説明

安全装置付きカップリング装置

【課題】マニピュレータなどの回転機構に最適な安全装置付きカップリング装置の提供。
【解決手段】この装置1は、入力軸3と出力軸4との間に装着されるカップリング本体10と、カップリング本体10内で入力軸3の連結側の端部の周囲に固定される平板カム20と、カップリング本体10内で平板カム20に対して係脱可能に支持される一対の作動レバー30、30とを備えて構成され、入力軸3と出力軸4とを作動連結して、入力軸3の回転を出力軸4に伝達し、出力軸4と当該出力軸4の動作領域に存在する障害物が衝突した場合に、出力軸4を入力軸3の回転動作から切り離すようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全装置付きカップリング装置に関し、特に、各種用途のロボットのロボットアームやマニピュレータなどに備える回転機構に最適なカム方式の安全装置付きカップリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、工場の生産ラインでは産業用ロボットが設置され、このロボットにより製品の溶接や塗装、あるいは部品の移動作業などが行われている。そして、近年は、高齢化社会の進展に伴い、家庭内の仕事を行う家庭用ロボットが提供されたり、火災、震災などの非常時に要救助者を危険な災害現場から安全な場所へ搬送する救助用ロボットが開発されたりしており、各種用途のさまざまなロボットの活用が期待されている。
【0003】
ところで、このようなロボットにおいて、特にロボットハンドやマニピュレータなどは物を加工したり物を把持して移動したりするなどの重要な働きを有しているが、これらのロボットハンドやマニピュレータは回転機構を備え、この回転機構により回転運動を行うようになっているため、ロボットを使用する場所に、人がいたり物が置かれたりしていると、これらと接触するおそれがあり、人と接触しても人に怪我をさせない、物と接触しても物を壊さないような安全装置を併せて備える必要がある。
【0004】
この種の安全装置付きのマニピュレータが例えば特許文献1により提案されている。図9及び図10にこの文献1のマニピュレータを示している。図9に示すように、このマニピュレータはロボット本体101と、ロボット本体101に連結されたアーム103、104と、アーム104に安全装置付きの回転機構70を介して作動連結されたエンドエフェクタ105とを備える。この安全装置付きの回転機構70は、図10に示すように、アーム104に結合された第1のベース701と、エンドエフェクタ105に結合された第2のベース702とを有し、第1のベース701と第2のベース702は支持軸711の周りに相対回転可能に設置される。この場合、第1のベース701と第2のベース702の相対回転はピン703が貫通することで止められており、通常は相対回転しない。なお、704はボルトで、このボルト704によりピン703の落下を防止している。
このようにしてエンドエフェクタ105が外部の物体に衝突した際に、その衝撃でピン703が剪断され、第1のベース701に対して第2のベース702が回動自在になり、エンドエフェクタ105が支持軸711に対し回転自在となることで、衝撃で作用する質量をマニピュレータ全質量ではなく、エンドエフェクタ105およびアーム104など、部分的な質量にまで軽減させて、衝突の衝撃を逃がすようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−249296公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来のマニピュレータに採用される安全装置では、次のような問題がある。
(1)エンドエフェクタが外部の物体に衝突した際に、その衝撃でピンが剪断されるため、安全装置が働いた時点で安全装置は破壊されることになり、安全装置としての機能を継続することができない。このため、マニピュレータの動作も停止せざるを得ない。安全装置が働く毎に、ピンを取り替えなければならないので、そのための人手による作業が必要となる。
