説明

寄生虫の検出方法、及び、キット

【課題】検体から寄生虫を簡便に検出する寄生虫の検出方法等を提供する。
【解決手段】寄生虫の検出方法は、検体の筋肉から肉片を採取する採取工程と、肉片を抗原とする固相抗原をプレートに調製するプレート調製工程と、Kudoa septempunctataを免疫原として動物に免疫させた後、当該動物から得られる抗血清からなる1次抗体を、プレートに添加する1次抗体添加工程と、酵素により標識され、1次抗体と結合する2次抗体を、プレートに添加する2次抗体添加工程と、酵素と反応する酵素基質をプレートに添加し、当該酵素と当該酵素基質とが反応して蛍光する蛍光強度から検体に寄生する寄生虫を検出する検出工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寄生虫の検出方法、及び、キットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食後数時間程度で一過性の下痢や嘔吐を呈し、軽症で終わる有症事例が報告されている。当該の有症事例は平成12年以降、中四国(瀬戸内沿岸)において発生が認識され、現在は多くの都道府県において報告されている。有症事例が集積されるに従い、喫食状況の調査結果も蓄積され、原因食品の1つにヒラメが推測されるようになった。平成20年度に市場に流通しているヒラメを対照に、細菌学的検査及び寄生虫学的検査が行われた。その結果、60検体中、2検体の腎臓からStreptococcus parauberisが検出され、1検体の筋肉部分から粘液胞子虫の一種、Kudoa属の寄生虫が検出された(非特許文献1参照)。
【0003】
非特許文献1には、コンベンションPCR(Polymerase Chain Reaction)及びRNAを用いた定量的RT−PCR(Real Time-PCR)を用いて、検出されたKudoa属寄生虫を対照に、ヒラメ検体を測定したことが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】平成22年6月21日 厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課食中毒被害情報管理室 食中毒調査に係る病因物質不明事例の情報提供等に係る中間取りまとめ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1に開示される測定方法(検出方法)では、寄生虫を検出するためにPCR法を用いているが、PCR法は検出処理を行う前に検体を前処理する必要があるため検出処理が煩雑であり、また、検体を測定して当該検体から寄生虫を検出するまでの時間が長い等の問題がある。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、検体から寄生虫を簡便に検出する寄生虫の検出方法、及び、キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る寄生虫の検出方法は、
検体の筋肉から肉片を採取する採取工程と、
前記採取された肉片を抗原とする固相抗原をプレートに調製するプレート調製工程と、
Kudoa septempunctataを免疫原として動物に免疫させた後、当該動物から得られる抗血清からなる1次抗体を、前記調製されたプレートに添加する1次抗体添加工程と、
酵素により標識され、前記1次抗体と結合する2次抗体を、前記調製されたプレートに添加する2次抗体添加工程と、
前記酵素と反応する酵素基質を前記調製されたプレートに添加し、当該酵素と当該酵素基質とが反応して蛍光する蛍光強度から前記検体に寄生する寄生虫を検出する検出工程と、を備える、
ことを特徴とする。
【0008】
前記蛍光強度から、前記検体に寄生する寄生虫の量を測定する寄生虫量測定工程と、
前記測定された寄生虫の量が1.0×10〜1.0×10以上の場合、毒性を警告する警告工程と、をさらに備えてもよい。
【0009】
前記検体は、カレイ目に属する魚でもよい。
【0010】
前記寄生虫は、Kudoa septempunctata又はその亜種でもよい。
【0011】
前記動物は、鳥類に属する動物でもよい。
【0012】
本発明の第2の観点に係るキットは、
Kudoa septempunctataを免疫原として動物に免疫させた後、当該動物から得られる抗血清からなる抗体と、
前記抗体又は前記抗体と反応する抗原を標識する酵素と、を備える、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、検体から寄生虫を簡便に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】検体の筋肉の位置を説明するための図である。
【図2】酵素免疫測定法により、寄生虫を検出する方法を説明するための図である。
【図3】精製したKudoa septempunctataを示す図である。
