説明

失禁用パンツ

【課題】 吸水パッドをポケット部に出し入れする際の操作性を向上し、装着時における装着者のストレスを緩和することのできる失禁用パンツを提供する。
【解決手段】 前身頃2と、後身頃3と、一端部が前身頃2に連なり、かつ他端部が後身頃3に連なって延びる股部4であって、通液性を有する通液シート7と、通液シート7を外側から覆い、両側部が前身頃2から後身頃3にわたって、通液シート7に固定され、前身頃2側の一端部の端縁17が、股部4が延びる方向に垂直な基準一直線m2に対して、予め定める角度範囲で傾斜して形成される外カバーシート8とを有し、通液シート7と外カバーシート8との間に吸液パッド30を収容可能な股部4と、を含むことを特徴とする失禁用パンツ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、失禁用パンツに関する。
【背景技術】
【0002】
失禁症状は、出産や成人病、高齢化、事故などの後遺症によって発症する。従来、失禁症状を発症した場合には、排尿を吸収するための吸収層が形成された大人用おむつを装着することがその対策として採られていた。
【0003】
しかしながら、大人用おむつは、通常のパンツと比較して厚みがあるため、大人用おむつを装着し、その上に衣服を着用した場合には、他人に大人用おむつを装着していることが認識されているのではないかという不安感によるストレスが生じてしまうという問題点がある。また、大人用おむつの通常のパンツとは異なるごわごわとした装着感によって、装着者に違和感や不快感を生じさせ、装着者に精神的および肉体的苦痛を生じさせ、特に軽失禁者にとって大人用おむつの使用は、ストレスの要因となり、日常生活に悪影響を与えるという問題がある。
【0004】
そこで、これらの問題点を解決するための従来技術として、特許文献1や特許文献2に記載のような、股部に使い捨ての吸水パッドを出し入れ可能なポケット部を前記大人用おむつに比べて格段に薄い生地から成るパンツに設けた失禁対策用パンツが提案されている。
【0005】
特許文献1および2に記載の失禁対策用パンツでは、前記大人用おむつに比べて格段に薄い生地から成るパンツに、使い捨ての吸液パッドである吸水パッドを出し入れ可能なポケット部が設けられているので、失禁による排尿を吸水パッドで吸収するとともに、通常のパンツと同様の履き心地を実現している。
【0006】
しかしながら、特許文献1および2に記載の失禁対策用パンツでは、正中矢状面とも呼ばれる縦方向の身体中心面にほぼ垂直に開口を有するポケット部が股部に形成されているため、股部に向かって手を挿入し、吸水パッドを交換する際における、吸水パッドの操作性、特に衣服とパンツを着用した状態で、衣服とパンツの間から吸水パッドを交換する場合の操作性が悪いという問題がある。
【0007】
また、特許文献1に記載の失禁対策用パンツでは、木炭の粉を練り込んだ繊維からなる生地を使用することによって、排尿にともなう防臭について配慮がなされているが、特許文献1および2のいずれの従来技術においても防臭効果を充分に期待することができず、能動的な正の感情、すなわちリフレッシュ感、および受動的な正の感情、すなわちリラックス感を与えることはできず、装着者にストレスを与えない装着感が良好な失禁用パンツが望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−29485号公報
【特許文献2】特開2006−328601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、吸水パッドをポケット部に出し入れする際の操作性を向上し、装着時における装着者のストレスを緩和することのできる失禁用パンツを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前身頃と、
後身頃と、
一端部が前身頃に連なり、かつ他端部が後身頃に連なって延びる股部であって、
通液性を有する通液シートと、
通液シートを外側から覆い、両側部が前身頃から後身頃にわたって、通液シートに固定され、前身頃側の一端部の端縁が、股部が延びる方向に垂直な基準一直線に対して、予め定める角度範囲で傾斜して形成される外カバーシートとを有し、
通液シートと外カバーシートとの間に吸液パッドを収容可能な股部と、を含むことを特徴とする失禁用パンツである。
【0011】
また本発明は、前記前身頃および後身頃の少なくとも一方には、芳香剤を収容するための収容部が設けられることを特徴とする。
