説明

密閉型鉛蓄電池用セパレータ及び密閉型鉛蓄電池

【課題】 本発明は、微細ガラス繊維を主体としマイクロカプセルを含有した抄造シートよりなる密閉型鉛蓄電池用セパレータにおいて、電池の高率放電性能を向上させ得る密閉型鉛蓄電池用セパレータとそれを用いた密閉型鉛蓄電池を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明の密閉型鉛蓄電池用セパレータは、微細ガラス繊維を主体としマイクロカプセルを含有した抄造シートよりなる密閉型鉛蓄電池用セパレータであって、前記マイクロカプセルが前記抄造シートの厚さ方向に偏在して、前記抄造シートの厚さ方向に前記マイクロカプセルの高充填密度層と低充填密度層とが形成され、前記抄造シートの片面又は両面の表面層が前記マイクロカプセルの低充填密度層となっていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細ガラス繊維を主体とした抄造シートよりなり、電解液保持体と隔離板の機能を併せ持つ密閉型鉛蓄電池用セパレータとそれを用いた密閉型鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、このような密閉型鉛蓄電池用セパレータとしては、例えば、特許文献1〜3に開示されるような、微細ガラス繊維のみ、あるいは、微細ガラス繊維と少量のバインダーのみで構成される抄造シートよりなるセパレータが主に使用されているが、微細ガラス繊維は高価な材料であるため、製品コストが高くなるという問題がある。
【0003】
このため、特許文献4〜5には、微細ガラス繊維を主体としたセパレータでありながら、セパレータを低密度化することで、コストダウンを図ろうとする考え方のセパレータとして、微細ガラス繊維を主体としマイクロカプセルを含有した抄造シートよりなる密閉型鉛蓄電池用セパレータが提案されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1〜3に開示される従来の微細ガラス繊維のみ、あるいは、微細ガラス繊維と少量のバインダーのみで構成されるセパレータの場合、微細ガラス繊維の交絡によってセパレータ内部に多量の空間が形成されるが、特許文献4〜5に開示されるマイクロカプセルを含有したセパレータでは、微細ガラス繊維の交絡によって形成される空間をマイクロカプセルが埋めてしまい、セパレータの電解液保持性が低下するという問題がある。
【0005】
このため、本出願人は、特許文献6において、微細ガラス繊維を主体としマイクロカプセルを含有した抄造シートよりなる密閉型鉛蓄電池用セパレータにおいて、セパレータ内に含ませたマイクロカプセルに透水性を持たせるようにして、マイクロカプセルの内部にも電解液を保持できる構造とすることで、マイクロカプセルを混在させたことによるセパレータの保液性の低下を解消できるようにした密閉型鉛蓄電池用セパレータを提案した。
【特許文献1】特開昭59−71255号公報
【特許文献2】特開昭56−99968号公報
【特許文献3】特開昭63−224144号公報
【特許文献4】特開昭59−138059号公報
【特許文献5】特開平7−122291号公報
【特許文献6】国際公開第2004/75317号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献4〜6に開示されるマイクロカプセルを含有した密閉型鉛蓄電池用セパレータは、何れも、微細ガラス繊維を主体とし、これにマイクロカプセルを混合して抄造した抄造シートよりなるものであり、前記マイクロカプセルが前記抄造シートの全体に略均一分散状態に混在した構造となっている。
【0007】
密閉型鉛蓄電池において、短時間大電流放電性能である高率放電性能を高めるには、セパレータと極板との密着性が高いこと、極板と接するセパレータの表面部付近に多くの電解液を保持していることが重要とされるが、この観点から、前述の密閉型鉛蓄電池用セパレータについて改めて評価してみる。
【0008】
