説明

媒体搬送機構およびこれを備えた記録装置

【課題】最低限の動力で記録媒体の搬送を確実且つ安定に行うことができると共に、単純な構造でスペース効率良く構成することができる。
【解決手段】用紙を凹状に湾曲した反転搬送路R1に沿って搬送する媒体搬送手段41、59と、反転搬送路R1に沿って配設され、媒体搬送手段41、59による用紙の搬送をガイドする搬送ガイド45と、を備え、搬送ガイド45は、媒体搬送手段41、59に作用する用紙の搬送開始から搬送終了までの送り負荷が均一になるように、用紙に対する摩擦係数の異なる部位を連ねて構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、記録媒体を凹状に湾曲した搬送路に沿って搬送する媒体搬送機構およびこれを備えた記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の媒体搬送機構として、画像記録装置において給紙カセットから記録部に用紙を搬送する構成が知られている。この画像記録装置では、給紙カセットに臨む給紙ローラーと、給紙ローラーと記録部との間の給紙搬送路を構成する搬送路体と、搬送路体に設けた複数の回転コロと、を備えている。
搬送路体は、Uターン状の給紙搬送路(Uターンパス)に沿って設けた湾曲形状の板部と、板部に形成した開口を介して給紙搬送路に臨む複数の回転コロと、を有しており、複数の回転コロは、板部の内側に僅かに突出させた状態で、搬送方向に間隔を存して配設されている。これにより、記録媒体を1ずつ確実に且つ安定に記録部に給送できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−8328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように従来の媒体搬送機構では、複数の回転コロが板部の外側に大きく突出するため、給紙搬送路に沿って十分なスペースが必要となり、全体として装置が大型化し、且つ部品点数が増してコスト高になる問題があった。また、用紙を複数の回転コロの相互間で受け渡しながら搬送するため、送り負荷が大小不安定となると共に、各回転コロの取付け精度が低いと用紙の搬送姿勢が不安定(斜行等)となり、大きな出力の動力源を必要とすると共に印刷品質が悪化する問題があった。
【0005】
本発明は、最低限の動力で記録媒体の搬送を確実且つ安定に行うことができると共に、単純な構造でスペース効率良く構成することができる媒体搬送機構およびこれを備えた記録装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の媒体搬送機構は、記録媒体を凹状に湾曲した搬送路に沿って搬送する媒体搬送手段と、搬送路に沿って配設され、媒体搬送手段による記録媒体の搬送をガイドする搬送ガイドと、を備え、搬送ガイドは、媒体搬送手段に作用する記録媒体の搬送開始から搬送終了までの送り負荷が均一になるように、記録媒体に対する摩擦係数の異なる部位を連ねて構成されていることを特徴とする。
【0007】
ところで、凹状に湾曲した搬送路を単一の搬送ガイドで構成し、且つこれを限られたスペースにコンパクト配置しようとすると、搬送されてゆく記録媒体の摺動抵抗が大きいところと小さいところが生ずる。
この構成によれば、搬送ガイドを、送り負荷が均一になるように(すなわち、送り負荷のバラツキを抑えるように)、記録媒体に対する摩擦係数の異なる部位を連ねて構成することで、単純な構造で媒体搬送手段の送り負荷を均一にすることができる。これにより、媒体搬送手段を最低限の動力のもので構成することができると共に、記録媒体の搬送を確実且つ安定に行うことができる。また、従来技術のような複数の回転コロを必要としないため、記録媒体の搬送姿勢の安定化と構造の単純化とを図ることができると共に、省スペース化を図ることができる。これにより、装置を低コストでコンパクトに構成することができる。
【0008】
この場合、搬送ガイドは、搬送方向に連設されると共に、摩擦係数の異なる複数の部分ガイド部材を有していることが好ましい。
【0009】
この構成によれば、記録媒体の搬送に際し、搬送ガイドの摺動抵抗が大きいところと小さいところを、均一になるように簡単に調整することができる。これにより、記録媒体の送り負荷を容易に均一にすることができる。
