説明

安定性を高めた免疫グロブリン配合物

本発明は、非極性アミノ酸および塩基性アミノ酸からなる群より選択される安定剤を含み、4.0〜5.2のpHを有する、安定性を高めたタンパク質配合物に関する。本発明はさらに、医薬組成物、およびタンパク質配合物を安定化する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非極性アミノ酸および塩基性アミノ酸からなる群より選択される安定剤を含み、4.2〜5.4のpHを有する、安定性を高めたタンパク質配合物に関する。本発明はさらに、医薬組成物、およびタンパク質配合物を安定化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
かなり以前から、タンパク質配合物、特に静脈注射のための免疫グロブリン配合物が使用されてきている。タンパク質、特に免疫グロブリンは、集合体および/または二量体を形成し、さらに分解したり変性したりする傾向がある。このような場合において、溶液は静脈内注射されるが、集合体は、アナフィラキシーショックのような重度の副反応を生じさせる恐れがある。このようなタンパク質溶液中の凝集、断片化などを回避し、それらの安定性を改善するために、多数の処置が最先端で試されてきた。例えば、臨床用途の静脈内IgGは、貯蔵の際の安定性改善のために凍結乾燥(凍結乾燥させた)されていることが多いが、このような配合物は、使用前に希釈剤で再溶解しなくてはならない。再溶解工程は不便で時間がかかり、生成物を汚染させる可能性を増加させる。免疫グロブリンの安定性と貯蔵を改善する当業界周知のその他の方法は、タンパク質を安定化する賦形剤をIgG配合物に添加することである。既知の賦形剤としては、糖類、ポリオール、アミノ酸、アミン、塩、ポリマーおよび界面活性剤が挙げられる。このようなタンパク質製薬における安定化法は、当業界で豊富にある。例えば、米国特許第4,499,073号(Tenold)は、pHとイオン強度の選択により安定化を改善している。JP54020124は、筋肉内用の配合物に貯蔵安定性と安全性を付与するための、筋肉内用の配合物へのアミノ酸の添加を開示している。JP57031623およびJP57128635は、筋肉内用の配合物における長期安定性を達成するための、5〜15%IgG配合物におけるアルギニンおよび/またはリシンとNaClとの併用を開示している。JP56127321は、IgGへの糖アルコールの添加を開示しており、これは、凝集の抑制において従来用いられてきたグルコースより優れて作用する。JP4346934は、低い伝導率(1mmho未満)、pH5.3〜5.7、および、場合により1種またはそれ以上の安定剤(PEG、ヒト血清アルブミンおよびマンニトールなど)の使用を開示している。米国特許第4,439,421号(Hooper)は、ACA(抗補体活性)の生成に対して安定化するための、親水性高分子、ポリオール、およびその他のタンパク質の添加を教示している。米国特許第5,945,098号(Sarno)は、アミノ酸(0.1〜0.3Mグリシン)、および、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート)、およびPEGの添加による、等張溶液の安定化を開示している。米国特許第4,186,192号(Lundblad)は、アミノ酸などの様々な添加剤を開示しているが、個別の特定のアミノ酸の使用については特に記載されていない。この開示には、マルトース、さらに追加の0.1Mまでのグリシンを用いたIgGの安定化が含まれる。米国特許第4,362,661号(Ono)は、5%IgG製品に安定性を付与するための、中性および塩基性アミノ酸の使用を開示している。上述された全ての文書は、酸性ではあるが、5.2を超える比較的高いpHのIgG配合物を開示している。
【0003】
免疫グロブリンの集合体の形成を予防することに加えて、二量体(特にIgGの二量体)の形成は、静脈内で使用するためのIgG配合物にとって有害である可能性があることも認識されている。IgG二量体が、アナフィラキシーショックを引き起こすことはわかっていないが、それにもかかわらず、高い二量体含量を有するIgG配合物は、静脈注射ではあまり容認されておらず、発熱、吐き気、ときには低血圧のような望ましくない副作用を起こす恐れがあることがわかっている。Bleaker等(Vox Sanguinis 52,281〜290,1987年)によれば、ラットモデルで低血圧の副作用が検出されており、これもまた、二量体含量との明らかな相関を示す。IgG配合物が生産直後に凍結乾燥されている場合、二量体の形成はさほど問題ではない。しかしながら、このような配合物が、凍結乾燥されていない液体の形態での貯蔵を目的とする場合、貯蔵時間が経過するにつれて二量体の濃度が増加する。
