説明

実行可能領域の可視化技術

【課題】数式処理で処理するモデルの誤差を可視化する。
【解決手段】本方法は、入力パラメータと出力評価指標との関係を表す複数のモデル式のデータと、複数のモデル式の各々について当該モデル式から算出される出力評価指標の算出値に対する残差の範囲のデータとから、複数のモデル式と入力パラメータの範囲とにより残差の範囲で実行可能となり得る領域を算出するための第1の問題と、複数のモデル式と入力パラメータの範囲とにより上記残差の範囲で常に実行可能となる領域を算出するための第2の問題とのうち少なくともいずれかを生成するステップと、限定子除去法で実行可能領域を算出する処理部に、生成された問題に対する実行可能領域を算出させ、当該実行可能領域のデータを取得するステップと、取得した実行可能領域のデータの可視化データを生成し、出力するステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、実行可能領域の可視化技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、計算機シミュレーションによる最適設計が広く行われるようになっている。現在よく行われている計算機シミュレーションによる最適設計は、数値計算による最適化である。例えば図1に示すように、横軸でコストを表し、縦軸で性能を表し、共に原点に近い方が好ましい値であるものとする。そうすると、計算機シミュレーションによって、コストに対する性能の関係が得られ、図1に示すように、1つ1つの点がプロットできる。図1では、コストが低く且つ性能が良い方が好ましいので、原点に近い点を最適として選択する。しかしながら、離散的な点として結果が得られるので、点と点の間に実現可能な点が存在しているのか否かについては不明である。
【0003】
一方、計算機シミュレーションによる最適設計には、数式処理による最適化という手法も存在している。この手法では、様々な入力パラメータの値について、計算機シミュレーションを実施し、各々のケースについて出力評価指標を算出する。そして、図2に示すように入力パラメータと出力評価指標との関係を近似する近似式aを計算し、この近似式に基づいて数式処理による最適化を行う。この最適化のための処理として、得られた近似式及び制約条件から図3に示すようなコストと性能との関係を表す数式を算出する場合がある。しかしながら、従来では、近似式であるにもかかわらず、近似式の誤差については考慮されていないという問題がある。
【0004】
なお、数式処理については、限定子除去法(QE:Quantifier Elimination)という技術が知られている。この技術は、例えば∃x(x2+bx+c=0)という数式を、限定子(∃及び∀)を除去した等価な式b2−4c≧0に変形する技術である。
【0005】
具体的には、以下の文献を参照のこと。但し、QEについての文献は多数存在しているので、以下の文献以外でも有用な文献は存在している。
【0006】
数学セミナー 穴井宏和・横山和弘「計算実代数幾何入門」 日本評論社出版。第1回 CAD(Cylindrical Algebraic Decomposition)とQEの概要(2007年11月号)、第2回 QEによる最適化とその応用(2007年12月号)、第3回 CADアルゴリズム(前半)(2008年1月号)、第4回 CADアルゴリズム(後半)(2008年3月号)、第5回 CADによるQE(2008年4月号)。
【0007】
雑誌FUJITSU2009-9月号,穴井 宏和, 金児 純司, 屋並 仁史, 岩根 秀直,「数式処理を用いた設計技術」(http://img.jp.fujitsu.com/downloads/jp/jmag/vol60-5/paper24.pdfから2009年10月取得可能)
【0008】
Mats Jirstrand: Cylindrical Algebraic Decomposition - an Introduction,1995−10−18(http://www.control.isy.liu.se/research/reports/1995/1807.ps.Zから2009年10月取得可能)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−56608号公報
【特許文献2】特開2007−310873号公報
