説明

太陽電池用の複合膜の形成方法及び該方法により形成された複合膜

【課題】光電変換層と透明導電膜間、透明導電膜と導電性反射膜間の接触抵抗を低下させ、発電の際の太陽電池における直列抵抗を低下させることにより、太陽電池の発電効率を向上させ得る太陽電池用の複合膜の形成方法及び該方法により形成された複合膜を提供する。
【解決手段】基材上に表面電極を介して積層された光電変換層上に、導電性酸化物微粒子を含む分散液とバインダ成分を含む分散液又は導電性酸化物微粒子とバインダ成分の双方を含む透明導電膜形成用組成物を湿式塗工法により塗布して透明導電塗膜を形成し、この塗膜上に導電性反射膜用組成物を湿式塗工法により塗布して導電性反射塗膜を形成し、両塗膜を有する基材を焼成して、透明導電膜と導電性反射膜とからなる複合膜を形成する方法であり、導電性酸化物微粒子が、非球形の異方性形状を有する粒子、又は複数の粒子が凝集して形成された異方性構造を有する凝集体のいずれかを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池の光電変換層上に設けられる透明導電膜と導電性反射膜からなる太陽電池用の複合膜を形成する方法及び該方法により形成された複合膜に関する。更に詳しくは、光電変換層と透明導電膜間、透明導電膜と導電性反射膜間の接触抵抗を低下させ、発電の際の太陽電池における直列抵抗を低下させることにより、発電効率を向上させ得る太陽電池用の複合膜の形成方法及び該方法により形成された複合膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、環境保護の立場から、クリーンなエネルギーの研究開発が進められている。中でも太陽電池は、その資源である太陽光が無限であること、無公害であること等から注目を集めている。従来、太陽電池による太陽光発電には、単結晶シリコンや多結晶シリコンのバルク状結晶を製造し、これをスライス加工して厚い板状の半導体として使用するバルク太陽電池が用いられてきた。しかし、バルク太陽電池に使用する上記シリコン結晶は、結晶の成長に多くのエネルギーと時間とを要し、かつ、続く製造工程においても複雑な工程が必要となるため量産効率が上がり難く、低価格の太陽電池を提供することが困難であった。
【0003】
一方、厚さが数マイクロメートル以下のアモルファスシリコン等の半導体を用いた薄膜半導体太陽電池(以下、薄膜太陽電池という。)は、ガラスやステンレススチール等の安価な基板上に、光電変換層である半導体層を必要なだけ形成すればよい。従って、この薄膜太陽電池は、薄型で軽量、製造コストの安さ、大面積化が容易であること等から、今後の太陽電池の主流になると考えられている。
【0004】
薄膜太陽電池は、例えば、透明電極、アモルファスシリコン、多結晶シリコン、裏面電極の順で形成された構造をとることで発電効率を高めることが検討されている(例えば、非特許文献1参照。)。この非特許文献1に示される構造では、アモルファスシリコンや多結晶シリコンが光電変換層を構成する。特に、光電変換層がシリコン系の材料によって太陽電池が構成されている場合、上記材料による光電変換層の吸光係数が比較的小さいことから、光電変換層が数マイクロメートルオーダーの膜厚では、入射光の一部が光電変換層を透過してしまい、透過した光は発電に寄与しない。そこで、裏面電極を反射膜とするか、或いは裏面電極の上に反射膜を形成し、吸収しきれず光電変換層を透過した光を反射膜によって反射させ、再び光電変換層に戻すことで発電効率を向上させることが一般に行われている。
【0005】
従来、このような薄膜太陽電池を製造する際、各層の形成はスパッタ法等の真空成膜法によって形成されていた。しかし、一般に、大型の真空成膜装置の維持及び運転には多大なコストが必要であるため、できるだけこれを湿式成膜法に置き換えることで、より安価に製造する方法の開発が進められている(例えば、特許文献1参照。)。この特許文献1に示された方法では、基材側に位置する透明導電膜、即ち図1に示す表面電極12の形成を湿式成膜法に置き換える方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−12059号公報(段落[0028]、段落[0029])
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】柳田祥三ほか著、「薄膜太陽電池の開発最前線 〜高効率化・量産化・普及促進に向けて〜」、株式会社エヌ・ティー・エス、2005年3月、P.113図1(a)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、薄膜太陽電池において、発電効率を向上させるためには、各電極を構成する層或いは膜自体が有する電気抵抗を低下させることや、光電変換層と電極間又は電極同士間の良好な接触性又は導通性が求められる。本発明者らは、裏面側に位置する電極の形成を湿式成膜法に置き換える方法について検討し、これまで、湿式塗工法を用いた透明導電膜の形成では、光電変換層上に透明導電性酸化物微粒子及びバインダ成分を含む液で塗布し、これを焼成する方法や、先ず、透明導電性酸化物微粒子を光電変換層上に塗布し、次に、これをバインダ成分で固定した後に焼成する方法などが提案されてきた。
【0009】
しかしながら、透明導電性酸化物微粒子として一般的な球状の微粒子を用いて湿式塗工法により透明導電膜を形成した場合には、光電変換層と透明導電膜間にバインダ成分が存在することによって、膜に対して縦方向への導電が阻害されるなどの問題が生じ、特に、光電変換層のキャリア密度が低い場合、このような導電阻害効果の影響を受け易く、これが発電効率向上の弊害となっていることが判明した。例えば、光電変換層13と透明導電膜14aとの導電性が悪化すると、発電の際の光電変換層13と透明導電膜14a間の接触抵抗が上がり、これが発電の際の太陽電池における直列抵抗を上昇させ、結果的に発電効率向上を妨げる原因となっていた。
【0010】
本発明の目的は、光電変換層と透明導電膜間、透明導電膜と導電性反射膜間の接触抵抗を低下させ、発電の際の太陽電池における直列抵抗を低下させることにより、太陽電池の発電効率を向上させ得る太陽電池用の複合膜の形成方法及び該方法により形成された複合膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の観点は、図1に示すように、基材11上に表面電極12を介して積層された太陽電池の光電変換層13上に、導電性酸化物微粒子を含む分散液とバインダ成分を含む分散液又は導電性酸化物微粒子とバインダ成分の双方を含む透明導電膜形成用組成物を湿式塗工法により塗布して透明導電塗膜を形成し、透明導電塗膜上に導電性反射膜用組成物を湿式塗工法により塗布して導電性反射塗膜を形成した後、透明導電塗膜及び導電性反射塗膜を有する基材11を焼成することにより、透明導電膜14aと導電性反射膜14bとからなる太陽電池用の複合膜14を形成する方法であって、導電性酸化物微粒子が、非球形の異方性形状を有する粒子、又は複数の粒子が凝集して形成された異方性構造を有する凝集体のいずれかを含むことを特徴とする。
【0012】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、更に異方性形状粒子又は異方性構造凝集体のアスペクト比が3以上であることを特徴とする。
【0013】
本発明の第3の観点は、第1の観点に基づく発明であって、更に異方性形状粒子又は異方性構造凝集体が板状であるとき、板状の粒子又は凝集体の厚さが50〜1500nm、幅厚さ比が2〜100であることを特徴とする。
【0014】
本発明の第4の観点は、第1ないし第3の観点に基づく発明であって、更に湿式塗工法がスプレーコーティング法、ディスペンサコーティング法、スピンコーティング法、ナイフコーティング法、スリットコーティング法、インクジェットコーティング法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法又はダイコーティング法のいずれかであることを特徴とする。
【0015】
本発明の第5の観点は、太陽電池用複合膜を構成する透明導電膜を湿式塗工法により塗布及び焼成することにより形成するための透明導電膜形成用組成物であって、上記組成物が、バインダ成分を含まない導電性酸化物微粒子の分散液と導電性酸化物微粒子を含まないバインダ成分の分散液とから構成されるか、或いは導電性酸化物微粒子とバインダ成分の双方を含む分散液から構成され、導電性酸化物微粒子が、非球形の異方性形状を有する粒子、又は複数の粒子が凝集して形成された異方性構造を有する凝集体のいずれかを含むことを特徴とする。
【0016】
本発明の第6の観点は、第5の観点に基づく発明であって、更に異方性形状粒子又は異方性構造凝集体のアスペクト比が3以上であることを特徴とする。
【0017】
本発明の第7の観点は、第5の観点に基づく発明であって、更に異方性形状粒子又は異方性構造凝集体が板状であるとき、板状の粒子又は凝集体の厚さが50〜1500nm、幅厚さ比が2〜100であることを特徴とする。
【0018】
本発明の第8の観点は、第1ないし第4の観点に基づく方法により形成された透明導電膜と導電性反射膜とからなる太陽電池用の複合膜である。
【0019】
