説明

寒冷地における土質安定化処理方法

【課題】寒冷地での厳寒期施工に際して、定量的にしかも安定して適切な施工ができる土質安定化処理方法を提供する。
【解決手段】施工時の気温が0℃未満となる厳寒期に原位置土と固化材スラリとを撹拌混合して安定処理を施す方法である。安定処理として予め温めてある高温スラリを用いて原位置土と撹拌混合するにあたり、高温スラリの温度として、安定処理直後の安定処理土の初期温度が外気温では凍結しない温度とする。必要に応じ安定処理の施工当日に安定処理に先立って凍結影響深度までの原位置土を除去する。安定処理後には余剰安定処理土等にて覆土を施すものとする。また、高温スラリは、例えば粉体状の固化材と水とを混練りした常温スラリに温水を加えたものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寒冷地においてしかも厳寒期に地盤改良のための土質安定化処理を施す方法に関し、特に軟弱地盤対策や建設工事に伴って発生する不良土をセメントあるいはセメント系固化材を用いて安定処理を施すことにより、所定強度の地盤材料として利用可能とした土質安定化処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セメントまたはセメント系等の固化材を用いた地盤改良工法は、軟弱地盤対策や建設工事に伴って発生する不良土(強度が小さくてそのままの状態では地盤材料として使用できない土)の安定化処理工法として多くの地域において実施されている。
【0003】
その一方、これらの工法を必要とする地盤や不良土は、多くの水を含むが故に軟弱である。このような地盤や不良土に寒冷地においてしかも厳寒期に安定処理を施して安定処理土(改良土)とする場合、寒冷地故の低温化や凍結の影響を無視することができず、安定処理土の低温化もしくは凍結の度合いや養生温度が当該安定処理土の強度発現に大きく影響することが非特許文献1および非特許文献2にて報告されている。
【0004】
これらの非特許文献1,2では、北海道での建設工事に伴って発生する土砂を対象に、土砂と固化材とを混合した後の安定処理土の養生温度および養生条件等による発現強度の違いを室内試験により求めたものである。
【0005】
また、冬期や寒冷地等のように気温が低い場合に好適な地盤改良技術として、地盤中の土砂と固化材スラリとを混合するにあたり固化材スラリを加温してから供給するとともに、改良後の地盤を養生シートで覆って養生する工法が特許文献1にて提案されている。
【0006】
この特許文献1に記載の技術では、発熱体を有する養生シートの使用のほか、固化材スラリを加温する具体的方法として、(1)固化材スラリを作るためにミキサーに投入する水に代えて所定温度の湯を使用する方法、(2)地盤改良撹拌機の回転軸の内部における固化材スラリの通路の周囲に筒状に形成した電熱ヒーターなどの加温器を設ける方法、(3)固化材スラリを作るためのミキサーの内部に加温器を設けて、固化材スラリを混練しながら加温する方法、を開示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】佐藤厚子、外2名、『安定処理土の養生温度と発現強度について』,社団法人地盤工学会北海道支部技術報告集第46号,平成18年2月
【非特許文献2】城戸優一郎、外3名、『セメント改良した泥炭における養生温度が改良強度へ与える影響』,社団法人地盤工学会北海道支部技術報告集第48号,平成20年2月
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3763514号公報。
【0009】
上記非特許文献1で報告されている内容を簡潔にまとめると次のとおりである。
【0010】
(1a)養生温度が一定の場合、不良土を固化材により改良(安定処理)したときの強度は、養生温度の影響を受ける。特に−20℃で養生すると、ほとんど強度発現しない。
【0011】
(1b)養生温度を5℃としてもその後に20℃にすれば強度発現し、供試体を作製してから6ヶ月後には、初めから20℃で養生した場合とほぼ同じ強度となる。
【0012】
(1c)−20℃で養生すると強度はほとんど増加せず、その後、5℃、20℃に温度を上げても強度はほとんど増加しない。
【0013】
(1d)養生温度を変えた場合の発現強度は不良土の種類と固化材の種類により異なる。
【0014】
また、上記非特許文献2で報告されている内容を簡潔にまとめると次のとおりである。
【0015】
(2a)高炉セメントB種、セメント系固化材ともに28日養生の一軸圧縮強さであれば養生温度5℃以上において発現強度の低下を6割程度まで抑えることが可能である。冬期においてやむを得ず地盤改良(安定処理)する場合、少なくとも地表部の養生温度を5℃以上にすることが望ましい。
【0016】
(2b)1日でも−20℃となると、その後の養生温度を5℃としても、養生温度を5℃で一定とした場合の7日および28日養生の一軸圧縮強さまで強度は回復しない。冬期において改良地盤地表部の発現強度の低下を防止するには1日でも凍結させないことが重要である。
【0017】
(2c)セメント系固化材により改良した泥炭は養生温度が低温の場合、エトリンガイトの生成が抑制され、発現強度が低くなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
上記非特許文献1および非特許文献2での報告内容は、あくまで室内実験での知見に基づくもので、実施工の上でなおも改善の余地を残している。
【0019】
すなわち、いわゆる原位置撹拌混合による地盤改良工事の実情としては、寒冷地における厳寒期であっても固化材スラリ(固化材ミルク)を地中に噴射しながら撹拌混合する固化材スラリ撹拌混合工法が実施されている。この場合において、現場条件としては最低気温が−20℃以下となることも珍しくなく、当然のことながら改良対象地盤(原位置土)は凍結した低温状態となっている。そして、原位置撹拌混合工法が故に、そうした凍結土も原位置の不良土と一緒に撹拌混合されて外見的には安定処理土と化することにはなるものの、低温の影響で強度発現が悪く、目標強度(設計基準強度)まで達しないという問題があった。
【0020】
