説明

安定ラジカル構造を有する化合物及びこれを用いたゾル、ゲル、キセロゲル

【課題】安定ラジカル化合物を組織化するために、界面活性剤としての機能を有する安定ラジカル含有化合物を提供し、当該化合物を用いたミセル又はエマルションを提供する。
【解決手段】1分子中に安定ラジカル構造及び、水素結合能力を持つ部位を有することを特徴とする化合物を提供し、併せて当該化合物を含むゾル、ゲル及びキセロゲルを提供する。安定ラジカルを含むキセロゲルは三次元網目構造を持つため、単位表面積当たりのラジカル密度が高く、有機ラジカル電池などの電極材料に使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は安定ラジカル構造を有する化合物及び安定ラジカルをもつゾル、ゲル、キセロゲルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、安定ラジカル構造を含む液晶材料が見出され磁場制御による物質輸送などへの応用が検討され始めている(特許文献1、2)。また、安定ラジカルを含むポリマー材料が有機ラジカル電池の電極材料として優れた特性をもつことも見出されている(特許文献3)。一方、ゲル化剤は広く一般的に用いられており、その応用範囲も広い。
【0003】
ところで、安定ラジカルの機能を活用するには、そのラジカル構造を組織化・高密度化することが重要であり、これまでのところ安定ラジカル構造をもつポリマーとして電極材料に用いられているが、より高性能なラジカル材料とするにはさらなる高密度化が要求されている。
【0004】
安定ラジカル化合物を組織化する手法の一例としては、先に挙げた安定ラジカル構造を有する液晶材料がある。しかしながら、安定ラジカル含有の液晶を用いても、ゲルや三次元網目構造をもつキセロゲルを構築することはできないことから、安定ラジカルの機能活用が遅れていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−215187号公報
【特許文献2】特開2009−79020号公報
【特許文献3】特許第3687736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、安定ラジカル化合物を組織化するために、ゲル化剤としての機能を有する安定ラジカル含有化合物を提供し、当該化合物を用いたゾル、ゲル又は三次元網目構造をもつキセロゲルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、安定ラジカルを含む化合物に種々の官能基を付与することを検討して、安定ラジカルを含む化合物に水素結合能力を付与することにより安定ラジカルを含むゾルやゲル、キセロゲルを形成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、1分子中に安定ラジカル構造及び水素結合能力を持つ部位を有する化合物を提供し、併せて当該化合物と水又は有機溶媒を含有するゾル、ゲル又はキセロゲルを提供する。
【0009】
一般的にラジカル化合物は不安定であり、空気中など一般的な環境下では速やかに化学反応を起こして消失してしまう。そのため通常のラジカル化合物を様々な用途に使用される材料として用いることは困難である。一方、ニトロキシドラジカル化合物などは、空気中でも安定であるため、ラジカルとしての特殊な性質を反映させた材料に用いることが可能となる。例えば、組織化されたラジカル材料は常磁性や強磁性などを発現させることが可能である。液晶性を示す化合物に安定ラジカルを組み込むことにより、組織化されたラジカル構造を構築でき、これを磁石などの磁場を用いて移動させることができる。
【0010】
一方、ゲル化剤は水もしくは有機溶媒などと混和することにより、ゾル、ゲルもしくはキセロゲルを形成することができる。ゾルとは液体分散系のコロイドであり、コロイドとは一方が微小な液滴あるいは微粒子を形成し(分散相)、他方に分散した2組の相から構成された物質状態のことである。ゲルは本質的にゾルと同じであるが、分散質のネットワークにより高い粘性を持ち流動性を失い、系全体としては固体状になったものである。そしてこのゲルが乾燥したものがキセロゲルである。一般にキセロゲルは三次元網目構造をもっており、広い表面積を有している。例えばシリカゲルは代表的なキセロゲルであり高い吸湿性をもつ。ゲル化剤は、水もしくは有機溶媒系においてある種の組織構造もしくはネットワーク構造を構築する能力が必要であり、これには分子中に水素結合などの部位を持つことが重要である。すなわち、系内において分子間の水素結合により分子が凝集し、その際に分子全体の分子間相互作用によりある種の組織化が行われる。その凝集レベルによりゾルもしくはゲルが形成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の安定ラジカル構造を有する化合物は、ゲル化剤としての機能を有することから、安定ラジカル構造を含むゾル、ゲル、キセロゲルを容易に製造することが可能となる。とりわけ安定ラジカル構造をもつキセロゲルは、三次元網目構造を有するためその表面積が大きく、安定ラジカルを活用した各種材料への応用が可能となる。また、安定ラジカルを含むキセロゲルは三次元網目構造を持つため、単位表面積当たりのラジカル密度が高く、有機ラジカル電池などの電極材料に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(S,S,S)-1のESI-MSスペクトルである。
【図2】(S,S,S)-1の1H NMRスペクトルである。
【図3】(S,S,S)-1の13C NMRスペクトルである。
【図4】(S,S,S)-1を用いたヒドロゲルである。
【図5】ヒドロゲル(S,S,S)-1のDSC分析結果を表す図である。
【図6】(S,S,S)-1のヒドロゲルの偏光顕微鏡画像:200倍(左), 1000倍(右)である。
【図7】(S,S,S)-1のキセロゲルのSEM画像:500倍(左), 10000倍(右)である。
【図8】(S,S,S)-1のヒドロゲルのEPRスペクトルの温度依存性を表す図である。
【図9】(S,S,S)-1のヒドロゲルの線幅(ΔH)(左)とg値の温度依存性(右)を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、1分子中に安定ラジカル構造と水素結合能力をもつ化合物に関するものであり、このラジカル化合物は、水中もしくは有機溶媒中で三次元構造を構築することを特徴とする。
【0014】
本発明の化合物は具体的には、下記一般式(A1)で表される化合物が好ましい。
【0015】
【化1】

