完全長抗体と単鎖Fabフラグメントとを含む多重特異的抗体
本発明は、完全長抗体と単鎖Fabフラグメントとを含む、多重特異的、特に二重特異的抗体、その産生のための方法、前記抗体を含む薬学的組成物、並びにその使用に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、完全長抗体と単鎖Fabフラグメントとを含む、多重特異的、特に二重特異的抗体、その産生のための方法、前記抗体を含む薬学的組成物、並びにその使用に関する。
【0002】
発明の背景
最近、例えばIgG抗体フォーマットと単鎖ドメインとの融合による4価の二重特異的抗体などの、多種多様な多重特異的組換え抗体フォーマットが開発されている(例えば、Coloma, M.J., et al., Nature Biotech 15 (1997) 159-163; WO 2001/077342;およびMorrison, S.L., Nature Biotech 25 (2007) 1233-1234を参照されたい)。
【0003】
また、2つ以上の抗原に結合することのできる、ダイアボディ、トリアボディまたはテトラボディ、ミニボディ、いくつかの単鎖フォーマット(scFv、Bis−scFv)などの、抗体コア構造(IgA、IgD、IgE、IgGまたはIgM)がもはや保持されていないいくつかの他の新たなフォーマットも開発されている(Holliger, P., et al., Nature Biotech 23 (2005) 1126-1136; Fischer, N., Leger, O., Pathobiology 74 (2007) 3-14; Shen, J., et al., Journal of Immunological Methods 318 (2007) 65-74; Wu, C., et al., Nature Biotech. 25 (2007) 1290-1297)。
【0004】
全てのこのようなフォーマットは、抗体コア(IgA、IgD、IgE、IgGもしくはIgM)をさらなる結合タンパク質(例えばscFv)に融合させるため、または例えば2つのFabフラグメントもしくはscFvsを融合するためのいずれかのために、リンカーを使用する(Fischer, N., Leger, O., Pathobiology 74 (2007) 3-14)。天然に存在する抗体に対する高度の類似性を維持することによって、Fcレセプター結合を通して媒介される、例えば補体依存性細胞障害作用(CDC)または抗体依存性細胞介在性細胞障害作用(ADCC)などのエフェクター機能を保持したいと思うかもしれないことを心に留めておかなければならない。
【0005】
WO2007/024715において、操作された多価および多重特異的結合タンパク質などの二重可変ドメイン免疫グロブリンが報告されている。生物学的に活性な抗体二量体の調製のための過程は、US6,897,044に報告されている。ペプチドリンカーを介して互いに連結された少なくとも4つの可変ドメインを有する多価Fv抗体構築物が、US7,129,330に報告されている。二量体および多量体抗原結合構造がUS2005/0079170に報告されている。接続構造によって互いに共有結合した3つまたは4つのFabフラグメントを含む3価または4価の単一特異的な抗原結合タンパク質(このタンパク質は天然の免疫グロブリンではない)が、US6,511,663に報告されている。WO2006/020258において、原核細胞および真核細胞において効率的に発現され得、そして、治療法および診断法において有用である、4価の二重特異的な抗体が報告されている。2種類のポリペプチド二量体を含む混合物からの、少なくとも1つの鎖間ジスルフィド結合を介して連結されていない二量体から、少なくとも1つの鎖間ジスルフィド結合を介して連結されている二量体を分離または優先的に合成する方法が、US2005/0163782に報告されている。二重特異的な4価のレセプターが、US5,959,083に報告されている。3つ以上の機能的抗原結合部位を有する工学操作された抗体が、WO2001/077342に報告されている。
【0006】
多重特異的および多価の抗原結合ポリペプチドが、WO1997/001580に報告されている。WO1992/004053は、同じ抗原性決定基に結合するIgGクラスのモノクローナル抗体から典型的には調製されたホモコンジュゲートが、合成的な架橋によって共有結合的に連結されていることを報告する。抗原に対する高い結合力を有するオリゴマー性モノクローナル抗体がWO1991/06305に報告されており、それによると、一緒に会合して4価または6価のIgG分子を形成している2つ以上の免疫グロブリンモノマーを有する典型的にはIgGクラスのオリゴマーが分泌される。ヒツジ由来抗体および工学操作された抗体構築物がUS6,350,860に報告され、これはインターフェロンγ活性が病原性である疾病を処置するために使用することができる。US2005/0100543においては二重特異的抗体の多価保有体である標的可能な構築物が報告されており、すなわち、標的可能な構築物の各分子は、2つ以上の二重特異的抗体の保有体として作用することができる。遺伝子工学操作された二重特異的4価抗体がWO1995/009917に報告されている。WO2007/109245において、安定化されたscFvからなるまたは含む安定化された結合分子が報告されている。
【0007】
Mueller, D., et al., Handbook of Therapeutic antibodies, Part III, Chapter 2, (2008) 345-378は、二重特異的抗体、例えば、2つのscFvフラグメントが重鎖のC末端においてペプチドリンカーを介して融合している完全長の抗体を言及している(また、WO1995/009917も参照)。Hust, M., et al., BMC Biotechnology (2007) 7は、単鎖Fab(scFab)フラグメントを言及している。
【0008】
しかしながら、多重特異的抗体の種々の問題および局面の観点から(例えば薬物動態特性および生物学的特性、安定性、凝集、発現収量)、さらに他の代替的な多重特異的抗体フォーマットが必要である。WO 1995/009917およびMueller D., et al., Handbook of Therapeutic antibodies, Part III, Chapter 2, (2008) 345-378に報告された特に遺伝子工学操作された二重特異的4価抗体は、非常に低い発現収量しか示さなかった。
【0009】
発明の要約
本発明の第1の局面は、
a)第1抗原に特異的に結合し、そして2つの抗体重鎖および2つの抗体軽鎖からなる、完全長の抗体;並びに
b)1〜4つのさらなる抗原に特異的に結合する(好ましくは1つのさらなる抗原に特異的に結合する)1つ以上の単鎖Fabフラグメント
(ここで、b)の下の前記の単鎖Fabフラグメントは、前記の完全長抗体の重鎖または軽鎖のC末端またはN末端においてペプチドコネクターを介してa)の下の前記の完全長抗体に融合している)
を含む、多重特異的抗体である。
【0010】
本発明の好ましい局面は、
a)第1抗原に特異的に結合し、そして2つの抗体重鎖および2つの抗体軽鎖からなる、完全長の抗体;並びに
b)1〜4つのさらなる抗原に特異的に結合する(好ましくは1つのさらなる抗原に特異的に結合する)1〜4つの単鎖Fabフラグメント
(ここで、b)の下の前記の単鎖Fabフラグメントは、前記の完全長抗体の重鎖または軽鎖のC末端またはN末端においてペプチドコネクターを介してa)の下の前記の完全長抗体に融合している)
を含む、多重特異的抗体である。
【0011】
好ましくは、前記の多重特異的抗体は、第2抗原に結合する1つまたは2つの単鎖Fabフラグメントを含む(二重特異的抗体)。
【0012】
好ましくは、前記の多重特異的抗体は、第2抗原に結合する2つの単鎖Fabフラグメントを含む(二重特異的抗体)。
【0013】
好ましくは、前記の多重特異的抗体は、第2抗原および第3抗原に結合する2つの単鎖Fabフラグメントを含む(三重特異的抗体)。
【0014】
本発明のさらなる局面は前記の多重特異的抗体の鎖をコードする核酸分子であり、単鎖Fabフラグメントが、前記の完全長抗体の重鎖または軽鎖のC末端またはN末端に融合している。
【0015】
本発明のまたさらなる局面は、前記の多重特異的抗体を含む薬学的組成物である。
【0016】
本発明による多重特異的抗体は、例えば2つのscFvフラグメントが重鎖のC末端においてペプチドリンカーを介して融合している完全長抗体と比較した場合、高い安定性、低い凝集傾向(例えば実施例2参照)などの価値ある特性を示した(WO 1995/009917またはMueller, D., et al., Handbook of Therapeutic antibodies, Part III, Chapter 2, (2008) 345-378を参照されたい)。本発明による多重特異的抗体は一方で、種々の抗原へのその結合に因る新たな特性を示し、そして他方で、その良好な安定性、低い凝集特性および価値ある薬物動態特性および生物学的特性に因り生産および医薬品製剤化にとって適している。そのIgコアおよび哺乳動物発現系において産生できることに因り、それらは依然としてADCCおよびCDCのような天然抗体の特性を保持する。
【0017】
本発明の詳細な説明
本発明の第1の局面は、
a)第1抗原に特異的に結合し、そして2つの抗体重鎖および2つの抗体軽鎖からなる、完全長抗体;並びに
b)1〜4つのさらなる抗原に特異的に結合する(好ましくは1つのさらなる抗原に特異的に結合する)1つ以上の単鎖Fabフラグメント
(ここで、b)の下の前記の単鎖Fabフラグメントは、前記の完全長抗体の重鎖または軽鎖のC末端またはN末端においてペプチドコネクターを介してa)の下の前記の完全長抗体に融合している)
を含む、多重特異的抗体である。
【0018】
本発明の好ましい局面は、
a)第1抗原に特異的に結合し、そして2つの抗体重鎖および2つの抗体軽鎖からなる、完全長抗体;並びに
b)1〜4つのさらなる抗原に特異的に結合する(好ましくは1つのさらなる抗原に特異的に結合する)1〜4つの単鎖Fabフラグメント
(ここで、b)の下の前記の単鎖Fabフラグメントは、前記の完全長抗体の重鎖または軽鎖のC末端またはN末端においてペプチドコネクターを介してa)の下の前記の完全長抗体に融合している)
を含む、多重特異的抗体である。
【0019】
1つの態様において、第2抗原に結合する1つまたは2つの同一の単鎖Fabフラグメントを、前記の完全長抗体の重鎖または軽鎖のC末端においてペプチドコネクターを介して前記の完全長抗体に融合する。
【0020】
1つの態様において、第2抗原に結合する1つまたは2つの同一の単鎖Fabフラグメントを、前記の完全長抗体の重鎖のC末端においてペプチドコネクターを介して前記の完全長抗体に融合する。
【0021】
1つの態様において、第2抗原に結合する1つまたは2つの同一の単鎖Fabフラグメントを、前記の完全長抗体の軽鎖のC末端においてペプチドコネクターを介して前記の完全長抗体に融合する。
【0022】
1つの態様において、第2抗原に結合する2つの同一の単鎖Fabフラグメントを、前記の完全長抗体の各重鎖または軽鎖のC末端においてペプチドコネクターを介して前記の完全長抗体に融合する。
【0023】
1つの態様において、第2抗原に結合する2つの同一の単鎖Fabフラグメントを、前記の完全長抗体の各重鎖のC末端においてペプチドコネクターを介して前記の完全長抗体に融合する。
【0024】
1つの態様において、第2抗原に結合する2つの同一の単鎖Fabフラグメントを、前記の完全長抗体の各軽鎖のC末端においてペプチドコネクターを介して前記の完全長抗体に融合する。
【0025】
「完全長抗体」という用語は、2つの「完全長抗体重鎖」および2つの「完全長抗体軽鎖」からなる抗体を示す(図1参照)。「完全長抗体重鎖」は、N末端からC末端の方向に、抗体重鎖可変ドメイン(VH)、抗体重鎖定常ドメイン1(CH1)、抗体ヒンジ領域(HR)、抗体重鎖定常ドメイン2(CH2)、および抗体重鎖定常ドメイン3(CH3)(VH−CH1−HR−CH2−CH3と略称される);並びに場合により、サブクラスIgEの抗体の場合には抗体重鎖定常ドメイン4(CH4)からなるポリペプチドである。好ましくは、「完全長抗体重鎖」は、N末端からC末端の方向に、VH、CH1、HR、CH2およびCH3からなるポリペプチドである。「完全長抗体軽鎖」は、N末端からC末端の方向に、抗体軽鎖可変ドメイン(VL)および抗体軽鎖定常ドメイン(CL)からなるポリペプチド(VL−CLと略称される)である。抗体軽鎖定常ドメイン(CL)はκ(カッパ)またはλ(ラムダ)であり得る。2つの完全長抗体鎖は、CLドメインとCH1ドメインとの間、および完全長抗体重鎖のヒンジ領域間がポリペプチド間ジスルフィド結合を介して一緒に連結されている。典型的な完全長抗体の例は、IgG(例えばIgG1およびIgG2)、IgM、IgA、IgDおよびIgEのような天然抗体である。本発明による完全長抗体は、単一の種、例えばヒトに由来し得るか、あるいはそれらはキメラ化またはヒト化抗体であってもよい。本発明による完全長抗体は、各々がVHとVLの対によって形成され、両方共に同じ抗原に特異的に結合する、2つの抗原結合部位を含む。前記の完全長抗体の重鎖または軽鎖のC末端は、前記の重鎖または軽鎖のC末端における最後のアミノ酸を示す。前記の完全長抗体の重鎖または軽鎖のN末端は、前記の重鎖または軽鎖のN末端における最後のアミノ酸を示す。
【0026】
「単鎖Fabフラグメント」(図2参照)は、抗体重鎖可変ドメイン(VH)、抗体定常ドメイン1(CH1)、抗体軽鎖可変ドメイン(VL)、抗体軽鎖定常ドメイン(CL)およびリンカーからなるポリペプチドであり、前記抗体ドメインおよび前記リンカーは、N末端からC末端の方向に以下の順序の1つを有し:a)VH−CH1−リンカー−VL−CL、b)VL−CL−リンカー−VH−CH1、c)VH−CL−リンカー−VL−CH1、またはd)VL−CH1−リンカー−VH−CL;そして、前記リンカーは、少なくとも30アミノ酸、好ましくは32〜50アミノ酸のポリペプチドである。前記の単鎖Fabフラグメントa)VH−CH1−リンカー−VL−CL、b)VL−CL−リンカー−VH−CH1、c)VH−CL−リンカー−VL−CH1およびd)VL−CH1−リンカー−VH−CLは、CLドメインとCH1ドメインとの間の天然のジスルフィド結合を介して安定化される。「N末端」という用語は、N末端の最後のアミノ酸を示し、「C末端」という用語はC末端の最後のアミノ酸を示す。
【0027】
好ましい態様において、前記の単鎖Fabフラグメント中の前記抗体ドメインおよび前記リンカーは、N末端からC末端の方向に以下の順序の1つを有する:
a)VH−CH1−リンカー−VL−CL、またはb)VL−CL−リンカー−VH−CH1、より好ましくはVL−CL−リンカー−VH−CH1。
【0028】
別の好ましい態様において、前記の単鎖Fabフラグメント中の前記抗体ドメインおよび前記リンカーは、N末端からC末端の方向に以下の順序の1つを有する:
a)VH−CL−リンカー−VL−CH1またはb)VL−CH1−リンカー−VH−CL。
【0029】
場合により前記の単鎖Fabフラグメントにおいて、CLドメインとCH1ドメインとの間の天然ジスルフィド結合に加えて、抗体重鎖可変ドメイン(VH)および抗体軽鎖可変ドメイン(VL)も、以下の位置の間でのジスルフィド結合の導入によってジスルフィド安定化されている:
i)重鎖可変ドメイン44位から軽鎖可変ドメイン100位、
ii)重鎖可変ドメイン105位から軽鎖可変ドメイン43位、または
iii)重鎖可変ドメイン101位から軽鎖可変ドメイン100位(ナンバリングは常にKabatのEUインデックスによる)。
【0030】
単鎖Fabフラグメントのこのようなさらなるジスルフィド安定化は、単鎖Fabフラグメントの可変ドメインVHとVLとの間のジスルフィド結合の導入によって達成される。単鎖Fvの安定化のための非天然ジスルフィド橋を導入するための技術は、例えば、WO 94/029350, Rajagopal, V., et al., Prot. Engin. 10 (1997) 1453-59; Kobayashi, H., et al., Nuclear Medicine & Biology, Vol. 25 (1998) 387-393;またはSchmidt, M., et al., Oncogene 18 (1999) 1711-1721に記載されている。1つの態様において、本発明による抗体に含まれる単鎖Fabフラグメントの可変ドメイン間の任意のジスルフィド結合は、重鎖可変ドメイン44位と軽鎖可変ドメイン100位との間にある。1つの態様において、本発明による抗体に含まれる単鎖Fabフラグメントの可変ドメイン間の任意のジスルフィド結合は、重鎖可変ドメイン105位と軽鎖可変ドメイン43位との間にある(ナンバリングは常にKabatのEUインデックスによる)。
【0031】
1つの態様において、単鎖Fabフラグメントの可変ドメインVHとVLとの間に前記の任意のジスルフィド安定化を含まない単鎖Fabフラグメントが好ましい。
【0032】
本発明内において使用する「ペプチドコネクター」という用語は、好ましくは合成起源であるアミノ酸配列を有するペプチドを示す。本発明によるこれらのペプチドコネクターは、単鎖Fabフラグメントを、完全長抗体のC末端またはN末端に融合させて、本発明による多重特異的抗体を形成するために使用される。好ましくは、b)の下での前記ペプチドコネクターは、少なくとも5アミノ酸の長さ、好ましくは5〜100の長さ、より好ましくは10〜50アミノ酸の長さを有するアミノ酸配列を有するペプチドである。1つの態様において、前記ペプチドコネクターは(GxS)nまたは(GxS)nGmであり、ただし、G=グリシン、S=セリン、および(x=3、n=3、4、5または6、およびm=0、1、2または3)または(x=4、n=2、3、4または5、およびm=0、1、2または3)、好ましくはx=4、n=2または3、より好ましくはx=4、n=2である。1つの態様において、前記ペプチドコネクターは(G4S)2である。
【0033】
本発明内において使用する「リンカー」という用語は、好ましくは合成起源であるアミノ酸配列を有するペプチドを示す。本発明によるこれらのペプチドは、a)VH−CH1をVL−CLに、b)VL−CLをVH−CH1に、c)VH−CLをVL−CH1に、またはd)VL−CH1をVH−CLに連結させて、本発明による以下の単鎖Fabフラグメントa)VH−CH1−リンカー−VL−CL、b)VL−CL−リンカー−VH−CH1、c)VH−CL−リンカー−VL−CH1、またはd)VL−CH1−リンカー−VH−CLを形成するために使用される。単鎖Fabフラグメント内の前記リンカーは、少なくとも30アミノ酸の長さ、好ましくは32〜50アミノ酸の長さを有するアミノ酸配列を有するペプチドである。1つの態様において、前記リンカーは(GxS)nであり、ただし、G=グリシン、S=セリン、(x=3、n=8、9または10、およびm=0、1、2または3)または(x=4、およびn=6、7または8、およびm=0、1、2または3)、好ましくはx=4、n=6または7、およびm=0、1、2または3、より好ましくはx=4、n=7、およびm=2である。1つの態様において、前記リンカーは(G4S)6G2である。
【0034】
前記の完全長抗体の重鎖または軽鎖の各C末端またはN末端に、b)の下の単鎖Fabフラグメントの唯1つだけを、同時に融合させることができる。このように8つまでの単鎖Fabフラグメントを前記の完全長抗体に融合させることができる。好ましくは、本発明による多重特異的抗体は、1〜4つの単鎖Fabフラグメントを含む。より好ましくは、本発明による多重特異的抗体は、2つの同一な単鎖Fabフラグメント(好ましくはVL−CL−リンカー−VH−CH1)を含み、この両方共が、a)の下の前記の完全長抗体の2つの重鎖の2つのC末端または2つの軽鎖の2つのC末端に融合している。このような融合により、2つの同一な融合ペプチド(i)重鎖および単鎖Fabフラグメント、またはii)軽鎖および単鎖Fabフラグメントのいずれか)が得られ、これはi)完全長抗体の軽鎖または重鎖のいずれかと同時発現され、これにより本発明による多重特異的抗体が得られる(図3、4および5参照)。
【0035】
別の好ましい態様において、本発明による多重特異的抗体は、2つの同一な単鎖Fabフラグメント(好ましくはVH−CH1−リンカー−VL−CL)を含み、この両方共が、a)の下の前記の完全長抗体の2つの重鎖の2つのN末端または2つの軽鎖の2つのN末端に融合している。このような融合により、2つの同一な融合ペプチド(i)重鎖および単鎖Fabフラグメント、またはii)軽鎖および単鎖Fabフラグメントのいずれか)が得られ、これはi)完全長抗体の軽鎖または重鎖のいずれかと同時発現され、これにより本発明による多重特異的抗体が得られる。
【0036】
本発明による多重特異的抗体の両方の部分が、抗原結合部位を含む(本発明による完全長抗体は、2つの抗原結合部位を含み、そして各単鎖Fabフラグメントは1つの抗原結合部位を含む)。本明細書において使用する「結合部位」または「抗原結合部位」という用語は、それぞれの抗原が実際に特異的に結合する本発明による前記の多重特異的抗体の領域(群)を示す。完全長抗体または単鎖Fabフラグメントのいずれかにおける抗原結合部位は各々、抗体軽鎖可変ドメイン(VL)および抗体重鎖可変ドメイン(VH)からなる対によって形成される。
【0037】
所望の抗原(例えばEGFR)に特異的に結合する抗原結合部位は、抗原に対する公知の抗体(例えば抗EGFR抗体)に由来し得るか、あるいはとりわけ抗原タンパク質もしくは核酸もしくはそのフラグメントのいずれかを使用した新規免疫化法によって、またはファージディスプレイによって得られた新たな抗体または抗体フラグメントに由来し得る。
【0038】
本発明の抗体の抗原結合部位は、抗原に対する結合部位の親和性に種々の程度で寄与する、6つの相補性決定領域(CDR)を含む。3つの重鎖可変ドメインCDR(CDRH1、CDRH2およびCDRH3)および3つの軽鎖可変ドメインCDR(CDRL1、CDRL2およびCDRL3)がある。CDRおよびフレームワーク領域(FR)の範囲は、そのような領域が配列間の違いによって定義された、編纂されたアミノ酸配列データベースとの比較によって決定される。
【0039】
抗体の特異性は、抗原の特定のエピトープに対する抗体の選択的認識を指す。例えば天然抗体は単一特異的である。本明細書において使用する「多重特異的」抗体という用語は、2つ以上の抗原結合部位を有し、その抗原結合部位の少なくとも2つが異なる抗原または同じ抗原の異なるエピトープに結合する、抗体を示す。本発明による「二重特異的抗体」は、2つの異なる抗原結合特異性を有する抗体である。本発明の抗体は、例えば、少なくとも2つの異なる抗原に対して、すなわち第1抗原としてのEGFRおよび第2抗原としてのIGF−1Rに対して多重特異的である。本発明の1つの態様において、本発明による多重特異的抗体は二重特異的である。本発明の別の態様において、本発明による多重特異的抗体は三重特異的である。
【0040】
本明細書において使用する「単一特異的」抗体という用語は、1つ以上の結合部位を有し、その結合部位の各々が、同じ抗原の同じエピトープに結合する、抗体を示す。
【0041】
本出願内において使用する「価」という用語は、抗体分子中における明記した数の結合部位の存在を示す。例えば天然抗体または本発明による完全長抗体は2つの結合部位を有し、そして2価である。従って、「3価」、「4価」、「5価」および「6価」という用語は、抗体分子における、それぞれ、2つの結合部位、3つの結合部位、4つの結合部位、5つの結合部位および6つの結合部位の存在を示す。本発明による多重特異的抗体は少なくとも「3価」である。好ましくはそれらは「3価」、「4価」、「5価」または「6価」であり、より好ましくはそれらは「3価」または「4価」である。
【0042】
本発明の抗体は3つ以上の結合部位を有し、そして多重特異的、好ましくは二重特異的または三重特異的である。本発明による多重特異的抗体は、3つを超える結合部位が存在する場合でさえも二重特異的である場合もある(すなわち、抗体は4価、5価または6価または多価である)。2つを超える抗原結合部位を有する抗体については、タンパク質が2つの異なる抗原に対する結合部位を有している限り、いくつかの結合部位は同一であり得る。
【0043】
本発明の別の態様は、
a)第1抗原に特異的に結合し、そして
aa)N末端からC末端の方向に、抗体重鎖可変ドメイン(VH)、抗体重鎖定常ドメイン1(CH1)、抗体ヒンジ領域(HR)、抗体重鎖定常ドメイン2(CH2)、および抗体重鎖定常ドメイン3(CH3)からなる、2つの同一の抗体重鎖;および
ab)N末端からC末端の方向に、抗体軽鎖可変ドメイン(VL)および抗体軽鎖定常ドメイン(CL)(CL−CL)からなる、2つの同一な抗体軽鎖
からなる、完全長抗体;並びに
b)1〜4つのさらなる抗原に特異的に結合する(好ましくは1つのさらなる抗原に特異的に結合する)1〜4つの単鎖Fabフラグメント
(ここで、単鎖Fabフラグメントは、抗体重鎖可変ドメイン(VH)および抗体定常ドメイン1(CH1)、抗体軽鎖可変ドメイン(VL)、抗体軽鎖定常ドメイン(CL)およびリンカーからなり、そして前記抗体ドメインおよび前記リンカーは、N末端からC末端の方向に以下の順序の1つを有する:
ba)VH−CH1−リンカー−VL−CL、bb)VL−CL−リンカー−VH−CH1、bc)VH−CL−リンカー−VL−CH1、またはbd)VL−CH1−リンカー−VH−CL(ここで、前記リンカーは、少なくとも30アミノ酸、好ましくは32〜50アミノ酸のペプチドである))
(ここで、b)の下の前記の単鎖Fabフラグメントは、前記の完全長抗体の重鎖または軽鎖のC末端またはN末端においてペプチドコネクターを介してa)の下の前記の完全長抗体に融合し、
前記ペプチドコネクターは少なくとも5アミノ酸、好ましくは10〜50アミノ酸のペプチドである)
を含む多重特異的抗体である。
【0044】
この態様内において、第2抗原に特異的に結合する、好ましくは1つまたは2つ、より好ましくは2つの単鎖Fabフラグメントba)VH−CH1−リンカー−VL−CLまたはbb)VL−CL−リンカー−VH−CH1、好ましくはbb)VL−CL−リンカー−VH−CH1が、前記の完全長抗体の重鎖のC末端においてペプチドコネクターを介して前記の完全長抗体に融合し、そして単鎖Fabフラグメントはジスルフィド安定化されていない。
【0045】
本発明の1つの態様は、第2抗原に結合する1つまたは2つの単鎖Fabフラグメントが、前記の完全長抗体の重鎖のC末端においてペプチドコネクターを介して前記の完全長抗体に融合している(二重特異的抗体)、本発明による多重特異的抗体である。
【0046】
好ましくは、本発明による多重特異的抗体は、第2抗原に結合する2つの同一の単鎖Fabフラグメントを含み、これは両方共が重鎖に融合しているか、または両方共が軽鎖C末端もしくはN末端に融合しているかのいずれかである(二重特異的抗体)。
【0047】
本発明の1つの態様は、第2抗原に結合する、2つの同一な単鎖FabフラグメントVL−CL−リンカー−VH−CH1またはVH−CH1−リンカー−VL−CL、好ましくはVL−CL−リンカー−VH−CH1が、そのN末端で、前記の完全長抗体の2つの重鎖の2つのC末端または2つの軽鎖の2つのC末端においてペプチドコネクターを介して前記の完全長抗体に融合している(4価の二重特異的抗体)、本発明による多重特異的抗体である。好ましい態様において、本発明による前記の多重特異的抗体(好ましくは前記の4価の二重特異的抗体)は、完全長IgGおよび前記したような本発明による2つの同一な単鎖Fabフラグメントを含み、そしてヒトIGF−1R並びにヒトEGFRに特異的に結合する。これらの分子は、好ましくは、ヒト抗IGF−1R抗体<IGF−1R>HUMABクローン18(DSM ACC 2587; WO 2005/005635、<IGF−1R>クローン18または<IGF−1R>AK18と略称される)およびヒト化<EGFR>ICR62(WO 2006/082515、<EGFR>ICR62と略称される)の抗原結合部位に基づく。これらの分子は、腫瘍細胞上の2つのレセプターチロシンキナーゼの作用を同時にターゲティングしそして干渉する。この二重活性は、これらの一方のレセプターのみを干渉する抗体と比較して、顕著に改善された抗腫瘍活性を引き起こす。このような分子の設計、組成、生成および特徴付けを実施例1〜6に示す。
【0048】
従って1つの態様において、本発明によるこのような多重特異的抗体は、
i)前記の完全長抗体が、IGF1Rに特異的に結合し、そして重鎖可変ドメイン中に配列番号1のCDR3領域、配列番号2のCDR2領域、および配列番号3のCDR1領域、そして軽鎖可変ドメイン中に配列番号4のCDR3領域、配列番号5のCDR2領域、および配列番号6のCDR1領域を含み;そして
ii)前記の単鎖FabフラグメントがEGFRに特異的に結合し、そして重鎖可変ドメイン中に配列番号9のCDR3領域、配列番号10のCDR2領域、および配列番号11のCDR1領域、そして軽鎖可変ドメイン中に配列番号12のCDR3領域、配列番号13のCDR2領域、および配列番号14のCDR1領域を含む
ことを特徴とする。
【0049】
1つの態様において、本発明によるこのような多重特異的抗体は、
i)前記の完全長抗体が、IGF−1Rに特異的に結合し、そして重鎖可変ドメインとして配列番号7、および軽鎖可変ドメインとして配列番号8を含み、そして
ii)前記の単鎖FabフラグメントがEGFRに特異的に結合し、そして重鎖可変ドメインとして配列番号15、および軽鎖可変ドメインとして配列番号16を含む
ことを特徴とする。
【0050】
1つの態様において、本発明によるこのような多重特異的抗体は、
i)前記の完全長抗体が、EGFRに特異的に結合し、そして重鎖可変ドメイン中に配列番号9のCDR3領域、配列番号10のCDR2領域、および配列番号11のCDR1領域、そして軽鎖可変ドメイン中に配列番号12のCDR3領域、配列番号13のCDR2領域、および配列番号14のCDR1領域を含み;そして
ii)前記の単鎖FabフラグメントがIGF−1Rに特異的に結合し、そして重鎖可変ドメイン中に配列番号1のCDR3領域、配列番号2のCDR2領域、および配列番号3のCDR1領域、そして軽鎖可変ドメイン中に配列番号4のCDR3領域、配列番号5のCDR2領域、および配列番号6のCDR1領域を含む
ことを特徴とする。
【0051】
1つの態様において、本発明によるこのような多重特異的抗体は、
i)前記の完全長抗体が、EGFRに特異的に結合し、そして重鎖可変ドメインとして配列番号15、および軽鎖可変ドメインとして配列番号16を含み、そして
ii)前記の単鎖FabフラグメントがIGF1Rに特異的に結合し、そして重鎖可変ドメインとして配列番号7、および軽鎖可変ドメインとして配列番号8を含む
ことを特徴とする。
【0052】
本発明の1つの態様は、第2抗原に結合する、2つの同一な単鎖FabフラグメントVL−CL−リンカー−VH−CH1またはVH−CH1−リンカー−VL−CL、好ましくはVL−CL−リンカー−VH−CL1が、そのC末端で、前記の完全長抗体の2つの重鎖の2つのN末端または2つの軽鎖の2つのN末端においてペプチドコネクターを介して前記の完全長抗体に融合している、本発明による多重特異的抗体である。
