説明

太陽電池モジュール用封止材組成物及びその製造方法

【課題】透明であって、ガラス等の透明基板との高い密着性があり、かつ耐久性にも優れるポリエチレン系樹脂ベースの太陽電池モジュール用封止材組成物を提供すること。
【解決手段】直鎖低密度ポリエチレンにエチレン性不飽和シラン化合物をグラフト重合した密度0.900g/cm以下、融点80℃未満のシラン変性ポリエチレン系樹脂と、架橋剤と、を含有する太陽電池モジュール用封止材組成物である。この組成物を100℃以下で溶融押出成形した後、架橋を行うことで得られる太陽電池モジュール用封止材が上記の課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は太陽電池モジュール用封止材組成物、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題に対する意識の高まりから、クリーンなエネルギー源としての太陽電池が注目されている。現在、種々の形態からなる太陽電池モジュールが開発され、提案されている。一般に太陽電池モジュールは、透明前面基板と太陽電池素子と裏面保護シートとが、太陽電池モジュール用封止材を介して積層された構成である。
【0003】
太陽電池モジュール等を構成する各部材は、常時、強い紫外線、熱線、風雨等といった過酷な環境に曝されることになる。このため、太陽電池モジュールを構成する各部材は、これらの条件において、長期間に亘る耐久性を備える必要がある。
【0004】
太陽電池モジュール用封止材に、そのような耐久性を備えさせるための封止材組成物の構成として、EVA(エチレン−酢酸ビニル共重合体)をベース樹脂とし、架橋剤と、架橋助剤とを含有する構成が知られている(特許文献1参照)。この場合、上記の組成物は、押し出し成形時に架橋反応が進むと、成形時の負荷が過大となり生産性が低下、或いは成形不能となってしまうため、一般的に50℃〜90℃の低温加熱による押し出しで未架橋のまま成形される。そして、成形後に架橋処理を行うか、或いはモジュール化の際の加熱によって架橋される。
【0005】
一方、ベース樹脂がポリエチレン等のオレフィン系樹脂の場合、シランカップリング剤の配合によってガラス等との密着性向上を図ることが知られているが、更に密着性を改善するため、アルコキシシランをグラフト重合させた変性エチレン系樹脂を用いた封止材が知られている(特許文献2参照)。これによれば、架橋剤を含有しないので架橋工程を不要としつつも、耐久性、接着性を有する封止材を提供できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−135200号公報
【特許文献2】特開2002−235048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2の封止材は、架橋剤を含有しない。すなわち架橋処理を行わないことを前提としているために、融点80℃以上の変性エチレン系樹脂を用いることが必須の構成となっている。このことは、実施例中のシラン変性エチレン−αオレフィン共重合体の実施例2において180℃の高温で押出成形を行っていることからも明らかである。
【0008】
このように、ベース樹脂が従来のポリエチレン系樹脂の場合、高温の押出成形が必要となるので、架橋剤含有の組成物では成形中に架橋が進んでしまい成形できない。また、融点が高いので密度が高くなり、透明性が劣るという欠点もある。
【0009】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、ベース樹脂がポリエチレン系樹脂でありながら、低温で押出し可能であって、EVAと同様に後架橋させることができ、その結果、透明性に優れ、ガラス等の透明基板との高い密着性があり、かつ耐久性にも優れる太陽電池モジュール用封止材組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、太陽電池モジュール用封止材の製造において、封止材組成物として、直鎖低密度ポリエチレンにエチレン性不飽和シラン化合物をグラフト重合した低密度、低融点のシラン変性ポリエチレン系樹脂と、架橋剤と、を含有する組成物を用いることによって、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0011】
(1) 直鎖低密度ポリエチレンにエチレン性不飽和シラン化合物をグラフト重合した密度0.900g/cm以下、融点80℃未満のシラン変性ポリエチレン系樹脂と、架橋剤と、を含有する太陽電池モジュール用封止材組成物。
【0012】
