説明

容器入り即食リゾットの製造方法

【課題】米飯の食感がリゾット本来の粒感があり、且つ、アルデンテ様の歯応えを有するとともに、スープのベタツキが抑えられた容器入り即食リゾットを提供することを目的とする。
【解決手段】水を添加吸収させていない米と、デキストリン溶解液との混合物を加熱し、得られた加熱混合物と、別途調製された、調味された液状物とを容器に充填して密封し、加熱調理することにより、上記の性質を有する容器入り即食リゾットを製造することができる。デキストリン溶解液中のデキストリン濃度は30〜70%(W/W)が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子レンジなどで温めるだけで食べることができる容器入り即食リゾットおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リゾットとは、イタリア料理の一つで、油で炒めた米をスープで煮込むことによって調理されるもので、米飯の食感が、粒感があり、且つ、アルデンテ様の歯応えのあることが特徴である。しかし、調理したリゾットを長期間保管すると、米飯がスープを吸収し、ふやけてしまうため、リゾット本来の食感が失われる。
【0003】
そこで、従来は、常温やチルド環境で長期間保管される加工食品のリゾットを提供する場合、米飯とスープを、それぞれ別々に、充填・調理され、喫食時にそれらを合わせることで上記問題を解決していた。例えば、容器包装米飯と、レトルトパウチに充填されたスープがセットされた加工食品がある。しかし、米とスープが一緒に煮込まれていないために、リゾット本来の煮込み感がないという別の課題が生じる。
【0004】
又、リゾットと同じような米飯の煮込みメニューとして、粥や雑炊がある。それらの加工食品も、長期間保管すると、同様に米飯がふやけたり、形が崩れるといった問題があった。それを解決するために、米を煮込む際に、水に澱粉分解物(特許文献1)や、ゼラチン(特許文献2)を溶解したり、米を100℃以上で加圧蒸煮した後、水と供に炊飯すること(特許文献3)が行われている。しかし、これらの方法により、粥や雑炊の米飯のふやけや、形崩れを抑えることはできても、本来のリゾットに求められる、粒感があり、且つ、アルデンテ様の歯応えのある食感を実現することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭54−059347号公報
【特許文献2】特開昭61−219346号公報
【特許文献3】特開昭58−013355号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、米飯とスープが一緒に調理された容器入り即食リゾットであって、その米飯の食感が、リゾット本来の粒感があり、且つ、アルデンテ様の歯応えを有し、更に、スープのベタツキが抑えられたリゾットを製造することを目的とする。
【0007】
ここで、本発明において、容器入り即食リゾットとは、レトルトパウチ、カップ容器、および、口栓付きパウチといった、一つの容器に米飯とスープが一緒に充填・調理されたもので、電子レンジなどで温めるだけで食べることができるリゾットのことである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するための手段として以下の発明を完成させた。
(I)水を添加吸収させていない無洗米又は生米と、デキストリンを溶解してなる液状物との混合物を加熱する加熱工程と、
前記加熱工程において加熱された加熱混合物と、調味された液状物とを容器に充填する原料充填工程と、
原料充填工程後の前記容器を密封する密封工程と、
密封工程後の前記容器を加熱することにより、前記容器内に充填密封された、前記加熱混合物と前記調味された液状物とを含む原料組成物を、リゾットに調理するとともに殺菌する調理殺菌工程と、
を含むことを特徴とする、容器入り即食リゾットの製造方法。
(II)前記、デキストリンを溶解してなる液状物の、デキストリン濃度が30〜70%(W/W)の範囲内にあることを特徴とする、(I)記載の方法。
(III)前記原料組成物の液状部分の平均DE値が0.5〜4.0の範囲内にあることを特徴とする、(I)又は(II)記載の方法。