【0053】
本発明の1つの態様は、第2抗原に結合する1つの単鎖Fabフラグメントが、前記の完全長抗体の1つの重鎖または1つの軽鎖のC末端またはN末端においてペプチドコネクターを介して前記の完全長抗体に融合している、本発明による多重特異的抗体である。本発明の1つの態様は、第2抗原に結合する1つの単鎖Fabフラグメントが、前記の完全長抗体の1つの重鎖または1つの軽鎖のN末端においてペプチドコネクターを介して前記の完全長抗体に融合している、本発明による多重特異的抗体である。本発明の1つの態様は、第2抗原に結合する1つの単鎖Fabフラグメントが、前記の完全長抗体の1つの重鎖または1つの軽鎖のC末端においてペプチドコネクターを介して前記の完全長抗体に融合している、本発明による多重特異的抗体である(例えば図6参照)。
【0054】
好ましくは、本発明による多重特異的抗体は、第2抗原および第3抗原に結合する2つの単鎖Fabフラグメントを含む(三重特異的抗体)(例えば図7参照)。
【0055】
本発明の別の局面において、本発明による多重特異的抗体は、
a)2つの同一な抗体重鎖VH−CH1−HR−CH2−CH3および2つの同一な抗体軽鎖VL−CLからなる、第1抗原に結合する、完全長抗体;並びに
b)1〜4つのさらなる抗原に結合する、1〜4つの単鎖Fabフラグメントba)VH−CH1−リンカー−VL−CLまたはbb)VL−CL−リンカー−VH−CH1
を含み、前記の単鎖Fabフラグメントは、前記の完全長抗体の重鎖および軽鎖のC末端またはN末端においてペプチドコネクターを介して前記の完全長抗体に連結されている。
【0056】
本発明の完全長抗体は、1つ以上の免疫グロブリンクラスの免疫グロブリン定常領域を含む。免疫グロブリンクラスは、IgG、IgM、IgA、IgDおよびIgEアイソタイプを含み、並びにIgGおよびIgAの場合にはそのサブタイプを含む。好ましい態様において、本発明の完全長抗体は、IgGタイプの抗体の定常ドメイン構造を有する。
【0057】
本明細書において使用する「モノクローナル抗体」または「モノクローナル抗体組成物」という用語は、単一アミノ酸組成の抗体分子の調製物を指す。
【0058】
「キメラ抗体」という用語は、通常組換えDNA技術によって調製された、1つの起源または種に由来する可変領域、すなわち結合領域と、異なる起源または種に由来する定常領域の少なくとも一部とを含む、抗体を指す。マウス可変領域およびヒト定常領域を含むキメラ抗体が好ましい。本発明によって包含される「キメラ抗体」の他の好ましい形態は、定常領域を、元の抗体の定常領域から改変または変化させて、本発明による特性、特にC1q結合および/またはFcレセプター(FcR)結合に関しての特性を生じさせたものである。このようなキメラ抗体はまた、「クラススイッチされた抗体」とも呼ばれる。キメラ抗体は、免疫グロブリン可変領域をコードするDNAセグメントおよび免疫グロブリン定常領域をコードするDNAセグメントを含む、免疫グロブリン遺伝子の発現産物である。キメラ抗体を産生するための方法は、当技術分野において周知である従来の組換えDNA技術および遺伝子トランスフェクション技術を含む。例えば、Morrison, S.L., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81 (1984) 6851-6855; US 5,202,238 and US 5,204,244を参照されたい。
【0059】
「ヒト化抗体」という用語は、フレームワークまたは「相補性決定領域」(CDR)が改変されて、親免疫グロブリンのそれと比較して異なる特異性の免疫グロブリンのCDRを含むようになった、抗体を指す。好ましい態様において、マウスCDRをヒト抗体のフレームワーク領域に移植して、「ヒト化抗体」を調製する。例えば、Riechmann, L., et al., Nature 332 (1988) 323-327;およびNeuberger, M.S., et al., Nature 314 (1985) 268-270を参照されたい。特に好ましいCDRは、キメラ抗体について前記した抗原を認識する配列を示すものに相当する。本発明によって包含される他の形態の「ヒト化抗体」は、定常領域を元の抗体の定常領域からさらに改変または変化させて、本発明による特性、特にC1q結合および/またはFcレセプター(FcR)結合に関する特性を生じさせたものである。
【0060】
本明細書において使用する「ヒト抗体」という用語は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する抗体を含むことを意図する。ヒト抗体は当技術分野の最新技術において周知である(van Dijk, M.A., and van de Winkel, J., G., Curr. Opin. Chem. Biol. 5 (2001) 368-374)。ヒト抗体をトランスジェニック動物(例えばマウス)において産生することもでき、前記動物は免疫化されると、内因性免疫グロブリンの産生を伴うことなくヒト抗体の全レパートリーまたは選択されたものを産生することができる。ヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子アレイをこのような生殖系列突然変異マウスに導入することにより、抗原チャレンジ時にヒト抗体が産生される(例えば、Jakobovits, A., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90 (1993) 2551-2555; Jakobovits, A., et al., Nature 362 (1993) 255-258; Brueggemann, M., et al., Year Immunol. 7 (1993) 33-40参照)。ヒト抗体はまた、ファージディスプレイライブラリーにおいても産生することができる(Hoogenboom, H.R.およびWinter, G.J. Mol. Biol. 227 (1992) 381-388; Marks, J.D., et al., J. Mol. Biol. 222 (1991) 581-597)。Cole, et al.およびBoerner, et al.の技術もまた、ヒトモノクローナル抗体の調製のために利用することができる(Cole, S.P.C., et al., Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, (1985) 77; and Boerner, P., et al., J. Immunol. 147 (1991) 86-95)。本発明によるキメラ抗体およびヒト化抗体についてすでに記載したように、本明細書において使用する「ヒト抗体」という用語はまた、例えば「クラススイッチ」、すなわちFc部分の変化または突然変異(例えばIgG1からIgG4へおよび/またはIgG1/IgG4突然変異)によって、定常領域において改変して、本発明による特性、特にC1q結合および/またはFcR結合に関する特性を生じさせたような抗体を含む。
【0061】
本発明による多重特異的抗体が、ヘテロ二量体融合ペプチドを生じる1つまたは3つの単鎖Fabフラグメントを含む場合には(あるいは、重鎖または軽鎖のいずれかのC末端またはN末端に両方が付着した2つの同一ではない単鎖フラグメントの場合)、本発明による前記の完全長抗体のCH3ドメインを、「ノブから穴への」技術によって改変させることができ、この技術は、例えばWO 96/027011, Ridgway, J.B., et al., Protein Eng 9 (1996) 617-621;およびMerchant, A.M., et al., Nat Biotechnol 16 (1998) 677-681においていくつかの例と共に詳細に記載されている。この方法では、2つのCH3ドメインの相互作用表面を改変して、これらの2つのCH3ドメインを含む両方の重鎖のヘテロ二量体化を増加させている。(2つの重鎖の)2つのCH3ドメインの各々が「ノブ」となることができ、一方で他方は「穴」である。ジルスフィド橋の導入は、ヘテロ二量体を安定化させ(Merchant, A.M., et al., Nature Biotech 16 (1998) 677-681; Atwell, S., et al., J. Mol. Biol. 270 (1997) 26-35)、そして収量を増加させる。
【0062】
従って、本発明の1つの局面において、本発明による前記の多重特異的抗体は、唯一つの単鎖Fabフラグメントを含み、そしてさらに、
一方の重鎖のCH3ドメインおよび他方の重鎖のCH3ドメインが各々、抗体CH3ドメイン間の元の界面を含む界面で接触し;
前記界面は、2価の二重特異的抗体の形成を促進するように改変されており、前記改変は、
a)一方の重鎖のCH3ドメインが、
2価の二重特異的抗体内の一方の重鎖のCH3ドメインの元の界面に接触する他方の重鎖のCH3ドメインの元の界面内において、
アミノ酸残基が、より大きな側鎖体積を有するアミノ酸残基で置換され、それにより、一方の重鎖のCH3ドメインの界面内の空洞に位置することのできる他方の重鎖のCH3ドメインの界面内の隆起を生成するように、改変され、
b)他方の重鎖のCH3ドメインが、
3価の二重特異的抗体内の第1のCH3ドメインの元の界面に接触する第2のCH3ドメインの元の界面内において、
アミノ酸残基が、より小さな側鎖体積を有するアミノ酸残基で置換され、それにより、第2のCH3ドメインの界面内に空洞が生成され、その中に第1のCH3ドメインの界面内の隆起が位置することができるように、改変されることを特徴とする。
【0063】
好ましくは、より大きな側鎖体積を有する前記アミノ酸残基は、アルギニン(R)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)からなる群より選択される。
【0064】
好ましくは、より小さな側鎖体積を有する前記アミノ酸残基は、アラニン(A)、セリン(S)、トレオニン(T)、バリン(V)からなる群より選択される。
【0065】
本発明の1つの局面において、両方のCH3ドメインは、両方のCH3ドメイン間にジスルフィド橋を形成することができるように、各CH3ドメインの対応する位置にアミノ酸としてのシステイン(C)を導入することによってさらに改変される。
【0066】
好ましい態様において、唯1つの単鎖Fabフラグメントを含む前記の多重特異的抗体は、3価の二重特異的抗体である。前記の3価の二重特異的抗体は、「ノブ鎖」のCH3ドメインにT366W突然変異を含み、そして「穴鎖」のCH3ドメインにT366S、L368A、Y407V突然変異を含む。例えば「ノブ鎖」のCH3ドメインにY349C突然変異を、そして「穴鎖」のCH3ドメインにE356C突然変異またはS354C突然変異を導入することによって、CH3ドメイン間に追加の鎖間ジスルフィド橋を使用することもできる(Merchant, A.M, et al., Nature Biotech 16 (1998) 677-681)。従って、別の好ましい態様において、前記の3価の二重特異的抗体は、2つのCH3ドメインの一方にY349C、T366W突然変異を、そして2つのCH3ドメインの他方にE356C、T366S、L368A、Y407V突然変異を含むか、または前記の3価の二重特異的抗体は、2つのCH3ドメインの一方にY349C、T366W突然変異を、そして2つのCH3ドメインの他方にS354C、T366S、L368A、Y407V突然変異を含む(一方のCH3ドメインにおける追加のY349C突然変異および他方のCH3ドメインにおける追加のE356CまたはS354C突然変異は、鎖間ジスルフィド橋を形成する)(ナンバリングは常にKabatのEUインデックスによる)。しかしまた、EP 1870459A1によって記載された他の穴中のノブ(knobs-in-holes)の技術を代替的にまたは追加的に使用することができる。前記の3価の二重特異的抗体の好ましい例は、「ノブ鎖」のCH3ドメインにおけるR409D;K370E突然変異、および「穴鎖」のCH3ドメインにおけるD399K;E357K突然変異である(ナンバリングは常にKabatのEUインデックスによる)。
【0067】
別の好ましい態様において、前記の3価の二重特異的抗体(多重特異的抗体は、唯1つの単鎖Fabフラグメントを含む)は、「ノブ鎖」のCH3ドメインにT366W突然変異を、そして「穴鎖」のCH3ドメインにT366S、K368A、Y407V突然変異を、そしてさらに「ノブ鎖」のCH3ドメインにR409D;K370E突然変異を、そして「穴鎖」のCH3ドメインにD399K;E357K突然変異を含む。
【0068】
別の好ましい態様において、前記の3価の二重特異的抗体(多重特異的抗体は、唯1つの単鎖Fabフラグメントを含む)は、2つのCH3ドメインの一方にY349C、T366W突然変異を、そして2つのCH3ドメインの他方にS354C、T366S、L368A、Y407V突然変異を含むか、または前記の3価の二重特異的抗体は、2つのCH3ドメインの一方にY349C、T366W突然変異を、そして2つのCH3ドメインの他方にS354C、T366S、L368A、Y407V突然変異を、そしてさらに「ノブ鎖」のCH3ドメインにR409D;K370E突然変異を、そして「穴鎖」のCH3ドメインにD399K;E357K突然変異を含む。
【0069】
従って、本発明の1つの態様は、第2の抗原に結合する1つの単鎖Fabフラグメントが、前記の完全長抗体の1つの重鎖または1つの軽鎖のC末端またはN末端(好ましくは1つの重鎖のC末端)においてペプチドコネクターを介して前記の完全長抗体に融合し、前記の完全長抗体が、2つのCH3ドメインの一方にT366W突然変異を、そして2つのCH3ドメインの他方にT366S、L368A、Y407V突然変異を含む、本発明による多重特的抗体である。本発明の別の態様は、第2の抗原に結合する1つの単鎖Fabフラグメントが、前記の完全長抗体の1つの重鎖または1つの軽鎖のC末端またはN末端(好ましくは1つの重鎖のC末端)においてペプチドコネクターを介して前記の完全長抗体に融合し、前記の完全長抗体が、2つのCH3ドメインの一方にY349C、T366W突然変異を、そして2つのCH3ドメインの他方にS354C、T366S、L368A、Y407V突然変異を含む、本発明による多重特異的抗体である(例えば図6参照)。本発明の別の態様は、第2の抗原に結合する1つの単鎖Fabフラグメントが、前記の完全長抗体の1つの重鎖または1つの軽鎖のC末端またはN末端(好ましくは1つの重鎖のC末端)においてペプチドコネクターを介して前記の完全長抗体に融合し、前記の完全長抗体が、2つのCH3ドメインの一方にY349C、T366W突然変異を、そして2つのCH3ドメインの他方にS354C、T366S、L368A、Y407V突然変異を含む、本発明による多重特異的抗体である。
【0070】
本明細書において使用する「組換えヒト抗体」という用語は、組換え手段によって調製、発現、作製、または単離された全てのヒト抗体、例えば、NS0もしくはCHO細胞などの宿主細胞から、またはヒト免疫グロブリン遺伝子に対してトランスジェニックである動物(例えばマウス)から単離された抗体、あるいは、宿主細胞にトランスフェクションされた組換え発現ベクターを使用して発現された抗体を含むことを意図する。このような組換えヒト抗体は、再編成された形態の可変領域および定常領域を有する。本発明による組換えヒト抗体は、in vivoにおける体細胞高頻度突然変異にかけられる。従って、組換え抗体のVH領域およびVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖系列のVHおよびVL配列に由来しそしてこれに関連しているが、in vivoのヒト抗体生殖系列レパートリー内には天然には存在しない可能性がある、配列である。
【0071】
本明細書において使用する「可変ドメイン」(軽鎖の可変ドメイン(VL)、重鎖の可変領域(VH))は、抗原への抗体の結合に直接関与する軽鎖および重鎖の対の各々を示す。可変ヒト軽鎖および重鎖のドメインは同じ一般構造を有し、そして各々のドメインは、3つの「超可変領域」(すなわち相補性決定領域、CDR)によって接続された、その配列が広く保存されている4つのフレームワーク(FR)領域を含む。フレームワーク領域はβ−シートコンフォメーションをとり、そしてCDRは、β−シート構造を接続するループを形成し得る。各々の鎖中のCDRは、フレームワーク領域によってその3次元構造が保持され、そして他の鎖に由来するCDRと一緒に、抗原結合部位を形成する。抗体重鎖および軽鎖のCDR3領域は、本発明による抗体の結合特異性/親和性において特に重要な役割を果たし、そしてそれ故、本発明のさらなる目的を提供する。
【0072】
本明細書において使用した場合の「超可変領域」または「抗体の抗原結合部分」という用語は、抗原結合に関与する抗体のアミノ酸残基を指す。超可変領域は、「相補性決定領域」すなわち「CDR」に由来するアミノ酸残基を含む。「フレームワーク」すなわち「FR」領域は、本明細書において定義した超可変領域残基以外の可変ドメイン領域である。それ故、抗体の軽鎖および重鎖は、N末端からC末端へと、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、およびFR4のドメインを含む。各々の鎖上のCDRは、このようなフレームワークアミノ酸によって分離されている。特に、重鎖のCDR3は、抗原結合に最も寄与する領域である。CDRおよびFR領域は、Kabat, et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991)の標準的な定義に従って決定される。
【0073】
本明細書において使用する「結合」または「特異的に結合」という用語は、精製された野生型抗原を用いる、in vitroアッセイにおいて、好ましくはプラズモン共鳴アッセイ(BIAcore, GE-Healthcare Uppsala, Sweden)においての、抗原のエピトープへの抗体の結合を指す。結合の親和性は、ka(抗体/抗原複合体からの抗体の解離に関する速度定数)、kD(解離定数)、およびKD(kD/ka)という項によって定義される。結合または特異的に結合とは、10−8mol/lまたはそれ以下、好ましくは10−9M〜10−13mol/lの結合親和性(KD)を意味する。従って、本発明による多重特異的抗体は、それが特異的である各々の抗原に、10−8mol/lまたはそれ以下、好ましくは10−9M〜10−13mol/lの結合親和性(KD)で特異的に結合する。
【0074】
FcγRIIIへの抗体の結合は、BIAcoreアッセイ(GE-Healthcare Uppsala, Sweden)によって調査することができる。結合の親和性は、ka(抗体/抗原複合体からの抗体の解離に関する速度定数)、kD(解離定数)およびKD(kD/ka)という項によって定義される。
【0075】
「エピトープ」という用語は、抗体に特異的に結合することのできる任意のポリペプチド決定基を含む。特定の態様において、エピトープ決定基は、アミノ酸、糖側鎖、ホスホリルまたはスルホニルなどの化学的に活性な分子の表面基を含み、そして特定の態様において、特異的な3次元構造特徴、およびまたは特異的な荷電特徴を有し得る。エピトープは、抗体によって結合される抗原の領域である。
【0076】
特定の態様において、抗体は、タンパク質および/または巨大分子の複雑な混合物中におけるその標的抗原を優先的に認識する場合に、抗原に特異的に結合すると言われる。
【0077】
本出願内において使用する「定常領域」という用語は、可変領域以外の抗体のドメインの合計を示す。定常領域は、抗原の結合に直接関与しないが、種々のエフェクター機能を示す。その重鎖の定常領域のアミノ酸配列に依存して、抗体は、IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMのクラスに分類され、そしてこれらのいくつかは、IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4、IgA1およびIgA2などのサブクラスにさらに分類され得る。異なる抗体クラスに対応する重鎖定常領域は、α、δ、ε、γおよびμとそれぞれ呼ばれる。5つ全ての抗体クラスに見出され得る軽鎖定常領域(CL)はκ(カッパ)およびλ(ラムダ)と呼ばれる。
【0078】
本出願において使用する「ヒト起源に由来する定常領域」という用語は、サブクラスIgG1、IgG2、IgG3もしくはIgG4のヒト抗体の定常重鎖領域および/または定常軽鎖κもしくはλ領域を示す。このような定常領域は当技術分野の最新技術において周知であり、そして例えばKabat, E.A., (例えばJohnson, G. and Wu, T.T., Nucleic Acids Res. 28 (2000) 214-218; Kabat, E.A., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 72 (1975) 2785-2788参照)によって記載されている。
【0079】
IgG4サブクラスの抗体は、低下したFcレセプター(FcγRIIIa)への結合を示すが、他のIgGサブクラスの抗体は強力な結合を示す。しかしながら、Pro238、Asp265、Asp270、Asn297(Fcの炭水化物の欠失)、Pro329、Leu234、Leu235、Gly236、Gly237、Ile253、Ser254、Lys288、Thr307、Gln311、Asn434およびHis435は、もし改変させた場合に、低下したFcレセプターへの結合も提供する残基である(Shields, R.L., et al., J. Biol. Chem. 276 (2001) 6591-6604; Lund, J., et al., FASEB J. 9 (1995) 115-119; Morgan, A., et al., Immunology 86 (1995) 319-324; EP 0 307 434)。
【0080】
1つの態様において、本発明による抗体は、IgG1抗体と比較して低下したFcRへの結合を示し、そして完全長の親抗体は、FcR結合に関して、S228、L234、L235および/またはD265において突然変異を有するIgG4サブクラスまたはIgG1もしくはIgG2サブクラスであり、そして/またはPVA236突然変異を含む。1つの態様において、完全長の親抗体における突然変異は、S228P、L234A、L235A、L235Eおよび/またはPVA236である。別の態様において、完全長親抗体における突然変異は、IgG4においてはS228Pであり、そしてIgG1においてはL234AおよびL235Aである。定常重鎖領域は配列番号17および18に示される。1つの態様において、完全長親抗体の定常重鎖領域は、突然変異L234AおよびL235Aを有する配列番号17である。別の態様において、完全長親抗体の定常重鎖領域は、突然変異S228Pを有する配列番号18である。別の態様において、完全長親抗体の定常軽鎖領域は、配列番号19のκ軽鎖領域またはλ軽鎖領域である。好ましくは、完全長親抗体の定常重鎖領域は、突然変異S228Pを有する配列番号17または配列番号18である。
【0081】
抗体の定常領域は、ADCC(抗体依存性細胞介在性細胞障害作用)およびCDC(補体依存性細胞障害作用)に直接関与する。補体活性化(CDC)は、大半のIgG抗体サブクラスの定常領域への補因子C1qの結合によって開始される。抗体へのC1qの結合は、いわゆる結合部位における規定のタンパク質−タンパク質相互作用によって引き起こされる。このような定常領域結合部位は当技術分野の最新技術において公知であり、そして例えばLukas, T.J., et al., J. Immunol. 127 (1981) 2555-2560; Brunhouse, R. and Cebra, J.J., Mol. Immunol. 16 (1979) 907-917; Burton, D.R., et al., Nature 288 (1980) 338-344; Thommesen, J.E., et al., Mol. Immunol. 37 (2000) 995-1004; Idusogie, E.E., et al., J. Immunol. 164 (2000) 4178-4184; Hezareh, M., et al., J. Virol. 75 (2001) 12161-12168; Morgan, A., et al., Immunology 86 (1995) 319-324;および EP 0 307 434によって記載されている。このような定常領域結合部位は、例えば、アミノ酸L234、L235、D270、N297、E318、K320、K322、P331およびP329によって特徴付けられる(ナンバリングはKabatのEUインデックスによる)。
【0082】
「抗体依存性細胞介在性細胞障害作用(ADCC)」という用語は、エフェクター細胞の存在下における本発明による抗体によるヒトターゲット細胞の溶解を指す。ADCCは、好ましくは、新しく単離したPBMCなどのエフェクター細胞、あるいは単球もしくはナチュラルキラー(NK)細胞または永久増殖するNK細胞株のようなバフィーコートから精製されたエフェクター細胞の存在下において、本発明による抗体を用いて、抗原発現細胞の調製物を処理することによって測定される。
【0083】
「補体依存性細胞障害作用(CDC)」という用語は、大半のIgG抗体サブクラスのFc部分への補因子C1qの結合によって開始される過程を示す。抗体へのC1qの結合は、いわゆる結合部位における規定のタンパク質−タンパク質相互作用によって引き起こされる。このようなFc部分結合部位は当技術分野の最新技術において公知である(前記参照)。このようなFc部分結合部位は、例えば、アミノ酸L234、L235、D270、N297、E318、K320、K322、P331およびP329によって特徴付けられる(ナンバリングはKabatのEUインデックスによる)。サブクラスIgG1、IgG2およびIgG3の抗体は通常、C1qおよびC3の結合を含む補体活性化を示すが、IgG4は補体系を活性化せず、そしてC1qおよび/またはC3に結合しない。
【0084】
さらなる態様において、本発明による多重特異的抗体は、前記の完全長抗体が、ヒトIgG1サブクラスであるか、または突然変異L234AおよびL235Aを有するヒトIgG1サブクラスであることを特徴とする。
【0085】
さらなる態様において、本発明による多重特異的抗体は、前記の完全長抗体がヒトIgG2サブクラスであることを特徴とする。
【0086】
さらなる態様において、本発明による多重特異的抗体は、前記の完全長抗体がヒトIgG3サブクラスであることを特徴とする。
【0087】
さらなる態様において、本発明による多重特異的抗体は、前記の完全長抗体がヒトIgG4サブクラスであるか、または追加の突然変異S228Pを有するヒトIgG4サブクラスであることを特徴とする。
【0088】
好ましくは、本発明による多重特異的抗体は、前記の完全長抗体が、追加の突然変異S228Pを有するヒトIgG1サブクラス、ヒトIgG4サブクラスであることを特徴とする。
【0089】
さらなる態様において、本発明による多重特異的抗体は、前記の完全長抗体が、ヒトFcγレセプターIIIaへの親和性を増加させて、ADCCを媒介するその適格性を増加させるように改変されている(Fc領域における突然変異によって、または糖鎖工学によってのいずれかで)ことを特徴とする。フコースの量を減少させることによって抗体のADCCを増強させる方法が、例えば、WO 2005/018572, WO 2006/116260, WO 2006/114700, WO 2004/065540, WO 2005/011735, WO 2005/027966, WO 1997/028267, US 2006/0134709, US 2005/0054048, US 2005/0152894, WO 2003/035835, WO 2000/061739 Niwa, R., et al., J. Immunol. Methods 306 (2005) 151-160; Shinkawa, T., et al, J. Biol. Chem. 278 (2003) 3466-3473; WO 03/055993またはUS 2005/0249722に記載されている。それ故、本発明の1つの態様において、本発明による多重特異的抗体は、前記の完全長抗体が、フコシル化されたIgG1またはIgG3アイソタイプであり、フコースの量は、Asn297におけるオリゴ糖(糖)の全量の60%以下である(これは、Asn297におけるFc領域のオリゴ糖の少なくとも40%以上がフコシル化されていることを意味する)ことを特徴とする。
【0090】
本発明による抗体は組換え手段によって産生される。従って、本発明の1つの局面は、本発明による抗体をコードする核酸であり、そしてさらなる局面は、本発明による抗体をコードする前記核酸を含む細胞である。組換え産生のための方法は当技術分野の最新技術において広く知られており、そして原核細胞および真核細胞におけるタンパク質発現、その後の抗体の単離、および通常は薬学的に許容される純度までの精製を含む。宿主細胞における前記したような抗体の発現のために、それぞれの改変された軽鎖および重鎖をコードする核酸を、標準的な方法によって発現ベクターに挿入する。発現は、CHO細胞、NS0細胞、SP2/0細胞、HEK293細胞、COS細胞、PER.C6細胞、酵母またはE.coli細胞などの適切な原核または真核宿主細胞において行なわれ、そして、抗体を細胞(上清または溶解後の細胞)から回収する。抗体の組換え産生のための一般的な方法は当技術分野の最新技術において周知であり、そして例えば、Makrides, S.C., Protein Expr. Purif. 17 (1999) 183-202; Geisse, S., et al., Protein Expr. Purif. 8 (1996) 271-282; Kaufman, R.J., Mol. Biotechnol. 16 (2000) 151-160; Werner, R.G., Drug Res. 48 (1998) 870-880の総説論文に記載されている。
【0091】
本発明による多重特異的抗体は、培養培地から、例えばプロテインAセファロース、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析またはアフィニティクロマトグラフィーなどの従来の免疫グロブリン精製手順によって適切に分離される。モノクローナル抗体をコードするDNAおよびRNAは、従来の手順を使用して容易に単離およびシークエンスされる。ハイブリドーマ細胞はこのようなDNAおよびRNAの入手源として役立ち得る。一旦単離されると、DNAを発現ベクターに挿入し、その後、これを免疫グロブリンタンパク質を別様に産生しないHEK293細胞、CHO細胞または骨髄細胞などの宿主細胞にトランスフェクションすることにより、宿主細胞において組換えモノクローナル抗体の合成を得ることができる。
【0092】
多重特異的抗体のアミノ酸配列変異体(または突然変異体)は、抗体DNAに適切なヌクレオチド変化を導入することによって、またはヌクレオチド合成によって調製される。しかしながら、このような改変は、例えば前記したように、非常に制限された範囲でしか実施することができない。例えば、改変は、IgGアイソタイプおよび抗原結合などの前記の抗体特徴を改変させないが、組換え産生の収量、タンパク質の安定性を改善し得るか、または精製を容易にし得る。
