説明

射出成形品塗装金型及び射出成形品塗装方法

【課題】射出成形品塗装金型を用いて形成した成形品の製造において、製造効率を低下させずに、成形品の表面の一部にコーティング液や塗料を塗装すること。
【解決手段】型閉じ及び型開きが可能な固定側金型2と可動側金型4との間に、型閉じ状態において形成されている成形空間へ溶融樹脂を射出し、成形空間へ射出された溶融樹脂を冷却して固化させて成形品Pを形成し、固定側金型2に取り付けられて成形空間と隣接し、且つ液体が浸透可能な多孔性材料で形成された液体浸透部6へ塗装液を供給して、成形品Pのうち成形空間内で液体浸透部6と接触する部分に、固定側金型2と可動側金型4とを型閉じ状態として、塗装液を移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形により形成した成形品の一部にコーティング液や塗料等の塗装液を塗装する、射出成形品塗装金型及び射出成形品塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一組の金型を型閉じ状態として形成した成形空間内に溶融樹脂を射出して成形品を形成する射出成形では、成形品の一部に撥水性を付与する場合等、成形品の表面の一部にコーティング液や塗料等の塗装液を塗装する場合がある。
上記のような、成形品の表面に塗装液を塗装する技術としては、例えば、射出成形終了後の金型から固化した成形品を取り出し、この取り出した成形品に対する二次加工として、塗装液を塗装する技術、すなわち、金型の外部で成形品の一部を塗装する技術等がある。
【0003】
しかしながら、上記のような、金型の外部における二次加工を行うと、成形品の製造における加工工程が増加するため、成形品の製造に関し、効率の低下やコストの増加が発生するおそれがある。
これに対し、上記のような金型の外部における二次加工を行わずに、成形品の表面に塗装液を塗装する技術として、例えば、特許文献1に開示されているものがある。
【0004】
特許文献1に開示されている技術は、加熱装置と冷却装置とを備える一組の金型を用いて、成形品の表面に塗装液を塗装する技術である。具体的には、一組の金型から形成されるキャビティ内面の少なくとも一部に塗布した塗装液を加熱硬化させて塗膜を形成する加熱硬化工程と、加熱溶融した樹脂をキャビティ内に射出した後、金型を冷却して成形体表面の少なくとも一部に塗膜を有する成形品を得る成形工程を含む、金型内塗装射出成形品の製造方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004‐237461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された技術においては、一組の金型を型開き状態として、金型キャビティ内面の少なくとも一部に塗装液を塗布した後に、一組の金型を型閉じ状態とする工程を行う。そして、金型キャビティ内面の少なくとも一部に塗装液からなる塗膜を形成したキャビティ内へ溶融樹脂を射出して、表面に塗膜を有する成形品を製造する工程を行う。
【0007】
このため、特許文献1に記載された技術においては、金型キャビティ内面に塗装液を塗布する際に、スプレーガン等を用いた塗装作業を行う必要がある。これに伴い、特許文献1に記載された技術においては、成形空間への溶融樹脂の射出を、金型キャビティ内面に塗装した塗装液を加熱硬化させて塗膜を形成した後に行う必要があるため、作業工程における制約が増加することとなり、製造効率が低下するおそれがある。
【0008】
このように、従来の技術においては、製造効率を低下させずに、成形品の表面に塗装液を塗装することが困難であった。
本発明の課題は、射出成形を用いて形成した成形品に対し、製造効率を低下させること
なく、成形品の表面に塗装液を塗装することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の課題を解決するため、本発明の一態様に係る射出成形品塗装金型(例えば、図1の射出成形品塗装金型1)は、型閉じ及び型開きが可能な一組の金型(例えば、図1の固定側金型2と可動側金型4)と、前記型閉じ状態において溶融樹脂が射出される成形空間を形成する成形空間形成部と、前記一組の金型のうち一方(例えば、図1の固定側金型2)に取り付けられ、前記成形空間と隣接し、且つ液体が浸透可能な多孔性材料で形成された液体浸透部(例えば、図1の液体浸透部6)と、前記成形空間へ射出された前記溶融樹脂が固化した状態で前記液体浸透部へ前記塗装液を供給して、固化した状態の前記樹脂のうち、前記成形空間内で前記液体浸透部と接触する部分に前記型閉じ状態で前記塗装液を移動させる塗装液供給部(例えば、図1の塗装液供給部8)と、を備えることを特徴としている。
