説明

家電製品用エアフィルタ濾材

【課題】 圧力損失が低く(高通気量で)、且つ捕集効率が高く、洗浄した後の性能の著しい低下がない家電製品用エアフィルタ濾材を提供する。
【解決手段】 家電製品用のエアフィルタ濾材10において、風速5.3cm/秒での圧力損失を120Pa以下とし、粒子径0.3〜0.5μm粒子の捕集効率を95%以上とし、多層構造とし、そのうちの少なくとも一層をポリテトラフルオロエチレン多孔質膜11とする。前記ポリエチレン多孔質膜11には、不織布等の支持層12を積層して一体化することが好ましい。このエアフィルタ濾材は、圧力損失および捕集効率に優れるPTFE多孔質膜を使用しているため、水洗による性能低下がなく、水洗浄した後も再使用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家電製品用エアフィルタ濾材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、家庭用掃除機、家庭用空気清浄機、家庭用空調機等の家電製品には、空気清浄を目的に、エアフィルタ濾材が用いられている。前記エアフィルタ濾材は、圧力損失が低く(高通気量で)、且つ安価であることが重要視され、粒子径0.3〜0.5μm粒子の捕集効率が数十%程度の不織布や発泡体等が用いられてきた。しかしながら、近年、花粉やハウスダスト等に対するアレルギーに悩まされる人が急増傾向にあり、それに伴い一般消費者の空気清浄に対する意識も向上し、家電製品からの排気に関してもよりクリーンであることが求められるようになってきている。
【0003】
そこで、近年は、高通気と高捕集効率を両立したエレクトレットフィルタが用いられるようになってきている(特許文献1参照。)。このフィルタは、帯電した不織布からなるフィルタであり、静電気力を利用して捕塵するために一般のフィルタに比べて通気と捕集効率のバランスがよい。エレクトレットフィルタにおいて、その帯電層には、通常、繊維径1〜20μm程度のポリプロピレン製メルトブロー不織布が用いられる。しかしながら、このエレクトレットフィルタは、時間の経過と共にフィルタの捕集効率が減衰し、また、捕集機構上、水洗いすると電荷が失われて捕集性能が著しく低下する問題があった。
【特許文献1】特開昭54−53365号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明の目的は、圧力損失が低く(高通気量で)、且つ捕集効率が高く、洗浄した後の性能の著しい低下がない家電製品用エアフィルタ濾材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、本発明の家電製品用エアフィルタ濾材は、風速5.3cm/秒での圧力損失が120Pa(12.24mmH2O)以下であり、粒子径0.3〜0.5μm粒子の捕集効率が95%以上であり、多層構造であり、そのうちの少なくとも一層はポリテトラフルオロエチレン多孔質膜から形成されているエアフィルタ濾材である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、PTFE多孔質膜を捕集のために用いるから、圧力損失が低く、且つ捕集効率が高く、洗浄した後の性能の著しい低下がない家電製品用エアフィルタ濾材が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に、本発明の家電製品用エアフィルタ濾材を詳しく説明する。
【0008】
本発明の家電製品用エアフィルタ濾材は、例えば図1および図2に示すように、多層構造であり、そのうちの少なくとも一層はPTFE多孔質膜から形成されている。
【0009】
本発明の家電製品用エアフィルタ濾材の圧力損失は、低ければ低いほどよいが、好ましくは100Pa(10.2mmH2O)以下かつ0Pa(0mmH2O)を超える範囲であり、より好ましくは80Pa(8.1mmH2O)以下かつ0Pa(0mmH2O)を超える範囲である。また、前記捕集効率は、高ければ高いほどよく、好ましくは99〜100%の範囲であり、より好ましくは99.5〜100%の範囲である。なお、圧力損失および捕集効率の測定は、後述の方法による。
【0010】
