説明

容器入り酸性乳ゲル状食品の製造方法

【課題】酸性乳ゲル状食品を製造する際に、風味を損なうような塩味が付加されず、加熱殺菌しても粉っぽい食感にならないようにする。
【解決手段】容器に、酸及びレンネット凝固剤を含む第1液を充填した後、該容器に、乳類を含む第2液を充填する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器入り酸性乳ゲル状食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸性乳ゲル状食品は、乳を酸性にし、ゲル化剤等を用いてゲル状に固化させた食品であって、レアチーズケーキやヨーグルトゼリー等がその代表例である。
レアチーズケーキは、一般的には、クリームチーズを溶解し、ゼラチン及び必要に応じて砂糖等の呈味成分を混合して、冷蔵庫で冷却する方法で製造される(例えば、下記非特許文献1)。
工業的にレアチーズケーキを製造する場合、冷却によりゲル化する成分はゼラチンに限定されず、広範囲のハイドロコロイドの中から、所望する組織と食感に応じて選択される。また、チーズはクリームチーズに限定されず、広範囲のチーズの中から所望する風味に応じて選択される。チーズを溶解する工程ではプロセスチーズの製法で使われる溶融塩を添加する方法が応用され(例えば、下記非特許文献2)、チーズの溶解、混合、殺菌を兼ねて、チーズクッカーが使用される。
【0003】
工業的にレアチーズケーキ等の酸性乳ゲル状食品を製造する際には、加熱殺菌時に乳たんぱく質が凝集して粉っぽい食感になることが大きな問題である。またチーズの溶解工程を伴う場合は、溶融塩が添加されることによって製品の風味に塩味が出てしまうという問題もある。
【0004】
粉っぽい食感の防止対策については、酸性乳ドリンクの安定化剤としてペクチン、アルギン酸プロピレングリコールエステル(PGA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、カラギーナン、微結晶セルロース(MCC)等を用いることが知られており(例えば、下記非特許文献3)、これらを用いて、酸変性したカゼインミセルの衝突確率を低減して凝集を抑える方法が酸性乳ゲル状食品の製造にも応用されている。
例えば下記特許文献1には、乳に酸味料を添加するとともに、大豆多糖類と、ジェランガムおよび/または寒天を含有させたドリンクゼリーが記載されている。
【非特許文献1】チーズの知識と応用、p112,東畑朝子他、グラフ社、1996年
【非特許文献2】新設チーズ科学、p120,中澤勇二・細野明義、食品資材研究会、1989年
【非特許文献3】食品多糖類、p67,國▲崎▼直道・佐野征男、幸書房、2001年
【特許文献1】特開2002−153219号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような、安定化剤を用いて凝集を防ぐ方法では、安定剤個々に至適pH領域があり、その至適領域は乳蛋白質の等電点(pH4.6)以下であるため、弱酸性領域(pH4.5〜5.0)及び非酸性領域(pH5.0以上)で有効に働かないという問題、および高温になるに従って安定化効果が低下するので、酸性乳ゲル状食品に使用されるゲル化剤のゲル化温度以上では、安定効果が低下するという問題等がある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、酸性乳ゲル状食品を製造する際に、風味を損なうような塩味が付加されず、加熱殺菌しても粉っぽい食感にならないようにした酸性乳ゲル状食品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明の容器入り酸性乳ゲル状食品の製造方法は、容器に、酸及びレンネット凝固剤を含む第1液を充填した後、該容器に、乳類を含む第2液を充填することを特徴とする。
本発明の方法において、前記第2液に含まれるカゼインの量が、前記第1液と第2液の合計量の3質量%以上であることが好ましい。