【特許文献2】特開2010−33615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本技術の目的は、一側面として、数式処理で処理するモデルの誤差を可視化するための技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本方法は、(A)入力パラメータと出力評価指標との関係を表す複数のモデル式のデータを格納する第1のデータ格納部に格納されている複数のモデル式のデータと、複数のモデル式の各々について当該モデル式から算出される出力評価指標の算出値に対する残差の範囲のデータを格納する第2のデータ格納部に格納されている上記残差の範囲のデータとから、複数のモデル式と入力パラメータの範囲とにより上記残差の範囲で実行可能となり得る領域を算出するための第1の問題と、複数のモデル式と入力パラメータの範囲とにより上記残差の範囲で常に実行可能となる領域を算出するための第2の問題とのうち少なくともいずれかを生成するステップと、(B)限定子除去法で実行可能領域を算出する処理部に、生成された問題に対する実行可能領域を算出させ、当該実行可能領域のデータを取得する取得ステップと、(C)取得した実行可能領域のデータの可視化データを生成し、出力する出力ステップとを含む。
【発明の効果】
【0012】
数式処理で処理するモデルの誤差を可視化することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、数値計算による処理結果の例を示す図である。
【図2】図2は、近似式の一例を示す図である。
【図3】図3は、数式処理の一例を示す図である。
【図4】図4は、可視化処理装置の機能ブロック図である。
【図5】図5は、第1データ格納部に格納されるデータの一例を示す図である。
【図6】図6は、第4データ格納部に格納されるデータの一例を示す図である。
【図7】図7は、可視化処理装置の処理フローを示す図である。
【図8】図8は、出力評価指標値セットの一例を示す図である。
【図9】図9は、第2データ格納部に格納されるデータの一例を示す図である。
【図10A】図10Aは、入力パラメータと出力評価指標1との関係を表す模式図である。
【図10B】図10Bは、入力パラメータと出力評価指標2との関係を表す模式図である。
【図11】図11は、残差の範囲を説明するための図である。
【図12】図12は、可視化処理装置の処理フローを示す図である。
【図13】図13は、可視化データの一例を示す図である。
【図14】図14は、可視化データの活用について説明するための図である。
【図15】図15は、残差の範囲の調整について説明するための図である。
【図16】図16は、可視化データの具体例を示す図である。
【図17】図17は、可視化データの具体例を示す図である。
【図18】図18は、コンピュータの機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図4に、本技術の実施の形態に係る可視化処理装置の機能ブロック図を示す。可視化処理装置100は、入力部101と、第1データ格納部103と、出力評価指標値取得部105と、第2データ格納部107と、モデル式生成部109と、第3データ格納部111と、第4データ格納部113と、残差計算部115と、第5データ格納部117と、制御部119と、第6データ格納部121と、出力処理部123と、出力装置125とを有する。
【0015】
シミュレータ200は、入力パラメータの入力に対して予め定められた処理を実施して出力評価指標値を算出し、出力する。電子回路のシミュレータであれば、例えばSPICE(Simulation Program with Integrated Circuit Emphasis)シミュレータである。その他のシミュレータであっても良い。
【0016】
また、QEツール300は、QEツール300は、例えば∃x(x2+bx+c=0)という数式を、限定子(∃及び∀)を除去した等価な式b2−4c≧0に変形する処理等を実施するモジュールである。QEツール300についても既知であり、これ以上述べない。
【0017】
シミュレータ200やQEツール300は、可視化処理装置100と一体化されている場合もあれば、ネットワークに接続されている他のコンピュータにおいて実装されている場合もある。
【0018】
入力部101は、ユーザからの指示に従って入力データを第1データ格納部103、第4データ格納部113、又は第5データ格納部117に格納する。出力評価指標値取得部105は、第1データ格納部103に格納されているデータを用いて、シミュレータ200から出力評価指標値を取得して第2データ格納部107に格納する。モデル式生成部109は、第2データ格納部107に格納されているデータを用いて処理を行い、処理結果を第3データ格納部111に格納する。残差計算部115は、第3データ格納部111に格納されているデータと第4データ格納部113に格納されているデータとを用いて処理を行い、処理結果を第5データ格納部117に格納する。制御部119は、第5データ格納部117に格納されているデータと第3データ格納部111に格納されているデータとを用いて、QEツール300に処理を行わせ実行可能領域のデータを取得し、第6データ格納部121に格納する。出力処理部123は、第6データ格納部121に格納されているデータを用いて可視化データを生成し、出力装置125に出力する。出力装置125は、例えば表示装置であり、印刷装置等の場合もある。さらに、他の端末装置の場合もある。
