説明

学習支援装置、学習支援方法及びプログラム

【課題】効率的に復習することを可能にする学習支援装置等を提供する。
【解決手段】学習者及び問題ごとに、学習回数と、最終学習日時と、最後に学習したときの正解または不正解のいずれかの結果を示す最終正誤結果とを記憶する学習履歴データベース22と、学習履歴データベース22から特定の学習者の情報を抽出する抽出手段と、学習回数及び最終学習日時からの経過時間の関数として表される忘却近似関数と、最終正誤結果の項とによって定義され、最終正誤結果が正解のときよりも不正解のときの方が小さい数値を取る定着度関数に対して、抽出手段によって抽出される特定の学習者の情報を代入し、問題ごとの現在の定着度を算出する算出手段と、算出手段によって算出される現在の定着度に基づいて、現在学習すべき問題を提示する提示手段と、を具備することを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、学習を支援する学習支援装置に関し、特に、学習者が効率的に復習できるように、問題を学習者に提示する学習支援装置等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からインターネットなどを利用して、学習者の自宅のパーソナル・コンピュータで学習者に問題を解かせ、資格や受験の学習を支援する学習支援システムや学習支援装置が知られている。このような学習支援システムは、e−ラーニングなどの名前で広く普及している。
【0003】
従来の学習支援システムや学習支援装置の中には、例えば特定の資格試験やある分野の習得に必要な知識を定着させるため、間違った問題を繰り返し解かせるものがある。
【0004】
このような技術として従来のコンピュータ反復学習方法では、学習者によって解かれた問題の中で、正解した問題については反復学習の時間間隔を長くし、間違えた問題については反復学習の時間間隔を短くして、間違えた問題の数が一定数以上になったら間違えた問題を繰り返し解かせるようにしていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4386975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術を含めて従来の技術では、間違えた問題については繰り返し学習を行うことになるため、学習者の記憶の定着度が上がるものの、正解した問題については長い期間に亘って復習しないか、または全く復習しないため、学習者が正解した問題についての知識を忘れてしまうという問題点があった。特に人間の脳は、エビングハウスの忘却曲線と呼ばれる指数関数的な曲線に沿って学習した内容を忘れると言われているので、正解した問題であっても適切なタイミングで復習することが効率的な学習には必要であると考えられる。
【0007】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたもので、その目的とすることは、学習者が間違えた問題だけでなく、正解した問題も適切なタイミングで学習者に提示することにより、学習者が効率的に復習することを可能にする学習支援装置等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達成するために第1の発明は、学習者及び問題ごとに、学習回数と、最終学習日時と、最後に学習したときの正解または不正解のいずれかの結果を示す最終正誤結果とを記憶する学習履歴データベースと、前記学習履歴データベースから特定の学習者の情報を抽出する抽出手段と、前記学習回数及び前記最終学習日時からの経過時間の関数として表される忘却近似関数と、前記最終正誤結果の項とによって定義され、前記最終正誤結果が正解のときよりも不正解のときの方が小さい数値を取る定着度関数に対して、前記抽出手段によって抽出される特定の学習者の情報を代入し、問題ごとの現在の定着度を算出する算出手段と、前記算出手段によって算出される現在の定着度に基づいて、現在学習すべき問題を提示する提示手段と、を具備することを特徴とする学習支援装置である。
【0009】
第1の発明では、忘却近似関数と最終正誤結果の項から定義される定着度関数から定着度を算出し、この定着度に基づいて学習者に提示する問題が決定されるため、学習者が以前正解した問題であっても、定着度が一定以上下がった(学習者が忘れていると考えられる)問題を適切なタイミングで復習することができる。また、定着度関数は、最終正誤結果が正解のときよりも不正解のときの方が小さい数値を取るため、正解した問題よりも間違った問題を優先的に復習することができ、間違った問題を復習する回数も増える。さらに、忘却近似関数は、学習回数及び最終学習日時からの経過時間の関数として表されるため、学習回数が少ない問題を優先的に復習することができる。
