説明

子宮頚部円錐切除トレーナー

【課題】子宮頚部円錐切除トレーナーに関し、子宮頚部円錐切除術を患者に的確かつ正確に行うことができるようになるまで、手術手技技能を向上させるためのトレーニングが可能な練習装置・機器であるLEEP円錐切除術トレーナーを提供する。
【解決手段】次の(1)−(3)の構成からなる。(1)繰り返し練習可能な切除対象試料を支持できる部分、(2)切除対象試料に対し、一方向でのみ接近可能とする遮蔽機能部分、(3)上記(1)および(2)の機能部分を一定の高さをもって保持できる機能部分。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、子宮頚部円錐切除トレーナーに関する。子宮頚部円錐切除トレーナーとは、子宮頚部円錐除去手術を的確かつ正確に行うことを目的とした手術手技技能を向上させるための練習装置・機器である。
【背景技術】
【0002】
子宮頚部初期病変の正確な診断法、また子宮を温存できる低侵襲な治療法として、子宮頚部円錐切除術の必要性が増してきている。子宮頚部円錐切除術は、産婦人科医にとって最初に習熟すべき基本的手技のひとつである。従来、本切除手技については、特別なトレーニングを受けることなく、いきなり実際に患者さんに施術し、経験を重ねることで手技を獲得してきたのが実情となっていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
トレーナーのメリットはマスターするまで繰り返しトレーニングすることが可能であることである。子宮頚部円錐切除術においては、従来より、実際の患者を何回か経験しながら体得せざるを得ない状況にあった。
【0004】
本邦において、医療現場にトレーナーの導入はすでにおこなわれており有用性が示唆されている。中心静脈カテーテル穿刺挿入シミュレータや気管切開シミュレータなどが開発されており、医療事故防止に直結した実習が可能となっている。中心静脈カテーテル穿刺挿入シミュレータ使用後のアンケート調査の結果は、研修医1,2年目を対象の結果では、その多くは満足いくものであり、シミュレータによる継続的なトレーニングが必要であるというアンケート結果になっている。気管切開シミュレータにおいては、日本医学シミュレーション学会・日本麻酔科学会のワークショップで教育している方法のひとつである。気管確保の最終的な選択肢である輪状甲状膜切開を、緊急時に冷静に対応できるようになるためのトレーニングとして、紹介されている。(非特許文献1)
子宮頚部円錐切除術においては、リープ法[Loop electrosurgical excision procedure
(LEEP)] 円錐切除術が行われている。リープ法は、高周波電気切除にループ型電極を装着して子宮腟部を切除する方法である。子宮頚部初期病変に対する子宮円錐切除術の治療的、診断的有用性においては、さまざまな検討がなされている。(非特許文献2)
つまり、LEEP円錐切除術が子宮温存希望症例に対して、微小浸潤癌までは十分な治療効果が得られ、また正確な組織診断がなされたとの報告があり(非特許文献3)、子宮頚癌ガイド ラインでも、0期の子宮頚癌に対しての有用性は高いと記載されており、今後ますます臨床的なニーズは高くなるものと思われる。
【0005】
【非特許文献1】「輪状甲状膜穿刺・切開と経気管ジェット換気」、 島根大学医学部付属病院集中治療部 野村岳志、Anesthesia 21 Century Vol.9 No.3-29 2007
【非特許文献2】「子宮頚部初期病変に対する円錐切除術の有用性についての検討」、国立病院機構呉医療センター・中国がんセンター 熊谷正俊、秋本由美子、花岡美生ら、日本産婦人科学会雑誌 2007年11月
【非特許文献3】「子宮頚部初期病変に対するLEEP円錐切除の治療的、診断的有用性に関する検討」、千葉大学 海野洋一、三橋暁、楯真一ら、日本産婦人科学会雑誌 2006年2月
【課題を解決するための手段】
【0006】
子宮頚部円錐切除術を患者に供することができるまで、トレーニング可能なLEEP円錐切除術トレーナーを発明した。このトレーナーの効果を、本発明のトレーナー(装置・機器)を用い、初期研修医を対象とする研修会等に使用しその効果を評価し、著しい効果があることを確認し、本発明を完成した。
【0007】
本発明は、子宮頚部円錐切除トレーナーであって、以下の3つの機能部分を具備するトレーナーである。(1)繰り返し練習可能な切除対象試料を支持できる部分、(2)切除対象試料に対し、一方向でのみ接近可能とする遮蔽機能部分、および(3)上記(1)および(2)の機能部分を一定の高さをもって保持できる機能部分。
更に、リープ法[Loop electrosurgical
excision procedure (LEEP)] 円錐切除術の練習のための上記の3つの機能部分を具備する子宮頚部円錐切除トレーナーである。
また、子宮頚部円錐切除トレーナーおよび/またはリープ法[Loop
electrosurgical excision procedure (LEEP)] 円錐切除術用トレーナーであって、(1)繰り返し練習可能な切除対象試料の支持を、試料へ支持体を挿入することにより支持する構造を有し、(2)切除対象試料に対し、一方向でのみ接近可能とする遮蔽を、上記(1)の支持体に支持された試料を円筒形に遮断する覆い構造を有し、かつ(3)上記(1)および(2)の構造を20cmから30cmの間の距離をもって3次元的に保持できる支えの構造体を有するトレーナーである。
