説明

宇宙輸送機用空気吸い込み式エンジン及びその増速性能向上方法

【課題】空気吸い込み式エンジンを搭載した宇宙輸送機のコンパクト化を図る。
【解決手段】高密度の炭化水素化合物をRBCCエンジンの燃料源として予め搭載しておき、その燃料源によって各エンジン壁を冷却しながら各エンジンに最適な別々の燃料形態に化学変化させ、その各反応生成物を各エンジンの燃料として燃焼に供することにより、RBCCエンジン等の空気吸い込み式エンジンを搭載した宇宙輸送機のコンパクト化、ひいては空気抵抗の低減および機体構造の軽量化が可能となり、増速性能の向上が好適に得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、宇宙輸送機用空気吸い込み式エンジン及びその増速性能向上方法、特に大気圏をロケットエンジンと空気吸い込み式エンジンを併用することにより推進し、他方大気圏外をロケットエンジンで推進する宇宙輸送機用空気吸い込み式エンジン及びその増速性能向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人工衛星あるいは宇宙船が地球低軌道を周回するためには、秒速約8kmの軌道速度(第一宇宙速度)が必要になる。通常、この軌道速度は二〜三段式のロケット輸送機を用いた加速ミッションによって得られるが、軌道に投入可能な人工衛星あるいは宇宙船の質量(ペイロード質量)は打ち上げ時の輸送機全質量の数%程度とかなり小さいものである。宇宙輸送機が通常の航空機と決定的に異なる点は、必要となる推進剤(酸化剤および燃料の総称)の割合が輸送機全質量の80〜90%にも達し、機体容積の大半が推進剤によって占められることである。このため、宇宙輸送機の増速性能を向上させることによって推進剤の搭載割合を減らすことが可能となれば、ペイロード質量の割合を増大させることが出来る。
宇宙輸送機の基本的な増速特性は次の(1)式で表される。
ΔV=Ispln(mi/mf)=Ispln(1+ρPV) ・・・(1)
ここで、△V:理想的な速度増分、Isp:エンジンの比推力、mi:打ち上げ時の質量、mf:推進剤燃え尽き時の質量、ρP:推進剤の密度、ρV:ペイロードを含む乾燥機体密度である。
(1)式から、大きな速度増分を得るためには、エンジンの高比推力化、推進剤の高密度化、および機体構造の低密度化、すなわち軽量化が効果的であることが示される。ラムジェット、スクラムジェット等の空気吸い込み式エンジンは大気中を飛行する際に空気を利用することによってロケットエンジン単体と比較して比推力の大幅な向上が得られるため、搭載推進剤の低減が期待できる。例えば、非特許文献1の中で、空気吸い込み式エンジンの利点を生かしたロケット−ラムジェット複合エンジン(RBCCエンジン;Rocket Based Combined Cycle Engine)が将来型宇宙輸送機用のエンジンとして提案されている。また、ペイロードを除いた機体部分に対し、推進剤を搭載するための容積を確保しつつ、いかに軽量化するかが重要になる。
地表から打ち上げられる宇宙輸送機には地球重力および空気抵抗による影響があり、これらは宇宙輸送機の増速性を損なう方向に作用する。地球重力および空気抵抗の影響を加えた宇宙輸送機の飛行方向の運動は次の(2)式で与えられる。
M・dV/dt=T−M・g・sinθ−1/2・CD・ρV2・A ・・・(2)
ここで、M:機体質量、V:飛行速度、t:時間、T:エンジンの推力、g:重力の加速度、θ:飛行経路角、CDは機体の抗力係数、ρは空気密度、Aは機体の基準面積である。
在来のロケット輸送機では、地球低軌道に至るまでの重力および空気抵抗による速度損失は1〜2km/s程度であり、この損失を小さくするには大気層を最短距離で通過し、可能な限り短時間で軌道速度まで増速することが有効である。在来の宇宙輸送機は空気を利用する必要が無いため、大気層を低マッハ数でほぼ垂直に突き抜けて比較的短時間で軌道に到達できるので速度損失はそれほど大きな間題にはならない。しかしながら、宇宙輸送機用空気吸い込み式エンジンは、必然的に大気中において高マッハ数まで加速する必要があるため、空気抵抗による速度損失が極めて大きなものとなることが予想される。空気抵抗による損失を低減するには、(2)式から機体の(基準)面積を減らす、すなわち機体をコンパクト化することが効果的であることが分かる。
