説明

定着装置および画像形成装置

【課題】泡状定着液で定着を行うために定着時間が長くなる場合であっても記録媒体上の画像が搬送コロや搬送ガイドにより劣化することを防止することができる定着装置および画像形成装置を提供すること。
【解決手段】トナー層が表面に形成された記録媒体に泡状定着液を付与する塗布ローラ141および加圧ローラ143と、塗布ローラ141および加圧ローラ143により泡状定着液が付与された直後の記録媒体を、泡状定着液が付与された泡状定着液付与面と反対の泡状定着液非付与面を吸着して搬送する吸着搬送手段160と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機、ファクシミリ、プリンタ等の画像形成装置に用いられる定着装置に関し、詳しくは、トナー等の樹脂微粒子を溶解または膨潤させるフォーム状定着材を樹脂微粒子に付与して樹脂微粒子を記録媒体上に定着させる定着装置およびこれを備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、ファクシミリおよび複写装置等のような画像形成装置は、紙、布、およびOHP用シートのような記録媒体に、画像情報に基づいて文字や記号を含む画像を形成する装置である。特に、電子写真方式の画像形成装置は、普通紙に高精細な画像を高速で形成することができるため、広くオフィスで使用されている。このような電子写真方式の画像形成装置においては、記録媒体上のトナーを加熱して溶融させ、溶融したトナーを加圧することによって、トナーを記録媒体上に定着させる熱定着方式が広く用いられている。この熱定着方式は、高い定着速度および高い定着画像品質等を提供することができるため、好適に用いられている。
【0003】
しかし、このような電子写真方式の画像形成装置における消費電力の約半分以上は、熱定着方式においてトナーを加熱することに消費されているため、近年は、環境問題対策の観点から、低消費電力(省エネルギー)の定着装置が望まれている。即ち、トナーを定着するためにトナーを加熱する温度を今までよりも極端に低下させること、またはトナーを加熱することを必要としない定着方法が望まれている。特に、トナーを全く加熱することなくトナーを記録媒体に定着させる非加熱定着方法が低消費電力の点で理想的である。
【0004】
このような非加熱定着方法として、例えば、トナーを溶解または膨潤可能で、水に不溶または難溶な有機化合物が水に分散混合された水中油滴型の定着剤を、未定着のトナーが所定位置に配設された被定着物の表面から噴霧または滴下してトナーを溶解または膨潤させた後、被定着物を乾燥させるトナーの湿式定着方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、特許文献1の湿式定着方法においては、水に不溶又は難溶な有機化合物が、水に分散混合された水中油滴型の定着剤を用いているため、多量の定着剤を未定着トナーに付与した場合には、転写紙などの記録媒体(非定着物)が、定着剤の水分を吸収し、記録媒体にシワやカールが発生する。これにより、画像形成装置に必要とされる安定かつ高速な記録媒体の搬送を著しく損なうこととなる。そこで、乾燥装置を用いて、定着剤に含まれる多量の水を蒸発させることにより、記録媒体に付与された定着剤から水分を除去しようとすると、熱定着方式を用いる画像形成装置の消費電力に匹敵する電力を必要とすることとなる。
【0006】
また、撥水性処理された未定着トナーを弾かない定着液として、油性溶媒に、トナーを溶解又は膨潤させる材料を溶解させた油性の定着液が従来より幾つか提案されている。その一つとして、例えば、トナーを構成する樹脂成分を溶解又は膨潤させる材料を成分としての脂肪族二塩基酸エステル等を希釈液(溶媒)として不揮発性のジメチルシリコーンで希釈した(溶解させた)定着液が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
また、静電気的方法で形成された未定着画像を、画像を乱すことなく鮮明にかつ容易に受像シート上に固着できる定着方法に用いることのできる定着用溶液として、トナーを溶解し、かつシリコーンオイルと相溶性を有する溶剤100容量に対し、シリコーンオイル8〜120容量部を混合してなる相溶状態の未定着トナー画像の定着用溶液が知られている(例えば、特許文献3参照)。このような油性の定着液は、撥水性処理された未定着トナーとの高い親和性を有する油性溶媒を含むため、撥水性処理された未定着トナーを弾くことなく、トナーを溶解又は膨潤させ、トナーを記録媒体に定着させることができる。
【0008】
しかしながら、上記何れの特許文献も、液を未定着トナー層に付与する構成であるが、図17(a)、図17(b)に示すように、接触付与手段として、塗布ローラ301を用いて、記録媒体302上の未定着トナー層303へ定着液を塗布する構成において、定着液を記録媒体302に微量付与するために塗布ローラ301上の定着液層304の厚みが未定着トナー層303よりも薄い場合、塗布ローラ301が記録媒体302から分離する位置で、塗布ローラ301の表面の定着液の液膜によって生じる表面張力で未定着トナー粒子が引っ張られてしまい塗布ローラ301の表面にトナー粒子がオフセットし、記録媒体302上の画像が大幅に乱れてしまうという問題があった。
【0009】
逆に、図18に示すように、塗布ローラ301上の定着液層304の厚みが未定着トナー層303よりも十分厚い場合、塗布ローラ301が記録媒体302から分離する位置で、液量が多いため塗布ローラ301の表面の液膜による表面張力が直接トナー粒子に作用しにくくなり、ローラ側にトナーがオフセットしなくなるが、紙面に多量の定着液が塗布されるため、トナー粒子が過剰な定着液により記録媒体302上で流され画質劣化を生じたり、乾燥時間が長くなり定着応答性に問題が生じてしまうという問題があった。また、紙に著しい残液感(紙を手で触れたときの湿った感触)が発生するという問題があった。また、定着液が水を含有する場合、紙等のセルロースを含有する媒体への塗布量が多い場合、紙等の記録媒体が著しくカールし、画像形成装置などにおける装置内の紙等の記録媒体搬送時に紙ジャム発生の恐れがあった。よって、このような定着液でローラ塗布を行う構成では、定着応答性向上や残液感低減やカール防止ための紙上のトナー層への定着液微量塗布と定着ローラへのトナーオフセット防止を両立することが極めて難しい。接触塗布手段として、ダイコート手段やブレード塗布手段やワイヤーバー塗布手段を用いた場合も、定着液が微量になると接触塗布手段に表面張力でトナーが付着してしまい、画像劣化が生じるという問題があった。
【0010】
以上のように、接触塗布手段にて、従来の定着液処方では、定着応答性を向上するための紙上のトナー層への定着液微量塗布とトナー画像を乱さず均一塗布することを両立することが極めて難しい。また、記録媒体上のトナーに限ったことではなく、記録媒体上の樹脂含有微粒子層に液状の定着液を付与する構成ではどの場合も生じる問題点である。
【0011】
そこで、上記問題点を解決するものとして、泡状定着液を記録媒体上の樹脂微粒子に付与し、樹脂微粒子に対して接離する泡状定着液付与手段と、泡状定着液付与手段が樹脂微粒子に接して泡状定着液を記録媒体上の樹脂微粒子に付与している時間が、泡状定着液付与手段によって付与される泡状定着液が記録媒体上の樹脂微粒子層を浸透して記録媒体に到達する浸透時間より同じ又は長くなるように、泡状定着液の膜厚を制御する泡状定着液膜厚制御手段とを具備する定着装置が知られている(例えば、特許文献4参照)。
【0012】
特許文献4に記載の技術によれば、樹脂微粒子の泡状定着液付与手段へのオフセット付着を防止でき、樹脂微粒子を乱すことなく、かつ当該樹脂微粒子を付着した記録媒体に定着液を塗布後は素早く樹脂微粒子の記録媒体への定着が可能となる。これにより、紙等の媒体上のトナー等の樹脂を含有する樹脂微粒子を乱すことなく、かつ当該樹脂微粒子を付着した記録媒体に定着液を塗布後は素早く樹脂微粒子の記録媒体への定着が行われ、定着応答性に優れたものとすることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献4の技術においては、泡状定着液を用いている以上、泡を構成する液体成分が存在するので、液体成分が残留している状態では定着強度は完全なものにはならないという問題がある。液体成分が全て蒸発、固化或いは吸収によって無くなってしまえば所望の定着強度を得られることはできるが、そのためにはある程度の時間を要する。
【0014】
一方で、画像形成装置は高速化してきており、さらにハガキサイズの媒体等の搬送も要求されることから、定着装置を出てほとんど時間間隔を置かずに記録媒体搬送手段で搬送されなければならない。このことは、定着装置を出て直ぐに定着が完了していなければならないことを意味する。なぜなら、定着が完全ではないのに、記録媒体搬送手段、つまり搬送コロや搬送ガイドに画像面が触れると、記録媒体上の画像擦れや画像剥がれが発生する恐れがあるからである。