【0010】
上記の媒体搬送機構において、部分ガイド部材は、並列状態で搬送方向に延在した2以上の畝状突起で構成されており、複数の部分ガイド部材は、連設する部分ガイド部材同士が、相互に噛み合うように配設されているが好ましい。
【0011】
一方、上記の媒体搬送機構において、部分ガイド部材は、搬送方向および幅方向に延在する板状部材で構成されており、複数の部分ガイド部材の連設部分は、相互に噛み合うように櫛歯状に形成されていることが好ましい。
【0012】
これらの場合、上記相互に噛み合う部分の先端部は、搬送路から外側に外れるように傾斜していることが好ましい。
【0013】
これらの構成によれば、複数の部分ガイド部材の連設部分における摺動抵抗の変化量を十分に抑制することができる。
【0014】
一方、複数の部分ガイド部材は、多色成型により一体に成型されていることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、記録媒体の送り負荷が均一となる搬送ガイドを、簡単且つ安価に製造することができる。
【0016】
また、搬送ガイドは、搬送路に沿って配設したガイドベースと、ガイドベースの表面に貼着したガイドシートと、を有し、ガイドシートは、摩擦係数の異なる複数の部分シートを搬送方向に連設して構成されていることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、記録媒体の搬送に際し、搬送ガイドの摺動抵抗が大きいところと小さいところを、均一になるように簡単に調整することができ、送り負荷の均一化を図ることができる。
【0018】
この場合、複数の部分シートの連設部分は、相互に噛み合うように櫛歯状に形成されていることが好ましい。
【0019】
この構成によれば、複数の部分シートの連設部分における摺動抵抗の変化量を十分に抑制することができる。
【0020】
一方、ガイドベースと複数の部分シートとは、多色成型により一体に成型されていることが好ましい。
【0021】
この構成によれば、記録媒体の送り負荷が均一となる搬送ガイドを、簡単且つ安価に製造することができる。
【0022】
さらに、搬送ガイドは、搬送路に沿って配設したガイドベースと、ガイドベースの表面に成膜したコート層と、を有し、コート層は、摩擦係数の異なる複数の部分コート層を搬送方向に連設して構成されていることが好ましい。
【0023】
この構成によれば、記録媒体の搬送に際し、搬送ガイドの摺動抵抗が大きいところと小さいところを、均一になるように簡単に調整することができ、送り負荷の均一化を図ることができる。また、記録媒体の送り負荷が均一となる搬送ガイドを、簡単且つ安価に製造することができる。
【0024】
一方、媒体搬送手段は、記録媒体の一方の面に転接する搬送ローラーと、搬送ローラーに前記記録媒体を押し付ける押圧機構と、を有していることが好ましい。
【0025】
この構成によれば、記録媒体を、スリップ等を生ずることなく適切に搬送することができると共、全体をコンパクトに構成することができる。また、記録媒体の搬送姿勢を安定化させることができる。
【0026】
本発明の記録装置は、記録媒体に記録を行う記録部と、記録部に記録媒体を給紙する給紙部と、給紙部から記録部に記録媒体を搬送する、上記の媒体搬送機構と、を備えたことを特徴とする。
【0027】
この構成によれば、記録媒体の搬送を確実且つ安定に行うことができるため、記録部による記録品質を良好に維持することができる。また、装置の小型化と省エネルギー化を、低コストで達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施形態に係る記録装置を示した外観斜視図である。
【図2】記録装置の内部構造を示した側方断面図である。
【図3】用紙カセットを示した裏面斜視図である。
【図4】搬送部廻りを示した裏面斜視図である。
【図5】給送ローラーおよび搬送ガイド廻りを示した要部斜視図である。
【図6】給送ローラーおよび搬送ガイド廻りを示した要部断面図である。
【図7】(a)は、送り負荷のプロファイルデータを示した図である。(b)は、プロファイルデータの特徴的な各点における、用紙Pの先端位置を示した図である。(c)は、各点の先端位置と部分ガイド部材の配設位置とを示した断面図である。