(式中、Wは、下記一般式(W−1)から一般式(W−3)のいずれかの構造を表し、
【化2】

(式中、Ra及びRbは、それぞれ独立的に水素原子又は1〜12個の炭素原子を有するアルキルを表す。)
式中、Rは水素又は炭素数1〜30のアルキル基、炭素数2〜30のアルケニル基、炭素数1〜30のアルコキシル基、炭素数2〜30のアルケニルオキシ基(それぞれの基中の1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子に置換されていてもよく、またそれぞれの基中の一つ又は二つ以上の−CH−は互いに独立して酸素原子が相互に直接結合しないものとして、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCS−、−SCO−、−CONR−、−NRCO−(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜12のアルキル基を表す。)、−CH=N−、−N=CH−、−N=N−又は−CH=CH−置換されていても良い。)、又はP−Sp−を表し、
(式中、Pは以下の式(R−1)から式(R−15)の何れかの構造を表し、
【化3】

Spは酸素原子同士が直接結合しないものとして炭素原子が酸素原子、−COO−、−OCO−、又は−OCOO−に置き換えられても良い炭素数2〜12のアルキレン基、又は単結合を表す。)
及びAは、それぞれ独立的にトランス−1,4−シクロヘキシレン基又は1,4−フェニレン基、ナフタレン−2,6−ジイル基(それぞれの基中の1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子又は塩素原子に置換されていてもよく、また基中の芳香環の1個以上のCHは独立的にNに置換されていてもよい。)、又は単結合を表し、
m及びnは、それぞれ独立的に0、1、2又は3を表すが、m+nは1から6の整数であり、
及びZは、それぞれ独立に−O−、−S−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCS−、−SCO−、−CONR−、−NRCO−、−CH−、−OCH−、−CHO−、−SCH−、−CHS−、−CF−、−OCF−、−CFO−、−CFCH−、−CHCF−、−CHCH−、−CFCF−、−CH=N−、−N=CH−、−N=N−、−CH=CH−、又は単結合であり、
(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜12のアルキル基を表す。)
Vは酸素原子同士が直接結合しないものとして炭素原子が酸素原子、−COO−、−OCO−若しくは−OCOO−に置き換えられても良い炭素数2〜12のアルキレン基、又は単結合を表し、
Xは−(CONY−CHY−Rを表し、
(式中、Yは(Z−A−Rを、Yは(Z−A−Rをそれぞれ表し、
(式中、A及びAは互いに独立してトランス−1,4−シクロヘキシレン基又は1,4−フェニレン基、ナフタレン−2,6−ジイル基、インドール−3,6−ジイル基、ピロリジン−2,4−ジイル基、イミダゾール−4,5−ジイル基(それぞれの基中の1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子又は塩素原子に置換されていてもよく、また基中の芳香環の1個以上のCHは独立的にNに置換されていてもよく。)又は単結合を表し、
及びZは、それぞれ独立に−O−、−S−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCS−、−SCO−、−CONR−、−NRCO−、−CH−、−OCH−、−CHO−、−SCH−、−CHS−、−CF−、−OCF−、−CFO−、−CFCH−、−CHCF−、−CHCH−、−CFCF−、−CH=N−、−N=CH−、−N=N−、−CH=CH−、又は単結合を表し、R、R、Rは水素原子又は炭素数1〜12のアルキル基を表し、
j、k及びlは、それぞれ独立的に0、1、2又は3を表す。)
は水素原子又は炭素数1〜12のアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数1〜12のアルコキシル基又は炭素数2〜12のアルケニルオキシ基(それぞれの基中の1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子に置換されていてもよく、またそれぞれの基中の一つ又は二つ以上の−CH−は互いに独立して酸素原子が相互に直接結合しないものとして、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCS−、−SCO−、−CONR−、−NRCO−、−CH=N−、−N=CH−、−N=N−、−CH=CH−、又は単結合に置換されていても良い。)を表す。)
