説明

太陽電池用光散乱膜、太陽電池用光学部材および太陽電池

【課題】半導体層に欠陥を生じさせず、高い耐熱性を有し、光閉じ込め効果の高い太陽電池用光散乱膜、太陽電池用光学部材、および変換効率の高い太陽電池を提供することを目的とする。
【解決手段】無機バインダーマトリックス中に、前記無機バインダーマトリックスと屈折率が異なる無機散乱粒子が分散されてなり、かつ平坦面2bを有する太陽電池用光散乱膜2であって、前記太陽電池用光散乱膜2の透過率が70%以上であり、ヘイズ率が20〜90%であることを特徴とする太陽電池用光散乱膜2を用いることにより、上記課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池用光散乱膜、太陽電池用光学部材および太陽電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、石油エネルギーの代替エネルギーとして、およびクリーンエネルギーの必要性の高まりにともない、太陽電池の研究が活発に行われている。
太陽電池には、単結晶シリコン系太陽電池、多結晶シリコン系太陽電池、薄膜シリコン系太陽電池、化合物半導体系太陽電池、色素増感太陽電池などがある。さらに、前記薄膜シリコン系太陽電池には、アモルファスシリコン太陽電池と微結晶シリコン太陽電池がある。さらに、アモルファスシリコン太陽電池と微結晶シリコン太陽電池を積層したタンデム型太陽電池、さらに3つの太陽電池を積層したトリプル型太陽電池などがある。
【0003】
上記の様々な種類の太陽電池では、変換効率(光電変換効率)を向上させることが共通の課題となっている。この課題を解決するために、特許文献1及び2では、光入射面側の透明電極内に光散乱体を埋め込んだ構成が開示されている。しかしながら、前記光散乱体を前記透明電極に埋め込むことにより、前記透明電極の導電率は著しく悪化して、変換効率の高い光電変換素子(太陽電池)を実現することができない。
【0004】
また、これらの中で、薄膜シリコン系太陽電池は、その構成材料が地球上に豊富に存在すること、大面積化が容易なこと、構成材料を薄く成膜することができること、構成材料の消費量が少ないこと、技術的な成熟度が高いこと等の優れた特色を持っている。
【0005】
しかし、薄膜シリコン系太陽電池では、発生させる電流値を高くできないという問題があった。一般に、太陽電池においては光吸収の量に伴い発生する電流値を高くすることができるので、光電変換層において光吸収に寄与するi層の膜厚を厚くすることが必要となる。しかし、薄膜シリコン系太陽電池としてアモルファスシリコン太陽電池を用いた場合には、i層の膜厚を厚くすると光劣化率が大きくなり、長期間の使用を考えるとかえって変換効率が減少することとなり、薄膜シリコン系太陽電池として微結晶シリコン太陽電池を用いた場合には、i層の膜厚を厚くすると生産時間が長くかかり、生産性を落とすこととなった。さらに、アモルファスシリコン太陽電池でも微結晶シリコン太陽電池の場合でも、i層の膜厚を厚くすると内蔵電界がかかりにくくなるので、出力電圧や曲線因子が悪化して変換効率を向上させることができなくなった。
【0006】
そこで、i層の膜厚を厚くすることなく、i層での光の吸収量を増加させる方法が検討された。特許文献3では、i層の光の受光面側に、凹凸表面構造からなる“テクスチャー構造”と呼ばれる構造を透明導電膜によって設け、入射光をこの“テクスチャー構造”によって散乱させることにより、i層を通過する光の行路長を長くして、i層で吸収される光の量を増加させる方法が開示されている。しかしながら、非特許文献1にあるように、この“テクスチャー構造”の凹凸表面構造は、その上に半導体膜を形成した場合、半導体膜に多くの欠陥を誘起して出力電圧や曲線因子を悪化させ、変換効率を悪化させる場合があった。
【0007】
また、特許文献4では、i層の光の受光面側にバインダーに絶縁性微粒子を分散した薄膜を設けた例について開示されている。この薄膜は、絶縁性微粒子の形状に起因する凹凸形状をそのバインダー表面に形成するので、“テクスチャー構造”と同様にその表面で入射光を散乱させ、i層で吸収される光の量を増加させることができる。しかし、この薄膜の上に半導体膜を成膜した場合には、表面の凹凸形状によって半導体膜の一部に欠陥を生じさせ、その欠陥が反射損失を生じさせて変換効率を悪化させた。
そこで、その上に成膜する半導体層に欠陥を生じさせず、光閉じ込め効果の高い光散乱膜が求められている。また、同時に、その光散乱膜を具備した光学部材、およびその光散乱膜あるいは光学部材を具備し、変換効率が高い太陽電池が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−171026号公報
【特許文献2】特開2006−128478号公報
【特許文献3】特許第2862174号公報
【特許文献4】特許第3706835号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Y・ナスノら(Y.Nasuno et al.),ジャパニーズ・ジャーナル・アプライド・フィジックス(Jpn.J.Appl.Phys.Lett.),40,L303(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、半導体層に欠陥を生じさせず、高い耐熱性を有し、光閉じ込め効果の高い太陽電池用光散乱膜、太陽電池用光学部材、および変換効率の高い太陽電池を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。すなわち、
本発明の太陽電池用光散乱膜は、無機バインダーマトリックス中に、前記無機バインダーマトリックスと屈折率が異なる無機散乱粒子が分散されてなり、かつ平坦面を有する光散乱膜であって、前記光散乱膜の透過率が70%以上であり、ヘイズ率が20〜90%であることを特徴とする。
【0012】
本発明の太陽電池用光散乱膜は、前記平坦面の表面粗さが1nm以上100nm以下であることが好ましい。
【0013】
本発明の太陽電池用光散乱膜は、前記無機バインダーマトリックスと前記無機散乱粒子との屈折率差が0.05〜0.6であることが好ましい。
【0014】
本発明の太陽電池用光散乱膜は、前記無機バインダーマトリックスが化学式(1)で示される有機珪素化合物、前記有機珪素化合物の加水分解重合体、化学式(2)で示される金属アルコキシド、前記金属アルコキシドのキレート誘導体または前記金属アルコキシドのキレート誘導体の重合体から選ばれる1種以上の材料からなることが好ましい。
(RSi(OR4−x…(1)
ただし、Rは炭素数1〜6のアルキル基あるいは末端に反応性官能基を有する有機基、Rは炭素数1〜3のアルキル基を示し、xは0≦x≦3を満たす整数である。
M(OR)n…(2)
ただし、MはAl、Ti、Zr、Znのいずれかの金属、Rは炭素数1〜4のアルキル基、nは金属Mの価数である。
【0015】
本発明の太陽電池用光散乱膜は、前記無機バインダーマトリックスが、400℃以上の温度で焼成されてなることが好ましい。
【0016】
本発明の太陽電池用光学部材は、先に記載の太陽電池用光散乱膜と、前記太陽電池用光散乱膜の前記平坦面と反対側の面に配置された透明基体とからなることを特徴とする。
【0017】
本発明の太陽電池は、光電変換層を備え、前記光電変換層の光取り込み側に先に記載の太陽電池用光散乱膜が備えられてなることを特徴とする。
【0018】
本発明の太陽電池は、前記光電変換層が、単結晶シリコン、多結晶シリコン、薄膜シリコン、カルコパイライト系化合物、カドミウムテルル、色素、若しくは有機半導体材料の少なくとも一つを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