【0093】
本出願において使用する「宿主細胞」という用語は、本発明による抗体を生成するために工学操作することのできる任意の種類の細胞系を示す。1つの態様において、HEK293細胞およびCHO細胞を宿主細胞として使用する。
【0094】
本明細書において使用する「細胞」、「細胞株」および「細胞培養液」という表現は同義語として使用され、そして全てのこのような名称は子孫を含む。従って、「形質転換体」および「形質転換細胞」という単語は、初代の対象の細胞、および継代の回数に関係なくそれから誘導された培養液を含む。全ての子孫は、計画的または偶発的な突然変異に因り、DNA内容物において正確に同一ではない可能性があることも理解される。最初に形質転換された細胞についてスクリーニングしたものと同じ機能または生物活性を有する子孫の変異体も含まれる。明確に異なる名称が考えられるが、それは内容から明らかである。
【0095】
NS0細胞における発現が、例えば、Barnes, L.M., et al., Cytotechnology 32 (2000) 109-123; Barnes, L.M., et al., Biotech. Bioeng. 73 (2001)261-270によって記載されている。一過性発現が、例えばDurocher, Y., et al., Nucl. Acids. Res. 30 (2002) E9によって記載されている。可変ドメインのクローニングが、Orlandi, R., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86 (1989) 3833-3837; Carter, P., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89 (1992) 4285-4289;およびNorderhaug, L., et al., J. Immunol. Methods 204 (1997)77-87によって記載されている。好ましい一過性発現系(HEK293)が、Schlaeger, E.-J.およびChristensen, K., in Cytotechnology 30 (1999) 71-83によって、並びにSchlaeger, E.-J., in J. Immunol. Methods 194 (1996)191-199によって記載されている。
【0096】
原核生物に対して適切である制御配列は、例えば、プロモーター、場合によりオペレーター配列、およびリボソーム結合部位を含む。真核細胞は、プロモーター、エンハンサーおよびポリアデニル化シグナルを使用することが知られている。
【0097】
核酸は、別の核酸配列と機能的な関係に配置された場合に「作動可能に連結」されている。例えば、プレ配列または分泌リーダーのためのDNAは、それがポリペプチドの分泌に関与するプレタンパク質として発現された場合に、ポリペプチドのためのDNAに作動可能に連結されており;プロモーターまたはエンハンサーは、それが配列の転写に影響を及ぼす場合にコード配列に作動可能に連結されており;またはリボソーム結合部位は、それが翻訳を容易にするように位置されている場合にコード配列に作動可能に連結されている。一般的に、「作動可能に連結」とは、連結されているDNA配列が連続的であり、そして分泌リーダーの場合には、連続的でありそしてリーディングフレーム内にあることを意味する。しかしながら、エンハンサーは連続的である必要はない。従来の制限酵素部位におけるライゲーションによって連結が行なわれる。このような部位が存在しない場合には、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーが従来の慣行に従って使用される。
【0098】
細胞成分または他の汚染物質、例えば他の細胞性核酸またはタンパク質を排除するために、アルカリ/SDS処理、CsClバンド形成、カラムクロマトグラフィー、アガロースゲル電気泳動、および当技術分野において周知のその他の技術を含む標準的な技術によって、抗体の精製を行なう。Ausubel, F., et al., ed. Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing and Wiley Interscience, New York (1987)を参照されたい。種々の方法が良好に確立され、そしてタンパク質精製のために広く使用されており、これには例えば、微生物タンパク質を用いてのアフィニティクロマトグラフィー(例えばプロテインAまたはプロテインGアフィニティクロマトグラフィー)、イオン交換クロマトグラフィー(例えばカチオン交換(カルボキシメチル樹脂)、アニオン交換(アミノエチル樹脂)および混合形の交換)、チオフィリック吸着(例えばβ−メルカプトエタノールおよび他のSHリガンドを用いて)、疎水性相互作用または芳香族吸着クロマトグラフィー(例えばフェニル−セファロース、アザ−アレノフィリック樹脂またはm−アミノフェニルボロン酸を用いて)、金属キレートアフィニティクロマトグラフィー(例えばNi(II)およびCu(II)親和性材料)、サイズ排除クロマトグラフィーおよび電気泳動法(例えばゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動)(Vijayalakshmi, M.A., Appl. Biochem. Biotech. 75 (1998) 93-102)がある。
【0099】
本明細書において使用する「形質転換」という用語は、宿主細胞へのベクター/核酸の導入の過程を指す。厄介な細胞壁障壁を含まない細胞を宿主細胞として使用する場合には、トランスフェクションは、例えばGraham, F.L.およびvan der Eb, A.J., Virology 52 (1973) 456-467によって記載されたリン酸カルシウム沈降法によって行なわれる。しかしながら、核内注入によるまたはプロトプラスト融合によるなどの、細胞中にDNAを導入するための他の方法も使用し得る。原核細胞または実質的な細胞壁構築物を含まない細胞を使用する場合には、例えば、トランスフェクションの1つの方法は、Cohen, S.N., et al., PNAS. 69 (1972) 2110-2114によって記載されたような塩化カルシウムを使用したカルシウム処理である。
【0100】
本明細書において使用する「発現」は、核酸をmRNAに転写する過程および/または転写されたmRNA(転写物とも呼ばれる)を続いてペプチド、ポリペプチドもしくはタンパク質に翻訳する過程を指す。転写物およびコードされたポリペプチドは、まとめて遺伝子産物と呼ばれる。ポリヌクレオチドがゲノムDNAに由来する場合には、真核細胞における発現は、mRNAのスプライシングを含み得る。
【0101】
「ベクター」は、挿入された核酸分子を宿主細胞に導入および/または宿主細胞間で導入する、特に自己複製する、核酸分子である。この用語は、細胞へのDNAまたはRNAの挿入(例えば染色体への組込み)のために主に機能するベクター、DNAまたはRNAの複製のために主に機能する複製ベクター、並びにDNAまたはRNAの転写および/または翻訳のために機能する発現ベクターを含む。記載したような1つより多くの機能を提供するベクターも含まれる。
【0102】
「発現ベクター」は、適切な宿主細胞に導入された場合に、ポリペプチドへと転写および翻訳されることのできるポリヌクレオチドである。「発現系」は、通常、所望の発現産物を生じるように機能することのできる発現ベクターからなる適切な宿主細胞を指す。
【0103】
本発明による多重特異的抗体は、生物学的または薬理学的活性、薬物動態学的特性または毒性などの、改善された特徴を有することが今回判明した。それらを、癌などの疾病の処置のために使用することができる。
【0104】
本発明の1つの局面は、本発明による抗体を含む薬学的組成物である。本発明の別の局面は、薬学的組成物の製造のための本発明による抗体の使用である。本発明のさらなる局面は、本発明による抗体を含む薬学的組成物の製造のための方法である。別の局面において、本発明は、薬学的担体と一緒に製剤化された、本発明による抗体を含む、組成物、例えば薬学的組成物を提供する。
【0105】
本発明の1つの態様は、癌の処置のための本発明による多重特異的、好ましくは二重特異的な抗体である。
【0106】
本発明の別の局面は、癌の処置のための前記薬学的組成物である。
【0107】
本発明の別の局面は、癌の処置のための医薬品の製造のための本発明による抗体の使用である。
【0108】
本発明の別の局面は、このような処置の必要な患者に本発明による抗体を投与することによる、癌を患う患者の処置法である。
【0109】
本明細書において使用する「薬学的担体」は、生理学的に適合性である、任意および全ての溶媒、分散媒体、コーティング剤、抗細菌剤および抗真菌剤、等張化剤および吸収遅延剤などを含む。好ましくは、担体は、静脈内、筋肉内、皮下、非経口、脊髄内または表皮投与(例えば注入または点滴による)に適している。
【0110】
本発明の組成物を、当技術分野において公知の多種多様な方法によって投与することができる。当業者によって理解されているように、投与経路および/または投与形態は、所望の結果に依存して変更される。特定の投与経路によって本発明の化合物を投与するために、その不活性化を防ぐ材料で前記化合物をコーティングするか、または前記材料と共に前記化合物を共投与することが必要であり得る。例えば、前記化合物は、適切な担体、例えばリポソームまたは希釈剤中で被験体に投与され得る。薬学的に許容される希釈剤としては、食塩水および緩衝水溶液が挙げられる。薬学的担体としては、無菌水溶液または分散液、および無菌注射溶液または分散液の即時調製のための無菌粉末が挙げられる。薬学的に活性な物質のためのこのような媒体および薬剤の使用は、当技術分野において公知である。
【0111】
本明細書において使用する「非経口投与」および「非経口的に投与」というフレーズは、通常、注射による、経腸投与および外用投与以外の投与形態を意味し、それは、以下に制限されないが、静脈内、筋肉内、動脈内、くも膜下腔内、嚢内、眼窩内、心内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、皮下組織内、関節内、嚢下、くも膜下、脊髄内、硬膜下および胸骨内への注入および点滴を含む。
【0112】
本明細書において使用する癌という用語は、増殖性疾病、例えばリンパ腫、リンパ球性白血病、肺癌、非小細胞肺(NSCL)癌、気管支肺胞上皮細胞肺癌、骨癌、膵臓癌、皮膚癌、頭頸部癌、皮膚黒色腫または眼球内黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、肛門領域の癌、胃(stomach)癌、胃(gastric)癌、大腸癌、乳癌、子宮癌、卵管癌、子宮内膜癌、子宮頸部癌、膣癌、外陰部癌、ホジキン病、食道癌、小腸癌、内分泌系の癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟組織の肉腫、尿道癌、陰茎癌、前立腺癌、膀胱癌、腎臓癌または尿管癌、腎細胞癌、腎盂癌、中皮腫、肝細胞癌、胆道癌、中枢神経系(CNS)の新生物、脊髄軸(spinal axis)腫瘍、脳幹神経膠腫、多形神経膠芽腫、星状細胞腫、シュワン細胞腫、上衣腫、髄芽腫、髄膜腫、扁平上皮癌、下垂体腺腫およびユーイング肉腫(前記の癌のいずれかの難治形態、または前記の癌の1つ以上の組合せを含む)を指す。
【0113】
これらの組成物はまた保存剤、湿潤剤、乳化剤および分散剤などの補助剤も含み得る。微生物の存在の防御は、上記の滅菌手順によって、並びに種々の抗細菌剤および抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸などの包含によって確実にされ得る。また、糖、塩化ナトリウムなどの等張化剤を前記組成物中に含めることが望ましくあり得る。さらに、注射可能な剤形の延長吸収は、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなどの吸収を遅延する薬剤の包含によってもたらされ得る。
【0114】
選択する投与経路に関係なく、本発明の化合物(これは、適切な水和形態で使用され得る)および/または本発明の薬学的組成物は、当業者に公知の従来の方法によって薬学的に許容される剤形に製剤化される。
【0115】
本発明の薬学的組成物中の活性成分の実際の投与量レベルを変更して、患者に対して毒性であることなく、特定の患者、組成物および投与形態に対して所望の治療応答を達成するのに効果的である活性成分の量を得ることができる。選択した投与量レベルは、使用する本発明の特定の組成物の活性、投与経路、投与時刻、使用する特定の化合物の排泄速度、処置持続期間、使用する特定の組成物と併用して使用される他の薬物、化合物および/または材料、処置する患者の年齢、性別、体重、容態、全般的な健康状態および病歴、並びに医学分野において周知である同様な因子を含む、多種多様な薬物動態因子に依存する。
【0116】
前記組成物は、無菌でなければならず、そして前記組成物がシリンジによって送達できる程度に流動性でなければならない。水に加えて、担体は好ましくは等張緩衝食塩水溶液である。
【0117】
適切な流動性を、例えば、レシチンなどのコーティング剤の使用によって、分散液の場合には必要な粒子径の維持によって、および界面活性剤の使用によって維持することができる。多くの場合、例えば、糖、ポリアルコール、例えばマンニトールまたはソルビトール、および塩化ナトリウムなどの等張化剤を前記組成物中に含めることが好ましい。
【0118】
以下の実施例、配列表および図面は、本発明の理解を助けるために提供され、その真の範囲は、添付の特許請求の範囲に示される。本発明の精神から逸脱することなく、示された手順に改変を行なうことができることが理解される。
【0119】
アミノ酸配列の記載
配列番号1 重鎖CDR3、<IGF−1R>HUMAB−クローン18
配列番号2 重鎖CDR2、<IGF−1R>HUMAB−クローン18
配列番号3 重鎖CDR1、<IGF−1R>HUMAB−クローン18
配列番号4 軽鎖CDR3、<IGF−1R>HUMAB−クローン18
配列番号5 軽鎖CDR2、<IGF−1R>HUMAB−クローン18
配列番号6 軽鎖CDR1、<IGF−1R>HUMAB−クローン18
配列番号7 重鎖可変ドメイン、<IGF−1R>HUMAB−クローン18
配列番号8 軽鎖可変ドメイン、<IGF−1R>HUMAB−クローン18
配列番号9 重鎖CDR3、ヒト化<EGFR>ICR62
配列番号10 重鎖CDR2、ヒト化<EGFR>ICR62
配列番号11 重鎖CDR1、ヒト化<EGFR>ICR62
配列番号12 軽鎖CDR3、ヒト化<EGFR>ICR62
配列番号13 軽鎖CDR2、ヒト化<EGFR>ICR62
配列番号14 軽鎖CDR1、ヒト化<EGFR>ICR62
配列番号15 重鎖可変ドメイン、ヒト化<EGFR>ICR62−I−HHD
配列番号16 軽鎖可変ドメイン、ヒト化<EGFR>ICR62−I−KC
配列番号17 IgG1由来のヒト重鎖定常領域
配列番号18 IgG4由来のヒト重鎖定常領域
配列番号19 κ軽鎖定常領域
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】可変ドメインおよび定常ドメインを典型的な順序で含む2対の重鎖および軽鎖を有する、第1の抗原1に特異的に結合する、CH4ドメインを含まない、完全長抗体の図解構造。
【図2】例えば第2の抗原2に特異的に結合する4つの可能な単鎖Fabフラグメントの図解構造。
【図3】第1の抗原1に特異的に結合する完全長抗体と、第2の抗原2に特異的に結合する2つの単鎖Fabとを含む、本発明による多重特異的抗体の図解構造−二重特異的4価の例。
【図4】IGF−1Rに特異的に結合する完全長抗体と、EGFRに特異的に結合する2つの同一な単鎖Fabとを含む、本発明による二重特異的抗体−ScFab−XGFR1分子A、B、CおよびD並びに精製後の発現レベル。A:重鎖のC末端に融合したscFab(VH−CH1−リンカー−VL−CL)。B:重鎖のC末端に(融合した追加のVH44−VL100ジスルフィド橋を含むVH−CH1−リンカー−VL−CL)scFab。C:軽鎖のC末端に融合したscFab(VH−CH1−リンカー−VL−CL)。D:軽鎖のC末端に(融合した追加のVH44−VL100ジスルフィド橋を含むVH−CH1−リンカー−VL−CL)scFab。
【図5】EGFRに特異的に結合する完全長抗体と、IGF−1Rに特異的に結合する2つの同一な軽鎖Fabとを含む、本発明による二重特異的抗体−ScFab−XGFR2分子A、B、CおよびD。A:重鎖のC末端に融合したscFab(VH−CH1−リンカー−VL−CL)。B:重鎖のC末端に(融合した追加のVH44−VL100−ジスルフィド橋を含むVH−CH1−リンカー−VL−CL)scFab。C:軽鎖のC末端に融合したscFab(VH−CH1−リンカー−VL−CL)。D:軽鎖のC末端に(融合した追加のVH44−VL100ジスルフィド橋を含むVH−CH1−リンカー−VL−CL)scFab。
【図6】第1の抗原1に特異的に結合する完全長抗体と、第2の抗原2に特異的に結合する1つの単鎖Fabとを含む、本発明による多重特異的抗体の図解構造−ノブおよび穴を含む二重特異的3価の例。
【図7】第1の抗原1に特異的に結合する完全長抗体と、第2の抗原2に特異的に結合する1つの単鎖Fabとを含む、本発明による多重特異的抗体の図解構造−ノブおよび穴を含む三重特異的4価の例。
【図8】単鎖Fabを含む二重特異的抗体誘導体scFab−XGFR1のSDS−PAGE分析。1:scFab−XGFR1_4720(還元されておらず)。2:scFab−XGFR1_4721(還元されておらず)。3:scFab−XGFR1_4720(還元されている)。4:scFab−XGFR1_4721(還元されている)。
【図9a】scFabを含む二重特異的抗体誘導体scFab−XGFR1のHP−SEC分析。図9a:scFab−XGFR1−4720;7.7%、凝集体(ボックス内に印す)。図9b:scFab−XGFR1−4721;3.5%、凝集体(ボックス内に印す)。
【図9b】scFabを含む二重特異的抗体誘導体scFab−XGFR1のHP−SEC分析。図9a:scFab−XGFR1−4720;7.7%、凝集体(ボックス内に印す)。図9b:scFab−XGFR1−4721;3.5%、凝集体(ボックス内に印す)。
【図10a】EGFRおよびIGF1RへのscFab−XGFR1およびscFab−XGFR2の結合。図10a:Biacoreダイアグラム−EGFRへのscFab−XGFR1_2720の結合、KD=2nM。図10b:Biacoreダイアグラム−IGR−1RへのscFab−XGFR1_2720の結合、KD=2nM。図10c:Biacoreダイアグラム−EGFRへのscFab−XGFR2_2720の結合、KD=0.5nM。図10d:Biacoreダイアグラム−IGF−1RへのscFab−XGFR2_2720の結合、KD=11nM。
【図10b】EGFRおよびIGF1RへのscFab−XGFR1およびscFab−XGFR2の結合。図10a:Biacoreダイアグラム−EGFRへのscFab−XGFR1_2720の結合、KD=2nM。図10b:Biacoreダイアグラム−IGR−1RへのscFab−XGFR1_2720の結合、KD=2nM。図10c:Biacoreダイアグラム−EGFRへのscFab−XGFR2_2720の結合、KD=0.5nM。図10d:Biacoreダイアグラム−IGF−1RへのscFab−XGFR2_2720の結合、KD=11nM。
【図10c】EGFRおよびIGF1RへのscFab−XGFR1およびscFab−XGFR2の結合。図10a:Biacoreダイアグラム−EGFRへのscFab−XGFR1_2720の結合、KD=2nM。図10b:Biacoreダイアグラム−IGR−1RへのscFab−XGFR1_2720の結合、KD=2nM。図10c:Biacoreダイアグラム−EGFRへのscFab−XGFR2_2720の結合、KD=0.5nM。図10d:Biacoreダイアグラム−IGF−1RへのscFab−XGFR2_2720の結合、KD=11nM。
【図10d】EGFRおよびIGF1RへのscFab−XGFR1およびscFab−XGFR2の結合。図10a:Biacoreダイアグラム−EGFRへのscFab−XGFR1_2720の結合、KD=2nM。図10b:Biacoreダイアグラム−IGR−1RへのscFab−XGFR1_2720の結合、KD=2nM。図10c:Biacoreダイアグラム−EGFRへのscFab−XGFR2_2720の結合、KD=0.5nM。図10d:Biacoreダイアグラム−IGF−1RへのscFab−XGFR2_2720の結合、KD=11nM。
【図11】スキーム−以下の一般的な手順を用いてFACS競合アッセイによって分析した細胞へのscFab−XGFRの結合:・Alexa647(1μg/mL)で標識された<IGF1R>Mabと、標識されていないscFab−XGFR(100μg/mL〜0.001μg/mL)を平行して加える。・氷上で45分間インキュベーションし、洗浄し、そして非結合抗体を除去する。・1%HCHOで固定し、その後FACS。
【図12a】FACS競合アッセイによって分析した細胞へのscFab−XGFR_2721および親<IGF1R>クローン18の結合。図12a:<IGF−1R>クローン18(0.18μg/ml)およびscFab−XGFR_2721(0.15μg/ml)のIC50値の比較。図12b:<IGF−1R>クローン18の結合曲線(ターニングポイント0.11μg/ml)−y軸=RLU;x軸、抗体濃度(μg/ml)。図12c:scFab−XGFR_2721の結合曲線(ターニングポイント0.10μg/ml)−y軸=RLU;x軸、抗体濃度(μg/ml)。
【図12b】FACS競合アッセイによって分析した細胞へのscFab−XGFR_2721および親<IGF1R>クローン18の結合。図12a:<IGF−1R>クローン18(0.18μg/ml)およびscFab−XGFR_2721(0.15μg/ml)のIC50値の比較。図12b:<IGF−1R>クローン18の結合曲線(ターニングポイント0.11μg/ml)−y軸=RLU;x軸、抗体濃度(μg/ml)。図12c:scFab−XGFR_2721の結合曲線(ターニングポイント0.10μg/ml)−y軸=RLU;x軸、抗体濃度(μg/ml)。
【図12c】FACS競合アッセイによって分析した細胞へのscFab−XGFR_2721および親<IGF1R>クローン18の結合。図12a:<IGF−1R>クローン18(0.18μg/ml)およびscFab−XGFR_2721(0.15μg/ml)のIC50値の比較。図12b:<IGF−1R>クローン18の結合曲線(ターニングポイント0.11μg/ml)−y軸=RLU;x軸、抗体濃度(μg/ml)。図12c:scFab−XGFR_2721の結合曲線(ターニングポイント0.10μg/ml)−y軸=RLU;x軸、抗体濃度(μg/ml)。
【図13】種々のscFab−XGFR変異体(100nM)と共に24時間インキュベーションした後のH322M細胞上でのIGF1−Rのダウンレギュレーション。
【図14】種々のscFab−XGFR変異体(100nM)と共に24時間インキュベーションした後のH322M細胞上でのEGFRのダウンレギュレーション。
【図15】種々のscFab−XGFR変異体(100nM)による、H322M細胞の増殖の阻害。
【0121】
実験手順
実施例
材料および一般的な方法
ヒト免疫グロブリン軽鎖および重鎖のヌクレオチド配列に関する一般的な情報は、Kabat, E.A., et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991)に示される。抗体鎖のアミノ酸には番号が付けられ、EUナンバリングに従って言及される(Edelman, G.M., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 63 (1969) 78-85; Kabat, E.A., et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD, (1991))。
【0122】
組換えDNA技術
標準的な方法を使用して、Sambrook, J., et al., Molecular cloning: A laboratory manual; Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, 1989に記載のようにDNAを操作した。分子生物試薬を、製造業者の指示に従って使用した。
【0123】
遺伝子合成
所望の遺伝子セグメントを、化学合成によって製造されたオリゴヌクレオチドから調製した。特異な制限エンドヌクレアーゼ切断部位によってフランキングされる600〜1800bp長の遺伝子セグメントを、オリゴヌクレオチドのアニーリングおよびライゲーション(PCR増幅を含む)によって会合させ、その後、例えばBamHI/BstEII、BamHI/BsiWI、BstEII/NotIまたはBsiWI/NotIなどの指定された制限酵素部位を介して、pUCクローニングベクターに基づいたpcDNA3.1/Zeo(+)(Invitrogen)にクローニングした。サブクローニングされた遺伝子フラグメントのDNA配列をDNAシークエンスによって確認した。遺伝子合成フラグメントを、Geneart (Regensburg, Germany)の所与の明細に従って順番に並べた。
【0124】
DNA配列の決定
DNA配列を、Sequiserve GmbH (Vaterstetten, Germany)において実施された二本鎖シークエンスによって決定した。
【0125】
DNAおよびタンパク質の配列分析および配列データの管理
GCG(Genetics Computer Group, Madison, Wisconsin)のソフトウェアパッケージバージョン10.2およびInvitrogensベクターNT1アドバンススイートバージョン9.1を、配列の作製、マッピング、分析、アノテーションおよび説明のために使用した。
【0126】
細胞培養技術
Current Protocols in Cell Biology (2000), Bonifacino, J.S., Dasso, M., Harford, J.B., Lippincott-Schwartz, J., and Yamada, K.M., (eds.), John Wiley & Sons, Inc.に記載のような標準的な細胞培養技術を使用した。
【0127】
HEK293F細胞における免疫グロブリン変異体の一過性発現
多重特異的抗体を、FreeStyle(登録商標)293発現系を使用して製造業者の指示(Invitrogen, USA)に従ってヒト胚腎臓293F細胞の一過性トランスフェクションによって発現させた。簡潔に言うと、FreeStyle(登録商標)293F細胞懸濁液を、37℃/8%CO2でFreeStyle(登録商標)293発現培地中で培養し、そして細胞をトランスフェクションの日に1〜2×106個の生細胞/mlの密度で新鮮な培地に播種した。DNA−293fectin(登録商標)複合体を、250mlの最終トランスフェクション容量に対して333μlの293fectin(登録商標)(Invitrogen, Germany)および1:1のモル比の250μgの重鎖および軽鎖プラスミドDNAを使用して、Opti-MEM(登録商標)培地(Invitrogen, USA)中で調製した。二重特異的抗体を含む細胞培養上清を、トランスフェクションから7日後に、14000gで30分間の遠心分離および滅菌フィルター(0.22μm)を通してのろ過によって清澄化した。上清を精製まで−20℃で保存した。
【0128】
タンパク質の決定
精製した抗体および誘導体のタンパク質濃度を、Pace, C.N., et. al., Protein Science, 4 (1995) 2411-2423によるアミノ酸配列に基づいて計算したモル吸光係数を使用して、バックグラウンド修正として320nmにおけるODを用いて、280nmにおける吸光度(OD)を決定することによって決定した。
【0129】
上清中の抗体濃度の決定
細胞培養上清中の抗体および誘導体の濃度を、アフィニティHPLCクロマトグラフィーによって測定した。簡潔に言うと、プロテインAに結合する抗体および誘導体を含む細胞培養上清を、200mM KH2PO4、100mMクエン酸ナトリウム(pH7.4)中のApplied Biosystems Poros A/20カラムにアプライし、そしてUltiMate 3000 HPLCシステム(Dionex)で200mM NaCl、100mMクエン酸(pH2.5)を用いてマトリックスから溶出させた。溶出されたタンパク質を、UV吸光度およびピーク面積の積分によって定量した。精製された標準IgG1抗体は標準としての役目を果たした。
【0130】
タンパク質の精製
分泌された抗体を、上清から、2工程で、プロテインAセファロース(登録商標)(GE Healthcare, Sweden)を使用したアフィニティクロマトグラフィー、およびSuperdex200サイズ排除クロマトグラフィーによって精製した。簡潔に言うと、二重特異的および三重特異的抗体を含む清澄化された培養上清を、PBS緩衝液(10mM Na2HPO4、1mM KH2PO4、137mM NaClおよび2.7mM KCl、pH7.4)を用いて平衡化されたHiTrapプロテインA HP(5ml)カラムにアプライした。非結合タンパク質を平衡緩衝液を用いて洗浄除去した。二重特異的抗体を、0.1Mクエン酸緩衝液(pH2.8)を用いて溶出し、そしてタンパク質を含む画分を、0.1mlの1Mトリス(pH8.5)を用いて中和した。その後、溶出したタンパク質画分をプールし、3mlの容量となるまでAmicon Ultra遠心式フィルター装置(MWCO:30K、Millipore)を用いて濃縮し、そして20mMヒスチジン、140mM NaCl(pH6.0)を用いて平衡化されたSuperdex200 HiLoad 120 ml 16/60ゲルろ過カラム(GE Healthcare, Sweden)にローディングした。単量体の抗体画分をプールし、瞬時に凍結させ、そして−80℃で保存した。試料の一部を、その後のタンパク質分析および特徴付けのために提供した。
【0131】
精製タンパク質の分析
