説明

射出成形容器蓋用ポリエチレン樹脂組成物

【課題】高速成形性、高流動性、剛性と耐衝撃性とのバランス、耐ストレスクラック性、滑り性、低臭気性、食品安全性に優れた射出成形容器蓋用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】20質量%以上40質量%未満のエチレン系重合体(A)及び60質量%超80質量%以下のエチレン系重合体(B)を含むポリエチレン樹脂組成物であって、
エチレン系重合体(A)は、HLMFRが1g/10分以上10g/10分以下、及び密度が0.910g/cm以上0.950g/cm以下であり、エチレン系重合体(B)は、MFRが30g/10分以上150g/10分未満、及び密度が0.960g/cm以上であり、並びにポリエチレン樹脂組成物は、(i)MFRが1g/10分以上10g/10分未満、HLMFRが70g/10分以上400g/10分未満、HLMFR/MFRが40以上80未満であり、及び(ii)密度が0.953g/cm以上0.965g/cm未満であることを特徴とする射出成形容器蓋用ポリエチレン樹脂組成物等。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、清涼飲料等の液体、特に炭酸飲料の液体を収容する容器の蓋用ポリエチレン樹脂組成物に関し、より詳細には、特に射出成形において、高速成形性、高流動性、剛性、耐衝撃性、耐ストレスクラック性、滑り性、低臭気性、食品安全性、開栓性、閉栓性に優れた、容器の蓋用ポリエチレン樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック容器は、各種の物性や成形性及び軽量性や経済性などに優れ、更には環境問題対応の再利用性などに適しているので、最近では、従来の金属製やガラス製などの容器を凌いで、日用品や産業用として汎用されている。
プラスチック容器のなかでも、いわゆるPETボトル(ポリエチレンテレフタレート製の容器)は、優れた機械的強度や透明性或いは高いガス遮蔽性や無公害性などにより、飲食品用の容器として認可されてから、清涼飲料などの容器として、非常に需要が高くなっている。特に、最近では小型のPETボトルが携帯用の飲料用小型容器として消費者に重用されており、また、PETボトルの耐熱性と耐圧性が向上して、冬季用の携帯高温飲料や長期保存用の高温殺菌処理飲料の容器としても汎用されている。
また、PETボトルに代表されるポリエステル樹脂と並んで、ポリエチレン系樹脂も清涼飲料などの飲料用容器材料として重要視され、需要が増大化している。
【0003】
また、炭酸飲料などの清涼飲料用の容器としてのPETボトルにおいて、従来では、その容器蓋として、アルミニウムの金属製のものが用いられていたが、近年では、リサイクルなどの環境保全の観点や経済性などからして、ポリオレフィン製のものが多用されるようになっている。これら容器蓋は、高速成形を目的に連続圧縮成形(CCM)にて成形されている。
清涼飲料などの容器の蓋部材は、容器の密封性や開栓性及び飲食品安全性や耐久性その他の必須の性能からして、容器本体と並んで重要な製品であり、これらの性能と共に、成形性及び剛性や耐熱性などの各種の物性の観点から、ポリオレフィン製、特にポリエチレン系樹脂製の蓋部材において、その技術的な改良検討が続けられており、特許公開公報においても、非常に多数の改良提案が開示されている(例えば、特許文献1〜6参照。)。
【0004】
これら改良提案のうち、代表的な改良提案を俯瞰すると、特許文献1には、炭酸飲料容器用キャップに関して、耐圧性やガス密封性を向上させるために、ポリエチレン成分のMFR(メルトフローレート)や密度を規定したポリエチレン樹脂組成物が開示され、また、特許文献2には、柔軟性や耐熱性の向上を図るために、MFRと密度及び最高融解ピーク温度を規定したエチレン・α−オレフィン共重合体とグリセリン脂肪酸エステルなどの特定の添加剤からなる射出成形用エチレン系樹脂組成物が開示されている。
しかし、特許文献1に開示された組成物は、低分子量成分が少ないため、高速成形性が不充分であり、また、特許文献2に開示された組成物は、金型離型性を改良する目的で特定の添加剤成分が含まれているため、成分溶出による食品安全性の点で満足できるものではない。
【0005】
また、近年、特許文献3,4に示されるポリエチレン樹脂組成物により、圧縮成形にてシール性や剛性などの各種の性能向上と共に、容器蓋の成形サイクルを短縮し生産効率を上げるために、高流動性のポリオレフィン樹脂を使用して実用化がなされている。
さらに、昨今では、経済性を高める理由から、成形速度を速くする成形ハイサイクル化と共に、容器蓋の薄肉化が進められているが、容器蓋の薄肉化においては、容器内圧によって容器蓋が変形しシール部から内容物が漏れないようにするために、一段と高い剛性が求められている。特に最近では、緑茶などの飲料入り容器を加温器にて加温し販売する形態が現れており、この加温販売において、高温時でも形状が保持され、しかも容器蓋の締め付けによって割れが発生しないように、更なる高剛性化が求められている。
このような観点から、特許文献5には、成形性や耐ストレスクラック性などの各種の性能向上と共に、高温時においても樹脂の伸びが小さく再閉栓性も改良されたとする、樹脂材料の密度及びMFRとHLMFRのフローレイト比(FRR)が規定された材料が開示され、圧縮成形にて、実用化がなされている。
【0006】
ところで、特許文献4や、樹脂材料の密度及びMFRとHLMFRのフローレイト比(FRR)、更に短鎖分岐数が規定された材料を提示する特許文献6などにおいて、開示されたポリエチレン系樹脂材料により、耐熱性や剛性及び成形性や耐ストレスクラック性などの各種の性能を兼ね備えた材料が実現可能となり、炭酸飲料の内圧に耐え得るポリエチレン系樹脂材料が炭酸飲料容器蓋として使用され始めている。
