説明

太陽電池モジュール用封止材および太陽電池モジュールの製造方法

【課題】着色された封止材を用いて作製するにもかかわらず、太陽電池モジュールの発電性能を充分に確保できる太陽電池モジュールの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の太陽電池モジュール10の製造方法は、複数の太陽電池セル11を一対の太陽電池モジュール用封止材12a,12bで挟むと共に、太陽電池セル11を挟んだ一対の太陽電池モジュール用封止材12a,12bを一対の保護材13,14で挟んで積層体を得る積層工程と、前記積層体を加熱する加熱工程とを有し、一対の太陽電池モジュール封止材12a,12bの一方が、エチレン−酢酸ビニル共重合体とフタロシアニンブルーと有機過酸化物とを含有するシートからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池セルを封止するための太陽電池モジュール用封止材およびこれを用いた太陽電池モジュールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題への関心の高まりに伴い、太陽電池モジュールを用いた太陽光発電の普及が急速に拡大している。太陽電池モジュールとしては、発電素子である複数の太陽電池セルが電気的に接続された状態で一対のシート状の封止材に挟持され、さらにこれらが保護材としてのガラス板とバックシートに挟持されたものが広く用いられている。また、太陽電池用の封止材としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体を主成分としたものが広く使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−174296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、太陽電池モジュールに使用される一対の封止材は、各々、異なる配合にすることがある。例えば、安定剤を、表側の封止材と裏側の封止材とで異なる配合にすることがある。しかし、配合が異なる場合でも、通常、封止材は無色透明であるから、外観で判別することは困難であり、本来使用すべき封止材と異なるものを使用してしまうおそれがあった。そのため、外観で判別できる封止材が求められていた。
これに対し、封止材の端部に文字、着色、切り欠き等によりサインを設ける方法が採られることがあった。しかし、端部にサインを設けた封止材では、サインを見落とすおそれがある上に、封止材の製造においてサインを設ける工程が別途必要になった。そのため、他の方法が求められていた。
その要求に対しては、封止材を着色する方法が考えられる。しかし、封止材を着色すると、光透過性が低下するため、太陽電池モジュールの発電量が低下するという問題が生じる。
本発明は、着色されているにもかかわらず、太陽電池モジュールにした際には充分な発電性能を確保できる太陽電池モジュール用封止材を提供することを目的とする。また、着色された封止材を用いて作製するにもかかわらず、太陽電池モジュールの発電性能を充分に確保できる太陽電池モジュールの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の太陽電池モジュール用封止材は、エチレン−酢酸ビニル共重合体とフタロシアニンブルーと有機過酸化物とを含有するシートからなることを特徴とする。
本発明の太陽電池モジュールの製造方法は、複数の太陽電池セルを一対の太陽電池モジュール用封止材で挟むと共に、太陽電池セルを挟んだ一対の太陽電池モジュール用封止材を一対の保護材で挟んで積層体を得る積層工程と、前記積層体を加熱する加熱工程とを有し、前記一対の太陽電池モジュール封止材の一方が、上記太陽電池モジュール用封止材であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の太陽電池モジュール用封止材は、着色されているにもかかわらず、太陽電池モジュールにした際には発電性能の低下を防止できる。
本発明の太陽電池モジュールの製造方法では、着色された封止材を用いて作製するにもかかわらず、太陽電池モジュールの発電性能を充分に確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の太陽電池モジュールの一実施形態例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<太陽電池モジュール用封止材>