上記の構成によれば、半導体層に欠陥を生じさせず、高い耐熱性を有し、光閉じ込め効果の高い太陽電池用光散乱膜、太陽電池用光学部材、および変換効率の高い太陽電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態である太陽電池を示す図である。
【図2】本発明の実施形態である太陽電池を示す図である。
【図3】本発明の実施形態である太陽電池を示す図である。
【図4】本発明の実施形態である太陽電池を示す図である。
【図5】本発明の実施形態である太陽電池を示す図である。
【図6】本発明の実施形態である太陽電池を示す図である。
【図7】本発明の実施形態である太陽電池を示す図である。
【図8】実施例1〜4および比較例1、2の太陽電池の開放電圧、曲線因子、短絡電流および変換効率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態である太陽電池の一例を示す断面模式図である。
基板1上に太陽電池用光散乱膜2、上部電極層3、光電変換層4および下部電極層5がこの順序で積層され、太陽電池100が構成されている。
基板1は、光取り込み面1aを有し、その反対側の面1bに太陽電池用光散乱膜2の一面2aが接合されている。太陽電池用光散乱膜2の他面側は平坦性を有し平坦面2bとされている。このようにして、基板1と太陽電池用光散乱膜2とからなる太陽電池用光学部材10が形成されている。
光電変換層4は、p型薄膜シリコン層41、i型薄膜シリコン層42およびn型薄膜シリコン層43がこの順序で積層されて形成されている。また、下部電極層5は、下部透明導電電極51と金属電極52がこの順序で積層されて形成されている。
このように、基板1、上部電極層3、光電変換層4、下部電極層5がこの順序で積層された構造を「スーパーストレートタイプ」と呼称する。
【0022】
「スーパーストレートタイプ」構造においては、図1において光の入射方向が矢印Aによって示されているように、光は光取り込み面1aから基板1に入射され、基板1内部を通過した後、光取り込み面1aの反対側の面1bに接合された太陽電池用光散乱膜2に入射される構成となっている。さらに、太陽電池用光散乱膜2および上部電極層3を通過して、光電変換層4に入射される。この光電変換層4において光起電力を生じ、光は電力へと変換される構成となっている。
【0023】
基板1は、透明な材料からなることが好ましい。透明であれば、基板1において光を損失させることがなく、光電変換層4での変換効率を向上させることができるためである。透明な材料としては、たとえば、ガラス、石英および透明性ポリイミドなどを挙げることができる。
【0024】
また、基板1は、耐熱性材料からなることが望ましい。上部電極層3や光電変換層4の薄膜シリコン層作成工程において200℃以上の加熱成膜もしくは加熱後処理が必要であるため、耐熱性であることが望ましい。
また、太陽電池を屋外で使用する場合にも、太陽光によって、基板表面が熱せられる場合があるので、耐熱性であることが望ましい。
【0025】
太陽電池用光散乱膜2は、無機バインダーマトリックス中に無機散乱粒子が分散されて構成されている。
無機バインダーマトリックスおよび無機散乱粒子は、透明な材料からなることが好ましい。光を損失なく太陽電池用光散乱膜2から光電変換層4へ透過させることによって光電変換層4での変換効率を向上させることができるためである。
【0026】
無機バインダーマトリックスと無機散乱粒子との屈折率差は0.05〜0.60であることが好ましく、0.10〜0.4がより好ましく、0.15〜0.3が更に好ましい。
無機バインダーマトリックスと無機散乱粒子との屈折率差が0.05未満の場合には、光を効果的に散乱させることができないため好ましくなく、無機バインダーマトリックスと無機散乱粒子との屈折率差が0.60を超える場合には、光を十分に太陽電池用光電変換層4に入射させることができないため好ましくない。
無機バインダーマトリックスと無機散乱粒子との屈折率差は、紫外領域、可視光領域および赤外領域における屈折率差を示すが、少なくとも70%以上の透過率となる波長領域で無機バインダーマトリックスと無機散乱粒子との屈折率差が0.05〜0.60となればよい。
【0027】
また、太陽電池用光散乱膜2は、平坦面2bを有する膜であることが好ましく、その平坦面2bの表面粗さは、1〜100nmであることが好ましく、1〜50nmがより好ましい。ここで、表面粗さとは、いわゆる算術平均粗さRaをいう。
表面粗さRaが100nm以下であれば、その上に成膜する上部電極層3、光電変換層4および下部電極層5を平坦に形成することができるので、光電変換層の薄膜シリコン層に欠陥を誘起することがない。
前記平坦面2bの表面粗さRaが100nmを超える場合には、この平坦面2b上に積層する上部電極層3、光電変換層4および下部電極層5の平坦性を高くすることができず、光電変換層4を構成する薄膜シリコン層41〜43内の欠陥が増加するおそれがあるので好ましくない。
前記平坦面2bの表面粗さRaが1nm未満とすると、太陽電池用光散乱膜の形成が困難となり、生産効率が低下するので好ましくない。
なお、表面粗さRaは、たとえば、接触式膜厚計(株式会社アルバック社製 商品名「Dektak16000」)で測定できる。
【0028】
太陽電池用光散乱膜2の透過率は70%以上であることが好ましく、88%以上がより好ましく、90%以上が更に好ましい。
太陽電池用光散乱膜2の透過率が70%未満の場合には、光を十分に光電変換層4へ入射させることができず、光電変換層4での変換効率を向上させることができないため好ましくない。
太陽電池用光散乱膜2の透過率は、紫外領域、可視光領域および赤外領域の光に対する透過率を示すが、紫外から赤外まですべての領域で、透過率が70%以上である必要はなく、特定の一部の領域、たとえば、可視光領域のみで透過率が70%であってもよい。
なお、太陽電池用光散乱膜2の透過率は、たとえば、分光測定装置(日立製作所製 商品名「U4000」)で空気をレファレンスとして透過率を測定し、積分球で透過光を集める方法で測定できる。
【0029】
また、太陽電池用光散乱膜2は、ヘイズ率が20〜90%の膜であることが好ましく、50〜79%がより好ましい。
太陽電池用光散乱膜2のヘイズ率が20%未満の場合には、光散乱性が低下して、光を効果的に閉じ込めることができないため好ましくなく、太陽電池用光散乱膜2のヘイズ率が90%を超えると、透過率が低下するおそれがあるので好ましくない。
太陽電池用光散乱膜2のヘイズ率は、紫外領域、可視光領域および赤外領域の光に対するヘイズ率を示すが、少なくとも70%以上の透過率となる波長領域でヘイズ率が20〜90%となればよい。
なお、太陽電池用光散乱膜2のヘイズ率は、たとえば、ヘイズメーター(株式会社村上色彩研究所社製 商品名「HM−150」)で測定できる。
【0030】
太陽電池用光散乱膜2の透過率が70%以上であり、かつヘイズ率が20〜90%である場合に、優れた光閉じ込め効果が発現される。光閉じ込め効果とは、太陽電池100の内部に入射された光が太陽電池100の内部から外部に放射されない効果のことをいう。
図1に示すように、太陽電池100は光取り込み面1aを一面側に有し、他面側は金属電極52で構成されている。そのため、太陽電池100において太陽電池用光散乱膜2を設けない場合には、光取り込み面1aから入射された光のうち光電変換層4で電気エネルギーに変換されなかった光は金属電極52の一面52aで反射されて外部に放出される場合がある。しかしながら、光閉じ込め効果を有する太陽電池用光散乱膜2を光電変換層4の光取り込み面1a側に設けることによって、光取り込み面1a側から入射されて金属電極52の一面52aで反射された光の外部への放出を防止することができる。
【0031】
太陽電池用光散乱膜2を構成する無機バインダーマトリックスは、化学式(1)で示される有機珪素化合物、前記有機珪素化合物の加水分解重合体、化学式(2)で示される金属アルコキシド、前記金属アルコキシドのキレート誘導体または前記金属アルコキシドのキレート誘導体の重合体から選ばれる1種以上の材料からなる。