【0007】
近年、射出成形の更なる技術進歩に伴い、容器蓋の高速成形化が可能となってきている。前記、従来の技術による容器蓋用ポリエチレンにおいても、射出成形にて、成形する試みがなされ、前記ポリエチレンでは、その改良目的のため、分子量分布を広くすることが行われている。
しかしながら、分子量分布を広くすることにより、連続圧縮成形(CCM)では問題とならなかった不良が発生し、高速の射出成形化が困難となっている。具体的には、容器蓋が縦方向に裂ける、収縮率の異方性が発生し、寸法が安定しない。また、蓋開栓のためのブリッジ部が切れないなどの問題点がある。
このような事情に鑑み、従来の蓋に求められた耐ストレスクラック性、剛性、耐衝撃性を有しながら、射出成形可能である適度な分子量分布のポリエチレン材料が求められている。
【特許文献1】特開昭58−103542号公報
【特許文献2】特開平08−302084号公報
【特許文献3】特開2000−159250号公報
【特許文献4】特開2000−248125号公報
【特許文献5】特開2004−123995号公報
【特許文献6】特開2002−060559号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、高速成形性、高流動性、剛性と耐衝撃性とのバランス、耐ストレスクラック性、滑り性、低臭気性、食品安全性に優れ、特に、炭酸飲料の液体を収容するための容器蓋に好適な材料であって、なおかつ、適度な分子量分布を有し、特に、射出成形においても、優れた性能を有す容器蓋が得られる容器蓋用樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の性状のエチレン系重合体2種を特定の割合で組み合わせた樹脂組成物とすることにより、これらの特性を満足する容器蓋用ポリエチレン樹脂材料を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、20質量%以上40質量%未満のエチレン系重合体(A)及び60質量%超80質量%以下のエチレン系重合体(B)を含むポリエチレン樹脂組成物であって、
エチレン系重合体(A)は、温度190℃、荷重21.6Kgにおけるメルトフローレート(HLMFR)が1g/10分以上10g/10分以下、及び密度が0.910g/cm以上0.950g/cm以下であり、エチレン系重合体(B)は、温度190℃、荷重2.16Kgにおけるメルトフローレート(MFR)が30g/10分以上150g/10分未満、及び密度が0.960g/cm以上であり、並びにポリエチレン樹脂組成物は、(i)MFRが1g/10分以上10g/10分未満、HLMFRが70g/10分以上400g/10分未満、HLMFR/MFRが40以上80未満であり、及び(ii)密度が0.953g/cm以上0.965g/cm未満であることを特徴とする射出成形容器蓋用ポリエチレン樹脂組成物が提供される。
【0011】
本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、エチレン系重合体(A)の密度が0.910g/cm以上0.935g/cm以下であることを特徴とする射出成形容器蓋用ポリエチレン樹脂組成物が提供される。
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、さらに、(iii)曲げ弾性率が800MPa以上、(iv)引張降伏強さが25MPa以上、(v)炭化水素揮発分が80ppm以下、(vi)120×120×2mmの射出成形板の収縮率異方性(MD/TD)が1.0以上2.0未満、及び(vii)定ひずみESCRが10Hr以上1000Hr以下であることを特徴とする射出成形容器蓋用ポリエチレン樹脂組成物が提供される。
さらに、本発明の第4の発明によれば、第3の発明において、さらに、(viii)1.9MPaにおけるFNCTが60時間以上であることを特徴とする射出成形容器蓋用ポリエチレン系樹脂組成物が提供される。
【0012】
また、本発明の第5の発明によれば、第1〜4のいずれかの発明において、射出成形容器蓋が炭酸飲料用容器蓋であることを特徴とする射出成形容器蓋用ポリエチレン樹脂組成物が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の射出成形容器蓋用ポリエチレン樹脂組成物は、PETボトル入り飲料の液体を収容するための容器の蓋に好適であり、耐ストレスクラック性、剛性を維持しながら、射出成形性が改良され、収縮率異方性が少なく、かつ容器蓋のブリッジ切れが適切となるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリエチレン樹脂組成物は、複数種類のエチレン系重合体から構成されるものであり、具体的には、下記成分(A)及び(B)からなるものであって、以下の特性(i)、(ii)を満たすポリエチレン樹脂組成物である。
成分(A):温度190℃、荷重21.6Kgにおけるメルトフローレート(HLMFR)が1g/10分以上10g/10分以下、密度が0.910g/cm以上0.950g/cm以下のエチレン系重合体:20質量%以上40質量%未満
成分(B):温度190℃、荷重2.16Kgにおけるメルトフローレート(MFR)が30g/10分以上150g/10分未満、密度が0.960g/cm以上のエチレン系重合体:60質量%を超え80質量%以下
【0015】
特性(i):MFRが1g/10分以上10g/10分未満、HLMFRが70g/10分以上400g/10分未満、かつHLMFR/MFRが40以上80未満
