説明

寝具用防虫剤

【課題】枕、布団やクッション等の寝具類に用いられる寝具用防虫剤であって、衣料害虫に対し主としてその幼虫並びに成虫の忌避効果に基づき高い防虫効果を奏する一方、人畜に対する安全性に優れ、しかも匂いがなくて使い易い寝具用防虫剤の提供。
【課題の解決手段】有効成分としてp−メンタン−3,8−ジオールを含有する固形担体を通気性材料で包装した寝具用防虫剤。好ましくは、前記通気性材料が不織布で、その材質が紙が積層されてもよいポリエステル、ポリエチレン又はポリプロピレンであり、更に、前記p−メンタン−3,8−ジオールとともに植物由来消臭成分を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寝具用防虫剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、イガ類、カツオブシムシ類やシミ類等の衣料害虫から繊維製品を保護するため、主に、タンス、引き出し、クローゼットや衣類収納箱用として、様々な防虫剤が実用化されている。その有効成分としては、古くはp−ジクロロベンゼンやナフタレン等の昇華性防虫成分が使用されたが、安全性の問題や強い刺激臭が指摘され、近年、エムペントリンやプロフルトリン等の常温揮散性ピレスロイド系殺虫成分が主流となっている。後者のピレスロイド系殺虫成分は、衣料害虫に対して微量で高い殺虫効力を奏し、しかも安全性にも優れ有用性の高い有効成分であるが、近年の生活環境の変化により、必ずしも衣料害虫を殺虫させるまでの効力を要求しない場面が増えてきた。
【0003】
かかる状況を背景として、天然産の精油由来成分を用いると共に、衣料害虫を殺すのではなく、成虫の忌避、卵からの孵化阻害や幼虫の摂食阻害等、幾分マイルドな作用を謳った技術も模索され、これまでにいくつかの提案がなされている。例えば、特許第3420622号公報(特許文献1)には、ゲラニオール、ボルネオール、ネロリドール、α―テルピネオール等を有効成分として含有する繊維害虫成虫忌避剤が記載されている。また、特許第4332301号公報(特許文献2)は、繊維害虫卵孵化抑制剤の有効成分として、ベンジルアルコール、3−フェニルプロパノール、アニスアルコール等の香料成分を、そして、特許第4148552号公報(特許文献3)は、衣料害虫の増殖行為阻害剤の有効成分として、カルボン、アネトール及びリナロールの3種の混合物を開示する。これらは天然産志向と安全性への配慮を謳っているが、匂いが強すぎるうえ、衣料害虫に対する効果は満足するものとは言えない。
【0004】
一方、押入れ等に収納される、枕、布団やクッション等の寝具類に対しても、衣料害虫防除剤への要望は高いが、寝具類は直接肌に接触するため、使用する薬剤としてはより安全性が高くしかも匂い移りしないことが必要とされる。
ところで、特開2001−172114号公報(特許文献4)には、樟脳にp−メンタン−3,8−ジオールを配合した衣料用防虫剤が開示されているが、この文献の衣料用防虫剤は、樟脳の匂いによる食害抑制を前提にしたものである。このように、p−メンタン−3,8−ジオールの衣料害虫用途への適用については、その食害抑制効果を示唆する従来技術はあるものの、匂い移りや使用性等を含む実用的な観点から未だ十分検討されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3420622号公報
【特許文献2】特許第4332301号公報
【特許文献3】特許第4148552号公報
【特許文献4】特開2001−172114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、枕、布団やクッション等の寝具類に用いられる寝具用防虫剤であって、衣料害虫に対し主としてその幼虫並びに成虫の忌避効果に基づき高い防虫効果を奏する一方、人畜に対する安全性に優れ、しかも匂いがなくて使い易い寝具用防虫剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の構成が上記目的を達成するために優れた効果を奏することを見出したものである。
(1)有効成分としてp−メンタン−3,8−ジオールを含有する固形担体を通気性材料で包装した寝具用防虫剤。
(2)前記通気性材料が不織布である(1)記載の寝具用防虫剤。
(3)前記不織布の材質が、紙が積層されてもよいポリエステル、ポリエチレン又はポリプロピレンである(2)記載の寝具用防虫剤。
(4)前記p−メンタン−3,8−ジオールとともに植物由来消臭成分を含有する(1)ないし(3)のいずれか記載の寝具用防虫剤。