【0010】
このような構成により、型閉じ状態とした一組の金型間に形成された成形空間内に射出した溶融樹脂を固化させて形成した成形品に対し、一組の金型を型閉じ状態としたままで、成形品のうち成形空間内で液体浸透部と接触する部分に塗装液を塗装することが可能となる。
これにより、成形品の製造において、射出成形により成形品を形成する工程と、成形品のうち液体浸透部と接触する部分に塗装液を塗装する工程を、型閉じ状態とした一組の金型を型開き状態とせずに行うことが可能となる。これに加え、塗装液の乾燥・硬化を、射出成形品塗装金型の外部における二次加工で行うことなく、塗装液が塗装された成形品を製造することが可能となる。
【0011】
このため、作業工程における制約が増加せず、射出成形を用いて形成した成形品に対し、製造効率を低下させることなく、成形品のうち液体浸透部と接触する部分に塗装液を塗装することが可能となる。
また、本発明の一態様に係る射出成形品塗装方法は、型閉じ及び型開きが可能な一組の金型間に、前記型閉じ状態において形成されている成形空間へ溶融樹脂を射出する射出工程と、前記射出工程において前記成形空間へ射出された前記溶融樹脂を冷却して固化させる冷却工程と、前記一組の金型のうち一方に取り付けられて前記成形空間と隣接し、且つ液体が浸透可能な多孔性材料で形成された液体浸透部へ塗装液を供給して、前記冷却工程で固化した状態の樹脂のうち前記成形空間内で前記液体浸透部と接触する部分に、前記型閉じ状態で前記塗装液を移動させる塗装工程と、を有することを特徴としている。
【0012】
このような構成により、型閉じ状態とした一組の金型間に形成された成形空間内に射出した溶融樹脂を固化させて形成した成形品に対し、一組の金型を型閉じ状態としたままで、成形品のうち成形空間内で液体浸透部と接触する部分に塗装液を塗装することが可能となる。
これにより、成形品の製造において、射出成形により成形品を形成する工程と、成形品のうち液体浸透部と接触する部分に塗装液を塗装する工程を、型閉じ状態とした一組の金型を型開き状態とせずに行うことが可能となる。これに加え、塗装液の乾燥・硬化を、射出成形品塗装金型の外部における二次加工で行うことなく、塗装液が塗装された成形品を製造することが可能となる。
【0013】
このため、作業工程における制約が増加せず、射出成形を用いて形成した成形品に対し、製造効率を低下させることなく、成形品のうち液体浸透部と接触する部分に塗装液を塗装することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の射出成形品塗装金型の概略構成を示す図であり、射出成形品塗装金型の断面図である。
【図2】本発明の変形例の、射出成形品塗装金型の概略構成を示す図であり、射出成形品塗装金型の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を用いて、本発明に係る射出成形品塗装金型及び射出成形品塗装方法の、実施の形態(実施形態)を説明する。
(第一実施形態)
(構成)
まず、図1を用いて、第一実施形態における、射出成形品塗装金型の構成について説明する。
図1は、射出成形品塗装金型1の概略構成を示す図であり、射出成形品塗装金型1の断面図である。
図1中に示す射出成形品塗装金型1は、型閉じ及び型開きが可能な一組の金型が、型閉じ状態である場合において、一組の金型間に形成される成形空間(キャビティ)内に溶融樹脂を射出し、この射出した溶融樹脂を固化させて成形品Pを形成し、この形成した成形品Pの一部(一つの面や表面の一部)に、コーティング液や塗料等の塗装液を塗装する装置である。なお、成形空間及び塗装液に関する説明は、後述する。
【0016】
ここで、第一実施形態では、一例として、成形品Pが、光の透過性が要求されるレンズ形状である場合について説明する。これは、例えば、印刷機(プリンター)が備えるインクカートリッジに設けた、インク残量を検出するために光を透過させる部品である。このため、第一実施形態では、溶融樹脂材料として、透明な樹脂材料を用いる場合について説明する。なお、成形品P及び溶融樹脂材料の構成は、上記の構成に限定するものではない。
【0017】