(2)マニピュレータにモータやエンコーダなどの配線を行う場合、その配線ルートを安全装置の外側に取る他なく、このため、マニピュレータと配線が干渉しやすく、配線が曲げや捻れの繰り返しにより切断されるおそれがある。これを防止するための好適な配線ルートを取ることは難しい。
【0007】
本発明は、このような従来の問題を解決するものであり、ロボットハンドやマニピュレータなどの特に駆動手段により回転駆動される入力軸とこの入力軸と同軸上に回転可能に支持される出力軸とを作動連結するのに用いて、ロボットなどを使用する場所で、ロボットハンドやマニピュレータなどが回転動作により人や物と接触するおそれがあっても、人との接触時には動きを止めて人に怪我をさせることがなく、物との接触時には動きを止めて物を壊すことがなく、併せて安全装置それ自体も破壊されることがなく、しかも、人や物との接触状態がなくなった時点で回転動作を継続することができ、また他面で、モータやエンコーダなどの配線の信頼性を高めることのできる安全装置付きカップリング装置を提供すること、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、軸ユニットに回転可能に支持され、駆動手段により回転駆動される入力軸と前記入力軸の回転中心と同軸上に回転可能に支持される出力軸とを作動連結して、前記入力軸の回転を前記出力軸に伝達し、前記出力軸と当該出力軸の動作領域に存在する障害物が衝突した場合に、前記出力軸を前記入力軸の回転動作から切り離す安全装置付きカップリング装置において、平板状に形成され、その平面に前記入力軸を通すための穴が貫通形成されて当該穴にベアリングが装着され、前記入力軸の連結側の端部が前記穴に前記ベアリングを介して回転可能に挿通される入力軸側のカップリングプレートと、平板状に形成され、前記出力軸の連結側の端部に前記入力軸側のカップリングプレートと対向可能に固定される出力軸側のカップリングプレートと、前記入力軸側及び前記出力軸側の各カップリングプレートを連結する連結部材とからなり、前記入力軸と前記出力軸との間に装着されるカップリング本体と、平板状に形成され、外周の相互に対称となる位置に溝を有し、前記入力軸側及び前記出力軸側の各カップリングプレートの間で前記入力軸の連結側の端部の周囲に固定される平板カムと、前記入力軸側及び前記出力軸側の各カップリングプレートの間で前記平板カムの各溝の側方にそれぞれ通されるとともに、各基端部を前記各カップリンクプレート間に挿着される軸により軸支され、各先端部間をばね部材により圧縮する方向に押圧されてなる一対のレバー、及び前記各レバーの長さ方向略中央に前記平板カムの各溝に向けて軸支され、前記平板カムの各溝に押圧係合可能な一対のローラを有し、前記カップリング本体内に前記平板カムに対して係脱可能に支持される一対の作動レバーと、を備え、前記カップリング本体内で、前記一対の作動レバーの各ローラと前記平板カムの各溝との弾性係合により、前記入力軸と前記出力軸が作動連結されて、前記入力軸の回転により前記カップリング本体とともに前記出力軸を回転し、前記出力軸と当該出力軸の動作領域に存在する障害物が衝突した場合に、当該出力軸の回転の停止により前記カップリング本体とともに前記各作動レバーの回転が停止される一方、前記カップリング本体内で前記入力軸の回転に連動して前記平板カムが回転することにより、前記各作動レバーの各ローラが前記平板カムの各溝から離脱して、前記各ローラと前記各溝との係合を解除し、前記出力軸を前記入力軸の回転動作から切り離す、ことを要旨とする。
また、この安全装置付きカップリング装置は、さらに次のような構成を備えることが好ましい。
(1)ばね部材に圧縮コイルスプリングが採用され、前記圧縮コイルスプリングが一対のレバーの先端部間に介装される。
(2)平板カムの各溝は略V字形に形成される。
(3)入力軸及び出力軸に中空の軸が採用され、出力軸側のカップリングプレートに前記出力軸の中空の軸と連通可能に開口が形成される。
