媒体搬送装置およびこれを備えた記録装置
【課題】簡易化かつ小型化することができる媒体搬送装置およびこれを備えた記録装置を提供する。
【解決手段】給送ローラー41と協働して、用紙収容空間Sから用紙Pを1枚ずつ送る分離ローラー86aと、給送ローラー41に対し、分離ローラー86aを接離自在に保持するローラーホルダー86bと、ローラーホルダー86bを介して、分離ローラー86aを給送ローラー41に向って付勢する捻りコイルばね86dと、捻りコイルばね86dの一方の線材端部を回動させて捻りコイルばね86dの付勢力を調整する付勢力調整機構86eと、を備えた。
【解決手段】給送ローラー41と協働して、用紙収容空間Sから用紙Pを1枚ずつ送る分離ローラー86aと、給送ローラー41に対し、分離ローラー86aを接離自在に保持するローラーホルダー86bと、ローラーホルダー86bを介して、分離ローラー86aを給送ローラー41に向って付勢する捻りコイルばね86dと、捻りコイルばね86dの一方の線材端部を回動させて捻りコイルばね86dの付勢力を調整する付勢力調整機構86eと、を備えた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、給送ローラーと協働して、媒体収容部から記録媒体を1枚ずつ送る媒体搬送装置およびこれを備えた記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、用紙の重送を防止するためのローラー(分離ローラー)と、ローラーに圧接する分離パッドと、用紙に対する分離パッドの圧接力(分離圧)を調整する分離圧調整機構と、を備えた媒体搬送装置が知られている(特許文献1参照)。
この媒体搬送装置における分離圧調整機構は、モーター駆動のピニオンを回転させ、ラックを移動することで加圧スプリング(コイルスプリング)の付勢力を変化させ、分離パッドを移動させている。これにより、分離パッドは、記録媒体を挟んで適正な分離圧でローラーに押し当てられ、記録媒体は、重送されることなく適切に下流へと送られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平09−235033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の媒体搬送装置では、記録媒体を送るためのローラーに対し、記録媒体を適切に圧接させるためにモーターやギヤ列、コイルスプリング等を複雑に組み合わせた機構を用いる必要があった。特に、コイルスプリングを用いているため、付勢方向に大きなスペースが必要となる。このため、媒体搬送装置を小型化することが困難であり、媒体搬送装置を組み込む装置内に必要なスペースを確保することが困難な場合もあった。
【0005】
本発明は、簡易化かつ小型化することができる媒体搬送装置およびこれを備えた記録装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の媒体搬送装置は、給送ローラーと協働して、媒体収容部から記録媒体を1枚ずつ送る分離ローラーと、給送ローラーに対し、分離ローラーを接離自在に保持するローラーホルダーと、ローラーホルダーを介して、分離ローラーを給送ローラーに向って付勢する捻りコイルばねと、捻りコイルばねの一方の線材端部を回動させて捻りコイルばねの付勢力を調整する付勢力調整機構と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、捻りコイルばねは、コイルスプリングに比して、同じ重量で保存できるエネルギーが大きい。このため、小型かつ軽量の捻りコイルばねを用いても、分離ローラーに対して適切な付勢力を付与することができる。また、付勢力調整機構は、捻りコイルばねの一方の線材端部を回動させることができればよいため、ラック・アンド・ピニオンのような直線的に移動する機構と比較して小型化することができる。これにより、媒体搬送装置を組み込む装置内に必要なスペースを確保することが容易となり、装置内における媒体搬送装置のレイアウトの自由度が向上する。
【0008】
この場合、ローラーホルダーは、支軸を中心に回動自在に構成され、捻りコイルばねは、支軸に巻回するように取り付けられていることが好ましい。
【0009】
この構成によれば、捻りコイルばねの付勢力により、支軸を中心にしてローラーホルダーおよび分離ローラーを揺動させることができる。また、ローラーホルダーの支軸と捻りコイルばねとを集約配置することができる。これにより、給送ローラーに対する分離ローラーの付勢を適切に行うことができると共に、より小型化を図ることができる。なお、分離ローラーは、給送ローラーに接触した時の法線方向に接離自在に揺動(回動)することが好ましい。
【0010】
この場合、付勢力調整機構は、カム機構で構成されていることが好ましい。
【0011】
また、この場合、カム機構は、線材端部を回動させる板カムと、板カムを回転自在に支持するカムフレームと、板カムを、任意の回転位置でカムフレームにロックするロック手段と、を有していることが好ましい。
【0012】
これらの構成によれば、付勢力調整機構として、単純で、かつ、故障の少ないカム機構を用いることにより、捻りコイルばねの付勢力の調整が容易になると共に、付勢力を無段階に調整することができる。また、ロック手段により、板カムの回転位置を確実に保持し、調整した付勢力を一定に維持することができる。さらに、用途に合わせたカム曲線を有するように板カムを形成することで、微調整を容易に行うことができる。
【0013】
本発明の記録装置は、上記したいずれかの媒体搬送装置と、給送ローラーにより送られてきた記録媒体に記録を行う記録部と、媒体搬送装置および記録部を収容する筐体と、を備えたことを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、小型かつ軽量な媒体搬送装置を用いることで記録装置の筐体を小型化することができる。これにより、記録装置の省スペース化を図ることができる。
【0015】
この場合、媒体搬送装置が、筐体の1の隅部に配設されていることが好ましい。
【0016】
一般的に、記録装置の筐体内部において隅部はデッドスペースになることが多い。しかし、この構成によれば、小型化した媒体搬送装置をいずれかの隅部に配設することにより、限られた筐体内部のスペースを有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】記録装置の外観斜視図である。
【図2】用紙を給送ローラーから離間させた状態の記録装置の側断面図である。
【図3】用紙を給送ローラーに圧接させた状態の記録装置の側断面図である。
【図4】上部外側カバーが閉塞した状態の記録媒体カセットの斜視図である。
【図5】記録媒体カセット、移動手段および給送ローラー等を示した斜視図である。
【図6】記録媒体カセット、移動手段および給送ローラー等を示した正面図である。
【図7】記録媒体カセット、移動手段および給送ローラー等を示した側面図である。
【図8】カセット筐体部を取り除いた記録媒体カセットおよびニップ機構の背面図である。
【図9】ニップ機構の斜視図である。
【図10】ニップ機構の付勢力調整機構による捻りコイルばねの付勢力を調整する方法を示した説明図である。
【図11】可動トレイおよび移動手段の動作を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係る記録装置について説明する。この記録装置は、起立姿勢で保持した用紙(記録媒体)を搬送しながら所望の記録を行い、排紙した記録済みの用紙を起立状態で保持(ストック)するものである。なお、各図に示す通り、X軸(左右)方向、Y軸(前後)方向およびZ軸(上下)方向を規定して、以降説明する。
【0019】
図1ないし図3に示すように、記録装置1は、X軸およびY軸方向よりもZ軸方向の寸法が大きく形成された薄型の箱状体を成す筐体2によって外観が構成されている。また、記録装置1は、搬送路上に臨む用紙Pにインクジェット方式で印刷処理を行う印刷部3と、枚葉の用紙Pを搬送路に沿って送る搬送部4と、用紙Pを起立姿勢で収容し、筐体2に対し着脱自在に装着される記録媒体カセット5と、記録媒体カセット5の可動トレイ59(後述する。)を移動させる移動手段6(図11参照)と、搬送部4、印刷部3および移動手段6などを支持する装置フレーム(図示省略)と、装置全体を統括制御する制御装置7と、を備えている。
【0020】
