説明

害獣威嚇方法と害獣威嚇システム

【課題】本願発明の課題は、「害獣の慣れ」の問題を解消するとともに、近隣に対して騒音を生じることなく、昼夜にわたって保護範囲内に侵入する害獣を正確に認識することのできる害獣威嚇方法と害獣威嚇システムを提供することにある。
【解決手段】本願発明の害獣威嚇方法は、画像取得手段と、この近傍に超指向性スピーカを設置し、画像取得手段が移動体を含む画像を取得することで害獣の侵入を判断するとともに、画像内の移動体位置に基づいて害獣の方向を算出し、害獣の方向に音をピンポイントで放射することで、保護範囲内に侵入した害獣に対して威嚇する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、圃場、庭園、駐車場、公園など保護する範囲(以下、「保護範囲」という。)へ侵入してくるイノシシ、猿、鹿、カラス等(これらの鳥獣を含めて以下、「害獣」という。)に対して威嚇する害獣威嚇方法及び害獣威嚇システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、鳥獣が生息する森林など自然環境の変化に伴って、これら鳥獣が山から下りて田や畑にエサを求めるようになった。農林水産省によると農作物の被害は200億円にのぼるとされているが、イノシシなど体の大きな獣が畑に入ると農作物の被害にとどまらず周辺施設や畑そのものが破壊され、農家は経済的被害に加え精神的被害を被っているのが現状である。
【0003】
従来から、害獣から田や畑などの圃場を守るために、案山子をはじめとする威嚇物を設置したり、圃場周囲に柵を設置したり、定期的あるいは連続的に威嚇音を発する装置を設置するなど、種々工夫を凝らしていた。
【0004】
しかしながら、案山子などの威嚇物は、常時設置していることから害獣が慣れてしまいその効果が長続きしないという問題を抱え、また圃場周囲に柵を設置する場合は、その設置や維持の手間から相当の費用が掛かるという問題を抱えていた。さらに、威嚇音を発する装置に至っては、「害獣の慣れ」の問題に加え、近隣への騒音という問題を抱えていた。
【0005】
そこで特許文献1では、光センサによって鳥獣等の侵入を検知することとし、検知したタイミングでフラッシャーにより光を発するとともに、音声を発生させるという鳥獣等の排除方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−187048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の場合、保護範囲内に害獣が侵入したときにだけ威嚇音を発生するものであるから、「害獣の慣れ」については効果が期待できるものの、その威嚇音は害獣に対してのみならず近隣に対しても発せられるので近隣に対する騒音問題は解消されない。
【0008】
本願発明の課題は、「害獣の慣れ」の問題を解消するとともに、近隣に対して騒音を生じることなく、昼夜にわたって保護範囲内に侵入する害獣を正確に認識することのできる害獣威嚇方法と害獣威嚇システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明の害獣威嚇方法は、保護範囲内に侵入する害獣に対して威嚇する害獣威嚇方法において、前記保護範囲内の画像を取得可能な画像取得手段と、保護範囲内の所望位置に対して音を放射し得る超指向性スピーカと、を設置し、前記画像取得手段が前記保護範囲内に侵入した移動体を含む画像を取得することで害獣の侵入を判断するとともに、取得した画像内にある移動体の位置に基づいて害獣の方向を算出し、前記超指向性スピーカが前記算出された害獣の方向に音を放射することで、保護範囲内に侵入した害獣に対して威嚇する方法である。この場合、照明手段と保護範囲内に移動する害獣を検知し得るセンサとを備え、夜間、前記センサが害獣を検知すると、前記照明手段が前記保護範囲内を照らして画像取得手段による画像取得を可能とする方法とすることもできる。
【0010】