本発明の第9の観点は、第8の観点に基づく太陽電池用の複合膜を備えた太陽電池である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の第1の観点の形成方法では、太陽電池の光電変換層上に形成された透明導電膜と導電性反射膜とからなる太陽電池用の複合膜を形成する方法であって、上記透明導電膜の形成に使用する導電性微粒子分散液或いは透明導電膜形成用組成物の導電性酸化物微粒子として、非球形の異方性形状を有する粒子、又は複数の粒子が凝集して形成された異方性構造を有する凝集体のいずれかを含むものを使用する。この異方性形状粒子や異方性構造凝集体は、従来の球状の導電性酸化物微粒子を用いた場合に比べて粒子間の接触面積を大きくでき、導電性を高めることができる。これにより、発電の際の光電変換層と透明導電膜間、透明導電膜と導電性反射膜間の接触抵抗を低下させ、発電の際の太陽電池における直列抵抗を低下させることにより、太陽電池の発電効率を向上させることができる。また、湿式塗工法により形成するため、真空蒸着法やスパッタ法等のような真空プロセスを必要とせず、より安価に製造することができる。
【0021】
本発明の第5の観点の透明導電膜形成用組成物では、太陽電池用複合膜を構成する透明導電膜を湿式塗工法により塗布及び焼成することにより形成するための透明導電膜形成用組成物であって、上記組成物が、バインダ成分を含まない導電性酸化物微粒子の分散液と導電性酸化物微粒子を含まないバインダ成分の分散液とから構成されるか、或いは導電性酸化物微粒子とバインダ成分の双方を含む分散液から構成され、導電性酸化物微粒子として、非球形の異方性形状を有する粒子、又は複数の粒子が凝集して形成された異方性構造を有する凝集体のいずれかを含むものを使用する。この異方性形状粒子や異方性構造凝集体は、従来の球状の導電性酸化物微粒子を用いた場合に比べて粒子間の接触面積を大きくでき、導電性を高めることができる。これにより、発電の際の光電変換層と透明導電膜間、透明導電膜と導電性反射膜間の接触抵抗を低下させ、発電の際の太陽電池における直列抵抗を低下させることにより、太陽電池の発電効率を向上させることができる。
【0022】
本発明の第8の観点の太陽電池用の複合膜は、上記本発明の方法によって形成されるため、複合膜を構成する透明導電膜の形成に、導電性微粒子分散液の導電性酸化物微粒子として、非球形の異方性形状を有する粒子、又は複数の粒子が凝集して形成された異方性構造を有する凝集体が使用されているので、従来の球状の導電性酸化物微粒子を用いた場合に比べて粒子間の接触面積を大きくでき、結果として、高い導電性を有する透明導電膜とすることができる。これにより、発電の際の光電変換層と透明導電膜間、透明導電膜と導電性反射膜間の接触抵抗を低下させ、発電の際の太陽電池における直列抵抗を低下させ、太陽電池の発電効率をより向上させることができる。
【0023】
本発明の第9の観点の太陽電池は、上記本発明の太陽電池用の複合膜を備えるため、発電の際の太陽電池における直列抵抗が小さく、発電効率が非常に高い。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】一般的な太陽電池の積層構造を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
【0026】
本発明の太陽電池用の複合膜の製造方法は、図1に示すように、基材11上に表面電極12を介して積層された太陽電池の光電変換層13上に、導電性酸化物微粒子を含む分散液とバインダ成分を含む分散液又は導電性酸化物微粒子とバインダ成分の双方を含む透明導電膜形成用組成物を湿式塗工法により塗布して透明導電塗膜を形成し、透明導電塗膜上に導電性反射膜用組成物を湿式塗工法により塗布して導電性反射塗膜を形成した後、透明導電塗膜及び導電性反射塗膜を有する基材11を焼成することにより、透明導電膜14aと導電性反射膜14bとからなる太陽電池用の複合膜14を形成するものである。
【0027】
基材11には、ガラス、セラミックス又は高分子材料からなる透光性基板のいずれか、或いはガラス、セラミックス、高分子材料及びシリコンからなる群より選ばれた2種類以上の透光性積層体を使用することができる。高分子基板としては、ポリイミドやPET(ポリエチレンテレフタレート)等の有機ポリマーにより形成された基板が挙げられる。
【0028】
表面電極12は、基材11側から入射する光を光電変換層13へ透過させるとともに、電極として機能する透明で導電性を有する膜である。この表面電極12としては、例えば、ITO(Indium Tin Oxide:Snドープ酸化インジウム)、ATO(Antimony Tin Oxide:Sbドープ酸化錫)、SnO2(酸化錫)、ZnO(酸化亜鉛)、IZO(Indium Zinc Oxide:Znドープ酸化インジウム)等の膜が挙げられる。また表面電極12は、ZnO,In23,SnO2,CdO,TiO2,CdIn24,Cd2SnO4又はZn2SnO4のいずれかに、Sn,Sb,F又はAlのいずれかをドープした金属酸化物の群から選ばれた1種又は2種以上の金属酸化物により構成してもよい。例えば、AZO(Aluminum Zinc Oxide:Alドープ酸化亜鉛)、TZO(Tin Zinc Oxide:Snドープ酸化亜鉛)が挙げられる。上記表面電極12は、例えば、熱CVD法、スパッタ法、真空蒸着法、湿式塗工法等の従来から知られている方法で形成してよく、特に限定されるものではない。表面電極12を湿式塗工法により形成する場合には、後述の複合膜14を構成する透明導電膜14aを湿式塗工法で形成する場合と同様にして行うことができる。なお、上記ZnOは、高い光透過性、低抵抗性、可塑性を有し、低価格であるため、表面電極12の材料として好適である。
【0029】
上記表面電極12上には、光により発電する光電変換層13を形成される。この光電変換層13は、アモルファスシリコン又は微結晶シリコンのいずれか一方又はその双方により構成される。この実施の形態では、光電変換層13は、アモルファスシリコン半導体により形成された第1光電変換層と、微結晶シリコン半導体により形成された第2光電変換層とを有する。具体的には、第1光電変換層は、基材11側から順にp型a−Si(アモルファスシリコン)、i型a−Si(アモルファスシリコン)及びn型a−Si(アモルファスシリコン)が積層されたp−i−n型のアモルファスシリコン層である。また、第2光電変換層は、第1光電変換層側から順にp型μc−Si(微結晶シリコン)、i型μc−Si(微結晶シリコン)及びn型μc−Si(微結晶シリコン)が積層されたp−i−n型の微結晶シリコン層である。
【0030】
このように光電変換層13にi型a−Si(第1光電変換層)とi型μc−Si(第2光電変換層)とを用いたタンデム型太陽電池は、光吸収波長が異なる2種類の半導体を積層した構造であり、太陽光スペクトルを有効に利用できる。ここで、本明細書において、『微結晶』とは、完全な結晶状態のみならず、部分的に非結晶(アモルファス)状態を含むことを意味するものとする。
【0031】
なお、光電変換層がアモルファスシリコン層又は微結晶シリコン層のいずれか一方からなる単接合型か、或いはアモルファスシリコン層又は微結晶シリコン層のいずれか一方又は双方を複数含む多接合型のいずれの形態もとり得る。また、p型a−SiC:H(アモルファス炭化シリコン)/i型a−Si/n型μc−Siのような構造もとり得る。それらは特に限定されるものではないが、プラズマCVD法のような従来から知られている方法で形成することができる。更に、例えば上記タンデム型構造の例で示すと、第1光電変換層(アモルファスシリコン光電変換ユニット)と第2光電変換層(微結晶シリコン光電変換ユニット)との間に、中間層を形成してもよい。この中間層には、表面電極12や後述する複合膜14を構成する透明導電膜14aに用いられるような材料を用いることが好ましい。
【0032】
光電変換層13上には、光電変換層13上に形成される透明導電膜14aと透明導電膜14a上に形成される導電性反射膜14bからなる複合膜14が湿式塗工法により形成される。複合膜14を構成する透明導電膜14aは、光電変換層13と導電性反射膜14bとの相互拡散を抑制し、かつ導電性反射膜14bの反射効率を高める効果を有する。
【0033】
湿式塗工法によって透明導電膜14aを形成するには、光電変換層上に透明導電性酸化物微粒子及びバインダ成分を含む液で塗布し、これを焼成する方法や、先ず、透明導電性酸化物微粒子を光電変換層上に塗布し、次に、これをバインダ成分で固定した後に焼成する方法などが検討されているが、透明導電性酸化物微粒子として一般的な球状の微粒子を用いる場合には、光電変換層と透明導電膜間にバインダ成分が存在することによって、膜に対して縦方向への導電が阻害されるなどの問題が生じる。このため、光電変換層13と透明導電膜14aとの導電性が悪化すると、光電変換層13と透明導電膜14a間又は光電変換層13と導電性反射膜14b間の接触抵抗が上がり、発電の際の太陽電池における直列抵抗が上がるため、結果的に太陽電池の発電効率の向上が妨げられることになる。
【0034】