(5)前記固形担体として、平均粒径が1〜4mm、見掛け比重が0.10〜0.35であって炭が配合されてもよいセルロース製ビーズを用い、ビーズ1gあたり前記p−メンタン−3,8−ジオールを50〜250mg含有させた(1)ないし(4)のいずれか記載の寝具用防虫剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明の寝具用防虫剤は、イガ類、カツオブシムシ類やシミ類等の衣料害虫に対し、主としてその幼虫並びに成虫の忌避効果に基づき高い防虫効果を奏する一方、人畜に対する安全性に優れ、寝具等への匂い移りがなく、使い易いのでその実用性は極めて高い。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の寝具用防虫剤は、有効成分として、p−メンタン−3,8−ジオールを含有する。p−メンタン−3,8−ジオールは、レモンユーカリの精油に含まれる物質で、天然由来成分であっても合成品のいずれであってもよい。p−メンタン−3,8−ジオールには、立体構造に基づくトランス体とシス体が存在するが、本発明においては、両者の異性体の任意の割合の混合物を使用することができる。
本発明者らは、この化合物の衣料害虫に対する防虫効果を鋭意検討し、試験の結果、テルペン系化合物のなかでは、p−メンタン−3,8−ジオールが衣料害虫の幼虫や成虫に対し特に優れた忌避効果を奏する一方、人畜に対して安全性が高く、匂いも弱いことから本用途に極めて有用であることを見出したものである。
【0010】
p−メンタン−3,8−ジオールの寝具用防虫剤全体量に対する配合量は、寝具用防虫剤の形態によっても異なるが、防虫剤一個当たり0.02〜1.0g程度に設定し、枕やクッションの場合、一個施用とするのが使いやすい。0.02g未満であると防虫効果が十分でなく、一方1.0gを超えるとベタつき感が出るなど実用的でない。布団やマットのような大きい寝具の場合、必要に応じて適宜施用個数を増量すればよい。
【0011】
本発明の寝具用防虫剤には、上記p−メンタン−3,8−ジオールとともに植物由来消臭成分を配合するのが好ましい。このような植物抽出物としては、イネ科、ツバキ科、イチョウ科、モクセイ科、クワ科、ミカン科、キントラノオ科、カキノキ科の中から選ばれた一種以上を用いるのが適当であり、緑茶抽出物や柿抽出物が代表的である。なお、植物由来消臭成分の配合量は、p−メンタン−3,8−ジオールに対し、0.002〜0.1倍量程度で十分である。
植物抽出物の成分として知られる、例えばポリフェノール類は、消臭成分として公知であるが、本発明の寝具用防虫剤において、p−メンタン−3,8−ジオールの忌避効力増強成分として作用するという知見は全く新規なものである。その理由として、忌避成分が揮散する際に何らかの相互作用を及ぼしているものと推定される。
【0012】
本発明では、使用場面のニーズに合わせて調製された、液状、ゲル状、固形状等の忌避組成物が、種々形態の寝具用防虫剤に適用される。
液状の忌避組成物を調製するにあたっては、水のほか、エタノール、イソプロパノールのようなアルコール系溶剤、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールのようなグリコール系溶剤、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤、脂肪族炭化水素系溶剤等の各種溶剤や、界面活性剤(可溶化剤)などが適宜用いられる。
界面活性剤としては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン高級アルキルエーテル(ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル)、ポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル等の非イオン系界面活性剤や、ラウリルアミンオキサイド、ステアリルアミンオキサイド、ラウリル酸アミドプロピルジメチルアミンオキサイド等の高級アルキルアミンオキサイド系界面活性剤などを例示できる。
【0013】
また、抗菌成分、除菌成分、防カビ成分、安定化剤、pH調整剤、着色剤などを適宜配合してもよく、あるいは、例えば、「緑の香り」と呼ばれる青葉アルコールや青葉アルデヒド等を添加してリラックス効果を付与し、安眠を促すこともできる。
更に、ゲル状体の調製に用いられるゲル化剤としては、カラギーナン、キサンタンガム、ジェランガム、ゼラチン、オクチル酸アルミニウム、12−ヒドロキシステアリン酸などがあげられる。
【0014】