更に、子宮頚部円錐切除トレーナーおよび/またはリープ法[Loop
electrosurgical excision procedure (LEEP)] 円錐切除術用トレーナーであって、図1または5などに示された構造を有するトレーナーである。
また、上記に述べたいずれかのトレーナーを用いることを特徴とする、リープ法[Loop electrosurgical excision
procedure (LEEP)] 円錐切除術の技術習得度判定法に関する。
【0008】
子宮頚部円錐切除トレーナーであって、具備すべき3つの機能部分、(1)繰り返し練習可能な切除対象試料を支持できる部分、(2)切除対象試料に対し、一方向でのみ接近可能とする遮蔽機能部分、および(3)上記(1)および(2)の機能部分を一定の高さをもって保持できる機能部分については、本発明の態様と示した図1または5で示される構造を有していればよい。
【0009】
切除対象試料の支持部分は、鉄やステンレスなどの金属で成型された先端が鋭い釘状のものであればよく、好ましくは木製の板に打ちつけた釘で、支持部分の長さが2cmから7cmあればよい。切除対象試料は、リープ法が高周波電気切除のため、高周波で焼ききれるものであればよく、練習の対象にもよるが、通常は子宮頚部組織をもしとものでよく、牛肉、豚肉等、さらにソーセージが好ましく、発明者らは魚肉ソーセージが安価であるため、一層好ましいと考えている。試料の大きさは、支持部分に支持できる大きさであればよい。
さらに、切除対象試料に対し、一方向でのみ接近可能とする遮蔽機能部分は、上記切除対象試料を円筒形に遮蔽すればよく、その円筒も紙製、合成樹脂製のものが挙げられるが、リープ法のためには金属製の通電能があるものは好ましくない。紙製のコップが好ましい態様として挙げられる。
【0010】
これらの機能部分を一定の高さに支持できる構造物は、どのような構造を有するものでもよいが、木製や合成樹脂製のものが挙げられる。上記機能部分を逆T字型で支える構造が安定性の面で好ましく、木製で製した図1または5のような構造が挙げられる。
【0011】
なお、図1または5で示したものは、発明の一態様で、トレーナーとしての機能をさらに付加された構造を有するものであってもよく、例えば、切除対象試料の自動交換装置などを具備したものであってもよい。さらに、リープ法による高周波電気切除後の切断面の評価が機械的にできる装置の具備であれば、本術式の技術習得度の要素としてより細かく判定できることが可能となる。
【0012】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は以下の実施例に限定されることはない。
【実施例】
【0013】
(リープ法円錐切除術用トレーナーをもちいた実技)
初期研修医2名及び学生11名の計13名を対象として実施された手術手技研修の一つとして、円錐切除法についてのレクチャーの後、本発明の円錐切除トレーナーを用いて切除手技を行った。全員円錐切除は未経験であった。
用いた円錐切除トレーナーは、木板に子宮頚部に見立てた魚肉ソーセージを固定し、これに対極電極を刺入した構造を有するものである。
切除法としてLoop electrosurgical
excision procedure (LEEP)法を用い、高周波電気切除にループ型電極を装着して、ソーセージをレクチャーで受けたイメージで切除した。子宮頚部に見立てた魚肉ソーセージに黒い線を引き、その線を完全切除することを目標とした。
実技では、完全切除までの時間および切除回数を計測した。実技は1人4回行い、それぞれの切除時間を計測して修得度の評価を行った。また、研修後、アンケート調査をおこない、本トレーナーの効果につき評価をおこなった。
【0014】
(結果)
1. 1回目の切除時間の平均±1SDは29.77±12.6秒、2回目の平均は26.92±9.6秒、3回目の平均は22.85±9.6秒、4回目の平均は19.73±5.3秒であった。1回目と4回目の切除時間は短縮され、有意な傾向にあると考えた(p=0.055)。(図3)
2. 完全切除までの切除回数に、有意差は認められなかった。(図4)
すなわち、実技回数が増えても完全切除までの切除回数の低下は認めなかった。LEEP法ではループ電極の大きさが固定しており、ある一定の病変の切除に対する標本数は、トレーニングによって変化することないと考えられた。
3. 研修後にアンケート調査をおこなった。評価は「4:そう思う、3:おおむねそう思う、2:あまりそう思わない、1:そう思わない、0:分からない」の5段階評価でおこなった。
全員の研修医および学生から回収された。「内容は良く理解できた」の回答は4が9名、3が4名であった。「手技を十分に習得できた」の回答は
4が10名、3が3名であった。「ブースや物品の準備は適切であった」の回答は 4が8名、3が4名であった。この結果から、研修医または学生の受け入れは良好であると考えられた。
【0015】
(本発明の効果)
リープ法は切除器を一方向に動かすために、1回で切除可能になることはなく数回に分けて病変を確実に切除する方法をとることとなる。ループ型になったプローブに通電し、これを一方向に動かして数回に分けて切除する際に注意することは、SC junctionを含めた病変を完全切除し、残存病変を残さないこと、および切断面を平滑にすることで、のちの凝固をしやすくすることがあげられる。しかし、ループ型になったプローブに通電して切除おこなう際に、何らかのアクシデントがあり通電を止めると、そこからプローブが動かなくなり、切除断端に段差が生じる。分割の回数が増えると、摘出標本が電気凝固のため評価困難となり、病理学的な断端の評価が困難となる。これらの注意点を留意しながら、リープ法をおこなっていく。