本発明では、透明導電膜14aの導電性を高めるため、透明導電膜の形成に用いる導電性酸化物微粒子として、非球形の異方性形状を有する粒子、又は複数の粒子が凝集して形成された異方性構造を有する凝集体のいずれかを含むものを用いる。この異方性形状粒子や異方性構造凝集体は、従来の球状の導電性酸化物微粒子を用いた場合に比べて粒子間の接触面積を大きくでき、形成する透明導電膜の導電性を高めることができる。
【0035】
異方性形状粒子又は異方性構造凝集体は、アスペクト比が3以上の針状や棒状であることが好適である。ここでいうアスペクト比は、最も長径の辺を最も短径の辺で除したときの割合である。アスペクト比が3未満では、従来の球状微粒子を使用して形成した透明導電膜の導電性と大差がなく、その効果が十分に得られないためである。このうち、特に好ましいアスペクト比は3〜30である。また、短径の辺の長さは5〜100nmが好適である。
【0036】
例えば、棒状酸化錫インジウムの製造方法は、先ず、三塩化インジウム水溶液(InCl3水溶液)と四塩化錫水溶液(SnCl4水溶液)とを混合し、この混合液に炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ水溶液を添加して、pHを5.0〜8.5、好ましくはpH6.0〜8.0に調整し、液温5℃以上、好ましくは液温10〜80℃で反応させることで、沈殿物を生成させる。沈殿物はインジウム水酸化物と錫水酸化物との共沈現象によるものである。次いで、生成した沈殿物を固液分離して回収し、100〜200℃で2〜24時間加熱することによって乾燥した後、大気下で250℃以上、好ましくは400〜800℃で1〜6時間加熱することによって焼成することにより、短径5〜50nm及び長径30〜150nmであり、アスペクト比3以上の棒状酸化錫インジウム粉末を製造することができる。なお、粒子形状の評価方法は以下のように行う。先ず、粉末をSEMにて5視野以上を撮影し、撮影した像中の100個以上の粒子について、最長の辺と最短の辺を測長し、平均値を求め、これらをそれぞれ長径及び短径とする。更に、この平均の長径と平均の短径の比を求め、対象とする粉体のアスペクト比とする。
【0037】
また、異方性形状粒子又は異方性構造凝集体が板状であるとき、板状の粒子又は凝集体の厚さが50〜1500nm、幅厚さ比が2〜100が好適である。ここでいう幅厚さ比は、片の最長長さとなる幅を厚みで除したときの割合である。幅厚さ比が2未満では、従来の球状微粒子を使用して形成した透明導電膜の導電性と大差がなく、その効果が十分に得られないためである。また、幅厚さ比が100を越えると粒子の分散状態に不具合を生じるためである。このうち、厚さが70〜200nm、幅厚さ比が5〜30の鱗片形状が好ましい。
【0038】
例えば、鱗片状酸化錫の製造方法は、先ず、塩化錫水溶液をアンモニアで中和して得られたゲルに塩酸を加えて塩酸解捏した錫コロイド溶液を凍結させ、次に、凍結物が解凍しない温度に保持しながら通常の真空乾燥を行って溶媒を除去する凍結乾燥を行って得られた鱗片状の含水酸化錫を350〜900℃で焼成することにより、厚さが1〜100nm、幅厚さ比が2〜100である鱗片状酸化錫粉末を製造することができる。
【0039】
なお、本明細書中、粒子や凝集体の辺、幅、厚さなどの値はSEM像観察(日立製作所製電子顕微鏡S800)により算出又は測定される値である。SEMにて5視野以上を撮影し、撮影した像中の100個以上の粒子について、最長の辺と最短の辺を測長する。この平均値の比を、対象とする粉体のアスペクト比とする。
【0040】
湿式塗工法による透明導電膜14aの形成方法としては、主に2つの形成方法が挙げられる。第1の方法は、光電変換層13上に導電性酸化物微粒子とバインダ成分の双方を含有させて調製した透明導電膜用組成物を湿式塗工法により塗布して透明導電塗膜を形成し、その後焼成する方法である。第2の方法は、光電変換層13上にバインダ成分を含まない導電性酸化物微粒子の分散液を湿式塗工法を用いて塗布することにより、導電性酸化物微粒子の塗膜を形成した後、この導電性酸化物微粒子の塗膜上に導電性酸化物微粒子を含まないバインダ分散液を湿式塗工法を用いて含浸し、その後焼成する方法である。
【0041】
第1の方法における透明導電膜用組成物は、上記導電性酸化物微粒子を含み、この導電性酸化物微粒子が分散媒に分散した組成物である。分散媒としては、水の他、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類やエチレングリコール等のグリコール類、エチルセロソルブ等のグリコールエーテル類等が挙げられる。
【0042】
また、透明導電膜用組成物に含まれる固形分中に占める導電性酸化物微粒子の含有割合は、50〜90質量%の範囲内であることが好ましい。導電性酸化物微粒子の含有割合を上記範囲内としたのは、下限値未満では導電性が低下するため好ましくなく、上限値を越えると密着性が低下するため好ましくないからである。このうち、70〜90質量%の範囲内であることが特に好ましい。
【0043】
透明導電膜用組成物は、加熱により硬化するポリマー型バインダ又はノンポリマー型バインダのいずれか一方又は双方を含む組成物である。ポリマー型バインダとしては、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル、アルキッド樹脂、ポリウレタン、アクリルウレタン、ポリスチレン、ポリアセタール、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、セルロース及びシロキサンポリマ等が挙げられる。またポリマー型バインダには、アルミニウム、シリコン、チタン、ジルコニウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銀、銅、亜鉛、モリブデン又は錫の金属石鹸、金属錯体或いは金属アルコキシドの加水分解体が含まれることが好ましい。この金属アルコキシドの加水分解体にはゾルゲルを含む。ノンポリマー型バインダとしては、金属石鹸、金属錯体、金属アルコキシド、ハロシラン類、2−アルコキシエタノール、β−ジケトン及びアルキルアセテート等が挙げられる。また金属石鹸、金属錯体又は金属アルコキシドに含まれる金属は、アルミニウム、シリコン、チタン、ジルコニウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銀、銅、亜鉛、モリブデン、錫、インジウム又はアンチモンである。これらポリマー型バインダ、ノンポリマー型バインダが、加熱により硬化することで、低温での低いヘイズ率及び体積抵抗率の透明導電膜14aの形成を可能とする。これらバインダの含有割合は、透明導電膜用組成物中の固形分に占める割合として5〜50質量%の範囲内が好ましく、10〜30質量%の範囲内が特に好ましい。
【0044】
透明導電膜用組成物は、使用する他の成分に応じてカップリング剤を加えるのが好ましい。それは導電性酸化物微粒子とバインダの結合性及びこの透明導電膜用組成物により形成される透明導電膜14aと、光電変換層13或いは導電性反射膜14bとの密着性向上のためである。カップリング剤としては、シランカップリング剤、アルミカップリング剤及びチタンカップリング剤等が挙げられる。
【0045】
シランカップリング剤としては、ビニルトリエトキシキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。またアルミカップリング剤としては、次の式(1)で示されるアセトアルコキシ基を含有するアルミカップリング剤が挙げられる。更にチタンカップリング剤としては、次の式(2)〜(4)で示されるジアルキルパイロホスファイト基を有するチタンカップリング剤や、次の式(5)で示されるジアルキルホスファイト基を有するチタンカップリング剤が挙げられる。
【0046】
【化1】

【0047】
【化2】

【0048】
【化3】

【0049】
【化4】

【0050】
【化5】

カップリング剤の含有割合は、透明導電膜用組成物に占める固形分の割合として、0.2〜5質量%の範囲内が好ましく、このうち0.5〜2質量%の範囲内が特に好ましい。
【0051】
また、使用する成分に応じて、低抵抗化剤や水溶性セルロース誘導体等を加えることが好ましい。低抵抗化剤としては、コバルト、鉄、インジウム、ニッケル、鉛、錫、チタン及び亜鉛の鉱酸塩及び有機酸塩からなる群より選ばれた1種又は2種以上が好ましい。例えば、酢酸ニッケルと塩化第二鉄の混合物、ナフテン酸亜鉛、オクチル酸錫と塩化アンチモンの混合物、硝酸インジウムと酢酸鉛の混合物、アセチル酢酸チタンとオクチル酸コバルトの混合物等が挙げられる。これら低抵抗化剤の含有割合は導電性酸化物粉末に対して0.2〜15質量%が好ましい。水溶性セルロース誘導体は、非イオン化活性剤であるが、他の界面活性剤に比べて少量の添加でも導電性酸化物粉末を分散させる能力が極めて高く、また、水溶性セルロース誘導体の添加により、形成される透明導電膜における透明性も向上する。水溶性セルロース誘導体としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等が挙げられる。水溶性セルロース誘導体の添加量は、0.2〜5質量%の範囲内が好ましい。
【0052】