【0003】
【非特許文献1】Czysz P. and Little M.,"Rocket Based Combined Cycle Engine(RBCC)-A Propulsion Systems for the 21st Century,"AIAA Paper No.93-5096,1993.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、宇宙輸送機用空気吸い込み式エンジンの増速性能を高めるためには、機体をコンパクト化することによって空気抵抗による速度損失を低減しつつ、大気中でいかに高マッハ数まで加速できるかが重要になる。機体のコンパクト化は空気抵抗の低減のほかに機体構造の軽量化に効果的であるため、如何にして機体のコンパクト化を図るかが課題となる。また、ロケット−ラムジェット複合エンジンはロケットエンジンよりも高い比推力性能を期待することができるが、燃料としては燃焼性の良好な水素の使用が求められる。
しかしながら、水素を燃料として使用することにより高い比推力が得られたとしても、水素は密度が極めて小さいことから大容積のタンクを必要とし、これにより機体の大型化に伴う空気抵抗の増大および構造重量の増加を招いて、結果的には所望の速度増分ΔVを達成することができなくなるという問題点がある。
そこで、本発明は、かかる従来技術の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は大気圏をロケットエンジンと空気吸い込み式エンジンを併用することにより推進し、他方大気圏外をロケットエンジンで推進する宇宙輸送機用空気吸い込み式エンジン及びその増速性能向上方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために請求項1に記載の宇宙輸送機用空気吸い込み式エンジンの増速性能向上方法は、ロケットエンジンと空気吸い込み式エンジンを併用しながら推進する宇宙輸送機用空気吸い込み式エンジンの燃料源として、密度が水素より一桁以上大きい炭化水素化合物を搭載しておき、前記エンジンの作動時に前記炭化水素化合物から脱水素反応を誘起させて水素と新たな炭化水素化合物に分解し、該水素を前記空気吸い込み式エンジンの燃料として且つ前記新たな炭化水素化合物を前記ロケットエンジンの燃料として分離・使用することにより前記宇宙輸送機の増速性能を向上させることを特徴とする。
上記宇宙輸送機用空気吸い込み式エンジンの増速性能向上方法では、推進剤(燃料源としての炭化水素)をそのままの状態で空気吸い込み式エンジン又はロケットエンジンの燃料として使用するのではなく、その炭化水素化合物から脱水素反応を誘起させ、その水素を空気吸い込み式エンジンの各作動モードにおける燃料として使用すると共に、脱水素反応の結果生じた新たな炭化水素化合物はロケットエンジンの燃料として使用することにより、高密度の推進剤を搭載することが可能となる。前述したように、打ち上げ時の宇宙輸送機の全質量の大半は推進剤で占められ、従って全容積の大半は推進剤のタンクで占められているため、推進剤として密度が水素よりも一桁以上大きい炭化水素化合物を燃料源として使用することによって推進剤のタンクを小型化し、その結果機体のコンパクト化を図ることが可能となる。これにより、宇宙輸送機の空気抵抗の低減および機体構造の軽量化が達成され増速性能の向上が得られることになる。
【0006】
請求項2に記載の宇宙輸送機用空気吸い込み式エンジンの増速性能向上方法では、前記炭化水素化合物は前記エンジンから吸熱して脱水素反応を誘起し、水素と新たな炭化水素化合物に分解することから成ることとした。
