説明

定量的超音波法装置用ファントム

【課題】定量的超音波法装置(22)用ファントム(20)を提供すること。
【解決手段】ファントムは、中空ケーシング(50)と、この中空ケーシング内に配設され、典型的な骨の超音波減衰係数(BUA)をシミュレートする第1の音響エレメント(100)と、中空ケーシング内に配設され、ファントムを通って送信された超音波信号の速度を変える第2の音響エレメント(102)とを含み、第2の音響エレメントが、第1の音響エレメントと同一線上に配設される。ファントムは中空ケーシング内に配設された第3の音響エレメント(120)も含み、第3の音響エレメントは第1の音響エレメントと第2の音響エレメントの間に音響結合剤を形成する。ファントムを製造する方法も本明細書において説明される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書において開示される主題は、一般に医療診断システムに関し、より詳細には定量的超音波法(QUS)装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波密度計および超音波測定器(ultrasonometer)などのQUS装置は、超音波を使用して骨の健全性(bone integrity)を測定する。QUS装置を検証することは、適切な診断を可能にする適切な測定を確実に継続するための重要な仕事である。QUS装置は、骨粗鬆症の進行の評価または治療の監視を適切に行うために、長期にわたって安定した状態を保たなければならない。したがって、飛行時間(time−of−flight)とも呼ばれる超音波伝播速度(SOS)および超音波減衰係数(BUA)などの測定パラメータを長期間、適切に測定する必要がある。
【0003】
QUS装置の安定性を監視するためにQUSファントムが使用される。従来のQUSファントムは、信号を減衰させるために、水など、安定性があり特徴のはっきりした液体を使用する。他の従来のQUSファントムは、既知の超音波特性を有するゴムなどの固体材料を使用する。これらのQUSファントムのいずれでも、骨形態計測のシミュレーションは満足できるものではない。したがって、QUS装置からの音波とファントムの相互作用は骨を模倣せず、その結果、シミュレーションがあまり正確でない場合がある。加えて、水などの液体はあまり減衰性のものではなく、その結果、QUS装置は最小電力で動作する。固体のファントムはまた、経年変化作用も有する。たとえば、良好なBUA特性を有する材料は、典型的には弾性を有する。QUSファントムに使用される代表的材料の1つはネオプレンである。ネオプレン材料が経年変化するにつれて、材料内の分子間に形成される架橋が多くなる。この架橋により、材料が硬化し、音響学的性質が変化する。材料の硬度の変化によって、長期監視に関するQUSファントムの有用性が低下する。さらに、水のQUSファントムも固体のQUSファントムも、温度誘起ドリフトすなわち値の変化を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6635486号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施形態によれば、定量的超音波法装置用ファントムが提供される。このファントムは、中空ケーシングと、この中空ケーシング内に配設され、典型的な骨の超音波減衰係数(BUA)をシミュレートする第1の音響エレメントと、中空ケーシング内に配設され、ファントムを通って送信された超音波信号の速度を変える第2の音響エレメントとを含み、第2の音響エレメントが、第1の音響エレメントと同一線上に配設される。
【0006】
別の実施形態によれば、定量的超音波法装置用ファントムが提供される。このファントムは、中空ケーシングと、この中空ケーシング内に配設され、典型的な骨の超音波減衰係数(BUA)をシミュレートする複数の金属の音響エレメントと、中空ケーシング内に配設され、そのうちの少なくとも1つは1対の金属の音響エレメントの間に配設され、ファントムを通って送信された超音波信号の速度を変えるように構成された複数の非金属の音響エレメントと、中空ケーシング内に配設され、第1の音響エレメントと第2の音響エレメントの間に音響結合剤を形成し、グリコールおよび水からなる二成分混合液体を備える第3の音響エレメントとを含む。好ましい一実施形態では、第3の音響エレメントは、金属エレメントおよび非金属エレメントの温度依存性の変化を補償するように構成することができる。
【0007】
