説明

容積流量を切り替えポイントに用いるマルチ渦流量計

【課題】切り替えポイントを見直して精度の良い熱式流量計を使用することが可能となるマルチ渦流量計を提供する。
【解決手段】マルチ渦流量計1は、容積流量で計測する渦流量計と質量流量で計測する熱式流量計とを備え、これら二つの流量計を流路13を流れる被測定流体の流量に応じて使い分ける。マルチ渦流量計1は、容積流量を切り替えポイントに用いる。すなわち、マルチ渦流量計1は、二つの流量計の切り替えポイントを容積流量に基づくものとする。渦流量計の最小流量より大きく熱式流量計の最大流量よりも小さい範囲の切り替えポイント容積流量Qを、Q=K1/√Pで決定する。但し、P:流路の圧力(変数)、K1:流路13の面積、渦差圧、渦差圧に係る定数、0℃で1atmの密度、及び、1atmの時の圧力で決まる定数とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容積流量で計測する渦流量計と質量流量で計測する熱式流量計とを備え、これら二つの流量計を流路を流れる被測定流体の流量に応じて使い分ける構成のマルチ渦流量計に関し、詳しくは、二つの流量計の切り替えポイントに関する。
【背景技術】
【0002】
流管に流れる被測定流体の流量を計測するために、渦流量計や熱式流量計が用いられている。
【0003】
渦流量計は、周知のように、流体の流れの中に渦発生体を配設したとき、所定のレイノルズ数範囲では、渦発生体から単位時間内に発生するカルマン渦の数(渦周波数)が気体、液体に関係なく流量に比例することを利用したもので、この比例定数はストローハル数と呼ばれている。渦検出器としては、熱センサ、歪みセンサ、光センサ、圧力センサ、超音波センサ等が挙げられ、これらは渦による熱変化、揚力変化等を検出することが可能なものになっている。渦流量計は、被測定流体の物性に影響されずに流量を測定できる簡易な流量計であって、気体や流体の流量計測に広く使用されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
熱式流量計は、感温センサ(流体温度検出センサ)と加熱感温センサ(加熱側温度センサ)とを備えて構成されており、温度センサと加熱センサの機能を有する加熱感温センサ(流速センサ(ヒータ))の温度が感温センサで計測される温度に対して一定の温度差になるように制御されている。これは、被測定流体を流した時にヒータから奪われる熱量が質量流量と相関があるからであって、ヒータに対する加熱電力量から質量流量が算出されるようになっている(例えば特許文献2参照)。
【0005】
下記特許文献3には、渦流量計の機能と熱式流量計の機能とを兼ね備えてなるマルチ渦流量計の技術が開示されている。マルチ渦流量計は、微少流量から大流量まで精度よく計測することができ、この点が特に他の流量計よりも優れている。
【0006】
マルチ渦流量計は、流管の流路を流れる被測定流体の流れの状況に応じて渦流量計の機能と熱式流量計の機能とが使い分けられるようになっている。すなわち、微少流量域や低流量域では、熱式流量計の機能によって計測がなされ、高流量域では、渦流量計の機能によって計測がなされるようになっている。
【0007】
渦流量計は、流量が低くなって渦差圧が小さくなると渦検出器の感度が不足してしまうことから、マルチ渦流量計では、所定の下限流量で熱式流量計へ機能を切り替えるような制御がなされている。
【特許文献1】特許第2869054号公報 (第3頁、第1図)
【特許文献2】特開2004−12220号公報 (第6頁、第4図)
【特許文献3】特開2006−29966号公報 (第4−8頁、第1−5図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のマルチ渦流量計にあっては、渦流量計の機能と熱式流量計の機能との切り替えに関して、流量を基準に判断するような制御がなされている。すなわち、従来のマルチ渦流量計にあっては、ある一定の流量になると切り替えが行われるような制御がなされている。ここで問題となるのは、流管内の圧力が全く考慮されてない点であると本願発明者は考えている。以下、図面を参照しながら問題点について説明する。
【0009】
図5(a)において、縦軸を容積流量[L/min]、横軸を流管内の圧力[Mpaabs]としたグラフには、渦流量計の最小流量(一点鎖線)が曲線で示されている。このグラフから渦流量計は、流管内の圧力が上昇するに伴って、より低い流量まで計測することができるということが分かる。これは、流量が低くても流管内の圧力が上昇すると渦差圧が高くなり、渦信号が安定することによるものである。このことは本願発明者が見出している。