【0019】
なお、入力部101から、第3データ格納部111に対しても直接データが入力される場合もある。また、入力部101は、各処理部にユーザからの指示を入力する場合もある。
【0020】
第1データ格納部103には、例えば、図5に示すようなデータが格納されているものとする。図5の例では、入力パラメータ1乃至nの値が複数セット格納されている。このようなデータについては、入力部101を介してユーザから入力される場合もあれば、何らかの手段によって自動的に生成される場合もある。また、他のコンピュータ等で生成されたデータが例えばファイルの形式で入力部101から第1データ格納部103に格納される場合もある。
【0021】
第4データ格納部113には、例えば、図6に示すようなデータが格納される場合がある。図6の例では、入力パラメータ1乃至nの値と、出力評価指標1乃至mの実測値とが、複数セット格納されている。出力評価指標は、例えば性能やコストである。このようなデータについては、入力部101を介してユーザから入力される場合もあれば、他のコンピュータ等で生成されたデータが例えばファイルの形式で入力部101から第4データ格納部113に格納される場合もある。さらに、以下でも述べるように第5データ格納部117に直接データを入力する場合には、第4データ格納部113にはデータが格納されない場合もある。
【0022】
次に、図7乃至図17を用いて可視化処理装置100の動作について説明する。まず、出力評価指標値取得部105は、第1データ格納部103に格納されている複数の入力パラメータセットの各々をシミュレータ200に出力して、シミュレータ200に所定のシミュレーションを実施させ、各入力パラメータセットに対応する出力評価指標値セットを取得し、第2データ格納部107に格納する(図7:ステップS1)。図5の例であれば、1行分の入力パラメータセット毎にシミュレーションをシミュレータ200に実施させ、出力評価指標1乃至mの値である出力評価指標値セット(例えば図8)を取得して、入力パラメータセットに対応付けて第2データ格納部107に格納する。第2データ格納部107には、例えば図9に示すようなデータが格納される。図9の例では、入力パラメータ1乃至nの値のセットと、出力評価指標1乃至mの値(すなわちシミュレーション結果)のセットとが、複数セット格納されている。
【0023】
なお、上ではシミュレーションによって出力評価指標値を取得する例を示したが、実験により出力評価指標値を取得するようにしても良い。このような場合には、ユーザが入力部101から第2データ格納部107にデータを格納するものとする。
【0024】
次に、モデル式生成部109は、出力評価指標毎に、最小自乗法などの手法によってモデル式を算出し、当該モデル式のデータを、第3データ格納部111に格納する(ステップS3)。模式的には、図10Aに示すように、入力パラメータと出力評価指標1とで張られる空間において、入力パラメータと出力評価指標1との対応関係を表す菱形の点をプロットして、それらの点の近似曲線pを算出する。同様に、図10Bに示すように、入力パラメータと出力評価指標2とで張られる空間において、入力パラメータと出力評価指標2との対応関係を表す菱形の点をプロットして、それらの点の近似曲線qを算出する。以下の説明のため、入力パラメータがx及びyで出力評価指標1がfであるとして、f=F(x,y)と表されるモデル式が得られたものとする。同様に、入力パラメータxがx及びyで出力評価指標2がgであるとして、g=G(x,y)と表されるモデル式が得られたものとする。
【0025】
次に、残差計算部115は、第4データ格納部113に格納されているデータ又はユーザからの指示に基づいて、実測値を使用するか判断する(ステップS5)。実測値を使用する場合には、残差計算部115は、出力評価指標毎に、実測値とモデル式による算出値(予測値とも呼ぶ)との残差を複数算出することで残差の範囲を特定し、第5データ格納部117に格納する(ステップS7)。具体的には、図6に示されるようなデータが第4データ格納部113に格納されている場合には、入力パラメータの値を、第3データ格納部111に格納されているモデル式に代入してモデル式による値を算出する。そして、算出値と、代入した入力パラメータの値に対応する出力評価指標の実測値との残差を算出する。図6にも示しているように複数のデータセットを用意しておき、同様の計算を行えば、残差の範囲が特定される。このような処理を出力評価指標毎に実施する。そして、ステップS9に移行する。
【0026】