(4)出力軸側のカップリングプレートの片側一方の面に当該面の開口に連通して中空の出力軸が固定され、片側他方の面に当該面の開口と同芯的にベアリングが装着されて当該ベアリングに中空の入力軸が回転可能に挿通される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の安全装置付きカップリング装置によれば、上記の構成により、カップリング本体内で、一対の作動レバーの各ローラと平板カムの各溝との弾性係合により、入力軸と出力軸が作動連結されて、入力軸の回転によりカップリング本体とともに出力軸を回転し、出力軸と当該出力軸の動作領域に存在する障害物が衝突した場合に、当該出力軸の回転の停止によりカップリング本体とともに各作動レバーの回転が停止される一方、カップリング本体内で入力軸の回転に連動して平板カムが回転することにより、各作動レバーの各ローラが平板カムの各溝から離脱して、各ローラと各溝との係合を解除し、出力軸を入力軸の回転動作から切り離すようにしたので、このカップリング装置をロボットハンドやマニピュレータなどの特に駆動手段により回転駆動される入力軸とこの入力軸と同軸上に回転可能に支持される出力軸とを作動連結するのに用いることで、ロボットなどを使用する場所で、ロボットハンドやマニピュレータなどが回転動作により人や物と接触するおそれがあっても、人との接触時には時計方向、反時計方向の回転であってもその動きを止め、衝撃を吸収して人に怪我をさせることがなく、物との接触時にも同様にその動きを止め、衝撃を吸収して物を壊すことがなく、併せて安全装置それ自体も破壊されることがなく、しかも、人や物との接触状態がなくなった時点で回転動作を継続することができる。
また、一対の作動レバーをなす一対のレバーが各基端部を各カップリンクプレート間に挿着される軸により軸支され、各先端部間がばね部材により圧縮する方向に押圧されて、ばね部材の所定のプリテンションにより、一対の作動レバーの各ローラと平板カムの各溝が弾性係合され、入力軸と出力軸が作動連結されるので、出力軸側の自重によるモーメントにより回転停止後の出力軸が回転停止位置から変位するのを防止することができる。また、この場合、ばね部材に圧縮コイルスプリングが採用され、圧縮コイルスプリングが一対のレバーの先端部間に介装されることで、プリテンション機能を持たせていても、装置全体の大きさや重量が増大することがなく、むしろ装置全体の小型化、軽量化を図ることができる。
さらに、入力軸及び出力軸に中空の軸が採用され、出力軸側のカップリングプレートに出力軸の中空の軸と連通可能に開口が形成されて、出力軸側のカップリングプレートの片側一方の面に当該面の開口に連通して中空の出力軸が固定され、片側他方の面に当該面の開口と同芯的にベアリングが装着されて当該ベアリングに中空の入力軸が回転可能に通されることにより、このカップリング装置の回転中心部分を空洞にすることができるので、この空洞にモータやエンコーダなどの配線用スペースなどを割り当てることができ、これにより、配線を簡単且つ確実に行うことができ、また、配線が繰り返し曲げられたり捻られたりすることがないため切断のおそれもなく、配線の信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施の形態による安全装置付きカップリング装置を軸ユニットとともに示す平面図
【図2】同安全装置付きカップリング装置を示す斜視図
【図3】同安全装置付きカップリング装置を示す一部省略斜視図
【図4】同安全装置付きカップリング装置の動作を示し、駆動モータにより入力軸が回転され、平板カムと一対の作動レバーとの係合により、出力軸が回転する状態を示す図
【図5】同安全装置付きカップリング装置の動作を示し、入力軸及び出力軸が回転する状態を示す図
【図6】同安全装置付きカップリング装置の動作を示し、出力軸が当該出力軸の動作領域に存在する障害物と衝突して回転が止まり、カップリング本体とともに各作動レバーの回転が停止される一方、このカップリング本体内で入力軸の回転に連動して平板カムが回転することにより、各作動レバーの各ローラが平板カムの各溝から離脱して、各ローラと各溝との係合が解除され、出力軸が入力軸の回転動作から切り離される状態を示す図
【図7】同安全装置付きカップリング装置の小型軽量化を説明するための正面図
【図8】同安全装置付きカップリング装置の小型軽量化を説明するための平面図
