説明

寸法安定性及び漏れ防止特性を有する黒鉛材

本発明は、2つの主表面を有する膨張黒鉛の圧縮粒子からなるシートを提供するステップと、前記シートに第1樹脂システムを含浸させて、樹脂含浸シートを形成するステップと、前記樹脂含浸シートに表面処理を施して、前記シートにおける1以上の前記主表面上に1以上の構造を形成することにより、表面処理シートを形成するステップと、前記表面処理シートを第2樹脂システムで処理するステップとを含むことを特徴とする樹脂含浸黒鉛体の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学燃料セル(electrochemical fuel cell)、及び、電子熱管理(electronic thermal management)が必要なアプリケーション用に好適な寸法安定性を有する漏れ防止黒鉛材に関する。この黒鉛材の一方又は両方の表面には溝又はチャネルなどの構造が施されており、よって、これまでになかった特徴を有する。
【背景技術】
【0002】
電子産業は、熱によりその成長が制限されつつある。電子部品の熱速(heat flux)は増加しているため、空気冷却だけでは、マイクロプロセッサー及びその他の電子部品に必要とされる所定の作業温度を維持できないという問題に遭遇している。
【0003】
従来の空気冷却によって処理できると考えられる熱速値はせいぜい約50W/cm2程度である。約50W/cm2を超える熱速を発生させるマイクロプロセッサーおよびその他の電子機器が開発されるにつれて、電子産業は液体によって冷却させるヒート・シンク(降温装置)へ移行しつつある。このような液体冷却型ヒート・シンクの一つが、マイクロチャネルヒート・シンクと呼ばれるものである。マイクロチャネルヒート・シンクは、非常に小さい溝を有する物質で構成されている。こうしたヒート・シンクは、薄膜のマイクロチャネルによって分離された薄膜のフィン(fin)を提供できるように構成されている。こうした構造によって、(放熱用の)より広い表面積が確保される。強制液体循環システムと組み合わされたマイクロチャネルヒート・シンクは、「冷却容量の増大」といった電子産業の遭遇している問題に答えられる最も望ましい解決策として注目を浴びている。
【0004】
現時点において、マイクロチャネルヒート・シンクは、シリコン、ダイヤモンド、アルミニウム、及び、銅、銅−タングステン合金などの材料、及び、酸化ベリリウムなどのセラミックスから製造されている。
【0005】
米国特許5,099,311号(ボンデなど)には、マイクロチャネルの冷却剤の輸送システムを含むシリコン製マイクロチャネルヒート・シンクの典型的な構造が記載されている。前記特許文献の記載内容は、参考までに本明細書に含ませることにする。
【0006】
米国特許5,099、910号(ワルポールなど)には、ヒート・シンクの表面に対し耐熱性と共に、より均一な温度フンプといった特徴をもたせるために、隣接したマイクロチャネル内の液体流れ(方向)が交互に並べられたU字型マイクロチャネルを有するマイクロチャネルヒート・シンクについて記載されている。この特許文献によれば、ヒート・シンクは、シリコン、銅−タングステン合金、例えば、Thermcon(登録商標)、又は、酸化ベリリウムのようなセラミックスを用いて製造することができる。前記特許文献の記載内容は、参考までに本明細書に含ませることにする。
【0007】
米国特許6,457,515号及び6,675,765号など(ヴァファリなど)には、ヒート・シンクを横切る方向に流れる液体の温度勾配を除去するために、互いに隣接した層において液体が反対方向に流れるようにした多層マイクロチャネルヒート・シンクが記載されている。前記特許文献の記載内容は、参考までに本明細書に含ませることにする。
【0008】
米国特許5,874,775号(シオミなど)には、ダイヤモンド製ヒート・シンクが記載されている。前記特許文献の記載内容は、参考までに本明細書に含ませることにする。
【0009】
米国特許公開公報2003/0062149号(グッドソンなど)には、電気浸透マイクロチャネル冷却システムについて記載されている。前記特許文献の記載内容は、参考までに本明細書に含ませることにする。
【0010】
これまでのヒット・シンクを用いた場合に遭遇する問題を回避するために、マイクロチャネルヒート・シンク用に改良された材料を使用する必要が高まっている。周知の通り、ヒート・シンクを構成する材料(即ち、基材)はその形状を保持するために寸法安全性に優れたものでありながらも、減圧下に液体冷却剤が漏れないよう漏れ防止特性を有するものである必要がある。
【0011】
寸法安定性及び漏れ防止特性の両方を有する黒鉛材は、電気化学燃料セルにおける流れ場プレート(flow field plate)などの別の分野においても使用することができる。イオン交換メンブレーン燃料セル、具体的にプロトン交換メンブレーン(PEM)燃料セルのような電気化学燃料セルは、大気中に存在する水素及び酸素の反応を通して電気を発生させるものである。燃料セルにおいて、電極(アノード、及び、カソード)はポリマー電解質を取り囲んで、概してメンブレーン電極アセンブリ又はMEAと呼ばれるものを形成する。触媒物質によって、水素分子から水素原子への分割過程が促進され、その後、メンブレーンにおいて前記原子がそれぞれプロトンと電子とに分割される。その電子は電気エネルギーとして使われる。プロトンは、電解質を通じて移動し、酸素及び電子と結合することで水を形成する。
【0012】
PEM燃料セルのMEAは、2つの流れ場プレートの間に挟まれている。動作の際に、水素は、流れ場プレートの一方に設けられたチャネルを通じてアノードの方に流れる。ここで、触媒は、水素原子への分割過程、及び、その後のプロトン及び電子への分割過程を促す。ここで、プロトンは、メンブレーンを通じて移動し、そして、電子は、外部負荷を通じて流れる。空気は、他方の流れ場プレートに設けられたチャネルを通じてカソードの方に流れる。ここで、空気中に含まれた酸素は酸素原子に分割され、その酸素原子は、プロトン交換メンブレーン膜を通じてプロトンと結合し、かつ、回路を通じて電子と結合し、その結果水を形成する。メンブレーンが絶縁体であるために、電子は外部の回路(電気が用いられている。)を通じて移動して、カソードの方でプロトンと結合する。
【0013】
流れ場プレートは、概して燃料セルに対する構造的支持体の一部であるために、寸法安定性を有するべきである。また、液体(例えば、水素)、空気、及び、水が前記プレートの表面に沿って設けられたチャネルを通じて流れるので、反応物の損失又は汚染の問題を回避するために、プレートには漏れ防止特性が要求される。一部の構成においては、冷却用液体が、互いに隣接した流れ場プレート間を流れるようになっている。こうした構成において特に漏れ防止プレートが必要となる。