【図8】第1変形例の搬送ガイドを対向面から見た模式図である。
【図9】(a)は、第2変形例の搬送ガイド45を示した要部断面図である。(b)は、第3変形例の搬送ガイド45を示した要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係る記録装置について説明する。この記録装置は、起立姿勢で保持した用紙(記録媒体)を搬送しながら所望の記録を行い、排紙した印刷済みの用紙を起立状態で重ねてストック(蓄積)するものである。なお、各図に示す通り、X軸(左右)方向、Y軸(前後)方向およびZ軸(上下)方向を規定して、以降説明する。また、本記録装置1は、縦置き配置および横置き配置が可能に構成されているが、以降の説明では、縦置き配置した場合について説明する。
【0030】
図1は、記録装置1を示した外観斜視図である。図1に示すように、記録装置1は、X軸およびY軸方向よりもZ軸方向の寸法が大きく形成された薄型の箱状体を成す筐体2によって外観が構成されている。筐体2の上面には、操作ボタン等が配置された操作パネル21と、PC等に接続するためのケーブルが接続されるケーブル端子22と、複数のインクカートリッジ(図示省略)を着脱可能に装着するカートリッジ装着部(図示省略)を開閉するカートリッジカバー23と、が設けられている。また、筐体2の上面には、記録が行われた用紙Pを排出するための用紙排出口24(図2参照)を開閉する用紙排出口カバー25が設けられている。なお、用紙排出口カバー25は、ユーザーによって開閉されるものであるが、仮に閉じた状態で記録が実行された場合でも、図外の開閉機構によって自動的に開くようになっている。さらに、筐体2の前面には、後述の用紙カセット5を着脱自在に装着するためのカセット装着部26が広く設けられている。
【0031】
ここで図2を参照して、記録装置1の内部構造について詳細に説明する。図2は、記録装置1の内部構造を示した側方断面図である。図2に示すように、記録装置1は、カセット装着部26に対し着脱自在に装着されると共に、枚葉の用紙Pを起立状態で収容する用紙カセット5と、記録装置1の下部で用紙Pを反転させて上方に送る送り経路Rに沿って、収容された用紙Pを送る搬送部(媒体搬送機構)4と、送り経路Rに面し且つ記録装置1の上下中間位置に配設されると共に、用紙Pにインクジェット方式で印刷処理を行う印刷部(記録部)3と、搬送部4および印刷部3を支持する装置フレーム(図示省略)と、を備えている。
【0032】
印刷部3は、装置フレームに支持されると共に、X軸方向に幅一杯に延在するキャリッジガイド軸34およびキャリッジガイド板36と、キャリッジガイド軸34およびキャリッジガイド板36に往復動自在に支持されたキャリッジユニット30と、キャリッジガイド軸34およびキャリッジガイド板36に沿って、キャリッジユニット30を往復動させるキャリッジ移動機構(図示省略)と、を備えている。キャリッジガイド軸34は、キャリッジユニット30の下端を支持し、キャリッジガイド板36は、キャリッジガイド軸34を中心として回動しようとする力に抗して、キャリッジユニット30の上端を支えている。すなわち、キャリッジユニット30は、キャリッジガイド軸34およびキャリッジガイド板36によって、傾斜姿勢に保持されている。
【0033】
キャリッジユニット30は、キャリッジガイド軸34およびキャリッジガイド板36に往復動自在に支持された箱状のキャリッジ31と、キャリッジ31に搭載されたインクジェットヘッド32と、インクジェットヘッド32に上側から接続されると共に、インクチューブ(図示省略)を介してインクカートリッジに接続された接続アダプター(図示省略)と、を備えている。インクジェットヘッド32は、複数色のインク滴を吐出する複数のノズル列(図示省略)を有しており、用紙Pに対し所定のギャップを介して対面する。
【0034】
なお、本実施形態は、インクカートリッジがキャリッジ31から独立して設けられたいわゆるオフキャリッジ型であるが、インクカートリッジがキャリッジ31に搭載された、いわゆるオンキャリッジ型であってもよい。また、本実施形態では、キャリッジ31がX軸方向に移動しながら記録を行ういわゆるシリアルプリンターであるが、用紙P幅をカバーする固定式のインクジェットヘッド32を用いてもよい。さらに、インクジェット方式に限らず、その他の記録方式であってもよい。
