説明

太陽電池用シリコンの製造方法及び製造装置

【課題】原材料から製品まで一貫して製造することができ、かつエネルギーの必要量が少なく、COの発生量も少ない太陽電池用シリコンの製造方法及び製造装置を提供する。
【解決手段】不純物を含んだシリコンの酸化物からなる原料から太陽電池用シリコンを製造する太陽電池用シリコンの製造方法であって、前記原料を溶融塩中で電気化学的に還元し酸素を分離する溶融塩電解還元工程と、前記溶融塩電解還元工程によって得られた生成物を溶融塩中で電解精製して電気化学的に塩化物を生成し、不純物の一部を分離しつつシリコンを塩化物として回収する溶融塩電解精製工程と、前記溶融塩電解精製工程によって回収した塩化物中に同伴する不純物を蒸留してシリコンの塩化物と分離する蒸留精製工程と、前記蒸留精製工程によって精製したシリコンの塩化物を化学還元しシリコンを得る還元工程と、を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池用シリコンの製造方法及び製造装置に関し、より具体的には、溶融塩電解法を用いシリコンの酸化物を還元し精製することによって太陽電池用シリコンを製造する太陽電池用シリコンの製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境を考慮し、温暖化ガス発生量の少ない太陽光、太陽熱、風力などの再生可能エネルギーが注目されている。その中でも太陽光発電はメガソーラと呼ばれる大型発電所の建設が計画されており、この発電施設の基盤となる太陽電池の需要は増大することがわかっている。
【0003】
太陽電池は、単結晶又は多結晶シリコンを用いたものが主流である。太陽電池用シリコン(ソーラーグレードシリコン)は99.9999%(6N)以上の純度が必要とされており、その材料として現在は半導体用シリコン(純度99.999999999%(11N))の規格外品が使用されている。しかし、半導体需要の変動や、今後のソーラーグレードシリコンの需要増大を考慮すると、安定的な材料供給に障害が出る可能性が高い。このため6Nのソーラーグレードシリコンを供給できる製造システムの開発が必要となっている。
【0004】
また、現行のシリコン製造方法では、原料生産プロセスで多くのエネルギーを必要とするとともに、排気ガスとしてのCOの発生がある。このため、他の再生可能エネルギーに比較するとEPT(エネルギーペイバックタイム)が長期になる問題があった。
【0005】
従来のシリコン製造方法では、原料の二酸化ケイ素を炭素とともに加熱し粗精製のシリコンを得る。その後、このシリコンをシラン系ガスに転換し蒸留精製によって高純度なシリコンを得る方法が多く用いられている。この方法は、半導体グレードのシリコンを得るための技術であり、11Nの純度を得るための技術で多くのエネルギーと複雑な工程が必要となる。
【0006】
一方、ソーラーグレードシリコンの製造に関しては、需要の増加を見据え多くの簡易的な製造方法の開発が行われているが確立された技術は少ない。また、二酸化ケイ素を電気化学的に還元してソーラーグレードシリコンを製造する方法も提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)。しかし、これらの方法は、原材料から製品まで一貫して電気化学的手法により製造を行うものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−321688号公報
【特許文献2】特開2007−16293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のとおり従来は、エネルギーの必要量が多くCOの発生量の多い半導体用シリコン(11N)の製造方法によって製造されたシリコンの規格外品を、太陽電池用シリコンとして使用することが多く、太陽電池用シリコンを原材料から製品まで一貫して製造することのできる方法がなかった。このため、太陽電池用シリコンを、原材料から製品まで一貫して製造することができ、かつ、エネルギーの必要量が少なく、COの発生量も少ない太陽電池用シリコンの製造方法及び製造装置の開発が求められていた。
【0009】