【図9】従来の安全装置付きのマニピュレータを示す図
【図10】同マニピュレータの要部を拡大して示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、この発明を実施するための形態について図を用いて説明する。図1はこの発明による安全装置付きカップリング装置を軸ユニットとともに示す平面図である。図2は安全装置付きカップリング装置を示す斜視図、図3は図2に示す安全装置付きカップリング装置から手前側の出力軸と出力軸側のカップリングプレートを取り外した状態を示す斜視図である。
【0012】
図1に示すように、安全装置付きカップリング装置1は、軸ユニット2に回転可能に支持され、駆動モータMにより回転駆動される入力軸3とこの入力軸3の回転中心と同軸上に回転可能に支持される出力軸4との間に装着されるカップリング本体10と、カップリング本体10内で入力軸3の連結側の端部の周囲に固定される平板カム20と、カップリング本体10内で平板カム20に対して係脱可能に支持される一対の作動レバー30、30とを備えて構成され、入力軸3と出力軸4とを作動連結して、入力軸3の回転を出力軸4に伝達し、出力軸4と当該出力軸4の動作領域に存在する障害物が衝突した場合に、出力軸4を入力軸3の回転動作から切り離すようになっている。なお、この軸ユニット2に使用される入力軸3は小径の軸、出力軸4は大径の軸になっている。この場合、これらの入力軸3及び出力軸4に円筒形状の軸など中空の軸が採用される。
【0013】
図2及び図3に示すように、カップリング本体10は、入力軸側のカップリングプレート11と、出力軸側のカップリングプレート12と、これら入力軸側及び出力軸側の各カップリングプレート11、12を連結する連結部材13とからなる。入力軸側のカップリングプレート11は平板状に形成されて、その平面に入力軸3を通すための穴110(図1参照)が貫通形成されて当該穴110にベアリング111が装着され、入力軸3の連結側の端部が当該穴110にベアリング111(図1参照)を介して回転可能に挿通される。出力軸側のカップリングプレート12は入力軸側のカップリングプレート11と同じ大きさ、形状の平板状に形成され、出力軸4の連結側の端部に入力軸側のカップリングプレート11と対向可能に固定される。この場合、出力軸側のカップリングプレート12は平面上の略中央付近に出力軸4の中空の軸と連通可能に出力軸4が挿通可能な開口120が形成され、この開口120の内周で片側一方の面側に出力軸4が嵌合可能なリング121が装着され、また、この開口120の内周で片側他方の面側に入力軸3を挿通し支持可能なベアリング122が装着されて、このカップリングプレート12の片側一方の面に当該面の開口120にリング121を介して連通して中空の出力軸4が固定され、片側他方の面に当該面の開口120にベアリング122を介して中空の入力軸3が回転可能に挿通される。連結部材13は複数の連結ピンからなり、入力軸側及び出力軸側の各カップリングプレート11、12間に挿着されて、各カップリングプレート11、12が連結される。このようにしてカップリング本体10は入力軸3と出力軸4との間に装着される。
【0014】
図3に示すように、平板カム20は平板状に形成され、外周の相互に対称となる位置、この場合、上下の対称位置にそれぞれ略V字形の溝21、21が形成される。この平板カム20は入力軸側及び出力軸側の各カップリングプレート11、12の間で入力軸3の連結側の端部の周囲に固定される。
【0015】
図2及び図3に示すように、一対の作動レバー30、30は、一対のレバー31、31と、これらのレバー31、31に設けられる一対のローラ32、32とからなる。一対のレバー31、31はそれぞれ各カップリングプレート11、12の横方向の長さと略同じか少し長いレバーで、各レバー31、31は入力軸側及び出力軸側の各カップリングプレート11、12の間で平板カム20の上下の各溝21、21の側方に各カップリングプレート11、12と平行に通されて、各基端部が各カップリンクプレート11、12間に挿着される軸33、33により回動可能に軸支され、各先端部間がばね部材34により圧縮する方向に押圧される。この場合、ばね部材34に圧縮コイルスプリングが採用され、圧縮コイルスプリング34が一対のレバー31、31の先端部間に介装される。一対のローラ32、32はそれぞれ平板カム20の各溝21、21に係合可能なローラからなり、各レバー31、31の長さ方向略中央に平板カム20の各溝21、21に向けて軸支され、ばね部材34の作用により平板カム20の各溝21,21に押圧係合可能になっている。このようにして一対の作動レバー30、30はカップリング本体10内に平板カム20に対して係脱可能に支持される。
