説明

子宮動脈の塞栓閉塞

患者の血管内に生体吸収性の塞栓塊を配置することによって、患者の血管を、短期間で非永久的に閉塞することを含む、治療方法が、開示されている。その方法は、特に、患者の子宮動脈を閉塞することによって子宮疾患を治療するのに適している。子宮動脈の閉塞のための治療有効期間は、約0.5〜約48時間、好ましくは約1〜約24時間であり、多くの場合、約1〜約8時間の閉塞時間が適している。閉塞塊は、約100〜約2000μm、好ましくは約200〜約1000μmの最小横寸法を有する生体吸収性の粒子である。粒子は、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、又はそれらのコポリマーによって形成されたポリマー材料、又は、乳酸とポリエチレングリコールとの膨潤性のコポリマーでもよい。塞栓材料は、生体適合性溶液として、体内部位に供給される。生体適合性溶液は、水性液体に比較的不溶である溶質と、水性液体に比較的溶解可能な溶媒と、を含んでいる。溶質が塞栓塊を形成する場所で、塞栓塊は体内腔を全部又は部分的に閉塞したり、体腔を全部又は部分的に満たす。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明の分野
本発明は、概ね、患者の1つ以上の子宮動脈を閉塞することを含む、子宮疾患の治療に関するものであり、特に、患者の子宮動脈又は動脈群の非永久的な塞栓閉塞に関するものである。
【0002】
発明の背景
米国では、毎年約60万人の女性に、子宮摘出術(子宮の外科切除)が行われている。約34万人の女性にとっては、これらの疾患(子宮癌、子宮内膜症、月経過多、子宮脱)の治療として、子宮摘出術が、大抵は最も良い現在の治療法選択となっている。機能不全性子宮出血(腫瘍のような個別の解剖学的理由のない異常な月経出血)を患っている約6万の女性にとっては、新たな子宮内膜アブレーション技術が子宮摘出術に変わるかもしれない。子宮の、良性ではあるが症候性(過度な出血、痛み及びバルク感覚)筋肉腫瘍、例えば平滑筋腫や類線維腫、を患っている約20万人の女性にとっては、これらの女性に子宮摘出術を使わない新たな治療方法が開発されてきている。
【0003】
子宮筋腫疾患を治療するための子宮摘出術は、有効ではあるが、多くの望ましくない特性を有している。子宮摘出術の望ましくない特性は、よく知られており、例えば、子宮摘出患者1000人当たり約0.5人が死亡するという死亡率、近くの臓器(膀胱、尿管、腸)を傷つけること、約1週間の入院、正常な活動ができるまで5〜6週間かかること、高額な治療費、心疾患の危険性の増大、性欲の減退及び不安鬱病の発生、などが挙げられる。
【0004】
一般に、子宮筋腫の診断は、多発性類線維腫の存在を伴っており、それは、病気の1つの子宮において平均して10以上存在している。しかも、どの類線維腫が患者に症状(出血、痛み、近くの臓器へのバルク効果)を引き起こしているかを知ることは、困難であることが多い。更に、類線維腫は、子宮内の異なった層で起こり、粘膜下類線維腫は子宮の上皮の近くで起こり、壁内類線維腫は子宮筋層内で起こり、漿膜下類線維腫は子宮の外層の近くで起こる。一般に、漿膜下類線維腫のみが腹腔から直接に観察され、粘膜下類線維腫のみが子宮の子宮内膜面から観察される。子宮の壁内の深部の類線維腫は、どの表面からも殆ど目で見ることができない。そして、類線維腫は色々なサイズのものがあるので、大きな類線維腫だけがどんな場合でも見られる。
【0005】
明らかに、どの類線維腫又は類線維腫群が症候を引き起こしているかを確認する方法は、難しく、その類線維腫を発見して、その特定の類線維腫を取り除いたり破壊したりすることは、かなり複雑な方法である。したがって、子宮摘出術が何故一般的な手術選択となっているかは、容易に理解される。子宮摘出術によれば、全ての子宮筋腫が1回の動作で取り除かれる。
【0006】
Ravina et al.は、1995年に、子宮筋腫が、非外科的血管内治療法、特に子宮動脈の両側腔内閉塞からなる治療法によって、治療されること、を示している(Ravina et al.,"Arterial Embolization to Treat Uterine Myomata", Lancet September 9, 1995; Vol. 346; pp. 671-672、参照することによりその全てがここに組み込まれる)。この技術は、「子宮動脈塞栓術」として現在一般に知られている。子宮動脈塞栓術は、種々の原因による子宮出血をコントロールするのにも有効に使われる。