上記透明導電膜用組成物を用いて透明導電膜14aを形成するには、先ず透明導電膜用組成物を、焼成後の透明導電膜14aの厚さが0.01〜0.5μm、好ましくは0.05〜0.1μmの範囲内となるように、光電変換層13上に湿式塗工法により塗布する。ここで、透明導電膜14aの厚さを0.01〜0.5μmの範囲に限定したのは、0.01μm未満又は0.5μmを越えると増反射効果が十分に得られないからである。透明導電膜用組成物を光電変換層13上に塗布した後、20〜100℃の温度で1〜10分間乾燥し、透明導電塗膜を得る。
【0053】
上記湿式塗工法は、スプレーコーティング法、ディスペンサコーティング法、スピンコーティング法、ナイフコーティング法、スリットコーティング法、インクジェットコーティング法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法又はダイコーティング法のいずれかであることが特に好ましいが、これに限られるものではなく、あらゆる方法を利用できる。
【0054】
スプレーコーティング法は分散体を圧縮エアにより霧状にして基材に塗布したり、或いは分散体自体を加圧し霧状にして基材に塗布する方法であり、ディスペンサコーティング法は例えば分散体を注射器に入れこの注射器のピストンを押すことにより注射器先端の微細ノズルから分散体を吐出させて基材に塗布する方法である。スピンコーティング法は分散体を回転している基材上に滴下し、この滴下した分散体をその遠心力により基材周縁に拡げる方法であり、ナイフコーティング法はナイフの先端と所定の隙間をあけた基材を水平方向に移動可能に設け、このナイフより上流側の基材上に分散体を供給して基材を下流側に向って水平移動させる方法である。スリットコーティング法は分散体を狭いスリットから流出させて基材上に塗布する方法であり、インクジェットコーティング法は市販のインクジェットプリンタのインクカートリッジに分散体を充填し、基材上にインクジェット印刷する方法である。スクリーン印刷法は、パターン指示材として紗を用い、その上に作られた版画像を通して分散体を基材に転移させる方法である。オフセット印刷法は、版に付けた分散体を直接基材に付着させず、版から一度ゴムシートに転写させ、ゴムシートから改めて基材に転移させる、インクの撥水性を利用した印刷方法である。ダイコーティング法は、ダイ内に供給された分散体をマニホールドで分配させてスリットより薄膜上に押し出し、走行する基材の表面を塗工する方法である。ダイコーティング法には、スロットコート方式やスライドコート方式、カーテンコート方式がある。
【0055】
このようにして、光電変換層13上に透明導電塗膜を形成した後は、この透明導電塗膜上に、後述する導電性反射膜用組成物を用いて導電性反射塗膜を形成し、これらの塗膜を有する基材11を後述の条件で焼成する。これにより、導電性反射膜14bの形成とともに透明導電膜14aが形成される。
【0056】
第2の方法におけるバインダ成分を含まない導電性酸化物微粒子の分散液は、上記導電性酸化物微粒子が分散媒に分散した分散液である。なお、導電性酸化物微粒子の分散液の調製に使用する分散媒は、上記第1の方法における透明導電膜用組成物で使用した分散媒と同種のものを使用することができる。分散液中の分散媒の含有割合は良好な成膜性を得るために、50〜99.99質量%の範囲内であることが好ましい。分散液中の導電性酸化物微粒子の含有割合は0.01〜50質量%の範囲内であることが好ましい。
【0057】
導電性酸化物微粒子の分散液は、使用する他の成分に応じてカップリング剤を加えるのが好ましい。それは導電性酸化物微粒子とバインダの結合性及びこの導電性酸化物微粒子の分散液とバインダ分散液とで形成される透明導電膜14aと、光電変換層13或いは導電性反射膜14bとの密着性向上のためである。なお、導電性酸化物微粒子の分散液の調製に使用するカップリング剤は、上記第1の方法における透明導電膜用組成物で使用したカップリング剤と同種のものを使用することができる。分散液中のカップリング剤の割合は分散媒と導電性酸化物微粒子の合計100質量%に対し、外割で0.01〜10質量%の範囲内であることが好ましい。
【0058】
また、バインダ成分を含む分散液は、バインダ成分として、加熱により硬化するポリマー型バインダ又はノンポリマー型バインダのいずれか一方又は双方を含む。これらポリマー型バインダ、ノンポリマー型バインダが、加熱により硬化することで、低温での低いヘイズ率及び体積抵抗率の透明導電膜14aの形成を可能とする。バインダ分散液中のこれらバインダの含有割合は、0.01〜50質量%の範囲内が好ましく、0.5〜20質量%の範囲内が特に好ましい。なお、バインダ分散液の調製に使用するポリマー型バインダ及びノンポリマー型バインダは、上記第1の方法における透明導電膜用組成物で使用したポリマー型バインダ及びノンポリマー型バインダと同種のものを使用することができる。
【0059】
バインダ分散液の調製には、上記導電性酸化物微粒子の分散液の調製に用いた分散媒と同種の分散媒を使用するのが好ましい。分散媒の含有割合は均一な膜を形成するために、50〜99.99質量%の範囲内であることが好ましい。
【0060】
また、使用する成分に応じて、低抵抗化剤や水溶性セルロース誘導体等を加えることが好ましい。低抵抗化剤としては、上述した第1の方法で用いるものと同種のものが挙げられる。これら低抵抗化剤の含有割合は0.1〜10質量%が好ましい。また、水溶性セルロース誘導体の添加により、形成される透明導電膜における透明性も向上する。水溶性セルロース誘導体としては、上述した第1の方法で用いるものと同種のものが挙げられる。水溶性セルロース誘導体の添加量は、0.1〜10質量%の範囲内が好ましい。
【0061】
上記導電性酸化物微粒子の分散液及びバインダ分散液を用いて透明導電膜14aを形成する方法には、導電性酸化物微粒子とバインダ成分の双方を含む第1層を下層とし、主にバインダ成分からなる第2層を上層とする形成方法と、導電性酸化物微粒子とバインダ成分の双方を含む第1層を下層とし、バインダ成分を含まない第2層を上層とする方法がある。
【0062】
前者の形成方法で形成された透明導電膜は、導電性酸化物微粒子層の全表面がバインダ層で被覆された状態で形成されるため、経時変化が少ないという利点がある。この形成方法では、先ず、光電変換層13上に、上記導電性酸化物微粒子の分散液を湿式塗工法により塗布し、温度20〜120℃、好ましくは25〜60℃で1〜30分間、好ましくは2〜10分間乾燥させることにより、導電性酸化物微粒子の塗膜を形成する。
【0063】
次に、導電性酸化物微粒子の塗膜の全表面をバインダ分散液で完全に被覆するように塗布する。また、ここでの塗布は、塗布するバインダ分散液中のバインダ成分の質量が、塗布した導電性酸化物微粒子の塗膜中に含まれる微粒子の総質量に対し、0.5〜10の質量比(塗布するバインダ分散液中のバインダ成分の質量/導電性酸化物微粒子の質量)となるように塗布するのが好ましい。下限値未満では十分な密着性が得られ難く、上限値を越えると表面抵抗が増大しやすい。上記導電性酸化物微粒子の分散液及びバインダ分散液の塗布は、焼成後の透明導電膜14aの厚さが0.01〜0.5μm、好ましくは0.03〜0.1μmの厚さとなるように塗布する。バインダ分散液を含浸させた後、温度20〜120℃、好ましくは25〜60℃で1〜30分間、好ましくは2〜10分間乾燥させて、透明導電塗膜を形成する。
【0064】
光電変換層13上に透明導電塗膜を形成した後は、上記第1の方法と同様、透明導電塗膜及び導電性反射塗膜を有する基材11を後述の条件で焼成する。これにより、導電性反射膜14bの形成とともに透明導電膜14aが形成される。
【0065】
一方、後者の形成方法で形成された透明導電膜14aは、発電効率を決める因子の一つであるフィルファクターを増大させるのに効果的である。この形成方法では、先ず、光電変換層13上に、上記導電性酸化物微粒子の分散液を湿式塗工法により塗布して導電性酸化物微粒子の塗膜を形成する。ここでの塗布は焼成後の透明導電膜14aの厚さが0.01〜0.5μm、好ましくは0.03〜0.1μmの厚さとなるように塗布し、温度20〜120℃、好ましくは25〜60℃で1〜30分間、好ましくは2〜10分間乾燥させることにより、導電性酸化物微粒子の塗膜を形成する。
【0066】
次に、導電性酸化物微粒子の塗膜上に、上記バインダ分散液を湿式塗工法により含浸させる。このとき、焼成後に形成される透明導電膜14aのうち、バインダ成分を含まない第2層が第1層の体積の1〜30%露出するように、バインダ分散液を導電性酸化物微粒子の塗膜の所定の深さまで完全に含浸させる。また、ここでの塗布は、塗布するバインダ分散液中のバインダ成分の質量が、塗布した導電性酸化物微粒子の塗膜中に含まれる微粒子の総質量に対し、0.05〜0.5の質量比(塗布するバインダ分散液中のバインダ成分の質量/導電性酸化物微粒子の質量)となるように塗布するのが好ましい。下限値未満では十分な密着性が得られ難く、上限値を越えると表面抵抗が増大し易い。バインダ分散液を含浸させた後、温度20〜120℃、好ましくは25〜60℃で1〜30分間、好ましくは2〜10分間乾燥させて、透明導電塗膜を形成する。
【0067】
光電変換層13上に透明導電塗膜を形成した後は、上記第1の方法と同様、透明導電塗膜及び導電性反射塗膜を有する基材11を後述の条件で焼成する。これにより、導電性反射膜14bの形成とともに透明導電膜14aが形成される。
【0068】