また、成形品Pを、上記のように、光を透過させる部品とする場合、この成形品Pには、少なくとも光の入射面や出射面を形成する面(機能面)に、水や油等、液体の付着を防止するための撥水層(撥水コート)を形成することが要求される。
したがって、第一実施形態では、射出成形品塗装金型1の構成を、一例として、成形品Pの一部にコーティング液を塗装する構成とし、成形品Pに塗装する塗装液を、撥水性を有する液体である、撥水性コーティング剤とした場合を説明する。
【0018】
なお、成形品Pに塗装する塗装液は、上記のようなコーティング液に限定するものではなく、塗料であってもよい。
また、成形品Pに塗装する塗装液としては、揮発性が高い液体等、後処理を必要とせずに自然乾燥が可能な液体を用いることが好適である。
また、成形品Pに塗装する塗装液としては、固化した溶融樹脂と容易に結合可能な液体を用いることが好適である。
【0019】
ここで、撥水性コーティング剤としては、一例として、信越化学工業株式会社製の「信越シリコーン シランカップリング剤(商品名)」や、株式会社フロロテクノロジー製の「フロロサーフ(商品名)」を用いることが可能である。なお、撥水性コーティング剤は、上記に限定するものではない。
射出成形品塗装金型1は、図1中に示すように、上述した一組の金型として、固定側金型2と、可動側金型4を備えている。これに加え、射出成形品塗装金型1は、液体浸透部6と、塗装液供給部8と、塗装制御部10を備えている。なお、図1中では、型閉じ状態の射出成形品塗装金型1を示している。
【0020】
固定側金型2は、固定側取付け板12と、固定側型板14を備えている。
固定側取付け板12は、ボルト等を用いて、射出成形品塗装金型1を保持するための固定盤(図示せず)に取り付けられている。
固定側型板14は、ボルト等を用いて、固定側取付け板12の固定盤と対向する面と反対側の面(図1中では、下側の面)に取り付けられており、その内部に、溶融樹脂が移動可能な樹脂通路(図示せず)と、固定側開口部16を有している。
【0021】
樹脂通路の一端側は、固定側型板14の可動側金型4と対向する面(図1中では、下側の面)に開口、具体的には、固定側開口部16と連通する位置に開口している。一方、樹脂通路の他端側は、図外の樹脂射出装置に連通している。
樹脂射出装置は、成形品Pの容積・形状等に応じて、溶融樹脂材料(固形樹脂材料等)を計量・可塑化し、この計量・可塑化した溶融樹脂を、樹脂通路へ射出する装置である。
【0022】
なお、樹脂通路は、固定側型板14内に設けた部分に連続させて、固定側取付け板12内に設けてもよい。この場合、樹脂通路の他端側は、固定側取付け板12に開口する。
固定側開口部16は、溶融樹脂を充填する空間であり、固定側型板14のうち、可動側金型4と対向する面(図1中では、下側の面)に開口している。
なお、特に図示しないが、固定側型板14の内部には、固化した成形品Pを取り出す際に、固定側開口部16内に突出させるエジェクターピン(図示せず)が配置されている。このエジェクターピンは、固定側開口部16内に突出していない状態が通常の状態であり、射出成形品塗装金型1が有する公知のエジェクター装置により下降させて、固定側開口部16内へ突出させ、固定側開口部16内で固化させた成形品Pを取り出す部材である。ここで、例えば、固化した成形品Pが、固定側金型2及び可動側金型4の型開きとともに自重で成形空間から落下する場合等には、射出成形品塗装金型1の構成を、上記のエジェクターピン及びエジェクター装置を備えていない構成としてもよい。
【0023】
可動側金型4は、可動側取付け板18と、可動側型板20を備えている。
可動側取付け板18は、図外の駆動機構に連結されており、駆動機構が発生する駆動力を用いて、上下方向(図1中における上下方向)へ移動可能に形成されている。なお、駆動機構とは、例えば、モーターの回転運動を用いた機械式のものや、油等の液体に圧力を加えた液圧式のものがある。
【0024】
可動側型板20は、ボルト等を用いて、可動側取付け板18の可動盤と対向する面と反対側の面(図1中では、上側の面)に取り付けられている。
液体浸透部6は、液体が浸透可能な多孔質材料を用いて形成されており、固定側型板14の内部において、固定側開口部16と隣接して対向配置されている。なお、第一実施形態では、一例として、射出成形品塗装金型1の構成を、液体浸透部6を一つのみ備えた構成とする。また、第一実施形態では、一例として、液体浸透部6の形状を、板状とした場合を説明する。
【0025】