他の実施形態によれば、定量的超音波法装置用ファントムを製造する方法が提供される。この方法は、模倣対象の骨の1つまたは複数の音響学的性質を決定する段階と、模倣対象の骨の超音波減衰係数(BUA)をシミュレートする第1の音響エレメントを中空ケーシング内に設置する段階と、ファントムを通って送信された超音波信号の速度を変える第2の音響エレメントを中空ケーシング内に設置する段階とを含み、第2の音響エレメントは第1の音響エレメントと同一線上に配設される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】種々の実施形態によって構築された、定量的超音波法(QUS)装置と共に使用するためのファントムを示す簡略化したブロック図である。
【図2】種々の実施形態によって構築された、例示的なファントムの絵画図である。
【図3】図2に示すファントムの端面図である。
【図4】図2および図3に示すファントムの分解組立図である。
【図5】例示的なQUS装置に設置された、図2〜図4に示す例示的なファントムの絵画図である。
【図6】種々の実施形態によるファントムと共に使用可能なQUS装置の斜視図である。
【図7】種々の実施形態によるファントムと共に使用可能なQUS装置の別の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
前述の概要、ならびにいくつかの実施形態についての以下の詳細な説明は、添付の図面と併せ読めば、さらによく理解されるであろう。図面が種々の実施形態の機能ブロック図を示す限りにおいて、その機能ブロックは、必ずしもハードウェア回路間の区分を示すわけではない。機能ブロック(たとえば、プロセッサまたはメモリ)のうちの1つまたは複数は、1つのハードウェア(たとえば、汎用信号プロセッサまたはランダムアクセスメモリ、ハードディスクなど)で実施されてもよいし、複数のハードウェアで実施されてもよい。同様に、プログラムは、スタンドアロンプログラムであってもよいし、オペレーティングシステムにサブルーチンとして組み込まれていてもよいし、インストールされているソフトウェアパッケージの機能などであってもよい。種々の実施形態は、図面に示された構成および手段に限定されないことを理解されたい。
【0010】
本明細書で使用される場合、単数形で列挙され単語「a」または「an」が前に付された要素またはステップは、除外が明記されない限り、前記要素またはステップの複数形を除外しないものとして理解されたい。さらに、「一実施形態」の言及は、列挙した特徴も組み込む追加の実施形態の存在を除外すると解釈されることを意図するものではない。さらに、別に明記されない場合は、特定の特徴を有する単一の要素または複数の要素を「comprising(備える)」または「having(有する)」実施形態は、その特徴を有しないそのような要素をさらに含むことができる。
【0011】
超音波骨密度計または超音波測定器などの定量的超音波法(QUS)装置と共に使用するためのファントムの例示的な実施形態を以下に詳細に説明する。種々の実施形態は、QUS装置の超音波送信機と超音波受信機の間の超音波パルスを変更できるファントムを提供する。このファントムは、骨を模倣する。ファントムは、種々の骨を模倣するように変更することができる。ファントムは、任意のQUS装置、たとえばGE Healthcareから入手可能なLunar Achillies超音波測定器、または他の超音波骨密度計と共に使用することができる。
【0012】
具体的には、図1に示すように、本発明の種々の実施形態は、骨の性質または特性、たとえば、人間の踵の骨(踵骨とも呼ばれる)の音響学的性質を模倣するように構成されたファントム20を提供する。ファントム20は、たとえばQUS装置22の動作を検証または検査するために、QUS装置22と共に使用することができる。種々の実施形態では、QUS装置22は、送信トランスデューサアレイ24と、受信トランスデューサアレイ26とを含み、それらの間にファントム20が設けられている。より具体的には、ファントム20は、送信トランスデューサアレイ24と受信トランスデューサアレイ26の間の超音波経路に設けられる。送信トランスデューサアレイ24および受信トランスデューサアレイ26は、1つまたは複数のトランスデューサエレメントを含むことができることに留意されたい。
【0013】
QUS装置22による超音波パルスの送信および受信は、対象物、たとえば、送信トランスデューサアレイ24と受信トランスデューサアレイ26の間に置かれた人間の踵の骨の物理的性質を測定するために使用される。たとえば、QUS装置22は、対象物の健全性および/または密度を測定するように構成される。具体的には、QUS装置22は、送信トランスデューサアレイ24および受信トランスデューサアレイ26を使用して、対象物を通る相対的な透過時間(飛行時間または超音波伝播速度とも呼ばれる)および/または相対的な超音波減衰係数(BUA)を比較することにより、対象物の物理的性質および/または健全性を決定することができる。