上記宇宙輸送機用空気吸い込み式エンジンの増速性能向上方法では、推進剤(燃料源)は吸熱して水素と新たな炭化水素化合物に分解するため、その反応熱(吸熱)をエンジンから得る(奪う)ようにすることにより、エンジンを好適に冷却しながら自身は好適に活性化される。これによりエンジンの冷却手段が簡素化され、機体の軽量化に寄与するようになる。
【0007】
前記目的を達成するために請求項3に記載の宇宙輸送機用空気吸い込み式エンジンは、ロケットエンジンと空気吸い込み式エンジンを併用しながら推進する宇宙輸送機用空気吸い込み式エンジンであって、前記エンジンの燃料源として、密度が水素より一桁以上大きい炭化水素化合物が搭載され、前記エンジンの作動時に前記炭化水素化合物から脱水素反応が誘起されて水素と新たな炭化水素化合物に分解され、該水素は前記空気吸い込み式エンジンの燃料として且つ前記新たな炭化水素化合物は前記ロケットエンジンの燃料として分離・使用されることを特徴とする。
上記宇宙輸送機用空気吸い込み式エンジンでは、請求項1に記載の宇宙輸送機用空気吸い込み式エンジンの増速性能向上方法を好適に具現化することができる。
【0008】
請求項4に記載の宇宙輸送機用空気吸い込み式エンジンは、前記炭化水素化合物は前記宇宙輸送機から吸熱して脱水素反応を起こし、水素と新たな炭化水素化合物に分解するように構成されていることとした。
上記宇宙輸送機用空気吸い込み式エンジンでは、請求項2に記載の宇宙輸送機用空気吸い込み式エンジンの増速性能向上方法を好適に具現化することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の宇宙輸送機用空気吸い込み式エンジン及びその増速性能向上方法によれば、高密度の炭化水素化合物を燃料源として予め搭載しておき、その燃料源によって各エンジン壁を冷却しながら各エンジンに最適な別々の燃料形態に化学変化させ、その各反応生成物を各エンジンの燃料として燃焼に供することにより、RBCCエンジン等の空気吸い込み式エンジンを搭載した宇宙輸送機のコンパクト化、ひいては空気抵抗の低減および機体構造の軽量化が可能となり、増速性能の向上が好適に得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図に示す実施の形態により本発明をさらに詳細に説明する。
【0011】
図1は、本発明に係るロケット−ラムジェット複合エンジンシステム100を示す構成説明図である。
このロケット−ラムジェット複合エンジン(以下、「RBCCエンジン」という。)システム100は、ロケット燃焼器と、空気吸い込み式エンジンとしてのラムジェットエンジンを備えるRBCCエンジン部1と、燃料源を貯蔵する燃料タンク2と、燃料源を圧送する燃料ターボポンプ3と、酸化剤を貯蔵する酸化剤タンク4と、酸化剤を圧送する酸化剤ターボポンプ5と、燃料ターボポンプ3および酸化剤ターボポンプ5を駆動するガス発生器6と、燃料源が脱水素反応を起こしその結果得られた水素と新たな炭化水素化合物を分離する気液分離器7とを具備して構成されている。なお、このRBCCエンジンシステム100では、燃料の貯蔵状態と使用状態が各々異なっている。つまり、燃料は燃料源として例えばメチルシクロヘキサン(C7H14、以下、「MCH」という。)の状態で燃料タンク2に貯蔵され、実際に燃焼に供される時は水素ガス(GH2)またはトルエン(C7H8)の状態で使用される。また、酸化剤として液化酸素(以下、「LO2」という。)が使用されている。
【0012】
RBCCエンジン部1はロケットエンジン(ロケット燃焼器)11と空気吸い込み式エンジンを包含しており、飛行速度に応じて作動モードを変えながら例えば、離陸からマッハ3程度まではエジェクタージェットモード、マッハ3から7程度まではラムジェットモード、マッハ7から12程度まではスクラムジェットモード、更にマッハ12程度から所定の周回軌道速度まではロケットモードによって加速する。これらの4種類の作動モードの内、初めの3種類のモードはロケットエンジン11と空気吸い込み式エンジンが相互に関係しながら共同で作動するモードであり、最後のモードはロケットエンジン11だけが作動するモードである。従って、ロケットエンジン11は全モードで作動しており、ロケットエンジン11は各作動モードに対して好適な条件で運転される。