導電性反射膜14bは、吸収しきれず光電変換層13を透過した光を反射させ、再度光電変換層13に戻すことで発電効率を向上させる役割を果たすため、高い拡散反射率が要求される。このため導電性反射膜14bは、反射率の高い金属が好ましい。この金属としては、銀、鉄、クロム、タンタル、モリブデン、ニッケル、アルミニウム、コバルト又はチタン等の金属、又はこれらの金属の合金、或いはニクロム又はステンレス等の合金が例示される。この導電性反射膜14bは、金属ナノ粒子が分散媒に分散した導電性反射膜用組成物を用いた湿式塗工法により形成する。
【0069】
導電性反射膜用組成物は、金属ナノ粒子が分散媒に分散することにより調製された組成物である。上記金属ナノ粒子は、金属元素中の銀の割合が75質量%以上、好ましくは80質量%以上である。金属元素中の銀の割合を75質量%以上の範囲としたのは、75質量%未満ではこの導電性反射膜用組成物を用いて形成された導電性反射膜14bの反射率が低下してしまうからである。また金属ナノ粒子は炭素骨格が炭素数1〜3の有機分子主鎖の保護剤で化学修飾される。金属ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数を1〜3の範囲としたのは、炭素数が4以上であると加熱により保護剤が脱離或いは分解(分離・燃焼)し難く、上記導電性反射膜14b内に有機残渣が多く残り、変質又は劣化して導電性反射膜14bの導電性及び反射率が低下してしまうからである。
【0070】
金属ナノ粒子は一次粒径10〜50nmの範囲内の金属ナノ粒子を数平均で70%以上、好ましくは75%以上含有することが好適である。一次粒径10〜50nmの範囲内の金属ナノ粒子の含有量を、数平均で全ての金属ナノ粒子100%に対して、70質量%未満では、金属ナノ粒子の比表面積が増大して有機物の占める割合が大きくなる。このため、加熱により脱離或いは分解(分離・燃焼)し易い有機分子であっても、この有機分子の占める割合が多いため、導電性反射膜14b内に有機残渣が多く残る。この残渣が変質又は劣化して導電性反射膜14bの導電性及び反射率が低下したり、或いは金属ナノ粒子の粒度分布が広くなり導電性反射膜14bの密度が低下するおそれがある。また、導電性反射膜14bの導電性及び反射率が低下してしまうからである。更に一次粒径と金属ナノ粒子の経時安定性(経年安定性)との相関より、上記金属ナノ粒子の一次粒径を10〜50nmの範囲内とした。
【0071】
この金属ナノ粒子を含む導電性反射膜用組成物中に有機高分子、金属酸化物、金属水酸化物、有機金属化合物及びシリコーンオイルからなる群より選ばれた1種又は2種以上の添加物を更に含むことが好ましい。添加物として導電性反射膜用組成物中に含まれる有機高分子、金属酸化物、金属水酸化物、有機金属化合物又はシリコーンオイルが用いられる。これにより、基材との化学的な結合又はアンカー効果の増大、或いは加熱して焼成する工程における金属ナノ粒子と基材との濡れ性の改善が図られ、導電性を損なうことなく、基材との密着性を向上させることができる。また、この導電性反射膜用組成物を用いて導電性反射膜14bを形成すると、金属ナノ粒子間の焼結による粒成長を調整することができる。この導電性反射膜用組成物を用いた導電性反射膜14bの形成では、成膜時に真空プロセスを必要としないため、プロセスの制約が小さく、また製造設備のランニングコストを大幅に低減することができる。
【0072】
添加物の含有量は金属ナノ粒子を構成する銀ナノ粒子の質量の0.1〜20%、好ましくは0.2〜10%である。添加物の含有量が0.1%未満では平均直径の大きな気孔が出現したり、気孔の密度が高くなるおそれがある。添加物の含有量が20%を越えると形成した導電性反射膜14bの導電性に悪影響を及ぼし、体積抵抗率が2×10-5Ω・cmを越える不具合を生じる。
【0073】
添加物として使用する有機高分子としては、ポリビニルピロリドン(Polyvinylpyrrolidone;以下、PVPという。)、PVPの共重合体及び水溶性セルロースからなる群より選ばれた1種又は2種以上が使用される。具体的には、PVPの共重合体としては、PVP−メタクリレート共重合体、PVP−スチレン共重合体、PVP−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。また水溶性セルロースとしては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース等のセルロースエーテルが挙げられる。
【0074】
添加物として使用する金属酸化物としては、アルミニウム、シリコン、チタン、ジルコニウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銀、銅、亜鉛、モリブデン、錫、インジウム及びアンチモンからなる群より選ばれた少なくとも1種を含む酸化物或いは複合酸化物が好適である。複合酸化物とは、具体的には上述のITO、ATO、IZO、AZO等である。
【0075】
添加物として使用する金属水酸化物としては、アルミニウム、シリコン、チタン、ジルコニウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銀、銅、亜鉛、モリブデン、錫、インジウム及びアンチモンからなる群より選ばれた少なくとも1種を含む水酸化物が好適である。
【0076】
添加物として使用する有機金属化合物としては、シリコン、チタン、ジルコニウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銀、銅、亜鉛、モリブデン及び錫からなる群より選ばれた少なくとも1種を含む金属石鹸、金属錯体或いは金属アルコキシドが好適である。例えば、金属石鹸は、酢酸クロム、ギ酸マンガン、クエン酸鉄、ギ酸コバルト、酢酸ニッケル、クエン酸銀、酢酸銅、クエン酸銅、酢酸錫、酢酸亜鉛、シュウ酸亜鉛、酢酸モリブデン等が挙げられる。また金属錯体はアセチルアセトン亜鉛錯体、アセチルアセトンクロム錯体、アセチルアセトンニッケル錯体等が挙げられる。また金属アルコキシドはチタニウムイソプロポキシド、メチルシリケート、イソアナトプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0077】
添加物として使用するシリコーンオイルとしては、ストレートシリコーンオイル並びに変性シリコーンオイルの双方を用いることができる。変性シリコーンオイルは更にポリシロキサンの側鎖の一部に有機基を導入したもの(側鎖型)、ポリシロキサンの両末端に有機基を導入したもの(両末端型)、ポリシロキサンの両末端のうちのどちらか一方に有機基を導入したもの(片末端型)並びにポリシロキサンの側鎖の一部と両末端に有機基を導入したもの(側鎖両末端型)を用いることができる。変性シリコーンオイルには反応性シリコーンオイルと非反応性シリコーンオイルとがあるが、その双方の種類ともに本発明の添加物として使用することができる。なお、反応性シリコーンオイルとは、アミノ変性、エポキシ変性、カルボキシ変性、カルビノール変性、メルカプト変性、並びに異種官能基変性(エポキシ基、アミノ基、ポリエーテル基)を示し、非反応性シリコーンオイルとは、ポリエーテル変性、メチルスチリル基変性、アルキル変性、高級脂肪酸エステル変性、フッ素変性、並びに親水特殊変性を示す。
【0078】
一方、導電性反射膜用組成物を構成する金属ナノ粒子のうち、銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子は、金、白金、パラジウム、ルテニウム、ニッケル、銅、錫、インジウム、亜鉛、鉄、クロム及びマンガンからなる群より選ばれた1種の粒子又は2種以上の混合組成又は合金組成からなる金属ナノ粒子を更に含有することが好ましい。この銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子は全ての金属ナノ粒子100質量%に対して0.02質量%以上かつ25質量%未満とすることが好ましく、0.03質量%〜20質量%とすることが更に好ましい。これは銀ナノ粒子以外の粒子の含有量が0.02質量%以上かつ25質量%未満の範囲内においては、耐候性試験(温度100℃かつ湿度50%の恒温恒湿槽に1000時間保持する試験)後の導電性反射膜14bの導電性及び反射率が耐候性試験前と比べて悪化しないからである。
【0079】
また導電性反射膜用組成物中の銀ナノ粒子を含む金属ナノ粒子の含有量は、金属ナノ粒子及び分散媒からなる導電性反射膜用組成物100質量%に対して2.5〜95.0質量%含有することが好ましく、3.5〜90質量%含有することが更に好ましい。導電性反射膜用組成物100質量%に対する含有割合が95.0質量%を越えると導電性反射膜用組成物の湿式塗工時にインク或いはペーストとしての必要な流動性を失ってしまうからである。
【0080】