筐体2の上面には、操作ボタン等が配置された操作パネル21と、PC等に接続するためのケーブルが接続されるケーブル端子22と、複数のインクカートリッジ(図示省略)を着脱可能に装着するカートリッジ装着部(図示省略)を開閉するカートリッジカバー23と、が設けられている。また、筐体2の上面には、記録が行われた用紙P(記録媒体)を排出するための用紙排出口24を開閉する用紙排出口カバー25が設けられている。なお、用紙排出口カバー25は、ユーザーによって開閉されるものであるが、仮に閉じた状態で記録が実行された場合でも、図外の開閉機構によって自動的に開くようになっている。
【0021】
印刷部3は、後述する一対の搬送ローラー42の下流側に配設されており、インクジェットヘッド32を搭載したキャリッジ31と、インクジェットヘッド32に対向位置に設けられた案内部材33と、を有している。
【0022】
キャリッジ31は、X軸方向に延びるキャリッジガイド軸34に沿って、図外のモーターにより往復移動可能に設けられている。なお、図2に示すように、キャリッジ31は、傾斜姿勢で設けられるため、キャリッジガイド軸34を中心として回動しようとする力が生じる。そこで、キャリッジ31の上方に設けられた被ガイド部35が、X軸方向に延びるキャリッジガイド板36を挟み込むことで、キャリッジ31の姿勢を一定に保持している。
【0023】
案内部材33は、搬送経路の一部を構成すると共に、用紙Pの記録面とインクジェットヘッド32との間のギャップ(ワークギャップ)を規定する。また、案内部材33には、インクジェットヘッド32と対向する位置に縁無し印刷の際、用紙P端から外れた領域に吐出されるインクを受ける凹部が形成されている。この凹部の中には、インクを吸収するインク吸収材(図示省略)が設けられている。そして更に、案内部材33の下方には、打ち捨てられたインクを貯留する廃液タンク(図示省略)が配置されている。
【0024】
なお、本実施形態は、インクカートリッジがキャリッジ31から独立して設けられたいわゆるオフキャリッジ型であるが、インクカートリッジがキャリッジ31に搭載された、いわゆるオンキャリッジ型であってもよい。また、本実施形態では、キャリッジ31がX軸方向に移動しながら記録を行ういわゆるシリアルプリンターであるが、用紙P幅をカバーする固定式のインクジェットヘッド32を用いてもよい。さらに、インクジェット方式に限らず、その他の記録方式であってもよい。
【0025】
搬送部4は、上流側から、装着された記録媒体カセット5の先端に対向する位置に設けられ、記録媒体カセット5から供給された用紙Pを下流側へと送り出す給送ローラー41と、用紙Pを印刷部3へと搬送する一対の搬送ローラー42と、印刷部3の案内部材33から用紙Pの浮き上がりを防止する案内ローラー43と、記録の行われた用紙Pを印刷部3から排出する一対の排紙ローラー44と、を有している。
【0026】
給送ローラー41は、X軸方向に延びるローラー軸45と、ローラー軸45に適宜の間隔で複数軸着したローラー本体46と、を有している。ローラー軸45の一端には、図外のモーター(減速機構付き)が接続されている。各ローラー本体46は、用紙Pの先端と接した状態で、モーターを駆動し回転させることで用紙Pを下方へと送り出す。給送ローラー41の外周面に対向位置には、用紙Pが湾曲反転する略U字状の搬送経路を形成するガイド部材47が配設されている。なお、符号48は、各ローラー本体46による用紙Pの送り出しを補助する補助従動ローラーである。すなわち、各ローラー本体46と各補助従動ローラー48とでニップローラーの形態を為している。
【0027】
一対の搬送ローラー42は、図外の駆動モーターにより回転駆動される搬送駆動ローラー42aと、図外の付勢手段により搬送駆動ローラー42aに向かって付勢されている搬送従動ローラー42bと、を有し、ニップローラーの形態を為している。搬送従動ローラー42bは、搬送駆動ローラー42aとの間で用紙Pを挟圧することで従動回転する。なお、図示は省略するが、一対の搬送ローラー42、案内ローラー43および一対の排紙ローラー44は、上記した給送ローラー41と同様に、それぞれ、X軸方向に延びる回転軸と、回転軸に適宜の間隔で複数軸着した回転ローラーと、から構成されている。
【0028】
一対の排紙ローラー44は、図外の駆動モーターにより回転駆動される排紙駆動ローラー44aと、図外の付勢手段により排紙駆動ローラー44aに向かって付勢されている排紙従動ローラー44bと、を有し、ニップローラーの形態を為している。排紙駆動ローラー44aは、その表面がゴム等により形成されている。排紙従動ローラー44bは、拍車状(スターホイール)に形成され、排紙駆動ローラー44aとの間で用紙Pを挟圧することで従動回転する。
【0029】
下方へと送り出された用紙Pは、給送ローラー41およびガイド部材47によって上向きに反転させられ、一対の搬送ローラー42へと送られる。用紙Pは、一対の搬送ローラー42の間に挟まれて、印刷部3に送られる。印刷部3で記録の行われた用紙Pは、案内ローラー43および一対の排紙ローラー44を介して、記録媒体カセット5の保持面61(後述する。)に摺接しながら上方に移動する(図3の破線参照)。排紙された用紙Pは、その下端が排紙駆動ローラー44aの近傍の装置フレームに設けられた受容部62に起立姿勢で支持される。なお、案内ローラー43は、拍車状のローラー(スターホイール)により構成されている。
【0030】
受容部62は、排紙駆動ローラー44a側の先端部分が上方に屈曲しており、支持した用紙Pの下端が脱落したり、排紙駆動ローラー44aに接触しないようになっている。また、受容部62は、適宜の間隔で複数配置された排紙駆動ローラー44aの間に入り込むようにして、X軸方向に適宜の間隔で複数配置されている。つまり、受容部62は、全体として略櫛歯形状に形成されている。
【0031】
続いて、図2ないし図7を参照して、記録媒体カセット5について説明する。記録媒体カセット5は、筐体2に対してZ軸方向にスライドすることで着脱可能に構成されており、装着することで記録装置1の外観を構成する。また、記録媒体カセット5を取り外すことで記録装置1の内部が露出するため、搬送経路に用紙Pが詰まった等の不具合を容易に解消することができる。
【0032】
記録媒体カセット5は、装着時に筐体2と面一になり、記録装置1の概観をなすカセット筐体部53と、全体としてトレイ状に形成された本体トレイ54と、用紙Pを収容する用紙収容空間Sを開閉する上部外側カバー55と、上部外側カバー55に対し、本体トレイ54の上端から突出するようにスライド可能に設けられた上部内側カバー56と、本体トレイ54に対し、本体トレイ54の上端から突出するようにスライド可能に設けられた上部スライドトレイ57と、上部外側カバー55に対し、X軸方向にスライド可能に設けられたエッジガイド58と、用紙収容空間Sに収容した用紙Pの先端を揺動させる可動トレイ59と、を備えている。
【0033】
本体トレイ54の下端部には、収容した用紙Pの先端を支持する用紙先端支持壁54aが形成されている。記録媒体カセット5が装着された状態において収容された用紙Pは、その先端が用紙先端支持壁54aに当接した状態で支持される。また、用紙先端支持壁54aには、後述する各紙戻しレバー87が挿通する複数(図4では3つ)のレバー挿通部54bが、給送ローラー41側から切り込まれて形成されている。
【0034】
上部外側カバー55は、本体トレイ54の上下方向略中央部に設けられた左右一対の回動支点55a(図4ないし図6参照)を中心に回動するようになっている。上部外側カバー55を開放することにより、用紙収容空間Sが表れて、用紙Pの収容が可能となる。また、上部外側カバー55の外面(装着時に装置内側に向く面)は、記録済みの用紙Pを保持する(蓄える)ための保持面61として機能している。
【0035】
図2および図3に示すように、上部内側カバー56は上部外側カバー55に対し、また、上部スライドトレイ57は本体トレイ54に対し、それぞれスライドすることで、用紙PのZ軸方向の長さに合わせて、用紙収容空間Sを伸縮させることができる。また、上部内側カバー56を延ばした場合は、上部外側カバー55の外面から連なるように上部内側カバー56の外面が延在し、保持面61がZ軸方向に延長される。
【0036】
図2ないし図6に示すように、エッジガイド58は、用紙収容空間Sに収容された用紙Pをガイドする供給側ガイド64と、保持面61に保持された用紙Pをガイドする排出側ガイド65と、上部外側カバー55を貫通して形成された長穴55bを通して供給側ガイド64と排出側ガイド65とを連結する連結部66と、を有している。エッジガイド58は、連結部66の部分で、長穴55bに沿ってスライド自在に設けられている。