ここで、液体浸透部6は、射出成形時において、成形空間へ加圧されて射出された溶融樹脂から受ける圧力により変位することがないように、固定側型板14の内部に取り付ける。これは、例えば、固定側型板14の内部に形成する、液体浸透部6を配置するための空間の形状を、液体浸透部6の形状と合致させることにより実施する。
また、液体浸透部6を形成するための多孔質材料は、射出成形時において、樹脂射出装置で加圧されて成形空間へ射出された溶融樹脂から受ける圧力により変形することのない強度(剛性)を有している。これは、多孔質材料を用いて形成された液体浸透部6のうち、溶融樹脂と接触する面の表面性状が、加圧されて成形空間へ射出された溶融樹脂が、多孔質材料が有する微細な孔内に侵入しない性状であることも含む。
【0026】
さらに、液体浸透部6を形成するための多孔質材料は、上記の撥水性コーティング剤と結合しない(結合しにくい)材料を用いることが好適である。
ここで、液体浸透部6を形成するための多孔質材料としては、一例として、気孔径の最大値が25[μm]程度である、新東工業株式会社製の「ポーセラックス(商品名)」を用いることが可能である。なお、液体浸透部6を形成するための多孔質材料は、上記の材料に限定するものではなく、非金属以外の材料、例えば、多孔質の金属を用いてもよい。
【0027】
なお、第一実施形態では、上述したように、成形品Pの構成を、光の透過性が要求されるレンズ形状としている。
このため、第一実施形態では、固定側金型2及び液体浸透部6を、型閉じ及び型開きが可能な一組の金型、すなわち、固定側金型2と可動側金型4が型閉じ状態である場合において、固定側開口部16の内壁面と、可動側型板20のうち固定側開口部16と対向する面と、液体浸透部6のうち固定側開口部16と対向する面との間に形成される成形空間の形状が、光の透過性が要求されるレンズ形状に対応するように形成する。
【0028】
すなわち、第一実施形態では、固定側金型2と可動側金型4が型閉じ状態である場合において、固定側開口部16の内壁面と、可動側型板20のうち固定側開口部16と対向する面が、成形空間を形成する成形空間形成部を構成している。したがって、第一実施形態の射出成形品塗装金型1は、成形空間を形成する成形空間形成部を備えている。
ここで、第一実施形態では、成形品Pのうち、固定側開口部16内で液体浸透部6と対向する部分(上述した機能面)を、油等の付着を防止するための撥水層を形成することが要求されている面とする。
【0029】
また、液体浸透部6のうち固定側開口部16と対向する面(部分)は、成形品Pのうち、液体浸透部6と接触する部分の形状が、成形品Pに要求される形状から逸脱しない形状に形成する。
ここで、第一実施形態では、一例として、液体浸透部6のうち固定側開口部16と対向する面を、成形品Pに要求される形状に応じて、平坦面で形成した場合について説明する。
【0030】
また、液体浸透部6の内部には、流体(液体、気体)を循環可能な温度調節配管22が配置されている。
ここで、温度調節配管22内に流体を循環させる制御(流体の温度、流体の循環量、流体の循環タイミング等の制御)は、後述する温度調節部24により行う。
また、液体浸透部6内において、温度調節配管22を配置する位置は、例えば、液体浸透部6を固定側開口部16側から見て、温度調節配管22が液体浸透部6の中心付近に配置される位置とする。なお、液体浸透部6内における、温度調節配管22を配置する位置は、液体浸透部6を固定側開口部16側から見て、温度調節配管22が液体浸透部6の中心付近からオフセットした位置でもよい。
【0031】
塗装液供給部8は、例えば、エアシリンダー、油圧シリンダー、電動ポンプ等を用いて形成されており、固定側型板14に取り付けられて、その一部が固定側型板14内に配置されている。なお、塗装液供給部8の構成は、全体が固定側型板14に内蔵されている構成としてもよい。
ここで、第一実施形態では、一例として、塗装液供給部8を、正圧または負圧を発生可能であり、この発生させた正圧または負圧を液体浸透部6へ加えることが可能な、エアシリンダーを用いて形成した場合について説明する。
【0032】
また、塗装液供給部8には、図外のコーティング液タンクが接続されており、後述する供給量制御部26から入力された指令値に応じて、コーティング液タンクに貯蔵されてい
る撥水性コーティング剤を液体浸透部6へ供給する。すなわち、液体浸透部6へ撥水性コーティング剤を供給する量の制御は、供給量制御部26により行う。これに加え、液体浸透部6へ撥水性コーティング剤を供給する際の圧力(正圧)の制御も、供給量制御部26により行う。
【0033】
