
12 PET樹脂シート
14 シール材
15 隙間
16 フレーム
17 中間層のウレタン樹脂(中間層)
18,28 従来構造の太陽電池パネル
19,20,26,29 取付用孔
25 通気孔
22 透明樹脂製の容器
23 端子ボックス
24 シリコーン樹脂
27 取付具
31 取付ステー
33 開口部
35 請求項5の太陽電池パネル
37 取付金具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明合成樹脂基材上に、単又は複数枚の太陽電池素子をウレタン樹脂によって封入し、透明樹脂基材側を受光面とした太陽電池パネル。
【請求項2】
ウレタン樹脂が、ヒマシ油系ポリオールを含むものである、請求項1記載の太陽電池パネル。
【請求項3】
ウレタン樹脂が、ヘキサメチレンジイソシアネートを含むものである、請求項1又は2記載の太陽電池パネル。
【請求項4】
ウレタン樹脂が、水素添加によって二重結合を含まない構造としたヒマシ油系ポリオールを含むものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の太陽電池パネル。
【請求項5】
少なくとも太陽電池素子の配列範囲内に、透明樹脂基材からウレタン樹脂までを貫通する複数の通気孔を設けた、請求項1〜4のいずれか1項に記載の太陽電池パネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−244140(P2012−244140A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124652(P2011−124652)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(510030490)株式会社ケー・アイ・エス (2)
【出願人】(597027420)エヌ・イー・ティ株式会社 (7)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】