原位置土中に供給される固化材スラリは、例えば貯水タンクに貯水されている水と固化材サイロにストックされている固化材とを混練りして固化材スラリとする。最低気温が−20℃〜−10℃となるような厳寒期には、自ずと貯水タンクの貯留水表面は氷結状態となることもあり、貯留水温としては1〜3℃程度となっている。それに加えて、固化材スラリの貯留中(例えばアジテーターでの貯留中)や固化材スラリのグラウトホースによる圧送中にさらに放熱冷却されることとなる。固化材スラリの氷結点は、予備実験の結果より水/固化材比にもよるが−0.2℃〜−1℃弱である。氷結点までに至らなければ固化材スラリの圧送は可能であり、0℃前後の低温な固化材スラリが吐出されることもある。
【0021】
寒冷地での厳寒期施工に際して、安定処理土の低温化とそれによる品質不良の主な原因を挙げれば下記のとおりのものと推測される。
【0022】
(a)安定処理土の撹拌混合時における凍結土の混入。
【0023】
(b)0℃前後の低温な固化材スラリの撹拌混合によるさらなる低温化の促進。
【0024】
(c)上記(a)および(b)の現象が複合的に作用した結果、安定処理土の初期温度が0℃前後の低温状態となり、それに伴う強度発現不足。
【0025】
(d)撹拌混合処理後の安定処理土の冷却防止技術の未確立。
【0026】
上記(a)について補足するならば、寒冷地の厳寒期には凍結深度が20〜80cm程度あり、その影響深度は1mに及ぶこともある。改良深度が2〜4m程度と比較的浅い改良深度の現場では、凍結影響深度の割合が多くなり、安定処理土の温度を低下させる要因となっている。
【0027】
上記(d)について補足するならば、そもそも撹拌混合処理後の安定処理土の冷却防止技術(養生方法)が確立されていない。そのため、実際に養生が行われず(経験的に行っているにすぎない)、安定処理後の冷却による再凍結に伴って強度発現が不十分となる。
【0028】
ここで、上記特許文献1では、発熱体を有する養生シートにより改良後の地盤を覆って養生することを開示しているが、きわめて小規模な地盤改良の場合を除き、土木工事現場のような広範な領域を熱源が必要な養生シートにて覆うことは不経済であり、現実的でない。
【0029】
その上、特許文献1にて提案されている幾つかの固化材スラリの加温技術では、固化材スラリの加温に必要な熱量および固化材スラリの供給過程での放熱量が十分に考慮されていないため、固化材スラリの速やかな昇温が困難であるばかりでなく、加温後に直ちに地中に吐出しないと固化材スラリが冷めてしまって所期の目的を達成できなくなる可能性がある。しかも、仮に熱源として電熱ヒーター等を用いるにしても膨大な発熱能力を有するものが必要となって不経済であり、実用性の上でなおも改善の余地を残している。
【0030】
本発明はこのような課題に着目してなされたものであり、寒冷地での厳寒期施工に際して、定量的にしかも安定して適切な施工を行うことができ、さらには経済性にも優れた土質安定化処理方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0031】
初めに、本発明の特定にあたって使用される主な用語の定義をしておけば下記のとおりのものとなる。
【0032】
・原位置土:改良対象または安定処理対象となる原地盤の土(原土とも言う)。
【0033】
・安定処理:原位置土と固化材の撹拌混合により土の強度増加を図ること。
【0034】
・安定処理土:安定処理を施すことにより造成された土。
【0035】
・厳寒期:原位置土が凍結する季節,時期をいう。
【0036】
・凍結影響深度:原位置土、安定処理土が氷結点以下となり、凍結した深度をいう。さらには、凍結の影響により低温化している範囲をいう。
【0037】
・安定処理土の初期温度:安定処理直後の安定処理土の温度。
【0038】
・初期養生時間:安定処理土の初期温度を養生(維持)させる時間(安定処理直後からの経過時間)。
【0039】
・固化材:原位置土を撹拌混合処理して強度増加を図る材料。セメント等をいう。
【0040】
・固化材スラリ:粉体状の固化材と水とを混練りしたスラリ状の材料。
【0041】
・常温スラリ:厳寒期における低温(常温)の水と粉体状の固化材で混練りした固化材スラリ。
【0042】
・高温スラリ:粉体状の固化材と温水、または常温スラリと温水もしくは蒸気とを混練りして製造される固化材スラリ。当該現場での常温スラリよりも温められて温度の高い固化材スラリ。
【0043】
・蒸気:産業用ボイラー等により水が加熱され、沸騰・蒸発して気体になったものをいう。ボイラーで発生する蒸気は、基本的には飽和蒸気である。
【0044】
・余剰な安定処理土:所定の計画地盤以上に盤膨れした安定処理土。
【0045】
・客土:当該施工区域外より持ち込まれた土砂。
【0046】
・潜熱:機械工学に用いる用語であって、気化、凝縮、融解などの状態変化によって温度が変化しない熱量をいう。
【0047】
・顕熱:潜熱に対する用語であって、温度変化が伴う熱量をいう。
【0048】
請求項1に記載の発明は、施工時の気温が0℃未満となる厳寒期に原位置土と固化材スラリとを撹拌混合して安定処理を施すいわゆる寒冷地における土質安定化処理方法であって、粉体状の固化材と水とを混練りして常温の固化材スラリを常温スラリとして製造する工程と、水と蒸気とを混合して温水を製造する工程と、上記常温スラリと温水とを混合して常温スラリよりも温度の高い固化材スラリを高温スラリとして製造する工程と、この高温スラリを原位置土中に吐出して撹拌混合することで安定処理を施す工程と、安定処理後の安定処理土が凍結しないように当該安定処理土を被覆土にて被覆して養生を施す工程と、を含むことを特徴とする。
【0049】
具体的には、請求項2に記載のように、それぞれに独立している水の供給系と蒸気の供給系とを合流させることにより、当該水と蒸気とを合流・混合させて温水を製造するものとする。
【0050】
同様に、請求項3に記載のように、それぞれに独立している常温スラリの供給系と温水の供給系とを合流させることにより、当該常温スラリと温水とを合流・混合させて高温スラリを製造するものとする。
【0051】
この場合において、請求項1に記載の常温スラリを製造する工程および常温スラリと温水とを混合して高温スラリを製造する工程に代えて、請求項4に記載のように、粉体状の固化材と温水とを混練りして高温スラリを製造する工程を含んでいても良い。