【0013】
ラムジェットエンジンの作動時において、ダクト状空気取り入れ口12から流入した空気は、スロート部13において圧縮され、更に二次燃料噴射孔14において後述するMCHの脱水素反応により生じた水素ガスを噴射・混合され、ダクト状二次燃焼器/ノズル15において燃焼反応し、その燃焼により生じた高温高圧の燃焼ガスがノズルから排出されることにより推力を発生する。
【0014】
RBCCエンジン部1の壁内部には、燃料かつ冷却剤としてのMCHが流れる再生冷却流路16が形成されている。また、この再生冷却流路16には、MCHに脱水素反応を誘起させる触媒、例えば白金、パラジウム、ニッケル、銅などの金属類、又はクロム、鉄、モリブデン等の金属酸化物類、あるいはこれらの混合物が多孔質体等の比表面積が大きい物質に担持されている。従って、燃料ターボポンプ3によって圧送されたMCHは燃焼に供される前に機体表面およびRBCCエンジン部1のロケット燃焼器11を冷却した後に再生冷却流路16を貫流して、各壁面を冷却しながら、C7H14→C7H8+3H2−204.8KJ/molにて示される脱水素反応を起こし、トルエン(C7H8)と水素(GH2)から成る気液混相流となる。そのトルエン/水素の気液混相流は、気液分離器7に流入してトルエンと水素ガスに分離される。そして、分離された一方の水素ガスはラムジェットエンジン作動時には燃料として二次燃料噴射孔14に移送され圧縮空気と混合される。他方、分離されたトルエンはロケット燃焼器11に移送されLO2と混合・燃焼し、その燃焼により生じた高温高圧の燃焼ガスがノズルから排出されることにより推力を発生する。
【0015】
また、分離された残りの水素ガスはガス発生器6に対しても移送され、そこで別途移送されたLO2と混合・燃焼し600〜800℃の燃焼ガス(水素過剰ガス)を生成し、その燃焼ガスは酸化剤ターボポンプ5および燃料ターボポンプ3を順に駆動し、燃料ターボポンプ3のタービン出口から排気される。
【0016】
上記RBCCエンジンシステム100では、燃料は燃料源として高密度燃料のMCH(C7H14)の状態で燃料タンク2に貯蔵され、実際に燃焼に供される時は水素ガス(H2)またはトルエン(C7H8)の状態で使用されるように構成されている。このように構成することにより、後述するように機体の大部分を占める燃料タンク2の容積を小さくすることが可能となり、空気吸い込み式エンジンを搭載した宇宙輸送機のコンパクト化、ひいては空気抵抗の低減および機体構造の軽量化が可能となり増速性能の向上が得られる。
【0017】
上記RBCCエンジン部1に使用される高密度燃料としては入手性、取扱いの容易さ等から常温・常圧において液状の炭化水素を選択する。代表的な液体炭化水素燃料としてはケロシンがあるが、これは多種類の炭化水素の混合物であるために各種の物性が一定でない問題がある。本発明では炭化水素の脱水素プロセスが必要となるが、プロセスを適切に管理する観点からは、物性が一定な単一組成の炭化水素が望ましい。このため、比較的容易に脱水素プロセスが可能とされるシクロヘキサン、メチルシクロヘキサンあるいはデカリン等の環状飽和炭化水素類が燃料源として適している。これらの環状飽和炭化水素類と液化水素の物性の比較を表1に示す。
【表1】

(環状飽和炭化水素類およびその吸熱脱水素反応で生じる環状不飽和炭化水素類の性質)
注1)デカリンはcis体とtrans体からなる混合物であるため、物性はcis/transの値を各々記載した。
【0018】