(IV)前記調理殺菌工程後に、前記リゾット入り前記容器を冷蔵する冷蔵工程を含むことを特徴とする、(I)から(III)のいずれかに記載の方法。
(V)前記冷蔵工程が、−10〜10℃の雰囲気下で2〜72時間の条件で行われることを特徴とする(IV)記載の方法。
【0009】
(VI)(I)から(V)のいずれかに記載の方法で製造された、容器入り即食リゾットであって、当該リゾット中の米飯の、以下の手順で算出されたバランス度Hが0.03〜0.21で、且つ、バランス度Aが0.02〜0.11の範囲内であることを特徴とする、容器入り即食リゾット。
(1)電子レンジを用いて、前記容器入り即食リゾットを品温70℃〜100℃に温めて喫食状態にする。
(2)次いで、前記リゾット中の米飯を取り出し、乾燥させないように、これら米飯粒を25℃の密閉下にて、2時間放置する。
(3)測定試料載置面を有する、該測定試料載置面の垂線方向に移動可能な試料台と、直径30mmの円形の試料接触面を一端に有するプランジャーであって、前記試料接触面が前記測定試料載置面に対向する位置に固定して配置されているプランジャーとを備えるテンシプレッサー(タケトモ電機製の引張圧縮試験装置)の前記測定試料載置面上に前記放置後の米飯粒一粒を置く。
(4)前記試料台を前記プランジャーに2mm/秒の速度で接近させ、前記米飯粒を、前記試料台の測定試料載置面と前記プランジャーの試料接触面との間で、米飯の厚みの25%分を圧縮し、引き続き、前記試料台と前記プランジャーとを2mm/秒の速度で遠ざけ、前記プランジャーの試料接触面から前記米飯粒を引き離す。
(5)前記試料台を前記プランジャーに2mm/秒の速度で接近させ、前記米飯粒を、前記試料台の測定試料載置面と前記プランジャーの試料接触面との間で、米飯の厚みの90%分を圧縮し、引き続き、前記試料台と前記プランジャーとを2mm/秒の速度で遠ざけ、前記プランジャーの試料接触面から前記米飯粒を引き離す。この操作の間、米飯粒からプランジャーが受ける応力を、圧縮応力が正の値、引張応力が負の値となるように経時的に連続に測定する。
(6)前記試料台の移動距離を横軸、応力を縦軸とする座標上に、前記(5)での測定の結果に基づいてグラフを描画した場合の応力の最大値a、及び、応力の最小値の絶対値bを記録するとともに、応力の数値が0〜正である前記グラフの部分と前記横軸とにより包囲される領域の面積A、及び、応力の数値が負〜0である前記グラフの部分と前記横軸とにより包囲される領域の面積Bを算出する。
(7)最小値の絶対値b/最大値aの値をバランス度Hとして、面積B/面積Aの値をバランス度Aとして算出する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、米飯とスープが一緒に調理された容器包装入り即食リゾットであって、その米飯の食感が、リゾット本来の粒感があり、且つ、アルデンテ様の歯応えを有するとともに、スープのベタツキが抑えられたリゾットを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は米飯粒のバランス度Hとバランス度Aを算出するためのピークの高さaとb、及び、面積A及びBについて説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
無洗米又は生米
本発明には、水を添加吸収させていない無洗米又は生米を用いる。無洗米を得るための無洗化方法には、水を使う湿式や、水を使わない乾式、および、タピオカや糠の付着力を利用したものがあるが、特に制限はない。又、無洗米又は生米に、玄米、発芽玄米、黒米、粟、黍、稗、胡麻、アマランサス、キヌア、豆類、麦類等の穀物を適宜、ブレンドしても構わない。
【0013】
「水を添加吸収させていない無洗米又は生米」とは、無洗米又は生米を、常法により水で洗浄したり、水中に人為的に浸漬するなどして水を吸収させていないものを指し、その水分含量としては、11質量%〜22質量%、好ましくは、12質量%〜20質量%である。洗米や水浸漬により、米が水を吸収して水分含量が22質量%以上になってくると、下記のデキストリンを溶解してなる液状物で加熱する際に米の澱粉の糊化が促進してしまう。その結果、調理殺菌時に、米飯は多くの水分を吸収し、アルデンテ様の歯応えのある食感が失われる。又、米が水を吸収していても、スープ部のデキストリン濃度を高くすることで、スープから米への水分移行速度を抑制できるが、調理後のスープのベタツキが強くなり、リゾットとしての美味しさが失われる。一方、水を添加吸収させていない無洗米又は生米の水分含量が少なくなり過ぎると、下記のデキストリンを溶解してなる液状物で加熱する際や調理殺菌時に米粒が割れる問題が発生する。