特許文献1〜3に開示された従来の微細ガラス繊維のみ、あるいは、微細ガラス繊維と少量のバインダーのみで構成されるセパレータでは、微細ガラス繊維の交絡によってセパレータ内部に多量の空間が形成され、セパレータ表面部においても同様に多量の空間を有し、多くの電解液を保持しているため、高率放電時にも、セパレータ表面部に存在する豊富な電解液がスムーズに極板側へ供給され、良好な高率放電性能が発揮できる。
【0009】
これに対して、特許文献4〜5に開示される微細ガラス繊維を主体としマイクロカプセルを含有したセパレータでは、微細ガラス繊維の交絡によって形成される空間にマイクロカプセルが介在した構造で、電解液保持量が少なくなっており、セパレータ表面部においても、電解液保持量が少ないため、高率放電時に、極板側へ十分な量の電解液をスムーズに供給できず、良好な高率放電性能が発揮できない。
【0010】
また、特許文献6に開示される微細ガラス繊維を主体とし透水性を有したマイクロカプセルを含有したセパレータでは、特許文献4〜5のセパレータと同様、微細ガラス繊維の交絡によって形成される空間にマイクロカプセルが介在した構造であるが、マイクロカプセルが透水性を有し、マイクロカプセル内部に電解液を保持するため、特許文献1〜3の従来のマイクロカプセルを含有しないセパレータと同等以上の電解液保持量を有しており、セパレータ表面部においても同様に高い電解液保持量を有するが、マイクロカプセル内部に保持された電解液では、高率放電時に極板側へスムーズに電解液を供給することが困難であり、結局のところ、特許文献4〜5の場合と同様、高率放電時に、極板側へ十分な量の電解液をスムーズに供給できず、良好な高率放電性能が発揮できない。
【0011】
そこで、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、微細ガラス繊維を主体としマイクロカプセルを含有した抄造シートよりなる密閉型鉛蓄電池用セパレータにおいて、電池の高率放電性能を向上させ得る密閉型鉛蓄電池用セパレータとそれを用いた密閉型鉛蓄電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の密閉型鉛蓄電池用セパレータは、前記目的を達成するべく、請求項1に記載の通り、微細ガラス繊維を主体としマイクロカプセルを含有した抄造シートよりなる密閉型鉛蓄電池用セパレータであって、前記マイクロカプセルが前記抄造シートの厚さ方向に偏在して、前記抄造シートの厚さ方向に前記マイクロカプセルの高充填密度層と低充填密度層とが形成され、前記抄造シートの片面又は両面の表面層が前記マイクロカプセルの低充填密度層となっていることを特徴とする。
また、請求項2記載の密閉型鉛蓄電池用セパレータは、請求項1記載の密閉型鉛蓄電池用セパレータにおいて、前記マイクロカプセルが、膨張性マイクロカプセルを膨張させたマイクロカプセルであり、透水性を有することを特徴とする。
また、請求項3記載の密閉型鉛蓄電池用セパレータは、請求項1記載の密閉型鉛蓄電池用セパレータにおいて、前記マイクロカプセルが、未膨張の膨張性マイクロカプセルであることを特徴とする。
また、本発明の密閉型鉛蓄電池は、前記目的を達成するべく、請求項4に記載の通り、正・負極板間に請求項1又は2記載の密閉型鉛蓄電池用セパレータを介装したことを特徴とする。
また、請求項5記載の密閉型鉛蓄電池は、正・負極板間に請求項3記載の密閉型鉛蓄電池用セパレータを介装して極板群を構成し、電槽内に収納後、電解液を注液してなる密閉型鉛蓄電池であって、前記電解液の注液前又は注液後に前記セパレータ中の前記膨張性マイクロカプセルを膨張させて透水性を付与したことを特徴とする。
また、請求項6記載の密閉型鉛蓄電池は、正・負極板間に、微細ガラス繊維を主体としマイクロカプセルを略均一分散状態に混在させた抄造シートと、微細ガラス繊維を主体としマイクロカプセルを実質的に含有しない抄造シートとを、重ね合わせ状態になるように介装して極板群を構成し、電槽内に収納後、電解液を注液してなる密閉型鉛蓄電池であって、前記電解液注液後のマイクロカプセルが透水性を有していることを特徴とする。
