説明

容器詰飲料

【課題】高濃度の甜菜に由来する水不溶性食物繊維を含みながらも、ざらつき感や異味・異臭が低減され、かつ原料配合時や流通時における泡立ち及び泡持ちの改善された容器詰飲料の提供。
【解決手段】甜菜由来の水不溶性食物繊維を3〜5質量%含有し、甜菜由来の水不溶性食物繊維中の脂質含量が2.4質量%以上であり、pHが3〜5である容器詰飲料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、甜菜由来の水不溶性食物繊維を含有する容器詰飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
健康意識の高まる中、機能性を有する食品素材に大きな関心が寄せられている。なかでも食物繊維の有する生理機能が注目を集めている。
食物繊維の機能としては、一般的に整腸作用や糖質吸収抑制作用等が知られているが、近年では、個々の食物繊維の物理化学的性質や生物学的性質の違いによって、生体に対する機能が異なることが明らかとなってきている。
【0003】
砂糖の主要原料である甜菜(ビート)から糖分を抽出した絞りかすに含まれる食物繊維は、水溶性食物繊維と水不溶性食物繊維より成る。これまでに、甜菜中の食物繊維の機能について様々な報告があり、特に、糖の吸収を遅延させて食後血糖の上昇を抑制する作用が知られている。甜菜中の食物繊維による糖質吸収抑制作用は、他の食物繊維に比べても優れているとされている(非特許文献1)。
【0004】
食物繊維の生理効果を発現させるには、一度に有効量を摂取することが大切であり、上記甜菜中の食物繊維の場合は、一食あたり約5gを一度に摂取するのが有効であると考えられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】生物試料分析Vol.19,No.2,147−151(1996)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
食物繊維を無理なく摂取するには飲料形態とすることが有利である。
しかしながら、本発明者が、甜菜に由来する水不溶性食物繊維を高濃度に含有する容器詰飲料を開発すべく検討したところ、一度少量摂取するだけで目標摂取量を満たせるほどに高い濃度で食物繊維を飲料中に配合することは困難であることが判明した。すなわち、甜菜に由来する水不溶性食物繊維を高濃度化すると、当該食物繊維に由来する異味・異臭が感じられ、また飲用後において舌にざらつき感が残ることが判明した。また、容器詰飲料を製造すると、原料配合時や流通時に泡が立ち易く、一度発生した泡はなかなか消えないことも判明した。これは作業上の問題だけでなく、品質の問題も生じる。
【0007】
したがって、本発明の課題は、高濃度の甜菜に由来する水不溶性食物繊維を含みながらも、ざらつき感や異味・異臭が低減され、かつ原料配合時や流通時における泡立ち及び泡持ちの改善された容器詰飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、脂質含量が一定以上の甜菜由来の水不溶性食物繊維を用い、かつ飲料のpHを特定範囲内に調整することで、食物繊維を高濃度に含有するにもかかわらず、ざらつき感や異味・異臭が低減されて飲みやすい飲料となり、また、容器詰めしても、原料配合時や流通時において泡立ち、泡持ちが抑制されることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、甜菜由来の水不溶性食物繊維を3〜5質量%含有し、甜菜由来の水不溶性食物繊維中の脂質含量が2.4質量%以上であり、pHが3〜5である容器詰飲料を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、甜菜由来の水不溶性食物繊維を高濃度に含有しながらも、飲用後の舌に残るざらつき感や食物繊維に由来する異味・異臭が低減されて飲みやすく、かつ原料配合時や流通時において泡立ち・泡持ちが抑制された容器詰飲料を提供することができる。
本発明の容器詰飲料は、飲料として少量摂取するだけでも甜菜由来の水不溶性食物繊維の生理効果発現に必要な量を摂取できるので、該食物繊維による効果を十分に期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の容器詰飲料は、生理効果を有効に発現するために、脂質含量が2.4質量%(以下、単に「%」とする)以上の甜菜由来の水不溶性食物繊維を高濃度で含有する。
ここで、甜菜由来の水不溶性食物繊維とは、甜菜(Beta Vulgaris)の根から砂糖を抽出した後に残る水不溶性の残渣物である。当該甜菜由来の水不溶性食物繊維に含まれる食物繊維は、ヒトの消化酵素では分解されない繊維分である。繊維成分は、植物細胞壁組織において一般的に見られるペクチン、ヘミセルロース、セルロース、リグニンが主成分である。水不溶性食物繊維中の食物繊維の含有量は75%以上が好ましい。食物繊維の含有量はAOAC公定法の食物繊維測定法(985.29、プロスキー法)によって測定される。
【0012】