塗装制御部10は、例えば、PC(Personal Computer)を用いて形成されており、温度調節部24と、供給量制御部26を備えている。
温度調節部24は、成形空間内または液体浸透部6の温度を検出可能な温度センサー(図示せず)と、流体の加熱及び冷却が可能な温度変化部(図示せず)に接続されており、溶融樹脂材料のガラス転移点(熱変形温度)や撥水性コーティング剤の溶融温度に応じて算出した温度を、指令値として温度変化部へ出力することにより、流体の温度を調節する。なお、温度調節部24には、予め、溶融樹脂材料のガラス転移点及び撥水性コーティング剤の溶融温度を記憶させておく。
【0034】
また、温度調節部24は、上記のように温度を調節した流体を、温度調節配管22内に循環させる。これは、例えば、液体浸透部6の温度が、上記のように温度を調節した流体の温度と近似するように、流体の循環量を制御して行う。
供給量制御部26は、成形品Pのうち、固定側開口部16内で液体浸透部6と対向する部分(上述した機能面)に形成する撥水層の面積や厚さと、液体浸透部6が有する浸透性(撥水性コーティング剤を浸透させる浸透性能)に応じて、液体浸透部6に供給する撥水性コーティング剤の供給量と、液体浸透部6に加える圧力(正圧)を算出する。そして、この算出した値を指令値として、塗装液供給部8へ出力する。
【0035】
ここで、供給量制御部26には、予め、上述した撥水層の面積や厚さと浸透性に応じた、撥水性コーティング剤の供給量と、液体浸透部6に加える圧力を記憶させておく。そして、供給量制御部26は、記憶させてある撥水性コーティング剤の供給量及び液体浸透部6に加える圧力に応じて、上記の算出を行う。
また、後述するように、塗装液供給部8から液体浸透部6へ供給された撥水性コーティング剤は、液体浸透部6を通過して成形品Pの表面に移動する。このため、供給量制御部26に記憶させる撥水性コーティング剤の供給量は、液体浸透部6を通過する撥水性コーティング剤のうち、液体浸透部6内に残存する量が少なくなる量(少量)とすることが好適である。これは、例えば、成形品Pの表面に塗装する量と等しい量である。
【0036】
(射出成形品塗装方法)
次に、図1を参照して、上述した構成の射出成形品塗装金型1を用いて、射出成形により形成した成形品Pに対し、その機能面に撥水性コーティング剤を塗装する工程について説明する。
第一実施形態の射出成形品塗装方法では、まず、以下に記載する、射出工程と、保圧工程と、冷却工程を行って、成形品Pを形成する。その後、形成した成形品Pに対し、以下に記載する塗装工程を行って、成形品Pの機能面に撥水性コーティング剤を塗装する。
なお、成形品Pに撥水性コーティング剤を塗装した後は、さらに、以下に記載する、取り出し工程を行って、撥水性コーティング剤を塗装した成形品Pを射出成形品塗装金型1から取り出して、成形品Pの製造を終了する。
【0037】
(射出工程、保圧工程及び冷却工程)
以下、図1を参照して、射出工程、保圧工程及び冷却工程における射出成形品塗装金型1の動作を説明する。なお、以下の説明は、型閉じ及び型開きが可能な一組の金型、すなわち、固定側金型2と可動側金型4が型開き状態である状態を前提とする。
射出工程では、まず、可動側金型4を固定側金型2側へ移動させて、可動側金型4と固定側金型2とを接触させ、図1中に示すように、固定側金型2と可動側金型4を型閉じ状
態とする。
可動側金型4を移動させて、成形空間を成形品に応じた形状とした後、計量・可塑化した溶融樹脂を成形空間へ射出して、射出工程を終了し、保圧工程へ移行する。
【0038】
ここで、射出工程では、温度調節配管22内に存在している流体の温度が、溶融樹脂材料のガラス転移点以上の温度である場合、温度調節部24は、溶融樹脂材料のガラス転移点よりも低い温度を算出し、この算出した温度を、指令値として温度変化部へ出力する。これに加え、温度調節部24は、上記のように温度を調節した流体を、温度調節配管22内に循環させる。これにより、液体浸透部6の温度を、溶融樹脂材料のガラス転移点よりも低い温度に調節する。
【0039】
保圧工程では、可動側金型4と固定側金型2とを接触させた状態を保持することにより、成形空間において、射出工程で射出した溶融樹脂を保圧する。溶融樹脂を保圧する時間は、例えば、成形品Pの形状寸法に応じた、溶融樹脂が固化する時間を基準として設定する。そして、保圧工程を終了した後、冷却工程へ移行する。
