説明

太陽電池集光シート及びモジュール付太陽電池集光シート

【課題】集光効率を向上させることができる太陽電池集光シート及モジュール付太陽電池集光シートを提供する。
【解決手段】前面側から背面側に向かって順に、前面側を保護するとともに、可視光領域における光透過性を有するカバー層1と、短波長光(第1の波長光)L1を吸収して励起され、該短波長光L1とは異なる波長及び方向の発光光(第2の波長光)L2を発光する発光体を含む吸収再発光粒子層2と、光透過性を備え、短波長光L1よりも長い波長を有する長波長光(第3の波長光)L3を回折する回折格子層3と、背面側を保護するとともに、可視光領域における光透過性を備えたバックシート層4とを積層して太陽電池集光シート10を得る。この太陽電池集光シート10の積層方向側方に太陽電池モジュール20を接続してモジュール付太陽電池集光シート100を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集光効率を向上させるための太陽電池集光シート、及び、太陽電池集光シートと太陽電池モジュールとからなるモジュール付太陽電池集光シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化問題に対する関心が高まる中、二酸化炭素の排出抑制のために、種々の努力が続けられている。化石燃料の消費量の増大は、大気中の二酸化炭素の増加をもたらし、その温室効果により地球の気温が上昇して地球環境に重大な影響を及ぼす。化石燃料に代替するエネルギーとしては、種々の自然エネルギーの中でも、環境負担の少ない太陽光による発電に対する期待が高まっている。
【0003】
ところが、太陽光のエネルギー密度が低いこと、太陽電池を使用しての太陽光を電力に変換するエネルギー変換効率が未だ高くないこと、光電変換素子のコストが高いこと等の理由から、太陽電池による発電は、採算を取れるほどの経済性が無く、本格的に普及するまでには至っていないのが現状である。このため、太陽光のエネルギー密度を向上させるための集光方法の検討や、発電効率の高い光電変換素子の開発、さらには、光電変換素子のコストダウン等が検討されている。
【0004】
上記光電変換素子としては、単結晶シリコン型、多結晶シリコン型、アモルファスシリコン型、化合物型(III―V族、II−IV族等)、色素増感型、有機半導体型、さらにこれらの複合型等の種類がある。これらについては、発電効率の向上、使用し易さ、コストダウン等を追及するため、一般的なシート状の他、球状、棒状、薄膜シート状等、様々な形状の光電変換素子の開発が進められている。
【0005】
しかし、これらの方式では、光照射時に発生される光起電力を取り出すために、光電変換素子や支持体に微細な加工を施す必要があるため、生産性が悪いという欠点があり、当該方式で製造した光電変換素子は広く普及するに至っていない。
【0006】
一方、太陽電池による発電効率の向上を狙って、集光レンズ方式、反射鏡方式、プリズム方式、光吸収・発光利用集光方式等が検討されている。これら方式は、太陽光のエネルギー密度を高くした後、当該太陽光を光電変換素子に導くことで発電の向上を図っている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
また、各種集光方式における最も一般的な集光方式としては、フレネルレンズを使った方式が知られている(例えば、特許文献2及び3参照)。この方式はフレネルレンズの焦点位置に光電変換素子を配置することにより、太陽光のエネルギー密度を高めている。しかし、太陽光線の方角を正確に追尾するための付帯装置が必要となる他、進入してくる太陽光線の角度や太陽電池の設置場所に制約があるという欠点がある。また、反射鏡を用いたシステムも同様の制約が考えられ、有効効率や製造コスト等の問題がある。
【0008】
これに対し、太陽光を発光体(有機染料又は無機イオン)に吸収させてから再発光させ、再発光成分を透明板の中を横方向に導くことにより集光素子に入射させる方式を用いた光吸収-発光利用集光器が知られている。この光吸収-発光利用集光器は、追尾を必要としないが、光吸収-発光過程の効率が低いために、実験室レベルでは作成可能であるが、実用化には至っていないのが現状である(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−177181号公報
【特許文献2】特開2002−289898号公報
【特許文献3】特開2004−214470号公報