精製されたタンパク質試料のタンパク質濃度を、アミノ酸配列に基づいて計算したモル吸光係数を使用して、280nmにおける吸光度(OD)を測定することによって決定した。二重特異的抗体の純度を、還元剤(5mMの1,4−ジチオトレイトール)の存在下および非存在下におけるSDS−PAGE並びにクーマシーブリリアントブルーを用いての染色によって分析した。NuPAGE(登録商標)Pre-Castゲルシステム(Invitrogen, USA)を製造業者の指示に従って使用した(4〜20%トリス−グリシンゲル)。二重特異的抗体試料の凝集内容物を、UltiMate 3000 HPLCシステム(Dionex)での高速SECによって、25℃の200mM KH2PO4、250mM KCl(pH7.0)のランニング緩衝液中のSuperdex 200分析サイズ排除カラム(GE Healthcare, Sweden)を使用して分析した。25μgのタンパク質を0.5ml/分の流速でカラムに注入し、そして50分間かけて均一濃度で溶出させた。安定性の分析のために、0.1mg/ml、1mg/mlおよび3mg/mlの濃度の精製タンパク質を調製し、そして4℃、37℃で7日間インキュベーションし、その後、高速SECによって評価した。還元された二重特異的抗体の軽鎖および重鎖のアミノ酸骨格の完全性を、ペプチド−N−グリコシダーゼF(Roche Molecular Biochemicals)を用いての酵素的処理によってN−グリカンを除去した後に、ナノエレクトロスプレーQ−TOF質量分析によって確認した。
【0132】
実施例1
ヒトIGF−1レセプター並びにヒトEGF−レセプターを認識する分子である本発明による多重特異的抗体の設計
以下に、本発明の1つの態様として、第1の抗原(IGF−1RまたはEGFR)に結合する完全長抗体を、完全長抗体にペプチドコネクターを介して接続された第2の異なる抗原(IGF−1RまたはEGFRのもう一方)に結合する2つの単鎖Fabフラグメント(重鎖の2つのC末端または軽鎖の2つのC末端における両方の単鎖Fabフラグメント)と共に含む、4価の二重特異的な抗体を例示する。前記の単鎖Fabフラグメント中の抗体ドメインおよびリンカーは、N末端からC末端の方向に以下の順序を有する:VL−CL−リンカー−VH−CH1。
【0133】
<IGF−1R>抗原結合部位のための重鎖可変ドメインVHとして、配列番号15を使用した。<IGF−1R>抗原結合部位のための軽鎖可変ドメインVLとして、配列番号16を使用した。
【0134】
<EGFR>抗原結合部位のための重鎖可変ドメインVHとして、配列番号7を使用した。<EGFR>抗原結合部位のための軽鎖可変ドメインVLとして、配列番号8を使用した。
【0135】
遺伝子合成および組換え分子生物学技術によって、それぞれの抗原結合部位のVHおよびVLを含む、VL−CLおよびVH−CH1を、グリシンセリン(G4S)n単鎖リンカーによって連結して、短鎖FabフラグメントVL−CL−リンカー−VH−CH1を得、これを、(G4S)nリンカーを使用して抗体重鎖または軽鎖のC末端に付着した。
【0136】
場合により、シスチン残基を、以前に記載されたような技術(例えばWO 94/029350; Reiter, Y., et al., Nature biotechnology 14 (1996) 1239-1245; Young, N.M., et al., FEBS Letters 377 (1995) 135-139;またはRajagopal, V., et al., Protein Engineering 10 (1997) 1453-59)に従って単鎖FabフラグメントのVH(Kabat44位を含む)およびVL(Kabat100位を含む)ドメインに導入した。
【0137】
全てのこれらの分子を組換え産生し、精製し、そして特徴付け、そしてタンパク質の発現、安定性および生物学的活性を評価した。
【0138】
4価の二重特異的な<EGFR−IGF−1R>、<IGF−1R−EGFR>抗体を生成するために適用した多重特異的抗体の設計の要約を表1に示す。この研究のために、本発明者らは、種々の4価のタンパク質実体を記載するために「scFab−Ab」という用語を使用する。設計したフォーマットの代表を図4および5に示し、そして表1に列挙する。
【0139】
【表1】
【0140】
実施例2
二重特異的<EGFR−IGF1R>抗体scFabXGFR1分子の発現および精製
対応する二重特異的抗体の軽鎖および重鎖を、原核細胞および真核細胞選択マーカーを有する発現ベクター中に構築した。これらのプラスミドをE.coliにおいて増幅させ、精製し、そしてその後、HEK293F細胞における組換えタンパク質の一過性発現のためにトランスフェクションした(Invitrogenのfreesyleシステムを使用)。7日後、HEK293細胞上清を収集し、そしてプロテインAおよびサイズ排除クロマトグラフィーによって精製した。全ての二重特異的抗体構築物の均一性を、非還元条件下および還元条件下においてSDS−PAGEによって確認した。還元条件下において(図8)、C末端およびN末端scFab融合体を有するポリペプチド鎖は、SDS−PAGE時に、計算された分子量に類似した見かけの分子サイズを示した。全ての構築物の発現レベルをプロテインA HPLCによって分析し、そして「標準的な」IgGの発現収量に類似していたか、またはいくつかの場合においては幾分低かった。平均タンパク質収量は、このような最適化されていない一過性発現実験において細胞培養上清1リットルあたり1.5〜10mgのタンパク質であった(図4および5)。
【0141】
精製タンパク質のHPサイズ排除クロマトグラフィー分析は、組換え分子が凝集するという幾分の傾向を示した。このような二重特異的抗体の凝集による問題に対処するために、追加した結合部分のVHとVLとの間のジスルフィドによる安定化を行なった。そのために、本発明者らは、scFabのVHおよびVL内の規定の位置に1つのシステイン置換を導入した(KabatのナンバリングスキームによるとVH44/VL100位)。これらの突然変異は、VHとVLとの間の安定な鎖間ジスルフィドの形成を可能とし、これは次いで、生じるジスルフィドにより安定化されたscFabモジュールを安定化させる。scFabへのVH44/VL100ジスルフィドの導入はタンパク質発現レベルに有意に干渉せず、そしていくつかの場合においては発現収量を改善さえした(図4および5参照)。
【0142】
二重特異的抗体を、FreeStyle(登録商標)293発現系を使用して、製造業者の指示(Invitrogen, USA)に従って、ヒト胚腎臓293−F細胞の一過性トランスフェクションによって発現させた。簡潔に言うと、FreeStyle(登録商標)293−F細胞懸濁液を、37℃/8%CO2でFreeStyle(登録商標)293発現培地中で培養し、そして細胞をトランスフェクションの日に1〜2×106個の生細胞/mlの密度で新鮮な培地に播種した。DNA−293fectin(登録商標)複合体を、250mlの最終トランスフェクション容量に対して333μlの293fectin(登録商標)(Invitrogen, Germany)および1:1のモル比の250μgの重鎖および軽鎖プラスミドDNAを使用して、Opti-MEM(登録商標)培地(Invitrogen, USA)中で調製した。組換え抗体誘導体を含む細胞培養上清を、トランスフェクションから7日後に、14000gで30分間の遠心分離および滅菌フィルター(0.22μm)を通してのろ過によって清澄化した。上清を精製まで−20℃で保存した。
【0143】
分泌された抗体誘導体を、上清から、2工程で、プロテインAセファロース(登録商標)(GE Healthcare, Sweden)を使用したアフィニティクロマトグラフィー、およびSuperdex200サイズ排除クロマトグラフィーによって精製した。簡潔に言うと、二重特異的および三重特異的抗体を含む清澄化された培養上清を、PBS緩衝液(10mM Na2HPO4、1mM KH2PO4、137mM NaClおよび2.7mM KCl、pH7.4)を用いて平衡化されたHiTrapプロテインA HP(5ml)カラムにアプライした。非結合タンパク質を平衡緩衝液を用いて洗浄除去した。抗体誘導体を、0.1Mクエン酸緩衝液(pH2.8)を用いて溶出し、そしてタンパク質を含む画分を、0.1mlの1Mトリス(pH8.5)を用いて中和した。その後、溶出したタンパク質画分をプールし、3mlの容量となるまでAmicon Ultra遠心式フィルター装置(MWCO:30K、Millipore)を用いて濃縮し、そして20mMヒスチジン、140mM NaCl(pH6.0)を用いて平衡化されたSuperdex200 HiLoad 120 ml 16/60ゲルろ過カラム(GE Healthcare, Sweden)にローディングした。単量体の抗体画分をプールし、瞬時に凍結させ、そして−80℃で保存した。試料の一部を、その後のタンパク質分析および特徴付けのために提供した。精製タンパク質のSDS−PAGE分析の例および二重特異的抗体誘導体のHPサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)のプロファイルを図8および9に示す。
【0144】
図5は、一過性発現系において観察された発現収量を列挙する。設計された全ての抗体誘導体を、さらなる分析のために十分量で発現および精製することができた。
【0145】
比較理由のために、2つのscFvフラグメントが、ペプチドリンカーを介して、WO 1995/009917およびMueller D., et al, Handbook of Therapeutic antibodies, Part III, Chapter 2, (2008) 345-378に記載のように重鎖のC末端において融合している、完全長抗体に基づいた4価の二重特異的抗体を調製し、そして命名した。それが代わりに有するscFabの代わりに。<IGF−1R>抗原結合部位のための重鎖可変ドメインVHとして、配列番号15を使用した。<IGF−1R>抗原結合部位のための軽鎖可変ドメインVLとして、配列番号16を使用した。<EGFR>抗原結合部位のための重鎖可変ドメインVHとして、配列番号7を使用した。<EGFR>抗原結合部位のための軽鎖可変ドメインVLとして、配列番号8を使用した。この比較分子はXGFR1_2320と命名される(そしてまたPCT PCT/EP2009/006782にも記載されている)。
【0146】
【表2】
【0147】
二重特異的単鎖Fv分子XGFR1−2320は、精製後に0.27mgの最終収量を有し、一方で対応する単鎖Fab分子XGFR1−2720は、6.8mgの最終収量を有し(図4の化合物A参照)、これは200倍を超える収量の増加を示す。
【0148】
実施例3
二重特異的<EGFR−IGF1R>抗体scFab−XGFR分子の安定性および凝集傾向
HPサイズ排除クロマトグラフィー分析を行ない、組換え抗体誘導体の調製物中に存在する凝集体の量を決定した。そのために、二重特異的抗体試料を、Superdex 200分析用サイズ排除カラム(GE Healthcare, Sweden)を使用して、UltiMate 3000 HPLCシステム(Dionex)での高速SECによって分析した。図9は、これらの分析の一例を示す。凝集体は、単量体の抗体誘導体を含む画分の前に別々のピークまたはショルダーとして出現する。この研究のために、本発明者らは、所望の「単量体」分子を、両方のいずれかに接続されたscFabを有する、重鎖および軽鎖の2つのヘテロ二量体からなると定義する。還元された二重特異的抗体の軽鎖および重鎖のアミノ酸骨格の完全性並びに融合タンパク質を、ペプチド−N−グリコシダーゼF(Roche Molecular Biochemicals)を用いての酵素的処理によってN−グリカンを除去した後に、ナノエレクトロスプレーQ−TOF質量分析によって確認した。
【0149】
種々の条件下(種々の濃度および時間)における精製タンパク質のHPサイズ排除クロマトグラフィー分析は、正常なIgGと比較して、scFabを含む分子については凝集する軽い傾向を示した。いくつかの分子について本発明者らが観察したこの軽い凝集傾向は、scFabモジュールへのVH44/VL100鎖間ジスルフィド結合の導入によって軽減することができた。
【0150】
実施例4
RTKであるEGFRおよびIGF1Rへの二重特異的<EGFR−IGF1R>抗体scFab分子の結合
種々の二重特異的抗体フォーマットscFab−XGFRのscFabモジュールの結合と、保持された完全長のIgGモジュールの抗原結合部位の結合とを、結合モジュールおよび二重特異的抗体の由来する「野生型」IgGの結合と比較した。これらの分析を、表面プラズモン共鳴(Biacore)並びに細胞ELISAを適用することによって行なった。
【0151】
二重特異的<IGF−1R−EGFR>抗体の結合特性を、Biacore T100機器(GE Healthcare Bio-Sciences AB, Uppsla)を使用する表面プラズモン共鳴(SPR)技術によって分析した。このシステムは、分子の相互作用の研究のために十分に確立されている。それはリガンド/アナライトの結合の連続的でリアルタイムなモニタリングを可能とし、従って、種々のアッセイ環境において会合速度定数(ka)、解離速度定数(kd)および平衡定数(KD)の決定を可能とする。SPR技術は、金でコーティングされたバイオセンサーチップの表面に近い屈折率の測定に基づく。屈折率の変化は、固定したリガンドと、溶液中に注入したアナライトとの相互作用によって引き起こされる表面上における質量変化を示す。分子が表面上に固定されたリガンドに結合すれば、質量は増加し、解離の場合には質量は減少する。
【0152】
キャプチャー抗ヒトIgG抗体を、アミンカップリング化学反応を使用してClバイオセンサーチップの表面上に固定した。フローセルを、5μl/分の流速の0.1MのN−ヒドロキシスクシンイミドおよび0.1Mの3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピル−N−エチルカルボジイミドの1:1混合物を用いて活性化した。酢酸ナトリウム(pH5.0)中5μg/mlの抗ヒトIgG抗体を注入し、これにより、約200RUの表面密度が得られた。リファレンス対照フローセルを同じように処理したが、キャプチャー抗体の代わりにビヒクル緩衝液のみで処理した。表面を、1Mエタノールアミン/HCl(pH8.5)の注入により遮断した。二重特異的抗体をHBS−P中で希釈し、そして5μl/分の流速で注入した。1〜5nMの濃度の抗体についての接触時間(結合相)は1分間であった。EGFR−ECDを、1.2、3.7、11.1、33.3、100および300nMの漸増濃度で注入し、IGF−1Rを0.37、1.11、3.33、10、30および90nMの濃度で注入した。30μl/分の流速での両方の分子についての接触時間(結合相)は3分間であり、解離時間(ランニング緩衝液を用いての洗浄)は5分間であった。全ての相互作用は25℃(標準温度)で行なわれた。0.85%リン酸および5mMの水酸化ナトリウムの再生溶液を、各々5μl/分で60秒間注入して、各結合サイクルの後のあらゆる非共有結合的に結合したタンパク質を除去した。シグナルは、1秒間あたり1つのシグナルの割合で検出された。試料を、漸増濃度で注入した。
【0153】
EGFRおよびIGF1Rへの二重特異的抗体<IGF−1R−EGFR>抗体の同時結合の例を、図10a〜dに示す。
【0154】
【表3】
【0155】
培養細胞上におけるFACSに基づいた結合分析および競合分析を適用して、細胞表面上に曝されたRTKに対する二重特異的抗体誘導体の結合能も評価することができる。図11は、A549癌細胞上におけるscFabを含む二重特異的XGFR誘導体の結合能を試験するために本発明者らが使用した実験設定を示す。これらの細胞競合アッセイのために、抗原のEGFR並びにIGF1Rを発現するA549細胞を脱着させ、そして計測した。コニカル底96ウェルプレートの1ウェルあたり1.5×105個の細胞を播種した。細胞を遠心分離で沈降させ(1500rpm、4℃、5分間)、そして1μg/mLのAlexa647標識IGF1R特異的抗体を含む2%FCS(ウシ胎児血清)を含むPBS中の50μLのそれぞれの二重特異的抗体の連続希釈液中で氷上で45分間インキュベーションした。細胞を再度遠心分離して沈降させ、そして2%FCSを含む200μLのPBSで2回洗浄した。最後に、細胞を、BD CellFix溶液(BD Biosciences)中に再懸濁し、そして少なくとも10分間氷上でインキュベーションした。細胞の平均蛍光強度(mfi)をフローサイトメトリー(FACS Canto)によって決定した。Mfiを、少なくとも2回の2つの独立した染色において決定した。フローサイトメトリースペクトルを、FlowJoソフトウェア(TreeStar)を使用してさらに処理した。最大半量の結合を、XLFit 4.0 (IDBS)および用量応答1部位モデル(dose response one site model)205を使用して決定した。
【0156】
図12a〜cに示されるこれらのアッセイの結果は、腫瘍細胞の表面上における二重特異的scFabを含む抗体誘導体の結合機能性を実証する。例えば、二重特異的抗体誘導体scFab−XGFR1_2721の競合実験におけるIC50は0.11μg/mlであり、一方、単一特異的抗体のIC50は50%より高かった(0.18μg/ml)。競合アッセイにおける親抗体と比較した二重特異的scFab−XGFR_2721誘導体のこの増加した活性は、二重特異的分子が、単一特異的抗体よりも細胞表面に、より良好に結合することを示唆する。
【0157】
実施例5
二重特異的<EGFR−IGF−1R>抗体scFab−XGFR分子による、EGFR並びにIGF−1Rのダウンレギュレーション
ヒト抗IGF−1R抗体<IGF−1R>HUMABクローン18(DSM ACC 2587)は、IGFR1シグナル伝達を阻害し、そしてヒト化ラット抗EGFR抗体<EGFR>ICR62はEGFRによるシグナル伝達を阻害する。種々のscFab−XGFR1変異体の可能性ある阻害活性を評価するために、両方のレセプターのダウンレギュレーション度を分析した。
【0158】
腫瘍細胞におけるIGF−1レセプター(IGF−1R)の量に対する本発明の抗体の効果を検出するために、IGF−1RおよびEGFRに特異的な抗体を用いての時間経過実験およびその後のELISA分析を実施した。
【0159】
6ウェルプレートに、1ウェルあたり、10%FCS(PAA、製造番号E15-039)および1%PenStrepの補充されたRPMI 1640中のヒト腫瘍細胞(H322M、5×105個の細胞/ml)を接種した。3mlの培地を各ウェルに加え、そして細胞を37℃および5%CO2で24時間培養した。
【0160】
培地を注意深く除去し、そしてRPMI−VM培地中に希釈した2mlの100nM XGFR抗体によって置き換えた。対照ウェルにおいては、培地を、抗体を含まない培地および緩衝液、並びに対照抗体(<IGF−1R>HUMABクローン18および<EGFR>ICR62の最終濃度100nM)を含む培地のいずれかによって置き換えた。細胞を37℃および5%CO2でインキュベーションし、そして個々のプレートを24時間後にさらに処理するために取り出した。
【0161】
培地を吸引によって注意深く除去し、そして細胞を1mlのPBSで洗浄した。300μl/ウェルの冷MES溶解緩衝液を加えた(MES、10mM Na3VO4、およびComplete(登録商標)プロテアーゼ阻害剤)。1時間後、細胞をセルスクレーパー(Corning、製造番号3010)を使用して氷上で脱着させ、そしてウェル内容物をエッペンドルフ反応チューブに移した。細胞フラグメントを、13000rpmおよび4℃で10分間の遠心分離によって除去した。
【0162】
EGFRの検出のために
96ウェルマイクロタイタープレート(MTP)をプロトコール(ヒトEGFRのためのDuoSet ELISA、RnD systems、製造番号DY231)に従って調製した。PBS中144μg/mlのヒトEGFRヤギ抗体をPBS中で1:180に希釈し、そして100μl/ウェルをMTPに加えた。MTPを室温で撹拌しながら一晩インキュベーションした。プレートを、3回、0.1%Tween(登録商標)20の補充されたPBSで洗浄し、そして300μl/ウェルのPBS、3%BSAおよび0.1%Tween(登録商標)20溶液を用いて1時間かけて室温(RT)で撹拌しながら遮断した。プレートを、3回、0.1%Tween(登録商標)20の補充されたPBSで洗浄した。
【0163】
細胞溶解液中のタンパク質の量を、BCAプロテインアッセイキット(Pierce)を使用して決定し、その後、細胞溶解液を、100mMのNa3VO41:100およびComplete(登録商標)プロテアーゼ阻害剤1:20の補充されたMES溶解緩衝液を用いて0.04mg/mlのタンパク質濃度に調整し、そして1ウェルあたり100μlの溶解液を、予め調製されたMTPに加えた。バックグラウンド測定のために、100μlの溶解緩衝液をMTPのウェルに加えた。
【0164】
第2の細胞溶解液の濃度を0.025mg/mlで使用し、溶解液を1:2に希釈し、そして1ウェルあたり100μlを、予め調製されたMTPに加えた。MTPをさらに2時間室温で撹拌しながらインキュベーションし、その後、3回、0.1%Tween(登録商標)20溶液を含むPBSで洗浄した。
【0165】
EGFRのための検出抗体は、PBS、3%BSAおよび0.2%Tween(登録商標)20で1:180に希釈された36μg/mlの濃度のヒトEGFRヤギビオチニル化抗体であった。1ウェルあたり100μlを加え、そして室温で2時間撹拌しながらインキュベーションした。その後、MTPを、3回、1ウェルあたり、0.1%Tween(登録商標)20溶液を含む200μlのPBSで洗浄した。その後、PBS、3%BSAおよび0.2%Tween(登録商標)20中の1:200のストレプトアビジン−HRPを、1ウェルあたり100μl加え、そして撹拌しながら20分間室温でインキュベーションした。その後、プレートを、6回、0.1%Tween(登録商標)20溶液を含むPBSで洗浄した。1ウェルあたり100μlの3,3’−5,5’−テトラメチルベンジジン(Roche, BM-Blue ID番号: 11484581)を加え、そして20分間室温で撹拌しながらインキュベーションした。1ウェルあたり25μlの1M H2SO4を加え、そしてさらに5分間室温でインキュベーションすることによって色反応を停止した。450nmにおける吸光度を測定した。
【0166】
IGF−1Rの検出のために
ストレプトアビジン−MTP(Roche ID番号: 11965891001)を、PBS、3%BSAおよび0.2%Tween(登録商標)20中で1:200に希釈したAK1aビオチニル化抗体(Genmab, Denmark)を1ウェルあたり100μl加えることによって調製した。ストレプトアビジン−MTPを1時間室温で撹拌しながらインキュベーションし、その後、3回、1ウェルあたり、0.1%Tween(登録商標)20溶液を含む200μlのPBSで洗浄した。
【0167】
細胞溶解液中のタンパク質の量を、BCAプロテインアッセイキット(Pierce)を使用して決定し、その後、細胞溶解液を、50mMトリスpH7.4、100mM Na3VO4 1:100およびComplete(登録商標)プロテアーゼ阻害剤1:20を用いて0.3mg/mlのタンパク質濃度に調整し、そして1ウェルあたり100μlの溶解液を、予め調製されたストレプトアビジン−MTPに加えた。
【0168】
第2の細胞溶解液の濃度を0.15mg/mlで使用し、溶解液を希釈し、そして1ウェルあたり100μlを、予め調製されたストレプトアビジン−MTPに加えた。バックグラウンド測定のために、100μlの溶解緩衝液をストレプトアビジン−MTPのウェルに加えた。
【0169】
MTPを、さらに1時間室温で撹拌しながらインキュベーションし、その後、3回、0.1%Tween(登録商標)20溶液を含むPBSで洗浄した。
【0170】
IGF−1Rのための検出抗体は、PBS、3%BSAおよび0.2%Tween(登録商標)20中で1:750に希釈したヒトIGF−1Rβウサギ抗体(Santa Cruz Biotechnology、製造番号sc-713)であった。1ウェルあたり100μlを加え、そして室温で1時間撹拌しながらインキュベーションした。その後、MTPを、3回、1ウェルあたり、0.1%Tween(登録商標)20溶液を含む200μlのPBSで洗浄した。その後、二次抗体である、PBS、3%BSAおよび0.2%Tween(登録証用)20中のウサギIgG−POD(Cell signaling、製造番号7074)1:4000を、1ウェルあたり100μl加え、そして撹拌しながら1時間室温でインキュベーションした。その後、プレートを、6回、0.1%Tween(登録商標)20溶液を含むPBSで洗浄した。1ウェルあたり100μlの3,3’−5,5’−テトラメチルベンジジン(Roche, BM-Blue ID番号: 11484581)を加え、そして20分間室温で撹拌しながらインキュベーションした。1ウェルあたり25μlの1M H2SO4を加え、そしてさらに5分間室温でインキュベーションすることによって色反応を停止した。450nmにおける吸光度を測定した。
【0171】
A549細胞における親の単一特異的な抗体<EGFR>ICR62および<IGF−1R>HUMAB−クローン18と比較した、二重特異的scFabを含むXGFR分子によるレセプターダウンレギュレーションの検出の結果を図13および14に示す。二重特異的抗体のscFab−XGFRは、EGFR並びにIGF1Rの両方をダウンレギュレーションする。これは、結合モジュールの完全な機能性(生物学的機能性)および表現型の媒介が保持されていることを示す。図14はまた、驚くべきことに、二重特異的抗体scFab−XGFR_2720が、親の<EGFR>ICR62抗体のみと比較して、EGFRの改善されたダウンレギュレーションを示したことを示す。
【0172】
scFabを含むXGFR1変異体は、同じモル数で同じアッセイに適用された場合に、野生型抗体と同じまたはそれよりも良好な活性を示したという事実は、scFab−XGFR1分子が、両方のシグナル伝達経路に干渉することができることを示す。
【0173】
実施例6
in vitroにおけるscFab−XGFR1およびscFab−XGFR2により媒介される腫瘍細胞株の増殖阻害
ヒト抗IGF−1R抗体<IGF−1R>HUMABクローン18(DSM ACC 2587)は、IGF1Rを発現する腫瘍細胞株の増殖を阻害する(WO 2005/005635)。同じように、ヒト化ラット抗EGFR抗体<EGFR>ICR62は、EGFRを発現する腫瘍細胞株の増殖を阻害することが示された(WO 2006/082515)。腫瘍細胞株の増殖アッセイにおいて種々のscFab−XGFR1変異体の可能性ある阻害活性を評価するために、EGFR並びにIGF1Rを発現するH322M細胞における阻害度を分析した。
【0174】
H322M細胞(5000個の細胞/ウェル)を、ポリ−HEMA(ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート))でコーティングされたディッシュ上の、10%FCSの補充されたRPMI 1640培地中で培養して、プラスチック表面への接着を防いだ。これらの条件下で、H322M細胞は、3次元的に増殖する濃密な球状体を形成する(足場非依存性と呼ばれる特性)。これらの球状体は、in-situにおける固形腫瘍の3次元組織構築および構造に非常に類似している。球状体培養液を、7日間、100nMの抗体の存在下においてインキュベーションした。Celltiter Glow発光アッセイを使用して、増殖阻害を測定した。H322M球状体培養液を<IGF−1R>HUMAB−クローン18で処理した場合、増殖の阻害を観察することができた。
【0175】
図15は、100nMの<IGF−1R>HUMAB−クローン18の適用が、細胞増殖を72%減少させ、そして100nMの<EGFR>ICR62の適用が同じアッセイにおいて細胞増殖を77%減少させたことを示す。両方の抗体の同時適用により(両方共に100nMの同じ濃度で)、細胞生存度は完全に減少した(100%の阻害)。このことは、両方のRTK経路の同時干渉は、ただ1つの経路のみの干渉よりも、腫瘍細胞株に対してより顕著な作用を及ぼすことを示す。100nMのモル濃度の種々のscFab−XGFR1変異体の適用により、単一の分子のみを用いて観察されたよりも顕著なより高度な増殖阻害が得られた。事実、100nMの抗体濃度において、種々のscFab−XGFR1変異体は、細胞増殖の完全な(100%)阻害を示し、一方、単一モジュールの適用は部分的な阻害しか引き起こさなかった。
【0176】
本発明者らは、scFab−XGFR1分子が、EGFRシグナル伝達またはIGF1Rシグナル伝達のいずれかを単独に干渉するIgGと比較して、顕著に増加した増殖阻害活性を有すると結論づける。
【技術分野】
【0001】
本発明は、完全長抗体と単鎖Fabフラグメントとを含む、多重特異的、特に二重特異的抗体、その産生のための方法、前記抗体を含む薬学的組成物、並びにその使用に関する。
【0002】
発明の背景
最近、例えばIgG抗体フォーマットと単鎖ドメインとの融合による4価の二重特異的抗体などの、多種多様な多重特異的組換え抗体フォーマットが開発されている(例えば、Coloma, M.J., et al., Nature Biotech 15 (1997) 159-163; WO 2001/077342;およびMorrison, S.L., Nature Biotech 25 (2007) 1233-1234を参照されたい)。
【0003】
また、2つ以上の抗原に結合することのできる、ダイアボディ、トリアボディまたはテトラボディ、ミニボディ、いくつかの単鎖フォーマット(scFv、Bis−scFv)などの、抗体コア構造(IgA、IgD、IgE、IgGまたはIgM)がもはや保持されていないいくつかの他の新たなフォーマットも開発されている(Holliger, P., et al., Nature Biotech 23 (2005) 1126-1136; Fischer, N., Leger, O., Pathobiology 74 (2007) 3-14; Shen, J., et al., Journal of Immunological Methods 318 (2007) 65-74; Wu, C., et al., Nature Biotech. 25 (2007) 1290-1297)。
【0004】
全てのこのようなフォーマットは、抗体コア(IgA、IgD、IgE、IgGもしくはIgM)をさらなる結合タンパク質(例えばscFv)に融合させるため、または例えば2つのFabフラグメントもしくはscFvsを融合するためのいずれかのために、リンカーを使用する(Fischer, N., Leger, O., Pathobiology 74 (2007) 3-14)。天然に存在する抗体に対する高度の類似性を維持することによって、Fcレセプター結合を通して媒介される、例えば補体依存性細胞障害作用(CDC)または抗体依存性細胞介在性細胞障害作用(ADCC)などのエフェクター機能を保持したいと思うかもしれないことを心に留めておかなければならない。
【0005】
WO2007/024715において、操作された多価および多重特異的結合タンパク質などの二重可変ドメイン免疫グロブリンが報告されている。生物学的に活性な抗体二量体の調製のための過程は、US6,897,044に報告されている。ペプチドリンカーを介して互いに連結された少なくとも4つの可変ドメインを有する多価Fv抗体構築物が、US7,129,330に報告されている。二量体および多量体抗原結合構造がUS2005/0079170に報告されている。接続構造によって互いに共有結合した3つまたは4つのFabフラグメントを含む3価または4価の単一特異的な抗原結合タンパク質(このタンパク質は天然の免疫グロブリンではない)が、US6,511,663に報告されている。WO2006/020258において、原核細胞および真核細胞において効率的に発現され得、そして、治療法および診断法において有用である、4価の二重特異的な抗体が報告されている。2種類のポリペプチド二量体を含む混合物からの、少なくとも1つの鎖間ジスルフィド結合を介して連結されていない二量体から、少なくとも1つの鎖間ジスルフィド結合を介して連結されている二量体を分離または優先的に合成する方法が、US2005/0163782に報告されている。二重特異的な4価のレセプターが、US5,959,083に報告されている。3つ以上の機能的抗原結合部位を有する工学操作された抗体が、WO2001/077342に報告されている。