冷却工程では、上記の保圧工程において、成形空間内へ射出した後に保圧している溶融樹脂を、液体浸透部6、固定側金型2及び可動側金型4との熱交換作用により冷却して固化させ、成形品Pを形成する。そして、冷却工程を終了した後、塗装工程へ移行する。
【0040】
(塗装工程)
以下、図1を参照して、塗装工程における射出成形品塗装金型1の動作を説明する。
塗装工程では、冷却工程で形成した成形品Pに対し、塗装液供給部8から液体浸透部6へ撥水性コーティング剤を供給する。そして、この供給された撥水性コーティング剤を、液体浸透部6内を浸透させて成形品Pの表面へ移動させ、成形品Pのうち液体浸透部6と接触している部分に移動させる。
ここで、温度調節部24は、液体浸透部6の温度を、上述した冷却工程において溶融樹脂材料のガラス転移点よりも低い温度に調節した状態に維持する。これにより、成形品Pの溶融を防止するとともに、撥水性コーティング剤の硬化を防止して、液体浸透部6の目詰まりを防止する。
【0041】
また、供給量制御部26は、予め記憶させてある、撥水性コーティング剤の供給量及び液体浸透部6に加える圧力に応じて、液体浸透部6に供給する撥水性コーティング剤の供給量と、液体浸透部6に加える圧力を算出し、この算出した値を指令値として、塗装液供給部8へ出力する。
ここで、塗装工程では、コーティング液タンクに貯蔵されている撥水性コーティング剤を、液体浸透部6へ正圧により加圧して浸透させる。
【0042】
液体浸透部6へ浸透した撥水性コーティング剤は、正圧により加圧されて液体浸透部6を通過し、成形品Pのうち液体浸透部6と接触している部分に移動する。これにより、成形品Pのうち液体浸透部6と接触している部分に撥水性コーティング剤が塗装されることとなる。
溶融樹脂材料のガラス転移点よりも低い温度に調節した液体浸透部6を介して、成形品Pのうち液体浸透部6と接触している部分に撥水性コーティング剤を塗装すると、塗装工程を終了する。そして、塗装工程を終了した後、取り出し工程へ移行する。
【0043】
(取り出し工程)
以下、図1を参照して、取り出し工程における射出成形品塗装金型1の動作を説明する。
取り出し工程では、まず、型閉じ状態の固定側金型2及び可動側金型4に対し、可動側金型4を固定側金型2から離れる方向へ移動させて、可動側金型4と固定側金型2とを離
間させ、固定側金型2と可動側金型4を型開き状態(図示せず)とする。
そして、固定側金型2と可動側金型4を型開き状態とした後、固定側開口部16内へエジェクターピンを突出させて、固定側開口部16内(成形空間内)で固化させた後に塗装液を塗装した成形品Pを取り出して、成形品Pの製造を終了する。
【0044】
ここで、第一実施形態では、成形品Pに塗装する塗装液として、後処理を必要とせずに自然乾燥が可能な液体である撥水性コーティング剤を用いている。このため、射出成形品塗装金型1から取り出した成形品Pに塗装されている撥水性コーティング剤は、特に加熱による処理等を必要とせずに乾燥して成形品Pの機能面と結合し、成形品Pの機能面に撥水層を形成する。
【0045】
(次の成形品の製造)
以下、図1を参照して、上記の成形品Pを製造した後に、同じ射出成形品塗装金型1を用いて次の成形品を製造する際に下準備として行う動作を説明する。
上述した射出成形品塗装方法により、機能面に撥水層が形成された状態の成形品Pを製造して、この成形品Pを型開き状態の射出成形品塗装金型1から取り出した後に、次の成形品を製造する際には、再び射出成形品塗装金型1を型閉じ状態とする前に、以下に記載する二つの処理を行う場合がある。
第一の処理は、塗装液供給部8で負圧を発生させて、この発生させた負圧を液体浸透部6へ加える処理である。
【0046】
第一の処理を行うことにより、液体浸透部6内に撥水性コーティング剤が残存している場合であっても、この残存している撥水性コーティング剤を、負圧により液体浸透部6内から吸い出して、コーティング液タンクへ戻し、液体浸透部6内から取り除くことが可能となる。
一方、第二の処理は、温度調節部24により、液体浸透部6の温度を、例えば、溶融樹脂材料のガラス転移点よりも高い温度に昇温させる処理である。
【0047】
第二の処理を行うことにより、液体浸透部6内に撥水性コーティング剤が残存している場合であっても、この残存している撥水性コーティング剤を加熱して揮発を促進し、液体浸透部6内から空気中に放出して、液体浸透部6内から取り除くことが可能となる。
上述した処理を行うことにより、液体浸透部6内に撥水性コーティング剤が残存している場合であっても、この残存している撥水性コーティング剤を液体浸透部6内から取り除くことが可能となる。