本願発明の害獣威嚇システムは、保護範囲内に侵入する害獣に対して威嚇する害獣威嚇システムにおいて、前記保護範囲内の画像を取得可能な画像取得手段と、保護範囲内の所望位置に対して音を放射し得る超指向性スピーカと、この超指向性スピーカの放射方向を変更可能な移動手段と、害獣の侵入を判断するとともに前記移動手段を制御し得る制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記画像取得手段が前記保護範囲内に侵入した移動体を含む画像を取得すると害獣の侵入を判断し、取得した画像内にある移動体の位置に基づいて害獣の方向を算出し、前記超指向性スピーカがこの害獣方向に向くように前記移動手段を制御しながら、超指向性スピーカに音を放射させるものである。この場合、照明手段と保護範囲内に移動する害獣を検知し得るセンサとを備え、夜間、前記センサが害獣を検知すると、前記照明手段が前記保護範囲内を照らして画像取得手段による画像取得が可能なものとすることもできる。
【発明の効果】
【0011】
本願発明の害獣威嚇方法には次のような効果がある。
(1)害獣は威嚇音によって威嚇され、保護範囲内に侵入したとしても被害を与える前に追い出すことができるので、保護範囲内の農作物等が保護される。
(2)威嚇音は、害獣の侵入時のみ発せられるので害獣がこの音に慣れることがない。
(3)超指向性スピーカからの威嚇音は、害獣の耳元にのみに届く(耳元効果)ものであり、近隣に対してはこの威嚇音が漏れることがないので、騒音問題の心配がなく、またこの点でも「害獣の慣れ」が解消される。
(4)照明を用いることによって、夜間でも確実に害獣を認識し威嚇することができる。
(5)監視する者、あるいは管理する者を常時配置する必要がないので、人件費をかけることなく運用できる。
【0012】
本願発明の害獣威嚇システムには、上記効果に加え次のような効果がある。
(1)画像取得手段、超指向性スピーカ、照明手段などは市販されているものを使用できるので、容易かつ低いコストで製作できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態1における害獣威嚇方法と害獣威嚇システムの概要を示す全体図。
【図2】実施形態1及び実施形態2における害獣威嚇方法と害獣威嚇システムの全体の流れを示すフロー図。
【図3】実施形態2における害獣威嚇方法と害獣威嚇システムの夜間モードの流れであって、図2とは異なる他の例を示すフロー図。
【図4】実施形態2における害獣威嚇方法と害獣威嚇システムの夜間モードの流れであって、図2や図3とは異なる他の例を示すフロー図。
【図5】実施形態3における害獣威嚇方法と害獣威嚇システムの概要を示す全体図。
【図6】実施形態3における害獣威嚇方法と害獣威嚇システムの全体の流れを示すフロー図。
【図7】カメラを2台配置した場合における害獣威嚇方法と害獣威嚇システムの概要を示す全体図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施形態1)
本願発明の害獣威嚇方法と害獣威嚇システムにおける第1の実施形態を、図1に基づいて説明する。図1は、本願発明の害獣威嚇方法と害獣威嚇システムの概要を示す全体図である。この図に示すように本願発明の害獣威嚇方法と害獣威嚇システムは、圃場などの保護範囲1に侵入する害獣2をカメラ3で認識するとともに害獣2が居る方向を算出し、超指向性スピーカ4をこの害獣2に向け、忌避音を放射することで威嚇するものである。この忌避音とは、害獣2が驚いたり、怯えたり、嫌悪するような音のことであり、周波数や音量などを組み合わせ予め種々の忌避音を作成することもできる。
【0015】
画像を取得する画像取得手段であるカメラ3は、イメージセンサを内蔵したデジタルカメラであり、例えば市販されている監視カメラなどが利用できるし、もちろんイメージセンサを用いた専用のカメラ3を製造してもよい。またこのカメラ3は、保護範囲1の範囲全体を捉えることができるように設置されている。図では、支柱5の所定高さにカメラ3が配置されているが、家屋やその他の構造物にカメラ3を設置することもできるし、専用の設置台の上にカメラ3を配置することもできる。要は、保護範囲1の範囲全体を捉えることができるようにカメラ3は設置される。なお後に述べるように、カメラ3は保護範囲1の範囲を平面的に把握する捉える必要があるので、ある程度高い位置(地上から数mの高さ)に設置される。
【0016】