【0012】
また本発明は、前記収容部に収容される芳香剤をさらに含み、当該芳香剤は、植物系香料を主成分として含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、通液シートと通液シートを外側から覆う外カバーシートとの間に吸液性を有する吸液パッドを収容可能であって、当該外カバーシートは、外カバーシートの前身頃側の一端部の端縁が、股部が延びる方向に垂直な基準一直線に対して、予め定める角度範囲で傾斜して形成されている。
【0014】
したがって、吸液パッドを通液シートと外カバーシートとの間に出し入れする場合に、無理のない自然な腕の動きによって手を失禁用パンツと着衣との間に挿入して、外カバーシートの前身頃側の一端部の端縁付近に配置される吸液パッドの一部を把持して容易に取り出すことができる。
【0015】
また、前記外カバーシートの前身頃側の一端部の端縁が予め定める角度範囲で傾斜して形成されるので、新たな吸液シートを通液シートと外カバーシートとの間に挿入するに際して、外カバーシートの前身頃側の一端部の端縁を手指で把持し、その背後の通液シートから離反する方向に引っ張ることによって、広い開口縁で開口させることができ、容易かつ円滑に吸液パッドを通液シートおよび外カバーシート間に挿入して装着することができる。
【0016】
また、本発明によれば、前身頃および後身頃の少なくとも一方には、芳香剤を収容するための収容部が設けられているので、芳香剤から放散される芳香によって、排尿にともなう悪臭を緩和し、または消臭して、装着者である自己および周囲の人へ不快感を与えることを防止することができる。また、たとえば装着者の嗜好の芳香を放散させることによって、装着者の失禁用パンツの装着による不快感およびストレスを緩和させることができる。
【0017】
また、本発明によれば、収容部に収容される芳香剤がさらに含まれ、当該芳香剤は、植物系香料を主成分としているので、装着者の気分をリラックスさせることができ、装着時におけるストレスをより一層効果的に緩和させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態である失禁用パンツ1の正面図である。
【図2】図1の失禁用パンツ1を背後から見た背面図である。
【図3】図1の失禁用パンツ1の一部を切欠いた正面図である。
【図4】図1の失禁用パンツ1の外カバーシート8を外した状態を示す正面図である。
【図5】身体Mを模式的に示した図である。
【図6】失禁用パンツ1の装着者が、股部4に収容された吸液パッド30を出し入れする場合の腕の配置を説明するための図である。
【図7】人間が着座した状態を示す図である。
【図8】失禁用パンツ1の着圧を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明の一実施形態である失禁用パンツ1の正面図であり、図2は図1の失禁用パンツ1を背後から見た背面図であり、図3は図1の失禁用パンツ1の一部を切欠いた正面図であり、図4は図1の失禁用パンツ1の外カバーシート8を外した状態を示す正面図である。図1〜図4において、失禁用パンツ1は、前身頃2と後身頃3とを重ねて偏平に展開した状態を示す。
【0020】
本実施形態では、女性用である失禁用パンツ1について記載するが、同様の構成で男性用失禁用パンツとして用いることも可能である。
【0021】
失禁用パンツ1は、前身頃2と、後身頃3と、一端部が前身頃2に連なり、かつ他端部が後身頃3に連なる股部4とを含む。このような失禁用パンツ1は、丸編によって、前身頃2および後身頃3を一体編成された筒編地によって構成される。
【0022】
前身頃2は、失禁用パンツ1が身体に装着された状態において、装着者の腹部を覆う部分である。前身頃2および股部4には、装着時に装着者の脚が挿通される一対の脚穴部5が設けられ、前身頃2の環状の腰部2aと一方の脚穴部5との間の領域には、芳香剤や消臭剤などが収容可能な収容部6とが設けられる。各脚穴部5は、略円形状の一対の脚穴を形成し、股部4の幅方向両側に設けられる。収容部6については後で詳述する。
【0023】
後身頃3は、失禁用パンツ1が身体に装着された状態において、装着者の臀部を覆う部分である。本実施形態において、後身頃3は丸編によって前述の前身頃2と一体に編成され、前身頃2と後身頃3とは、縫い合わされることなく環状に連なって形成される。
【0024】
