説明

太陽電池用封止膜、太陽電池モジュールおよびその製造方法

【課題】太陽電池モジュール、特にバックコンタクト型の太陽電池モジュールにおいて、温度変化による出力低下の早期回復および変動を抑制することを目的とする。
【解決手段】本発明は、エチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体およびエチレン・α-オレフィン共重合体からなる群から選択される重合体成分と、架橋剤と、を含む太陽電池用封止膜であって、前記太陽電池用封止膜を、10分間、150℃で加熱して得たシートの、JIS K6911に準拠して印加電圧500V、100℃で測定した帯電減衰時間が9000秒以上である、太陽電池用封止膜を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は太陽電池用封止膜、太陽電池モジュールおよびその製造方法に関する。詳しくは、本発明はエチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体、エチレン・α-オレフィン共重合体またはエチレン・環状オレフィン共重合体からなる重合体成分と、架橋剤などとを含有する樹脂組成物からなる太陽電池用封止膜、該太陽電池用封止膜を用いた太陽電池モジュールおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池モジュールは、通常は、多結晶シリコンなどにより形成された太陽電池セルを、2枚のエチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)などの太陽電池用封止膜で挟んで積層し、さらに表裏両面を太陽電池モジュール用保護シート(保護部材)でカバーした構造を有する。このような太陽電池モジュールは、表面側透明保護部材、太陽電池用封止膜、太陽電池セル、太陽電池用封止膜および裏面側保護部材をこの順で積層し;該積層体を加熱加圧してエチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)を架橋硬化させて封止することにより製造される。
【0003】
上記加熱加圧による架橋硬化を行うために、太陽電池用封止膜に、有機過酸化物などの架橋剤や、太陽電池セル等との接着性や長期耐久性を付与するための各種添加剤を添加することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
結晶系シリコン太陽電池の多くは、単結晶シリコン基板の表裏のいずれか一方の面にp型領域が形成されており、他方の面にn型領域が形成されている。表裏面上には、受光面(又は裏面)で生成した電流を集電するための集電極(バスバー電極、フィンガー電極など)が形成されている。受光面側に配置された集電極は入射光を遮るため、発電効率を低下させることがあった。
【0005】
有効受光面積を増加させるための一解決手法として、太陽電池セルの受光面の反対側の裏面側にpドープ領域とnドープ領域とを交互に設けて、電荷の取出構造を全て裏面側に形成することがある(特許文献2参照)。このような構造の太陽電池セルは、バックコンタクト型の太陽電池セルと称される。
【0006】
また、貫通孔(スルーホール)を設けた基板に、p/n接合を形成し、スルーホール内壁および裏面側のスルーホール周辺部まで、表面(受光面)側のドープ層を形成し、裏面側で受光面の電流を取り出す、バックコンタクト型の太陽電池セルも提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−281135号公報
【特許文献2】特表2006−523025号公報
【特許文献3】特開平2−51282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、太陽電池モジュールにおいて、太陽電池セルを封止する封止部材が太陽電池セルの発電特性に影響を与えること、特に温度の変化によって出力の低下および変動を生じさせることがあることを見出した。そこで本発明は、封止部材の組成を調整することで、太陽電池モジュール、特にバックコンタクト型の太陽電池モジュールにおいて、温度変化による出力の低下および変動を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、エチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体、エチレン・α-オレフィン共重合体およびエチレン・環状オレフィンなどの重合体成分を主たる材料とする太陽電池用封止膜であって、特定の帯電特性を付与した太陽電池用封止膜を用いることで上記課題を解決した。
【0010】
すなわち、本発明には以下の事項が含まれる。
[1]エチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体およびエチレン・α-オレフィン共重合体からなる群から選択される重合体成分と、架橋剤と、を含む太陽電池用封止膜であって、
前記太陽電池用封止膜を、10分間、150℃で加熱して得たシートの、JIS K6911に準拠して印加電圧500V、100℃で測定した帯電減衰時間が9000秒以上である、太陽電池用封止膜。
[2]光安定化剤をさらに含み、前記重合体成分100重量部に対する光安定化剤の含有量が0〜1重量部である、[1]に記載の太陽電池用封止膜。
[3]前記光安定化剤が、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケートである、[2]に記載の太陽電池用封止膜。
【0011】
[4]表面側透明保護部材と、裏面側保護部材と、前記表面側透明保護部材と裏面側保護部材とに挟持された複数の太陽電池セルと、前記表面側透明保護部材と裏面側保護部材との間に太陽電池セルを封止する封止部材と、を有する太陽電池モジュールであって、
前記封止部材は、[1]〜[3]のいずれかに記載の太陽電池用封止膜の硬化物である、太陽電池モジュール。
[5](i)表面側透明保護部材と、[1]〜[3]のいずれかに記載の太陽電池用封止膜と、太陽電池セルと、該太陽電池用封止膜と、裏面側保護部材とをこの順に積層して積層体を形成する工程と、(ii)工程(i)で得られた積層体を加熱および加圧して一体化する工程と、を含むことを特徴とする太陽電池モジュールの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の太陽電池用封止膜を用いることで、太陽電池モジュール、特に電気の取り出しを行うp型の領域とn型の領域が近接するバックコンタクト型の太陽電池モジュールにおいて、太陽電池モジュールの発電の出力低下や変動を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る太陽電池用封止膜、太陽電池モジュールおよびその製造方法について詳細に説明する。以下の説明では、「〜」を使用して数値範囲を規定するが、本発明の「〜」は、境界値を含む。例えば、「10〜100」とは、10以上100以下である。