【図4】ヒラメ検体からKudoa septempunctataを検出した結果を示す図である。
【図5】細胞の同一部分を撮影した微分干渉像と蛍光像とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、酵素免疫測定法(ELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)法)を用いて、検体に寄生する寄生虫を簡便に検出できる寄生虫の検出方法、及び、キットを提供する。ELISA法は、検出したい物質(ここでは、寄生虫)を抗体で特異的・選択的に捕捉する手法であり、検出を行う前の前処理(例えば、pH調製、物質洗浄等)が容易であること、物質を検出するまでの時間が短時間であること、精密で高価な分析機器を用いることなく物質を検出できること等の特徴を有する。このため、ELISA法を用いることにより、検体から寄生虫を簡便に検出することができる。
【0016】
本明細書において「検体」とは、カレイ目に属する魚であり、典型的には、カレイ科のカレイ、ヒラメ科のヒラメ、ウシノシタ科のウシノシタなどの食用魚である。また、本明細書において検体に寄生する「寄生虫」とは、粘液胞子虫の一種であるKudoa属septempunctata(Kudoa septempunctata)及びその亜種である。
【0017】
(1.検体からの肉片採取)
まず、ELISA法に用いる対象物質である検体の肉片を、検体の筋肉から採取する。寄生虫は検体の筋肉に寄生することがわかっているため、検体の筋肉片をELISA法に用いる対象物質として用いる。検体の筋肉は、図1の○部分に示す、鰓蓋の裏部分、体幹、背骨と皮の間に走っている筋隔等である。図1に示す検体の眼がある側(有眼側)の筋肉(5ヶ所)、又は、眼がない側(無眼側、有眼側の裏側)の筋肉(5ヶ所)のいずれかから、綿棒やピンセット等を用いて、肉片を採取する。採取する肉片の量は、後述するプレートの数、サイズによって変化するものであり、任意である。なお、検体の筋肉からであれば、図1の○部分に限定されず、任意の部分から肉片を採取できる。
【0018】
(2.プレートの調製)
次に、採取した肉片を抗原とする固相抗原をプレートに調製する。採取した検体の肉片を、10%glucose−PBS溶液で懸濁して10w/v%(weight/volume%)(湿重量)に調製し、破砕機を用いてメタルコーンで乳液状にする。乳液状の肉片を、約4℃で、約5分間、遠心分離して、上清液をELISA用プレートに分注する。上清液を分注したプレートを、約4℃で、約15分間、遠心分離した後、約4℃で、約16時間放置する。これにより、図2に示すように、検体から採取した抗原をプレート上に固定することにより、プレート上に固相抗原を調製できる。
【0019】
(3.1次抗体の調製)
次に、固相抗原と反応する1次抗体を調製する。検体の筋肉からパーコール法で精製したKudoa septempunctataの湿重量を測定し、当該Kudoa septempunctataを、50%グリセリン−PBSで懸濁して10mg(湿重量)/ml溶液とし、使用時まで約−20℃で保存する。Kudoa septempunctataを含む懸濁液を、プラスチック試験管に分注し、超音波発生装置のマイクロチップを用いて超音波破砕する。超音波破砕したKudoa septempunctataを含む懸濁液と、懸濁液と等量のアジュバント40mg/ml溶液とを混合して免疫原とし、約1.5mg(湿重量)の免疫原を鳥類に属する動物(例えば、ニワトリ、七面鳥、ダチョウ、ウズラ等)の胸部に数カ所(例えば、6ヶ所)に分けて免疫する。同様の免疫を、約2週間ごとに3回行った後、全身麻酔した動物の心臓から全採血し、血液を、約4℃で、約10分間、遠心分離した後、抗血清を得る。得られた抗血清を1次抗体として、固相抗原が調製されたプレートに添加して、室温で、約60分間、十分反応させる。十分反応させた後、余剰の1次抗体をプレート上から除去する。これにより、図2に示すように、プレート上の固相抗原と当該固相抗原と反応する1次抗体とを結合させることができる。
【0020】
(4.2次抗体の調製)
次に、酵素により標識され、1次抗体と結合する2次抗体を調製する。2次抗体は、1次抗体を得た動物に依存する。抗血清を得た動物に対応する免疫グロブリンを調製(選択)することにより、2次抗体である免疫グロブリンが、1次抗体を認識することができる。例えば、1次抗体をニワトリから得た場合、2次抗体は、抗ニワトリ免疫グロブリン(例えば、抗ニワトリIgA、抗ニワトリIgG、抗ニワトリIgM等)である。2次抗体を標識する酵素は、例えば、β-ガラクトシダーゼ、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ルシフェラーゼである。上述した1次抗体を認識し、酵素により標識された2次抗体を、固相抗原と1次抗体とが反応したプレートに添加して、室温で、約60分間、十分反応させる。十分反応させた後、余剰の2次抗体をプレート上から除去する。これにより、図2に示すように、固相抗原に結合した1次抗体と当該1次抗体と反応する酵素標識された2次抗体とを結合させることができる。