前身頃2および後身頃3の編地の材料は特に限定されることはないが、たとえばナイロン繊維を50〜95wt%、ポリウレタン繊維を5〜50wt%の割合で混紡され、太さを160〜10デシテックスの混紡原糸によって、伸縮性および通気性を有する編地が用いられる。
【0025】
股部4は、一端部が前身頃2に連なり、かつ他端部が後身頃3に連なって延び、失禁用パンツ1が身体に装着された状態において、装着者の股間を覆う部分である。股部4は、通液性を有する通液シート7と、通液シート7を外側から覆う外カバーシート8とを有し、通液シート7と外カバーシート8との間に吸液性を有する吸液パッド30を収容可能に形成される。
【0026】
通液シート7は、略矩形状のシート体であって、長手方向一端部9が前身頃2に縫着され、長手方向他端部10が後身頃3に縫着して固定され、幅方向両側部11,12は前身頃2および後身頃3には固定されず、後述する外カバーシート8と縫着して固定される。通液シート7は、通液性および伸縮性を有していればよく、たとえばポリエステルやナイロンからなるメッシュ生地から形成される。通液シート7の寸法は、失禁用パンツ1の大きさによって適宜変更可能であるが、本実施形態では長手方向の寸法が16.5cm、幅方向の寸法が7.5cm、厚み方向の寸法が0.2〜0.5cmである。
【0027】
外カバーシート8は、略矩形状のシート体であって、通液シート7を外側から覆うように形成される。ここで、外側とは、失禁用パンツ1が身体に装着された状態において、装着者と接触しない側であり、内側とは、失禁用パンツ1が身体に装着された状態において、装着者と接触する側である。
【0028】
外カバーシート8は、幅方向両側部13,14が前身頃2から後身頃3にわたって、通液シート7に縫着して固定され、長手方向一端部15は、前身頃2側に配置され、縫着して固定されることなく遊端部として形成され、長手方向他端部16が後身頃3に縫着して固定される。
【0029】
このように、外カバーシート8の端部のうち長手方向一端部15以外の端部が、通液シート7および後身頃3に縫着して固定されることによって、通液シート7と外カバーシート8とによって袋状の収容部が形成され、通液シート7と外カバーシート8との間に吸液パッド30を収容可能となる。
【0030】
通液シート7と外カバーシート8とによって袋状の収容部が形成され、通液シート7と外カバーシート8との間に吸液パッド30を収容した状態での失禁用パンツ1の装着時において、身体と接触する側である内側に通液シート7が配置され、身体と接触しない外側に外カバーシート8が配置されるので、装着者が失禁行為を行った場合には、排尿は通液シート7を透過して吸液パッド30に吸収される。また、後述する本実施形態における吸液パッド30の外カバーシート8側に配置される裏面シートが、非通液性および撥水性を有するので、吸収された排尿が失禁用パンツ1の上に着用されている衣服などに染み出すことを防止することができる。
【0031】
吸液パッド30としては、公知のあらゆる吸液パッドを使用することができるが、本実施形態では矩形状部分の両側に半円状部分が一体に連なる略長円状であって、長手方向の寸法が15.8cmであり、幅方向の寸法が7.0cmであり、厚み方向の寸法が0.1cmである。また、本実施形態では、通気性および通液性を有するメッシュ生地からなる表面シートと、当該表面シートの周縁部に接合される非通液性および撥水性を有する裏面シートと、当該表面シートと裏面シートとの間に介在される吸収層とからなる吸液パッドを用いている。本実施形態における吸液パッド30は、表面シートが通液シート7側に、裏面シートが外カバーシート8側になるように配置して用いられる。
【0032】
このような吸液パッド30を用いることによって、後述する外カバーシート8が、不透水性や撥水性を有する必要がなくなるので、外カバーシート8に用いることのできる編地などの選択肢を多くすることができ、失禁用パンツ1の意匠的な美観や履き心地を向上させることが可能となる。
【0033】
外カバーシート8は、伸縮性を有していればよく、たとえばポリエステル繊維などの合成繊維や綿などの天然繊維から形成される。本実施形態では、前身頃2および後身頃3と同種の生地から形成される。但し、外カバーシート8の材質は、前身頃2および後身頃3と同種の生地や前記繊維に限らず、たとえば不透水性、撥水性および伸縮性を有する、ポリエステルの合成繊維で編成した編生地にポリウレタン系の熱可塑性合成樹脂フィルムをラミネートしたラミネート生地や綿などの天然繊維とアクリルなどの合成繊維を混用して編成した編生地にポリウレタン系の熱可塑性合成樹脂フィルムをラミネートしたラミネート生地からなってもよい。
