説明

官能基交換反応用リパーゼ含有組成物、その製造方法及びその使用

【課題】 リパーゼ活性を有しないか又は該活性の低いリパーゼの官能基交換反応活性を発現または向上させる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明は、リパーゼ存在下、モノアルコール、多価アルコール及び多価アルコール部分エステルからなる群から選ばれる水酸基含有化合物と脂肪酸とをエステル化反応する工程を含む、リパーゼの官能基交換反応活性を発現又は向上させる方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エステル交換反応等の各種官能基交換反応に好適に使用可能な、リパーゼ活性を向上させた官能基交換反応用リパーゼ含有組成物、その製造方法、該リパーゼ含有組成物を用いる油脂のエステル交換反応等の各種官能基交換方法等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、市販されている粉末状リパーゼは、そのままエステル交換反応等の官能基交換反応に適用できるものがほとんどなく、そればかりか一般的に適用できないケースが多かった。そのため粉末製剤化の過程で界面活性剤などを用いることによりエステル交換能を付与する方法が提案されている(非特許文献1、2)。
また、食品分野においては、エステル交換反応する際、固定化リパーゼがよく用いられているが、固定化リパーゼ単位質量当たりのリパーゼ活性をさらに向上させることが望まれていた。
【0003】
【非特許文献1】JAOCS,Vol.76,NO.11,1259-1264,1999
【非特許文献2】JAOCS,Vol.73,NO.11,1505-1512,1996
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、官能基交換反応活性を付与又は向上させたリパーゼを含有する官能基交換反応用組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明は、又、上記官能基交換反応用リパーゼ含有組成物を用いる官能基交換反応生成物の製造方法を提供することを目的とする。
本発明は、又、リパーゼの官能基交換反応活性を発現または向上させる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、官能基交換反応活性を有さないか又は該活性の低いリパーゼであっても、リパーゼ存在下でエステル化反応を行うと、該リパーゼに官能基交換反応活性を発現又は向上することができること、それにより得られたリパーゼ及び該リパーゼを含有する組成物を官能基交換反応に利用できること、該組成物に含まれるエステル化反応における未反応原料とエステル化物の量を、官能基交換反応に用いる原料で洗浄すると、その後の官能基交換反応に有利であること等の知見に基づいてなされたものである。
すなわち、本発明は、リパーゼ存在下、モノアルコール、多価アルコール及び多価アルコール部分エステルからなる群から選ばれる水酸基含有化合物と脂肪酸とをエステル化反応させることにより得られる、官能基交換反応用リパーゼ含有組成物を提供する。
【0006】
本発明はまた、リパーゼ存在下、モノアルコール、多価アルコール及び多価アルコール部分エステルからなる群から選ばれる水酸基含有化合物と脂肪酸とをエステル化反応し、官能基交換反応用リパーゼ含有組成物を得る工程を含む、官能基交換反応用リパーゼ含有組成物の製造方法を提供する。
本発明はまた、上記官能基交換反応用リパーゼ含有組成物、又は上記製造方法により得られる官能基交換反応用リパーゼ含有組成物の存在下、エステル、アミド、エステル結合とアミド結合とを分子内に有する化合物、及びそれらの加水分解物からなる群から選ばれる1種又は2種以上のものを原料として官能基交換反応させる工程を含む、官能基交換反応生成物の製造方法を提供する。
本発明はまた、リパーゼ存在下、モノアルコール、多価アルコール及び多価アルコール部分エステルからなる群から選ばれる水酸基含有化合物と脂肪酸とをエステル化反応する工程を含む、リパーゼの官能基交換反応活性を発現又は向上させる方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、界面活性剤等を用いる前処理をしなくても、エステル交換反応活性等の官能基交換反応活性が無いか又は該活性が低いリパーゼに該活性を発現させ、又は該活性を向上させることができる。
本発明によればまた、食品又は食品添加剤を製造するのに使用しても安全なリパーゼ含有組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の官能基交換反応用リパーゼ含有組成物及びその製造方法について説明する。
本明細書において官能基交換反応とは、エステル交換反応、アミド交換反応、並びにエステル交換反応とアミド交換反応の両方を行うエステル交換及びアミド交換反応のことをいう。官能基交換反応の詳細については、後に説明する官能基交換反応用リパーゼ含有組成物を用いた官能基交換反応生成物の製造方法において説明する。
本発明の官能基交換用リパーゼ含有組成物は、該組成物中に含まれるリパーゼの官能基交換能が活性化されているため、エステル交換反応、アミド交換反応、又はエステル交換及びアミド交換反応に使用すると、効率良く各反応を進行させることができる。
【0009】
<水酸基含有化合物>
本発明において、エステル化反応に用いることのできる水酸基含有化合物としては、モノアルコール、多価アルコール及び多価アルコール部分エステルからなる群から選ばれ、これらを単独で使用することもできるし二種以上を併用することもできる。
モノアルコールとしては、アルキルモノアルコール及び植物ステロール等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。アルキルモノアルコールを構成するアルキル部分は、短鎖アルキル、例えば炭素数2〜5、中鎖アルキル、例えば炭素数6〜12、又は長鎖アルキル、例えば炭素数13〜30のいずれでも良い。該アルキルモノアルコールを構成するアルキル部分はまた、飽和又は不飽和のいずれでも良く、直鎖でも分岐でも良い。具体的には、直鎖の中鎖飽和アルコールとしてオクタノール、ドデカノール、直鎖の長鎖不飽和アルコールとしてオレイルアルコール等が好適なものとして挙げられる。植物ステロールとしては、シトステロール、スチグマステロール、カンペステロール、フコステロール、スピナステロール及びブラシカステロール等が好適なものとしてあげられる。
【0010】
多価アルコールとは、2価以上のアルコ−ルのことをいい、例えば、2価アルコールとして、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、及びグリコール類の重縮合物等が挙げられ、3価以上のアルコールとしては、グリセリン、エリスリトール、ソルビトール類、トリメチロールプロパン、及び3価以上のアルコールの重縮合物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上のものを使用できる。ここで、グリコール類の重縮合物として、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、及びポリプロピレングリコール等が挙げられ、ソルビトール類としては、ソルビトール、ソルビタン、及びソルバイト等が挙げられ、3価以上のアルコールの重縮合物としては、ショ糖及びポリグリセリン等が挙げられる。
【0011】
多価アルコール部分エステルとしては、例えば、多価アルコール部分エステルを構成する多価アルコールが、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、ソルビトール類、ショ糖及びトリメチロールプロパンからなる群から選ばれる1種又は2種以上のものを使用できる。具体的には、グリセリンと脂肪酸との部分エステル、グリセリンの重縮合物であるポリグリセリンと脂肪酸との部分エステル、ソルビトール類と脂肪酸との部分エステル、ショ糖と脂肪酸との部分エステル、プロピレングリコールと脂肪酸とのモノエステル等が挙げられる。