【0014】
1.太陽電池用封止膜
本発明の太陽電池用封止膜は、エチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体、エチレン・α-オレフィン共重合体、およびエチレン・環状オレフィン共重合体からなる群から選択される重合体成分と、架橋剤と、必要に応じて接着性付与剤等の各種添加剤とを含む。
【0015】
本発明の太陽電池用封止膜の、印加電圧500V、100℃の条件で、JIS K6911に準拠して測定した帯電減衰時間は、9000秒以上である。帯電減衰時間とは、太陽電池用封止膜を太陽電子モジュールに組み込まれた状態(太陽電池用封止膜が加熱され架橋・硬化した状態)で電圧が印加された場合に、どの程度の時間で膜内の電界の偏りが緩和されるか表す指標となる。
【0016】
本発明の太陽電池用封止膜の帯電減衰時間を求めるには、
1)所定の大きさに裁断した太陽電池用封止膜を、太陽電池モジュール製作用ラミネータを用いて、150℃、真空3分、加圧10分でラミネートしてシートを作成し;
2)前記シートを、100±2℃の温度環境下で、体積抵抗率測定装置(アドバンテスト社製、品番:TR8601 High Megohm Meter)で体積抵抗測定用の電極に設置し;
3)500Vの電圧を当該シートに印加し、当該シート内の電界(V/cm)が安定したところで印加電圧を0Vにして、膜内の電界(V/cm)が100V/cmになるまでの時間を求めればよい。
【0017】
本発明の太陽電池用封止膜の前記帯電減衰時間は長いほど好ましい。具体的には、前記帯電時間は9000秒以上であることが好ましく、10000秒以上であることがさらに好ましい。前記帯電減衰時間が短い太陽電池用封止膜は、帯電しやすい特性を有する。帯電しやすい部材で覆われる部位は、電界の影響を受けやすい。バックコンタクト型太陽電池モジュールの場合、セル表面に帯電した電荷が、発生した電子あるいは正孔を失活させてしまう可能性がある。太陽光が照射される時間帯には、モジュール温度が例えば70℃以上となることがあるので、高温条件においてセル表面に電荷を帯電させにくくすること、つまり帯電減衰時間が長くすることが望ましい。
【0018】
本発明の太陽電池用封止膜の帯電減衰時間を長くするには、太陽電池用封止膜を構成する樹脂組成物の組成を調整すればよい。例えば、1)共重合体成分の重合成分における極性基を有さない成分の割合を高めること、2)各種添加剤を適切に選択すること、例えば光安定化剤として、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケートを選択すること、などによって前記帯電減衰時間を長くすることができる。
【0019】
前記の通り、本発明の太陽電池用封止膜は、エチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体、エチレン・α-オレフィン共重合体およびエチレン・環状オレフィン共重合体からなる重合体成分を含有する。太陽電池用封止膜に含有される重合体成分であるエチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体、エチレン・α-オレフィン共重合体およびエチレン・環状オレフィン共重合体は、ランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよい。
【0020】
本発明の太陽電池用封止膜に含まれるエチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体の例には、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体(EPDM)が含まれる。エチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体のジエン成分の例には、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-プロピリデン-5-ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、5-ビニル-2-ノルボルネン、5-メチレン-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデン-2-ノルボルネン、ノルボルナジエンなどの環状ジエン;1,4-ヘキサジエン、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,5-ヘプタジエン、6-メチル-1,5-ヘプタジエン、6-メチル-1,7-オクタジエン、7-メチル-1,6-オクタジエンなどの鎖状の非共役ジエンなどが含まれる。前記ジエン成分の一部は、2,3-ジイソプロピリデン-5-ノルボルネン、4-エチリデン-8-メチル-1,7-ノナジエンなどのトリエンなどであってもよい。なかでも、太陽電池用封止膜の成形性の観点から、5-エチリデン-2-ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、5-ビニル-2-ノルボルネンなどがジエン成分として好ましい。
【0021】
本発明の太陽電池用封止膜に含まれるエチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体(典型的には、EPDM)の、190℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)は、0.1〜50であることが好ましく、2〜30であることがさらに好ましい。前記MFRが上記範囲内にあると、柔軟性が高くなり加工性が高まる。例えば、太陽電池用封止膜への太陽電池素子の埋め込み性が向上する。
【0022】
本発明の太陽電池用封止膜に含まれるエチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体(典型的には、EPDM)のジエン含有量は、エチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体のヨウ素価が、例えば0.5〜50(g/100g)、好ましくは10〜30(g/100g)となるように設定されることが好ましい。前記ジエン含有量が上記範囲内にあると、良好な耐熱性や耐侯性を獲得できる。
【0023】
また、本発明の太陽電池用封止膜に含まれるエチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体(典型的には、EPDM)のエチレン含有量は、例えば50〜75重量%、好ましくは、50〜55重量%である。エチレン含有量が上記範囲内にあると、低温における圧縮永久歪が小さくなるという利点がある。