【0052】
同様に、請求項1に記載の温水を製造する工程および常温スラリと温水とを混合して高温スラリを製造する工程に代えて、請求項5に記載のように、常温スラリと蒸気とを混合して高温スラリを製造する工程を含んでいても良い。
【0053】
この場合において、請求項6に記載のように、それぞれに独立している常温スラリの供給系と蒸気の供給系とを合流させることにより、当該常温スラリと蒸気とを合流・混合させて高温スラリを製造するものとする。
【0054】
また、請求項7に記載のように、蒸気と水または常温スラリとの合流・混合の際に、同時に圧縮空気を合流・吐出させて混合することが望ましい。これにより、高温スラリを地中吐出させる場合に、高圧の圧縮空気と合流させて加圧した上で加速吐出させることができる。
【0055】
さらに、安定処理対象領域が凍結していることもあることを考慮し、例えば請求項8に記載のように、予め凍結影響深度までの原位置土を除去した上で安定処理を施すと、より好ましいものとなる。この場合において、上記凍結影響深度までの原位置土の除去は、安定処理の施工当日に行うことが望ましい。
【0056】
あるいは、例えば請求項9に記載のように、安定処理対象領域を被覆土にて予め覆土しておき、上記被覆土を除去した上で安定処理を施すものとする。この場合において、安定処理の施工当日まで安定処理対象領域を被覆土にて予め覆土しておき、安定処理の施工当日に上記被覆土を除去することが望ましい。なお、原位置土および被覆土の除去は、必ずしも施工当日でなくても良い。
【0057】
その一方、請求項10に記載のように、安定処理後の安定処理土が凍結しないように当該安定処理土を被覆する被覆土として、安定処理により発生した余剰の安定処理土を用いることが経済性の上で好ましい。
【0058】
もちろん、請求項11に記載のように、安定処理後の安定処理土が凍結しないように当該安定処理土を被覆する被覆土として客土を用いることも可能である。
【0059】
また、上記被覆土による被覆厚さは、例えば請求項12に記載のように、施工後28日以内に予想される凍結影響深度相当の厚さとすることが望ましい。
【0060】
さらに、請求項13に記載のように、安定処理直後の安定処理土の初期温度を5℃以上とする。この初期温度5℃は、上記非特許文献1,2の示唆のほか経験的な知見に基づいている。
【発明の効果】
【0061】
本発明によれば、寒冷地での厳寒期施工においても必要十分な強度発現を図ることができることはもちろんのこと、寒冷地での厳寒期施工でありながらも既存の設備で定量的にしかも安定した施工を行えるほか、経済性にも優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】(A),(B)共に本発明の安定処理に先立って行われる被覆土または凍結土の除去の手順を示す説明図。
【図2】トレンチャー式撹拌混合機による安定処理の施工説明図。
【図3】実施例2における固化材温水スラリ製造・供給系のプラント設備の説明図。
【図4】図3の合流部の拡大図。
【図5】図3をフローチャート化した説明図。
【図6】実施例3における固化材温水スラリ製造・供給系のプラント設備の説明図。
【図7】図6をフローチャート化した説明図。
【図8】図6の合流部の拡大図。
【図9】実施例4における固化材温水スラリ製造・供給系のプラント設備の説明図。
【図10】図9をフローチャート化した説明図。
【図11】図9の合流部の拡大図。
【図12】(A),(B)共に本発明の安定処理に続いて行われる覆土処理の手順を示す説明図。
【図13】各実施例に共通の大まかな手順をまとめた説明図。
【発明を実施するための形態】
【0063】
初めに、後述するいくつかの実施例の詳細説明に先立ち、各実施例に共通する現場条件の一例について説明する。
【0064】
・原位置土(原土)の土質性状:シルト質粘性土
・自然含水比:80%
・湿潤密度:1500kg/m3
・施工時(日中)の気温:−10℃
(自ずと最低気温は−10℃以下となり、夜間の気温はさらに下がる。)
・改良深度(安定処理深度):4.0m
・固化材添加量:100kg/m3
・固化材スラリの水/セメント比:150%
上記現場施工条件では、凍結影響深度は地域によって異なるもののおおよそ20〜80cm程度と予測され、また凍結土の温度は−3℃〜−1℃程度と予測される。従来の方法による施工の場合には、安定処理土内に凍結土の混入や低温な固化材スラリとの撹拌混合により、造成される安定処理土の温度は0℃前後の低温な安定処理土となり、強度発現に影響を与えることが予測される。さらに、撹拌混合処理後24時間以内には夜間の最低気温(−20℃前後)により安定処理土が凍結し、凍結影響深度においては強度が得られなくなることが予測される。そこで、このような予測事態を回避し、予定した目標強度(設計基準強度)を得ることが可能な施工方法を以下に示す。
【0065】
安定処理土内への凍結土の混入により、強度発現に影響を与えることは前述した通りである。しかし、改良深度が比較的深くて(概ね5m以上)凍結深度が浅い場合には、凍結土の影響も少ないこともあり、凍結土の除去を行わないこともある。
【0066】
ここでは、原位置土(原土)の凍結土を安定処理土内に混入させない施工手順を覆土式と掘削式とに分けて説明する。
【0067】
覆土式とは、図1の(A)に示すように、安定処理を施す前に原位置土G1上に土砂等を被覆土(覆土層)G3として用いて安定処理対象領域(改良領域)G2を覆い、被覆土G3にて安定処理対象領域G2を予め覆土(盛土)する方式である。覆土のための施工手段としては例えばバックホウを用いる。覆土厚は施工地域、施工時期等に応じて変化する凍結影響深度以上を目安として、原位置土G1を凍結させない覆土厚を確保する。一度凍結した土砂は、気温がかなり上がらないと融解しないことは知られているとおりであり、被覆土G3による覆土は原位置土G1が凍結を起こす前に行うことが望ましく、ここでの覆土厚は、例えば80cm〜100cm程度とする。なお、被覆土G3は、安定処理を施す当日の施工直前に除去することが望ましいが、場合によっては1〜2日前であっても良い。なお、被覆土G3の除去に続く安定処理は、後述するトレンチャー式の撹拌混合機3を用いて行うものとする。なお、図1の(A)の符号G4は安定処理後の安定処理土(改良土)を示す。