ここで、多価アルコール部分エステルのエステル化度は、1〜2程度であるのが好ましい。
また、多価アルコール又は多価アルコール部分エステルは、エステル化反応前に、対応する多価アルコールのすべての水酸基に脂肪酸がエステル化したエステル、又は対応する多価アルコールと脂肪酸の部分エステルを加水分解する工程により得ることもできる。かかる工程によると、エステル化反応の原料として、入手が容易な油脂を使用することができる。
なお、加水分解の際に添加する水の量としては、加水分解するのに十分な量であればよく、例えば、リパーゼの質量に対して5〜200質量%の水を使用することができる。
【0012】
前記水酸基含有組成物は、多価アルコール又は多価アルコール部分エステルであり、かつ、該多価アルコール又は該多価アルコール部分エステルを構成する多価アルコールが、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、ソルビトール類、ショ糖及びトリメチロールプロパンからなる群から選ばれるものがより好ましい。その中でも特に、グリセリン、プロピレングリコールが最も好ましい。
【0013】
<脂肪酸>
本発明において、エステル化反応に用いることのできる脂肪酸としては、特に限定されず、飽和又は不飽和の直鎖又は分岐鎖の短鎖、中鎖又は長鎖脂肪酸があげられる。食品に使用する場合には安全性の面から、飽和又は不飽和の中鎖又は長鎖脂肪酸が好ましい。入手が容易であること、及び常温で液体であるため製造時に取り扱い易いことから長鎖不飽和脂肪酸がより好ましい。植物油脂由来の長鎖不飽和脂肪酸が最も好ましい。なお、本明細書において、短鎖脂肪酸とは、構成脂肪酸の炭素数が2〜5の脂肪酸をいい、中鎖脂肪酸とは、構成脂肪酸の炭素数が6〜12の脂肪酸をいい、長鎖脂肪酸とは、構成脂肪酸の炭素数が13〜30の脂肪酸をいう。水酸基を有するもの(ヒドロキシ脂肪酸)でも良く、例えば、12−ヒドロキシステアリン酸及びリシノール酸等が挙げられる。
脂肪酸としては、具体的には、植物油脂又は動物油脂を加水分解して得られる脂肪酸や、オレイン酸、オクタン酸、デカン酸、ラウリン酸、パルミチン酸及びこれらの精製物等が挙げられる。前記脂肪酸が、植物油脂を加水分解して得られる脂肪酸であるのが好ましい。ここで、植物油脂としては、ひまわり油、菜種油、大豆油、紅花油、大豆油、及びそれらのハイオレイン品種の油脂、綿実油、コーン油、米油、ゴマ油、アマニ油、パーム油、パーム油の分別油、パーム核油、ヤシ油、オリーブ油、つばき油、カカオ脂、シア脂、サル脂、及びイリッペ脂等が挙げられる。動物油脂としては、魚油、牛脂、及び豚脂等が挙げられる。このうち、酸化安定性が高いため、オレイン酸が最も好ましい。
これらの脂肪酸としては、市販品を使用することができ、単独で使用することもできるし二種以上を併用することもできる。
【0014】
<リパーゼ>
本発明において、エステル化反応に用いることのできるリパーゼとしては、特に制限されないが、反応に使用していない新品を使用することもできるし、一旦使用したものを再生するのに使用することもできるし、両者を併用することもできる。Rhizomucor miehei由来、Thermomyces lanuginosus由来、Rhizopus oryzae由来及びRhizopus delemar由来のものが好ましい。
本発明で使用できるRhizomucor miehei由来のリパーゼとしては、ノボザイムズ社の商品:Palatase 20000L等が挙げられる。パタラーゼ(Palatase)は、水溶液にリパーゼが溶解・分散した形態で市販されているが、限外濾過膜を使用して該水溶液を濾過することにより低分子成分除去してリパーゼ含有水溶液とし、例えば、スプレードライヤーやフリーズドライを用いて噴霧することにより得ることができる。
Thermomyces lanuginosus由来のリパーゼとしては、ノボザイムズ社の商品:Lipozyme TL 100L等が挙げられる。粉末状リパーゼは、上述した方法と同様にしして得ることができる。
Rhizopus oryzae由来のリパーゼとしては、天野エンザイム社の商品:リパーゼF−AP15等が挙げられる。このものは粉末状リパーゼである。
Rhizopus delemar由来のリパーゼとしては、天野エンザイム社の商品:リパーゼD等が挙げられる。このものは粉末状リパーゼである。なお、このリパーゼDについては現在、Rhizopus oryzae由来に変更されているが、従来はRhizopus delemar由来の表記であった。
本発明において使用できるリパーゼは、位置特異性を有していても有していなくてもよい。
【0015】
本発明において使用するリパーゼの形態は、担体に固定化されていない粉末形態であってもよいし、適当な担体、例えば陰イオン交換樹脂、フェノール吸着樹脂、疎水性担体、陽イオン交換樹脂、キレート樹脂、アクリル樹脂、ナイロン樹脂、シリカゲル、セライト等の担体に固定化されていてもよい。担体に固定化されている固定化リパーゼとして、例えばノボザイムズ社の商品:Lipozyme RM−IM等が挙げられる。
両形態のリパーゼを併用することもできるが、粉末形態であるのが好ましい。一旦エステル交換反応に使用してエステル交換活性の低下したリパーゼを使用することもできる。
前記リパーゼが粉末状リパーゼである場合、その粒径は任意とすることができるが、その90質量%以上が粒径1〜100μm、好ましくは20〜50μmであるのが好ましい。このような範囲にあると、分散状態が良く、操作性が良好なので好ましい。なお、粉末状リパーゼの粒径は、例えばHORIBA社の粒度分布測定装置(LA−500)を用いて測定することができる。
本発明においてリパーゼはリパーゼ含有水溶液の形態のものも含めて市販品をそのまま使用することもできるが、リパーゼ含有水溶液として商業的に入手可能なものの場合、リパーゼ溶液中のその他残存・添加成分が悪影響を及ぼしたり、それらを除いた水溶液の場合も過剰な水分の除去に負担が掛かかるため、効果的にまた確実に処理を行うためにも、粉末状にしたものであることが好ましい。
リパーゼ含有水溶液を粉末化する方法としては、スプレードライ、フリーズドライ(凍結乾燥)、及び溶剤沈殿後乾燥する方法等が挙げられる。
【0016】
ここで、リパーゼ含有水溶液としては、菌体を除去したリパーゼ培養液、精製培養液、これらから得たリパーゼ粉末を再度水に溶解・分散させたもの、市販のリパーゼ粉末を再度水に溶解・分散させたもの、市販の液状リパーゼ等が挙げられる。さらに、リパーゼ活性をより高めるために塩類等の低分子成分を除去したものがより好ましく、また、粉末性状をより高めるために糖等の低分子成分を除去したものがより好ましい。
リパーゼ培養液としては、例えば、大豆粉、ペプトン、コーン・ステープ・リカー、K2HPO4、(NH42SO4、MgSO4・7H2O等含有する水溶液があげられる。これらの濃度としては、大豆粉0.1〜20質量%、好ましくは1.0〜10質量%、ペプトン0.1〜30質量%、好ましくは0.5〜10質量%、コーン・ステープ・リカー0.1〜30質量%、好ましくは0.5〜10質量%、K2HPO4 0.01〜20質量%、好ましくは0.1〜5質量%である。又、(NH42SO4は0.01〜20質量%、好ましくは0.05〜5質量%、MgSO4・7H2Oは0.01〜20質量%、好ましくは0.05〜5質量%である。培養条件は、培養温度は10〜40℃、好ましくは20〜35℃、通気量は0.1〜2.0VVM、好ましくは0.1〜1.5VVM、攪拌回転数は100〜800rpm、好ましくは200〜400rpm、pHは3.0〜10.0、好ましくは4.0〜9.5に制御するのがよい。