本発明の方法において、前記第1液および第2液に含まれるカルシウムの合計量が、前記第2液に含まれるカゼイン1g当たり40mg以上であることが好ましい。
本発明の方法において、容器に充填される第1液と第2液の質量比、第1液:第2液が5:95〜20:80であることが好ましい。
本発明の方法において、第2液を容器に充填する際の流線速度が、27〜144cm/秒であることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、粉っぽい食感が良好に抑えられ、なめらかな食感の酸性乳ゲル状食品が得られる。
また本発明によれば、チーズを溶融する工程を経ずに、レアチーズ様の風味および食感を有する酸性乳ゲル状食品を製造することが可能である。したがって、溶融塩に由来する塩味が付加されていないレアチーズ様の酸性乳ゲル状食品を工業的に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の容器入り酸性乳ゲル状食品(以下、単にゲル状食品ということがある。)は、容器に収容された形態の、乳類を含む酸性ゲル状食品であり、例えばレアチーズケーキ、ヨーグルトゼリー、オレンジババロアなどである。好ましい製品形態は、個食用の容器内に酸性乳ゲル状食品が流動しない状態で収容され、蓋で密閉された形態である。
本発明の製造方法では、酸及びレンネット凝固剤を含む第1液と、乳類を含む第2液をそれぞれ調製し、容器に第1液を充填した後、第2液を充填する工程を経て酸性乳ゲル状食品が製造される。第1液はカゼインを含まない。
第1液と第2液はそれぞれ単独ではゲル化せず、容器に順に充填することによって、該容器内で両液が混合され、第1液と第2液とが接触することにより固化が始まる。
【0010】
酸は、食品添加物として公知の酸味料、および酸性食品を使用できる。酸味料の具体例としては、アジピン酸、イタコン酸、クエン酸、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、α‐ケトグルタル酸、コハク酸、酒石酸、乳酸、氷酢酸、フィチン酸、フマル酸、リンゴ酸、リン酸及びこれらのナトリウム塩が挙げられる。酸性食品の具体例としては、食酢、果汁、発酵乳等が挙げられる。
酸性乳ゲル状食品がレアチーズケーキである場合、その風味に適する酸味料としては、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、グルコン酸及びこれらのナトリウム塩、果汁、発酵乳等が挙げられる。
酸の使用量は、出来上がりの酸性乳ゲル状食品の酸味を考慮して決定できるが、出来上がりの酸性乳ゲル状食品のpHが4.5〜6.0の範囲になるように添加するのが望ましい。該pHが4.5未満では酸味が強すぎ、6.0を超えると酸性乳らしい風味が失われる。
【0011】
レンネット凝固剤(以下、単にレンネットということもある。)は、凝乳酵素であって、乳とカルシウムの存在下で、カゼインミセルからκカゼインを切断し、カゼインミセルの親水性を失わせて乳をゲル化させる性質を持つものである。子牛の胃、黴、植物由来の何れでも使用可能である。レンネットの至適温度は20〜40℃である。
レンネットの使用量は、第1液および第2液の混合物中におけるカゼインおよびカルシウムの含有量と関係してゲル化速度に影響を与える。好ましくは、容器に第1液および第2液が充填された直後にゲル化が急激に始まるのでなく、充填後、容器が密閉され静置された状態で固化が始まる程度のゲル化速度となるように調整することが好ましい。目安としては、第1液および第2液の合計量中におけるレンネットの濃度が100〜500ppm程度が好ましい。
【0012】
乳類は、乳および/または乳製品である。具体例としては、生乳、牛乳、低脂肪牛乳、無脂肪牛乳、加工乳、クリーム、バター、バターオイル、チーズ、濃縮ホエイ、アイスクリーム類、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖練乳、無糖脱脂練乳、加糖練乳、加糖脱脂練乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、たんぱく質濃縮ホエイパウダー、バターミルクパウダー、加糖粉乳、調製粉乳、発酵乳、乳酸菌飲料、乳飲料等が挙げられる。濃縮乳及び脱脂濃縮乳はUF(限外ろ過)又はRO(逆浸透)による濃縮であってもよい。
