説明

封止要素のための自己潤滑ポリマー材料を製造する方法

【課題】潤滑マイクロカプセルが混入されたポリマー材料の製造時に出現する不都合な問題の発生を克服し、簡単で且つ製造費用が安くて済む製造方法の提供。
【解決手段】ポリマー材料を極低温まで冷却して、もろい凍結ポリマー材料を生成する工程と、前記もろいポリマー材料を粉砕して、超微細ポリマー粉末を生成する工程と、潤滑流体を含む複数のマイクロカプセルを前記超微細ポリマー粉末に添加して、潤滑マイクロカプセルを含むポリマー混合物を生成する工程と、マイクロカプセルを含むポリマー混合物を成形する工程からなる自己潤滑ポリマー材料を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封止要素のための自己潤滑ポリマー材料を製造する方法に関する。
【0002】
特に、本発明は、ポリマーマトリクス内に潤滑マイクロカプセルが混入され、往復圧縮機の封止要素を製造するのに適するポリマー材料を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
周知のように、往復圧縮機は、気体を圧縮するためにシリンダの内部で軸方向に移動されるピストンを具備している。一般に、往復圧縮機のピストンは、ピストン及びシリンダの軸に対して同軸に配列され、ピストン自体の側壁に形成された受け座に収容される複数の環状封止要素を具備している。
【0004】
それらのピストン封止リングは、円筒形空洞に沿って摺動する間に磨耗を受けやすい。
【0005】
その磨耗速度を制限するという目的で、封止特性を示し、取り扱いが容易であり、弾性係数及び動摩擦係数が低い特定の非金属材料が使用される。
【0006】
封止要素の成分として特に適している非金属材料はポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及びポリブタジエン−スチレン(PBS)である。
【0007】
しかし、それらの樹脂から製造された封止要素は、長期間にわたって応力を受けた場合に永久変形を起こす傾向があることが判明している。
【0008】
特に、圧力及び温度が高い動作条件の下では、従来の樹脂から成る封止要素は早期に劣化するばかりでなく、圧縮シールを損傷するほどに分割線に沿って永久変形を起こしやすい。
【0009】
それらの不都合な事態が起こるのを防止するために、潤滑流体で充満された複数のマイクロカプセルが内部に分散された自己潤滑ポリマーマトリクスに基づく新規なプラスチック材料が開発されており、これはNuovo Pignoneの名による同時係属特許出願の主題である。
【0010】
このプラスチック材料のポリマーマトリクスは、磨耗及び高温に対する耐性を有するポリマー材料、通常は、PEEKなどの線形芳香族ポリケトンから製造され、機械的強度又は熱伝導率を増すために、任意に充填材又は繊維を含有している。
【0011】
この新規なプラスチック材料の基になっているポリマー材料は高い軟化点を示し、従って、その挙動は温度条件による影響をほとんど受けない。この母材であるポリマーに混入されるマイクロカプセルは、従来の方法では、通常はポリオキシメチレン尿素(PMU)のシェルを使用する現場重合プロセスによって、又は噴射造粒プロセスによって製造されている。マイクロカプセルのシェルは、一般に、相対的に低い軟化温度を有する材料から製造される。マイクロカプセルに封入される流体潤滑剤は一般に低い熱容量を有する。
【0012】
潤滑流体又はカプセルが燃焼するのを防止するために、低い処理温度又は急速な加熱/冷却サイクルが使用される。
【0013】
しかし、このようなポリマー材料を製造するための従来の方法には欠点がないわけではなく、それらは低い処理温度が使用される場合に主に見られる。
【0014】
それらの不都合が起こるのは、主に、圧縮成形作業中のペレットの融解が減少するためである。
【0015】
更に、それらのポリマー材料の製造プロセスの間に、融解ペレット又は粘着ペレットを製造するために温度を上昇させた場合、ポリマーは変形するか、あるいは燃焼する。
【0016】
この新規な材料を製造するために従来の製造方法を使用すると、射出成形段階の間又はその終了時に、ポリマーマトリクスと潤滑流体を含むマイクロカプセルが分離してしまう。
【0017】
特に、この新規なプラスチック材料を製造する場合、射出成形段階の間の2つの成分(ポリマーと、潤滑流体を含むマイクロカプセル)の分離の問題は、主に、マイクロカプセルシェルの湿潤性と汚染に起因するものであることが判明している。
【0018】
従って、マイクロカプセルを含有する新規な自己潤滑ポリマー材料の使用は、現時点では、現在利用可能である方法を使用して製造している間に出現する問題点によって制限されるであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2001−000798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の一般的な目的の1つは、潤滑マイクロカプセルを混入されたポリマー材料の製造時に出現する従来の技術の不都合な問題の発生を克服する又は実質的に制限することである。