【0004】
米国特許第5,871,736号(Bruegger等)は、免疫グロブリン配合物、特に、静脈内注入のためのIgGの液状製剤を開示しており、これらは、二量体形成に対して安定化するために、1種またはそれ以上の両親媒性の安定剤を含む。このような両親媒性の安定剤は、ニコチン酸およびその誘導体、特にニコチンアミド、さらに、主として前述のものと併用した、非荷電性、親油性側鎖を有するアミノ酸、例えばフェニルアラニン、メチオニン、ロイシン、イソロイシン、プロリンおよびバリンを含む。この従来技術文献の実験に関する開示では、常にニコチンアミドと併用されたアミノ酸が開示されており、開示された該アミノ酸に関する濃度は、プロリンは200mmol/リットル、グリシンは80mmol/リットル、およびイソロイシンは120mmol/リットルである。
【0005】
米国特許第5,871,736号で開示された配合物のpH範囲は、広く4〜8と示されているが、実際の実施例の開示ではpH5.3と示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の米国特許で、二量体形成がある程度抑制されたIgG配合物が開示されているが、それでもなお、特に周囲温度で、改善された安定化を示すタンパク質配合物、特に免疫グロブリン配合物を提供することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者等は驚くべきことに、液状タンパク質配合物の高度の安定化が、最終的な配合物のpHを4.2〜5.4に調節すること、および安定剤として塩基性または非極性アミノ酸を添加することによって達成できることを発見した。
【0008】
従って、本発明は、安定性が改善されたタンパク質配合物を提供するものであり、本配合物は、非極性アミノ酸および塩基性アミノ酸からなる群より選択された1種またはそれ以上の安定剤を含む。本発明の目的に有用な典型的な非極性アミノ酸および塩基性アミノ酸は、ヒスチジン、アルギニン、リシン、オルニチン(塩基性アミノ酸)、および、イソロイシン、バリン、メチオニン、グリシン、およびプロリン(非極性アミノ酸)である。特に有用なのは、プロリンである。安定剤は、非極性または塩基性アミノ酸の群に属するアミノ酸単独であってもよく、または、このようなアミノ酸の2種またはそれ以上の組み合わせであってもよい。上記アミノ酸は、好ましくは、ニコチンアミドと組み合わせて用いられない。上記アミノ酸の安定剤は、天然アミノ酸、アミノ酸類似体、改変されたアミノ酸、または、アミノ酸の同等物であり得る。好ましくは、L−アミノ酸である。安定剤としてプロリンが用いられる場合、好ましくは、プロリンは、L−プロリンである。プロリンの同等物、例えばプロリン類似体を用いることも可能である。
【0009】
驚くべきことに、他の安定剤(例えばニコチンアミド)を用いることなくアミノ酸だけを添加すること、および最終的な配合物のpHの調節により、上記配合物の安定性は、特に周囲温度で著しく増加することが発見された。増加した安定性は、温度約2℃〜約40℃で、特に周囲温度で、好ましくは約10℃以上、より好ましくは約15℃以上、より好ましくは約20℃以上約30℃以下、最も好ましくは約25℃以下の範囲で、本配合物のより優れた安定性で実証される。また、より高い温度、約30℃〜約40℃で、例えば約37℃の体温における本発明の配合物の増加した安定性も明らかである。好ましくは、この増加した安定性とは、別なように、または、上記に加えて、さらには、改善された貯蔵時間、減少した断片化、減少した集合体形成、減少した二量体形成、または/および、減少した変色と定義される。改善された貯蔵時間とは、本発明の配合物は、少なくとも30日間、好ましくは少なくとも60日間、より好ましくは少なくとも90日間、より好ましくは少なくとも120日間、より好ましくはそれよりさらに長い期間安定であることが好ましいことを意味する。
【0010】
凝集の減少とは、好ましくは、本配合物の集合体のパーセンテージが従来の配合物より低いことを示す(特にIgの場合)ことを意味する。好ましくは、本配合物の二量体の含量は、約12%未満、好ましくは約10%未満、より好ましくは約8%未満である。着色の減少とは、好ましくは、本発明の調合物の光学密度が従来の調合物より約20%〜60%低いことを意味する。