また、請求項7記載の密閉型鉛蓄電池は、請求項4乃至6の何れかに記載の密閉型鉛蓄電池において、前記マイクロカプセルの低充填密度層、あるいは、前記マイクロカプセルを実質的に含有しない抄造シートが、正極板側に当接されていることを特徴とする
【発明の効果】
【0013】
本発明の密閉型鉛蓄電池用セパレータは、微細ガラス繊維を主体としマイクロカプセルを含有した抄造シートよりなるセパレータであって、前記マイクロカプセルが前記抄造シートの厚さ方向に偏在して、前記抄造シートの厚さ方向に前記マイクロカプセルの高充填密度層と低充填密度層とが形成され、前記抄造シートの片面又は両面の表面層が前記マイクロカプセルの低充填密度層とされた構造であるため、セパレータの片面又は両面の表面層の空間率が高く、該セパレータを使用した密閉型鉛蓄電池において、セパレータ表面層に多くの電解液を保持するとともに、高率放電時には電解液を極板側へスムーズに供給することが可能であり、良好な高率放電性能をもたらす。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の密閉型鉛蓄電池用セパレータは、微細ガラス繊維を主体としマイクロカプセルを含有した抄造シートよりなるセパレータであって、前記マイクロカプセルが前記抄造シートの厚さ方向に偏在して、前記抄造シートの厚さ方向に前記マイクロカプセルの高充填密度層と低充填密度層とが形成され、前記抄造シートの片面又は両面の表面層が前記マイクロカプセルの低充填密度層とされたものである。
ここで、低充填密度層とは、高充填密度層との比較において、マイクロカプセルの充填密度が相対的に低くなっていることを表現した言葉であり、充填密度の絶対値のレベルを規定したものではない。よって、低充填密度層とは、マイクロカプセルがまったく充填されていない非充填層であっても構わない。
また、1枚の抄造シートの中に厚さ方向に高充填密度層と低充填密度層とを有すると言っても、必ずしも両層の間に明解な境が存在している必要はなく、例えば、1枚の抄造シートの厚さ方向の一方の側(例えば表面側)から他方の側(例えば裏面側)に向かってマイクロカプセルの充填密度が漸次低くなるようにマイクロカプセルが偏在した抄造シートであってもよい。このような抄造シートの場合では、表面側の層を高充填密度層と呼び、裏面側の層を低充填密度層と呼び、これら高充填密度層や低充填密度層が実際に厚さ方向のどこからどこまでの範囲を指すか(表面層あるいは裏面層を起点に厚さ方向にどの深さの層までを含むか)については明確に定義されない。
また、高充填密度層や低充填密度層の厚さ方向の「層」の範囲がおよそ明解に示せる場合でも、前述したように、高充填密度層、低充填密度層とは、それぞれ低充填密度層、高充填密度層に対して相対的に充填密度の高いまたは低い層であることを示しているに過ぎず、つまり、例えば、それらの中間の充填密度を有する第3の層(中充填密度層)が更に存在していても良いし、高充填密度層よりも更に充填密度が高い第3の層(超高充填密度層)が存在していても良い。
【0015】
前記セパレータを密閉型鉛蓄電池に使用する際のセパレータの形態としては、前記セパレータに含まれるマイクロカプセルが、膨張性マイクロカプセルを膨張させた透水性を有したマイクロカプセルとされているセパレータ、あるいは、前記セパレータに含まれるマイクロカプセルが、未膨張の膨張性マイクロカプセルとされているセパレータ、の何れかであることが好ましい。
前者の形態のセパレータを使用する場合は、該セパレータを正・負極板間に介装して極板群を構成し、通常通りの手順にて組み立てれば、本発明の密閉型鉛蓄電池が得られる。一方、後者の形態のセパレータを使用する場合は、該セパレータを正・負極板間に介装して極板群を構成し、電槽内に収納した後、電解液の注液前又は注液後に前記セパレータ中の膨張性マイクロカプセルを膨張させて前記マイクロカプセルに透水性を付与するようにするのがよい。