【0014】
したがって、種々の実施形態におけるファントム20は、超音波信号を変えるまたは変更することによって、音響学的性質などの、骨のいくつかの特性または性質を模倣する。この超音波信号は、送信トランスデューサアレイ24から送信された1つまたは複数のパルスとすることができる。信号を変更した結果、受信トランスデューサアレイ26は、たとえば飛行時間またはBUAに関して変更された信号を受信する。信号は既知の値を使用して変更されているので、既知の値と比較すると、QUS装置22を正確さに関して検査または検証することができる。したがって、ファントム20は、QUS装置22によって使用される超音波パルスを変更するように動作して、特定の質、特性、または性質を有する骨、たとえば健康な骨または骨粗鬆症の骨を模倣する。一例として、(本明細書において、より詳細に説明するように)超音波パルスがファントム20を通過して、変更された超音波を生じさせるので、飛行時間または超音波パルスの減衰は、超音波パルスを変えることによって変化することができる。変更された超音波により、QUS装置22で、ファントム20が模倣している特定の骨密度または健全性の期待値が測定されたかどうかを決定することが可能になる。
【0015】
図2は、図1に示す例示的なファントム20の絵画図である。図3は、図2に示すファントム20の端面図である。図2に示すファントム20は、円筒状ケーシング50を含む。この円筒状ケーシング50は、超音波音に対する人間の所定の骨の反応をシミュレートする複数の音響エレメント54を受け入れるように構成された中空内部52を画定する。例示的な実施形態では、ファントム20は、人体の踵骨を模倣するように構成される。ただし、音響エレメント54は、本明細書において説明するQUS装置22を使用して撮像される他の骨の反応を模倣するように再構成できることを理解されたい。
【0016】
図2に示すように、ケーシング50は、円筒形状を有する本体部分56と、この本体部分56の一部に結合されたかまたはこれを形成する2つの中空の端部部分58および60とを含む。端部部分58および60は、特に必要に応じておよび/または所与の適用例で求められる、任意の所望の形状(たとえば、代表として示された、外側にラッパ状に広がるものなど)とすることができる。例示的な実施形態では、端部部分58および60は、本体部分56と一体的に形成される。具体的には、例示的な実施形態では、ケーシング50は、本体部分56と、2つの端部部分58および60とを両方含む一体成形構造である。例示的な実施形態では、ケーシング50は、プラスチック材料を使用して製造される。任意選択で、ケーシング50は他の材料から製造されることができる。
【0017】
図3に示すように、本体部分56の中空内部52は直径62を有する。直径62は、約1.75インチ〜約2.75インチ、つまり約2.0インチである。例示的な実施形態では、中空内部52の直径62は、約2.0インチ〜約2.5インチである。再び図2を参照すると、本体部分56は、第1の端部70と、対向する端部72とを含む。第1の端部70は端部部分58に結合されるか、またはこれと一体的に形成され、第2の端部72は端部部分60に結合されるか、またはこれと一体的に形成される。
【0018】
より具体的には、端部部分58および60はそれぞれ、本体部分の第1の端部70および/または第2の端部72にそれぞれ結合されるか、またはこれと一体的に形成される第1の端部74を含む。端部部分58および60はそれぞれ、第2の端部76も含む。例示的な実施形態では、第1の端部74は、本体部分56の内径62にほぼ等しい直径80を有する。さらに、第2の端部76はそれぞれ、以下により詳細に述べるように撮像中にQUS装置22内でファントム20を固定するために膨張可能な袋(bladder)を少なくとも一部分はその中に受け入れ可能なサイズに成形される直径82を有する。
【0019】
図4は、図2および図3に示すファントム20の分解組立図である。上述したように、ファントム20は、超音波音に対する人間の所定の骨の反応をシミュレートするように構成された複数の音響エレメント54を含む。例示的な実施形態では、音響エレメント54は、送信トランスデューサアレイ24および受信トランスデューサアレイ26を使用して、ファントム20を通過する相対的な透過時間(飛行時間または超音波伝播速度とも呼ばれる)および/または相対的な超音波減衰係数(BUA)を比較することにより、QUS装置22がファントム20の物理的性質および/または健全性を正確に決定できるように選択され、ファントム本体50内に配置される。より具体的には、QUS装置20は、ファントム20の超音波減衰特性を測定し、この超音波減衰特性を骨密度の間接的な評価として使用する。したがって、ファントム20内に配設された材料のサイズ、厚さ、およびタイプは、健康な踵骨もしくは骨粗鬆症の踵骨、または健康な骨と骨粗鬆症の骨の範囲の骨を模倣するように選択することができる。