【0024】
本発明の太陽電池用封止膜に含まれるエチレン・α-オレフィン共重合体の例には、エチレンと炭素原子数が3〜20のα−オレフィンの少なくとも1種との共重合体を挙げることができる。エチレン・α-オレフィン共重合体は、エチレン重合体の変性体であってもよい。
【0025】
本発明の太陽電池用封止膜に含まれるエチレン・α-オレフィン共重合体のα-オレフィンの具体例には、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンなどが含まれるが、炭素原子数が4〜10のα−オレフィンが好ましい。
【0026】
本発明の太陽電池用封止膜に含まれるエチレン・環状オレフィン共重合体の環状オレフィンの例には、ノルボルネン誘導体、トリシクロ-3-デセン誘導体、トリシクロ-3-ウンデセン誘導体、テトラシクロ-3-ドデセン誘導体、ペンタシクロ-4-ペンタデセン誘導体、ペンタシクロペンタデカジエン誘導体、ペンタシクロ-3-ペンタデセン誘導体、ペンタシクロ-4-ヘキサデセン誘導体、ペンタシクロ-3-ヘキサデセン誘導体、ヘキサシクロ-4-ヘプタデセン誘導体、ヘプタシクロ-5-エイコセン誘導体、ヘプタシクロ-4-エイコセン誘導体、ヘプタシクロ-5-ヘンエイコセン誘導体、オクタシクロ-5-ドコセン誘導体、ノナシクロ-5-ペンタコセン誘導体、ノナシクロ-6-ヘキサコセン誘導体、シクロペンタジエン-アセナフチレン付加物、1,4-メタノ−1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレン誘導体、1,4-メタノ-1,4,4a,5,10,10a-ヘキサヒドロアントラセン誘導体、炭素数3〜20のシクロアルキレン誘導体などが含まれる。好ましい環状オレフィンは、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン誘導体およびヘキサシクロ[6.6.1.13,6.110,13.02,7.09,14]-4-ヘプタデセン誘導体であり、特にテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンが好ましい。
【0027】
エチレン・α-オレフィン共重合体におけるα-オレフィン、およびエチレン・環状オレフィン共重合体における環状オレフィンは、それぞれ1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
本発明の太陽電池用封止膜に含まれるエチレン・α-オレフィン共重合体やエチレン・環状オレフィン共重合体は、接着力補助成分との共重合体であってもよい。接着力補助成分とは、例えば水素結合性官能基などの極性基を有するラジカル重合性不飽和化合物である。このような共重合体は、エチレンと、α-オレフィンまたは環状オレフィンと、接着力補助成分とをグラフト共重合などの方法で共重合させて得ることができる。このような接着力補助成分を共重合成分とする共重合体は、被接合面への接着力が向上されうる。
【0029】
共重合させる接着力補助成分の例には、水酸基含有エチレン性不飽和化合物、アミノ基含有エチレン性不飽和化合物、エポキシ基エチレン性不飽和化合物、芳香族ビニル化合物、不飽和カルボン酸あるいはその誘導体、ビニルエステル化合物、塩化ビニル、カルボジイミド化合物などが含まれるが、不飽和カルボン酸あるいはその誘導体が特に好ましい。
【0030】
共重合させる接着力補助成分の具体的例には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ナジック酸[商標](エンドシス-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸)などの不飽和カルボン酸などが含まれる。
【0031】
共重合させる接着力補助成分は、前記不飽和カルボン酸の誘導体であってもよく、例えば酸ハライド、アミド、イミド、無水物、エステルなどでありうる。前記不飽和カルボン酸の誘導体の具体例には、塩化マレニル、マレイミド、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、2-メチルマレイン酸無水物、2-クロロマレイン酸無水物、2,3-ジメチルマレイン酸無水物、4-メチル-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、グリシジルマレート、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなどが含まれる。
【0032】
共重合させる接着力補助成分としての不飽和カルボン酸および/またはその誘導体は、1種単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせてもよい。これらのなかでは、不飽和ジカルボン酸またはその無水物が好適であり、特にマレイン酸、ナジック酸またはこれらの酸無水物が好ましく用いられる。
【0033】
エチレン・α-オレフィン共重合体やエチレン・環状オレフィン共重合体における、前記接着力補助成分の含有量は、これらのオレフィン共重合体100重量部に対して、通常は0.1〜5重量部であり、好ましくは0.1〜4重量部である。これらのオレフィン共重合体における接着力補助成分の含有量が上記範囲にあると、太陽電池用封止膜の接着力を十分に改善しながら、前記封止膜の透明性、柔軟性等に悪影響を与えないため好ましい。
【0034】
本発明の太陽電池用封止膜が、主たる構成成分としてエチレン・α-オレフィン共重合体またはエチレン・環状オレフィン共重合体を含有する場合には、1)エチレン・α-オレフィン共重合体またはエチレン・環状オレフィン共重合体をシラン変性したり、2)シラン化合物などの接着性付与剤(後述)を、太陽電池用封止膜に添加したりすることが好ましい。もちろん、エチレン・α-オレフィン共重合体またはエチレン・環状オレフィン共重合体をシラン変性して、かつ接着性付与剤(後述)を添加してもよい。
【0035】
シラン変性されたエチレン・α-オレフィン共重合体またはエチレン・環状オレフィン共重合体は、エチレンと、α-オレフィンまたは環状オレフィンと、重合性シラン化合物とを共重合させて得ることができるが、より具体的には、有機過酸化物を用いてグラフト共重合させることで製造されうる。
【0036】
重合性シラン化合物をグラフト共重合させることで、重合性シラン化合物の官能基(シリルオキシ基など)を共重合体の側鎖とする。重合性シラン化合物の官能基は、共重合体の接着力を向上させるので、重合性シラン化合物の官能基の自由度を高めれば、より接着力が向上する。
【0037】
シラン変性するための重合性シラン化合物は、特に制限なく従来公知のものが用いることができるが、例えばエチレン性不飽和シラン化合物でありうる。エチレン性不飽和シラン化合物の具体例には、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシ-エトキシシラン)、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどが含まれる。