特性(ii):密度が0.953g/cm以上0.965g/cm未満
【0016】
成分(A)のエチレン系重合体、すなわちエチレン系重合体(A)のHLMFRは、1g/10分以上10g/10分以下であり、好ましくは3g/10分以上10g/10分以下であり、更に好ましくは5g/10分以上9g/10分以下である。また、成分(A)の密度は、0.910g/cm以上0.950g/cm以下であり、好ましくは0.910g/cm以上0.945g/cm以下、より好ましくは0.910g/cm以上0.935g/cm以下、更に好ましくは0.920g/cm以上0.935g/cm以下である。
成分(A)のHLMFRが1g/10分未満では、流動性が低下し、成形性が不良、また、収縮率異方性が大きくなる傾向があり、また特性(i)を満たすことが困難である。一方、HLMFRが10g/10分を超えると、耐ストレスクラック性が低下する傾向がある。成分(A)の密度が0.910g/cm未満では、剛性が不十分となり、一方、0.950g/cmを超えると、耐ストレスクラック性が低下する傾向がある。また、この密度において、本範囲を外れた場合には、特性(ii)を満たすことが困難となる。ここで、HLMFR及び密度は、各々後述する測定方法により測定される値である。
【0017】
また、成分(B)のエチレン系重合体、すなわちエチレン系重合体(B)のMFRは、30g/10分以上150g/10分未満、好ましくは40g/10分以上130g/10分以下、更に好ましくは50g/10分以上100g/10分以下である。成分(B)の密度は、0.960g/cm以上、好ましくは0.960g/cm以上0.970g/cm以下である。
成分(B)のMFRが30g/10分未満では、流動性が低下し成形性が不良となる傾向があり、一方、150g/10分以上では、耐ストレスクラック性が低下し、また、この範囲外では、特性(i)を満たすことが困難となる。また、成分(B)の密度が0.960g/cm未満の場合は、剛性が低下するおそれがある。成分(B)の密度の上限値は、特に制限されないが、通常は0.980g/cm以下である。ここで、MFR及び密度は、各々後述する測定方法により測定される値である。
【0018】
成分(A)と成分(B)の割合は、成分(A)が20質量%以上40質量%未満、好ましくは22質量%以上38質量%以下であり、成分(B)が60質量%を超え80質量%以下、好ましくは62質量%以上78質量%以下である(ここで、成分(A)と成分(B)の合計は100質量%である)。成分(A)が20質量%未満では、耐ストレスクラック性が低下し、一方、40質量%以上では、成形性が低下し、特性(i)を満たさない。また、成分(B)が60質量%以下では、成形性が低下し、一方、80質量%を超えると、耐ストレスクラック性が低下する。また、この成分(A)、(B)の割合が重要であり、この範囲外であれば、特性(i)のHLMFR/MFRが40以上80未満を満たさなくなり、収縮率異方性が大きくなる。
【0019】
成分(A)と成分(B)とからなる組成物は、成分(A)のエチレン系重合体と成分(B)のエチレン系重合体とを混合して得ることができる。該組成物は、1基の反応器で成分(A)を製造し、その後、同じ反応器で新たに、成分(B)を製造し、又は、1基の反応器で成分(B)を製造し、その後、同じ反応器で新たに、成分(A)を製造し、成分(A)及び成分(B)を混合することにより、製造することができる。また、該組成物は、2基又はそれ以上の反応器を直列及び/又は並列に用いて製造することができる。この場合、成分(A)について、複数の反応器に分けて製造し、それぞれで製造した重合体を合わせて全体として一つの重合体(成分(A))としてもよく、成分(B)について、複数の反応器に分けて製造し、それぞれで製造した重合体を合わせて全体として一つの重合体(成分(B))としてもよい。好ましくは、樹脂の均一性等の理由から、成分(A)のエチレン系重合体と成分(B)のエチレン系重合体を順次連続的に重合して得られたものが望ましい。
【0020】
エチレン系重合体の重合触媒は、チーグラー触媒、フィリップス触媒、メタロセン触媒等の各種触媒が用いられる。重合触媒は、水素がオレフィン重合の連鎖移動作用を示すような触媒であればいずれも使用することができる。
具体的には、固体触媒成分と有機金属化合物とからなり、水素がオレフィン重合の連鎖移動作用を示すようなスラリー法オレフィン重合に適する触媒であれば、いずれも使用することができる。
上記固体触媒成分としては、遷移金属化合物を含有するオレフィン重合用の固体触媒として用いられるものであれば特に制限はない。遷移金属化合物としては、周期表第4族〜第10族、好ましくは第4族〜第6族の元素の化合物を使用することができ、具体例としては、Ti、Zr、Hf、V、Cr、Mo等の化合物が挙げられる。
【0021】
好ましい触媒の例としては、Tiおよび/またはVの化合物と周期表第1族〜第3族元素の有機金属化合物からなる固体チーグラー触媒がある。さらに、メタロセン触媒と呼ばれる、シクロペンタジエン骨格を有する配位子が遷移金属に配位してなる錯体と助触媒とを組み合わせたものが例示される。具体的なメタロセン触媒としては、Ti、Zr、Hf、ランタニド系列などを含む遷移金属に、メチルシクロペンタジエン、ジメチルシクロペンタジエン、インデン等のシクロペンタジエン骨格を有する配位子が配位してなる錯体触媒と、助触媒としてのアルミノキサン等の周期表第1族〜第3族元素の有機金属化合物とを組み合わせたものや、これらの錯体触媒をシリカ等の担体に担持させた担持型のものが挙げられる。特に好ましいオレフィン重合用の固体触媒成分としては、少なくともチタンおよび/またはバナジウムならびにマグネシウムを含有するものが挙げられる。