【0034】
外カバーシート8が、不透水性、撥水性および伸縮性を有する生地からなる場合には、通気性および通液性を有し、周縁部で接合される2枚のシートと、両シート間に介在される吸収層とからなる吸液パッドを用いてもよい。このように非通液性および撥水性を有する裏面シートを含まない、吸液パッドを用いても、外カバーシート8が、不透水性および撥水性を有するので、本実施形態と同様に、吸収された排尿が失禁用パンツ1の上に着用されている衣服などに染み出すことを防止することができる。
【0035】
外カバーシート8の伸縮性は、通液シート7の伸縮性と同程度でもかまわないが、通液シート7の伸縮性よりも低いほうが好ましい。このように外カバーシート8の伸縮性が通液シート7の伸縮性よりも低いことによって、失禁用パンツ1の装着時に、吸液パッド30が伸縮性の低い外カバーシート8によって装着者の身体側へ吸液パッド30が押圧される。したがって、装着時において、身体と通液シート7と吸液パッド30とを身体の動きに追従させて、互いに密着させた状態に保つことができるので、身体の姿勢や動きに関わらず、排尿を通液シート7を介して吸液パッド30に吸収させることができる。
【0036】
外カバーシート8の長手方向一端部15の端縁17、より詳細には端縁17の両端18,19を結んだ仮想一直線m1は、幅方向一側部13から幅方向他側部14に向かって、外カバーシート8の幅方向に平行な基準一直線m2に対して、予め定める範囲で傾斜して形成される。
【0037】
外カバーシート8の長手方向一端部15の端縁17は、端縁17の両端18,19を結んだ仮想一直線m1が、幅方向一側部13から幅方向他側部14に向かって、股部4が延びる方向に垂直な基準一直線である、外カバーシート8の幅方向に平行な基準一直線m2に対して、予め定める角度範囲で傾斜して形成されていればよく、その形状が略一直線であっても円弧を描いて形成されていてもよい。本実施形態では、外カバーシート8の長手方向一端部15の端縁17は、略直線状に形成される。他の実施形態では、端縁17は、前身頃2側または後身頃3側に凸に湾曲した略円弧状に形成されてもよい。
【0038】
本実施形態において、基準一直線m2は、通液シート7の前身頃2に縫着して固定される長手方向一端部9の端縁20の両端21,22を結んだ直線である。外カバーシート8の長手方向一端部15の端縁17の両端18,19を結んだ仮想一直線m1は、幅方向一側部13から幅方向他側部14に向かって、後身頃3と縫着される外カバーシート8の長手方向他端部16に近接する方向に、通液シート7の前身頃2に縫着して固定される長手方向一端部9の端縁20の両端21,22を結んだ前述の基準一直線m2に対して、角度θ1だけ傾斜して形成される。傾斜角度θ1は、40°〜50°の範囲内であればよく、本実施形態では40°傾斜して形成される。
【0039】
前述のように、角度θ1は、基準一直線m2に対して仮想一直線m1が傾斜する角度であり、後述する角度θ2は、失禁用パンツ1の装着者が、股部4に収容された吸液パッド30を交換する場合において、正中矢状面に対して前腕が傾斜する角度である。また、角度θ1は、角度θ2が決定されることによって、導き出すことのできる角度である。
【0040】
次に、傾斜角度θ1の算出方法についての説明を行う。図5は、身体Mを模式的に示した図であり、図6は、失禁用パンツ1の装着者が、股部4に収容された吸液パッド30を出し入れする場合の腕の配置を説明するための図である。
【0041】
図中、L1は、身体Mの頸側から肩峰までの水平方向における距離を示し、L2は、肩峰から肘頭までの距離を示し、L3は、前腕の距離を示し、L4は、正中矢状面上における肩峰から股下までの距離を示す。また図中A〜Dは、図5と図6における身体の各部分の対応関係の理解を容易にするために付した符号であり、同一部分には同一の符号を付している。
【0042】
失禁用パンツ1の装着者が、股部4に収容された吸液パッド30を交換する場合には、起立した状態で交換するので、顎側と肩峰とを水平方向に結ぶ直線と正中矢状面とが垂直に交差した状態で、肩峰を支点として上腕および前腕を上方に持ち上げ、その状態から肘頭を支点として前腕を股下に近接する方向に折り曲げることになる。
【0043】
