説明

容器詰め果実の製造方法

【課題】プレーン缶を使用せず、内面塗装缶やプラスチック容器を使用しても内容物であるシラップ漬け果実の酸素劣化を防止することが可能な容器詰め果実の製造方法を提供する。
【解決手段】シラップに電気分解還元処理を施した後このシラップと果実を容器に充填密封し、加熱殺菌する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白桃等の果実のシラップ漬け缶詰等容器詰め果実の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
白桃等果実のシラップ漬け缶詰を製造するにあたっては、内容物の品質維持の観点から、酸素をできるだけ除去することが望ましいことは周知の事実である。そのため、たとえば、シラップは缶に充填前に煮沸することにより溶存酸素を減少せしめたり、缶のヘッドスペースの空気をバキュームしたり、不活性ガスで置換する等の工夫がなされている。しかし、現実には、果実自体が植物であるがゆえに酸素を包含している場合があり、完全な酸素除去は困難である。
【0003】
そこで、缶詰の場合は、缶内面に錫を露出させたプレーン缶を使用し、この錫が内容液と接触し還元作用を示すことを利用して内容物である果実の酸化劣化を防止している。しかしながら、プレーン缶は、内面塗装缶に比べて容器の価格が高く、また錫が内容物に対し溶出するため、その風味への影響が避けられないという問題がある。
【0004】
特許文献1〜10には、飲料水、飲料(果汁、茶類、乳類、コーヒー、健康飲料等)および酒類に対して電気分解処理を施すことにより製品の改質を行う技術が開示されているが、容器詰め果実の酸化劣化を防止するために電気分解処理を利用することはなんら示唆されていない。
【特許文献1】特開2002−361260号公報
【特許文献2】特開2004−073056号公報
【特許文献3】特許第3527188号公報
【特許文献4】特開2001−178368号公報
【特許文献5】特開2001−275569号公報
【特許文献6】特開2003−018956号公報
【特許文献7】特開2003−018960号公報
【特許文献8】特開2003−102403号公報
【特許文献9】特開2003−180244号公報
【特許文献10】特開2003−180251号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の問題点にかんがみなされたものであって、プレーン缶を使用せず、内面塗装缶やプラスチック容器を使用しても内容物であるシラップ漬け果実の酸素劣化を防止することが可能な容器詰め果実の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記本発明の目的を達成するため、本発明者は鋭意研究と実験を重ねた結果、果実が漬け込まれるシラップに電気分解還元処理を施し還元力を付与することにより、果実にシラップの還元力を作用させ、果実の酸化劣化を防止することができることを発見し、本発明に到達した。
【0007】
すなわち,本発明の目的を達成する容器詰め果実の製造方法は、シラップに電気分解還元処理を施した後このシラップと果実を容器に充填密封し、加熱殺菌することを特徴とするものである。
本発明の1側面において、該容器は内面塗装缶であることを特徴とする。
本発明の他の側面において、該容器は内面樹脂被覆缶であることを特徴とする。
本発明の他の側面において、該容器はプラスチック製容器であることを特徴とする。
さらに、容器をプラスチック製容器とする場合は、該プラスチック製容器は酸素バリヤー性または酸素吸収性プラスチックとすることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、果実が漬け込まれるシラップに電気分解還元処理を施し還元力を付与することにより、果実にシラップの還元力を作用させ、高価でかつ果実の風味を悪くするプレーン缶を使用せず、安価な内面塗装缶やプラスチック製容器を使用しても内容物であるシラップ漬け果実の酸化劣化を防止することができる。
【0009】
また、プラスチック製容器を使用する場合に酸素バリヤー性または酸素吸収性プラスチックを容器として使用することにより、内容物の酸化防止効果をいっそう高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下本発明の実施の形態について説明する。
本発明はシラップ漬けまたは調味液漬けの白桃、黄桃、アンズ、サクランボ、リンゴ、ビワ、洋ナシ、和ナシ、柑橘類、マスカット等の容器詰め果実に適用することができる。
【0011】
シラップ漬けに使用するシラップとしては、水に糖類を加えたもの、果実の搾汁に糖類を加えたもの、または水と果実の搾汁の混合液に糖類を加えたもの等通常容器詰め果実に使用されるシラップを使用することができる。また、シラップにクエン酸やアスコルビン酸等を少量添加してもよい。また、調味液やジュース等とともに果実を容器に充填する場合このような調味液やジュースも本明細書においてはシラップに含め、本発明が適用されるものとする。