【0014】
寸法安定性を有する黒鉛シートを形成するための樹脂システムが開発されている。また、漏れ防止(漏れない)黒鉛シートを製造するための樹脂システムが開発されている。しかしながら、現在に至るまでに、寸法安定性、及び、漏れ防止特性の両方を有する黒鉛シート(特に、パターンが施されている黒鉛シート)は不能とされていた。寸法安定性を有するシートを形成するためには、シートに漏洩を形成する必要があるからである。他方で、漏れ防止シートは壊れ易いために、概して寸法安定性は有しないからである。
【0015】
黒鉛は、炭素原子のネットワーク又は六角板状(層積)構造を有している。六方に配された炭素原子層は、実質的に平面で、互いに実質的に等距離に並行して配されている。実質的に平面であり、並行し、かつ、等距離にあるこれらの炭素原子のシート又は層は、一般的に基底面、又は、グラフェン(graphene)層と呼ばれている。これらは互いに連結または結合され、そして、それらのグループは結晶子内に配置されている。高秩序の(highly ordered)黒鉛は、比較的大きい晶子からなり、その結子は互いに対して高度に配列・配向されており、かつ高秩序の炭素層をなしている。言い換えれば、高秩序の黒鉛は、好適な晶子配向を有している。黒鉛が異方性構造を有するがゆえに、熱伝導率、及び、電気伝導率といった高度の方向性を有することが知られている。
【0016】
簡単に言えば、黒鉛は、炭素の積層構造を特徴とするといえる。その構造は、ファンデルワールス力によって互いに結合された炭素原子からなる積層構造又は積層体である。こうした黒鉛の構造を考慮して、2つの軸又は方向は、“c”軸又は方向、及び、“a”軸又は方向と呼ばれる。簡単に、“c”軸又は方向は、炭素層に垂直な方向とみなされる。“a”軸又は方向は、炭素層に並行した方向、又は、前記“c”軸又は方向に垂直な方向とみなされる。軟質黒鉛シートを製造するに適した黒鉛は、高度の方向性を有している。
【0017】
前述したとおり、炭素原子からなる互いに並行した層をまとめて固定する結合力は専らファンデルワールス力に基づく。天然黒鉛は、重なり合った炭素層又は積層体間の空隙がある程度開放されて、その炭素層に垂直な方向(即ち、“c”方向)に著しく膨張する。それにより、炭素層の層状特性が実質的に保持された膨張黒鉛構造が形成される。
【0018】
膨張黒鉛からなる粘着性又は統合シート、例えば、織物、紙、ストリップ、テープ、ホイル、マット類(通常、“柔軟性黒鉛”と呼ばれるもの)に対しバインダを使用することなく、元の“c”方向の寸法の80倍以上の“c”方向の寸法又は最終厚さを有するように著しく膨張されて一次黒鉛(graphite flake)を形成することができる。バインダ物質を使用することなく圧縮によって元のc方向の寸法の80倍以上の最終厚さ又はc方向寸法を有する程度に膨張された黒鉛粒子を形成することは、機械的なインタロッキング、又は、粘着に基づいて可能となり得るが、こうしたインタロッキング又は粘着は大きく膨張された黒鉛粒子間に生じるものである。
【0019】
柔軟性に加えて、前述したシート材は、高圧縮によりシートの対向面に実質的に並行して配された膨張黒鉛粒子および黒鉛層の方向性(orientation)に基づいて、熱伝導率に対し高異方性を有するということが知られている。よって、前記シート材は、熱延伸において特に有用である。それによって製造されたシート材は柔軟性、及び、高強度、かつ、高方向性を有する。
【0020】
簡潔に言えば、バインダを含んでない軟質異方性黒鉛シート材、例えば、織物、紙、ストリップ、テープ、ホイル、マットなどの製造方法は、バインダの不在及び所定の負荷の下、元の粒子に対し“c”方向の寸法が80倍以上である膨張黒鉛粒子を圧縮し、又は、ぎっしり詰めて、実質的に平面状の軟質統合黒鉛シートを形成することを含む。一旦圧縮されると概して虫状の、又は、細長い外観を有する膨張黒鉛粒子は、そのシートの主なる対向面の圧縮整列状態を保持する。シート材の密度及び厚さは、圧縮率(度)を制御することによって変えられる。シート材の密度は、約0.04g/cc〜約2.0g/ccであり得る。
【0021】
軟質黒鉛シート材は、シートにおける主なる対向面(並行している)に並行する黒鉛粒子の配列状態に基づいて、高度の異方性を有する。シートの圧縮率が増加するにつれて、圧縮時の方向性が増加される。圧縮された異方性シート材において、その厚さ、即ち、シートの対向面(並行している)に垂直な方向は、“c”方向を含み、そして、長さおよび幅に沿った方向(即ち、対向する主表面に沿った方向またはそれに並行する方向)は、“a”方向を含む。また、前記シートの熱特性、及び、電気特性は、前記“c”及び“a”方向において大きく異なる。
【0022】
したがって、電子熱管理品、電気化学燃料セルなどを構成する部品用の基材(substrate material)が求められている。その基材は、膨張黒鉛の圧縮粒子からなる1以上のシートで構成され、寸法安定性及び漏れ防止特性を有し、かつ、その表面上にパターンまたは構造が施されていることを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】米国特許5,099,311号
【特許文献2】米国特許5,099、910号
【特許文献3】米国特許6,457,515号
【特許文献4】米国特許6,675,765号
【特許文献5】米国特許5,874,775号
【特許文献6】米国特許公開公報2003/0062149号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
したがって、本発明の目的は、寸法安定性と漏れ防止特性を有する黒材を提供することである。
【0025】
本発明の別の目的は、寸法安定性及び漏れ防止特性を有しながらも、表面チャネル又は溝などの構造がその表面上に施されている基材を提供することである。
【0026】
本発明の更なる別の目的は、水、及び、その他通常使用される冷却用液体に不活性の黒鉛材(graphite substrate)を提供することである。
【0027】
本発明の更なる目的は、膨張黒鉛(exfoliated graphite)の圧縮粒子からなる基材(substrate material)を提供することである。ここで、前記膨張黒鉛は、寸法安定性だけでなく、漏れ防止特性をも有している。しかし、前記膨張黒鉛は、ローラエンボスなど高体積製造方法を用いて製造されて、費用効果的な製造を可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