【0015】
熱定着方式の場合には、トナーが高温で溶解し、大気で冷却されることによってトナーが凝固して定着が完了するため、凝固するまでにさほど時間がかからず、定着装置の直後の位置に搬送コロや搬送ガイドが配置されていても現実的に問題となるほど画像に悪影響はない。
【0016】
しかし、泡状定着液、すなわち液体を用いた定着方式においては、熱定着と同等の定着速度を得ることは前述した通り困難であるため、熱定着方式と同じように定着装置の直後の位置に搬送コロや搬送ガイドを設けた場合、画像擦れや画像剥がれが発生しやすくなることが懸念される。特に、泡状定着液を用いて定着を行う場合は、泡によってトナー層の奥まで侵入し、破泡するというプロセスを踏むため、液体の定着液を用いる場合と比較してトナーに侵入するまで時間を要するため定着完了までの時間が長くなり、定着装置の直後の位置に搬送コロや搬送ガイドが配置されていた場合の画像への悪影響が大きい。
【0017】
本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、泡状定着液で定着を行うために定着時間が長くなる場合であっても記録媒体上の画像が搬送コロや搬送ガイドにより劣化することを防止することができる定着装置および画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に係る定着装置は、樹脂の少なくとも一部を溶解または膨潤させることで樹脂含有微粒子を軟化させる軟化剤を含有した泡状定着液を、形成する画像の画像情報に基づいて記録媒体上に形成された樹脂微粒子に塗布して該樹脂微粒子を前記記録媒体に定着する定着装置であって、前記樹脂微粒子からなる樹脂微粒子層が表面に形成された前記記録媒体に前記泡状定着液を付与する泡状定着液付与手段と、前記泡状定着液付与手段により前記泡状定着液が付与された直後の記録媒体を、前記泡状定着液が付与された泡状定着液付与面と反対の泡状定着液非付与面を吸着して搬送する吸着搬送手段と、を備えたことを特徴とする。
【0019】
この構成により、記録媒体上の泡状定着液が付与された泡状定着液付与面に接触することなく記録媒体を搬送できるとともに、搬送中に定着時間を稼いて定着を完了させることができるので、下流に配置された搬送コロや搬送ガイドによって樹脂微粒子層の画像が劣化することを防止することができる。したがって、泡状定着液で定着を行うために定着時間が長くなる場合であっても記録媒体上の画像が搬送コロや搬送ガイドにより劣化することを防止することができる。また、泡状定着液の塗布により記録媒体にカールが発生しても、良好に記録媒体を搬送することができる。
【0020】
また、本発明に係る定着装置は、前記吸着搬送手段が、少なくとも、前記記録媒体を搬送するベルト部材と、前記記録媒体を前記ベルト部材に吸着させる吸気手段と、から構成されていることを特徴とする。
【0021】
この構成により、吸着搬送手段を安価に構成することができるとともに、泡状定着液の塗布によりカールが発生した記録媒体を良好に搬送することができる。
【0022】
また、本発明に係る定着装置は、前記泡状定着液付与手段と前記吸着搬送手段の間の前記記録媒体の泡状定着液付与面の側には、前記記録媒体の泡状定着液付与面に接触する部材を設けないことを特徴とする。
【0023】
この構成により、樹脂微粒子層が形成されている泡状定着液付与面に何も触れることなく記録媒体を搬送することができる。
【0024】
また、本発明に係る定着装置は、前記泡状定着液付与手段と前記吸着搬送手段の間の前記記録媒体の泡状定着液非付与面の側に設けられ、前記記録媒体の泡状定着液非付与面を支持して該前記記録媒体を前記吸着搬送手段に案内する案内部材と、前記吸着搬送手段および前記案内部材に対向する位置に設けられ、前記案内部材および前記吸着搬送手段上の記録媒体に対して送風する送風手段と、を備えたことを特徴とする。
【0025】
この構成により、記録媒体が案内部材に案内されるとともに、送風手段の送風により案内部材および吸着搬送手段に押し付けられるので、泡状定着液の塗布によりカールが発生した記録媒体の搬送をより一層安定して行うことができる。
【0026】
また、本発明に係る定着装置は、前記吸気手段と前記送風手段とに接続され前記吸気手段が吸気した空気を前記送風手段に導くダクトを備えたことを特徴とする。
【0027】
この構成により、泡状定着液の塗布によりカールが発生した記録媒体の搬送を効率よく低エネルギーで行うことができる。
【0028】
また、本発明に係る定着装置は、前記吸気手段の位置、前記送風手段の位置、前記ダクト内の何れか1つに、空気搬送用の動力源を備えたことを特徴とする。
【0029】
この構成により、泡状定着液の塗布によりカールが発生した記録媒体の搬送を安価な構成で行うことができる。
【0030】
また、本発明に係る画像形成は、静電潜像担持体上に静電潜像を形成する静電潜像形成手段と、前記静電潜像担持体上に形成された静電潜像を、樹脂含有微粒子を含有する現像剤を用いて現像して樹脂含有微粒子画像を形成する現像手段と、前記静電潜像担持体上に形成された前記樹脂含有微粒子画像を記録媒体に転写する転写手段と、前記記録媒体に転写された前記樹脂含有微粒子画像を前記記録媒体に固定化する定着手段と、を備える画像形成装置であって、前記定着手段として、請求項1乃至請求項6の何れかに記載の定着装置を備えることを特徴とする。
【0031】
この構成により、画像形成装置において、泡状定着液で定着を行うために定着時間が長くなる場合であっても記録媒体上の画像が搬送コロや搬送ガイドにより劣化することを防止することができる。また、省電力で信頼性の高い定着を行うことができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、泡状定着液で定着を行うために定着時間が長くなる場合であっても記録媒体上の画像が搬送コロや搬送ガイドにより劣化することを防止することができる定着装置および画像形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施の形態に係る画像形成装置の概略構成図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る画像形成装置の画像ステーションの概略構成図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係る定着装置の定着メカニズムを示す図である。
【図4】本発明の一実施の形態に係る定着装置で用いる泡状定着液の拡大図である。
【図5】本発明の一実施の形態に係る定着装置が備える泡状定着液生成手段の構成図である。
【図6】本発明の一実施の形態に係る定着装置の側面図である。
【図7】本発明の一実施の形態に係る定着装置の吸着搬送手段の詳細図である。
【図8】本発明の一実施の形態に係る定着装置の記録媒体のカールの状態を示す側面図である。
【図9】本発明の一実施の形態に係る定着装置の側面図であり、カールした記録媒体の先端が下ガイドに突き当たった状態を示す図である。
【図10】本発明の一実施の形態に係る定着装置の側面図であり、カールした記録媒体の先端が下ガイドに導かれて吸着搬送手段に到達した状態を示す図である。
【図11】本発明の一実施の形態に係る定着装置の側面図であり、カールした記録媒体の先端が吸着搬送手段の動きとともに移動する状態を示す図である。
【図12】本発明の一実施の形態に係る定着装置の側面図であり、記録媒体のカールして浮いていた部分が吸気によって吸着搬送手段に密着し安定した搬送となる状態を示す図である。
【図13】過大なカールにより記録媒体が搬送不能となる状態を示す図である。
【図14】本発明の一実施の形態に係る定着装置の側面図であり、下ガイドと吸着搬送手段の上方である対向位置に送風手段を設けた構成を示す図である。
【図15】本発明の一実施の形態に係る定着装置の側面図であり、吸着搬送手段と送風手段をダクトで接続した構成を示す図である。
【図16】本発明の一実施の形態に係る定着装置の側面図であり、吸着搬送手段にダクトを接続するとともに送風手段を省略した構成を示す図である。
【図17】(a)、(b)は、従来の定着装置の側面図であり、塗布ローラ上の定着液層の厚みが未定着トナー層よりも薄い場合を示す図である。
【図18】従来の定着装置の側面図であり、塗布ローラ上の定着液層の厚みが未定着トナー層よりも十分厚い場合を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0035】
[画像形成装置の説明]
まず、図1、2に基づいて本発明の一実施の形態に係る画像形成装置の構成について説明する。図1は、画像形成装置の概略構成を示す構成図の一例である。また、図2は、画像形成装置の画像ステーションの概略構成を示す構成図である。