【0037】
供給側ガイド64は、図6において右側から用紙Pの端に接触して、用紙Pの搬送方向(Z軸方向)への移動をガイドする。供給側ガイド64には、上記した左右一対の回動支点55aと同軸にガイド回動支点73が設けられている。したがって、ガイド回動支点73より上側の供給側ガイド64は、上部外側カバー55と共に回動する。また、上記した左右一対の揺動支点59aは、回動支点55aおよびガイド回動支点73よりも僅かに下方かつ後方に位置ずれして設けられている(図2および図3参照)。これにより、ガイド回動支点73より下側の供給側ガイド64は、可動トレイ59と共に回動可能となっている。
【0038】
排出側ガイド65は、保持面61側に設けられ、連結部66から上方に延設されたガイドバー74と、ガイドバー74の上端部に接続された板状部75と、を有している。板状部75は、排紙された用紙Pに、図6において右側から臨むように設けられている。また、ガイドバー74および板状部75は、ユーザーがエッジガイド58のスライド操作を行うための操作子となる。
【0039】
本実施形態では、連結部66で連結された供給側ガイド64または排出側ガイド65のうち一方を変位させると、他方も同時に変位する。これにより、用紙収容空間Sを上部外側カバー55で閉塞したまま、エッジガイド58のスライドを操作することができる。
【0040】
なお、図4に示すように、上部外側カバー55の長穴55bの下側近傍には、例えばJIS規格A4判サイズなどに対応した用紙PのX軸方向の端を指標する目盛55cが設けられている。
【0041】
可動トレイ59は、記録媒体カセット5が装着された状態において用紙送り方向下流側となる本体トレイ54の下側に設けられ、いわゆるホッパーとして機能するものである。可動トレイ59は、本体トレイ54の上下方向略中央部に設けられた左右一対の揺動支点59a(図6参照)を中心に回動可能になっており、図外の駆動機構により揺動するようになっている。これにより、収容された用紙Pの先端を、各ローラー本体46に圧接させる状態(接触位置(図3参照))と、離間させる状態(離間位置(図2参照))と、にすることができる。
【0042】
また、図4に示すように、可動トレイ59には、用紙Pの先端に対応する位置に、各ローラー本体46が挿通して用紙Pに圧接できるように複数の接触挿通部59bが形成されている。この複数の接触挿通部59bは、X軸方向に沿って適宜の間隔で形成されている。
【0043】
次に、図5ないし図11を参照して、移動手段6について説明する。移動手段6は、給送ローラー41に対し、可動トレイ59に収容した用紙Pを接触位置と離間位置との間で移動させる。移動手段6は、可動トレイ59を付勢することで離間位置から接触位置に移動させる往動機構84と、往動機構84の付勢力に抗して、可動トレイ59を接触位置から離間位置に移動させる復動機構85と、給送ローラー41との間に用紙Pを挟んで送り出すニップ機構86と、供給される用紙Pに続く次の用紙Pを可動トレイ59内に押し戻す複数の紙戻しレバー87と、モーター(図示省略)からの駆動力を、用紙Pを1枚ずつ供給搬送するタイミングで、復動機構85に伝達する動力伝達機構88と、を有している。
【0044】
図7および図11に示すように、往動機構84は、基端部を押圧支軸84aに自由回動するように軸支され、先端部で可動トレイ59に当接する押圧アーム84bと、押圧アーム84bを回動付勢する捻りバネ84cと、を有している。
【0045】
押圧アーム84bは、先端部が可動トレイ59の背面(本体トレイ54側の面)の下端部に係合している。捻りバネ84cは、押圧支軸84aに嵌合して設けられ、押圧アーム84bを離間位置から接触位置に向かって付勢している。これにより、可動トレイ59は、押圧アーム84bを介して捻りバネ84cの付勢力により離間位置から接触位置に向かって常に付勢されている。
【0046】
図5ないし図7に示すように、復動機構85は、可動トレイ59側で、かつ、給送ローラー41の上方においてX軸方向に延在する復動カム軸85aと、復動カム軸85aに軸着した2つの復動板カム85bと、を有している。
【0047】
各復動板カム85bは、所定の間隔で同じ向きで復動カム軸85aに軸着している。各復動板カム85bは、可動トレイ59の正面にZ軸方向に延在して設けられた一対のレール状のカムフォロア85cに当接している。各カムフォロア85cに非接触状態となるように各復動板カム85bを回転させることで、可動トレイ59は、往動機構84の付勢力により接触位置へと移動する。他方、各カムフォロア85cに接触させ、可動トレイ59を押し込むように各復動板カム85bを回転させると、可動トレイ59は、往動機構84の付勢力に抗して離間位置へと移動する。
【0048】
図8ないし図10に示すように、ニップ機構86は、可動トレイ59側で、かつ、下方から給送ローラー41の1つのローラー本体46に接触して従動回転する分離ローラー86aと、分離ローラー86aを軸支するローラーホルダー86bと、ローラーホルダー86bを介して分離ローラー86aをローラー本体46に向かって付勢する捻りコイルばね86dと、捻りコイルばね86dの一方の線材端部を回動させて捻りコイルばね86dの付勢力を調整する複数の付勢力調整機構86eと、を有している。なお、請求項に言う「媒体搬送装置」とは、ニップ機構86を指す。
【0049】
分離ローラー86aは、ローラーホルダー86bに自由回転するように軸支されている。分離ローラー86aは、図8において右から(図6では左から)2つ目のローラー本体46に対応する位置に配設されている。分離ローラー86aは、可動トレイ59内の用紙収容空間Sから、ローラー本体46との間に送り出された1枚の用紙Pに転接する。
【0050】
ローラーホルダー86bは、分離ローラー86aの左右両端に配設され、分離ローラー86aを自由回転自在に軸支する一対のサイドホルダー90と、一対のサイドホルダー90を連結する連結ホルダー91と、を有している。
【0051】
図8において左側のサイドホルダー90は、基端部をホルダー支軸86cに固定されている。ホルダー支軸86cは、後述するカムフレーム95に一端(図8において左端)が回動自在に軸支されている。一方、図8において右側のサイドホルダー90は、装置フレームから立設する回動支持部92に回動自在に支持されている。これにより、分離ローラー86aは、ローラーホルダー86b(一対のサイドホルダー90)を介してホルダー支軸86cを中心に揺動する。連結ホルダー91には、左右方向略中央に捻りコイルばね86dの一方の線材端部が係合する係合部91aが突設されている。
【0052】
捻りコイルばね86dは、図8においてホルダー支軸86cの右端部に嵌合、言い換えればホルダー支軸86cに巻回して設けられている。また、捻りコイルばね86dの一方の線材端部は、上記した連結ホルダー91の係合部91aに係合し、他方の線材端部は、後述する付勢力調整機構86eの付勢板カム94に係合している。これにより、捻りコイルばね86dは、ローラーホルダー86bをローラー本体46に向かって常に付勢している。捻りコイルばね86dは、コイルスプリングに比して、同じ重量で保存できるエネルギーが大きいため、小型かつ軽量の捻りコイルばね86dを用いても、分離ローラー86aに対して適切な付勢力を付与することができる。また、捻りコイルばね86dをホルダー支軸86cに巻回させることで、これらを集約配置することができる。これにより、給送ローラー41に対する分離ローラー86aの付勢を適切に行うことができると共に、より小型化を図ることができる。なお、分離ローラー86aは、給送ローラー41に接触した時の法線方向に接離自在に揺動(回動)する(図10(b)および(d)の破線矢印参照)。
【0053】
付勢力調整機構86eは、付勢カム軸93に軸着された付勢板カム94と、装置フレームに形成され、付勢カム軸93の両端部を支持するカムフレーム95と、付勢板カム94を任意の回転位置でカムフレーム95にロックするロック手段96と、を有している。
【0054】
付勢板カム94には、他方の線材端部が係合する係合溝94aが凹設されている。カムフレーム95は、一対のサイドホルダー90の外側に配設され、ホルダー支軸86cの両端部を支持固定すると共に、付勢カム軸93の両端部を回動自在に軸支する。
【0055】