【0016】
従来、この手技に慣れるために、上級医の手技を見学し、そのうえで上級医の指導の下、実際の患者で実施し、その後自分一人で修練をおこない試行錯誤しながら習得してきたと考えられる。しかし、最初は電気メスの取り扱いおよびプローブの動かす速度に関しては、術手の感覚によるものが大きく、トレーナーを使用した感覚のトレーニングが重要と思われる。
【0017】
本発明のトレーナーを用いることにより、習熟するまで何回も手技が可能となり、著しい練習効果を有することが明らかとなった。
本発明のトレーナーの評価のひとつに修得度の評価法があげられている。今回の発明者らの研究では、円錐切除未経験者が本トレーナー用いて繰り返しトレーニングすることで、切除時間が回数を重ねるごとに短縮していることが確認された。ゆえに、修得度の評価として切除時間は適していると考えられた。
【0018】
LEEP法の欠点として、子宮頚部の標本が数個に分割して切除されてしまうため、術後の病理学的な判定が困難なことがある。標本数の増加は、さらに手術検体の病理学的なマージンの判定を困難にする。今回の検討では、実習回数が増しても標本数の減少は認められず、LEEP法のループ電極の大きさが固定しているため、ある一定の病変の切除に対する標本数も固定されると考えられた。
本トレーナーは、リープ法による円錐切除手技の修得を目指す初期研修医に有用なツールと成り得ることが明らかとなった。
【0019】
また、図1または5で示されるものは、安価で手軽に作成できるツールであるため、容易に準備可能なトレーナーである。修得度の評価方法として切除時間を検討したが回数を重ねるごとに短縮しており、評価方法として有用であることが明らかとなった。
また、初期研修医を対象とする講習会などで本トレーナーを用いた手術手技実習は産婦人科医への動機づけにも役立つ可能性があると思われた。今後トレーナーがわが国の主なる大学病院およびがんセンターなどの教育機関に常備され実習者の十分な訓練に供されて医療安全に貢献することが望まれる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の円錐切除トレーナーの見取り図である。
【図2】本発明のトレーナーで、魚肉ソーセージを用いた円錐切除後の状態を示す図である。
【図3】実技回数と切除時間を示す図である。
【図4】完全切除までの切除回数を示す図である。
【図5】本発明のトレーナーの一態様を示す見取り図である。(正面見取り図)
【図6】本発明のトレーナーの一態様を示す見取り図である。(側面見取り図)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
子宮頚部円錐切除トレーナーであって、以下の機能部分を具備するトレーナー。
(1)繰り返し練習可能な切除対象試料を支持できる部分
(2)切除対象試料に対し、一方向でのみ接近可能とする遮蔽機能部分
(3)上記(1)および(2)の機能部分を一定の高さをもって保持できる機能部分
【請求項2】
リープ法[Loop
electrosurgical excision procedure (LEEP)] 円錐切除術の練習のための請求項1記載の子宮頚部円錐切除トレーナー。
【請求項3】
子宮頚部円錐切除トレーナーおよび/またはリープ法[Loop electrosurgical excision procedure (LEEP)] 円錐切除術用トレーナーであって、
(1)繰り返し練習可能な切除対象試料の支持を、試料へ支持体を挿入することにより支持する構造を有し、
(2)切除対象試料に対し、一方向でのみ接近可能とする遮蔽を、上記(1)の支持体に支持された試料を円筒形に遮断する覆い構造を有し、かつ
(3)上記(1)および(2)の構造を20cmから30cmの間の距離をもって3次元的に保持できる支えの構造体を有するトレーナー。
【請求項4】
子宮頚部円錐切除トレーナーおよび/またはリープ法[Loop electrosurgical excision procedure (LEEP)] 円錐切除術用トレーナーであって、図1または5に示された構造を有するトレーナー。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のトレーナーを用いることを特徴とする、リープ法[Loop electrosurgical excision
procedure(LEEP)]円錐切除術の技術習得度判定法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−175846(P2010−175846A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−18631(P2009−18631)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 「日本産科婦人科学会 関東連合地方部会誌」第45巻 第3号の第274ページに発表
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】