【0020】
複数の音響エレメント54は、少なくとも1つの金属エレメント100と、少なくとも1つの非金属エレメント102とを含む。例示的な実施形態では、本明細書において説明する音響エレメント54は、踵骨を模倣するように配置され、複数の金属エレメント100と、複数の非金属エレメント102とを含む。図4に示すように、それぞれの非金属エレメント102は、1対の金属エレメント100の間に配設される。任意選択で、それぞれの金属エレメント100は、1対の非金属エレメント102の間に配設される。例示的な実施形態では、非金属エレメント102は、直線的にまたは金属エレメント100と同一線上に配設され、それにより、ファントム20を通って送信された超音波が、金属エレメント100と非金属エレメント102の両方を直線的に通過する。
【0021】
金属エレメント100は、略円盤形であり、例示的な実施形態では本体部分56の内径62と実質的に同等の外径110を有する。例示的な実施形態では、ファントム20は、複数の金属エレメント100を含む。この複数の金属エレメント100は、同じ外径62を有してもよいし、異なる外径を有してもよい。たとえば、図4に示すように、金属エレメント111は外径113を有することができ、金属エレメント115は外径117を有することができる。一実施形態では、金属エレメント111の外径113は、金属エレメント115の外径117と実質的に同じである。任意選択で、金属エレメント111の外径113は、金属エレメント115の外径117と異なる。例示的な実施形態では、金属エレメント100の外径110は、金属エレメント100を本体部分56に挿入できるように、本体部分56の内径62よりわずかに小さい。
【0022】
各金属エレメント110は、厚さ112も有する。例示的な実施形態では、ファントム20は、踵骨を模倣するために、それぞれ約1/2インチの厚さ112を有する4つの金属エレメント100を含む。任意選択で、金属エレメント100の少なくとも1つは、異なる厚さを有することができる。たとえば、図4に示すように、金属エレメント111は厚さ112を有し、金属エレメント115は厚さ119を有する。一実施形態では、金属エレメント111の厚さ112は、金属エレメント115の厚さ119と実質的に同じである。任意選択で、金属エレメント111の厚さ112は、金属エレメント115の厚さ119と異なる。金属エレメント100の直径および厚さは、ファントム20によって模倣される骨と同じであってもよいし、異なってもよいことを理解されたい。
【0023】
例示的な実施形態では、金属エレメント100は、多孔性金属材料から製造される。たとえば、金属エレメント100は、所定の多孔率を有するアルミニウムハニカム材料から製造されることができる。例示的な実施形態では、このハニカム材料は、高い容積分率の、気体が充填された孔を有するアルミニウム発泡金属材料である。この発泡材料は、模倣対象の骨に基づいて、独立気泡アルミニウム発泡体でもよいし、連続気泡アルミニウム発泡体でもよい。
【0024】
金属エレメント100が典型的な海綿状骨構造を模倣するように、所定の多孔率の金属エレメント100が選択される。このような典型的な骨構造は、密な膠原組織から構成される海綿骨を含むことができる。典型的な海綿骨のこのような1つの例は骨梁骨である。動作中、金属エレメント100は、臨床的に対象となる人間の範囲にわたってBUAをシミュレートするように構成される。その範囲、したがって金属エレメント100の量、サイズ、および厚さは、ファントム20が模倣するように構成された人骨に基づいて決定される。さらに、金属エレメント100の量、サイズ、および厚さはまた、状態、たとえば、ファントム20が模倣するように構成された、健康な人骨または骨粗鬆症の人骨にも基づいて決定される。
【0025】