【0010】
第1の発明における定着度関数は、前記忘却近似関数に前記最終正誤結果の項を乗じたものであり、前記最終正誤結果の項は、正解のときの数値よりも不正解のときの数値の方を小さくすることができる。
【0011】
これによって、学習者が以前正解した問題よりも間違った問題の定着度の方が小さくなるため、間違った問題を優先的に復習することができる。
【0012】
第1の発明における算出手段は、前記最終正誤結果の項に係る不正解のときの数値を、難易度または重要度に応じて設定することができる。
【0013】
これによって、例えば難易度が高すぎて捨て問とした方がよい問題については復習の回数を減らしたり、重要度の高い問題については復習の回数を増やしたりすることができる。
【0014】
第2の発明は、学習者及び問題ごとに、学習回数と、最終学習日時と、最後に学習したときの正解または不正解のいずれかの結果を示す最終正誤結果とを記憶する学習履歴データベースを具備するコンピュータが実行する学習支援方法であって、前記学習履歴データベースから特定の学習者の情報を抽出する抽出ステップと、前記学習回数及び前記最終学習日時からの経過時間の関数として表される忘却近似関数と、前記最終正誤結果の項とによって定義され、前記最終正誤結果が正解のときよりも不正解のときの方が小さい数値を取る定着度関数に対して、前記抽出ステップによって抽出される特定の学習者の情報を代入し、問題ごとの現在の定着度を算出する算出ステップと、前記算出ステップによって算出される現在の定着度に基づいて、現在学習すべき問題を提示する提示ステップと、を含むことを特徴とする学習支援方法である。第2の発明でも、前述のように学習者が効率的に復習することができる。
【0015】
第3の発明は、コンピュータを、学習者及び問題ごとに、学習回数と、最終学習日時と、最後に学習したときの正解または不正解のいずれかの結果を示す最終正誤結果とを記憶する学習履歴データベースと、前記学習履歴データベースから特定の学習者の情報を抽出する抽出手段と、前記学習回数及び前記最終学習日時からの経過時間の関数として表される忘却近似関数と、前記最終正誤結果の項とによって定義され、前記最終正誤結果が正解のときよりも不正解のときの方が小さい数値を取る定着度関数に対して、前記抽出手段によって抽出される特定の学習者の情報を代入し、問題ごとの現在の定着度を算出する算出手段と、前記算出手段によって算出される現在の定着度に基づいて、現在学習すべき問題を提示する提示手段と、を具備する学習支援装置として機能させるためのプログラムである。第3の発明でも、前述のように学習者が効率的に復習することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、学習者が効率的に復習することが可能となり、学習者の知識の定着度を効果的に上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】学習支援装置1の概要を示す図
【図2】端末3(サーバ2)のハードウェア構成図
【図3】記憶部12に記憶されるデータベースを示す図
【図4】学習履歴データベース22を示す図
【図5】学習支援処理の概要を示すフローチャート
【図6】エビングハウスの忘却曲線を取り入れた効率的な復讐間隔に基づく定着率の変化を示す図
【図7】正解した場合の定着度関数を示したグラフ
【図8】不正解だった場合の定着度関数を示したグラフ
【図9】複数の問題を学習したときの定着度の変化を示したグラフ
【図10】複数の問題を学習するときに復習するまでの時間を示した表
【図11】複数の問題を学習したときの定着度の変化の他の例を示したグラフ
【図12】複数の問題を学習したときの定着度の変化の他の例を示したグラフ
【図13】複数の問題を学習したときの定着度の変化の他の例を示したグラフ
【図14】表示部16に表示される表示画面の例を示した図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下図面に基づいて、本発明の実施形態を詳細に説明する。最初に、図1〜図3を参照しながら、本発明の実施の形態に係る基本的構成について説明する。
【0019】
図1は、本発明に係る学習支援装置1の概要を示す図である。図1に示すように、本発明に係る学習支援装置1は、サーバ2と端末3とがネットワーク5を介して接続されている。ネットワーク5は、LAN(Local Area Network)、インターネット等である。
【0020】
