説明

害虫忌避剤、害虫忌避材および害虫忌避方法

【課題】
有効成分の自然揮散により忌避効果を得ることができる新規な害虫忌避剤、害虫忌避材および害虫忌避方法を提供する。
【解決手段】
酢酸イソアミルを有効成分とする害虫忌避剤を用いる。ガス透過性ポリマのフィルムからなる袋体1内に、酢酸イソアミルを有効成分とする薬液2を封入して害虫忌避材とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は害虫忌避剤、害虫忌避材および害虫忌避方法に関し、詳しくは、有効成分の自然揮散により忌避効果を得る害虫忌避剤、害虫忌避材および害虫忌避方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、薬液中に吸液芯の一部を浸漬して薬液を吸液芯内に吸液すると共に、その吸液芯を加熱して薬液を蒸散させる加熱蒸散式の害虫駆除手段が広く知られている(例えば、特許文献1〜3など参照)。
【0003】
近年では、加熱によらずに有効成分を揮散する自然揮散式の防虫手段も提案されている(例えば特許文献4〜6など参照)。
【0004】
防虫、忌避、殺虫などの効果を示す薬液としては、ピレスロイド系化合物が一般に用いられる。また、薬液には通常、香料が添加されるが、特許文献3、5、6などには、人工香料として酢酸イソアミル(酢酸3−メチルブチル)を用いることが開示されている。
【0005】
天然植物由来の忌避効果を示すものとして、除虫菊、樟脳、天然精油類(ハッカ、レモングラスなど)なども知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−331004号公報
【特許文献2】特開平6−211611号公報
【特許文献3】特開平7−316002号公報
【特許文献4】特開2006−70037号公報
【特許文献5】特開2006−325585号公報
【特許文献6】特開2009−131243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記した加熱蒸散式の害虫駆除手段においては、ヒーターなどの熱源が必要になる。自然揮散式によればこの点は解消されるが、ハエなどの害虫に対する忌避効果が得られるか否かは必ずしも明確ではない。
【0008】
本発明はこのような従来事情に鑑みてなされたもので、有効成分の自然揮散により害虫忌避効果を得ることができる、新規な害虫忌避剤および害虫忌避材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述したような観点から本発明者らは、この種の技術分野において用いられる様々な成分について鋭意検討を重ねた結果、酢酸イソアミルがハエなどの飛翔系害虫に対する忌避効果を有し、自然揮散可能な忌避剤として有効利用できることを見いだし、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明に係る害虫忌避剤は、酢酸イソアミル(酢酸3−メチルブチル)を有効成分としたことを特徴とする。
【0011】
酢酸イソアミルは前述したように、防虫剤などに添加する人工香料としてこの種分野で従来から知られているが、本発明者らが知るかぎりでは、ハエなどの害虫に対する忌避効果を有していることは知られていない。
【0012】
本発明に係る害虫忌避材は、酢酸イソアミルを有効成分とする害虫忌避剤を、ガス透過面を有する袋体に収容したことを特徴とする。前記袋体は、ガス透過性ポリマからなるフィルムで構成されていることが好ましい。
【0013】
また本発明は、有効成分としての酢酸イソアミルを自然揮散させることを特徴とする害虫忌避方法を包含する。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように本発明は、酢酸イソアミルを有効成分とする害虫忌避剤である。酢酸イソアミルは、人工香料などとして工業的に生産されているので容易に利用することができ、自然揮散によってハエなどの害虫忌避に十分な効果を示す。さらに、用途に応じて公知の手段で様々な剤型への加工が容易であるなど、多くの効果を奏する。
【0015】
また、本発明に係る害虫忌避材は、酢酸イソアミルを有効成分とする害虫忌避剤を、ガス透過面を有する袋体に収容したので、一般家庭や農場、動物の飼育現場など、様々な態様に対し広く応用が可能であるなど、多くの効果を奏する。