また導電性反射膜14bを形成するための導電性反射膜用組成物を構成する分散媒は、全ての分散媒100質量%に対して、1質量%以上、好ましくは2質量%以上の水と、2質量%以上、好ましくは3質量%以上の水と相溶する溶剤、例えば、アルコール類とを含有することが好適である。例えば、分散媒が水及びアルコール類のみからなる場合、水を2質量%含有するときはアルコール類を98質量%含有し、アルコール類を2質量%含有するときは水を98質量%含有する。更に分散媒、即ち金属ナノ粒子表面に化学修飾している保護分子は、水酸基(−OH)又はカルボニル基(−C=O)のいずれか一方又は双方を含有する。水の含有量を全ての分散媒100質量%に対して1質量%以上の範囲が好適であるとした。これは、水の含有量が2質量%未満では、導電性反射膜用組成物を湿式塗工法により塗工して得られた膜を低温で焼結し難くなるためである。更に、焼成後の導電性反射膜14bの導電性と反射率が低下してしまうからである。なお、水酸基(−OH)が銀ナノ粒子等の金属ナノ粒子を化学修飾する保護剤に含有されると、導電性反射膜用組成物の分散安定性に優れ、塗膜の低温焼結にも効果的な作用がある。また、カルボニル基(−C=O)が銀ナノ粒子等の金属ナノ粒子を化学修飾する保護剤に含有されると、上記と同様に導電性反射膜用組成物の分散安定性に優れ、塗膜の低温焼結にも効果的な作用がある。分散媒に用いる水と相溶する溶剤としては、アルコール類が好ましい。このうち、上記アルコール類としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、グリセロール、イソボニルヘキサノール及びエリトリトールからなる群より選ばれた1種又は2種以上を用いることが特に好ましい。
【0081】
導電性反射膜14bを形成するための金属ナノ粒子を含む導電性反射膜用組成物を製造する方法は以下の通りである。
(a) 銀ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数を3とする場合
先ず硝酸銀を脱イオン水等の水に溶解して金属塩水溶液を調製する。一方、クエン酸ナトリウムを脱イオン水等の水に溶解させて得られた濃度10〜40%のクエン酸ナトリウム水溶液に、窒素ガス等の不活性ガスの気流中で粒状又は粉状の硫酸第一鉄を直接加えて溶解させ、クエン酸イオンと第一鉄イオンを3:2のモル比で含有する還元剤水溶液を調製する。次に上記不活性ガス気流中で上記還元剤水溶液を撹拌しながら、この還元剤水溶液に上記金属塩水溶液を滴下して混合する。ここで、金属塩水溶液の添加量は還元剤水溶液の量の1/10以下になるように、各溶液の濃度を調整することで、室温の金属塩水溶液を滴下しても反応温度が30〜60℃に保持されるようにすることが好ましい。また上記両水溶液の混合比は、還元剤として加えられる第1鉄イオンの当量が、金属イオンの当量の3倍となるように調整する。即ち、(金属塩水溶液中の金属イオンのモル数)×(金属イオンの価数)=3×(還元剤水溶液中の第1鉄イオンのモル数)となるように調整する。金属塩水溶液の滴下が終了した後、混合液の撹拌を更に10〜300分間続けて金属コロイドからなる分散液を調製する。この分散液を室温で放置し、沈降した金属ナノ粒子の凝集物をデカンテーションや遠心分離法等により分離した後、この分離物に脱イオン水等の水を加えて分散体とし、限外ろ過により脱塩処理する。更に引き続いてアルコール類で置換洗浄して、金属(銀)の含有量を2.5〜50質量%にする。その後、遠心分離機を用いこの遠心分離機の遠心力を調整して粗粒子を分離することにより、銀ナノ粒子が一次粒径10〜50nmの範囲内の銀ナノ粒子を数平均で70%以上含有するように調製する。即ち、数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nmの範囲内の銀ナノ粒子の占める割合が70%以上になるように調整する。これにより銀ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数が3である分散体が得られる。
【0082】
続いて、得られた分散体を分散体100質量%に対する最終的な金属含有量(銀含有量)が2.5〜95質量%の範囲内となるように調整する。また、分散媒をアルコール類含有水溶液とする場合には、溶媒の水及びアルコール類をそれぞれ1%以上及び2%以上にそれぞれ調整することが好ましい。また、導電性反射膜用組成物中に添加物を更に含ませる場合には、分散体に有機高分子、金属酸化物、金属水酸化物、有機金属化合物及びシリコーンオイルからなる群より選ばれた1種又は2種以上の添加物を所望の割合で添加することにより行われる。添加物の含有量は、得られる導電性反射膜用組成物100質量%に対して0.1〜20質量%の範囲内となるように調整する。これにより炭素骨格の炭素数が3である有機分子主鎖の保護剤で化学修飾された銀ナノ粒子が分散媒に分散した導電性反射膜用組成物が得られる。
(b) 銀ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数を2とする場合
還元剤水溶液を調製するときに用いたクエン酸ナトリウムをりんご酸ナトリウムに替えること以外は上記(a)と同様にして分散体を調製する。これにより銀ナノ粒子を化学修飾する有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数が2である分散体が得られる。
(c) 銀ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数を1とする場合
還元剤水溶液を調製するときに用いたクエン酸ナトリウムをグリコール酸ナトリウムに替えること以外は上記(a)と同様にして分散体を調製する。これにより銀ナノ粒子を化学修飾する有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数が1である分散体が得られる。
(d) 銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数を3とする場合
銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を構成する金属としては、金、白金、パラジウム、ルテニウム、ニッケル、銅、錫、インジウム、亜鉛、鉄、クロム及びマンガンが挙げられる。金属塩水溶液を調製するときに用いた硝酸銀を、塩化金酸、塩化白金酸、硝酸パラジウム、三塩化ルテニウム、塩化ニッケル、硝酸第一銅、二塩化錫、硝酸インジウム、塩化亜鉛、硫酸鉄、硫酸クロム又は硫酸マンガンに替えること以外は上記(a)と同様にして分散体を調製する。これにより銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数が3である分散体が得られる。
【0083】
なお、銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数を1や2とする場合、金属塩水溶液を調製するときに用いた硝酸銀を、上記種類の金属塩に替えること以外は上記(b)や上記(c)と同様にして分散体を調製する。これにより、銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数が1や2である分散体が得られる。
【0084】
金属ナノ粒子として、銀ナノ粒子とともに、銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を含有させる場合には、例えば、上記(a)の方法で製造した銀ナノ粒子を含む分散体を第1分散体とし、上記(d)の方法で製造した銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を含む分散体を第2分散体とすると、75質量%以上の第1分散体と25質量%未満の第2分散体とを第1及び第2分散体の合計含有量が100質量%となるように混合する。なお、第1分散体は、上記(a)の方法で製造した銀ナノ粒子を含む分散体に留まらず、上記(b)の方法で製造した銀ナノ粒子を含む分散体や上記(c)の方法で製造した銀ナノ粒子を含む分散体を使用しても良い。
【0085】
上記導電性反射膜用組成物を用いて導電性反射膜14bを形成するには、先ず上記導電性反射膜用組成物を、焼成を行う前の上記透明導電塗膜上に湿式塗工法によって塗布し、焼成後の厚さが0.05〜2.0μm、好ましくは0.1〜1.5μmの厚さとなるように導電性反射膜用組成物を塗布する。続いて、これを温度20〜120℃、好ましくは25〜60℃で1〜30分間、好ましくは2〜10分間乾燥し、導電性反射塗膜を形成する。ここで、焼成後の導電性反射膜14bの厚さが0.05〜2.0μmの範囲となるように塗布するのは、0.05μm未満では太陽電池に必要な電極の表面抵抗値が不十分となるからである。なお、湿式塗工法については、上記透明導電膜用組成物等を塗布する際の方法と同様の方法を用いることができる。
【0086】
上述のように透明導電塗膜及び導電性反射塗膜を形成した後は、これらの塗膜を有する基材11を、大気中若しくは窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気中で好ましくは130〜400℃、更に好ましくは150〜350℃の温度で、好ましくは5〜60分間、更に好ましくは15〜40分間保持して焼成を行う。これにより、透明導電膜14a及び導電性反射膜14bからなる複合膜14が形成される。
【0087】