【0035】
図3は、用紙カセット5を示した裏面斜視図である。図2および図3に示すように、用紙カセット5は、未印刷(未記録)の用紙Pを起立姿勢で収容し、用紙Pを給紙するカセット本体(給紙部)51と、カセット本体51の外面(装置内部側)に設けられ、印刷済み(記録済み)の用紙Pを起立姿勢で且つストック面61に重ねてストックする排紙保持部52と、を備えている。すなわち、カセット本体51から未印刷の用紙Pが供給され、排紙保持部52に印刷済みの用紙Pが排出される。そして、用紙カセット5を装置本体から取り外すことで、カセット本体51と共に、ストックした印刷済みの用紙Pを取り出すことができる。また、用紙カセット5を取り外すことで記録装置1の内部が露出させることができ、送り経路Rに用紙Pが詰まった等の不具合を容易に解消することができる。なお、図示は省略するが、用紙カセット5は、筐体2に対してZ軸方向にスライド自在に構成されており、その着脱操作は、用紙カセット5をスライドさせることで行われる。
【0036】
カセット本体51は、装着時に筐体2の前面と面一になり(図1参照)、記録装置1の外観をなすカセット筐体部53と、カセット筐体部53側を収容面とし、全体としてトレイ状に形成された本体トレイ54と、本体トレイ54の上部に対面し、用紙Pを収容する用紙収容空間を開閉する上部カバー55と、本体トレイ54の下部に位置し、用紙収容空間に収容した用紙Pの先端を揺動させる可動トレイ59と、を備えている。
【0037】
また、上部カバー55の外面、すなわち、筐体2に装着した際に装置内部側に向く面は、印刷済みの用紙Pをストックする(蓄える)ためのストック面61として機能している(詳細は後述する。)。
【0038】
可動トレイ59は、用紙カセット5が装着された状態において用紙送り方向下流側となる本体トレイ54の下側に設けられ、いわゆるホッパーとして機能するものである。可動トレイ59は、本体トレイ54の上下方向略中央部に設けられた左右一対の揺動支点59aを中心に回動可能になっており、図外の駆動機構により揺動するようになっている。これにより、収容された用紙Pの先端を、後述の給送ローラー41に圧接させる(押し付ける)状態(図2参照)と、離間させる状態(図示省略)と、にすることができる。なお、請求項にいう押圧機構は、可動トレイ59および当該駆動機構により、構成されている。
【0039】
排紙保持部52は、上部カバー55の外面(装置内部側)によって構成されたストック面61と、排紙された用紙Pの下端を受容する受容部62と、ストック面61に設けられ、用紙Pを起立姿勢に保持するホルダー63と、を有している。
【0040】
図4は、搬送部4廻りを示した裏面斜視図である。図2および図4に示すように、搬送部4は、可動トレイ59の先端部に対向し、収容された用紙Pに転接して1枚ずつ引き出すと共に、用紙Pを湾曲反転させて上方に送る大形の給送ローラー(搬送ローラー)41と、給送ローラー41に対向し、給送ローラー41による搬送をガイドする搬送ガイド45と、給送ローラー41からの用紙Pを印刷部3に送る紙送りローラー42と、印刷部3に対面する案内部材33と、案内部材33の下流側に配設され、用紙Pの上反りを矯正する拍車状のガイドローラー43と、ガイドローラー43の下流側に配設され、用紙Pを排紙保持部52に排紙する排紙ローラー44と、を備えている。なお、請求項にいう媒体搬送手段は、上記押圧機構(可動トレイ59およびその駆動機構)と、給送ローラー41と、給送ローラー41を駆動する給送モーター(図示省略)とにより、構成されている。
【0041】
紙送りローラー42は、前方側の紙送り駆動ローラー42aと後方側の紙送り従動ローラー42bとを有するニップローラーで構成されており、用紙Pの送り(副走査)を制御するメインローラーとして機能する。排紙ローラー44は、前方側の排紙駆動ローラー44aと後方側の排紙従動ローラー44bとを有するニップローラーで構成されており、案内部材33の上側に位置する用紙Pに張力(tension)を付与するテンションローラーとして機能する。また、排紙ローラー44は、排紙保持部52の下部近傍に配設され、用紙Pを排紙保持部52のストック面61に沿わせるように下方から送り出す。なお、紙送りローラー42、ガイドローラー43および排紙ローラー44は、それぞれ用紙Pの幅方向(X軸方向)に適宜の間隔で配設された複数個の分割ローラーで構成されている。