このように、本発明の密閉型鉛蓄電池用セパレータは、電池に組み立てられて、電解液の注液が完了した時点では、前記セパレータ中に含まれるマイクロカプセルが、透水性を有していることが好ましい。
【0016】
本発明の密閉型鉛蓄電池用セパレータは、前述の通り、微細ガラス繊維を主体としマイクロカプセルを含有した抄造シートよりなるセパレータであって、前記マイクロカプセルが前記抄造シートの厚さ方向に偏在して、前記抄造シートの厚さ方向に前記マイクロカプセルの高充填密度層と低充填密度層とが形成され、前記抄造シートの片面又は両面の表面層が前記マイクロカプセルの低充填密度層に形成されたものであり、電池に組み込む際に、既にこの形態を有していることが理想的であるが、密閉型鉛蓄電池に使用した際の高率放電性能を改善するという本発明の目的からすれば、電池に構成された際に、上記のような形態になっていれば、一応目的は達せられる。
このような考え方に基づき、本発明の密閉型鉛蓄電池は、正・負極板間に、微細ガラス繊維を主体としマイクロカプセルを略均一分散状態に混在させた抄造シートと、微細ガラス繊維を主体としマイクロカプセルを実質的に含有しない抄造シートとを、重ね合わせ状態になるように介装して極板群を構成し、電槽内に収納後、電解液を注液してなり、前記電解液注液後のマイクロカプセルが透水性を有したものであってもよい。
【0017】
本発明の密閉型鉛蓄電池用セパレータを使用して密閉型鉛蓄電池を構成する場合は、前記マイクロカプセルの低充填密度層、あるいは、前記マイクロカプセルを実質的に含有しない抄造シートが、正極板側に当接されるように構成するのがよい。
通常、鉛蓄電池は、正負両極で容量が異なっており、電池全体の容量は、容量が低い方の電極の容量によって規制される形となり、容量が高い方の電極の容量が十分に活かし切れていない。したがって、電池全体の容量を高めるには、正負両極の極板に対して均等に多くの電解液を供給するのではなく、容量が低い方の電極の極板に対してより多くの電解液を供給するようにするのがよいと言える。
通常、鉛蓄電池において形成される極板群は、極板構成が例えば正極板が4枚に対して負極板が5枚というように負極板の方が多くなっており、正極が、相対的に容量の低い電極となっている。よって、容量の低い正極側に、より多くの電解液を供給できる形に電池を構成すれば、電池全体の容量が高められ、高容量の電池に構成できる。
また、前記マイクロカプセルの低充填密度層、あるいは、前記マイクロカプセルを実質的に含有しない抄造シートを正極板側に当接させるようにした場合は、セパレータ中のマイクロカプセルが正極板と直接接することによって正極板からの強い酸化力を受け早期の酸化損耗・劣化を生じるのを防ぐことができるという利点もある。
【0018】
本発明の密閉型鉛蓄電池用セパレータは、例えば、次のような方法により製造することができる。微細ガラス繊維を主体とし所定量の熱膨張性マイクロカプセルを含有した第1の抄紙原料液と、微細ガラス繊維を主体としマイクロカプセルを実質的に含有しない第2の抄紙原料液を使用して、多層抄き抄紙機により、二層抄きシートを得る。尚、第1の抄紙原料液を得る場合、微細ガラス繊維とマイクロカプセルを含む原料を水中に分散・混合した後、適量の凝集剤を添加し、前記微細ガラス繊維の表面に前記マイクロカプセルを吸着・担持させるようにするのがよい。
前記二層抄きシートは、該シート中の熱膨張性マイクロカプセルが膨張したシート、あるいは、前記シート中の熱膨張性マイクロカプセルが未膨張のままであるシートの何れであってもよいが、前者のシートに形成する場合は、二層抄きシートを得る際の抄紙後の乾燥工程もしくは乾燥工程に続く工程で、前記熱膨張性マイクロカプセルの発泡温度に合わせた適当な温度にて熱処理するようにする。この場合の熱処理温度は、前記熱膨張性マイクロカプセルが破裂を生じない程度に適度に膨張し透水性が付与されるような適当な温度を設定する。また、後者のシートに形成する場合は、抄紙後の乾燥工程では、前記熱膨張性マイクロカプセルが膨張(発泡)を生じない温度で乾燥を行うようにする。