ロック手段96は、カムフレーム95を貫通した付勢カム軸93の一端に接続された揺動板97と、揺動板97に貫通形成されたスリット部97aを通して、カムフレーム95の雌ネジ部(図示省略)に螺合する固定ネジ98(図10(a)および(c)参照)と、を有している。
【0056】
図10に示すように、揺動板97は、付勢カム軸93を中心に回動(揺動)する。また、スリット部97aは、付勢カム軸93(揺動板97)の揺動に沿うように円弧状に開口している。したがって、揺動板97を揺動させることにより、付勢カム軸93を介して付勢板カム94が任意の方向に揺動する。これにより、付勢板カム94の係合溝94aに係合した捻りコイルばね86dの他方の線材端部が任意の方向に回動し、その付勢力が調整される。
【0057】
例として、付勢板カム94により、捻りコイルばね86dの付勢力を強くする方法を説明する。図10(a)および(b)に示すように、付勢板カム94が、捻りコイルばね86dの付勢力が最小となる位置にあるものとする。まず、ユーザーは、固定ネジ98を緩めて、揺動板97の固定を解除する。そして、揺動板97を右回りに揺動させ、任意の揺動位置で再び固定ネジ98を締め付ける。これにより、図10(c)および(d)に示すように、付勢板カム94が任意の回転(揺動)位置で固定され、捻りコイルばね86dの付勢力が調整された状態で保持される。このように、付勢力調整機構86eとして、単純で、かつ、故障の少ないカム機構を用いることにより、捻りコイルばね86dの付勢力の調整が容易になると共に、付勢力を無段階に調整することができる。また、ロック手段96により、付勢板カム94の回転位置を確実に保持し、調整した付勢力を一定に維持することができる。さらに、用途に合わせたカム曲線を有するように付勢板カム94を形成することで、微調整を容易に行うことができる。
【0058】
また、本実施形態の付勢力調整機構86eは、捻りコイルばね86dの1の線材端部を回動させることができればよいため、ラック・アンド・ピニオンのような直線的に移動する機構と比較して大幅に小型化することができる。これにより、ニップ機構86を組み込む記録装置1内に必要なスペースを確保することが容易となる。したがって、記録装置1内におけるニップ機構86のレイアウトの自由度が向上する。
【0059】
図11に示すように、各紙戻しレバー87は、基端部を上記の押圧支軸84aに回動自在に軸支されている。各紙戻しレバー87は、先端部が、用紙先端支持壁54aに切り込まれたレバー挿通部54bに臨むように配設されている。各紙戻しレバー87の先端部は、用紙Pの下端部に対し、接触位置側から接触するように切り欠かれている。
【0060】
ここで、用紙収容空間Sに複数の用紙Pが収容されている場合には、供給される1枚の用紙P(給送ローラー41に接触している用紙P)に続くように次の用紙Pも各分離ローラー86aと各ローラー本体46との間のニップ点に引き出される。
しかし、詳細は後述するが、離間位置へと移動する可動トレイ59と共に各紙戻しレバー87が、離間位置へと移動することでニップ点に引き出された次の用紙Pを適切に用紙収容空間Sへと押し戻すことができる。
【0061】
図6に示すように、動力伝達機構88は、図外のモーターおよび減速ギヤ列を有し、減速ギヤ列の出力端に接続された押圧支軸84a、復動カム軸85aおよびホルダー支軸86cを、それぞれ回動させる。これにより、各紙戻しレバー87、各復動板カム85bおよびローラーホルダー86b(各分離ローラー86a)が、所定の回転方向に必要な量(角度)だけ回動する。なお、動力伝達機構88は、押圧アーム84bの接触位置に方向への回動を阻止するカム(図示省略)を有している。このカムは、記録媒体カセット5を取り外した状態であっても、押圧アーム84bの回動を阻止するようになっている。
【0062】
ここで、一般的に、記録装置1の筐体2内部において隅部はデッドスペースになることが多い。しかし、本実施形態における往動機構84、ニップ機構86および紙戻しレバー87は、いずれも小型化が図られており、これらをいずれかの隅部に配設することで限られた筐体2内部のスペースを有効に利用することができる。
【0063】
次に、図11を参照して、可動トレイ59および移動手段6の動作について説明する。はじめに、記録装置1が停止している状態では、可動トレイ59は離間位置に在る(図11(a)参照)。ユーザーからの記録(印刷)指示があると制御装置7は、動力伝達機構88を駆動して、各復動板カム85bを、各カムフォロア85cから離れる方向に回転させる(図11(b)参照)。このとき、各紙戻しレバー87も、給送ローラー41側に向かって回動を開始する。
【0064】
さらに、各復動板カム85bを回動させると、各復動板カム85bが各カムフォロア85cから離れて、捻りバネ84cの付勢力が作用する押圧アーム84bに押されて、可動トレイ59が接触位置へと回動する(図11(c)参照)。このとき、分離ローラー86aは、ローラー本体46(給送ローラー41)に斜め下側から転接した状態となる。また、各紙戻しレバー87は、用紙Pの給送を妨げない位置まで回動する。可動トレイ59内に収容された用紙Pは、各接触挿通部59bを通して給送ローラー41(各ローラー本体46)に接触する。接触した1枚の用紙Pは、給送ローラー41の回転方向に繰り出され、各分離ローラー86aと各ローラー本体46との間(ニップ点)に挟み込まれて搬送経路に供給される。
【0065】
動力伝達機構88の駆動は継続され、各復動板カム85bがさらに回動すると、各復動板カム85bが各カムフォロア85cに再び接触する(図11(d)参照)。ここで、1枚目の用紙Pの供給搬送が終了すると、2枚目の用紙Pが給送ローラー41に接触することになる。
しかし、本実施形態の移動手段6は、供給された用紙Pが一対の搬送ローラー42の間に挟み込まれる位置まで搬送されると、分離ローラー86aがローラー本体46から離間する方向に回動する。これと共に、各紙戻しレバー87は、可動トレイ59側に向かって回動し、先端部で、ニップ点に残った2枚目の用紙Pを引っ掛けて、可動トレイ59内に押し込むことができるようになっている。
【0066】
さらに各復動板カム85bを回転が進むと、各復動板カム85bは、捻りバネ84cの付勢力に抗して押圧アーム84bおよび可動トレイ59を離間位置に押し戻すと共に、各紙戻しレバー87が2枚目の用紙Pを可動トレイ59内に押し込む(図11(e)参照)。そして、可動トレイ59は、再び記録(印刷)開始前の状態に(離間位置)に戻る(図11(a)参照)。
【0067】
以上の構成によれば、小型かつ軽量なニップ機構86を用いることで記録装置1の筐体2を小型化することができる。これにより、記録装置1の省スペース化を図ることができる。なお、本実施形態では、ニップ機構86を、いわゆる縦置き型の記録装置1に適用しているが、もちろん横置きの記録装置1に適用してもよい。
【符号の説明】
【0068】
1:記録装置、2:筐体、3:印刷部、41:給送ローラー、86:ニップ機構、86a:分離ローラー、86b:ローラーホルダー、86c:ホルダー支軸、86d:捻りコイルばね、86e:付勢力調整機構、94:付勢板カム、95:カムフレーム、96:ロック手段、P:用紙
【技術分野】
【0001】
本発明は、給送ローラーと協働して、媒体収容部から記録媒体を1枚ずつ送る媒体搬送装置およびこれを備えた記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、用紙の重送を防止するためのローラー(分離ローラー)と、ローラーに圧接する分離パッドと、用紙に対する分離パッドの圧接力(分離圧)を調整する分離圧調整機構と、を備えた媒体搬送装置が知られている(特許文献1参照)。
この媒体搬送装置における分離圧調整機構は、モーター駆動のピニオンを回転させ、ラックを移動することで加圧スプリング(コイルスプリング)の付勢力を変化させ、分離パッドを移動させている。これにより、分離パッドは、記録媒体を挟んで適正な分離圧でローラーに押し当てられ、記録媒体は、重送されることなく適切に下流へと送られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平09−235033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の媒体搬送装置では、記録媒体を送るためのローラーに対し、記録媒体を適切に圧接させるためにモーターやギヤ列、コイルスプリング等を複雑に組み合わせた機構を用いる必要があった。特に、コイルスプリングを用いているため、付勢方向に大きなスペースが必要となる。このため、媒体搬送装置を小型化することが困難であり、媒体搬送装置を組み込む装置内に必要なスペースを確保することが困難な場合もあった。