残差の範囲について図11に模式的に示す。図11では、横軸はモデル式による算出値を表し、縦軸は実測値を表し、菱形の点は、算出値と実測値との対応関係を表す。この図では、45°の点線は算出値と実測値とが一致するラインであり、残差は0となる。この45°ラインから上方向に離れたところにプロットされる点については正の残差を有し、その最大値r1を特定する。また、45°ラインから下方向に離れたところにプロットされる点については負の残差を有し、その最大値r2を特定する。そうすると、残差δの範囲は、−r2≦δ≦r1となる。図10A及び図10Bで示したような例の場合には、出力評価指標fについて−d2≦δf≦d1を算出し、出力評価指標gについて、−e2≦δg≦e1を算出する。
【0027】
なお、このような残差を考慮したモデル式を以下のように表すものとする。
r=F(x,y)+δf
r=G(x,y)+δg
【0028】
一方、実測値を使用しないことになっている場合には、既に入力部101により第5データ格納部117に残差の範囲のデータが格納されているので、残差の範囲の計算を行わずにステップS9に移行する。
【0029】
そして、制御部119は、第3データ格納部111に格納されているモデル式のデータと第5データ格納部117に格納されている残差の範囲のデータとから、(1)残差考慮なしの場合のQE問題、(2)残差の影響下で常に実行可能となる領域を算出するためのQE問題、(3)残差の影響下で実行可能となり得る領域を算出するためのQE問題を生成し、例えばメインメモリなどの記憶装置に格納する(ステップS9)。
【0030】
具体的には以下のような式を生成する。
(1)の問題
∃x∃y[f−F(x,y)=0∧g−G(x,y)=0∧ψ(x,y)]
すなわち、入力パラメータx及びyについては存在を表す∃を付した上で、各出力評価指標のモデル式と入力パラメータの範囲ψ(x,y)とを∧で連結した条件を表している。なお、ψ(x,y)は例えば入力部101により制御部119に設定されているものを用いる。予め記憶装置に格納されているものを用いるようにしても良い。例えば、入力パラメータの範囲ψ(x,y)は、0≦x≦2∧0≦y≦2といったものである。
(2)の問題
∃x∃y∀δf∀δg[(−d2≦δf≦d1∧−e2≦δg≦e1)=>fr−F(x,y)−δf=0∧gr−G(x,y)−δg=0∧ψ(x,y)]
すなわち、入力パラメータx及びyについては∃を付し、残差δf及びδgについては全てを表す∀を付した上で、残差の範囲を∧で連結した式ならば、各出力評価指標のモデル式と入力パラメータの範囲ψ(x,y)とを∧で連結した式が成立するという条件を示している。
(3)の問題
∃x∃y∃δf∃δg[fr−F(x,y)−δf=0∧gr−G(x,y)−δg=0∧ψ(x,y)∧−d2≦δf≦d1∧−e2≦δg≦e1
すなわち、入力パラメータx及びy並びに残差δf及びδgに∃を付した上で、各出力評価指標の残差を考慮したモデル式と入力パラメータの範囲ψ(x,y)と残差の範囲を∧で連結した条件を表している。
【0031】
このような形でQE問題を生成する。ここでは、(1)の解をΦ(f,g)と表し、(2)の解をΨa(f,g)と表し、(3)の解をΨp(f,g)と表すものとする。
【0032】
処理は端子Aを介して図12の処理の説明に移行して、制御部119は、生成した各QE問題をQEツール300に出力して限定子除去法に基づく処理を実施させ、QEツール300から解を取得し、第6データ格納部121に格納する(ステップS11)。上で述べたように、(1)の解Φ(f,g)、(2)の解Ψa(f,g)、(3)の解Ψp(f,g)を取得する。
【0033】
その後、出力処理部123は、第6データ格納部121に格納されている解の可視化データを生成し、出力装置125に出力する(ステップS13)。本実施の形態では、(1)の解Φ(f,g)、(2)の解Ψa(f,g)、(3)の解Ψp(f,g)を重畳した形で表示するための可視化データを生成する。
【0034】
例えば、図13に示すようなデータが出力装置125に出力される。図13の例では、横軸は出力評価指標gを表し、縦軸は出力評価指標fを表す。このように、一般的には、(3)の解Ψp(f,g)の範囲が最も広く、次に(1)の解Φ(f,g)が広く、最も狭いのが(2)の解Ψa(f,g)となる。但し、どのような形で重複しているのかは、残差の範囲によって変化するので、ユーザは、残差の影響、ひいてはモデル化誤差の影響を把握することができるようになる。
【0035】
例えば、図13のような結果が出た場合、図14に示すように、例えばモデル化誤差にロバストな設計を採用するため残差を考慮しても点Bあたりの点を採用するという判断を行うようにしても良い。また、残差を考慮しても実行可能な点Aあたりの点を仮に採用して、他の検証方法で検証して何らかの問題が発生していることが確認できれば、モデル化誤差以外の問題が存在していると推定できる。さらに、数値計算による最適化が行われた結果点Cあたりの点が得られた場合、実際にはここまでの性能は期待できない可能性があるということが分かる。
【0036】