【0017】
菌体の分離は、遠心分離、膜濾過などで行うのが好ましい。また、塩類や糖等の低分子成分の除去は、UF膜処理により行うことができる。具体的には、UF膜処理を行い、リパーゼを含有する水溶液を1/2量の体積に濃縮後、濃縮液と同量のリン酸バッファーを添加するという操作を1〜5回繰り返すことにより、低分子成分を除去したリパーゼ含有水溶液を得ることができる。
遠心分離は200〜20,000×g、膜濾過はMF膜、フィルタープレスなどで圧力を3.0kg/m2以下にコントロールするのが好ましい。菌体内酵素の場合は、ホモジナイザー、ワーリングブレンダー、超音波破砕、フレンチプレス、ボールミル等で細胞破砕し、遠心分離、膜濾過などで細胞残さを除去することが好ましい。ホモジナイザーの攪拌回転数は500〜30,000rpm、好ましくは1,000〜15,000rpm、ワーリングブレンダーの回転数は500〜10,000rpm、好ましくは1,000〜5,000rpmである。攪拌時間は0.5〜10分、好ましくは1〜5分がよい。超音波破砕は1〜50KHz、好ましくは10〜20KHzの条件で行うのが良い。ボールミルは直径0.1〜0.5mm程度のガラス製小球を用いるのがよい。
本発明では、リパーゼ含有水溶液としては、固形分として5〜30質量%含むものを用いるのが好ましい。
【0018】
スプレードライ等の乾燥工程の直前に、リパーゼ含有水溶液のpHを6〜7.5に調整するのが好ましい。特にpHを7.0以下に、さらにpHを6.5〜7.0の範囲となるように調整するのが好ましい。pH調整は、スプレードライなどの乾燥工程の前のいずれかの工程において行ってもよく、乾燥工程の直前のpHが上記範囲内となるように、予めリパーゼ含有水溶液のpHを調整しておいてもよい。pH調整には、各種アルカリ剤や酸を用いることができるが、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物を用いるのが好ましい。
又、乾燥工程前の途中の工程において、リパーゼ含有水溶液を濃縮してもよい。濃縮方法は、特に限定されるものではないが、エバポレーター、フラッシュエバポレーター、UF膜濃縮、MF膜濃縮、無機塩類による塩析、溶剤による沈殿法、イオン交換セルロース等による吸着法、吸水性ゲルによる吸水法等があげられる。好ましくはUF膜濃縮、エバポレーターがよい。UF膜濃縮用モジュールとしては、分画分子量3,000〜100,000、好ましくは6,000〜50,000の平膜または中空糸膜、材質はポリアクリルニトリル系、ポリスルフォン系などが好ましい。
【0019】
スプレードライは、例えば、ノズル向流式、デイスク向流式、ノズル並流式、デイスク並流式等の噴霧乾燥機を用いて行うのがよい。好ましくはデイスク並流式が良く、アトマイザー回転数は4,000〜20,000rpm、加熱は入口温度100〜200℃、出口温度40〜100℃で制御してスプレードライするのが好ましい。
又、フリーズドライ(凍結乾燥)も好ましく、例えば、ラボサイズの少量用凍結乾燥機、棚段式凍結乾燥により行うのが好ましい。さらに、減圧乾燥により調製することもできる。
溶剤沈殿後乾燥する具体的な方法として、エタノール、アセトン等を使用して溶剤沈殿させた後、減圧乾燥する方法が挙げられる。
【0020】
<官能基交換反応用リパーゼ含有組成物の製造>
水酸基含有化合物と脂肪酸との仕込み比率は特に限定されないが、プロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコールを使用する場合はエステル化反応後にできるだけ残存しない量を選択するのが好ましい。これにより、エステル化反応後にリパーゼがダマになるなどの弊害を避けることができるので好ましい。
具体的には、水酸基含有化合物のアルコール残基に対し、脂肪酸のモル比で30%以上が存在するようにすることが好ましく、より好ましくは50〜1000%であり、さらにより好ましくは50〜500%であり、最も好ましくは50〜350%である。
本発明において、エステル化反応に使用するリパーゼの量は、エステル化反応原料である水酸基含有化合物及び脂肪酸の全質量に対し0.1〜50質量%が好ましく、0.5〜30質量%がより好ましく、1〜20質量%が最も好ましい。この範囲でリパーゼを使用すると、エステル化反応原料とリパーゼの混合物の粘度等の物性の点から、より作業性が向上するので好ましい。
【0021】
本発明において、エステル化反応は、常圧又は常圧から10hPa程度までの減圧度に達する環境下で、脱水しながら行うことが好ましい。
エステル化反応の反応温度は特に限定されないが、20〜80℃が好ましく、30〜60℃がより好ましい。この温度範囲であると、エステル化反応がより早く進行し、さらに、リパーゼの失活を生じることが少ないからである。
【0022】
エステル化反応を終了させる時機は、エステル化度により決定することができ、その程度は原料として用いる水酸基含有化合物の種類により異なる。
モノアルコールを原料として使用する場合、原料モノアルコールの30%モル以上がエステル化されるまで行うことが好ましい。モノアルコールがどの程度エステル化されたかは、エステル化反応途中に反応液を採取してGC分析をし、使用したモノアルコールと反応したモノエステルのピークエリア%から求めることができる。
多価アルコール又は多価アルコール部分エステルを原料として使用する場合、エステル化度は、エステル化反応途中に反応液を採取し、水酸基含有化合物の平均エステル化度を測定することにより調べることができる。目的とする平均エステル化度に達したときに、エステル化反応を終了させる。
多価アルコールを原料として使用する場合のエステル化反応は、平均エステル化度が1以上となるようにするのが好ましい。平均エステル化度を1以上とすることで、原料の多価アルコールの残存をより少なくすることができるからである。
多価アルコール部分エステルを原料として使用する場合は、原料として平均エステル化度が1〜2程度のものを使うことが好ましい。エステル化反応は、エステル化物の平均エステル化度が原料のエステル化度より0.3以上大きい値となるようにするのが好ましい。
官能基交換反応用リパーゼ含有組成物の平均エステル化度を求めるには、例えば水酸基含有化合物としてグリセリンを使用する場合、得られる官能基交換用リパーゼ含有組成物をトリメチルシリル化(TMS化)したものをGC分析し、各グリセリド(グリセリン、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド)のピークエリア%から求めることができる。反応後、各グリセリドの合計を基準としてトリグリセリド含量が100%となっていれば、エステル化反応によるグリセリンエステルの平均エステル化度は3となる。
【0023】
本発明において、エステル化反応前、エステル化反応中又はエステル化反応後に、更に、ろ過助剤及び/又は固定化担体を添加する工程を含むことができる。エステル化反応後に、ろ過助剤及び/又は固定化担体を添加するのが好ましい。ろ過助剤及び/又は固定化担体を添加することにより、エステル化反応をした後、又は後に説明する官能基交換反応をした後に、ろ過処理をスムーズに行うことができるので好ましい。
使用できるろ過助剤及び/又は固定化担体としては、陰イオン交換樹脂、フェノール吸着樹脂、疎水性担体、陽イオン交換樹脂、キレート樹脂、アクリル樹脂、ナイロン樹脂、シリカゲル、セライト、セルロース、でんぷん、デキストリン、活性炭、活性白土、カオリン、ベントナイト、タルク、砂等があげられる。このうち、シリカゲル、セライト、セルロースが好ましい。
【0024】
エステル化反応前後又は反応中に使用できるろ過助剤及び/又は固定化担体は、リパーゼ質量に対し10〜10000質量%の量を添加することが好ましく、50〜1000質量%の量を添加することがさらに好ましい、75〜500質量%の量を添加することが最も好ましい。この範囲の量を使用すると、ろ過時の負担がより小さくなり、大規模なろ過設備を必要としないからである。