【0016】
このようにしてカップリング装置1は、入力軸側のカップリングプレート11と出力軸側のカップリングプレート12との間に衝撃吸収機構をなす安全装置が構成され、カップリング本体10内の一対の作動レバー30、30の各ローラ32、32と平板カム20の各溝21、21との弾性係合により、入力軸3と出力軸4が作動連結されて、入力軸3の回転によりカップリング本体10とともに出力軸4を回転し、出力軸4と当該出力軸4の動作領域に存在する障害物が衝突した場合に、当該出力軸4の回転の停止によりカップリング本体10とともに各作動レバー30、30の回転が停止される一方、カップリング本体10内で入力軸3の回転に連動して平板カム20が回転することにより、各作動レバー30、30の各ローラ32、32が平板カム20の各溝21、21から離脱して、各ローラ32、32と平板カム20の各溝21、21との係合を解除し、出力軸4を入力軸3の回転動作から切り離すようになっている。また、このカップリング装置1の場合、入力軸3及び出力軸4に中空の軸が採用され、出力軸側のカップリングプレート12に出力軸4の中空の軸と連通可能に開口120が形成されること、そして、出力軸側のカップリングプレート12の片側一方の面に当該面の開口120にリング121が装着され、このリング121に連通して中空の出力軸4が固定され、片側他方の面に当該面の開口120と同芯的にベアリング122が装着されて、このベアリング122に中空の入力軸3が回転可能に通されて支持されることにより、このカップリング装置1の回転中心部分が空洞になっているので、この空洞にモータやエンコーダなどの各種の配線が通される。
【0017】
図4乃至図6にこのカップリング装置1の動作を例示している。なお、これら図4乃至図6には、カップリング本体10の記載を省略してある。通常(図2及び図3を参照)、カップリング本体10内で上下の一対の作動レバー30、30の各ローラ32、32と平板カム20の上下の各溝21、21が弾性係合されて、入力軸3と出力軸4が作動連結され、駆動モータにより入力軸3が時計回り方向に回転されると、図4に示すように、入力軸3とともに平板カム20が同方向に回り、平板カム20と一対の作動レバー30、30が係合されているので、入力軸3に与えられたトルクは平板カム20、一対の作動レバー30、30を介して出力軸4に伝達され、出力軸4がカップリング本体10とともに時計回り方向に回転する。反対に、入力軸3が反時計回り方向に回転すると、同様に、出力軸4がカップリング本体10とともに反時計回り方向に回転する。そして、図5に示すように、入力軸3、出力軸4が回転を続けるうちに、出力軸3が当該出力軸3の動作領域に存在する障害物と衝突すると、図6に示すように、出力軸3の回転が止まり(ロック)され、カップリング本体10とともに各作動レバー30、30の回転が停止される一方、カップリング本体10内で入力軸3の回転に連動して平板カム20が回転することにより、各作動レバー30、30の各ローラ32、32が平板カム20に押し退けられて平板カム20の各溝21、21から離脱され、これにより各ローラ32、32と各溝21、21との係合が解除されて、出力軸4は入力軸3の回転動作から切り離される。すなわち、出力軸4は回転を停止し、入力軸3は空転する。なお、入力軸3が空転し始めるトルク、空転時のトルクカーブなどは平板カム20の形状とばね部材(コイルスプリング)34のばね常数の適宜の設定、変更により、調整(設定、変更)することができる。このようにして出力軸4と障害物との衝突時の衝撃が吸収される。そして、出力軸4と障害物との接触状態がなくなると、カップリング本体10内で一対の作動レバー30、30がばね部材34により元の位置に弾性復帰して、各ローラ32、32が平板カム20の各溝21、21に弾性係合され、入力軸3と出力軸4が作動連結されて、回転動作が継続される。