また、本発明の家電製品用エアフィルタ濾材において、下記式のPF値が25以上であることが好ましい。前記PF値が25以上であれば、圧力損失と捕集効率のバランスが良いからである。前記PF値は、より好ましくは25〜100の範囲であり、さらに好ましくは、35〜80の範囲である。
PF値=[−log(透過率/100)/圧力損失]×100
透過率=100−捕集効率
【0011】
前記PTFE多孔質膜において、その厚さは、例えば2〜100μmの範囲内であり、その平均孔径は、例えば、0.5〜5μmの範囲内であり、その空孔率は、例えば、85〜95%の範囲内である。
【0012】
本発明の家電製品用エアフィルタ濾材は、多層構造の少なくとも一層が支持層であるのが好ましい。支持層の積層数や積層部材の種類等は特に制限されないが、前記で規定した圧力損失および捕集効率の範囲内で、PTFE多孔質膜の補強を目的に、支持層を積層することが好ましい。支持層があれば、強度が高くなるからである。
【0013】
また、前記支持層の材質は、特に制限されず、例えば、織布、不織布、金属ないしプラスチックのメッシュ、金属ないしプラスチックのネット、プラスチック発泡体などが使用できる。特に限定するものではないが、風圧に対する強度の点から、前記支持層の単位面積当たりの重量は、好ましくは10〜200g/m2、より好ましくは30〜150g/m2、さらに好ましくは70〜150g/m2の範囲にあるのがよい。
【0014】
本発明のエアフィルタ濾材の曲げ剛性は、取り扱い性を考慮すると、例えば0.001〜5gf・cm2/cm(9.8×10-6〜4.9×10-2N・cm2/cm)の範囲内であり、好ましくは0.01〜4gf・cm2/cm(9.8×10-5〜3.9×10-2N・cm2/cm)であり、より好ましくは0.1〜3gf・cm2/cm(9.8×10-4〜3.9×10-2N・cm2/cm)の範囲である。前記曲げ剛性は、例えば、測定機KES−FB2(商品名)(カトーテック株式会社製)を用いた曲げ試験において、最大曲率±2.5cm-1で測定することができる。
【0015】
前記PTFE多孔質膜と支持層は、接着して一体化されることが好ましい。その接着方法は、特に制限されないが、両者の通気性を維持するため接着面積を少なくすることが好ましい。前記接着方法としては、例えば、熱溶融性のネットないしメッシュを間に挟んでラミネートする方法、微細な点状ないし線状に接着剤を塗布し接着する方法等が挙げられる。接着剤としては、2液混合型や熱による自己架橋型の接着剤などを用いることができる。2液混合型としてはエポキシ樹脂、熱による自己架橋型としては酢酸ビニル−エチレン共重合体やエチレン−塩化ビニル共重合体等が好適である。
【0016】
コスト的見地から、前記接着方法としては、予め熱接着性をもった不織布をPTFE多孔質膜にラミネートする方法が好ましい。例えば、素材の一部ないし全部が、ポリエチレンのような熱可塑性樹脂でできている不織布を、PTFE多孔質膜と適切な熱、圧力でラミネートすると、繊維の一部が溶融してPTFE多孔質膜と接着する。この接着は、不織布の繊維上に限定されるため、繊維のない部分では通気性が確保される。
【0017】
つぎに、本発明の家電製品用エアフィルタ濾材の積層形態は、PTFE多孔質膜を少なくとも一層は含む以外は特に制限されない。例えば、図1に示すように、PTFE多孔質膜11と支持層12とが一層ずつ積層されており、PTFE多孔質膜11が表面に露出したタイプのエアフィルタ濾材10でもよいし、図2に示すように、2つの支持層22で、PTFE多孔質膜21をサンドイッチした形態のエアフィルタ濾材20であってもよい。なお、前記両図において、矢印は空気の流れる方向を示す。
【0018】
本発明の家電製品用エアフィルタ濾材は、その一部または全部に抗菌処理が施されているのが好ましい。抗菌処理されていないエアフィルタ濾材よりも、菌、カビ等の繁殖を抑えられるからである。
【0019】