焼成温度を130〜400℃の範囲としたのは、130℃未満では複合膜14を構成する透明導電膜14aにおいて表面抵抗値が高くなりすぎる不具合が生じるからである。導電性反射膜14bにおいて金属ナノ粒子同士の焼結が不十分になるとともに保護剤の加熱により脱離或いは分解(分離・燃焼)し難いためである。即ち、焼成後の導電性反射膜14b内に有機残渣が多く残り、この残渣が変質又は劣化して導電性反射膜14bの導電性及び反射率が低下してしまうからである。また、400℃を越えると低温プロセスという生産上のメリットを生かせない。即ち、製造コストが増大し生産性が低下してしまい、特にアモルファスシリコン、微結晶シリコン、或いはこれらを用いたハイブリッド型シリコン太陽電池における光電変換の光波長域に影響を及ぼしてしまうからである。更に、保持時間を5〜60分間としたのは、5分間未満では、複合膜14を構成する透明導電膜14aにおいて表面抵抗値が高くなりすぎる不具合が生じるからである。また、導電性反射膜14bにおいて金属ナノ粒子同士の焼結が不十分になるとともに保護剤の加熱により脱離或いは分解(分離・燃焼)し難いため、焼成後の導電性反射膜14b内に有機残渣が多く残り、この残渣が変質又は劣化して導電性反射膜14bの導電性及び反射率が低下してしまうからである。
【0088】
以上の工程により、太陽電池の光電変換層13上に、透明導電膜14aと導電性反射膜14bとからなる太陽電池用の複合膜を形成することができる。この方法により形成された複合膜14では、複合膜を構成する透明導電膜の形成に、導電性微粒子分散液の導電性酸化物微粒子として、非球形の異方性形状を有する粒子、又は複数の粒子が凝集して形成された異方性構造を有する凝集体が使用されているので、従来の球状の導電性酸化物微粒子を用いた場合に比べて粒子間の接触面積を大きくでき、結果として、高い導電性を有する透明導電膜とすることができる。このため、光電変換層と透明導電膜間、透明導電膜と導電性反射膜間の接触抵抗が小さく、発電の際の太陽電池における直列抵抗を低下させるため、発電効率を向上させることができる。
【0089】
また、このように湿式塗工法により複合膜14を形成すると、簡易な工程で短時間で済み、また成膜時に真空プロセスを必要としないため、プロセスの制約が小さく、製造設備のランニングコストを大幅に低減することができる。また、この方法により得られる複合膜14では、導電性反射膜14bにおける透明導電膜14aとの接触面又はこの接触面と対向する表面から、平均深さ100nm以下の領域に出現する気孔の平均直径を100nm以下、気孔が位置する平均深さが100nm以下、気孔の数密度が30個/μm2以下とした。これにより、透過率が98%以上の透光性基材を用いた際に、波長500〜1200nmの範囲において、理論反射率の80%以上の高い拡散反射率を達成できる。この波長500〜1200nmの範囲は、多結晶シリコンを光電変換層とした場合の、変換可能な波長をほぼ網羅する。また上記導電性反射膜14bは、導電性反射膜用組成物中に含まれる金属ナノ粒子を構成する金属そのものが有する比抵抗に近い比抵抗が得られる。即ち、太陽電池モジュール用電極として使用可能なバルクと同程度の低い比抵抗を示す。また、この導電性反射膜14bは、スパッタ法等の真空プロセスで成膜した膜に比べ、膜の反射率や密着性、比抵抗等の長期安定性に優れる。その理由としては、大気中で成膜するため、真空中で成膜した膜に比べ、水分の浸入や酸化等による影響を受け難いことが挙げられる。
【0090】
導電性反射膜14b上には、図示しない裏面電極補強膜を介して又は裏面電極補強膜を介することなくバリア膜を形成してもよい。
【実施例】
【0091】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0092】
<実施例1〜10、比較例1,2>
以下の表1,表2に示す組成であって、導電性酸化物微粒子と、分散媒と、バインダと、カップリング剤とを表1,表2に示す割合で、合計量を60gとし、これを100ccのガラス瓶中に入れ、直径0.3mmのジルコニアビーズ(ミクロハイカ、昭和シェル石油社製)100gを用いてペイントシェーカーで6時間分散することにより、透明導電膜用組成物を得た。
【0093】
なお、上記使用した導電性酸化物微粒子のうち、ATO粒子並びにATO凝集体は以下の手法により製造した。先ず、90℃の純水5l中に、塩化第二錫5水塩500g及び三塩化アンチモン10gを3N塩酸水溶液500mlに溶解した溶液と、水酸化ナトリウムとを、系のpHを7〜7.5に維持するように20分間にわたって並行添加して共沈殿物を生成させた。次いで、ここへ塩酸を加えて系のpHを3に調整した後、該沈殿物を濾過し、その後濾液の比抵抗が15000Ωcmになるまで水洗した。次に、得られたケーキを110℃で12時間乾燥した後、この乾燥状物に136.5gのホウ砂を加え、両者を均一に混合粉砕した。そして、この混合物を電気炉で900℃にて1時間焼成した。しかる後、得られた焼成生成物をフッ化水素酸水溶液で浸漬処理して可溶性塩類を除去した後、乾燥、粉砕を行って、目的とする針状導電性アンチモン含有酸化錫微粉末を得た。
【0094】
また、ITO粒子並びにITO凝集体は、三塩化インジウム水溶液(InCl3水溶液)と四塩化錫水溶液(SnCl4水溶液)とを混合し、この混合液に炭酸水素ナトリウムを含有するアルカリ水溶液を添加して、pHを5〜10に調整し、液温20〜60℃で30〜300分間反応させ、生成した沈殿物を固液分離して回収し、乾燥後、大気下で焼成することによって製造した。
【0095】
また、SnO2粒子並びにSnO2凝集体は、塩化錫水溶液をアンモニアで中和して得られたゲルに塩酸を加えて塩酸解捏した錫を酸化物換算で10質量%含有する錫コロイド溶液を5〜120分間で凍結させ、続いて、凍結乾燥を行って得られた鱗片状の含水酸化錫を350〜800℃で1〜10時間焼成することによって製造した。
【0096】
なお、表1又は表2中、第1混合液とは、イソプロパノール、エタノール及びN,N−ジメチルホルムアミドを質量比4:2:1で混合した分散媒である。また、第2混合液とは、エタノールとブタノールを質量比98:2で混合した分散媒である。
【0097】
次に、以下の手順により、導電性反射膜用組成物を調製した。先ず、硝酸銀を脱イオン水に溶解して金属塩水溶液を調製した。また、クエン酸ナトリウムを脱イオン水に溶解して濃度が26質量%のクエン酸ナトリウム水溶液を調製した。このクエン酸ナトリウム水溶液に、35℃に保持された窒素ガス気流中で粒状の硫酸第1鉄を直接加えて溶解させ、クエン酸イオンと第1鉄イオンを3:2のモル比で含有する還元剤水溶液を調製した。
【0098】
次いで、上記窒素ガス気流を35℃に保持した状態で、マグネチックスターラーの攪拌子を還元剤水溶液中に入れ、攪拌子を100rpmの回転速度で回転させて、上記還元剤水溶液を攪拌しながら、この還元剤水溶液に上記金属塩水溶液を滴下して混合した。ここで、還元剤水溶液への金属塩水溶液の添加量は、還元剤水溶液の量の1/10以下になるように、各溶液の濃度を調整することで、室温の金属塩水溶液を滴下しても反応温度が40℃に保持されるようにした。また上記還元剤水溶液と金属塩水溶液との混合比は、金属塩水溶液中の金属イオンの総原子価数に対する、還元剤水溶液のクエン酸イオンと第1鉄イオンのモル比がいずれも3倍モルとなるようにした。還元剤水溶液への金属塩水溶液の滴下が終了した後、混合液の攪拌を更に15分間続けることにより、混合液内部に金属粒子を生じさせ、金属粒子が分散した金属粒子分散液を得た。金属粒子分散液のpHは5.5であり、分散液中の金属粒子の化学量論的生成量は5g/リットルであった。
【0099】
得られた分散液は室温で放置することにより、分散液中の金属粒子を沈降させ、沈降した金属粒子の凝集物をデカンテーションにより分離した。分離した金属凝集物に脱イオン水を加えて分散体とし、限外濾過により脱塩処理した後、更にメタノールで置換洗浄することにより、金属(銀)の含有量を50質量%にした。その後、遠心分離機を用いこの遠心分離機の遠心力を調整して、粒径が100nmを越える比較的大きな銀粒子を分離することにより、一次粒径10〜50nmの範囲内の銀ナノ粒子を数平均で71%含有するように調整した。即ち、数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nmの範囲内の銀ナノ粒子の占める割合が71%になるように調整した。得られた銀ナノ粒子は、炭素骨格が炭素数3の有機分子主鎖の保護剤が化学修飾されていた。
【0100】
次に、得られた金属ナノ粒子10質量部を水、エタノール及びメタノールを含む混合溶液90質量部に添加混合することにより分散させ、更にこの分散液に次の表3,表4に示す添加物を表3,表4に示す割合となるように加えることで、導電性反射膜用組成物をそれぞれ得た。なお、導電性反射膜用組成物を構成する金属ナノ粒子は、75質量%以上の銀ナノ粒子を含有している。なお、金属ナノ粒子として、銀ナノ粒子とともに、銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を含有させる場合は、上記方法により得られた銀ナノ粒子の分散液を第1分散液とし、硝酸銀に代えて、以下の表3,表4に示す銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を形成する種類の金属塩を用いた以外は、上記銀ナノ粒子の製造方法と同様にして、銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子の分散液を調製し、この金属ナノ粒子の分散液を第2分散液とし、添加物を加える前に、以下の表3,表4に示す割合となるように、第1分散液と第2分散液を混合することで、導電性反射膜用組成物を得た。