【0036】
図1に示すように、画像形成装置200は、画像形成手段としての各構成部材を収納する位置に固定する装置本体1と、転写紙等の記録媒体Pを収納する引き出し可能な給紙カセット2とを備えている。装置本体1の中央部には、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンダ(M)、黒(K)の各色のトナー像を形成するための画像ステーション3Y、3C、3M、3Kを備えている。以下、各符号の添字Y、C、M、Kは、それぞれイエロー、シアン、マゼンダ、黒用の部材であることを示す。
【0037】
図1および図2に示すように、画像ステーション3Y、3C、3M、3Kは、図中矢印A方向に回転するドラム状の感光体10Y、10C、10M、10K(以下、単に感光体10ともいう)を備えている。感光体10は、アルミニウム製の円筒状基体と、その表面を覆う、例えばOPC(有機光半導体)感光層とから構成されている。各画像ステーション3は、感光体10の周囲に、感光体10を帯電する帯電装置11Y、11C、11M、11Kと、感光体10に形成された潜像を現像する現像装置12Y、12C、12M、12Kと、感光体10上の残留トナーをクリーニングするクリーニング装置13Y、13C、13M、13Kとを備える。各画像ステーション3の下方には、感光体10Y、10C、10M、10Kにレーザ光Lを照射可能な露光手段としての光学ユニット4を備えている。各画像ステーション3の上方には、各画像ステーション3により形成されたトナー画像が転写される転写ベルト20を備えた中間転写ユニット5を備えている。また、画像形成装置200は、転写ベルト20に転写されたトナー画像を記録媒体Pに定着する定着装置100を備えている。また、装置本体1の上部には、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、黒(K)の各色のトナーを収容するトナーボトル7Y、7C、7M、7Kが装填されている。このトナーボトル7Y、7C、7M、7Kは、装置本体1の上部に形成される排紙トレイ8を開くことにより、装置本体1から脱着可能に構成されている。
【0038】
上記光学ユニット4は、光源であるレーザダイオードから発射させるレーザ光Lをポリゴンミラー等によって煩瑣させ、感光体10Y、10C、10M、10K上に照射しながら順次走査している。中間転写ユニット5の転写ベルト20は、駆動ローラ21、テンションローラ22、および従動ローラ23に掛け回され、所定タイミングで図中反時計回り方向に回転駆動される。また、中間転写ユニット5は、感光体10Y、10C、10M、10Kに形成されたトナー像を転写ベルト20に転写する1次転写ローラ24Y、24C、24M、24Kを備えている。中間転写ユニット5は、転写ベルト20上に転写されたトナー像を記録媒体Pに転写する2次転写ローラ25、記録媒体P上に転写されなかった転写ベルト20上の転写残トナーをクリーニングするベルトクリーニング装置26を備えている。
【0039】
次に、上記構成の画像形成装置200において、カラー画像を得る行程について説明する。まず、画像ステーション3Y、3C、3M、3Kにおいて、感光体10Y、10C、10M、10Kが帯電装置11Y、11C、11M、11Kによって一様に帯電される。その後、光学ユニット4により、画像情報に基づきレーザ光Lが走査露光されて感光体10Y、10C、10M、10K表面に潜像が形成される。感光体10Y、10C、10M、10K上の潜像は、現像装置12の現像ローラ15Y、15C、15M、15K上に担持された各色のトナーによって現像されてトナー像として可視像化される。感光体10Y、10C、10M、10K上のトナー像は、各1次転写ローラ24Y、24C、24M、24Kの作用によって反時計回りに回転駆動される転写ベルト20上に順次重ねて転写される。このときの各色の作像動作は、そのトナー像が転写ベルト20上の同じ位置に重ねて転写されるように、転写ベルト20の移動方向上流側から下流側に向けてタイミングをずらして実行される。1次転写終了後の感光体10Y、10C、10M、10Kは、クリーニング装置13Y、13C、13M、13Kのクリーニングブレード13aによってその表面がクリーニングされ、次の画像形成に備えられる。トナーボトル7Y、7C、7M、7Kに充填されているトナーは、必要性に応じて図示しない搬送経路によって各画像ステーション3Y、3C、3M、3Kの現像装置12Y、12C、12M、12Kに所定量補給される。
【0040】
一方、上記給紙カセット2内の記録媒体Pは、給紙カセット2の近傍に配設された給紙ローラ27によって、装置本体1内に搬送され、レジストローラ対28によって所定のタイミングで2次転写部に搬送される。そして、2次転写部において、転写ベルト20上に形成されたトナー画像が記録媒体Pに転写される。トナー画像が転写された記録媒体Pは、定着装置100を通過することで画像定着が行われ、排出ローラ29によって排紙トレイ8に排出される。感光体10と同様に、転写ベルト20上に残った転写残のトナーは、転写ベルト20に接触するベルトクリーニング装置26によってクリーニングされる。なお、YMCKのステーション、およびトナーボトルの配列順は、図1で表されている例に限らず、どんな順であってもよい。
【0041】
次に、本発明に係る定着装置に関して詳細に説明する。
【0042】
はじめに、本発明に係る定着の原理について概説する。本発明は、樹脂の少なくとも一部を溶解または膨潤させることで樹脂を含有する微粒子を軟化させる軟化剤を含有した泡状定着液を、記録媒体上の樹脂微粒子に付与して記録媒体上の樹脂微粒子を軟化させ、該樹脂微粒子を記録媒体に定着する定着方法を取っている。言うまでもないことだが、ここで、表記している樹脂微粒子とは、特に何であるかを限定はしないが、画像形成装置に適用した場合では、トナーのことを指している。
【0043】
[定着メカニズムの説明]
本実施の形態に係る定着装置の定着メカニズムを以下に示す。図3に示すように、定着装置100においては、後述する泡状定着液生成手段によって定着液を泡で構成された泡状定着液114とすることで、定着液のかさ密度を低くできるとともに塗布ローラ141上の定着液層を厚くすることができ、更には定着液の表面張力による影響が抑えられるため、記録媒体から塗布ローラ141に樹脂微粒子がオフセットすることを防止できることがわかった。ここで、塗布ローラ141とは、本発明における塗布部材に相当するものであり、形状がローラ状であることから、ここでは塗布ローラ141と表記する。更に、樹脂微粒子の大きさが5μm〜10μm程度の場合、微粒子層を乱すことなく泡状定着液114を樹脂微粒子層113に付与するには、泡状定着液114の泡径範囲が、5μm〜50μm程度が必要であることがわかった。
【0044】
なお、図4に示すように、泡状定着液114は、気泡122と、気泡122のそれぞれを区切る液膜境界(以下、プラトー境界と称す)121とから構成される。
【0045】
一方、一般的に0.5mm〜1mm程度の大きな泡の場合、単なる撹拌等により比較的容易に泡を生成可能であり、大きな泡の生成には数秒以下の時間(0.1秒もかからない)で生成することができる。そこで、この所望の泡径よりも大きな泡であって、目視で観察できる程度の大きさの泡の生成が容易で、かつすばやく得ることができる点に着目し、大きな泡から素早く5μm〜50μm程度の微小な泡を生成する方法を鋭意検討した結果、大きな泡にせん断力を加えることで大きな泡を分泡すると、上記のような液状態から微小な泡を起泡させる方法に比べ、極めて素早く所望の大きさの微小な泡が生成できることがわかった。
【0046】
[泡状定着液生成手段の説明]
図5に示すように、大きな泡を生成した後に大きな泡を分泡し微小な処方の泡を生成する泡状定着液生成手段130における大きな泡生成部としては、定着液容器131内の液状定着液132を搬送ポンプ133および液搬送パイプ134等の液輸送手段を用いて気体・液体混合部135へ供給する。気体・液体混合部135には、空気口136が設けられ、液の流れとともに、空気口136に負圧が発生し、空気口136から気体が気体・液体混合部135に導入され、液体と気体が混合し、更に微小孔シート137を通過することで、泡径のそろった大きな泡を生成させることができる。孔径は、30μm〜100μm程度が望ましい。図5の微小孔シート137に限らず、連泡構造の多孔質部材であればよく、孔径30μm〜100μm程度を有する焼結セラミックス板や不織布や発泡樹脂シートであってもよい。また、別の大きな泡の生成方法としては、上記の搬送ポンプ133より供給された液状定着液132と空気口からの空気を羽根状攪拌子で攪拌しながら、液に気泡を巻き込みながら大きな泡を生成させる構成や、上記の搬送ポンプ133より供給された液状定着液132に空気供給ポンプ等でバブリングを行い大きな泡を生成する構成も望ましい。