複数の音響エレメント54は、少なくとも1つの非金属エレメント102も含む。非金属エレメント102は、略円盤形であり、例示的な実施形態では本体部分56の内径62と実質的に同等で金属エレメント100の外径110とほぼ同じ外径114を有する。例示的な実施形態では、非金属エレメント102の外径114は、非金属エレメント102を本体部分56に挿入できるように、本体部分56の内径62よりわずかに小さいことを理解されたい。例示的な実施形態では、非金属エレメント102は、シリコンゴム材料から製造される。非金属エレメント102は、ファントム20を通るSOSが特定の骨の状態、たとえば骨粗鬆症、平均、および/または平均以上、のBUA値と実質的に一致するために、超音波ビームの超音波伝播速度(SOS)を調整するように構成される。より具体的には、非金属エレメント102は、非金属エレメント102が皮質骨を模倣するようにファントム20の密度を減少させることによって、超音波伝播速度を微調整するために使用される。したがって、非金属エレメント102の直径および厚さは、ファントム20によって模倣される骨に基づいて、ファントム20内で同じであってもよいし、異なってもよいことを理解されたい。
【0026】
動作中、金属エレメント100は、健康な骨または骨粗鬆症の骨のBUAを模倣するために使用される。ただし、動作中、非金属エレメント102を含まないファントム20を通る超音波伝播速度は余りにも速く、したがって臨床的に対象となる人骨の範囲を超えることがある。したがって、例示的なファントム20は、音響波を減速させ、したがってファントム20が臨床的に対象となる人骨の範囲で実施できるように音響ダンパとして機能する少なくとも1つの非金属エレメント102を含む。具体的には、音の伝播速度は、健康な骨より健康でない骨の方が速い。したがって、一実施形態では、非金属エレメント102の厚さまたは量は、健康な骨をより密接に模倣するように増加することができる。たとえば、非金属エレメントの厚さまたは量を増加させると、ファントム20を通る超音波伝播速度が低減し、したがって健康な骨をより密接に模倣する。一方、非金属エレメント102の厚さまたは量を減少させると、ファントム20を通る超音波伝播速度が増加し、したがって健康でない骨または骨粗鬆症の骨をより密接に模倣する。
【0027】
複数の音響エレメント54は、金属エレメント100と非金属エレメント102の両方をカプセル化するように構成された第3の音響エレメント120も含む。より具体的には、組み立て中、シール130が本体部分の第1の端部70に近接して設置される。次に、金属エレメント100および非金属エレメント102がケーシング50の本体部分56に挿入される。次いで、本体部分56の残りの部分が第3の音響エレメント120で充填され、第2のシール132が本体部分の第2の端部72に近接して設置される。シール130および132は、金属エレメント100および非金属エレメント102を本体部分56内に固定し、種々の実施形態では、第3の音響エレメント120が本体部分56から漏れるのも防ぐ。
【0028】
例示的な実施形態では、第3の音響エレメント120は、ケーシング50内の任意の空隙を充填することによって、金属エレメント100と非金属エレメント102の両方をカプセル化する。第3の音響エレメント120はまた、金属エレメント100と非金属エレメント102の間に音響結合剤を形成する。さらに、第3の音響エレメント120はまた、金属エレメント100および非金属エレメント102のどんな温度依存性の変化をも補償するように構成される。例示的な実施形態では、第3の音響エレメント120は、グリコールと水の両方を含む二成分混合液体である。任意選択で、第3の音響エレメント120は、良好な長期音響安定性を示す任意の液体材料を含むことができる。
【0029】
いくつかの実施形態では、図2〜図4に示すファントム20が提供される。ファントム20は、ケーシング50に収容された複数の音響エレメント54を含む。図5などの種々の実施形態では、たとえば、ファントム20は、QUS装置22内に配されたときに1対の袋140が送信トランスデューサアレイ24と受信トランスデューサアレイ26の間にファントム20を固定するように置かれる。より具体的には、ファントム20をQUS装置22内に置くために、1対の袋140は、各袋140が少なくとも一部分はそれぞれ、好ましくは円錐形の、端部部分58および60の1つに延びるように膨張される。袋140は膨張可能であり、送信トランスデューサアレイ24、ファントム20、および受信トランスデューサアレイ26の間の音響結合を改善するために、その中に配設された音響結合流体も有することができることに留意されたい。
【0030】
ケーシング50はそれぞれの袋140を受け入れるために、1つまたは複数の、ここでも少なくとも一実施形態では好ましくは円錐形の、端部部分58および60を含むが、ケーシング50ならびに端部部分58および60はまた、必要に応じておよび/または所望に応じて他の形状およびサイズに成形することができることにも留意されたい。たとえば、ケーシング50は、特定のQUS装置22に嵌入するような形状およびサイズに成形することができる。加えて、ケーシング50は、ファントム20があるQUS装置22に嵌入するが、他のQUS装置22には嵌入しないような形状およびサイズに成形することができる。