【0014】
デキストリン溶液中で米を加熱する加熱工程
水を添加していない無洗米又は生米は、容器に充填する前に、「デキストリンを溶解してなる液状物」(以下「A液」と称する)と混合し加熱処理する。この加熱処理を施すことで、米粒は硬く、煮崩れ難くなる。
【0015】
このA液のデキストリン濃度は30〜70%(W/W)であることが好ましく、40〜60%(W/W)であることがより好ましい。デキストリンをこの範囲の濃度に調整することで、デキストリンの保水能が著しく高くなり、無洗米又は生米と混合し加熱処理しても、米粒は水をほとんど吸収せず、実質的に水を添加することなく加熱される状態になり、米粒は硬く、煮崩れも抑制される。一方、デキストリン濃度が30%(W/W)より低くなると、加熱処理中に、米粒が水を吸収し、糊化が進むため、米粒を硬くして煮崩れを抑制する効果が弱くなる。一方、70%(W/W)より高くなると、液状物の粘度が著しく高くなり、米と混ぜ合わせることが難しくなる。
【0016】
このA液には、更に、デキストリンの保水能を補う目的で、リゾットのベタツキに影響を与えない範囲で、ゼラチンや、澱粉、加工澱粉、ペクチン、キサンタンガム、寒天などの多糖類が適宜添加されてもよい。また、同じ目的で、水分活性を低くする効果がある食塩、塩化カリウムなどの塩類や、ブドウ糖、砂糖、オリゴ糖などの糖類が、リゾットの風味に影響を与えない範囲で添加されてもよい。
【0017】
無洗米又は生米と、A液の配合比は、米1重量部に対し、A液が0.6〜4.5重量部であることが好ましく、0.75〜3重量部であることがより好ましい。上記範囲よりA液の量が多くなると、最終的にリゾットにしたときのデキストリン濃度が高くなり、ベタツキが強くなったり、甘味が強くなるおそれがある。一方、A液が少なくなると、米全体にA液を行き渡らせられなかったり、米とA液が一体となり、斜軸釜などで加熱攪拌するときの加熱ムラが大きくなるおそれがある。
【0018】
無洗米又は生米をA液とともに加熱する条件としては、80℃〜120℃で1分間〜90分間、好ましくは、85℃〜110℃で、4分間〜1時間の条件を挙げることができる。加熱温度が80℃より低いと、本発明が目的とする、米粒を硬くして煮崩れを抑制する効果が弱くなる。一方、120℃より高くなると、加熱処理中に、米粒が吸水し、糊化が進むため、同様に、米粒を硬くして煮崩れを抑制する効果が弱くなる。
【0019】
玉葱、人参、馬鈴薯、トマト、キノコなどの野菜類、牛肉、豚肉、鶏肉といった肉類や、海老、イカ、ホタテなどの魚介類のような各種具や、香辛料などの固形分や油脂類をA液に加えても良いし、無洗米又は生米をA液と加熱混合する前や、加熱混合した後に加えても良い。A液の粘度を適宜、調整することにより、これらの各種具や、固形分や、油を米と同時に容器に充填することもできる。又、必要に応じて、醤油、ウスターソースなどの調味料、各種だしなどをA液に加えても良い。
【0020】
尚、本発明で用いられるデキストリンとは、原料澱粉を低分子化したもので、乾式分解したもの(焙焼デキストリン)でも、湿式分解したもの(酸処理澱粉、酸化澱粉、酵素変性デキストリン)でも良い。又、これらのデキストリンに、水素添加し還元したものを使用しても良い。
【0021】
上記デキストリンは、DEが5〜20のものであることが好ましい。DEが5より小さいデキストリンは、A液の保水能を高める効果は高いが、最終的にリゾットにしたときに、スープのベタツキが強くなってしまう。一方、DEが20より大きいと、保水能が低く、調理殺菌時に、米澱粉の糊化を抑制する効果が弱いため、米飯の歯応えが弱くなり、スープの甘みも強くなってしまう。
【0022】