【0047】
次に、大きな泡を分割して2つ以上に分泡化するために、大きな泡にせん断力を加えるための、図5に示すような泡状定着液生成手段130における微小な泡生成部138は、閉じた二重円筒で、外側円筒138bの内部で内側円筒138aが回転可能な構成となっている。微小な泡生成部138では、外側円筒138bの一部より、大きな泡径の泡状定着液が供給されると、この泡状定着液は、回転する内側円筒138aと静止する外側円筒138bの隙間(ここが流路となる)を通過しながら、回転する内側円筒138aによりせん断力を受けるようになっている。このせん断力により、大きな泡は微小な泡へと変化し、外側円筒138bに設けられた泡の出口より、所望の微小な泡径を有する泡状定着液を得ることができる。
【0048】
また、回転する内側円筒138aの回転数と内側円筒138aの長手方向の長さにより液搬送速度は決定される。外側円筒138bの内径をd1(mm)、円筒長さをL(mm)とし、内側円筒138aの外径をd2(mm)とし、回転数をR(rpm)とすると、微小な泡を生成するための液搬送速度V(mm/秒)は、V=L×π×(d12−d22)/4/(1000/R)の式で決まることがわかった。
【0049】
例えば、d1が10mm、d2が8mm、Lが50mm、回転数が1000rpmとすると、液搬送速度は約1400mm/秒(1.4cc/秒)となる。A4の紙を定着するために必要な泡状定着液の量が3ccであるとすると、液状定着液132から必要量の泡状定着液を生成するのに立ち上がり時間は約2秒で済み、極めて素早く、所望の泡径を有する泡状定着液を生成可能となる。内側円筒138aの表面に螺旋状の溝を設けて、内側円筒138aと外側円筒138bとの間(流路)での液搬送性を良くしてもよい。
【0050】
このように、液状定着液132を大きな泡径を有する液へと変化させる大きな泡生成部と、大きな泡にせん断力を加えて微小な泡を生成する微小な泡生成部を組み合わせることで、液状定着液132を極めて短時間に5μm〜50μm程度の微小な泡径を有する泡状定着液を生成させることができる。
【0051】
[泡状定着液搬送手段の説明]
次に、定着液容器131から液状定着液132を泡化する機構に液を搬送する手段としては、図5では搬送ポンプ133を用いている。搬送ポンプ133としては、ギヤポンプ、ベローズポンプ等があるが、チューブポンプが望ましい。ギヤポンプ等のように定着液中で振動したり回転する機構があると、ポンプ内で液が起泡し、液に圧縮性が出て、搬送能力が低下する恐れがある。また、上記の機構部品等が定着液を汚染したり、逆に機構部品を劣化させたりする恐れがある。一方、チューブポンプは、チューブ内の液を、チューブを変形させながら押し出す機構であるため、定着液と接する部材はチューブだけであり、定着液に対し耐液性を有する部材を用いることで、液の汚染やポンプ系部品の劣化がない。また、チューブを変形させるだけなので、液が起泡せず、搬送能力の低下を防止できる。
【0052】
なお、泡状の定着液のかさ密度としては、0.01g/cm3〜0.1g/cm3程度の範囲が望ましい。更に、定着液は、紙等の記録媒体上のトナー等の樹脂含有微粒子の層への塗布時に泡状となっていればよく、保存容器内で泡状である必要はない。保存容器中では気泡を含有しない液体で、容器から液を供給する時点や、樹脂含有微粒子の層へ付与するまでの液搬送経路で泡状にする手段を設ける構成が望ましい。これは、保存容器では液体で、容器から液を取り出した後に泡状とする構成のほうが、容器の小型化ができるという大きな利点を有するためである。
【0053】
[定着液の液処方について]
次に、定着液の液処方について説明する。泡状の定着液は、上述したように、軟化剤を含有した液体中に気泡を含有した構成である。軟化剤を含有した液体は、気泡を安定に含有し、なるべく均一な気泡の大きさからなる気泡層を構成する泡状とするため、起泡剤および増泡剤を有することが望ましい。また、ある程度粘度が高いほうが、気泡が安定して液体中に分散するため、増粘剤を含有することが望ましい。
【0054】
また、起泡剤としては、陰イオン界面活性剤、特に、脂肪酸塩が望ましい。脂肪酸塩は界面活性を有するため、水を含有する定着液の表面張力を下げ、定着液を発泡しやすくするとともに、泡表面で脂肪酸塩が層状ラメラ構造をとるため泡壁(プラトー境界)が他の界面活性剤よりも強くなり、泡沫安定性が極めて高くなる。また、脂肪酸塩の起泡性を効果的にするため、定着液には水を含有することが望ましい。脂肪酸としては、大気中での長期安定性の観点から酸化に強い飽和脂肪酸が望ましい。但し、飽和脂肪酸塩を含有する定着液に若干の不飽和脂肪酸塩を含有することで脂肪酸塩の水に対する溶解・分散性を助け、5℃〜15℃までの低気温において、優れた起泡性を有することができ、広い環境温度範囲において定着の安定を可能とし、また、定着液長期放置中の脂肪酸塩の定着液中分離を防止することができる。
【0055】
更に、飽和脂肪酸塩に用いる脂肪酸としては、炭素数12、14、16および18の飽和脂肪酸、具体的にはラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸が適する。炭素数が11以下の飽和脂肪酸塩は臭気が大きくなり、当該定着液を用いるオフィス・家庭で用いる画像形成機器に適さない。また、炭素数19以上の飽和脂肪酸塩は、水に対する溶解性が低下し、定着液の放置安定性を著しく低下させてしまう。これらの飽和脂肪酸による飽和脂肪酸塩を単独もしくは混合して起泡剤として用いる。
【0056】
また、不飽和脂肪酸塩を用いてもよく、炭素数18で2重結合数が1から3の不飽和脂肪酸が望ましい。具体的には、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸が適する。2重結合が4以上では反応性が強いため、定着液の放置安定性が劣ってしまう。これらの不飽和飽和脂肪酸による不飽和脂肪酸塩を単独もしくは混合して起泡剤として用いる。また、上記飽和脂肪酸塩と不飽和脂肪酸塩を混合して起泡剤として用いても構わない。
【0057】
更に、上記飽和脂肪酸塩または不飽和脂肪酸塩において、当該定着液の起泡剤として用いる場合、ナトリウム塩、カリウム塩もしくはアミン塩であることが望ましい。定着装置に電源を投入後、素早く定着可能な状態にすることは定着装置の商品価値として重要な要素である。定着装置において定着可能な状態とするためには、定着液が適切な泡状となっていることが必須であるが、上記の脂肪酸塩は素早く起泡することで、電源投入後定着可能な状態を短時間でつくることができる。特に、アミン塩とすることで、定着液にせん断力を加えたときに最も短時間で起泡し、泡状定着液を容易に作製することが可能であり、定着装置への電源投入後の定着可能な状態を最も短時間でつくることができる。
【0058】
樹脂を溶解または膨潤することで軟化させる軟化剤は、脂肪族エステルを含む。この脂肪族エステルは、トナー等に含まれる樹脂の少なくとも一部を溶解または膨潤させる溶解性または膨潤性に優れている。
【0059】
また、軟化剤については、人体に対する安全性の観点から、その急性経口毒性LD50が3g/kgよりも大きい、更に好ましくは5g/kgであることが好ましい。脂肪族エステルは、化粧品原料として多用されているように、人体に対する安全性が高い。
【0060】
更に、記録媒体に対するトナーの定着は、密封された環境において頻繁に使用される機器で行われ、軟化剤はトナーの記録媒体への定着後にもトナー中に残留するため、記録媒体に対するトナーの定着は揮発性有機化合物(VOC)および不快臭の発生を伴わないことが好ましい。すなわち、軟化剤は揮発性有機化合物(VOC)および不快臭の原因となる物質を含まないことが好ましい。脂肪族エステルは、一般に汎用される有機溶剤(トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、酢酸エチルなど)と比較して、高い沸点および低い揮発性を有し、刺激臭を持たない。
【0061】
なお、オフィス環境等における臭気を高い精度で測定することができる実用的な臭気の測定尺度として、官能測定である三点比較式臭袋法による臭気指数(10×log(物質の臭気が感じられなくなるまでの物質の希釈倍率))を臭気の指標とすることができる。また、軟化剤に含まれる脂肪族エステルの臭気指数は、10以下であることが好ましい。この場合には、通常のオフィス環境では、不快臭を感じなくなる。更に、軟化剤のみならず、定着液に含まれる他の液剤も同様に、不快臭および刺激臭を有さないことが好ましい。
【0062】