【0038】
シラン変性されたエチレン・α-オレフィン共重合体またはエチレン・環状オレフィン共重合体における重合性シラン化合物の配合量は、主たる構成成分(エチレン、α-オレフィン、環状オレフィンの合計)100重量部に対して、通常0.1〜5重量部、好ましくは0.1〜4重量部である。重合性シラン化合物の配合量が上記範囲にあると、特にエチレン系樹脂組成物の接着性を十分に改善しながら、エチレン系樹脂組成物の透明性、柔軟性等に悪影響を与えないからである。
【0039】
太陽電池用封止膜に添加されうる接着性付与剤として用いられるシラン化合物は、シランカップリング剤であることが好ましい。シランカップリング剤の具体例には、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニル-トリス-(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エトキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、およびN-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシランなどが含まれる。接着性付与剤として用いられるシラン化合物は、シラン変性樹脂であってもよい。
【0040】
接着性付与剤の安定性という観点からは、アルコキシシラン類が好適に用いられる。アルコキシシラン類は、常温かつpHが中性の領域では、比較的安定に存在するからである。一方で、太陽電池モジュールを作製する際には、その安定性から太陽電池用封止膜の接着力が発現しにくいという問題がある。
【0041】
太陽電池用封止膜における、接着性付与剤として用いられるシラン化合物の含有量は、重合体成分100重量部に対して、通常0.1〜3.0重量部であることが好ましく、0.2〜1.5重量部であることがより好ましい。
【0042】
前述の通り、シラン変性するための重合性シラン化合物や、接着性付与剤としてのシラン化合物は、ケイ素原子に結合している反応基(アルコキシ基やハロゲン基など)を有していることが好ましい。ケイ素原子に結合している反応基は、太陽電池モジュールにおいて太陽電池用封止膜が接する部材(すなわち、シリコンなどにより構成される太陽電池セルや、ガラスなどの無機物により構成される表面保護部材)と反応して、化学的結合または水素結合などの物理的結合を形成することができるためである。この結合により、太陽電池用封止膜と前記保護部材等との接着性が大きく向上すると考えられる。
【0043】
シラン変性するための重合性シラン化合物や、接着性付与剤としてのシラン化合物における、ケイ素原子に結合している反応基は、活性が高く、かつその基数が多いほど、太陽電池用封止膜の接着性を高めることができる。一方、反応基の活性が高すぎると、太陽電池用封止膜の保存時に接着性付与剤が反応してしまい、前記封止膜を用いて太陽電池モジュールを製造する際に、接着性を付与することができなくなる恐れがある。
【0044】
本発明の太陽電池用封止膜に含まれる重合体成分は、公知の重合方法によって作製することができ、その製法は特に限定されない。例えば、重合触媒の使用量が少なくてすむ、気相重合法やスラリー重合法で製造することが好ましい。重合体成分に、金属元素を含む重合触媒が大量に残存すると、太陽電池用封止膜の絶縁性が低下し、前記封止膜を用いて太陽電池モジュールを作成した場合、発電効率が低下する恐れがあるからである。
【0045】
本発明の太陽電池用封止膜は、架橋剤を含有していてもよい。架橋剤は、太陽電池用封止膜に含まれる重合体成分を架橋反応させることにより、太陽電池用封止膜の耐熱性および耐候性を向上させうる。架橋剤は、一般に、100℃以上でラジカルを発生する有機過酸化物が好ましく、特に配合時の安定性を考慮すると、半減期10時間の分解温度が70℃以上である有機過酸化物がより好ましい。
【0046】
架橋剤としての有機過酸化物の例には、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、3-ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン、ジクミルパーオキサイド、α,α'-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、t-ブチルパーオキシベンゾエートおよびベンゾイルパーオキサイドなどが含まれる。
【0047】
太陽電池用封止膜における架橋剤の含有量は、重合体成分100重量部に対して、0.1〜3.0重量部であることが好ましく、0.2〜2.0重量部であることがより好ましい。
【0048】
本発明に用いられる太陽電池用封止膜は、必要に応じて、さらに架橋助剤などの各種添加剤を含んでもよい。
【0049】
架橋助剤は、太陽電池用封止膜に含まれる重合体成分の架橋反応性を高めて、太陽電池用封止膜の耐久性を向上させうる。架橋助剤の例には、多官能の重合性化合物が挙げられ、具体的にはトリアリルイソシアヌレート、トリアリルイソシアネート、トリメチロールプロパントリアクリレートなどの3官能の架橋助剤のほか、N,N'-m-フェニレンビスマレイミド、エチレングリコールジメタクリレートなどが含まれる。
【0050】
太陽電池用封止膜における架橋助剤の含有量は、重合体成分100重量部に対して、0〜1重量部であることが好ましく、0〜0.5重量部であることがさらに好ましい。発電時の温度変化による太陽電池モジュールの出力の低下および変動を抑制するためである。
【0051】
本発明の太陽電池用封止膜には、その他の任意の添加剤が含有されうる。任意の添加剤の例には、着色剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、変色防止剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定化剤などが含まれる。
【0052】
着色剤の例には、金属酸化物および金属粉などの無機顔料;アゾ系、フタロシアニン系、アゾ系、および酸性もしくは塩基性染料系レーキなどの有機顔料が含まれる。
【0053】
紫外線吸収剤の例には、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-オクトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-5-スルフォベンゾフェノン、4-ドデシロキシ-2-ヒドロキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系;2-(2'-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3-ターシャルブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾールなどのベンゾトリアゾール系;フェニルサルシレートおよびp−t−ブチルフェニルサルシレートなどのサリシレート系などが含まれる。