【0010】
ところで、従来のマルチ渦流量計にあっては、上記の如く、ある一定の流量になると切り替えが行われるようになることから、切り替えポイントをグラフにプロットしてみると、図5(b)の横一直線の太実線で示すようなものになる(切り替えポイントは、当然であるが、渦流量計の最小流量(一点鎖線)の曲線よりも上にプロットされる)。
【0011】
次に、このような図5(b)に示す切り替えポイント(太実線)や渦流量計の最小流量(一点鎖線)に対応する熱式流量計に関して考えると、この選定に当たっては、熱式流量計の最大流量が渦流量計の最小流量(一点鎖線)の曲線よりも上で、且つ、切り替えポイント(太実線)に対して交差することのない、図6(a)の曲線(間隔が狭い破線)で示すような最大流量のものを選定しなければならないことになる。
【0012】
しかしながら、図6(a)の曲線(間隔が狭い破線)で示すような最大流量の熱式流量計にあっては、流量計測範囲が広い反面、マルチ渦流量計として必要な微少流量域や低流量域での精度が十分に得られないという可能性を含んでいる。
【0013】
現在、精度の良い熱式流量計は数多く存在している。その中で最大流量の曲線が渦流量計の最小流量(一点鎖線)の曲線により近くなるものを選定すれば、より良いマルチ渦流量計を提供することができるようになると本願発明者は考えている。しかし、精度の良い熱式流量計を選定した場合には、図6(b)に示すように最大流量の曲線(間隔の広い破線)がこの途中で切り替えポイント(太実線)に交差してしまうことから、結果、計測不能となる状態を発生させてしまうことになる。
【0014】
本願発明者は、次のように考えている。すなわち、切り替えポイントが流管内の圧力を考慮したものではないことが精度の良い熱式流量計を使用することのできない要因であると考えている。本願発明者は、精度の良い熱式流量計を使用してより良いマルチ渦流量計を提供したいと考えている。
【0015】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたもので、切り替えポイントを見直して精度の良い熱式流量計を使用することが可能となるマルチ渦流量計を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するためになされた請求項1記載の本発明の容積流量を切り替えポイントに用いるマルチ渦流量計は、容積流量で計測する渦流量計と質量流量で計測する熱式流量計とを備え、これら二つの流量計を流路を流れる被測定流体の流量に応じて使い分ける構成のマルチ渦流量計において、前記二つの流量計の切り替えポイントを前記容積流量に基づくものとし、前記渦流量計の最小流量より大きく前記熱式流量計の最大流量よりも小さい範囲の切り替えポイント容積流量QをQ=K1/√Pで決定する(但し、P:流路の圧力(変数)、K1:流路の面積、渦差圧、渦差圧に係る定数、0℃で1atmの密度、及び、1atmの時の圧力、で決まる定数)ことを特徴としている。
【0017】
上記課題を解決するためになされた請求項2記載の本発明の容積流量を切り替えポイントに用いるマルチ渦流量計は、容積流量で計測する渦流量計と質量流量で計測する熱式流量計とを備え、これら二つの流量計を流路を流れる被測定流体の流量に応じて使い分ける構成のマルチ渦流量計において、前記二つの流量計の切り替えポイントを前記容積流量に基づくものとし、前記渦流量計の最小流量より大きく前記熱式流量計の最大流量よりも小さい範囲の切り替えポイント容積流量QをQ=K2/√(P/T)で決定する(但し、P:流路の圧力(変数)、T:被測定流体の絶対温度(変数)、K2:流路の面積、渦差圧、渦差圧に係る定数、0℃で1atmの密度、1atmの時の圧力、及び、0℃に相当する絶対温度(273.15K)、で決まる定数)ことを特徴としている。
【0018】
このような特徴を有する本発明によれば、圧力が加味された上で、或いは圧力と温度とが加味された上で渦流量計の機能から熱式流量計の機能へ、或いは熱式流量計の機能から渦流量計の機能への切り替えが行われるようになる。本発明によれば、渦流量計の最小流量と関係がある圧力(圧力及び温度)に合わせて切り替えポイントが変化するようになる。従って、渦流量計の最小流量の曲線に近い最大流量の曲線を有する精度の良い熱式流量計の使用が可能になる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、切り替えポイントを見直すことにより、精度の良い熱式流量計を使用することができる。従って、従来よりも格段に良くなるマルチ渦流量計を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら説明する。図1は本発明の容積流量を切り替えポイントに用いるマルチ渦流量計の一実施の形態を示す正面図である。また、図2は図1のA−A線断面図、図3は流量変換器の断面図である。さらに、図4は切り替えポイントの説明に係る図、図5は切り替えポイントの比較説明に係る図である。