これらの目的、及び、以下の発明の詳細な説明に基づいて当業者にとって明らかであろうその他の目的は、膨張黒鉛の圧縮粒子からなるシートを含む寸法安定性及び漏れ防止特性を有する基材を提供することによって達成することができる。ここで、前記シートは、2つの主表面(major surface)を有し、その主表面のうち一方又は両方には複数の構造体(例えば、その表面上に形成されたチャネルまたは溝の構造)が施されている。また、前記シートは、シートの厚さ方向に(through the thickness)含浸された第1樹脂システムと、前記シートの前記表面に被覆された第2樹脂システムとを有している。
【0029】
第1樹脂システムは、シート上に構造を形成する前にシートに含浸されるが、第2樹脂システムは、シート上に前記構造が形成された後、そのシート表面に塗布される。第1樹脂システムは、エポキシ樹脂、及び/又は、ポリベンゾオキサジン類(polybenzooxazine)に属する1以上の樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物を含むものであることが好ましい。ここで、前記ポリベンゾオキサジン類は、1又は2以上のオキサジン環(oxazine ring)を有する。前記第2樹脂システムは、1以上の熱硬化重合性単官能及び多官能メタクリレート樹脂(heat curable polymerizable monofunctional and polyfunctional methacrylate resin)を含むものであることが好ましい。この中で最も好ましいのは、界面活性剤を含んでないものである。
【0030】
別の実施例において、基材は、膨張黒鉛の圧縮粒子からなる第2シートを含む。ここで、第1シートと第2シートは、互いに結合されて、それらの間に液体流路(fluid flow channel)を形成する。膨張黒鉛の圧縮粒子からなる第1シート及び第2シートの詳細については後述する。
【0031】
本発明の別の実施例は、黒鉛材(graphite material)から基材(substrate)を製造する方法に関する。本発明では、2つの主表面を有する膨張黒鉛の圧縮粒子からなるシートを提供する。第1樹脂システムを、シート内に含浸させ、少なくとも部分的に硬化させる。その後、表面チャネル及び溝のような構造を前記シートの1以上の主表面上に形成させると共に、前記構造が形成された主表面に第2樹脂システムを塗布する。その後、それを硬化させる。
【発明の効果】
【0032】
本発明により、寸法安定性及び漏れ防止特性を有しながらも、表面チャネル又は溝などの構造がその表面上に施されている基材を提供することが可能になる。また、水、及び、その他通常使用される冷却用液体に不活性の黒鉛材を提供することが可能になる。また、本発明に係る膨張黒鉛(exfoliated graphite)の圧縮粒子からなる基材は、寸法安定性だけでなく、漏れ防止特性をも有するために、ローラエンボスなど高体積製造方法などによって費用効果的に製造されうる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本明細書には、前述した本発明の概要、及び、後述する発明の詳細な説明の両方につき実施例を記載するが、かかる実施例はあくまで本発明に関する理解を助けるために提供したものに過ぎず、本発明の技術的範囲は専ら特許請求の範囲によって定まる。
【0034】
本発明は、膨張黒鉛の圧縮粒子からなる寸法安定性(dimensionally stable)および漏れ防止特性(leak-free)を有するシートを提供する。前記シートには、1以上の構造が施されている。その黒鉛シートは、本明細書に記載した通り、2つの別個の樹脂システムで処理することを含む方法によって製造される。“シート上に形成された構造(structure formed thereon)”とは、シートの表面が、平面状ではなく、そこにチャネル又は溝といた表面特徴(表面構造)を有するように、処理又は加工されたことを意味する。こうした表面特徴は、様々な方法によって施すことができるが、その方法の詳細は当業者に広く知られている。例えば、機械加工、エンボス加工、成形などが挙げられる。“寸法安定性(dimensionally stable)”とは、シートが、その使用が予定されている環境において、その機能を保持できるのに十分な(必修的特徴としての)強度を有することを意味する。これらの特徴は、ガラス転移温度(Tg)、ヤングヤング係数、熱伝導率、電気伝導率、及び、熱膨張率(CTE)などを含み得る。例えば、熱管理の用に供されるとすれば、本発明のシートは、それが置かれる装置内の条件(状態)の下、その必修的な形状、及び、熱伝導性を保持できるものである必要がある。“漏れ防止特性(leak-free)”とは、シートの主方向(major direction)のうち一方の表面積(約10cm2〜約500cm2)が1平方インチ(square inch)あたり7パウンド(psi)(0.05 MPa)の圧力のガスに露出されたときに、シートの他方の主表面における相当する面において測定されたガス(量)が約0.77cc/分未満であり、より好ましくは、約0.03cc/分であることを意味する。漏れの速度を測定するための装置は、2つのプレートを含んでおり、それらの2つのプレートの間にO−リングシールが介在した構造である。これらのプレートは、止め穴つきポート(drilled port)を通じて加圧され得る面積を形成する。この止め穴つきポートは、ガス源(例えば、窒素原)に接続されている。“樹脂システム(resin system)”は、周知のとおり、樹脂材を意味し、通常、キャリヤ液体(例えば、水、又は、その他の液体)、及び、必要に応じて、硬化剤を有するものである。
【0035】
黒鉛は、積層された平面(それらの平面は弱く結合されている)に共有結合された原子を有する炭素の結晶構造である。前記軟質黒鉛シートの原料物質を得るために、天然薄片状黒鉛(natural graphite flake)のような黒鉛粒子などを、硝酸溶液、硫酸溶液のようなインターカラント(Intercalant;「挿入物質」とも呼ぶ。)を用いて処理する。ここで、黒鉛の結晶構造が反応して、黒鉛とインターカラントとの化合物を形成する。そのように処理された黒鉛粒子を、本明細書では、“挿入黒鉛粒子(particle of intercalated graphite)”と呼ぶ。高温に露出された後、黒鉛内部に存在するインターカラントが分解され、かつ、揮発されて、挿入黒鉛の粒子がc方向(即ち、黒鉛の結晶面に垂直な方向)に沿って元の体積の約80倍以上にまで膨張する。その膨張された黒鉛粒子は蠕虫状(vermiform)のような外観を有するため、通常“ワーム又は虫(worm)”と呼ばれる。このワームがまとめて圧縮されて、軟質シートが形成される。その軟質シートは、元の薄片状黒鉛とは違って、様々な形状に形成・切断され得る。また、変形性機械的衝撃(deforming mechanical impact)によって、前記シートに横方向の小さい開口を設けることができる。