【0019】
本発明のセパレータに使用する微細ガラス繊維としては、平均繊維径が3μm以下、好ましくは1μm以下のCガラス組成のガラス短繊維を使用するのが好ましい。
【0020】
本発明のセパレータに使用するマイクロカプセルとしては、耐電解液性(耐酸性)を有し、カプセルの内部に、加熱や電解液(硫酸)との接触によって膨張する膨張性材料(例えば、前者の場合には低沸点炭化水素、後者の場合には重炭酸ナトリウム)を内包した構造の膨張性マイクロカプセルを使用するのが好ましい。尚、前記膨張性材料としては、カプセル外に漏出したとしても電解液や電池に悪影響を与えない材料を選択するのがよい。
また、本発明のセパレータに使用するマイクロカプセルの粒子径は、微細ガラス繊維を主体とする抄紙原料と共に混合抄造される場合を想定すると、出来上がった抄造シート中への均一分散性を考慮し、数十μm以下であることが好ましい。
また、本発明のセパレータに使用する膨張性マイクロカプセルの本体すなわち殻の材質としては、耐酸性を有するとともに、膨張によって透水性を得ることができるものの破裂等せず形状維持が可能な材料を使用するのが好ましく、熱可塑性のポリオレフィン、ポリアクリロニトリル系等が使用できる。
また、セパレータ中のマイクロカプセルの含有量としては、1〜30質量%が好ましく、1〜10質量%がさらに好ましい。通常、マイクロカプセルとしては疎水性である有機材料を使用することになるため、マイクロカプセルの含有量が多くなり過ぎると、相対的に親水性である微細ガラス繊維の含有量が減り、セパレータの親水性が低下するので、好ましくない。また、本発明において、セパレータ中にマイクロカプセルを混在させることで期待する効果としては、主に、セパレータの低密度化及びクッション性の向上であるが、10質量%以下の含有量でもこれらについて一定の効果を得ることは可能である。
尚、膨張性マイクロカプセルを使用して作製されたセパレータの該膨張性マイクロカプセルが膨張した後の状態については、セパレータ中に含まれる膨張済みマイクロカプセルの基本的にその全量が、膨張によって透水性を得つつ形状を維持した状態になっていることが望ましいが、このような制御を完璧に行うことは難しいことから、例えば、膨張済みマイクロカプセルの全量の中に、膨張によっても透水性が得られなかった膨張済みマイクロカプセルが一部存在したり、膨張により形状を維持し切れずに破裂してしまった膨張済みマイクロカプセルが一部存在していてもよい。また、前記膨張済みマイクロカプセルが有する透水性についても、必ずしも膨張済みマイクロカプセルの表面の全領域が透水性を有している必要はなく、透水性を有しない領域が一部存在していてもよい。
【実施例】
【0021】
次に、本発明の実施例について従来例と共に詳細に説明する。
(実施例1)
平均繊維径0.8μmのガラス繊維90質量%と、熱膨張性マイクロカプセル(松本油脂製薬社製マツモトマイクロスフェアーF−55)10質量%とを、水中で分散・混合後、アクリルアミド系吸着剤を添加して前記マイクロカプセルを前記ガラス繊維の表面に吸着・担持させた後、通常の抄紙機にて湿式抄造して湿紙シートAを得た。また同様に前記ガラス繊維のみを用い、通常の抄紙機にて湿紙シートBを得た。次に、湿紙シートA(A層)と湿紙シートB(B層)を重ね合わせ、120℃で乾燥して前記A層のマイクロカプセルを膨張させて、厚さ1.02mm、坪量100g/m2、マイクロカプセル含有量5質量%の密閉型鉛蓄電池用セパレータを得た。尚、前記湿紙シートAと前記湿紙シートBは乾紙状態での坪量がほぼ同じとなっている。
【0022】
(実施例2)