本発明で用いられる甜菜由来の水不溶性食物繊維中の脂質含量は、2.4%以上であるが、更に2.4〜3.0%、特に2.5〜2.9%、殊更2.6〜2.8%であるのが、泡立ち及び泡持ちを抑制する点から好ましい。
甜菜由来の水不溶性食物繊維中の脂質含量は、酸分解法によって測定される。詳細は後記実施例に記載した。
【0013】
本発明で用いられる甜菜由来の水不溶性食物繊維には、繊維成分、脂質の他、タンパク質、灰分、糖質、水分等が含まれていてもよい。
【0014】
甜菜由来の水不溶性食物繊維は、脂質含量が上記範囲内であれば、特に限定されず、甜菜糖製造工程において、甜菜の根から砂糖を抽出した後の残渣をそのまま、或いはこれを精製処理したもの、更に有機溶媒で熱抽出処理したもの等を適宜単独で又は混合して用いることができる。市販されている甜菜由来の水不溶性食物繊維の例としては、日本甜菜製糖(株)の「ビートファイバー」や「Newビートファイバー」が挙げられる。
【0015】
本発明の容器詰飲料中、甜菜由来の水不溶性食物繊維の含有量は3〜5%であるが、更に3〜4.5%、特に3〜4%であるのが、泡立ち・泡持ちの抑制の点、異味・異臭の抑制の点、ざらつき感の抑制の点から好ましい。本発明において、甜菜由来の水不溶性食物繊維は、前記プロスキー法にて定量される。すなわち、所定の条件下で一連の酵素処理後、約80%のエタノール中で沈殿する残渣質量から非消化性タンパクと灰分を差し引いて測定される質量部である。
【0016】
本発明の容器詰飲料は、液性が酸性であり、pHは3〜5であるが、pH3〜4.5、特にpH3〜4であるのが、異味の抑制の点、ざらつき感の抑制の点から好ましい。
【0017】
上記のようなpHに調整するために、本発明の容器詰飲料には、有機可食酸や無機可食酸が使用されても良い。このような可食酸としては、一般に食品で使用されるものであれば如何なるものでも良いが、例えば、乳酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、酢酸、フマル酸、リン酸、アジピン酸、グルコン酸、コハク酸、リン酸水素カリウム又はナトリウム、リン酸二水素カリウム又はナトリウムや果汁等が挙げられる。特に酸味の質の点で乳酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、酢酸が好ましい。
【0018】
本発明の容器詰飲料には、さらに風味を改善するための甘味料を配合してもよい。本発明の容器詰飲料に含有される甘味料としては、単糖、少糖、糖アルコール、非糖質天然甘味料、アミノ酸系甘味料、合成甘味料等、一般に食品で使用されるものであれば如何なるものでも良いが、例えば、単糖としては、フルクトース、グルコース、ガラクトース、キシロース、タガトース、少糖としては、ショ糖、乳糖、麦芽糖、トレハロース、イソマルトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、大豆オリゴ糖、イソマルツロース、カップリングシュガー等が挙げられる。糖アルコールとしてはエリスリトール、キシリトール、マルチトール、ソルビトール、ラクチトール、マンニトール等が挙げられる。非糖質天然甘味料としては、ステビオサイド、グリチルリチン、ソーマチン、アミノ酸系甘味料としては、アスパルテーム、合成甘味料としては、サッカリン、スクラロース、アセスルファムカリウム等が挙げられる。これらは、商業的に入手可能な甘味料を添加することで本発明の容器詰め飲料に含有されても良いが、単糖や二糖を含む果汁、野菜汁、はちみつ等由来のものとして含有されていても良い。
【0019】
また、本発明の容器詰飲料には、色素類、酸化防止剤、香料、乳化剤、保存料、野菜汁、果汁、乳成分等が適宜配合されていても良い。なお、野菜汁又は果汁は配合しなくても差し支えないが、野菜汁又は果汁を配合する場合は、容器詰飲料中の野菜汁又は果汁濃度がストレート換算で12%以下であることが好ましく、10%以下がより好ましく、6%以下がさらに好ましい。また、容器詰飲料中の野菜汁又は果汁の配合量は、野菜汁又は果汁の風味の観点より、ストレート換算で0.1%以上が好ましく、0.5%以上がより好ましい。乳成分を配合する場合は、無脂乳固形分量が0.1〜8%となることが好ましい。
【0020】
本発明の容器詰飲料は、非茶系容器詰飲料として特に好適であり、非茶系飲料として、例えば、炭酸飲料、果汁エキス入り飲料、野菜エキス入りジュース、ニアウォーター又はスポーツドリンク等のソフトドリンクが挙げられる。本発明の容器詰飲料は、高濃度の甜菜由来の水不溶性食物繊維を含むことから、食物繊維摂取用の飲料として好適である。
【0021】
本発明の容器詰飲料の1本当りの容量は200mL、さらに150mL特に100mLとするのが服用感及び有効性の点で好ましい。また、本発明の容器詰飲料は、摂食時或いは摂食前に摂取するのが好ましく、特に摂食前5分から30分以内に摂取するのが好ましい。
【0022】