図12の処理に戻って、入力部101は、ユーザから残差の範囲の調整が指示されたか判断する(ステップS15)。残差の範囲の調整を行わない場合には、処理を終了する。一方、残差の範囲の調整を行う場合には、入力部101は、ユーザから、残差の範囲の入力を受け付け、第5データ格納部117に格納する(ステップS17)。そして、端子Bを介してステップS9に戻る。
【0037】
このようにすれば、例えば図15に示すような可視化データが次に出力されるようになる。ここでは、例えば残差の範囲を変化させると、残差の影響下で常に実行可能となる領域が狭くなり、残差の影響下で実行可能となり得る領域については広がる場合を示している。このように、残差の範囲を調整することで、(3)の領域及び(2)の領域が変化するので、定量的に残差の影響を把握することができるようになる。
【0038】
さらに、性能達成に向けて、段階的に、モデル化と最適化の精度を上げていく設計手法を実現できる。例えば、低次数のモデルで本手法を適用し、目的空間(例えば図13)で所望の性能を満たす領域を絞り込み、その目的空間の領域に対応するパラメータ空間の領域に絞ってデータを取りモデル化の精度を上げて、本手法を適用していく。これにより、階層的アプローチで各段階の計算時間も低減しつつ精度及び性能を上げてゆくことができるようになる。
【0039】
さらに、モデル式を複数生成して、それらについても上で述べたような処理を実施して実行可能領域を重畳的に可視化することで、さらにモデル化誤差について把握することができるようになる。なお、上では理解しやすいように出力評価指標が2つの例を示したが、3つの出力評価指標について実行可能領域を表示するようにしても良い。
【0040】
さらに、重畳して表示するのではなく、個別に実行可能領域を表示するようにしても良い。例えば、ユーザの指示に応じて、いずれか1つを表示したり、任意の2以上の領域の組み合わせを表示するようにしても良い。
【0041】
次に、図16及び図17を用いて具体例について示しておく。ここでは、以下のようなモデル式が得られたものとする。
f=F(x,y)=x2+y2
g=G(x,y)=x2+y2−2x+1
【0042】
入力パラメータx及びyの範囲は以下のとおりである。
0≦x≦2∧0≦y≦2
【0043】
そして、残差の範囲は以下のとおりである。
−1/10≦δf≦1/10
−1/10≦δg≦1/10
【0044】
そうすると、以下のようなQE問題が得られる。
(1)の場合
∃x∃y[f−F(x,y)=0∧g−G(x,y)=0∧0≦x≦2∧0≦y≦2]
(2)の場合
*∃x∃y∀δf∀δg[(−1/10≦δf≦1/10∧−1/10≦δg≦1/10)=>fr−F(x,y)−δf=0∧gr−G(x,y)−δg=0∧0≦x≦2∧0≦y≦2]
(3)の場合
∃x∃y∃δf∃δg[fr−F(x,y)−δf=0∧gr−G(x,y)−δg=0∧0≦x≦2∧0≦y≦2∧−1/10≦δf≦1/10∧−1/10≦δg≦1/10]
【0045】
そうすると、(1)の解Φ(f,g)、(2)の解Ψa(f,g)、(3)の解Ψp(f,g)は以下のとおりになる。
【0046】
(1)の解Φ(f,g)
【数1】

【0047】
(2)の解Ψa(f,g)
【数2】

【0048】
(3)の解Ψp(f,g)
【数3】

【0049】
このような解を可視化すると、全体は図16に示すようになる。図16の例では、横軸が出力評価指標fを表しており、縦軸が出力評価指標gを表している。斜めに細長い領域のうち、上部及び下部に(1)乃至(3)での差異が現れている。すなわち、最も広い領域が(3)の領域であり、最も狭い領域が(2)の領域であり、(1)の領域が中間の範囲を有している。このグラフにおいて、0≦f≦2且つ0≦g≦2の範囲を拡大すると、図17のような可視化結果が得られる。原点に近い部分における領域の形状の差異を容易に把握できるようになる。
【0050】
以上本技術の実施の形態を説明したが、本技術はこれに限定されるものではない。例えば、図4に示した機能ブロック図は一例であって、必ずしも実際のプログラムモジュール構成と一致するわけではない。また、データの保持態様についても一例に過ぎない。
【0051】
さらに、処理フローについても、処理結果が変わらない限りにおいて処理順番を入れ替えたり、並列実行できる場合もある。また、実測値に基づく残差の範囲を最初ではなく後から反映させた結果を表示させるようにしても良い。
【0052】
また、スタンドアロン型コンピュータで可視化処理装置を実施する例を示したが、コンピュータネットワークに接続させて、当該コンピュータネットワークに接続されている複数のコンピュータと連携して上記の処理を実施するようにしても良い。
【0053】