【0011】
一般的に、本発明のタンパク質配合物は、静脈注射に有用な液状調合物である。このような配合物は、液状で保存することができ、液状で安定であるため、凍結乾燥またはその他の処理を必要とせず、容易に用いることができる。
【0012】
好ましくは、本タンパク質配合物は免疫グロブリン配合物、特に抗体配合物であり、ここにおいて、これら抗体はあらゆるイディオタイプのものが可能であるが、好ましくはIgG、IgAまたはIgMである。IgG配合物が特に好ましい。上記免疫グロブリンは、ポリクローナルでもよいし、またはモノクローナルでもよく、これらは、ヒトまたは動物の血液から単離してもよいし、または、他の手段(例えば組換えDNA技術、または、ハイブリドーマ技術)によって生産してもよい。一般的に、免疫グロブリンは、血漿からアルコール分画によって得られるが、クロマトグラフィー、吸着または沈殿などの他の精製技術を併用してもよい。上記免疫グロブリンは、抗補体活性を減少させるために記載の微量の酵素(例えばペプシン)で処理してもよいし、または、それらをそのまま用いてもよい。
【0013】
本配合物は、最終的な配合物のpHが、比較的高いが酸性のpH、すなわち約4.2〜5.4の範囲のpHに調節されることを除いて当業界既知の方法により得ることができる。このpH範囲が、免疫グロブリン配合物の貯蔵特性を改善するのに特に有用であることが発見された。pH範囲は、好ましくは、4.5〜約5.2であり、特に好ましくは約4.6〜5.0のpH範囲であり、さらに好ましくはpH4.8である。
【0014】
本発明に係る配合物を開発する過程で、安定剤の最終濃度を高くすることによって、本配合物の貯蔵特性と安定性に驚くべき改善が可能になることも発見された。それゆえに、安定剤は、最終濃度が少なくとも0.2Mになるように添加される。好ましくは、最終濃度は、0.2M〜0.4M、より好ましくは0.2M〜0.3M、最も好ましくは0.25Mである。
【0015】
本発明は特に、比較的高いタンパク質濃度を有するタンパク質配合物に特に有用である。本発明の最終的な配合物は、約5〜25%w/v、好ましくは約6〜15%w/v、より好ましくは約8〜12%w/v、最も好ましくは約10%w/vのタンパク質濃度を有する。最終的なタンパク質濃度は、様々な要素(例えば投与経路、治療されるべき状態のタイプなど)に依存すると予想される。当業者であれば、目的とする適用に最適なタンパク質濃度を決定することが可能と思われる。例えば、静脈内注入のためには、本発明の最終的な配合物は、約15〜20%w/v、好ましくは約8〜12%w/vのタンパク質濃度を有する。静脈内で使用するためのIgGの場合、10%w/v、すなわち1リットルあたり100gのIgGが特に有用である。皮下投与のためには、より高い用量が、選択される場合もあり、例えば約15〜20%w/vである。
【0016】
本発明はまた、本発明のタンパク質配合物、同様に、製薬上許容できる添加剤を含む医薬組成物を提供する。このような添加剤としては、賦形剤、希釈剤、例えば水、並びに、その他の物質、例えば非緩衝物質、例えば塩化ナトリウム、グリシン、スクロース、マルトースおよびソルビトールが挙げられる。このような医薬組成物は、様々な経路で投与することができる。静脈内投与のための用量は、免疫グロブリンを約0.2g/キログラム体重/日、好ましくは0.5g〜約2.0g/キログラム体重/日で、使用可能である。
【0017】
本発明のさらなる形態は、タンパク質配合物、特に免疫グロブリン配合物を安定化する方法であり、本方法は、タンパク質水溶液を提供すること、並びに塩基性アミノ酸および非極性アミノ酸からなる群より選択された1種またはそれ以上の安定剤を添加すること、を含み、ここにおいて、上記溶液のpHは、約4.2〜5.4のpHに調節される。pHは、好ましくは、上記で示された好ましい範囲内の値に調節され、特に好ましくはpH4.8である。本方法は、好ましくは、タンパク質濃度および安定剤の濃度を調節すること、および、上述したような安定剤を選択することを含み、このような安定剤として、特に好ましくはプロリンである。
【0018】
