説明

宿主防御因子X(HDFX)

本発明は、潜在的に致死性の病原体及び他の攻撃への哺乳類の被験者の暴露の前及び後の医学的予防及び治療に有用な組成物及び方法に関する。より特定すれば、本発明は、あらゆる病原体及び様々な攻撃による感染に抵抗する動物被験者の能力を増強する、単離された天然宿主防御因子、又は「HDFX」を提供する。HDFXを含む薬学組成物及びHDFXの投与を含む治療法も提供される。


【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
発明の分野
本発明は、潜在的致死性病原体及び他の攻撃への被験者の暴露の前及び後に被験者の医学上の予防及び治療に有用な組成物及び方法に関する。より特定すれば、本発明は、あらゆる病原体及び様々な攻撃による感染に抵抗する被験者の能力を増強する、単離された天然宿主防御因子、又は「HDFX」を提供する。HDFXを含む薬学組成物及びHDFXの投与を含む治療法も提供される。
発明の背景
2001年9月11日のテロリストの攻撃及び続いた炭疽菌の脅迫は、テロリストのグループ及び悪党階級(rogue states)による化学及び生物戦争に対する注意を引き付けた。明らかに、炭疽菌及び他の致死性病原体、例えばとりわけ、天然痘、疫病(plague)、ボツリヌス、ウイルス性出血熱、及び野兎病の宿主に対する新規なワクチンに関する要求が存在する。しかしながら、あらゆる潜在的な生物因子(agent)及びベクターに対して、集団のあらゆるメンバーのためにワクチンを製造して投薬し、そして皆に予防接種することは不可能である。さらに、ワクチンは、しばしば様々な副作用を付随し、脳の損傷から死にまで及ぶ。人体は疾患に対して天然の耐性を有するから、疾患に対する人体の天然の耐性を増幅する(boost)ことができる、潜在的な致死性の病原体への暴露の前及び後の使用のための医学上の予防及び治療法を開発することが望まれている。
発明の概要
本発明者らは、あらゆる病原体により引き起こされる疾患又は症状に対して戦うか又は回復させ、そして様々な攻撃に抵抗するために動物被験者の免疫系を超増幅する(super-boost)ことができる、天然の宿主防御因子、又は「HDFX」を予想外に同定した。
【0002】
一つの態様において、本発明は、単離されて部分的に精製されたHDFXを提供する。
別の態様において、本発明は、被験者への投与に適した薬学組成物を提供し、単離されたか又は部分的に精製されたHDFX及び薬学上受容可能な担体を含む。本明細書にて使用される「被験者(subject)」は、あらゆる哺乳類被験者を含み、例えば、霊長類(例えば、ヒト)、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウシ、ヒツジ及びブタである。好ましい被験者は、コンパニオン動物である。コンパニオン動物とは、ペットと考えられるあらゆる非ヒト動物を意味し、限定ではないが、とりわけイヌ、ネコ、ウサギ、サルを含む。特に好ましい被験者はヒト被験者である。
【0003】
また別の態様において、本発明は、病原体への暴露の前又は後の何れかに、被験者に有効な量のHDFXを投与することにより病原体により引き起こされる疾患又は症状に対して戦うか回復させる、被験者の能力を増強するか又は強化する方法を提供する。
【0004】
本明細書にて使用される用語「病原体」は、細菌(例えば、炭疽菌)、真菌、ウイルス(例えば、HIV及び肝炎ウイルス)、寄生虫(とりわけ、原生動物、ミミズ、クリプトスポリジウム)、及びプリオン及びプリオン様分子を含む。
【0005】
用語「疾患又は症状」は、限定ではないが、炭疽菌、天然痘、疫病(plague)、ボツリヌス、出血熱、HIVにより引き起こされる疾患、肝炎ウイルス(例えば、B型肝炎)により引き起こされる感染、及び重度の急性呼吸症候群(SARS)、及び新規の新生疾患をとりわけ含む。
【0006】
さらなる態様において、本発明は、攻撃の前及び/又は後に有効な量のHIVを動物に投与することにより攻撃に絶えて生存する動物被験者の能力を増強する方法を提供する。