(2) 樹脂成分の合計100質量部に対する前記エチレン性不飽和シラン化合物のグラフト量が、0.001〜15質量部である(1)に記載の太陽電池モジュール用封止材組成物。
【0013】
(3) 樹脂成分の合計100質量部に対して前記架橋剤を0.5質量部以上2.0質量部以下含有する(1)又は(2)に記載の太陽電池モジュール用封止材組成物。
【0014】
(4) (1)から(3)のいずれかに記載の太陽電池モジュール用封止材組成物を100℃以下で溶融押出成形する太陽電池モジュール用封止材の製造方法。
【0015】
(5) (1)から(3)のいずれかに記載の太陽電池モジュール用封止材組成物で構成される密着強化層を備える太陽電池モジュール用封止材。
【0016】
(6) (5)に記載の太陽電池モジュール用封止材であって、太陽電池モジュール用封止材組成物を成形後に、架橋処理してなり、架橋後の前記密着強化層のゲル分率が95%以下である太陽電池モジュール用封止材。
【0017】
(7) (5)又は(6)のいずれかに記載の太陽電池モジュール用封止材と、ガラス基板と、が積層されている太陽電池モジュール。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、透明であって、ガラス等の透明基板との高い密着性があり、かつ耐久性にも優れる太陽電池モジュール用封止材組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の太陽電池モジュールの層構成の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の太陽電池モジュール用封止材組成物、太陽電池モジュール用封止材及び太陽電池モジュールの順に詳細に説明する。
【0021】
<太陽電池モジュール用封止材組成物>
まず、本発明の太陽電池モジュール用封止材組成物(以下、単に封止材組成物ともいう)について説明する。封止材組成物は、溶融押出成形して太陽電池モジュール用封止材(以下、単に封止材ともいう)とするために使用される。封止材組成物は、直鎖低密度ポリエチレンにエチレン性不飽和シラン化合物をグラフト重合してなる、低密度、低融点のシラン変性ポリエチレン系樹脂(以下、シラン変性ポリエチレン系樹脂ともいう。)、及び架橋剤を必須の構成要素とし、更にその他のポリエチレン系樹脂を含んでいてもよい。以下、シラン変性ポリエチレン系樹脂、架橋剤及び、その他のポリエチレン系樹脂について説明する。
【0022】
[シラン変性ポリエチレン系樹脂]
本発明の封止材組成物で使用されるシラン変性ポリエチレン系樹脂は、主鎖となる直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)に、エチレン性不飽和シラン化合物を側鎖としてグラフト重合してなる。このようなグラフト共重合体は、接着力に寄与するシラノール基の自由度が高くなるため、太陽電池モジュールにおける他の部材への封止材の接着性を向上することができる。
【0023】
シラン変性ポリエチレン系樹脂は、例えば、特開2003−46105号公報に記載されている方法で製造でき、当該樹脂を太陽電池モジュールの封止材組成物の成分として使用することにより、強度、耐久性等に優れ、かつ、耐候性、耐熱性、耐水性、耐光性、耐風圧性、耐降雹性、その他の諸特性に優れ、更に、太陽電池モジュールを製造する加熱圧着等の製造条件に影響を受けることなく極めて優れた熱融着性を有し、安定的に、低コストで、種々の用途に適する太陽電池モジュールを製造し得る。
【0024】
主鎖のポリエチレン系樹脂としては、エチレン−αオレフィン共重合体である直鎖低密度ポリエチレンを用い、好ましくはメタロセン系直鎖低密度ポリエチレンを用いることができる。メタロセン系直鎖低密度ポリエチレンは、シングルサイト触媒であるメタロセン触媒を用いて合成されるものである。このようなポリエチレンは、側鎖の分岐が少なく、コモノマーの分布が均一である。このため、分子量分布が狭く、上記のような超低密度にすることが可能であり封止材に対して柔軟性を付与できる。封止材に柔軟性が付与される結果、封止材とガラス等の透明前面基板との密着性を高めることができる。
【0025】
メタロセン系直鎖低密度ポリエチレンは、結晶性分布が狭く、結晶サイズが揃っているので、結晶サイズの大きいものが存在しないばかりでなく、低密度であるために結晶性自体が低い。このため、シート状に加工した際の透明性に優れる。したがって、本発明の封止材組成物からなる封止材が、透明前面基板と太陽電池素子との間に配置されても発電効率はほとんど低下しない。
【0026】