サーバ2は、端末3から学習者の問題を復習したい旨の要求を受信して、端末3にその問題のデータ等を送信する。端末3は、学習者による入力情報を受け付けて、サーバ2に問題の復習の要求として送信し、サーバ2から復習すべき問題のデータ等を受信して、その問題をユーザに提示する。尚、本発明の実施形態は、図1に示すようなクライアントサーバ型の構成に限られず、スタンドアローン型の構成であっても良い。すなわち、学習支援装置として、後述するサーバ2及び端末3の機能を有する1台のコンピュータによる構成であっても良い。また例えば、サーバ2から端末3へプログラム等を送信して、端末3が単独で学習支援装置1として機能するような構成であってもよい。
【0021】
図2は、端末3(サーバ2)のハードウェア構成図である。尚、図2のハードウェア構成は一例であり、用途、目的に応じて様々な構成を採ることが可能である。端末3(サーバ2)を実現するコンピュータは、制御部11、記憶部12、メディア入出力部13、通信制御部14、入力部15、表示部16、周辺機器I/F部17等が、バス18を介して接続される。尚、端末3が単独で学習支援装置1として機能する場合には、図2のハードウェア構成が端末3のハードウェア構成となる。また、図1に示すように学習支援装置1がクライアントサーバ型の構成の場合には、記憶部12等の一部の構成要素がサーバ2に含まれることとなる。
【0022】
制御部11は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等で構成される。
【0023】
CPUは、記憶部12、ROM、記録媒体等に格納されるプログラムをRAM上のワークメモリ領域に呼び出して実行し、バス18を介して接続された各装置を駆動制御し、端末3(サーバ2)が行う後述する処理を実現する。ROMは、不揮発性メモリであり、コンピュータのブートプログラムやBIOS等のプログラム、データ等を恒久的に保持している。RAMは、揮発性メモリであり、記憶部12、ROM、記録媒体等からロードしたプログラム、データ等を一時的に保持するとともに、制御部11が各種処理を行う為に使用するワークエリアを備える。
【0024】
記憶部12は、HDD(ハードディスクドライブ)等であり、制御部11が実行するプログラム、プログラム実行に必要なデータ、OS(オペレーティングシステム)などが格納される。プログラムに関しては、OS(オペレーティングシステム)に相当する制御プログラムや、後述する処理をコンピュータに実行させるためのアプリケーションプログラムが格納されている。これらの各プログラムコードは、制御部11により必要に応じて読み出されてRAMに移され、CPUに読み出されて各種の手段として実行される。
【0025】
メディア入出力部13(ドライブ装置)は、データの入出力を行い、例えば、CDドライブ(−ROM、−R、−RW等)、DVDドライブ(−ROM、−R、−RW等)等のメディア入出力装置を有する。通信制御部14は、通信制御装置、通信ポート等を有し、コンピュータとネットワーク間の通信を媒介する通信インタフェースであり、ネットワーク5を介して、他のコンピュータ間との通信制御を行う。ネットワーク5は、有線、無線を問わない。
【0026】
入力部15は、データの入力を行い、例えば、キーボード、マウス等のポインティングデバイス、テンキー等の入力装置を有する。入力部15を介して、コンピュータに対して、操作指示、動作指示、データ入力等を行うことができる。表示部16は、CRTモニタ、液晶パネル等のディスプレイ装置、ディスプレイ装置と連携してコンピュータのビデオ機能を実現するための論理回路等(ビデオアダプタ等)を有する。
【0027】
周辺機器I/F(インタフェース)部17は、コンピュータに周辺機器を接続させるためのポートであり、周辺機器I/F部17を介してコンピュータは周辺機器とのデータの送受信を行う。周辺機器I/F部17は、USBやIEEE1394やRS−232C等で構成されており、通常複数の周辺機器I/Fを有する。周辺機器との接続形態は有線、無線を問わない。バス18は、各装置間の制御信号、データ信号等の授受を媒介する経路である。
【0028】
図3は、記憶部12に記憶されるデータベースを示す図である。図3に示すように、記憶部12には、学習者データベース21及び学習履歴データベース22が記憶される。学習者データベース21は、学習者の氏名、記憶部12における学習者の登録番号、学習者のパスワード等のデータを、学習者ごとに基本データとして記憶する。学習履歴データベース22は、学習者が過去に学習した問題の履歴についてのデータを記憶する。
【0029】
図4は、学習履歴データベース22を示す図である。学習履歴データベース22は、学習者及び問題ごとに、学習回数と、最終学習日時と、最後に学習したときの正解または不正解のいずれかの結果を示す最終正誤結果とを記憶する。図4に示す例では、学習者A、Bについて、各問題番号の問題についての学習回数、最終学習日時、最終正誤結果が記憶されている。
【0030】