【0042】
案内部材33は、送り経路Rの一部を構成すると共に、用紙Pの記録面とインクジェットヘッド32との間のギャップ(ワークギャップ)を規定する(いわゆるプラテンとして機能する)。また、案内部材33には、インクジェットヘッド32と対向する位置に縁無し印刷の際、用紙P端から外れた領域に吐出されるインクを受ける凹部が形成されている。この凹部の中には、インクを吸収するインク吸収材(図示省略)が設けられている。そして更に、案内部材33の下方には、打ち捨てられたインクを貯留する廃液タンク(図示省略)が配置されている。
【0043】
給送ローラー41により下方へと引き出された用紙Pは、給送ローラー41および搬送ガイド45によって上向きに反転させられ、紙送りローラー42へと送られる。さらに、用紙Pは、紙送りローラー42の間に挟圧搬送されて、印刷部3に送られる。印刷部3で記録の行われた用紙Pは、ガイドローラー43および排紙ローラー44を介して、用紙カセット5の排紙保持部52に排紙される。
【0044】
印刷処理では、搬送部4によって用紙Pを略Z軸方向に間欠送り(副走査)すると共に、インクジェットヘッド32を駆動しつつ、キャリッジ移動機構によって、キャリッジユニット30をX軸方向に往復させて(主走査)、用紙Pに画像データを印刷する。
【0045】
ここで図5ないし図7を参照して、給送ローラー41および搬送ガイド45について詳細に説明する。図5は、給送ローラー41および搬送ガイド45廻りを示した要部斜視図である。図6は、給送ローラー41および搬送ガイド45廻りを示した要部断面図である。給送ローラー41および搬送ガイド45は、用紙Pを反転させて搬送するものであり、以下、この凹状に湾曲した経路を反転搬送路(搬送路)R1と呼称する(図6中の1点鎖線で図示)。図5および図6に示すように、給送ローラー41は、駆動ローラーであると共に、用紙Pの幅方向(X軸方向)に適宜の間隔で配設された複数個の分割ローラーで構成されている。そして、給送ローラー41は、用紙カセット5に収容された用紙Pに転接して、下方に用紙Pを引き出すと共に、用紙Pをその外周面に沿わせるように、反転搬送路R1に沿って搬送する。給送ローラー41には、給送モーターが接続されており、当該給送モーターが給送ローラー41の駆動源となっている。
【0046】
搬送ガイド45は、反転搬送路R1に沿って配設した湾曲板状のガイドベース71と、ガイドベース71上に連設(例えば、嵌設)した複数の部分ガイド部材72と、を有している。複数の部分ガイド部材72は、外側から反転搬送路R1に面しており、すなわち、給送ローラー41の外周面に対面するように形成されている。そして、給送ローラー41が用紙Pの内側の面(非記録面)に転接するのに対し、複数の部分ガイド部材72は、外側の面(記録面)に接触して、用紙Pをガイドする。
【0047】
また、複数の部分ガイド部材72は、摩擦係数が異なる2種の部分ガイド部材72によって構成されている。具体的には、一般的な材料(例えば、ABS:Acrylonitrile butadiene styrene)で形成された第1部分ガイド部材72aと、第1部分ガイド部材72aより低い摩擦係数の材料(低摩擦材料)(例えば、POM:PolyacetalもしくはPBT:Poly buthylene terephthalate)で形成された第2部分ガイド部材72bとを有し、これらを反転搬送路R1に沿って交互に連設している。各部分ガイド部材72は、並列状態で搬送方向に延在した2以上の畝状突起(リブ)により構成されており、連設する部分ガイド部材72同士が、相互に噛み合うように配設されている。さらに、相互に噛み合う部分の先端部は、反転搬送路R1から外側に外れるように傾斜している(図6参照)。
【0048】