【0007】
その技術は、標準的なインターベンショナル・ラジオロジー・血管造影の技術及び装置を使用する。大腿動脈は、従来のSeldinger技術によってアクセスされ、デリバリーカテーテルが、子宮動脈を閉塞するために塞栓材料が配置される左右の子宮動脈へ、大腿動脈を通して、進められる。当初は、ポリビニルアルコール粒子(PVA)が塞栓材料として使用されたが、動脈瘤治療に使用されるような金属コイル(米国特許第4,994,069号、同第5,226,911号、同第5,549,824号参照、これらの全ては参照することによってここに組み込まれる)、GELFOAM綿撒糸(Upjohn, Kalamazoo, Michiganから入手可能)のような粒子、又はIVALON粒子(Boston Scientificから入手可能)を含む、他の塞栓媒体を、使用できる。閉塞に続いて、デリバリーカテーテル及び他の装置が患者から取り除かれ、動脈穿刺部位が指圧によって約15分間保持される。術後の痛みはしばしばひどいものであるが、患者は一般に数日で完全に回復する。
【0008】
子宮動脈塞栓術による類線維腫の治療における重要な特徴の1つは、初期の血液供給が危うくなった場合に、新たな血液供給をホストから補充するための能力が非常に小さいことによって類線維腫が短い血管寿命を有している、という事実である。他方、子宮は、二重の(あるいは余剰の)血液供給を有しており、第1の血液供給は両側の子宮動脈からのものであり、第2の血液供給は両側の卵巣動脈からのものである。その結果、両方の子宮動脈が閉塞されると、すなわち両側血管閉塞になると、子宮及び子宮内に含まれる類線維腫は、共にその血液供給が奪われる。しかしながら、Ravina et al.によって示されるように、類線維腫への影響は、子宮への影響より大きい。多くの場合、類線維腫は消失し、臨床症状は起こらなくなる。
【0009】
子宮動脈塞栓術は成功してきているが、その使用は広がってはいない。何故なら、その施術を行う医師は、インターベンショナル・ラジオロジストであり、通常は婦人科問題を処理していない人だからである。婦人科問題を処理する医師は、カテーテルを用いた塞栓術を実行するのに必要な技能及び装置を持ち合わせていない。したがって、子宮動脈塞栓術は、症候性子宮筋腫にとっては、子宮摘出術に比べて殆ど実行されていない。
【0010】
類線維腫又は子宮出血の治療として、女性に提案されている現在の治療の多くは、子宮動脈に対する永久的な又は略永久的な閉塞方法に、集中している。例えば、PVA粒子による塞栓形成は6ヶ月以上の子宮動脈閉塞を生じさせ、ステンレス製コイルによる塞栓形成は永久的閉塞を生じさせ、Gelfoamによる塞栓形成は塞栓粒子が分解する前に3〜4週間閉塞し、しかも深刻な炎症を引き起こし、金属製血管クリップによる外科的結紮は永久的に閉塞し、RFアブレーションによる外科的結紮は永久的閉塞をもたらす。
【0011】
したがって、従来の装置及び方法は、子宮動脈を長期間又は永久に閉塞することを目的としており、それは、更に子供を産みたいと願っている出産適齢期の女性にとって、適切ではない。これらの出産適齢期の患者は、最もひどい子宮筋腫を患っている患者であることが多い。PVA粒子による子宮動脈塞栓術を受け且つその後に妊娠して正常な赤ん坊を出産した女性についての、報告があるが、胎児は、子宮動脈からの血流が奪われた子宮によって養われなければならない。子宮動脈塞栓術を受けた女性は、卵巣不全による早発閉経に悩む。
【0012】
近年、同時係属出願の、出願番号09/908,815、2001年7月20日出願及び出願番号10/107,810、2002年3月28日出願(両方共、本件の譲受人に譲渡されており、参照することによってここに組み込まれる)におけるBurbank et al.が、子宮動脈をクランプしたり子宮動脈に他の機械的な圧力を加えたりすることによって、類線維腫及び子宮出血の女性患者の子宮動脈を一時的に閉塞することを、示している。
【0013】
しかし、なお、従来の塞栓方法の望まれない副作用が無い子宮動脈塞栓術のために、方法、処置、及び技術を改良する必要性が、残っている。