したがって、失禁用パンツ1の装着者が、股部4に収容された吸液パッド30を交換する場合の腕の配置は図6に示すようになり、正中矢状面に対する前腕の傾斜角度θ2は、距離L1〜L4が決定されることによって、一意的に決定される。表1は日本人の成人女性における距離L1〜L4と、傾斜角度θ2との関係を示す表である。なお、表1における距離L1〜L4は、社団法人人間生活工学研究センター「日本人の人体寸法データブック2004−2006、p.103,151,173,175,187」に記載の20歳〜79歳までの各年代の平均値、最小値、最大値を算術平均して求めた値である。
【0044】
【表1】

【0045】
表1に示すように、傾斜角度θ2は、40°〜50°の角度範囲内であることがわかる。ここで、吸液パッド30の出し入れを行いやすくするためには、この傾斜角度θ2内における手の挿入線に対して直交するように吸液パッド30の収容部が開口、すなわち吸液パッド30の上面側に配置される外カバーシート8の長手方向一端部15の端縁17が傾斜するように形成されていることが必要である。
【0046】
ここで、通液シート7の長手方向一端部9の端縁20の両端21,22を結んだ基準一直線m2と平行な直線L5は、正中矢状面に対して略垂直に形成される。したがって、傾斜角度θ1は傾斜角度θ2と等しい角度、すなわち40°〜50°となる。
【0047】
このことから、仮想一直線m1が、幅方向一側部13から幅方向他側部14に向かって、外カバーシート8の長手方向他端部16に近接する方向に、基準一直線m2に対して、角度θ1傾斜して形成されている場合には、外カバーシート8の端縁17が吸液パッド30を出し入れする際の挿入方向に対して、直交し易い角度となっているので、その他の角度に設けられている場合よりも、吸液パッド30の出し入れを容易に行うことができる。
【0048】
このように外カバーシート8が角度θ1傾斜して形成されているので、吸液パッド30を通液シート7と外カバーシート8との間に出し入れする場合に、無理のない自然な腕の動きによって手を失禁用パンツ1と着衣との間に挿入して、外カバーシート8の長手方向一端部15の端縁17付近に配置される吸液パッド30の一部を把持して容易に取り出すことができる。
【0049】
また、外カバーシート8の長手方向一端部15の端縁17が予め定める角度範囲θ1傾斜して形成されるので、新たな吸液パッド30を通液シート7と外カバーシート8との間に挿入するに際して、外カバーシート8の長手方向一端部15の端縁17を手指で把持し、その背後の通液シート7から離反する方向に引っ張ることによって、広い開口で開口させることができ、容易かつ円滑に吸液パッド30を通液シート7および外カバーシート8間に挿入して装着することができる。また、外カバーシート8の長手方向一端部15の端縁17が予め定める角度範囲θ1で傾斜して形成されるので、目視で確認することなく、手指の感覚のみで吸液パッド30を出し入れするべき開口を認識することができ、たとえば目の不自由な人や視力が弱くなっている高齢者などの非健常者であっても、容易に吸液パッド30の装着および交換を行うことができる。
【0050】
収容部6は、芳香剤や消臭剤などが収容可能であればよく、形状や大きさは特に限定されない。また、予め収容部6に芳香剤が収容されていてもよく、後から芳香剤を収容するようにしてもよい。このように芳香剤や消臭剤を収容することのできる収容部6が設けられているので、芳香剤から放散される芳香や消臭剤の消臭効果によって、排尿にともなう悪臭を緩和し、または消臭して自己および周囲の人へ不快感を与えることを防止することができる。また、装着者の嗜好の芳香を放散させることによって、装着者の失禁用パンツ1の装着による不快感およびストレスを緩和させることができる。
【0051】
図7は、人間が着座した状態を示す図である。図8は、失禁用パンツ1の着圧を説明するための図である。図7および図8に示す長さHは、座位における大腿部の下面から上面までの大腿高さを示す。
【0052】
表2に示すように、日本人の成人女性の場合、長さHの最大値は133.5mm、最小値は95.2mmであって、平均値は110.9mmである。なお、表2における長さHは、社団法人人間生活工学研究センター「日本人の人体寸法データブック2004−2006、p.405,411」に記載の20歳〜79歳までの各年代の平均値、最小値、最大値を算術平均して求めた値である。
【0053】
【表2】

【0054】
収容部6に収容される芳香剤や消臭剤が、厚みのほとんどない、たとえばシート体などに含浸されている場合には、身体の動きに沿って当該シート体も変形するので、収容部6がいずれの箇所に設けられていても問題はないが、芳香剤や消臭剤が固形で、適度の平均粒径、たとえば0.1mm〜3mmφの粒状物として形成され、当該粒状物が収容部6に収容される場合には、身体の動きに沿って粒状物が変形せず、装着者の身体を押圧して痛みを伴ったり、不所望に粒状物が粉砕してしまうなどの問題が生じる。