直鎖低密度ポリエチレンのα−オレフィンとしては、好ましくは分枝を有しないα−オレフィンが好ましく使用され、これらの中でも、炭素数が6〜8のα−オレフィンである1−ヘキセン、1−ヘプテン又は1−オクテンが特に好ましく使用される。α−オレフィンの炭素数が6以上8以下であることにより、封止材に良好な柔軟性を付与することができるとともに良好な強度を付与することができる。その結果、封止材とガラス等の透明前面基板との密着性が更に高まる。
【0027】
直鎖低密度ポリエチレンとグラフト重合させるエチレン性不飽和シラン化合物として、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルトリペンチロキシシラン、ビニルトリフェノキシシラン、ビニルトリベンジルオキシシラン、ビニルトリメチレンジオキシシラン、ビニルトリエチレンジオキシシラン、ビニルプロピオニルオキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリカルボキシシランより選択される1種以上を使用することができる。
【0028】
エチレン性不飽和シラン化合物の含量であるグラフト量は、後述するその他のポリオレフィン系樹脂を含む封止材組成物中の全樹脂成分の合計100質量部に対して、例えば、0.001〜15質量部、好ましくは、0.01〜5質量部、特に好ましくは、0.05〜2質量部となるように適宜調整すればよい。本発明において、エチレン性不飽和シラン化合物の含量が多い場合には、機械的強度及び耐熱性等に優れるが、含量が過度になると、引っ張り伸び及び熱融着性等に劣る傾向にある。
【0029】
シラン変性ポリエチレン系樹脂のメルトマスフローレート(MFR)は、JIS7210に準じて測定した190℃、荷重49Nにおける値が、0.5g/10分以上40g/10分以下であることが好ましく、2g/10分以上40g/10分以下であることがより好ましい。MFRが上記の範囲であることにより、ガラス等から構成される透明基板と封止材の密着性に優れる。
【0030】
シラン変性ポリエチレン系樹脂の密度は、0.870〜0.900g/cmの範囲内であり、好ましくは0.875〜0.890g/cmの範囲である。このように低密度の樹脂を使用することにより、従来のポリエチレン系樹脂からなる封止材よりも透明性を高めることが可能であり、また、太陽電池モジュールを構成する各部材、とりわけガラスからなる透明前面基板と封止材との密着性を顕著に高めることができる。
【0031】
本発明の封止材組成物で使用されるシラン変性ポリエチレン系樹脂の融点は80℃未満である。従来は、融点が80℃未満であると封止材として耐熱性、耐久性を十分なものとすることが難しく、上記の特許文献2のように変性エチレン系樹脂として融点が80℃以上のものを用いることが一般的であった。しかし、本発明においては、シラン変性ポリエチレン系樹脂の融点を80℃未満とすることによって、100℃以下の溶融押出しを可能とし、これによってEVAと同様に架橋剤を含む組成物系への適用を可能としたものである。
【0032】
上記の密度及び融点は、主鎖のポリエチレン系樹脂の密度及び融点を調整することで適宜得ることができる。
【0033】
[その他のポリオレフィン系樹脂]
封止材組成物には、上記のシラン変性ポリエチレン系樹脂の他に下記に示すその他のポリオレフィン系樹脂を含むものとしてもよい。そのような封止材組成物も上記のシラン変性ポリエチレン系樹脂がもたらす好ましい作用効果を当然に奏し得るものであり、本発明の範囲である。その他のポリオレフィン系樹脂は、密度0.900g/cm以下、融点80℃未満であり、シラン未変性であり、オレフィンモノマーから構成されるものが好ましい。したがって、その他のポリオレフィン系樹脂には、上記条件を満足するLLDPEの他、低密度ポリエチレン(LDPE)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等も含まれる。これらは、例えば添加用樹脂として用いてもよく、後述のその他の成分をマスターバッチ化するために使用できる。
【0034】
その他のポリオレフィン系樹脂は、好ましくは上記のシラン変性ポリエチレン系樹脂との融点差が20℃以内、より好ましくは10℃以内であり、特に好ましくはシラン変性ポリエチレン系樹脂の主鎖のポリエチレン系樹脂と同じ樹脂である。
【0035】
[架橋剤]