【0036】
本発明において使用するに適した軟質シート用の出発物質(黒鉛)は、無機酸および有機酸、並びに、ハロゲンを挿入(侵入)することができ、かつ、その後の熱処理によって膨張する高黒鉛状炭素質材料(highly graphitic carbonaceous material)を含む。これらの高黒鉛状炭素質材料は、約1.0の黒鉛化(degree of graphitization)を有することが好ましい。この明細書に使用された用語“黒鉛化度”は、式g = [3.45 - d(002)]/0.095に基づいて求めた値である。ここで、d(002)は結晶構造における炭素からなる黒鉛層間の間隔である。その単位はオングストローム(Angstrom)である。この黒鉛層間の間隔は標準X線回析によって測定される。(0.002)、(0.004)および(0.006)ミラー指数に相当する回析ピークの位置を測定し、最小二乗法に基づいてこれらの全ピークに対して総エラーを最小化する間隔を導く。高黒鉛状炭素質材料として、例えば、様々な原料から得た天然黒鉛だけでなく、化学蒸気蒸着法、ポリマーの高温熱分解、又は、溶融金属溶液からの結晶化法などによって製造された黒鉛といった炭素質材料などが含まれる。ここで、天然黒鉛が最も好ましい。
【0037】
本発明に使用される軟質シート用の黒鉛出発物質は、その出発物質の結晶構造が、必要とされる黒鉛化度を保持でき、かつ、膨張できる限り、非黒鉛成分を含んでいても良い。概して任意の炭素含有物質(その結晶構造が必要とされる黒鉛化度を有し、かつ、膨張し得るもの)は本発明において使用するに適している。前記黒鉛の灰(ash)含量が20重量%未満であることが好ましい。本発明に使用された黒鉛が、約94%以上の純度を有することが好ましい。また、使用された黒鉛が約98%以上の純度を有することが最も好ましい。
【0038】
黒鉛シートを製造する周知の方法は、米国特許3,404、061号に記載されている。この特許文献は参考までに本明細書に含まれる。前記特許文献に記載された方法によれば、天然薄片状黒鉛は、硫酸及び硝酸との混合物などを含む溶液中に前記天然薄片状黒鉛を分散させることによって挿入される。ここで、薄片状黒鉛100重量%あたり約20〜約300重量部(pph)の挿入溶液(又は、インターカラント溶液;intercalant solution)が存在することが有利である。挿入溶液(intercalation solution)は、周知の酸化剤及び挿入剤(intercalating agent)を含む。例えば、前記挿入溶液は、酸化剤および酸化混合物、例えば、硝酸、塩素酸カリウム(potassium chlorate)、クロム酸、過マンガン酸カリウム、クロム酸カリウム、重クロム酸カリウム、過塩素酸、又は、それらの混合物、例えば、濃硝酸と塩素酸塩の混合物、クロム酸と燐酸の混合物、硫酸と硝酸の混合物、又は、強有機酸(例えば、トリフルオロ酢酸)と、有機酸に可溶性の強酸化剤の混合物などを含むものである。また、黒鉛の酸化を引き起こすために電位を用いることも可能である。電解酸化を利用して黒鉛結晶へ導入し得る化学種として、硫酸、その他の酸などがある。
【0039】
好ましい実施例において、挿入剤(intercalating agent)は、硫酸、又は、硫酸と燐酸の混合物、および、酸化剤(例えば、硝酸、過塩素酸、クロム酸、過クロム酸カリウム、過酸化水素、ヨウ素酸、又は、過ヨウ素酸など)の混合物の溶液であり得る。これらより好ましくはないが、挿入溶液は、金属ハロゲン化物(例えば、塩化鉄、塩化鉄)と硫酸との混合物、又は、ハロゲン化物(例えば、臭素(臭素及び硫酸の溶液として)、又は、有機溶媒中の臭素)を含み得る。
【0040】
挿入溶液(intercalation solution)は、約20〜約350pphであり、通常約40〜約160pphである。一旦挿入されると、薄片状黒鉛(flake)から過剰の溶液が排出され、その薄片状黒鉛は水洗される。
【0041】
また、その挿入溶液の量は、約10〜40pphに制限され得る。よって、米国特許4、895、713号に記載されているとおり、洗浄ステップを省くことができる。この特許文献の記載内容は参考までに本明細書に含まれる。
【0042】
前記挿入溶液で処理した薄片状黒鉛の粒子は、例えば、アルコール、糖、アルデヒド、及びエステル、といった、25〜125℃の温度にて酸化性挿入溶液の表面薄膜と反応することができる有機還元剤(還元性有機剤)と、混合されるなどして、選択的に接触され得る。特に適した有機剤(organic agent)として、ヘキサデカノール(hexadecanol)、オクタデカノール(octadecanol)、1-オクタノール、2-オクタノール、デシルアルコール(decylalcohol)、1,10デカンジオール、デシルアルデヒド、1-プロパノール、1,3プロパンジオール、エチレングリコール 、ポリプロピレングリコール、ブドウ糖(dextrose)、果糖、乳糖、ショ糖(sucrose)、ジャガイモでんぷん、モノステアリン酸エチレングリコール(ethylene glycol monostearate)、ジエチレングリコールジベンゾアート(diethylene glycol dibenzoate)、モノステアリン酸プロピレングリコール(propylene glycol monostearate)、モノステアリン酸グリセロール(glycerol monostearate)、ジメチルオキサレート(dimethyl oxylate)、ジエチルオキサレート(diethyl oxylate)、ギ酸メチル(methyl formate)、ギ酸エチル(ethyl formate)、アスコルビン酸、及び、リグニン誘導化合物、例えば、ナトリウムリグノ硫酸塩(sodium lignosulfate)などを含む。有機還元剤の量は、薄片状黒鉛粒子の重量に対し、約0.5〜4%であることが好ましい。
【0043】
挿入処理前、処理中、又は、処理後に、膨張助剤(expansion aid)を使用するとさらに有利である。具体的に、前記膨張助剤によって、膨張温度を下げ、かつ、膨張体積(“ワーム体積(warm volume)”とも呼ぶ。)を増大させることができる。本発明においては、膨張助剤として、挿入溶液中に十分可溶性の有機物質を用いることができる。こうした場合に、膨張に有利な効果が得られる。より具体的に、この種の有機物質として、炭素、水素、及び、酸素を含むもの(好ましくは、これらの元素だけを含むもの)を使用することができる。カルボン酸が特に有効である。膨張助剤として用いられるカルボン酸として、芳香族、脂肪族、又は、環状脂肪族、直鎖又は分枝鎖、飽和又は非飽和モノカルボン酸、ジカルボン酸、及び、ポリカルボン酸が挙げられる。これらのカルボン酸は、1以上の炭素原子、好ましくは、1〜15個の炭素原子を有し、膨張の観点から1以上の有利な特性をもたらせるに十分な溶解度(挿入溶液中の溶解度)を有し得る。適当な有機溶媒を用いることで、挿入溶液中の有機膨張助剤の溶解度をさらに向上させることができる。