【特許文献4】特開2002−270883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、上記光吸収・発光利用集光器で発光体を選択する場合には、再発光した光を再吸収することを防ぐために励起光と発光が重ならないような材料を選択する必要がある。したがって、励起波長と発光波長の差が大きい物質を選ばなければならない。また、ほとんどの場合において、励起波長は発光波長より小さくなるが、太陽光における分光放射照度分布は黒体放射に近く波長に対して連続的になっている。そのため、光吸収・発光利用集光器では、用いられている発光体の励起波長以上の波長域の太陽光が集光できない問題がある。
【0011】
例えば、結晶シリコン型太陽電池において効率よくエネルギーを変換できる波長である800nm近傍の光を集めるために選択される発光体として、発光波長を800nm、励起波長を600nmの発光体を採用した場合、600nmを越える波長の光については発光体による吸収・再発光ができない。したがって、励起波長と発光波長の間の太陽光については曲げることはできない。
【0012】
そこで、効率を上げるために、先の励起波長よりも長い波長域に励起波長を有する別の吸収及び発光剤をブレンドする必要があるが、この場合には、別の発光体の励起波長が発光させたい発光波長に重なってしまうことがある。このように励起波長が発光波長に重なるということは、再発光した光をまた吸収するということを意味するため、したがって、効率が低下してしまう。
【0013】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであって、集光効率を向上させることができる太陽電池集光シート及モジュール付太陽電池集光シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために本発明は以下の手段を提案している。
即ち、本発明に係る太陽電池集光シートは、複数層が積層されてなり、該積層方向の側方側に太陽電池モジュールが接続される太陽電池集光シートにおいて、前面側から背面側に向かって順に、前記前面側を保護するとともに、可視光領域における光透過性を有するカバー層と、第1の波長光を吸収して励起され、該第1の波長光とは異なる波長及び方向の第2の波長光を発光する発光体を含む吸収再発光粒子層と、光透過性を備え、第3の波長光を回折する回折格子層と、前記背面側を保護するとともに、可視光領域における光透過性を備えたバックシート層とが積層されてなることを特徴としている。
【0015】
このような特徴の太陽電池集光シートによれば、前面側から入射してカバー層を透過した光のうち第1の波長光は、吸収再発光粒子層により吸収されて波長及び方向の異なる第2の波長光として放射される。この第2の波長光のうち、回折格子層を直進してバックシート層内にて全反射の条件を満たす角度の光は、太陽電池モジュールが接続される太陽電池集光シートの側方へと向かって進行する。
一方、前面側から入射してカバー層を透過した光のうち第1の波長光よりも波長の大きい第3の波長光は、吸収再発光粒子層において吸収されることはなく透過し、回折格子層において大きく曲げられる。そして、この光のうちバックシート層内にて全反射の条件を満たす角度の光は、太陽電池モジュールが接続される太陽電池集光シートの側方へと向かって進行する。
【0016】
また、本発明に係る太陽電池集光シートは、前記バックシート層の背面側に、空気層を介して、反射層が設けられたことを特徴としている。
【0017】
このような特徴の太陽電池集光シートによれば、上記第2の波長光のうち、回折格子層を透過してバックシート層内にて全反射の条件を満たさずに背面側に出射される光を、前面側に反射させて、太陽電池モジュールが接続される太陽電池集光シートの側方へと向かって進行させることができる。
また、上記第3の波長光のうち、バックシート層内にて全反射の条件を満たさずに背面側に出射される光を、前面側に反射させて、太陽電池モジュールが接続される太陽電池集光シートの側方へと向かって進行させることができる。
【0018】
さらに、本発明に係る太陽電池集光シートにおいては、前記第2の波長光の最大波長が可視光領域である380nm〜780nmの範囲内であることが好ましい。
【0019】
さらに、本発明に係る太陽電池集光シートは、前記カバー層と、前記吸収再発光粒子層と、前記回折格子層と、前記バックシート層とが、それぞれ接粘着剤を介して、接着積層されていることを特徴としている。
これにより、カバー層、吸収再発光粒子層、回折格子層とを確実に積層一体化させることができる。
【0020】
また、本発明に係る太陽電池集光シートは、前記吸収再発光粒子層及び前記回折格子層が、前記前面側から見て互いに重ならないようにグリッド状に配置されていることを特徴としている。
【0021】