【0021】
(5.寄生虫の検出)
次に、酵素基質を添加して、酵素基質と酵素とが反応して蛍光する蛍光強度から検体に寄生する寄生虫を検出する。プレートに添加する酵素基質は、例えば、β-ガラクトシダーゼ用基質(アリール、アルキル-β-D-ガラクトシド、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルβ-D-ガラクトピラノシド等)、ペルオキシダーゼ用基質(4-アミノフェナゾン、2,4-ジクロロフェノール、4-クロロ-1-ナフトール等)、アルカリホスファターゼ用基質(ニトロブルーテトラゾリウムクロライド、5-ブロモ-4-クロロ-3'-インドリルホスファターゼp-トルイジン塩等)、ルシフェラーゼ用基質(D-ルシフェリン等)である。当該酵素基質を1次抗体及び2次抗体が添加されたプレートに添加して、約37℃で、約60分間、反応させた後、蛍光強度をプレートリーダー(蛍光光度計)で測定する。予め測定した基準となるKudoa septempunctataの蛍光強度と測定された蛍光強度と比較することにより、寄生虫(Kudoa septempunctata)を検出する。また、蛍光強度とプレート上の抗原量及び抗体量とは所定の関係(例えば、比例関係)を有するため、プレートリーダーにより測定した蛍光強度から、抗原量(寄生虫の量、数、濃度)を測定する。これにより、図2に示すように、酵素と酵素基質との蛍光反応から、寄生虫を検出し、寄生虫の量を測定できる。
【0022】
(6.毒性の警告)
動物実験等で得られた毒性を示すデータを用いてリスク評価を行う場合、安全性を確保するために安全係数が用いられる。通常、安全係数として、動物からヒトへの種差に対しての安全性として10倍、人間の性別、年齢等の個体差に対する安全性として10倍、両安全性を合わせて見込んで100倍の値が採用されている。そこで、本発明では、10〜100倍の安全係数を採用する。資料(生食用生鮮食品を共通食とする病因物質不明有症事例を巡る経緯 平成23年4月25日 厚生労働省医薬食品局食品安全部 監視安全課、URL:http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001ahy8-att/2r9852000001aib5.pdf)には、食中毒の発症に繋がる寄生虫(Kudoa septempunctata)の摂取量(個)が記載されている。この資料では、パーセンタイル値が75%(クドア摂取量(個)7.20×10)以上である場合に、食中毒を発症することが記載されている。このため、10〜100倍の安全係数を採用して、寄生虫の量が1.0×10〜1.0×10(小数点以下繰り上げ)以上の場合、毒性(食中毒の危険性)を警告する。具体的には、10倍の安全係数を採用した場合、寄生虫の量が1.0×10(≒7.20×10×1/10)以上で毒性を警告し、100倍の安全係数を採用した場合、寄生虫の量が1.0×10(≒7.20×10×1/100)以上で毒性を警告する。
【0023】
(7.寄生虫を検出するためのキット)
本発明のキットは、ELISA法を用いて、検体から寄生虫を検出するためのキットである。キットは、Kudoa septempunctataを免疫原として動物に免疫させた後、当該動物から得られる抗血清からなる抗体と、抗体又は抗体と反応する抗原を標識する酵素と、を備える。ここで、動物から得られる抗血清からなる抗体は、上述した1次抗体に相当し、抗体と反応する抗原は、上述した(固相)抗原に相当し、抗体又は抗原を標識する酵素は、上述した酵素基質と反応する酵素に相当する。
【0024】
次に、キットを使用する方法について説明する。まず、抗血清からなる抗体をプレートに添加する。続いて、検体から採取した肉片を調製して抗原とし、当該抗原を抗体が添加されたプレートに添加する。抗体と抗原とを十分反応させた後、余剰の抗体、抗原を除去する。次に、抗体又は抗原と結合する酵素をプレートに添加して、十分反応させた後、酵素と反応する酵素基質をプレートに添加して、十分反応させる。そして、酵素と酵素基質との反応により発光した蛍光強度を、プレートリーダー等を用いて測定することにより、寄生虫を検出し、また、寄生虫の量を測定する。なお、肉片から抗原を調製する方法は、上述したプレートの調整方法と同様の方法を用いることができる。
【0025】
以上説明したように、ELISA法は検出を行う前の前処理が容易であるため、検体から寄生虫を簡便に検出することができる。また、前処理が容易であるため検出するための準備時間が短く、蛍光強度を測定する時間も短いため、検体から寄生虫を短時間で検出することができる。さらに、ELISA法では、精密で高価な分析機器を用いる必要がないため、検体から寄生虫を安価に検出することができる。