本発明の太陽電池モジュール用封止材(以下、「封止材」と略す。)は、エチレン−酢酸ビニル共重合体(以下、「EVA」という。)とフタロシアニンブルーと有機過酸化物とを含有するシートからなる。
【0009】
(EVA)
EVAは、酢酸ビニル単位の割合が10〜40質量%であることが好ましく、15〜35質量%であることがより好ましい。EVAにおける酢酸ビニル単位の割合が前記下限値以上であれば、該シートの透明性、接着性を高くでき、前記上限値以下であれば、耐久性をより高くできる。
EVAの質量平均分子量は10,000〜300,000であることが好ましく、30,000〜100,000であることがより好ましい。EVAの質量平均分子量が前記下限値以上であれば、該シートの機械的物性を良好にでき、前記上限値以下であれば、加工性を良好にできる。
【0010】
(フタロシアニンブルー)
フタロシアニンブルーは、下記構造式(1)で示される構造を有する化合物である。
フタロシアニンブルーは、大日精化工業株式会社より、「シアニンブルー5187」、「シアニンブルーHS−3」、「シアニンブルー4920」、「シアニンブルー4927」、「シアニンブルー4937」が市販されている。
【0011】
【化1】

【0012】
フタロシアニンブルーの配合量は、EVAの100質量部に対して、0.0001〜10質量部が好ましく、0.01〜1質量部がより好ましい。フタロシアニンブルーの配合量が前記下限値以上であれば、封止材を充分に着色でき、前記上限値以下であれば、太陽電池モジュールの発電低下をより防止できる。
【0013】
(有機過酸化物)
有機過酸化物は、太陽電池モジュール作製の際の加熱時にEVAを架橋させると共にフタロシアニンブルーの色を消失させるために使用される。有機過酸化物としては、パーオキシジカーボネート類、パーオキシケタール類、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシエステル類、ハイドロパーオキサイド類等が挙げられる。
有機過酸化物の配合量は、EVAの100質量部に対して、0.01〜5質量部が好ましく、0.05〜2質量部がより好ましい。有機過酸化物の配合量が前記下限値以上であれば、EVAを充分に架橋させることができ、加熱時にフタロシアニンブルーの色を充分に消失させることができる。しかし、5質量%を超えて有機過酸化物を配合しても架橋度の向上は頭打ちになり、未分解残渣量が増大し、耐久性(耐候性)の低下、変色等の原因になるため、不適切である。
【0014】
(添加剤)
封止材には、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、シランカップリング剤、架橋助剤等の添加剤が含まれてもよい。
【0015】
紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、サリチル酸エステル系紫外線吸収剤等が挙げられる。
光安定剤としては、ヒンダードアミン系光安定剤等が挙げられる。
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤等が挙げられる。
【0016】
シランカップリング剤は、後述する太陽電池セル、透明保護材、バックシート等との接着性を改良する成分である。シランカップリング剤としては、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
シランカップリング剤の配合量は、EVAの100質量部に対して、0〜10質量部が好ましく、0〜5質量部がより好ましい。
【0017】
架橋助剤は、重合性不飽和基(ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロキシ基等)を1つ以上(好ましくは2つ以上)有する化合物である。該化合物としては、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート等が挙げられる。
架橋助剤の配合量は、EVAの100質量部に対して、0〜5質量部が好ましく、0〜2質量部がより好ましい。
【0018】
また、上記添加剤の他に、封止材には、変色防止剤(脂肪酸金属塩等)、顔料、染料、充填材等が含まれてもよい。
【0019】
(厚み)
シート状の封止材の厚みは、作製する太陽電池モジュールに応じて0.05〜1mmの範囲内で適宜選択される。封止材の厚みが0.05mm以上であれば、太陽電池セルを充分に封止でき、1mm以下であれば、太陽電池セルを薄型化できる。