害獣2に向けて忌避音を放射する超指向性スピーカ4は、単に指向性スピーカあるいはパラメトリックスピーカとも呼ばれ、超音波が空気伝搬中に生ずる非線形干渉を利用したスピーカであり、特定の範囲にのみ音を届ける指向性に優れるという特性をもったものである。昨今では、展示物の説明(鑑賞している者だけに聴こえる)や、建物内や交差点における案内、など様々な分野で注目されている。超指向性スピーカ4から発せられる音を人が聴くと、あたかもその人の耳元で音が生じているような感覚、あるいは頭の中に直接音が届くような感覚を持つといわれている。もちろん、超指向性スピーカ4の可聴範囲はある程度広がりを有しており、一般的には10〜20度程度の広がりを持つといわれている。本願発明のように害獣を威嚇するために超指向性スピーカ4を利用すると、その特性から害獣2は突然に耳元で忌避音を感じる感覚を持ち、驚きや怯えとともに逃走する。その上、超指向性スピーカ4は近隣に対する騒音とはならないし、忌避音の音量や周波数を調整することで害獣の驚きや怯えを増大させることも可能となる。なお、超指向性スピーカ4は市販されており、本願発明でも市販の超指向性スピーカ4を用いることができる。
【0017】
図1では、超指向性スピーカ4は、カメラ3の近傍となるように支柱5に設置されている。前記のとおりカメラ3は支柱5に限らず家屋やその他の構造物等に設置されることもあるので、これにともない超指向性スピーカ4もカメラ3の近傍である家屋やその他構造物等に設置されることがある。図1のように超指向性スピーカ4をカメラ3の近傍とすると、カメラ3と超指向性スピーカ4の配線処理が容易となって好適であるが、もちろんカメラ3から離れた位置に超指向性スピーカ4を設置しても構わない。すなわち、カメラ3用の支柱5とは別に、支柱5を立設してこれに超指向性スピーカ4を設置することができる。
【0018】
超指向性スピーカ4は、保護範囲1内の任意箇所にめがけて忌避音を放射できるように、移動体6の上に載せられている。すなわち移動体6は、支柱5のうちカメラ3の近傍に取り付けられており、超指向性スピーカ4はこの移動体6の載置面に載せられて固定される。また移動体6は、超指向性スピーカ4の音放射方向を自在とするため、つまり超指向性スピーカ4の姿勢(水平向きと鉛直向き)を自在とするため、超指向性スピーカ4を載せる載置面が水平面に対して回転自在であって鉛直面に対しても回転自在となっている。この移動体6の載置面の回転動作は、後に説明する制御手段7の指令によって行われるもので、自動的に動作し得る(遠隔操作でパン、チルト制御可能な)自動雲台などを用いることができる。
【0019】
1台のカメラ3で保護範囲1の範囲全体を捉えることができる場合、図1のようにカメラ3と超指向性スピーカ4の組み合わせを1セットだけ設置すれば十分であるが、保護範囲1が広い場合、あるいは視野範囲が狭いカメラ3を用いる場合には、2台以上の必要台数のカメラ3で保護範囲1の範囲全体をカバーするものとし、超指向性スピーカ4も状況に応じて2台以上の必要台数を設置することができる。
【0020】
以下、図2に示すフロー図に基づいて、害獣を威嚇するまでの全体の流れについて説明する。
【0021】
図2に示すS0は、移動体6を所定方向(例えば保護範囲1の中央を睨む方向)に設定したり、制御手段7の状態を初期状態としたり、害獣威嚇システム開始前の必要な設定を種々行うステップである。またS1は、害獣威嚇システムを昼間に使用する場合の「昼間モード」と、害獣威嚇システムを夜間に使用する場合の「夜間モード」のいずれかを選択するステップであり、本実施形態では「昼間モード」が選択された場合で説明する。なおモードを選択するS1は、害獣威嚇システムを昼夜ともに利用する場合に設けられるもので、害獣威嚇システムを昼間のみ使用する場合、あるいは害獣威嚇システムを夜間のみ使用する場合には、S1を設ける必要はない。
【0022】
画像取得ステップS2では、カメラ3による画像取得が行われる。カメラ3は、自動的にかつ連続して画像を取得する。その取得間隔は、毎秒数十枚〜数百枚で取得するのを目安とし、例えば毎秒30枚の間隔で画像を取得することもできるし、もちろん保護範囲1の状況に応じてその間隔を適宜設計することもできる。また、カメラ3は撮影方向が固定されているので、画像の取得範囲は常に一定である(もちろん風や振動により若干変化はある)。これら取得した画像のデータは、図示しないデータベースに格納されていく。このように連続して画像を取得しながら害獣2の侵入を待つ。