用語「攻撃(insult)」は、例えば、外傷、出血、火傷、セレクトポイズン、出血性の痛み(strokes)、虚血性の痛み、敗血症、多臓器不全、戦争の負傷、腫瘍の侵入、神経外科的手法、主要な外科手術、生物戦争において使用される化学薬品、及び延期された全身性化された全身性ストレス(例えば、高い高度への暴露及び宇宙飛行)を含む。
発明の詳細な説明
本発明者らは、生物応答修飾因子(biological response modifiers)が天然に生じる宿主防御因子の生産及び放出のための刺激因子として作用すること、及びこれらの天然に生じる宿主防御因子が様々な攻撃、例えば、致死性病原体、循環ショック(circulatory shock)、外傷、火傷、痛み(strokes)、創傷及び敗血症に対するヒトの寛容を増加させ得ることを、意外にも発見した。
【0007】
より特定すれば、本発明者らは、あらゆる病原体により引き起こされる疾患に抵抗して回復するため、及び様々な攻撃、例えば、外傷、出血、虚血性の痛み、敗血症、火傷、多臓器不全、戦争の負傷、主要な外科手術に抵抗するために、被験者の免疫系を超増幅することができる、天然宿主防御因子を同定した。
【0008】
本明細書にて使用される用語「被験者」は、あらゆる哺乳類被験者を意味し、霊長類(例えば、ヒト)、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウシ、ヒツジ及びブタを例えば含む。好ましい被験者は、コンパニオン動物である。コンパニオン動物とは、ペットと考えられるあらゆる非ヒト動物を意味し、限定ではないが、とりわけイヌ、ネコ、ウサギ、サルを含む。特に好ましい被験者はヒト被験者である。
【0009】
一つの態様において、本発明は、単離された部分精製されたHDFXを提供する。
マウス及びラットのHDFXの単離は、本明細書にて以下に記載される。当業者は、マウス及びラットのHDFXを単離する手法に匹敵する手法を用いて、別の動物被験者からHDFXを単離することができる。
【0010】
本発明によると、マウス又はラットのHDFXが単離できる2つの源が存在する。HDFXは繰り返しの攻撃、例えば出血、内蔵虚血、外傷及び敗血症ショックに生き残ったマウス又はラット(「生存マウス」又は「生存ラット」)から抽出することができる。あるいは、HDFXは正確に刺激されたマウス又はラットから抽出することができる。
【0011】
HDFXを単離するため、刺激されたか又は生存したマウス又はラットからのプールされた血漿を1N HClの添加により約pH5.5にし、10分間沸騰させて濾過する。物質をストッパー付きバイアル中に保存して使用まで凍結させる。あるいは、適切な器官−組織、例えば、とりわけ骨髄、脾臓、リンパ節、又は肝臓を切り出して、4℃にてホモジェナイズする。酸性塩溶液(pH5.5)をホモジェナイゼーションの間に加える。サンプルを次に10分間沸騰させ、そして濾過する。抽出物を凍結保存する(−10から−20℃)。そのような部分精製されたHDFXを、当業者にとって利用可能な蛋白質又は糖蛋白質の精製手法のあらゆるものを用いてさらに精製することができる。
【0012】
本発明によれば、HDFXは水溶性であり、約pH5.5及び10分間の沸騰に耐性である。それは4℃において少なくとも1週間は安定であり、−20℃においては数週間安定である。それは透析できないが、凍結乾燥できる。HDFXは糖蛋白質成分を含むこと、及び単一の分子又は一つより多い分子の組み合わせであるかもしれないと信じられている。
【0013】
HDFXの活性はいくつかの側面を明らかにする。最初の例において、哺乳類被験者内のHDFXの内生刺激は、出血、外傷、火傷及び敗血症の後でそのような被験者の生存を高める。さらに、HDFX処理は正常な哺乳類被験者においてres食細胞機能を刺激する。重要なことに、res食細胞機能は、一般に、体全体の外傷、出血、火傷及び内蔵の虚血のすぐ後に哺乳類において損なわれる。さらに、被験者のHDFXによる処理は、様々な致死性細菌により誘導されるそのような被験者の死を阻止する。さらに、HDFX処理は出血又は外傷にあった哺乳類からのリンパ球の中のサイトカインの損失を阻止する。HDFXのこれらの活性は以下の実施例においてさらに例示される。
【0014】