【0006】
多重特異的および多価の抗原結合ポリペプチドが、WO1997/001580に報告されている。WO1992/004053は、同じ抗原性決定基に結合するIgGクラスのモノクローナル抗体から典型的には調製されたホモコンジュゲートが、合成的な架橋によって共有結合的に連結されていることを報告する。抗原に対する高い結合力を有するオリゴマー性モノクローナル抗体がWO1991/06305に報告されており、それによると、一緒に会合して4価または6価のIgG分子を形成している2つ以上の免疫グロブリンモノマーを有する典型的にはIgGクラスのオリゴマーが分泌される。ヒツジ由来抗体および工学操作された抗体構築物がUS6,350,860に報告され、これはインターフェロンγ活性が病原性である疾病を処置するために使用することができる。US2005/0100543においては二重特異的抗体の多価保有体である標的可能な構築物が報告されており、すなわち、標的可能な構築物の各分子は、2つ以上の二重特異的抗体の保有体として作用することができる。遺伝子工学操作された二重特異的4価抗体がWO1995/009917に報告されている。WO2007/109245において、安定化されたscFvからなるまたは含む安定化された結合分子が報告されている。
【0007】
Mueller, D., et al., Handbook of Therapeutic antibodies, Part III, Chapter 2, (2008) 345-378は、二重特異的抗体、例えば、2つのscFvフラグメントが重鎖のC末端においてペプチドリンカーを介して融合している完全長の抗体を言及している(また、WO1995/009917も参照)。Hust, M., et al., BMC Biotechnology (2007) 7は、単鎖Fab(scFab)フラグメントを言及している。
【0008】
しかしながら、多重特異的抗体の種々の問題および局面の観点から(例えば薬物動態特性および生物学的特性、安定性、凝集、発現収量)、さらに他の代替的な多重特異的抗体フォーマットが必要である。WO 1995/009917およびMueller D., et al., Handbook of Therapeutic antibodies, Part III, Chapter 2, (2008) 345-378に報告された特に遺伝子工学操作された二重特異的4価抗体は、非常に低い発現収量しか示さなかった。
【0009】
発明の要約
本発明の第1の局面は、
a)第1抗原に特異的に結合し、そして2つの抗体重鎖および2つの抗体軽鎖からなる、完全長の抗体;並びに
b)1〜4つのさらなる抗原に特異的に結合する(好ましくは1つのさらなる抗原に特異的に結合する)1つ以上の単鎖Fabフラグメント
(ここで、b)の下の前記の単鎖Fabフラグメントは、前記の完全長抗体の重鎖または軽鎖のC末端またはN末端においてペプチドコネクターを介してa)の下の前記の完全長抗体に融合している)
を含む、多重特異的抗体である。
【0010】
本発明の好ましい局面は、
a)第1抗原に特異的に結合し、そして2つの抗体重鎖および2つの抗体軽鎖からなる、完全長の抗体;並びに
b)1〜4つのさらなる抗原に特異的に結合する(好ましくは1つのさらなる抗原に特異的に結合する)1〜4つの単鎖Fabフラグメント
(ここで、b)の下の前記の単鎖Fabフラグメントは、前記の完全長抗体の重鎖または軽鎖のC末端またはN末端においてペプチドコネクターを介してa)の下の前記の完全長抗体に融合している)
を含む、多重特異的抗体である。
【0011】
好ましくは、前記の多重特異的抗体は、第2抗原に結合する1つまたは2つの単鎖Fabフラグメントを含む(二重特異的抗体)。
【0012】
好ましくは、前記の多重特異的抗体は、第2抗原に結合する2つの単鎖Fabフラグメントを含む(二重特異的抗体)。
【0013】
好ましくは、前記の多重特異的抗体は、第2抗原および第3抗原に結合する2つの単鎖Fabフラグメントを含む(三重特異的抗体)。
【0014】
本発明のさらなる局面は前記の多重特異的抗体の鎖をコードする核酸分子であり、単鎖Fabフラグメントが、前記の完全長抗体の重鎖または軽鎖のC末端またはN末端に融合している。
【0015】
本発明のまたさらなる局面は、前記の多重特異的抗体を含む薬学的組成物である。
【0016】
本発明による多重特異的抗体は、例えば2つのscFvフラグメントが重鎖のC末端においてペプチドリンカーを介して融合している完全長抗体と比較した場合、高い安定性、低い凝集傾向(例えば実施例2参照)などの価値ある特性を示した(WO 1995/009917またはMueller, D., et al., Handbook of Therapeutic antibodies, Part III, Chapter 2, (2008) 345-378を参照されたい)。本発明による多重特異的抗体は一方で、種々の抗原へのその結合に因る新たな特性を示し、そして他方で、その良好な安定性、低い凝集特性および価値ある薬物動態特性および生物学的特性に因り生産および医薬品製剤化にとって適している。そのIgコアおよび哺乳動物発現系において産生できることに因り、それらは依然としてADCCおよびCDCのような天然抗体の特性を保持する。
【0017】
本発明の詳細な説明
本発明の第1の局面は、
a)第1抗原に特異的に結合し、そして2つの抗体重鎖および2つの抗体軽鎖からなる、完全長抗体;並びに
b)1〜4つのさらなる抗原に特異的に結合する(好ましくは1つのさらなる抗原に特異的に結合する)1つ以上の単鎖Fabフラグメント
(ここで、b)の下の前記の単鎖Fabフラグメントは、前記の完全長抗体の重鎖または軽鎖のC末端またはN末端においてペプチドコネクターを介してa)の下の前記の完全長抗体に融合している)
を含む、多重特異的抗体である。
【0018】
本発明の好ましい局面は、
a)第1抗原に特異的に結合し、そして2つの抗体重鎖および2つの抗体軽鎖からなる、完全長抗体;並びに
b)1〜4つのさらなる抗原に特異的に結合する(好ましくは1つのさらなる抗原に特異的に結合する)1〜4つの単鎖Fabフラグメント
(ここで、b)の下の前記の単鎖Fabフラグメントは、前記の完全長抗体の重鎖または軽鎖のC末端またはN末端においてペプチドコネクターを介してa)の下の前記の完全長抗体に融合している)
を含む、多重特異的抗体である。
【0019】
1つの態様において、第2抗原に結合する1つまたは2つの同一の単鎖Fabフラグメントを、前記の完全長抗体の重鎖または軽鎖のC末端においてペプチドコネクターを介して前記の完全長抗体に融合する。
【0020】
1つの態様において、第2抗原に結合する1つまたは2つの同一の単鎖Fabフラグメントを、前記の完全長抗体の重鎖のC末端においてペプチドコネクターを介して前記の完全長抗体に融合する。
【0021】
1つの態様において、第2抗原に結合する1つまたは2つの同一の単鎖Fabフラグメントを、前記の完全長抗体の軽鎖のC末端においてペプチドコネクターを介して前記の完全長抗体に融合する。
【0022】
1つの態様において、第2抗原に結合する2つの同一の単鎖Fabフラグメントを、前記の完全長抗体の各重鎖または軽鎖のC末端においてペプチドコネクターを介して前記の完全長抗体に融合する。
【0023】
1つの態様において、第2抗原に結合する2つの同一の単鎖Fabフラグメントを、前記の完全長抗体の各重鎖のC末端においてペプチドコネクターを介して前記の完全長抗体に融合する。
【0024】
1つの態様において、第2抗原に結合する2つの同一の単鎖Fabフラグメントを、前記の完全長抗体の各軽鎖のC末端においてペプチドコネクターを介して前記の完全長抗体に融合する。
【0025】
「完全長抗体」という用語は、2つの「完全長抗体重鎖」および2つの「完全長抗体軽鎖」からなる抗体を示す(図1参照)。「完全長抗体重鎖」は、N末端からC末端の方向に、抗体重鎖可変ドメイン(VH)、抗体重鎖定常ドメイン1(CH1)、抗体ヒンジ領域(HR)、抗体重鎖定常ドメイン2(CH2)、および抗体重鎖定常ドメイン3(CH3)(VH−CH1−HR−CH2−CH3と略称される);並びに場合により、サブクラスIgEの抗体の場合には抗体重鎖定常ドメイン4(CH4)からなるポリペプチドである。好ましくは、「完全長抗体重鎖」は、N末端からC末端の方向に、VH、CH1、HR、CH2およびCH3からなるポリペプチドである。「完全長抗体軽鎖」は、N末端からC末端の方向に、抗体軽鎖可変ドメイン(VL)および抗体軽鎖定常ドメイン(CL)からなるポリペプチド(VL−CLと略称される)である。抗体軽鎖定常ドメイン(CL)はκ(カッパ)またはλ(ラムダ)であり得る。2つの完全長抗体鎖は、CLドメインとCH1ドメインとの間、および完全長抗体重鎖のヒンジ領域間がポリペプチド間ジスルフィド結合を介して一緒に連結されている。典型的な完全長抗体の例は、IgG(例えばIgG1およびIgG2)、IgM、IgA、IgDおよびIgEのような天然抗体である。本発明による完全長抗体は、単一の種、例えばヒトに由来し得るか、あるいはそれらはキメラ化またはヒト化抗体であってもよい。本発明による完全長抗体は、各々がVHとVLの対によって形成され、両方共に同じ抗原に特異的に結合する、2つの抗原結合部位を含む。前記の完全長抗体の重鎖または軽鎖のC末端は、前記の重鎖または軽鎖のC末端における最後のアミノ酸を示す。前記の完全長抗体の重鎖または軽鎖のN末端は、前記の重鎖または軽鎖のN末端における最後のアミノ酸を示す。
【0026】
「単鎖Fabフラグメント」(図2参照)は、抗体重鎖可変ドメイン(VH)、抗体定常ドメイン1(CH1)、抗体軽鎖可変ドメイン(VL)、抗体軽鎖定常ドメイン(CL)およびリンカーからなるポリペプチドであり、前記抗体ドメインおよび前記リンカーは、N末端からC末端の方向に以下の順序の1つを有し:a)VH−CH1−リンカー−VL−CL、b)VL−CL−リンカー−VH−CH1、c)VH−CL−リンカー−VL−CH1、またはd)VL−CH1−リンカー−VH−CL;そして、前記リンカーは、少なくとも30アミノ酸、好ましくは32〜50アミノ酸のポリペプチドである。前記の単鎖Fabフラグメントa)VH−CH1−リンカー−VL−CL、b)VL−CL−リンカー−VH−CH1、c)VH−CL−リンカー−VL−CH1およびd)VL−CH1−リンカー−VH−CLは、CLドメインとCH1ドメインとの間の天然のジスルフィド結合を介して安定化される。「N末端」という用語は、N末端の最後のアミノ酸を示し、「C末端」という用語はC末端の最後のアミノ酸を示す。
【0027】
好ましい態様において、前記の単鎖Fabフラグメント中の前記抗体ドメインおよび前記リンカーは、N末端からC末端の方向に以下の順序の1つを有する:
a)VH−CH1−リンカー−VL−CL、またはb)VL−CL−リンカー−VH−CH1、より好ましくはVL−CL−リンカー−VH−CH1。
【0028】
別の好ましい態様において、前記の単鎖Fabフラグメント中の前記抗体ドメインおよび前記リンカーは、N末端からC末端の方向に以下の順序の1つを有する:
a)VH−CL−リンカー−VL−CH1またはb)VL−CH1−リンカー−VH−CL。
【0029】
場合により前記の単鎖Fabフラグメントにおいて、CLドメインとCH1ドメインとの間の天然ジスルフィド結合に加えて、抗体重鎖可変ドメイン(VH)および抗体軽鎖可変ドメイン(VL)も、以下の位置の間でのジスルフィド結合の導入によってジスルフィド安定化されている:
i)重鎖可変ドメイン44位から軽鎖可変ドメイン100位、
ii)重鎖可変ドメイン105位から軽鎖可変ドメイン43位、または
iii)重鎖可変ドメイン101位から軽鎖可変ドメイン100位(ナンバリングは常にKabatのEUインデックスによる)。
【0030】
単鎖Fabフラグメントのこのようなさらなるジスルフィド安定化は、単鎖Fabフラグメントの可変ドメインVHとVLとの間のジスルフィド結合の導入によって達成される。単鎖Fvの安定化のための非天然ジスルフィド橋を導入するための技術は、例えば、WO 94/029350, Rajagopal, V., et al., Prot. Engin. 10 (1997) 1453-59; Kobayashi, H., et al., Nuclear Medicine & Biology, Vol. 25 (1998) 387-393;またはSchmidt, M., et al., Oncogene 18 (1999) 1711-1721に記載されている。1つの態様において、本発明による抗体に含まれる単鎖Fabフラグメントの可変ドメイン間の任意のジスルフィド結合は、重鎖可変ドメイン44位と軽鎖可変ドメイン100位との間にある。1つの態様において、本発明による抗体に含まれる単鎖Fabフラグメントの可変ドメイン間の任意のジスルフィド結合は、重鎖可変ドメイン105位と軽鎖可変ドメイン43位との間にある(ナンバリングは常にKabatのEUインデックスによる)。
【0031】
1つの態様において、単鎖Fabフラグメントの可変ドメインVHとVLとの間に前記の任意のジスルフィド安定化を含まない単鎖Fabフラグメントが好ましい。
【0032】
本発明内において使用する「ペプチドコネクター」という用語は、好ましくは合成起源であるアミノ酸配列を有するペプチドを示す。本発明によるこれらのペプチドコネクターは、単鎖Fabフラグメントを、完全長抗体のC末端またはN末端に融合させて、本発明による多重特異的抗体を形成するために使用される。好ましくは、b)の下での前記ペプチドコネクターは、少なくとも5アミノ酸の長さ、好ましくは5〜100の長さ、より好ましくは10〜50アミノ酸の長さを有するアミノ酸配列を有するペプチドである。1つの態様において、前記ペプチドコネクターは(GxS)nまたは(GxS)nGmであり、ただし、G=グリシン、S=セリン、および(x=3、n=3、4、5または6、およびm=0、1、2または3)または(x=4、n=2、3、4または5、およびm=0、1、2または3)、好ましくはx=4、n=2または3、より好ましくはx=4、n=2である。1つの態様において、前記ペプチドコネクターは(G4S)2である。
【0033】
本発明内において使用する「リンカー」という用語は、好ましくは合成起源であるアミノ酸配列を有するペプチドを示す。本発明によるこれらのペプチドは、a)VH−CH1をVL−CLに、b)VL−CLをVH−CH1に、c)VH−CLをVL−CH1に、またはd)VL−CH1をVH−CLに連結させて、本発明による以下の単鎖Fabフラグメントa)VH−CH1−リンカー−VL−CL、b)VL−CL−リンカー−VH−CH1、c)VH−CL−リンカー−VL−CH1、またはd)VL−CH1−リンカー−VH−CLを形成するために使用される。単鎖Fabフラグメント内の前記リンカーは、少なくとも30アミノ酸の長さ、好ましくは32〜50アミノ酸の長さを有するアミノ酸配列を有するペプチドである。1つの態様において、前記リンカーは(GxS)nであり、ただし、G=グリシン、S=セリン、(x=3、n=8、9または10、およびm=0、1、2または3)または(x=4、およびn=6、7または8、およびm=0、1、2または3)、好ましくはx=4、n=6または7、およびm=0、1、2または3、より好ましくはx=4、n=7、およびm=2である。1つの態様において、前記リンカーは(G4S)6G2である。
【0034】
前記の完全長抗体の重鎖または軽鎖の各C末端またはN末端に、b)の下の単鎖Fabフラグメントの唯1つだけを、同時に融合させることができる。このように8つまでの単鎖Fabフラグメントを前記の完全長抗体に融合させることができる。好ましくは、本発明による多重特異的抗体は、1〜4つの単鎖Fabフラグメントを含む。より好ましくは、本発明による多重特異的抗体は、2つの同一な単鎖Fabフラグメント(好ましくはVL−CL−リンカー−VH−CH1)を含み、この両方共が、a)の下の前記の完全長抗体の2つの重鎖の2つのC末端または2つの軽鎖の2つのC末端に融合している。このような融合により、2つの同一な融合ペプチド(i)重鎖および単鎖Fabフラグメント、またはii)軽鎖および単鎖Fabフラグメントのいずれか)が得られ、これはi)完全長抗体の軽鎖または重鎖のいずれかと同時発現され、これにより本発明による多重特異的抗体が得られる(図3、4および5参照)。
【0035】
別の好ましい態様において、本発明による多重特異的抗体は、2つの同一な単鎖Fabフラグメント(好ましくはVH−CH1−リンカー−VL−CL)を含み、この両方共が、a)の下の前記の完全長抗体の2つの重鎖の2つのN末端または2つの軽鎖の2つのN末端に融合している。このような融合により、2つの同一な融合ペプチド(i)重鎖および単鎖Fabフラグメント、またはii)軽鎖および単鎖Fabフラグメントのいずれか)が得られ、これはi)完全長抗体の軽鎖または重鎖のいずれかと同時発現され、これにより本発明による多重特異的抗体が得られる。
【0036】
本発明による多重特異的抗体の両方の部分が、抗原結合部位を含む(本発明による完全長抗体は、2つの抗原結合部位を含み、そして各単鎖Fabフラグメントは1つの抗原結合部位を含む)。本明細書において使用する「結合部位」または「抗原結合部位」という用語は、それぞれの抗原が実際に特異的に結合する本発明による前記の多重特異的抗体の領域(群)を示す。完全長抗体または単鎖Fabフラグメントのいずれかにおける抗原結合部位は各々、抗体軽鎖可変ドメイン(VL)および抗体重鎖可変ドメイン(VH)からなる対によって形成される。
【0037】
所望の抗原(例えばEGFR)に特異的に結合する抗原結合部位は、抗原に対する公知の抗体(例えば抗EGFR抗体)に由来し得るか、あるいはとりわけ抗原タンパク質もしくは核酸もしくはそのフラグメントのいずれかを使用した新規免疫化法によって、またはファージディスプレイによって得られた新たな抗体または抗体フラグメントに由来し得る。
【0038】
本発明の抗体の抗原結合部位は、抗原に対する結合部位の親和性に種々の程度で寄与する、6つの相補性決定領域(CDR)を含む。3つの重鎖可変ドメインCDR(CDRH1、CDRH2およびCDRH3)および3つの軽鎖可変ドメインCDR(CDRL1、CDRL2およびCDRL3)がある。CDRおよびフレームワーク領域(FR)の範囲は、そのような領域が配列間の違いによって定義された、編纂されたアミノ酸配列データベースとの比較によって決定される。
【0039】
抗体の特異性は、抗原の特定のエピトープに対する抗体の選択的認識を指す。例えば天然抗体は単一特異的である。本明細書において使用する「多重特異的」抗体という用語は、2つ以上の抗原結合部位を有し、その抗原結合部位の少なくとも2つが異なる抗原または同じ抗原の異なるエピトープに結合する、抗体を示す。本発明による「二重特異的抗体」は、2つの異なる抗原結合特異性を有する抗体である。本発明の抗体は、例えば、少なくとも2つの異なる抗原に対して、すなわち第1抗原としてのEGFRおよび第2抗原としてのIGF−1Rに対して多重特異的である。本発明の1つの態様において、本発明による多重特異的抗体は二重特異的である。本発明の別の態様において、本発明による多重特異的抗体は三重特異的である。
【0040】
本明細書において使用する「単一特異的」抗体という用語は、1つ以上の結合部位を有し、その結合部位の各々が、同じ抗原の同じエピトープに結合する、抗体を示す。
【0041】
本出願内において使用する「価」という用語は、抗体分子中における明記した数の結合部位の存在を示す。例えば天然抗体または本発明による完全長抗体は2つの結合部位を有し、そして2価である。従って、「3価」、「4価」、「5価」および「6価」という用語は、抗体分子における、それぞれ、2つの結合部位、3つの結合部位、4つの結合部位、5つの結合部位および6つの結合部位の存在を示す。本発明による多重特異的抗体は少なくとも「3価」である。好ましくはそれらは「3価」、「4価」、「5価」または「6価」であり、より好ましくはそれらは「3価」または「4価」である。
【0042】
本発明の抗体は3つ以上の結合部位を有し、そして多重特異的、好ましくは二重特異的または三重特異的である。本発明による多重特異的抗体は、3つを超える結合部位が存在する場合でさえも二重特異的である場合もある(すなわち、抗体は4価、5価または6価または多価である)。2つを超える抗原結合部位を有する抗体については、タンパク質が2つの異なる抗原に対する結合部位を有している限り、いくつかの結合部位は同一であり得る。
【0043】
本発明の別の態様は、
a)第1抗原に特異的に結合し、そして
aa)N末端からC末端の方向に、抗体重鎖可変ドメイン(VH)、抗体重鎖定常ドメイン1(CH1)、抗体ヒンジ領域(HR)、抗体重鎖定常ドメイン2(CH2)、および抗体重鎖定常ドメイン3(CH3)からなる、2つの同一の抗体重鎖;および
ab)N末端からC末端の方向に、抗体軽鎖可変ドメイン(VL)および抗体軽鎖定常ドメイン(CL)(CL−CL)からなる、2つの同一な抗体軽鎖
からなる、完全長抗体;並びに
b)1〜4つのさらなる抗原に特異的に結合する(好ましくは1つのさらなる抗原に特異的に結合する)1〜4つの単鎖Fabフラグメント
(ここで、単鎖Fabフラグメントは、抗体重鎖可変ドメイン(VH)および抗体定常ドメイン1(CH1)、抗体軽鎖可変ドメイン(VL)、抗体軽鎖定常ドメイン(CL)およびリンカーからなり、そして前記抗体ドメインおよび前記リンカーは、N末端からC末端の方向に以下の順序の1つを有する:
ba)VH−CH1−リンカー−VL−CL、bb)VL−CL−リンカー−VH−CH1、bc)VH−CL−リンカー−VL−CH1、またはbd)VL−CH1−リンカー−VH−CL(ここで、前記リンカーは、少なくとも30アミノ酸、好ましくは32〜50アミノ酸のペプチドである))
(ここで、b)の下の前記の単鎖Fabフラグメントは、前記の完全長抗体の重鎖または軽鎖のC末端またはN末端においてペプチドコネクターを介してa)の下の前記の完全長抗体に融合し、
前記ペプチドコネクターは少なくとも5アミノ酸、好ましくは10〜50アミノ酸のペプチドである)
を含む多重特異的抗体である。
【0044】
この態様内において、第2抗原に特異的に結合する、好ましくは1つまたは2つ、より好ましくは2つの単鎖Fabフラグメントba)VH−CH1−リンカー−VL−CLまたはbb)VL−CL−リンカー−VH−CH1、好ましくはbb)VL−CL−リンカー−VH−CH1が、前記の完全長抗体の重鎖のC末端においてペプチドコネクターを介して前記の完全長抗体に融合し、そして単鎖Fabフラグメントはジスルフィド安定化されていない。
【0045】
本発明の1つの態様は、第2抗原に結合する1つまたは2つの単鎖Fabフラグメントが、前記の完全長抗体の重鎖のC末端においてペプチドコネクターを介して前記の完全長抗体に融合している(二重特異的抗体)、本発明による多重特異的抗体である。
【0046】
好ましくは、本発明による多重特異的抗体は、第2抗原に結合する2つの同一の単鎖Fabフラグメントを含み、これは両方共が重鎖に融合しているか、または両方共が軽鎖C末端もしくはN末端に融合しているかのいずれかである(二重特異的抗体)。
【0047】
本発明の1つの態様は、第2抗原に結合する、2つの同一な単鎖FabフラグメントVL−CL−リンカー−VH−CH1またはVH−CH1−リンカー−VL−CL、好ましくはVL−CL−リンカー−VH−CH1が、そのN末端で、前記の完全長抗体の2つの重鎖の2つのC末端または2つの軽鎖の2つのC末端においてペプチドコネクターを介して前記の完全長抗体に融合している(4価の二重特異的抗体)、本発明による多重特異的抗体である。好ましい態様において、本発明による前記の多重特異的抗体(好ましくは前記の4価の二重特異的抗体)は、完全長IgGおよび前記したような本発明による2つの同一な単鎖Fabフラグメントを含み、そしてヒトIGF−1R並びにヒトEGFRに特異的に結合する。これらの分子は、好ましくは、ヒト抗IGF−1R抗体<IGF−1R>HUMABクローン18(DSM ACC 2587; WO 2005/005635、<IGF−1R>クローン18または<IGF−1R>AK18と略称される)およびヒト化<EGFR>ICR62(WO 2006/082515、<EGFR>ICR62と略称される)の抗原結合部位に基づく。これらの分子は、腫瘍細胞上の2つのレセプターチロシンキナーゼの作用を同時にターゲティングしそして干渉する。この二重活性は、これらの一方のレセプターのみを干渉する抗体と比較して、顕著に改善された抗腫瘍活性を引き起こす。このような分子の設計、組成、生成および特徴付けを実施例1〜6に示す。
【0048】
従って1つの態様において、本発明によるこのような多重特異的抗体は、
i)前記の完全長抗体が、IGF1Rに特異的に結合し、そして重鎖可変ドメイン中に配列番号1のCDR3領域、配列番号2のCDR2領域、および配列番号3のCDR1領域、そして軽鎖可変ドメイン中に配列番号4のCDR3領域、配列番号5のCDR2領域、および配列番号6のCDR1領域を含み;そして
ii)前記の単鎖FabフラグメントがEGFRに特異的に結合し、そして重鎖可変ドメイン中に配列番号9のCDR3領域、配列番号10のCDR2領域、および配列番号11のCDR1領域、そして軽鎖可変ドメイン中に配列番号12のCDR3領域、配列番号13のCDR2領域、および配列番号14のCDR1領域を含む
ことを特徴とする。
【0049】
1つの態様において、本発明によるこのような多重特異的抗体は、
i)前記の完全長抗体が、IGF−1Rに特異的に結合し、そして重鎖可変ドメインとして配列番号7、および軽鎖可変ドメインとして配列番号8を含み、そして
ii)前記の単鎖FabフラグメントがEGFRに特異的に結合し、そして重鎖可変ドメインとして配列番号15、および軽鎖可変ドメインとして配列番号16を含む
ことを特徴とする。
【0050】
1つの態様において、本発明によるこのような多重特異的抗体は、
i)前記の完全長抗体が、EGFRに特異的に結合し、そして重鎖可変ドメイン中に配列番号9のCDR3領域、配列番号10のCDR2領域、および配列番号11のCDR1領域、そして軽鎖可変ドメイン中に配列番号12のCDR3領域、配列番号13のCDR2領域、および配列番号14のCDR1領域を含み;そして
ii)前記の単鎖FabフラグメントがIGF−1Rに特異的に結合し、そして重鎖可変ドメイン中に配列番号1のCDR3領域、配列番号2のCDR2領域、および配列番号3のCDR1領域、そして軽鎖可変ドメイン中に配列番号4のCDR3領域、配列番号5のCDR2領域、および配列番号6のCDR1領域を含む
ことを特徴とする。
【0051】
1つの態様において、本発明によるこのような多重特異的抗体は、
i)前記の完全長抗体が、EGFRに特異的に結合し、そして重鎖可変ドメインとして配列番号15、および軽鎖可変ドメインとして配列番号16を含み、そして
ii)前記の単鎖FabフラグメントがIGF1Rに特異的に結合し、そして重鎖可変ドメインとして配列番号7、および軽鎖可変ドメインとして配列番号8を含む
ことを特徴とする。
【0052】
本発明の1つの態様は、第2抗原に結合する、2つの同一な単鎖FabフラグメントVL−CL−リンカー−VH−CH1またはVH−CH1−リンカー−VL−CL、好ましくはVL−CL−リンカー−VH−CL1が、そのC末端で、前記の完全長抗体の2つの重鎖の2つのN末端または2つの軽鎖の2つのN末端においてペプチドコネクターを介して前記の完全長抗体に融合している、本発明による多重特異的抗体である。
【0053】
本発明の1つの態様は、第2抗原に結合する1つの単鎖Fabフラグメントが、前記の完全長抗体の1つの重鎖または1つの軽鎖のC末端またはN末端においてペプチドコネクターを介して前記の完全長抗体に融合している、本発明による多重特異的抗体である。本発明の1つの態様は、第2抗原に結合する1つの単鎖Fabフラグメントが、前記の完全長抗体の1つの重鎖または1つの軽鎖のN末端においてペプチドコネクターを介して前記の完全長抗体に融合している、本発明による多重特異的抗体である。本発明の1つの態様は、第2抗原に結合する1つの単鎖Fabフラグメントが、前記の完全長抗体の1つの重鎖または1つの軽鎖のC末端においてペプチドコネクターを介して前記の完全長抗体に融合している、本発明による多重特異的抗体である(例えば図6参照)。
【0054】
好ましくは、本発明による多重特異的抗体は、第2抗原および第3抗原に結合する2つの単鎖Fabフラグメントを含む(三重特異的抗体)(例えば図7参照)。
【0055】
本発明の別の局面において、本発明による多重特異的抗体は、
a)2つの同一な抗体重鎖VH−CH1−HR−CH2−CH3および2つの同一な抗体軽鎖VL−CLからなる、第1抗原に結合する、完全長抗体;並びに
b)1〜4つのさらなる抗原に結合する、1〜4つの単鎖Fabフラグメントba)VH−CH1−リンカー−VL−CLまたはbb)VL−CL−リンカー−VH−CH1
を含み、前記の単鎖Fabフラグメントは、前記の完全長抗体の重鎖および軽鎖のC末端またはN末端においてペプチドコネクターを介して前記の完全長抗体に連結されている。
【0056】
本発明の完全長抗体は、1つ以上の免疫グロブリンクラスの免疫グロブリン定常領域を含む。免疫グロブリンクラスは、IgG、IgM、IgA、IgDおよびIgEアイソタイプを含み、並びにIgGおよびIgAの場合にはそのサブタイプを含む。好ましい態様において、本発明の完全長抗体は、IgGタイプの抗体の定常ドメイン構造を有する。
【0057】
本明細書において使用する「モノクローナル抗体」または「モノクローナル抗体組成物」という用語は、単一アミノ酸組成の抗体分子の調製物を指す。
【0058】
「キメラ抗体」という用語は、通常組換えDNA技術によって調製された、1つの起源または種に由来する可変領域、すなわち結合領域と、異なる起源または種に由来する定常領域の少なくとも一部とを含む、抗体を指す。マウス可変領域およびヒト定常領域を含むキメラ抗体が好ましい。本発明によって包含される「キメラ抗体」の他の好ましい形態は、定常領域を、元の抗体の定常領域から改変または変化させて、本発明による特性、特にC1q結合および/またはFcレセプター(FcR)結合に関しての特性を生じさせたものである。このようなキメラ抗体はまた、「クラススイッチされた抗体」とも呼ばれる。キメラ抗体は、免疫グロブリン可変領域をコードするDNAセグメントおよび免疫グロブリン定常領域をコードするDNAセグメントを含む、免疫グロブリン遺伝子の発現産物である。キメラ抗体を産生するための方法は、当技術分野において周知である従来の組換えDNA技術および遺伝子トランスフェクション技術を含む。例えば、Morrison, S.L., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81 (1984) 6851-6855; US 5,202,238 and US 5,204,244を参照されたい。