【0014】
発明の概要
本発明は、生体吸収性で短命の塞栓材料によって、治療有効期間の間、患者の1以上の動脈を閉塞することによって、人間又は他の哺乳類の患者を治療すること、を対象としている。塞栓材料の閉塞塊は、ボーラスとして配置され又はその場で形成される。生体吸収性で短命の塞栓材料は、動脈を閉塞するために患者の動脈内へ供給され、好ましくは、動脈を通る血流は、治療有効期間中、モニターされて、血液がその期間の最後に回復することが保証される。その治療は、特に、類線維腫、不正子宮出血(DUB)、産後出血(PPH)、帝王切開手術による出血、のような子宮疾患に適している。
【0015】
本発明の処置によって子宮動脈を閉塞するのに十分なだけ血栓が形成されるのを保証するために、止血が、少なくとも約0.5時間であって約48時間未満の間、好ましくは約1時間〜約24時間、より好ましくは約1時間〜約8時間、維持される必要がある。血栓の形成を開始する塞栓材料の塊は、以下に非常に詳細に説明するが、類線維腫細胞株を死滅させ、子宮出血を停止させ、又は、患者の子宮疾患を効果的に治療するのに、十分な時間だけ所定位置に留まる必要がある。動脈内での血栓の形成を開始して維持するためのこの初期の期間の後に、塞栓塊供給システムは、閉塞された動脈部位から取り除いたり分散したりできる。
【0016】
閉塞塞栓塊は、最小横寸法が約100〜約2000μm、好ましくは約300〜約1000μmの、粒子材料で形成される。粒子は、概ね球状であるが、約400μmより大きな直径を有する粒子は、供給を促進するため及び患者の子宮動脈内での適切な位置付けを保証するために、縦横比(直径に対する長さ)が少なくとも1.5、好ましくは2より大きいものが良い。
【0017】
塞栓材料は、例えばポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、及びそれらのコポリマー、融合物、及び混合物、のような非膨潤性で生体吸収性のポリマー材料で形成され、又は、乳酸とポリエチレングリコールとのコポリマーのような膨潤性(水和性)で生体吸収性のポリマー材料で形成される。Birmingham Inc.によって作られて販売されている、特に適した、膨潤性で生体吸収性の粒子は、70(重量)%ポリ乳酸(PLA)と30(重量)%ポリエチレングリコール(PEG)8000とのコポリマーである。PLAとPEGとの他の適切な重量比としては、約95:5〜約50:50を利用できる。PEGの分子量は、溶解するのに長くかかる高分子量(例えば10000〜20000)による溶解時間をもたらすことができる。70%PLA/30%PEG8000コポリマーは、すぐに膨潤して14時間以内で溶解する。大きな粒子又はペレット、例えば最小横寸法が約400μm以上のものは、好ましくは、より近い場所に配置できる膨潤性のポリマー材料で形成される。ペレットは、血液のような水性液体内で膨潤可能であるので、それらは、より確実に動脈管腔内に嵌るために、その場で拡張し、動脈の完全な閉塞を保証する。
【0018】
塞栓塊は、ポリエチレングリコール及びメチルセルロースのような、非常に粘性の液体又はゲル様の塊、の形態をしている。
【0019】
患者の子宮動脈を閉塞する塞栓材料は、患者の子宮動脈内に配置された時に閉塞塊を形成する、閉塞材料の、溶液として、供給される。生体適合性及び生体吸収性の材料は、不水溶性であり、好ましくは、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、又はそれらのコポリマー、融合物、及び混合物、のようなポリマー材料であり、ジメチルスルホキシド(DMSO)又は他の適切な生態適合性溶媒のような、水溶性の生体適合性溶媒に、少なくとも部分的に、溶解する。ポリマー材料は、水性の体液に溶解しないが、溶媒は、溶液のボーラスが患者の動脈内に注入されると、血流又は他の体液によって迅速に吸い上げられ、不溶性ポリマー材料が残り、その場で閉塞塊を形成する。通常、その場で形成されたポリマー塊は、多孔性であるが、それにも関わらず、配置された患者の子宮動脈を閉塞する。溶質の量は、溶質及び溶媒の組成に依存するが、約1〜約35(重量)%、好ましくは約2〜約20(重量)%の範囲である。
【0020】