【0044】
飽和脂肪族カルボン酸の代表例として、式H(CH2nCOOH(ここで、nは、0〜5の数字である。)などの酸がある。前記酸の例として、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ペンタン酸、ヘキサン酸などが挙げられる。前記カルボン酸に代えて、アルキルエステルなどの反応性カルボン酸誘導体又は無水物を使用することもできる。アルキルエステルの代表例として、メチルホルメート(methyl formate)又はエチルホルメート(ethyl formate)がある。硫酸、硝酸、その他の既知の水性インターカラント(intercalant)は、ギ酸を最終的に水と二酸化炭素に分解する能力を持っている。このため、ギ酸やその他の感応性膨張剤(sensitive expansion aid)は、水性インターカラントで薄片状黒鉛を浸漬する前に、前記薄片状黒鉛と接触した状態にあることが有利である。ジカルボン酸の代表例として、炭素原子数2〜12の脂肪族ジカルボン酸(特に、シュウ酸、フマル酸、マロン酸、マレイン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、1,5−ペンタンジカルボン酸、1,6−へキサンジカルボン酸、1,10−デカンジカルボン酸、シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸)、及び、芳香族ジカルボン酸(特に、フタル酸またはテレフタル酸)がある。アルキルエステルの代表例として、シュウ酸ジメチル(dimethyl oxylate)、及び、シュウ酸ジエチル(diethyl oxylate)がある。脂環式酸(cycloaliphatic acid)の代表例としてシクロヘキサンカルボン酸があり、芳香族カルボン酸の代表例として、安息香酸、ナフトエ酸(naphthoic acid)、アントラニル酸(anthranilic acid)、p−アミノ安息香酸(p-aminobenzoic acid)、サリチル酸、o−、 m−及びp−トリル酸(tolyl acid)、メトキシ及びエトキシ安息香酸、アセトアセトアミド安息香酸(acetoacetamidobenzoic acid)、フェニル酢酸(phenylacetic acid)、及び、ナフトエ酸(naphthoic acid)がある。ヒドロキシ芳香族酸(hydroxy aromatic acid)の代表例として、ヒドロキシ安息香酸、3−ヒドロキシ−1−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、5−ヒドロキ−1−ナフトエ酸、5−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、及び、7−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸がある。ポリカルボン酸の代表例として、クエン酸がある。
【0045】
挿入溶液(intercalation solution)は、水性であり、好ましくは、膨張を向上させるに十分な量、即ち、約1〜10%の膨張助剤を含むのが好ましい。この実施例においては、水性挿入溶液中に含浸させる前に、又は、その後に、膨張助剤を薄片状黒鉛と接触させる。ここで、膨張助剤は、適当な手段、例えば、V−ミキサーなどによって前記黒鉛と混合されうる。その使用量は、薄片状黒鉛の重量に基づいて、約2.0〜約10重量%であり得る。
【0046】
薄片状黒鉛を挿入(侵入)させ、前記挿入薄片状黒鉛と有機還元剤とを混合させた後、その混合物を約25〜120℃の温度に露呈して、挿入(された)薄片状黒鉛と還元剤との反応を促進することができる。加熱時間は、最長約20時間であり、より高温で行われた場合により短時間(例えば、10分以上)にすることができる。より高温では、30分以下、例えば、10〜25分間加熱される。
【0047】
前記薄片状黒鉛の挿入及び膨張方法の利点は、黒鉛化温度、即ち、約3000℃の温度にて前記薄片状黒鉛を前処理することや、滑剤(添加剤)からなるインターカラントを挿入させることによって増大され得る。
【0048】
薄片状黒鉛の前処理、又は、アニーリングの結果、その後前記薄片状黒鉛に対し挿入及び膨張工程を施す際に、膨張率が著しく増加される。具体的に、体積膨張量は300%以上にまで上る。膨張の増加(量)が、アニーリング工程を含んでない類似過程に比べて、約50%以上増であることが望ましい。アニーリング工程に使用される温度は、3000℃より有意に低くなってはいけない。なぜならば、100℃でも低い場合には、膨張量が著しく減少されるからである。
【0049】
本発明におけるアニーリングは、挿入及び(その後の)膨張の後に前記薄片状黒鉛が向上された膨張度を有するのに十分な(長い)期間にわたって行われ得る。通常、必要とされる時間は、1時間以上、好ましくは、1〜3時間であり、最も好ましくは、不活性環境の下で行われる。最大の利益をもたらすために、アニーリング処理された薄片状黒鉛に対し、膨張度を向上させるものとして当業者に知られている別の処理を施すこともできる。例えば、有機還元剤の存在の下、有機酸のような挿入助剤(intercalation aid)の挿入、その後の界面活性剤の洗浄などの処理が挙げられる。また、最大の利益をもたらすために、挿入(工程)を繰り返し行うことができる。
【0050】
本発明のアニーリング工程は、誘導電気炉、又は、その他当業者(黒鉛化に関する技術分野)に広く知られている装置(通常、3000℃程度)にて行うことができる。
【0051】
挿入前アニーリング(pre-intercalation annealing)を受けた黒鉛から製造されたワーム(worm)は、(たまに)互いに凝集する(clump)傾向が見られる。その結果、領域重量均一性(area weight uniformity)に悪影響を与えるので、“自由流動性”を助ける添加剤の使用が望まれる。挿入溶液に滑剤(添加剤)を添加することで、圧縮装置のベッド(黒鉛ワームを軟質黒鉛シートに圧縮(カレンダーリング)するに通常用いられるカレンダー・ステーションのベッドなど)上におけるワームのより均一な分布を可能にする。その結果得られたシートは、出発物質である黒鉛粒子が通常使用されるものより小さい場合であっても、面積重量均一性、及び、引張強度に優れたものである。滑剤(添加剤)は長鎖の炭化水素であることが好ましい。長鎖の炭化水素基を有するその他の有機化合物は、その他の官能基をも有する場合であっても、使用され得る。