本発明は、上記従来の事情に対処してなされたもので、原材料から製品まで一貫して製造することができ、かつ、エネルギーの必要量が少なく、COの発生量も少ない太陽電池用シリコンの製造方法及び製造装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の太陽電池用シリコンの製造方法の一態様は、不純物を含んだシリコンの酸化物からなる原料から太陽電池用シリコンを製造する太陽電池用シリコンの製造方法であって、前記原料を溶融塩中で電気化学的に還元し酸素を分離する溶融塩電解還元工程と、前記溶融塩電解還元工程によって得られた生成物を溶融塩中で電解精製して電気化学的に塩化物を生成し、不純物の一部を分離しつつシリコンを塩化物として回収する溶融塩電解精製工程と、前記溶融塩電解精製工程によって回収した塩化物中に同伴する不純物を蒸留してシリコンの塩化物と分離する蒸留精製工程と、前記蒸留精製工程によって精製したシリコンの塩化物を化学還元しシリコンを得る還元工程と、を具備することを特徴とする。
【0011】
本発明の太陽電池用シリコンの製造装置の一態様は、不純物を含んだシリコンの酸化物からなる原料から太陽電池用シリコンを製造する太陽電池用シリコンの製造装置であって、前記原料を溶融塩中で電気化学的に還元し酸素を分離する溶融塩電解還元手段と、前記溶融塩電解還元手段によって得られた生成物を溶融塩中で電解精製して電気化学的に塩化物を生成し、不純物の一部を分離しつつシリコンを塩化物として回収する溶融塩電解精製手段と、前記溶融塩電解精製手段によって回収した塩化物中に同伴する不純物を蒸留してシリコンの塩化物と分離する蒸留精製手段と、前記蒸留精製手段によって精製したシリコンの塩化物を化学還元しシリコンを得る還元手段と、を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、原材料から製品まで一貫して製造することができ、かつ、エネルギーの必要量が少なく、COの発生量も少ない太陽電池用シリコンの製造方法及び製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る太陽電池用シリコンの製造方法及び製造装置の構成を説明するための図。
【図2】図1の溶融塩電解還元工程及び使用する装置の概略構成を示す図。
【図3】図1の溶融塩電解精製工程及び使用する装置の概略構成を示す図。
【図4】図1の蒸留精製工程及び使用する装置の概略構成を示す図。
【図5】図1の還元工程及び使用する装置の概略構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係る太陽電池用シリコンの製造方法及び製造装置の構成を説明するための図である。図1に示すように、本実施形態では、溶融塩電解還元工程1、溶融塩電解精製工程2、蒸留精製工程3、還元工程4および蒸留工程5の5つの工程を組み合わせることによって、原料から太陽電池用シリコンを得る。これによって、原材料の転換反応に起因するCO発生をゼロにすることができ、有害ガスをまったく使用しない太陽電池用シリコン製造プロセスとすることができる。
【0016】
すなわち、本実施形態では、原料を装荷した陰極と対極になる金属製陽極を溶融塩中に浸漬し電極間に電流を流すことで電気化学反応を起こし、原料の二酸化ケイ素を還元してシリコンを得るとともに酸素を陽極でガス化して排気する。次に、還元で得たシリコンを溶融塩中で電解精製することで電気化学的に粗精製のシリコンを塩化物に転換するとともに含まれる不純物の一部を分離する。次に、電解精製で得た塩化物をさらに蒸留し各元素の沸点の差を利用して塩化ケイ素を高純度化し、さらにアルカリ金属又はアルカリ土類金属等を還元剤とした化学還元で還元することで太陽電池用シリコン(ソーラーグレードシリコン)を得る。
【0017】
図2は、図1に示した溶融塩電解還元工程1及び溶融塩電解還元工程1に使用する装置の詳細を模式的に示すものである。同図に示すように、溶融塩電解還元工程1では、電気炉6内に設置した電解槽7に装荷され加熱溶融状態に維持された溶融塩(塩化物)8中に、金属等の導電体製の網状材料で構成され内部に原料9を装荷した電解還元陰極10と、排気管11を有する金属製の電解還元陽極12を設置する。原料9は、シリコンの酸化物(二酸化ケイ素)からなり、不純物を含んでいる珪砂等を用いることができる。
【0018】
この状態で電解還元陰極10と電解還元陽極12との間に電流を流すことで、電解還元陰極10に装荷された原料9から電気化学的に酸素が分離され、電解還元陽極12で酸素ガスが発生し、排気管11を介して系外に排出される。この操作によりシリコンの酸化物からなる原料9は還元され、シリコンを得ることができる。本方法によればCOを発生させずにシリコンの製造が可能となる。