ここでは、患者の子宮動脈を閉塞することについて述べたが、水溶性の溶液、好ましくは、両極性溶媒及び溶媒に溶解されている不水溶性ポリマー溶質は、ある状況で他の体内部位にて使用できる。その状況では、短命で生体吸収性のポリマー塊が、機械的支持、ドラッグデリバリー、キャビティーフィルのような種々の理由のために、体内部位で必要とされる。他の溶けなかった成分は、他の目的のために、溶液中に取り込まれる。例えば、溶液や水に不溶であってそれらに取り込まれた薬物や他の治療薬や診断薬、を有する粒子は、溶液によって供給され、その結果、ポリマー溶質によって形成された生体吸収性構造が、取り込まれた1以上の治療薬や診断薬を有する粒子を、ポリマー溶質の生体吸収性によって支配される期間にわたって供給するために、支持する。
【0021】
閉塞塞栓塊の吸収速度及び血栓の酵素による分解速度は、48時間以下、一般には24時間以下の、治療期間の間、子宮動脈が効果的に閉塞される程度のものである。塞栓塊による閉塞は、完全である必要はない。塞栓塊は、患者の子宮及び子宮に関係している類線維腫に栄養を与える子宮動脈系において、血の塊を形成するのに十分な程度に、動脈を流れる血流を遅くする。血の塊が一旦形成されると、塊自身は、子宮動脈を流れる血流を更に遅くしたり止めたりできる。治療期間の終わりに、閉塞塞栓塊は、十分に吸収され、血栓は、子宮動脈を通る子宮への血流が回復するほどに、十分に溶解した。血栓溶解過程は、施術者がそうすることを選択する場合には、溶解を加速するために、tPAなどのような血栓溶解剤の全身投与又は局所投与によって、任意に助長できる。
【0022】
子宮動脈の短期塞栓閉塞は、近くの組織及び解剖学的構造を不必要に露出させて低酸素症や重大な永久的損傷へ至らせてしまうことなく、子宮出血を終わらせたり患者の子宮疾患のための他の治療を実行したりするために、子宮筋腫を壊死させるのに十分である。本発明による非永久的子宮動脈閉塞のための血管内方法は、従来の血管内技術を越えて、この方法の安全性及び有効性をかなり改善することができ、その方法は、患者の子宮に対して永久的な損傷をもたらさない。
【0023】
本発明の他の目的、特徴及び付随する効果は、添付の図面と共に、以下の詳細な説明から明らかである。
【0024】
発明の詳細な説明
本発明の特徴を具体化している、短期で非永久的な子宮動脈閉塞のための、治療は、下記に示される通りである。子宮動脈の血流は、生体吸収性材料からなる1つ以上の短命の塞栓塊を患者の子宮動脈系内の所望の場所に供給することによって、動脈を閉塞することにより、遅くされ又は止められる。この血流の停止は、当業者によく知られている形態で、動脈内に凝固カスケードを作る。血流が一旦中断し又は充分に遅くなると、子宮動脈内で、凝固又は血栓の形成が始まり、近い内に、血管が、血の塊又は血栓で、満たされる。子宮筋腫、特に子宮筋腫の細胞は、それらへの血流の停止のために、略即座に死ぬ。他方、子宮は無酸素となるが、子宮は、部分的に、卵巣動脈及び他の側副動脈による供給を受けているので、側副血行が、子宮組織を生かし続け、且つ、子宮への全血流が正常状態に戻るよう回復させることを可能とするのに、適している。
【0025】
塞栓閉塞された血管内に形成された血栓は、血栓を溶解させる酵素活性にさらされる。このサイクルは、予測可能であり且つ効果的であり、それは、組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)のような種々の血栓溶解剤を血栓部位に供給することによって、促進できる。血栓溶解剤の供給は、血管内カテーテルによって、全身的に又は部位特異的に行われる。
【0026】
当業者に容易にわかるように、本発明は、子宮動脈を閉塞するのに有用な、ここで述べた特定の実施例の機構に、限定されるものではなく、他の適切な方法及び装置も、本発明の精神及び範囲の中にある。
【0027】