(RSi(OR4−x…(1)
ただし、Rは炭素数1〜6のアルキル基あるいは末端に反応性官能基を有する有機基、Rは炭素数1〜3のアルキル基を示し、xは0≦x≦3を満たす整数である。
M(OR)n…(2)
ただし、MはAl、Ti、Zr、Znのいずれかの金属、Rは炭素数1〜4のアルキル基、nは金属Mの価数である。
なお、価数nは金属MがAlの場合には3であり、金属MがTiの場合には4であり、金属MがZrの場合には4であり、金属MがZnの場合には4である。
【0032】
無機バインダーマトリックスからなる膜は、ゾルゲルバインダーあるいはガラスバインダーなどの無機バインダーを用いて形成するか、有機無機複合バインダーを用いて成膜後、焼成して形成する。特に、有機無機複合バインダーを用いることが好ましい。
なお、耐熱性を持たせるために、残存有機物を少なくする必要があり、400℃以上の焼成処理を行うことが望ましい。
【0033】
ゾルゲルバインダーとしては、たとえば、化学式(2)で示される金属アルコキシドに水と塩酸などの触媒を添加して加水分解重合させたバインダーなどを挙げることができ、ガラスバインダーとしては、珪酸ソーダや珪酸リチウムなどを挙げることができる。
また、有機無機複合バインダーとしては、シランカップリング剤などの化学式(1)で示される有機珪素化合物からなる有機無機複合バインダー、あるいは、化学式(2)で示される金属アルコキシドまたは金属アルコキシドのキレート誘導体のゾルゲル法による有機無機複合バインダーを挙げることができる。
【0034】
化学式(1)で示される有機珪素化合物を用いた場合、シリカ系の無機バインダーとなり、屈折率が1.4〜1.5の範囲となる無機バインダーマトリックスが得られる。
また、Al、Ti、Zr、Znのいずれかの金属を用いた化学式(2)で示される金属アルコキシドや前記金属アルコキシドのキレート誘導体などを用いた場合、屈折率が1.6〜2.0の範囲となる無機バインダーマトリックスが得られる。
用いる無機散乱粒子の屈折率に合わせて、無機バインダーマトリックスの材料を適宜選択することができる。
【0035】
化学式(1)で示される有機珪素化合物のうちx=0の有機珪素化合物としては、たとえば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−iso−プロポキシシラン、テトラ−n−プロポキシシランを挙げることができる。
また、x=1の化合物であって、Rがアルキル基である有機珪素化合物としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシランなどを挙げることができる。
また、x=1の化合物であって、Rが末端に反応性官能基を有する有機基を有する有機珪素化合物としては、前記反応性官能基としてエポキシ基、イソシアネート基、エチレンオキサイド基、アミノ基、アクリル基などを挙げることができ、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランなどを挙げることができる。
【0036】
化学式(1)で示される有機珪素化合物は、あらかじめ水(塩酸などの触媒を含む)を添加し、一部を加水分解反応させ脱水重合させた加水分解重合体として用いることもできる。
また、前記加水分解重合体としては、2〜10量体程度のオリゴマーから分子量の大きなポリマーなどを用いることができ、前記加水分解重合体の分子量に特に制約は無いが、比較的分子量の大きくないものが液として安定であるとともに、低粘度となるので使いやすく好ましい。
さらに、化学式(1)で示される有機珪素化合物は、複数組み合わせて用いることも可能である。たとえば、x=0である有機珪素化合物にx=1である有機珪素化合物を組み合わせることにより、数μmの厚い膜を形成する場合でもクラックを生じさせず成膜することができる。
【0037】
化学式(2)で示される金属アルコキシドとしては、アルミニウムトリイソプロポキシド、チタニウムテトラブトキシド、ジルコニウムテトラブトキシドなどを挙げることができる。
また、前記金属アルコキシドのキレート誘導体としては、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムジイソプロポキシモノメチルアセトアセテート、チタニウムジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)、チタニウムテトラアセチルアセトナート、チタニウムジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムテトラアセチルアセトナート、ジルコニウムトリブトキシモノアセチルアセトナート、ジルコニウムジブトキシビス(アセチルアセトナート)などを挙げることができる。
【0038】
化学式(2)で示される金属アルコキシドおよび前記金属アルコキシドのキレート誘導体を複数組み合わせて用いることも可能である。
また、化学式(2)で示される金属アルコキシドおよび前記金属アルコキシドのキレート誘導体は、あらかじめ加水分解反応、脱水重縮合させた重合体も用いることも可能である。
さらに、化学式(1)および化学式(2)の化合物を混合して無機バインダーマトリックスとして用いることも可能で、用途や粒子屈折率に合わせて適宜材料を選択することができる。
【0039】
また、無機バインダーマトリックスに補助材としてTiOまたはSnOなどの酸化物微粒子を分散させて無機バインダーマトリックスの屈折率を調整することもできる。酸化物微粒子を加えすぎると、太陽電池用光散乱膜2の透過率が低下するので、酸化物微粒子の量は10質量%以下とすることが好ましい。また、酸化物微粒子は、平均粒径が数nmオーダーの微粒子を用いることが好ましい。
【0040】
次に、太陽電池用光散乱膜2を構成する無機散乱粒子の材料としては、無機酸化物が好ましい。たとえば、1.40〜1.50程度の屈折率を有するシリカなどの微粒子フィラーあるいはエアロゲル(多孔質シリカ等)などの中空フィラーなどを用いることができる。
また、1.6以上の高屈折率の無機散乱粒子としては、酸化アルミニウム、酸化スズ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛などの無機酸化物からなる材料を無機バインダーマトリックスの屈折率に合わせて適宜選択することができる。
また、無機散乱粒子は、種類の異なる2種類以上の粒子で構成されていてもよい。たとえば、無機バインダーマトリックス中に、酸化アルミニウム粒子と酸化スズ粒子とが混在されていても良い。
【0041】
無機バインダーマトリックスに対する分散性を向上させるために、無機散乱粒子の表面に対して適当な処理を行ってもよい。
たとえば、シランカップリング剤または界面活性剤などにより表面を被覆する処理を行うことにより、あるいは、アルコール、アミン、または有機酸などを用いて表面を化学処理することにより、無機バインダーマトリックスに対する無機散乱粒子の分散性を向上させることができる。
【0042】
無機バインダーマトリックスと無機散乱粒子の組み合わせは、無機バインダーマトリックスと無機散乱粒子との屈折率差で選択することができ、どちらの屈折率が高いかは関係なく選択することができる。
たとえば、化学式(1)で示される有機珪素化合物を用いたシリカ系の無機バインダーを用いた場合には、無機バインダーマトリックスの屈折率がおおよそ1.4〜1.5の範囲となり、屈折率1.6前後の酸化アルミニウム粒子あるいは屈折率1.9程度の酸化スズ粒子との組み合わせることにより、それらの屈折率差が0.2〜0.5となるので好適である。なお、酸化アルミニウム粒子と酸化スズ粒子の両方の粒子を無機バインダーマトリックスに添加しても良い。