本発明における定着液において、好ましくは、上記の脂肪族エステルは、飽和脂肪族エステルを含む。上記の脂肪族エステルが、飽和脂肪族エステルを含む場合には、軟化剤の保存安定性(酸化、加水分解などに対する耐性)を向上させることができる。また、飽和脂肪族エステルは、人体に対する安全性が高く、多くの飽和脂肪族エステルは、トナーに含まれる樹脂を1秒以内で溶解または膨潤させることができる。更に、飽和脂肪族エステルは、記録媒体に提供されたトナーの粘着感を低下させることができる。これは、飽和脂肪族エステルが、溶解または膨潤したトナーの表面に油膜を形成するためであると考えられる。
【0063】
よって、本発明における定着液において、好ましくは、上記の飽和脂肪族エステルの一般式は、R1COOR2で表される化合物を含み、R1は、炭素数が11以上14以下のアルキル基であり、R2は、炭素数が1以上6以下の直鎖型もしくは分岐型アルキル基である。R1およびR2の炭素数がそれぞれ所望の範囲よりも少ないと臭気が発生し、所望の範囲よりも多いと樹脂軟化能力が低下する。
【0064】
即ち、上記の飽和脂肪族エステルが、一般式R1COOR2で表される化合物を含み、R1は、炭素数が11以上14以下のアルキル基であり、R2は、炭素数が1以上6以下の直鎖型もしくは分岐型のアルキル基である場合には、トナーに含まれる樹脂に対する溶解性または膨潤性を向上させることができる。また、上記の化合物の臭気指数は、10以下であり、上記の化合物は、不快臭および刺激臭を有さない。
【0065】
上記の化合物である脂肪族モノカルボン酸エステルとしては、例えば、ラウリン酸エチル、ラウリン酸ヘキシル、トリデシル酸エチル、トリデシル酸イソプロピル、ミリスチン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル等が挙げられる。上記の化合物であるこれらの脂肪族モノカルボン酸エステルの多くは、油性溶媒に溶解するが、水には溶解しない。よって、上記の化合物である脂肪族モノカルボン酸エステルの多くについては、水性溶媒では、グリコール類を溶解助剤として定着液に含有し、溶解またはマイクロエマルジョンの形態とする。
【0066】
また、本発明における定着液において、好ましくは、上記の脂肪族エステルは、脂肪族ジカルボン酸エステルを含む。上記の脂肪族エステルが、脂肪族ジカルボン酸エステルを含む場合には、より短い時間でトナーに含まれる樹脂を溶解または膨潤させることができる。例えば、60ppm程度の高速印字では、記録媒体における未定着のトナーに定着液を付与し、トナーが記録媒体に定着するまでの時間は、1秒以内であることが望ましい。上記の脂肪族エステルが、脂肪族ジカルボン酸エステルを含む場合には、記録媒体における未定着のトナー等に定着液を付与し、トナーが記録媒体に定着するのに要する時間を、0.1秒以内にすることが可能となる。更に、より少量の、軟化剤の添加によって、トナーに含まれる樹脂を溶解または膨潤させることができるため、定着液に含まれる、軟化剤の含有量を低減することができる。
【0067】
よって、本発明における定着液において、好ましくは、上記の脂肪族ジカルボン酸エステルの一般式は、R3(COOR4)で表される化合物を含み、R3は、炭素数が3以上8以下のアルキレン基であり、R4は、炭素数が3以上5以下の直鎖型または分岐型アルキル基である。R3およびR4の炭素数がそれぞれ所望の範囲よりも少ないと臭気が発生し、所望の範囲よりも多いと樹脂軟化能力が低下する。
【0068】
即ち、上記の脂肪族ジカルボン酸エステルが、一般式R3(COOR4)で表される化合物を含み、R3は、炭素数が3以上8以下のアルキレン基であり、R4は、炭素数が3以上5以下の直鎖型または分岐型アルキル基である場合には、トナーに含まれる樹脂に対する溶解性または膨潤性を向上させることができる。また、上記の化合物の臭気指数は、10以下であり、上記の化合物は、不快臭および刺激臭を有さない。
【0069】
上記の化合物である脂肪族ジカルボン酸エステルとしては、例えば、コハク酸2エチルヘキシル、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジイソブチル、アジピン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジイソデシル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジブチル等が挙げられる。上記の化合物であるこれらの脂肪族ジカルボン酸エステルの多くは、油性溶媒に溶解するが、水には溶解しない。よって、水性溶媒では、グリコール類を溶解助剤として定着液に含有し、溶解またはマイクロエマルジョンの形態とする。
【0070】
更に、本発明における定着液において、好ましくは上記の脂肪族エステルは、脂肪族ジカルボン酸ジアルコキシアルキルを含む。上記の脂肪族エステルが、脂肪族ジカルボン酸ジアルコキシアルキルを含む場合には、記録媒体に対するトナーの定着性を向上させることができる。
【0071】
本発明における定着液において、好ましくは、上記の脂肪族ジカルボン酸ジアルコキシアルキルの一般式は、R5(COOR6−O−R7)で表される化合物を含み、R5は、炭素数が2以上8以下のアルキレン基であり、R6は、炭素数が2以上4以下のアルキレン基であり、R7は、炭素数が1以上4以下のアルキル基である。R5、R6およびR7の炭素数がそれぞれ所望の範囲よりも少ないと臭気が発生し、所望の範囲よりも多いと樹脂軟化能力が低下する。
【0072】
即ち、上記の脂肪族ジカルボン酸ジアルコキシアルキルは、一般式R5(COOR6−O−R7)で表される化合物を含み、R5は、炭素数が2以上8以下のアルキレン基であり、R6は、炭素数が2以上4以下のアルキレン基であり、R7は、炭素数が1以上4以下のアルキル基である場合には、トナーに含まれる樹脂に対する溶解性または膨潤性を向上させることができる。また、上記の化合物の臭気指数は、10以下であり、上記の化合物は、不快臭および刺激臭を有さない。
【0073】
上記の化合物である脂肪族ジカルボン酸ジアルコキシアルキルとしては、例えば、コハク酸ジエトキシエチル、コハク酸ジブトキシエチル、アジピン酸ジエトキシエチル、アジピン酸ジブトキシエチル、セバシン酸ジエトキシエチル等が挙げられる。これらの脂肪族ジカルボン酸ジアルコキシアルキルを水性溶媒では、グリコール類を溶解助剤として定着液に含有し、溶解またはマイクロエマルジョンの形態とする。
【0074】
また、脂肪酸エステルではないが、クエン酸エステルや炭酸エチレンや炭酸プロピレンも軟化もしくは膨潤剤として適する。
【0075】
ところで、泡状定着液において、塗布接触ニップ部にてトナー等の微粒子層に泡状定着液を押し込みながら浸透させる際に泡が破泡すると浸透阻害となる。そこで泡沫安定性に優れる泡が求められる。このため、定着液中に脂肪酸アルカノールアミド(1:1)型を含有することが望ましい。脂肪酸アルカノールアミドには(1:1)型と(1:2)型があるが、本発明における泡沫安定性には(1:1)型が適することがわかった。
【0076】
なお、定着の対象となる樹脂を含有する微粒子は、トナーに限定されず、樹脂を含有する微粒子であれば何れでもよい。例えば、導電性部材を含有した樹脂含有微粒子でもよい。また、記録媒体は、記録紙に限定されず、金属、樹脂、セラミックス等何れでもよい。但し、媒体は定着液に対し浸透性を有することが望ましく、媒体基板が液浸透性を持たない場合は、基板上に液浸透層を有する媒体が望ましい。記録媒体の形態もシート状に限定されず、平面および曲面を有する立体物でもよい。例えば、紙のごとき媒体に透明樹脂微粒子を均一に定着させ紙面を保護する(所謂、ニスコート)用途においても、本発明は適用できる。
【0077】
上記の樹脂を含有する微粒子のうち、電子写真プロセスで用いるトナーは、本発明の定着液との組合せにおいて最も定着への効果が高い。トナーは、色剤と帯電制御剤と結着樹脂や離型剤などのような樹脂を含む。トナーに含まれる樹脂は、特に限定されないが、好適な結着樹脂としては、ポリスチレン樹脂、スチレン−アクリル共重合体樹脂、ポリエステル樹脂などが挙げられ、離型剤としては、例えばカルバナウワックスやポリエチレンなどのワックス成分などが挙げられる。トナーは、結着樹脂の他に、公知の着色剤、電荷制御剤、流動性付与剤、外添剤などを含んでもよい。また、トナーは、メチル基を有する疎水性シリカおよび疎水性酸化チタンのような疎水性微粒子をトナーの粒子の表面に固着させることによって、撥水性処理されていることが好ましい。媒体のうち、記録媒体は、特に限定されず、例えば、紙、布、および液体透過層を有するOHP用シートのようなプラスチックフィルムなどが挙げられる。本発明における油性とは、室温(20℃)における水に対する溶解度が、0.1重量%以下である性質を意味する。
【0078】