図1は、女性患者の生殖器官及び近傍の解剖学的構造の一部を示している。図は、繊維腫11を患っている子宮10を図式的に示している。患者の膣12は、子宮頸部14を囲む膣円蓋13を含んでいる。子宮頸部14は、子宮腔15へ通じている。更に、ここで述べるように、左と右の子宮動脈16a、16bは、それぞれ、子宮10へ伸びており、子宮10及び繊維種11へ、酸素を豊富に含んだ血液を供給している。卵巣17a、17bは、子宮10から外へ伸びている卵巣靱帯18a、18bによって、それぞれ支持されており、卵巣動脈19a、19bから、酸素を豊富に含んだ血液が、それぞれ供給されている。子宮動脈は、多くの場合、卵巣靱帯18a、18bを通って(図示せず)、卵巣17a、17bへ伸びている。ラッパ管20a、20bが、卵巣17a、17bから子宮10へそれぞれ伸びており、卵子を案内する。卵子は、患者の卵巣17a、17bから放出される。患者の膣は、子宮口22を構成する子宮頸部14へ伸びている膣管21を構成している。本発明の特徴を具体化している塞栓塊23a、23bは、子宮動脈16a、16b内にそれぞれ配置されて示されている。
【0028】
デリバリーカテーテル24が、従来のSeldinger技術(図示せず)によって患者の大腿動脈25a内へ経皮的に導入されている。Seldinger技術は、通常、案内カテーテルを導入シースを通して大腿動脈へ導入すること、及び、その後に、デリバリーカテーテルを案内カテーテルの内腔を通して所望の血管内の場所に進めること、を含んでいる。好ましくは、案内カテーテルは、曲がりくねった人体を通してカテーテルを進めることを容易にするために、加工された先端チップを有している。案内カテーテルは、加工された先端チップを有する従来の血管内ガイドワイヤー(図示せず)によって、それ自身が所望の場所へ案内される。
【0029】
子宮動脈の内径は、普通は様々であり、一般には、子宮における動脈の1番目のブランチ(の上流)の前で、約2mm〜約5mmである。1番目のブランチは、一般に、2mm以下の内径を有しており、ブランチは、後の順番ほど、小さな内径を有している。
【0030】
したがって、本発明による処置は、1番目のブランチの前の子宮動脈で実行できるが、本発明は、小さな直径の血管を有する後の順番のブランチでも実行できる。したがって、ここでの子宮動脈への言及は、子宮動脈系の1番目のブランチ及びその後の順番のブランチと、それらの非永久的な閉塞と、を含んでいる。
【0031】
閉塞の場所は、概ね、閉塞の粒子又は塊の、サイズ及び形に、依存する。最大直径が1000μmより大きな粒子又は塊は、患者の子宮へ通じる場所で、すなわち、1番目のブランチの前で、子宮動脈を閉塞する傾向がある。500〜1000μmの範囲にある粒子は、らせんブランチへ通じる1番目のブランチである子宮動脈の一部を閉塞する傾向にある。500μm以下の粒子は、概ね、らせんブランチ及び子宮動脈の小さな直径の部分を閉塞する。
【0032】
図に示されているように、子宮動脈16a、16bは、膣円蓋14に近接した位置において、子宮の外側部分から、概ね横方向に伸びており、それは、種々の方法及び装置によって子宮動脈を通る血流をモニターすることを、容易にしている。しかしながら、1つの便利な方法が、前述した同時係属出願の、出願番号09/908,815及び出願番号10/107,810(参照することによりここに組み込まれている)において、示されている。その方法では、1つ以上の超音波センサーを備えた膣内クランプ装置が、血流を検知するために、クランプ部材に設けられている。クランプ部材は、クランプ部材のセンサーが膣円蓋から少しだけ離れて位置している子宮動脈16a、16bを通る血流を感知することができるように、患者の膣円蓋13の壁に押しつけられている。上記出願は、参照することにより、その全てがここに組み込まれる。
【0033】
方法は、治療期間にわたって、患者の子宮内の子宮内膜上皮のpHの変化を検知することにより、モニターできる。子宮内膜組織上皮のpHは、通常、約6.2〜6.8である。子宮動脈の閉塞の際、子宮組織のpHは、少なくとも0.25減少し、通常は、最初の値から約0.5〜約1.5pH単位だけ減少する。二次的供給源が、虚血組織へ、酸素を豊富に含んでいる血液を、供給し始めるので、pHは、元のレベル又はその近くまで、復帰する。pHは、Medtronic, Inc.のZinetics 24 pH catheterのようなpHカテーテルを、子宮壁の子宮内膜表面に対して又は子宮壁の子宮筋組織内に、配置して、pHの変化を追随することによってモニターできる。患者の腹部又は大腿部に固定された外部参照電極を備えたZinetics 24、又は、内部参照電極を備えたZinetics 24M pH catheterは、pHをモニターするのに使用できる。子宮動脈を通る血流をモニターする他の方法としては、ドップラー超音波装置を使用する方法や、従来の血管造影方法がある。