【0052】
滑剤が、オイルであることが好ましい。また、オイルの中で鉱油を用いることが最も好ましい。これは、鉱油の酸敗及び臭い難さ(長期貯蔵を考える際に重要な考慮対象である。)を考慮したからである。上記点は長期貯蔵(長期保存)に際して最も重要なポイントになる。前述した所定の膨張助剤は滑剤の定義を充足する。これらの材料(物質)が膨張助剤として用いられた場合に、インターカラント中に更なる滑剤を含ませる必要がなくなる。
【0053】
中滑剤の濃度(含量)は、約1.4pph以上であることが好ましく、約1.8pph以上であることがより好ましい。滑剤の添加量の上限(値)は下限(値)より重要ではないが、滑剤を約4pph超に含ませることに伴う明確な利益はないものと考えられる。
【0054】
このように処理された黒鉛粒子は、時々“挿入黒鉛粒子”と呼ばれる。高温、例えば、約160℃以上の温度、特に、約700℃〜1000℃、又はそれ以上の温度に露出された後、挿入黒鉛の粒子は、c方向に沿って元の体積の約80倍〜約1000倍にまで膨張する。ここで、c方向はそれを構成する黒鉛粒子の結晶面に垂直な方向をいう。膨張された黒鉛粒子は、虫状の見た目を有することから、よく「ワーム」と呼ばれる。これらのワームは、トラバース方向の小さい開口を有する軟質シートにまとめて圧縮成形される。ここで、前記軟質シートは、元の薄片状黒鉛とは違って、後述の通り、様々な形態で成形・切断され得る。
【0055】
また、本発明の軟質黒鉛シートは、米国特許6,673,289号に記載されたとおり、新たに膨張された虫(worm)よりも再生軟質黒鉛シートを用いることも可能である。前記特許文献は参考までに本明細書に含まれる。軟質シートは、新たに形成されたシート材であっても、リサイクルシート材であっても、スクラップシート材(scrap sheet material)であっても、又は、その他の材料であってもよい。
【0056】
本発明の製造方法は、未使用の材料、及び、リサイクル材料の混合物を用いても良く、或いは、リサイクル材料だけを用いることも可能である。
【0057】
リサイクル材料用の原料は、前述したような圧縮成形されたシート又はこのシートのトリム部分(trimmed portion)であっても、或いは、例えば、プレカレンダーリングロール(pre-calendering roll)によって圧縮されたシートであっても良い。さらに、原料が、樹脂で含浸させたシート(硬化されていないもの)又は、そのトリム部分であってもよく、或いは、樹脂で含浸させた後硬化させたシート又はそのトリム部分であっても良い。また、その原料は、流れ場プレート(flow field plate)又は電極のような軟質黒鉛(リサイクル品)PEM燃料セル部品であっても良い。黒鉛の様々な原料はそれ自体独立して使用され、又は、天然薄片状黒鉛と混合された状態で使用される。
【0058】
軟質黒鉛シートの原料が入手できたら、それを公知の方法、又は、装置によって(例えば、ジェットミル、エアーミル、ブレンダーなど)粉末にすることができる。大部分の粒子が、20U.S.メッシュ(U.S. mesh)を通る程度の直径を有するのが好ましい。ここで、大部分の粒子(好ましくは、約20%超、最も好ましくは約50%超)が80U.S.メッシュを通らない程度の直径を有するのがより好ましい。粒子が約20メッシュ程度の粒度を有するのが最も好ましい。
【0059】
粉末にした粒子のサイズは、所定の熱特性(thermal characteristics)を有する黒鉛体の機械加工性、及び、成形性を考慮して選択され得る。したがって、より小さい粒子は、機械加工性及び/又は成形性に優れた黒鉛体を形成する一方で、より大きい粒子は、より高度の異方性を有する黒鉛体を形成するので、(平)面内の熱伝導率及び電気伝導率に優れている。
【0060】
粉末化された原料は、必要に応じて任意の樹脂成分が除去された後、再度膨張される。米国特許3,404、061号及び米国特許4,895、713号に記載された挿入(intercalation)及び膨張方法(exfoliation)を用いた場合に、再膨張(re-expansion)が起こり得る。
【0061】
通常、挿入後、挿入された粒子を炉にて加熱することによって粒子を膨張させる。この膨張工程を行う間に、挿入された天然薄片状黒鉛をリサイクル挿入粒子に添加することも可能である。再膨張工程を行う間に、約100cc/g〜約350cc/g、又は、それ以上の比体積を有するように粒子を膨張させることができる。最終的に、再膨張の後、前述の通り、再膨張された粒子を軟質シートに圧縮することも可能である。
【0062】
軟質黒鉛シート及びホイルは、取扱いに優れ、かつ、凝着性(coherent)を有するので、立方センチあたり通常約0.1〜1.5gの密度(g/cc)及び約0.025mm〜3.75mmの厚さを有するように、圧縮成形(compression molding)などの方法によって適当に圧縮されうる。選択的に、この黒鉛シートを繊維及び/又は塩で含浸させ得る。また、樹脂システムと共に反応性又は非反応性添加剤を用いて、特徴又は性質を改質することができる(例えば、粘着性、流動性、疎水性など)。黒鉛シートに加工処理を施して、シートの空隙状態(void condition)を変えることが可能である。ここで、空隙状態とは、通常エントラップトエア(entrapped air)の形で見られる間隙が全体のシートに占める百分率をいう。一般的に、シート内の空隙(程度)を減らすために、シートに圧力を加える(これによって、シートの密度をも上げることができる。)ことによって達成されうる。(後述する樹脂の含浸工程を通じても空隙を減らすことが可能であるが、)黒鉛シートの密度が、約1.3g/cc以上となるように圧縮されるのが有利である。
【0063】
シートの空隙状態を利用して、最終製品の機能性及び形態を制御・調整することができる点で有利である。例えば、シート上に構造を形成する前に、シートの空隙状態(例えば、密度)を制御することによって、熱伝導性、電気伝導性、浸透率(permeation)、及び、抽出率(leaching characteristics)を制御・調節することが可能である。したがって、空隙状態を調節する前に、最終製品に望まれる特徴・特性が存在する場合には、こうした空隙状態を調節して、ある程度それらの所定の特徴・特性に釣り合ったものを得ることができる。
【0064】
最終的にエンボス加工された製品を熱管理装置用の部品又は電気化学燃料セルとして使用しようとする場合、この黒鉛シートは、電気伝導性及び熱伝導性を最適化するために、比較的空隙なきもの(void-free)に調整され得る。一般的に、これは、密度を約1.4g/cc以上、より好ましくは、約1.6g/cc以上にすることによって達成されうる。密度は樹脂の含量によって異なり得るが、前記範囲にて比較的空隙なき状態を示す。シートの熱導電性は、約140W/m−K以上であることが好ましい。より好ましくは、約400W/m−Kである。