【0026】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々の変形及び応用が可能である。
【0027】
免疫原を免役させる動物は、鳥類に限定されず、任意の動物(例えば、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ヤギ、ブタ、ウシ、アカゲザル等)を用いることができる。
【0028】
免疫原の量、免疫原を投与する部位、免疫回数、免疫を行う間隔は、動物の種類、大きさ、心臓の位置等によって任意に変更できる。
【0029】
抗原に対する免疫応答を増強したり、抗原を生体内に長時間とどまらせたりする役割を果たすアジュバントであれば、種類、量は任意である。
【0030】
Kudoa septempunctataが寄生した検体の肉はジェリーミート等にはなっておらず、肉眼での検査では無症状であるため、パーコール法によりKudoa septempunctataを精製したが、顕微鏡検査、PCR法検査等、任意の方法で、Kudoa septempunctataを精製することもできる。
【0031】
1次抗体は、Kudoa septempunctata又はその亜種を検出し得る抗体であれば限定されず、例えば、モノクローナル及びポリクローナル抗体、標識化抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体並びにこれらの結合活性断片等であってもよい。
【0032】
2次抗体を標識する酵素は、反応する酵素基質によって変更できるものであり、任意である。
【0033】
2次抗体を標識する方法は、酵素活性を利用するものに限定されず、オートラジオグラフィー方法、金コロイド法等、任意である。
【0034】
免疫グロブリンのアイソタイプは、任意である。
【0035】
任意の動物(例えば、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ヤギ、ブタ、ウシ、アカゲザル等)を用いて、2次抗体を調製することができ、また、2次抗体の免疫動物(2次抗体を調製する際に用いた動物)によって、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体のいずれも調製することもできる。
【0036】
酵素基質は、酵素と反応して蛍光するもの、化学発光するもの、吸光度が変化するものであれば任意である。
【0037】
安全係数として、子供や高齢者等のハイリスクグループに対して、より厳しい安全係数として200〜500倍の値を採用することもできる。
【0038】
本発明の寄生虫の検出方法において、酵素は、2次抗体と結合しているが、酵素と酵素基質との蛍光反応によって寄生虫を検出できればよいため、抗体、抗原のどちらと結合していてもよい。
【0039】
上述した反応条件(温度、時間等)は、抗原、抗体、酵素、酵素基質等の量や種類によって変化するものであり、上述した値に限定されるものではない。
【0040】
本発明のキットは、直接吸着法、サンドイッチ法、競合法等のいずれのELISA法でも使用することができる。また、キットは、緩衝液、発色基質、二次抗体、ブロッキング剤等の試薬を含んでもよい。
【0041】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、実施例は本発明を限定するものでない。
【実施例】
【0042】
(1.固相抗原プレートの調製)
ELISA法で使用する固相抗原プレートを調製した。まず、市場から20のヒラメ検体を用意し、それぞれのヒラメ検体の筋肉から肉片を採取した。採取したそれぞれの検体の肉片を、10%glucose−PBS溶液で懸濁して10w/v%(湿重量)に調製し、破砕機(安井機器製マルチビーズショッカー)及びメタルコーンを用いて、2400回転、30秒、5回、4℃の設定で、乳液状にした。乳液状の肉片を、遠心分離器(佐久間製作所製Sakuma M-150IV)及びローター(佐久間製作所製15.2M-18A)を用いて、遠心加速度19700G、5分間,4℃の設定で、遠心分離した、遠心分離した上清液を、ELISA用96穴プレート(BD Falcon製353279)に50μl/wellずつ分注し、当該プレートを、遠心分離器(佐久間製作所製SakumaR90-23)及びローター(佐久間製作所製HM-25)を用いて、遠心加速度1600G、15分間,4℃の設定で、遠心分離した。遠心分離したプレートを、4℃で、16時間放置して、ヒラメ検体の肉片を抗原とする固相抗原をプレート上に調製した。これにより、20のヒラメ検体それぞれについて、抗原がプレートに固定化された、ELISA用プレートを得た。
【0043】
(2.抗クドア抗体の調製)