【0048】
これにより、例えば、機能面に撥水層が形成された状態の成形品Pを製造した後に、同じ射出成形品塗装金型1を用いて製造する次の成形品が、塗装液として着色用の塗料を塗装する成形品である場合であっても、この成形品(次の成形品)に撥水性コーティング剤が塗装されることを抑制することが可能となる。
【0049】
(射出成形品塗装金型のメンテナンス)
以下、図1を参照して、例えば、上記の成形品Pを複数回に亘って製造した後に、射出成形品塗装金型1に対して行うメンテナンスの動作を説明する。
上述したような、機能面が塗装された成形品Pの製造において、液体浸透部6内に存在する塗装液が硬化して、液体浸透部6に目詰まりが生じた場合は、成形品Pの製造を再開する前に、以下に記載する三つの処理を行う。
第一の処理は、液体浸透部6を交換する処理である。
また、第二の処理は、液体浸透部6を固定側型板14内から取り外して洗浄し、目詰まりを解消した後、再度、固定側型板14内へ取り付ける処理である。
【0050】
また、第三の処理は、温度調節部24により、液体浸透部6の温度を、例えば、硬化した塗装液が溶融する温度に昇温させて、液体浸透部6内に存在する塗装液を溶融させた後、この溶融させた塗装液を、負圧等を用いて液体浸透部6から取り除く処理である。
以上説明したように、本発明では、型閉じ状態とした固定側金型2と可動側金型4との間に形成された成形空間内に射出した溶融樹脂を固化させて形成した成形品Pに対し、固定側金型2と可動側金型4を型閉じ状態としたままで、成形品Pの機能面に撥水性コーティング剤を塗装することが可能となる。
【0051】
このため、射出成形品塗装金型1を用いた成形品の製造において、射出成形により成形品Pを形成する工程と、成形品Pの機能面に撥水性コーティング剤を塗装する工程を、型閉じ状態とした固定側金型2と可動側金型4を型開き状態とせずに行うことが可能となる。
これに加え、撥水性コーティング剤の乾燥・硬化を、射出成形品塗装金型1の外部における二次加工で行うことなく、機能面に撥水層が形成された成形品Pを製造することが可能となる。
したがって、本発明では、作業工程における制約が増加せず、射出成形を用いて形成した成形品Pに対し、製造効率を低下させることなく、成形品Pの機能面に撥水性コーティング剤を塗装して、成形品Pの機能面に撥水層を形成することが可能となる。
【0052】
(変形例)
以下、第一実施形態の変形例を列挙する。
第一実施形態においては、成形品Pの面のうち液体浸透部6と対向する面を、所望の形状として平面が設定されている面とし、液体浸透部6のうち固定側開口部16と対向する面を、平坦面で形成したが、これに限定するものではない。すなわち、例えば、成形品Pが凸レンズ形状を有する部品である場合等、成形品Pのうち液体浸透部6と対向する面を、所望の形状として中央部が最も突出して連続する湾曲面が設定されている面とした場合、液体浸透部6のうち固定側開口部16と対向する面を、中央部が最も窪んで連続する湾曲面で形成してもよい。
【0053】
すなわち、液体浸透部6のうち固定側開口部16と対向する部分の形状は、平坦面に限定するものではなく、成形品Pの構成に応じて、凹部や凸部が形成されている面とすればよい。この場合、凹部や凸部の形状としては、例えば、固定側開口部16側から見て、円形や多角形に形成されていてもよい。
また、液体浸透部6のうち固定側開口部16と対向する部分の形状は、面に限定するものではなく、例えば、アルファベット等の文字や、矢印等の記号としてもよい。これは、例えば、塗装液として着色用の塗料を用い、成形品Pの機能面を、外観が要求される意匠面とした場合に適用する。
【0054】
また、第一実施形態においては、射出成形品塗装金型1の構成を、液体浸透部6を一つのみ備えた構成としたが、これに限定するものではなく、塗装液の塗装が要求される部分が複数ある場合等は、射出成形品塗装金型1の構成を、液体浸透部6を複数備えた構成としてもよい。この場合、射出成形品塗装金型1の構成を、複数の液体浸透部6に対して、塗装液供給部8及び塗装制御部10を個別に備えている構成、すなわち、塗装液供給部8及び塗装制御部10を複数備えている構成としてもよい。
【0055】
また、第一実施形態においては、液体浸透部6の温度を調節する構成として、液体浸透部6の内部に、流体を循環可能な温度調節配管22を配置し、温度調節部24によって、温度調節配管22内に循環させる流体の温度や循環量、循環タイミング等の制御を行う構成としたが、液体浸透部6の温度を調節する構成は、これに限定するものではない。