【0068】
掘削式とは、図1の(B)に示すように、安定処理として行われる原位置土G1と固化材スラリとの撹拌混合前(望ましくは施工当日)に、原位置土G1のうち凍結していると思われるところまでの深度(凍結影響深度)の凍結土G5をバックホウ等にて掘削除去する方式である。凍結土G5の除去厚さは上記覆土厚が目安ではあるが、凍結状況を確認しながら除去するものとする。
【0069】
安定処理の施工当日に日中温度が−10℃ともなると、現位置土G1は1時間に10〜20mm程度の凍結を起こす。よって、安定処理の進捗に合わせて掘削除去を行うことが望ましい。これは、覆土方式の被覆土G3(覆土層)の除去も同様である。
【0070】
なお、実現場での凍結温度は、外気温、原位置土の性状等により変化する。よって、凍結土の除去は施工当日に行うことが望ましいが、場合によっては施工の1〜2日以前であっても良い。
【0071】
一方、図1の(A),(B)における安定処理の実施工に際しては、例えば図2に示すように、上下方向に周回駆動されるエンドレスなドライブチェーン4にそれとほぼ直交する複数の撹拌混合翼5(図3参照)を装着してなるいわゆるトレンチャー式の撹拌混合機3をベースマシンであるバックホウ1のアーム2に支持させる。そして、この撹拌混合機3を地中にほぼ鉛直姿勢にて原位置土G1に貫入しながら、同時にその撹拌混合機3の先端の固化材吐出ノズル(図示省略)から固化材スラリを吐出して、原位置土G1との撹拌混合処理を土質安定化処理として施すものとする。
【実施例1】
【0072】
ここでは、安定処理土の施工(撹拌混合処理)直後の初期温度を最低でも0℃以上、望ましくは5℃以上に確保する場合であって、概ね15℃以上とするのに必要な高温スラリ(高温の固化材スラリ)の温度の実施例について説明する。
【0073】
(1)凍結土の除去(図1の(B)参照)のみを行った場合の安定処理土の初期温度:3℃
(2)目標とする安定処理土の初期温度:15℃以上
(3)安定処理土の比重ρ:1500kg/m3
(4)安定処理土の比熱c:1.844kJ/kg・K(ここでは、原位置土の粘性土の比熱と同等とした。)
(5)常温スラリの温度:3℃
(6)水/固化材比150%時における固化材スラリの比重ρと比熱c
ρ=(1000+1500)/{(1000/3.1)+1500}
=1370kg/m3
c=3.22kJ/kg・K
(7)水/固化材比60%時における固化材スラリの比重ρと比熱c
ρ=(1000+600)/{(1000/3.1)+600}
=1730kg/m3
c=2.44kJ/kg・K
(8)3℃の安定処理土1m3を15℃とするのに必要な熱量Q1
Q1=安定処理土量×安定処理土の比重×安定処理土の比熱×温度差
=1×1500×1.844×(15−3)
=33192kJ≒33.2MJ
ここで、凍結した原位置土の除去のみを行い、低温な固化材スラリで撹拌混合した時の安定処理土の初期温度は3℃程度と予測される。この低温な安定処理土に、1m3当たり約33.2MJ以上の熱量を添加混合することにより安定処理土の初期温度は概ね15℃以上となる。
【0074】
(9)上記(8)での熱量を高温スラリで与えることにより、安定処理土の初期温度は概ね15℃以上となる。よって、水/固化材比150%時における上記熱量Q1と同等な熱量とするのに必要な高温スラリの温度T1を求める。
【0075】
・安定処理土1m3に用いる固化材スラリ重量
固化材スラリ重量=150+100=250kg
・熱量Q1=固化材スラリ重量×固化材スラリの比熱×温度差
Q1=250×3.22×(T1−3)
T1={33192+(250×3.22)×3}/(250×3.22)
≒44.2℃
・上記T1は放熱等のロスを考慮して、T1=45℃とする。
【0076】
(10)対策を施さないときの安定処理土の想定温度は3℃であるが、原位置土中に吐出される高温スラリの温度T1を45℃とした上で、先に述べた図2の撹拌混合機3から当該高温スラリを吐出しながら撹拌混合するならば、安定処理土の初期温度は概ね15℃以上となる。
【実施例2】
【0077】
ここでは、1時間当たり50m3の安定処理を施す場合における安定処理土の初期温度を概ね15℃以上とするのに必要な高温スラリ(45℃)の製造手順について説明する。
【0078】
図3,4は上記高温スラリの製造・供給系のプラント設備の一例を示し、さらに図3をフローチャート化したものを図5に示す。図3〜5において、6は固化材である例えばセメントが貯留されたセメントサイロ、7はミキサーのほかアジテーター8を含んでなるミキシングプラント、9はボイラー、10は水槽、11はグラウトポンプ、12は流量計(ただし、図3では図示省略)、14は空気圧縮機(コンプレッサー)である。
【0079】
このプラント設備での基本機能としては、同図に示すように、セメントサイロ6に貯留されている固化材としてのセメントと水槽10に貯留されている水(ここでは、常温の冷水とする。)とをそれぞれに計量して投入した上でミキシングプラント7にて混練りし、これをもって常温スラリを製造し、その常温スラリをアジテーター8に一旦貯留する。
【0080】
アジテーター8に貯留された常温スラリはその流量を流量計12にて計量しながらグラウトポンプ11にて撹拌混合機3に向けて圧送する。その一方、水槽10に貯留されている水とボイラー9からの蒸気とをそれぞれの経路の合流部P1にて合流させることで両者を混合させて所定温度の温水とし、その温水を図示外の流量計にて計量しながら撹拌混合機3に向けて圧送する。同時に、空気圧縮機14からも撹拌混合機3に向けて圧縮空気を供給する。そして、撹拌混合機3の固化材吐出ノズルから吐出する前に、図4,5に示すように常温スラリ、温水および圧縮空気のそれぞれの供給系の合流部P2において三者を合流・混合させて、高温スラリとした上で地中に吐出させるものとする。なお、上記合流部P1は例えば図3のa部付近に設けるものとする。ただし、図4は三者の合流・混合の一例を示すものであって、それぞれの合流位置が上流側,下流側の関係にあっても吐出効果に問題はない。
【0081】
先に述べた高温スラリ(45℃)の製造条件および手順は次のとおりである。
【0082】
(1)45℃の高温スラリを製造するのに必要な温水の温度T2を求める。
【0083】
・予め製造する常温スラリの水/固化材比:60%