架橋剤は公知のものが使用でき、特に限定されるものではなく、例えば公知のラジカル重合開始剤を用いることができる。ラジカル重合開始剤としては、例えば、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(ヒドロパーオキシ)ヘキサン等のヒドロパーオキサイド類;ジ‐t‐ブチルパーオキサイド、t‐ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(t‐ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(t‐パーオキシ)ヘキシン‐3等のジアルキルパーオキサイド類;ビス‐3,5,5‐トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、o‐メチルベンゾイルパーオキサイド、2,4‐ジクロロベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類;t‐ブチルパーオキシアセテート、t‐ブチルパーオキシ‐2‐エチルヘキサノエート、t‐ブチルパーオキシピバレート、t‐ブチルパーオキシオクトエート、t‐ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t‐ブチルパーオキシベンゾエート、ジ‐t‐ブチルパーオキシフタレート、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキシン‐3、t‐ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルカーボネート等のパーオキシエステル類;メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類等の有機過酸化物、又は、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2,4‐ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクテート、ジオクチル錫ジラウレート、ジクミルパーオキサイド、といったシラノール縮合触媒等を挙げることができる。
【0036】
本発明の封止剤組成物は、100℃以下での溶融押出し成形が可能である。このため、上記架橋剤の中でも、1分間半減期温度が150℃以上のものが好ましく用いられる。
【0037】
架橋剤の含有量としては、封止材の全樹脂成分の合計100質量部に対して0.5質量部以上2.0質量部以下の含有量であることが好ましく、より好ましくは0.5質量部以上1.5質量部以下の範囲である。この範囲の架橋剤を添加することにより、本発明の封止材に用いる低密度のポリエチレン系樹脂にも十分な耐久性を付与することができる。
【0038】
[架橋助剤]
本発明においては、好ましくは炭素−炭素二重結合及び/又はエポキシ基を有する多官能モノマー、より好ましくは多官能モノマーの官能基がアリル基、(メタ)アクリレート基、ビニル基である架橋助剤を用いることができる。これによって適度な架橋反応を促進させて封止材とガラス等の透明前面基板との密着性を向上させているとともに、本発明においては、この架橋助剤が直鎖低密度ポリエチレンの結晶性を低下させ透明性を維持する。これによって、封止材とガラス等の透明前面基板との密着性のみならず、透明性と低温柔軟性に優れる封止材を得ることができ、具体的には上記密着性とともにポリエチレン系樹脂であってもEVAと同程度の透明性や低温柔軟性を得ることができる。
【0039】
具体的には、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアリルシアヌレート、ジアリルフタレート、ジアリルフマレート、ジアリルマレエート等のポリアリル化合物、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPT)、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート等のポリ(メタ)アクリロキシ化合物、二重結合とエポキシ基を含むグリシジルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル及びエポキシ基を2つ以上含有する1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル等のエポキシ系化合物を挙げることができる。これらは単独でもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0040】
上記架橋助剤の中でも、上記密着性を有し、直鎖低密度ポリエチレンに対する相溶性が良好で、架橋によって結晶性を低下させ透明性を維持し、低温での柔軟性を付与する観点からTAICが好ましく使用できる。
【0041】
架橋助剤の含有量は、封止材の全樹脂成分の合計100質量部に対して0.01質量部以上3質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.05質量部以上2.0質量部以下の範囲である。この範囲内であれば適度な架橋反応を促進させてガラス等から構成されるガラス等の透明基板と封止材の密着性を向上させることができる。