DEが5〜20の大きさのデキストリンは、A液の保水能を高める効果がDE5未満のデキストリンよりも小さいが、最終的にリゾットにしたときに、スープのベタツキが弱く、又、調理殺菌時に、米澱粉の糊化を抑制する効果が高い。
【0023】
原料充填工程
原料充填工程は、無洗米又は生米とA液とを混合し加熱して得られた加熱混合液と、「調味された液状物」を容器に充填する工程である。
【0024】
「調味された液状物」(以下「B液」と称する)とは、醤油、ウスターソースなどの調味料や各種だしなどから構成される。B液と、デキストリンを溶解してなる液状物(A液)との構成物が組み合わされて、リゾットの液状部分(以下、「スープ部」と称することがある)が形成される。スープ部の保水能を補強する目的で、B液にデキストリンを添加しても良いし、ゼラチンや、澱粉、加工澱粉、ペクチン、キサンタンガム、寒天などの多糖類を適宜、添加しても良い。
【0025】
容器中には、さらに、必要に応じて、玉葱、人参、馬鈴薯、トマト、キノコ類などの野菜類、牛肉、豚肉、鶏肉といった肉類や、海老、イカ、ホタテなどの魚介類のような各種具が充填されても良い。これらの成分は、上述したように、A液を調製する段階に由来するものであっても良いし、無洗米又は生米をA液で加熱混合する前又は後の段階に由来するものであっても良いし、B液を調製する段階に由来するものであっても良いし、原料充填工程で新たに添加されたものであっても良い。
【0026】
各原料を充填した段階での無洗米又は生米と、リゾットのスープ部の配合比は、米1重量部に対し、当該スープ部が、1.5〜6.7重量部、好ましくは、1.7〜5.5重量部になっていることが望ましい。上記範囲より、スープ部が多くなってくると、粥状になり、リゾットの食感として不適になる。一方、スープ部が少なくなってくると、米飯の食感が硬くなり過ぎてしまう。
【0027】
また、リゾットのスープ部(液状部分)の平均DE値が、0.5〜4.0、より好ましくは、0.6〜3.5になるように、A液とB液のデキストリンの種類と配合比を決定する。平均DEが0.5より小さい、つまり、DEの小さいデキストリンを多く配合すると、上述したように、リゾットのスープのベタツキが強くなる。一方、平均DEが4.0より大きくなると、調理殺菌時に米澱粉を抑制する効果が弱く、甘味が強く感じられるようになる。なお、上記した平均DE値とは、デキストリンを溶解したスープ部中のDE値を平均したもので、例えば、DE値10のデキストリン9質量%、DE値5のデキストリン6質量%をスープ部に溶解した場合、スープ部中の平均DE値は、次の式で求めることができる。
スープ部中の平均DE値=10×0.09+5×0.06=1.2
即ち、上記の例の場合のスープ部中の平均DE値は1.2ということになる。
【0028】
密封工程
密封工程では、上述の各原材料が充填された容器を密封する。又、密封後、必要に応じて、A液とB液の混合を促すため、容器を振とうさせても良い。
【0029】
調理殺菌工程
調理殺菌工程は、密封工程後の前記容器を加熱することにより、前記容器内に充填密封された、無洗米又は生米とA液の加熱混合物とB液と含む原料組成物を、リゾットに調理すると共に殺菌する工程である。
【0030】
加熱方法としては、例えば、レトルト釜などの圧力調整できる圧力釜により、内容物が密封された容器を加熱する方法が挙げられる。この方法により、容器内に気体が含まれていたとしても、容器を破袋させることなく加熱して、内容物を調理及び殺菌することができる。この場合、所定の殺菌価が達成される条件で加熱を行えばよい。これにより、常温やチルド流通で長期間保存できるリゾットを提供することもできる。
【0031】
加熱条件としては、常温流通させるための殺菌価としてF120℃=4分以上という条件を例示することができ、また、チルド流通させるための殺菌価としてはF100℃=10〜30分という条件を例示することができる。
【0032】
冷蔵工程
冷蔵工程は、調理殺菌工程後の前記リゾットを冷蔵する工程である。調理殺菌工程後前記容器ごと冷蔵する。この冷蔵により、リゾット中の米飯が老化し、スープ中の水分を要求する能力が低下するため、リゾット様の歯応えのある食感を、長時間、維持するのに適している。冷蔵は、−10℃〜10℃の雰囲気下で、2時間〜72時間、より好ましくは、−5℃〜5℃で、4時間〜60時間の条件で行うのが良い。冷蔵温度が10℃より高くなってくると、老化速度が遅くなり、一方、−10℃より低くなると、リゾットが凍結するため、糊化状態を維持し、老化が抑制されてしまう。