本発明により達成されたHDFXの同定及び単離は、被験者の免疫機能を増幅して、すべてではなくともほとんどの致死性の細菌及びウイルス、天然物又は人工物を殺傷する薬学組成物の開発を可能にする。
【0015】
従って、別の態様において、本発明は、被験者への投与に適した薬学組成物を提供し、単離されたか又は部分的に精製されたHDFX及び薬学上受容可能な担体を含む。
本明細書にて使用されるとおり、薬学上受容可能な担体は、あらゆる全ての溶剤、分散媒体、アイソトニック剤、送達物質又は媒質(例えば、起沸性タブレット)、等を含む。あらゆる慣用の媒体、薬剤(agent)、希釈剤又は担体がレシピエント又はHDFXの活性に有害である限りでという点を除けば、本発明の薬学組成物中におけるその用途は適切である。担体は、液体、半固形、例えば、ペースト、又は固形担体であり得る。担体の例は、オイル、水、塩溶液、アルコール、糖、ゲル、流体、リポソーム、樹脂、孔性マトリックス、結合剤、充填剤、被覆、保存剤等、又はそれらの組み合わせを含む。
【0016】
本発明によれば、HDFXは、あらゆる便利且つ実用的な様式にて、例えば、混合剤(admixture)、溶液、懸濁液、乳化(emulsification)、封入(encapsulation)、吸着等により担体と混合することができ、そして、起沸性タブレットを含むタブレット、カプセル、粉末、シロップ及び注射、移植、吸入、摂取等に適した懸濁液のような製剤に作成することができる。
【0017】
また別の態様において、本発明は、病原体への暴露により引き起こされる疾患又は症状と戦うか又は回復させる哺乳類の能力を増強するか又は強化する方法を提供し、病原体への暴露の前又は後の何れかに有効な量のHDFXを被験者に投与することによる。好ましくは、投与に使用されるHDFXは、上で記載された薬学上受容可能な担体中に提供される。
【0018】
あらゆる特定の理論に拘束されることを意図しないが、HDFXは、マクロファージ、NK細胞、T細胞及びB細胞を含む哺乳類の免疫系の細胞の生産及び/又は機能を増強又は刺激することを通して、病原体による感染と戦うか又は回復する哺乳類の能力を強化することができると信じる。あるいは、HDFXは、サイトカイン、例えば、IL−2,IL−6,INF−γ、及びTNF−αの生産を刺激するように作用する。HDFXは炎症性の症状、例えば血液損失、火傷、外傷、創傷又は組合わされた損傷にからだを適合させるようにも作用するかもしれない。
【0019】
HDFXの防御効果は、如何なる特定の病原体にも限定されず、細菌(例えば、炭疽菌)、真菌、ウイルス(例えば、HIV及び肝炎ウイルス)、プリオン様病原体、リケッチア生物及びマイコプラズムに適用可能である。
【0020】
用語「疾患又は症状」は、限定ではないが、炭疽菌、天然痘、疫病(plague)、ボツリヌス、出血熱、テラレミア(tellaremia)、SARSにより引き起こされる重度の急性呼吸症候群、HIV,肝炎ウイルスにより引き起こされる感染(例えば、B型肝炎)をとりわけ含む。
【0021】
本発明の方法は、病院(院内)感染の阻止のために有効である。現在、毎年院内感染する100万人のアメリカ人がいる。これらのうち、約100,000人が毎年死ぬ。通院する各患者のHDFX予防及び治療は院内感染の数を70−90%減少させるべきである。
【0022】
さらなる態様において、本発明は、攻撃に耐えて生存する動物被験者の能力を増強する方法を提供し、攻撃の前又は後に有効な量のHDFXを投与することによる。攻撃は、例えば、外傷、出血、出血性の痛み(strokes)、敗血症、火傷、多臓器不全、戦争の負傷、及び主要な外科手術を含む。好ましくは、投与に使用されるHDFXは、上で記載された薬学上受容可能な担体中に提供される。
【0023】
あらゆる特定の理論に拘束されることを意図しないが、HDFXは、マクロファージ、NK細胞、T細胞及びB細胞を含む哺乳類の免疫系の細胞の生産及び/又は機能を増強又は刺激することを通して、攻撃に耐えて生存する哺乳類の能力を強化することができると信じる。あるいは、HDFXはサイトカイン、例えば、IL−2,IL−6,INF−γ、及びTNF−αの生産を刺激するように作用する。HDFXは、炎症性の症状、例えば血液損失、外傷、火傷、又は組合わされた損傷にからだを適合させるようにも作用するかもしれない。