【0022】
上記の少なくともチタンおよび/またはバナジウムならびにマグネシウムを含有する固体触媒成分と共に用いることのできる有機金属化合物としては、有機アルミニウム化合物、中でも、トリアルキルアルミニウムが好ましい。重合反応中における有機アルミニウム化合物の使用量は、特に制限されないが、用いる場合には、通常チタン化合物1モルに対して0.05モル以上1000モル以下の範囲が好ましい。
【0023】
本発明に係るエチレン系重合体は、エチレンの単独重合、又はエチレンと炭素数3〜12のα−オレフィン、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン等との共重合により得られる。また、改質を目的とする場合のジエンとの共重合も可能である。このとき使用されるジエン化合物の例としては、ブタジエン、1,4−ヘキサジエン、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン等を挙げることができる。なお、重合の際のコモノマー含有率は、任意に選択することができるが、例えば、エチレンと炭素数3〜12のα−オレフィンとの共重合の場合には、エチレン・α−オレフィン共重合体中のα−オレフィン含有量は40モル%以下、好ましくは30モル%以下である。
【0024】
本発明に係るエチレン系重合体は、気相重合法、溶液重合法、スラリー重合法などの製造プロセスにより製造することができ、好ましくはスラリー重合法が望ましい。エチレン系重合体の重合条件のうち重合温度としては、0℃以上300℃以下の範囲から選択することができる。スラリー重合においては、生成ポリマーの融点より低い温度で重合を行う。重合圧力は、大気圧〜約100kg/cmの範囲から選択することができる。実質的に酸素、水等を断った状態で、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素等から選ばれる不活性炭化水素溶媒の存在下でエチレン及びα−オレフィンのスラリー重合を行うことにより製造することができる。
【0025】
スラリー重合において、重合器に供給される水素は、連鎖移動剤として消費され、生成するエチレン系重合体の平均分子量を決定するほか、一部は溶媒に溶解して重合器から排出される。溶媒中への水素の溶解度は、小さく、重合器内に大量の気相部が存在しない限り、触媒の重合活性点付近の水素濃度は低い。そのため、水素供給量を変化させれば、触媒の重合活性点における水素濃度が速やかに変化し、生成するエチレン系重合体の分子量は、短時間の間に水素供給量に追随して変化する。従って、短い周期で水素供給量を変化させれば、より均質な製品を製造することができる。このような理由から、重合法としてスラリー重合法を採用することが好ましい。また、水素供給量の変化の態様は、連続的に変化させるよりも不連続的に変化させる方が、分子量分布を広げる効果が得られるので、好ましい。
また、本発明に係るエチレン系重合体においては、水素供給量を変化させることが重要であるが、その他の重合条件、例えば重合温度、触媒供給量、エチレンなどのオレフィンの供給量、1−ブテンなどのコモノマーの供給量、溶媒の供給量等を、適宜に水素の変化と同時にまたは別個に変化させることも重要である。
【0026】
本発明の成分(A)と成分(B)とからなる組成物は、前記したように、成分(A)及び成分(B)を別々に重合した後に、混合したものでもよい。更に、成分(A)のエチレン系重合体は、直列及び/又は並列に接続した複数の反応器にて、同成分を重合し、構成することが可能である。該エチレン系重合体は、1種類の触媒を用いて多段重合反応器にて、順次連続的に重合された重合体でもよく、複数種類の触媒を用いて単段又は多段重合反応器にて、製造された重合体でもよいし、1種類又は複数種類の触媒を用いて重合された重合体を混合したものでもよい。また、成分(B)のエチレン系重合体も、成分(A)の重合体製造の場合と同様に、複数の成分により構成することが可能である。該エチレン系重合体は、1種類の触媒を用いて多段重合反応器にて、順次連続的に重合された重合体でもよく、複数種類の触媒を用いて単段又は多段重合反応器にて、製造された重合体でもよいし、1種類又は複数種類の触媒を用いて重合された重合体を混合したものでもよい。
【0027】
直列及び/又は並列に接続した複数の反応器で重合するいわゆる多段重合方法は、本請求範囲を満たす限り、始めの重合域(第一段目の反応器)において高分子量成分を製造する製造条件を採用して重合し、得られた重合体を次の反応域(第二段目の反応器)に移送し、第二段目の反応器において低分子量成分を製造する順序でも、始めの重合域(第一段目の反応器)において低分子量成分を製造する製造条件を採用して重合し、得られた重合体を次の反応域(第二段目の反応器)に移送し、第二段目の反応器において高分子量成分を製造する順序のどちらでも良いし、複数の並列の反応器で別々に、高分子量成分及び低分子量成分を製造した後、それぞれを混合してもよい。
具体的な好ましい重合方法は、以下の方法である。即ち、チタン系遷移金属化合物及び有機アルミニウム化合物を含むチーグラー触媒及び少なくとも二器の反応器を使用し、第一段目の反応器にエチレン及びα−オレフィンを導入し、低密度の高分子量成分の重合体を製造し、第一段目の反応器から抜き出された重合体を第二段目の反応器に移送し、第二段目の反応器にエチレン及び水素を導入し高密度の低分子量成分の重合体を製造する方法である。この場合、低密度の高分子量成分の重合体を複数の反応器で製造してもよいし(第一段目の反応器を複数としてもよいし)、高密度の低分子量成分の重合体を複数の反応器で製造してもよい(第二段目の反応器を複数としてもよい)。