【0033】
このようにして、本発明の容器入り即食リゾットを得ることができる。得られた容器入り即食リゾットを製造直後、および、長期間保管した後、ホットベンダーあるいは電子レンジや湯煎で加熱して喫食することができる。喫食時に、米飯の食感はリゾット本来の粒感があり、且つ、アルデンテ様の歯応えを有するとともに、スープのベタツキが抑えられている。
【0034】
リゾットの物性
本発明で得られたリゾットの物性値をテンシプレッサーで測定した時、米飯粒全体のバランス度Hは0.03〜0.21の範囲で、且つ、バランス度Aは0.02〜0.11の範囲にある。ここで、米飯粒全体のバランス度Hが0.03〜0.21で、且つ、バランス度Aが0.02〜0.11の範囲にあるとき、粒感があり、且つ、アルデンテ様の歯応えを感じられる。一方、米飯粒全体のバランス度Hが0.03より小さいか、もしくは、バランス度Aが0.02より小さくなると、米飯粒全体の糊化が不十分で、食感としては硬すぎる。一方、バランス度Hが0.21より大きいか、もしくは、バランス度Aが0.11より大きくなると、米飯粒内部まで糊化が進み、アルデンテ様の歯応えが失われる。
又、本発明における、「テンシプレッサー」とは、タケトモ電機製の引張圧縮試験装置を示す。
【0035】
上記米飯粒全体のバランス度は、上記テンシプレッサーを用いて、参考文献(日本食品科学工学会誌 Vol.45,No.7,398-407(1998))の実験方法を基にした次の方法により測定することができる。すなわち、
(1)電子レンジを用いて、前記容器入り即食リゾットを品温70℃以上、好ましくは品温70℃〜100℃に温めて喫食状態にする。電子レンジによる具体的な条件としては、500〜600Wで、1分30秒〜2分間という条件を例示することができるが、内容量、容器の形状や大きさによって、加熱条件は変わってくる。
(2)次いで、前記リゾット中の米飯を取り出し、乾燥させないように、これら米飯粒を25℃の密閉下にて、2時間放置する。
(3)前記放置後の米飯粒一つを、測定試料載置面を有する、該測定試料載置面の垂線方向に移動可能な試料台と、直径30mmの円形の試料接触面を一端に有するプランジャーであって、前記試料接触面が前記測定試料載置面に対向する位置に固定して配置されているプランジャーとを備えるテンシプレッサー(タケトモ電機製の引張圧縮試験装置)の前記測定試料載置面上に置く。
(4)前記試料台と前記プランジャーとを2mm/秒の速度で接近させ、前記米飯粒を、前記試料台の測定試料載置面と前記プランジャーの試料接触面との間で、米飯の厚みの25%分を圧縮し、引き続き、前記試料台と前記プランジャーとを2mm/秒の速度で遠ざけ、前記プランジャーの試料接触面から前記米飯粒を引き離す。
(5)前記試料台と前記プランジャーとを2mm/秒の速度で接近させ、前記米飯粒を、前記試料台の測定試料載置面と前記プランジャーの試料接触面との間で、米飯の厚みの90%分を圧縮し、引き続き、前記試料台と前記プランジャーとを2mm/秒の速度で遠ざけ、前記プランジャーの試料接触面から前記米飯粒を引き離す。この操作の間、米飯粒からプランジャーが受ける応力を、圧縮応力が正の値、引張応力が負の値となるように経時的に連続に測定する。
(6)前記試料台の移動距離を横軸、応力を縦軸とする座標上に、前記(5)での測定の結果に基づいて グラフを描画した場合の応力の最大値a、及び、応力の最小値の絶対値bを記録するとともに、応力の数値が0〜正である前記グラフの部分と前記横軸とにより包囲される領域の面積A、及び、応力の数値が負〜0である前記グラフの部分と前記横軸とにより包囲される領域の面積Bを算出する。(図1参照)
(7)最小値の絶対値b/最大値aの値をバランス度Hとして、面積B/面積Aの値をバランス度Aとして算出する。
【0036】
好ましくは、上記の(2)において20粒以上の米飯を取り出し、各米粒についてバランス度を算出し、その平均値をバランス度の値とする。
【実施例】
【0037】
<実施例1>