【0034】
本発明は、子宮出血を含む状態を治療するのに利用でき、特に子宮出血を完全に抑制したり止めたりするのに利用できる。簡単に上述したように、子宮出血を含む状況は、多くのものが知られている。DUB、PPH、及び帝王分娩のような産科手術は、本発明の方法によって抑制でき又は阻止できる子宮出血の、少ない実施例である。上述したように、子宮動脈の閉塞及び動脈内の関連した止血は、子宮の一部への血液供給を減少させ又は完全に遮断する。女性患者における両方の子宮動脈の同時閉塞は、子宮への血液供給を減少させ又は完全に遮断し、それ故、子宮出血は止まる。血流の停止が短期であっても、血流が復帰する治療期間の最後において子宮出血を終わらせるために、通常は充分な血栓の形成が行われる。
【0035】
したがって、本発明は、種々の治療方法にまで及び、それは、血流の完全な停止を含む、患者の子宮への及び子宮内での血流の減少、という恩恵を受けることができる。子宮動脈塞栓術は、患者の子宮動脈の一方又は両方で実行される。更に、上述した子宮動脈塞栓術は、1つの子宮動脈で実行でき、他の閉塞方法は、参照することによりここに組み込まれている前述した同時係属出願の出願番号09/908,815及び出願番号10/107,810に示されているような、他の子宮動脈で、使用できる。
【0036】
本発明は、子宮疾患を治療するために子宮動脈を閉塞することに関連して、ここに示して述べているが、他の動脈や体腔が、同じ又は類似の方法で閉塞され又は別のもので満たされることによって、治療結果や診断結果を得ることができること、は当業者にとって明らかである。種々の変更や完了を本発明に行うことができること、及び、本発明の一実施形態の各特徴を本発明の他の実施形態のいずれか又は全ての特徴と組み合わせることができること、を当業者は認識できる。したがって、本発明は、例示された特定の実施形態に限定されるものではない。それ故、添付のクレームの範囲によって規定される本発明は、従来技術と同じくらい広く認められるものである。
【0037】
以下の請求項が、特別な構造又は動作無しに、特有の機能によって定義された「手段(means)」又は「工程(step)」という用語を明確に使用していない限り、「要素(element)」、「部材(member)」、「装置(device)」、「部分(sections)」、「部分(portion)」、「部分(section)」、「工程(steps)」のような用語及びここで使用される場合の同様の意味を持つ単語は、米国特許法112条6項の規定が行使されるようには解釈されない。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】子宮、卵巣、卵管、膣を備えた女性患者の生殖器官及び塞栓材料のボーラスを両方の子宮動脈へ供給した後の子宮及び卵巣の動脈を、模式的に示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
女性患者の子宮動脈を一時的に閉塞するための塞栓材料であって、最小横寸法が約100〜約2000μmの生体吸収性の粒子によって少なくとも一部が形成されたボーラスと、適切なキャリアーと、を備えていることを特徴とする塞栓材料。
【請求項2】
生体吸収性の粒子が、約300〜約1000μmの最小横寸法を有している、請求項1記載の塞栓材料。
【請求項3】
生体吸収性の粒子が、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、及びそれらのコポリマー、融合物、及び混合物、からなる群から選択されたポリマー材料によって、少なくとも一部が形成されている、請求項1記載の塞栓材料。
【請求項4】
生体吸収性の塞栓材料が、膨潤性の粒子である、請求項1記載の塞栓材料。
【請求項5】
膨潤性の粒子が、ポリ乳酸とポリエチレングリコールとのコポリマーによって少なくとも一部が形成されている、請求項4記載の塞栓材料。
【請求項6】
ポリ乳酸とポリエチレングリコールとの重量比が、約95:5〜約50:50である、請求項5記載の塞栓材料。
【請求項7】
コポリマーが、70(重量)%ポリ乳酸と30(重量)%ポリエチレングリコールとからなっている、請求項5記載の塞栓材料。
【請求項8】