【0016】
安定ラジカル構造であるWは分子の直線性を重視する場合には、(W−1)が好ましく、この場合、置換されるアルキル基Ra及びRbはメチル基又はエチル基が好ましい。
【0017】
Rは、炭素数10〜20のアルコキシル、炭素数10〜20のアルキル基又は炭素数10〜20のアルケニル基が好ましく、炭素数10〜20のアルコキシル又は炭素数10〜20のアルキル基がより好ましく、炭素数10〜20のアルコキシル基が特に好ましい。Rが「P−Sp−」を表す場合において、前記Pは重合の容易さから前記式(R−1)又は前記式(R−2)が好ましく、前記Spは、末端の−CH−が−O−に置換されていてもよい炭素数3〜8のアルキレン基が好ましい。
【0018】
及びAは、それぞれ独立して1,4−フェニレン基、トランス−1,4−シクロヘキシレン基又はナフタレン−2,6−ジイル基が好ましく、1,4−フェニレン基又はトランス−1,4−シクロヘキシレン基がより好ましく、1,4−フェニレン基が特に好ましい。
【0019】
は、単結合、−COO−(−C(=O)−O−)又は−OCO−(−O−C(=O)−)が好ましく、単結合又は−COO−がより好ましく、単結合が特に好ましい。
は、単結合、−OCO−又は−COO−が好ましく、単結合又は−OCO−がより好ましく、単結合が特に好ましい。
【0020】
m及びnは、それぞれ独立して1、2又は3が好ましく、1又は2がより好ましい。このとき、m+nは2、3、4又は5が好ましく、2、3又は4がより好ましい。
前記m又はnが2〜3である場合、前記式(A1)中の複数のZ、A、Z及びAはそれぞれ独立している。
【0021】
、及びRは、それぞれ独立して水素原子、メチル基又はエチル基が好ましく、水素原子又はメチル基がより好ましく、水素原子が特に好ましい。
前記式(A1)中にR又はRが複数含まれる場合、複数のR及びRはそれぞれ独立している。
【0022】
Vは、酸素原子同士が直接結合しないものとして炭素原子が酸素原子、−COO−、−OCO−若しくは−OCOO−に置き換えられても良い炭素数2〜6のアルキレン基又は単結合が好ましく、単結合がより好ましい。
【0023】
好適なXとしては、例えば、−(CONH−CHCH−Rで表される式(X−01)が挙げられる。式(X−01)は、Xの、kが0、lが0、Rが水素原子、且つRがメチル基であることによって、Yが水素原子、且つYがメチル基となったものである。
式(X−01)中、jは1又は2が好ましい。
【0024】
は、一つ又は二つ以上の−CH−が互いに独立して酸素原子が相互に直接結合しないものとして、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCS−、−SCO−、−CONR−、−NRCO−、−CH=N−、−N=CH−、−N=N−、若しくは−CH=CH−に置換されていても良いメチル基又はエチル基、或いは水素原子が好ましく、一つ又は二つ以上の−CH−が互いに独立して酸素原子が相互に直接結合しないものとして、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCS−、−SCO−、−CONR−、−NRCO−、−CH=N−、−N=CH−、−N=N−、若しくは−CH=CH−に置換されていても良いメチル基又はエチル基がより好ましい。
【0025】
本発明において、R及びRを構成する1価の炭化水素基のうち、−CH−は前述の通り、置換されていてもよい。このとき、前記1価の炭化水素の末端の−CHは、−CH−Hであるから、同様に置換されうる。例えば、Rの末端の−CHにおける−CH−は、−COO−に置換されて、−COOHとなりうる。
【0026】
両親媒性を重視する場合、A及びAはそれぞれ独立してトランス−1,4−シクロヘキシレン基又は1,4−フェニレン基が好ましく、m及びnはそれぞれ独立して1から2が好ましく、Z及びZはそれぞれ独立して、−COO−又は単結合が好ましい。また、比較的弱い水素結合能力を要する場合jは1が好ましいが、より高い水素結合能力を必要とする場合には、jが2又は3であることが好ましい。
【0027】
一般式(A1)は下記一般式(A2)で表される構造が好ましい。
【0028】
【化4】