本発明の官能基交換反応用リパーゼ含有組成物中のリパーゼ含量は、後に官能基交換反応に用いることから高い方がより好ましい。具体的には、本発明の官能基交換反応用リパーゼ含有組成物中のリパーゼ含量は0.1〜99質量%であるのが好ましく、10〜80質量%であるのがより好ましく、20〜70質量%であるのが最も好ましい。
本発明の官能基交換反応用リパーゼ含有組成物を製造するのに、ろ過助剤又は固定化担体を使用することができる。この場合、得られる官能基交換反応用リパーゼ含有組成物中のリパーゼとろ過助剤及び/又は固定化担体との合計量(以下、これを固形分量ともいう。)は、組成物の全質量を基準として、0.1〜99質量%となる量であることが好ましく、10〜80質量%であることがより好ましく、20〜70質量%であることが最も好ましい。
本発明の官能基交換反応用リパーゼ含有組成物中の未反応の水酸基含有化合物及び脂肪酸(未反応原料)、並びにエステル化物の含量は1〜99.9質量%であることが好ましく、20〜90質量%であることがさらにより好ましく、30〜80質量%であることが最も好ましい。
エステル化反応前に、水酸基含有化合物及び脂肪酸の全質量に対して0.01〜10質量%の水を添加することができる。これにより、エステル化反応開始時点の反応率をより高めることができ、リパーゼ活性をより向上させることができるので好ましい。
本発明の官能基交換反応用リパーゼ含有組成物の特に好ましい製造方法の例として、グリセリン1モルと炭素数18を主とする植物油由来の脂肪酸をグリセリンの2〜3倍モルの量を仕込み、得られた官能基交換用リパーゼ含有組成物の反応後の平均エステル化度が1〜3になるように反応させる方法が挙げられる。
【0025】
<精製した官能基交換反応用リパーゼ含有組成物>
本発明の官能基交換反応用リパーゼ含有組成物は、該官能基交換反応用リパーゼ含有組成物を、エステル、アミド、エステル結合とアミド結合とを分子内に有する化合物、及びそれらの加水分解物からなる群から選ばれる1種又は2種以上のもので洗浄する工程を含む方法により精製することができる。
本発明の官能基交換反応用リパーゼ含有組成物は、先に説明したように、未反応の水酸基含有化合物や脂肪酸、及びエステル化反応により得られるエステル化物を含有していても良いが、該リパーゼ含有組成物を用いて官能基交換反応を行う際の反応系への不純物の混入防止を考慮すると、ろ過等によりそれらを除去するのがより好ましい。
未反応の水酸基含有化合物、脂肪酸、及びエステル化物の除去は、例えば、本発明の官能基交換反応用リパーゼ含有組成物を自然ろ過、吸引ろ過、加圧ろ過等の処理をすることにより行うことができる。
洗浄は、エステル、アミド、エステル結合とアミド結合とを分子内に有する化合物、及びそれらの加水分解物からなる群から選ばれる1種又は2種以上のものに、本発明の官能基交換反応用リパーゼ含有組成物を添加し、混合した後、必要に応じて加熱をし、液体状態でろ過することにより行うことができる。洗浄は、未反応原料及びエステル化物の除去工程前、又は除去工程後に行うことができるが、除去工程後に行うのが好ましい。
さらに、ろ過助剤及び/又は固定化担体を添加する工程を含むのが好ましい。
【0026】
<エステル、アミド、エステル結合とアミド結合とを分子内に有する化合物、及びそれらの加水分解物>
エステルとして、例えば、カルボン酸エステル、スルホン酸エステル、炭酸エステル、硫酸エステル及びリン酸エステル等が挙げられる。
アミドとして、例えば、カルボン酸アミド、及びスルホン酸アミド等が挙げられる。
エステル結合とアミド結合とを分子内に有する化合物として、ヒドロキシカルボン酸、アミノカルボン酸、及びアミノアルコール等のエステル化及びアミド化物が挙げられる。
エステルの加水分解物、アミドの加水分解物、及びエステル結合とアミド結合とを分子内に有する化合物の加水分解物としては、例えば、カルボン酸、スルホン酸、アルコール、チオアルコール、アミン、ヒドロキシカルボン酸、アミノカルボン酸、及びアミノアルコール等が挙げられる。
前記エステルがカルボン酸エステルであるのが好ましい。
洗浄に使用するエステル、アミド、エステル結合とアミド結合とを分子内に有する化合物、及びそれらの加水分解物からなる群から選ばれる1種又は2種以上のものは、反応系への不純物の混入を防ぐために、精製した官能基交換反応用リパーゼ含有組成物を用いて行う官能基交換反応の反応原料であることが望ましい。
【0027】
<カルボン酸エステル>
カルボン酸エステルとしては、脂肪族カルボン酸エステルや芳香族カルボン酸エステルがあり、脂肪族カルボン酸エステルとして、モノアルコールと脂肪酸との脂肪酸エステル、及び多価アルコールと脂肪酸との脂肪酸エステル等が挙げられる。カルボン酸エステルが肪酸エステルであるのが好ましい。これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらは市販品を用いることができる。
モノアルコールと脂肪酸との脂肪酸エステルとして、具体的には、モノ脂肪酸モノアルキルエステル、及びモノ脂肪酸植物ステロールエステル等が挙げられる。
多価アルコールと脂肪酸との脂肪酸エステルには、多価アルコールのすべての水酸基に脂肪酸がエステル化したエステル、及び多価アルコールと脂肪酸の部分エステルがある。そして、多価アルコールのすべての水酸基に脂肪酸がエステル化したエステルとしては、後述する各種油脂、分岐脂肪酸を有するトリ脂肪酸グリセリド、ジ脂肪酸プロピレングリコール、ソルビトール類の脂肪酸エステル等が挙げられる。また、多価アルコールと脂肪酸の部分エステルとしては、モノ脂肪酸グリセリド、ジ脂肪酸グリセリド、モノ脂肪酸プロピレングリコール、及びソルビトール類の脂肪酸部分エステル等が挙げられる。
【0028】
具体的に、多価アルコールと脂肪酸との脂肪酸エステルとしては、植物油脂、動物油脂、これらを水素添加又は加工した油脂、及び合成トリグリセリド等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。
植物油脂としては、ひまわり油、菜種油、大豆油、紅花油、大豆油、及びそれらのハイオレイン品種の油脂、綿実油、コーン油、米油、ゴマ油、アマニ油、パーム油、パーム油の分別油、パーム核油、ヤシ油、オリーブ油、つばき油、カカオ脂、シア脂、サル脂、及びイリッペ脂等が挙げられる。
また、動物油脂としては、魚油、牛脂、及び豚脂等が挙げられる。
合成トリグリセリドとしては、トリ中鎖脂肪酸グリセリド、構成脂肪酸が中鎖脂肪酸と長鎖脂肪酸からなるトリグリセリド等の一般に流通しているものが挙げられる。ここで、トリ中鎖脂肪酸グリセリドとは、構成脂肪酸の炭素数が6〜12の中鎖脂肪酸であるトリ脂肪酸グリセリドのことであり、例えばトリオクタン酸グリセリド、トリデカン酸グリセリド、モノデカン酸ジオクタン酸グリセリド、モノオクタン酸ジデカン酸グリセリドも使用することができる。また、構成脂肪酸が中鎖脂肪酸と長鎖脂肪酸からなるトリグリセリドとは、炭素数が6〜12の中鎖脂肪酸及び炭素数13〜30の長鎖脂肪酸を構成脂肪酸とするトリグリセリドのことをいう。
【0029】
<カルボン酸>
カルボン酸としては、脂肪族カルボン酸や芳香族カルボン酸を使用することができ、脂肪族カルボン酸としては、例えば脂肪酸が挙げられる。
脂肪酸は、先に記載したエステル化反応に使用できる脂肪酸が挙げられる。これらのうち、炭素数6〜30の直鎖飽和脂肪酸又は直鎖不飽和脂肪酸が好ましく、例えば、オクタン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、及びリノレイン酸などが挙げられ、これらは1種又は2種以上を用いることができる。
【0030】
<アルコール>