次に、図5を参照しながら、本発明の実施の形態における処理について説明する。図5は、本発明の実施の形態に係る学習支援処理の概要を示すフローチャートである。図5は、図1に示す学習支援装置1によって実行される学習支援処理を示している。
【0031】
まず、特定の学習者が入力部15から問題を復習したい旨を入力すると、本発明の実施の形態に係る学習支援処理が開始され、制御部11は、学習者データベース21を参照して、記憶部12に記憶された学習履歴データベース22からその学習者の情報を抽出する(S101)。このとき、制御部11は、特定の学習者及び問題ごとに、学習回数と、最終学習日時と、最後に学習したときの正解または不正解のいずれかの結果を示す最終正誤結果を読み出す。
尚、学習支援処理の実行タイミングは、(1)学習者がログインしたタイミング、(2)予め定められた時期でのバッチ処理、などであっても良い。(2)のバッチ処理の場合、制御部11は、学習者がログインをしていなくても、定着度が閾値を下回った場合にメール等によって通知し、復習を促す。
【0032】
次に、制御部11は、後述する定着度を算出する問題を選択する(S102)。このとき、例えば、延べ問題数が100問ある場合には、制御部11は、その100問の中から定着度を算出する問題を1問選択する。
【0033】
そして、制御部11は、S102で選択された問題ごとに現在の定着度を算出する(S103)。なお、後に説明するように定着度は、エビングハウスの忘却曲線に従った定着度関数に対して、制御部11が抽出した特定の学習者の情報を代入して算出する。なお、定着度関数は、特定の学習者がその問題を学習した学習回数と、最終学習日時からの経過時間の関数として表わされる忘却近似関数(後述)と、最後に学習したときの正解または不正解のいずれかの結果を示す最終正誤結果の項から定義される。また、定着度関数は、最終正誤結果が正解のときよりも不正解のときの方が小さい数値を取るようになっている。
【0034】
それから、制御部11は、対象となる全ての問題の定着度を算出したかどうかを判断し(S104)、全ての問題の定着度の算出が済んでいない場合には(S104のNo)、すべての問題の定着度を算出するまで、S102とS103の処理を繰り返す。対象となるすべての問題の定着度の算出が済んでいる場合には(S104のYes)、S105へと進む。
【0035】
S104において、すべての問題の定着度が算出されていると判断された場合には(S104のYes)、制御部11は、学習者に対して現在学習すべき問題を提示する(S105)。このとき、制御部11は、現在の定着度が一定値より小さい問題を現在学習(復習)すべき問題であると判断して、表示部16にその問題を表示させる。
【0036】
S105において、現在学習すべき問題が提示されると、その問題について学習者による学習が行われる(S106)。例えば、5択の問題であれば、学習者は5つの選択肢の中から正しいと考えられる答えを、入力部15を用いて選択する。また、例えば、文字や数字を入力する形式の問題であれば、学習者は文字等を入力部15から入力する。
【0037】
最後に、制御部11は、学習履歴データベース22を更新して(S107)、学習支援処理を終了する。学習履歴データベース22の更新は、S106で学習者が学習した問題についての通算の学習回数、学習日時、正解または不正解のいずれかの結果を反映して、学習回数、最終学習日時、最後に学習したときの正解または不正解のいずれかの結果を示す最終正誤結果を更新することにより行われる。
【0038】
ここで、図6〜図13を参照して、図5のS103における問題ごとの現在の定着度の算出処理について説明する。図6は、エビングハウスの忘却曲線を取り入れた効率的な復讐間隔に基づく定着率の変化を示す図である。なお、前述のように問題ごとの現在の定着度は、学習回数と最終学習日時からの経過時間の関数として表わされる忘却近似関数と、最後に学習したときの正解または不正解のいずれかの結果を示す最終正誤結果の項(以下、正誤項という)によって定義される定着度関数から算出される。また、本実施の形態では、忘却近似関数が、エビングハウスの忘却曲線に従った式となっている。
【0039】
図6に示すエビングハウスの忘却曲線は、人間が学習した内容をどの程度記憶しているかを調べて、定着率(本実施の形態の定着度に相当)としてグラフにした例である。図6に示すように、一般的に人間の脳は、一度記憶した内容でも時間の経過と共に指数関数的に忘れてしまい、記憶の定着率が下がる。つまり、記憶した直後から急激に忘却が始まり、時間の経過とともに忘却が緩やかになるということである。
【0040】
図6には、学習者が1回目に学習したときの記憶の定着率のグラフの他に、同じ問題を2回目、3回目に学習したときの記憶の定着率のグラフも示されている。これらのグラフから分かるように、同じ問題を繰り返し復習して記憶することで、定着率の低下を緩やかにし、その内容を忘れにくくすることができる。