【0023】
ステップS3では、カメラ3によって取得した画像に基づいて害獣2の侵入の有無を判断する。害獣2の侵入の有無は、今回取得した「今回画像」と「不在画像」との比較によって行い、この画像比較は画像を取得する都度、制御手段7がデータベースから「今回画像」と「不在画像」のデータを読み込んで、両画像間で変化があったか否かを判断する。なお、この「不在画像」とは、保護範囲1内に害獣2が存在しない状態で取得された画像のことである。また、制御手段7としては、図1に示すパソコンなどのコンピュータを利用することができるし、あるいは専用のカメラ3を作成し、このカメラ3に制御手段7を内蔵させることもできる。
【0024】
画像変化の判断は、従来から用いられている画像技術を用いて判断することが可能で、一例として、「今回画像」データと「比較画像」データをピクセルごとに比較し、画像定量値(例えば、RGB値)が異なるピクセルを抽出することで判断することができる。なおこの場合、太陽光による明暗、風による農作物の揺れ、ごみくずの侵入といった外乱の影響を避けるため、両画像の変化判断にはある程度許容範囲(バッファ)を持たせることが望ましく、具体的には、RGB値を比較する場合であれば両画像のRGB値に所定の格差(閾値)があった場合に変化有りと判断したり、相違するピクセルの数が所定数(閾値)以上になったときに変化有りと判断したり、種々のバッファを用いて変化判断することができる。
【0025】
制御手段7は、「今回画像」と「不在画像」を比較した結果、両画像間で変化があったと判断(以下、「変化判断」という。)したときに、害獣2が保護範囲1に侵入した(以下、「害獣あり」とする。)と判断する。ただし、「今回画像」と「不在画像」を比較し、1回の変化判断をもって「害獣あり」とするのは判断の信憑性を欠くので、両画像の変化がある程度安定した状態で「害獣あり」と判断するのが望ましい。一例としては、「不在画像」に対して「今回画像」に変化があったという変化判断が所定回数(閾値)連続した場合に、あるいは変化判断があった後さらに所定頻度(閾値)で変化判断があった場合(例えば300回中270回以上など)に、「害獣あり」と判断することもできる。なお「不在画像」は、例えば、害獣2が存在しない状態で定期的(毎正時に一回、毎日の定刻に一回といった頻度)に取得してデータベースに格納しておくこともできるし、変化判断があった際にその直前の画像である「直前画像」を「不在画像」としてデータベースに格納しておくこともできる。
【0026】
前記のように、「不在画像」に対して「今回画像」に変化があったという変化判断が所定回数連続するなど変化判断が安定すると「害獣あり」と判断して次のステップ(S4)に進み、「不在画像」と「今回画像」との間に変化がなかった場合などは「害獣なし」と判断してモード選択S1に(S1を設けない場合はS2に)戻る。また、変化判断は続いているが所定回数までは連続していないなど、変化判断が安定していない状態では、害獣の在無が「不定」として画像取得ステップS2に戻る。
【0027】
S4では、害獣2が静止しているか否かの判断を行う。なお、ここでいう「静止」とは、厳密な意味での「静止」(つまり全く動かない状態)だけでなく、「若干の動きはあるが静止しているとみなせる状態」も含めた概念を指す。害獣2が静止していることを確認したうえで忌避音を放射すると、害獣2に対する威嚇効果はより向上する。ただし、害獣2の静止を待たず「害獣あり」の判断後速やかに忌避音を放射することも可能であり、すなわち状況に応じてD4は省略することも可能である。S4のステップは、「今回画像」とその直前の画像である「前回画像」との比較を行うもので、その比較方法はS3のステップと同様、制御手段7がデータベースからそれぞれ画像データを読み込んで行う。また、S4のステップでは害獣2の位置が変化したか否か、つまり害獣2が移動したか否かを判断するもので、やはりS3の画像変化ステップと同様、従来から用いられている画像技術を用いて制御手段7が判断する。
【0028】