【0013】
乳類の使用量は、第2液に含まれるカゼインの量が、第1液と第2液の合計量の3質量%以上になるように調整することが好ましい。該カゼインの含有量が3質量%未満であると、酸性乳ゲル状食品が固化しないか、または固化しても食感として軟らか過ぎるものになる。より好ましくは4質量%以上である。第2液に含まれるカゼインは、その全部が乳類由来であることが好ましい。
該カゼインの含有量の上限は特に制限されないが、好ましい食感の点からは第1液と第2液の合計量の8質量%以下が好ましく、6質量%以下がより好ましい。
【0014】
酸性乳ゲル状食品には、その他の原料として、各種フルーツ、コーヒー、紅茶、緑茶、烏龍茶、ココア等の飲料類、各種酒類、チョコレート、ナッツ類、餡、糖類、甘味料、調味料、卵類、油脂類、塩類、色素、乳化剤、香料等の食材や添加物を適宜含有させてもよい。
これらその他の原料は、第1液および第2液がそれぞれ単独でゲル化しない限り、どちらに含有させてもよい。上記に挙げたその他の原料のうち、各種酒類、塩類、香料類は、カゼインの凝集を誘発するおそれがあるため第1液に含有させることが好ましい。またチョコレート、卵類、油脂類、乳化剤はカゼインと共に乳化させた方が、より良好に安定化するため第2液に含有させることが好ましい。
【0015】
本発明において、レンネットによる凝固作用を得るために、第1液および第2液の少なくとも一方にカルシウムが含まれることが必要である。乳類には、通常、カルシウムが含まれており、第2液には少なくとも乳類に由来するカルシウムが含まれる。
第1液および第2液に含まれるカルシウムの合計量は、第2液に含まれるカゼイン1g当たり40mg以上であることが好ましく、45mg以上がより好ましい。該カゼインに対するカルシウム含有量の相対値が40mg以上であると、良好な固さのゲル状食品が得られる。カルシウムが少なすぎると食感として柔らか過ぎるものになる。
該カルシウムの含有量の上限は特に制限されないが、カルシウムの含有量が多すぎて固化速度が速くなりすぎると、充填を終えてから容器を静置状態にするまでの時間を極めて短くする必要が生じる点からは、酸性乳ゲル状食品中においてカゼイン1g当たり80mg以下であることが好ましく、60mg以下がより好ましい。
【0016】
第1液および第2液におけるカルシウム含有量の調整は、乳類の配合量の調整、乳類以外の原料にカルシウムが含まれる場合はその原料の配合量の調整によって行うことができる。
また、乳類および上述した原料から由来するカルシウム量が、上記の好ましい範囲よりも少ない場合は、塩化カルシウム、クエン酸カルシウム、グルタミン酸カルシウム、炭酸カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、焼成カルシウム、水酸化カルシウム、未焼成カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、パントテン酸カルシウム等の各種カルシウム塩類を添加してもよい。
カルシウム塩類を添加する場合は、第1液、第2液のどちらに添加しても、本発明の効果に影響はない。
但し、乳類を含む第2液において、乳たんぱく質濃度が高くて、かつカルシウム濃度が高いと食感及び殺菌機適性に悪影響を与えるので、第2液におけるカルシウム濃度は150mg/100g以下に留めることが望ましい。
【0017】
<第1液の調製>
第1液は、まず第1液に含有させる成分のうちレンネット以外の成分を混合溶解し、加熱殺菌し、冷却した後、レンネットを添加して調製する。レンネットはマイクロフィルターによる除菌処理が施されたものを用いる。