【0005】
本発明は、簡易化かつ小型化することができる媒体搬送装置およびこれを備えた記録装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の媒体搬送装置は、給送ローラーと協働して、媒体収容部から記録媒体を1枚ずつ送る分離ローラーと、給送ローラーに対し、分離ローラーを接離自在に保持するローラーホルダーと、ローラーホルダーを介して、分離ローラーを給送ローラーに向って付勢する捻りコイルばねと、捻りコイルばねの一方の線材端部を回動させて捻りコイルばねの付勢力を調整する付勢力調整機構と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、捻りコイルばねは、コイルスプリングに比して、同じ重量で保存できるエネルギーが大きい。このため、小型かつ軽量の捻りコイルばねを用いても、分離ローラーに対して適切な付勢力を付与することができる。また、付勢力調整機構は、捻りコイルばねの一方の線材端部を回動させることができればよいため、ラック・アンド・ピニオンのような直線的に移動する機構と比較して小型化することができる。これにより、媒体搬送装置を組み込む装置内に必要なスペースを確保することが容易となり、装置内における媒体搬送装置のレイアウトの自由度が向上する。
【0008】
この場合、ローラーホルダーは、支軸を中心に回動自在に構成され、捻りコイルばねは、支軸に巻回するように取り付けられていることが好ましい。
【0009】
この構成によれば、捻りコイルばねの付勢力により、支軸を中心にしてローラーホルダーおよび分離ローラーを揺動させることができる。また、ローラーホルダーの支軸と捻りコイルばねとを集約配置することができる。これにより、給送ローラーに対する分離ローラーの付勢を適切に行うことができると共に、より小型化を図ることができる。なお、分離ローラーは、給送ローラーに接触した時の法線方向に接離自在に揺動(回動)することが好ましい。
【0010】
この場合、付勢力調整機構は、カム機構で構成されていることが好ましい。
【0011】
また、この場合、カム機構は、線材端部を回動させる板カムと、板カムを回転自在に支持するカムフレームと、板カムを、任意の回転位置でカムフレームにロックするロック手段と、を有していることが好ましい。
【0012】
これらの構成によれば、付勢力調整機構として、単純で、かつ、故障の少ないカム機構を用いることにより、捻りコイルばねの付勢力の調整が容易になると共に、付勢力を無段階に調整することができる。また、ロック手段により、板カムの回転位置を確実に保持し、調整した付勢力を一定に維持することができる。さらに、用途に合わせたカム曲線を有するように板カムを形成することで、微調整を容易に行うことができる。
【0013】
本発明の記録装置は、上記したいずれかの媒体搬送装置と、給送ローラーにより送られてきた記録媒体に記録を行う記録部と、媒体搬送装置および記録部を収容する筐体と、を備えたことを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、小型かつ軽量な媒体搬送装置を用いることで記録装置の筐体を小型化することができる。これにより、記録装置の省スペース化を図ることができる。
【0015】
この場合、媒体搬送装置が、筐体の1の隅部に配設されていることが好ましい。
【0016】
一般的に、記録装置の筐体内部において隅部はデッドスペースになることが多い。しかし、この構成によれば、小型化した媒体搬送装置をいずれかの隅部に配設することにより、限られた筐体内部のスペースを有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】記録装置の外観斜視図である。
【図2】用紙を給送ローラーから離間させた状態の記録装置の側断面図である。
【図3】用紙を給送ローラーに圧接させた状態の記録装置の側断面図である。
【図4】上部外側カバーが閉塞した状態の記録媒体カセットの斜視図である。
【図5】記録媒体カセット、移動手段および給送ローラー等を示した斜視図である。
【図6】記録媒体カセット、移動手段および給送ローラー等を示した正面図である。
【図7】記録媒体カセット、移動手段および給送ローラー等を示した側面図である。
【図8】カセット筐体部を取り除いた記録媒体カセットおよびニップ機構の背面図である。
【図9】ニップ機構の斜視図である。
【図10】ニップ機構の付勢力調整機構による捻りコイルばねの付勢力を調整する方法を示した説明図である。
【図11】可動トレイおよび移動手段の動作を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係る記録装置について説明する。この記録装置は、起立姿勢で保持した用紙(記録媒体)を搬送しながら所望の記録を行い、排紙した記録済みの用紙を起立状態で保持(ストック)するものである。なお、各図に示す通り、X軸(左右)方向、Y軸(前後)方向およびZ軸(上下)方向を規定して、以降説明する。
【0019】
図1ないし図3に示すように、記録装置1は、X軸およびY軸方向よりもZ軸方向の寸法が大きく形成された薄型の箱状体を成す筐体2によって外観が構成されている。また、記録装置1は、搬送路上に臨む用紙Pにインクジェット方式で印刷処理を行う印刷部3と、枚葉の用紙Pを搬送路に沿って送る搬送部4と、用紙Pを起立姿勢で収容し、筐体2に対し着脱自在に装着される記録媒体カセット5と、記録媒体カセット5の可動トレイ59(後述する。)を移動させる移動手段6(図11参照)と、搬送部4、印刷部3および移動手段6などを支持する装置フレーム(図示省略)と、装置全体を統括制御する制御装置7と、を備えている。
【0020】
筐体2の上面には、操作ボタン等が配置された操作パネル21と、PC等に接続するためのケーブルが接続されるケーブル端子22と、複数のインクカートリッジ(図示省略)を着脱可能に装着するカートリッジ装着部(図示省略)を開閉するカートリッジカバー23と、が設けられている。また、筐体2の上面には、記録が行われた用紙P(記録媒体)を排出するための用紙排出口24を開閉する用紙排出口カバー25が設けられている。なお、用紙排出口カバー25は、ユーザーによって開閉されるものであるが、仮に閉じた状態で記録が実行された場合でも、図外の開閉機構によって自動的に開くようになっている。
【0021】
印刷部3は、後述する一対の搬送ローラー42の下流側に配設されており、インクジェットヘッド32を搭載したキャリッジ31と、インクジェットヘッド32に対向位置に設けられた案内部材33と、を有している。
【0022】
キャリッジ31は、X軸方向に延びるキャリッジガイド軸34に沿って、図外のモーターにより往復移動可能に設けられている。なお、図2に示すように、キャリッジ31は、傾斜姿勢で設けられるため、キャリッジガイド軸34を中心として回動しようとする力が生じる。そこで、キャリッジ31の上方に設けられた被ガイド部35が、X軸方向に延びるキャリッジガイド板36を挟み込むことで、キャリッジ31の姿勢を一定に保持している。
【0023】
案内部材33は、搬送経路の一部を構成すると共に、用紙Pの記録面とインクジェットヘッド32との間のギャップ(ワークギャップ)を規定する。また、案内部材33には、インクジェットヘッド32と対向する位置に縁無し印刷の際、用紙P端から外れた領域に吐出されるインクを受ける凹部が形成されている。この凹部の中には、インクを吸収するインク吸収材(図示省略)が設けられている。そして更に、案内部材33の下方には、打ち捨てられたインクを貯留する廃液タンク(図示省略)が配置されている。
【0024】
なお、本実施形態は、インクカートリッジがキャリッジ31から独立して設けられたいわゆるオフキャリッジ型であるが、インクカートリッジがキャリッジ31に搭載された、いわゆるオンキャリッジ型であってもよい。また、本実施形態では、キャリッジ31がX軸方向に移動しながら記録を行ういわゆるシリアルプリンターであるが、用紙P幅をカバーする固定式のインクジェットヘッド32を用いてもよい。さらに、インクジェット方式に限らず、その他の記録方式であってもよい。
【0025】