この害獣2の静止判断でも、「今回画像」と「直前画像」を比較し、1回の変化判断をもって「害獣が静止」とするのは判断の信憑性を欠くので、変化判断が所定回数連続する(所定頻度で変化判断がある)など両画像の変化がある程度安定した状態で「害獣が静止」と判断するのが望ましい。制御手段7が「今回画像」と「直前画像」の間で変化がなかったと判断した場合には「害獣が静止」と判断して次のステップ(S5)に進み、「今回画像」と「直前画像」の間で変化があった場合には「害獣が移動」と判断してS2のステップに戻る。
【0029】
S5では、害獣2の位置を把握し、忌避音の放射方向すなわち超指向性スピーカ4の忌避音放射方向(以下、「標的方向」とう。)を計算する。この計算は制御手段7によって行われるもので、従来から用いられている画像による空間演算を採用することができる。以下にその手法の一例を示す。上方から保護範囲1の画像を平面的に取得するため、カメラ3を所定高さ(地上から2〜10m)に設置し、このカメラ3で取得された画像にあらかじめ格子状のメッシュを被せる。カメラ3の設置位置と設置姿勢(撮影方向)は固定されているので、前記のメッシュ格子点も固定されることとなり、メッシュ格子点に既知点としての平面座標(X,Y)を与えておくことができる。このような事前設定により、システム稼動中に害獣2などの移動体が画像内に収められると、前記のメッシュ格子点の平面座標に基づいて害獣2位置の平面座標(Xm,Ym)を算出することができる。この害獣2位置の平面座標に、事前に定めた所定高さZm(例えば、地上から害獣2の耳までの高さ)を座標値に加えて害獣2の位置座標(Xm,Ym,Zm)とする。さらに、既知である超指向性スピーカ4の代表点(例えば、音の放射点)座標(X0,Y0,Z0)と、害獣2の位置座標(Xm,Ym,Zm)から2点間の方向を算出して、これを超指向性スピーカ4の標的方向とすることができる。
【0030】
S6の方向制御ステップは、超指向性スピーカ4の姿勢を調節するものである。制御手段7が、S5で求めた超指向性スピーカ4の標的方向に基づいて移動手段である移動体6を操作し、これにより移動体6の載置面は所定角度(水平角と仰角)に調節され、結果的に超指向性スピーカ4は前記標的方向に向けて忌避音を放射する姿勢となる。なお、超指向性スピーカ4の放射方向が、前記で求めた標的方向を中心に上下(仰角)及び左右(水平角)に変動するように、超指向性スピーカ4の姿勢を調節することもできる。これにより、標的方向の算出に誤差が生じても確実に害獣2に対して忌避音を放出することとなって好適である。
【0031】
S7の忌避音の放射ステップは、超指向性スピーカ4の姿勢を所定方向に調節した(S6)後に、制御手段7の指令により実際に超指向性スピーカ4が忌避音を放射するものである。この忌避音データは図示しないデータベースに格納され、この忌避音データを読み込んで超指向性スピーカ4から忌避音が放射される。なお、害獣の種類によって忌避音の種類も異なることもあるので、複数種類の忌避音をデータベースに格納しておき、これら異なる種類の忌避音をサイクリックに放射することも好適である。
【0032】
S7のステップで忌避音を放射した後はモード選択S1に(S1を設けない場合はS2に)戻り、引き続き画像を取得して(S2)、害獣の在無を判断し(S3)、ここで「害獣なし」と判断されると制御手段の指令により忌避音が停止(S8)されてモード選択S1に(S1を設けない場合はS2に)戻る。
【0033】
(実施形態2)
本願発明の害獣威嚇方法と害獣威嚇システムにおける第2の実施形態を、図1に基づいて説明する。本実施形態は、夜間に害獣2を威嚇する場合を説明するものであり、その基本的構造や作用などここで記載されない内容については実施形態1と共通する。
【0034】
本願発明は、カメラ3で取得した画像により害獣2の侵入を確認し、その位置を計算することから、夜間においては照明が必要となる。そこで図1に示すように、保護範囲1内を照らすことができる照明手段8を設置する。図1では、1灯のみ照明手段8を設置しているが、保護範囲1の広さや照明手段8の照明範囲などによって、2灯以上必要数の照明手段8を設置することもできる。また、照明手段8には、蛍光灯、水銀灯、LED灯など種々の灯具を用いることも、商用電力や太陽光電力を用いることも可能である。なお、赤外線イメージセンサを利用したカメラ3を用いれば、カメラ3に掛かる費用は高騰するものの照明手段8は不要となる。そこで、保護範囲1の状況によっては赤外線イメージセンサを利用したカメラ3を採用することで照明手段8やセンサ9を省略することもできる。