加熱殺菌および冷却には、ジャケット及び攪拌機付きタンク(例えば、商品名;Bパス、ヤスダファインテ社製)やプレート式殺菌機(例えば、商品名;プレート式UHT殺菌機、プレート式HTST殺菌機:いずれも森永エンジニアリング社製)が使用できる。また、必要に応じて、加熱殺菌の途中又は冷却の途中で均質機(例えば、商品名;HOMOGENIZER、三丸機械工業)を用いて均質化を行ってもよい。加熱殺菌の条件は、100〜120℃で1〜15秒保持相当が好ましい。加熱後の冷却温度は、レンネットの至適温度を考慮して20〜40℃とするのが好ましい。
【0018】
第1液の比重は、第2液の比重との差が±0.002以内であることが望ましく、両液の比重が等しいことがより望ましい。第1液と第2液の比重差が大きいほど、容器内に充填された両液が分離する傾向が強くなる。
例えば、第1液と第2液の比重差が大きい場合に、両液が均一混合されるようにするためには、第2液の吐出速度を速くする必要があり、吐出速度を速くすると、液が飛び跳ねて、容器外に飛び出したり、容器のフランジを汚してシール不良(容器と蓋材を熱圧シールする際の接着不良)が生じ易くなる。
第1液または第2液の比重が高すぎる場合には、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、カンゾウ、サッカリン、スクラロース、ステビア、ソーマチン等の高甘味度甘味料を用いて、糖類を置換することにより比重を小さくすることができる。
【0019】
第1液の粘度は、容器に充填する際の粘度が100mPa・s以下であることが望ましく、50mPa・s以下であることがより望ましい。第1液の粘度を100mPa・s以下とすることにより、容器に充填された第1液と第2液との分離が抑えられるため、両液を均一混合するうえで好ましい。
【0020】
<第2液の調製>
第2液は、第2液を構成する成分を混合溶解し、加熱殺菌した後、冷却して調製する。加熱殺菌及び冷却の方法および装置は第1液と同様である。
加熱殺菌の条件は、80〜130℃で1〜15秒保持相当が好ましい。加熱殺菌後、20〜40℃に冷却する。
【0021】
上述したように、第2液の比重は、第1液の比重との差が±0.002以内であることが望ましく、両液の比重が等しいことがより望ましい。
第2液の粘度は、第1液と同様に、容器に充填する際の粘度が100mPa・s以下であることが望ましく、更に望ましくは50mPa・s以下であることが望ましい。
【0022】
<充填>
次いで、第1液および第2液をこの順で連続的に容器に充填する。充填は、2基以上のフィラーを有する充填機(例えばカップフィルシール充填機、商品名;Dogaseptic:GASTI社製)を用いて行うことができる。具体的には、第1液を先のフィラーで充填し、続いて第2液を後のフィラーで充填する。第1液と第2液を順に充填することによって、容器内で両液が混合される。
第1液と第2液の充填時の温度は、それぞれ20〜40℃の範囲内が望ましい。高過ぎても低過ぎても、レンネットの至適温度を外れる為、凝固速度が著しく遅くなる。
【0023】
1つの容器に充填される第1液と第2液の各充填量は、質量比が、第1液:第2液=5:95〜20:80になるようにすることが望ましい。第1液の比率が大き過ぎると、容器内で両液が均一混合され難くなる。第1液の比率が小さいと、均一混合に問題は生じないが、第1液に含有される粉体原料を溶解する水が不足するおそれがあること、充填機の充填誤差率が大きくなること、第2液との比重差の調整が難しくなること等の問題が生じる。
【0024】
第1液の充填速度は容器内における両液の混合状態に影響しないので、充填機の動作の中で充填に割当てられる時間の範囲で、容器から飛び出さない吐出速度であれば、任意に設定できる。
第2液の充填速度は、速過ぎると液が容器内から容器外に飛び出すことがあり、遅過ぎると第1液と第2液とが均一に混合され難い。したがって、第2液の充填速度は、流線速度が27〜144cm/秒の範囲になるように設定することが好ましく、より好ましい流線速度の範囲は36〜108cm/秒の範囲である。