アルコールとしては、先に記載したエステル化反応に使用することがでるモノアルコール及び多価アルコール等が挙げられる。その中でも、オクタノール、オレイルアルコール、プロピレングリコール及びグリセリンが好ましく、特にグリセリンが好ましい。
【0031】
精製した官能基交換反応用リパーゼ含有組成物中に含まれるリパーゼ含量は、後に官能基交換反応に使用することから、高い方が好ましい。具体的には、該組成物の全量を基準にして0.1〜99質量%であるのが好ましく、10〜80質量%であるのがより好ましく、20〜70質量%であるのが最も好ましい。
また、本発明の精製した官能基交換反応用リパーゼ含有組成物は、ろ過助剤又は固定化担体含有するものの場合、得られる官能基交換反応用リパーゼ含有組成物中のリパーゼとろ過助剤及び/又は固定化担体との合計量(以下、これを固形分量ともいう。)は、組成物の全質量を基準として、0.1〜99質量%となる量であることが好ましく、10〜80質量%であることがより好ましく、20〜70質量%であることが最も好ましい。
未反応の水酸基含有化合物及び脂肪酸(未反応原料)、並びにエステル化物の含量と、洗浄に使用したエステル、アミド、エステル結合とアミド結合とを分子内に有する化合物、及びそれらの加水分解物との合計量は、精製した官能基交換反応用リパーゼ含有組成物中の1〜99.9質量%であることが好ましく、20〜90質量%であることがさらにより好ましく、30〜80質量%であることが最も好ましい。そして、未反応の水酸基含有化合物及び脂肪酸(未反応原料)、並びにエステル化物の含量は、精製した官能基交換反応用リパーゼ含有組成物中0質量%であることが特に好ましい。
また、洗浄に使用するエステル、アミド、エステル結合とアミド結合とを分子内に有する化合物、及びそれらの加水分解物からなる群から選ばれる1種又は2種以上のものは、後に本発明の組成物の存在下で行う官能基交換反応に使用する原料と同じでも異なっていても良いが、反応系への不純物の混入を考慮すると同じものであるのが好ましい。
【0032】
<官能基交換反応生成物の製造方法>
次に、本発明の官能基交換反応生成物の製造方法について説明する。
本発明の官能基交換反応用リパーゼ含有組成物及び精製した官能基交換反応用リパーゼ含有組成物は、その中に含まれるリパーゼの官能基交換反応活性が発現又は向上しているため、官能基交換反応に使用すると、効率良く官能基交換反応生成物を得ることができる。
官能基交換反応としては、エステル交換反応であるのが好ましい。
官能基交換反応の原料は、エステル、アミド、エステル結合とアミド結合とを分子内に有する化合物、及びそれらの加水分解物からなる群から選ばれる1種又は2種以上のものであり、官能基交換反応用リパーゼ含有組成物の洗浄に使用できるものとして先に説明したものを使用できる。係る原料としては、官能基交換反応用リパーゼ含有組成物の洗浄に使用したものと同じものを使用するのが好ましい。以下、これらを原料として行う官能基交換反応について例を挙げて説明をする。
【0033】
エステル交換反応としては、カルボン酸エステルとカルボン酸エステルとの反応、カルボン酸エステルとカルボン酸との反応、カルボン酸エステルとアルコールとの反応、カルボン酸エステルとチオアルコールとの反応、脂肪酸エステルとアミンとの反応、スルホン酸エステルとスルホン酸エステルとの反応、スルホン酸エステルとスルホン酸との反応、スルホン酸エステルとアルコールとの反応、スルホン酸エステルとチオアルコールとの反応、スルホン酸エステルとアミンとの反応、カルボン酸エステルとスルホン酸エステルとの反応、及びカルボン酸エステルとカルボン酸アミドとの反応等が挙げられる。なお、カルボン酸エステルとカルボン酸アミドとの反応は、アミド交換反応にも分類できる。
【0034】
カルボン酸エステルとカルボン酸エステルとのエステル交換反応として、例えば、脂肪酸エステルと脂肪酸エステルとの反応、脂肪酸チオエステルと脂肪酸チオエステルとの反応、及び脂肪酸エステルと脂肪酸チオエステルとの反応等が挙げられる。脂肪酸エステルと脂肪酸エステルとの反応として、具体的には、1種又は2種以上の油脂を原料としたエステル交換反応が挙げられる。
また、カルボン酸エステルとカルボン酸とのエステル交換反応として、例えば、脂肪酸エステルと脂肪酸との反応(アシドリシス反応)が挙げられ、カルボン酸エステルとアルコールとのエステル交換反応として、例えば、脂肪酸エステルとアルキルアルコールとの反応(アルコリシス反応)が挙げられ、カルボン酸エステルとチオアルコールとのエステル交換反応として、脂肪酸エステルとチオアルコールとのエステル交換反応等が挙げられる。
また、スルホン酸エステルとスルホン酸エステルとのエステル交換反応として、例えば、アルキルスルホン酸エステルとアルキルスルホン酸エステルとの反応が挙げられ、カルボン酸エステルとスルホン酸エステルとのエステル交換反応として、例えば脂肪酸エステルとアルキルスルホン酸エステルとの反応が挙げられる。
【0035】
アミド交換反応としては、カルボン酸アミドとカルボン酸アミドとの反応、カルボン酸アミドとカルボン酸との反応、カルボン酸アミドとアルコールとの反応、カルボン酸アミドとチオアルコールとの反応、スルホン酸アミドとスルホン酸アミドとの反応、スルホン酸アミドとスルホン酸との反応、スルホン酸アミドとアルコールとの反応、スルホン酸アミドとチオアルコールとの反応、カルボン酸アミドとスルホン酸アミドの反応、及びカルボン酸エステルとカルボン酸アミドとの反応等が挙げられる。なお、カルボン酸エステルとカルボン酸アミドとの反応は、エステル交換反応にも分類できる。
カルボン酸アミドとカルボン酸アミドとのアミド交換反応として、例えば、脂肪酸アミドと脂肪酸アミドとの反応が挙げられる。
【0036】
また、エステル交換及びアミド交換反応としては、エステル結合とアミド結合とを分子内に有する化合物、例えばヒドロキシカルボン酸、アミノカルボン酸、及びアミノアルコール等のエステル化及びアミド化物を原料として、分子内及び分子間においてエステル交換及びアミド交換反応をし、エステル結合とアミド結合とを分子内に有する化合物を得る反応が挙げられる。さらに、エステル結合とアミド結合とを分子内に有する化合物を、カルボン酸、スルホン酸、アルコール、チオアルコール、アミン等から選ばれるものとエステル交換及びアミド交換反応させることもできる。
【0037】
先に挙げた中でも官能基交換反応は、脂肪酸エステルと脂肪酸エステルとを原料として脂肪酸エステルを得るエステル交換反応、脂肪酸エステルとアルコールとを原料として脂肪酸エステルを得るエステル交換反応、又は脂肪酸エステルと脂肪酸とを原料として脂肪酸エステルを得るエステル交換反応のいずれかあることが好ましい。さらにその中でも特に、脂肪酸エステルである油脂の1種又は2種以上を、エステル交換反応させることによりエステル交換油脂を製造するのがより好ましい。
更に、前記官能基交換反応用リパーゼ含有組成物又は前記精製した官能基交換反応用リパーゼ含有組成物中のリパーゼの全量に対して1000質量%以下の水を添加する工程を含むのが好ましい。これにより、官能基交換反応活性がさらに向上するからである。
【0038】
官能基交換反応生成物は、官能基交換反応により得られるエステル及び/又はアミドのことをいい、例えば、カルボン酸エステル、スルホン酸エステル、カルボン酸アミド、スルホン酸アミド、炭酸エステル、硫酸エステル、及びリン酸エステル等が挙げられる。さらに具体的には、脂肪酸エステル(例えば、エステル交換油脂)、脂肪酸チオエステル、アルキルスルホン酸エステル、脂肪酸アミド、アルキルスルホン酸アミド等が挙げられる。
【0039】
本発明の官能基交換反応の各種条件は、特に限定されないが、官能基交換反応に用いる本発明の官能基交換反応用リパーゼ含有組成物又は精製した官能基交換反応用リパーゼ含有組成物の量は、原料、すなわちエステル、アミド、エステル結合とアミド結合とを分子内に有する化合物、及びそれらの加水分解物からなる群から選ばれる1種又は2種以上のものの全質量に対して0.05〜200質量%であることが好ましい。また、官能基交換反応の温度は20℃〜100℃が好ましく、反応時間は2〜50時間であることが好ましい。