ELISA用プレートに添加する抗クドア抗体を調製した。まず、ヒラメの筋肉(体幹)から、パーコール法により、図3に示すようにKudoa septempunctataを精製した。精製したKudoa septempunctataを、50%グリセリン−PBSで懸濁して10mg(湿重量)/ml溶液とし、使用時まで−20℃で保存した。Kudoa septempunctataを含む懸濁液1mlを、容量15mlのプラスチック試験管(イワキ製Iwaki2325-015)に分注し、超音波発生装置(ブランソンジャパン製Branson model 185)のマイクロチップを用いて、パワー1.5、20秒、3回の設定で、超音波破砕した。超音波破砕した懸濁液に含まれるKudoa septempunctataの蛋白質量を、ビシンコニン酸法(BCA 法)により、10mg/ml(湿重量)=32μg/ml(血清アルブミン溶液相当)として、プロテインアッセイキット(Pierce製BCA Protein Assay kit製品番号23225)及びマイクロプレートリーダー(Thermo Scientific製Model 680)を用いて測定した。Kudoa septempunctataの蛋白質量と等量のアジュバント40mg/ml溶液(Thermo Scientific製Imject Alum 77161)とを混合して免疫原とし、1.5mg(湿重量)の免疫原をニワトリ(日本白色種、12 週齢、雌)の胸部に6ヶ所に分けて免疫した。同様の免疫を、2週間ごとに3回行った後、ペントバルビタールナトリウムを投与して全身麻酔したニワトリの心臓から全採血し、血液を、遠心分離器(佐久間製作所製Sakuma M-150 IV)及びローター(佐久間製作所製50F-4A)を用いて、遠心加速度3500G、10分間,4℃の設定で、遠心分離した後、ニワトリ抗血清を得た。得られたニワトリ抗血清は、抗クドア抗体である1次抗体である。
【0044】
(3.ELISA法による測定)
得られたニワトリ抗血清を2000倍に希釈し、ELISA用プレートに50μl/wellずつ分注し、室温で、60分間、反応させた後、プレートウォッシャー(バイオテック製Sera Washer Model MW-96W)を用いて、余剰のニワトリ抗血清をプレート上から除去した。2次抗体であるβ-ガラクトシダーゼ−ヤギ抗ニワトリIgG(American Qualex製goat anti-chicken IgG (H&L) -β- galactosidase 製品番号 A176GN)を1000倍に希釈し、ELISA用プレートに50μl/wellずつ分注し、室温で、60分間、反応させた後、プレートウォッシャー(バイオテック製Sera Washer Model MW-96W)を用いて、余剰のβ-ガラクトシダーゼ−ヤギ抗ニワトリIgGをプレート上から除去した。酵素基質として0.1mMの4−メチルウンベリフェリル β−D−ガラクトピラノシド(Sigma製 製品番号M1633)、0.1Mの2−メルカプトエタノール(ナカライテスク製、製品番号21418-42)をELISA用プレートに100μl/wellずつ分注し、37℃で、60分間、酵素であるβ-ガラクトシダーゼと反応させた。プレートリーダー(蛍光:パーキンエルマー製Arvo SX)を用いて、測定時間0.1秒、励起波長355nm、蛍光波長460nmの設定で、蛍光強度を測定した。また、該当するヒラメ検体について、顕微鏡を用いて、検体の肉片1グラム当たりのKudoa septempunctataの個数を測定した。
【0045】
図4は、測定結果を示す図である。図4中において、ヒラメ検体番号(hirame sup.)21は、Kudoa septempunctataが寄生したヒラメ検体から肉片を採取した場合の蛍光強度(陽性コントロール)であり、ヒラメ検体番号22は、Kudoa septempunctataが寄生していないヒラメ検体から肉片を採取した場合の蛍光強度(陰性コントロール)であり、ヒラメ検体番号23(Kudoa)は、Kudoa septempunctataのみの蛍光強度である。
【0046】
図4に示すように、ヒラメ検体番号2、3、6、7、13、14、16、17の蛍光強度は、陽性コントロールが示す蛍光強度と同等又それ以上であった。このため、これらのヒラメ検体には、Kudoa septempunctataが寄生していることがわかった。一方、ヒラメ検体番号1、4、5、8〜12、15、18〜20の蛍光強度は、陰性コントロールが示す蛍光強度と同等又はそれ以下であった。このため、これらのヒラメ検体には、Kudoa septempunctataが寄生していない、または、寄生していても数(量)が少ないため毒性を示さないことがわかった。
【0047】