【0031】
ファントム20の種々の構成要素は、本明細書において説明するいくつかの音響学的性質などの、あるタイプの骨またはいくつかの性質の骨を模倣するように変更または構成されることができる。いくつかの実施形態では、ファントム20は、3つの異なる音響エレメント54を含む。この3つの異なる音響エレメント54は、金属エレメント100と、非金属エレメント102と、流体エレメント120とを含む。3つのタイプの音響エレメント54を組み合わせることによって、ファントム20は人体の特定の骨の音波伝播速度、BUA、および音響波の減衰を模倣することができる。音響エレメント54の組合せは、所定の温度範囲にわたってファントム20を安定させるように調整または微調整することができる。本明細書において説明するファントム20は、いくつかのタイプの固体材料と、液体材料とを含み、これらを組み合わせると、より長期間、より大きな温度の変動にわたってファントム20を安定させる。固体の音響材料の直径、量、および/または厚さは、ファントム20が特定の人骨をより正確に模倣できるように変更することができる。たとえば、単一のファントム20に設置された固体の音響材料100および102のそれぞれの直径、量、および/または厚さは、考えられうる人間の測定値範囲を包含し人間の音響学的性質を模倣するように選択される。金属エレメントおよび/または非金属エレメント102の性質を変更することによって、ファントム20は、ファントム20を通る超音波伝播速度を増加または減少させ、それにより骨および骨を取り巻く組織を含めて、特に足の特定の音響的性質を模倣するように調整されることができる。
【0032】
種々の実施形態は、任意のタイプのQUS装置と共に使用するためのファントムを提供し、異なる骨または身体の一部分をシミュレートするために使用されることができる。たとえば、図6および図7に示すように、QUS装置は、その中に踵を受け入れるように構成された受け入れ部分202と脚の背面を支持するための支持部材204とを有する超音波測定器200とすることができる。ディスプレイ206も提供することができる。超音波測定器200は、たとえば、本明細書において説明するファントムの種々の実施形態が受け入れ部分202内に挿入され、その中に透過された超音波パルスを、踵を模倣するように変更するように動作するAchilles超音波測定器とすることができる。
【0033】
したがって、本発明の種々の実施形態は、たとえば、飛行時間およびBUAの1つまたは複数の値を変化させて、たとえば人間の踵の骨に近づけることによって、骨の音響学的性質をシミュレートするファントムを提供する。シミュレートされた性質によって、骨と類似した音響特性が得られる。いくつかの実施形態では、シミュレートされた性質は、金属エレメント100および/または非金属エレメント102のサイズおよび/または形状を変更することによって調整されることができることに留意されたい。他の実施形態では、ファントム20内の金属エレメント100および/または非金属エレメント102の量を増加または減少させることによって、種々のタイプの骨質をシミュレートすることができる。
【0034】
上記の説明は例示的なものであり、限定的なものではないことを理解されたい。たとえば、上記実施形態(および/またはその態様)は、互いに組み合わせて用いることができる。さらに、実施形態の範囲から逸脱することなく、特定の状況または材料を本発明の種々の実施形態の教示に適合させるように、多くの修正を加えることができる。本明細書で説明する材料の寸法およびタイプは本発明の種々の実施形態のパラメータを定義するものであり、実施形態は決して限定的なものではなく、例示的な実施形態である。上記の説明を検討する際に当業者には多くの他の実施形態が明らかになるであろう。したがって、特許請求の範囲が権利を与えられる等価物の全範囲と共に添付の特許請求の範囲を参照して、本発明の種々の実施形態の範囲を決定すべきである。添付の特許請求の範囲では、用語「including(含む)」および「in which」は、各用語「comprising(備える)」および「wherein」と等価の平易な英語として用いられる。さらに、以下の特許請求の範囲では、用語「first(第1の)」、「second(第2の)」、および「third(第3の)」などは、単にラベルとして用いられ、対象物に数の要件を課すことを意図したものではない。さらに、以下の特許請求の範囲の限定は、ミーンズプラスファンクション形式で書かれておらず、このような特許請求の範囲の限定が、フレーズ「のための手段(means for)」の後にさらなる構造のない機能の表現を続けて明確に使用しない限り、米国特許法第112条(35U.S.C.§112)第6段落に基づいて解釈すべきものではない。