【0020】
(封止材の製造方法)
封止材の製造方法としては、EVAとフタロシアニンブルーと有機過酸化物と必要に応じて添加剤とを混合して混合物を調製し、該混合物を成形してシート化する方法が挙げられる。
シート化方法としては、例えば、Tダイを用いた押出成形法、プレス成形法等が挙げられる。また、離型シートに封止材の溶液を塗工し、乾燥することにより、シート化することもできる。
【0021】
(作用効果)
本発明の封止材はフタロシアニンブルーによって着色されているため、外観により他の封止材と容易に判別できる。しかも、本発明者らが調べた結果、封止材を加熱した際には、有機過酸化物から生じるラジカルがフタロシアニンブルーに反応することによって、フタロシアニンブルーの色が消失することが判明した。
【0022】
<太陽電池モジュール>
次に、上記封止材を用いた太陽電池モジュールの製造方法の一実施形態例について説明する。
図1に、本実施形態例の製造方法で得られる太陽電池モジュールの断面図を示す。本実施形態における太陽電池モジュール10は、複数の太陽電池セル11,11・・・と一対の封止材12a,12bと透明保護材13とバックシート14とを備える。太陽電池セル11は、一対の封止材12a,12bに挟持されて固定されている。封止材12a,12bは、透明保護材13(保護材)とバックシート14(保護材)との間に配置され、封止材12a,12b同士は接着している。透明保護材13は前面側に配置されている。
【0023】
(太陽電池セル)
太陽電池セル12としては、p型とn型の半導体を接合した構造を有するpn接合型太陽電池素子が挙げられる。pn接合型太陽電池素子としては、シリコン系(単結晶シリコン系、多結晶シリコン系、アモルファスシリコン系等)、化合物系(GaAs系、CIS系、CdTe−CdS系)等が挙げられる。
本実施形態例では、複数の太陽電池セル11は、導線および半田接合部を備えたタブストリング15を介して電気的に直列に接続されている。
【0024】
(透明保護材)
透明保護材13としては、ガラス板、樹脂板等が挙げられる。ガラス板としては、光透過性の点から、表面に凹凸をつけた型板ガラスが好ましい。型板ガラスの材料としては、鉄分の少ない白板ガラス(高透過ガラス)が好ましい。
【0025】
(バックシート)
バックシート14の材料としては、ポリフッ化ビニル、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート等)、ポリオレフィン(ポリエチレン等)、ガラス、金属(アルミニウム等)等が挙げられる。バックシート24は、単層であってもよく、複層であってもよい。
【0026】
(太陽電池モジュールの製造方法)
本実施形態の太陽電池モジュールの製造方法は、タブストリング15を用いて電気的に接続した複数の太陽電池セル11,11・・・を一対の封止材12a,12bで挟み、さらに封止材12a,12bを透明保護材13とバックシート14とで挟んで積層体を得る工程と、前記積層体を加熱する工程を有する。
【0027】
本実施形態では、積層工程において使用する封止材12a,12bは表側と裏側とで配合が異なる。すなわち、表側の封止材12aとして、EVAとフタロシアニンブルーと有機過酸化物と紫外線吸収剤を含有する封止材を用い、裏側の封止材12bとして、EVAと有機過酸化物とを含むが、フタロシアニンブルーおよび紫外線吸収剤を含まない封止材を用いる。
【0028】
加熱工程では、積層体を加熱することにより、封止材12a,12b同士、封止材12aと透明保護材13、封止材12bとバックシート14とを接着する。また、封止材12a,12bに含まれる有機過酸化物をラジカル化し、そのラジカルによってEVAを架橋する。さらに、加熱工程では、封止材12aにおいて、加熱工程で発生したラジカルがフタロシアニンブルーに作用して、フタロシアニンブルーの色を消失させる。
加熱温度は、有機過酸化物の分解温度以上に加熱することが好ましい。有機過酸化物の分解温度以上に加熱すれば、封止材12a,12bに含まれるEVAを充分に架橋でき、封止材11の耐久性をより向上させることができる。また、封止材12aに含まれるフタロシアニンブルーの色を容易に消失させることができる。
【0029】
(作用効果)