この抗菌処理は、処理後のエアフィルタ濾材に抗菌性能が認められれば、抗菌剤の種類、処理方法、塗布量等は特に制限されず、抗菌性能、安全性、使用環境、価格等に応じて適宜選択する。抗菌剤の種類としては、例えば、無機系、有機系、天然性の抗菌剤を濾材の用途や目的に応じて、単独であるいは複合して使用することができるが、無機系抗菌剤であれば、銀イオン、銅イオン、亜鉛イオンを含有するものが、有機系であれば第4級アンモニウムイオンを含有するものが、天然系であればキトサンを含有するものが好ましい。処理方法としては、例えば、エアフィルタ濾材の構成素材の製造時に抗菌性物質を混入する方法、ディッピングによってエアフィルタ濾材全部またはエアフィルタ濾材を構成する層全部に処理を施す方法、あるいは塗布によりある面だけを処理する方法等が考えられる。エアフィルタ濾材の一部のみを処理する場合には、例えば、図1に示すように、気体の流れの上流側の面にあたるPTFE多孔質膜11の表面を処理してもよいし、気体の流れの下流側の面にあたる支持層12の表面を処理してもよいが、より雑菌等が繁殖しやすい、気体の流れの上流側の面を処理するのが好ましい。
【0020】
本発明の家電製品用エアフィルタ濾材の色は、特に制限されず、必要に応じて、その一部または全部に着色処理を施してもよい。着色処理を施すことにより、エアフィルタ濾材に積層された塵埃が目立たなくなる等、外観上の利点が得られる場合があるからである。
【0021】
着色方法は、特に制限されず、例えば、エアフィルタ濾材の構成素材の製造時に着色剤(染料・顔料等)を混入する方法、ディッピングによってエアフィルタ濾材全部またはエアフィルタ濾材を構成する層全部に処理を施す方法、あるいは塗布によりある面だけを処理する方法等が考えられる。着色剤の種類としては、例えば、フタロシアニン系顔料、アゾ系顔料、複合酸化物系顔料、分散染料、カチオン染料が挙げられる。エアフィルタ濾材の一部のみを処理する場合には、例えば、図1に示すように、気体の流れ(矢印)の上流側の面にあたるPTFE多孔質膜11の表面を処理してもよいし、気体の流れ(矢印)の下流側の面にあたる支持層12の表面を処理してもよい。この着色処理を施すことによって、エアフィルタ濾材に積層された塵が目立たなくなる等、外観上の利点が得られることがある。
【0022】
また、前記抗菌処理と着色処理は、どちらか一方だけを施してもよいし、両方を施してもよい。
【0023】
前記PTFE多孔質膜は、市販品を使用してもよく、また、次に示す製造方法で製造してもよい。PTFE多孔質膜の製造方法の一例を以下に示す。
【0024】
まず、未焼成のPTFE微粉末に液状潤滑剤を加えて均一に混和する。前記PTFE微粉末としては、特に制限されず、市販のものが使用できる。前記液状潤滑剤としては、前記PTFE粉末を濡らすことができ、後に除去できるものであれば特に制限されず、例えば、ナフサ、ホワイトオイル、流動パラフィン、トルエン、キシレン等の炭化水素油や、アルコール類、ケトン類およびエステル類の溶媒等が使用できる。また、これらは、単独で使用しても良く、若しくは二種類以上併用してもよい。
【0025】
前記PTFE微粉末に対する液状潤滑剤の添加割合は、前記PTFE微粉末の種類、液状潤滑油の種類および後述するシート成形の条件等により適宜決定されるが、例えば、PTFE微粉末100重量部に対して、液状潤滑剤15〜35重量部の範囲である。
【0026】
つぎに、前記混和物を未焼成状態でシート状に成形する。前記成形方法としては、例えば、前記混和物をロッド状に押し出した後、対になったロールにより圧延する圧延法や、板状に押し出してシート状にする押し出し法があげられる。また、両方法を組み合わせてもよい。このシート状成形体の厚みは、後に行なう延伸の条件等により適宜決定されるが、例えば、0.1〜0.5mmの範囲である。
【0027】
なお、得られたシート状成形体に含まれる前記液状潤滑剤は、続いて行なう延伸工程前に、加熱法または抽出法等により除去しておくことが好ましい。前記抽出法に使用する溶媒は、特に制限されないが、例えば、ノルマルデカン、ドデカン、ナフサ、ケロシン、スモイル、トリクレン等があげられる。
【0028】
つぎに、前記シート状成形体に対して延伸を行なう。前記シート状成形体をPTFEの融点(327℃)以下の温度で、一軸延伸または二軸延伸で延伸し多孔化する。例えば、前記シート状成形体の長手方向において、温度150〜327℃で500〜4000%延伸し、続いて、前記シート状成形体の幅方向において、温度40〜250℃で1000〜8000%延伸する。前記延伸後、その延伸状態を保持して、PTFEの融点(327℃)以上の温度に加熱して焼成することにより、機械的強度の向上と寸法安定性の増加を図ることができる。なお、この焼成工程は任意である。以上のようにして、PTFE多孔質膜が製造できる。