本発明において、第2液を容器に充填する際の流線速度V(単位:cm/秒)の値は、第2液がノズルより吐出される速度であって、第2液の充填量M(単位:g)、比重ρ、ノズル内径d(単位:cm)、充填時間t(単位:秒)とするとき、下記数式(1)で求められる値である。第2液の充填時の流線速度はノズル内径および/または充填時間によって調整できる。
【0025】
【数1】

【0026】
容器の形状は、第1液と第2液の良好な混合均一性が得られる点で、逆円錐台形又は半球形が好ましい。逆円錐台形は、運搬や充填機への装填の際に、容器をスタック(積み重ねること)した状態での占有容積を小さくできる点でより好ましい。
逆円錐台形の大きさおよび形状は、開口部の内径が60〜90mm、高さが40〜80mmで、開口部から底部に向かって6〜12°の角度で窄まった形状が望ましい。すなわち、開口部の端縁を通る円筒状の面と、容器の側面とのなす角度が6〜12°であることが好ましい。
【0027】
<固化>
第2液を充填した後、容器を蓋で密閉する。例えば、容器に蓋材を被せてヒートシーラ−で熱圧シールする。この後、冷蔵庫に静置して冷却し、全体を凝固させることにより酸性乳ゲル状食品が得られる。冷却速度は、第2液の充填を終えた直後から2〜4時間後に、容器内の液温が10℃になるように調整することが好ましい。
冷却速度が速すぎると固化が不充分なうちにレンネットの至適温度を外れてしまい、最終製品における固化が不充分になるおそれがある。また冷却速度が遅すぎると殺菌で残存した耐熱性菌が増殖して腐敗するおそれがある。
【0028】
本発明によれば、容器に収容された酸性乳ゲル状食品が得られる。本発明の方法で製造された酸性乳ゲル状食品は、加熱殺菌工程を経ても、蛋白質の凝集が抑えられ、粉っぽさが少ない、なめらかな食感の酸性乳ゲル状食品が得られる。
その理由としては、第2液に含まれるカゼインは、酸を含む第1液とは別に加熱殺菌されるため、中性下で加熱殺菌することができ、加熱殺菌時の凝集を防止することができる。そして第2液は加熱殺菌後に冷却(20〜40℃程度)された後、酸およびレンネットを含有する第1液と混合されることにより、乳類の酸変成とレンネット凝固が緩やかに進行するため、ソフトで滑らかな組成が形成されると考えられる。
したがって、長期保存が可能な、風味に優れた容器入り酸性乳ゲル状食品を工業的に製造することができる。
本発明の方法はレアチーズケーキの製造に好適であり、チーズを溶解する工程を経ずにレアチーズケーキを工業的に製造することができる。したがって溶融塩を使用する必要がなく、風味と食感に優れたレアチーズケーキを製造することができる。
【実施例】
【0029】
[試験例1]
(目的)
この試験は、従来法(安定剤で凝集の成長を抑える方法)と本発明の方法とで、食感(粉っぽさ)を比較する目的で行った。
(試料の調製)
従来法の例として、表1のNo.1〜4の配合割合(単位:質量%、以下同様。)に従い、原料を混合溶解し、沸騰水浴上で、80℃に加温し、均質機(商品名:HOMOGENIZER;三丸機械工業社製)を用いて、15MPaの圧力で均質化した。この後、90℃に加温し10分間保持(110℃、6秒保持に相当)して加熱殺菌し、冷水浴上で50℃に冷却した。こうして得られた原料液をプラスチックカップ(商品名:PPゲル状食品カップ;岸本産業社製、以下同様。)に100g充填し、カップに蓋を被せ、冷蔵庫で10℃に冷却してゲル状食品(試料)を得た。
【0030】
本発明の方法の例として、表2のNo.5の配合割合に従い第1液および第2液をそれぞれ調製した。
第1液は、まずレンネット以外の原料を混合溶解し、沸騰水浴上で90℃に加温し、10分間保持して加熱殺菌し、冷水浴上で30℃に冷却した後、レンネットを添加して混合溶解して調製した。
第2液は、全部の原料を混合溶解し、沸騰水浴上で90℃に加温し、10分間保持して加熱殺菌し、冷水浴上で30℃に冷却して調製した。
次いで、プラスチックカップに第1液を10gずつ充填し、続いて、充填機(商品名:9032;トーワテクノ社製)を用い内径10mmのノズルで、第2液90gを2秒間(流線速度:55cm/秒)で充填した。この後、カップに蓋を被せ、冷蔵庫にて静置冷却した。冷却速度は第2液の充填を終えた直後から2時間後に10℃になるように調整した。このようにしてゲル状食品(試料)を得た。得られたゲル状食品のpHは4.4であった。