官能基交換反応がエステル交換反応の場合、エステル交換用リパーゼ含有組成物又は精製したエステル交換用リパーゼ含有組成物の量は、該組成物又は該精製した組成物中のリパーゼ量が、エステル交換反応の原料の全質量に対して0.05〜100質量%となる量にすることが好ましく、0.1〜50質量%となる量にすることがより好ましく、0.1〜10質量%となる量にすることが最も好ましい。
【0040】
<リパーゼ活性の発現又は向上方法>
本発明において、リパーゼ活性は、既述のとおり、リパーゼ存在下、モノアルコール、多価アルコール及び多価アルコール部分エステルからなる群から選ばれる水酸基含有化合物と脂肪酸とをエステル化反応させることにより発現又は向上させることができるが、水酸基含有化合物と脂肪酸のエステルを、官能基交換反応活性が無いか又は該活性の低いリパーゼで加水分解させた後、加水分解により生成された水酸基含有化合物と脂肪酸をリパーゼでエステル化反応させることにより発現ないし向上させることもできる。
具体的には、多価アルコールのすべての水酸基に脂肪酸がエステル化したエステル、又は多価アルコールと脂肪酸の部分エステルに、リパーゼ及び水を添加し、20〜80℃で加水分解反応し、必要によりろ過助剤及び/又は固定化担体を添加し、減圧脱水処理をしながら、20〜80℃で水酸基含有化合物と脂肪酸をエステル化反応させることにより、リパーゼの官能基交換反応活性を発現又は向上させることができる。
次に本発明を実施例により詳細に説明する。
【実施例】
【0041】
実施例1
十分に乾燥させた攪拌機付き反応容器に、グリセリン2.6g及びオレイン酸(試薬、和光純薬工業(株)製)17.4g(仕込みモル比;グリセリン:脂肪酸=1:2.2)を加え、撹拌をしながらリパーゼ(商品名:リパーゼF−AP15、天野エンザイム社製)を0.2g(反応原料の1質量%に相当)、ろ過助剤としてセルロース(商品名:KCフロック、日本製紙ケミカル(株)製)を0.2g加えた。
水浴を用いて反応容器内の温度を40℃に維持し3時間反応させた後、減圧ポンプを用いて減圧し反応により出てくる水を除去した。効率良く水を除去するために、減圧度は、最初40hPaに維持し、出てくる水の量が減少したら、45℃に水温を上げ、減圧度も40hPaから徐々に下げ、最終的には20hPaまで減圧した。
反応開始から24時間後に反応を止め、エステル交換用リパーゼ含有組成物1を得た。エステル交換用リパーゼ含有組成物1の平均エステル化度は1.8であった。
ここで、エステル交換用リパーゼ含有組成物1の平均エステル化度は、得られたエステル交換用リパーゼ含有組成物1をTMS化(トリメチルシリル化)したものをGC分析し、各グリセリド(グリセリン、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド)のピークエリア%から求めた。
得られたエステル交換用リパーゼ含有組成物1の全量を定量濾紙(アドバンテック東洋(株)製)を用いてろ過することで、未反応原料及びエステル化物を除去し、さらに、エステル交換反応の原料油脂(トリオクタン酸グリセリド:ハイオレインヒマワリ油を1:1の質量比で混合し、モレキュラーシーブスで乾燥処理した油脂)8gで洗浄・ろ過処理し、精製したエステル交換用リパーゼ含有組成物A(固形分量約33.3質量%)を1.2g得た。
なお、GC分析は、カラム温度:初期50℃、昇温15℃/min.、最終370℃の条件で行った。このGC分析条件は以下の実施例2〜8においても同様に行った。
【0042】
実施例2
十分に乾燥させた攪拌機付き反応容器に、グリセリン2.3g及びオレイン酸(試薬、和光純薬工業(株)製)17.7g(仕込みモル比;グリセリン:脂肪酸=1:2.5)を加え、撹拌をしながらリパーゼ(商品名:リパーゼF−AP15、天野エンザイム社製)を0.3g(反応原料の1.5質量%に相当)、ろ過助剤としてセルロース(商品名:KCフロック、日本製紙ケミカル(株)製)を0.6g加えた。
以下実施例1と同様に操作し、反応開始から24時間後に反応を止め、エステル交換用リパーゼ含有組成物2を得た。エステル交換用リパーゼ含有組成物2の平均エステル化度は2.2であった。
得られたエステル交換用リパーゼ含有組成物2の全量を定量濾紙(アドバンテック東洋(株)製)を用いてろ過することで、未反応原料及びエステル化物を除去し、さらに、エステル交換反応の原料油脂(トリオクタン酸グリセリド:ハイオレインヒマワリ油を1:1の質量比で混合し、モレキュラーシーブスで乾燥処理した油脂)10gで洗浄・ろ過処理し、精製したエステル交換用リパーゼ含有組成物B(固形分量約42.9質量%)を2.1g得た。
【0043】
実施例3
十分に乾燥させた攪拌機付き反応容器に、グリセリン0.6g及びオレイン酸(試薬、和光純薬工業(株)製)4.4g(仕込みモル比;グリセリン:脂肪酸=1:2.5)を加え、撹拌をしながらリパーゼ(商品名:リパーゼF−AP15、天野エンザイム社製)を0.1g(反応原料の2質量%に相当)、ろ過助剤としてセルロース(商品名:KCフロック、日本製紙ケミカル(株)製)を0.5g加えた。
以下実施例1と同様に操作し、反応開始から24時間後に反応を止め、エステル交換用リパーゼ含有組成物3を得た。エステル交換用リパーゼ含有組成物3の平均エステル化度は1.9であった。
得られたエステル交換用リパーゼ含有組成物3の全量を定量濾紙(アドバンテック東洋(株)製)を用いてろ過することで、未反応原料及びエステル化物を除去し、さらに、エステル交換反応の原料油脂(トリオクタン酸グリセリド:ハイオレインヒマワリ油を1:1の質量比で混合し、モレキュラーシーブスで乾燥処理した油脂)6gで洗浄・ろ過処理し、精製したエステル交換用リパーゼ含有組成物C(固形分量約66.7質量%)を0.9g得た。
【0044】
実施例4
十分に乾燥させた攪拌機付き反応容器に、グリセリン0.6g及びオレイン酸(試薬、和光純薬工業(株)製)4.4g(仕込みモル比;グリセリン:脂肪酸=1:2.5)を加え、撹拌をしながらリパーゼ(商品名:リパーゼF−AP15、天野エンザイム社製)を0.1g(反応原料の2質量%に相当)、ろ過助剤としてセライト(商品名:ロカヘルプ、三井金属鉱業(株)製)を0.5g加えた。
以下実施例1と同様に操作し、反応開始から24時間後に反応を止め、エステル交換用リパーゼ含有組成物4を得た。エステル交換用リパーゼ含有組成物4の平均エステル化度は1.9であった。
得られたエステル交換用リパーゼ含有組成物4の全量を定量濾紙(アドバンテック東洋(株)製)を用いてろ過することで、未反応原料及びエステル化物を除去し、さらに、エステル交換反応の原料油脂(トリオクタン酸グリセリド:ハイオレインヒマワリ油を1:1の質量比で混合し、モレキュラーシーブスで乾燥処理した油脂)6gで洗浄・ろ過処理し、精製したエステル交換用リパーゼ含有組成物D(固形分量約54.5質量%)を1.1g得た。
【0045】
実施例5
十分に乾燥させた攪拌機付き反応容器に、グリセリン10g及びオレイン酸(試薬、和光純薬工業(株)製)100g(仕込みモル比;グリセリン:脂肪酸=1:3)を加え、撹拌をしながら粉末リパーゼを1g(反応原料の1質量%に相当)加えた。なお、使用した粉末リパーゼは、ノボザイムズ社製の商品:Palatase 20000Lを、膜濾過後スプレードライを用いて粉末化したものを使用した。
水浴を用いて反応容器内の温度を40℃に維持し3時間反応させた後、減圧ポンプを用いて減圧し反応により出てくる水を除去した。効率良く水を除去するために、減圧度は、最初40hPaに維持し、出てくる水の量が減少したら、45℃に水温を上げ、減圧度も40hPaから徐々に下げ、最終的には水温を55℃にし、20hPaまで減圧した。