次に、第1部分ガイド部材72aおよび第2部分ガイド部材72bの配設位置について説明する。図7(a)は、反転搬送路R1の搬送中における給送モーターでの搬送力(給送ローラー41に作用する用紙Pの送り負荷)のプロファイル(分析)データを示した図である。図7(b)は、当該プロファイルデータの特徴的な各点(A点、B点、C点、D点)における、搬送した用紙Pの先端位置を示した図である。なお、図7(a)は、給送ローラー41に作用する送り負荷を縦軸に、用紙Pの先端位置を横軸に表したものである。また、当該プロファイルデータ(図7(a)中の実線で示したもの)は、反転搬送路R1上の摩擦係数が同一である搬送ガイド45を用いて得られたデータである。図7(a)および図7(b)に示すように、反転搬送路R1上には、用紙Pの送り負荷が大きい部分と、送り負荷が小さい部分とが存在する。これは、用紙Pを送る曲率や、用紙Pを挟圧する位置(上記押圧機構による給送ローラー41への圧接位置や紙送りローラー42による挟圧位置)との兼ね合いで決まるものであり、用紙Pの剛性に基づく先端の摺動抵抗が送り負荷の主たる要因となる。これに対し、第1部分ガイド部材72aおよび第2部分ガイド部材72bの配設位置は、この送り負荷が反転搬送路R1上で均一になるように、当該プロファイルデータに基づいて設定される。
【0049】
具体的には、図7(c)に示すように、先端位置の基準で、反転搬送路R1中の送り負荷が大きい位置(A点およびC点)廻りでは、摩擦係数の低い第2部分ガイド部材72bを配設している。本実施形態において、具体的には用紙Pが給送ローラー41によって給送を開始された直後の位置や、給送ローラー41から離れ始める直前の位置周辺となるA点、C点で送り負荷が大きくなっている。また、反転搬送路R1中の送り負荷が小さい位置(B点およびD点)廻りでは、第1部分ガイド部材72aを配設する。すなわち、搬送ガイド45は、反転搬送路R1における用紙Pの搬送開始から搬送終了までの送り負荷が均一になるように、用紙Pに対する摩擦係数の異なる部位を連ねて構成されている。このように、搬送ガイド45の摩擦抵抗を調整することで、反転搬送路R1中における用紙Pの送り負荷を補正し、均一化する。なお、ここで述べる「均一化」とは、反転搬送経路R1中における用紙Pの送り負荷が完全に均一になるような厳密な意味での均一化ではなく、図7(a)の点線で示すように、送り負荷に関して多少の幅を有しているもの(幅を持つ負荷範囲に均一化したもの)を含むことは当然である。つまり従来のような、反転搬送路R1上の摩擦係数が同一である搬送ガイド45を用いると、送り負荷に大きなばらつきが生じるが、搬送ガイド45の摩擦抵抗を調整し、送り負荷のばらつきを抑えようとするものであれば、当該「均一化」に含まれる。
【0050】
次に図8ないし図9を参照して、搬送ガイド45の変形例について説明する。図8は、第1変形例の搬送ガイド45を対向面から見た模式図である。図8に示すように、本変形例の搬送ガイド45おいては、各部分ガイド部材72(第1部分ガイド部材72aおよび第2部分ガイド部材72b)は、搬送方向および幅方向(搬送方向に対する直交方向)に延在する板状部材で構成されている。かかる場合、複数の部分ガイド部材72の連設部分は、相互に噛み合うように櫛歯状に形成されており、相互に噛み合う部分の先端部は、反転搬送路R1から外側に外れるように傾斜している。
【0051】
図9(a)は、第2変形例の搬送ガイド45を示した要部断面図である。図9(a)に示すように、第2変形例の搬送ガイド45は、ガイドベース71と、ガイドベース71の表面(用紙P側の面)に貼着したガイドシート81と、を有しており、ガイドシート81は、摩擦係数の異なる複数の部分シート82を搬送方向に連設して構成されている。具体的には、一般的な材料で形成された第1部分シート82aと、第1部分シート82aより摩擦係数の大きい材料で形成された第2部分シート82bとを有し、これらを反転搬送路R1に沿って交互に連設している。各部分シート82は、搬送方向および幅方向(搬送方向に対する直交方向)に延在するシート状部材で構成されている。また、かかる場合にも、複数の部分シート82の連設部分は、相互に噛み合うように櫛歯状に形成されている。さらに、上記実施形態と同様、図7に示した上記配設位置に基づいて、第1部分シート82aおよび第2部分シート82bを配設して、送り負荷を均一化する。
【0052】