搬送部4は、上流側から、装着された記録媒体カセット5の先端に対向する位置に設けられ、記録媒体カセット5から供給された用紙Pを下流側へと送り出す給送ローラー41と、用紙Pを印刷部3へと搬送する一対の搬送ローラー42と、印刷部3の案内部材33から用紙Pの浮き上がりを防止する案内ローラー43と、記録の行われた用紙Pを印刷部3から排出する一対の排紙ローラー44と、を有している。
【0026】
給送ローラー41は、X軸方向に延びるローラー軸45と、ローラー軸45に適宜の間隔で複数軸着したローラー本体46と、を有している。ローラー軸45の一端には、図外のモーター(減速機構付き)が接続されている。各ローラー本体46は、用紙Pの先端と接した状態で、モーターを駆動し回転させることで用紙Pを下方へと送り出す。給送ローラー41の外周面に対向位置には、用紙Pが湾曲反転する略U字状の搬送経路を形成するガイド部材47が配設されている。なお、符号48は、各ローラー本体46による用紙Pの送り出しを補助する補助従動ローラーである。すなわち、各ローラー本体46と各補助従動ローラー48とでニップローラーの形態を為している。
【0027】
一対の搬送ローラー42は、図外の駆動モーターにより回転駆動される搬送駆動ローラー42aと、図外の付勢手段により搬送駆動ローラー42aに向かって付勢されている搬送従動ローラー42bと、を有し、ニップローラーの形態を為している。搬送従動ローラー42bは、搬送駆動ローラー42aとの間で用紙Pを挟圧することで従動回転する。なお、図示は省略するが、一対の搬送ローラー42、案内ローラー43および一対の排紙ローラー44は、上記した給送ローラー41と同様に、それぞれ、X軸方向に延びる回転軸と、回転軸に適宜の間隔で複数軸着した回転ローラーと、から構成されている。
【0028】
一対の排紙ローラー44は、図外の駆動モーターにより回転駆動される排紙駆動ローラー44aと、図外の付勢手段により排紙駆動ローラー44aに向かって付勢されている排紙従動ローラー44bと、を有し、ニップローラーの形態を為している。排紙駆動ローラー44aは、その表面がゴム等により形成されている。排紙従動ローラー44bは、拍車状(スターホイール)に形成され、排紙駆動ローラー44aとの間で用紙Pを挟圧することで従動回転する。
【0029】
下方へと送り出された用紙Pは、給送ローラー41およびガイド部材47によって上向きに反転させられ、一対の搬送ローラー42へと送られる。用紙Pは、一対の搬送ローラー42の間に挟まれて、印刷部3に送られる。印刷部3で記録の行われた用紙Pは、案内ローラー43および一対の排紙ローラー44を介して、記録媒体カセット5の保持面61(後述する。)に摺接しながら上方に移動する(図3の破線参照)。排紙された用紙Pは、その下端が排紙駆動ローラー44aの近傍の装置フレームに設けられた受容部62に起立姿勢で支持される。なお、案内ローラー43は、拍車状のローラー(スターホイール)により構成されている。
【0030】
受容部62は、排紙駆動ローラー44a側の先端部分が上方に屈曲しており、支持した用紙Pの下端が脱落したり、排紙駆動ローラー44aに接触しないようになっている。また、受容部62は、適宜の間隔で複数配置された排紙駆動ローラー44aの間に入り込むようにして、X軸方向に適宜の間隔で複数配置されている。つまり、受容部62は、全体として略櫛歯形状に形成されている。
【0031】
続いて、図2ないし図7を参照して、記録媒体カセット5について説明する。記録媒体カセット5は、筐体2に対してZ軸方向にスライドすることで着脱可能に構成されており、装着することで記録装置1の外観を構成する。また、記録媒体カセット5を取り外すことで記録装置1の内部が露出するため、搬送経路に用紙Pが詰まった等の不具合を容易に解消することができる。
【0032】
記録媒体カセット5は、装着時に筐体2と面一になり、記録装置1の概観をなすカセット筐体部53と、全体としてトレイ状に形成された本体トレイ54と、用紙Pを収容する用紙収容空間Sを開閉する上部外側カバー55と、上部外側カバー55に対し、本体トレイ54の上端から突出するようにスライド可能に設けられた上部内側カバー56と、本体トレイ54に対し、本体トレイ54の上端から突出するようにスライド可能に設けられた上部スライドトレイ57と、上部外側カバー55に対し、X軸方向にスライド可能に設けられたエッジガイド58と、用紙収容空間Sに収容した用紙Pの先端を揺動させる可動トレイ59と、を備えている。
【0033】
本体トレイ54の下端部には、収容した用紙Pの先端を支持する用紙先端支持壁54aが形成されている。記録媒体カセット5が装着された状態において収容された用紙Pは、その先端が用紙先端支持壁54aに当接した状態で支持される。また、用紙先端支持壁54aには、後述する各紙戻しレバー87が挿通する複数(図4では3つ)のレバー挿通部54bが、給送ローラー41側から切り込まれて形成されている。
【0034】
上部外側カバー55は、本体トレイ54の上下方向略中央部に設けられた左右一対の回動支点55a(図4ないし図6参照)を中心に回動するようになっている。上部外側カバー55を開放することにより、用紙収容空間Sが表れて、用紙Pの収容が可能となる。また、上部外側カバー55の外面(装着時に装置内側に向く面)は、記録済みの用紙Pを保持する(蓄える)ための保持面61として機能している。
【0035】
図2および図3に示すように、上部内側カバー56は上部外側カバー55に対し、また、上部スライドトレイ57は本体トレイ54に対し、それぞれスライドすることで、用紙PのZ軸方向の長さに合わせて、用紙収容空間Sを伸縮させることができる。また、上部内側カバー56を延ばした場合は、上部外側カバー55の外面から連なるように上部内側カバー56の外面が延在し、保持面61がZ軸方向に延長される。
【0036】
図2ないし図6に示すように、エッジガイド58は、用紙収容空間Sに収容された用紙Pをガイドする供給側ガイド64と、保持面61に保持された用紙Pをガイドする排出側ガイド65と、上部外側カバー55を貫通して形成された長穴55bを通して供給側ガイド64と排出側ガイド65とを連結する連結部66と、を有している。エッジガイド58は、連結部66の部分で、長穴55bに沿ってスライド自在に設けられている。
【0037】
供給側ガイド64は、図6において右側から用紙Pの端に接触して、用紙Pの搬送方向(Z軸方向)への移動をガイドする。供給側ガイド64には、上記した左右一対の回動支点55aと同軸にガイド回動支点73が設けられている。したがって、ガイド回動支点73より上側の供給側ガイド64は、上部外側カバー55と共に回動する。また、上記した左右一対の揺動支点59aは、回動支点55aおよびガイド回動支点73よりも僅かに下方かつ後方に位置ずれして設けられている(図2および図3参照)。これにより、ガイド回動支点73より下側の供給側ガイド64は、可動トレイ59と共に回動可能となっている。
【0038】
排出側ガイド65は、保持面61側に設けられ、連結部66から上方に延設されたガイドバー74と、ガイドバー74の上端部に接続された板状部75と、を有している。板状部75は、排紙された用紙Pに、図6において右側から臨むように設けられている。また、ガイドバー74および板状部75は、ユーザーがエッジガイド58のスライド操作を行うための操作子となる。
【0039】
本実施形態では、連結部66で連結された供給側ガイド64または排出側ガイド65のうち一方を変位させると、他方も同時に変位する。これにより、用紙収容空間Sを上部外側カバー55で閉塞したまま、エッジガイド58のスライドを操作することができる。
【0040】
なお、図4に示すように、上部外側カバー55の長穴55bの下側近傍には、例えばJIS規格A4判サイズなどに対応した用紙PのX軸方向の端を指標する目盛55cが設けられている。
【0041】
可動トレイ59は、記録媒体カセット5が装着された状態において用紙送り方向下流側となる本体トレイ54の下側に設けられ、いわゆるホッパーとして機能するものである。可動トレイ59は、本体トレイ54の上下方向略中央部に設けられた左右一対の揺動支点59a(図6参照)を中心に回動可能になっており、図外の駆動機構により揺動するようになっている。これにより、収容された用紙Pの先端を、各ローラー本体46に圧接させる状態(接触位置(図3参照))と、離間させる状態(離間位置(図2参照))と、にすることができる。
【0042】
また、図4に示すように、可動トレイ59には、用紙Pの先端に対応する位置に、各ローラー本体46が挿通して用紙Pに圧接できるように複数の接触挿通部59bが形成されている。この複数の接触挿通部59bは、X軸方向に沿って適宜の間隔で形成されている。