【0021】
図1及び図2において、引用符号1は本発明のマルチ渦流量計を示している。このマルチ渦流量計1は、渦流量計の機能と熱式流量計の機能とを兼ね備えるように構成されている。また、マルチ渦流量計1は、後述するが、二つの流量計の切り替えポイントを決定し、この決定した切り替えポイントに基づいて流量計の機能が切り替わるように構成されている。マルチ渦流量計1は、測定用取付配管2、圧力計3、測定管4、渦発生体5、及び渦検出器6を有する渦式検出手段7と、感温センサ8及び加熱感温センサ9を有する熱式検出手段10と、渦式検出手段7及び熱式検出手段10からの出力信号に基づいて被測定流体(図示省略)の流速又は流量を算出する流量変換器11とを備えて構成されている。以下、先ず各構成について図1ないし図3を参照しながら説明し、次に二つの流量計の切り替えポイントについて説明をする。
【0022】
測定用取付配管2は、流管12の中間に着脱自在に取り付けられて(流管12の中間に限らず、端部に取り付けても可)、この内部に流路13を形成する例えば図示のような筒状の構造体として形成されている。測定用取付配管2の両端には、それぞれ継ぎ手が形成されている。このような測定用取付配管2の外部には、流量変換器11が適宜手段で固定されている。測定用取付配管2に形成される流路13は、断面円形状に形成されている。この流路13には、被測定流体が矢印方向に流れるようになっている。
【0023】
流路13の中間には、測定管4や、感温センサ8及び加熱感温センサ9が設けられている。また、これら測定管4等の上流側で且つ測定管4の近傍には、圧力計測部14が形成されている(配置は一例であるものとする)。この圧力計測部14には、圧力計3が収納されるような状態で取り付けられている。圧力計測部14は、圧力計3を収納する部分と、流路13を流れる被測定流体の一部を導入する部分とを有している。圧力計3は、流路13を流れる被測定流体の圧力を計測するためのものであって、ここでは公知の圧力計が用いられている(但し流量変換器11に対応可能なものとする)。圧力計3は、流量変換器11に対し一体化するように取り付けられている。圧力計3は、渦検出器6や感温センサ8及び加熱感温センサ9に対して若干上流側に離れた位置で流量変換器11に対し一体化されている。
【0024】
測定管4は、管断面が四角形状となる筒状に形成されている(形状は一例であるものとする)。測定管4は、被測定流体が流れる矢印方向に沿って伸びるように形成されている。測定管4の被測定流体が流れる部分には、渦発生体5と、この渦発生体5の下流側に位置する後述の受圧板15とが設けられている。測定管4の外部には、感温センサ8及び加熱感温センサ9の先端を保持する温度センサ保持部16が設けられている(本形態では一体であるが、この限りでないものとする)。測定管4は、連結筒部17を介して渦検出器6に固定されている。本形態において、測定管4を連結した渦検出器6は、測定用取付配管2に対して着脱自在となるように取り付けられている。
【0025】
渦発生体5は、測定管4の内部に渦を発生させるための部分であって、被測定流体の流れに対向するように、この形状が設定されている。渦発生体5は、本形態において、三角柱形状に形成されている(形状は一例であるものとする。特許文献1の特許第2869054号公報には幾つかの例が開示されている)。渦発生体5は、測定管4の被測定流体が流入する側の開口部分に設けられている。渦発生体5は、測定管4の開口部分中央に位置するように設けられている。
【0026】
ここで、渦発生体5により生じる渦について説明する。渦は、測定管4の上記開口部分に流入する被測定流体が渦発生体5に沿って流れる流れによって生じる運動量変化の大きい位置から剥離するもので、渦発生体5の断面が本形態のように三角形状の場合は、三角形エッジ部が剥離点となる。渦発生体5から剥離し流出する渦は、カルマンの安定渦条件に従って、千鳥状に交互に発生し、一定の渦間距離及び渦列間距離を保った渦列を形成しながら流出する。渦間距離は、単位時間当たりに発生する渦の数、すなわち、渦周波数と、所定時間内に、例えば、基準タンク等の基準容器に流入した流体から求めた流量に基づいて算出された単位時間当たりの流速とから求めることができる。
【0027】