図9(b)は、第3変形例の搬送ガイド45を示した要部断面図である。図9(b)に示すように、第3変形例の搬送ガイド45は、ガイドベース71と、ガイドベース71の表面(用紙P側の面)に成膜したコート層86と、を有しており、コート層86は、摩擦係数の異なる複数の部分コート層87を搬送方向に連設して構成されている。具体的には、一般的な材料を成膜した第1部分コート層87aと、第1部分コート層87aより摩擦係数の大きい材料を成膜した第2部分コート層87bとを有し、これらを反転搬送路R1に沿って交互に連設している。また、上記実施形態と同様、図7に示した上記配設位置に基づいて、第1部分コート層87aおよび第2部分コート層87bを配設して、送り負荷を均一化する。
【0053】
上記実施形態および各変形例によれば、搬送ガイド45を、用紙Pに対する摩擦係数の異なる部位を連ねて構成することで、単純な構造で用紙Pの送り負荷を均一にすることができる。これにより、給送モーターを最低限の動力のもので構成することができると共に、用紙Pの搬送を確実且つ安定に行うことができる。また、従来技術のような複数の回転コロを必要としないため、用紙Pの搬送姿勢の安定化と構造の単純化とを図ることができると共に、省スペース化を図ることができる。これにより、装置を低コストでコンパクトに構成することができる。
【0054】
また、上記実施形態および第1変形例において、搬送ガイド45を、摩擦係数の異なる複数の部分ガイド部材72を連設して構成することにより、用紙Pの搬送に際し、搬送ガイド45の摺動抵抗が大きいところと小さいところを、均一になるように簡単に調整することができる。これにより、用紙Pの送り負荷を容易に均一にすることができる。
【0055】
さらに、上記実施形態および第1変形例において、複数の部分ガイド部材72を相互に噛み合うように配設または形成することにより、複数の部分ガイド部材72の連設部分における摺動抵抗の変化量を十分に抑制することができる。また、相互に噛み合う部分の先端部を外側に傾斜させることにより、先端部に用紙Pが引っかかることを防止している。
【0056】
またさらに、第2変形例において、搬送ガイド45を、ガイドベース71とガイドシート81(複数の部分シート82)とによって構成することにより、用紙Pの搬送に際し、搬送ガイド45の摺動抵抗が大きいところと小さいところを、均一になるように簡単に調整することができ、送り負荷の均一化を図ることができる。
【0057】
さらに、第3変形例において、搬送ガイド45を、ガイドベース71とコート層86(複数の部分コート層87)とによって構成することにより、用紙Pの搬送に際し、搬送ガイド45の摺動抵抗が大きいところと小さいところを、均一になるように簡単に調整することができ、送り負荷の均一化を図ることができる。また、用紙Pの送り負荷が均一となる搬送ガイド45を、簡単且つ安価に製造することができる。
【0058】
なお、上記実施形態においては、別体の複数の部分ガイド部材72をガイドベース71上に連設する構成であったが、複数の部分ガイド部材72を、多色成型(2色成型)により一体に成型する構成であっても良い。また、上記第2変形例において、ガイドベース71および複数の部分シート82を別体として成型し、ガイドベース71に複数の部分シート82を貼着する構成であったが、ガイドベース71および複数の部分シート82を、多色成型により一体に成型する構成であっても良い。これらの場合、用紙Pの送り負荷が均一となる搬送ガイド45を、簡単且つ安価に製造することができる。
【0059】
また、上記実施形態および第1変形例においては、摩擦係数の異なる2種の部分ガイド部材72a、72bの配設位置によって、反転搬送路R1中の送り負荷を調整する構成であったが、摩擦係数の異なるより多くの種類の部分ガイド部材72によって、送り負荷をより細かく調整するものであっても良い。ひいては、部分ガイド部材72への表面加工によって摩擦抵抗を大小させて、送り負荷を調整するものであっても良い。なお、第2変形例の部分シート82や、第3変形例の部分コート層87においても、同様である。
【0060】