【0041】
図6の例では、1回学習しただけでは7週間後には、学習者はその内容をほとんど忘れている。しかし、図6に示すように記憶の定着率が約50%を下回ったところで2回目、3回目の復習を行った場合には、1回目の学習から10週間後でも、その内容を60%程度記憶していることになる。
【0042】
このように、復習を行うことで学習者の記憶は定着しやすくなるため(ヘルマン・エビングハウスの実験)、学習者が特定の分野(例えば、民法)を学習する際に効率的に復習を行えば、苦手な問題が少なくなり、その分野全体の記憶や理解のレベルを上げることができる。
【0043】
しかし、復習をすべて学習者に任せてしまうと復習が無計画となり、復習の効率が落ちてしまう場合が多い。また、既存のe−ラーニング等の学習支援装置の場合、教育者が個々の学習者に対して復習をすべきタイミングを知らせることは、手間や人手が掛かるなどして出来ないことが多い。本実施の形態に係る学習支援装置1では、以下に説明するように、適切なタイミングで学習者に復習を促すことで、学習者が効率的に復習することを可能にしている。
【0044】
本実施の形態では、忘却近似関数、正誤項、定着度関数として、以下に示す式を用いる。なお、正誤項とは、前述のように特定の学習者が最後に学習したときの正解または不正解のいずれかの結果を示す最終正誤結果の項である。
【数1】

ここで、A(n、t)は忘却近似関数、nは学習回数、tは最終学習日時からの経過時間である。
【数2】

ここで、qは正誤項、iは問題番号、αは定数もしくは延べ問題数や学習者の総学習期間などを反映した係数である。
【数3】

ここで、P(q、n、t)は定着度関数である。本実施の形態では、定着度関数が、忘却近似関数に正誤項を乗じたものとなっている。また、正誤項は、正解のときの数値よりも不正解のときの数値の方が小さくなっている。
【0045】
なお、忘却近似関数A(n、t)は、特定の学習者がその問題を学習した学習回数と、最終学習日時からの経過時間の関数として表わされ、前述の条件を満たすものであれば、上記以外の式を用いてもよい。また、正誤項q、定着度関数も、前述の条件を満たすものであれば他の式を用いてもよい。
【0046】
図7は、学習者が最後に問題を学習したときに、その問題を正解した場合の定着度関数を示したグラフである。また、図8は、学習者が最後に問題を学習したときに、その問題について不正解だった場合の定着度関数を示したグラフである。なお、図7及び図8では、学習回数nが1から3の場合を示しており、最終学習日時からの経過時間tの単位を1週間としている。また、図8では、係数αを0.6としている。図7及び図8に示すように、最終学習日時からの経過時間とともに定着度は、指数関数的に減少していく。これは、図6に示すエビングハウスの忘却曲線と同様である。
【0047】
図9は、特定の学習者が複数の問題を学習したときの定着度の変化を示したグラフである。なお、図9の例では、式(2)の係数αを0.6、経過時間の単位を1週間としている。また、学習者に問題を提示するタイミング、即ち学習者にその問題を復習させるタイミングを、定着度が0.4より小さくなった時点としている。
【0048】
図9の例では、学習者が問題Aと問題Bを同じ日に初めて解答し、問題Aは正解したが、問題Bは間違えたものとする。すると、2週間後には、問題Aは定着度が約0.5であるのに対し、問題Bは定着度が約0.3となっているため、2週間後には、問題Bのみが学習者に提示されることとなる。このように、同じタイミングで同じ回数学習した問題については、間違った問題を優先的に復習することができる。
【0049】
図10は、特定の学習者が複数の問題を学習するときに復習するまでの時間を示した表である。なお、図10の例では、式(2)の係数αを0.6、復習するまでの時間の単位を1週間としている。また、学習者に問題を提示するタイミング、即ち学習者にその問題を復習させるタイミングを、定着度が0.4より小さくなった時点としている。
【0050】
図10の例では、学習者が問題Aと問題Bを同じ日に初めて解答し、問題Aは正解したが、問題Bは間違えたものとする。また、問題Aは2回目以降も正解し続け、問題Bは2回目以降も間違え続けたものとする。このとき、問題Aと問題Bを初めて解答してから50週間が経過した時点で問題が提示される回数、即ち学習者が復習する回数は、問題Aが3回であるのに対し、問題Bは5回となる。このように、間違った問題は正解した問題よりも復習する回数が多くなることが分かる。
【0051】
図11は、特定の学習者が複数の問題を学習したときの定着度の変化の他の例を示したグラフである。なお、図11の例でも、式(2)の係数αを0.6、経過時間の単位を1週間としている。また、学習者に問題を提示するタイミング、即ち学習者にその問題を復習させるタイミングを、定着度が0.4より小さくなった時点としている。