【0012】
シラップに電気分解還元処理を施して還元力を付与し、この液に含浸される果実にシラップの還元力を作用させるという間接的な方法で果実を還元処理することは本発明の重要な特徴である。
【0013】
電気分解に使用する装置には特に限定はなく、多くの公知の装置の中から対象となる果実やシラップの種類に応じて適当な装置を選択すればよい。たとえば、前記特許文献1の図4に示されるような、カチオン膜隔膜電解槽を使用して電気化学的な還元処理を行う装置等を使用することができる。
【0014】
容器としては、食缶としては内面塗装缶が好適であり、その他内面樹脂被覆缶、ガラスびん、プラスチック製容器(ボトル、パウチ、カップ、トレー等)、内面樹脂被覆紙製容器、アルミ箔を積層した内面樹脂被覆紙製容器、あるいはこれら容器を構成する材料を適宜組合せた複合材料により構成した容器等も使用することができる。
【0015】
内面塗装缶に用いる塗料としては、ポリエステル系塗料、アクリル系塗料、エポキシ−フェノール系塗料、エポキシ−アミノ系塗料、エポキシ−アクリル系塗料等を用いることができる。
【0016】
内面樹脂被覆缶の被覆樹脂としては、熱可塑性樹脂であるポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、あるいはこれらの2種以上の組合せ等を用いることができる。
【0017】
プラスチック製容器を使用する場合は、酸素バリヤー性プラスチックまたは酸素吸収性プラスチックからなる容器を使用すれば、酸化防止効果をいっそう高めることができる。
【0018】
酸素バリヤー性プラスチックとしては、公知の酸素バリヤー性を有する熱可塑性樹脂は、すべて使用することができる。このような樹脂としては、たとえばエチレンービニルアルコール共重合体、ポリアミド、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリビニルアルコール、フッ素樹脂等が挙げられるが、焼却処分時に有毒ガスを発生するおそれのない塩素を含まない樹脂を使用することが好ましい。
【0019】
特に好ましい酸素バリヤー性樹脂としては、エチレン含有量が20〜60モル%、特に25〜50モル%であるエチレン−酢酸ビニル共重合体を、ケン化度が96モル%以上、特に99モル%以上となるようにケン化して得られる共重合体ケン化物が挙げられる。
【0020】
他の好ましい酸素バリヤー性樹脂としては、炭素数100個当りのアミド基の数が5〜50個、特に6〜20個の範囲にあるポリアミド類、たとえばナイロン6、ナイロン6,6/ナイロン6,6共重合体、メタキシリレンアジパミド(MX6)、ナイロン6,10、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン13等が挙げられる。
【0021】
さらに、容器として成形した後、その内面および/または外面に蒸着によりシリカやDLC等の膜を形成するようにしてもよい。また、パウチ等の場合は、これらの蒸着膜を形成したフイルムを、構成する材料の一部として用いるようにしてもよい。
【0022】
酸素吸収性材料としては、(1)樹脂自体が酸素吸収性を有する樹脂を使用する、もしくは(2)酸素吸収性を有するまたは有しない熱可塑性樹脂中に酸素吸収剤を配合した樹脂組成物を使用することができる。酸素吸収性樹脂組成物(2)を構成する熱可塑性樹脂としては特に制限はなく、酸素バリヤー性を有する熱可塑性樹脂や、酸素バリヤー性を有しない熱可塑性樹脂のいずれもが使用できる。樹脂組成物(2)を構成する熱可塑性樹脂として、樹脂自体が酸素吸収性または酸素バリヤー性を有するものを使用した場合は、酸素吸収剤による酸素吸収効果との組合せにより、容器内部への酸素の侵入を効果的に防止することができるので好ましい。
【0023】
樹脂自体が酸素吸収性を有するものとしては、たとえば、樹脂の酸化反応を利用したものが挙げられる。酸化性の有機材料、たとえばポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリプロピレン、エチレン−酸化炭素共重合体、6−ナイロン、12−ナイロン、メタキシリレンジアミン(MX)ナイロンのようなポリアミド類に、酸化触媒としてコバルト、ロジウム、銅等の遷移金属を含む有機酸塩類や、ベンゾフエノン、アセトフエノン、クロロケトン類のような光増感剤を加えたものが使用できる。これらの酸素吸収材料を使用した場合は、紫外線、電子線のような高エネルギー線を放射することによって、一層の効果を発現させることもできる。
【0024】
熱可塑性樹脂中に配合する酸素吸収剤としては、従来この種の用途に使用されている酸素吸収剤はすべて使用できるが、一般には還元性でしかも実質上水に不溶なものが好ましく、その適当な例としては、還元性を有する金属粉、たとえば還元性鉄、還元性亜鉛、還元性錫粉;金属低位酸化物、たとえばFeO,Fe;還元性金属化合物、たとえば炭化鉄、ケイ素鉄、鉄カルボニル、水酸化第一鉄等の一種または二種以上を組み合わせたものを主成分としたものが挙げられる。特に好ましい酸素吸収剤としては、還元性鉄、たとえば鉄鋼の製造工程で得られる酸化鉄をコークスで還元し、生成した海綿鉄を粉砕後、水素ガスや分解アンモニアガス中で仕上還元を行った還元性鉄や、酸洗工程で得られる塩化鉄水溶液から鉄を電解析出させ、粉砕後仕上還元を行った還元性鉄等が挙げられる。