本発明の寝具用防虫剤は、上記忌避組成物を固形担体に含浸又は保持させたものを通気性材料で包装して製する。そして、かかる防虫剤を、枕やクッション、あるいは布団やマット等の下又は付近に設置し、固形担体から忌避成分を揮散させればよい。固形担体としては、パルプ、リンター、レーヨン等の繊維質担体、セルロース(再生セルロース)製ビーズもしくは発泡体、ケイ酸塩、シリカ、ゼオライト等の無機多孔質担体、トリオキサン、アダマンタン等の昇華性担体等があげられる。なかんずく、平均粒径が1〜4mmで見掛け比重が0.10〜0.35程度のセルロース製ビーズが好ましく、これに炭を配合したものを用いれば消臭効果を一層付与でき、しかも忌避効果の増強にも寄与することが認められたのでより好適である。なお、配合する炭の量は、セルロース製ビーズに対して5〜70質量%の範囲で適宜決定すればよい。
例えば、炭を40〜60質量%配合したセルロース製ビーズ1gあたりに、前記p−メンタン−3,8−ジオールを50〜250mg程度含有させ、通気性材料からなる包装体に収納して本発明を構成すれば、有用、かつ実用性の高い寝具用防虫剤を得ることができる。
【0015】
通気性材料を用いた包装体としては、不織布袋、綿袋、ネットケース、有孔プラスチック製容器等があげられるが、これらのなかでは不織布袋が使いやすい。不織布の材質は特に限定されず、例えば、ポリエステル(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド、ポリ乳酸、レーヨン等があげられ、これらは単一の繊維であってもよいし、あるいは紙を積層したポリエステルやポリプロピレン/レーヨンのような積層品や混紡品を用いても構わない。なかでも、前記p−メンタン−3,8−ジオールを一部吸着してその揮散量を二次的に調節しえる、紙を積層したポリエステルやポリエチレン及びポリプロピレンが好ましい。
また、不織布袋の形状や構成も適宜決定することができ、例えば、両面を前記材質の通気性不織布で構成してもよいし、あるいは、片面が前記材質の通気性不織布で、他面が小孔を多数有してもよいプラスチックフィルムを貼り合わせたものであってもよい。
一方、柔軟性に乏しいプラスチック製容器を用いると、寝具等を損傷させる恐れがあるので使用場面が限定される。
【0016】
このようにして得られた本発明の寝具用防虫剤は、枕やクッション、あるいは布団やマット等の下又は付近に設置すれば、固形担体から通気性材料を介して忌避成分が揮散し、イガ、コイガ、ヒメカツオブシムシ、ヒメマルカツオブシムシ、シミ類等の衣料害虫はもちろん、コナダニ、ヒョウヒダニ、ホコリダニ、ツメダニ等の屋内塵性ダニ類、チャタテムシ、シバンムシ、ゴキブリ、アリ類等、蚊類、蚋、ユスリカ類、ハエ類、チョウバエ類などの各種害虫に対して1ケ月ないし2ケ月間の長期間にわたり実用的な忌避効果を奏するものである。そして、本発明で忌避成分として用いるp−メンタン−3,8−ジオールは、一般的なハーブ精油等に較べて匂いが極めて弱く、寝具等への匂い移りもほとんどないのでその実用性は極めて高い。
また、p−メンタン−3,8−ジオールとともに植物由来消臭成分を配合すれば、消臭効果が付与されるのみならず、p−メンタン−3,8−ジオールの忌避効果が増強されるため好ましい実施形態であるし、更に、固形担体として炭を配合したセルロース製ビーズを使用することによって、その消臭効果と忌避効果は一層向上し、より有用性に優れた本発明の寝具用防虫剤を得ることができるものである。
【0017】
次に具体的な実施例に基づき、本発明の寝具用防虫剤について更に詳細に説明する。
【実施例1】
【0018】
平均粒径が3mmの炭配合セルロース製ビーズ(炭の配合量:50質量%)約4gに、p−メンタン−3,8−ジオールを300mg、緑茶エキスを6mg、及びプロピレングリコールを100mg含有させ、このビーズを両面が通気性の紙積層ポリエステル不織布からなる袋(6×9cm)に収納して、本発明の寝具用防虫剤を調製した。
この寝具用防虫剤を枕の下に置いて使用したところ、材質が堅くなく使い易かった。また、およそ1ケ月間にわたり、イガ、コイガ、ヒメカツオブシムシ、ヒメマルカツオブシムシ等の衣料害虫を寄せ付けず、従って、ふとんや枕が食害を受けることがなく、更に消臭効果も付与されて極めて実用的であった。
【実施例2】
【0019】
実施例1に準じて、表1に示す各種寝具用防虫剤を調製した。なお、表中、p−メンタン−3,8―ジオールを本成分と称し、固形担体としては、セルロース製ビーズの外にパルプ/リンター製マット、及びケイ酸カルシウム製ビーズを用いた。
【0020】
【表1】