化学式(1)で示される有機珪素化合物からなるシリカ系の無機バインダーと、化学式(2)で示される金属アルコキシドのキレート誘導体とを組み合わせた有機無機複合バインダーを用いた場合には、焼成して形成する無機バインダーマトリックスの屈折率が1.6〜1.8の範囲となるので、無機散乱粒子として屈折率1.4〜1.5程度のシリカ粒子を用いることにより、それらの屈折率差が0.2〜0.3となるので好適である。
なお、上記組み合わせはあくまで例示であり、かかる組み合わせに限定されるものではない。
【0043】
無機散乱粒子の平均粒径は、1.0〜10.0μmであることが好ましく、1.0〜3.0μmがより好ましく、1.2〜1.45μmが更に好ましい。
無機散乱粒子の平均粒径が1.0μm未満の場合には、十分な散乱が得られないため好ましくなく、無機散乱粒子の平均粒径が10.0μmを超える場合には、粒径が大きくすぐに液中で沈下してしまうため好ましくない。
なお、無機散乱粒子の平均粒径は、粒度分布計SD−2000(シスメックス株式会社製)で測定したものであって、無機散乱粒子が球状の場合には、無機散乱粒子の直径の平均値であり、無機散乱粒子が回転楕円体の場合には、短径の平均値である。
【0044】
無機散乱粒子は、平均粒径が異なる2種類の無機散乱粒子を混ぜて用いることがより好ましい。平均粒径が異なる2種類の無機散乱粒子を混ぜて用いることによって、長波長側の光をより散乱させることができ、光電変換層4において発電量を増加させることができるためである。たとえば、平均粒径が1.0〜1.9μmである無機散乱粒子と、平均粒径が1.5〜1.9μmである散乱粒子を混合して用いることが好ましい。
【0045】
太陽電池用光散乱膜2の膜厚は、無機散乱粒子の平均粒径より大きくすることが好ましい。光散乱膜2の膜厚が無機散乱粒子の平均粒径より小さい場合には、光散乱膜2の表面に、無機散乱粒子に起因する凹凸形状が形成され、平坦面2bの表面粗さを100Å以下にすることが困難になるためである。
【0046】
無機バインダーマトリックスに分散させる無機散乱粒子の含有量は40質量%以下が好ましい。
無機バインダーマトリックスに分散させる無機散乱粒子の含有量が40質量%を超える場合には、無機散乱粒子を均一に分散させることができなくなり、太陽電池用光散乱膜2の透過率やヘイズ率など特性が面内でばらつくおそれが発生するため好ましくない。
【0047】
太陽電池用光散乱膜2は、まず、未硬化の無機バインダーマトリックス中に無機散乱粒子を分散させた溶液を調製し、この溶液をスピンコーティング法、ロールコート法、スプレー法、バーコート法、ダイコート法、フローコート法あるいはデッピング法などのウエットプロセスを用いて、基板表面に成膜して形成する。なお、この溶液には、有機溶剤、分散助剤、レベリング剤、及びカップリング剤のような添加剤を含有させることができる。
【0048】
また、太陽電池用光散乱膜2は、耐熱性材料からなることが望ましい。光電変換層4を成膜する工程においては200℃以上の高温成膜が、また上部電極3を成膜する工程においては、熱CVD法などを採った場合には400〜500℃近い温度がかかるため、耐熱性があることが望ましい。
【0049】
また、太陽電池用光散乱膜2は、熱膨張係数がSiに近いことが望ましく、60ppm/℃よりも小であることが望ましい。
さらにまた、太陽電池用光散乱膜2は、紫外線吸収剤を添加するもしくは紫外線吸収機能層を含むことによって、耐紫外線性を具備させることが望ましい。太陽電池を屋外で使用する場合には、太陽光によって基板表面は紫外線に曝されるためである。なお、太陽電池用光散乱膜2の外側に紫外線吸収機能層が設けられていてもよい。例えば太陽電池用光散乱膜2と基板との間に紫外線吸収機能層が設けられていてもよい。
【0050】
上部電極層3の材料としては、透明導電性酸化物が好ましい。
たとえば、酸化インジウム(In)、酸化スズ(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化カドミウム(CdO)、酸化インジウムカドミウム(CdIn)、酸化カドミウムスズ(CdSnO)、酸化亜鉛スズ(ZnSnO)、酸化インジウム亜鉛(In−Zn−O)などを挙げることができる。
また、透明導電性酸化物に不純物を添加(ドープ)してもよい。たとえば、酸化インジウムにスズ(Sn)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)をドープしたり、酸化スズにアンチモン(Sb)、フッ素(F)をドープしたり、酸化亜鉛にインジウム、アルミニウム、ガリウム(Ga)をドープしたりすることができる。
特に、酸化スズにフッ素をドープしたものと、酸化亜鉛にガリウムまたはアルミニウムをドープしたものが好ましい。次の光電変換層4の形成工程において、上部電極層3が水素プラズマに曝されるので、FドープしたSnOあるいはGaドープもしくはAlドープしたZnOなどのような還元雰囲気に強い材料が好ましいためである。
【0051】
上部電極層3の作成方法は、スパッタリング法、蒸着法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、ゾル−ゲル法などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0052】
光電変換層4は、p型薄膜シリコン層41、i型薄膜シリコン層42、n型薄膜シリコン層43を積層して形成する。
光電変換層4を構成する材料は、結晶質および非結晶質シリコンのどちらを用いてもよい。また、結晶質および非結晶質のシリコンカーバイドあるいはシリコンゲルマニウムなどのシリコンを30%以上含有する材料を用いてもよい。
【0053】
光電変換層4の形成には、プラズマCVD法、光CVD法、Hot−wire CVD法などの作成方法を用いる。特に、プラズマCVD法を用いることが好ましい。プラズマCVD装法は、膜質の良い膜を高い生産性で形成することができるためである。
【0054】
p型薄膜シリコン層41は、光電変換層4を形成する過程において、まずp型ドーパントであるボロン、ガリウム、アルミニウムなどをドーピングして形成する。
p型ドーピングに用いる原料は、ボロン源はジボラン、B(CH、BFなどを挙げることができ、ガリウム源はトリメチルガリウム、トリエチルガリウムなどを挙げることができ、アルミニウム源は、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムなどを挙げることができるが、これらの材料に限定されるものではない。
【0055】
また、p型薄膜シリコン層41の形成の際に、炭素をドーピングすることにより、p型薄膜シリコン層のバンドギャップを大きくして、より多くの光をi層内に導くことができ、多くのキャリアを生成できる構成とすることができる。この場合の原料の炭素源はメタンを挙げることができる。
【0056】
i型薄膜シリコン層42は、p型薄膜シリコン層41を形成した後、ドーパントをドーピングせずに形成する。
n型薄膜シリコン層43は、i型薄膜シリコン層42を形成した後、n型ドーパントであるリンなどをドーピングして形成する。
【0057】
下部電極層5は、下部透明導電電極51と金属電極52を順次積層して形成する。
下部電極層5の作成方法は、スパッタリング法、蒸着法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、ゾル−ゲル法などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
下部透明導電電極51の材料は、導電性があり、透明な酸化物からなる材料であればよい。
たとえば、酸化インジウム(In)、酸化スズ(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化カドミウム(CdO)、酸化インジウムカドミウム(CdIn)、酸化カドミウムスズ(CdSnO)、酸化亜鉛スズ(ZnSnO)、酸化インジウム亜鉛(In−Zn−O)などを挙げることができる。