【0035】
照明手段8は、昼間には必要がないので、照明の入/切(on/off)スイッチを設けることが望ましい。このon/offは、人によって操作することもできるが、照度センサ(図示しない)を備え、この照度センサの検知結果に基づいて操作することもできる。また害獣2の侵入を検知し得るセンサ9を設置し、このセンサ9が害獣2の通過を検知するとスイッチをonにし、所定時間の経過、再度の害獣2通過の検知、又は制御手段7が「害獣なし」と判断(害獣が退出と判断)した場合に、スイッチをoffにすることができる。すなわち、害獣2が保護範囲1内に居る間だけ照明をつけた状態とすることができる。
【0036】
害獣2の侵入を検知するセンサ9には、従来から用いられているモーションセンサを利用することができる。例えば、赤外線センサや、超音波センサ、温度センサ、臭いセンサ等が利用できる。なお図1に示すセンサ9は、害獣2の侵入を検知するものであり、保護範囲1の四隅にそれぞれ1箇所ずつ配置しているが、配置位置や配置個数は適宜設計できる。
【0037】
以下、図2に示すフロー図に基づいて、当該実施形態における全体の流れについて説明する。なお、実施形態1と同じステップ番号が付されたものは実施形態1と同様の動作を行うものである。
【0038】
図2のS1は、害獣威嚇システムを昼間に使用する場合の「昼間モード」と、害獣威嚇システムを夜間に使用する場合の「夜間モード」のいずれかを選択するステップであり、本実施形態では「夜間モード」を選択し、以下「夜間モード」の流れに進む。
【0039】
実施形態1と同様、S2のステップで画像を取得し、S3のステップで害獣の在無を判断し、ここでの判断が「不定」(変化判断が安定していない状態)であればS2のステップに戻り、「害獣あり」であれば次のステップ(S4)に進み、「害獣なし」であればS1のモード選択に(忌避音が放射されている状態であれば忌避音を停止したうえでS1に)戻る。
【0040】
S4のステップでは害獣が移動したか否かの判断が行われ、ここで「害獣が移動」と判断されるとS2のステップに戻り、「害獣が静止」と判断されるとS5〜S7のステップへ進む。S7のステップで忌避音を放射すると、S1のステップに戻る。
【0041】
上記の流れとは別に、センサ9が害獣2の通過を検知(S9)すると照明手段8のスイッチをonにして点灯させる(S10)。なお、照明手段8が点灯している状態で、S3ステップにおいて「害獣なし」と判断された場合には、照明手段8のスイッチをoffにして消灯させた(S11)うえでS1のステップに戻ることとなる。
【0042】
なおセンサ9を配置した夜間モードの場合、図3に示すように、センサ9による害獣2の通過検知(S9)をトリガ(きっかけ)として、照明手段8を点灯させるとともに、害獣の在無判断(S3)を開始させて、S4以下のステップに進むこともできる。なお、図3における昼間モードは図1と同じであるので省略している。
【0043】
また、センサ9を配置した夜間モードの場合、図4に示すように、センサ9による害獣2の通過検知(S9)をトリガ(きっかけ)として、照明手段8を点灯させるとともに、画像取得(S2)を開始させて、S3以下のステップに進むこともできる。なお、図3における昼間モードは図1と同じであるので省略している。
【0044】
(実施形態3)
本願発明の害獣威嚇方法と害獣威嚇システムにおける第3の実施形態を、図5に基づいて説明する。本実施形態は、配置した監視者が害獣威嚇システムを操作する場合を説明するものであり、その基本的構造や作用などここで記載されない内容については実施形態1や実施形態2と共通する。
【0045】
図5は、本実施形態における害獣威嚇方法と害獣威嚇システムの概要を示す全体図である。この図に示すように、本実施形態における害獣威嚇システムでは監視者10が監視室11内に配置されている。監視者10は、同じく監視室11内に配置されたモニタ12に表示される保護範囲1を目視確認しながら適宜操作を行い、侵入する害獣2に対して忌避音を放射することで威嚇するものである。
【0046】