上記のように、太陽電池モジュール10の作製に使用される一対の封止材12a,12bは、各々、配合が異なり、表側の封止材12aはフタロシアニンブルーおよび紫外線吸収剤を含み、裏側の封止材12bはフタロシアニンブルーおよび紫外線吸収剤を含まない。すなわち、紫外線吸収剤を含む封止材12aは着色され、紫外線吸収剤を含まない封止材12bは着色されていない。そのため、太陽電池モジュール10を作製する際には、封止材12aと封止材12bとを外観で容易に判別できるため、取り違えを防止できる。
封止材12aが着色しているままでは光透過性が低くなるが、太陽電池モジュール製造時の加熱の際に、フタロシアニンブルーは有機過酸化物由来のラジカルと反応して色が消失する。そのため、加熱して太陽電池モジュール10とした後には、封止材12aの光透過率は高くなっている。したがって、着色された封止材を用いて太陽電池モジュール1を作製したにもかかわらず、充分に発電性能を確保できる。
【実施例】
【0030】
(実施例1)
エチレン−酢酸ビニル共重合体(ロッテ大山石油化学(Lotte Daesan Petrochemical)社製SEETEC VE700、酢酸ビニル単位の割合:30質量%)100質量部、紫外線吸収剤(BASFジャパン社製TINUVIN P)0.5質量部と、光安定剤(BASFジャパン社製TINUVIN114)0.5質量部、シランカップリング剤(信越シリコーン社製KBM−503)0.5質量部、フタロシアニンブルー(大日精化工業社製、シアニンブルー5187)0.5質量部、有機過酸化物(化薬アクゾ社製カヤヘキサAD)0.5質量部、架橋助剤(日本化成社製タイク)0.5質量部を混合して、封止材用組成物を得た。次いで、得られた封止材用組成物をプレス成形して、厚さ500μmのシート状の封止材を得た。
【0031】
(比較例1)
フタロシアニンブルーの代わりにコバルトブルー(大日精化工業社製、ダイピロキサイドブルー#9410)に変更したこと以外は実施例1と同様にして封止材を得た。
【0032】
(比較例2)
フタロシアニンブルーの代わりにフタロシアニングリーン(大日精化工業社製、シアニングリーン2G−550−D)に変更したこと以外は実施例1と同様にして封止材を得た。
【0033】
(比較例3)
有機過酸化物を配合しなかったこと以外は実施例1と同様にして封止材を得た。
【0034】
[評価]
各封止材について、加熱後の色変化を目視により評価した。
その結果、フタロシアニンブルーと有機過酸化物とを含む実施例1の封止材は、加熱後、ブルー色が消失した。
コバルトブルーと有機過酸化物とを含む比較例1の封止材は、加熱後、ブルー色が残った。
フタロシアニングリーンと有機過酸化物とを含む比較例2の封止材は、加熱後、グリーン色が残った。
フタロシアニンブルーを含むが、有機過酸化物を含まない比較例3の封止材は、加熱後に、ブルー色が残った。
【0035】
加熱前に加熱後に着色剤の色が消失する実施例1の封止材では、太陽電池モジュールにした際に充分な光透過性が得られるため、発電性能の低下を防止できる。
これに対し、加熱後にも着色剤の色が残る比較例1〜3の封止材では、太陽電池モジュールにした際に光透過性が低くなるため、発電性能が低くなる傾向にある。
【符号の説明】
【0036】
10 太陽電池モジュール
11 太陽電池セル
12a,12b 封止材
13 ガラス板
14 バックシート
15 タブストリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン−酢酸ビニル共重合体とフタロシアニンブルーと有機過酸化物とを含有するシートからなることを特徴とする太陽電池モジュール用封止材。
【請求項2】
複数の太陽電池セルを一対の太陽電池モジュール用封止材で挟むと共に、太陽電池セルを挟んだ一対の太陽電池モジュール用封止材を一対の保護材で挟んで積層体を得る積層工程と、前記積層体を加熱する加熱工程とを有し、
前記一対の太陽電池モジュール封止材の一方が、請求項1に記載の太陽電池モジュール用封止材であることを特徴とする太陽電池モジュールの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−77623(P2013−77623A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215239(P2011−215239)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000106726)シーアイ化成株式会社 (267)
【Fターム(参考)】