【0043】
次に、図5ないし図11を参照して、移動手段6について説明する。移動手段6は、給送ローラー41に対し、可動トレイ59に収容した用紙Pを接触位置と離間位置との間で移動させる。移動手段6は、可動トレイ59を付勢することで離間位置から接触位置に移動させる往動機構84と、往動機構84の付勢力に抗して、可動トレイ59を接触位置から離間位置に移動させる復動機構85と、給送ローラー41との間に用紙Pを挟んで送り出すニップ機構86と、供給される用紙Pに続く次の用紙Pを可動トレイ59内に押し戻す複数の紙戻しレバー87と、モーター(図示省略)からの駆動力を、用紙Pを1枚ずつ供給搬送するタイミングで、復動機構85に伝達する動力伝達機構88と、を有している。
【0044】
図7および図11に示すように、往動機構84は、基端部を押圧支軸84aに自由回動するように軸支され、先端部で可動トレイ59に当接する押圧アーム84bと、押圧アーム84bを回動付勢する捻りバネ84cと、を有している。
【0045】
押圧アーム84bは、先端部が可動トレイ59の背面(本体トレイ54側の面)の下端部に係合している。捻りバネ84cは、押圧支軸84aに嵌合して設けられ、押圧アーム84bを離間位置から接触位置に向かって付勢している。これにより、可動トレイ59は、押圧アーム84bを介して捻りバネ84cの付勢力により離間位置から接触位置に向かって常に付勢されている。
【0046】
図5ないし図7に示すように、復動機構85は、可動トレイ59側で、かつ、給送ローラー41の上方においてX軸方向に延在する復動カム軸85aと、復動カム軸85aに軸着した2つの復動板カム85bと、を有している。
【0047】
各復動板カム85bは、所定の間隔で同じ向きで復動カム軸85aに軸着している。各復動板カム85bは、可動トレイ59の正面にZ軸方向に延在して設けられた一対のレール状のカムフォロア85cに当接している。各カムフォロア85cに非接触状態となるように各復動板カム85bを回転させることで、可動トレイ59は、往動機構84の付勢力により接触位置へと移動する。他方、各カムフォロア85cに接触させ、可動トレイ59を押し込むように各復動板カム85bを回転させると、可動トレイ59は、往動機構84の付勢力に抗して離間位置へと移動する。
【0048】
図8ないし図10に示すように、ニップ機構86は、可動トレイ59側で、かつ、下方から給送ローラー41の1つのローラー本体46に接触して従動回転する分離ローラー86aと、分離ローラー86aを軸支するローラーホルダー86bと、ローラーホルダー86bを介して分離ローラー86aをローラー本体46に向かって付勢する捻りコイルばね86dと、捻りコイルばね86dの一方の線材端部を回動させて捻りコイルばね86dの付勢力を調整する複数の付勢力調整機構86eと、を有している。なお、請求項に言う「媒体搬送装置」とは、ニップ機構86を指す。
【0049】
分離ローラー86aは、ローラーホルダー86bに自由回転するように軸支されている。分離ローラー86aは、図8において右から(図6では左から)2つ目のローラー本体46に対応する位置に配設されている。分離ローラー86aは、可動トレイ59内の用紙収容空間Sから、ローラー本体46との間に送り出された1枚の用紙Pに転接する。
【0050】
ローラーホルダー86bは、分離ローラー86aの左右両端に配設され、分離ローラー86aを自由回転自在に軸支する一対のサイドホルダー90と、一対のサイドホルダー90を連結する連結ホルダー91と、を有している。
【0051】
図8において左側のサイドホルダー90は、基端部をホルダー支軸86cに固定されている。ホルダー支軸86cは、後述するカムフレーム95に一端(図8において左端)が回動自在に軸支されている。一方、図8において右側のサイドホルダー90は、装置フレームから立設する回動支持部92に回動自在に支持されている。これにより、分離ローラー86aは、ローラーホルダー86b(一対のサイドホルダー90)を介してホルダー支軸86cを中心に揺動する。連結ホルダー91には、左右方向略中央に捻りコイルばね86dの一方の線材端部が係合する係合部91aが突設されている。
【0052】
捻りコイルばね86dは、図8においてホルダー支軸86cの右端部に嵌合、言い換えればホルダー支軸86cに巻回して設けられている。また、捻りコイルばね86dの一方の線材端部は、上記した連結ホルダー91の係合部91aに係合し、他方の線材端部は、後述する付勢力調整機構86eの付勢板カム94に係合している。これにより、捻りコイルばね86dは、ローラーホルダー86bをローラー本体46に向かって常に付勢している。捻りコイルばね86dは、コイルスプリングに比して、同じ重量で保存できるエネルギーが大きいため、小型かつ軽量の捻りコイルばね86dを用いても、分離ローラー86aに対して適切な付勢力を付与することができる。また、捻りコイルばね86dをホルダー支軸86cに巻回させることで、これらを集約配置することができる。これにより、給送ローラー41に対する分離ローラー86aの付勢を適切に行うことができると共に、より小型化を図ることができる。なお、分離ローラー86aは、給送ローラー41に接触した時の法線方向に接離自在に揺動(回動)する(図10(b)および(d)の破線矢印参照)。
【0053】
付勢力調整機構86eは、付勢カム軸93に軸着された付勢板カム94と、装置フレームに形成され、付勢カム軸93の両端部を支持するカムフレーム95と、付勢板カム94を任意の回転位置でカムフレーム95にロックするロック手段96と、を有している。
【0054】
付勢板カム94には、他方の線材端部が係合する係合溝94aが凹設されている。カムフレーム95は、一対のサイドホルダー90の外側に配設され、ホルダー支軸86cの両端部を支持固定すると共に、付勢カム軸93の両端部を回動自在に軸支する。
【0055】
ロック手段96は、カムフレーム95を貫通した付勢カム軸93の一端に接続された揺動板97と、揺動板97に貫通形成されたスリット部97aを通して、カムフレーム95の雌ネジ部(図示省略)に螺合する固定ネジ98(図10(a)および(c)参照)と、を有している。
【0056】
図10に示すように、揺動板97は、付勢カム軸93を中心に回動(揺動)する。また、スリット部97aは、付勢カム軸93(揺動板97)の揺動に沿うように円弧状に開口している。したがって、揺動板97を揺動させることにより、付勢カム軸93を介して付勢板カム94が任意の方向に揺動する。これにより、付勢板カム94の係合溝94aに係合した捻りコイルばね86dの他方の線材端部が任意の方向に回動し、その付勢力が調整される。
【0057】
例として、付勢板カム94により、捻りコイルばね86dの付勢力を強くする方法を説明する。図10(a)および(b)に示すように、付勢板カム94が、捻りコイルばね86dの付勢力が最小となる位置にあるものとする。まず、ユーザーは、固定ネジ98を緩めて、揺動板97の固定を解除する。そして、揺動板97を右回りに揺動させ、任意の揺動位置で再び固定ネジ98を締め付ける。これにより、図10(c)および(d)に示すように、付勢板カム94が任意の回転(揺動)位置で固定され、捻りコイルばね86dの付勢力が調整された状態で保持される。このように、付勢力調整機構86eとして、単純で、かつ、故障の少ないカム機構を用いることにより、捻りコイルばね86dの付勢力の調整が容易になると共に、付勢力を無段階に調整することができる。また、ロック手段96により、付勢板カム94の回転位置を確実に保持し、調整した付勢力を一定に維持することができる。さらに、用途に合わせたカム曲線を有するように付勢板カム94を形成することで、微調整を容易に行うことができる。
【0058】
また、本実施形態の付勢力調整機構86eは、捻りコイルばね86dの1の線材端部を回動させることができればよいため、ラック・アンド・ピニオンのような直線的に移動する機構と比較して大幅に小型化することができる。これにより、ニップ機構86を組み込む記録装置1内に必要なスペースを確保することが容易となる。したがって、記録装置1内におけるニップ機構86のレイアウトの自由度が向上する。
【0059】
図11に示すように、各紙戻しレバー87は、基端部を上記の押圧支軸84aに回動自在に軸支されている。各紙戻しレバー87は、先端部が、用紙先端支持壁54aに切り込まれたレバー挿通部54bに臨むように配設されている。各紙戻しレバー87の先端部は、用紙Pの下端部に対し、接触位置側から接触するように切り欠かれている。