なお、上で述べた数式処理装置は、コンピュータ装置であって、図18に示すように、メモリ2501とCPU2503とハードディスク・ドライブ(HDD)2505と表示装置2509に接続される表示制御部2507とリムーバブル・ディスク2511用のドライブ装置2513と入力装置2515とネットワークに接続するための通信制御部2517とがバス2519で接続されている。オペレーティング・システム(OS:Operating System)及び本実施例における処理を実施するためのアプリケーション・プログラムは、HDD2505に格納されており、CPU2503により実行される際にはHDD2505からメモリ2501に読み出される。必要に応じてCPU2503は、表示制御部2507、通信制御部2517、ドライブ装置2513を制御して、必要な動作を行わせる。また、処理途中のデータについては、メモリ2501に格納され、必要があればHDD2505に格納される。本技術の実施例では、上で述べた処理を実施するためのアプリケーション・プログラムはコンピュータ読み取り可能なリムーバブル・ディスク2511に格納されて頒布され、ドライブ装置2513からHDD2505にインストールされる。インターネットなどのネットワーク及び通信制御部2517を経由して、HDD2505にインストールされる場合もある。このようなコンピュータ装置は、上で述べたCPU2503、メモリ2501などのハードウエアとOS及び必要なアプリケーション・プログラムとが有機的に協働することにより、上で述べたような各種機能を実現する。
【0054】
以上述べた本実施の形態をまとめると、以下のようになる。
【0055】
本実施の形態における可視化処理方法は、(A)入力パラメータと出力評価指標との関係を表す複数のモデル式のデータを格納する第1のデータ格納部に格納されている複数のモデル式のデータと、複数のモデル式の各々について当該モデル式から算出される出力評価指標の算出値に対する残差の範囲のデータを格納する第2のデータ格納部に格納されている上記残差の範囲のデータとから、複数のモデル式と入力パラメータの範囲とにより上記残差の範囲で実行可能となり得る領域を算出するための第1の問題と、複数のモデル式と入力パラメータの範囲とにより上記残差の範囲で常に実行可能となる領域を算出するための第2の問題とのうち少なくともいずれかを生成するステップと、(B)限定子除去法で実行可能領域を算出する処理部に、生成された問題に対する実行可能領域を算出させ、当該実行可能領域のデータを取得する取得ステップと、(C)取得した実行可能領域のデータの可視化データを生成し、出力する出力ステップとを含む。
【0056】
このような処理を実施することで、残差に表れるモデル化誤差を、実行可能領域によって把握できるようになる。なお、2以上の領域を同時に表示するようにしても良いし、別々に表示するようにしても良い。
【0057】
また、上記可視化処理方法は、(D)第1のデータ格納部に格納されている複数のモデル式のデータから、複数のモデル式と入力パラメータの範囲とにより実行可能となる領域を算出するための第3の問題を生成するステップと、(E)処理部に、第3の問題に対する実行可能領域を算出させ、当該実行可能領域のデータを取得するステップとをさらに含むようにしても良い。この場合、上で述べた出力ステップが、取得した実行可能領域のデータから当該実行可能領域を重畳させて表示するための可視化データを生成するステップを含むようにしても良い。これによってよりモデル化誤差を把握しやすくなる。
【0058】
また、上記可視化処理方法は、(F)入力パラメータの特定の値に対する、出力評価指標の実測値を格納する第3のデータ格納部に格納されている入力パラメータの特定の値を上記モデル式に入力して、出力評価指標の算出値を算出するステップと、(G)第3のデータ格納部に格納されている出力評価指標の実測値と出力評価指標の算出値との残差を算出して、当該残差の範囲を特定し、第2のデータに格納するステップとを含むようにしても良い。このように、実測値ベースで残差の範囲を把握しても良い。このようにすれば実際の装置等とモデルとの誤差を把握できるようになる。
【0059】
さらに、上記可視化処理方法は、(H)残差の範囲のデータの入力をユーザから受け付け、第2のデータ格納部に格納するステップをさらに含むようにしても良い。このように、モデル式に想定される誤差を、残差の範囲という形で、指定することで、問題を可視化することができるようになる。
【0060】
なお、上で述べたような処理をコンピュータに実施させるためのプログラムを作成することができ、当該プログラムは、例えばフレキシブル・ディスク、CD−ROM、光磁気ディスク、半導体メモリ(例えばROM)、ハードディスク等のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体又は記憶装置に格納される。なお、処理途中のデータについては、RAM等の記憶装置に一時保管される。
【0061】
以上の実施例を含む実施形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0062】