【0042】
[ラジカル吸収剤]
本発明の封止材組成物においては、ラジカル重合開始剤となる上記の架橋助剤と、それをクエンチするラジカル吸収剤とを併用することにより、架橋の程度を調整することができる。このようなラジカル吸収剤としては、ヒンダードフェノール系等の酸化防止剤や、ヒンダードアミン系の耐候安定化等が例示できる。架橋温度付近でのラジカル吸収能力が高い、ヒンダードフェノール系のラジカル吸収剤が好ましい。ラジカル吸収剤の含有量は、封止材の全樹脂成分の合計100質量部に対して0.01質量部〜3質量部であることが好ましく、より好ましくは0.05質量部〜2.0質量部の範囲である。この範囲内であれば適度に架橋反応を抑制し、透明基板と封止材の密着性を向上させることができる。
【0043】
[その他の成分]
封止材組成物には、更にその他の成分を含有させることができる。例えば、本発明の封止材組成物から作製された封止材に耐候性を付与するための耐候性マスターバッチ、各種フィラー、光安定化剤、紫外線吸収剤、熱安定剤等の成分が例示される。これらの含有量は、その粒子形状、密度等により異なるものではあるが、それぞれ封止材の全樹脂成分の合計100質量部に対して0.001〜5質量部の範囲内であることが好ましい。これらの添加剤を含むことにより、封止材組成物に対して、長期に亘って安定した機械強度や、黄変やひび割れ等の防止効果等を付与することができる。
【0044】
耐候性マスターバッチとは、光安定化剤、紫外線吸収剤、熱安定剤及び上記の酸化防止剤等をポリエチレン等の樹脂に分散させたものであり、これを封止材組成物に添加することにより、封止材に良好な耐候性を付与することができる。耐候性マスターバッチは、適宜作製して使用してもよいし、市販品を使用してもよい。耐候性マスターバッチに使用される樹脂としては、本発明に用いる直鎖低密度ポリエチレンでもよく、上記のその他の樹脂であってもよい。
【0045】
なお、これらの光安定化剤、紫外線吸収剤、熱安定剤及び酸化防止剤は、それぞれ1種単独でも2種以上を組み合わせて用いることもできる。更に、本発明の封止材組成物に用いられる他の成分としては上記以外に接着性向上剤、核剤、分散剤、レベリング剤、可塑剤、消泡剤、難燃剤等を挙げることができる。
【0046】
[封止材]
本発明の太陽電池モジュール用封止材は、例えば、上記の条件を満たす封止材組成物を、従来公知の方法で成型加工して得られるものであり、シート状又はフィルム状としたものである。なお、本発明におけるシート状とはフィルム状も含む意味であり両者に差はない。
【0047】
封止材組成物のシート化は、通常の熱可塑性樹脂において用いられる成形法、すなわち、射出成形、押出成形、中空成形、圧縮成形、回転成形等の各種成形法により行われる。こうして、上記封止材組成物をシート化することにより、本発明の封止材として、封止材組成物をシート化してなる密着強化層を備える単層又は多層のシートである封止材が得られる。
【0048】
封止材は、単層シートであってもよく、多層シートであってもよい。多層シートの場合、透明前面基板2との密着性を向上させるために、透明前面基板2との界面側に封止材組成物からなる密着強化層が配置されていればよい。このため、例えば封止材を2層構成として一方の層のみに密着強化層を配置してもよく、コア層を挟んで3層以上の構成として少なくとも一方の最外層に密着強化層を配置してもよい。
【0049】
なお、本発明の封止材は、成形温度を90℃から100℃の低温域に限定することで未架橋のまま成形する。架橋処理は成形後に別途行うか、或いは、後述の太陽電池モジュールの製造時点で高温加熱して架橋を完了する。
【0050】
また、上記の架橋完了後の単層の封止材及び多層の封止材の密着強化層のゲル分率は95%以下であることが好ましい。上述した通りに架橋剤、架橋助剤、及びその他の添加物の組成や添加量を好ましい範囲に調整することにより、ゲル分率が上記範囲となるように適度に架橋反応を抑制することできる。それにより、オレフィンの水蒸気バリアを有しつつ、かつ、EVA以上に低温領域での柔軟性を有し、高温での耐熱性も得ることができ、オレフィン系でありながら低温領域での成形性にも優れる封止材とすることができる。
【0051】
<太陽電池モジュール>
図1は、本発明の太陽電池モジュールについて、その層構成の一例を示す断面図である。本発明の太陽電池モジュール1は、入射光の受光面側から、透明前面基板2、前面封止材3、太陽電池素子4、背面封止材5、及び裏面保護シート6が順に積層されている。本発明の太陽電池モジュール1は、前面封止材3及び/又は背面封止材5として、本発明の封止材を使用する。