【0055】
このことから、収容部6は、失禁用パンツ1において、座位であっても大きく変形を生じない位置に設けられることが好ましい。この点、前記高さHよりも上方に設けられていれば、座位において大きな変形を生じることはない。したがって、収容部6は、座位において大腿部の下面から上面に向かう方向に、下面から111mm以上離間した領域Eに設けられることが好ましい。
【0056】
また、失禁用パンツ1において、座位における大腿部の下面から座位大腿高さHよりも上方に位置する領域(図8に示す領域E)であって、正中矢状面から右半身における着圧をP,Q,Rの範囲それぞれについて計測したところ、下記の表3に示すように、範囲Pでは平均0.61kPa、範囲Qでは平均0.32kPa、範囲Rでは平均1.11kPaであった。
【0057】
前記各範囲P,Q,Rにおける着圧は、日本人の成人女性の標準的な身体を模した人形(マネキン)に失禁用パンツ1を装着し、失禁用パンツ1と人形(マネキン)の外表面との間に圧迫圧測定器(ザルツマン社製、商品名:MST−MK−IV)のプローブを各範囲P,Q,Rに取り付け、プローブに失禁用パンツ1からの接触圧力が作用するようにして測定した。
【0058】
なお、範囲P,Q,Rは、正中矢状面から前額面までの右半身(または左半身)を3等分した各範囲であって、正中矢状面から離反する方向順に、範囲R、範囲Q、範囲Pとする。また、正中矢状面から前額面までの左半身における着圧も右半身と同様の分布となった。
【0059】
【表3】

【0060】
着圧が低い部分は、着圧が高い部分と比較して、身体に密着していないということなので、範囲Qは範囲PおよびRよりも身体に密着していないことがわかる。ここで、失禁用パンツ1の装着時における履き心地を考えると、各範囲における着圧の差が小さく、均等な着圧が身体に対して付与されているほうが履き心地は向上する。
【0061】
そこで、範囲P,Q,Rのうち、最も着圧の低い範囲Qに収容部6を設けたところ、収容部6を設けた場合のほうが範囲Qにおける着圧が高くなることがわかった。また、収容部6を形成しない場合の範囲P,Q,Rの着圧をp,q,rとし、範囲Qに収容部6を形成した場合の着圧をq(k)とすると、以下の式(1)および式(2)が成り立つ。なお、式におけるkは、収容部6に収容される収容物の形状に関するパラメータである。
|p−q|>|p−q(k)| …(1)
|r−q|>|r−q(k)| …(2)
【0062】
上記式(1)および式(2)から、範囲Qに収容部6を設けた場合には、範囲P,Q,Rの着圧差が小さくなることがわかる。したがって、範囲Qに収容部6を設けることによって、隣接する範囲における着圧の差を小さくし、履き心地を向上させることができるので、収容部6は範囲Qに設けることが好ましい。
【0063】
また、収容部6は、失禁用パンツ1の内側および外側のどちらに設けられてもよいが、収容部6に収容される芳香剤や消臭剤の放散効率を考えると、装着者の体温が伝達されやすい、失禁用パンツ1の内側に設けられることが好ましい。しかしながら、収容部6の芳香剤などを出し入れする開口部が内側に形成されると、収容部6への芳香剤や消臭剤の出し入れが困難となるので、開口部は外側に形成されることが好ましい。
【0064】
したがって、丸編みによって、収容部6の収容物を収容する収容領域は、失禁用パンツ1の内側に配置され、収容部6の開口部は、外側に配置されるように形成されることが好ましい。このように収容部6を形成することによって、効率のよい放散性と、芳香剤や消臭剤などの収容物の出し入れの容易性とを両立することができる。
【0065】
本実施形態では、収容部6は、座位において大腿部の下面から上面に向かう方向に、下面から111mm以上離間した領域E内であって、前身頃2において正中矢状面から前額面までの右半身を3等分した範囲の中央の範囲Qに設けられる。また、本実施形態において収容部6の設けられる位置は、前記吸液パッド30を出し入れする際の挿入線上である傾斜角度θ2の範囲内に設けられる。
【0066】