また、上記の酸化物に不純物を添加(ドープ)してもよい。たとえば、酸化インジウムにスズ(Sn)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)をドープしたり、酸化スズにアンチモン(Sb)、フッ素(F)をドープしたり、酸化亜鉛にインジウム、アルミニウム、ガリウム(Ga)をドープしたりすることができる。
【0059】
金属電極52の材料は、Al、Au、Ag、Cu、Pt、Crなどの金属が好ましく、Alが特に好ましい。Alは、鏡面反射性を有しており、光を素子内に閉じ込めることができるとともに、光電変換層4で生じたキャリアを効率よく取り出すことができるためである。また、前記金属を含有する合金であってもよい。
【0060】
(実施形態2)
図2は、本発明の実施形態である太陽電池の別の一例を示す断面模式図である。
基板1上に太陽電池用光散乱膜2、上部電極層3、光電変換層4、下部光電変換層6、下部電極層5が順次積層されて、太陽電池101が構成されている。
基板1は、光取り込み面1aを有し、その反対側の面1bに太陽電池用光散乱膜2の一面2aが接合されている。太陽電池用光散乱膜2の他面側は平坦性を有し平坦面2bとされている。このようにして、基板1と太陽電池用光散乱膜2とからなる光学部材10が形成されている。
光電変換層4は、p型薄膜シリコン層41、i型薄膜シリコン層42、n型薄膜シリコン層43がこの順序で積層されて形成されている。
下部光電変換層6は、p型薄膜シリコン層61、i型薄膜シリコン層62、n型薄膜シリコン層63がこの順序で積層されて形成されている。また、下部電極層5は、下部透明導電電極51と金属電極52がこの順序で積層されて形成されている。
このように、基板1、上部電極層3、光電変換層4、下部光電変換層6、下部電極層5がこの順序で積層された構造を「タンデム型」と呼称する。
なお、実施形態1と同一の部材については、同一の符号を付して示してある。
【0061】
「タンデム型」構造においては、図2において光の入射方向が矢印Aによって示されているように、光は光取り込み面1aから基板1に入射され、基板1内部を通過した後、光取り込み面1aの反対側の面1bに接合された太陽電池用光散乱膜2に入射される構成となっている。さらに、太陽電池用光散乱膜2および上部電極層3を通過して、光電変換層4および下部光電変換層6に入射される。この光電変換層4および下部光電変換層6において光起電力を生じ、光は電力へと変換される構成となっている。
【0062】
図2に示すように、「タンデム型」は光電変換層4と下部光電変換層6の2つの光電変換層を直列につなげた構造である。2つの光電変換層を有するため、1つの光電変換層しか有しない太陽電池よりも、光起電力の大きさを上げることができる。
なお、「タンデム型」では、バンドギャップの大きい太陽電池素子が光入射側に設置された方が、有効に光を利用できるため、光電変換層4がアモルファスシリコン太陽電池、アモルファスシリコンカーバイド太陽電池または微結晶シリコンカーバイド太陽電池、下部光電変換層6が微結晶シリコン太陽電池またはシリコンゲルマニウム太陽電池などであることが好ましい。また更にもう一層、光電変換層4を設けて光電変換層4を3つ直列につなげる「トリプル型」太陽電池もまた好適に用いられる。この場合は、基板に近い光電変換層側から順にバンドギャップの高いi層と用いることが好ましい。
【0063】
(実施形態3)
図3は、本発明の実施形態である太陽電池のさらに別の一例を示す断面模式図である。
基板11上に下部電極層5、光電変換層4、上部電極層3、太陽電池用光散乱膜2が順次積層されて、太陽電池103が構成されている。
基板11上に下部電極層5が設けられている。下部電極層5は、金属電極52、下部透明導電電極51がこの順序で積層されて形成されている。下部透明導電電極51の上には、光電変換層4が設けられている。
光電変換層4は、n型薄膜シリコン層43、i型薄膜シリコン層42、p型薄膜シリコン層41がこの順序で積層されて形成されている。光電変換層4の上には、上部電極層3が設けられている。
さらに、上部電極層3の一面は、太陽電池用光散乱膜2の平坦面2bに接合されている。そのため、上部電極層3、光電変換層4および下部電極層5は平坦性を確保できる構成となっている。太陽電池用光散乱膜2の平坦面2bの他面側には、光取り込み面2aが設けられ、光を太陽電池103の内部に取り込むことができる構成となっている。
また、このように、上部電極層3、光電変換層4、下部電極層5、基板11がこの順序で積層された構造を「サブストレートタイプ」と呼称する。
なお、実施形態1と同一の部材については、同一の符号をつけて示してある。
【0064】
「サブストレートタイプ」構造においては、図3において光の入射方向が矢印Aによって示されているように、光は光取り込み面2aから太陽電池用光散乱膜2に入射され、太陽電池用光散乱膜2内部を通過した後、光取り込み面2aの反対側の平坦面2bに接合された上部電極層3に入射される構成となっている。さらに、上部電極層3を通過して、光電変換層4に入射される。この光電変換層4において光起電力を生じ、光は電力へと変換される構成となっている。
【0065】
基板11は、不透明な材料であってもよい。「サブストレートタイプ」構造においては、基板11側の反対側の面、すなわち太陽電池用光散乱膜2の光取り込み面2aから光が入射され、光電変換層4において光電変換され光起電力を生ずるためである。たとえば、ガラス、石英および透明性ポリイミドなどの透明な材料を用いることもできるが、不透明性ポリイミド、ステンレス薄板などを用いることもできる。
【0066】
(実施形態4)
図4は、本発明の実施形態である太陽電池のさらに別の一例を示す断面模式図である。なお、実施形態1と同一の部材については、同一の符号をつけて示してある。
図4に示すように、太陽電池104は、基板11上に、下部電極層9、光電変換層8及び太陽電池用光散乱膜(光閉じ込め層)2が順次積層されて構成されている。また、光電変換層8は、下部電極層9側から光吸収層81、高抵抗バッファー層7及び上部電極層3がこの順序で積層されている。
上部電極層3の高抵抗バッファー層7と反対側の面(一方の主面)は、太陽電池用光散乱膜2の平坦面2bに接合されている。また、太陽電池用光散乱膜2の平坦面2bと反対側の面は、光取り込み面2aとされ、光を太陽電池104内部に取り込むことができる構成となっている。
【0067】
高抵抗バッファー層7の材料は、たとえば硫化カドミニウム(CdS)、酸化亜鉛(ZnO)、硫化亜鉛(ZnS)、水酸化亜鉛(Zn(OH))及び硫化インジウム(InS)などが好ましい。また、これらの材料を複数組み合わせて用いてもよい。
光電変換層8は、銅(Cu)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)及びセレン(Se)などの一部または全てから成るカルコパイライト系化合物で形成されている。
下部電極層9は、たとえばモリブデン(Mo)が好ましいが、これに限るものではない。
【0068】
(実施形態5)
図5は、本発明の実施形態である太陽電池のさらに別の一例を示す断面模式図である。なお、実施形態1と同一の部材については、同一の符号をつけて示してある。
図5に示すように、太陽電池105は、光学部材10、上部電極層3、光電変換層12及び下部電極層13が順次積層されている。光学部材10は、基板1及び太陽電池用光散乱膜2が積層されて形成されている。太陽電池用光散乱膜2の基板1と反対側の面2bには、上部電極層3が接合されている。
【0069】
光電変換層12は、上部電極層3側から硫化カドミウム(CdS)層12a、カドミウムテルル(CdTe)層12bがこの順序で積層されて構成されている。