【0029】
なお、PTFE多孔質膜の製造方法は特に制限されず、前述の方法以外の方法で製造してもよい。
【0030】
前述のようにして製造された本発明の家電製品用エアフィルタ濾材は、家庭用掃除機、家庭用空気清浄機、家庭用空調機等、各種家電製品用のエアフィルタ濾材として用いることができ、各種家電製品に常法で取り付けられ使用される。前記エアフィルタ濾材は、洗浄しても性能の著しい低下がないため、定期的に洗浄することで繰り返し使用することができる。この洗浄は、水に浸漬して行なってもよいし、洗剤を水に溶かしたものを使用してもよい。使用する洗剤の種類は、特に制限されない。ただし、固形または粉状の石鹸を使用する場合は、エアフィルタ濾材が目詰まりを起こさぬよう、十分に溶かしてから使用するのが好ましい。また、超音波を使用して洗浄したり、柔らかいブラシ等でエアフィルタ濾材を軽くこする等してもよい。
【0031】
また、本発明の家電製品用エアフィルタ濾材は、特に電気掃除機用フィルタバックに好ましく用いることができる。本発明の家電製品用エアフィルタ濾材を含む電気掃除機用フィルタバックは、低圧力損失(高通気性)と高捕集効率を両立し、さらに、水分存在下にも捕集効率が低下しない。つまり、本発明の電気掃除機用フィルタバックは、低圧力損失であるので、掃除機性能の指標となる仕事率を大きくできる。また、本発明の電気掃除機用フィルタバックは、高捕集効率であるので、アトピー、喘息、アレルギーの原因物質であるダニの卵、分、抜け殻および死骸、花粉等を充分捕集できる。さらに、水分存在下にも捕集効率が低下しないので、本発明の電気掃除機用フィルタバックは、水分を含んだ塵を捕集したり、湿気が高い場所で使用することもできる。そこで、以下に本発明の家電製品用エアフィルタ濾材を含む電気掃除機用フィルタバックについて詳しく説明する。
【0032】
本発明の電気掃除機用フィルタバックの一例を図3及び図4に示す。図3は、前記電気掃除機用フィルタバックの断面図であり、図4は、前記電気掃除機用フィルタバックの正面図である。この電気掃除機用フィルタバック30は、本発明の家電製品用エアフィルタ濾材10を袋状に形成し、その開口部分に支持板32を配置したものである。前記支持板32の長手方向の一端には、U字型の切欠32aが形成され、別の一端に孔32bが形成され、これらにより、電気掃除機用フィルタバック30が電気掃除機に容易に装着できるようになっている。このフィルタバック30において、家電製品用エアフィルタ濾材10のPTFE多孔質膜11は内面に位置しており、家電製品用エアフィルタ濾材10の支持層12は外面に位置している。
【0033】
電気掃除機用フィルタバックに用いられる本発明の家電製品用エアフィルタ濾材においては、圧力損失が、好ましくは80Pa(8.1mmH2O)以下かつ0Pa(0mmH2O)を超える範囲であり、より好ましくは60Pa(6mmH2O)以下かつ0Pa(0mmH2O)を超える範囲である。また、前記捕集効率は、高ければ高いほどよく、好ましくは97%以上かつ100%以下、より好ましくは99%以上かつ100%以下の範囲である。なお、圧力損失および捕集効率の測定は、後述の方法による。
【0034】
また、電気掃除機用フィルタバックに用いられる本発明の家電製品用エアフィルタ濾材においては、前記PF値が40以上であるのが好ましい。前記PF値が40以上であれば、圧力損失と捕集効率のバランスが良いからである。前記PF値は、より好ましくは50〜100の範囲であり、さらに好ましくは60〜100の範囲である。
【0035】
本発明の家電製品用エアフィルタ濾材を電気掃除機用フィルタバッグに使用する場合には、前記支持層の単位面積当たりの重量は、取り扱い性を考慮して、10〜100g/m2の範囲内であることが好ましく、15〜60g/m2の範囲内にあるのがより好ましい。また、本発明の家電製品用エアフィルタ濾材を電気掃除機用フィルタバッグに使用する場合には、本発明のエアフィルタ濾材の曲げ剛性は、取り扱い性を考慮して、0.001〜1gf・cm2/cm(9.8×10-6〜9.8×10-3N・cm2/cm)の範囲内であることが好ましい。これは例えば、電気掃除機用フィルタバックを廃棄する際に、塵を含んで膨らんだ前記フィルタバックが、前記支持層の復元力により前記フィルタバック内の塵を圧迫して、内部の塵が散乱するのを防止することができる等、取り扱いが容易になるからである。なお、前記曲げ剛性は、例えば、測定機KES−FB2(商品名)(カトーテック株式会社製)を用いた曲げ試験において、最大曲率±2.5cm-1で測定することができる。