なお、多段重合の場合、第二段目以降の重合域で生成するエチレン系重合体の量とその性状については、各段における重合体生成量(未反応ガス分析等により把握できる)を求め、各段の後でそれぞれ抜出した重合体の物性を測定し、加成性に基づいて各段で生成した重合体の物性を求めることができる。
【0028】
上記の方法により製造されたエチレン系重合体は、常法に従い、ペレタイザーやホモジナイザー等による機械的な溶融混合によりペレット化した後、各種成形機により成形を行って所望の成形品とすることができる。また、上記の方法により得られるエチレン系重合体には、常法に従い、他のオレフィン系重合体やゴム等のほか、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、帯電防止剤、防曇剤、ブロッキング防止剤、加工助剤、着色顔料、架橋剤、発泡剤、無機または有機充填剤、難燃剤等の公知の添加剤を配合することができる。
【0029】
添加剤として、例えば酸化防止剤(フェノール系、リン系、イオウ系)、滑剤、帯電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤等を1種又は2種以上適宜併用することができる。充填材としては、炭酸カルシウム、タルク、金属粉(アルミニウム、銅、鉄、鉛など)、珪石、珪藻土、アルミナ、石膏、マイカ、クレー、アスベスト、グラファイト、カーボンブラック、酸化チタン等が使用可能であり、なかでも炭酸カルシウム、タルク及びマイカ等を用いるのが好ましい。いずれの場合でも、上記エチレン系重合体に、必要に応じ各種添加剤を配合し、混練押出機、バンバリーミキサー等にて混練し、成形用材料とすることができる。
【0030】
本発明のポリエチレン樹脂組成物は、上記したように、以下の特性を有する。
特性(i):MFRが1g/10分以上10g/10分未満、HLMFRが70g/10分以上400g/10分未満、かつHLMFR/MFRが40以上80未満
特性(ii):密度が0.953g/cm以上0.965g/cm未満
【0031】
ポリエチレン樹脂組成物の温度190℃、荷重2.16Kgにおけるメルトフローレート(MFR)は、1g/10分以上10g/10分未満であり、好ましくは2g/10分以上9g/10分以下、更に好ましくは3g/10分以上7g/10分以下である。MFRが1g/10分未満では、射出成形時の高速成形性が劣り、一方、10g/10分以上では、容器蓋の耐ストレスクラック性が劣る。ここで、MFRは、JIS K6922−2:1997「プラスチック−ポリエチレン(PE)成形用及び押出用材料−第2部:試験片の作り方及び性質の求め方」に準じて、測定される値である。
MFRは、エチレン重合温度や連鎖移動剤の使用等により調整することができ、所望のものを得ることができる。即ち、エチレンとα−オレフィンとの重合温度を上げることにより分子量を下げて、結果としてMFRを大きくすることができ、重合温度を下げることにより分子量を上げて、結果としてMFRを小さくすることができる。また、エチレンとα−オレフィンとの共重合反応において共存させる水素量(連鎖移動剤量)を増加させることにより分子量を下げて、結果としてMFRを大きくすることができ、共存させる水素量(連鎖移動剤量)を減少させることにより分子量を上げて、結果としてMFRを小さくすることができる。
【0032】
また、ポリエチレン樹脂組成物の温度190℃、荷重21.6Kgにおけるメルトフローレート(HLMFR)は、70g/10分以上400g/10分未満であり、好ましくは80g/10分以上300g/10分以下である。HLMFRが70g/10分未満では、高速成形性が劣り、一方、400g/10分以上では、容器蓋の耐ストレスクラック性が劣る。ここで、HLMFRは、JIS K6922−2:1997「プラスチック−ポリエチレン(PE)成形用及び押出用材料−第2部:試験片の作り方及び性質の求め方」に準じて、測定される値である。
HLMFRも、エチレン重合温度や連鎖移動剤の使用等により調整することができ、他の物性とのバランスをとりつつ所望のものを得ることができる。即ち、エチレンとα−オレフィンとの重合温度を上げることにより分子量を下げて、結果としてHLMFRを大きくすることができ、また、重合温度を下げることにより分子量を上げて結果として、HLMFRを小さくすることができる。また、エチレンとα−オレフィンとの共重合反応において共存させる水素量(連鎖移動剤量)を増加させることにより分子量を下げて、結果としてHLMFRを大きくすることができ、共存させる水素量(連鎖移動剤量)を減少させることにより分子量を上げて、結果としてHLMFRを小さくすることができる。
【0033】
ポリエチレン樹脂組成物のHLMFR/MFR、即ちフローレイト比(FRR)は、40以上80未満であり、好ましくは45以上80未満、更に好ましくは50以上75未満である。HLMFR/MFRが40未満では、高速成形性が不良となり、一方、80以上では、収縮率異方性が大きくなる。
HLMFR/MFRは、分子量分布を調整することにより増減させることができる。このHLMFR/MFR、即ちフローレイト比(FRR)は、ゲルパーミネーションクロマトグラフィーによる分子量の単分散性(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)と相関があり、HLMFR/MFRの80は、単分散性Mw/Mnの約16に相当し、HLMFR/MFR=40は、単分散性Mw/Mnの約6に相当する。HLMFR/MFRおよびMw/Mnは、触媒の種類、助触媒の種類、重合温度、重合反応器内の滞留時間、重合反応器の数などで調整でき、また、押出機の温度、圧力、剪段速度などにより、調整可能であり、好ましくは高分子量成分と低分子量成分の混合割合を調整することにより、増減することができ、各成分の平均分子量の差を大きくすると、増加させることができる。