下部電極層13は、たとえばカーボン(C)が好ましいが、これに限るものではない。
基板1の光取り込み面1aから太陽電池105に入射された光は、光取り込み面2aから太陽電池用光散乱膜2に入射され、光取り込み面2aと反対側の面2bから上部電極層3に入射される。その後、光電変換層12に入射される。
【0070】
(実施形態6)
図6は、本発明の実施形態である太陽電池のさらに別の一例を示す断面模式図である。なお、実施形態1と同一の部材については、同一の符号をつけて示してある。
図6に示すように、太陽電池106は、光学部材10、上部電極層3、光電変換層14及び下部電極層5’が順次積層されている。光学部材10は、基板1及び太陽電池用光散乱膜2が積層されて形成されている。太陽電池用光散乱膜2の光取り込み面2aには基盤1が接合され、太陽電池用光散乱膜2の基板1と反対側の面2bには上部電極層3が接合されている。また、下部電極層5’は、光電変換層14側から、金属電極52と下部透明導電電極51とが順次積層されて形成されている。
【0071】
光電変換層14は、上部電極層3側から電極層14a、色素層14b及び電解質層14cがこの順序で積層されて構成されている。
なお、色素層14bは、電極層14aに担持されていればよく、光電変換層14は、図6に示すように、電極層14a、色素層14b及び電解質層14cを分離させた構成に限られるものではない。たとえば、光電変換層14は、分子表面上に色素層14bが付着されてなる電極層14aと電解質層14cとの2層構成としてもよく、電極層14aおよび色素層14bにそれぞれ電解質層14cが混合されている2層構成としてもよい。
【0072】
基板11は、ポリエチレンテレフタラート(Polyethylene terephthalate:PET)などの透明樹脂フィルムを用いることができる。
電極層14aは、多孔質の半導体からなることが望ましく、前記多孔質の半導体としては、たとえば、酸化チタン(TiO)を挙げることができる。
色素層14bは、色素を含む層であり、光吸収材料からなることが望ましく、前記光吸収材料としては、たとえば、ルテニウム(Ru)錯体色素を挙げることができる。
電解質層14cは、電解質からなることが望ましく、前記電解質としては、たとえば、ヨウ素溶液を挙げることができる。また、電解質層14cの状態は固体、液体、気体のいずれの状態でもよく、それらの中間の状態であってもよい。
【0073】
(実施形態7)
図7は、本発明の実施形態である太陽電池のさらに別の一例を示す断面模式図である。なお、実施形態1と同一の部材については、同一の符号をつけて示してある。
図7に示すように、太陽電池107は、光学部材10、上部電極層3、光電変換層15及び下部電極層16が順次積層されている。光学部材10は、基板1及び太陽電池用光散乱膜2が積層されて形成されている。太陽電池用光散乱膜2の光取り込み面2aには基板1が接合され、太陽電池用光散乱膜2の基板1と反対側の面2bには上部電極層3が接合されている。下部電極層16としては、たとえば、アルミニウム(Al)を用いることが好ましいが、これに限るものではない。
【0074】
光電変換層15は、上部電極層3側から有機半導体p層15a、有機半導体i層15b、有機半導体n層15cがこの順序で積層されて構成されている。
なお、光電変換層15は、有機半導体p層15aおよび有機半導体n層15cの2層構成や、有機半導体p層15a、有機半導体i層15b、有機半導体n層15cの群から選択される2層または3層の構成要素を混合した1層構成としても構わない。
【0075】
光電変換層15は、半導体の性質を示す有機半導体材料からなることが望ましい。前記有機半導体材料としては、たとえば、銅フタロシニアン(CuPc)、ジンクフタロシアニン(ZnPc)、ポリ3ヘキシルチオフェン(P3HT)、フラーレン誘導体などが挙げられる。
以下、本発明の効果について説明する。
【0076】
本発明の実施形態である太陽電池用光散乱膜2は、無機バインダーマトリックス中に、前記無機バインダーマトリックスと屈折率が異なる無機散乱粒子が分散されているので、太陽電池において効果的に光を散乱させることができる。
【0077】
本発明の実施形態である太陽電池用光散乱膜2は、平坦面2bを有し、その平坦面2bの表面粗さが1nm以上100nm以下とされているので、その上に成膜する半導体層に欠陥を生じさせず、半導体膜に多くの欠陥を誘起して出力電圧や曲線因子を悪化させ、変換効率を悪化させることがない。
【0078】
本発明の実施形態である太陽電池用光散乱膜2は、透過率が70%以上であり、ヘイズ率が20〜90%であるので、光閉じ込め効果を向上させることができ、太陽電池100、101、103の変換効率を向上させることができる。
【0079】
本発明の実施形態である太陽電池用光散乱膜2は、無機バインダーマトリックスと無機散乱粒子との屈折率差が0.05〜0.60であるので、光閉じ込め効果を向上させることができ、太陽電池100、101、103の変換効率を向上させることができる。
【0080】
本発明の実施形態である太陽電池用光散乱膜2は、無機バインダーマトリックスが化学式(1)で示される有機珪素化合物、前記有機珪素化合物の加水分解重合体、化学式(2)で示される金属アルコキシド、前記金属アルコキシドのキレート誘導体または前記金属アルコキシドのキレート誘導体の重合体から選ばれる1種以上の材料からなる構成なので、成膜により容易に平坦面2bを形成することができ、平坦面2b上に形成する半導体層に欠陥を生じさせないようにすることができる。また、無機バインダーマトリックスと無機散乱粒子との屈折率差を0.05〜0.60とすることができ、光閉じ込め効果を向上させることができる。
【0081】
本発明の実施形態である太陽電池用光散乱膜2は、無機バインダーマトリックスが、400℃以上の温度で焼成されてなる構成なので、残存有機物を少なくして、耐熱性を持たせることができる。
【0082】
本発明の実施形態である太陽電池用光学部材10は、先に記載の太陽電池用光散乱膜2と、太陽電池用光散乱膜2の平坦面2bと反対側の面2aに配置された透明基体1とからなるので、太陽電池用光散乱膜2の上に成膜する半導体層に欠陥を生じさせることがないとともに、光閉じ込め効果を向上させる効果も有するので、太陽電池100、101の変換効率を向上させることができる。
【0083】
本発明の実施形態である太陽電池100、101、103は、光電変換層4を備えてなる太陽電池であって、光電変換層4の少なくとも光取り込み側に先に記載の太陽電池用光散乱膜2が備えられているので、欠陥のない半導体膜を具備した太陽電池とすることができるとともに、光閉じ込め効果が高められ、変換効率の高い太陽電池とすることができる。
【0084】
本発明の実施形態である太陽電池100、101、103は、光電変換層4が、単結晶シリコン、多結晶シリコン、薄膜シリコンの少なくとも一つからなる構成なので、光閉じ込め効果が高められ、変換効率の高い太陽電池とすることができる。
【0085】
本発明の実施形態である太陽電池104は、光電変換層8が、カルコパイライト系化合物からなる構成なので、光閉じ込め効果が高められ、変換効率の高い太陽電池とすることができる。
【0086】
本発明の実施形態である太陽電池105は、光電変換層12が、カドミウムテルルからなる構成なので、光閉じ込め効果が高められ、変換効率の高い太陽電池とすることができる。
【0087】
本発明の実施形態である太陽電池106は、光電変換層14が、色素を有する構成なので、光閉じ込め効果が高められ、変換効率の高い太陽電池とすることができる。
【0088】
本発明の実施形態である太陽電池107は、光電変換層15が、有機半導体材料からなる構成なので、光閉じ込め効果が高められ、変換効率の高い太陽電池とすることができる。