(式中、R、A、A、m、n、Z、Z、V及びXは一般式(A2)と同じ意味を表す。)
【0029】
一般式(A2)はR、A、A、m、n、Z、Z、V、及びXの組み合わせにより種々の化合物を包含するものであるが、具体的には以下に示す化合物が好ましい。
【0030】
【化5】

【0031】
【化6】

【0032】
【化7】

【0033】
【化8】

【0034】
【化9】

【0035】
【化10】

【0036】
(式中、Ra及びRbは、それぞれ独立的に炭素数1〜2のアルキル基を表し、Rcは炭素数12〜18のアルキル基、炭素数12〜18のアルケニル基、炭素数12〜18のアルコキシル基又は炭素数12〜18のアルケニルオキシ基を表す。)
【0037】
上記化合物のうち、ラジカル密度を高めにしたい場合は一般式(I−a−1)〜(I−a−3)で表される化合物が好ましく、親油性を高めたい場合は一般式(I−b−1)〜(I−b−3)、(I−c−1)〜(I−c−3)又は(I−d−1)〜(I−d−3)で表される化合物が好ましい。
一方、水素結合能力を強めたい場合には一般式(II−a−1)〜(II−a−3)で表される化合物が好ましい。さらに、ゾルもしくはキセロゲルを形成させた後に重合をさせたい場合には、一般式(III−a−1)〜(III−a−3)で表される化合物が好ましい。
【0038】
また、一般式(A2)において、Rが炭素数10〜20のアルキル基又は炭素数10〜20のアルコキシル基を、Aが1,4−フェニレン基を、Aが1,4−フェニレン基を、m、nがそれぞれ独立に1又は2を、Z、Zがそれぞれ独立に−COO−又は−OCO−又は単結合である化合物が好ましい。
【0039】
本発明の化合物は安定ラジカル構造を有することから、常磁性もしくは強磁性を発現しうるものであり、磁場による運動制御が可能な機能性有機材料として使用することができる。又、ラジカル構造を組織化・高密度化することが可能であることから、安定ラジカル構造をもつポリマーとして電極材料等として好適に使用することができる。
【0040】
本発明の化合物をゲル化剤として用いる場合において、本発明の化合物1種のみからなるものであっても、2種以上により構成されるものであっても良く、本発明の化合物以外の公知慣用の添加剤を添加しても良い。
【0041】
本発明の化合物は、ゲル化剤として接着剤、塗料、印刷インキ、化粧品等の流動性の制御、チクソトロピー性の付与、海上における鉱物油の拡散防止、食用油の固化処分、食品製造業、医療分野等において使用することができる。
【0042】
本発明の化合物は、ゲル化剤として用い、ゾル、ゲル、キセロゲルを形成するためには、水又は有機溶媒を使用する必要がある。
【0043】
すなわち、本発明にかかるゾルは、前述した本発明の化合物及び水若しくは有機溶媒を含有するものである。また、本発明にかかるゲルは、前述した本発明の化合物及び水若しくは有機溶媒を含有するものである。また、本発明にかかるキセロゲルは、前記ゲルを乾燥させることによって作製されたものである。
【0044】
本発明で使用するための水系溶媒としては、水、水溶性有機溶媒、又は水と水溶性有機溶媒を混合したものが挙げられる。水溶性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、t−ブタノール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、N−メチルピロリドン等の非プロトン性極性溶媒、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテル類、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒を使用することができる。
【実施例】
【0045】
(実施例1)カルボン酸性プロキシル3の合成
【0046】
【化11】