【0052】
図11の例では、学習者が問題Aを初めて解答し、正解したものとする。そして、その2週間後に問題Bを初めて解答して間違えたものとする。すると、問題Aを解答してから3週間後には、問題Aの定着度が0.4より小さくなっているのに対し、問題Bの定着度は、学習してからの経過時間が少ないため、まだ0.4より大きい値となっている。このため、問題Aを解答してから3週間後には、問題Aのみが学習者に提示されることとなる。このように、学習者が以前正解した問題であっても、学習者が忘れかけていると考えられるタイミングで優先的に復習することができる。
【0053】
図12は、特定の学習者が複数の問題を学習したときの定着度の変化のさらに他の例を示したグラフである。なお、図12の例でも、式(2)の係数αを0.6、経過時間の単位を1週間としている。また、学習者に問題を提示するタイミング、即ち学習者にその問題を復習させるタイミングを、定着度が0.4より小さくなった時点としている。
【0054】
図12の例では、学習者が問題Aを初めて解答し、正解したものとする。そして、同じ日に通算で3回目の解答となる問題Bを解いて間違えたものとする。すると、その3週間後には、問題Aの定着度が0.4より小さくなっているのに対し、問題Bの定着度は0.4より大きい値となっている。このため、問題Aを解答してから3週間後には、問題Aのみが学習者に提示されることとなる。このように、何度も学習した問題よりも、学習回数の少ない問題を優先的に復習することができる。
【0055】
図13は、特定の学習者が複数の問題を学習したときの定着度の変化のさらに他の例を示したグラフである。なお、図13の例でも、式(2)の係数αを0.6、経過時間の単位を1週間としている。また、学習者に問題を提示するタイミング、即ち学習者にその問題を復習させるタイミングを、定着度が0.4より小さくなった時点としている。
【0056】
図13の例では、学習者が問題Aを初めて解答し、正解したものとする。しかし、問題Bは、問題Aよりも先に学習を始めており、問題Aを解く2週間前に3回目の解答を行い、間違えたものとする。すると、問題Aを解答した3週間後には、問題Aの定着度が0.4より小さくなっているのに対し、問題Bの定着度は0.4より大きい値となっている。このため、問題Aを解答してから3週間後には、問題Aのみが学習者に提示されることとなる。図13の例でも、図12の例と同様に、何度も学習した問題よりも、学習回数の少ない問題を優先的に復習することができる。
【0057】
前述のように、本実施の形態に係る学習支援装置1では、学習者が間違った問題だけでなく、正解した問題も復習を行うようにしている。しかし、正解した問題と間違えた問題では定着度に差があると考えられるため、本実施の形態では間違えた場合に係数αを乗じることで、正解した問題と間違えた問題の定着度に差をつけるようにしている(式(1)〜(3)参照)。このようにして、正解しても忘れかけている問題と、間違った問題をバランスよく復習することができるようにしている。
【0058】
ここで、学習者が間違えた問題に対して係数αを乗じることにより、定着度関数がグラフ上でどのように変化するかを考える。まず、学習者が正解したときの定着度の計算式をT(t)とすると、間違えたときの定着度の計算式はαT(t)となる。なお、T(t)は、式(1)〜(3)から、
【数4】

と表わされる。式(4)において、nは学習回数、tは経過時間である。
【0059】
ここで、T(t)=α(0≦α≦1)となるときのtの値は、この式の両辺についてNを底とする対数を取って、logαと表わされる。このため、間違えたときの定着度の計算式αT(t)は、
【数5】

と表わされる。
【0060】
式(5)の一番右の辺から分かるように、間違えたときの定着度の計算式αT(t)のグラフは、正解したときの定着度の計算式T(t)のグラフをlogαだけ左に横移動させたものとなっている。従って、定着度関数も間違えたときの定着度関数は、正解したときの定着度関数をlogαだけ左に横移動させたものとなる。
【0061】
このように、間違えたときの定着度関数を左に横移動させることは、エビングハウスの忘却曲線を考慮した場合にも妥当であると考えられる。即ち、定着度が同じ値の場合、正解した問題でも間違えた問題でも定着度の減り方はほぼ同じであると考えられるため、間違えたときの定着度の計算式をαT(t)とすることは妥当であると考えられる。
【0062】
図14は、学習支援装置1の表示部16に表示される表示画面の例を示した図である。まず、例えば、学習者が端末3のスイッチをONにして、インターネットを介してサーバ2にアクセスすると、図14(a)に示すトップ画面が表示部16に表示される。