【0021】
本発明の別の目的は、実行するのが簡単であり且つ製造費用が安くて済むような、潤滑マイクロカプセルを含むポリマー材料を製造する方法を提供することである。
【0022】
本発明の更に別の目的は、ポリマー相とマイクロカプセルの分離の危険を最小限に抑えた、潤滑マイクロカプセルを具備する封止要素のためのポリマー材料を製造する方法を提供することである。
【0023】
驚くべきことに、極低温への冷却によってポリマー材料を微粉砕し、微粉砕されたポリマーを潤滑流体を含むマイクロカプセルと混合することにより、潤滑マイクロカプセルを混入されたポリマーマトリクスを具備するプラスチック材料を製造することが可能であるということが判明している。微粉砕されたポリマーとマイクロカプセルの混合物を成形したとき、往復圧縮機のピストンのための圧縮リングなどの封止要素の基本構成要素として使用可能である自己潤滑ポリマー材料が得られる。
【課題を解決するための手段】
【0024】
従って、上述の目的及び以下の説明から更に明確になるであろう他の目的に鑑みて、本発明の第1の面は、自己潤滑ポリマー材料を製造する方法であって、
好ましくは液体窒素を使用してポリマー材料を極低温まで冷却して、もろい凍結ポリマー材料を生成する工程と、
前記もろいポリマー材料を粉砕して、超微細ポリマー粉末を生成する工程と、
潤滑流体を含む複数のマイクロカプセルを前記超微細ポリマー粉末に添加して、潤滑マイクロカプセルが内部に分散されているポリマー混合物を生成する工程と、
有利な方法として圧縮成形又は射出成形によって、前記ポリマー混合物を成形する工程とから成る方法を提供する。
【0025】
本発明の目的のために使用可能であるポリマー材料はポリケトン、特に芳香族ポリケトンを含み、その中でもポリエーテルエーテルケトン(PEEK)が好ましい。
【0026】
本発明が意図するところでは、「潤滑流体を含む潤滑マイクロカプセル」という語句は、カプセルに封入された粒子及び多重粒子、均質な流体又はカプセルに封入された潤滑多層材料、並びにマイクロカプセルに封入された一般的な潤滑剤を意味する。
【0027】
本発明の方法において使用可能である潤滑剤は、例えば、有機油、天然油又は合成油などの潤滑油である。
【0028】
特に適する油は、酸性度が低く、高温に対する耐性を有する潤滑油である。
【0029】
好ましい一実施例によれば、前記マイクロカプセルに封入される潤滑油は、約40℃での温度で測定した場合で20〜250cStの範囲内の粘度値を示す。
【0030】
本発明の目的のために使用されるマイクロカプセルは球形、対称形又は不規則な形状のいずれであっても良い。
【0031】
一実施例によれば、前記マイクロカプセルは5〜500μ、好ましくは20〜260μの範囲内の平均直径を有する。
【0032】
前記マイクロカプセルはワックス又はポリマー材料、好ましくはPMUと略称されるポリオキシメチレン尿素から成るシェルを含むのが好都合である。
【0033】
マイクロカプセルは、潤滑作用を向上させるための添加剤を更に含んでいても良い。
【0034】
特に、例えば、亜鉛、ホウ素及びそれらの混合物などの微量元素のような、摩擦面のすべりを改善するための添加剤を含むことも可能である。
【0035】
本発明の一実施例によれば、微粉砕ポリマーは1〜30重量%の量の潤滑マイクロカプセルと混合される。
【0036】
潤滑流体は、乾燥噴霧、噴射造粒、コアセルベーション、現場重合及び柔軟なアルギン酸ビードの使用などの様々なマイクロカプセル封入技術を使用して前記マイクロカプセルに封入されることが可能であろう。
【0037】
潤滑流体をカプセルに封入するための様々な方法は潤滑粒子に要求される寸法と、自己潤滑材料の最終的な用途に応じて使用される。
【0038】
例えば、乾燥噴霧プロセスを使用すると、5〜30μ程度の小さな寸法のカプセルに潤滑流体を封入することが可能である。
【0039】
通常は1〜100μの寸法のカプセルを製造するために使用される噴射造粒プロセスでは、カプセルに封入されるべき潤滑流体は、まず、溶融ワックス又は他のポリマーマトリクスの中に導入され、次に小滴として噴霧され、それらの小滴は、その後、冷却されて凝固する。このようにして製造されたマイクロカプセルは内容物である潤滑剤のシェルとして作用する。噴射造粒により製造されたマイクロカプセルは圧力を受けたときに潤滑剤を放出する。あるいは必要に応じて、適切な融点を有するポリマーを選択することにより、所定の温度にさらされた後、マイクロカプセルは潤滑剤を放出する。
【0040】
コアセルベーションを使用する場合にも、潤滑剤は25〜約300μの範囲内の直径のマイクロカプセルに封入されることが可能であろう。