【0054】
光安定化剤としては、アミン系、フェノール系、ビスフェニル系およびヒンダートアミン系が含まれ、例えばジ-t-ブチル-p-クレゾールおよびビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペラジル)セバケートなどが含まれる。特に、75℃〜100℃での帯電減衰時間を長くするには、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケートが好ましい。また、エチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体および/またはエチレン・α-オレフィン共重合体の安定性を向上させる上で、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、p-ベンゾキノンおよびメチルハイドロキノンなどが含まれてもよい。
【0055】
本発明の太陽電池用封止膜は、前述した成分(少なくとも共重合体成分および架橋剤)を含む樹脂組成物を、T−ダイ押出成形機を用いて溶融混練して溶融樹脂シートとして押出した後、冷却固化することにより得られる。太陽電池用封止膜の厚みは、例えば100μm〜2000μm程度である。太陽電池用封止膜は、加熱硬化工程におけるクッション性や脱気性を向上させる点で、その表面にエンボス加工が施されていてもよい。
【0056】
2.太陽電池モジュール
本発明の太陽電池モジュールは、前述の太陽電池用封止膜を用いて封止されていること、より具体的には、前述の太陽電池用封止膜又はその硬化物からなる封止部材を有することを特徴とする。
【0057】
本発明の太陽電池モジュールは、例えば、表面側透明保護部材と、太陽電池用封止膜から得られる封止部材と、該封止部材により封止された太陽電池セルと、裏面側保護部材とを有する。このように、太陽電池セルは、表面側透明保護部材と裏面側保護部材との間において、封止部材によって封止されている。封止部材は、前述の太陽電池用封止膜を太陽電池セルの表面側および裏面側に配置して圧着封止することで形成されうる。したがって、本発明の太陽電池モジュールの基本的構造は、表面側透明保護部材/封止部材/太陽電池セル/封止部材/裏面側保護部材である。
【0058】
表面側透明保護部材
本発明の太陽電池モジュールの表面側透明保護部材としては、特に制限はなく、太陽電池モジュールにおいて一般的に使用される表面側保護部材を使用できる。表面側透明保護部材は、太陽電池モジュールの最表層に位置するため、耐候性、撥水性、耐汚染性および機械強度をはじめとして、太陽電池モジュールの屋外暴露における長期信頼性を確保するための性能を具備していることが好ましい。また、太陽光を有効に活用するために、光学ロスの小さい、透明性の高いシートであることが好ましい。
【0059】
太陽電池モジュールの表面側透明保護部材の材料の例には、ポリエステル樹脂、フッ素系樹脂、アクリル樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体、環状オレフィン(共)重合体などからなる樹脂フィルムの他、ガラスなどが含まれる。
【0060】
表面側透明保護部材として好適な樹脂フィルムは、耐侯性などの点で優れたフッ素系樹脂フィルムである。具体的には、四フッ化エチレン・エチレン・共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニル樹脂(PVF)、ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、ポリ四フッ化エチレン・樹脂(TFE)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、ポリ三フッ化塩化エチレン・樹脂(CTFE)などでありうる。耐候性の観点では、ポリフッ化ビニリデン樹脂が優れているが、耐候性および機械的強度の両立では四フッ化エチレン・エチレン・共重合体が優れている。
【0061】
表面側透明保護部材としてのガラスは、波長350〜1400nmの光の全光線透過率が80%以上、好ましくは90%以上のガラス基板である。表面側透明保護部材としてのガラスは、一般的には赤外領域の吸収の少ない白板ガラスであるが;厚さが3mm以下であれば青板ガラスであってもよく、太陽電池モジュールの出力特性への悪影響はほとんどない。
【0062】
また、表面側透明保護部材としてのガラスは、機械的強度を高めるために熱処理した強化ガラスであってもよいが、熱処理されていないフロート板ガラスであってもよい。表面側透明保護部材としてのガラスは、風圧に耐える必要があるため、一般的には約3mm厚のガラス基板であり、アルミ枠で補強される。
【0063】
また、表面側透明保護部材と封止部材などの他の部材との接着性を高めるために、表面側透明保護部材にはコロナ処理やプラズマ処理を行うことが好ましい。さらに、表面側透明保護部材の受光面側には、通常、光の反射を抑えるために、反射防止のコーティングやエンボス加工が施される。
【0064】
裏面側保護部材
本発明の太陽電池モジュールの裏面側保護部材としては、特に制限はなく、太陽電池モジュールにおいて一般的に使用される裏面側保護部材を使用できる。前記表面側透明保護部材と同様の材質で裏面側保護部材を構成してもよい。
【0065】
太陽電池モジュールの裏面側保護部材は、太陽電池モジュールへの水分の浸入を防止する機能を有する必要がある。本発明の太陽電池モジュールの封止部材は、吸水性および透湿性を有することがあるので、裏面側保護部材の水分の浸入を防止する機能は重要である。ただし、本発明の封止部材は、前述の太陽電池用封止膜の硬化物であるので、通常の太陽電池用封止膜であるエチレン・酢酸ビニル共重合体の硬化物と比較すると、吸水性および透湿性は低い。
【0066】
太陽電池モジュールの裏面側保護部材は、地面等からの反射光に対する耐光性、および60〜100℃の温度に耐えられる耐熱性などを有することが望ましい。一方、裏面側保護部材は、太陽光の通過を前提としないため、表面側保護部材で求められていた透明性は必ずしも要求されない。
【0067】
裏面側保護部材の具体例としては、酸化シリコンもしくは酸化アルミからなる防湿膜を蒸着したPETフィルムに、白色もしくは黒色の難燃性PETフィルムを貼り合わせたもの;および、その片面もしくは両面にさらにフッ化ビニル樹脂フィルムを貼り合わせたもの、などが挙げられる。
【0068】