(1)生米(平成19年産まっしぐら)5kgと、DE8のデキストリン50%(W/W)溶液5kgを斜軸釜に投入し、混合した後、80℃で30分の条件で、加熱した。
(2)100mm×120mmの大きさのパウチに、(1)で得られた加熱混合物20gと、生米を除くスープ部のpHが4.5、食塩濃度が0.9、平均DEが1.6になるように、クエン酸・クエン酸Na、食塩、DE8のデキストリンから構成された溶液30gと充填し、密封した。
(3)上記パウチの最遅点のF0値が、3.1分以上になる熱量を加えて、調理とともに、加熱殺菌処理を施した
(4)加熱殺菌処理後、5℃の雰囲気下で48時間冷却し、容器包装入りリゾット(モデル系)を製造した。
【0038】
<実施例2>
生米をデキストリン溶液で混合加熱するときの加熱条件が、100℃で30分であること以外は、実施例1と同様の方法にて、容器包装入りリゾットを製造した。
【0039】
<実施例3>
デキストリン溶液の濃度が60%(W/W)であること以外は、実施例2と同様の方法にて、容器包装入りリゾットを製造した。
【0040】
<実施例4>
デキストリン溶液に、濃度が3.5%(W/W)となるよう食塩を添加していること、(2)で食塩を添加しないこと以外は、実施例3と同様の方法にて、容器包装入りリゾットを製造した。
【0041】
<比較例1>
(1)100mm×120mmの大きさのパウチに、生米(平成19年産まっしぐら)10gと、pHが4.5、食塩濃度が0.9、平均DEが1.6になるように、クエン酸・クエン酸Na、食塩、DE8のデキストリンから構成されたスープ40gとを充填し、密封した。
(2)上記パウチの最遅点のF0値が、3.1分以上になる熱量を加えて、調理とともに、加熱殺菌処理を施した。
(3)加熱殺菌処理後、5℃の雰囲気下で48時間冷却し、容器包装入りリゾット(モデル系)を製造した。
【0042】
比較実験1
実施例1〜4および比較例1について、製造直後に、生米からスープに溶出した固形分量を、次のように測定した。つまり、
(1)製造直後、200mlのビーカーに、各サンプルの内容物を入れた。続いて、各パウチを蒸留水100mlで洗浄して、内容物の全量を前記ビーカーに移した。
(2)ビーカーに回転子を入れて、1,000rpmで、30秒間、攪拌した。
(3)攪拌後、1mmメッシュのふるいに通過させて、米飯と水相部に分けた。
(4)分離された水相部を遠沈管に入れて、12,000rpm、4℃、10分の条件で遠心分離し、上清を捨てた。
(5)遠沈管に残った沈殿から、デキストリンを除去するため、沈殿を蒸留水300mlで水洗いし、遠心分離して(12,000rpm、4℃、10分)、上清を捨てる、ステップを3回繰り返した。
(6)最終的に、遠沈管の沈殿を、蒸留水で洗いながら、秤量缶に全量移した。これを105℃で、16時間乾燥し、水分を蒸散させた後の重量を測定し、この値を、生米10gからスープに溶出した固形分量とした。
各サンプルについて、測定した結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
溶出固形分の主要成分は米澱粉であり、その量が多くなるとリゾットのスープのベタツキが強くなる。上記表1のように、生米をデキストリンを溶解してなる液状物で加熱処理していない比較例1と比較して、実施例1〜実施例4は、生米10g当りの溶出固形分量が少なく、リゾットのスープのベタツキは弱かった。
【0045】
<実施例5>
(1)生米(平成19年産まっしぐら)10kgと、デキストリンの濃度が52%(W/W)になるように、DE8のデキストリン4.9kg、食塩0.26kg、油0.94kg、水3.4kgを溶解・分散させたデキストリン溶液9.5kgを斜軸釜に投入し、混合した後、100℃で30分の条件で加熱した。
(2)加熱後、(1)にダイストマト2.1kgを加え、攪拌した。
(3)130mm×150mmの大きさのパウチに、(2)の混合物82gと、油で50%まで炒めた玉葱1g、魚介エキス1g、トマトペースト10g、水56gを溶解・分散させた調味液68gを充填し密封した(パウチ内において、生米を除く、スープ部の平均DEは1.3、食塩濃度は0.85%になる)。
(4)上記パウチの最遅点のF0値が、3.1分以上になる熱量を加えて、調理とともに、加熱殺菌処理を施した。