上記RBCCエンジンシステム100の作動を簡単に説明すると、燃料タンク2から供給されるメチルシクロヘキサン(MCH)を燃料ターボポンプ3によって適切な圧力まで昇圧し、機体およびRBCCエンジンのロケット燃焼器部分を再生冷却することによって燃料温度を高める。更に、脱水素用触媒を担持させた空気吸い込み式エンジンの再生冷却流路16に燃料を導いてダクト状壁面の冷却を行う。この際、メチルシクロヘキサンは脱水素反応を生じて水素とトルエンに分解され、これに伴う化学的な吸熱現象による冷却作用が発生する。表2に環状飽和炭化水素類と液化水素の熱吸収量の比較を示す。この場合、脱水素反応が生じるためには燃料の温度が約200℃以上である必要があり、特に300℃以上の温度域で効率の良い反応が得られる。ただし、温度が480℃付近にまで上昇すると固体炭素の析出によって脱水素触媒の劣化が加速される恐れがある。このため、脱水素反応に適した燃料温度としては300〜350℃の範囲が望ましい。
【表2】

【0019】
以上に述べた順序で、機体およびエンジン部分の全ての冷却を終えたメチルシクロヘキサンは、最終的に気体状の水素と液体状のトルエンが混合した状態に達する。続いて、この気液混合体を気液分離器7に導いて気体状の水素と液体状のトルエンに分離する。分離した水素の一部をガス発生器6に導いて液化酸素と燃焼させることによってターボポンプ駆動用高温ガス(600〜800℃の燃料過剰ガス)を発生させるのに使用され、残りはRBCCエンジンのラムジェット/スクラムジェット作動モード時の燃料として二次燃料噴射孔14を介してダクト状の二次燃焼器/ノズル15に噴射される。一般に、炭化水素燃料を用いてターボポンプ駆動用の高温ガスを発生する場合には、高温ガス中に多量の煤が含まれ、この煤が高温ガス移送用配管あるいはタービン等に付着・堆積するため、再使用を求められるエンジンでは重大な問題を引き起こす。一方、本発明によるシステムを用いることによって、宇宙輸送機に搭載する燃料が炭化水素類であっても、高温ガス発生器用燃料として水素を供給することが可能であるため、煤の付着による問題は発生しない。気液分離器7で分離された液体状のトルエンは、RBCCエンジン部1のロケット燃焼器11に導入されて液化酸素と燃焼させて推力を発生するのに用いる。
【0020】
上述したように、高密度な炭化水素を燃料源として使用することによって空気吸い込み式エンジンを搭載した宇宙輸送機のコンパクト化を実現し得る。例えば、液体の炭化水素燃料の密度は800kg/m3前後であり、液化水素と比べて11〜12倍高密度である。また、図2に示すように、炭化水素燃料の比推力性能は水素燃料のそれと比較して約75%と低い。従って、これを補うためには搭載燃料の量を約25%増す必要がある。しかしながら、この比推力の低下を考慮しても、燃料を水素から炭化水素に変更した場合には燃料タンクの容積を約1/9に小さくでき、タンクの形状を相似とした場合にはサイズを1/2以下に、表面積は1/4以下に小さくすることができる。また、燃料タンクのような殻構造体の質量は大略その表面積に比例するものとすれば、燃料を水素から炭化水素に変更することによって搭載タンクの質量を1/4以下に軽量化できる。
【0021】
本発明は、推進剤を高密度化することによってロケット−ラムジェット複合エンジン(RBCCエンジン)等の宇宙輸送機用空気吸い込み式エンジンシステムのコンパクト化を図り、空気抵抗の低減および機体構造の軽量化によって増速性能を向上させる。また、RBCCエンジン等の空気吸い込み式エンジンは比推力の向上に極めて有効であるが、約マッハ6以上の飛行領域で使用されるスクラムジェット作動モードにおいては、燃焼性が極めて良好であることが求められるため、燃料として水素が好適である。また、RBCCエンジンは再使用を前提としているため、推進剤昇圧ポンプ駆動用ガス発生器の燃料として、煤による不具合発生の恐れが無い水素が適している。このようなことから、RBCCエンジン等の空気吸い込み式エンジンを搭載する宇宙輸送機の研究開発においては水素燃料の使用を前提とするのが一般的である。しかしながら、水素は液化状態においても密度が70.9kg/m3と極めて低いため、機体のコンパクト化に対しては最も不利な燃料である。
しかしながら、本発明のRBCCエンジンシステム100は、上述した通り機体をコンパクト化しながらスクラムジェット作動モードにおいて水素を好適に使用することが可能となる。
【0022】