裏面側保護部に、光の反射機能または散乱機能を付与してもよい。それにより光の利用効率を向上させることができる。反射機能または散乱機能を付与するための手法に特に制限はないが、例えば、反射機能を付与するためには金属層を設置すればよく、散乱機能を付与するためには光散乱性の微粒子を添加すればよい。
【0069】
太陽電池セル
本発明の太陽電池モジュールにおける太陽電池セルは、半導体の光起電力効果を利用して発電できるものであれば特に制限はない。太陽電池セルの例には、シリコン(単結晶系、多結晶系、非結晶(アモルファス)系)太陽電池、化合物半導体(3−5族、2−6族、その他)太陽電池、湿式太陽電池、有機半導体太陽電池などが含まれる。なかでも、発電性能とコストとのバランスなどの観点から、多結晶系シリコン太陽電池が好ましい。
【0070】
シリコン太陽電池および化合物半導体太陽電池とも、太陽電池セルとして優れた特性を有しているが、外部からの応力および衝撃などにより破損しやすい。本発明の太陽電池用封止膜から得られる封止部材は柔軟性に優れており、太陽電池セルへの応力および衝撃などを吸収することができ、太陽電池セルの破損を効果的に抑制する。したがって、本発明の好ましい太陽電池モジュールにおいては、本発明の太陽電池用封止膜から得られる封止部材が、太陽電池セルと直接接合している。
【0071】
太陽電池セルには、発生した電気を取り出すための集電電極が配置される。集電電極とは、バスバー電極、フィンガー電極などをいう。集電電極を、太陽電池セルの表面および裏面の両面に配置してもよいが;受光面に集電電極を配置すると、集電電極が光を遮ってしまうため発電効率が低下するという問題が生じうる。
【0072】
発電効率を向上させるために、受光面に集電電極を配置する必要のないバックコンタクト型太陽電池セルを用いることが考えられる。バックコンタクト型太陽電池セルの一態様では、太陽電池セルの受光面の反対側に設けられた裏面側に、pドープ領域とnドープ領域とを交互に設ける。バックコンタクト型太陽電池セルの他の態様では、貫通孔(スルーホール)を設けた基板にp/n接合を形成し、スルーホール内壁および裏面側のスルーホール周辺部まで表面(受光面)側のドープ層を形成し、裏面側で受光面の電流を取り出す。
【0073】
バックコンタクト型太陽電池セル(特に、光を受ける面の裏面のみで電荷取り出しを行う太陽電池セル)は、電荷の取り出し部位が裏面に偏り、かつ近接している。そのため、受光面にも集電電極を配置した太陽電池セルと比較して、バックコンタクト型太陽電池セルでは発生した電荷が流れにくく、さらに受光面側の封止膜内に電荷の偏りが生じやすいと考えられる。そのため、バックコンタクト型太陽電池セルは、周囲の環境、例えば太陽電池セルを封止する封止部材の電気物性などの影響を受けやすくなると考えられる。
【0074】
したがって、バックコンタクト型の太陽電池セルの太陽電池用封止膜には、太陽電池セルの発電電荷の取り出しに影響を与えにくいことが求められる。発電電荷の取り出しに影響を与えにくくするには、太陽電池用封止膜の帯電減衰時間(前述)を長くすることが好ましい。前記の通り、本発明の太陽電池用封止膜の帯電減衰時間は長いため、バックコンタクト型の太陽電池セルにより好適に用いられる。
【0075】
本発明の太陽電池モジュールは、本発明の目的を損なわない範囲で、任意の部材を適宜有してもよい。典型的には、接着層、衝撃吸収層、コーティング層、反射防止層、裏面再反射層、光拡散層などを設けることができるが、これらに限定されない。これらの層を設ける位置には特に限定はなく、そのような層を設ける目的、および、そのような層の特性を考慮し、適切な位置に設けることができる。
【0076】
3.太陽電池モジュールの製造方法
本発明の太陽電池モジュールの製造方法は、(i)表面側透明保護部材と、本発明の太陽電池用封止膜と、太陽電池セルと、太陽電池用封止膜と、裏面側保護部材とをこの順に積層して積層体を形成する工程と、(ii)得られた積層体を加圧および加熱して一体化する工程と、を含むことを特徴とする。
【0077】
工程(i)において、太陽電池用封止膜の凹凸形状(エンボス形状)が形成された面を太陽電池セル側になるように配置することが好ましい。
【0078】
工程(ii)において、工程(i)で得られた積層体を、常法に従って真空ラミネーターを用いて、加熱および加圧して一体化(封止)する。封止において、本発明の太陽電池用封止膜は、クッション性が高いため、セルの損傷を防止することができる。また、脱気性が良好であるため空気の巻き込みもなく、高品質の製品を歩留り良く製造することができる。
【0079】
太陽電池モジュールの製造するときに、太陽電池用封止膜を構成する樹脂組成物を架橋硬化させる。この架橋工程は、工程(ii)と同時に行ってもよいし、工程(ii)の後に行ってもよい。
【0080】
架橋工程を工程(ii)の後に行う場合、工程(ii)において温度125〜155℃、真空圧10Torr以下の条件で3〜6分間真空・加熱し;次いで、大気圧による加圧を1〜5分間程度行い、上記積層体を一体化する。工程(ii)の後に行う架橋工程は、一般的な方法により行うことができ、例えば、トンネル式の連続式架橋炉を用いてもよいし、棚段式のバッチ式架橋炉を用いてもよい。また、架橋条件は、通常、140〜155℃で30〜40分程度である。
【0081】
一方、架橋工程を工程(ii)と同時に行う場合、工程(ii)における加熱温度を145〜155℃とし、大気圧による加圧時間を6〜15分とすること以外は、架橋工程を工程(ii)の後に行う場合と同様にして行うことができる。
【0082】
いずれにしても、本発明の太陽電池モジュールの製造は、架橋剤が実質的に分解せず、かつ本発明の太陽電池用封止膜が溶融するような温度で、太陽電池セルや保護材に太陽電池用封止膜を仮接着し、次いで昇温して十分な接着と封止膜の架橋を行えばよい。諸条件を満足できるような添加剤処方を選べばよく、例えば、上記架橋剤および上記架橋助剤などの種類および含浸量を選択すればよい。
【実施例】
【0083】
次に、本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0084】
[物性測定方法および評価方法]
帯電減衰時間の測定
所定の大きさに裁断した太陽電池用封止膜を、太陽電池モジュール製作用ラミネータを用いて、150℃、真空3分、加圧10分でラミネートしてシートとした。得られたシートを温度が23±2℃、湿度50±5%RH、75℃(湿度制御せず)、100℃(湿度制御せず)環境下で、JIS−K6911に準拠して体積抵抗率測定装置(アドバンテスト社製、品番:TR8601 High Megohm Meter)で、体積抵抗測定用の電極を用いて帯電減衰時間を測定した。
【0085】
具体的には、厚さ約0.4mmのシートの前処理(熱ラミネート)したサンプルを準備し、厚さ測定を行った。このサンプルを用いて、JIS−K6911に準拠の体積抵抗率の測定治具にセットし、厚み方向に電圧が印加されるように装置に接続した。またガード電極はグランドに接続した。