【0024】
よって、HDFXは、生存率を高め、そして罹災者(victims)の、そして可能性のある戦場の攻撃及び損傷及び化学兵器に供される軍隊の隊員(personal)の、心臓切開、癌、及び神経外科処置の病院滞在期間を短縮させるのに使用することができる。
【0025】
HDFXのマクロファージ刺激活性のおかげで、HDFXは骨髄移植を受けた癌患者において感染と格闘する細胞の活性を増加させることもでき、そして腫瘍学者がこれらの癌患者に処方された化学療法の用量を減少させる。
【0026】
本発明は、限定ではないが、以下の実施例によりさらに例示される。
実施例
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】Resの食細胞機能は、体全体の外傷、出血及び内蔵虚血のすぐ後に損なわれる(compromised)。
【図2】HDFX処理は、ラットにおいて様々な致死性細菌により誘導される死を阻止する。
【図3】HDFX処理は、出血又は外傷を受けたリンパ球内のサイトカインの損失を阻止する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離された天然宿主防御因子(HDFX)。
【請求項2】
HDFXが哺乳類起源である、請求項1記載の単離されたHDFX。
【請求項3】
HDFXがマウス又はラットのHDFXである、請求項2記載の単離されたHDFX。
【請求項4】
HDFXが水溶性であり、そしてpH5.5に対して並びに10分間の沸騰に耐性である、請求項1記載の単離されたHDFX。
【請求項5】
請求項1乃至3の何れか1項記載の単離されたHDFX、及び薬学上受容可能な担体を含む、薬学組成物。
【請求項6】
病原体により引き起こされる疾患に対して戦うか又は病原体により引き起こされる疾患から回復する被験者の能力を増強する方法であって、病原体への暴露の前又は後に有効な量のHDFXを動物に投与することを含む方法。
【請求項7】
被験者が哺乳類である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
被験者がヒトである、請求項7記載の方法。
【請求項9】
被験者がコンパニオン動物である、請求項6記載の方法。
【請求項10】
病原体が細菌、真菌、マイコプラズム、リケッチア、寄生虫、プロリン様又はウイルス病原体である、請求項6記載の方法。
【請求項11】
病原体が、炭疽菌、HIV,又は肝炎ウイルスから選択される、請求項10記載の方法。
【請求項12】
疾患が、天然痘、疫病(plague)、ボツリヌス、出血熱、AIDS,発熱、重度の急性呼吸症候群、炭疽菌により引き起こされる疾患、又はB型肝炎ウイルスにより引き起こされる疾患、又は新規の新生疾患から選択される、請求項6記載の方法。
【請求項13】
攻撃の前及び/又は後に有効な量のHIVを動物に投与することにより攻撃に絶えて生存する動物被験者の能力を増強する方法。
【請求項14】
攻撃が、外傷、出血、出血性の痛み(strokes)、敗血症、火傷、多臓器不全、戦争の負傷及び主要な外科手術から選択される、請求項13記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−536201(P2007−536201A)
【公表日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−520373(P2006−520373)
【出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【国際出願番号】PCT/US2004/022917
【国際公開番号】WO2005/027827
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(591141898)ザ・リサーチ・ファンデーション・オブ・ステート・ユニバーシティ・オブ・ニューヨーク (3)
【氏名又は名称原語表記】THE RESEARCH FOUNDATION OF STATE UNIVERSITY OF NEW YORK
【Fターム(参考)】