【0052】
太陽電池モジュール1は、例えば、上記の透明前面基板2、前面封止材3、太陽電池素子4、背面封止材5、及び裏面保護シート6からなる部材を順次積層してから真空吸引等により一体化し、その後、ラミネーション法等の成形法により、上記の部材を一体成形体として加熱圧着成形して製造することができる。そして、このとき、単層シートからなる前面封止材3とガラス基板が積層されるか、又は、多層シートからなる前面封止材3の上記密着強化層が、透明前面基板2の一例であるガラス基板と対向するように積層されることで、ガラス基板と封止材との密着性を向上できる。
【0053】
このようにして得られる、本発明の太陽電池モジュールは、ガラス等から構成される透明基板と封止材の密着性に優れることが特徴である。すなわち、本発明の太陽電池モジュールは、ガラス等から構成される透明基板と封止材との間の密着強度を向上させているため、強い紫外線、熱線、風雨等といった過酷な環境に曝される場合であっても、長期間に亘るきわめて高い耐久性を備えるものとなっている。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
<封止材の製造>
下記表1の組成の組成物を質量部単位で混合して溶融し、常法Tダイ法により厚さ460μmとなるように成膜して太陽電池モジュール用の未架橋の単層の封止材を得た。成膜の際の成形温度は90℃〜100℃とした。ただし、比較例3については、成形温度は210℃とした。
LLDPE1:エチレンと1−ヘキセンとの共重合体であり、密度0.880g/cm、190℃でのメルトマスフローレート(MFR)が8g/10分であるメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン。融点62℃。ポリスチレン換算の数平均分子量77000。
LLDPE2:密度0.901g/cm、190℃でのMFRが2.0g/10分であるメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン。融点90℃。ポリスチレン換算の数平均分子量35000。
シラン変性ポリエチレン系樹脂1(表1中でSi樹脂1と示す):上記LLDPE1ベース樹脂98質量部に対して、ビニルトリメトキシシラン2質量部と、ラジカル発生剤(反応触媒)としてのジクミルパーオキサイド0.1質量部とを混合し、200℃で溶融、混練し、密度0.884g/cm、190℃でのMFRが6g/10分であるシラン変性ポリエチレン系樹脂を得た。融点64℃。
シラン変性ポリエチレン系樹脂2(表1中でSi樹脂2と示す):密度0.881g/cm、190℃でのMFRが2g/10分であるメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン98質量部に対して、ビニルトリメトキシシラン2質量部と、ラジカル発生剤(反応触媒)としてのジクミルパーオキサイド0.1質量部とを混合し、200℃で溶融、混練し、密度0.884g/cm、190℃でのMFRが1.8g/10分であるシラン変性ポリエチレン系樹脂を得た。融点92℃。
架橋剤(TBEC):t‐ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルカーボネート(アルケマ吉富株式会社製、商品名ルペロックスTBEC)
架橋助剤(TAIC):トリアリルイソシアヌレート(Statomer社製、商品名SR533)
UV吸収剤(表1中でUVと示す):ケミプロ化成株式会社製、商品名KEMISORB12
耐候安定剤:チバ・ジャパン株式会社製、商品名Tinuvin770
酸化防止剤:チバ・ジャパン株式会社製、商品名Irganox1076
シランカップリング剤1(表1中でSi1と示す):3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、信越化学工業株式会社製、商品名KBM503
シランカップリング剤2(表1中でSi2と示す):ビニルトリメトキシシラン、信越化学工業株式会社製、商品名KBM1003
【0055】
【表1】

【0056】
<評価例1>
これらの未架橋の太陽電池モジュール用封止材を、下記ガラス基板上に密着させて150℃、18分で、真空加熱ラミネータで処理することにより加熱架橋を行ない、それぞれの実施例及び比較例について架橋後の太陽電池モジュール用封止材を得た。(ただし比較例3については非架橋)これらの太陽電池モジュール用封止材について、下記の試験条件におけるガラス密着維持率を評価した。結果を表2に示す。
【0057】
[ガラス密着維持率(%)の試験方法]