【0086】
次に、所定の温度下で、十分放電した後、電圧を500V印加し、流れる電流が一定に飽和するまで待機した。その後、電圧を0にして、測定装置の電流計測モードにより、サンプルに流れる電流量をモニターした。このとき、出力をデジタルマルチメータ(商品名:デジタルマルチメータ2000、ケースレー社製)で計測し電流量に換算した。この電流値にサンプルの体積抵抗を乗じて電圧に換算し、これを帯電による電圧とした。帯電による電圧を、サンプル厚みで規格化して帯電電界として定義した。この際、用いた抵抗値は、電圧印加後60秒後の値を用いた。前記の電圧(500V)印加後、帯電電界が100V/cmとなるまでの時間を「帯電減衰時間」と定義した。
【0087】
体積抵抗率の測定
前述の帯電減衰速度の測定と同様に、太陽電池用封止膜シートを作成し、10×10cm、厚さ約0.4mmに裁断した。裁断後のシートの体積抵抗率を、ASTM−D257-93に準拠し、印加電圧500Vで測定した。測定環境は温度23±2℃、湿度50±5%RH、75℃(湿度制御せず)、100℃(湿度制御せず)とし、測定機には(商品名:R8340A、アドバンスト社製)を用いた。
【0088】
太陽電池の出力評価
本発明の効果を確認するため、簡易的に1セルの評価用モジュールを作製して評価を行った。具体的には、p型シリコン基板をHCl溶液で清浄化した後、ダメージ層を除去するため、フッ酸、硝酸混合溶液を用いて表面を軽度なエッチングした基板を用意した。
【0089】
次に、シリコン基板の面のうち、モジュールとなったときに受光側となる面に、パッシベーション膜として酸化シリコン薄膜を形成した。続いて、その裏面側に、不純物拡散のマスク層として酸化シリコン膜を形成し、n+領域となる部分をエッチング除去し、熱拡散法によりリンをドープした。同様に、酸化シリコン膜をエッチング除去し、p+領域をアルミニウム蒸着し熱拡散法によりドープした。さらに、n+領域およびp+領域に、それぞれアルミ電極を蒸着により形成し、取り出し電極とした。
【0090】
次に、1セルの評価用モジュールを作製した。具体的には、上記n+領域およびp+領域の取り出し電極に、幅2mm、銅箔厚み100μmにはんだメッキしたリボンを接続し;接続したリボンにエポキシ系のAgペーストを塗布し硬化させて、取り出しリードを設けた。n+領域からの取り出しリードとp+領域からの取出しリードを、それぞれをプラス極およびマイナス極として、セルを得た。
【0091】
ガラス板を置き、その上に、太陽電池用封止膜、前記セル、太陽電池用封止膜、バックシートを、この順に載せた積層体を準備した。ガラス板は、白板ガラス(旭ガラスファブリテック製、白板フロートガラス3.2mm厚)とした。バックシートは、テドラ−フィルム(株式会社ジーエイチクラフト社製)とした。積層体を、真空加熱ラミネータを用いて封止してモジュールとした。
【0092】
得られたモジュールに、100W/m(1SUN:AM1.5フィルタ)の光を照射し、短絡時の電流を電流計(商品名:デジタルマルチメータ2000、ケースレー社製)にて計測し、初期評価Isc0とした。
【0093】
次に、プラス端子とマイナス端子とを短絡し、ガラス面にカーボンシートを載せ、カーボンシートをグランドに接続した。そして、端子に電圧を500V印加して2時間放置した。その後、電圧を0として、短絡電流(Isc)が測定できるように接続を素早く変更し、1SUN光源下で同様に短絡電流を測定した。この測定直後の短絡電流値をIsc1とした。
【0094】
さらに光の当たらない状況で2時間放置した後、同様にIscの値を計測し、Isc2とした。
【0095】
電圧印加する前の短絡電流(Isc0)の値を1として、電圧印加後、電圧を0とした直後の短絡電流値Isc1およびIsc2を規格化した。規格化された短絡電流値Isc1およびIsc2が、1%未満の変化量である場合をA、1%以上5%未満の変化量である場合をB、5%以上の変化量である場合をCと評価した。
【0096】
[実施例1]
エチレン含量73質量%、プロピレン含量22.9質量%、5-エチリデン-2-ノルボルネン(ENB)4.1質量%のエチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体100重量部と、架橋剤として有機過酸化物であるt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルカーボネート(TBEC)0.8重量部と、架橋助剤としてトリアリルイソシアヌレート(TAIC)1重量部と、接着性付与材としてシランカップリング剤であるγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.2重量部と、光安定化剤としてビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート0.1重量部と、を含む樹脂組成物を用意した。前記エチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体の、190℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)は5.0dg/min.であった。
【0097】
【化1】

【0098】
前記樹脂組成物のシ−ト状溶融ウェブを押し出し、厚さ0.45mmの太陽電池用封止膜を作製した。
【0099】
[実施例2]
エチレン含量73質量%、プロピレン含量22.9質量%、5-エチリデン-2-ノルボルネン(ENB)4.1質量%のエチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体100重量部と、架橋剤として有機過酸化物であるt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルカーボネート(TBEC)0.4重量部と、有機化酸化物である2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(DBPH)0.1重量部と、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)1重量部と、接着性付与剤としてシランカップリング剤であるγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.2重量部と、光安定化剤としてビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート0.1重量部と、紫外線吸収剤として2-ヒドロキシ-4-オクトキシベンゾフェノン0.3重量部と、を含む樹脂組成物を用意した。前記エチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体の、190℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)は5.0dg/min.であった。