反応開始から46時間後に反応を止めた後、ろ過助剤としてセルロース(商品名:KCフロック、日本製紙ケミカル(株)製)を1g加え、エステル交換用リパーゼ含有組成物5を得た。エステル交換用リパーゼ含有組成物5の平均エステル化度は2.4であった。
得られたエステル交換用リパーゼ含有組成物5の全量を定量濾紙(アドバンテック東洋(株)製)を用いてろ過することで、未反応原料及びエステル化物を除去し、さらに、エステル交換反応の原料油脂(トリオクタン酸グリセリド:ハイオレインヒマワリ油を1:1の質量比で混合し、モレキュラーシーブスで乾燥処理した油脂)20gで洗浄・ろ過処理し、精製したエステル交換用リパーゼ含有組成物E(固形分量約35.7質量%)を5.6g得た。
【0046】
実施例6
十分に乾燥させた攪拌機付き反応容器に、グリセリン0.6g、オレイン酸(試薬、和光純薬工業(株)製)4.4g(仕込みモル比;グリセリン:脂肪酸=1:2.5)、及び水0.05g(反応原料の1質量%に相当)を加え、撹拌をしながら粉末リパーゼを0.25g(反応原料の5質量%に相当)、ろ過助剤としてセルロース(商品名:KCフロック、日本製紙ケミカル(株)製)を0.5g加えた。なお、使用した粉末リパーゼは、ノボザイムズ社製の商品:Lipozyme TL 100Lを、膜濾過後スプレードライを用いて粉末化したものを使用した。
以下実施例1と同様に操作し、反応開始から24時間後に反応を止め、エステル交換用リパーゼ含有組成物6を得た。エステル交換用リパーゼ含有組成物6の平均エステル化度は2.1であった。
得られたエステル交換用リパーゼ含有組成物6の全量を定量濾紙(アドバンテック東洋(株)製)を用いてろ過することで、未反応原料及びエステル化物を除去し、さらに、エステル交換反応の原料油脂(トリオクタン酸グリセリド:ハイオレインヒマワリ油を1:1の質量比で混合し、モレキュラーシーブスで乾燥処理した油脂)8gで洗浄・ろ過処理し、精製したエステル交換用リパーゼ含有組成物F(固形分量約41.7質量%)を1.8gを得た。
【0047】
実施例7
十分に乾燥させた攪拌機付き反応容器に、グリセリン0.6g、オレイン酸(試薬、和光純薬工業(株)製)4.4g(仕込みモル比;グリセリン:脂肪酸=1:2.5)、及び水0.1g(反応原料の2質量%に相当)を加え、撹拌をしながらリパーゼ(商品名:リパーゼD、天野エンザイム社製)を0.25g(反応原料の1.5質量%に相当)、ろ過助剤としてセルロース(商品名:KCフロック、日本製紙ケミカル(株)製)を0.5g加えた。
以下実施例1と同様に操作し、反応開始から24時間後に反応を止め、エステル交換用リパーゼ含有組成物7を得た。エステル交換用リパーゼ含有組成物7の平均エステル化度は1.8であった。
得られたエステル交換用リパーゼ含有組成物7の全量を定量濾紙(アドバンテック東洋(株)製)を用いてろ過することで、未反応原料及びエステル化物を除去し、さらに、エステル交換反応の原料油脂(トリオクタン酸グリセリド:ハイオレインヒマワリ油を1:1の質量比で混合し、モレキュラーシーブスで乾燥処理した油脂)8gで洗浄・ろ過処理し、精製したエステル交換用リパーゼ含有組成物G(固形分量約23.3質量%)を1.5g得た。
【0048】
実施例8
十分に乾燥させた攪拌機付き反応容器に、リパーゼ(商品名:リパーゼD、天野エンザイム社製)0.1g(反応原料の0.5質量%に相当)をイオン交換水1.6mlで溶解後加えて、撹拌しながらハイオレインヒマワリ油20gを加えた。水浴を用いて反応容器内の温度を40℃に維持し3時間加水分解反応させた後、ろ過助剤としてセルロース(商品名:KCフロック、日本製紙ケミカル(株)製)を0.5g加えた。その結果、部分エステルの平均エステル化度は2.0であった。その後、減圧ポンプを用いて減圧し反応容器内の水及びエステル化反応により出てくる水を除去した。効率良く水を除去するために、減圧度は、最初40hPaに維持し、出てくる水の量が減少したら、45℃に水温を上げ、減圧度も40hPaから徐々に下げ、最終的には20hPaまで減圧した。反応開始から24時間後に反応を止め、エステル交換用リパーゼ含有組成物8を得た。エステル交換用リパーゼ含有組成物8の平均エステル化度は2.5であった。
得られたエステル交換用リパーゼ含有組成物8の全量を定量濾紙(アドバンテック東洋(株)製)を用いてろ過することで、未反応原料及びエステル化物を除去し、さらに、エステル交換反応用の原料油脂(トリオクタン酸グリセリド:ハイオレインヒマワリ油を1:1の質量比で混合し、モレキュラーシーブスで乾燥処理した油脂)10gで洗浄・ろ過処理し、精製したエステル交換用リパーゼ含有組成物H(固形分量約60質量%)を1g得た。
【0049】
実施例9
各種粉末状リパーゼ、及び実施例1〜8で得られた精製したエステル交換用リパーゼ含有組成物を用いて油脂のエステル交換反応を行い、粉末状リパーゼ及び精製したエステル交換用リパーゼ含有組成物のエステル交換活性能を調べた。
エステル交換反応の原料として、トリオクタン酸グリセリド:ハイオレインヒマワリ油を1:1の質量比で混合し、モレキュラーシーブスで乾燥処理した油脂(以下、エステル交換原料油脂という)を使用した。
油脂のエステル交換反応は、まず、反応容器にエステル交換原料油脂、及び各種粉末状リパーゼ又は精製したエステル交換用リパーゼ含有組成物を仕込み、60℃で反応することにより行った。なお、粉末状リパーゼは、エステル交換原料油脂に対して3〜5質量%使用し、精製したエステル交換用リパーゼ含有組成物は、該組成物のリパーゼ含量が、エステル交換原料油脂に対して0.25〜2質量%となる量を使用した。
次に、エステル交換反応により生成したモノオレイン酸置換体の生成率を次に示す式より求め、反応速度定数Kを計算した。

モノオレイン酸置換体の生成率(%)=
{モノオレイン酸置換体/(トリオクタン酸グリセリド+モノオレイン酸置換体)}×100
【0050】
具体的には、GC分析により得られたトリオクタン酸グリセリドからトリオレイン酸グリセリドまでのピークのエリア%の数値の内、トリオクタン酸グリセリド及びジオクタン酸モノオレイン酸グリセリド(モノオレイン酸置換体)のエリア%の数値を用い、以上の式からモノオレイン酸置換体の生成率を計算した。
なお、GC分析は、カラム温度:初期50℃、昇温15℃/min.、最終370℃の条件で行った。
反応開始から反応終了までの間の数点の反応時間におけるモノオレイン酸置換体の生成率(%)の値を解析ソフト(Origin Ver.6.1)に入力することによりエステル交換反応の反応速度定数(K)を求めた。
各種粉末状リパーゼに対する反応速度定数(リパーゼ当たりの反応速度定数)、及び精製したエステル交換用リパーゼ含有組成物中に含まれるリパーゼを基準とした反応速度定数K(リパーゼ当たりの反応速度定数)をK1として算出した。
ここで、K1を算出するために必要な精製したエステル交換用リパーゼ含有組成物中のリパーゼ含量を直接測定することは難しため、精製したエステル交換用リパーゼ含有組成物の原料として使用したリパーゼ質量を使って算出した。すなわち、実施例1〜8で得られた精製したエステル交換用リパーゼ含有組成物については、その中に入っているリパーゼ含量が分かっていることから、実施例1〜8で得られた精製したエステル交換用リパーゼ含有組成物の使用割合より、反応に使用した精製したエステル交換用リパーゼ含有組成物中のリパーゼ含量を算出した。例えば、実施例1で得られた精製したエステル交換用リパーゼ含有組成物の1/2量をエステル交換反応に使用すれば、その精製したエステル交換用リパーゼ含有組成物中のリパーゼ含量は0.2gの1/2量である0.1gということになる。
【0051】
また、精製したエステル交換用リパーゼ含有組成物中のリパーゼとろ過助剤又は固定化担体との合計量、すなわち固形分量に対する反応速度定数K(固形分量当たりの反応速度定数)をK2とした。
さらに、エステル交換能の高まった精製したエステル交換用リパーゼ含有組成物へ、水を補給することで、さらにエステル交換活性能が向上するかを調べた。