温度センサ保持部16は、測定管4の下壁から水平方向に、言い換えれば測定管4の両側壁からそれぞれ突出するように形成されている。温度センサ保持部16は、特に限定するものではないが、平面視の形状が三角形となるように形成されている。温度センサ保持部16は、測定管4に恰もヒレがあるような形状に形成されている。このような温度センサ保持部16には、感温センサ8、加熱感温センサ9の各先端が真っ直ぐに差し込まれるようになっている。
【0028】
渦検出器6は、渦検出のためのセンサであって、ここでは受圧センサが用いられている。渦検出器6は、測定管4内の渦発生体5の下流側に配置される受圧板(センサ受圧板)15と、渦検出器6内部に設けられる圧力検出素子板とを有しており、渦発生体5により生じるカルマン渦に基づく変動圧力(交番圧力)を受圧板15を介して圧力検出素子板により検出するように構成されている。渦検出器6は、本形態において、流量変換器11に対し一体化するように取り付けられている。
【0029】
渦式検出手段7は、測定用取付配管2内を流動する被測定流体の流速又は流量を求めるために設けられている。測定用取付配管2内を流動する被測定流体の流速又は流量は、測定管4内を流れる被測定流体の流速又は流量を、測定用取付配管2の部分流速又は部分流量として算出することにより求められるようになっている。これは、測定用取付配管2の管断面の全体ではなく、この一部について測定しても流れが均一ならば全体流量を推定することができることに基づくものである。すなわち、直管を流れる整流された流体の流速分布は、レイノルズ数の関数として与えられるので、測定用取付配管2の中心部から或る距離の位置での流速を測定用取付配管2内の平均流速に換算することができるものである。
【0030】
熱式検出手段10を構成する感温センサ8及び加熱感温センサ9は、共に公知のものが用いられている。尚ここでは、具体的な構成についての説明を省略するものとする。本形態の感温センサ8は、棒状の温度センサであり、同じく棒状の加熱感温センサ9は、温度センサと加熱センサの機能を有する流速センサ(ヒータ)であるものとする。感温センサ8及び加熱感温センサ9は、本形態において、流量変換器11に対し一体化するように取り付けられている。
【0031】
感温センサ8及び加熱感温センサ9は、測定用取付配管2の流路13に突出しており、最先端部分が温度センサ保持部16によって保持されている。感温センサ8及び加熱感温センサ9の各感温部分は、測定管4の近傍に配置されている。感温センサ8及び加熱感温センサ9は、渦検出器6と共に横一列に並んで配置されている(配置は一例であるものとする。渦検出に影響を来さないように配置すれば他でもよいものとする)。尚、感温センサ8及び加熱感温センサ9の各感温部分を温度センサ保持部16から更に流路13の中央に突出させるように長くしてもよいものとするのとする(外部から測定用取付配管2に伝わる熱の作用を避けるため)。
【0032】
流量変換器11は、変換器ケース18を有している。この変換器ケース18の内部には、マイクロコンピュータ等の構成を有するアンプボード19が設けられている。アンプボード19には、圧力計3の伝送線20と、感温センサ8及び加熱感温センサ9の各リードと、渦検出器6の伝送線21とが接続されている(図3中の感温センサ8及び加熱感温センサ9の配置を便宜上変えて図示している。実際には90°回転した位置に配置される。渦検出器6の伝送線21と共に図3の紙面直角方向に並ぶように配置される)。
【0033】
感温センサ8及び加熱感温センサ9と伝送線20及び21は、変換器ケース18の内部に引き込まれている。感温センサ8及び加熱感温センサ9と伝送線20及び21は、外部に露出することなく変換器ケース18の内部に引き込まれている。感温センサ8及び加熱感温センサ9と、圧力計3と、渦検出器6と、アンプボード19は、流量計測部及び流量演算部としての機能を有している。
【0034】
変換器ケース18の開口部分には、スイッチボード22やディスプレイボード23を有する変換器カバー24がパッキン(符号省略)を挟んだ状態で取り付けられている。変換器ケース18の一側壁には、伝送ケーブル25が接続されている。
【0035】
上記構成及び構造において、本発明のマルチ渦流量計1は、測定用取付配管2の流路13を流れる被測定流体の流れの状況に応じて、すなわち後述する切り替えポイントに基づいて、渦流量計の機能と熱式流量計の機能とが使い分けられるようになっている。具体的に、微少流量域や低流量域では、熱式流量計の機能によって計測がなされ、高流量域では、渦流量計の機能によって計測がなされるようになっている(できるだけ渦流量計の機能によって計測がなされるようになっている)。