ガラス密着サンプル作製方法:ガラス基板(白板フロート半強化ガラス JPT3.2 75mm×50mm×3.2mm)に、上記の未架橋の太陽電池モジュール用封止材を密着させて上記の真空加熱ラミネータ処理を行った。
剥離試験方法:ガラス基板上に密着している封止材を15mm幅にカットし、剥離試験機(テンシロン万能試験機 RTF−1150−H)にて垂直剥離(50mm/min)試験を行いガラス密着強度を測定した。
耐久試験方法:下記ダンプヒート(D.H.)試験前の密着強度を初期ガラス密着強度とし、D.H.試験後のガラス密着強度の初期剥離強度に対しての維持率を測定した。D.H.試験は、JIS C8917に準拠し、試験槽内温度85℃、湿度85%の条件下で評価用サンプルモジュールの耐久性試験を500時間行った。試験後の評価用サンプルモジュールについて密着性試験を実施した。
【0058】
【表2】

【0059】
表2から解かるように、シラン変性ポリエチレン系樹脂を必須の構成要素とする本発明の太陽電池モジュール用封止材は、従来公知のシランカップリング材を添加した樹脂からなる封止材よりも、ほぼ同等の初期ガラス密着性及び高いガラス密着維持率を有している。また、高温で押出成形した密度の高い非架橋の樹脂を使用する例(比較例3)と、ほぼ同等の高い密着性能を有している。すなわち、これらの結果から、本発明の太陽電池モジュール用封止材は、ガラス等の透明基板との密着性及び密着耐久性に優れていることが解る。
【0060】
<評価例2>
次に、上記の未架橋の太陽電池モジュール用封止材を、実施例1については、150℃、18分で、真空加熱ラミネータで処理することにより加熱架橋を行ない、比較例3については架熱処理は行わずに、それぞれの実施例及び比較例について太陽電池モジュール用封止材を得た。これらの太陽電池モジュール用封止材について、下記の試験条件における光学特性を評価した。結果を表3に示す。
【0061】
[光学特性の試験方法]
実施例1及び比較例3の封止材について、全光線透過率(JIS K6911)、曇度(JIS K6911)の値を評価した。
【0062】
【表3】

表3から解かるように、本発明の太陽電池モジュール用封止材は、高温で押出成形した密度の高い非架橋の樹脂を使用する例(比較例3)よりも高い透明性を有している。すなわち、この結果から、本発明の太陽電池モジュール用封止材は、発電効率に寄与する光学特性についても優れた特性を備えていることが解る。上記表2の結果とあわせ、本発明の太陽電池モジュール用封止材は、従来公知の封止材よりも好ましい物性を備えるものであることが理解できる。
【符号の説明】
【0063】
1 太陽電池モジュール
2 透明前面基板
3 前面封止材
4 太陽電池素子
5 背面封止材
6 裏面保護シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直鎖低密度ポリエチレンにエチレン性不飽和シラン化合物をグラフト重合した密度0.900g/cm以下、融点80℃未満のシラン変性ポリエチレン系樹脂と、架橋剤と、を含有する太陽電池モジュール用封止材組成物。
【請求項2】
樹脂成分の合計100質量部に対する前記エチレン性不飽和シラン化合物のグラフト量が、0.001〜15質量部である請求項1に記載の太陽電池モジュール用封止材組成物。
【請求項3】
樹脂成分の合計100質量部に対して前記架橋剤を0.5質量部以上2.0質量部以下含有する請求項1又は2に記載の太陽電池モジュール用封止材組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の太陽電池モジュール用封止材組成物を100℃以下で溶融押出成形する太陽電池モジュール用封止材の製造方法。
【請求項5】
請求項1から3のいずれかに記載の太陽電池モジュール用封止材組成物で構成される密着強化層を備える太陽電池モジュール用封止材。
【請求項6】
請求項5に記載の太陽電池モジュール用封止材であって、太陽電池モジュール用封止材組成物を成形後に、架橋処理してなり、架橋後の前記密着強化層のゲル分率が95%以下である太陽電池モジュール用封止材。
【請求項7】
請求項5又は6のいずれかに記載の太陽電池モジュール用封止材と、ガラス基板と、が積層されている太陽電池モジュール。

【図1】
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【公開番号】特開2012−234965(P2012−234965A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−102419(P2011−102419)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】