【0047】
マグネシウム(243mg, 10mmol)を加熱して1時間真空乾燥した。THFにp-ブロモベンズアルデヒドジエチルアセタール(2.591g, 10mmol)を溶解させマグネシウムに加えた。さらにヨウ素を少量加え、加熱をして4時間攪拌しグリニャール試薬を得た。よく乾燥させたニトロン(565mg, 5mmol)をTHF(10mL)に溶解させ、先ほどのグリニャール試薬の中に−78℃の条件下で加え一晩攪拌した。反応液に飽和塩化アンモニウム水溶液(50mL)を加え、ジクロロメタン(50mL×2)で抽出した。無水MgSO4で乾燥後溶媒を除去し、残渣をメタノール(20mL)に溶解させ、25%濃アンモニア水(2mL)とCu(OAc) 2・H2O(160mg)を加え、酸素を2分間注入した。溶液が濃青色に変化した後溶媒を除去し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(50mL)を加え、クロロホルム(50mL×2)で抽出した。無水MgSO4で乾燥後溶媒を除去した。
マグネシウム(243mg, 10mmol)を加熱して1時間真空乾燥した。THF(10mL)に臭化アルキル(3.682g, 10mmol)を溶解させマグネシウムに加えた。さらに1,2-ジブロモエタンを少量加え、加熱をして4時間攪拌しグリニャール試薬を得た。先ほどの残渣をTHFに溶解させ、このグリニャール試薬の中に−78℃の条件下で加え一晩攪拌した。反応液に飽和塩化アンモニウム水溶液(50mL)を加え、ジクロロメタン(50mL×2)で抽出した。無水MgSO4で乾燥後溶媒を除去し、残渣をメタノール(20mL)に溶解させ、25%濃アンモニア水(2mL)とCu(OAc)2・H2O(160mg)を加え、酸素を2分間注入した。溶液が濃青色に変化した後溶媒を除去し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(50mL)を加え、クロロホルム(50mL×2)で抽出した。無水MgSO4で乾燥後溶媒を除去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(hexane-ether: v/v 90:10)で精製した。
得られたジアリールプロキシルはジエチルアセタール保護体であるのでTHF(5mL)に溶解させ、希硫酸(5%)3mLを加え、脱保護を行った。飽和塩化ナトリウム水溶液(50mL)を加え、ジクロロメタン(50mL×2)で抽出した。無水MgSO4で乾燥後溶媒を除去した。
Ag2O(89mg, 0.40mmol)と水酸化ナトリウム水溶液(10%)1mLの中にTHF (2mL)に溶解させた残渣を加え、60℃の条件下で1時間攪拌した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(hexane-ether: v/v 50:50)で精製し、カルボン酸性プロキシル3を得た(総収率: 6%)。
【0048】
(実施例2) (S,S,S)-1の合成
【0049】
【化12】