このような特徴の太陽電池集光シートによれば、前面側から見た場合に、吸収再発光粒子層と回折格子層とが重なることなく吸収再発光粒子層のみが配置されている部分と回折格子層のみが配置されている部分とでは見え方が異なるものとなる。したがって、吸収再発光粒子層と回折格子層とを任意にグリッド状に配置することにより、太陽電池集光シートに図案、文字等の模様を付すことが可能となる。
【0022】
本発明に係るは、上記いずれかの太陽電池集光シートと、該太陽電池集光シートにおける積層方向側方側に接続される前記太陽電池モジュールとを備えることを特徴とする。
【0023】
このような特徴のモジュール付太陽電池集光シートにおいては、上述のように太陽電池集光シートの前面側から入射される第1の波長光及び第2の波長光が太陽電池モジュールが接続される側方に向かって曲げられるため、該太陽電池モジュールに入射する光量を増加させることができる。
【0024】
また、本発明に係るモジュール付太陽電池集光シートは、前記太陽電池モジュールに含まれる光電変換素子が、多結晶型シリコン、単結晶型シリコン、アモルファス型シリコン、球状シリコン、多結晶型シリコンとアモルファス型シリコンとの積層体のいずれかが用いられていることが好ましい。
【0025】
さらに、本発明に係るモジュール付太陽電池集光シートは、前記太陽電池モジュールは、光学接粘着層を介して前記太陽電池集光シートの積層方向側方側に接続されていることを特徴としている。
これにより、太陽電池集光シートと太陽電池モジュールを強固に一体化させてモジュール付太陽電池集光シートを構成することが可能となる。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る太陽電池集光シート及びモジュール付太陽電池集光シートによれば、第1の波長光が吸収再発光粒子層によって方向変換することができ、該第1の波長光よりも波長の大きい第3の波長光が回折格子層によって方向変換することができるため、太陽光の入射角度に関わらず、広い範囲の波長光を太陽電池集光シートの側方に向かって進行させることができる。したがって、太陽電池モジュールに入射する光量を増大させることができる。即ち、集光効率を向上させるとともに、発電量を増大させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施形態のモジュール付太陽電池集光シートの概略構成を示す縦断面図である。
【図2】実施形態のモジュール付太陽電池集光シートの前面側から見た平面図である。
【図3】実施形態のモジュール付太陽電池集光シートの平面視における配置例を示す図である。
【図4】実施形態のモジュール付太陽電池集光シートの前面に垂直な太陽光が入射した場合の光学的作用を示すモジュール付太陽電池集光シートの縦断面図である。
【図5】実施形態のモジュール付太陽電池集光シートの前面に傾斜した太陽光が入射した場合の光学的作用を示すモジュール付太陽電池集光シート縦断面図である。
【図6】吸収再発光粒子層と回折格子層とが前面側から見て互いに重ならないようにグリッド状に配置されている場合のモジュール付太陽電池集光シートの平面図である。
【図7】実施形態のモジュール付太陽電池集光シートにおいて、反射層が設けられていない場合の概略構成を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の太陽電池集光シート及びモジュール付太陽電池集光シートの実施の形態について添付図面に基づいて詳細に説明する。
【0029】
図1に示すように、本実施形態のモジュール付太陽電池集光シート100は、複数層が積層されてなる太陽電池集光シート10の積層方向側方側に太陽電池モジュール20が接続されることで構成されており、太陽電池集光シート10の前面側から入射する太陽光を太陽電池モジュール20に導いて太陽光発電を行うものである。
【0030】
太陽電池集光シート10においては、前面側から背面側に向かって順に、カバー層1と、吸収再発光粒子層2と、回折格子層3と、バックシート層4と、反射層5とが積層されることで構成されている。また、カバー層1と吸収再発光粒子層2とは第1の接粘着層6Aによって、吸収再発光粒子層2と回折格子層3とは第2の接粘着層6Bによって、回折格子層3とバックシート層4とは第3の接粘着層6Cとによって、それぞれ接粘着されており、バックシート層4と、反射層5との間には、空気層7が介在されている。
【0031】