【0018】
以上説明したように、この安全装置付きカップリング装置1によれば、カップリング本体10内で、一対の作動レバー30、30の各ローラ32、32と平板カム20の各溝21、21との弾性係合により、入力軸3と出力軸4が作動連結されて、入力軸3の回転によりカップリング本体10とともに出力軸4を回転し、出力軸4と当該出力軸4の動作領域に存在する障害物が衝突した場合に、当該出力軸4の回転の停止によりカップリング本体10とともに各作動レバー30、30の回転が停止される一方、カップリング本体10内で入力軸3の回転に連動して平板カム20が回転することにより、各作動レバー30、30の各ローラ32、32が平板カム20の各溝21、21から離脱して、各ローラ32、32と各溝21、21との係合を解除し、出力軸4を入力軸3の回転動作から切り離すようにしたので、このカップリング装置1をロボットハンドやマニピュレータなどの特に駆動手段により回転駆動される入力軸3とこの入力軸3と同軸上に回転可能に支持される出力軸4とを作動連結するのに用いることで、ロボットなどを使用する場所で、ロボットハンドやマニピュレータなどが回転動作により人や物と接触するおそれがあっても、人との接触時には時計方向、反時計方向の回転であってもその動きを止め、衝撃を吸収して人に怪我をさせることがなく、物との接触時にも同様にその動きを止め、衝撃を吸収して物を壊すことがなく、併せて安全装置それ自体も破壊されることがなく、しかも、人や物との接触状態がなくなった時点で回転動作を継続することができる。
【0019】
また、このカップリング装置1では、一対の作動レバー30、30をなす一対のレバー31、31が各基端部を各カップリンクプレート11、12間に挿着される軸33により軸支され、各先端部間がばね部材34により圧縮する方向に押圧されて、ばね部材34の所定のプリテンションにより、一対の作動レバー30、30の各ローラ32、32と平板カム20の各溝21、21が弾性係合されて、入力軸3と出力軸4が作動連結されるので、出力軸4側の自重によるモーメントにより回転停止後の出力軸4が回転停止位置から変位するのを防止することができる。また、この場合、ばね部材34に圧縮コイルスプリングが採用され、圧縮コイルスプリング34が一対のレバー31、31の先端部間に介装されるので、プリテンション機能を持たせていても、装置1全体の大きさや重量が増大することがなく、装置1のコンパクト化を図ることができる。このようなカップリング装置1の構造によれば、図7及び図8に示すように、コイルスプリング34に90Nm程度のプリテンションを持たせた場合でも、装置1の総重量は約1kgで、装置1全体を直径230mm、奥行き42mmの範囲内にコンパクトに納めることができ、顕著な小型軽量化を実現することができる。
【0020】
さらに、このカップリング装置1では、入力軸3及び出力軸4に中空の軸が採用され、出力軸側のカップリングプレート12に出力軸4の中空の軸と連通可能に開口120が形成されて、出力軸側のカップリングプレート12の片側一方の面に当該面の開口120のリング121に連通して中空の出力軸4が固定され、片側他方の面に当該面の開口120と同芯的にベアリング122が装着されて当該ベアリング122に中空の入力軸3が回転可能に挿通されることにより、このカップリング装置1の回転中心部分を空洞にすることができるので、この空洞にモータやエンコーダなどの配線用スペースなどを割り当てることができ、これにより、配線を簡単且つ確実に行うことができ、また、配線が繰り返し曲げられたり捻られたりすることがないため切断のおそれもなく、配線の信頼性を高めることができる。
【符号の説明】
【0021】
1 安全装置付きカップリング装置
10 カップリング本体
11 入力軸側のカップリングプレート
110 穴
111 ベアリング
12 出力軸側のカップリングプレート
120 開口