【0059】
「ヒト化抗体」という用語は、フレームワークまたは「相補性決定領域」(CDR)が改変されて、親免疫グロブリンのそれと比較して異なる特異性の免疫グロブリンのCDRを含むようになった、抗体を指す。好ましい態様において、マウスCDRをヒト抗体のフレームワーク領域に移植して、「ヒト化抗体」を調製する。例えば、Riechmann, L., et al., Nature 332 (1988) 323-327;およびNeuberger, M.S., et al., Nature 314 (1985) 268-270を参照されたい。特に好ましいCDRは、キメラ抗体について前記した抗原を認識する配列を示すものに相当する。本発明によって包含される他の形態の「ヒト化抗体」は、定常領域を元の抗体の定常領域からさらに改変または変化させて、本発明による特性、特にC1q結合および/またはFcレセプター(FcR)結合に関する特性を生じさせたものである。
【0060】
本明細書において使用する「ヒト抗体」という用語は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する抗体を含むことを意図する。ヒト抗体は当技術分野の最新技術において周知である(van Dijk, M.A., and van de Winkel, J., G., Curr. Opin. Chem. Biol. 5 (2001) 368-374)。ヒト抗体をトランスジェニック動物(例えばマウス)において産生することもでき、前記動物は免疫化されると、内因性免疫グロブリンの産生を伴うことなくヒト抗体の全レパートリーまたは選択されたものを産生することができる。ヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子アレイをこのような生殖系列突然変異マウスに導入することにより、抗原チャレンジ時にヒト抗体が産生される(例えば、Jakobovits, A., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90 (1993) 2551-2555; Jakobovits, A., et al., Nature 362 (1993) 255-258; Brueggemann, M., et al., Year Immunol. 7 (1993) 33-40参照)。ヒト抗体はまた、ファージディスプレイライブラリーにおいても産生することができる(Hoogenboom, H.R.およびWinter, G.J. Mol. Biol. 227 (1992) 381-388; Marks, J.D., et al., J. Mol. Biol. 222 (1991) 581-597)。Cole, et al.およびBoerner, et al.の技術もまた、ヒトモノクローナル抗体の調製のために利用することができる(Cole, S.P.C., et al., Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, (1985) 77; and Boerner, P., et al., J. Immunol. 147 (1991) 86-95)。本発明によるキメラ抗体およびヒト化抗体についてすでに記載したように、本明細書において使用する「ヒト抗体」という用語はまた、例えば「クラススイッチ」、すなわちFc部分の変化または突然変異(例えばIgG1からIgG4へおよび/またはIgG1/IgG4突然変異)によって、定常領域において改変して、本発明による特性、特にC1q結合および/またはFcR結合に関する特性を生じさせたような抗体を含む。
【0061】
本発明による多重特異的抗体が、ヘテロ二量体融合ペプチドを生じる1つまたは3つの単鎖Fabフラグメントを含む場合には(あるいは、重鎖または軽鎖のいずれかのC末端またはN末端に両方が付着した2つの同一ではない単鎖フラグメントの場合)、本発明による前記の完全長抗体のCH3ドメインを、「ノブから穴への」技術によって改変させることができ、この技術は、例えばWO 96/027011, Ridgway, J.B., et al., Protein Eng 9 (1996) 617-621;およびMerchant, A.M., et al., Nat Biotechnol 16 (1998) 677-681においていくつかの例と共に詳細に記載されている。この方法では、2つのCH3ドメインの相互作用表面を改変して、これらの2つのCH3ドメインを含む両方の重鎖のヘテロ二量体化を増加させている。(2つの重鎖の)2つのCH3ドメインの各々が「ノブ」となることができ、一方で他方は「穴」である。ジルスフィド橋の導入は、ヘテロ二量体を安定化させ(Merchant, A.M., et al., Nature Biotech 16 (1998) 677-681; Atwell, S., et al., J. Mol. Biol. 270 (1997) 26-35)、そして収量を増加させる。
【0062】
従って、本発明の1つの局面において、本発明による前記の多重特異的抗体は、唯一つの単鎖Fabフラグメントを含み、そしてさらに、
一方の重鎖のCH3ドメインおよび他方の重鎖のCH3ドメインが各々、抗体CH3ドメイン間の元の界面を含む界面で接触し;
前記界面は、2価の二重特異的抗体の形成を促進するように改変されており、前記改変は、
a)一方の重鎖のCH3ドメインが、
2価の二重特異的抗体内の一方の重鎖のCH3ドメインの元の界面に接触する他方の重鎖のCH3ドメインの元の界面内において、
アミノ酸残基が、より大きな側鎖体積を有するアミノ酸残基で置換され、それにより、一方の重鎖のCH3ドメインの界面内の空洞に位置することのできる他方の重鎖のCH3ドメインの界面内の隆起を生成するように、改変され、
b)他方の重鎖のCH3ドメインが、
3価の二重特異的抗体内の第1のCH3ドメインの元の界面に接触する第2のCH3ドメインの元の界面内において、
アミノ酸残基が、より小さな側鎖体積を有するアミノ酸残基で置換され、それにより、第2のCH3ドメインの界面内に空洞が生成され、その中に第1のCH3ドメインの界面内の隆起が位置することができるように、改変されることを特徴とする。
【0063】
好ましくは、より大きな側鎖体積を有する前記アミノ酸残基は、アルギニン(R)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)からなる群より選択される。
【0064】
好ましくは、より小さな側鎖体積を有する前記アミノ酸残基は、アラニン(A)、セリン(S)、トレオニン(T)、バリン(V)からなる群より選択される。
【0065】
本発明の1つの局面において、両方のCH3ドメインは、両方のCH3ドメイン間にジスルフィド橋を形成することができるように、各CH3ドメインの対応する位置にアミノ酸としてのシステイン(C)を導入することによってさらに改変される。
【0066】
好ましい態様において、唯1つの単鎖Fabフラグメントを含む前記の多重特異的抗体は、3価の二重特異的抗体である。前記の3価の二重特異的抗体は、「ノブ鎖」のCH3ドメインにT366W突然変異を含み、そして「穴鎖」のCH3ドメインにT366S、L368A、Y407V突然変異を含む。例えば「ノブ鎖」のCH3ドメインにY349C突然変異を、そして「穴鎖」のCH3ドメインにE356C突然変異またはS354C突然変異を導入することによって、CH3ドメイン間に追加の鎖間ジスルフィド橋を使用することもできる(Merchant, A.M, et al., Nature Biotech 16 (1998) 677-681)。従って、別の好ましい態様において、前記の3価の二重特異的抗体は、2つのCH3ドメインの一方にY349C、T366W突然変異を、そして2つのCH3ドメインの他方にE356C、T366S、L368A、Y407V突然変異を含むか、または前記の3価の二重特異的抗体は、2つのCH3ドメインの一方にY349C、T366W突然変異を、そして2つのCH3ドメインの他方にS354C、T366S、L368A、Y407V突然変異を含む(一方のCH3ドメインにおける追加のY349C突然変異および他方のCH3ドメインにおける追加のE356CまたはS354C突然変異は、鎖間ジスルフィド橋を形成する)(ナンバリングは常にKabatのEUインデックスによる)。しかしまた、EP 1870459A1によって記載された他の穴中のノブ(knobs-in-holes)の技術を代替的にまたは追加的に使用することができる。前記の3価の二重特異的抗体の好ましい例は、「ノブ鎖」のCH3ドメインにおけるR409D;K370E突然変異、および「穴鎖」のCH3ドメインにおけるD399K;E357K突然変異である(ナンバリングは常にKabatのEUインデックスによる)。
【0067】
別の好ましい態様において、前記の3価の二重特異的抗体(多重特異的抗体は、唯1つの単鎖Fabフラグメントを含む)は、「ノブ鎖」のCH3ドメインにT366W突然変異を、そして「穴鎖」のCH3ドメインにT366S、K368A、Y407V突然変異を、そしてさらに「ノブ鎖」のCH3ドメインにR409D;K370E突然変異を、そして「穴鎖」のCH3ドメインにD399K;E357K突然変異を含む。
【0068】
別の好ましい態様において、前記の3価の二重特異的抗体(多重特異的抗体は、唯1つの単鎖Fabフラグメントを含む)は、2つのCH3ドメインの一方にY349C、T366W突然変異を、そして2つのCH3ドメインの他方にS354C、T366S、L368A、Y407V突然変異を含むか、または前記の3価の二重特異的抗体は、2つのCH3ドメインの一方にY349C、T366W突然変異を、そして2つのCH3ドメインの他方にS354C、T366S、L368A、Y407V突然変異を、そしてさらに「ノブ鎖」のCH3ドメインにR409D;K370E突然変異を、そして「穴鎖」のCH3ドメインにD399K;E357K突然変異を含む。
【0069】
従って、本発明の1つの態様は、第2の抗原に結合する1つの単鎖Fabフラグメントが、前記の完全長抗体の1つの重鎖または1つの軽鎖のC末端またはN末端(好ましくは1つの重鎖のC末端)においてペプチドコネクターを介して前記の完全長抗体に融合し、前記の完全長抗体が、2つのCH3ドメインの一方にT366W突然変異を、そして2つのCH3ドメインの他方にT366S、L368A、Y407V突然変異を含む、本発明による多重特的抗体である。本発明の別の態様は、第2の抗原に結合する1つの単鎖Fabフラグメントが、前記の完全長抗体の1つの重鎖または1つの軽鎖のC末端またはN末端(好ましくは1つの重鎖のC末端)においてペプチドコネクターを介して前記の完全長抗体に融合し、前記の完全長抗体が、2つのCH3ドメインの一方にY349C、T366W突然変異を、そして2つのCH3ドメインの他方にS354C、T366S、L368A、Y407V突然変異を含む、本発明による多重特異的抗体である(例えば図6参照)。本発明の別の態様は、第2の抗原に結合する1つの単鎖Fabフラグメントが、前記の完全長抗体の1つの重鎖または1つの軽鎖のC末端またはN末端(好ましくは1つの重鎖のC末端)においてペプチドコネクターを介して前記の完全長抗体に融合し、前記の完全長抗体が、2つのCH3ドメインの一方にY349C、T366W突然変異を、そして2つのCH3ドメインの他方にS354C、T366S、L368A、Y407V突然変異を含む、本発明による多重特異的抗体である。
【0070】
本明細書において使用する「組換えヒト抗体」という用語は、組換え手段によって調製、発現、作製、または単離された全てのヒト抗体、例えば、NS0もしくはCHO細胞などの宿主細胞から、またはヒト免疫グロブリン遺伝子に対してトランスジェニックである動物(例えばマウス)から単離された抗体、あるいは、宿主細胞にトランスフェクションされた組換え発現ベクターを使用して発現された抗体を含むことを意図する。このような組換えヒト抗体は、再編成された形態の可変領域および定常領域を有する。本発明による組換えヒト抗体は、in vivoにおける体細胞高頻度突然変異にかけられる。従って、組換え抗体のVH領域およびVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖系列のVHおよびVL配列に由来しそしてこれに関連しているが、in vivoのヒト抗体生殖系列レパートリー内には天然には存在しない可能性がある、配列である。
【0071】
本明細書において使用する「可変ドメイン」(軽鎖の可変ドメイン(VL)、重鎖の可変領域(VH))は、抗原への抗体の結合に直接関与する軽鎖および重鎖の対の各々を示す。可変ヒト軽鎖および重鎖のドメインは同じ一般構造を有し、そして各々のドメインは、3つの「超可変領域」(すなわち相補性決定領域、CDR)によって接続された、その配列が広く保存されている4つのフレームワーク(FR)領域を含む。フレームワーク領域はβ−シートコンフォメーションをとり、そしてCDRは、β−シート構造を接続するループを形成し得る。各々の鎖中のCDRは、フレームワーク領域によってその3次元構造が保持され、そして他の鎖に由来するCDRと一緒に、抗原結合部位を形成する。抗体重鎖および軽鎖のCDR3領域は、本発明による抗体の結合特異性/親和性において特に重要な役割を果たし、そしてそれ故、本発明のさらなる目的を提供する。
【0072】
本明細書において使用した場合の「超可変領域」または「抗体の抗原結合部分」という用語は、抗原結合に関与する抗体のアミノ酸残基を指す。超可変領域は、「相補性決定領域」すなわち「CDR」に由来するアミノ酸残基を含む。「フレームワーク」すなわち「FR」領域は、本明細書において定義した超可変領域残基以外の可変ドメイン領域である。それ故、抗体の軽鎖および重鎖は、N末端からC末端へと、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、およびFR4のドメインを含む。各々の鎖上のCDRは、このようなフレームワークアミノ酸によって分離されている。特に、重鎖のCDR3は、抗原結合に最も寄与する領域である。CDRおよびFR領域は、Kabat, et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991)の標準的な定義に従って決定される。
【0073】
本明細書において使用する「結合」または「特異的に結合」という用語は、精製された野生型抗原を用いる、in vitroアッセイにおいて、好ましくはプラズモン共鳴アッセイ(BIAcore, GE-Healthcare Uppsala, Sweden)においての、抗原のエピトープへの抗体の結合を指す。結合の親和性は、ka(抗体/抗原複合体からの抗体の解離に関する速度定数)、kD(解離定数)、およびKD(kD/ka)という項によって定義される。結合または特異的に結合とは、10−8mol/lまたはそれ以下、好ましくは10−9M〜10−13mol/lの結合親和性(KD)を意味する。従って、本発明による多重特異的抗体は、それが特異的である各々の抗原に、10−8mol/lまたはそれ以下、好ましくは10−9M〜10−13mol/lの結合親和性(KD)で特異的に結合する。
【0074】
FcγRIIIへの抗体の結合は、BIAcoreアッセイ(GE-Healthcare Uppsala, Sweden)によって調査することができる。結合の親和性は、ka(抗体/抗原複合体からの抗体の解離に関する速度定数)、kD(解離定数)およびKD(kD/ka)という項によって定義される。
【0075】
「エピトープ」という用語は、抗体に特異的に結合することのできる任意のポリペプチド決定基を含む。特定の態様において、エピトープ決定基は、アミノ酸、糖側鎖、ホスホリルまたはスルホニルなどの化学的に活性な分子の表面基を含み、そして特定の態様において、特異的な3次元構造特徴、およびまたは特異的な荷電特徴を有し得る。エピトープは、抗体によって結合される抗原の領域である。
【0076】
特定の態様において、抗体は、タンパク質および/または巨大分子の複雑な混合物中におけるその標的抗原を優先的に認識する場合に、抗原に特異的に結合すると言われる。
【0077】
本出願内において使用する「定常領域」という用語は、可変領域以外の抗体のドメインの合計を示す。定常領域は、抗原の結合に直接関与しないが、種々のエフェクター機能を示す。その重鎖の定常領域のアミノ酸配列に依存して、抗体は、IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMのクラスに分類され、そしてこれらのいくつかは、IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4、IgA1およびIgA2などのサブクラスにさらに分類され得る。異なる抗体クラスに対応する重鎖定常領域は、α、δ、ε、γおよびμとそれぞれ呼ばれる。5つ全ての抗体クラスに見出され得る軽鎖定常領域(CL)はκ(カッパ)およびλ(ラムダ)と呼ばれる。
【0078】
本出願において使用する「ヒト起源に由来する定常領域」という用語は、サブクラスIgG1、IgG2、IgG3もしくはIgG4のヒト抗体の定常重鎖領域および/または定常軽鎖κもしくはλ領域を示す。このような定常領域は当技術分野の最新技術において周知であり、そして例えばKabat, E.A., (例えばJohnson, G. and Wu, T.T., Nucleic Acids Res. 28 (2000) 214-218; Kabat, E.A., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 72 (1975) 2785-2788参照)によって記載されている。
【0079】
IgG4サブクラスの抗体は、低下したFcレセプター(FcγRIIIa)への結合を示すが、他のIgGサブクラスの抗体は強力な結合を示す。しかしながら、Pro238、Asp265、Asp270、Asn297(Fcの炭水化物の欠失)、Pro329、Leu234、Leu235、Gly236、Gly237、Ile253、Ser254、Lys288、Thr307、Gln311、Asn434およびHis435は、もし改変させた場合に、低下したFcレセプターへの結合も提供する残基である(Shields, R.L., et al., J. Biol. Chem. 276 (2001) 6591-6604; Lund, J., et al., FASEB J. 9 (1995) 115-119; Morgan, A., et al., Immunology 86 (1995) 319-324; EP 0 307 434)。
【0080】
1つの態様において、本発明による抗体は、IgG1抗体と比較して低下したFcRへの結合を示し、そして完全長の親抗体は、FcR結合に関して、S228、L234、L235および/またはD265において突然変異を有するIgG4サブクラスまたはIgG1もしくはIgG2サブクラスであり、そして/またはPVA236突然変異を含む。1つの態様において、完全長の親抗体における突然変異は、S228P、L234A、L235A、L235Eおよび/またはPVA236である。別の態様において、完全長親抗体における突然変異は、IgG4においてはS228Pであり、そしてIgG1においてはL234AおよびL235Aである。定常重鎖領域は配列番号17および18に示される。1つの態様において、完全長親抗体の定常重鎖領域は、突然変異L234AおよびL235Aを有する配列番号17である。別の態様において、完全長親抗体の定常重鎖領域は、突然変異S228Pを有する配列番号18である。別の態様において、完全長親抗体の定常軽鎖領域は、配列番号19のκ軽鎖領域またはλ軽鎖領域である。好ましくは、完全長親抗体の定常重鎖領域は、突然変異S228Pを有する配列番号17または配列番号18である。
【0081】
抗体の定常領域は、ADCC(抗体依存性細胞介在性細胞障害作用)およびCDC(補体依存性細胞障害作用)に直接関与する。補体活性化(CDC)は、大半のIgG抗体サブクラスの定常領域への補因子C1qの結合によって開始される。抗体へのC1qの結合は、いわゆる結合部位における規定のタンパク質−タンパク質相互作用によって引き起こされる。このような定常領域結合部位は当技術分野の最新技術において公知であり、そして例えばLukas, T.J., et al., J. Immunol. 127 (1981) 2555-2560; Brunhouse, R. and Cebra, J.J., Mol. Immunol. 16 (1979) 907-917; Burton, D.R., et al., Nature 288 (1980) 338-344; Thommesen, J.E., et al., Mol. Immunol. 37 (2000) 995-1004; Idusogie, E.E., et al., J. Immunol. 164 (2000) 4178-4184; Hezareh, M., et al., J. Virol. 75 (2001) 12161-12168; Morgan, A., et al., Immunology 86 (1995) 319-324;および EP 0 307 434によって記載されている。このような定常領域結合部位は、例えば、アミノ酸L234、L235、D270、N297、E318、K320、K322、P331およびP329によって特徴付けられる(ナンバリングはKabatのEUインデックスによる)。
【0082】
「抗体依存性細胞介在性細胞障害作用(ADCC)」という用語は、エフェクター細胞の存在下における本発明による抗体によるヒトターゲット細胞の溶解を指す。ADCCは、好ましくは、新しく単離したPBMCなどのエフェクター細胞、あるいは単球もしくはナチュラルキラー(NK)細胞または永久増殖するNK細胞株のようなバフィーコートから精製されたエフェクター細胞の存在下において、本発明による抗体を用いて、抗原発現細胞の調製物を処理することによって測定される。
【0083】
「補体依存性細胞障害作用(CDC)」という用語は、大半のIgG抗体サブクラスのFc部分への補因子C1qの結合によって開始される過程を示す。抗体へのC1qの結合は、いわゆる結合部位における規定のタンパク質−タンパク質相互作用によって引き起こされる。このようなFc部分結合部位は当技術分野の最新技術において公知である(前記参照)。このようなFc部分結合部位は、例えば、アミノ酸L234、L235、D270、N297、E318、K320、K322、P331およびP329によって特徴付けられる(ナンバリングはKabatのEUインデックスによる)。サブクラスIgG1、IgG2およびIgG3の抗体は通常、C1qおよびC3の結合を含む補体活性化を示すが、IgG4は補体系を活性化せず、そしてC1qおよび/またはC3に結合しない。
【0084】
さらなる態様において、本発明による多重特異的抗体は、前記の完全長抗体が、ヒトIgG1サブクラスであるか、または突然変異L234AおよびL235Aを有するヒトIgG1サブクラスであることを特徴とする。
【0085】
さらなる態様において、本発明による多重特異的抗体は、前記の完全長抗体がヒトIgG2サブクラスであることを特徴とする。
【0086】
さらなる態様において、本発明による多重特異的抗体は、前記の完全長抗体がヒトIgG3サブクラスであることを特徴とする。
【0087】
さらなる態様において、本発明による多重特異的抗体は、前記の完全長抗体がヒトIgG4サブクラスであるか、または追加の突然変異S228Pを有するヒトIgG4サブクラスであることを特徴とする。
【0088】
好ましくは、本発明による多重特異的抗体は、前記の完全長抗体が、追加の突然変異S228Pを有するヒトIgG1サブクラス、ヒトIgG4サブクラスであることを特徴とする。
【0089】
さらなる態様において、本発明による多重特異的抗体は、前記の完全長抗体が、ヒトFcγレセプターIIIaへの親和性を増加させて、ADCCを媒介するその適格性を増加させるように改変されている(Fc領域における突然変異によって、または糖鎖工学によってのいずれかで)ことを特徴とする。フコースの量を減少させることによって抗体のADCCを増強させる方法が、例えば、WO 2005/018572, WO 2006/116260, WO 2006/114700, WO 2004/065540, WO 2005/011735, WO 2005/027966, WO 1997/028267, US 2006/0134709, US 2005/0054048, US 2005/0152894, WO 2003/035835, WO 2000/061739 Niwa, R., et al., J. Immunol. Methods 306 (2005) 151-160; Shinkawa, T., et al, J. Biol. Chem. 278 (2003) 3466-3473; WO 03/055993またはUS 2005/0249722に記載されている。それ故、本発明の1つの態様において、本発明による多重特異的抗体は、前記の完全長抗体が、フコシル化されたIgG1またはIgG3アイソタイプであり、フコースの量は、Asn297におけるオリゴ糖(糖)の全量の60%以下である(これは、Asn297におけるFc領域のオリゴ糖の少なくとも40%以上がフコシル化されていることを意味する)ことを特徴とする。
【0090】
本発明による抗体は組換え手段によって産生される。従って、本発明の1つの局面は、本発明による抗体をコードする核酸であり、そしてさらなる局面は、本発明による抗体をコードする前記核酸を含む細胞である。組換え産生のための方法は当技術分野の最新技術において広く知られており、そして原核細胞および真核細胞におけるタンパク質発現、その後の抗体の単離、および通常は薬学的に許容される純度までの精製を含む。宿主細胞における前記したような抗体の発現のために、それぞれの改変された軽鎖および重鎖をコードする核酸を、標準的な方法によって発現ベクターに挿入する。発現は、CHO細胞、NS0細胞、SP2/0細胞、HEK293細胞、COS細胞、PER.C6細胞、酵母またはE.coli細胞などの適切な原核または真核宿主細胞において行なわれ、そして、抗体を細胞(上清または溶解後の細胞)から回収する。抗体の組換え産生のための一般的な方法は当技術分野の最新技術において周知であり、そして例えば、Makrides, S.C., Protein Expr. Purif. 17 (1999) 183-202; Geisse, S., et al., Protein Expr. Purif. 8 (1996) 271-282; Kaufman, R.J., Mol. Biotechnol. 16 (2000) 151-160; Werner, R.G., Drug Res. 48 (1998) 870-880の総説論文に記載されている。
【0091】
本発明による多重特異的抗体は、培養培地から、例えばプロテインAセファロース、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析またはアフィニティクロマトグラフィーなどの従来の免疫グロブリン精製手順によって適切に分離される。モノクローナル抗体をコードするDNAおよびRNAは、従来の手順を使用して容易に単離およびシークエンスされる。ハイブリドーマ細胞はこのようなDNAおよびRNAの入手源として役立ち得る。一旦単離されると、DNAを発現ベクターに挿入し、その後、これを免疫グロブリンタンパク質を別様に産生しないHEK293細胞、CHO細胞または骨髄細胞などの宿主細胞にトランスフェクションすることにより、宿主細胞において組換えモノクローナル抗体の合成を得ることができる。
【0092】
多重特異的抗体のアミノ酸配列変異体(または突然変異体)は、抗体DNAに適切なヌクレオチド変化を導入することによって、またはヌクレオチド合成によって調製される。しかしながら、このような改変は、例えば前記したように、非常に制限された範囲でしか実施することができない。例えば、改変は、IgGアイソタイプおよび抗原結合などの前記の抗体特徴を改変させないが、組換え産生の収量、タンパク質の安定性を改善し得るか、または精製を容易にし得る。
【0093】
本出願において使用する「宿主細胞」という用語は、本発明による抗体を生成するために工学操作することのできる任意の種類の細胞系を示す。1つの態様において、HEK293細胞およびCHO細胞を宿主細胞として使用する。
【0094】
本明細書において使用する「細胞」、「細胞株」および「細胞培養液」という表現は同義語として使用され、そして全てのこのような名称は子孫を含む。従って、「形質転換体」および「形質転換細胞」という単語は、初代の対象の細胞、および継代の回数に関係なくそれから誘導された培養液を含む。全ての子孫は、計画的または偶発的な突然変異に因り、DNA内容物において正確に同一ではない可能性があることも理解される。最初に形質転換された細胞についてスクリーニングしたものと同じ機能または生物活性を有する子孫の変異体も含まれる。明確に異なる名称が考えられるが、それは内容から明らかである。
【0095】
NS0細胞における発現が、例えば、Barnes, L.M., et al., Cytotechnology 32 (2000) 109-123; Barnes, L.M., et al., Biotech. Bioeng. 73 (2001)261-270によって記載されている。一過性発現が、例えばDurocher, Y., et al., Nucl. Acids. Res. 30 (2002) E9によって記載されている。可変ドメインのクローニングが、Orlandi, R., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86 (1989) 3833-3837; Carter, P., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89 (1992) 4285-4289;およびNorderhaug, L., et al., J. Immunol. Methods 204 (1997)77-87によって記載されている。好ましい一過性発現系(HEK293)が、Schlaeger, E.-J.およびChristensen, K., in Cytotechnology 30 (1999) 71-83によって、並びにSchlaeger, E.-J., in J. Immunol. Methods 194 (1996)191-199によって記載されている。
【0096】
原核生物に対して適切である制御配列は、例えば、プロモーター、場合によりオペレーター配列、およびリボソーム結合部位を含む。真核細胞は、プロモーター、エンハンサーおよびポリアデニル化シグナルを使用することが知られている。
【0097】
核酸は、別の核酸配列と機能的な関係に配置された場合に「作動可能に連結」されている。例えば、プレ配列または分泌リーダーのためのDNAは、それがポリペプチドの分泌に関与するプレタンパク質として発現された場合に、ポリペプチドのためのDNAに作動可能に連結されており;プロモーターまたはエンハンサーは、それが配列の転写に影響を及ぼす場合にコード配列に作動可能に連結されており;またはリボソーム結合部位は、それが翻訳を容易にするように位置されている場合にコード配列に作動可能に連結されている。一般的に、「作動可能に連結」とは、連結されているDNA配列が連続的であり、そして分泌リーダーの場合には、連続的でありそしてリーディングフレーム内にあることを意味する。しかしながら、エンハンサーは連続的である必要はない。従来の制限酵素部位におけるライゲーションによって連結が行なわれる。このような部位が存在しない場合には、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーが従来の慣行に従って使用される。