【0041】
単純なコアセルベーションでは、カプセルの壁は、通常、ゼラチン、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン及び他のポリマーから製造される。
【0042】
複雑なコアセルベーションにおいては、カプセル壁はゼラチン−アカシアコポリマーに基づく系を使用して製造される。
【0043】
好ましい一実施例によれば、マイクロカプセルは、潤滑液体から成る滴の周囲に、好ましくは尿素−ホルムアルデヒドコポリマー(PMU)から成る強靭なポリマーシェルを製造することを可能にする現場重合により製造される。PMUシェルへのカプセル封入は、通常、カプセルに封入されるべき材料の乳濁液が水溶液として調製されるエマルジョンプロセスである。
【0044】
一例として、本発明の方法を実行する目的で、特開2001−000798号に記載されている方法を使用して製造された潤滑剤を含むマイクロカプセルを使用することも可能である。
【0045】
本発明の別の実施例によれば、射出成形段階の間に起こりうる分離現象を最小にするという目的で、マイクロカプセルの表面に近接する湿潤性を改善するために表面処理を使用することが可能である。
【0046】
別の面によれば、本発明は、上述のプロセスの中間生成物を製造する方法であって、
基礎ポリマー材料を提供する工程と、
好ましくは液体窒素を使用して前記基礎ポリマー材料を極低温まで冷却して、もろいポリマー材料を生成する工程と、
前記もろいポリマー材料を微粉砕して、超微細ポリマー粉末を生成する工程とから成る方法を提供する。
【0047】
これにより得られる超微細ポリマー粉末は、成形によって自己潤滑ポリマー材料を製造するために使用できる中間生成物である。
【0048】
本発明の方法の特徴及び利点は、添付の図面を参照する、限定的な意味を持たない例として提供される以下の説明から更に明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】係数K(inmin/ft/lb/hr)×10(斜線の柱2及び点を打たれた柱4)としての磨耗係数と、μで表される摩擦係数(白色の柱1及び3)とにより示される比較磨耗試験の結果をまとめた4本の棒グラフ(1〜4)を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0050】
図1は、係数K(inmin/ft/lb/hr)×10(斜線の柱2及び点を打たれた柱4)としての磨耗係数と、μで表される摩擦係数(白色の柱1及び3)とにより示される比較磨耗試験の結果をまとめた4本の棒グラフ(1〜4)を示す。
【0051】
コラム1〜4は、
1) General Electricの規格製品である商品名Ultem 1000のポリマー(柱1及び2)
、及び
2) Ultem 1000を母材とし、本発明の方法の一実施例に従って製造された(白色の
柱)、マイクロカプセルを10重量%の割合で混入されたポリマー材料(柱3及
び4)
の焼き戻し鋼に対するすべりから収集された比較挙動データを示す。
【0052】
Ultem 1000樹脂に混入されたマイクロカプセルは、本発明の一実施例に従った粘度の低い油を含む。
【0053】
棒グラフに結果をまとめた磨耗試験は、300ft/min(1.524m/s)のすべり速度、200psi(13.8bar)の圧力負荷及び20時間の「慣らし運転」、80時間の「定常状態」という試験持続時間を規定した条件の下で実行された。
【0054】
実行された試験の結果に基づけば、従来の技術による樹脂Ultem 1000と比較して、本発明の方法の一実施例に従って製造されたマイクロカプセルを混入されたプラスチックUltem 1000の鋼に対する磨耗速度は十分に3桁は減少し、一方、摩擦は1桁減少することが明白である。
【0055】
以下に示す実施例は本発明の単なる一例として提示されるにすぎず、従って、添付の特許請求の範囲により規定される保護の範囲を制限するとみなされるべきではない。
【実施例1】
【0056】
PEEKポリマー材料を65〜70℃の範囲内の温度で、約8時間の期間にわたり真空窯炉の中で乾燥させた。
【0057】
先に現場重合によって製造されていた潤滑油を含むマイクロカプセルを10重量%の割合でポリマー粉末に添加した。
【0058】
次に、ポリマー材料の均一な加熱及び加圧を可能にするために、ポリマー粉末とマイクロカプセルの混合物を密閉成形型を使用して圧縮成形した。成形後、型から空気を排除するために、冷却された材料を1.5〜2.5tの範囲の値まで加圧した。
【0059】
使用した型を予熱されたプレス内に配置した。プレスの温度は負荷を減少させた(例えば、100kg)ときの熱可塑性ポリマーの融点によって決定した。
【0060】
負荷を加える前、型は所定のプレス温度の約80〜90%に達していた。
【0061】