(付記1)
入力パラメータと出力評価指標との関係を表す複数のモデル式のデータを格納する第1のデータ格納部に格納されている前記複数のモデル式のデータと、前記複数のモデル式の各々について当該モデル式から算出される前記出力評価指標の算出値に対する残差の範囲のデータを格納する第2のデータ格納部に格納されている前記残差の範囲のデータとから、前記複数のモデル式と前記入力パラメータの範囲とにより前記残差の範囲で実行可能となり得る領域を算出するための第1の問題と、前記複数のモデル式と前記入力パラメータの範囲とにより前記残差の範囲で常に実行可能となる領域を算出するための第2の問題とのうち少なくともいずれかを生成するステップと、
限定子除去法で実行可能領域を算出する処理部に、生成された問題に対する実行可能領域を算出させ、当該実行可能領域のデータを取得する取得ステップと、
取得した前記実行可能領域のデータの可視化データを生成し、出力する出力ステップと、
を、コンピュータに実行させるための可視化プログラム。
【0063】
(付記2)
前記第1のデータ格納部に格納されている前記複数のモデル式のデータから、前記複数のモデル式と前記入力パラメータの範囲とにより実行可能となる領域を算出するための第3の問題を生成するステップと、
前記処理部に、前記第3の問題に対する実行可能領域を算出させ、当該実行可能領域のデータを取得するステップと、
をさらに前記コンピュータに実行させ、
前記出力ステップが、
取得した前記実行可能領域のデータから当該実行可能領域を重畳させて表示するための可視化データを生成するステップ
を含む付記1記載の可視化プログラム。
【0064】
(付記3)
前記入力パラメータの特定の値に対する、前記出力評価指標の実測値を格納する第3のデータ格納部に格納されている前記入力パラメータの特定の値を前記モデル式に入力して、前記出力評価指標の算出値を算出するステップと、
前記第3のデータ格納部に格納されている前記出力評価指標の実測値と前記出力評価指標の算出値との残差を算出して、当該残差の範囲を特定し、前記第2のデータに格納するステップ
を前記コンピュータに実行させるための付記1又は2記載の可視化プログラム。
【0065】
(付記4)
前記残差の範囲のデータの入力をユーザから受け付け、前記第2のデータ格納部に格納するステップ
を前記コンピュータに実行させるための付記1乃至3のいずれか1つ記載の可視化プログラム。
【0066】
(付記5)
入力パラメータと出力評価指標との関係を表す複数のモデル式のデータを格納する第1のデータ格納部に格納されている前記複数のモデル式のデータと、前記複数のモデル式の各々について当該モデル式から算出される前記出力評価指標の算出値に対する残差の範囲のデータを格納する第2のデータ格納部に格納されている前記残差の範囲のデータとから、前記複数のモデル式と前記入力パラメータの範囲とにより前記残差の範囲で実行可能となり得る領域を算出するための第1の問題と、前記複数のモデル式と前記入力パラメータの範囲とにより前記残差の範囲で常に実行可能となる領域を算出するための第2の問題とのうち少なくともいずれかを生成するステップと、
限定子除去法で実行可能領域を算出する処理部に、生成された問題に対する実行可能領域を算出させ、当該実行可能領域のデータを取得する取得ステップと、
取得した前記実行可能領域のデータの可視化データを生成し、出力する出力ステップと、
を含み、コンピュータにより実行される可視化プログラム。
【0067】
(付記6)
入力パラメータと出力評価指標との関係を表す複数のモデル式のデータを格納する第1のデータ格納部に格納されている前記複数のモデル式のデータと、前記複数のモデル式の各々について当該モデル式から算出される前記出力評価指標の算出値に対する残差の範囲のデータを格納する第2のデータ格納部に格納されている前記残差の範囲のデータとから、前記複数のモデル式と前記入力パラメータの範囲とにより前記残差の範囲で実行可能となり得る領域を算出するための第1の問題と、前記複数のモデル式と前記入力パラメータの範囲とにより前記残差の範囲で常に実行可能となる領域を算出するための第2の問題とのうち少なくともいずれかを生成し、限定子除去法で実行可能領域を算出する処理部に、生成された問題に対する実行可能領域を算出させ、当該実行可能領域のデータを取得する制御部と、
取得した前記実行可能領域のデータの可視化データを生成し、出力する出力処理部と、
を有する可視化処理装置。
【符号の説明】
【0068】
101 入力部
103 第1データ格納部
105 出力評価指標値取得部
107 第2データ格納部
109 モデル式生成部
111 第3データ格納部
113 第4データ格納部
115 残差計算部
117 第5データ格納部
119 制御部
121 第6データ格納部
123 出力処理部
125 出力装置
200 シミュレータ