【0035】
この書面による説明は、いくつかの例を用いて、最良の形態を含む本発明の種々の実施形態を開示し、また任意の装置またはシステムを作製および使用するステップと、組み込まれた任意の方法を実施するステップとを含む本発明の種々の実施形態を、当業者が実施できるようにしてある。本発明の種々の実施形態の特許性のある範囲は、特許請求の範囲によって定義され、当業者が思いつく他の例を含むことができる。そのような他の例は、特許請求の範囲の文字通りの言葉と相違ない構造上の要素を有する場合、または特許請求の範囲の文字通りの言葉とは事実上差がない等価の構造上の要素を含む場合は、特許請求の範囲内に包含されることが意図される。
【符号の説明】
【0036】
20 ファントム
22 QUS装置
24 送信トランスデューサアレイ
26 受信トランスデューサアレイ
50 ケーシング
52 中空内部
54 音響エレメント
56 本体部分
58 端部部分
60 端部部分
62 内径
70 本体部分の第1の端部
72 本体部分の第2の端部
74 第1の端部
76 第2の端部
80 直径
82 直径
100 金属エレメント
102 非金属エレメント
110 外径
111 金属エレメント
112 厚さ
113 外径
114 外径
115 金属エレメント
117 外径
119 厚さ
120 混合液体
130 シール
132 シール
140 1対の袋
200 超音波測定器
202 受け入れ部分
204 支持部材
206 ディスプレイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
定量的超音波法装置(22)用のファントム(20)であって、
中空ケーシング(50)と、
前記中空ケーシング内に配設され、典型的な骨の超音波減衰係数(BUA)をシミュレートする第1の音響エレメント(100)と、
前記中空ケーシング内に配設され、前記ファントムを通って送信された超音波信号速度を変えるように構成され、前記第1の音響エレメントと同一線上に配設された第2の音響エレメント(102)とを備える定量的超音波法装置(22)用ファントム(20)。
【請求項2】
前記中空ケーシング(50)内に配設され、前記第1の音響エレメント(100)と前記第2の音響エレメント(102)の間に音響結合剤を形成する第3の音響エレメント(120)をさらに備えることを特徴とする請求項1記載のファントム(20)。
【請求項3】
複数の第1の音響エレメント(100)と、複数の第2の音響エレメント(102)とをさらに備え、前記第1の音響エレメントに前記第2の音響エレメントを交互に挟んだことを特徴とする請求項1記載のファントム(20)。
【請求項4】
前記第1の音響エレメント(100)がアルミニウム円盤を備えることを特徴とする請求項1記載のファントム(20)。
【請求項5】
前記第1の音響エレメント(100)が、人骨を模倣するように選択された所定の多孔率を有するアルミニウムハニカム材料を備えることを特徴とする請求項1記載のファントム(20)。
【請求項6】
前記第2の音響エレメント(102)が、シリコンゴム円盤を備えることを特徴とする請求項1記載のファントム(20)。
【請求項7】
複数の第2の音響エレメント(102)をさらに備え、前記第2の音響エレメントの量が前記第1の音響エレメントのBUAと実質的に一致するように選択されることを特徴とする請求項1記載のファントム(20)。
【請求項8】
前記中空ケーシング(50)内に配設され、グリコールと水とを含む二成分混合液体を含む第3の音響エレメント(120)をさらに備えることを特徴とする請求項1記載のファントム(20)。
【請求項9】
前記第1の音響エレメントおよび第2の音響エレメント(100、102)が、踵骨を模倣するように構成されることを特徴とする請求項1記載のファントム(20)。
【請求項10】
前記中空ケーシング(50)が、それぞれ膨張可能な袋(140)を少なくとも一部分はその中に受け入れるように構成された1対の円錐形の端部部分(58、60)を備えることを特徴とする請求項1記載のファントム(20)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−72779(P2011−72779A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−214653(P2010−214653)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】