【0031】
表におけるカゼイン量は、容器に充填された第1液と第2液の合計100g中の含有量(単位:g)であり、カルシウム量は、容器に充填された第1液と第2液の合計100g中の含有量(単位:g)であり、「カルシウム量(mg)/カゼイン(g)」は、容器に充填された第1液と第2液の合計におけるカゼイン1g当たりのカルシウム含有量の相対値(単位mg)である(以下同様)。
本例で用いた濃縮乳におけるカゼイン含有率は7.63質量%であり、カルシウム含有率は3.27mg/100gである(以下同様)。
本例で用いたクリームにおけるカゼイン含有率は1.2質量%であり、カルシウム含有率は0.72mg/100gである(以下同様)。
本例で用いた塩化カルシウムにおけるカルシウム含有率は272.6mg/100gである(以下同様)。
【0032】
第1液および第2液それぞれの比重を比重計(製品名:比重浮ひょう、東京百木製作所社製)により液温15℃で測定した。その結果を表に併記する(以下同様)。
また第1液および第2液それぞれについて、容器に充填する際の粘度を、粘度計(製品名:B型粘度計、東機産業社製)により温度20℃で測定した。その結果を表に併記する(以下同様)。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
得られた各ゲル状食品(試料)について、以下の方法で食感(粉っぽさ)を評価した。
(評価方法)
順位法の検定表を用いる方法(古川秀子著、「おいしさを測る−食品官能検査の実際−」、p28,幸書房発行、1994年)に基づき、10人の訓練された風味パネラーに試料を試食させ、食感が滑らかな(粉っぽくない)順に試料に順位をつけさせ、各試料の順位合計を求め、各試料間の順位合計差の絶対値を求め、その数値から順位法の検定表から有意水準を判定した。
この結果を表3に示す。
【0036】
【表3】

【0037】
(結果)
表3より、食感が滑らかな順に、No.5>1≧4≧3≧2であった。(>:記号の左右で統計的に有意差があり、≧:記号の左が右より上位であるが、統計的有意差は無い。以下同様。)
(考察)
この試験の結果より、安定化剤(ハイメトキシルペクチン、大豆多糖類、CMC(カルボキシメチルセルロース)、およびPGA(アルギン酸プロピレングリコールエステル))で酸性乳の凝集の成長を抑える従来の方法で製造したゲル状食品に比べて、本発明の方法で製造したゲル状食品の方が、粉っぽさが少なく食感が滑らかであることが分かった。
【0038】
[試験例2]
(目的)
この試験は、食感の良いゲル化状態を得るためのカゼインの含有量を検索する目的で行った。
(試料の調製)
表4のNo.11〜17の配合割合に従い、試験例1における本発明の方法の例(No.5)と同一の方法でゲル状食品(試料)を調製した。
No.11〜17の配合割合において、濃縮乳の配合量を変化させることによりカゼイン含有量を変化させるとともに、ゲル状食品(試料)の総固形分が一定となるようにクリームの配合割合を調整した。
【0039】
【表4】

【0040】
得られた各ゲル状食品(試料)について、以下の方法で食感(ゲルの硬さ)を評価した。
(評価方法)
硬さ計(商品名:ペネトロメーター;中村医科理科社製)で試料の硬さを測定した。
尚、ペネトロメーターでは、逆円錐形のプランジャー(底面直径:23.5mm,高さ:32mm,質量:11g)の先端を試料の表面に接触する位置にセットし、5秒間自由落下させる条件で測定し、試料に食い込んだ鉛直方向の距離(mm)の10倍をペネトロ値とし、硬さの指標とする。この結果を表5に示す。
ペネトロ値と食感の関係を調べるために、パネラーの官能評価とペネトロ値を対照した結果より、ペネトロ値200以上はやわらか過ぎるため不可とし、100以上200未満を良好な食感とし、100未満はやや硬いが許容できる食感として評価した。
【0041】
【表5】

【0042】
(結果)