生体吸収性で短命の塞栓材料からなる治療ボーラスであって、治療有効期間の間、女性患者の子宮動脈を閉塞するようになっており、体内配置に適した、水溶性溶媒と不水溶性で生体吸収性のポリマー溶質と、を含んでいることを特徴とする治療ボーラス。
【請求項9】
塞栓材料が、体内配置に適した、水溶性溶媒と不水溶性で生体吸収性のポリマー溶質と、からなる溶液によって、少なくとも一部が形成されている、請求項8記載の生体吸収性で短命の塞栓材料からなる治療ボーラス。
【請求項10】
不水溶性で生体吸収性のポリマー溶質が、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、及びそれらのコポリマー、融合物、及び混合物、からなる群から選択されたポリマー材料である、請求項9記載の生体吸収性で短命の塞栓材料からなる治療ボーラス。
【請求項11】
塞栓材料が、膨潤性の粒子である、請求項8記載の生体吸収性で短命の塞栓材料からなる治療ボーラス。
【請求項12】
膨潤性の粒子が、ポリ乳酸とポリエチレングリコールとのコポリマーによって少なくとも一部が形成されている、請求項11記載の生体吸収性で短命の塞栓材料からなる治療ボーラス。
【請求項13】
ポリ乳酸とポリエチレングリコールとの重量比が、約95:5〜約50:50である、請求項12記載の生体吸収性で短命の塞栓材料からなる治療ボーラス。
【請求項14】
コポリマーが、70(重量)%ポリ乳酸と30(重量)%ポリエチレングリコールとからなっている、請求項12記載の生体吸収性で短命の塞栓材料からなる治療ボーラス。
【請求項15】
塞栓材料が、粘性の液体である、請求項8記載の生体吸収性で短命の塞栓材料からなる治療ボーラス。
【請求項16】
女性患者の子宮動脈を一時的に閉塞するための塞栓材料であって、適切な、水溶性且つ生体適合性の溶媒中で、患者の動脈内に閉塞塊を形成する、不水溶性で生体吸収性のポリマー材料からなる溶質、を備えていることを特徴とする塞栓材料。
【請求項17】
溶媒が、ジメチルスルオキシドである、請求項16記載の塞栓材料。
【請求項18】
生体吸収性の溶質は、少なくとも一部が、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、及びそれらのコポリマー、からなる群から選択されたポリマー材料である、請求項16記載の塞栓材料。
【請求項19】
患者の動脈を一時的に閉塞するための塞栓材料であって、生体吸収性のポリマー材料によって少なくとも一部が形成されたボーラスと、適切な水溶性キャリアーと、を備えていることを特徴とする塞栓材料。
【請求項20】
生体吸収性のポリマー材料が、約100〜約2000μmの最小横寸法を有する粒子の形態をしている、請求項19記載の塞栓材料。
【請求項21】
生体吸収性のポリマー材料が、約400〜約1000μmの最小横寸法を有する粒子の形態をしている、請求項19記載の塞栓材料。
【請求項22】
生体吸収性のポリマー材料が、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、及びそれらのコポリマー、融合物、及び混合物、からなる群から選択される、請求項19記載の塞栓材料。
【請求項23】
キャリアーが、ポリマー材料のための溶媒である、請求項19記載の塞栓材料。
【請求項24】
溶媒が、ジメチルスルオキシドを含んでいる、請求項23記載の塞栓材料。
【請求項25】
溶質が、本質的に不水溶性である、請求項23記載の塞栓材料。
【請求項26】
ポリマー材料が、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、及びそれらのコポリマー、からなる群から選択される、請求項23記載の塞栓材料。
【請求項27】
生体吸収性のポリマー材料が、膨潤性のポリマーである、請求項19記載の塞栓材料。
【請求項28】
膨潤性のポリマーは、少なくとも一部が、ポリ乳酸とポリエチレングリコールとのコポリマーである、請求項26記載の塞栓材料。
【請求項29】
ポリ乳酸とポリエチレングリコールとの重量比が、約95:5〜約50:50である、請求項27記載の塞栓材料。
【請求項30】
コポリマーが、70(重量)%ポリ乳酸と30(重量)%ポリエチレングリコールとからなっている、請求項27記載の塞栓材料。
【請求項31】