特に、本方法は、約5〜25%w/vのタンパク質濃度を有するタンパク質水溶液を提供する工程、この溶液のpHを4.2〜5.4に調節する工程、および、この溶液に、安定剤の最終濃度が0.2〜0.4Mになるように上記の群より選択される1種またはそれ以上の安定剤を添加し、安定なタンパク質配合物を得る工程を含む。ヒト血漿またはそれらの分画から免疫グロブリンを単離する多数の方法が既知である。免疫グロブリンは、例えば、冷エタノールでの分画、および/または、オクタン酸での分画、および/または、クロマトグラフィー法によって精製することができる。本発明の目的に特に好ましい精製方法には、エタノール分画、続いてオクタン酸分画、続いて低pH処理、クロマトグラフィー、および、ナノろ過が含まれる。静脈内への適用のための免疫グロブリン(例えば本発明の免疫グロブリン)の生産において、好ましくは、カリクレインまたはプラスミノゲンのような抗補体活性およびプロテアーゼとの免疫複合体を減少させるか、または除去するように特別な配慮をすべきである。本発明のタンパク質配合物で使用され得るタンパク質は、既知の方法(例えば限外ろ過)によって、望ましい濃度(約5〜25%w/v)にされる。液状タンパク質配合物のpHは、4.2〜5.4のpHに調節され、この溶液に、少なくとも約0.2Mの最終濃度で安定剤が添加される。好ましくは、プロリンが安定剤として用いられ、好ましくは、約0.2M〜0.4M、好ましくは約0.25Mの濃度で添加される。
【0019】
ここで、本発明を以下の実施例および添付図によって説明する。
【実施例】
【0020】
実施例1
本発明に係るタンパク質配合物の製造
静脈内Igの製造方法のための出発原料は、キストラー・ニッチマン(Kistler
Nitschmann)のエタノール分画方法の認可された中間体である。これは、19%エタノールをpH5.8で用いた、血漿からの免疫グロブリン分画の沈殿である。
【0021】
高分子量タンパク質、リポタンパク質複合体、および、その他の混合物を、オクタン酸を用いて沈殿させ、次に、ろ過助剤の存在下でろ過により分離した。次に、低いpHでのインキュベート工程で処理する前に、上清を濃縮した。
【0022】
次に、pHをpH6.5に調節し、この材料をさらにろ過によって透明化し、沈殿したIgAとIgMを除去した。次に、米国特許第6,093,324号に従って、IgGを濃縮した溶液をアニオン交換樹脂で最終的に精製した(ただし、ローディングを、樹脂15
0g/リットルにしたことを除く)。
ナノフィルターを用いることによってウイルス除去を達成した。
調合物:ナノろ過液を3%タンパク質まで濃縮し、ダイアフィルター(Diafilter)を用いて、5倍量の水でろ過し、続いて、IgGを120g/リットルに濃縮した。最終的に、この濃縮物を250mMのL−プロリンで安定化し、IgGが100g/リットルになるまで希釈し、pHをpH4.8に維持した。この調合されたバルクを、0.2μmメンブレンフィルターを通過させてろ過した。
【0023】
実施例2:本発明に係るIgG配合物の試験
実施例1に従って、沈殿工程とクロマトグラフィーとの併用によって血漿から精製され、ウイルスが不活性化されたIgG濃縮物を、三部に分けた(260mlはpH4.5に調合し、420mlはpH4.8に調合し、および260mlはpH5.1に調合した)。次に、この調合物を分割した(半分は0.25Mグリシンと共に調合し、残りの半分は0.25Mプロリンと共に調合した)。この最終的なタンパク質濃度は、8%w/vであった。10mlのアリコートを、10mlのI型ガラスバイアル(I型ゴムストッパー)に分配した。
【0024】
このアリコートを3種の異なる温度、2〜8℃、26℃、および45℃で保存した。2〜8℃でのサンプルは、光の存在下で(フィリップス(Phillips)のTLD18W/33)保存した。26℃または45℃のいずれかで、暗所で少なくとも2ヶ月、サンプルをインキュベートした。図1〜4に、結果をに示す。
【0025】
集合体
試験された全ての条件下で、グリシンが調合されたIgGに関する集合体のレベルは、プロリンが調合されたものよりより高かった。
【0026】
45℃でインキュベートすることにより、顕著な集合体形成が促進された。これは、プロリン調合物とグリシン調合物の両方に類似していた。より低いpHだと45℃で集合体形成が促進され、pH4.5だと12.2%(プロリン)と16.7%(グリシン)を含む調合物は90日で凝集した。それに対して、pH5.1の6.3%(プロリン)と8.3%(グリシン)を含む調合物は90日で凝集した。
【0027】
二量体
二量体のレベルは、pH、温度および賦形剤のタイプの影響を受けた。調合物のpHが増加するにつれ、二量体のレベルが増加することが観察されたことから、pHが最も重要な要素であることが証明された。これは、グリシン調合物とプロリン調合物のいずれでも観察された。この結果から、プロリンを含む調合物は、比較のグリシン調合物より低い二量体のレベルを維持することができる、ということが示される。インキュベート温度により、二量体の形成に適したより低い温度で、単量体/二量体の平衡が調節された。