(5)加熱殺菌処理後、5℃の雰囲気下で24時間冷却し、容器包装入りリゾットを製造した。
【0046】
<実施例6>
(1)において、デキストリンの濃度が35%(W/W)になるように、DE8のデキストリン3.3kg、食塩0.26kg、油0.94kg、水5.0kgを溶解・分散させたデキストリン溶液9.5kgを斜軸釜に投入すること、(3)において、スープ部の平均DEが1.3になるように、調味液にDE8のデキストリンを添加すること以外は、実施例5と同様の方法にて、容器入り即食リゾットを製造した。
【0047】
<実施例7>
(1)において、デキストリンの濃度が30%(W/W)になるように、DE8のデキストリン2.9kg、食塩0.26kg、油0.94kg、水5.4kgを溶解・分散させたデキストリン溶液9.5kgを斜軸釜に投入すること、(3)において、スープ部の平均DEが1.3になるように、調味液にDE8のデキストリンを添加すること以外は、実施例5と同様の方法にて、容器入り即食リゾットを製造した。
【0048】
<比較例2>
(1)生米(平成19年産まっしぐら)37gを洗米した。
(2)洗った米を、20℃の水に1時間浸漬した後、水切りし、浸漬米を得た。
(3)130mm×150mmの大きさのパウチに、(2)の浸漬米48gと、実施例5のスープ部と同じ配合比になるように作成したスープ102gを充填し密封した。
(4)上記パウチの最遅点のF0値が、3.1分以上になる熱量を加えて、調理とともに、加熱殺菌処理を施した。
(5)加熱殺菌処理後、5℃の雰囲気下で24時間冷蔵し、容器入り即食リゾットを製造した。
【0049】
<比較例3>
(1)において、デキストリンの濃度が25%(W/W)になるように、DE8のデキストリン2.4kg、食塩0.26kg、油0.94kg、水5.9kgを溶解・分散させたデキストリン溶液9.5kgを斜軸釜に投入すること、(3)において、スープ部の平均DEが1.3になるように、調味液にDE8のデキストリンを添加すること以外は、実施例5と同様の方法にて、容器入り即食リゾットを製造した。
【0050】
比較試験2
実施例5〜7と比較例2〜3の米飯粒について、製造直後と20℃で7日間保管した後、上記の方法に従い、テンシプレッサーにて、米飯粒全体のバランス度Hとバランス度Aを測定した。
各サンプルについて、測定した結果を表2に示す。
【0051】
【表2】

【0052】
比較試験3
実施例5〜7と比較例2〜3のリゾットについて、製造直後と20℃で7日間保管した後、電子レンジなどで品温70〜100℃になるまで温めて、米飯の食感と、スープのベタツキを官能評価した。尚、ベタツキは、次のように、4段階で評価した。
「◎」=ベタツキ非常に弱い
「○」=ベタツキ弱い
「△」=ベタツキ許容限界レベル
「×」=ベタツキ強い
各サンプルについて、官能評価した結果を表3に示す。
【0053】
【表3】

【0054】
上記表3のように、実施例5〜実施例7は、デキストリンを溶解してなる液状物で生米を加熱することで、米粒は硬くなり煮崩れも抑えられるため、米飯は粒感があり、アルデンテ様の歯応えがあった。また、スープのベタツキも弱く、本格的なリゾットを味わうことができた。これらを20℃で7日間保存した後も、製造直後からの変化は小さく、許容範囲内の米飯の食感と、スープのベタツキを維持することができた。
【0055】
それらに対して、比較例2は、パウチに充填するまでに、米が水を含むため、調理時に糊化が促進し、米の内部までスープが多く浸透した結果、米飯はアルデンテ様の歯応えが失われていた。
【0056】
また、比較例3は、デキストリンを溶解してなる液状物で、生米を加熱しているが、デキストリン濃度が低いため、加熱処理中に米粒が吸水し、糊化が進み、米粒を硬くし煮崩れを抑える効果が小さい。このため適度にコシは感じられるものの、粒感が弱く、スープのベタツキも強かった。これを20℃で7日間保存すると、さらに食感が柔らかくなり、ベタツキも強かった。
【0057】
尚、粒感があり、アルデンテ様の歯応えのある食感は、テンシプレッサーで測定した米飯粒のバランス度Hとバランス度Aで説明することができ、それらの値が所定の範囲内に入っていると本格的なリゾットの食感を味わうことができる。
【0058】