すなわち、液体浸透部6の温度を昇温させる構成として、例えば、液体浸透部6の内部
に、棒ヒーター(シーズヒーター、サーミスタ)等、電力の供給により加熱可能な熱源を配置してもよい。この場合、液体浸透部6の温度を低下させる構成として、例えば、液体浸透部6の内部に、ペルチェ素子等、電力の供給により冷却可能な構成を配置してもよい。
【0056】
また、第一実施形態においては、射出成形品塗装金型1の構成を、温度調節配管22及び温度調節部24を備えた構成としたが、射出成形品塗装金型1の構成は、これに限定するものではなく、温度調節配管22及び温度調節部24を備えていない構成としてもよい。
また、第一実施形態においては、固定側金型2に液体浸透部6が取り付けられている構成としたが、これに限定するものではなく、可動側金型4に液体浸透部6が取り付けられている構成としてもよい。
【0057】
この場合、例えば、図2中に示すように、可動側金型4のうち、固定側金型2と対向して成形空間を形成する面に液体浸透部6が配置されるように、可動側金型4に液体浸透部6を取り付ける。すなわち、成形空間の鉛直方向下方に、液体浸透部6を配置する。なお、図2は、本発明の変形例の、射出成形品塗装金型1の概略構成を示す図であり、射出成形品塗装金型1の断面図である。
【0058】
図2中に示すように、成形空間の鉛直方向下方に液体浸透部6を配置すると、上述した塗装工程において液体浸透部6へ供給した塗装液が、正圧の加圧を停止することにより、重力によって鉛直方向下方へ移動するため、液体浸透部6内への塗装液の残留を、負圧を発生させることなく抑制することが可能となる。
また、第一実施形態においては、液体浸透部6の一つの面のみが、固定側開口部16と対向している構成としたが、これに限定するものではない。すなわち、例えば、成形品Pの構成が、隣り合う二つの機能面や意匠面を有している構成である場合には、液体浸透部6のうち隣り合う二つの面が、固定側開口部16と対向している構成としてもよい。
【0059】
また、第一実施形態においては、液体浸透部6の形状を、板状に形成したが、これに限定するものではない。すなわち、例えば、塗装液を塗装する部分が、成形品Pの機能面のうち面積の少ない一部分のみである場合等は、液体浸透部6の形状を、成形品Pへ近づくにつれて、その断面積がテーパー状に減少する円錐形状や角錐形状としてもよい。
【符号の説明】
【0060】
1 射出成形品塗装金型、2 固定側金型、4 可動側金型、6 液体浸透部、8 塗装液供給部、10 塗装制御部、12 固定側取付け板、14 固定側型板、16 固定側開口部、18 可動側取付け板、20 可動側型板、22 温度調節配管、24 温度調節部、26 供給量制御部、P 成形品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
型閉じ及び型開きが可能な一組の金型と、
前記型閉じ状態において溶融樹脂が射出される成形空間を形成する成形空間形成部と、
前記一組の金型のうち一方に取り付けられ、前記成形空間と隣接し、且つ液体が浸透可能な多孔性材料で形成された液体浸透部と、
前記成形空間へ射出された前記溶融樹脂が固化した状態で前記液体浸透部へ前記塗装液を供給して、固化した状態の前記樹脂のうち、前記成形空間内で前記液体浸透部と接触する部分に前記型閉じ状態で前記塗装液を移動させる塗装液供給部と、を備えることを特徴とする射出成形品塗装金型。
【請求項2】
型閉じ及び型開きが可能な一組の金型間に、前記型閉じ状態において形成されている成形空間へ溶融樹脂を射出する射出工程と、
前記射出工程において前記成形空間へ射出された前記溶融樹脂を冷却して固化させる冷却工程と、
前記一組の金型のうち一方に取り付けられて前記成形空間と隣接し、且つ液体が浸透可能な多孔性材料で形成された液体浸透部へ塗装液を供給して、前記冷却工程で固化した状態の樹脂のうち前記成形空間内で前記液体浸透部と接触する部分に、前記型閉じ状態で前記塗装液を移動させる塗装工程と、を有することを特徴とする射出成形品塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−179784(P2012−179784A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43605(P2011−43605)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】