【0016】
さらに、本発明に係る害虫忌避方法は、有効成分としての酢酸イソアミルを自然揮散させるので、低コストで十分な害虫忌避効果が得られるなど、多くの効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る害虫忌避材の実施形態例を示し、(A)は正面図、(B)は縦断側面図。
【図2】寝かせて使用する実施形態例を示し、(A)は平面図、(B)は縦断正面図。
【図3】他の実施形態例の縦断側面図で、(A)は空隙をなくした場合、(B)は折曲げた場合、(C)はクリップで挟んで変形させた場合を示す。
【図4】二重袋とした実施形態例の縦断側面図。
【図5】シート状の含浸体を封入した実施形態例で(A)は正面図、(B)は縦断側面図。
【図6】シート状の含浸体を封入した扁平状の実施形態例で、(A)は正面図、(B)は縦断側面図。
【図7】設置角度を調整自在とした実施形態例の縦断側面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、実施形態例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0019】
本発明の害虫忌避剤は酢酸イソアミル(酢酸3−メチルブチル)を有効成分とする。
【0020】
酢酸イソアミルは、分子式C14、示性式CHCOOCHCHCH(CH)で表されるエステルの一種で、バナナあるいはメロン様などの果実臭のする無色の液体である。通常の有機溶媒には易溶で、水にもわずかに溶ける。一般に、香料や有機溶剤として用いられている。
【0021】
液状の害虫忌避剤において、その総量に対し、酢酸イソアミルを、少なくとも40重量%以上含有するとよく、50重量%以上含有することが好ましい。酢酸イソアミルのより好ましい含有量は60〜100重量%である。
【0022】
また、害虫忌避剤は、液状剤、ゲル状剤、ゾル状剤、ペースト状剤、ゼリー状剤、顆粒状剤、粉末状剤、固形状剤など、各種の態様とすることができる。またこのような害虫忌避剤を、直接散布したり、含浸体などに含浸させたり、容器に収容するなど、その他様々な態様で使用することができる。
【0023】
本発明の効果を妨げない限り、各種の添加剤を併用してもよい。添加剤としては、例えば、殺虫剤、殺菌剤、防黴剤、保存剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、展着剤、キレート剤、増粘剤、誤食防止剤、香料、色素などをあげることができる。
【0024】
次に、ハエに対する忌避効果の確認試験について述べる。
【0025】
組み立て式のスチールラック(100×50×60cm)に農業用虫避け網(0.6mm)を貼り付けて通気性のある容器を作成し、その中に、供試虫となるハエを数匹と、誘引用のエサとして鶏糞10gを入れた。
【0026】
本発明に係る害虫忌避剤である酢酸イソアミルの試料(実施例)として、純正化学株式会社製の酢酸イソアミル(製品名:酢酸3−メチルブチル 一級、純度93%)を用い、当該試料を鶏糞に3ml噴霧したのち、鶏糞に寄り付くハエの匹数を経時的にカウントした。
【0027】
比較例として、酢酸イソアミル以外の試料を用い、各試料を鶏糞に3ml噴霧したのち、実施例と同様にハエの匹数を経時的にカウントした。試料を噴霧しない場合と共に、結果を表1〜表5に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
【表3】

【0031】
【表4】

【0032】
【表5】

【0033】
次に、害虫忌避材の実施形態例について説明する。
【0034】
本例の害虫忌避材は、例えば加熱などの温度調整手段を不要とした簡単な構造であって、常温環境下において、前記した害虫忌避剤としての薬液(酢酸イソアミルを有効成分とする液状の害虫忌避剤)を、所定の速度で自然揮散させることができる害虫忌避材である。
【0035】
すなわち、常温で有効成分が揮発する薬液(前記した液状の害虫忌避剤)と、ガス透過性ポリマからなるガス透過面を少なくとも一部に有し前記薬液を収容する容器体と、を備え、
【0036】