上記表2より、実施例5〜実施例7の米飯粒は、バランス度Hが0.03〜0.21で、且つ、バランス度Aが0.02〜0.11の範囲内にあることで、粒感があり、アルデンテ様の歯応えを感じられた。一方、アルデンテ様の歯応えが感じられない比較例2及び比較例3の米飯粒は、上記範囲内には入っていなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を添加吸収させていない無洗米又は生米と、デキストリンを溶解してなる液状物との混合物を加熱する加熱工程と、
前記加熱工程において加熱された加熱混合物と、調味された液状物とを容器に充填する原料充填工程と、
原料充填工程後の前記容器を密封する密封工程と、
密封工程後の前記容器を加熱することにより、前記容器内に充填密封された、前記加熱混合物と前記調味された液状物とを含む原料組成物を、リゾットに調理するとともに殺菌する調理殺菌工程と、
を含むことを特徴とする、容器入り即食リゾットの製造方法。
【請求項2】
前記、デキストリンを溶解してなる液状物の、デキストリン濃度が30〜70%(W/W)の範囲内にあることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記原料組成物の液状部分の平均DE値が0.5〜4.0の範囲内にあることを特徴とする、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記調理殺菌工程後に、前記リゾット入り前記容器を冷蔵する冷蔵工程を含むことを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
前記冷蔵工程が、−10〜10℃の雰囲気下で2〜72時間の条件で行われることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項記載の方法で製造された、容器入り即食リゾットであって、当該リゾット中の米飯の、以下の手順で算出されたバランス度Hが0.03〜0.21で、且つ、バランス度Aが0.02〜0.11の範囲内であることを特徴とする、容器入り即食リゾット。
(1)電子レンジを用いて、前記容器入り即食リゾットを品温70℃〜100℃に温めて喫食状態にする。
(2)次いで、前記リゾット中の米飯を取り出し、乾燥させないように、これら米飯粒を25℃の密閉下にて、2時間放置する。
(3)測定試料載置面を有する、該測定試料載置面の垂線方向に移動可能な試料台と、直径30mmの円形の試料接触面を一端に有するプランジャーであって、前記試料接触面が前記測定試料載置面に対向する位置に固定して配置されているプランジャーとを備えるテンシプレッサー(タケトモ電機製の引張圧縮試験装置)の前記測定試料載置面上に前記放置後の米飯粒一粒を置く。
(4)前記試料台を前記プランジャーに2mm/秒の速度で接近させ、前記米飯粒を、前記試料台の測定試料載置面と前記プランジャーの試料接触面との間で、米飯の厚みの25%分を圧縮し、引き続き、前記試料台と前記プランジャーとを2mm/秒の速度で遠ざけ、前記プランジャーの試料接触面から前記米飯粒を引き離す。
(5)前記試料台を前記プランジャーに2mm/秒の速度で接近させ、前記米飯粒を、前記試料台の測定試料載置面と前記プランジャーの試料接触面との間で、米飯の厚みの90%分を圧縮し、引き続き、前記試料台と前記プランジャーとを2mm/秒の速度で遠ざけ、前記プランジャーの試料接触面から前記米飯粒を引き離す。この操作の間、米飯粒からプランジャーが受ける応力を、圧縮応力が正の値、引張応力が負の値となるように経時的に連続に測定する。
(6)前記試料台の移動距離を横軸、応力を縦軸とする座標上に、前記(5)での測定の結果に基づいてグラフを描画した場合の応力の最大値a、及び、応力の最小値の絶対値bを記録するとともに、応力の数値が0〜正である前記グラフの部分と前記横軸とにより包囲される領域の面積A、及び、応力の数値が負〜0である前記グラフの部分と前記横軸とにより包囲される領域の面積Bを算出する。
(7)最小値の絶対値b/最大値aの値をバランス度Hとして、面積B/面積Aの値をバランス度Aとして算出する。

【図1】
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