カバー層1は、太陽電池集光シートの最前面に配置される層であって、少なくとも可視光領域に対して透明である材料から形成されている。即ち、このカバー層1としては、ガラスやポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエチレンスルフィド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリノルボルネン系樹脂、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルコール系樹脂、メチルセルロース、エチルセルロースやそれらの誘導体等のセルロース系樹脂等から形成された基板が採用される。
【0032】
また、屋外に設置することを考慮すると、カバー層1は、霰、雹等の落下物に耐えるだけの耐衝撃性を備えていることが求められる。よって、当該カバー層1としては、厚さ2〜30mm程度の上記材料からなる基盤を用いることが好ましい。
なお、カバー層1の材質がガラスの場合には、厚みが2mm以下の場合には加工途中で破損してしまう。特に厚みが1mm以下の場合にはハンドリング性が著しく悪化するため不適である。
【0033】
一方、ガラスにおいては厚みが20mm以上、プラスチックにおいては厚みが30mm以上の場合には、一般的な家屋の屋根の耐荷重より大きくなってしまうため不適である。
なお、太陽電池モジュール20の光電変換素子が多結晶型、もしくは、単結晶型シリコンの場合には、バンドギャップが1.11eVであり波長として1150nm程度までは光電変換できるため、白板ガラスが主に用いられる。
【0034】
吸収再発光粒子層2は、透明樹脂内に光を吸収して発光する発光体を混入させた層であって、カバー層1と回折格子層3との間に設けられている。
この吸収再発光粒子層の透明樹脂としては、アクリル樹脂としてはエポキシ樹脂が用いられる。
また、発光体としては蛍光によるもの、りん光によるもののいずれを用いてもよい。さらに、発光体の材料としては有機物、有機金属化合物及び無機物のいずれであってもよい。
【0035】
なお、本実施形態における発光体は、該発光体に吸収されて発光体を励起する光の波長である励起波長が、300〜600nmの範囲に設定されていることが好ましい。これによって、発光体は、太陽電池集光シート10の前面側から入射する光のうち、上記励起波長と等しい波長を有する短波長光L1のみを吸収することになる。
また、発光体が励起されて発光する発光光(第2の波長光)L2の最大発光波長が380〜780nmの範囲に設定されていることが好ましい。
【0036】
最大発光波長が380〜780nmにある発光体の具体例としては、例えば有機物であるならば、オキサゾール系、クマリン系、ピレン系、ペリレン化合物、ナフタルイミド系、フルオレセイン系、ローダミン系、ペリレン系、アントラキノン系、チオインジゴ系、ベンゾピラン系、ダンシル系(ジメチルアミノナフタレンスルホン酸類)等が挙げられる。また、有機金属化合物であるならば、エンジオンジオラート錯体、アルミニウムキノリノラート錯体、イリジウム錯体、[Al(acac)]等が挙げられる。さらに、無機化合物であるならば、希土類元素又はそのイオン等が挙げられる。その他半導体ナノ粒子や、量子ドット等の量子サイズ効果を用いた蛍光体を用いてもよい。
【0037】
発光体が無機化合物である場合に用いられる希土類元素としては、Ce(セリウム)、Pr(プラセオジウム)、Nd(ネオジウム)、Pm(プロメチウム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユーロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Yb(イッテルビウム)等が挙げられる。
【0038】
また、本実施形態における発光体としては、ns2形イオンと呼ばれる元素を発光中心として結晶母体に賦活されたも蛍光体でもよい。または、これらの金属酸化物、有機金属錯体でもよい。例として、Cu(銅)、Zn(亜鉛)、Ga(ガリウム)、Ge(ゲルマニウム)、As(ヒ素)、Ag(銀)、Cd(カドミウム)、In(インジウム)、Sn(スズ)、Sb(アンチモン)、Au(金)、Hg(水銀)、Tl(タリウム)、Pb(鉛)、Bi(ビスマス)等が挙げられる。
【0039】
さらに、本実施形態における発光体としては、遷移金属イオンと呼ばれる元素を発光中心として結晶母体に賦活された蛍光体でもよい。または、これらの金属酸化物、有機金属錯体でもよい。これらとしては、Cr(クロム)、Fe(鉄)、Mn(マンガン)等が挙げられる。
【0040】