【0100】
前記樹脂組成物のシ−ト状溶融ウェブを押し出し、厚さ0.45mmの太陽電池用封止膜を作製した。
【0101】
[実施例3]
固体触媒成分の調製
特開平9−328520記載の方法にて、メタロセン化合物であるジメチルシリレンビス(3-メチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリドを含有する固体触媒の調製を行った。1g当りのジルコニウム含有量は2.3mgであった。
【0102】
予備重合触媒の調製
調製した固体触媒4gを用いて、特開平9−328520記載の方法にて、1-ヘキセンとエチレンからなる予備重合触媒を得た。固体触媒1g当りのジルコニウム含有量は2.2mgであり、3gのポリエチレンを予備重合された予備重合触媒を得た。
【0103】
エチレン系重合体(A1)のペレットの製造
充分に窒素置換した内容積2リットルのステンレス製オートクレーブに、脱水精製したヘキサンを800ミリリットル装入し、系内をエチレンと水素の混合ガス(水素含量;0.7モル%)で置換した。次いで系内を60℃とし、トリイソブチルアルミニウム1.5ミリモル、1-ヘキセン200ml、および前記予備重合触媒を、ジルコニウム原子換算で0.015mg原子を添加した。その後、上記と同様の組成を有するエチレンと水素の混合ガスを導入し、全圧3MPaGとして重合を開始した。その後、混合ガスのみを補給し、全圧を3MPaGに保ち、70℃で1.5時間重合を行った。重合終了後、ポリマーを濾取し、80℃で1晩乾燥し、エチレン系重合体(A1)を101g得た。
【0104】
エチレン系重合体(A1)を、サーモ・プラスチック(株)社製単軸押出機(スクリュー径20mmφ・L/D=28)を用いて、ダイス温度=190℃の条件下でペレット化した。
【0105】
エチレン系重合体(A2)のペレットの製造
エチレンと水素の混合ガスの水素含量を0.5モル%、ヘキサンの量を870ミリリットル、1-ヘキセンの量を230ミリリットルに代えた以外は、重合例1と同様にして、130gのエチレン系重合体(A2)を得た。さらに、重合例1と同様に単軸押出機にてペレット化した。
【0106】
太陽電池用封止膜の製造
エチレン系重合体(A1)のペレット90重量部と、エチレン系重合体(A2)のペレット10重量部との混合物に、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.5重量部と、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン0.05重量部と、2-ヒドロキシ-4-ノルマル-オクチルオキシベンゾフェノン0.4重量部と、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート0.1重量部と、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト0.1重量部と、を添加した。混合物をドライブレンドし、エチレン系重合体ブレンド物を得た。
【0107】
サーモ・プラスチック(株)社製単軸押出機(スクリュー径20mmφ・L/D=28)に、コートハンガー式T型ダイス(リップ形状;270×0.8mm)を装着した。得られた成形機を用いて、ダイス温度=210℃条件下、ロール温度30℃、巻き取り速度1.0m/minの条件で、前記エチレン系重合体ブレンド物の成形を行った。これにより、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランによる変性エチレン系樹脂を含有するエチレン系樹脂組成物からなる、厚み0.45mmの太陽電池用封止膜を作製した。
【0108】
前記樹脂組成物のシ−ト状溶融ウェブを押し出し、厚さ0.45mmの太陽電池用封止膜を作製した。
【0109】
実施例1〜3の太陽電池用封止膜の物性値および評価結果を表1に示す。
【0110】
【表1】

【0111】
実施例1〜3の太陽電池用封止膜の帯電減衰時間は、いずれの温度環境下においても長時間である。特に、75℃または100℃環境下での帯電減衰時間が9000秒以上である。そのため、各太陽電池用封止膜を用いて作製した太陽電池セルモジュールの出力評価も、出力変動が小さかった。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明の太陽電池用封止膜は、特定の帯電特性、つまり帯電しにくい性質を有する。そのため、太陽電池モジュールにおける封止部材として用いられると、太陽電池セルの発電特性に悪影響を与えることなく、特に温度の変化による太陽電池セルの発電出力の低下や出力変動を抑制することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体およびエチレン・α-オレフィン共重合体からなる群から選択される重合体成分と、架橋剤と、を含む太陽電池用封止膜であって、
前記太陽電池用封止膜を、10分間、150℃で加熱して得たシートの、JIS K6911に準拠して印加電圧500V、100℃で測定した帯電減衰時間が9000秒以上である、太陽電池用封止膜。
【請求項2】
光安定化剤をさらに含み、前記重合体成分100重量部に対する光安定化剤の含有量が0〜1重量部である、請求項1に記載の太陽電池用封止膜。
【請求項3】
前記光安定化剤が、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケートである、請求項2に記載の太陽電池用封止膜。
【請求項4】
表面側透明保護部材と、裏面側保護部材と、前記表面側透明保護部材と裏面側保護部材とに挟持された複数の太陽電池セルと、前記表面側透明保護部材と裏面側保護部材との間に太陽電池セルを封止する封止部材と、を有する太陽電池モジュールであって、
前記封止部材は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の太陽電池用封止膜の硬化物である、太陽電池モジュール。
【請求項5】
(i)表面側透明保護部材と、請求項1〜3のいずれかに記載の太陽電池用封止膜と、太陽電池セルと、該太陽電池用封止膜と、裏面側保護部材とをこの順に積層して積層体を形成する工程と、
(ii)工程(i)で得られた積層体を加熱および加圧して一体化する工程と
を含むことを特徴とする太陽電池モジュールの製造方法。


【公開番号】特開2011−228435(P2011−228435A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−96107(P2010−96107)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】