【0028】
単量体および二量体
2〜8℃、および、26℃の全ての調合物に関する単量体/二量体の総含量は、90%超を維持した。グリシンが調合されたIgG溶液では、より低いレベルが観察されたが、これは、それらのより高い集合体含量のためである。45℃でインキュベートしたところ、60日後に90%未満のレベルを有する3種の調合物が得られた(85.1%グリシン、pH4.5、89.1%プロリン、pH4.5、および、89.1%グリシン、pH4.8)。再び、これらの結果から、グリシンよりも、プロリンがIgG分子の分子の完全性を保存する能力を増加させたことが明確になった。
【0029】
IgG断片
この結果から、グリシン調合物は、プロリンと比べるとわずかに低い断片レベルを含むことが示される。インキュベート温度およびpHが、IgG断片化に影響を与える最も重要な要素であることが証明された。45℃で、プロリン調合物の断片レベルは、5.2%(pH5.1)〜5.8%(pH4.5)の範囲であり、一方で、グリシン調合物は、4.3%(pH5.1)〜4.8%(pH4.8)の範囲である。高いpH(4.8〜5.1)では、あまり断片化は起こらなかった。
【0030】
溶液の外観
4種の主要パラメーター(透明度、濁度、粒子、および、目に見える着色)を調査した。様相、透明度および濁度のようなパラメーターは、十分なものであった。インキュベート期間中に溶液の着色(黄色/茶色)が起こり、これは、インキュベート温度と光暴露の両方に関するものであった。IgG調合物の着色を、光学密度試験(UV350〜500nm)を用いてモニターした。色の増加は、光暴露とインキュベート温度の上昇に関連するものであった。グリシン調合物は、対応するプロリン調合物より高い25%〜48%高い光学密度を示した。これらの結果から、プロリンは、IgG溶液においてグリシンより優れた安定剤であるという追加の証拠が示される。高いpH(4.8〜5.1)では、より低いpH(4.5)ほど着色しなかった。
【0031】
実施例3:本発明に係るIgG配合物の安定性(pH依存性)
実施例1に従って、沈殿工程とクロマトグラフィーとの併用によって血漿から精製され、ウイルスが不活性化されたIgG濃縮物を、二部に分け、pH4.2、4.8、5.3および6.8で、400mmol/LのL−プロリンと共に調合するか、または、それらなしで調合した。最終的なタンパク質濃度は、12%w/vであった。10mlのアリコートをガラスバイアルに分配し、暗所で、40℃で少なくとも3ヶ月インキュベートした。0時間、および、90日インキュベートした後、サンプルを、集合体、二量体、単量体IgGに関してはHPLCで、350〜500nmでの吸光度に関しては光度計測法で、SDSPAGE(断片)で、および、B型肝炎ウイルス表面抗原に対して向けられた特異的抗体(抗HBs)で分析した。表1に示す結果から、IgG溶液の最良の安定性は、中度に酸性のpH4.8〜5.3で得られることが示される。
【0032】
【表1】

【0033】
実施例4:様々な添加剤が調合された本発明に係るIgG配合物の安定性
実施例1に従って、沈殿工程とクロマトグラフィーとの併用によって血漿から精製され、ウイルスが不活性化されたIgG濃縮物を、pH4.2、4.8、5.3および6.8で、異なる物質の分類の添加剤(糖類および糖アルコール、アミノ酸、界面活性剤)と共に調合した。最終的なタンパク質濃度は、10%w/vであった。10mlのアリコートをガラスバイアルに分配し、暗所で、37℃または40℃で少なくとも3ヶ月インキュベートした。90日インキュベートした後に、サンプルを、集合体、二量体、単量体IgGおよび断片に関してはHPLCで、350〜500nmでの吸光度に関しては光度計測法で、および、B型肝炎ウイルス表面抗原に対して向けられた特異的抗体(抗HBs)に関してはELISAで分析した。表2に示す結果によれば、IgG溶液の最良の安定性は、中度に酸性のpH4.8または5.3で得られ、最も好ましい調合物はL−プロリンであることが示される。
【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】0.25Mプロリン、または、0.25Mグリシンのいずれかを含む8%IgG溶液のHPLCで測定された集合体の含量を示す。
【図2】0.25Mプロリン、または、0.25Mグリシンのいずれかを含む8%IgG溶液のHPLCで測定された二量体の含量を示す。