【0036】
本発明のマルチ渦流量計1は、熱式流量計の機能における高流量域計測と、渦流量計の機能における低流量域計測とがある程度ラップするようになっており、このラップする範囲において切り替えポイントが決定され、そして、決定された切り替えポイントに基づいて流量変換器11で切り換えが行われるようになっている(切り替えポイントについては後述する)。
【0037】
先ず、微少流量域や低流量域を計測する際の作用、すなわち、熱式流量計の機能によって計測を行う場合の作用を説明する。加熱感温センサ9は、感温センサ8で検出された温度に基づいて流量計測を行う。すなわち、流量変換器11における流量計測部及び流量演算部では、感温センサ8と加熱感温センサ9との温度差が一定(例えば+30℃)になるように、加熱感温センサ9を加熱する(電流を流す)とともに、この加熱に係る電流値から質量流量を算出する。算出された質量流量は、所定の単位に換算された後に、変換器カバー24の上部に設けられた表示部に表示、又は伝送ケーブル25で送信されて図示しない表示装置に表示される。
【0038】
上記質量流量の算出について補足説明をすると、被測定流体(図示省略)を矢印方向に流したときに、加熱感温センサ9は被測定流体によって冷やされる。感温センサ8との温度差を一定に制御するためには、さらに加熱感温センサ9に電流を流す必要がある。この時、加熱感温センサ9に流れる電流は、質量流量に比例することが知られており、これを利用して質量流量が算出される。
【0039】
次に、渦流量計の機能によって計測を行う場合の作用を説明する。渦発生体5により生じるカルマン渦に基づく変動圧力(交番圧力)を受圧板15及び圧力検出素子板において検出する。そして、渦検出器6における検出値から測定管4内を流れる被測定流体の流速又は流量を、測定用取付配管2の部分流速又は部分流量として算出し、測定用取付配管2内を流れる被測定流体の流速又は流量(容積流量)を算出する。算出された流速又は流量は、所定の単位に換算された後に、変換器カバー24の上部に設けられた表示部に表示、又は伝送ケーブル25で送信されて図示しない表示装置に表示される。
【0040】
流量変換器11において行われる流量計の機能に係る切り換えに関しては、圧力計3からの測定値が流量変換器11に取り込まれ、この取り込まれた測定値が加味されて切り替えポイントが決定された上で、熱式流量計の機能から渦流量計の機能へ、或いは渦流量計の機能から熱式流量計の機能への切り替えが行われるようになっている。
【0041】
切り替えポイントについて説明する。
【0042】
渦差圧ΔPは次のような関係がある。
ΔP=K*ρ*V
この式を変形すると、
=ΔP/(K*ρ)…(1)
となる。

V:流速
ΔP:渦差圧
ρ:密度
K:定数
【0043】
<切り替えポイントの算出1>
容積流量で切り替えを行う(圧力のみを変数とした場合)。

容積流量Qは、
Q=π*R*V…(2)
という関係がある。

Q:容積流量
R:流路13の半径
【0044】
ρ=ρ0*P/P0…(3)

ρ0:0℃で1atmの密度
P:絶対圧力[Mpaabs]
P0:1atmの圧力≒0.10133[Mpaabs]
【0045】
(2)式を(1)式に代入すると、
{Q/(π*R)}=ΔP/(K*ρ)
となる。
左辺をQとなるように整理すると、
Q=π*R*√{ΔP/(K*ρ)}…(4)
となる。
【0046】
(3)式を(4)式に代入すると、
Q=π*R*√{ΔP/(K*ρ0*P/P0)}
となる。
さらに整理すると、
Q=π*R*√(ΔP/K/P0*P0)/√P…(5)
となる。
【0047】
ここで、K1=π*R*√(ΔP/K/P0*P0)とすると、
(5)式は、
Q=K1/√P
となり、この関数が切り替えポイント(切り替えポイント容積流量Q)となる。
【0048】
<切り替えポイントの算出2>
容積流量で切り替えを行う(圧力・温度を変数とした場合)。

容積流量Qは、上記の如く、
Q=π*R*√{ΔP/(K*ρ)}…(4)
という関係がある。

密度ρは、
ρ=ρ0*P/P0*T0/T…(6)
という関係がある。

T:絶対温度[K]
T0:0℃に相当する絶対温度≒273.15[K]
【0049】
(4)式に(6)式を代入すると、
Q=π*R*√{ΔP/(K*ρ0*P/P0*T0/T)}
となる。
さらに整理すると、
Q=π*R*√(ΔP/K/ρ0*P0/T0)/√(P/T)…(7)
となる。
【0050】
ここで、K2=π*R*√(ΔP/K/ρ0*P0/T0)とすると、
(7)式は、
Q=K2/√(P/T)
となり、この関数が切り替えポイント(切り替えポイント容積流量Q)となる。