【0063】
そして、学習者が図14(a)の「復習モード」をマウス等の入力部15を用いて選択すると、図5に示す学習支援処理が開始され、図14(b)の問題画面が表示される。この問題画面において、学習者に現在学習すべき問題が提示され(図5のS105)、学習者による学習が行われる(図5のS106)。図14(b)の例では、問題が5択問題となっており、学習者は5つの選択肢の中から正解と思われるものを選択する。なお、問題画面の表示は、定着度が一定値より小さい問題すべてについて行われる。そして、 図14(b)において、学習者が1つの選択肢を選択して「解答する」ボタンを押すと、その解答が正解か不正解かや、正しい答え、問題の解説等が表示部16に表示される(図示せず)。
【0064】
なお、図14(b)の問題画面において、問題ごとの定着度に応じて表示画面を変化させることができる。例えば、定着度が0.2以下の問題については「絶対復習問題」と赤字で、定着度が0.2から0.6の問題については「要注意問題」と黄色で、定着度が0.6以上の問題については「安全地帯」と青字で表示するようにしてもよい。
【0065】
図14(b)において、学習者がそのとき学習すべき問題をすべて解き終わったら、図14(c)に示す結果画面が表示される。結果画面では、例えば、そのときに出題された総問題数や、正解した問題数等が表示される。
【0066】
以上、本発明の実施の形態における学習支援装置1によれば、忘却近似関数と最終正誤結果の項から定義される定着度関数から定着度を算出し、この定着度に基づいて学習者に提示する問題が決定されるため、学習者が以前正解した問題であっても、学習者が忘れかけていると考えられる適切なタイミングで復習することができる。また、定着度関数は、最終正誤結果が正解のときよりも不正解のときの方が小さい数値を取るため、正解した問題よりも間違った問題を優先的に復習することができ、間違った問題を復習する回数も増える。さらに、忘却近似関数は、学習回数及び最終学習日時からの経過時間の関数として表されるため、学習回数が少ない問題を優先的に復習することができる。
【0067】
<変形例1>
次に、本発明の実施の形態の変形例1について説明する。変形例1では、前述の正誤項(式(2)参照)における係数αを、問題の難易度または重要度に応じて設定する。なお、その他の学習支援装置1の構成、学習支援処理、定着度の算出方法等は、前述の実施の形態と同様であるため説明を省略する。
【0068】
例えば、難易度がAからE(Aが最も難しい)の問題がある場合、Aの問題のαを0.9、Bの問題のαを0.8、Cの問題のαを0.7、Dの問題のαを0.6、Eの問題のαを0.5と個別に設定する。これにより、例えば、資格試験の際に難易度が高すぎて捨て問とした方がよい問題については復習の回数を減らし、易しい問題の復習の回数を増やすことができる。
【0069】
また、重要度がAからE(Aが最も重要度が高い)の問題がある場合、Aの問題のαを0.5、Bの問題のαを0.6、Cの問題のαを0.7、Dの問題のαを0.8、Eの問題のαを0.9と設定する。これにより、例えば、実務で重要度の高い問題については復習の回数を増やし、重要度の低い問題については復習の回数を減らすことができる。その他の効果については、前述の実施の形態と同様である。
【0070】
<変形例2>
次に、本発明の実施の形態の変形例2について説明する。前述の実施の形態では、間違えたときの定着度を、正解したときの定着度に係数α(式(2)参照)を乗じて算出していた。しかし、変形例2では、間違えたときの定着度を、正解したときの定着度から一定の数を差し引いて算出する。なお、その他の学習支援装置1の構成、学習支援処理等は、前述の実施の形態と同様であるため説明を省略する。
【0071】
変形例2では、例えば、正解したときの定着度の計算式をT(t)として、間違えたときの定着度の計算式を、T(t)−(1−α)とする。ここで、αは前述の実施の形態と同様に、0≦α≦1である。前述の実施の形態では、間違えたときの定着度関数は、正解したときの定着度関数を左に横移動させたものとなっていたが、変形例2では、間違えたときの定着度関数が、正解したときの定着度関数を下に移動させたものとなる。
【0072】
なお、学習してから長い時間が経過した問題は、正解したものでも間違えたものでもほとんど忘れている(定着度が0に近い)と考えられるが、変形例2による定着度の算出方法では、長い時間が経過しても正解したときの定着度と、間違えたときの定着度に差が生じてしまう。また、問題を学習した後の定着度の下がり方が激しいため、前に学習した問題と後に学習した問題の定着度が逆転して、忘れかけた問題を優先して復習することができない場合がある。しかし、変形例2の定着度の算出方法を用いることにより、簡易な計算方法で、前述の実施の形態とほぼ同様の効果を得ることができる。