上記発光体となる蛍光体の結晶母体としては、ZnS、CaS、SrSや、BaAl、SrAl、CaAl等のIIa−III−IV型、BaAl、BaAl、CaAl、SrAl等のIIx−IIIy−IVz型等の硫化物、ZnO、BeO、MgO、CdO、Y、CaGa、ZnGeO、(Y0.6−(GeO0.4等の酸化物、Y−Si−O−N、SrSi、LaAl(Si6−z)N10−z(JEM)、MSiで表される(MはCa、Sr、Ba)アルカリ土類窒化物、MSi12−(m+n)Alm+n16−nで表される(MはCa、Sr、Ba)α-サイアロン、Si6−zAl8−zで表されるβ−サイアロン、AlN、GaN、CaAlSiNで表されるCASN等が挙げられる。
【0041】
回折格子層3は、直線状の凹凸が微小なサイズの周期で平行に並んで構成されている。該回折格子層3の回折角を有するための1mm当たりの溝本数は、下記の下記のグレーティング方程式(1)式から求めることができる
sin(α)= Nmλ± sin(β) ・・・(1)
(α:入射角、β:回折角、N:1mmあたりの溝本数、m:回折次数、λ:波長)
【0042】
本実施形態においては、太陽電池集光シート10の前面側から入射する光のうち、波長が300〜600nmの光である短波長光(第1の波長光)L1は発光体に吸収されるため、該短波長光L1の波長を越える波長光を回折する溝本数とすればよい。即ち、本実施形態においては、短波長光L1よりも波長の大きい長波長光(第3の波長光)L3のみが回折格子層3によって回折させられるように溝本数が設定されている。具体的には、近赤外領域の光、かつ、住宅用で一般的に用いられる多結晶シリコン型太陽電池が光電変換できる波長である780nm〜1150nmの領域について回折可能な回折格子を用いると良い。よって、本実施形態においては、長波長光L3の波長も780nm〜1150nmとされる。
【0043】
なお、入射光の角度としては、通常の場合、春分及び秋分の日の正午に太陽電池モジュール20の受光面が太陽光に対して直角になるように設置されるため、0°〜23.4°の範囲について考慮する必要がある。
【0044】
また、上記(1)式に基づいて、太陽電池集光シート10の屈折率をおよそ1.5とした場合の−1次の回折角を求めると、回折格子層3の溝本数が1mm当たりについて300〜1200本の間が好適であることがわかる。
上記溝本数が1mm当たり300本以下の場合には、回折格子層3により曲げられた光が、バックシート層4を透過し空気層7を通過した後反射層5で反射される。そして、この反射により回折格子層3に再入射した光が再び回折すると、−1次の回折角度がカバー層1の全反射角度よりも小さいために、該カバー層1から前面側に放出してしまう。一方、回折格子の数が1mm当たり1200本以上の場合には回折光が得られないため集光ができず好ましくない。
【0045】
バックシート層4は、カバー層1と同様、可視光領域に対して透明である材質から形成されている。具体的には、ガラスやポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエチレンスルフィド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリノルボルネン系樹脂、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルコール系樹脂、メチルセルロース、エチルセルロースやそれらの誘導体等のセルロース系樹脂等からなる基板が、バックシート層4として用いられる。
なお、バックシート層4については、あられ、雹等の落下物に耐えるだけの耐衝撃性はカバー層1によって付与されているため、厚さ2〜10mm程度の上記材料を用いることができるが、屋根の荷重との兼ね合い等により、カバー層1よりも薄い厚みで十分である。
【0046】
太陽電池集光シート10の最背面に空気層7を介して配置される反射層5としては、銅、アルミ、金、銀等の金属板の他、屈折率の異なる誘電体の多層膜を蒸着等の手法により作成したものを別の基板に貼り付けた構成のものを用いることができる。
【0047】
なお、空気層7の積層方向の厚み、即ち、バックシート層4と反射層5との間隔は、大き過ぎると屋根に設置する際に凹凸が増えて風等の気象条件の影響を受け易くなってしまう。したがって、この空気層7の積層方向の厚みは10cm以下に設定することが好ましい。
【0048】
第1の接粘着層6A、第2の接粘着層6B、第3の接粘着層6Cは、光透過性を有する接粘着剤からなり、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)やポリビニルブチラール(PVB)等が用いられる。これらは第1の接粘着層6A、第2の接粘着層6B、第3の接粘着層6Cによって、カバー層1、吸収再発光粒子層2、回折格子層3及びバックシート層4が積層一体化される。これらを一体化させるには、カバー層1上に第1の接粘着層6A、吸収再発光粒子層2、第2の接粘着層6B、回折格子層3、第3の接粘着層6C及びバックシート層4を順次積み重ねた後にラミネートにより接合させることで行われる。