図5に示すカメラ3、超指向性スピーカ4、支柱5、移動体6、制御手段7は、実施形態1で説明したものと同様のものであり、照明手段8、センサ9は実施形態2で説明したものと同様のものである。ただし、カメラ3は固定されているのではなく、カメラ移動体13の上に載置されている。カメラ移動体13は、超指向性スピーカ4を載せる移動体6と同様のもの(例えば自動雲台など)を利用することができる。また、移動体6の上にカメラ3と超指向性スピーカ4の両方を載せることも可能で、その場合カメラ移動体13は省略できる。
【0047】
カメラ3で連続して取得される画像は、カメラ3から有線で(無線でも可)送信され、監視室11内に配置されたモニタ12に表示される。監視者10はモニタ12を監視し、害獣2の侵入が確認すると、超指向性スピーカ4を標的方向に向くように操作し、害獣2に対して忌避音を放射する。監視者によって害獣2の侵入を目視確認するので、農作物の揺れ、ごみくずの侵入といった外乱は確実に排除できる。
【0048】
監視者10は、モニタ12を監視しながらカメラ3の方向を調整し、保護範囲1の所望範囲を確認することができる。カメラ3の方向調整は、カメラ移動体13を遠隔操作することで行う。このように、カメラ3による撮影範囲を変更することができれば、カメラ3の設置台数を減少させることができる。
【0049】
本実施形態では監視者10を配置するため、昼間のみの利用が考えられる。ただし、3交代などにより監視者10を昼夜配置することも可能で、この場合、照明手段8とセンサ9を設置し、夜間においては実施形態2で説明したように害獣2の侵入があったときに照明手段8で保護範囲1内を照らすこととする。
【0050】
以下、図6に示すフロー図に基づいて、当該実施形態における全体の流れについて説明する。なお、実施形態1や実施形態2と同様の内容のステップについては、対応するステップを示すこととする。なお、フロー中左側の点線枠で囲まれたステップは現地(保護範囲1及びその周辺)で行われるもので、フロー中右側の点線枠で囲まれたステップは監視室11内で行われるものである。
【0051】
図6のMS1は、害獣2の侵入に対して待機している状態である。センサ9が害獣2を検知すると(MS2)この検知情報が制御手段7に伝達され、制御手段7は監視者10の携帯電話などの通知機器に害獣2の検知を通知する(MS3)。監視者10は監視室11に出向き、モニタ12を確認する(MS4)。モニタ12の表示で害獣2が確認されない場合は外乱と判断して待機状態(MS1)に戻り、害獣2を確認した場合は「害獣あり」と判断して次のステップ(MS6)に進む。
【0052】
MS6では、監視者10が制御手段7を用いて超指向性スピーカ4の標的方向を算出する。なお、制御手段7による標的方向の算出方法は実施形態1や実施形態2と同様である。MS7では実施形態DS8や実施形態2のNS8と同様に、超指向性スピーカ4の姿勢を調節し、MS8では実施形態DS9や実施形態2のNS9と同様に、超指向性スピーカ4に忌避音を放射させる。
【0053】
MS9では、監視者10によって再度モニタ12の表示を確認し、害獣2が退出したか否かの判断を行う(MS10)。モニタ12で害獣2が確認されない場合は、「害獣が退出」と判断して次のステップ(MS11)に進み、忌避音の放射を停止して再び待機状態(MS1)とする。モニタ12で害獣2が確認された場合は、「害獣が存在」と判断して「害獣が退出」と判断できるまで、位置計算(MS7)を行って、忌避音を放射する(MS8)。
【0054】
(他の実施形態)
実施形態1〜3では、1台のカメラ3で取得された画像から害獣2の位置を把握し、超指向性スピーカ4の標的方向を計算する場合について説明した。この計算方法に代えて、2台以上のカメラ3によって計算することも、レーザーによって計算することも可能である。
【0055】
2台以上のカメラ3によって計算する場合、図7に示すように複数台(図では2台)のカメラ3を設置する。これら2台以上のカメラ3それぞれの設置位置、設置方向(カメラ3の撮影方向)と、予め設置された測量基準点に基づいて、従来の空間演算(例えば空中三角測量で用いられる演算処理)を行い、害獣2の位置座標(X1,Y1,Z1)を算出する。この害獣2の位置座標(X1,Y1,Z1)と、超指向性スピーカ4の音放射点(X0,Y0,Z0)から2点間の方向を算出し、これを超指向性スピーカ4の標的方向とする。なお、2台以上のカメラ3を設置することにより、害獣2がカメラ3を破壊した場合でも、残りのカメラ3で対応することができるという効果も生じる。