【0034】
また、ポリエチレン樹脂組成物の密度は、0.953g/cm以上0.965g/cm未満であり、好ましくは0.953g/cm以上0.963g/cm以下、更に好ましくは0.953g/cm以上0.961g/cm以下である。密度が0.953g/cm未満では、容器蓋の剛性が劣り、高温時に変形しやすくなり、容器内圧の影響により容器蓋が変形し漏れの原因となる。一方、密度が0.965g/cm以上では、容器蓋の耐ストレスクラック性が劣る。ここで、密度は、JIS K6922−1,2:1997に準じて測定される値である。
密度は、エチレンと共重合させるコモノマーの種類や量により変化させることにより、所望のものを得ることができる。
【0035】
さらに、本発明のポリエチレン樹脂組成物では、高温時でもキャップ(容器蓋)が変形しにくく、薄肉化可能とするために、(iii)曲げ弾性率は、800MPa以上であり、好ましくは850MPa以上、更に好ましくは900MPa以上である。曲げ弾性率が800MPa未満では、剛性が低下し、容器の内圧により容器蓋が変形しやすく、特に高温時に変形しやすい。曲げ弾性率の上限値は、特に限定されないが、通常は2000MPa以下である。ここで、曲げ弾性率は、試験片として210℃で射出成形した4×10×80mmの板を用い、JIS K6922−2に準拠して測定される値である。
曲げ弾性率は、ポリエチレンの分子量及び密度を増減させることにより、調節することができ、分子量又は密度を増加させると、曲げ弾性率を上げることができる。
【0036】
また、本発明のポリエチレン樹脂組成物では、(iv)引張降伏強さは、25MPa以上であり、好ましくは26MPa以上、更に好ましくは27MPa以上である。引張降伏強さが25MPa未満では、剛性が低下し、キャップ開栓時の感触がやわらかくなる。引張降伏強さの上限値は、特に限定されないが、通常は50MPa以下である。ここで、引張降伏強さは、試験片として210℃で射出成形したJIS1号引張試験片を用い、JIS K6922−2:1997年に準拠して測定される値である。
引張降伏強さは、ポリエチレンの分子量及び密度を増減させることにより、調節することができ、分子量又は密度を増加させると、引張降伏強さを上げることができる。
【0037】
また、本発明のポリエチレン樹脂組成物では、味覚を損なわないように、あるいは内容物に異臭や変質を与えないように、(v)炭化水素揮発分は、80ppm以下であり、好ましくは50ppm以下、更に好ましくは30ppm以下である。本発明にいう炭化水素とは、少なくとも炭素及び水素を含む化合物をいい、通常ガスクロマトグラフィーにて測定されるもので、本発明の要件を満足することにより、容器内容物の臭い、味への影響を防ぐことができる。
ここで、炭化水素揮発分は、ポリエチレン樹脂組成物1gを25mlのガラス密閉容器に入れ、130℃で60分加熱した際のへッドスペース中の空気をガスクロマトグラフィーにて測定される。
本発明において、炭化水素揮発分を所定の値以下にするためには、重合したポリエチレン系重合体を揮発分除去操作、例えば、スチームストリッピング処理、温風脱臭処理、真空処理、窒素パージ処理等を実施することにより、達成することができ、特にスチーム脱臭処理を行うことにより、本発明の効果を顕著に発揮することができる。スチーム処理の条件は、特に限定されるものではないが、エチレン系重合体を100℃のスチームに8時間程度接触させるとよい。
【0038】
本発明のポリエチレン樹脂組成物では、(vi)射出成形時の収縮率異方性は、MD/TDが1.0以上2.0未満である。望ましくは1.0以上1.9未満、更に望ましくは1.1以上1.8未満である。この値は、190℃の射出成形にて120×120×2mmである平板を成形し、23℃にて48時間状態調整後、流れ方向(MD)および直角方向(TD)の寸法を測定し、収縮率を求め、MD値をTD値で割った数値である。本値が2.0以上では、射出製品が割れやすく、一方1.0未満であれば、製品が変形しやすくなる。収縮率異方性は、分子量分布にて調整することができる。
【0039】
また、本発明のポリエチレン樹脂組成物では、販売時に店頭にてストレスクラックによりキャップが破壊し、内容物の液漏れが発生しないように、(vii)定ひずみESCR、すなわち一定ひずみ下での耐ストレスクラック性は、10時間以上1000時間以下である。望ましくは15時間以上1000時間以下、更に望ましくは60時間以上1000時間以下である。本値が10時間未満であれば、製品保管時にその容器内圧に耐えられず破壊する。また、1000時間を超えるものは、他の要件を満たせないため、現実性がない。定ひずみESCRを大きくするためには、低密度かつ高分子量成分を添加することにより、達成可能である。
【0040】
本発明のポリエチレン樹脂組成物では、長期に渡る弱い応力による破壊の指標であるフルノッチクリープ(応力亀裂抵抗または耐亀裂伝播)特性のために、(viii)フルノッチクリープ試験による1.9MPaにおける破断時間(FNCT)は、60時間以上であり、好ましくは80時間以上、更に好ましくは130時間以上である。FNCTが60時間未満では、夏場の高温の保管時にストレスクラックによる破壊が容器蓋に発生する確率が大きくなる。ここで、FNCTは、JIS K6774:1998年「ガス用ポリエチレン管」に準拠し、温度80℃、使用液は花王株式会社製エマール1%水溶液を用いて測定されるものである。
FNCTを大きくするためには、低密度かつ高分子量成分を添加することにより、達成可能である。
【0041】