【0049】
このような構成の太陽電池集光シート10に接続される太陽電池モジュール20としては、単結晶シリコン型、多結晶シリコン型、アモルファスシリコン型、化合物型(III―V族、II−IV族等)、色素増感型、有機半導体型、さらにそれらの複合型、CIS型を用いることができる。
ただし、太陽電池の種類によって光電変換できる波長が異なるので、吸収再発光粒子層2で変換された後の650nm以上に効率の良い吸収帯を備えた結晶型シリコン型、多結晶シリコン型、化合物型、色素増感型、有機半導体型等を用いることが好ましい。
また、該太陽電池モジュール20の光電変換素子の形状としては、ヘテロジャンクション結合を有しており両面で発電できる形態や、球状の光電変換素子が望ましい。
【0050】
このような太陽電池モジュール20が光学接着剤8を介して、太陽電池集光シート10の積層方向側方側に接続されている。なお、本実施形態においては、太陽電池モジュール20は、カバー層1、吸収再発光粒子層2、回折格子層3及びバックシート層4に接続されており、反射層5には接続されていない。
光学接着剤8としては、エポキシ系、アクリル系、ウレタンアクリレート系等汎用の光学用途向け接着剤を用いることができる。なお、場合により、光学用途向けの粘着剤を用いることも可能である。これによって、太陽電池集光シート10と太陽電池モジュール20を強固に固定一体化することができる。
【0051】
ここで、図2に本実施形態のモジュール付太陽電池集光シートの平面図、即ち、光が入射する前面側から見た図を示す。モジュール付太陽電池集光シートの平面視における太陽電池集光シート10の太陽電池モジュール20との接触する箇所の長さa、即ち、太陽電池集光シート10の奥行き長さaは、当該太陽電池モジュール20と等しいことが望ましい。一般的な太陽電池モジュールの1単位が15cm程度であり、これらが数枚ほど電気的に直列で接続されているので、当該奥行の長さaとしては1〜2m程度である。
また太陽電池集光シートの幅bについては、長波長光L3が回折格子層により曲げられて反射層5により反射された後に太陽電池モジュール20の光電変換素子に光が導入される場合を考慮すると、この場合、反射層5とのギャップとなる空気層7とバックシート層4との界面で、外部反射が生じるため、幅bの長さはある程度までの長さに抑える必要がある。具体的には、幅bは、太陽電池集光シート10の積層方向の厚みの50倍の長さ以内に設定することが望ましい。
【0052】
なお、太陽電池モジュール20は太陽電池集光シート10の積層方向側方一側のみならず、図3に示すように、太陽電池集光シート10の積層方向両側に接続されていてもよい。これにより、平面視にて太陽電池集光シート10と太陽電池モジュール20とが交互に配置されることになる。
【0053】
次に、本実施形態のモジュール付太陽電池集光シート100の光学的作用について、図4及び図5を用いて説明する。
【0054】
当該モジュール付太陽電池集光シート100は屋外等に設置され、その前面側から太陽光Lが垂直又は傾斜して入射する。図4は、太陽光Lがモジュール付太陽電池集光シート100の前面に対して略垂直に入射する場合、図5は、太陽光Lがモジュール付太陽電池集光シート100の前面に対して傾斜して入射する場合を示している。
【0055】
太陽電池集光シート1に入射する太陽光Lのうち、吸収再発光粒子層2の発光体の励起波長と等しい波長を有する短波長光(第1の波長光)は、前面側から入射してカバー層1を通過した後、吸収再発光粒子層2の発光体により吸収される。
そして、発光体が励起されることにより、該発光体が、短波長光L1とは波長及び方向の異なる発光光(第2の波長光)L2を放射する。この発光光L2は短波長光L1よりも波長が大きい光であって、その進行方向は短波長光L1が進む方向から傾斜した角度に放射される。即ち、発光体においては、短波長光L1の波長変換及び方向変換が行われるようにして、発光光L2として放射されるのである。
【0056】
そして、上記発光光L2は、回折格子層3にて回折されることなく直進し、該発光光L2のうち、バックシート層4と空気層7との界面で全反射の条件を満たす角度の光は、当該界面で全反射されて、太陽電池集光シート10の積層方向側方へと向かって進行する。これにより、発光光L2が太陽電池モジュール20に入射する。
【0057】