また、泡状となった定着液は、好ましくは、撥水性処理されたトナーの粒子に対して、十分な親和性を有することが望ましい。ここで、親和性とは、液体が固体に接触したときに、固体の表面に対する液体の拡張濡れの程度を意味する。すなわち、泡状となった定着液は、撥水性処理されたトナーに対して十分な濡れ性を示すことが好ましい。疎水性シリカおよび疎水性酸化チタンのような疎水性微粒子で撥水性処理されたトナーの表面は、疎水性シリカおよび疎水性酸化チタンの表面に存在するメチル基によって覆われており、おおよそ20mN/m程度の表面エネルギーを有する。現実には撥水性処理されたトナーの表面の全面が疎水性微粒子によって完全に覆われてはいないため、撥水性処理されたトナーの表面エネルギーは、おおよそ、20〜30mN/mであると推測される。よって、撥水性トナーに対して親和性を有する(十分な濡れ性を有する)ためには、泡状となった定着液の表面張力は、20〜30mN/mであることが好ましい。
【0079】
水性溶媒を用いる場合、界面活性剤を添加することで、表面張力を20〜30mN/mとすることが好ましい。また、水性溶媒の場合、単価もしくは多価アルコールを含有していることが望ましい。これらの材料は、泡状の定着液における気泡の安定性を高め、破泡しにくくする利点を有する。例えばセタノールなどの単価アルコールや、グリセンリン、プロピレングリコール、1,3ブチレングリコールなどの多価アルコールが望ましい。また、これらの単価または多価のアルコール類を含有することで紙等の媒体のカール防止に効果を有する。
【0080】
また、定着液中に浸透性改善や紙等媒体のカール防止のために油性成分を含有してO/WエマルジョンやW/Oエマルジョンを形成する構成も望ましく、その場合、具体的な分散剤としては、ソルビタンモノオレエートやソルビタンモノステレートやソルビタンセスキオレートなどのソルビタン脂肪酸エステルやショ糖ラウリン酸エステルやショ糖ステアリン酸エステルなどのショ糖エステルなどが望ましい。
【0081】
なお、定着中での軟化剤を溶解もしくはマイクロエマルジョン分散させるため方法としては、例えば、回転羽根によるホモミキサーやホモジナイザーのような機械的に攪拌する手段、および超音波ホモジナイザーのような振動を与える手段が挙げられる。何れにしても、強いせん断応力を定着液中の軟化剤に加えることで溶解もしくはマイクロエマルジョン分散させる。
【0082】
また、トナーの定着装置は、本発明における定着液をトナーに供給した後、トナーに含まれる樹脂の少なくとも一部を溶解または膨潤させる部剤(軟化剤)によって溶解または膨潤したトナーを加圧する、一対の平滑化ローラ(ハードローラ)を有してもよい。一対の平滑化ローラ(ハードローラ)によって、溶解または膨潤したトナーを加圧することによって、溶解または膨潤したトナーの層の表面を平滑化して、トナーに光沢を付与することが可能となる。更に、記録媒体内へ溶解または膨潤したトナーを押し込むことによって、記録媒体に対するトナーの定着性を向上させることができる。
【0083】
[定着液の具体的な処方の例]
定着液の具体的な処方の例を以下に示す。
【0084】
希釈溶媒:イオン交換水 53wt%
軟化剤:コハク酸ジエトキシエチル(クローダ社 クローダDES) 10wt%
炭酸プロピレン 20wt%
増粘剤:プロピレングリコール 10wt%
増泡剤:ヤシ脂肪酸ジエタノールアミド(1:1)型(松本油脂 マーポンMM)
0.5wt%
起泡剤:パルミチン酸アミン 2.5wt%
ミリスチン酸アミン 1.5wt%
ステアリン酸アミン 0.5wt%
分散剤:POE(20)ラウリルソルビタン(花王 レオドールTW−S120V)
1wt%
ポリエチレングリコールモノステアレート(花王 エマノーン3199)
1wt%
以下、本発明の主要部について説明する。
【0085】
[定着装置の説明]
図6に示すように、定着装置100は、泡状定着液生成手段130によって生成された所望の微小な泡の泡状定着液を記録媒体上の樹脂含有微粒子層(トナー粒子層)へ付与するための泡状定着液付与手段として、塗布ローラ141と、塗布ローラ141の表面における所望の微小な泡の泡状定着液の膜厚を、記録媒体上の未定着のトナー層の厚さに応じて制御し、泡状定着液の最適な膜厚の制御を行うブレード154と、塗布ローラ141と対峙する位置に配置された加圧ローラ143と、を具備している。なお、泡状定着液は、泡状定着液生成手段130により、液体状の定着液から大きな泡を形成した後、大きな泡を分泡し、微小な泡を形成することにより生成されたものである。
【0086】
泡状定着液は、塗布ローラ141上において、ブレード154が作用する部分の上流側に供給され、塗布ローラ141上に均一に薄層化される。ブレード154は、図中上側の基端部を回動中心として回動することで、先端部と塗布ローラ141との間隙量が調整されることにより、泡状定着液を薄層化して最適な膜厚を形成するようになっている。ここで要求される膜厚は、塗布ローラ141上に定着の際に最適値となる膜厚のことである。
【0087】
塗布ローラ141上に均一に薄層化された泡状定着液は、記録媒体上のトナー粒子層に付与され、トナー粒子を記録媒体に定着させている。このとき、記録媒体は、塗布ローラ141と加圧ローラ143により挟持されて搬送されており、塗布ローラ141と加圧ローラ143との加圧力によって、薄層化された泡状定着液が記録媒体に付与されている。
【0088】
また、塗布ローラ141上において、記録媒体へ泡状定着液を付与する部分の下流位置にはクリーニング手段190が設けられている。クリーニング手段190は、泡状定着液付与動作後に塗布ローラ141上に残留した泡状定着液やオフセットしたトナーを除去するためのものであり、これらの不要物を帯状の吸液部材により塗布ローラ141から除去するようになっている。これらの不要物が正常に除去されていなければ、ブレード154の部分での安定した泡状定着液の薄膜形成に支障をきたすからである。
【0089】
また、定着装置100は、塗布ローラ141と加圧ローラ143との挟持部の記録媒体搬送方向下流側に、泡状定着液が塗布された後の記録媒体が渡される吸着搬送手段160を備えている。吸着搬送手段160は、記録媒体の泡状定着液が付与されていない側の面である泡状定着液非付与面、すなわち図における記録媒体の下面に接して、記録媒体を吸着しながら搬送するようになっている。
【0090】
さらに、定着装置100は、塗布ローラ141と加圧ローラ143との挟持部と吸着搬送手段160の間の記録媒体の下面側(泡状定着液非付与面の側)に設けられ、記録媒体の下面を支持して記録媒体を吸着搬送手段160に案内する下ガイド170を備えている。
【0091】
吸着搬送手段160の具体的構成としては、幾つか考えられるが、例えば、インクジェット等で採用されている静電吸着搬送方式、またはファン等の吸気手段による吸気により記録媒体を吸着して搬送する方式を用いることができる。
【0092】
前者の静電吸着搬送方式は、搬送ベルトに静電気を帯びさせ、静電気によって記録媒体を吸着させてベルトで搬送するというものであり、優れた吸着性を得ることができるという特長がある。
【0093】
一方、後者の吸気手段を用いる方式は、シコッロファン等のファンを吸気手段として用いてこの吸気手段による吸気により記録媒体を吸着して搬送するものである。吸気手段による方法は、吸着と搬送を行うためのキーパーツが多孔質性のベルトとファンであるため、静電気を発生させるための高圧電源や帯電ヘッドや帯電性のベルト等を必要とする静電吸着搬送方式と比較して、容易で安価に構成することができるという特長がある。
【0094】
[吸着搬送手段の詳細な構成]
図7を参照して、吸気手段を用いた吸着搬送手段160の詳細な構成を説明する。
【0095】
吸着搬送手段160は、多孔質の材料からなる無端状の多孔質ベルト163と、この多孔質ベルト163を張架する2つのローラ161、162と、を有している。2つのローラ161、162のうち一方のローラ161は動力源が連結された駆動ローラとして構成されており、他方のローラ162は従動ローラとして構成されている。多孔質ベルト163は、ローラ161が駆動回転することにより張架方向、すなわち図の左右方向に移動可能となっている。多孔質ベルト163の孔の大きさは、直径数μmレベルのものから数mmレベルのものまで何れであってもよく、通気性や記録媒体搬送性などの観点から、最適な孔径のものを選択すればよい。
【0096】
また、吸着搬送手段160は、2つのローラ161、162と多孔質ベルト163によって形成される内側の空間に、ファン164を備えている。図7の例では風向きは下向きになっている。こうすることによって、吸着搬送手段160の上面では、空気を吸い込んで記録媒体を多孔質ベルト163に吸着することになる。ファン164と2つのローラ161、162との間には、ファン164と2つのローラ161、162との間から空気が逃げないよう側壁165が設けられている。この側壁165を設けることによって、吸気効率を向上することができる。
【0097】