このように、吸液パッド30を出し入れする際の挿入線上である傾斜角度θ2の範囲内に設けられることによって、衣服と失禁用パンツ1との間の手を挿入するための開口から漏れ出す悪臭を効率よく、緩和または消臭することができ、装着者である自己および周囲の人へ不快感を与えることを防止することができる。また、収容部6は、無理のない自然な腕の動きによって、吸液パッド30を出し入れする際の挿入線上に設けられているので、当該収容部6が挿入線上以外の範囲に設けられている場合に比べて、芳香剤などを出し入れする際の腕に対する負担が少なく、特に腕を自由に動かすことが困難な利用者であっても、芳香剤などの出し入れを容易に行うことができる。
【0067】
また本実施形態において、収容部6は矩形状部分の片側に半円状部分が一体に連なる略U字状に形成され、その大きさは、長手方向の寸法が4.0cm、短辺方向の寸法が3.0cmに形成される。また、本実施形態では、収容部6は、丸編で編成され、前身頃2および後身頃3と一体に形成される。
【0068】
このように丸編では、まず筒状編地が編成され、必要に応じて一部を切断および縫製加工することによって、周方向に切れ目がなく伸縮性を有することができるので、装着者の身体に沿って装着可能な失禁用パンツ1を製造することが可能であり、装着者の身体と失禁用パンツ1との間に空間が生じることによって、排尿が失禁用パンツ1外に漏れ出すことを防止することができる。
【0069】
収容部6には、公知のあらゆる芳香剤や消臭剤を収容することができ、芳香剤や消臭剤を固形の粒状物としたものや、シート体に含浸させたものなどを収容することもできる。芳香剤としては、リモネンなどのモノテルペン系炭化水素、アビエチンなどのジテルペン炭化水素、パラサイメンなどの芳香族炭化水素、リナロールなどのテルペン系アルコール、ベンジルアルコールなどの芳香族アルコール、シトラールなどのテルペン系アルデヒド、メントンなどのテルペン系ケトン、p−メチルアセトフェノンなどの芳香族ケトン、ジフェニルエーテルなどのフェノール誘導体、デカナールなどの脂肪族アルデヒド、ベンズアルデヒドなどの芳香族アルデヒド、シトラールジメチルアセタールなどのアセタール類、イソアミルアセテート、ギ酸ゲラニル、安息香酸メチルなどの脂肪族、芳香族酸カルボン酸エステル、ムスコンなどの大環状ケトン、ローズオキサイドなどの環状エーテル、インドールなどの複素環式化合物、γ−へプチルブチロラクトンなどのラクトン類、レモン油、オレンジ油、ライム油、ユーカリ油、ヒノキ油、ヒバ油、パイン油、ベルガモット油、ペパーミント油、テレピン油、ホー油、ラベンダ油、ジャスミン油、ローズ油、バニラなどの精油、みどりの香りとも呼ばれ、葉緑体膜を構成する脂質からα-リノレン酸やリノール酸がリポキシゲナーゼによって分解されてできる炭素数が6つのアルコールおよびアルデヒドの異性体各4種の総称である樹木系香り成分などを用いることができる。これらの芳香剤は、一種のみを用いてもよく、また、複数種を適宜組合せて用いてもよい。
【0070】
これらの中でも多くの人に対して、能動的な正の感情であるリフレッシュ感と受動的な正の感情であるリラックス感を与えることができ、リラクゼ−ション効果を有し、装着者の装着時におけるストレスを緩和することのできる芳香を備える植物形香料を主成分とするラベンダ、ロ−ズ、ハ−ブ、オレンジ、レモン、シナモン、ユ−カリなどから採取して精製した精油等の液体が好ましい。また、装着者の嗜好の芳香が放散されていれば、少なくとも装着者に対して、能動的な正の感情であるリフレッシュ感と受動的な正の感情であるリラックス感を与え、リラクゼ−ション効果を生じさせ、装着時におけるストレスを緩和することのできるので、たとえば装着者が嗜好する芳香の香水なども好ましく用いることができる。
【0071】
また、芳香剤に公知のあらゆる香料を付加して使用することもでき、たとえば、ペパーミント、プチグレイン、シトロネラ、スペアミント、ライム、マンダリンなどの気分をリフレッシュさせる香料、安息香、ゼラニウム、乳香、白檀 、マジョラム、ラベンダ、ラバンディンなどのリラックス感を与える香料や、サイプレス、カンファ、ベルガモット、ユーカリ、ローズウッド、ニアウリ、シダーリーフ、シナモンリーフなどのエアーフレッシュ効果を有する香料、カラマスルート、オリスルート、グリーンハーブ、フローラルなどの香料、ヒノキチオール、ヒバオイル、月桃オイル、ペニーローヤル、レモングラス、レモン、スパイクラベンダ、ナツメグ、オレガノ、セージ、ジンジャ、セーボリ、タイム、オールスパイス、シダーウッド、シナモンバーク、クローブバッズ、カユブテ、パイン、ティートゥリなどの抗菌性を有する香料を用いることができる。
【0072】