一方、太陽電池集光シート10の前面に垂直に入射する太陽光Lのうち、短波長光(第1の波長光)よりも波長の大きい長波長光L3は、カバー層1を通過した後、吸収再発光粒子層2の発光体に吸収されることなく透過して回折格子層3に至る。そして、長波長光L3は回折格子層3によって回折格子層により回折させられてバックシート層4へと向かって進行する。
【0058】
この長波長光L3のうち、バックシート層4と空気層7との界面で全反射の条件を満たさない角度の光は、バックシート層4と空気層7との界面で屈折して進行し、反射層5により反射させられて再度バックシート層4へと入射し、太陽電池集光シート10の積層方向側方へと向かって進行する(図4参照)。
また長波長光L3のうち、バックシート層4と空気層7との界面で全反射の条件を満たす角度の光は、当該界面で全反射されて、太陽電池集光シート10の積層方向側方へと向かって進行する(図5参照)。
【0059】
このようにして、本実施形態のモジュール付太陽電池集光シート100においては、太陽光L1のうち、発光体の励起波長と等しい波長を有する短波長光(第1の波長光)については、吸収再発光粒子層2により方向変換することができ、また、短波長光(第1の波長光)よりも長い波長を有する長波長光(第3の波長光)については、回折格子層3によって方向変換することができる。したがって、太陽光Lの入射角度に関わらず、広範囲の波長光を太陽電池モジュール20に向かって進行させることができるため、太陽電池モジュール20に入射する光量を増大させることができる。したがって、集光効率を向上させるとともに、発電量を増大させることが可能となる。
【0060】
以上、本発明での実施形態について詳細に説明したが、本発明の技術的思想を逸脱しない限り、これらに限定されることはなく多少の設計変更等も可能である。
【0061】
例えば、太陽電池集光シート10及びモジュール付太陽電池集光シート100においては、図6に示すように、吸収再発光粒子層2と回折格子層3とが前面側から見て互いに重ならないようにグリッド状に配置されていてもよい。この場合、吸収再発光粒子層2と回折格子層3とのうち、吸収再発光粒子層2のみが存在する領域と回折格子層3のみが存在する領域がグリッド状に配置される。
【0062】
このような構成とすることにより、太陽電池集光シート10を前面側から見た場合に、吸収再発光粒子層2と回折格子層3とが重なることなく吸収再発光粒子層2のみが配置されている部分と回折格子層3のみが配置されている部分とでは見え方が異なるものとなる。したがって、吸収再発光粒子層2と回折格子層3とを任意にグリッド状に配置することにより、太陽電池集光シート10に図案、文字等の模様を付すことが可能となる。なお、図6においては、文字「A」が視認されるようにグリッド状に配置されている。
【0063】
また、図7に示すように、太陽電池集光シート10及びモジュール付太陽電池集光シート100においては、反射層5が設けられていないものであってもよい。この場合、モジュール付太陽電池集光シート100を設置する際に、屋根瓦等が反射部材として利用される。即ち、バックシート層4から出射される光は屋根瓦によって反射させられて太陽電池モジュール20へと進行する。なお、このように反射層5を有していないも太陽電池集光シート10を前面側から見ると、吸収再発光粒子層2と屋根瓦とを合わせた色彩として視認される。
【0064】
なお、太陽電池集光シート10の積層方向側面における太陽電池モジュール20が接続されていない側面については、集光効率をより向上させるために、アルミニウム等の金属からなる蒸着膜や板をつけて、全反射させる構成とすればよい。
【実施例】
【0065】
次に、太陽電池集光シート10及びモジュール付太陽電池集光シート100の実施例について説明する。
【0066】
(第1実施例)
(吸収再発光粒子層の作成)
ポリメタクリル酸樹脂(メルトフローレート1.5g/10min)(製品名: VH6、三菱レイヨン製)に525nmの最大吸収波長、571nmに最大発光波長を有する蛍光体粉末(Lumogen F Orange 240,BASF社製)を0.02wt%分散させた物質を押し出し成形にてφ60mm、スクリューL/D=20を用い、シリンダー温度220℃の作成することにより、0.1mmの厚みの吸収再発光粒子層2を得た。
【0067】
(太陽電池集光シートの作成 )
カバー層1として、3mmの白板ガラス(旭硝子製、ソライト)をベースとした。その上に、第1の接粘着層6Aとして0.4mmのEVA(三井ファブロ社製)、0.1mmの吸収再発光層、第2の接粘着剤6B(第1の接粘着剤と同じ)、500本/mmの回折格子層3(エドモンド・オプティクス・ジャパン株式会社 回折格子フィルム)、第3の接粘着剤6C(第1の接粘着剤と同じ)、バックシート層4として1mmの白板ガラス(旭硝子製)を積み重ねた。ついで、これらをラミネートラミネート温度130℃、真空時間6分、加圧時間1分、架橋反応(150℃、40分)により一体化させて太陽電池集光シート10を得た。