平均繊維径0.8μmのガラス繊維80質量%と、熱膨張性マイクロカプセル(松本油脂製薬社製マツモトマイクロスフェアーF−55)20質量%とを、水中で分散・混合後、アクリルアミド系吸着剤を添加して前記マイクロカプセルを前記ガラス繊維の表面に吸着・担持させた後、通常の抄紙機にて湿式抄造して湿紙シートCを得た。また同様に前記ガラス繊維のみを用い、通常の抄紙機にて湿紙シートD,Eを得た。次に、湿紙シートD(D層)と湿紙シートE(E層)の間に湿紙シートC(C層)を挟むように3層を重ね合わせ、120℃で乾燥して前記C層のマイクロカプセルを膨張させて、厚さ1.01mm、坪量101g/m2、マイクロカプセル含有量7質量%の密閉型鉛蓄電池用セパレータを得た。尚、前記湿紙シートCと前記湿紙シートDと前記湿紙シートEは乾紙状態での坪量がほぼ同じとなっている。
【0023】
(実施例3)
平均繊維径0.8μmのガラス繊維80質量%と、熱膨張性マイクロカプセル(松本油脂製薬社製マツモトマイクロスフェアーF−55)20質量%とを、水中で分散・混合後、アクリルアミド系吸着剤を添加して前記マイクロカプセルを前記ガラス繊維の表面に吸着・担持させた後、通常の抄紙機にて湿式抄造して湿紙シートFを得た。また同様に前記ガラス繊維のみを用い、通常の抄紙機にて湿紙シートGを得た。次に、湿紙シートF(F層)と湿紙シートG(G層)を重ね合わせ、95℃で乾燥して、厚さ0.75mm、坪量98g/m2、マイクロカプセル含有量10質量%の密閉型鉛蓄電池用セパレータを得た。尚、前記湿紙シートFと前記湿紙シートGは乾紙状態での坪量がほぼ同じとなっている。
【0024】
(従来例1)
平均繊維径0.8μmのガラス繊維90質量%と、熱膨張性マイクロカプセル(松本油脂製薬社製マツモトマイクロスフェアーF−55)10質量%とを、水中で分散・混合後、アクリルアミド系吸着剤を添加して前記マイクロカプセルを前記ガラス繊維の表面に吸着・担持させた後、通常の抄紙機にて湿式抄造し、120℃で乾燥して前記マイクロカプセルを膨張させて、厚さ1.07mm、坪量97g/m2の密閉型鉛蓄電池用セパレータを得た。
【0025】
(従来例2)
平均繊維径0.8μmのガラス繊維100質量%を水中で分散後、通常の抄紙機にて湿式抄造し、120℃で乾燥して、厚さ1.03mm、坪量150g/m2の密閉型鉛蓄電池用セパレータを得た。
【0026】
次に、上記にて得られた実施例1〜3及び従来例1〜2の各セパレータについて、最大孔径、クッション性、吸液量等のセパレータ諸特性を評価した。また、前記各セパレータを、6M4(6V4Ahの略)の電池に組み込み電解液を注液して密閉型鉛蓄電池を作製し、電池特性(高率放電特性)を評価した。結果を表1に示す。尚、実施例3のセパレータについては、無加圧で6M4の電池に組み込んだ後、該電池を120℃に加熱処理してセパレータ中の膨張性マイクロカプセルを膨張させマイクロカプセルに透水性を付与するとともに、セパレータの厚さを膨張させ、極板群に所定の加圧を掛けた後、電解液を注液して密閉型鉛蓄電池を得るようにした。
【0027】
【表1】

【0028】
表1の結果から以下のことが分かった。
(1)ガラス繊維主体の抄造シートに膨張済みマイクロカプセルを5〜10質量%含有させてなる本発明の実施例1〜3のセパレータ(実施例3もマイクロカプセル膨張後の状態で評価)は、ガラス繊維のみからなる従来例2のセパレータに比較して、密度が32〜36%低減し、製品単価の低コスト化が図れている。しかも、実施例1〜3のセパレータにおいては、ガラス繊維の交絡による空間内に膨張済みマイクロカプセルを介在させているにも拘わらず、前記膨張済みマイクロカプセルの多くが、形状を維持しつつ透水性を有しているため、ガラス繊維のみからなる従来例2のセパレータに比較して、吸液量が低下していない。つまり、実施例1〜3のセパレータは、ガラス繊維主体の抄造シートに膨張済みマイクロカプセルを10質量%含有しセパレータ全体に膨張済みマイクロカプセルが略均一に分散した従来例1のセパレータと同等の特長を有している。