【0051】
図4において、縦軸を容積流量[L/min]、横軸を圧力[Mpaabs]としたグラフには、切り替えポイント(太実線:非常になだらかな右下がりの曲線)、渦流量計の最小流量(一点鎖線:非常になだらかな右下がりの曲線)、熱式流量計の最大流量(破線:右下がりの曲線)の各ラインがプロットされている。図4に示される切り替えポイント(太実線)は、渦流量計の最小流量(一点鎖線)より大きく熱式流量計の最大流量(破線)より小さくなっているが、本発明によれば、上記の切り替えポイントの算出によると、切り替えポイント(太実線)が渦流量計の最小流量(一点鎖線)の近傍でこれに添うように決定されている。従って、このような切り替えポイント(太実線)によってグラフからも分かるように、本発明では、できるだけ渦流量計の機能を用いて流量を測定することができるようになる。また、熱式流量計の最大流量(破線)が従来と比べて渦流量計の最小流量(一点鎖線)に近づけることで、精度の良い熱式流量計を使用することができるようになる。
【0052】
以上、図1ないし図4を参照しながら説明してきたように、本発明によれば、切り替えポイントの見直しを行うことにより、従来よりも精度の良い熱式流量計を使用することができ、結果、従来よりも格段に良くなるマルチ渦流量計1を提供することができるようになる。
【0053】
本発明によれば、圧力、温度が変動しても最適な流量計の切り替えを行うことができるようになる。
【0054】
その他、本発明は本発明の主旨を変えない範囲で種々変更実施可能なことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の容積流量を切り替えポイントに用いるマルチ渦流量計の一実施の形態を示す正面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】流量変換器の断面図である。
【図4】切り替えポイントの説明に係る図である。
【図5】従来の切り替えポイントの説明に係る図である。
【図6】従来の切り替えポイントの説明に係る図である。
【符号の説明】
【0056】
1 マルチ渦流量計
2 測定用取付配管
3 圧力計
4 測定管
5 渦発生体
6 渦検出器
7 渦式検出手段
8 感温センサ
9 加熱感温センサ
10 熱式検出手段
11 流量変換器
12 流管
13 流路
14 圧力計測部
15 受圧板
16 温度センサ保持部
17 連結筒部
18 変換器ケース
19 アンプボード
20、21 伝送線
22 スイッチボード
23 ディスプレイボード
24 変換器カバー
25 伝送ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容積流量で計測する渦流量計と質量流量で計測する熱式流量計とを備え、これら二つの流量計を流路を流れる被測定流体の流量に応じて使い分ける構成のマルチ渦流量計において、
前記二つの流量計の切り替えポイントを前記容積流量に基づくものとし、前記渦流量計の最小流量より大きく前記熱式流量計の最大流量よりも小さい範囲の切り替えポイント容積流量QをQ=K1/√Pで決定する(但し、P:流路の圧力(変数)、K1:流路の面積、渦差圧、渦差圧に係る定数、0℃で1atmの密度、及び、1atmの時の圧力、で決まる定数)
ことを特徴とする容積流量を切り替えポイントに用いるマルチ渦流量計。
【請求項2】
容積流量で計測する渦流量計と質量流量で計測する熱式流量計とを備え、これら二つの流量計を流路を流れる被測定流体の流量に応じて使い分ける構成のマルチ渦流量計において、
前記二つの流量計の切り替えポイントを前記容積流量に基づくものとし、前記渦流量計の最小流量より大きく前記熱式流量計の最大流量よりも小さい範囲の切り替えポイント容積流量QをQ=K2/√(P/T)で決定する(但し、P:流路の圧力(変数)、T:被測定流体の絶対温度(変数)、K2:流路の面積、渦差圧、渦差圧に係る定数、0℃で1atmの密度、1atmの時の圧力、及び、0℃に相当する絶対温度(273.15K)、で決まる定数)
ことを特徴とする容積流量を切り替えポイントに用いるマルチ渦流量計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−333461(P2007−333461A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−163343(P2006−163343)
【出願日】平成18年6月13日(2006.6.13)
【出願人】(000103574)株式会社オーバル (82)
【Fターム(参考)】