【0019】
還元を行うための電解溶媒として使用する溶融塩としては、例えば、塩化リチウム等のアルカリ金属塩化物の単体又は、塩化カルシウム等のアルカリ土類金属塩化物の単体、又は塩化マグネシウムの単体、若しくはこれらを2種類以上混合したものを使用することができる。
【0020】
図3は、図1に示した溶融塩電解精製工程2及び溶融塩電解精製工程2に使用する装置の詳細を模式的に示すものである。同図に示すように、溶融塩電解還元工程1で還元されたシリコン(不純物を含む)を、溶融塩電解精製陽極13(溶融塩電解還元で原料を装荷した電解還元陰極10を抜き出して使用する。)に装荷し、金属陰極14と共に加熱溶融した溶融塩15中に設置する。そして、電解精製陽極13と金属陰極14との間に電流を流す。
【0021】
この操作により、電解精製陽極13においてSiはイオン化され、溶融塩15中に四塩化ケイ素として分散する。しかし四塩化ケイ素は沸点が57.6℃と低温のため直ちに気化し溶融塩15の外にガスとして放出される。このときに還元されたシリコンに含まれる不純物、Fe、Ti、Al、C等は溶融塩15中又は陽極残渣として残留し分離される。一方、金属陰極14では、シリコンの塩化物生成に伴い発生する溶融塩成分に起因して金属(カルシウム又はリチウム又はマグネシウム等)が析出物16として回収される。
【0022】
図4は、図1に示した電解精製工程2で発生する四塩化ケイ素の蒸気を冷却回収するための蒸留精製工程3及び蒸留精製工程3に使用する装置の詳細を模式的に示すものである。溶融塩電解精製工程2で発生した四塩化ケイ素の蒸気は100℃程度に加熱された導管17を通って凝集部18に移送される。
【0023】
凝集部18内には、夫々が所定の温度に設定された複数段の冷却回収板19が設置されている。図4に示す例では、1段目の冷却回収板19が60℃より高温、2段目の冷却回収板19が50〜60℃、3段目の冷却回収板19が50℃より低温、となっている。そして、ガス中に含まれる四塩化ケイ素20と不純物である塩化ホウ素21、塩化リン22は凝固点の差により、分離凝集して回収されるようになっている。具体的には、1段目の冷却回収板19で塩化リン22が回収され、2段目の冷却回収板19で四塩化ケイ素20が回収され、3段目の冷却回収板19で塩化ホウ素21が回収される。この方法で分離した四塩化ケイ素を、目標純度に達するまで繰り返し蒸留、凝集を繰り返すことで目標純度の四塩化ケイ素を得ることができる。
【0024】
図5は、図1に示した蒸留精製工程3で精製回収した四塩化ケイ素を再びシリコンに還元するための還元工程4及び還元工程4に使用する装置の詳細を模式的に示すものである。還元工程4では、高純度化された四塩化ケイ素23を気化部24に装荷し加熱して気化する。一方、反応容器25には、溶融塩電解精製工程2で金属陰極14に析出した金属析出物(カルシウム又は、リチウム又は、マグネシウム等)16を装荷し、これを加熱溶融して溶融金属29を溶融状態に保持する。
【0025】
この状態で気化した四塩化ケイ素26を、溶融金属29中に導管27を通して放出すると、溶融金属29が例えばMgの場合、溶融金属29により、
SiCl+2Mg→Si+2MgCl
等の化学還元反応が生じ、四塩化ケイ素から高純度のケイ素28を得ることができる。
【0026】
さらに、得られた高純度のケイ素は、図1に示すように、蒸留工程5に送られ、ここで、金属の塩化物及び金属と、高純度のケイ素(シリコン)とが蒸留分離される。得られた高純度のシリコンは、純度評価され、太陽電池用シリコンとしての純度の条件を充足している場合は、製品とされる。一方、太陽電池用シリコンとしての純度の条件を充足していない場合は、電解精製工程2からの精製工程を繰り返して行うことにより、太陽電池用シリコンとしての純度の条件を充足した高純度のシリコンを得ることができる。
【0027】
以上のように上記実施形態の太陽電池用シリコンの製造方法及び製造装置によれば、製造に使用される電力に起因するCO以外のCOが発生しない。また塩化物転換等で用いられる塩素ガスなどの有害ガスの使用も抑制することができることから、より効率的に太陽電池用シリコンの製造が可能となる。
【符号の説明】
【0028】