【図3】0.25Mプロリン、または、0.25Mグリシンのいずれかを含む8%IgG溶液のSDSPAGEで測定された断片含量を示す。
【図4】0.25Mプロリン、または、0.25Mグリシンを含む2種のIgG溶液の光学密度(UV350〜500nm)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非極性アミノ酸および塩基性アミノ酸からなる群より選択される1種またはそれ以上の安定剤を含み、4.2〜5.4のpHを有する、安定なタンパク質配合物。
【請求項2】
1種またはそれ以上の安定剤は、ヒスチジン、アルギニン、リシン、オルニチン、イソロイシン、バリン、メチオニン、グリシン、およびプロリンからなる群より選択される、請求項1に記載の配合物。
【請求項3】
安定剤はプロリンである、請求項1または2に記載の配合物。
【請求項4】
プロリンはL−プロリンである、請求項3に記載の配合物。
【請求項5】
4.5〜5.2のpHを有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の配合物。
【請求項6】
4.6〜5.0のpHを有する、請求項5に記載の配合物。
【請求項7】
安定剤は、少なくとも0.2Mの最終濃度で含まれる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の配合物。
【請求項8】
安定剤は、0.2〜0.4Mの最終濃度で含まれる、請求項7に記載の配合物。
【請求項9】
安定剤は、0.25Mの最終濃度で含まれる、請求項8に記載の配合物。
【請求項10】
タンパク質の濃度は、5〜25%w/vである、請求項1〜9のいずれか一項に記載の配合物。
【請求項11】
タンパク質濃度は、皮下投与のためには、15〜20%w/vである、請求項10に記載の配合物。
【請求項12】
タンパク質濃度は、静脈内投与のためには、6〜15%w/vである、請求項10に記載の配合物。
【請求項13】
タンパク質濃度は、8〜12%w/vである、請求項12に記載の配合物。
【請求項14】
免疫グロブリン配合物である、請求項1〜13のいずれか一項に記載の配合物。
【請求項15】
IgG、IgAまたはIgM配合物である、請求項1〜14のいずれか一項に記載の配合物。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか一項に記載のタンパク質配合物、および製薬上許容できる添加剤を含む、医薬組成物。
【請求項17】
請求項11〜15のいずれか一項に記載の免疫グロブリン配合物は、免疫グロブリンを0.2〜2.0g/kg体重/日の用量で含む、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
タンパク質配合物(特に免疫グロブリン配合物)を安定化する方法であって、タンパク質水溶液を提供すること、並びに塩基性アミノ酸および非極性アミノ酸からなる群より選択される1種またはそれ以上の安定剤を添加することを含み、ここにおいて、上記溶液のpHは、pH約4.2〜5.4に調節される、上記方法。
【請求項19】
安定剤は、ヒスチジン、アルギニン、リシン、オルニチン、イソロイシン、バリン、メチオニン、およびプロリンからなる群より選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
pHは4.8に調節される、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
安定剤の最終濃度は、0.2〜0.4Mに調節される、請求項18〜20のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−511566(P2007−511566A)
【公表日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−540301(P2006−540301)
【出願日】平成16年11月17日(2004.11.17)
【国際出願番号】PCT/EP2004/013022
【国際公開番号】WO2005/049078
【国際公開日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【出願人】(501091604)ツェットエルベー ベーリング アクチエンゲゼルシャフト (3)
【氏名又は名称原語表記】ZLB Behring AG
【住所又は居所原語表記】Wankdorfstrasse 10,3014 Bern,Switzerland
【Fターム(参考)】