なお、上記実施形態および各変形例においては、実験で得られたプロファイルデータ(シミュレーションデータ)に基づいて、摩擦係数の異なる複数の部材(部分ガイド部材72、部分シート82または部分コート層87)を連設する構成であったが、プロファイルデータとして推定値を用いる構成であっても良い。例えば、上記したように、用紙Pを送る曲率や、用紙Pを挟圧する位置との兼ね合いで決定するため、これらの情報から、プロファイルデータを推定する。すなわち、推定値に基づいて、送り負荷が均一になるように、摩擦係数の異なる複数の部材を連設する。
【符号の説明】
【0061】
1:記録装置、 3:印刷部、 4:搬送部、 41:給送ローラー、 45:搬送ガイド、 51:カセット本体、 59:可動トレイ、 71:ガイドベース、 72:部分ガイド部材、 81:ガイドシート、 82:部分シート、 86:コート層、 87:部分コート層、 P:用紙、 R1:反転搬送路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体を凹状に湾曲した搬送路に沿って搬送する媒体搬送手段と、
前記搬送路に沿って配設され、前記媒体搬送手段による前記記録媒体の搬送をガイドする搬送ガイドと、を備え、
前記搬送ガイドは、前記媒体搬送手段に作用する前記記録媒体の搬送開始から搬送終了までの送り負荷が均一になるように、前記記録媒体に対する摩擦係数の異なる部位を連ねて構成されていることを特徴とする媒体搬送機構。
【請求項2】
前記搬送ガイドは、搬送方向に連設されると共に、前記摩擦係数の異なる複数の部分ガイド部材を有していることを特徴とする請求項1に記載の媒体搬送機構。
【請求項3】
前記部分ガイド部材は、並列状態で前記搬送方向に延在した2以上の畝状突起で構成されており、
前記複数の部分ガイド部材は、連設する前記部分ガイド部材同士が、相互に噛み合うように配設されていることを特徴とする請求項2に記載の媒体搬送機構。
【請求項4】
前記部分ガイド部材は、前記搬送方向および幅方向に延在する板状部材で構成されており、
前記複数の部分ガイド部材の連設部分は、相互に噛み合うように櫛歯状に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の媒体搬送機構。
【請求項5】
前記相互に噛み合う部分の先端部は、前記搬送路から外側に外れるように傾斜していることを特徴とする請求項3または4に記載の媒体搬送機構。
【請求項6】
前記複数の部分ガイド部材は、多色成型により一体に成型されていることを特徴とする請求項2に記載の媒体搬送機構。
【請求項7】
前記搬送ガイドは、前記搬送路に沿って配設したガイドベースと、前記ガイドベースの表面に貼着したガイドシートと、を有し、
前記ガイドシートは、前記摩擦係数の異なる複数の部分シートを搬送方向に連設して構成されていることを特徴とする請求項1に記載の媒体搬送機構。
【請求項8】
前記複数の部分シートの連設部分は、相互に噛み合うように櫛歯状に形成されていることを特徴とする請求項7に記載の媒体搬送機構。
【請求項9】
前記ガイドベースと前記複数の部分シートとは、多色成型により一体に成型されていることを特徴とする請求項7または8に記載の媒体搬送機構。
【請求項10】
前記搬送ガイドは、前記搬送路に沿って配設したガイドベースと、前記ガイドベースの表面に成膜したコート層と、を有し、
前記コート層は、前記摩擦係数の異なる複数の部分コート層を搬送方向に連設して構成されていることを特徴とする請求項1に記載の媒体搬送機構。
【請求項11】
前記媒体搬送手段は、前記記録媒体の一方の面に転接する搬送ローラーと、前記搬送ローラーに前記記録媒体を押し付ける押圧機構と、を有していることを特徴とする請求項1ないし10のいずれかに記載の媒体搬送機構。
【請求項12】
前記記録媒体に記録を行う記録部と、
前記記録部に前記記録媒体を給紙する給紙部と、
前記給紙部から前記記録部に前記記録媒体を搬送する、請求項1ないし11のいずれかに記載の媒体搬送機構と、を備えたことを特徴とする記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−171768(P2012−171768A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37761(P2011−37761)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】