【0098】
細胞成分または他の汚染物質、例えば他の細胞性核酸またはタンパク質を排除するために、アルカリ/SDS処理、CsClバンド形成、カラムクロマトグラフィー、アガロースゲル電気泳動、および当技術分野において周知のその他の技術を含む標準的な技術によって、抗体の精製を行なう。Ausubel, F., et al., ed. Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing and Wiley Interscience, New York (1987)を参照されたい。種々の方法が良好に確立され、そしてタンパク質精製のために広く使用されており、これには例えば、微生物タンパク質を用いてのアフィニティクロマトグラフィー(例えばプロテインAまたはプロテインGアフィニティクロマトグラフィー)、イオン交換クロマトグラフィー(例えばカチオン交換(カルボキシメチル樹脂)、アニオン交換(アミノエチル樹脂)および混合形の交換)、チオフィリック吸着(例えばβ−メルカプトエタノールおよび他のSHリガンドを用いて)、疎水性相互作用または芳香族吸着クロマトグラフィー(例えばフェニル−セファロース、アザ−アレノフィリック樹脂またはm−アミノフェニルボロン酸を用いて)、金属キレートアフィニティクロマトグラフィー(例えばNi(II)およびCu(II)親和性材料)、サイズ排除クロマトグラフィーおよび電気泳動法(例えばゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動)(Vijayalakshmi, M.A., Appl. Biochem. Biotech. 75 (1998) 93-102)がある。
【0099】
本明細書において使用する「形質転換」という用語は、宿主細胞へのベクター/核酸の導入の過程を指す。厄介な細胞壁障壁を含まない細胞を宿主細胞として使用する場合には、トランスフェクションは、例えばGraham, F.L.およびvan der Eb, A.J., Virology 52 (1973) 456-467によって記載されたリン酸カルシウム沈降法によって行なわれる。しかしながら、核内注入によるまたはプロトプラスト融合によるなどの、細胞中にDNAを導入するための他の方法も使用し得る。原核細胞または実質的な細胞壁構築物を含まない細胞を使用する場合には、例えば、トランスフェクションの1つの方法は、Cohen, S.N., et al., PNAS. 69 (1972) 2110-2114によって記載されたような塩化カルシウムを使用したカルシウム処理である。
【0100】
本明細書において使用する「発現」は、核酸をmRNAに転写する過程および/または転写されたmRNA(転写物とも呼ばれる)を続いてペプチド、ポリペプチドもしくはタンパク質に翻訳する過程を指す。転写物およびコードされたポリペプチドは、まとめて遺伝子産物と呼ばれる。ポリヌクレオチドがゲノムDNAに由来する場合には、真核細胞における発現は、mRNAのスプライシングを含み得る。
【0101】
「ベクター」は、挿入された核酸分子を宿主細胞に導入および/または宿主細胞間で導入する、特に自己複製する、核酸分子である。この用語は、細胞へのDNAまたはRNAの挿入(例えば染色体への組込み)のために主に機能するベクター、DNAまたはRNAの複製のために主に機能する複製ベクター、並びにDNAまたはRNAの転写および/または翻訳のために機能する発現ベクターを含む。記載したような1つより多くの機能を提供するベクターも含まれる。
【0102】
「発現ベクター」は、適切な宿主細胞に導入された場合に、ポリペプチドへと転写および翻訳されることのできるポリヌクレオチドである。「発現系」は、通常、所望の発現産物を生じるように機能することのできる発現ベクターからなる適切な宿主細胞を指す。
【0103】
本発明による多重特異的抗体は、生物学的または薬理学的活性、薬物動態学的特性または毒性などの、改善された特徴を有することが今回判明した。それらを、癌などの疾病の処置のために使用することができる。
【0104】
本発明の1つの局面は、本発明による抗体を含む薬学的組成物である。本発明の別の局面は、薬学的組成物の製造のための本発明による抗体の使用である。本発明のさらなる局面は、本発明による抗体を含む薬学的組成物の製造のための方法である。別の局面において、本発明は、薬学的担体と一緒に製剤化された、本発明による抗体を含む、組成物、例えば薬学的組成物を提供する。
【0105】
本発明の1つの態様は、癌の処置のための本発明による多重特異的、好ましくは二重特異的な抗体である。
【0106】
本発明の別の局面は、癌の処置のための前記薬学的組成物である。
【0107】
本発明の別の局面は、癌の処置のための医薬品の製造のための本発明による抗体の使用である。
【0108】
本発明の別の局面は、このような処置の必要な患者に本発明による抗体を投与することによる、癌を患う患者の処置法である。
【0109】
本明細書において使用する「薬学的担体」は、生理学的に適合性である、任意および全ての溶媒、分散媒体、コーティング剤、抗細菌剤および抗真菌剤、等張化剤および吸収遅延剤などを含む。好ましくは、担体は、静脈内、筋肉内、皮下、非経口、脊髄内または表皮投与(例えば注入または点滴による)に適している。
【0110】
本発明の組成物を、当技術分野において公知の多種多様な方法によって投与することができる。当業者によって理解されているように、投与経路および/または投与形態は、所望の結果に依存して変更される。特定の投与経路によって本発明の化合物を投与するために、その不活性化を防ぐ材料で前記化合物をコーティングするか、または前記材料と共に前記化合物を共投与することが必要であり得る。例えば、前記化合物は、適切な担体、例えばリポソームまたは希釈剤中で被験体に投与され得る。薬学的に許容される希釈剤としては、食塩水および緩衝水溶液が挙げられる。薬学的担体としては、無菌水溶液または分散液、および無菌注射溶液または分散液の即時調製のための無菌粉末が挙げられる。薬学的に活性な物質のためのこのような媒体および薬剤の使用は、当技術分野において公知である。
【0111】
本明細書において使用する「非経口投与」および「非経口的に投与」というフレーズは、通常、注射による、経腸投与および外用投与以外の投与形態を意味し、それは、以下に制限されないが、静脈内、筋肉内、動脈内、くも膜下腔内、嚢内、眼窩内、心内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、皮下組織内、関節内、嚢下、くも膜下、脊髄内、硬膜下および胸骨内への注入および点滴を含む。
【0112】
本明細書において使用する癌という用語は、増殖性疾病、例えばリンパ腫、リンパ球性白血病、肺癌、非小細胞肺(NSCL)癌、気管支肺胞上皮細胞肺癌、骨癌、膵臓癌、皮膚癌、頭頸部癌、皮膚黒色腫または眼球内黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、肛門領域の癌、胃(stomach)癌、胃(gastric)癌、大腸癌、乳癌、子宮癌、卵管癌、子宮内膜癌、子宮頸部癌、膣癌、外陰部癌、ホジキン病、食道癌、小腸癌、内分泌系の癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟組織の肉腫、尿道癌、陰茎癌、前立腺癌、膀胱癌、腎臓癌または尿管癌、腎細胞癌、腎盂癌、中皮腫、肝細胞癌、胆道癌、中枢神経系(CNS)の新生物、脊髄軸(spinal axis)腫瘍、脳幹神経膠腫、多形神経膠芽腫、星状細胞腫、シュワン細胞腫、上衣腫、髄芽腫、髄膜腫、扁平上皮癌、下垂体腺腫およびユーイング肉腫(前記の癌のいずれかの難治形態、または前記の癌の1つ以上の組合せを含む)を指す。
【0113】
これらの組成物はまた保存剤、湿潤剤、乳化剤および分散剤などの補助剤も含み得る。微生物の存在の防御は、上記の滅菌手順によって、並びに種々の抗細菌剤および抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸などの包含によって確実にされ得る。また、糖、塩化ナトリウムなどの等張化剤を前記組成物中に含めることが望ましくあり得る。さらに、注射可能な剤形の延長吸収は、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなどの吸収を遅延する薬剤の包含によってもたらされ得る。
【0114】
選択する投与経路に関係なく、本発明の化合物(これは、適切な水和形態で使用され得る)および/または本発明の薬学的組成物は、当業者に公知の従来の方法によって薬学的に許容される剤形に製剤化される。
【0115】
本発明の薬学的組成物中の活性成分の実際の投与量レベルを変更して、患者に対して毒性であることなく、特定の患者、組成物および投与形態に対して所望の治療応答を達成するのに効果的である活性成分の量を得ることができる。選択した投与量レベルは、使用する本発明の特定の組成物の活性、投与経路、投与時刻、使用する特定の化合物の排泄速度、処置持続期間、使用する特定の組成物と併用して使用される他の薬物、化合物および/または材料、処置する患者の年齢、性別、体重、容態、全般的な健康状態および病歴、並びに医学分野において周知である同様な因子を含む、多種多様な薬物動態因子に依存する。
【0116】
前記組成物は、無菌でなければならず、そして前記組成物がシリンジによって送達できる程度に流動性でなければならない。水に加えて、担体は好ましくは等張緩衝食塩水溶液である。
【0117】
適切な流動性を、例えば、レシチンなどのコーティング剤の使用によって、分散液の場合には必要な粒子径の維持によって、および界面活性剤の使用によって維持することができる。多くの場合、例えば、糖、ポリアルコール、例えばマンニトールまたはソルビトール、および塩化ナトリウムなどの等張化剤を前記組成物中に含めることが好ましい。
【0118】
以下の実施例、配列表および図面は、本発明の理解を助けるために提供され、その真の範囲は、添付の特許請求の範囲に示される。本発明の精神から逸脱することなく、示された手順に改変を行なうことができることが理解される。
【0119】
アミノ酸配列の記載
配列番号1 重鎖CDR3、<IGF−1R>HUMAB−クローン18
配列番号2 重鎖CDR2、<IGF−1R>HUMAB−クローン18
配列番号3 重鎖CDR1、<IGF−1R>HUMAB−クローン18
配列番号4 軽鎖CDR3、<IGF−1R>HUMAB−クローン18
配列番号5 軽鎖CDR2、<IGF−1R>HUMAB−クローン18
配列番号6 軽鎖CDR1、<IGF−1R>HUMAB−クローン18
配列番号7 重鎖可変ドメイン、<IGF−1R>HUMAB−クローン18
配列番号8 軽鎖可変ドメイン、<IGF−1R>HUMAB−クローン18
配列番号9 重鎖CDR3、ヒト化<EGFR>ICR62
配列番号10 重鎖CDR2、ヒト化<EGFR>ICR62
配列番号11 重鎖CDR1、ヒト化<EGFR>ICR62
配列番号12 軽鎖CDR3、ヒト化<EGFR>ICR62
配列番号13 軽鎖CDR2、ヒト化<EGFR>ICR62
配列番号14 軽鎖CDR1、ヒト化<EGFR>ICR62
配列番号15 重鎖可変ドメイン、ヒト化<EGFR>ICR62−I−HHD
配列番号16 軽鎖可変ドメイン、ヒト化<EGFR>ICR62−I−KC
配列番号17 IgG1由来のヒト重鎖定常領域
配列番号18 IgG4由来のヒト重鎖定常領域
配列番号19 κ軽鎖定常領域
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】可変ドメインおよび定常ドメインを典型的な順序で含む2対の重鎖および軽鎖を有する、第1の抗原1に特異的に結合する、CH4ドメインを含まない、完全長抗体の図解構造。
【図2】例えば第2の抗原2に特異的に結合する4つの可能な単鎖Fabフラグメントの図解構造。
【図3】第1の抗原1に特異的に結合する完全長抗体と、第2の抗原2に特異的に結合する2つの単鎖Fabとを含む、本発明による多重特異的抗体の図解構造−二重特異的4価の例。
【図4】IGF−1Rに特異的に結合する完全長抗体と、EGFRに特異的に結合する2つの同一な単鎖Fabとを含む、本発明による二重特異的抗体−ScFab−XGFR1分子A、B、CおよびD並びに精製後の発現レベル。A:重鎖のC末端に融合したscFab(VH−CH1−リンカー−VL−CL)。B:重鎖のC末端に(融合した追加のVH44−VL100ジスルフィド橋を含むVH−CH1−リンカー−VL−CL)scFab。C:軽鎖のC末端に融合したscFab(VH−CH1−リンカー−VL−CL)。D:軽鎖のC末端に(融合した追加のVH44−VL100ジスルフィド橋を含むVH−CH1−リンカー−VL−CL)scFab。
【図5】EGFRに特異的に結合する完全長抗体と、IGF−1Rに特異的に結合する2つの同一な軽鎖Fabとを含む、本発明による二重特異的抗体−ScFab−XGFR2分子A、B、CおよびD。A:重鎖のC末端に融合したscFab(VH−CH1−リンカー−VL−CL)。B:重鎖のC末端に(融合した追加のVH44−VL100−ジスルフィド橋を含むVH−CH1−リンカー−VL−CL)scFab。C:軽鎖のC末端に融合したscFab(VH−CH1−リンカー−VL−CL)。D:軽鎖のC末端に(融合した追加のVH44−VL100ジスルフィド橋を含むVH−CH1−リンカー−VL−CL)scFab。
【図6】第1の抗原1に特異的に結合する完全長抗体と、第2の抗原2に特異的に結合する1つの単鎖Fabとを含む、本発明による多重特異的抗体の図解構造−ノブおよび穴を含む二重特異的3価の例。
【図7】第1の抗原1に特異的に結合する完全長抗体と、第2の抗原2に特異的に結合する1つの単鎖Fabとを含む、本発明による多重特異的抗体の図解構造−ノブおよび穴を含む三重特異的4価の例。
【図8】単鎖Fabを含む二重特異的抗体誘導体scFab−XGFR1のSDS−PAGE分析。1:scFab−XGFR1_4720(還元されておらず)。2:scFab−XGFR1_4721(還元されておらず)。3:scFab−XGFR1_4720(還元されている)。4:scFab−XGFR1_4721(還元されている)。
【図9a】scFabを含む二重特異的抗体誘導体scFab−XGFR1のHP−SEC分析。図9a:scFab−XGFR1−4720;7.7%、凝集体(ボックス内に印す)。図9b:scFab−XGFR1−4721;3.5%、凝集体(ボックス内に印す)。
【図9b】scFabを含む二重特異的抗体誘導体scFab−XGFR1のHP−SEC分析。図9a:scFab−XGFR1−4720;7.7%、凝集体(ボックス内に印す)。図9b:scFab−XGFR1−4721;3.5%、凝集体(ボックス内に印す)。
【図10a】EGFRおよびIGF1RへのscFab−XGFR1およびscFab−XGFR2の結合。図10a:Biacoreダイアグラム−EGFRへのscFab−XGFR1_2720の結合、KD=2nM。図10b:Biacoreダイアグラム−IGR−1RへのscFab−XGFR1_2720の結合、KD=2nM。図10c:Biacoreダイアグラム−EGFRへのscFab−XGFR2_2720の結合、KD=0.5nM。図10d:Biacoreダイアグラム−IGF−1RへのscFab−XGFR2_2720の結合、KD=11nM。
【図10b】EGFRおよびIGF1RへのscFab−XGFR1およびscFab−XGFR2の結合。図10a:Biacoreダイアグラム−EGFRへのscFab−XGFR1_2720の結合、KD=2nM。図10b:Biacoreダイアグラム−IGR−1RへのscFab−XGFR1_2720の結合、KD=2nM。図10c:Biacoreダイアグラム−EGFRへのscFab−XGFR2_2720の結合、KD=0.5nM。図10d:Biacoreダイアグラム−IGF−1RへのscFab−XGFR2_2720の結合、KD=11nM。
【図10c】EGFRおよびIGF1RへのscFab−XGFR1およびscFab−XGFR2の結合。図10a:Biacoreダイアグラム−EGFRへのscFab−XGFR1_2720の結合、KD=2nM。図10b:Biacoreダイアグラム−IGR−1RへのscFab−XGFR1_2720の結合、KD=2nM。図10c:Biacoreダイアグラム−EGFRへのscFab−XGFR2_2720の結合、KD=0.5nM。図10d:Biacoreダイアグラム−IGF−1RへのscFab−XGFR2_2720の結合、KD=11nM。
【図10d】EGFRおよびIGF1RへのscFab−XGFR1およびscFab−XGFR2の結合。図10a:Biacoreダイアグラム−EGFRへのscFab−XGFR1_2720の結合、KD=2nM。図10b:Biacoreダイアグラム−IGR−1RへのscFab−XGFR1_2720の結合、KD=2nM。図10c:Biacoreダイアグラム−EGFRへのscFab−XGFR2_2720の結合、KD=0.5nM。図10d:Biacoreダイアグラム−IGF−1RへのscFab−XGFR2_2720の結合、KD=11nM。
【図11】スキーム−以下の一般的な手順を用いてFACS競合アッセイによって分析した細胞へのscFab−XGFRの結合:・Alexa647(1μg/mL)で標識された<IGF1R>Mabと、標識されていないscFab−XGFR(100μg/mL〜0.001μg/mL)を平行して加える。・氷上で45分間インキュベーションし、洗浄し、そして非結合抗体を除去する。・1%HCHOで固定し、その後FACS。
【図12a】FACS競合アッセイによって分析した細胞へのscFab−XGFR_2721および親<IGF1R>クローン18の結合。図12a:<IGF−1R>クローン18(0.18μg/ml)およびscFab−XGFR_2721(0.15μg/ml)のIC50値の比較。図12b:<IGF−1R>クローン18の結合曲線(ターニングポイント0.11μg/ml)−y軸=RLU;x軸、抗体濃度(μg/ml)。図12c:scFab−XGFR_2721の結合曲線(ターニングポイント0.10μg/ml)−y軸=RLU;x軸、抗体濃度(μg/ml)。
【図12b】FACS競合アッセイによって分析した細胞へのscFab−XGFR_2721および親<IGF1R>クローン18の結合。図12a:<IGF−1R>クローン18(0.18μg/ml)およびscFab−XGFR_2721(0.15μg/ml)のIC50値の比較。図12b:<IGF−1R>クローン18の結合曲線(ターニングポイント0.11μg/ml)−y軸=RLU;x軸、抗体濃度(μg/ml)。図12c:scFab−XGFR_2721の結合曲線(ターニングポイント0.10μg/ml)−y軸=RLU;x軸、抗体濃度(μg/ml)。
【図12c】FACS競合アッセイによって分析した細胞へのscFab−XGFR_2721および親<IGF1R>クローン18の結合。図12a:<IGF−1R>クローン18(0.18μg/ml)およびscFab−XGFR_2721(0.15μg/ml)のIC50値の比較。図12b:<IGF−1R>クローン18の結合曲線(ターニングポイント0.11μg/ml)−y軸=RLU;x軸、抗体濃度(μg/ml)。図12c:scFab−XGFR_2721の結合曲線(ターニングポイント0.10μg/ml)−y軸=RLU;x軸、抗体濃度(μg/ml)。
【図13】種々のscFab−XGFR変異体(100nM)と共に24時間インキュベーションした後のH322M細胞上でのIGF1−Rのダウンレギュレーション。
【図14】種々のscFab−XGFR変異体(100nM)と共に24時間インキュベーションした後のH322M細胞上でのEGFRのダウンレギュレーション。
【図15】種々のscFab−XGFR変異体(100nM)による、H322M細胞の増殖の阻害。
【0121】
実験手順
実施例
材料および一般的な方法
ヒト免疫グロブリン軽鎖および重鎖のヌクレオチド配列に関する一般的な情報は、Kabat, E.A., et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991)に示される。抗体鎖のアミノ酸には番号が付けられ、EUナンバリングに従って言及される(Edelman, G.M., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 63 (1969) 78-85; Kabat, E.A., et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD, (1991))。
【0122】
組換えDNA技術
標準的な方法を使用して、Sambrook, J., et al., Molecular cloning: A laboratory manual; Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, 1989に記載のようにDNAを操作した。分子生物試薬を、製造業者の指示に従って使用した。
【0123】
遺伝子合成
所望の遺伝子セグメントを、化学合成によって製造されたオリゴヌクレオチドから調製した。特異な制限エンドヌクレアーゼ切断部位によってフランキングされる600〜1800bp長の遺伝子セグメントを、オリゴヌクレオチドのアニーリングおよびライゲーション(PCR増幅を含む)によって会合させ、その後、例えばBamHI/BstEII、BamHI/BsiWI、BstEII/NotIまたはBsiWI/NotIなどの指定された制限酵素部位を介して、pUCクローニングベクターに基づいたpcDNA3.1/Zeo(+)(Invitrogen)にクローニングした。サブクローニングされた遺伝子フラグメントのDNA配列をDNAシークエンスによって確認した。遺伝子合成フラグメントを、Geneart (Regensburg, Germany)の所与の明細に従って順番に並べた。
【0124】
DNA配列の決定
DNA配列を、Sequiserve GmbH (Vaterstetten, Germany)において実施された二本鎖シークエンスによって決定した。
【0125】
DNAおよびタンパク質の配列分析および配列データの管理
GCG(Genetics Computer Group, Madison, Wisconsin)のソフトウェアパッケージバージョン10.2およびInvitrogensベクターNT1アドバンススイートバージョン9.1を、配列の作製、マッピング、分析、アノテーションおよび説明のために使用した。
【0126】
細胞培養技術
Current Protocols in Cell Biology (2000), Bonifacino, J.S., Dasso, M., Harford, J.B., Lippincott-Schwartz, J., and Yamada, K.M., (eds.), John Wiley & Sons, Inc.に記載のような標準的な細胞培養技術を使用した。
【0127】
HEK293F細胞における免疫グロブリン変異体の一過性発現
多重特異的抗体を、FreeStyle(登録商標)293発現系を使用して製造業者の指示(Invitrogen, USA)に従ってヒト胚腎臓293F細胞の一過性トランスフェクションによって発現させた。簡潔に言うと、FreeStyle(登録商標)293F細胞懸濁液を、37℃/8%CO2でFreeStyle(登録商標)293発現培地中で培養し、そして細胞をトランスフェクションの日に1〜2×106個の生細胞/mlの密度で新鮮な培地に播種した。DNA−293fectin(登録商標)複合体を、250mlの最終トランスフェクション容量に対して333μlの293fectin(登録商標)(Invitrogen, Germany)および1:1のモル比の250μgの重鎖および軽鎖プラスミドDNAを使用して、Opti-MEM(登録商標)培地(Invitrogen, USA)中で調製した。二重特異的抗体を含む細胞培養上清を、トランスフェクションから7日後に、14000gで30分間の遠心分離および滅菌フィルター(0.22μm)を通してのろ過によって清澄化した。上清を精製まで−20℃で保存した。
【0128】
タンパク質の決定
精製した抗体および誘導体のタンパク質濃度を、Pace, C.N., et. al., Protein Science, 4 (1995) 2411-2423によるアミノ酸配列に基づいて計算したモル吸光係数を使用して、バックグラウンド修正として320nmにおけるODを用いて、280nmにおける吸光度(OD)を決定することによって決定した。
【0129】
上清中の抗体濃度の決定
細胞培養上清中の抗体および誘導体の濃度を、アフィニティHPLCクロマトグラフィーによって測定した。簡潔に言うと、プロテインAに結合する抗体および誘導体を含む細胞培養上清を、200mM KH2PO4、100mMクエン酸ナトリウム(pH7.4)中のApplied Biosystems Poros A/20カラムにアプライし、そしてUltiMate 3000 HPLCシステム(Dionex)で200mM NaCl、100mMクエン酸(pH2.5)を用いてマトリックスから溶出させた。溶出されたタンパク質を、UV吸光度およびピーク面積の積分によって定量した。精製された標準IgG1抗体は標準としての役目を果たした。
【0130】
タンパク質の精製
分泌された抗体を、上清から、2工程で、プロテインAセファロース(登録商標)(GE Healthcare, Sweden)を使用したアフィニティクロマトグラフィー、およびSuperdex200サイズ排除クロマトグラフィーによって精製した。簡潔に言うと、二重特異的および三重特異的抗体を含む清澄化された培養上清を、PBS緩衝液(10mM Na2HPO4、1mM KH2PO4、137mM NaClおよび2.7mM KCl、pH7.4)を用いて平衡化されたHiTrapプロテインA HP(5ml)カラムにアプライした。非結合タンパク質を平衡緩衝液を用いて洗浄除去した。二重特異的抗体を、0.1Mクエン酸緩衝液(pH2.8)を用いて溶出し、そしてタンパク質を含む画分を、0.1mlの1Mトリス(pH8.5)を用いて中和した。その後、溶出したタンパク質画分をプールし、3mlの容量となるまでAmicon Ultra遠心式フィルター装置(MWCO:30K、Millipore)を用いて濃縮し、そして20mMヒスチジン、140mM NaCl(pH6.0)を用いて平衡化されたSuperdex200 HiLoad 120 ml 16/60ゲルろ過カラム(GE Healthcare, Sweden)にローディングした。単量体の抗体画分をプールし、瞬時に凍結させ、そして−80℃で保存した。試料の一部を、その後のタンパク質分析および特徴付けのために提供した。
【0131】
精製タンパク質の分析
精製されたタンパク質試料のタンパク質濃度を、アミノ酸配列に基づいて計算したモル吸光係数を使用して、280nmにおける吸光度(OD)を測定することによって決定した。二重特異的抗体の純度を、還元剤(5mMの1,4−ジチオトレイトール)の存在下および非存在下におけるSDS−PAGE並びにクーマシーブリリアントブルーを用いての染色によって分析した。NuPAGE(登録商標)Pre-Castゲルシステム(Invitrogen, USA)を製造業者の指示に従って使用した(4〜20%トリス−グリシンゲル)。二重特異的抗体試料の凝集内容物を、UltiMate 3000 HPLCシステム(Dionex)での高速SECによって、25℃の200mM KH2PO4、250mM KCl(pH7.0)のランニング緩衝液中のSuperdex 200分析サイズ排除カラム(GE Healthcare, Sweden)を使用して分析した。25μgのタンパク質を0.5ml/分の流速でカラムに注入し、そして50分間かけて均一濃度で溶出させた。安定性の分析のために、0.1mg/ml、1mg/mlおよび3mg/mlの濃度の精製タンパク質を調製し、そして4℃、37℃で7日間インキュベーションし、その後、高速SECによって評価した。還元された二重特異的抗体の軽鎖および重鎖のアミノ酸骨格の完全性を、ペプチド−N−グリコシダーゼF(Roche Molecular Biochemicals)を用いての酵素的処理によってN−グリカンを除去した後に、ナノエレクトロスプレーQ−TOF質量分析によって確認した。
【0132】
実施例1
ヒトIGF−1レセプター並びにヒトEGF−レセプターを認識する分子である本発明による多重特異的抗体の設計
以下に、本発明の1つの態様として、第1の抗原(IGF−1RまたはEGFR)に結合する完全長抗体を、完全長抗体にペプチドコネクターを介して接続された第2の異なる抗原(IGF−1RまたはEGFRのもう一方)に結合する2つの単鎖Fabフラグメント(重鎖の2つのC末端または軽鎖の2つのC末端における両方の単鎖Fabフラグメント)と共に含む、4価の二重特異的な抗体を例示する。前記の単鎖Fabフラグメント中の抗体ドメインおよびリンカーは、N末端からC末端の方向に以下の順序を有する:VL−CL−リンカー−VH−CH1。
【0133】
<IGF−1R>抗原結合部位のための重鎖可変ドメインVHとして、配列番号15を使用した。<IGF−1R>抗原結合部位のための軽鎖可変ドメインVLとして、配列番号16を使用した。
【0134】
<EGFR>抗原結合部位のための重鎖可変ドメインVHとして、配列番号7を使用した。<EGFR>抗原結合部位のための軽鎖可変ドメインVLとして、配列番号8を使用した。
【0135】
遺伝子合成および組換え分子生物学技術によって、それぞれの抗原結合部位のVHおよびVLを含む、VL−CLおよびVH−CH1を、グリシンセリン(G4S)n単鎖リンカーによって連結して、短鎖FabフラグメントVL−CL−リンカー−VH−CH1を得、これを、(G4S)nリンカーを使用して抗体重鎖または軽鎖のC末端に付着した。
【0136】
場合により、シスチン残基を、以前に記載されたような技術(例えばWO 94/029350; Reiter, Y., et al., Nature biotechnology 14 (1996) 1239-1245; Young, N.M., et al., FEBS Letters 377 (1995) 135-139;またはRajagopal, V., et al., Protein Engineering 10 (1997) 1453-59)に従って単鎖FabフラグメントのVH(Kabat44位を含む)およびVL(Kabat100位を含む)ドメインに導入した。
【0137】
全てのこれらの分子を組換え産生し、精製し、そして特徴付け、そしてタンパク質の発現、安定性および生物学的活性を評価した。
【0138】
4価の二重特異的な<EGFR−IGF−1R>、<IGF−1R−EGFR>抗体を生成するために適用した多重特異的抗体の設計の要約を表1に示す。この研究のために、本発明者らは、種々の4価のタンパク質実体を記載するために「scFab−Ab」という用語を使用する。設計したフォーマットの代表を図4および5に示し、そして表1に列挙する。