【0101】
次に、太陽電池の光電変換層上に複合膜を形成し、太陽電池を形成した。具体的には、先ず、図1に示すように、テクスチャー構造を持つ表面電極12(SnO2膜)を持つ基材11上に、プラズマCVD法により、光電変換層13として、厚さ1.7μmのマイクロクリスタルシリコン層を成膜した。次いで、焼成後の厚さが以下の表5に示す膜厚となるように、以下の表3,4に示す様々な成膜方法で上記調製した透明導電膜用組成物を塗布した後、温度25℃で5分間乾燥して透明導電性塗膜を形成した。続いて、上記調製した導電性反射膜用組成物を、形成した透明導電塗膜上に焼成後の厚さが以下の表5に示す膜厚となるように、以下の表3,4に示す様々な成膜方法で塗布した後、温度25℃で5分間乾燥して導電性反射塗膜を形成した。次に、以下の表3,表4に示す熱処理条件で焼成することにより、光電変換13層上に複合膜14を形成し、太陽電池セル基板を得た。なお、表3,表4中、PVPとあるのは、Mwが360,000のポリビニルピロリドンを表し、PETとあるのは、ポリエチレンテレフタレートを表す。
【0102】
【表1】

【0103】
【表2】

【0104】
【表3】

【0105】
【表4】

<比較試験及び評価>
実施例1〜10及び比較例1,2の光電変換層上に複合膜を形成した太陽電池セル基板について、複合膜における透明導電膜及び導電性反射膜の厚さ、導電性反射膜における気孔分布、直列抵抗について評価した。これらの結果を以下の表5に示す。
【0106】
(1) 膜厚:SEM(日立製作所社製の電子顕微鏡:S800)を用いて膜断面からそれぞれ3回、直接計測し、これらの平均値とした。
【0107】
(2) 気孔分布:透明導電膜との接触面側における気孔分布については、透明導電膜から導電性反射膜を引き剥がすことが可能か否かによって、異なる測定方法を用いた。
【0108】
透明導電膜から導電性反射膜を引き剥がすことが可能な例では、先ず、透明導電膜上に密着した導電性反射膜に対し、平滑な面を持つ冶具に接着材を塗布し、これを導電性反射膜上に押し当て、接着材が十分乾燥して高い接着力を有するようになるまで保持した後に、この冶具を引っ張り試験機(島津製作所製:EZ−TEST)を用いて基材に対し垂直に引き上げて、導電性反射膜を透明導電膜より引き剥がした。
【0109】
次に、透明導電膜から引き剥がして冶具上に露出した導電性反射膜の透明導電膜との接触面だった面に対し、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、この面の凹凸像を観察した。観察した凹凸像を解析し、膜表面に現れる空孔の平均直径、平均深さ及び数密度を評価した。平均直径は、5視野以上のAFM像に対し、撮影した像中の直径20nm以上の空孔について、最長の辺と最短の辺を測長したその平均値とみなした。平均深さは、5視野以上のAFM像に対し、撮影した像中の直径20nm以上の空孔について深さを測長し、空孔の最も深い位置を中心とする半径10nmの円内の平均深さとした。
【0110】
また、透明導電膜から導電性反射膜を引き剥がす別の方法としては、導電性反射膜上に両面テープを貼り付け、この一端を引き上げることで、透明導電膜から導電性反射膜を引き剥がす方法も併せて用いた。
【0111】
透明導電膜から導電性反射膜を引き剥がすことができない例では、先ず、透明導電膜上に密着した導電性反射膜に対し、収束イオンビーム(FIB)法で加工して試料断面を露出させた。この試料の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することで、透明導電膜/導電性反射膜の界面の形状を観察した。この界面像について、開口部の直径、平均深さ及び数密度を評価した。開口部の直径は、5視野以上のSEM像に対し、撮影した像中の直径20nm以上の空孔について、最長の辺と最短の辺を測長したその平均値とみなした。平均深さは、5視野以上のSEM像に対し、撮影した像中の直径20nm以上の空孔について深さを測長し、空孔の最も深い位置を中心とする半径10nmの円内の平均深さとした。
【0112】
(3) 直列抵抗:太陽電池セルのライン加工後の基板にリード線を配索し、ソーラシミュレータとデジタルソースメータを用いて、AM1.5、100mW/cm2の光を照射した時のI−V(電流−電圧)曲線を得た。更に、得られたI−V(電流−電圧)曲線における電流値(I)を太陽電池セルの表面積で除することによりJ−V曲線(電流密度−電圧)を求め、開放電圧(電流値が0の時の電圧)近辺の傾きの逆数を直列抵抗とした。
【0113】
【表5】

表5から明らかなように、比較例1,2では、発電の際の直列抵抗が40〜50Ω/cm2と比較的高い値を示したのに対し、本発明によって形成された複合膜を備える実施例1〜10では、いずれも、発電の際の直列抵抗が23Ω/cm2以下という非常に低い値を示した。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明は、発電の際の発電効率を高める太陽電池用の複合膜を製造するための技術として極めて好適である。また、本発明を用いることで、従来、真空成膜法で形成していた透明導電膜及び導電性反射膜からなる複合膜を、塗布、焼成プロセスに置き換えることが可能であり、製造コストの大幅な削減が期待できる。
【符号の説明】
【0115】
11 基材
12 表面電極
13 光電変換層
14 複合膜
14a 透明導電膜
14b 導電性反射膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に表面電極を介して積層された太陽電池の光電変換層上に、導電性酸化物微粒子を含む分散液とバインダ成分を含む分散液又は導電性酸化物微粒子とバインダ成分の双方を含む透明導電膜形成用組成物を湿式塗工法により塗布して透明導電塗膜を形成し、
前記透明導電塗膜上に導電性反射膜用組成物を湿式塗工法により塗布して導電性反射塗膜を形成した後、
前記透明導電塗膜及び導電性反射塗膜を有する基材を焼成することにより、透明導電膜と導電性反射膜とからなる太陽電池用の複合膜を形成する方法であって、
前記導電性酸化物微粒子が、非球形の異方性形状を有する粒子、又は複数の粒子が凝集して形成された異方性構造を有する凝集体のいずれかを含む
ことを特徴とする太陽電池用の複合膜の形成方法。
【請求項2】
前記異方性形状粒子又は異方性構造凝集体のアスペクト比が3以上である請求項1記載の太陽電池用の複合膜の形成方法。
【請求項3】
前記異方性形状粒子又は異方性構造凝集体が板状であるとき、
前記板状の粒子又は凝集体の厚さが50〜1500nm、幅厚さ比が2〜100である請求項1記載の太陽電池用の複合膜の形成方法。
【請求項4】
前記湿式塗工法がスプレーコーティング法、ディスペンサコーティング法、スピンコーティング法、ナイフコーティング法、スリットコーティング法、インクジェットコーティング法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法又はダイコーティング法のいずれかである請求項1ないし3いずれか1項に記載の太陽電池用の複合膜の形成方法。
【請求項5】
前記太陽電池用複合膜を構成する前記透明導電膜を湿式塗工法により塗布及び焼成することにより形成するための透明導電膜形成用組成物であって、
前記組成物が、バインダ成分を含まない導電性酸化物微粒子の分散液と前記導電性酸化物微粒子を含まない前記バインダ成分の分散液とから構成されるか、或いは前記導電性酸化物微粒子と前記バインダ成分の双方を含む分散液から構成され、
前記導電性酸化物微粒子が、非球形の異方性形状を有する粒子、又は複数の粒子が凝集して形成された異方性構造を有する凝集体のいずれかを含む
ことを特徴とする透明導電膜形成用組成物。
【請求項6】
前記異方性形状粒子又は異方性構造凝集体のアスペクト比が3以上である請求項5記載の透明導電膜形成用組成物。
【請求項7】
前記異方性形状粒子又は異方性構造凝集体が板状であるとき、
前記板状の粒子又は凝集体の厚さが50〜1500nm、幅厚さ比が2〜100である請求項5記載の透明導電膜形成用組成物。
【請求項8】
請求項1ないし4いずれか1項に記載の方法により形成された前記透明導電膜と前記導電性反射膜とからなる太陽電池用の複合膜。
【請求項9】
請求項8記載の太陽電池用の複合膜を備えた太陽電池。

【図1】
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【公開番号】特開2012−9840(P2012−9840A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110969(P2011−110969)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(597065282)三菱マテリアル電子化成株式会社 (151)
【上記1名の代理人】
【識別番号】100085372
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 正義
【Fターム(参考)】