【0050】
カルボン酸3 (30mg, 0.114mmol)をDMF(500μL)に溶かしてHOBt (1-hydroxybenzotriazole)(5mg, 1.1eq)とEDC(1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide) (6mg, 1.1eq)を加え、室温で1時間攪拌した。水(100μL)に溶解させたアラニン(20mg, 2eq)と炭酸カリウム(4mg, 1eq)を加えて2時間攪拌させた。水(10mL)とジクロロメタン(10mL)を加えて水相のpHを3にし、有機相を分液した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(chloroform-methanol: v/v 95:5)で精製し、(S,S,S)-1を得た(収率48%)。
【0051】
(S,S,S)-1のESI-MSスペクトルを図1に示す。また、構造同定のための(S,S,S)-1の1H NMRスペクトルを図2に、(S,S,S)-1の13C NMRスペクトルを図3に示す。
【0052】
1H NMR (500MHz ,CDCl3, hydrazobenzeneで還元後) δ 0.88(s, 3H), 1.26(s, 24H), 1.49-1.87(m, 12H), 3.48(dd,J=6.5, 3H), 3.98(s, 1H), 6.82-87(m, 4H+6H(hydrazobenzene)), 7.48-7.54(m, 4H+6H(azobenzene))
13C NMR (500MHz ,CDCl3, hydrazobenzeneで還元後) δ 14.3, 22.8, 25.9, 26.0, 26.2, 28.3, 29.5, 29.6, 29.7, 29.8, 31.9, 32.0, 32.4, 34.5, 36.8, 63.2, 68.1, 68.8, 69.3, 112.8, 113.2, 114.0, 122.9, 127.1, 128.1, 129.5, 134.6, 137.8, 156.5, 157.9 192.3
IR (KBr) ν 3446, 2976, 2922, 2852, 2372, 2345, 1719, 1560, 1462, 1290, 1250, 897, 831, 774 cm-1
Hydrazobenzene : 1H NMR (500MHz, CDCl3) δ 5.63 (s, 2H), 6.82-6.87(m, 6H), 7.21(t, J=8.0, 4H): 13C NMR (500MHz ,CDCl3) δ 112.4, 120.0,129.2, 149.0
Azobenzene : 1H NMR (500MHz, CDCl3) δ 7.48-54 (m, 6H), 7.93(d, J=8.5Hz, 4H): 13C NMR (500MHz ,CDCl3) δ 123.0, 129.2, 129.7, 152.8
【0053】
(実施例3) ゲルの調製
ゲル化剤 (S,S,S)-1を水に加熱溶解させ、室温まで冷却するとヒドロゲルが生成した(図4)。このヒドロゲルは加熱時にゾル、冷却時にゲルへと繰り返し転移する熱可逆性ヒドロゲルであった。DSC測定の結果から、ゲル−ゾル転移温度が60℃であることがわかった(図5)。また、偏光顕微鏡観察により、60℃で複屈折が消失し、ゲル−ゾル転移が確かめられた(図6)。キセロゲルのSEM観察により特徴的な3次元網目構造を確認した(図7)。ヒドロゲルのEPRスペクトルの温度依存性を測定したところ、60℃で線幅(ΔH)とg値が大きく変化することがわかった(図8、9)。
【0054】
(比較例1)
次に示す安定ラジカル液晶材料を水といかなる割合で混合してもゲルは生成しなかった。
【0055】
【化13】

【0056】
(比較例2)
次に示す安定ラジカル液晶材料を水といかなる割合で混合してもゲルは生成しなかった。
【0057】
【化14】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1分子中に安定ラジカル構造及び水素結合能力を持つ部位を有する化合物。
【請求項2】
一般式(A1)で表される、請求項1記載の化合物。
【化1】

(式中、Wは、下記一般式(W−1)から一般式(W−3)のいずれかの構造を表し、
【化2】

(式中、Ra及びRbは、それぞれ独立的に水素原子又は1〜12個の炭素原子を有するアルキルを表す。)
Rは水素原子又は炭素数1〜30のアルキル基、炭素数2〜30のアルケニル基、炭素数1〜30のアルコキシル基、炭素数2〜30のアルケニルオキシ基(それぞれの基中の1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子に置換されていてもよく、またそれぞれの基中の一つ又は二つ以上の−CH−は互いに独立して酸素原子が相互に直接結合しないものとして、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCS−、−SCO−、−CONR−、−NRCO−(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜12のアルキル基を表す。)、−CH=N−、−N=CH−、−N=N−又は−CH=CH−置換されていても良い。)、又はP−Sp−を表し、
(式中、Pは以下の式(R−1)から式(R−15)の何れかの構造を表し、
【化3】