(2)しかも、実施例1〜3のセパレータは、ガラス繊維主体の抄造シートに膨張済みマイクロカプセルを5〜10質量%含有しセパレータの片面又は両面の表面層が前記膨張済みマイクロカプセルの低充填密度層もしくは非充填層となるように膨張済みマイクロカプセルを偏在させているため、実施例1〜3のセパレータを使用した電池において、ガラス繊維主体の抄造シートに膨張済みマイクロカプセルを10質量%含有しセパレータ全体に膨張済みマイクロカプセルが略均一に分散したセパレータを使用した従来例1の電池に比較して、高率放電持続時間比が10〜13%良化した。この高率放電特性の結果について以下に解説する。従来例1及び実施例1〜3のマイクロカプセルを含有したセパレータを使用した電池では、従来例2のマイクロカプセルを含有しないセパレータを使用した電池に比べて、セパレータは、クッション性が高くつまり圧縮反発性が高いため、極板との密着性に優れ極板へ電解液を供給し易くなって、高率放電特性の良化に寄与している。ただし、従来例1の電池では、従来例2の電池に対し、セパレータと極板との密着性は良化しているものの、セパレータ表面部にマイクロカプセルが多く存在しており、高率放電時に極板側へスムーズに供給できる電解液をセパレータ表面部に多く保持することができていないため、セパレータと極板との密着性向上による効果を帳消しにし、高率放電特性は同等に留まっている。これに対し、実施例1〜3の電池では、従来例1の電池に対し、セパレータ表面部に存在するマイクロカプセルが少なくなり、高率放電時に極板側へスムーズに供給できる電解液をセパレータ表面部に多く保持することができた(従来例2と同等の効果)ため、高率放電特性が10〜13%良化したと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細ガラス繊維を主体としマイクロカプセルを含有した抄造シートよりなる密閉型鉛蓄電池用セパレータであって、前記マイクロカプセルが前記抄造シートの厚さ方向に偏在して、前記抄造シートの厚さ方向に前記マイクロカプセルの高充填密度層と低充填密度層とが形成され、前記抄造シートの片面又は両面の表面層が前記マイクロカプセルの低充填密度層となっていることを特徴とする密閉型鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項2】
前記マイクロカプセルが、膨張性マイクロカプセルを膨張させたマイクロカプセルであり、透水性を有することを特徴とする請求項1記載の密閉型鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項3】
前記マイクロカプセルが、未膨張の膨張性マイクロカプセルであることを特徴とする請求項1記載の密閉型鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項4】
正・負極板間に請求項1又は2記載の密閉型鉛蓄電池用セパレータを介装したことを特徴とする密閉型鉛蓄電池。
【請求項5】
正・負極板間に請求項3記載の密閉型鉛蓄電池用セパレータを介装して極板群を構成し、電槽内に収納後、電解液を注液してなる密閉型鉛蓄電池であって、前記電解液の注液前又は注液後に前記セパレータ中の前記膨張性マイクロカプセルを膨張させて透水性を付与したことを特徴とする密閉型鉛蓄電池。
【請求項6】
正・負極板間に、微細ガラス繊維を主体としマイクロカプセルを略均一分散状態に混在させた抄造シートと、微細ガラス繊維を主体としマイクロカプセルを実質的に含有しない抄造シートとを、重ね合わせ状態になるように介装して極板群を構成し、電槽内に収納後、電解液を注液してなる密閉型鉛蓄電池であって、前記電解液注液後のマイクロカプセルが透水性を有していることを特徴とする密閉型鉛蓄電池。
【請求項7】
前記マイクロカプセルの低充填密度層、あるいは、前記マイクロカプセルを実質的に含有しない抄造シートが、正極板側に当接されていることを特徴とする請求項4乃至6の何れかに記載の密閉型鉛蓄電池。

【公開番号】特開2006−286392(P2006−286392A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−104507(P2005−104507)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】