300 QEツール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力パラメータと出力評価指標との関係を表す複数のモデル式のデータを格納する第1のデータ格納部に格納されている前記複数のモデル式のデータと、前記複数のモデル式の各々について当該モデル式から算出される前記出力評価指標の算出値に対する残差の範囲のデータを格納する第2のデータ格納部に格納されている前記残差の範囲のデータとから、前記複数のモデル式と前記入力パラメータの範囲とにより前記残差の範囲で実行可能となり得る領域を算出するための第1の問題と、前記複数のモデル式と前記入力パラメータの範囲とにより前記残差の範囲で常に実行可能となる領域を算出するための第2の問題とのうち少なくともいずれかを生成するステップと、
限定子除去法で実行可能領域を算出する処理部に、生成された問題に対する実行可能領域を算出させ、当該実行可能領域のデータを取得する取得ステップと、
取得した前記実行可能領域のデータの可視化データを生成し、出力する出力ステップと、
を、コンピュータに実行させるための可視化プログラム。
【請求項2】
前記第1のデータ格納部に格納されている前記複数のモデル式のデータから、前記複数のモデル式と前記入力パラメータの範囲とにより実行可能となる領域を算出するための第3の問題を生成するステップと、
前記処理部に、前記第3の問題に対する実行可能領域を算出させ、当該実行可能領域のデータを取得するステップと、
をさらに前記コンピュータに実行させ、
前記出力ステップが、
取得した前記実行可能領域のデータから当該実行可能領域を重畳させて表示するための可視化データを生成するステップ
を含む請求項1記載の可視化プログラム。
【請求項3】
前記入力パラメータの特定の値に対する、前記出力評価指標の実測値を格納する第3のデータ格納部に格納されている前記入力パラメータの特定の値を前記モデル式に入力して、前記出力評価指標の算出値を算出するステップと、
前記第3のデータ格納部に格納されている前記出力評価指標の実測値と前記出力評価指標の算出値との残差を算出して、当該残差の範囲を特定し、前記第2のデータに格納するステップ
を前記コンピュータに実行させるための請求項1又は2記載の可視化プログラム。
【請求項4】
前記残差の範囲のデータの入力をユーザから受け付け、前記第2のデータ格納部に格納するステップ
を前記コンピュータに実行させるための請求項1乃至3のいずれか1つ記載の可視化プログラム。
【請求項5】
入力パラメータと出力評価指標との関係を表す複数のモデル式のデータを格納する第1のデータ格納部に格納されている前記複数のモデル式のデータと、前記複数のモデル式の各々について当該モデル式から算出される前記出力評価指標の算出値に対する残差の範囲のデータを格納する第2のデータ格納部に格納されている前記残差の範囲のデータとから、前記複数のモデル式と前記入力パラメータの範囲とにより前記残差の範囲で実行可能となり得る領域を算出するための第1の問題と、前記複数のモデル式と前記入力パラメータの範囲とにより前記残差の範囲で常に実行可能となる領域を算出するための第2の問題とのうち少なくともいずれかを生成するステップと、
限定子除去法で実行可能領域を算出する処理部に、生成された問題に対する実行可能領域を算出させ、当該実行可能領域のデータを取得する取得ステップと、
取得した前記実行可能領域のデータの可視化データを生成し、出力する出力ステップと、
を含み、コンピュータにより実行される可視化プログラム。
【請求項6】
入力パラメータと出力評価指標との関係を表す複数のモデル式のデータを格納する第1のデータ格納部に格納されている前記複数のモデル式のデータと、前記複数のモデル式の各々について当該モデル式から算出される前記出力評価指標の算出値に対する残差の範囲のデータを格納する第2のデータ格納部に格納されている前記残差の範囲のデータとから、前記複数のモデル式と前記入力パラメータの範囲とにより前記残差の範囲で実行可能となり得る領域を算出するための第1の問題と、前記複数のモデル式と前記入力パラメータの範囲とにより前記残差の範囲で常に実行可能となる領域を算出するための第2の問題とのうち少なくともいずれかを生成し、限定子除去法で実行可能領域を算出する処理部に、生成された問題に対する実行可能領域を算出させ、当該実行可能領域のデータを取得する制御部と、
取得した前記実行可能領域のデータの可視化データを生成し、出力する出力処理部と、
を有する可視化処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−198637(P2012−198637A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61103(P2011−61103)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】