(比熱c=2.44kJ/kg・K)
・予め製造する常温スラリの温度:3℃
・温水を製造する冷水の温度:3℃
・常温スラリの熱量=温水の熱量
(温水と固化材スラリ温度との差の熱量)
・安定処理土1m3を造成するのに必要な常温スラリの重量:
100+(100×60)/100=160kg
・安定処理土1m3を造成するのに必要な温水の重量:
250−160=90kg
故に、
160×2.44×(45−3)=90×4.217×(T2−45)
T2=88.2℃≒88℃
ここでは、温水の比重を水と同等とし、c=4.217kJ/kg・Kとする。
【0084】
(2)3℃の水から88℃の温水を90kg(リットル)製造するのに必要な蒸気量を以下に求める。
【0085】
・蒸気の条件:ゲージ圧力400kPaの飽和蒸気
この時の蒸気温度は約151.94℃であって、全熱(全熱量)としては約2747.7kJ/kg・Kである。
【0086】
・必要な飽和蒸気の重量をw1とする蒸気側の放熱量Q2(降下熱量)
Q2=全熱
=w1kg×2747.7kJ/kg・K
・温水の受熱量Q3(上昇熱量)
Q3={90kg×(88−3)}×4.217kJ/kg・K
・放熱等のロスがないものとしたときにはQ2=Q3となる。
【0087】
w1kg×2747.7kJ/kg・K={90kg×(88−3)}×4.217
w1=11.74kg
ここでは、放熱等のロスも考慮し、w1=12kgに数値を丸める。
【0088】
・安定処理土1m3を造成するのに必要な温水として、3℃の水90kgと蒸気圧(ゲージ圧力)400kPaの飽和蒸気12kgとを合流・混合することにより、88℃の温水が102kg製造される。
【0089】
ここで、先にも述べたように、予め製造した常温スラリ(水/固化材比60%)と88℃の温水を合流・混合させることで、水/固化材比が150%で且つ45℃の高温スラリが製造されることになる。原位置土と該高温スラリとの撹拌混合により、安定処理土の初期温度は15℃以上となる。ただし、施工中の熱量損失、固化材の水和熱の発生等は考慮していないものとする。
【0090】
(3)時間当たり施工量(安定処理土の造成土量)50m3/時に必要な主材料
・固化材(セメントまたはセメント系固化材):
50×100=5000kg
・固化材スラリに用いる総水量:
5000×(150/100)=7500リットル
・予め製造する常温スラリ(水/固化材比60%)に用いる水量:
5000×(60/100)=3000リットル
・温水を製造するのに必要な水量:
7500−3000=4500リットル
・上記の水を88℃の温水とするのに必要な蒸気量
50×12=600kg
(4)図3のミキシングプラント7にて水/固化材比60%の常温スラリ(3℃)を混練製造し、アジテーター8に貯留する。
【0091】
(5)図3の水槽10に貯留されている水(3℃)とボイラー9にて製造される蒸気とを混合して温水(88℃)とする。
【0092】
(6)常温スラリの吐出量:
{(5000/3.1)+3000}/60≒76.9
≒77リットル/分
(7)温水の吐出量
88℃の温水を100リットル/分吐出させ、常温スラリおよび圧縮空気と合流後に原位置土中に吐出させる。
【0093】
600/60=100kg(リットル)/分
(8)上記(6)および(7)の合流後には、高温スラリの温度は概ね45℃となる。また、高温スラリと原位置土との撹拌混合により、安定処理土の初期温度は概ね15℃以上となる。
【実施例3】
【0094】
ここでは、実施例3として先の実施例2の変形例を示す。
【0095】
図6は実施例3における高温スラリの製造・供給系のプラント設備の一例を示し、さらに同図をフローチャート化したものを図7に示す。なお、これらの図6,7において図3,5と共通する部分には同一符号を付してある。
【0096】
このプラント設備には二台の空気圧縮機(コンプレッサー)14A,14Bが用意されている。当該プラント設備での基本機能としては、図6,7に示すように、水槽10に貯留されている水を計量した上で、ボイラー9からの蒸気と空気圧縮機14Bからの圧縮空気とをそれぞれの経路の合流部P3、例えば図8のような合流部P3にて合流させることで三者を混合させて所定温度の温水を製造する。この温水をミキシングプラント7に供給する一方、セメントサイロ6に貯留されている固化材としてのセメントを計量した上でミキシングプラント7に投入して、これらの温水とセメントとをミキシングプラント7にて混練りし、これをもって高温スラリを製造し、その高温スラリをアジテーター8に一旦貯留する。
【0097】
なお、図6,7の合流部P3における圧縮空気の吐出・合流は必ずしも必要とするものではない。
【0098】
その後、アジテーター8に貯留されている高温スラリはその流量を流量計12にて計量しながらグラウトポンプ11にて撹拌混合機3に向けて圧送する。同時に、空気圧縮機14Aからも撹拌混合機3に向けて圧縮空気を圧送し、地中への吐出前に合流させる。
【0099】
上記高温スラリを混練り製造する際の製造条件および手順の一例を示せば次のとおりである。
【0100】
なお、ここでは、ミキシングプラント7での高温スラリの混練り製造時、アジテーター8での貯留時、およびグラウトポンプ11による高温スラリの圧送時における放熱等による冷却を考慮していない。また、後述するように、本方式は高温スラリを製造するのに必要な水分全てを温水とするものであるから、便宜上固化材の影響による温度変化はないものとする。
【0101】
・固化材添加量:100kg/m3
・高温スラリの水/固化材比:150%
・温水を製造する水の温度:3℃
・温水の温度:45℃
・高温スラリの温度:45℃以上
(1)ミキシングプラント7によりバッチ処理にて固化材500kgと45℃の温水750kgを混練りして45℃以上の高温スラリを製造する。
【0102】
・混練りされた高温スラリの水/固化材比
(750/500)×100=150%
・混練りされた1バッチ分の高温スラリをアジテーター8に貯留する。
【0103】
・アジテーター8は3〜4バッチ分の高温スラリの貯留が可能であり、混練りを繰り返してはアジテーター8に貯留する。
【0104】
・アジテーター8に貯留されている高温スラリをグラウトポンプ11にて施工 ・混合箇所まで圧送して、圧縮空気とともに地中吐出する。