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。しかし、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【実施例】
【0089】
(実施例1)
まず、テトラエトキシシラン41.0質量部と3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン11.6質量部を(mol比で80/20)混合した後、イソプロピルアルコール14.4質量部と、0.1N塩酸33.2質量部を添加して、1時間加水分解反応させ、固形分20wt%のシリカ系有機無機複合バインダーを得た。
このシリカ系有機無機複合バインダー100質量部に平均粒径1μmの酸化アルミナ粒子(屈折率1.62)6質量部を混合して、太陽電池用光散乱膜を形成する塗布液を調整した。
【0090】
次に、この塗布液をコーニング1737ガラス基板上にバーコーターを用い塗布後、乾燥機で120℃5分乾燥し、さらに500℃で30分間焼成することにより、コーニング1737ガラス基板上に厚さ2.0μmの太陽電池用光散乱膜を形成し、ガラス基板と太陽電池用光散乱膜からなる太陽電池用光学部材を作製した。
太陽電池用光散乱膜の表面はきわめて平坦であり、表面粗さRaは15nmであった。また、太陽電池用光散乱膜のヘイズ率は63%、透過率は80%であった。
酸化アルミナ粒子未添加の塗布液で同様の操作を行い、シリカ系有機無機複合バインダーのみの被膜を作製し、屈折率測定したところ、1.40であり、シリカ系有機無機複合バインダーと酸化アルミナ粒子との屈折率差は0.22であった。
【0091】
次に、DCマグネトロンスパッタ装置を用いて、ZnO:Ga(Ga:5wt%)セラミックターゲットをスパッタし、太陽電池用光散乱膜上にガリウムドープ酸化亜鉛透明導電膜を成膜温度250℃で200nm成膜し、上部電極層を形成した。
次に、プラズマCVD装置を用いて、ガリウムドープ酸化亜鉛透明導電膜上に、膜厚20nmのp型アモルファスシリコンカーバイド層、膜厚300nmのi型アモルファスシリコン層、膜厚25nmのn型アモルファスシリコン層をこの順序で成膜し、光電変換層を形成した。各々の成膜温度はp型アモルファスシリコンカーバイド層が200℃、i型アモルファスシリコン層が280℃、n型アモルファスシリコン層が280℃であった。
引き続き、DCマグネトロンスパッタ装置を用いて、ZnO:Ga(Ga:5wt%)セラミックターゲットをスパッタし、膜厚15nmのガリウムドープ酸化亜鉛透明導電膜を成膜し、下部透明電極を形成した。
最後に、真空蒸着装置により、下部透明電極の上に膜厚100nmのアルミニウムからなる金属電極を成膜して、下部透明電極と金属電極とからなる下部電極を形成して、「スーパーストレートタイプ」の太陽電池サンプル(実施例1サンプル)を作製した。
【0092】
(実施例2)
まず、実施例1で用いたシリカ系有機無機複合バインダー100質量部に平均粒径1μmの酸化スズ粒子(屈折率1.86)6質量部を混合して、太陽電池用光散乱膜を形成する塗布液を調整した。
【0093】
次に、実施例1と同様の方法で、厚さ2.0μmの太陽電池用光散乱膜を形成し、ガラス基板と太陽電池用光散乱膜とからなる太陽電池用光学部材を作製した。
太陽電池用光散乱膜の表面はきわめて平坦であり、表面粗さRaは20nmであった。また、この太陽電池用光散乱膜のヘイズ率は82.0%、透過率は78%であった。実施例1の結果から、シリカ系有機無機複合バインダーの屈折率は1.40であるので、シリカ系有機無機複合バインダーと酸化スズ粒子との屈折率差は0.46であった。
【0094】
さらに、実施例1と同様の方法で、上部電極層、光電変換層、下部透明電極と金属電極とからなる下部電極を順次積層し、「スーパーストレートタイプ」の太陽電池サンプル(実施例2サンプル)を作製した。
【0095】
(実施例3)
まず、実施例1、2で用いたシリカ系有機無機複合バインダー50質量部にチタンキレートとしてチタニウムジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)50質量部を混合し、さらに平均粒径1.5μmの酸化ケイ素粒子(屈折率1.44)6質量部を混合して、太陽電池用光散乱膜を形成する塗布液を調整した。
【0096】
次に、実施例1と同様の方法で、厚さ2.5μmの太陽電池用光散乱膜を形成し、ガラス基板と太陽電池用光散乱膜とからなる太陽電池用光学部材を作製した。
太陽電池用光散乱膜の表面はきわめて平坦であり、表面粗さRaは37nmであった。また、この太陽電池用光散乱膜のヘイズ率は50.5%、透過率は85%であった。
酸化ケイ素粒子未添加の塗布液で同様の操作を行い、実施例3のシリカ系有機無機複合バインダーのみの被膜を作製し、屈折率測定したところ、1.65であり、シリカ系有機無機複合バインダーと酸化ケイ素粒子との屈折率差は0.21であった。
【0097】
さらに、実施例1と同様の方法で、上部電極層、光電変換層、下部透明電極と金属電極とからなる下部電極を順次積層し、「スーパーストレートタイプ」の太陽電池サンプル(実施例3サンプル)を作製した。
【0098】
(実施例4)
コーニング1737ガラス基板上に真空蒸着法でアルミニウムからなる金属電極100nm成膜し、引き続きDCマグネトロンスパッタ装置を用いてZnO:Ga(Ga:5wt%)セラミックターゲットをスパッタし、GaドープZnO膜を15nm形成した。引き続きプラズマCVD装置を用いて膜厚25nmのn型アモルファスシリコン層、膜厚300nmのi型アモルファスシリコン層、膜厚20nmのp型アモルファスシリコンカーバイド層をこの順序で成膜し、光電変換層を形成した。各々の成膜温度はn型アモルファスシリコン層が280℃、i型アモルファスシリコン層が280℃、p型アモルファスシリコンカーバイド層が200℃であった。次にDCマグネトロンスパッタ装置を用いて、ITO(SnドープIn、Sn:10wt%)セラミックターゲットをスパッタし、ITOからなる上部電極を80nm形成した。
【0099】
次に、実施例1で調整したのと同様の塗布液を、上記上部電極上にバーコーターを用いて塗布し、乾燥機にて120℃5分乾燥して塗膜を形成し、さらに280℃で30分間焼成することにより、太陽電池用光散乱膜(厚さ2.0μm)を形成し、「サブストレートタイプ」の太陽電池サンプル(実施例4サンプル)を作製した。なお、太陽電池サンプルの上部電極に太陽電池用光散乱膜を形成すると同時に、ヘイズ率測定用ガラス基板に太陽電池用光散乱膜を形成し、ヘイズ率測定サンプルを作製した。
太陽電池用光散乱膜の表面は極めて平坦であり、表面粗さRaは15nmであった。また、太陽電池用光散乱膜のヘイズ率は55.0%、透過率は80%であった。なお、ヘイズ率の測定は、上記ヘイズ率測定サンプルを用いて行った。
酸化アルミナ粒子未添加の塗布液で同様の操作を行い、シリカ系有機無機複合バインダーのみの被膜を作製し、屈折率測定したところ、1.40であり、シリカ系有機無機複合バインダーと酸化アルミナ粒子との屈折率差は0.22であった。
【0100】
(比較例1)
まず、DCマグネトロンスパッタ装置を用いて、ZnO:Ga(Ga:5wt%)セラミックターゲットをスパッタし、ヘイズ率が10%のAsahi−Type−U基板(旭硝子(株)製、ヘイズ率10%、透過率78%)上に、ガリウムドープ酸化亜鉛透明導電膜を成膜温度250℃で200nm成膜し、上部電極層を形成した。
次に、プラズマCVD装置を用いて、ガリウムドープ酸化亜鉛透明導電膜上に、膜厚20nmのp型アモルファスシリコンカーバイド層、膜厚300nmのi型アモルファスシリコン層、膜厚25nmのn型アモルファスシリコン層をこの順序で成膜し、光電変換層を形成した。
引き続き、DCマグネトロンスパッタ装置を用いて、ZnO:Ga(Ga:5wt%)セラミックターゲットをスパッタし、膜厚15nmのガリウムドープ酸化亜鉛透明導電膜を成膜し、下部透明電極を形成した。