すなわち、反応容器にエステル交換原料油脂、精製したエステル交換用リパーゼ含有組成物、及び水を仕込み、60℃で反応を行い、精製したエステル交換用リパーゼ含有組成物中に含まれるリパーゼを基準とした反応速度定数K(リパーゼ当たりの反応速度定数)をK3とした。なお、K3項目の括弧内の数値は、エステル交換反応時に添加した水の量(質量%)で、使用した精製したリパーゼ含有組成物中に含まれるリパーゼ含量に対する水の量を示す。
求めたK1、K2、K3の結果を表1に示す。
また、実施例1〜8の精製したエステル交換用リパーゼ含有組成物を用いた油脂のエステル交換反応で得られたエステル交換油脂は、GC分析時の組成から充分にエステル交換していることが確認できた。
















【0052】
【表1】

【0053】
表1の結果から明らかなように、市販されている又は調製された各粉末状リパーゼをそのままエステル交換反応に使用してもK1が低いため、エステル交換に使用するのには適さない。一方、本発明の精製したエステル交換用リパーゼ含有組成物は、リパーゼ当たりの反応速度定数K1が、各粉末状リパーゼのK1と比較し、約13〜270倍の値となり、非常に高いエステル交換能を有することがわかった。
また、固形分量当たりの反応速度定数K2は、各粉末状リパーゼのK1と比較し、約5〜45倍の値となっていることがわかる。つまり、固形分量当りで比較しても効果が高く、実用できることがわかった。
さらに、水を添加してエステル交換反応させた場合のリパーゼ当たりの反応速度定数K3は、水を添加していない場合のK1と比較して、さらにエステル交換能が向上することがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リパーゼ存在下、モノアルコール、多価アルコール及び多価アルコール部分エステルからなる群から選ばれる水酸基含有化合物と脂肪酸とをエステル化反応させることにより得られる、官能基交換反応用リパーゼ含有組成物。
【請求項2】
リパーゼ存在下、モノアルコール、多価アルコール及び多価アルコール部分エステルからなる群から選ばれる水酸基含有化合物と脂肪酸とをエステル化反応し、官能基交換反応用リパーゼ含有組成物を得る工程を含む、官能基交換反応用リパーゼ含有組成物の製造方法。
【請求項3】
前記官能基交換反応用リパーゼ含有組成物が、エステル交換反応用リパーゼ含有組成物、アミド交換反応用リパーゼ含有組成物、又はエステル交換及びアミド交換反応用リパーゼ含有組成物である請求項2に記載の官能基交換反応用リパーゼ含有組成物の製造方法。
【請求項4】
更に、ろ過助剤及び/又は固定化担体を添加する工程を含む、請求項2又は3記載の官能基交換反応用リパーゼ含有組成物の製造方法。
【請求項5】
更に、前記エステル化反応後、未反応の水酸基含有化合物及び脂肪酸、並びにエステル化物を除去する工程を含む、請求項2〜4のいずれか1項記載の官能基交換反応用リパーゼ含有組成物の製造方法。
【請求項6】
更に、前記エステル化反応前に、多価アルコールのすべての水酸基に脂肪酸がエステル化したエステル、又は多価アルコールと脂肪酸の部分エステルを加水分解することにより、多価アルコール又は多価アルコール部分エステルを得る工程を含む、請求項2〜5のいずれか1項記載の官能基交換反応用リパーゼ含有組成物の製造方法。
【請求項7】
前記水酸基含有化合物が、多価アルコール又は多価アルコール部分エステルであり、かつ、該多価アルコール又は該多価アルコール部分エステルを構成する多価アルコールが、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、ソルビトール類、ショ糖及びトリメチロールプロパンからなる群から選ばれるものである請求項2〜6のいずれか1項記載の官能基交換反応用リパーゼ含有組成物の製造方法。
【請求項8】
前記脂肪酸が、植物油脂を加水分解して得られる脂肪酸である請求項2〜7のいずれか1項記載の官能基交換反応用リパーゼ含有組成物の製造方法。
【請求項9】
前記リパーゼが、Rhizomucor miehei由来、Thermomyces lanuginosus由来、Rhizopus oryzae由来及びRhizopus delemar由来のリパーゼからなる群から選ばれる請求項2〜8のいずれか1項記載の官能基交換反応用リパーゼ含有組成物の製造方法。
【請求項10】
さらに、前記官能基交換反応用リパーゼ含有組成物を、エステル、アミド、エステル結合とアミド結合とを分子内に有する化合物、及びそれらの加水分解物からなる群から選ばれる1種又は2種以上のもので洗浄する工程;
を含む、請求項2〜9のいずれか1項記載の官能基交換反応用リパーゼ含有組成物の製造方法。
【請求項11】
前記エステルが、カルボン酸エステルである請求項10に記載の官能基交換反応用リパーゼ含有組成物の製造方法。
【請求項12】
前記カルボン酸エステルが、脂肪酸エステルである請求項11に記載の官能基交換反応用リパーゼ含有組成物の製造方法。
【請求項13】
前記脂肪酸エステルが、ひまわり油、菜種油、大豆油、紅花油、大豆油、それらのハイオレイン品種の油脂、綿実油、コーン油、米油、ゴマ油、アマニ油、パーム油、パーム油の分別油、パーム核油、ヤシ油、オリーブ油、つばき油、カカオ脂、シア脂、サル脂、イリッペ脂、魚油、牛脂、豚脂、トリ中鎖脂肪酸グリセリド、及び構成脂肪酸が中鎖脂肪酸と長鎖脂肪酸からなるトリグリセリド、からなる群から選ばれる1種又は2種以上である請求項12記載の官能基交換反応用リパーゼ含有組成物の製造方法。
【請求項14】
請求項1記載の官能基交換反応用リパーゼ含有組成物、又は請求項2〜13のいずれか1項記載の製造方法により得られる官能基交換反応用リパーゼ含有組成物の存在下、エステル、アミド、エステル結合とアミド結合とを分子内に有する化合物、及びそれらの加水分解物からなる群から選ばれる1種又は2種以上のものを原料として官能基交換反応させる工程を含む、官能基交換反応生成物の製造方法。
【請求項15】
前記官能基交換反応が、エステル交換反応、アミド交換反応、又はエステル交換及びアミド交換反応である請求項14に記載の官能基交換反応生成物の製造方法。
【請求項16】
前記原料のエステルが、カルボン酸エステルである請求項14又は15に記載の官能基交換反応生成物の製造方法。
【請求項17】
前記原料のカルボン酸エステルが、脂肪酸エステルである請求項16に記載の官能基交換反応生成物の製造方法。
【請求項18】
前記原料の脂肪酸エステルが、ひまわり油、菜種油、大豆油、紅花油、大豆油、それらのハイオレイン品種の油脂、綿実油、コーン油、米油、ゴマ油、アマニ油、パーム油、パーム油の分別油、パーム核油、ヤシ油、オリーブ油、つばき油、カカオ脂、シア脂、サル脂、イリッペ脂、魚油、牛脂、豚脂、トリ中鎖脂肪酸グリセリド、及び構成脂肪酸が中鎖脂肪酸と長鎖脂肪酸からなるトリグリセリドからなる群から選ばれる1種又は2種以上である請求項17記載の官能基交換反応生成物の製造方法。
【請求項19】
更に、前記官能基交換反応用リパーゼ含有組成物中のリパーゼの全量に対して1000質量%以下の水を添加する工程を含む、請求項14〜18のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項20】
リパーゼ存在下、モノアルコール、多価アルコール及び多価アルコール部分エステルからなる群から選ばれる水酸基含有化合物と脂肪酸とをエステル化反応する工程を含む、リパーゼの官能基交換反応活性を発現又は向上させる方法。

【公開番号】特開2006−325465(P2006−325465A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−152583(P2005−152583)
【出願日】平成17年5月25日(2005.5.25)
【出願人】(000227009)日清オイリオグループ株式会社 (251)
【Fターム(参考)】