図6に示すように、泡状定着液が塗布された後の記録媒体は、吸着搬送手段160へと渡されるが、その際に吸着搬送手段160に接する部分は、直前の泡状定着液塗布工程において泡状定着液が塗布された面(泡状定着液付与面、図6における記録媒体の上面)とは反対の記録媒体面(泡状定着液非付与面、図6における記録媒体の下面)となっている。そして、直前の泡状定着液塗布工程において泡状定着液が塗布された面は、泡状定着液塗布部から吸着搬送手段160への受け渡しの部分でも、何にも触れずに受け渡している。したがって、塗布ローラ141によって記録媒体に泡状定着液が塗布された後、吸着搬送手段160による搬送の次の工程まで、記録媒体の泡状定着液塗布面は一切何にも触れないということになる。
【0098】
前述したように、泡状定着液を用いた定着では、液体を用いているということから、液体成分が残留している状態では定着強度は完全なものにはならないという問題がある。この液体成分がある程度、蒸発、固化或いは吸収によって少なくなれば、所望の定着強度が得られるが、そのためには少なくとも熱定着の硬化プロセスと比較して時間がかかるということも判っている。さらに、泡状定着液であることから、泡によってトナー層の奥まで侵入し、破泡するというプロセスを踏むことから、泡状定着液は、単なる液体の定着液と比較してトナーに侵入するまで時間を要することも判っている。
【0099】
それゆえに、泡状定着液を塗布して直ぐの記録媒体では、その塗布面に搬送コロや搬送ガイドが触れると、定着強度が十分でないがゆえに、搬送コロや搬送ガイドが汚れたり、記録媒体上の画像に悪影響を及ぼしてしまうことになる。
【0100】
したがって、定着強度が不十分な状態における記録媒体搬送では、泡状定着液が塗布された画像面(図6の記録媒体の上面)には何も触れさせずに搬送することが望ましい。吸着搬送手段160により記録媒体を搬送する構成は、泡状定着液が塗布された画像面には何も触れないため、画像に悪影響を及ぼしてしまうことがない。
【0101】
例えば、泡状定着液を用いた定着においては、泡状定着液を記録媒体に塗布後1秒経過することで定着強度が十分になる場合、記録媒体搬送速度が300mm/sの定着装置だとしたら、吸着搬送手段160の搬送経路長(搬送面の長さ)が300mm程度であればよいということになる。
【0102】
実際に、泡状定着液を用いた定着では、塗布後1秒程度で定着強度が大幅に向上することが判っており、さらに、300mm/sという記録媒体搬送速度は、高速機の部類に入るということから、300mm程度という吸着搬送手段160の搬送経路長は比較的現実的な値であり、定着装置100の意匠性に重大な問題を与えるほどの大きさではない。
【0103】
一方で、泡状定着液が塗布された記録媒体はカールしやすいという問題がある。薄紙ほどカールしやすく、泡状定着液の塗布量が多いほどカールしやすいということが実験より明らかになっている。さらに、カールの特性としては、泡状定着液を記録媒体に塗布した直後からカールが発生しており、そのカール方向は泡状定着液の塗布面が凸になる方向である。そして1分ほど経過した頃にはカールの向きが逆転していることも実験より明らかになっている。ここで、懸念されるのは、カール発生による搬送性能への影響である。泡状定着液が塗布された記録媒体が搬送経路を通過しているのは、泡状定着液が塗布されてから数秒程度であることを考えれば、カール方向として気にすべきは、泡状定着液の塗布面が凸になる方向のカールである。
【0104】
実験によれば、泡状定着液が塗布された直後の記録媒体のカールは、図8に示すように塗布面が凸となる方向であることが判っている。したがって、このような塗布面が凸となるカール状態であっても、記録媒体の泡状定着液塗布面に何も触れさせずに吸着搬送手段160により良好に搬送できることを確認する必要がある。単発の実験結果によると、坪量50g/m程度の薄紙を記録媒体として用いたとき、1mあたり2g程度の泡状定着液塗布量において、図6の定着装置100の構成で、塗布面が凸となるカール状態の記録媒体を良好に搬送することが可能であることが確認できた。
【0105】
[記録媒体の搬送状態]
上記の単発の実験時の記録媒体の搬送の様子を図9〜図12に示す。
【0106】
まず、カールした記録媒体の先端が下ガイド170に突き当たるものの(図9参照)、記録媒体が塗布ローラ141から押し出されることによって、記録媒体の先端が吸着搬送手段160まで導かれる(図10参照)。吸着搬送手段160の多孔質ベルト163が記録媒体の先端を捕らえると、記録媒体の先端は多孔質ベルト163の動きとともに移動していく。そのためには、多孔質ベルト163の材質はゴム製であることが望ましい。この段階では、記録媒体の先端のみが多孔質ベルト163に接しており、他の部分はカールによって浮いたまま搬送される(図11参照)。そして、ファン164による吸気部に記録媒体が達すると、それまでカールによって浮いていた部分は、吸気によって多孔質ベルト163に密着するため、記録媒体を安定して搬送することができる(図12参照)。
【0107】
ただし、これはあくまで単発の実験であり、泡状定着液の塗布量が増えてきたり、環境条件を変えたときには問題なく搬送を行える保証はない。さらにカール量が過大となった場合には、吸着搬送手段160に達するまでに、記録媒体が巻物状になって搬送不能になることも懸念される(図13参照)。
【0108】
そこで、図14に示すように、下ガイド170および吸着搬送手段160に対向する位置、すなわち下ガイド170および吸着搬送手段160の上方にファン180aを有する送風手段180を設け、この送風手段180から記録媒体の上面に向けて空気を吹き付けることで、記録媒体が巻物状になって搬送不能になることを防止することができる。
【0109】
送風手段180は、記録媒体に泡状定着液が塗布された後、泡状定着液塗布面に対して空気を吹き付け、下ガイド170や吸着搬送手段160に記録媒体を強制的に倣わせようとする働きをする。すなわち、送風手段180は、吸着搬送手段160のアシスト的な働きをする。こうすることによって、泡状定着液塗布後の初期の段階から記録媒体のカールを押さえ込むことができるので、吸着搬送手段160による安定した記録媒体搬送を実現することができる。このとき重要なのは、送風手段180が下ガイド170に対して、空気をしっかりと吹き付けているということである。吸着搬送手段160の構成から考えれば、塗布ローラ141と加圧ローラ143の挟持部である泡塗布部から吸着搬送手段160に記録媒体を導くときに、その谷間の部分をカバーするための下ガイド170はどうしても必要になる。その部分でカールがひどく発生して吸着搬送手段160に記録媒体を導くことが出来なければ、搬送が不可能になる。よって、下ガイド170の付近で送風手段180が空気をしっかり吹き付けてカールを防止してやれば搬送は可能になる。
【0110】
ここで、吸着搬送手段160は記録媒体側から空気を吸い込むことで機能を果たし、送風手段180は記録媒体側に空気を吐き出すことで機能を果たすということに注目する。つまり、図15に示すように、吸着搬送手段160と送風手段180をダクト181で接続して、吸着搬送手段160の排気側の空気を送風手段180の吸気側に導くことにより、エネルギー利用効率の高い送風系を実現することができる。また、吸着搬送手段160と送風手段180をダクト181で接続することにより、吸着搬送手段160のファン164と送風手段180のファン180aの何れか一方のファンを省略しても、記録媒体の下面側からの吸着と、記録媒体の上面側からの吹き付けの両方の効果を発揮することができる。
【0111】
例えば、図16に示すように、送風手段180を省略して、吸着搬送手段160にのみファン164を用いた構成としても、記録媒体の下面側からの吸着と記録媒体の上面側からの吹き付けの両方の効果を発揮することができる。送風手段180は吸着搬送手段160のアシスト的な役割を担うものであるため、吸着搬送手段160を省略するよりも、図16のように送風手段180を省略する構成の方が望ましいといえる。
【0112】
なお、図16の構成とは逆に、図15の構成において吸着搬送手段160の方を省略して構成であってもよい。また、吸着搬送手段160と送風手段180の両方を省略するとともにダクト181内の途中にのみ空気搬送用の動力源であるファン(不図示)を1つ設けた構成であってもよい。すなわち、ダクト181を用いて記録媒体の下面側で吸着するとともに上面側で吹き付けを行う構成においては、空気搬送用の動力源の設置位置は、吸着搬送手段160の位置および送風手段180の位置の両方、または、吸着搬送手段160の位置のみ、または、送風手段180の位置のみ、または、ダクト181内の途中のみ、の何れかとすることができる。
【0113】