前記ガス透過性ポリマの種別、または、前記ガス透過面の厚みもしくは面積もしくは形状もしくは前記薬液との接触領域の面積、または、前記容器体に対する前記薬液の収容量、などのうちの少なくとも一つの条件を任意に選択または設定することで、前記薬液中の有効成分(酢酸イソアミル)の自然揮散速度が任意に設定されることを特徴とする害虫忌避材である。
【0037】
このような構成によれば、例えば、前記ガス透過面を一部に有し、または、実質的に全面が透過面である袋体などを容器体とし、この容器体内に前記薬液を収容した、極めて簡単な態様で実施することが可能である。そして、ガス透過面の厚みや面積、または、薬液の収容量などを変えることにより、薬液中の有効成分である酢酸イソアミルの自然揮散速度(揮発速度または透過速度)が変わるので、袋体を形成するガス透過性ポリマフィルムの厚み、袋体の大きさや形状、薬液の収容量などを任意に設定することで、自然揮散速度を調整することができる。よって、有効成分としての酢酸イソアミルを所望速度で、所望期間、自然揮散させることが可能となる。
【0038】
前記ガス透過面の厚みもしくは面積もしくは形状もしくは前記薬液との接触領域の面積、または、前記薬液の収容量、のうちの少なくとも一つの条件が可変であり、前記各条件のうちの少なくとも一つの変更により、前記薬液の自然揮散速度が調整可能に形成されていることが好ましい。
【0039】
前記ガス透過面の厚みもしくは面積もしくは形状もしくは前記薬液との接触領域の面積、または、前記薬液の収容量、のうちの少なくとも一つの条件を可変とする手段を、さらに備えると良い。
【0040】
前記容器体として、前記ガス透過性ポリマからなるフィルムで構成された袋体をあげることができる。この場合、実質的に、該袋体の全面が前記ガス透過面であることが好ましい。
【0041】
また、前記薬液が、前記袋体内に封入されていることが好ましい。
【0042】
さらに、前記容器体内に、前記薬液を含浸可能な含浸体が収容されていることが好ましい。また、前記含浸体がシート状であり、該シート状含浸体に前記薬液が含浸されていると共に、該シート状含浸体が前記袋体内に封入されていると、より好ましい。
【0043】
害虫忌避材の好ましい態様の一つとして、ガス透過性ポリマフィルムからなる袋体を容器体とし、この袋体に、薬液をそのまま封入するか、または、不織布などのシート状の含浸体に薬液を含浸させて封入する態様をあげることができる。
【0044】
この場合、袋体に薬液を封入しただけの極めて簡素な構造により、酢酸イソアミルを自然揮散させ得るなど、多くの効果を奏する。
【0045】
以下、より詳細な実施形態について、図1〜図7を参照しながら説明する。
【0046】
図1においては、ガス透過性ポリマフィルムからなる袋体1を容器体としている。
【0047】
ガス透過性ポリマの代表例として、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどがあげられる。
【0048】
近年汎用されているポリエチレンには、硬質のHDPE(高密度ポリエチレン)と軟質のLDPE(低密度ポリエチレン)とがあるが、所望する自然揮散速度(蒸散速度または透過速度)のレベルに応じて使い分ければよい。
【0049】
なお、ポリスチレンは耐油性に劣り、長期間の使用に耐えられない虞れがあるなどの理由から、実用的にはポリエチレン製の袋を用いることが、より好ましい。
【0050】
ちなみに、不織布製の袋は充填時に液漏れする上、揮発速度が速すぎるなどの理由から、本発明の目的達成には不適である。
【0051】
図1(A)、(B)に示すように、容器体が密閉状の袋体であって、この袋体1内に薬液(酢酸イソアミルを有効成分とする液状の害虫忌避剤)2が封入されると共に、空隙3がある場合、薬液2中の有効成分は概ね、空隙3中に揮発した後、ガス透過面4を透過して袋体1の外へ自然揮散される。
【0052】
ここで、自然揮散速度の設定要因として、下記条件をあげることができる。
1:ポリマ製袋体を構成するフィルムの材質、大きさ、形状などを任意に選択する。
2:ポリマ製袋体を構成するフィルムの厚さを任意に選択する。
3:薬液と前記フィルムが接する部分(薬液との接触領域)5の面積を任意に選択する。
【0053】
このようにして、各種条件を任意に選択することで、薬液2中の有効成分が袋体1の外へ自然揮散される速度を、任意に設定することができる。
【0054】
図2(A)、(B)には、容器体が密閉状の袋体であって、この袋体1内に薬液2が封入されると共に、前記した空隙3がない例を示す。