【0021】
各寝具用防虫剤につき、下記の性能試験を実施した。結果を表2に示す。
1.防虫成分の揮散量測定
寝具用防虫剤をウール毛布上に設置し、室温条件下に放置した。5日間経過後に、寝具用防虫剤に残存する防虫成分を分析して、1日あたりの揮散量を求めた。(なお、その後の揮散量はデータとして示していないが、1日あたりの揮散量は防虫成分の揮散が終了するまでほぼ同じであった。)

2.寝具用防虫剤効力試験
50cm四方の仕切られた区画を設けた。寝具用防虫剤を枕上部に設置して枕カバーで覆い、区画内中央に設置した。同様に、寝具用防虫剤を設置しない枕を用いて無処理区とした。
区画内にイガ幼虫100匹を均一に放ち、1週間後に枕カバー上に侵入したイガ幼虫数を数え、次式にしたがって忌避率を算出した。
忌避率(%)=[無処理区の侵入虫数−処理区の侵入虫数]/無処理区の侵入虫数×100

3.匂いの移行試験
1.防虫成分の揮散量測定後(5日後)、ウール毛布に匂いがどの程度移ったかに付き、モニター10人による官能試験を行った。その結果を下記の基準で示した。
○:全員殆ど匂いを感じないか感じる人がいても1人、△:2〜5人が匂いを感じる、
×:6人以上がはっきり匂いを感じる。

【0022】
【表2】

【実施例3】
【0023】
平均粒径が3mmの炭配合セルロース製ビーズ(炭の配合量:50質量%)約10gに、p−メンタン−3,8−ジオールを1000mg、緑茶エキスを6mg、及びプロピレングリコールを100mg含有させ、このビーズを両面が通気性の紙積層ポリエステル不織布からなる袋(12×16cm)に収納して、押入れに用いる本発明の寝具用防虫剤を調製した。
この寝具用防虫剤を押入れ内に収納しているふとんの上に置いて使用したところ、簡単に使えて使い易かった。また、およそ6ケ月間にわたり、イガ、コイガ、ヒメカツオブシムシ、ヒメマルカツオブシムシ等の衣料害虫を寄せ付けず、従って収納しているふとんや衣類が食害を受けることがなく、更に消臭効果も付与されて極めて実用的であった。

【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、寝具用防虫剤だけでなく、広範な害虫忌避分野においても須らく利用可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分としてp−メンタン−3,8−ジオールを含有する固形担体を通気性材料で包装した寝具用防虫剤。
【請求項2】
前記通気性材料が不織布である請求項1記載の寝具用防虫剤。
【請求項3】
前記不織布の材質が、紙が積層されてもよいポリエステル、ポリエチレン又はポリプロピレンである請求項2記載の寝具用防虫剤。
【請求項4】
前記p−メンタン−3,8−ジオールとともに植物由来消臭成分を含有する請求項1ないし3のいずれか記載の寝具用防虫剤。
【請求項5】
前記固形担体として、平均粒径が1〜4mm、見掛け比重が0.10〜0.35であって炭が配合されてもよいセルロース製ビーズを用い、ビーズ1gあたり前記p−メンタン−3,8−ジオールを50〜250mg含有させた請求項1ないし4のいずれか記載の寝具用防虫剤。



【公開番号】特開2011−195512(P2011−195512A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64314(P2010−64314)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000207584)大日本除蟲菊株式会社 (184)
【Fターム(参考)】