以上のように、本実施の形態に係る定着装置100は、トナー層が表面に形成された記録媒体に泡状定着液を付与する塗布ローラ141および加圧ローラ143と、塗布ローラ141および加圧ローラ143により泡状定着液が付与された直後の記録媒体を、泡状定着液が付与された泡状定着液付与面と反対の泡状定着液非付与面を吸着して搬送する吸着搬送手段160と、を備えたことを特徴とする。
【0114】
この構成により、記録媒体上の泡状定着液が付与された泡状定着液付与面に接触することなく記録媒体を搬送できるとともに、搬送中に定着時間を稼いて定着を完了させることができるので、下流に配置された搬送コロや搬送ガイドによってトナー層の画像が劣化することを防止することができる。したがって、泡状定着液で定着を行うために定着時間が長くなる場合であっても記録媒体上の画像が搬送コロや搬送ガイドにより劣化することを防止することができる。また、泡状定着液の塗布により記録媒体にカールが発生しても、良好に記録媒体を搬送することができる。
【0115】
また、本実施の形態に係る定着装置100は、吸着搬送手段160が、少なくとも、記録媒体を搬送する多孔質ベルト163と、記録媒体を多孔質ベルト163に吸着させるファン164と、から構成されていることを特徴とする。
【0116】
この構成により、吸着搬送手段160を安価に構成することができるとともに、泡状定着液の塗布によりカールが発生した記録媒体を良好に搬送することができる。
【0117】
また、本実施の形態に係る定着装置100は、塗布ローラ141および加圧ローラ143と吸着搬送手段160の間の記録媒体の泡状定着液付与面の側には、記録媒体の泡状定着液付与面に接触する部材を設けないことを特徴とする。
【0118】
この構成により、トナー層が形成されている泡状定着液付与面に何も触れることなく記録媒体を搬送することができる。
【0119】
また、本実施の形態に係る定着装置100は、塗布ローラ141および加圧ローラ143と吸着搬送手段160の間の記録媒体の泡状定着液非付与面の側に設けられ、記録媒体の泡状定着液非付与面を支持して記録媒体を吸着搬送手段160に案内する下ガイド170と、吸着搬送手段160および下ガイド170に対向する位置に設けられ、下ガイド170および吸着搬送手段160上の記録媒体に対して送風する送風手段180と、を備えたことを特徴とする。
【0120】
この構成により、記録媒体が下ガイド170に案内されるとともに、送風手段180の送風により下ガイド170および吸着搬送手段160に押し付けられるので、泡状定着液の塗布によりカールが発生した記録媒体の搬送をより一層安定して行うことができる。
【0121】
また、本実施の形態に係る定着装置100は、ファン164と送風手段180とに接続されファン164が吸気した空気を送風手段180に導くダクト181を備えたことを特徴とする。
【0122】
この構成により、泡状定着液の塗布によりカールが発生した記録媒体の搬送を効率よく低エネルギーで行うことができる。
【0123】
また、本実施の形態に係る定着装置100は、ファン164の位置、送風手段180の位置、またはダクト181内、の何れか1つに、空気搬送用の動力源を備えたことを特徴とする。
【0124】
この構成により、泡状定着液の塗布によりカールが発生した記録媒体の搬送を安価な構成で行うことができる。
【0125】
また、本実施の形態に係る画像形成装置200は、感光体10上に静電潜像を形成する光学ユニット4と、感光体10上に形成された静電潜像を、樹脂含有微粒子を含有する現像剤を用いて現像して樹脂含有微粒子画像を形成する現像装置12と、感光体10上に形成された樹脂含有微粒子画像を記録媒体に転写する中間転写ユニット5と、記録媒体に転写された樹脂含有微粒子画像を記録媒体に固定化する定着手段と、を備える画像形成装置200であって、定着手段として、定着装置100を備えることを特徴とする。
【0126】
この構成により、画像形成装置200において、泡状定着液で定着を行うために定着時間が長くなる場合であっても記録媒体上の画像が搬送コロや搬送ガイドにより劣化することを防止することができる。また、省電力で信頼性の高い定着を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0127】
以上説明したように、本発明に係る定着装置および画像形成装置は、泡状定着液で定着を行うために定着時間が長くなる場合であっても記録媒体上の画像が搬送コロや搬送ガイドにより劣化することを防止することができるという効果を有し、トナー等の樹脂微粒子を溶解または膨潤させるフォーム状定着材を樹脂微粒子に付与して樹脂微粒子を記録媒体上に定着させる定着装置や画像形成装置として有用である。
【符号の説明】
【0128】
4 光学ユニット(静電潜像形成手段)
5 中間転写ユニット(転写手段)
10、10Y、10C、10M、10K 感光体(静電潜像担持体)
12、12Y、12C、12M、12K 現像装置(現像手段)
100 定着装置
130 泡状定着液生成手段
141 塗布ローラ(泡状定着液付与手段)
143 加圧ローラ(泡状定着液付与手段)
154 ブレード
160 吸着搬送手段
161、162 ローラ
163 多孔質ベルト(ベルト部材)
164 ファン(吸気手段)
165 側壁
170 下ガイド(案内部材)
180 送風手段
181 ダクト
190 クリーニング手段
200 画像形成装置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0129】
【特許文献1】特許第3290513号公報
【特許文献2】特許第4185742号公報
【特許文献3】特開昭59−119364号公報
【特許文献4】特開2009−8967号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂の少なくとも一部を溶解または膨潤させることで樹脂含有微粒子を軟化させる軟化剤を含有した泡状定着液を、形成する画像の画像情報に基づいて記録媒体上に形成された樹脂微粒子に塗布して該樹脂微粒子を前記記録媒体に定着する定着装置であって、
前記樹脂微粒子からなる樹脂微粒子層が表面に形成された前記記録媒体に前記泡状定着液を付与する泡状定着液付与手段と、
前記泡状定着液付与手段により前記泡状定着液が付与された直後の記録媒体を、前記泡状定着液が付与された泡状定着液付与面と反対の泡状定着液非付与面を吸着して搬送する吸着搬送手段と、を備えたことを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記吸着搬送手段が、少なくとも、前記記録媒体を搬送するベルト部材と、前記記録媒体を前記ベルト部材に吸着させる吸気手段と、から構成されていることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記泡状定着液付与手段と前記吸着搬送手段の間の前記記録媒体の泡状定着液付与面の側には、前記記録媒体の泡状定着液付与面に接触する部材を設けないことを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項4】
前記泡状定着液付与手段と前記吸着搬送手段の間の前記記録媒体の泡状定着液非付与面の側に設けられ、前記記録媒体の泡状定着液非付与面を支持して該前記記録媒体を前記吸着搬送手段に案内する案内部材と、
前記吸着搬送手段および前記案内部材に対向する位置に設けられ、前記案内部材および前記吸着搬送手段上の記録媒体に対して送風する送風手段と、を備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載の定着装置。
【請求項5】
前記吸気手段と前記送風手段とに接続され前記吸気手段が吸気した空気を前記送風手段に導くダクトを備えたことを特徴とする請求項4に記載の定着装置。
【請求項6】
前記吸気手段の位置、前記送風手段の位置、前記ダクト内の何れか1つに、空気搬送用の動力源を備えたことを特徴とする請求項5に記載の定着装置。
【請求項7】
静電潜像担持体上に静電潜像を形成する静電潜像形成手段と、
前記静電潜像担持体上に形成された静電潜像を、樹脂含有微粒子を含有する現像剤を用いて現像して樹脂含有微粒子画像を形成する現像手段と、
前記静電潜像担持体上に形成された前記樹脂含有微粒子画像を記録媒体に転写する転写手段と、
前記記録媒体に転写された前記樹脂含有微粒子画像を前記記録媒体に固定化する定着手段と、を備える画像形成装置であって、
前記定着手段として、請求項1乃至請求項6の何れかに記載の定着装置を備えることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−194419(P2012−194419A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58997(P2011−58997)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】