表5より、ペネトロ値が100未満のものはNo.15〜17であり、100以上200未満の範囲のものはNo.13と14であり、200以上のものはNo.11と12であった。
(考察)
この試験の結果、酸性乳ゲル状食品中におけるカゼインの含有量が3g/100g(3質量%)以上で良好な硬さが得られ、食感的に望ましいのは、3〜4g/100gの範囲であり、4g/100gを超えるとやや硬いが許容できる食感であった。
【0043】
[試験例3]
(目的)
この試験は、食感の良いゲル化状態を得るためのカルシウムの含有量を検索する目的で行った。
(試料の調製)
表6のNo.21〜28の配合割合に従い、試験例1における本発明の方法の例(No.5)と同一の方法でゲル状食品(試料)を調製した。
No.21〜28の配合割合において、濃縮乳および塩化カルシウムの配合量によってカルシウム含有量を変化させるとともに、濃縮乳およびカゼインナトリウムの配合量を調整してカゼインの配合割合を一定とした。またゲル状食品(試料)の総固形分が一定となるようにクリームの配合割合を調整した。
本例で用いたカゼインナトリウムにおけるカゼイン含有率は91質量%である。
【0044】
【表6】

【0045】
(評価方法)
得られた各ゲル状食品(試料)について、試験例2と同じ方法で食感(ゲルの硬さ)を評価した。この結果を表7に示す。
【0046】
【表7】

【0047】
(結果)
表7より、ペネトロ値が100未満のものは無く、100以上200未満の範囲のものはNo.23〜28であり、200以上のものはNo.21と22であった。
(考察)
この試験の結果、酸性乳ゲル状食品中に含まれるカルシウムの量は、カゼイン1g当り40mg以上で好ましい硬さが得られることがわかった。
また、No.23と24は、酸性乳ゲル状食品中に含まれるカルシウムの量がほぼ同じであり、No.23は第1液と第2液がカルシウムを含み、No.24は第2液のみにカルシウムが含まれる。両者の評価結果がほぼ同等であったことから、カルシウムの由来は、第1液及び第2液のどちらでもよいことが分かった。
【0048】
[試験例4]
(目的)
この試験は、第1液と第2液を均一に混合するのに適した、第1液と第2液の比を検討する目的で行った。
(試料の調製)
表8のNo.31〜37の配合割合に従い、試験例1における本発明の方法の例(No.5)と同一の方法でゲル状食品(試料)を調製した。
No.31〜37の配合割合において、水の配合量によって、第1液と第2液の充填量比を変化させた。また混合均一性を評価するために、第1液にのみ色素を一定量添加した。
【0049】
【表8】

【0050】
(評価方法)
得られた試料を目視で観察し、全体的に色が均一なものを均一混合(○)とし、不均一なものを混合不良(×)とした。この結果を表9に示す。
【0051】
【表9】

【0052】
(結果)
表9より、均一に混合されたものはNo.31〜34であり、No.35〜37は混合不良であった。
(考察)
この試験の結果、第1液と第2液の充填量比が5:95〜20:80(質量)の範囲において、良好な混合状態が得られることが分かった。
【0053】
[試験例5]
(目的)
この試験は、第1液と第2液を均一に混合するのに適した、第2液の充填速度を検索する目的で行った。
(試料の調製)
表7のNo.No.32配合割合で、第2液の充填速度を表10のNo.41〜47に示す通りに変化させた以外は、試験例1における本発明の方法の例(No.5)と同一の方法でゲル状食品(試料)を調製した。
第2液の充填速度は、ノズル断面積を一定として充填時間を変化させることによって調整した。
【0054】
(評価方法)
試験4と同一の方法で混合均一性を評価した。この結果を表10に示す。
【0055】
【表10】

【0056】
(結果)
表10より、均一混合したものは、No.42〜46であり、No.47は混合不良(不均一)であり、No.41は液が容器外に飛び出す充填不良であった。
(考察)
この試験の結果、第2液を容器に充填する際の流線速度は、流線速度で27〜144cm/秒が望ましいことが分かった。