本発明の容器詰め飲料の製造法については、特に制限はなく常法に従い製造される。すなわち、甜菜由来の水不溶性食物繊維の分散工程、甜菜由来の水不溶性食物繊維とその他の成分の調合工程、殺菌・充填工程をへて製造される。甜菜由来の水不溶性食物繊維の分散は、常温下で行うのが好ましい。また、凝集・沈殿抑制効果を高めるために、ホモジナイザーなどの乳化機などを使用しても良い。本飲料の殺菌条件は、食品衛生法に定める条件を満たしていれば良く、殺菌の手段も特に制限は無く、レトルト、UHT、HTSTの各種殺菌機を用いることができる。さらには、殺菌後の容器への充填方式も特に制限は無く、ホットパック充填(熱間充填)や無菌充填などを用いることができる。本飲料に使用する容器は、PETボトル、金属缶、チアパック、紙容器など一般に飲料に使用されるものであれば特に限定するものではない。
【実施例】
【0023】
〔脂質の測定法〕
試料を適量50mL容のビーカーに精密に量り(Sg)、エタノール2mLを加えてガラス棒でよく混和した。次いで、12規定塩酸10mLを加えて十分に混和し、時計皿で覆って70〜80℃の電気恒温水槽上で30〜40分間時々かき混ぜながら加温した。放冷後、内容物を抽出管に移し、ビーカーとガラス棒をエタノール10mLで洗い、更にエーテル25mLで洗浄し、洗液を先の抽出管に集めた。栓をして軽く振って混和した後、栓をゆっくり回してエーテルのガスを抜いた。再び栓をして30秒間激しく振り混ぜた。次いで石油エーテル25mLを加え同様にして振り混ぜた。上層が透明になるまで静置した後、脱脂綿を詰めた漏斗で濾過した。濾液は予め100〜105℃の電気定温乾燥器で1時間乾燥後デシケーター中で1時間放冷し、恒量(W0g)にしたフラスコに集めた。管内の水層に再びエーテルと石油エーテル各20mLずつの混液を加え、上記とう同様に操作した後静置し、エーテル層を同様に濾過してフラスコに集めた。更に、エーテルと石油エーテル各15mLずつの混液を加え、この操作をもう一度繰り返した後、抽出管の先端、栓及び漏斗の先端をエーテル・石油エーテルの等量混液で十分に洗い集めた。混液を捕集したフラスコをロータリーエバポレーターに連結し、70〜80℃の溶媒留去用電気恒温水槽中で残りの混液を十分に留去した。フラスコの外側をガーゼで拭き、100〜105℃の電気定温乾燥器中で1時間乾燥後、デシケーターに移し、1時間放冷して秤量した。乾燥、放冷、秤量の操作を繰り返し、恒量(Wg)を求め、次式により脂質含量を算出した。
脂質含量(g/100g)=(W−W0)/S×100
【0024】
〔pHの測定法〕
pHは、サンプルの品温を20℃にした後、(株)堀場製作所製pHメーター(F−22)を使用し測定した。
【0025】
〔容器詰飲料の調製〕
甜菜由来の水不溶性食物繊維として表1の「ビートファイバー」、「Newビートファイバー」(いずれも日本甜菜製糖(株)製)を用いて、表2の水不溶性食物繊維1〜5を調製した。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
表3〜5の組成の容器詰飲料を製造した。前記不溶性食物繊維1〜5を夫々に総量が100gとなるように水に分散させた。次いで、所定のpHになるようにクエン酸水溶液で調整した。
その後、フタ付きガラス管に充填し、85℃の恒温槽を用いて85℃で30分間の殺菌を行い、容器詰飲料を得た。
容器詰飲料のpH及び甜菜由来の水不溶性食物繊維中の脂質含量の分析値を表3〜5に示す。
【0029】
〔官能試験〕
得られた容器詰飲料について、専門パネル3名により、下記の評価基準で官能試験を行い、協議により評点を決定した。先ず、泡立ち及び泡持ちの評価については、容器を片手で10回上下に振盪した後の泡を観察し行った。また、異味及び異臭の評価とざらつき感の評価については、各容器詰飲料の調製から1時間後に、全てのサンプルについて評価を行い、下記基準内で相対的位置付けを行った。結果を表3〜5に示す。
【0030】
(泡立ち及び泡持ちの評価基準)
5:泡立たない
3:泡立ちがあるが、泡が消える
1:泡立ちが強く、かつ泡が消えにくい
(異味及び異臭の評価基準)
5:異味・異臭がない
3:やや異味・異臭が感じられる
1:異味・異臭が非常に強い
(ざらつき感の評価基準)
5:ざらつき感が非常に弱い
3:わずかにざらつき感が感じられる
1:ざらつき感が非常に強い
【0031】
【表3】

【0032】
【表4】

【0033】
【表5】

【0034】
表3〜5から、飲用後の舌に残るざらつき感や食物繊維に由来する異味・異臭が軽減され、飲みやすい容器詰飲料が得られることが確認された。また、本発明の容器詰飲料は、泡立ち・泡持ちが抑制されたものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
甜菜由来の水不溶性食物繊維を3〜5質量%含有し、甜菜由来の水不溶性食物繊維中の脂質含量が2.4質量%以上であり、pHが3〜5である容器詰飲料。
【請求項2】
食物繊維摂取用である請求項1記載の容器詰飲料。

【公開番号】特開2012−90545(P2012−90545A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239214(P2010−239214)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】