【0105】
(2)ミキシングプラント7の1バッチ当たりに用いる温水量750kgを製造するのに必要な蒸気量を求める。この時の水の温度は3℃、温水の温度は45℃とする。
【0106】
・必要な飽和蒸気の重量をw2とする蒸気側の放熱量Q2(降下熱量)
Q2=全熱
=w2kg×2747.7kJ/kg・K
・温水の受熱量Q3(上昇熱量)
Q3={750kg×(45−3)}×4.217kJ/kg・K
・放熱等のロスがないものとした時にはQ2=Q3となる。
【0107】
w2kg×2747.7={750kg×(45−3)}×4.217
w2=48.34
放熱等のロスも考慮して概ね49kgに数値を丸める。
【0108】
・3℃の水750kgを45℃の温水とするには、蒸気圧(ゲージ圧力)400kPaの飽和蒸気49kgと合流・混合させることにより、799kgの温水が製造される。この時、粉体状の固化材を混練りするのに必要な温水量は750kgで良いので、1バッチ当たりの水を701kg(750−49=701)とすることにより、固化材スラリの水/固化材比(150%)を変えることなく製造することとなる。加えて、製造される温水の温度は、予定した温度より高くなる。
【0109】
・水を701kgとした時に製造される温水の温度(t℃)
49kg×2747.7={701kg×(t−3)}×4.217
t=48.5℃
この温度差は、アジテーター8での貯留時の放熱ロスを補うものとなる。
(3)ボイラーの能力について
・1時間当たりに必要な蒸気量
・温水の必要量:50m3/時×150kg/m3=7500kg/時
・必要な発熱量Q:
Q=温水重量×比熱×温度差
=7500×4.217×(48.5−3)
≒1439052kJ/時≒1439MJ/時
つまり、上記の数値を丸めて1440MJ/時以上の能力を有するボイラー9を用いれば所期の目的を達成することが可能である。
【0110】
なお、水槽10やミキシングプラント7等の設備が吹きさらし状態となると、冷却による影響が大きくなるので、水槽10やミキシングプラント7等の設備を仮設材により仮囲いすることが望ましい。
【0111】
また、アジテーター8からグラウトポンプ11、さらには撹拌混合機3までの圧送経路においても、高温スラリは冷却される。そのため、冷却防止処置としてグラウトホースに断熱効果に優れたものを用いるか、グラウトホース自体を被覆することにより冷却防止処置を施すことが望ましい。
【実施例4】
【0112】
ここでは、高温スラリの製造に際して、図3に示した実施例1の蒸気との合流により製造した温水に代えて、常温スラリと蒸気とを合流させて高温スラリを製造する場合の例を示す。
【0113】
図9は上記高温スラリの製造・供給系のプラント設備の一例を示し、さらに同図をフローチャート化したものを先の図10に示す。図3と比較した場合に、常温スラリと合流・混合されることになる温水(蒸気と水との合流により製造される温水)が蒸気に代わっている点でのみ両者は相違している。その結果、撹拌混合機3の固化材吐出ノズルから吐出する前に、常温スラリと蒸気および圧縮空気のそれぞれの供給系を例えば図11のような合流部P4にて合流させて、三者を混合させることにより高温スラリが製造される。そして、この高温スラリを撹拌混合機3の固化材吐出ノズルから地中に吐出させることになる。
【0114】
蒸気を利用した高温スラリ(45℃)の製造条件および手順は次のとおりである。この場合の蒸気は、飽和蒸気を用いる。
【0115】
・固化材添加量:100kg/m3
・高温スラリの水/固化材比:150%
(ただし、比熱c=3.22kJ/kg・Kとする)
・固化材スラリ重量:250kg/m3
・常温スラリの温度:3℃
・高温スラリの温度:45℃以上
(ただし、比熱c=3.22kJ/kg・Kとする)
(1)蒸気の条件
・飽和蒸気であって、蒸気圧は実施工可能なゲージ圧力400kPaとする。
【0116】
・この時の蒸気温度は、約151.94℃であって、全熱(熱量)としては約2747.7kJ/kg・Kである(日本機械学会蒸気表抜粋 圧力基準飽和蒸気表より)。なお、全熱は顕熱と潜熱の和を言う。
【0117】
・熱量としては、上記熱量に加えること151.94℃の温水としての熱量を有している。
【0118】
(2)安定処理土1m3当たりに添加される常温スラリ(3℃)の重量250kgと上記飽和蒸気を合流・混合して、高温スラリの温度を45℃として使用するときに必要な飽和蒸気の重量を求める。
【0119】
・必要な飽和蒸気の重量をw1とする蒸気側の放熱量Q2(降下熱量)
Q2=全熱
=w1kg×2747.7kJ/kg・K
・高温スラリの受熱量Q3(上昇熱量)
Q3={250kg×(45−3)}×3.22kJ/kg・K
・放熱等のロスがないものとしたときにはQ2=Q3となる。
【0120】
w1kg×2747.7={250×(45−3)×3.22}
w1=12.3kg
・常温スラリ(3℃)250kgと蒸気圧(ゲージ圧力)400kPaの飽和蒸気12.3kgおよび圧縮空気をそれぞれ合流・混合することにより、45℃の高温スラリが約262kg(250+12.3≒262)製造されることとなる。飽和蒸気が温水に変化したときの重量は、高温スラリの水/固化材比に与える数値(約12kg/m3)としては小さく、水/固化材比150%の高温スラリが製造されたと考える。あるいは、蒸気重量相当分(12.3kg)の水を、予め常温スラリを製造する段階にて減ずることにより、高温スラリは250kg製造されることになる。その場合には、前述と同様に予定温度(45℃)よりも高い温度の高温スラリが製造されることとなる。
【0121】
(3)1時間当たり50m3の安定処理を施す場合における飽和蒸気による高温スラリの製造手順を示す。
【0122】
a)1時間当たり施工量50m3に必要な主材料
・固化材:
50×100=5000kg/時
・固化材スラリ製造用の水:
5000×{(150×100)/100}=7500kg/時
・固化材スラリ量:
(5000/3.1)+7500
=9112.9≒9113リットル/時
・蒸気圧(ゲージ圧力)400kPaの飽和蒸気量:
12.3×50=615kg/時
b)主材料の毎分吐出量
・常温スラリ:
9113/60=151.9≒152リットル/分
・飽和蒸気:
615/60≒10.3kg/分