本発明において、結晶化速度を促進するために、造核剤を用いることも有効な手法である。該造核剤としては、特に限定されるものでなく、一般的な有機系又は無機系の造核剤を用いることができる。
【0042】
本発明のポリエチレン樹脂組成物を原料として、主に射出成形法、圧縮成形法等により成形され各種成形品が得られる。本発明のポリエチレン樹脂組成物は、上記特性を満足するものであるので、成形性、高流動性、臭い、耐衝撃性、食品安全性、特に射出成形性、剛性に優れ、なおかつ耐熱性に優れる。従って、このような特性を必要とする、容器、容器蓋等の用途に使用でき、特に、食用油、わさび等の香辛料、調味料、アルコール飲料、炭酸飲料などの食品及び飲料容器や容器蓋、化粧品、ヘアクリーム等の容器及び容器蓋の用途に使用でき、射出成形等で成形される食品容器及びその容器蓋に好適に用いることができる。
特に、本発明のポリエチレン樹脂組成物は、炭酸飲料の液体の容器蓋に優れた効果を発揮する。本発明の材料を用いた炭酸飲料用容器蓋は、高速成形化、ハイサイクル化、ワンピース形状化が可能であり、PETボトル等の容器用に好適に用いられる。
【実施例】
【0043】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、これらの実施例に制約されるものではない。なお、実施例で用いた測定方法は以下の通りである。
(1)温度190℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR):JIS K6922−2:1997に準拠して測定した。
(2)温度190℃、荷重21.6kgにおけるメルトフローレート(HLMFR):JIS K6922−2:1997に準拠して測定した。
(3)密度:JIS K6922−1,2:1997に準じて測定した。
(4)フルノッチクリープ試験による1.9MPaにおける破断時間(FNCT):JIS K6774:1998年に準拠し、温度80℃、使用液は花王株式会社製エマール1%水溶液を用いて測定した。
【0044】
(5)曲げ弾性率:試験片として210℃で射出成形した4×10×80mmの板を用い、JIS K6922−2に準拠して測定した。
(6)引張降伏強さ:JIS K6922−2:1997年に準拠して測定した。
(7)定ひずみESCR:JIS K6922−2:1997年に準拠して測定した。
(8)炭化水素揮発分:樹脂1gを25mlのガラス製密閉容器に入れ、130℃で60分加熱した後の密閉容器中の成分をガスクロマトグラフィーにて分析して測定した。
【0045】
(9)収縮率異方性(MD/TD):東芝機械製IS−80射出成形機にて、成形温度190℃、金型温度40℃にて、1辺フィルムゲート(ゲート厚み0.2mm)の120×120×2mmの平板成形を行い、成形後、23℃にて48Hr放置後の流れ方向(MD)および流れ直角方向(TD)の収縮率を測定する。その測定値よりMD/TDを算出する。
(10)臭気官能試験:上記(9)の成形で得られた平板から、20×20mm程度の大きさの試験片を切断し、300mlガラス製広口瓶に入れた後、栓をして80℃に加温したオーブン中で2時間加熱した。加熱後、当該広口瓶を取り出し、10分以内に次の臭いの基準に従い、官能評価を行った。
0:無臭
1:やっと感じられる
2:感じられる
3:かなり臭う
4:強く臭う
5:激しく臭う
【0046】
[実施例1]
<触媒の製造>
固体触媒成分として、溶解析出法によるTi系触媒を使用した。その製造方法は、以下の通りである。
攪拌機および冷却器を取り付けた容量1リットルの三つ口フラスコの内部を十分に窒素置換した後、乾燥ヘキサン250ml、あらかじめ3リットル振動ミルで1時間粉砕処理を行った無水塩化マグネシウム11.4gおよびn−ブタノール110mlを入れ、68℃で2時間加熱し均一な溶液(1a)とした。この溶液(1a)を室温まで冷却した後、25℃の運動粘度が25cStであるメチルポリシロキサン8gを添加し、1時間攪拌して均一な溶液(1b)を得た。溶液(1b)を水で冷却した後、この中へ四塩化チタン50mlおよび乾燥ヘキサン50mlを、滴下漏斗を用い1時間を費やして滴下し、溶液(1c)を得た。溶液(1c)は均一であり、反応生成物の錯体は析出していなかった。溶液(1c)を還流しながら、68℃で2時間加熱処理を行った。加熱を開始して約30分後に反応生成物錯体(1d)の析出が見られた。これを採取して乾燥ヘキサン250mlで6回洗浄し、さらに窒素ガスで乾燥して、反応生成物錯体(1d)19gを回収した。
反応生成物錯体(1d)を分析したところ、Mg14.5質量%、n−ブタノール44.9質量%およびTi0.3質量%を含有しており、その比表面積は、17m/gであった。
反応生成物錯体(1d)4.5gを窒素雰囲気下で攪拌機および冷却器を取り付けた容量1リットルの三つ口フラスコに採取し、これに乾燥ヘキサン250mlおよび四塩化チタン25mlを加えて還流下に68℃で2時間加熱処理を行い、室温まで冷却した後、乾燥ヘキサン250mlで6回洗浄し、窒素ガスで乾燥して固体触媒成分(1e)4.6gを回収した。
この固体触媒成分(1e)を分析したところ、Mg12.5質量%、n−ブタノール17.0質量%およびTi9.0質量%を含有しており、その比表面積は、29m/gであった。この固体触媒成分(1e)をSEMで観察したところ、粒径は均一であり球に近い形状であった。
【0047】
<重合体の製造>
第一段反応器として内容積200リットルの第1段重合器に、触媒供給ラインから上記<触媒の製造>で得られた固体触媒成分(1e)14.3g/hrを、またトリエチルアルミニウム(TEA)を有機金属化合物供給ラインから56mmol/hrの速度にて、連続的に供給して、重合内容物を所要速度で排出しながら、70℃において、重合溶媒(n−ヘキサン)70(l/hr)、水素1.46(mg/hr)、エチレン18.0(kg/hr)、1−ブテン1.50(kg/hr)の速度で供給し、全圧1.4MPa、平均滞留時間1.7Hrの条件下で連続的に第1段共重合を行った。