【0036】
電気掃除機用フィルタバックに用いられる場合にも、本発明のエアフィルタ濾材の厚さは、例えば2〜100μmの範囲内であり、その平均孔径は、例えば0.2〜50μmの範囲内であり、その空孔率は、85〜95%の範囲内である。
【実施例】
【0037】
つぎに、本発明の実施例について、比較例と併せて説明する。なお、以下に示す実施例1および2の各エアフィルタ濾材は、例えば、風圧に耐えるだけの剛性が必要な用途(家庭用空気清浄機および家庭用空調機など)に使用することを目的とするものであり、いずれの実施例においても支持層としてポリエチレン/ポリエステル複合型不織布を用いて、各エアフィルタ濾材の曲げ剛性を強化したものである。また、実施例3のエアフィルタ濾材は、実施例1および2とは逆に、剛性があまり必要でない電気掃除機用フィルタバックに使用することを目的とするものである。実施例および比較例におけるPTFE多孔質膜、エアフィルタ濾材、エレクトレットフィルタ、紙製フィルタバックの濾材および不織布の各特性の測定方法は、以下に示すとおりである。
【0038】
(1)圧力損失
圧力損失は、JIS K 0901の気体中のダスト試料捕集用ろ過材の試験方法に準じて測定した。サンプル(PTFE多孔質膜、エアフィルタ濾材またはエレクトレットフィルタ、以下同じ)に対する風速を5.3cm/秒に調製して、圧力損失(単位:PaおよびmmH2O)を圧力計(マノメーター)で測定した。なお、サンプルに対する風速を5.3cm/秒としたのは、一般に高性能エアフィルタの通気抵抗は、米軍軍事規格(MILITARY STANDARD)MF−F−51079Dに基づいて測定するので、この基準に従ったものである。
【0039】
(2)捕集効率
捕集効率は、JIS K 3803の除菌用空気ろ過デプスフィルタのエアロゾル捕集性能試験方法により、粒子系0.3〜0.5μmのジオクチルフタレート(DOP)の粒子を用いて測定した。捕集効率は、下記(数1)による。
【0040】
捕集効率(%)=(1−下流側の粒子数/上流側の粒子数)×100
【0041】
下流側の粒子数の単位:個/リットル
上流側の粒子数の単位:個/リットル
【0042】
(3)目付け量
目付け量は、ポリオレフィン系不織布を100cm2にサンプリングし、その重さを電子天秤により測定して1m2当たりの重量を求めた。
【0043】
(4)空孔率
空孔率は、PTFE多孔質膜の片面の面積S(cm2)、厚みd(cm)、重量m(g)および比重r(g/cm3)とから、下記の式により求めた。
【0044】
空孔率(体積%)=[1−(m/(S×d×r))]×100
【0045】
(実施例1)
まず、PTFEファインパウダー100重量部に対して流動パラフィン(液状潤滑剤)を20重量部加えたペースト状の混和物を予備成形した。ついで、予備成形物をペースト押し出しにより丸棒状に成形し、この丸棒状物を圧延し、厚さ0.2mmのシート状PTFE成形体を得た。前記シート状PTFE成形体から前記液状潤滑剤をトリクレンによる抽出により除去した後、その長さが長手方向に20倍になるように、300℃で延伸を行なった。続いて、このシート状PTFE成形体を、その長さが幅方向に50倍になるように150℃で延伸して、厚さ4μm、空孔率95%のPTFE多孔質膜21を得た。得られたPTFE多孔質膜21の風速5.3cm/秒での圧力損失は49Pa(5.0mmH2O)、粒子径0.3〜0.5μm粒子の捕集効率は99.97%、PF値は70であった。
【0046】
次に、それぞれ目付け量70g/m2および30g/m2のポリエチレン/ポリエステル複合型不織布を用意し、表面に顔料(フタロシアニンブルー)と抗菌剤(銀系抗菌剤)とを混入したコーティング液を塗布した後、風乾して、抗菌・着色処理を施した。ついで、前記PTFE多孔質膜の上流側および下流側に、支持層として、前記ポリエチレン/ポリエステル複合型不織布を重ねた後、熱ラミネートにより一体化して、図2に示す構造の家電製品用エアフィルタ濾材20を作製した。この家電製品用エアフィルタ濾材20の風速5.3cm/秒での圧力損失は73.5Pa(7.5mmH2O)であり、粒子径0.3〜0.5μm粒子対象の捕集効率は99.98%、PF値は49であった。