【0065】
黒鉛シートを形成したら、それを第1樹脂システムで含浸させる。第1樹脂システムは、熱硬化性樹脂システムである。この熱硬化性樹脂システムとして、エポキシ、及び/又は、ポリベンゾオキサジン(polybenzoxazine)化合物を含むものを用いることが有利である。第1樹脂システムが、熱硬化性ポリベンゾオキサジン樹脂、又は、ポリベンゾオキサジンとエポキシ樹脂の混合物であることがより好ましいが、これらは、約50μm/m℃(周辺温度からTgまでの温度範囲に及ぶスロープから測定されたz軸線形CTE(z-axis linear CTE)として定義される。)未満のCTE、及び、110℃以上のTgを有すると共に、別途の硬化剤を必要としないで、黒鉛シート中に、約5重量%以上、好ましくは、約10〜約35重量%、最も好ましくは、約60重量%で存在する。
【0066】
膨張黒鉛の圧縮粒子からなるシート内へ樹脂を含浸させる工程は、樹脂システムで前記シートを被覆し(coating)、又は、浸ける(dipping)ことによって行うことができる。しかしながら、黒鉛シート上に樹脂システムを吹きつけ(噴霧)、その後、真空を用いてシートを通して樹脂を引っ張る(pull)ことである。かかる方法の詳細は、米国特許6,432、336号に記載されている。前記特許文献の記載内容は参考までに本明細書に含まれる。
【0067】
黒鉛シートの断面を通しての樹脂分布が均一であることが最も好ましいが、シートがその厚さを通して(即ち、厚さ方向に沿った)不均一又は可変樹脂プロファイル(non-uniform or variable resin profile)を有するように黒鉛シートを樹脂で含浸させることも可能である。かかる方法については、米国特許7,108、917号に記載されている。この特許文献の記載内容は、参考までに本明細書に含まれる。この工程は、幾つかの方法によって行うことができ、また、それらの組み合わせによって行うことができる。例えば、樹脂濃縮物を用いて、このような不均一な樹脂分布をもたらすことも可能である。したがって、より高濃度の樹脂混合物を用いて樹脂含浸工程を行うことによって、そのシートにおいて、(含浸のために)樹脂が塗布されるべき表面の樹脂濃度がより高くなるようにすることもできる。同様に、樹脂が塗布されるべきシート(又は、マット)の密度を調整することも可能である。例えば、より密度の高いマットを使用した場合に、前記シートの中で、(含浸のために)樹脂が適用されるべき表面における樹脂の濃度が高くなる。同様に、含浸装置を通るシートの(通過)速度を調節し、又は、シートを通して樹脂を引っ張るために適用される真空レベルを調節することによっても同様の効果を得ることができる。
【0068】
膨張黒鉛の圧縮粒子からなるシートに不均一(non-uniform)又は可変樹脂プロファイルを用いることによって(特に、シートの厚さを通して)、特定の状況下で、シートの表面上に複雑な形状又は構造を容易に形成することができる。これは、比較的大量の流動性樹脂がシートの外部成形面(outside molding surface)の近くに分布していることに基づく。それによって、成形プロセスにおいて、流動(flow)及び成形(formation)に適した圧力及び/又は温度に関する要求条件を緩和することができる。また、成形面近くに存在する大量(高含量)の流動性樹脂に基づいて、成形面の亀裂現状を減らすことができる。
【0069】
一旦シートを第1樹脂システムで含浸させると、この樹脂は少なくとも部分的に硬化される(例えば、米国特許出願番号20050189673号を参照、この特許文献の記載内容は参考までに本明細書に含まれる)。その後、シートに対し表面処理を施して、表面上に1以上の構造を形成する。表面処理を施す前のシートの硬化度について、表面処理工程を促すに十分な程度に樹脂の粘着性が減少されている必要がある。好ましくは、この樹脂は、表面処理の前に、少なくとも約45%以上硬化され、より好ましくは、約65%以上硬化されている。表面処理を施す前に樹脂が完全に硬化されていることが最も好ましい。表面処理の前に部分的にのみ硬化されている場合、このシートにおける第1樹脂の硬化は、表面処理が施された後に、完全になされる。樹脂の硬化度は、当業者に知られたいずれかの方法によって測定することができる。その一つに、熱量測定法(calorimetry)がある。この熱量測定法は、反応の余熱(値)を獲得することによって行う。たとえば、使用された樹脂組成物が材料1gあたり400J(joule)を放出し、柔軟な黒鉛材の熱量測定のスキャン(値)が400Jである場合、その樹脂は最初に硬化されていないことを意味する。同様に、そのスキャン(値)が200Jである場合に、そのサンプルにおける樹脂は、50%硬化されていることを意味する。また、測定値が0Jである場合には、そのサンプルに存在する樹脂組成物は完全硬化されたことを意味する。
【0070】
樹脂の硬化後に表面処理を施すことによって、黒鉛/樹脂複合体の移動(movement)又は流動(flow)を減らすことができ、そしてまた、より薄い材料をエンボスすることが可能となる。しかし、最も重要なことは、硬化後表面処理(post-cure surface treating)によって、ノンスティック(non-stick)又は剥離剤塗布(release coating)の必要性を減らすか、又は、それを除去することができるということである。それと共に、作業効率を上げることができ(コーティングを再度施すためにシートの生産工程を中断する必要がないため)、そして、製造コストを抑えることができる(ノンスティック又は剥離剤塗布のコストを減らすか、又は、除去することによって)。
【0071】
黒鉛シートの所定の最終的な用途によっては、シートの1以上の表面上に所定の形状(例えば、チャネル)をエンボスするなどによって、シートの表面上に1以上の構造を形成することが必要となり得る。ここで、最終的な用途としては、例えば、ヒート・シンク、ヒート・スプレッダ(heat spreader)、又は、熱界面(thermal interface)などの電子熱管理装置(electronic thermal management)、米国特許6,410、128号に記載されたような貫通コンデンサ(flow-through capacitor)用の部品、流れ場プレート(flow field plate)のような燃料セル用部品、ガス拡散層(gas diffusion layer)、又は、触媒支持体(catalyst support)などがある。向上された形状特徴を有するエンボス加工体を提供するために現に様々な方法が提案されている。例えば、米国特許6,604、457号、6,716,381号、及び、6,663,807号、並びに、国際公開公報02/084760号などがある。これらの特許文献の記載内容は参考までに本明細書に含まれる。その他の方法として、機械加工(machining)、エッチング(etching)(例えば、酸腐蝕)、エアースクライビング(air scribing)、音波機械加工(sonic machining)、レーザアブレーション(laser ablation)、スタンピング(stamping)、フォトリソグラフィ(photolithography)などがある。