【0139】
【表1】
【0140】
実施例2
二重特異的<EGFR−IGF1R>抗体scFabXGFR1分子の発現および精製
対応する二重特異的抗体の軽鎖および重鎖を、原核細胞および真核細胞選択マーカーを有する発現ベクター中に構築した。これらのプラスミドをE.coliにおいて増幅させ、精製し、そしてその後、HEK293F細胞における組換えタンパク質の一過性発現のためにトランスフェクションした(Invitrogenのfreesyleシステムを使用)。7日後、HEK293細胞上清を収集し、そしてプロテインAおよびサイズ排除クロマトグラフィーによって精製した。全ての二重特異的抗体構築物の均一性を、非還元条件下および還元条件下においてSDS−PAGEによって確認した。還元条件下において(図8)、C末端およびN末端scFab融合体を有するポリペプチド鎖は、SDS−PAGE時に、計算された分子量に類似した見かけの分子サイズを示した。全ての構築物の発現レベルをプロテインA HPLCによって分析し、そして「標準的な」IgGの発現収量に類似していたか、またはいくつかの場合においては幾分低かった。平均タンパク質収量は、このような最適化されていない一過性発現実験において細胞培養上清1リットルあたり1.5〜10mgのタンパク質であった(図4および5)。
【0141】
精製タンパク質のHPサイズ排除クロマトグラフィー分析は、組換え分子が凝集するという幾分の傾向を示した。このような二重特異的抗体の凝集による問題に対処するために、追加した結合部分のVHとVLとの間のジスルフィドによる安定化を行なった。そのために、本発明者らは、scFabのVHおよびVL内の規定の位置に1つのシステイン置換を導入した(KabatのナンバリングスキームによるとVH44/VL100位)。これらの突然変異は、VHとVLとの間の安定な鎖間ジスルフィドの形成を可能とし、これは次いで、生じるジスルフィドにより安定化されたscFabモジュールを安定化させる。scFabへのVH44/VL100ジスルフィドの導入はタンパク質発現レベルに有意に干渉せず、そしていくつかの場合においては発現収量を改善さえした(図4および5参照)。
【0142】
二重特異的抗体を、FreeStyle(登録商標)293発現系を使用して、製造業者の指示(Invitrogen, USA)に従って、ヒト胚腎臓293−F細胞の一過性トランスフェクションによって発現させた。簡潔に言うと、FreeStyle(登録商標)293−F細胞懸濁液を、37℃/8%CO2でFreeStyle(登録商標)293発現培地中で培養し、そして細胞をトランスフェクションの日に1〜2×106個の生細胞/mlの密度で新鮮な培地に播種した。DNA−293fectin(登録商標)複合体を、250mlの最終トランスフェクション容量に対して333μlの293fectin(登録商標)(Invitrogen, Germany)および1:1のモル比の250μgの重鎖および軽鎖プラスミドDNAを使用して、Opti-MEM(登録商標)培地(Invitrogen, USA)中で調製した。組換え抗体誘導体を含む細胞培養上清を、トランスフェクションから7日後に、14000gで30分間の遠心分離および滅菌フィルター(0.22μm)を通してのろ過によって清澄化した。上清を精製まで−20℃で保存した。
【0143】
分泌された抗体誘導体を、上清から、2工程で、プロテインAセファロース(登録商標)(GE Healthcare, Sweden)を使用したアフィニティクロマトグラフィー、およびSuperdex200サイズ排除クロマトグラフィーによって精製した。簡潔に言うと、二重特異的および三重特異的抗体を含む清澄化された培養上清を、PBS緩衝液(10mM Na2HPO4、1mM KH2PO4、137mM NaClおよび2.7mM KCl、pH7.4)を用いて平衡化されたHiTrapプロテインA HP(5ml)カラムにアプライした。非結合タンパク質を平衡緩衝液を用いて洗浄除去した。抗体誘導体を、0.1Mクエン酸緩衝液(pH2.8)を用いて溶出し、そしてタンパク質を含む画分を、0.1mlの1Mトリス(pH8.5)を用いて中和した。その後、溶出したタンパク質画分をプールし、3mlの容量となるまでAmicon Ultra遠心式フィルター装置(MWCO:30K、Millipore)を用いて濃縮し、そして20mMヒスチジン、140mM NaCl(pH6.0)を用いて平衡化されたSuperdex200 HiLoad 120 ml 16/60ゲルろ過カラム(GE Healthcare, Sweden)にローディングした。単量体の抗体画分をプールし、瞬時に凍結させ、そして−80℃で保存した。試料の一部を、その後のタンパク質分析および特徴付けのために提供した。精製タンパク質のSDS−PAGE分析の例および二重特異的抗体誘導体のHPサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)のプロファイルを図8および9に示す。
【0144】
図5は、一過性発現系において観察された発現収量を列挙する。設計された全ての抗体誘導体を、さらなる分析のために十分量で発現および精製することができた。
【0145】
比較理由のために、2つのscFvフラグメントが、ペプチドリンカーを介して、WO 1995/009917およびMueller D., et al, Handbook of Therapeutic antibodies, Part III, Chapter 2, (2008) 345-378に記載のように重鎖のC末端において融合している、完全長抗体に基づいた4価の二重特異的抗体を調製し、そして命名した。それが代わりに有するscFabの代わりに。<IGF−1R>抗原結合部位のための重鎖可変ドメインVHとして、配列番号15を使用した。<IGF−1R>抗原結合部位のための軽鎖可変ドメインVLとして、配列番号16を使用した。<EGFR>抗原結合部位のための重鎖可変ドメインVHとして、配列番号7を使用した。<EGFR>抗原結合部位のための軽鎖可変ドメインVLとして、配列番号8を使用した。この比較分子はXGFR1_2320と命名される(そしてまたPCT PCT/EP2009/006782にも記載されている)。
【0146】
【表2】
【0147】
二重特異的単鎖Fv分子XGFR1−2320は、精製後に0.27mgの最終収量を有し、一方で対応する単鎖Fab分子XGFR1−2720は、6.8mgの最終収量を有し(図4の化合物A参照)、これは200倍を超える収量の増加を示す。
【0148】
実施例3
二重特異的<EGFR−IGF1R>抗体scFab−XGFR分子の安定性および凝集傾向
HPサイズ排除クロマトグラフィー分析を行ない、組換え抗体誘導体の調製物中に存在する凝集体の量を決定した。そのために、二重特異的抗体試料を、Superdex 200分析用サイズ排除カラム(GE Healthcare, Sweden)を使用して、UltiMate 3000 HPLCシステム(Dionex)での高速SECによって分析した。図9は、これらの分析の一例を示す。凝集体は、単量体の抗体誘導体を含む画分の前に別々のピークまたはショルダーとして出現する。この研究のために、本発明者らは、所望の「単量体」分子を、両方のいずれかに接続されたscFabを有する、重鎖および軽鎖の2つのヘテロ二量体からなると定義する。還元された二重特異的抗体の軽鎖および重鎖のアミノ酸骨格の完全性並びに融合タンパク質を、ペプチド−N−グリコシダーゼF(Roche Molecular Biochemicals)を用いての酵素的処理によってN−グリカンを除去した後に、ナノエレクトロスプレーQ−TOF質量分析によって確認した。
【0149】
種々の条件下(種々の濃度および時間)における精製タンパク質のHPサイズ排除クロマトグラフィー分析は、正常なIgGと比較して、scFabを含む分子については凝集する軽い傾向を示した。いくつかの分子について本発明者らが観察したこの軽い凝集傾向は、scFabモジュールへのVH44/VL100鎖間ジスルフィド結合の導入によって軽減することができた。
【0150】
実施例4
RTKであるEGFRおよびIGF1Rへの二重特異的<EGFR−IGF1R>抗体scFab分子の結合
種々の二重特異的抗体フォーマットscFab−XGFRのscFabモジュールの結合と、保持された完全長のIgGモジュールの抗原結合部位の結合とを、結合モジュールおよび二重特異的抗体の由来する「野生型」IgGの結合と比較した。これらの分析を、表面プラズモン共鳴(Biacore)並びに細胞ELISAを適用することによって行なった。
【0151】
二重特異的<IGF−1R−EGFR>抗体の結合特性を、Biacore T100機器(GE Healthcare Bio-Sciences AB, Uppsla)を使用する表面プラズモン共鳴(SPR)技術によって分析した。このシステムは、分子の相互作用の研究のために十分に確立されている。それはリガンド/アナライトの結合の連続的でリアルタイムなモニタリングを可能とし、従って、種々のアッセイ環境において会合速度定数(ka)、解離速度定数(kd)および平衡定数(KD)の決定を可能とする。SPR技術は、金でコーティングされたバイオセンサーチップの表面に近い屈折率の測定に基づく。屈折率の変化は、固定したリガンドと、溶液中に注入したアナライトとの相互作用によって引き起こされる表面上における質量変化を示す。分子が表面上に固定されたリガンドに結合すれば、質量は増加し、解離の場合には質量は減少する。
【0152】
キャプチャー抗ヒトIgG抗体を、アミンカップリング化学反応を使用してClバイオセンサーチップの表面上に固定した。フローセルを、5μl/分の流速の0.1MのN−ヒドロキシスクシンイミドおよび0.1Mの3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピル−N−エチルカルボジイミドの1:1混合物を用いて活性化した。酢酸ナトリウム(pH5.0)中5μg/mlの抗ヒトIgG抗体を注入し、これにより、約200RUの表面密度が得られた。リファレンス対照フローセルを同じように処理したが、キャプチャー抗体の代わりにビヒクル緩衝液のみで処理した。表面を、1Mエタノールアミン/HCl(pH8.5)の注入により遮断した。二重特異的抗体をHBS−P中で希釈し、そして5μl/分の流速で注入した。1〜5nMの濃度の抗体についての接触時間(結合相)は1分間であった。EGFR−ECDを、1.2、3.7、11.1、33.3、100および300nMの漸増濃度で注入し、IGF−1Rを0.37、1.11、3.33、10、30および90nMの濃度で注入した。30μl/分の流速での両方の分子についての接触時間(結合相)は3分間であり、解離時間(ランニング緩衝液を用いての洗浄)は5分間であった。全ての相互作用は25℃(標準温度)で行なわれた。0.85%リン酸および5mMの水酸化ナトリウムの再生溶液を、各々5μl/分で60秒間注入して、各結合サイクルの後のあらゆる非共有結合的に結合したタンパク質を除去した。シグナルは、1秒間あたり1つのシグナルの割合で検出された。試料を、漸増濃度で注入した。
【0153】
EGFRおよびIGF1Rへの二重特異的抗体<IGF−1R−EGFR>抗体の同時結合の例を、図10a〜dに示す。
【0154】
【表3】
【0155】
培養細胞上におけるFACSに基づいた結合分析および競合分析を適用して、細胞表面上に曝されたRTKに対する二重特異的抗体誘導体の結合能も評価することができる。図11は、A549癌細胞上におけるscFabを含む二重特異的XGFR誘導体の結合能を試験するために本発明者らが使用した実験設定を示す。これらの細胞競合アッセイのために、抗原のEGFR並びにIGF1Rを発現するA549細胞を脱着させ、そして計測した。コニカル底96ウェルプレートの1ウェルあたり1.5×105個の細胞を播種した。細胞を遠心分離で沈降させ(1500rpm、4℃、5分間)、そして1μg/mLのAlexa647標識IGF1R特異的抗体を含む2%FCS(ウシ胎児血清)を含むPBS中の50μLのそれぞれの二重特異的抗体の連続希釈液中で氷上で45分間インキュベーションした。細胞を再度遠心分離して沈降させ、そして2%FCSを含む200μLのPBSで2回洗浄した。最後に、細胞を、BD CellFix溶液(BD Biosciences)中に再懸濁し、そして少なくとも10分間氷上でインキュベーションした。細胞の平均蛍光強度(mfi)をフローサイトメトリー(FACS Canto)によって決定した。Mfiを、少なくとも2回の2つの独立した染色において決定した。フローサイトメトリースペクトルを、FlowJoソフトウェア(TreeStar)を使用してさらに処理した。最大半量の結合を、XLFit 4.0 (IDBS)および用量応答1部位モデル(dose response one site model)205を使用して決定した。
【0156】
図12a〜cに示されるこれらのアッセイの結果は、腫瘍細胞の表面上における二重特異的scFabを含む抗体誘導体の結合機能性を実証する。例えば、二重特異的抗体誘導体scFab−XGFR1_2721の競合実験におけるIC50は0.11μg/mlであり、一方、単一特異的抗体のIC50は50%より高かった(0.18μg/ml)。競合アッセイにおける親抗体と比較した二重特異的scFab−XGFR_2721誘導体のこの増加した活性は、二重特異的分子が、単一特異的抗体よりも細胞表面に、より良好に結合することを示唆する。
【0157】
実施例5
二重特異的<EGFR−IGF−1R>抗体scFab−XGFR分子による、EGFR並びにIGF−1Rのダウンレギュレーション
ヒト抗IGF−1R抗体<IGF−1R>HUMABクローン18(DSM ACC 2587)は、IGFR1シグナル伝達を阻害し、そしてヒト化ラット抗EGFR抗体<EGFR>ICR62はEGFRによるシグナル伝達を阻害する。種々のscFab−XGFR1変異体の可能性ある阻害活性を評価するために、両方のレセプターのダウンレギュレーション度を分析した。
【0158】
腫瘍細胞におけるIGF−1レセプター(IGF−1R)の量に対する本発明の抗体の効果を検出するために、IGF−1RおよびEGFRに特異的な抗体を用いての時間経過実験およびその後のELISA分析を実施した。
【0159】
6ウェルプレートに、1ウェルあたり、10%FCS(PAA、製造番号E15-039)および1%PenStrepの補充されたRPMI 1640中のヒト腫瘍細胞(H322M、5×105個の細胞/ml)を接種した。3mlの培地を各ウェルに加え、そして細胞を37℃および5%CO2で24時間培養した。
【0160】
培地を注意深く除去し、そしてRPMI−VM培地中に希釈した2mlの100nM XGFR抗体によって置き換えた。対照ウェルにおいては、培地を、抗体を含まない培地および緩衝液、並びに対照抗体(<IGF−1R>HUMABクローン18および<EGFR>ICR62の最終濃度100nM)を含む培地のいずれかによって置き換えた。細胞を37℃および5%CO2でインキュベーションし、そして個々のプレートを24時間後にさらに処理するために取り出した。
【0161】
培地を吸引によって注意深く除去し、そして細胞を1mlのPBSで洗浄した。300μl/ウェルの冷MES溶解緩衝液を加えた(MES、10mM Na3VO4、およびComplete(登録商標)プロテアーゼ阻害剤)。1時間後、細胞をセルスクレーパー(Corning、製造番号3010)を使用して氷上で脱着させ、そしてウェル内容物をエッペンドルフ反応チューブに移した。細胞フラグメントを、13000rpmおよび4℃で10分間の遠心分離によって除去した。
【0162】
EGFRの検出のために
96ウェルマイクロタイタープレート(MTP)をプロトコール(ヒトEGFRのためのDuoSet ELISA、RnD systems、製造番号DY231)に従って調製した。PBS中144μg/mlのヒトEGFRヤギ抗体をPBS中で1:180に希釈し、そして100μl/ウェルをMTPに加えた。MTPを室温で撹拌しながら一晩インキュベーションした。プレートを、3回、0.1%Tween(登録商標)20の補充されたPBSで洗浄し、そして300μl/ウェルのPBS、3%BSAおよび0.1%Tween(登録商標)20溶液を用いて1時間かけて室温(RT)で撹拌しながら遮断した。プレートを、3回、0.1%Tween(登録商標)20の補充されたPBSで洗浄した。
【0163】
細胞溶解液中のタンパク質の量を、BCAプロテインアッセイキット(Pierce)を使用して決定し、その後、細胞溶解液を、100mMのNa3VO41:100およびComplete(登録商標)プロテアーゼ阻害剤1:20の補充されたMES溶解緩衝液を用いて0.04mg/mlのタンパク質濃度に調整し、そして1ウェルあたり100μlの溶解液を、予め調製されたMTPに加えた。バックグラウンド測定のために、100μlの溶解緩衝液をMTPのウェルに加えた。
【0164】
第2の細胞溶解液の濃度を0.025mg/mlで使用し、溶解液を1:2に希釈し、そして1ウェルあたり100μlを、予め調製されたMTPに加えた。MTPをさらに2時間室温で撹拌しながらインキュベーションし、その後、3回、0.1%Tween(登録商標)20溶液を含むPBSで洗浄した。
【0165】
EGFRのための検出抗体は、PBS、3%BSAおよび0.2%Tween(登録商標)20で1:180に希釈された36μg/mlの濃度のヒトEGFRヤギビオチニル化抗体であった。1ウェルあたり100μlを加え、そして室温で2時間撹拌しながらインキュベーションした。その後、MTPを、3回、1ウェルあたり、0.1%Tween(登録商標)20溶液を含む200μlのPBSで洗浄した。その後、PBS、3%BSAおよび0.2%Tween(登録商標)20中の1:200のストレプトアビジン−HRPを、1ウェルあたり100μl加え、そして撹拌しながら20分間室温でインキュベーションした。その後、プレートを、6回、0.1%Tween(登録商標)20溶液を含むPBSで洗浄した。1ウェルあたり100μlの3,3’−5,5’−テトラメチルベンジジン(Roche, BM-Blue ID番号: 11484581)を加え、そして20分間室温で撹拌しながらインキュベーションした。1ウェルあたり25μlの1M H2SO4を加え、そしてさらに5分間室温でインキュベーションすることによって色反応を停止した。450nmにおける吸光度を測定した。
【0166】
IGF−1Rの検出のために
ストレプトアビジン−MTP(Roche ID番号: 11965891001)を、PBS、3%BSAおよび0.2%Tween(登録商標)20中で1:200に希釈したAK1aビオチニル化抗体(Genmab, Denmark)を1ウェルあたり100μl加えることによって調製した。ストレプトアビジン−MTPを1時間室温で撹拌しながらインキュベーションし、その後、3回、1ウェルあたり、0.1%Tween(登録商標)20溶液を含む200μlのPBSで洗浄した。
【0167】
細胞溶解液中のタンパク質の量を、BCAプロテインアッセイキット(Pierce)を使用して決定し、その後、細胞溶解液を、50mMトリスpH7.4、100mM Na3VO4 1:100およびComplete(登録商標)プロテアーゼ阻害剤1:20を用いて0.3mg/mlのタンパク質濃度に調整し、そして1ウェルあたり100μlの溶解液を、予め調製されたストレプトアビジン−MTPに加えた。
【0168】
第2の細胞溶解液の濃度を0.15mg/mlで使用し、溶解液を希釈し、そして1ウェルあたり100μlを、予め調製されたストレプトアビジン−MTPに加えた。バックグラウンド測定のために、100μlの溶解緩衝液をストレプトアビジン−MTPのウェルに加えた。
【0169】
MTPを、さらに1時間室温で撹拌しながらインキュベーションし、その後、3回、0.1%Tween(登録商標)20溶液を含むPBSで洗浄した。
【0170】
IGF−1Rのための検出抗体は、PBS、3%BSAおよび0.2%Tween(登録商標)20中で1:750に希釈したヒトIGF−1Rβウサギ抗体(Santa Cruz Biotechnology、製造番号sc-713)であった。1ウェルあたり100μlを加え、そして室温で1時間撹拌しながらインキュベーションした。その後、MTPを、3回、1ウェルあたり、0.1%Tween(登録商標)20溶液を含む200μlのPBSで洗浄した。その後、二次抗体である、PBS、3%BSAおよび0.2%Tween(登録証用)20中のウサギIgG−POD(Cell signaling、製造番号7074)1:4000を、1ウェルあたり100μl加え、そして撹拌しながら1時間室温でインキュベーションした。その後、プレートを、6回、0.1%Tween(登録商標)20溶液を含むPBSで洗浄した。1ウェルあたり100μlの3,3’−5,5’−テトラメチルベンジジン(Roche, BM-Blue ID番号: 11484581)を加え、そして20分間室温で撹拌しながらインキュベーションした。1ウェルあたり25μlの1M H2SO4を加え、そしてさらに5分間室温でインキュベーションすることによって色反応を停止した。450nmにおける吸光度を測定した。
【0171】
A549細胞における親の単一特異的な抗体<EGFR>ICR62および<IGF−1R>HUMAB−クローン18と比較した、二重特異的scFabを含むXGFR分子によるレセプターダウンレギュレーションの検出の結果を図13および14に示す。二重特異的抗体のscFab−XGFRは、EGFR並びにIGF1Rの両方をダウンレギュレーションする。これは、結合モジュールの完全な機能性(生物学的機能性)および表現型の媒介が保持されていることを示す。図14はまた、驚くべきことに、二重特異的抗体scFab−XGFR_2720が、親の<EGFR>ICR62抗体のみと比較して、EGFRの改善されたダウンレギュレーションを示したことを示す。
【0172】
scFabを含むXGFR1変異体は、同じモル数で同じアッセイに適用された場合に、野生型抗体と同じまたはそれよりも良好な活性を示したという事実は、scFab−XGFR1分子が、両方のシグナル伝達経路に干渉することができることを示す。
【0173】
実施例6
in vitroにおけるscFab−XGFR1およびscFab−XGFR2により媒介される腫瘍細胞株の増殖阻害
ヒト抗IGF−1R抗体<IGF−1R>HUMABクローン18(DSM ACC 2587)は、IGF1Rを発現する腫瘍細胞株の増殖を阻害する(WO 2005/005635)。同じように、ヒト化ラット抗EGFR抗体<EGFR>ICR62は、EGFRを発現する腫瘍細胞株の増殖を阻害することが示された(WO 2006/082515)。腫瘍細胞株の増殖アッセイにおいて種々のscFab−XGFR1変異体の可能性ある阻害活性を評価するために、EGFR並びにIGF1Rを発現するH322M細胞における阻害度を分析した。
【0174】
H322M細胞(5000個の細胞/ウェル)を、ポリ−HEMA(ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート))でコーティングされたディッシュ上の、10%FCSの補充されたRPMI 1640培地中で培養して、プラスチック表面への接着を防いだ。これらの条件下で、H322M細胞は、3次元的に増殖する濃密な球状体を形成する(足場非依存性と呼ばれる特性)。これらの球状体は、in-situにおける固形腫瘍の3次元組織構築および構造に非常に類似している。球状体培養液を、7日間、100nMの抗体の存在下においてインキュベーションした。Celltiter Glow発光アッセイを使用して、増殖阻害を測定した。H322M球状体培養液を<IGF−1R>HUMAB−クローン18で処理した場合、増殖の阻害を観察することができた。
【0175】
図15は、100nMの<IGF−1R>HUMAB−クローン18の適用が、細胞増殖を72%減少させ、そして100nMの<EGFR>ICR62の適用が同じアッセイにおいて細胞増殖を77%減少させたことを示す。両方の抗体の同時適用により(両方共に100nMの同じ濃度で)、細胞生存度は完全に減少した(100%の阻害)。このことは、両方のRTK経路の同時干渉は、ただ1つの経路のみの干渉よりも、腫瘍細胞株に対してより顕著な作用を及ぼすことを示す。100nMのモル濃度の種々のscFab−XGFR1変異体の適用により、単一の分子のみを用いて観察されたよりも顕著なより高度な増殖阻害が得られた。事実、100nMの抗体濃度において、種々のscFab−XGFR1変異体は、細胞増殖の完全な(100%)阻害を示し、一方、単一モジュールの適用は部分的な阻害しか引き起こさなかった。
【0176】
本発明者らは、scFab−XGFR1分子が、EGFRシグナル伝達またはIGF1Rシグナル伝達のいずれかを単独に干渉するIgGと比較して、顕著に増加した増殖阻害活性を有すると結論づける。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)第1抗原に特異的に結合し、そして2つの抗体重鎖および2つの抗体軽鎖からなる、完全長の抗体;並びに
b)1つ以上のさらなる抗原に結合する1つ以上の単鎖Fabフラグメント
ここで、b)での前記の単鎖Fabフラグメントは、前記の完全長抗体の重鎖または軽鎖のC末端またはN末端においてペプチドコネクターを介してa)での前記の完全長抗体に融合している、
を含む、多重特異的抗体。
【請求項2】
a)第1抗原に特異的に結合し、そして2つの抗体重鎖および2つの抗体軽鎖からなる、完全長の抗体;並びに
b)1〜4つのさらなる抗原に結合する1〜4つの単鎖Fabフラグメント
ここで、b)での前記の単鎖Fabフラグメントは、前記の完全長抗体の重鎖または軽鎖のC末端またはN末端においてペプチドコネクターを介してa)での前記の完全長抗体に融合している、
を含む、請求項1記載の多重特異的抗体。
【請求項3】
第2抗原に結合する1つまたは2つの単鎖Fabフラグメントが、前記の完全長抗体の重鎖のC末端においてペプチドコネクターを介して前記の完全長抗体に融合している、請求項1または2記載の多重特異的抗体。
【請求項4】
第2抗原に結合する1つの単鎖Fabフラグメントが、前記の完全長抗体の1つの重鎖または1つの軽鎖のC末端においてペプチドコネクターを介して前記の完全長抗体に融合している、請求項1または2記載の多重特異的抗体。
【請求項5】
第2抗原に結合する、2つの同一な単鎖FabフラグメントVL−CL−リンカー−VH−CH1またはVH−CH1−リンカー−VL−CLが、そのN末端で、前記の完全長抗体の2つの重鎖の2つのC末端または2つの軽鎖の2つのC末端においてペプチドコネクターを介して前記の完全長抗体に融合している、請求項1または2記載の多重特異的抗体。
【請求項6】
第2抗原に結合する、2つの同一な単鎖FabフラグメントVL−CL−リンカー−VH−CH1またはVH−CH1−リンカー−VL−CLが、そのC末端で、前記の完全長抗体の2つの重鎖の2つのN末端または2つの軽鎖の2つのN末端においてペプチドコネクターを介して前記の完全長抗体に融合している、請求項1または2記載の多重特異的抗体。
【請求項7】
請求項1〜6記載の抗体を含む、薬学的組成物。
【請求項8】
請求項1〜6記載の多重特異的抗体をコードする、核酸。
【請求項1】
a)第1抗原に特異的に結合し、そして2つの抗体重鎖および2つの抗体軽鎖からなる、完全長の抗体;並びに
b)1つ以上のさらなる抗原に結合する1つ以上の単鎖Fabフラグメント
ここで、b)での前記の単鎖Fabフラグメントは、前記の完全長抗体の重鎖または軽鎖のC末端またはN末端においてペプチドコネクターを介してa)での前記の完全長抗体に融合している、
を含む、多重特異的抗体。
【請求項2】
a)第1抗原に特異的に結合し、そして2つの抗体重鎖および2つの抗体軽鎖からなる、完全長の抗体;並びに
b)1〜4つのさらなる抗原に結合する1〜4つの単鎖Fabフラグメント
ここで、b)での前記の単鎖Fabフラグメントは、前記の完全長抗体の重鎖または軽鎖のC末端またはN末端においてペプチドコネクターを介してa)での前記の完全長抗体に融合している、
を含む、請求項1記載の多重特異的抗体。
【請求項3】
第2抗原に結合する1つまたは2つの単鎖Fabフラグメントが、前記の完全長抗体の重鎖のC末端においてペプチドコネクターを介して前記の完全長抗体に融合している、請求項1または2記載の多重特異的抗体。
【請求項4】
第2抗原に結合する1つの単鎖Fabフラグメントが、前記の完全長抗体の1つの重鎖または1つの軽鎖のC末端においてペプチドコネクターを介して前記の完全長抗体に融合している、請求項1または2記載の多重特異的抗体。
【請求項5】
第2抗原に結合する、2つの同一な単鎖FabフラグメントVL−CL−リンカー−VH−CH1またはVH−CH1−リンカー−VL−CLが、そのN末端で、前記の完全長抗体の2つの重鎖の2つのC末端または2つの軽鎖の2つのC末端においてペプチドコネクターを介して前記の完全長抗体に融合している、請求項1または2記載の多重特異的抗体。
【請求項6】
第2抗原に結合する、2つの同一な単鎖FabフラグメントVL−CL−リンカー−VH−CH1またはVH−CH1−リンカー−VL−CLが、そのC末端で、前記の完全長抗体の2つの重鎖の2つのN末端または2つの軽鎖の2つのN末端においてペプチドコネクターを介して前記の完全長抗体に融合している、請求項1または2記載の多重特異的抗体。
【請求項7】
請求項1〜6記載の抗体を含む、薬学的組成物。
【請求項8】
請求項1〜6記載の多重特異的抗体をコードする、核酸。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9a】
【図9b】
【図10a】
【図10b】
【図10c】
【図10d】
【図11】
【図12a】
【図12b】
【図12c】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9a】
【図9b】
【図10a】
【図10b】
【図10c】
【図10d】
【図11】
【図12a】
【図12b】
【図12c】
【図13】
【図14】
【図15】
【公表番号】特表2012−522493(P2012−522493A)
【公表日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−502505(P2012−502505)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【国際出願番号】PCT/EP2010/002004
【国際公開番号】WO2010/112193
【国際公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(506153815)ロシュ グリクアート アクチェンゲゼルシャフト (25)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【国際出願番号】PCT/EP2010/002004
【国際公開番号】WO2010/112193
【国際公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(506153815)ロシュ グリクアート アクチェンゲゼルシャフト (25)
【Fターム(参考)】
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