第1段反応器の重合生成物を一部採取し、重合物を回収して物性を測定した結果を、「成分(A)」として、表2に示した。
第一段反応器で生成したスラリー状重合生成物を、そのまま内容積400リットルの第二段反応器へ全量、内径50mmの連続管を通して導入し、重合器内容物を所要速度にて排出しながら、82℃にて、重合溶媒(n−ヘキサン)100(l/hr)、水素14.7(g/hr)、エチレン33.4(kg/hr)の速度で供給し、全圧1.3MPa、平均滞留時間1.2Hrの条件下で連続的に第2段重合を行った。
第二段反応器から排出される重合生成物をフラッシング槽へ導入し、重合生成物を連続的に抜き出し、脱気ラインから未反応ガスを除去した。
得られた重合体を、スチームストリッピング処理を施した後、ペレタイザーで造粒した後、その物性を評価した。結果を表2に示した。なお、表2において、第二段反応器で生成した「成分(B)」の物性は、最終製品であるポリエチレン組成物の物性と第一段反応器で得られた成分(A)の物性とから、加成則に基づく計算により求めた。表2から明らかなように、得られた重合体は、引張降伏強度、曲げ弾性率、FNCTなどの機械物性に優れ、なおかつ収縮率異方性(MD/TD)が1.3と適性であった。
【0048】
[実施例2〜6]
表1に示す条件以外は、実施例1と同様に行った。得られた重合体の評価結果を表2に示した。得られた重合体は、引張降伏強度、曲げ弾性率、FNCTなどの機械物性に優れ、なおかつ収縮率異方性(MD/TD)が適性値であった。
【0049】
[比較例1〜8]
表1に示す条件以外は、実施例1と同様に行った。得られた重合体の評価結果を表3に示した。表3より、比較例1は、機械物性上、問題はないが、収縮率異方性が大きく、射出成形品に問題が生じるものとなった。また、比較例2、3においても、機械物性上、問題はないが、収縮率異方性が大きく、射出成形品に問題が生じるものとなった。
さらに、比較例4及び5は、収縮率異方性が適性値であるものの、FNCT,定ひずみESCRが小さく、製品にクラックが発生することが示唆される。また、比較例6は、HLMFRが大きく、密度が小さく、曲げ弾性率、引張降伏強度が小さいため、容器蓋適性が十分ではなかった。
さらに、比較例7は、物性バランスは比較的よいものの、収縮率異方性が大きいものとなり、また、比較例8は、収縮率異方性は適正値であるもの、曲げ弾性率、引張降伏強さ、FNCTが小さいため、容器蓋適性が十分ではなかった。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば、PETボトル入り飲料の液体を収容するための容器の蓋に好適であり、耐ストレスクラック性、剛性を維持しながら、射出成形性が改良され、収縮率異方性が少なく、かつ容器蓋のブリッジ切れが適切な容器蓋を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
20質量%以上40質量%未満のエチレン系重合体(A)及び60質量%超80質量%以下のエチレン系重合体(B)を含むポリエチレン樹脂組成物であって、
エチレン系重合体(A)は、温度190℃、荷重21.6Kgにおけるメルトフローレート(HLMFR)が1g/10分以上10g/10分以下、及び密度が0.910g/cm以上0.950g/cm以下であり、エチレン系重合体(B)は、温度190℃、荷重2.16Kgにおけるメルトフローレート(MFR)が30g/10分以上150g/10分未満、及び密度が0.960g/cm以上であり、並びにポリエチレン樹脂組成物は、(i)MFRが1g/10分以上10g/10分未満、HLMFRが70g/10分以上400g/10分未満、HLMFR/MFRが40以上80未満であり、及び(ii)密度が0.953g/cm以上0.965g/cm未満であることを特徴とする射出成形容器蓋用ポリエチレン樹脂組成物。
【請求項2】
エチレン系重合体(A)の密度が0.910g/cm以上0.935g/cm以下であることを特徴とする請求項1に記載の射出成形容器蓋用ポリエチレン樹脂組成物。
【請求項3】
さらに、(iii)曲げ弾性率が800MPa以上、(iv)引張降伏強さが25MPa以上、(v)炭化水素揮発分が80ppm以下、(vi)120×120×2mmの射出成形板の収縮率異方性(MD/TD)が1.0以上2.0未満、及び(vii)定ひずみESCRが10Hr以上1000Hr以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の射出成形容器蓋用ポリエチレン樹脂組成物。
【請求項4】
さらに、(viii)1.9MPaにおけるFNCTが60時間以上であることを特徴とする請求項3に記載の射出成形容器蓋用ポリエチレン系樹脂組成物。
【請求項5】
射出成形容器蓋が炭酸飲料用容器蓋であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の射出成形容器蓋用ポリエチレン樹脂組成物。

【公開番号】特開2009−18868(P2009−18868A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−151775(P2008−151775)
【出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【出願人】(303060664)日本ポリエチレン株式会社 (233)
【Fターム(参考)】