121 リング
122 ベアリング
13 連結部材(連結ピン)
20 平板カム
21 溝
30 作動レバー
31 レバー
32 ローラ
33 軸
34 ばね部材(圧縮コイルスプリング)
2 軸ユニット
M 駆動モータ
3 入力軸
4 出力軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸ユニットに回転可能に支持され、駆動手段により回転駆動される入力軸と前記入力軸の回転中心と同軸上に回転可能に支持される出力軸とを作動連結して、前記入力軸の回転を前記出力軸に伝達し、前記出力軸と当該出力軸の動作領域に存在する障害物が衝突した場合に、前記出力軸を前記入力軸の回転動作から切り離す安全装置付きカップリング装置において、
平板状に形成され、その平面に前記入力軸を通すための穴が貫通形成されて当該穴にベアリングが装着され、前記入力軸の連結側の端部が前記穴に前記ベアリングを介して回転可能に挿通される入力軸側のカップリングプレートと、平板状に形成され、前記出力軸の連結側の端部に前記入力軸側のカップリングプレートと対向可能に固定される出力軸側のカップリングプレートと、前記入力軸側及び前記出力軸側の各カップリングプレートを連結する連結部材とからなり、前記入力軸と前記出力軸との間に装着されるカップリング本体と、
平板状に形成され、外周の相互に対称となる位置に溝を有し、前記入力軸側及び前記出力軸側の各カップリングプレートの間で前記入力軸の連結側の端部の周囲に固定される平板カムと、
前記入力軸側及び前記出力軸側の各カップリングプレートの間で前記平板カムの各溝の側方にそれぞれ通されるとともに、各基端部を前記各カップリンクプレート間に挿着される軸により軸支され、各先端部間をばね部材により圧縮する方向に押圧されてなる一対のレバー、及び前記各レバーの長さ方向略中央に前記平板カムの各溝に向けて軸支され、前記平板カムの各溝に押圧係合可能な一対のローラを有し、前記カップリング本体内に前記平板カムに対して係脱可能に支持される一対の作動レバーと、
を備え、
前記カップリング本体内で、前記一対の作動レバーの各ローラと前記平板カムの各溝との弾性係合により、前記入力軸と前記出力軸が作動連結されて、前記入力軸の回転により前記カップリング本体とともに前記出力軸を回転し、
前記出力軸と当該出力軸の動作領域に存在する障害物が衝突した場合に、当該出力軸の回転の停止により前記カップリング本体とともに前記各作動レバーの回転が停止される一方、前記カップリング本体内で前記入力軸の回転に連動して前記平板カムが回転することにより、前記各作動レバーの各ローラが前記平板カムの各溝から離脱して、前記各ローラと前記各溝との係合を解除し、前記出力軸を前記入力軸の回転動作から切り離す、
ことを特徴とする安全装置付きカップリング装置。
【請求項2】
ばね部材に圧縮コイルスプリングが採用され、前記圧縮コイルスプリングが一対のレバーの先端部間に介装される請求項1に記載の安全装置付きカップリング装置。
【請求項3】
平板カムの各溝は略V字形に形成される請求項1又は2に記載の安全装置付きカップリング装置。
【請求項4】
入力軸及び出力軸に中空の軸が採用され、出力軸側のカップリングプレートに前記出力軸の中空の軸と連通可能に開口が形成される請求項1乃至3のいずれかに記載の安全装置付きカップリング装置。
【請求項5】
出力軸側のカップリングプレートの片側一方の面に当該面の開口に連通して中空の出力軸が固定され、片側他方の面に当該面の開口と同芯的にベアリングが装着されて当該ベアリングに中空の入力軸が回転可能に挿通される請求項4に記載の安全装置付きカップリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−176466(P2012−176466A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41274(P2011−41274)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(591117413)株式会社菊池製作所 (33)
【Fターム(参考)】