Spは酸素原子同士が直接結合しないものとして炭素原子が酸素原子、−COO−、−OCO−、又は−OCOO−に置き換えられても良い炭素数2〜12のアルキレン基、又は単結合を表す。)
及びAは、それぞれ独立的にトランス−1,4−シクロヘキシレン基又は1,4−フェニレン基、ナフタレン−2,6−ジイル基(それぞれの基中の1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子又は塩素原子に置換されていてもよく、また基中の芳香環の1個以上のCHは独立的にNに置換されていてもよい。)、又は単結合を表し、
m及びnは、それぞれ独立的に0、1、2又は3を表すが、m+nは1から6の整数であり、
及びZは、それぞれ独立に−O−、−S−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCS−、−SCO−、−CONR−、−NRCO−、−CH−、−OCH−、−CHO−、−SCH−、−CHS−、−CF−、−OCF−、−CFO−、−CFCH−、−CHCF−、−CHCH−、−CFCF−、−CH=N−、−N=CH−、−N=N−、−CH=CH−、又は単結合を表し、
(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜12のアルキル基を表す。)
Vは酸素原子同士が直接結合しないものとして炭素原子が酸素原子、−COO−、−OCO−若しくは−OCOO−に置き換えられても良い炭素数2〜12のアルキレン基、又は単結合を表し、
Xは−(CONY−CHY−Rを表し、
(式中、Yは(Z−A−Rを、Yは(Z−A−Rをそれぞれ表し、
(式中、A及びAは互いに独立してトランス−1,4−シクロヘキシレン基又は1,4−フェニレン基、ナフタレン−2,6−ジイル基、インドール−3,6−ジイル基、ピロリジン−2,4−ジイル基、イミダゾール−4,5−ジイル基(それぞれの基中の1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子又は塩素原子に置換されていてもよく、また基中の芳香環の1個以上のCHは独立的にNに置換されていてもよく。)又は単結合を表し、
及びZは、それぞれ独立に−O−、−S−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCS−、−SCO−、−CONR−、−NRCO−、−CH−、−OCH−、−CHO−、−SCH−、−CHS−、−CF−、−OCF−、−CFO−、−CFCH−、−CHCF−、−CHCH−、−CFCF−、−CH=N−、−N=CH−、−N=N−、−CH=CH−、又は単結合を表し、R、R、Rは水素原子又は炭素数1〜12のアルキル基を表し、
j、k及びlは、それぞれ独立的に0、1、2又は3を表す。)
は水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数1〜12のアルコキシル基又は炭素数2〜12のアルケニルオキシ基(それぞれの基中の1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子に置換されていてもよく、またそれぞれの基中の一つ又は二つ以上の−CH−は互いに独立して酸素原子が相互に直接結合しないものとして、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCS−、−SCO−、−CONR−、−NRCO−、−CH=N−、−N=CH−、−N=N−、−CH=CH−、又は単結合に置換されていても良い。)を表す。
【請求項3】
一般式(A2)で表される、請求項2記載の化合物。
【化4】

(式中、R、A、A、m、n、Z、Z、V及びXは一般式(A1)と同じ意味を表す。)
【請求項4】
Rが炭素数10〜20のアルキル基又は炭素数10〜20のアルコキシル基を、Aが1,4−フェニレン基を、Aが1,4−フェニレン基を、m、nがそれぞれ独立に1又は2を、Z、Zがそれぞれ独立に−COO−又は−OCO−又は単結合を表す請求項3記載の化合物。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載の化合物と水又は有機溶媒を含有するゾル。
【請求項6】
請求項1〜4の何れか一項に記載の化合物と水又は有機溶媒を含有するゲル。
【請求項7】
請求項6に記載のゲルを乾燥させることにより作成されるキセロゲル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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