(4)撹拌混合までの施工手順は次のとおり。
【0123】
・予め図9のミキシングプラント7にて水/固化材比150%の常温スラリを製造して貯留する。
【0124】
・ボイラー9にて蒸気圧(ゲージ圧力)400kPaの飽和蒸気を製造する。
【0125】
・グラウトポンプ11にて常温スラリを152リットル/分吐出させる。
【0126】
・ボイラー9からの吐出量を10.3kg/分として飽和蒸気を吐出させる。
【0127】
・常温スラリの圧送経路中に図1のような飽和蒸気および圧縮空気との合流部P4を設けて、常温スラリと飽和蒸気および圧縮空気の三者を合流・混合させることで高温スラリとする。この合流・混合をもって常温スラリは水/固化材比150%、温度45℃の高温スラリと化することになる。そして、この高温スラリを原位置土中に吐出させる。なお、合流部P4は図9のグラウトポンプ11の下流側から撹拌混合機3の固化材吐出ノズルまでの圧送経路中ならば、いずれであって三者の合流・混合効果には何ら変わりはない。
【0128】
なお、ここでの圧縮空気の役割は次のように理解することができる。すなわち、常温スラリと蒸気が合流・混合した時には、蒸気の圧力はほぼ大気圧(約100kPa)となる。常温スラリの圧送時の管内圧力は200〜500kPaであり、常温スラリと蒸気とが合流・混合した段階で、蒸気は常温スラリに遮られて閉塞状態となる。そのため、ボイラー9で製造された蒸気は合流部P4から先に圧送することができず、そのままでは以降の蒸気の製造または供給は停止されることになる。
【0129】
そこで、常温スラリと蒸気との合流部1P4に圧縮空気(圧力500〜700kPa)を吐出させて合流させる。こうすることにより、蒸気はいわゆるエジェクターの原理により連続供給が可能となって、従前と同様に常温スラリとの連続的な合流・混合が可能となる。加えて、上記のような圧縮空気の吐出・合流は、合流・混合後の高温スラリを地中へ加圧(加速)吐出させる役割も兼ねている。
【0130】
(5)ここで、ボイラー9に必要な熱量を算出してみる。
【0131】
a)下記条件における必要なボイラー熱量
・飽和蒸気圧(ゲージ圧力):400kPa
この時の全熱は、約2747.7kJ/kg・Kである。
【0132】
・飽和蒸気吐出量:615kg/時
・必要な熱量Q4=飽和蒸気吐出量×全熱
=615×2747.7=1689835.5kJ≒1690MJ
・蒸気熱量より、ボイラー9の必要な出力を求める。
【0133】
1689835.5×2.778×10-4=469.4≒470kW/時
(1kJ=2.778×10-4kWとする。)
・470kW/時以上の熱出力を有する簡易ボイラーを用いれば、上記条件での温度上昇は可能となる。
【0134】
・3℃の常温スラリを152リットル/分吐出させながら飽和蒸気圧(ゲージ圧力)400kPaの蒸気を約10.3kg/分合流・混合させることにより、45℃の高温スラリが概ね157リットル/分吐出されることになる。蒸気が温水に変化する過程においてわずかに増量(約12リットル/m3)するが、水/固化材比としては変化しないものとして考える。ここで、蒸気の吐出量相当分(10.3kg/分)の水を予め減じた上で、常温スラリを製造しても良いことは先に述べた通りである。
【0135】
先の実施例4では、45℃の高温スラリを製造するに必要な蒸気量を試算し、実施工に用いるボイラーの必要熱量の目安にするものである。一方、原位置混合での施工では、当該現場で簡便に使用可能なボイラーであることが望ましく、労働安全衛生法関係法規で定めるボイラー技師等の資格不要な簡易ボイラー、小型ボイラーを適宜組み合わせて用いるものとする。法令で定める簡易ボイラー、小型ボイラーの定義は下記の通りである。
【0136】
・簡易ボイラーとは、ゲージ圧力1メガパスカル以下であって、伝熱面積が5平方メートル以下のものをいう。
【0137】
・小型ボイラーとは、ゲージ圧力1メガパスカル以下であって、伝熱面積が10平方メートル以下のものをいう。
【0138】
・実際の現場においては、安定処理土の初期温度を20℃以上としたほうが良い場合や、土質性状の変化、気候の変動等により安定処理土の初期温度の確保が困難となることが予測される場合がある。この様な場合には、簡易ボイラーならびに小型ボイラーを複数台組み合わせて使用することが望ましい。
【0139】
・一般的には、熱出力として188、251、313、434、459、470kW/台・時の能力を有する簡易ボイラーが市販されている。これ等のボイラーを単独若しくは複数台を組み合わせて使用することにより、必要に応じた幅広い熱量の供給が可能となる。これは、安定処理土の初期温度をより高くすることとなる。
【0140】
例1.熱出力188kWの簡易ボイラー1台での発生熱量
188×(3.6×103)=676800kJ/時=676MJ/時
例2.熱出力470kWの簡易ボイラー2台での発生熱量
{470×(3.6×103)}×2=
3384000kJ/時=3384MJ/時
・現場の諸条件を考慮して、機種選択並びに適宜複数台の組み合わせにより676〜3384MJ/時と幅広い熱量の供給が可能となる。
【0141】
次に、上記各実施例に共通の安定処理後の養生方法について説明する。
【0142】
(1)先の実施例に例示したような安定処理施工時(日中)の気温が−10℃であった場合、施工当日から翌日にかけての夜間には気温(最低気温)が−20℃以下となることも予想される。よって、施工終了後には安定処理土に充分な覆土(凍結予想深度以上の厚さの覆土)による凍結防止処置を行い、安定処理土の初期温度を維持できるようにする。なお、初期の養生温度(施工直後から24時間程度の時間が経過するまでの間の気温)が例えば−20℃となった場合、その後の養生温度を20℃としても強度発現が大幅に低下することは先の非特許文献1,2に示唆されているとおりである。
【0143】
(2)覆土には、図1の(A)において原位置土G1の凍結防止に用いた被覆土G3としての土砂、または安定処理により発生した余剰の安定処理土を用いる。図12の(A)には前者、すなわち図1の(A)において原位置土G1の凍結防止に用いた土砂を再度被覆土G3として用いる場合の例を示す。なお、符号G4は安定処理土、すなわち安定処理済み領域を示す。また、図12の(B)には後者、すなわち安定処理により発生した余剰の安定処理土G5を被覆土として用いる場合の例を示す。