【0060】
ここで、用紙収容空間Sに複数の用紙Pが収容されている場合には、供給される1枚の用紙P(給送ローラー41に接触している用紙P)に続くように次の用紙Pも各分離ローラー86aと各ローラー本体46との間のニップ点に引き出される。
しかし、詳細は後述するが、離間位置へと移動する可動トレイ59と共に各紙戻しレバー87が、離間位置へと移動することでニップ点に引き出された次の用紙Pを適切に用紙収容空間Sへと押し戻すことができる。
【0061】
図6に示すように、動力伝達機構88は、図外のモーターおよび減速ギヤ列を有し、減速ギヤ列の出力端に接続された押圧支軸84a、復動カム軸85aおよびホルダー支軸86cを、それぞれ回動させる。これにより、各紙戻しレバー87、各復動板カム85bおよびローラーホルダー86b(各分離ローラー86a)が、所定の回転方向に必要な量(角度)だけ回動する。なお、動力伝達機構88は、押圧アーム84bの接触位置に方向への回動を阻止するカム(図示省略)を有している。このカムは、記録媒体カセット5を取り外した状態であっても、押圧アーム84bの回動を阻止するようになっている。
【0062】
ここで、一般的に、記録装置1の筐体2内部において隅部はデッドスペースになることが多い。しかし、本実施形態における往動機構84、ニップ機構86および紙戻しレバー87は、いずれも小型化が図られており、これらをいずれかの隅部に配設することで限られた筐体2内部のスペースを有効に利用することができる。
【0063】
次に、図11を参照して、可動トレイ59および移動手段6の動作について説明する。はじめに、記録装置1が停止している状態では、可動トレイ59は離間位置に在る(図11(a)参照)。ユーザーからの記録(印刷)指示があると制御装置7は、動力伝達機構88を駆動して、各復動板カム85bを、各カムフォロア85cから離れる方向に回転させる(図11(b)参照)。このとき、各紙戻しレバー87も、給送ローラー41側に向かって回動を開始する。
【0064】
さらに、各復動板カム85bを回動させると、各復動板カム85bが各カムフォロア85cから離れて、捻りバネ84cの付勢力が作用する押圧アーム84bに押されて、可動トレイ59が接触位置へと回動する(図11(c)参照)。このとき、分離ローラー86aは、ローラー本体46(給送ローラー41)に斜め下側から転接した状態となる。また、各紙戻しレバー87は、用紙Pの給送を妨げない位置まで回動する。可動トレイ59内に収容された用紙Pは、各接触挿通部59bを通して給送ローラー41(各ローラー本体46)に接触する。接触した1枚の用紙Pは、給送ローラー41の回転方向に繰り出され、各分離ローラー86aと各ローラー本体46との間(ニップ点)に挟み込まれて搬送経路に供給される。
【0065】
動力伝達機構88の駆動は継続され、各復動板カム85bがさらに回動すると、各復動板カム85bが各カムフォロア85cに再び接触する(図11(d)参照)。ここで、1枚目の用紙Pの供給搬送が終了すると、2枚目の用紙Pが給送ローラー41に接触することになる。
しかし、本実施形態の移動手段6は、供給された用紙Pが一対の搬送ローラー42の間に挟み込まれる位置まで搬送されると、分離ローラー86aがローラー本体46から離間する方向に回動する。これと共に、各紙戻しレバー87は、可動トレイ59側に向かって回動し、先端部で、ニップ点に残った2枚目の用紙Pを引っ掛けて、可動トレイ59内に押し込むことができるようになっている。
【0066】
さらに各復動板カム85bを回転が進むと、各復動板カム85bは、捻りバネ84cの付勢力に抗して押圧アーム84bおよび可動トレイ59を離間位置に押し戻すと共に、各紙戻しレバー87が2枚目の用紙Pを可動トレイ59内に押し込む(図11(e)参照)。そして、可動トレイ59は、再び記録(印刷)開始前の状態に(離間位置)に戻る(図11(a)参照)。
【0067】
以上の構成によれば、小型かつ軽量なニップ機構86を用いることで記録装置1の筐体2を小型化することができる。これにより、記録装置1の省スペース化を図ることができる。なお、本実施形態では、ニップ機構86を、いわゆる縦置き型の記録装置1に適用しているが、もちろん横置きの記録装置1に適用してもよい。
【符号の説明】
【0068】
1:記録装置、2:筐体、3:印刷部、41:給送ローラー、86:ニップ機構、86a:分離ローラー、86b:ローラーホルダー、86c:ホルダー支軸、86d:捻りコイルばね、86e:付勢力調整機構、94:付勢板カム、95:カムフレーム、96:ロック手段、P:用紙
【特許請求の範囲】
【請求項1】
給送ローラーと協働して、媒体収容部から記録媒体を1枚ずつ送る分離ローラーと、
前記給送ローラーに対し、前記分離ローラーを接離自在に保持するローラーホルダーと、
前記ローラーホルダーを介して、前記分離ローラーを前記給送ローラーに向って付勢する捻りコイルばねと、
前記捻りコイルばねの一方の線材端部を回動させて前記捻りコイルばねの付勢力を調整する付勢力調整機構と、を備えたことを特徴とする媒体搬送装置。
【請求項2】
前記ローラーホルダーは、支軸を中心に回動自在に構成され、
前記捻りコイルばねは、前記支軸に巻回するように取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の媒体搬送装置。
【請求項3】
前記付勢力調整機構は、カム機構で構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の媒体搬送装置。
【請求項4】
前記カム機構は、
前記線材端部を回動させる板カムと、
前記板カムを回転自在に支持するカムフレームと、
前記板カムを、任意の回転位置で前記カムフレームにロックするロック手段と、を有していることを特徴とする請求項3に記載の媒体搬送装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の媒体搬送装置と、
前記給送ローラーにより送られてきた前記記録媒体に記録を行う記録部と、
前記媒体搬送装置および前記記録部を収容する筐体と、を備えたことを特徴とする記録装置。
【請求項6】
前記媒体搬送装置が、前記筐体の1の隅部に配設されていることを特徴とする請求項5に記載の記録装置。
【請求項1】
給送ローラーと協働して、媒体収容部から記録媒体を1枚ずつ送る分離ローラーと、
前記給送ローラーに対し、前記分離ローラーを接離自在に保持するローラーホルダーと、
前記ローラーホルダーを介して、前記分離ローラーを前記給送ローラーに向って付勢する捻りコイルばねと、
前記捻りコイルばねの一方の線材端部を回動させて前記捻りコイルばねの付勢力を調整する付勢力調整機構と、を備えたことを特徴とする媒体搬送装置。
【請求項2】
前記ローラーホルダーは、支軸を中心に回動自在に構成され、
前記捻りコイルばねは、前記支軸に巻回するように取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の媒体搬送装置。
【請求項3】
前記付勢力調整機構は、カム機構で構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の媒体搬送装置。
【請求項4】
前記カム機構は、
前記線材端部を回動させる板カムと、
前記板カムを回転自在に支持するカムフレームと、
前記板カムを、任意の回転位置で前記カムフレームにロックするロック手段と、を有していることを特徴とする請求項3に記載の媒体搬送装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の媒体搬送装置と、
前記給送ローラーにより送られてきた前記記録媒体に記録を行う記録部と、
前記媒体搬送装置および前記記録部を収容する筐体と、を備えたことを特徴とする記録装置。
【請求項6】
前記媒体搬送装置が、前記筐体の1の隅部に配設されていることを特徴とする請求項5に記載の記録装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−171746(P2012−171746A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35498(P2011−35498)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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