【0073】
また、各問題の閾値と定着度の差をユーザへの推薦度に置き換えて利用する例も考えられる。
例えば、一度解いた問題をユーザに提示するときに、定着度が閾値よりも高い問題も含めて提示するようにして、(1)定着度が閾値より低い場合は、閾値と定着度の差が大きい方の問題の優先度を上げて、さらに、(2)定着度が閾値より高い場合は、定着度と閾値の差の小さい方の問題の優先度を上げて、各問題に優先番号を割り付けて、ユーザに提示する。
ユーザには優先番号をみて解く問題を選択させるようにする。
【0074】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る学習支援装置等の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0075】
1………学習支援装置
2………サーバ
3………端末
5………ネットワーク
11………制御部
12………記憶部
13………メディア入出力部
14………通信制御部
15………入力部
16………表示部
17………周辺機器I/F部
18………バス
21………学習者データベース
22………学習履歴データベース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
学習者及び問題ごとに、学習回数と、最終学習日時と、最後に学習したときの正解または不正解のいずれかの結果を示す最終正誤結果とを記憶する学習履歴データベースと、
前記学習履歴データベースから特定の学習者の情報を抽出する抽出手段と、
前記学習回数及び前記最終学習日時からの経過時間の関数として表される忘却近似関数と、前記最終正誤結果の項とによって定義され、前記最終正誤結果が正解のときよりも不正解のときの方が小さい数値を取る定着度関数に対して、前記抽出手段によって抽出される特定の学習者の情報を代入し、問題ごとの現在の定着度を算出する算出手段と、
前記算出手段によって算出される現在の定着度に基づいて、現在学習すべき問題を提示する提示手段と、
を具備することを特徴とする学習支援装置。
【請求項2】
前記定着度関数は、前記忘却近似関数に前記最終正誤結果の項を乗じたものであり、前記最終正誤結果の項は、正解のときの数値よりも不正解のときの数値の方が小さいことを特徴とする請求項1に記載の学習支援装置。
【請求項3】
前記算出手段は、前記最終正誤結果の項に係る不正解のときの数値を、難易度または重要度に応じて設定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の学習支援装置。
【請求項4】
学習者及び問題ごとに、学習回数と、最終学習日時と、最後に学習したときの正解または不正解のいずれかの結果を示す最終正誤結果とを記憶する学習履歴データベースを具備するコンピュータが実行する学習支援方法であって、
前記学習履歴データベースから特定の学習者の情報を抽出する抽出ステップと、
前記学習回数及び前記最終学習日時からの経過時間の関数として表される忘却近似関数と、前記最終正誤結果の項とによって定義され、前記最終正誤結果が正解のときよりも不正解のときの方が小さい数値を取る定着度関数に対して、前記抽出ステップによって抽出される特定の学習者の情報を代入し、問題ごとの現在の定着度を算出する算出ステップと、
前記算出ステップによって算出される現在の定着度に基づいて、現在学習すべき問題を提示する提示ステップと、
を含むことを特徴とする学習支援方法。
【請求項5】
コンピュータを、
学習者及び問題ごとに、学習回数と、最終学習日時と、最後に学習したときの正解または不正解のいずれかの結果を示す最終正誤結果とを記憶する学習履歴データベースと、
前記学習履歴データベースから特定の学習者の情報を抽出する抽出手段と、
前記学習回数及び前記最終学習日時からの経過時間の関数として表される忘却近似関数と、前記最終正誤結果の項とによって定義され、前記最終正誤結果が正解のときよりも不正解のときの方が小さい数値を取る定着度関数に対して、前記抽出手段によって抽出される特定の学習者の情報を代入し、問題ごとの現在の定着度を算出する算出手段と、
前記算出手段によって算出される現在の定着度に基づいて、現在学習すべき問題を提示する提示手段と、
を具備する学習支援装置として機能させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−137699(P2012−137699A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291425(P2010−291425)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】