【0055】
この場合、薬液2中の有効成分は、ガス透過面4としての、薬液とフィルムが接する部分(薬液との接触領域)5を透過して、袋体1の外へ自然揮散される。
【0056】
この例でも、自然揮散速度の設定要因として、前記した1〜3の条件をあげることができる。このように各種条件を任意に選択することで、薬液2中の有効成分が袋体1の外へ自然揮散される速度を、任意に設定することができる。
【0057】
図3(A)のように、図1の例において空隙3がないようにしても良い。
【0058】
図3(B)のように、図2の例において、袋体1を折り曲げるようにしても良い。
【0059】
図3(C)のように、図2の例において、クリップ部材6などの別部材で挟むなどして、袋体1の形状を任意に変えても良い。
【0060】
図4のように、袋体1の外側に、ポリマ製袋7を被せて、薬液とフィルムが接する部分(薬液との接触領域)5を多重にして厚みや面積などを調整し、自然揮散速度を任意に調整することもできる。
【0061】
図5のように、図1の例において、薬液2が含浸し揮発が可能である不織布、フェルト、紙布などの含浸体8を袋体1内に封入しても良い。含浸体は、球状、角柱状、方形状など、各種形状のものが使用可能である。面積を任意に選択できる、嵩張らないなどの理由から、図示例のように、シート状(板状)のものが好ましい。
【0062】
図6のように、袋体1の中に、薬液2が含浸されたシート状の含浸体8のみを、密閉状態で封入しても良い。この場合、空隙3がある場合と、ない場合を任意に選択することができる。空隙が実質的にないような扁平状とすると、薄型、携帯型などとしての利便性が備わるため、より好ましい。
【0063】
図7に示すように、図1の例において、袋体1を傾斜状に支持する支持板9を備え、この支持板9の傾斜角度θを任意に調整可能とすれば、ガス透過面4の面積、及び、薬液2とフィルムが接する部分(薬液との接触領域)5の面積を、任意に調整することができる。
【0064】
以上説明したように、前記した各実施形態例によれば、薬液(酢酸イソアミルを有効成分とする液状の害虫忌避剤)の自然揮散速度および自然揮散期間を、簡単に設定または調整することができる。また、袋体1が小型であっても大型であってもよく、形状の限定も無いので、携帯タイプとすることもできるし、壁や柱などに吊り下げたり、水中に入れたり、土中に埋めるなど、様々な態様で使用することができる。
【0065】
すなわち、使用目的、用途、要望などに応じて、所望の機能を有する害虫忌避材として、自由に設計、製造することができるなど、多くの効果を有する。
【産業上の利用可能性】
【0066】
上述したように、本願によれば、酢酸イソアミルを有効成分とする害虫忌避が可能となるとともに、実施形態で示したようないろいろな態様でこれを利用することが可能となる。
【0067】
したがって、本願は、害虫忌避剤の製造産業および害虫忌避剤を利用する産業にとっても、大いなる利用可能性がある。
【符号の説明】
【0068】
1:袋体(容器体)
2:薬液(酢酸イソアミルを有効成分とする液状の害虫忌避剤)
4:ガス透過面
5:薬液とフィルムが接する部分(薬液との接触領域)
8:含浸体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸イソアミルを有効成分としたことを特徴とする害虫忌避剤。
【請求項2】
対象害虫がハエであることを特徴とする請求項1記載の害虫忌避剤。
【請求項3】
請求項1または2記載の害虫忌避剤を、ガス透過面を有する袋体に収容してなる害虫忌避材。
【請求項4】
前記袋体が、ガス透過性ポリマからなるフィルムで構成されていることを特徴とする請求項3記載の害虫忌避材。
【請求項5】
有効成分としての酢酸イソアミルを自然揮散させることを特徴とする害虫忌避方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−144154(P2011−144154A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8334(P2010−8334)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【出願人】(508061321)株式会社アイ・アンド・アール (1)
【Fターム(参考)】