また消臭剤としては公知のあらゆる消臭剤を用いることができ、たとえば、悪臭成分に対するマスキング効果や、悪臭成分に化学的に作用することによる消臭効果が知られている月桂樹製油、セージ製油、タイム製油、しょうが製油、ペパーミント製油、ゼラニウム製油、ナツメグ製油等の植物製油、あるいは、クロロフィルa、クロロフィルb、フィトールなどのクロロフィル及びその誘導体を使用することができる。これらの消臭剤は、一種のみを用いてもよく、また、複数種を適宜組合せて用いてもよい。
【0073】
また失禁用パンツ1の形状は、本実施形態で示した形状に限らず、たとえばボクサーパンツ型であってもよい。このような形状のパンツであっても、本実施形態における失禁用パンツ1と同様の効果を奏することができる。
【0074】
また本実施形態では、丸編によって、失禁用パンツ1は編成されているが、他の編み方で編成してもよく、たとえば前身頃2、後身頃3および股部4を縫着したあとで、袋状部材を、前身頃2および後身頃3の内側または外側に縫着することによって収容部6を形成してもよい。このように収容部6を形成することによって、収容部6の形状や、色彩、柄などを前身頃2や後身頃3の色彩や柄などとは全く異なるものとすることができるので、失禁用パンツ1の美観を向上させることができる。
【0075】
また、前身頃2および後身頃3に用いる繊維としては、消臭繊維を用いてもよい。消臭繊維を用いることによって、排尿中に含まれるアンモニアによる悪臭を消臭することができるので、芳香剤の香りをより効率よく装着者である自己やその周囲の人に伝達することができ、自己および周囲の人へ不快感を与えることを防止することができる。また、失禁したことを臭いによって周囲の人に認識されにくくすることができるので、装着者の装着による精神的ストレスをより緩和することができる。
【0076】
前記消臭繊維としては、活性炭を混入、または亜鉛イオンや銅イオン、銀イオンなどを含む亜鉛混合物や銅化合物、銀化合物などで処理を施した合成繊維や綿などの天然繊維、レーヨンなどの短繊維などを用いることができる。
【0077】
また本実施形態の失禁用パンツ1は、女性の生理における生理用パンツとして用いることが可能である。このような用途で用いる場合には、吸液する対象が排尿だけではなく、血液などの体液となることから吸液パッド30を粘性の高い液体を吸収可能なものとすることが好ましい。
【0078】
また他の実施形態として、外カバーシート8の一端部15や、一端部15の端縁17に質感が異なる素材、たとえばレース生地やゴム素材、スパンコールやビーズなどの装飾部材を取り付けてもよい。このように質感が異なる素材を取り付けることによって、目視で確認することなく、手指の感覚のみで吸液パッド30を出し入れするべき開口を認識することができるので、たとえば目の不自由な人や視力が弱くなっている高齢者などの非健常者であっても、より容易に吸液パッド30の装着および交換を行うことができる。
【符号の説明】
【0079】
1 失禁用パンツ
2 前身頃
3 後身頃
4 股部
5 脚穴部
6 収容部
7 通液シート
8 外カバーシート
30 吸液パッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前身頃と、
後身頃と、
一端部が前身頃に連なり、かつ他端部が後身頃に連なって延びる股部であって、
通液性を有する通液シートと、
通液シートを外側から覆い、両側部が前身頃から後身頃にわたって、通液シートに固定され、前身頃側の一端部の端縁が、股部が延びる方向に垂直な基準一直線に対して、予め定める角度範囲で傾斜して形成される外カバーシートとを有し、
通液シートと外カバーシートとの間に吸液パッドを収容可能な股部と、を含むことを特徴とする失禁用パンツ。
【請求項2】
前記前身頃および後身頃の少なくとも一方には、芳香剤を収容するための収容部が設けられることを特徴とする請求項1記載の失禁用パンツ。
【請求項3】
前記収容部に収容される芳香剤をさらに含み、当該芳香剤は、植物系香料を主成分として含有することを特徴とする請求項2記載の失禁用パンツ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−90902(P2012−90902A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242807(P2010−242807)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000112299)ピップ株式会社 (46)
【Fターム(参考)】