【0025】
これらの酸素吸収剤は必要に応じて、アルカリ金属、アルカリ土類金属の水酸化物、炭素塩、亜硫酸塩、チオ硫酸塩、第三リン酸塩、第二リン酸塩、有機酸塩、ハロゲン化物等の電解質からなる酸化促進剤や、さらには活性炭、活性アルミナ、活性白土のような助剤とも組合せて使用することができる。特に好ましい酸化促進剤としては、塩化ナトリウム、塩化カルシウムあるいはこれらを組み合わせたもの等が挙げられる。
【0026】
他の酸素促進剤としては、多価フェノールを骨格内に有する高分子化合物、たとえば多価フェノール含有フェノール・アルデヒド樹脂等が挙げられる。さらに、水溶性物質であるアスコルビン酸、エリソルビン酸、トコフエロール類およびこれらの塩類等も好適に使用することができる。これらの酸素吸収性物質の内でも還元性鉄およびアスコルビン酸系化合物が特に好ましい。
【0027】
また、上記の樹脂自体が酸素吸収性を有する樹脂を、酸素吸収剤として熱可塑性樹脂中に配合してもよい。
【実施例】
【0028】
以下本発明の実施例につき説明する。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
【0029】
実施例 電気分解還元処理白桃缶詰
白桃を実割り、核除去後、95℃程度の湯中に5分間浸漬することによりプランチングを行った後、剥皮した。果実の一部をサンプリングし、BrixとpHを測定し、シラップを最終Brix18、pH4弱を目標に、ショ糖とクエン酸等を調合してシラップを調製した。シラップの組成はショ糖25%、クエン酸0.8%、アスコルビン酸0.05%であった。
【0030】
このシラップに対して、図1に模式的に示す実験装置を使用して電気分解還元処理を施した。この電気分解装置のイオン隔膜としては、旭硝子株式会社製のセレミオン(商標)を使用した。これは、膜の微細孔にマイナスまたはプラス荷電を帯びた官能基が固定されたもので、固定電荷と同荷電のイオンの膜内の透過が阻害されるため、透過イオンの選択性が得られるものである。
【0031】
この装置を使用して元の酸化還元電位(ORP)がおよそ+200mVであったシラップの一部に電気分解還元処理を施し、酸化還元電位を−50mV以下としたものを調製した。
【0032】
容器として4号缶の内面塗装缶を使用し、固形量(白桃)275g、シラップ160gを充填した。バキュームシーマーで巻締め後、95℃で30分間殺菌処理を施し、サンプルを完成させた。
【0033】
このサンプルを室温で1ヶ月保存後、開缶して内容物を評価した結果、果実の色は自然な色であり,風味は自然な風味で実用上良好なものであることが判った。
【0034】
比較例1
容器としてプレーン缶を使用し、シラップに対して電気分解還元処理を施さなかった以外は実施例と同一方法により白桃缶詰を製造し、内容物の評価を行った。その結果、果肉の色は白く良好であり、風味もおおむね良好であるが錫の味わいが感じられた。
【0035】
比較例2
容器として内面塗装缶を使用し、シラップに対して電気分解還元処理を施さなかった以外は実施例と同一方法により白桃缶詰を製造し、内容物の評価を行った。その結果、果肉の色はやや変色しており、風味は酸化劣化が感じられた。
【0036】
以上の結果から、シラップに電気分解還元処理を施すことにより、内面塗装缶を使用しても実用上充分な品質の果実缶詰を製造できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】電気分解装置を模式的に示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シラップに電気分解還元処理を施した後このシラップと果実を容器に充填密封し、加熱殺菌することを特徴とする容器詰め果実の製造方法。
【請求項2】
該容器は内面塗装缶であることを特徴とする請求項1記載の容器詰め果実の製造方法。
【請求項3】
該容器は内面樹脂被覆缶であることを特徴とする請求項1記載の容器詰め果実の製造方法。
【請求項4】
該容器はプラスチック製容器であることを特徴とする請求項1記載の容器詰め果実の製造方法。
【請求項5】
該プラスチック製容器は酸素バリヤー性または酸素吸収性プラスチックからなることを特徴とする請求項3記載の容器詰め果実の製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2006−158281(P2006−158281A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−353775(P2004−353775)
【出願日】平成16年12月7日(2004.12.7)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】