また、ヒラメ検体番号2、3、4、6、7、13、14、16、17、19について、ヒラメの筋肉片1グラム当たりの寄生虫の数を、顕微鏡を用いて測定した。その結果、図4に示すように、ヒラメの筋肉片1グラム当たりのKudoa septempunctataの数が300(×10Kudoa/g)以上であるヒラメ検体の蛍光強度は、陽性コントロールが示す蛍光強度と同等又はそれ以上であった。このため、ヒラメの筋肉片1グラム当たりのKudoa septempunctataの数が3.00×10以上である場合、当該ヒラメを喫食すると、食中毒の危険性があることがわかった。
【0048】
(4.抗クドア抗体の特異性の確認)
次に、抗原抗体反応により、ニワトリ抗血清から得られた抗クドア抗体が、Kudoa septempunctataを特異的に認識するかを確認した。まず、下痢症状のモデルとして使用されるヒト結腸癌由来の細胞株Caco-2細胞に感染させたKudoa septempunctataを、非蛍光下で微分干渉顕微鏡を用いて観察(確認)した。図5の微分干渉像に示すように、微分干渉像の矢印部にKudoa septempunctataが存在することを確認した。続いて、蛍光標識された抗クドア抗体と反応させたKudoa septempunctataを、蛍光下で蛍光顕微鏡を用いて観察した。抗原抗体反応により、抗クドア抗体がKudoa septempunctataを認識した場合、Kudoa septempunctataが存在する位置が蛍光するはずである。図5の蛍光像に示すように、微分干渉像の矢印部と同位置に、蛍光部(着色部)を確認した。このため、抗クドア抗体が、抗原であるKudoa septempunctataを特異的に認識することがわかった。また、抗クドア抗体を用いて抗原抗体反応により、Kudoa septempunctataを検出できることがわかった。
【0049】
以上の結果から、ヒラメの筋肉にKudoa septempunctataが寄生していることが明らかとなった。また、免疫原を投与する動物としてニワトリが有用であることが明らかとなった。また、ELISA法を用いて、検体から寄生虫を検出できることが明らかとなった。また、肉片1グラム当たり3.00×10以上の寄生虫が寄生している検体を喫食した場合、食中毒の危険性があることが明らかとなった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体の筋肉から肉片を採取する採取工程と、
前記採取された肉片を抗原とする固相抗原をプレートに調製するプレート調製工程と、
Kudoa septempunctataを免疫原として動物に免疫させた後、当該動物から得られる抗血清からなる1次抗体を、前記調製されたプレートに添加する1次抗体添加工程と、
酵素により標識され、前記1次抗体と結合する2次抗体を、前記調製されたプレートに添加する2次抗体添加工程と、
前記酵素と反応する酵素基質を前記調製されたプレートに添加し、当該酵素と当該酵素基質とが反応して蛍光する蛍光強度から前記検体に寄生する寄生虫を検出する検出工程と、を備える、
ことを特徴とする寄生虫の検出方法。
【請求項2】
前記蛍光強度から、前記検体に寄生する寄生虫の量を測定する寄生虫量測定工程と、
前記測定された寄生虫の量が1.0×10〜1.0×10以上の場合、毒性を警告する警告工程と、をさらに備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の寄生虫の検出方法。
【請求項3】
前記検体は、カレイ目に属する魚である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の寄生虫の検出方法。
【請求項4】
前記寄生虫は、Kudoa septempunctata又はその亜種である、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の寄生虫の検出方法。
【請求項5】
前記動物は、鳥類に属する動物である、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の寄生虫の検出方法。
【請求項6】
Kudoa septempunctataを免疫原として動物に免疫させた後、当該動物から得られる抗血清からなる抗体と、
前記抗体又は前記抗体と反応する抗原を標識する酵素と、を備える、
ことを特徴とするキット。


【図2】
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【図4】
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【図1】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−36943(P2013−36943A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175424(P2011−175424)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】