【0056】
航空写真測量において近年利用されているレーザーを用いることで、害獣2の位置を算出することもできる。この方法では、害獣2に対して照射するレーザーの方向や、その反射時間等に基づいて害獣の位置座標を計測するものである。
【0057】
その他、データベースに害獣2を含む画像データが蓄積されていくと、害獣2の動きを予測することが可能となる。害獣2の種類ごとに、移動や停止のタイミング等を分析し、害獣2の行動パターンを予測する。この予測した害獣2の行動パターンに基づいて、害獣2を自動追尾し、超指向性スピーカ4の標的方向を自動的に調整することもできる。あるいは、害獣2の種類ごとに効果的な忌避音の種類を分析し、侵入する害獣2の種類ごとに忌避音を適宜変更して放射することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本願発明の害獣威嚇方法と害獣威嚇システムは、田や畑等の圃場で利用できるほか、学校の校門や、商店、美術館、集合住宅の入り口など警備を必要とする場所、玄関のカメラ付きインターフォン、街角のゴミ集積場所のカラスや野良猫対策などにも応用することができる。特に、既に監視カメラ設置されている場所では、指向性スピーカや制御手段等 を設置するだけで本願発明の害獣威嚇方法と害獣威嚇システムを導入できるので、さらに利用しやすい。
【符号の説明】
【0059】
1 保護範囲
2 害獣
3 カメラ
4 超指向性スピーカ
5 支柱
6 移動体
7 制御手段
8 照明手段
9 センサ
10 監視者
11 監視室
12 モニタ
13 カメラ移動体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保護範囲内に侵入する害獣に対して威嚇する害獣威嚇方法において、
前記保護範囲内の画像を取得可能な画像取得手段と、保護範囲内の所望位置に対して音を放射し得る超指向性スピーカと、を設置し、
前記画像取得手段が前記保護範囲内に侵入した移動体を含む画像を取得することで害獣の侵入を判断するとともに、取得した画像内にある移動体の位置に基づいて害獣の方向を算出し、
前記超指向性スピーカが前記算出された害獣の方向に音を放射することで、保護範囲内に侵入した害獣に対して威嚇することを特徴とする害獣威嚇方法。
【請求項2】
請求項1記載の害獣威嚇方法において、
照明手段と、保護範囲内に移動する害獣を検知し得るセンサと、を備え、
夜間、前記センサが害獣を検知すると、前記照明手段が前記保護範囲内を照らして画像取得手段による画像取得を可能とすることを特徴とする害獣威嚇方法。
【請求項3】
保護範囲内に侵入する害獣に対して威嚇する害獣威嚇システムにおいて、
前記保護範囲内の画像を取得可能な画像取得手段と、保護範囲内の所望位置に対して音を放射し得る超指向性スピーカと、この超指向性スピーカの放射方向を変更可能な移動手段と、害獣の侵入を判断するとともに前記移動手段を制御し得る制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記画像取得手段が前記保護範囲内に侵入した移動体を含む画像を取得すると害獣の侵入を判断し、取得した画像内にある移動体の位置に基づいて害獣の方向を算出し、前記超指向性スピーカがこの害獣方向に向くように前記移動手段を制御するとともに、超指向性スピーカに音を放射させることを特徴とする害獣威嚇システム。
【請求項4】
請求項3記載の害獣威嚇システムにおいて、
照明手段と、保護範囲内に移動する害獣を検知し得るセンサと、を備え、
夜間、前記センサが害獣を検知すると、前記照明手段が前記保護範囲内を照らして画像取得手段による画像取得を可能とすることを特徴とする害獣威嚇システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−250745(P2011−250745A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−127427(P2010−127427)
【出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(310010852)株式会社アーネット (1)
【Fターム(参考)】