1……溶融塩電解還元工程、2……溶融塩電解精製工程、3……蒸留精製工程、4……還元工程、5……蒸留工程、6……電気炉、7……電解槽、8……溶融塩、9……原料、10……電解還元陰極、11……排気管、12……電解還元陽極、13……電解精製陽極、14……金属陰極、15……溶融塩、16……析出物、17……導管、18……凝集部、19……冷却回収板、20……四塩化ケイ素、21……塩化リン、22……塩化ホウ素、23……高純度四塩化ケイ素、24……気化部、25……反応容器、26……四塩化ケイ素ガス、27……導管、28……高純度のケイ素、29……溶融金属。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物を含んだシリコンの酸化物からなる原料から太陽電池用シリコンを製造する太陽電池用シリコンの製造方法であって、
前記原料を溶融塩中で電気化学的に還元し酸素を分離する溶融塩電解還元工程と、
前記溶融塩電解還元工程によって得られた生成物を溶融塩中で電解精製して電気化学的に塩化物を生成し、不純物の一部を分離しつつシリコンを塩化物として回収する溶融塩電解精製工程と、
前記溶融塩電解精製工程によって回収した塩化物中に同伴する不純物を蒸留してシリコンの塩化物と分離する蒸留精製工程と、
前記蒸留精製工程によって精製したシリコンの塩化物を化学還元しシリコンを得る還元工程と、
を具備することを特徴とする太陽電池用シリコンの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の太陽電池用シリコンの製造方法であって、
前記溶融塩電解還元工程では、
ガスを排気するための排気管を有する電解還元陽極と、導電体製の網状材料で容器状に構成され内部に前記原料を保持する電解還元陰極との間に電流を流すことによって前記原料から酸素を分離しシリコンを得ることを特徴とする太陽電池用シリコンの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の太陽電池用シリコンの製造方法であって、
前記溶融塩電解還元工程では、
前記溶融塩として、塩化リチウム又は塩化カルシウム又は塩化マグネシウムの単体又はこれらを2種類以上混合したものを使用することを特徴とする太陽電池用シリコンの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか1項記載の太陽電池用シリコンの製造方法であって、
前記溶融塩電解精製工程では、
前記溶融塩電解還元工程で得た還元生成物を陽極として電解精製し陽極溶解することによって、前記溶融塩中から不純物を分離して塩化ケイ素をガスとして回収するとともに、陰極側で前記溶融塩を還元して金属として陰極に析出させる
ことを特徴とする太陽電池用シリコンの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1項記載の太陽電池用シリコンの製造方法であって、
前記蒸留精製工程では、
前記電解精製工程で回収したガスを、異なる温度に設定した複数の凝集板に接触させることによって、塩化ケイ素と沸点の違なる不純物とを分離する
ことを特徴とする太陽電池用シリコンの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1項記載の太陽電池用シリコンの製造方法であって、
前記還元工程では、前記蒸留精製工程で得た高純度に精製された塩化ケイ素を、前記溶融塩電解精製工程で陰極に析出した金属と接触させて化学還元しシリコンを得る
ことを特徴とする太陽電池用シリコンの製造方法。
【請求項7】
不純物を含んだシリコンの酸化物からなる原料から太陽電池用シリコンを製造する太陽電池用シリコンの製造装置であって、
前記原料を溶融塩中で電気化学的に還元し酸素を分離する溶融塩電解還元手段と、
前記溶融塩電解還元手段によって得られた生成物を溶融塩中で電解精製して電気化学的に塩化物を生成し、不純物の一部を分離しつつシリコンを塩化物として回収する溶融塩電解精製手段と、
前記溶融塩電解精製手段によって回収した塩化物中に同伴する不純物を蒸留してシリコンの塩化物と分離する蒸留精製手段と、
前記蒸留精製手段によって精製したシリコンの塩化物を化学還元しシリコンを得る還元手段と、
を具備することを特徴とする太陽電池用シリコンの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−98861(P2011−98861A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254809(P2009−254809)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】