【0144】
a)安定処理によりいわゆる盤膨れに伴って発生する余剰の安定処理土G5の算出条件
・固化材添加量:100kg/m3
・水/固化材比:150%
・安定処理深度(改良深度):4m
b)原位置土1m3に添加される固化材スラリ量(固化材の比重を3.1として算出)
・固化材量 (100/1000)/3.1=0.032m3
・水量 {(100×150)/100}/1000=0.15m3
・固化材スラリ量 0.032+0.15=0.182m3
c)安定処理1m3当たりの盛り上がり(盤膨れ)高さ
・安定処理深度4mに対する盛り上がり高さ
0.182×4=0.728m
・つまり、原位置土の土質性状が飽和度100%とするならば、添加した固化材スラリ量相当量(0.728m/m3)が盛り上がり余剰土となる。
【0145】
・凍結予想深度からの必要覆土厚は0.8〜1.0mである。安定処理に伴う盛り上がり余剰土のみでは凍結することが考えられる。よって、不足分は周辺の土砂や客土等による盛土により凍結防止を図るものとする。
【0146】
・この余剰土相当分は、先に図1の(B)において掘削除去した除去分とする。
【0147】
また、余剰土相当分を安定処理後の被覆土分とすることが最も経済的な厳寒期対策となる。安定処理深度、固化材添加量、水/固化材比、凍結影響深度等の条件によって対応は異なるが、安定処理土の余剰分を加味し不足分のみを外部より土砂を持ち込み覆土する方法(客土)がより望ましい。
【0148】
(3)安定処理土の被覆土の除去は、最低気温が5℃以上、より望ましくは20℃以上となってから除去することが望ましい。少なくとも28日以上の被覆養生は必要である。
【0149】
そして、上記各実施例に共通の大まかな手順をまとめると図13のようになる。
【0150】
このように上記各実施例によれば、寒冷地での厳寒期施工においても必要十分な強度発現を図ることができるほか、寒冷地での厳寒期施工でありながらも既存の設備で定量的にしかも安定した施工を行えるようになる。
【符号の説明】
【0151】
3…撹拌混合機
G1…原位置土
G2…安定処理対象領域
G3…被覆土(覆土層)
G4…安定処理土
G5…余剰安定処理土

【特許請求の範囲】
【請求項1】
施工時の気温が0℃未満となる厳寒期に原位置土と固化材スラリとを撹拌混合して安定処理を施す方法であって、
粉体状の固化材と水とを混練りして常温の固化材スラリを常温スラリとして製造する工程と、
水と蒸気とを混合して温水を製造する工程と、
上記常温スラリと温水とを混合して当該常温スラリよりも温度の高い固化材スラリを高温スラリとして製造する工程と、
この高温スラリを原位置土中に吐出して撹拌混合することで安定処理を施す工程と、
安定処理後の安定処理土が凍結しないように当該安定処理土を被覆土にて被覆して養生を施す工程と、
を含むことを特徴とする寒冷地における土質安定化処理方法。
【請求項2】
それぞれに独立している水の供給系と蒸気の供給系とを合流させることにより、当該水と蒸気とを合流・混合させて温水を製造することを特徴とする請求項1に記載の寒冷地における土質安定化処理方法。
【請求項3】
それぞれに独立している常温スラリの供給系と温水の供給系とを合流させることにより、当該常温スラリと温水とを合流・混合させて高温スラリを製造することを特徴とする請求項1または2に記載の寒冷地における土質安定化処理方法。
【請求項4】
請求項1に記載の常温スラリを製造する工程および常温スラリと温水とを混合して高温スラリを製造する工程に代えて、
粉体状の固化材と温水とを混練りして高温スラリを製造する工程を含んでいることを特徴とする寒冷地における土質安定化処理方法。
【請求項5】
請求項1に記載の温水を製造する工程および常温スラリと温水とを混合して高温スラリを製造する工程に代えて、
常温スラリと蒸気とを混合して高温スラリを製造する工程を含んでいることを特徴とする寒冷地における土質安定化処理方法。
【請求項6】
それぞれに独立している常温スラリの供給系と蒸気の供給系とを合流させることにより、当該常温スラリと蒸気とを合流・混合させて高温スラリを製造することを特徴とする請求項5に記載の寒冷地における土質安定化処理方法。
【請求項7】
蒸気と水または常温スラリとの合流・混合の際に、同時に圧縮空気を合流・吐出させて混合することを特徴とする請求項2または6に記載の寒冷地における地盤改良方法。
【請求項8】
予め凍結影響深度までの原位置土を除去した上で安定処理を施すことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の寒冷地における土質安定化処理方法。
【請求項9】
安定処理対象領域を被覆土にて予め覆土しておき、上記被覆土を除去した上で安定処理を施すことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の寒冷地における土質安定化処理方法。
【請求項10】
安定処理後の安定処理土が凍結しないように当該安定処理土を被覆する被覆土として、安定処理により発生した余剰の安定処理土を用いることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の寒冷地における土質安定化処理方法。
【請求項11】
安定処理後の安定処理土が凍結しないように当該安定処理土を被覆する被覆土として客土を用いることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の寒冷地における土質安定化処理方法。
【請求項12】
上記被覆土による被覆厚さは、施工後28日以内に予想される凍結影響深度相当の厚さとすることを特徴とする請求項10または11に記載の寒冷地における土質安定化処理方法。
【請求項13】
安定処理直後の安定処理土の初期温度を少なくとも5℃以上とすることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の寒冷地における土質安定化処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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