【0047】
実施例1の家電製品用エアフィルタ濾材20を水道水に浸し、歯ブラシを使用し表面を軽くこすって約5分間洗浄した後、約2日間自然乾燥させた。乾燥後の前記家電製品用エアフィルタ濾材20の風速5.3cm/秒での圧力損失は74Pa(7.5mmH2O)であり、粒子径0.3〜0.5μm粒子対象の捕集効率は99.98%であり、洗浄前の性能を示した。
【0048】
(実施例2)
本実施例では、PTFE多孔質膜11を前記実施例1と全く同様にして得た。次に、目付け量100g/m2のポリエチレン/ポリエステル複合型不織布を用意し、表面に顔料(フタロシアニンブルー)と抗菌剤(銀系抗菌剤)を混入したコーティング液を塗布した後、風乾して、抗菌・着色処理を施した。続いて、前記PTFE多孔質膜の下流側に支持層として、前記ポリエチレン/ポリエステル複合型不織布を重ねた後、熱ラミネートにより一体化して、図1に示す構造の家電製品用エアフィルタ濾材を作製した。この家電製品用エアフィルタ濾材の風速5.3cm/秒での圧力損失は72.0Pa(7.3mmH2O)であり、粒子径0.3〜0.5μm粒子対象の捕集効率は99.98%、PF値は50であった。
【0049】
実施例2の家電製品用エアフィルタ濾材10を水道水に浸し、歯ブラシを使用し表面を軽くこすって約5分間洗浄した後、約2日間自然乾燥させた。乾燥後の前記家電製品用エアフィルタ濾材10の風速5.3cm/秒での圧力損失は74Pa(7.5mmH2O)であり、粒子径0.3〜0.5μm粒子対象の捕集効率は99.98%であり、洗浄前の性能を示した。
【0050】
(比較例1)
家電製品用に広く販売されているポリプロピレン製メルトブロー不織布を用いたエレクトレットフィルタを比較例1とした。前記エレクトレットフィルタの風速5.3cm/秒での圧力損失は35.28Pa(3.6mmH2O)であり、粒子径0.3〜0.5μm粒子の捕集効率は99.7%、PF値は70であった。
【0051】
前記エレクトレットフィルタを水道水に約5分間浸した後、約2日間自然乾燥させた。乾燥後の前記エレクトレットフィルタの風速5.3cm/秒での圧力損失は36Pa(3.6mmH2O)であったが、粒子径0.3〜0.5μm粒子対象の捕集効率は80%となり、大きく低下した。
【0052】
前記実施例1、2および比較例1の結果から、実施例1、2および比較例1のエアフィルタ濾材は、いずれも圧力損失が低く、かつ捕集効率が高い。しかしながら、比較例1のエアフィルタ濾材は水洗によって、捕集効率が著しく低下することがわかる。
【0053】
(実施例3)
まず、PTFE微粉末100重量部に対して流動パラフィン(液状潤滑剤)20重量部を加えたペースト状の混合物を作製した。このペースト状混合物を押出し成形により丸棒状に成形し、さらにこの丸棒状成形体を圧延して、シート状PTFE成形体(厚み0.2mm)を得た。前記シート状PTFE成形体から前記液状潤滑剤をトリクレンによる抽出により除去した後、300℃の延伸温度で前記シート状PTFE成形体をシート長手方向に2000%延伸した。続いて、このシート状PTFE成形体を150℃の延伸温度でシート幅方向に5000%延伸して、PTFE多孔質膜(厚み4μm、空孔率95%、圧力損失49Pa(5.0mmH2O)、捕集効率99.97%)を得た。
【0054】
前記PTFE多孔質膜の両面に、ポリエチレンテレフタレートを芯、ポリエチレン(融点約130℃)を鞘とする芯鞘繊維から形成される不織布(エルベス T0105WDO(商品名)、ユニチカ株式会社製、厚み100μm、目付量15g/m2、曲げ剛性5.0×10-6N・cm2/cm)を重ね、熱ラミネートにより一体化して、PTFE多孔質膜の両面に不織布が部分的に接合された3層構造のエアフィルタ濾材(厚み130μm、圧力損失58.8Pa(6mmH2O)、捕集効率99.97%、PF値59)を得た。
【0055】
実施例3で得たエアフィルタ濾材を、水道水中で3日間浸漬した。風乾した後のエアフィルタ濾材は、圧力損失55.0Pa(5.5mmH2O)、捕集効率99.97%およびPF値63であった。
【0056】
(比較例2)