【0072】
一旦膨張黒鉛の圧縮粒子からなるシートの1以上の主表面上に1以上の構造が形成されたら、第2樹脂システムを前記シートに塗布する。第2樹脂システムは、塗布されるべきシートの表面上に形成された空隙(pore)に浸透するに十分な低い粘度を有する。具体的に、第2樹脂システムは、約20cps以下の粘度(室温にて測定した場合)を有するべきである(真空雰囲気を作って、第2樹脂システムの浸透を促した場合)。特に、前記第2樹脂システムの粘度は、約15cps以下である。第2樹脂システムが、樹脂補助含浸工程(resin assisted impregnation)なしに黒鉛シートに塗布あれたときに、第2樹脂システムの粘度は、約5cps以下にしなければならない。
【0073】
第2樹脂システムは、黒鉛シートに塗布された重合性単官能性、及び、多官能性メタクリレートからなる熱硬化性接着剤を、約0.05〜約10重量%、より好ましくは、約0.2〜約6重量%の程度で含み得る。樹脂の架橋(硬化)を促すために、第2樹脂システムに遊離基開始剤(free radical initiator)を使用することが有利である。適当な遊離基開始剤は、アゾニトリル(azonitorile)化合物(例えば、デュポン社にて登録商標「Vazo」で市販されるもの)などに置き換えられる。この遊離基開始剤は、約0.4〜約1重量%の程度で存在し、例えば、約170℃以上の温度にて硬化され得る。また、前記第2樹脂システムは、より効果的な樹脂範囲(resin coverage)を観察できるように、染料を含んでも良い。
【0074】
本発明の方法を実施することによって得た、1以上の構造が施された表面を有する膨張黒鉛の圧縮粒子からなるシートは、寸法安定性及び漏れ防止特性の両方の特性を示す。これらの特性は、本発明のシートを、従来技術によって製造された類似したシートとは明確に区別させるものである。本発明は、主に電気化学燃料セル、貫通コンデンサ(flow-through capacitor)、又は、電子装置などを冷却するためのマイクロチャネルヒート・シンクを製造するために供されるシートという観点から書かれているが、本発明の方法、及び、寸法安定性を有する漏れ防止シートは、その他の使用または用途にも適したものであることは言うまでもない。
【0075】
前述した特許文献及び公報などは参考までに本明細書に含ませることにする。
【0076】
前述した本発明につき様々な変形例が可能であることは当業者にとって明らかであろう。そのような変形例は、本発明の技術的思想及び本質(特許請求の範囲により定まる。)に属するものと解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)2つの主表面を有する膨張黒鉛の圧縮粒子からなるシートを提供するステップと、
(b)前記シートに第1樹脂システムを含浸させて、樹脂含浸シートを形成するステップと、
(c)前記樹脂含浸シートに表面処理を施して、前記シートにおける1以上の前記主表面上に1以上の構造を形成することにより、表面処理シートを形成するステップと、
(d)前記表面処理シートを第2樹脂システムで処理するステップと
を含むことを特徴とする樹脂含浸黒鉛体の製造方法。
【請求項2】
前記第1樹脂システムが、前記シート内に含浸される熱硬化性樹脂を約5重量%〜約35重量%含有することを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記第1樹脂システムが、ポリベンゾオキサジン樹脂、エポキシ樹脂、及び、それらの組み合わせからなる群から選ばれた樹脂を含むことを特徴とする請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記第1樹脂システムを、前記樹脂含浸シートに表面処理を施す前に、少なくとも部分的に硬化させることを特徴とする請求項2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記第2樹脂システムを、前記表面処理シートに約0.1重量%〜9重量%で塗布することを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記第2樹脂システムが、メタクリレート樹脂を含むことを特徴とする請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
2つの主表面を有する膨張黒鉛の圧縮粒子からなるシートを含む寸法安定性及び漏れ防止特性を有する製品であって、1つ又は2つの前記主表面には、1以上の構造が施され、かつ、前記シート内に第1樹脂システム及び第2樹脂システムが配合されていることを特徴とする製品。
【請求項8】
前記第1樹脂システムが、前記シート内に含浸される熱硬化性樹脂を約5重量%〜約35重量%含有することを特徴とする請求項7に記載の製品。
【請求項9】
前記第1樹脂システムが、ポリベンゾオキサジン樹脂、エポキシ樹脂、及び、それらの組み合わせからなる群から選ばれた樹脂を含むことを特徴とする請求項8に記載の製品。
【請求項10】
前記第2樹脂システムが、前記表面処理シートに約0.1重量%〜9重量%で塗布されていることを特徴とする請求項7に記載の製品。
【請求項11】
前記第2樹脂システムが、メタクリレート樹脂を含むことを特徴とする請求項10に記載の製品。

【公表番号】特表2010−513218(P2010−513218A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−543023(P2009−543023)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【国際出願番号】PCT/US2007/086091
【国際公開番号】WO2008/079594
【国際公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(507393218)グラフテック インターナショナル ホールディングス インコーポレーテッド (22)
【氏名又は名称原語表記】GrafTech International Holdings Inc.
【Fターム(参考)】