【0057】
[実施例1]レアチーズケーキの製造
表11のNo.51に示す配合割合で、第1液および第2液を調製した。
第1液は、レンネット以外の原料を撹拌機付きタンク(商品名:Bパス;ヤスダファインテ社製)に溶解し、85℃に加温し15分間保持(105℃、9秒保持に相当)して加熱殺菌し、冷却して30℃にした後、レンネットを添加し混合溶解して調製した。
第2液は、全部の原料をミキサー(商品名:スーパーミキサー;ヤスダファインテ社製)で溶解し、均質機付きのプレート式UHT殺菌機(商品名:MAU;森永エンジニアリングで125℃,2秒の加熱殺菌を行った後、85℃に冷却し、内蔵されている均質機で15MPaの圧力で均質化した後、冷却部で30℃に冷却して調製した。
次いで、2段充填できるカップ充填機(商品名:MTYパッカー;トーワテクノ社製、以下同様。)を用い、プラスチックカップに第1液をプレフィラーで5g充填し、続いてメインフィラーで第2液95gを充填した。第2液の充填は、ノズル内径12mmで1.5秒間(流線速度:53cm/秒)で行った。この後、カップにアルミ箔蓋を被せヒートシーラーでシールし、冷蔵庫に静置した。第2液の充填を終えた直後から3時間で10℃になるように冷却して、レアチーズケーキを製造した。
得られたレアチーズケーキは、粉っぽさがなく、なめらかな食感で良好な風味であった。このレアチーズケーキのpHは4.4であった。
【0058】
[実施例2]オレンジババロアの製造
表11のNo.52に示す配合割合で、実施例1と同一の方法で、第1液及び第2液を調製した。
2段充填できるカップ充填機を用い、プラスチックカップに第1液をプレフィラーで10g充填し、続いてメインフィラーで第2液90gを充填した。第2液の充填は、ノズル内径12mmで1.5秒間(流線速度:53cm/秒)で行った。この後、カップにアルミ箔蓋を被せヒートシーラーでシールし、冷蔵庫に静置した。第2液の充填を終えた直後から3時間で10℃になるように冷却して、オレンジババロアを製造した。
本例で用いた脱脂粉乳におけるカゼイン含有率は27.2質量%であり、カルシウム含有率は12.2mg/100gである(以下同様)。
得られたオレンジババロアは、粉っぽさがなく、なめらかな食感で良好な風味であった。このオレンジババロアのpHは4.4であった。
【0059】
【表11】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器に、酸及びレンネット凝固剤を含む第1液を充填した後、該容器に、乳類を含む第2液を充填することを特徴とする容器入り酸性乳ゲル状食品の製造方法。
【請求項2】
前記第2液に含まれるカゼインの量が、前記第1液と第2液の合計量の3質量%以上であることを特徴とする請求項1記載の容器入り酸性乳ゲル状食品の製造方法。
【請求項3】
前記第1液および第2液に含まれるカルシウムの合計量が、前記第2液に含まれるカゼイン1g当たり40mg以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の容器入り酸性乳ゲル状食品の製造方法。
【請求項4】
容器に充填される第1液と第2液の質量比、第1液:第2液が5:95〜20:80であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の容器入り酸性乳ゲル状食品の製造方法。
【請求項5】
第2液を容器に充填する際の流線速度が、27〜144cm/秒であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の容器入り酸性乳ゲル状食品の製造方法。



【公開番号】特開2007−267605(P2007−267605A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−93667(P2006−93667)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000006127)森永乳業株式会社 (269)
【Fターム(参考)】