最後に、真空蒸着装置により、下部透明電極の上に膜厚100nmのアルミニウムからなる金属電極を成膜して、下部透明電極と金属電極とからなる下部電極を形成して、「スーパーストレートタイプ」の太陽電池サンプル(比較例1サンプル)を作製した。
【0101】
(比較例2)
メラミン・ホルムアルデヒド縮合粒子((株)日本触媒製、商品名「エポスターS12」)を5質量部と、アルカリ可溶アクリル樹脂を20質量部と、多官能アクリルモノマー(東亜合成(株)製、商品名「アロニックスM−400」)を10質量部と、光重合開始剤(チバスペシャリティケミカルズ社製、商品名「イルガキュアー907」)を0.5質量部と、有機溶媒(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)を120質量部とを充分に混合して、太陽電池用光散乱膜を形成する塗布液を調整した。なお、メラミン・ホルムアルデヒド縮合粒子(屈折率:1.51)は、平均粒径1〜2μmのものを用いた。
次に、上述の塗布液を所定量コーニング1737ガラス基板上に滴下し、このガラス基板を毎分800回転の回転速度で5秒間回転させることにより、塗膜を形成した。この塗膜を乾燥させた後、230℃で60分間焼成することにより、コーニング1737ガラス基板上に厚さ2.5μmの太陽電池用光散乱膜を形成し、ガラス基板と太陽電池用光散乱膜とからなる太陽電池用光学部材を作製した。
作製された太陽電池用光散乱膜の表面は極めて平坦であり、表面粗さRaは23nmであった。また、太陽電池用光散乱膜のヘイズ率は58.2%、透過率は90%であった。さらに、太陽電池用光散乱膜のバインダーマトリックスの屈折率は1.63であった。
【0102】
次に、DCマグネトロンスパッタ装置を用いて、ZnO:Ga(Ga:5wt%)セラミックターゲットをスパッタし、太陽電池用光散乱膜上にガリウムドープ酸化亜鉛透明導電膜を成膜温度250℃で200nm成膜し、上部電極層を形成した。
次に、プラズマCVD装置を用いて、ガリウムドープ酸化亜鉛透明導電膜上に、膜厚20nmのp型アモルファスシリコンカーバイド層、膜厚300nmのi型アモルファスシリコン層、膜厚25nmのn型アモルファスシリコン層をこの順序で成膜し、光電変換層を形成した。各々の成膜温度は、p型アモルファスシリコンカーバイド層が200℃、i型アモルファスシリコン層が280℃、n型アモルファスシリコンカーバイド層が280℃であった。
引き続き、DCマグネトロンスパッタ装置を用いて、ZnO:Ga(Ga:5wt%)セラミックターゲットをスパッタし、膜厚15nmのガリウムドープ酸化亜鉛透明導電膜を成膜し、下部透明電極を形成した。
最後に、真空蒸着装置により、下部透明電極の上に膜厚100nmのアルミニウムからなる金属電極を室温で形成して、下部透明電極と金属電極とからなる下部電極を形成して、「スーパーストレートタイプ」の太陽電池サンプル(比較例2サンプル)を作製した。
【0103】
実施例1〜4および比較例1、2で作製した太陽電池サンプルの特性測定実験を行った。
25℃の雰囲気中で、ソーラーシミュレーターによってAM1.5、100mW/cmの擬似太陽光を作り出し、これを各太陽電池サンプルに照射して、開放電圧、曲線因子、短絡電流および変換効率の4つの特性を測定した。
実施例1〜4および比較例1、2の太陽電池用光散乱膜の特性を表1にまとめて示すとともに、実施例1〜4および比較例1、2の太陽電池の特性を表2および図4に示す。ここで透過率とは波長400nm〜800nmでの積分球による透過率測定値(空気をレファレンスとして測定)の平均値で表している。
表2および図4から分かるように、実施例1〜4の太陽電池サンプルの開放電圧、曲線因子、短絡電流および変換効率の値は、比較例1、2の太陽電池サンプルよりも高くなり、優れた発電特性を示すことがわかる。
【0104】
【表1】

【0105】
【表2】

【符号の説明】
【0106】
1…基板(透明基体)、1a…光取り込み面、1b…反対側の面、2…太陽電池用光散乱膜、2a…光取り込み面、2b…平坦面、3…上部電極層、4…光電変換層、5…下部電極層、5’…下部電極層、6…下部光電変換層、7…高抵抗バッファー層、8…光電変換層、9…下部電極層、10…太陽電池用光学部材、11…基板、12…光電変換層、12a…CdS層、12b…CdTe層、13…下部電極層、14…光電変換層、14a…電極層、14b…色素層(色素)、14c…電解質層、15…光電変換層、15a…有機半導体p層、15b…有機半導体i層、15c…有機半導体n層、41…p型薄膜シリコン層、42…i型薄膜シリコン層、43…n型薄膜シリコン層、51…下部透明導電電極、52…金属電極、61…p型薄膜シリコン層、62…i型薄膜シリコン層、63…n型薄膜シリコン層、81…光吸収層、100,101,103,104,105,106,107…太陽電池。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機バインダーマトリックス中に、前記無機バインダーマトリックスと屈折率が異なる無機散乱粒子が分散されてなり、かつ平坦面を有する光散乱膜であって、前記光散乱膜の透過率が70%以上であり、ヘイズ率が20〜90%であることを特徴とする太陽電池用光散乱膜。
【請求項2】
前記平坦面の表面粗さが1nm以上100nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の太陽電池用光散乱膜。
【請求項3】
前記無機バインダーマトリックスと前記無機散乱粒子との屈折率差が0.05〜0.6であることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれか1項に記載の太陽電池用光散乱膜。
【請求項4】
前記無機バインダーマトリックスが化学式(1)で示される有機珪素化合物、前記有機珪素化合物の加水分解重合体、化学式(2)で示される金属アルコキシド、前記金属アルコキシドのキレート誘導体または前記金属アルコキシドのキレート誘導体の重合体から選ばれる1種以上の材料からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の太陽電池用光散乱膜。
(RSi(OR4−x…(1)
ただし、Rは炭素数1〜6のアルキル基あるいは末端に反応性官能基を有する有機基、Rは炭素数1〜3のアルキル基を示し、xは0≦x≦3を満たす整数である。
M(OR)n…(2)
ただし、MはAl、Ti、Zr、Znのいずれかの金属、Rは炭素数1〜4のアルキル基、nは金属Mの価数である。
【請求項5】
前記無機バインダーマトリックスが、400℃以上の温度で焼成されてなることを特徴とする請求項4に記載の太陽電池用光散乱膜。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の太陽電池用光散乱膜と、前記太陽電池用光散乱膜の前記平坦面と反対側の面に配置された透明基体とからなることを特徴とする太陽電池用光学部材。
【請求項7】
光電変換層を備え、前記光電変換層の光取り込み側に請求項1〜5のいずれか1項に記載の太陽電池用光散乱膜が備えられてなることを特徴とする太陽電池。
【請求項8】
前記光電変換層が、単結晶シリコン、多結晶シリコン、薄膜シリコン、カルコパイライト系化合物、カドミウムテルル、色素、若しくは有機半導体材料の少なくとも一つを有することを特徴とする請求項7に記載の太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−212507(P2009−212507A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−26082(P2009−26082)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】