つまり、水素の代わりに密度が一桁大きい炭化水素系燃料を使用することによって搭載タンクの容積低減、ひいては機体のコンパクト化を図り、空気吸い込み式エンジンを搭載した宇宙輸送機の増速性能を向上させることを可能とする。更に、RBCCエンジンをラムジェットエンジンとして使用する際に必要となる燃料の水素は炭化水素の分解によって得ることができる。更に炭化水素系燃料の脱水素反応は吸熱反応であることから、その炭化水素系燃料が貫流する流路を燃焼室壁内部およびノズル壁内部に設けることによりRBCCエンジンに再生冷却機能を備えさせることが可能となる。
【0023】
なお、上記実施例ではRBCCエンジンシステム100に対し燃料源としてメチルシクロヘキサン(MCH)を使用したが、燃料源としてはシクロヘキサン及びデカリン等の炭化水素化合物も同様に使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の宇宙輸送機用空気吸い込み式エンジン及びその増速性能向上方法は、大気中を概ねマッハ6以上の極超音速で飛行する必要のある航空機あるいは宇宙機の空気抵抗を低減する方法として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係るロケット−ラムジェット複合エンジンシステムを示す構成説明図である。
【図2】メチルシクロヘキサン,ケロシンおよび水素の比推力性能の比較を示す説明図である。
【符号の説明】
【0026】
1 RBCCエンジン部
2 燃料タンク
3 燃料ターボポンプ
4 酸化剤タンク
5 酸化剤ターボポンプ
6 ガス発生器
7 気液分離器
11 ロケット燃焼器
12 ダクト状空気取り入れ口
13 スロート部
14 二次燃料噴射孔
15 ダクト状二次燃焼器/ノズル
16 再生冷却流路
100 宇宙輸送機用空気吸い込み式エンジン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロケットエンジンと空気吸い込み式エンジンを併用しながら推進する宇宙輸送機用空気吸い込み式エンジンの燃料源として、密度が水素より一桁以上大きい炭化水素化合物を搭載しておき、前記エンジンの作動時に前記炭化水素化合物から脱水素反応を誘起させて水素と新たな炭化水素化合物に分解し、該水素を前記空気吸い込み式エンジンの燃料として且つ前記新たな炭化水素化合物を前記ロケットエンジンの燃料として分離・使用することにより前記宇宙輸送機の増速性能を向上させることを特徴とする宇宙輸送機用空気吸い込み式エンジンの増速性能向上方法。
【請求項2】
前記炭化水素化合物は前記エンジンから吸熱して脱水素反応を誘起し、水素と新たな炭化水素化合物に分解することから成る請求項1に記載の宇宙輸送機用空気吸い込み式エンジンの増速性能向上方法。
【請求項3】
ロケットエンジンと空気吸い込み式エンジンを併用しながら推進する宇宙輸送機用空気吸い込み式エンジンであって、前記エンジンの燃料源として、密度が水素より一桁以上大きい炭化水素化合物が搭載され、前記エンジンの作動時に前記炭化水素化合物から脱水素反応が誘起されて水素と新たな炭化水素化合物に分解され、該水素は前記空気吸い込み式エンジンの燃料として且つ前記新たな炭化水素化合物は前記ロケットエンジンの燃料として分離・使用されることを特徴とする宇宙輸送機用空気吸い込み式エンジン。
【請求項4】
前記炭化水素化合物は前記宇宙輸送機から吸熱して脱水素反応を起こし、水素と新たな炭化水素化合物に分解するように構成されている請求項3に記載の宇宙輸送機用空気吸い込み式エンジン。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−41418(P2009−41418A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−206150(P2007−206150)
【出願日】平成19年8月8日(2007.8.8)
【出願人】(503361400)独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 (453)
【Fターム(参考)】