合わせて約10〜15分にわたり、250〜1500kgの値まで時間及び負荷を増加させながら負荷を加えた。型が周囲温度まで冷却している間、最終負荷は維持された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑剤を含む複数のマイクロカプセルが混入されたポリマーマトリクスから構成される自己潤滑ポリマー材料を製造する方法において、
ポリマー材料を極低温まで冷却して、もろい凍結ポリマー材料を生成する工程と、
前記もろいポリマー材料を粉砕して、超微細ポリマー粉末を生成する工程と、
潤滑流体を含む複数のマイクロカプセルを前記超微細ポリマー粉末に添加して、潤滑マイクロカプセルを含むポリマー混合物を生成する工程と、
マイクロカプセルを含むポリマー混合物を成形する工程とから成る方法。
【請求項2】
前記冷却する工程は液体窒素によって実行されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記成形する工程は圧縮によって進行することを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記ポリマー材料はポリケトンから形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記ポリケトンは芳香族型であることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記ポリケトンはPEEKであることを特徴とする請求項4又は5記載の方法。
【請求項7】
前記マイクロカプセルに含まれる潤滑流体は酸性度の低い潤滑油であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記潤滑流体は、40℃の温度で測定した場合で20〜250cStの範囲内の粘度を有する油であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記マイクロカプセルは5〜500μの平均直径を有することを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記マイクロカプセルはワックス又はポリマー材料から成るシェルを含むことを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記シェルはポリオキシメチレン尿素であることを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記マイクロカプセルは摩擦を減少させるための添加剤を更に含むことを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記添加剤は亜鉛、ホウ素及びそれらの混合物より成る群から選択された微量元素であることを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記マイクロカプセルは1〜30重量%の量で前記超微細粉末に添加されることを特徴とする請求項1から13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記マイクロカプセルは、最初に、現場重合によって生成されることを特徴とする請求項1から14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
超微細ポリマー粉末を製造する方法において、ポリマー材料を極低温まで冷却して、もろいポリマー材料を得ることと、超微細ポリマー粉末が得られるまで、前記もろいポリマー材料を微粉砕することとから成る方法。
【請求項17】
前記極低温まで冷却することは液体窒素によって実現されることを特徴とする請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記ポリマー材料は芳香族ポリケトン系であることを特徴とする請求項16又は17記載の方法。
【請求項19】
前記芳香族ポリケトンはPEEKであることを特徴とする請求項18記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−26611(P2011−26611A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−213213(P2010−213213)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【分割の表示】特願2003−556485(P2003−556485)の分割
【原出願日】平成14年12月30日(2002.12.30)
【出願人】(500445479)ヌオーヴォ ピニォーネ ホールディング ソシエタ ペル アチオニ (34)
【氏名又は名称原語表記】Nuovo Pignone Holding S.p.A.
【Fターム(参考)】