生体吸収性のポリマー材料が、粘性の液体である、請求項19記載の塞栓材料。
【請求項32】
体内配置に適した生体適合性溶液であって、水性液体に比較的溶解可能である溶媒と、水性液体に比較的不溶である生体吸収性のポリマー溶質と、を備えていることを特徴とする生体適合性溶液。
【請求項33】
溶媒が、ジメチルスルホキシドである、請求項32記載の生体適合性溶液。
【請求項34】
不水溶性で生体吸収性のポリマー溶質が、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、及びそれらのコポリマー、融合物、及び混合物、からなる群から選択される、請求項32記載の生体適合性溶液。
【請求項35】
約1〜約35重量%の、不水溶性で生体吸収性のポリマー溶質を、含んでいる、請求項32記載の生体適合性溶液。
【請求項36】
約2〜約20%重量の、不水溶性で生体吸収性のポリマー溶質を、含んでいる、請求項32記載の生体適合性溶液。
【請求項37】
生体吸収性で短命の塞栓材料からなる治療又は診断のボーラスであって、水溶性溶媒と不水溶性で生体吸収性のポリマー溶質とからなる溶液であることを特徴とするボーラス。
【請求項38】
溶媒が、ジメチルスルオキシドを含んでいる、請求項37記載のボーラス。
【請求項39】
不水溶性で生体吸収性のポリマー溶質が、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、及びそれらのコポリマー、融合物、及び混合物、からなる群から選択されたポリマー材料である、請求項37記載のボーラス。
【請求項40】
塞栓材料が、膨潤性の粒子である、請求項37記載のボーラス。
【請求項41】
膨潤性の粒子は、少なくとも一部が、ポリ乳酸とポリエチレングリコールとのコポリマーによって形成されている、請求項40記載のボーラス。
【請求項42】
ポリ乳酸とポリエチレングリコールとの重量比が、約95:5〜約50:50である、請求項40記載のボーラス。
【請求項43】
コポリマーが、70(重量)%ポリ乳酸と30(重量)%ポリエチレングリコールとからなっている、請求項40記載のボーラス。
【請求項44】
塞栓材料が、粘性の液体である、請求項37記載のボーラス。
【請求項45】
生体吸収性で短命の塞栓材料からなる体内ボーラスであって、水溶性溶媒と、水性液体に比較的不溶である生体吸収性のポリマー溶質と、からなる溶液であることを特徴とするボーラス。
【請求項46】
溶媒が、ジメチルスルホキシドを含んでいる、請求項45記載のボーラス。
【請求項47】
不水溶性で生体吸収性のポリマー溶質が、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、及びそれらのコポリマー、融合物、及び混合物、からなる群から選択されたポリマー材料である、請求項45記載のボーラス。
【請求項48】
塞栓材料が、膨潤性の粒子である、請求項45記載のボーラス。
【請求項49】
膨潤性の粒子は、少なくとも一部が、ポリ乳酸とポリエチレングリコールとのコポリマーによって形成されている、請求項48記載のボーラス。
【請求項50】
ポリ乳酸とポリエチレングリコールとの重量比が、約95:5〜約50:50である、請求項48記載のボーラス。
【請求項51】
コポリマーが、70(重量)%ポリ乳酸と30(重量)%ポリエチレングリコールとからなっている、請求項48記載のボーラス。
【請求項52】
塞栓材料が、粘性の液体である、請求項48記載のボーラス。


【図1】
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【公表番号】特表2006−522651(P2006−522651A)
【公表日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−509728(P2006−509728)
【出願日】平成16年4月4日(2004.4.4)
【国際出願番号】PCT/US2004/010525
【国際公開番号】WO2004/091683
【国際公開日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(501231679)ヴァスキュラー・コントロール・システムズ・インコーポレーテッド (6)
【Fターム(参考)】