市販の一般的な電気掃除機用紙製フィルタバック(旭化成ライフ&リビング株式会社製、そうじ機紙パック(商品名))のエアフィルタ濾材を比較例2とした。このエアフィルタ濾材の厚みは195μm、圧力損失は50Pa(5.1mmH2O)、捕集効率は<10%、PF値は<1であった。
【0057】
前記実施例3および比較例2の結果から、実施例3のエアフィルタ濾材は、圧力損失が低く、かつ捕集効率が高く、PF値も高かった。一方、比較例2のエアフィルタ濾材は圧力損失が低いが、捕集効率も低く、PF値が低かった。従って、実施例3のエアフィルタ濾材は、低圧力損失と高捕集効率を両立する濾材を含むエアフィルタ濾材である。しかも、本発明のエアフィルタ濾材はPTFE多孔質膜を使用しているため、水分存在下にも捕集効率が低下しない。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の家電製品用エアフィルタ濾材は、家庭用掃除機、家庭用空気清浄機、家庭用空調機等、各種家電製品用のエアフィルタ濾材として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の家電製品用エアフィルタ濾材の一例の断面図である。
【図2】本発明の家電製品用エアフィルタ濾材のその他の例の断面図である。
【図3】本発明の電気掃除機用フィルタバックの一例の断面図である。
【図4】前記電気掃除機用フィルタバックの一例の正面図である。
【符号の説明】
【0060】
10、20 家電製品用エアフィルタ濾材
11、21 PTFE多孔質膜
12、22、支持層
30 電気掃除機用フィルタバック
32 支持板
32a 切欠
32b 孔
33 吸引口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
家電製品用エアフィルタ濾材であって、風速5.3cm/秒での圧力損失が120Pa以下であり、粒子径0.3〜0.5μm粒子の捕集効率が95%以上であり、多層構造であり、そのうちの少なくとも一層はポリテトラフルオロエチレン多孔質膜から形成されているエアフィルタ濾材。
【請求項2】
下記式のPF値が25以上である請求項1記載のエアフィルタ濾材。
PF値={−log(透過率/100)/圧力損失}×100
透過率=100−捕集効率
【請求項3】
多層構造の少なくとも一層が支持層である請求項1または2記載のエアフィルタ濾材。
【請求項4】
前記支持層の単位面積当たりの重量が、10〜200g/m2の範囲にある請求項3記載のエアフィルタ濾材。
【請求項5】
その一部若しくは全部に抗菌処理が施されている請求項1〜4のいずれかに記載のエアフィルタ濾材。
【請求項6】
その一部若しくは全部に着色処理が施されている請求項1〜5のいずれかに記載のエアフィルタ濾材。
【請求項7】
適用対象の家電製品が、家庭用掃除機、家庭用空気清浄機および家庭用空調機の少なくとも一つである請求項1〜6のいずれかに記載のエアフィルタ濾材。
【請求項8】
電気掃除機用フィルタバックに用いられる、請求項1〜7のいずれかに記載のエアフィルタ濾材。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載のエアフィルタ濾材を含む、電気掃除機用フィルタバック。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載のエアフィルタ濾材を用いた家電製品。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれかに記載のエアフィルタ濾材を用いた家庭用掃除機。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれかに記載のエアフィルタ濾材を用いた家庭用空気清浄機。
【請求項13】
請求項1〜7のいずれかに記載のエアフィルタ濾材を用いた家庭用空調機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−61830(P2006−61830A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−247381(P2004−247381)
【出願日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】