【0068】
(モジュール付太陽電池集光シートの作成)
上記のような方法で得られて太陽電池集光シート10の積層方向側方側の端面に対し、多結晶型シリコンからなるセル(太陽電池モジュール20)を光学接着剤8(NORLAND社製 NOA76)を用い貼り付けを行うことで、モジュール付太陽電池集光シート100を得た。
【0069】
(第2実施例)
第2実施例は第1実施例と同様にして作成された太陽電池集光シート10の積層方向側方側の端面に対し、両面発電型の太陽電池モジュール20(三洋電機製 HIT)を光学接着剤8(NORLAND社製 NOA76)を用い、貼り付けを行うことで、モジュール付太陽電池集光シート100を得た。
【0070】
(第3実施例)
第3実施例は第1実施例と同様にして作成された太陽電池集光シート10の積層方向側方側の端面に対し、光電変換素子が球状シリコンからなる太陽電池モジュール20(京セミ製 スフェラー)を光学接着剤8(NORLAND社製 NOA76)を用い、貼り付けを行うことで、太陽電池モジュールを得た。
【符号の説明】
【0071】
1 カバー層
2 吸収再発光粒子層
3 回折格子層
4 バックシート層
5 反射層
6A 接粘着層
6B 接粘着層
6C 接粘着層
7 空気層
8 光学接着剤
10 太陽電池集光シート
20 太陽電池モジュール
100 モジュール付太陽電池集光シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数層が積層されてなり、該積層方向の側方側に太陽電池モジュールが接続される太陽電池集光シートにおいて、
前面側から背面側に向かって順に、
前記前面側を保護するとともに、可視光領域における光透過性を有するカバー層と、
第1の波長光を吸収して励起され、該第1の波長光とは異なる波長及び方向の第2の波長光を発光する発光体を含む吸収再発光粒子層と、
光透過性を備え、前記第1の波長光よりも長い波長を有する第3の波長光を回折する回折格子層と、
前記背面側を保護するとともに、可視光領域における光透過性を備えたバックシート層とが積層されてなることを特徴とする太陽電池集光シート。
【請求項2】
前記バックシート層の背面側に、空気層を介して、反射層が設けられたことを特徴とする請求項1に記載の太陽電池集光シート。
【請求項3】
前記第2の波長光の最大発光波長が可視光領域である380nm〜780nmの範囲内であることを特徴とする請求項1又は2に記載の太陽電池集光シート。
【請求項4】
前記カバー層と、前記吸収再発光粒子層と、前記回折格子層と、前記バックシート層とが、それぞれ接粘着剤を介して、接着積層されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の太陽電池集光シート。
【請求項5】
前記吸収再発光粒子層及び前記回折格子層が、前記前面側から見て互いに重ならないようにグリッド状に配置されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の電池集光シート。
該太陽電池集光シートの積層方向側方側に、前記太陽電池モジュールが接続されていることを特徴とするモジュール付太陽電池集光シート。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の太陽電池集光シートと、
該太陽電池集光シートにおける積層方向側方側に接続される前記太陽電池モジュールとを備えることを特徴とするモジュール付太陽電池集光シート。
【請求項7】
前記太陽電池モジュールに含まれる光電変換素子が、多結晶型シリコン、単結晶型シリコン、アモルファス型シリコン、球状シリコン、多結晶型シリコンとアモルファス型シリコンとの積層体のいずれかが用いられていることを特徴とする請求項6に記載のモジュール付太陽電池集光シート。
【請求項8】
前記太陽電池モジュールは、光学接粘着層を介して前記太陽電池集光シートの積層方向側方側に接続されていることを特徴とする請求項6又は7のいずれか一項に記載のモジュール付太陽電池集光シート。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−9536(P2011−9536A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−152426(P2009−152426)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】