説明

射撃目標評価方法

【課題】目標選択のための処理時間を短縮できるとともに、選択の結果とその根拠との因果関係を明確化し得る射撃目標評価方法を提供すること。
【解決手段】前記敵部隊の兵器数量をPとし、前記我部隊の装備数量をAとし、規定の損耗係数をKとしたとき、影響度=P×A×Kなる定義式に基づいて影響度の概念を導入し、この影響度を算出してその値に基づいて射撃目標への射撃価値を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば遠戦火力における指揮統制において射撃すべき目標を評価するため
の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遠戦火力戦闘指揮統制では、従来から人間系によって攻撃目標の重要度の評価および目標選択が行われてきた。このため処理に時間がかかり、即応性が求められる状況などでは対応が困難な場合もあった。また一度に多くの条件を考慮した意思決定を行わなくてはならず、担当者に対する負荷が大きかった。
【0003】
一方、遠戦火力戦闘指揮統制の一部の処理を自動化するシステムも従来から提案されている。米国のAFATDSでは様々な条件を基準表に予め書き込んでおき、報告された射撃目標の候補に対して全ての条件を当てはめて複数の重みを決定する。さらにそれらの重みを線形結合により一つの評価値を決める。そして、その評価値がある閾値を越えた場合は射撃目標として選択するようにする。
【0004】
しかしながらお互いの関連が不明である膨大な量の基準表のパラメータを決定するのは困難であり、線形結合モデルとして評価を行う物理的な意味も不明確であった。さらに、射撃目標の選択結果に対して論理的な理由付けが難しいという欠点もある。
このほか下記特許文献1に、関連する技術が開示される。この文献には、射撃すべき目標が出現しそうな地域を予め定めておき、射撃目標が発生したら射撃を実施する方式が示されている。しかしながらこの方式には出現地域の特定が難しく、また、予想していない目標に対しては適用することができないという欠点がある。
【特許文献1】特許3544898号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように既存の技術では、遠戦火力における指揮統制において射撃すべき目標を評価するための人間系の負担が大きく、目標選択にかかる時間も長い。また目標の選択結果に対する根拠が乏しいという不具合もある。
この発明は上記事情によりなされたもので、その目的は、目標選択のための処理時間を短縮できるとともに、選択の結果とその根拠との因果関係を明確化し得る射撃目標評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためにこの発明の一態様によれば、敵部隊に含まれる射撃目標への射撃価値を我部隊において評価する射撃目標評価方法であって、前記敵部隊の兵器数量をPとし、前記我部隊の装備数量をAとし、規定の損耗係数をKとしたとき、影響度=P×A×Kなる定義式に基づいて影響度の概念を導入し、この影響度を算出してその値に基づいて前記射撃価値を評価することを特徴とする射撃目標評価方法が提供される。
【0007】
すなわちこの発明では、射撃目標を選択するための評価値として影響度を導入する。影響度は、敵部隊が仮に我部隊を攻撃した場合に我部隊全体が被るであろう損耗の大きさを表す尺度として用いることができる。損耗の大きさは我敵の距離、敵兵器の攻撃能力と数量、我装備の防御能力と数量によって決める。
【0008】
さらにこの発明では、我部隊の機動計画および敵部隊の可能行動予想を設定することによって現時点から将来のある時点までの期間に渡っての影響度を評価するようにしている。これにより、現在の状況において想定される我部隊の損耗のみならず、将来の損耗の可能性を考慮した射撃目標選択ができる。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、目標選択のための処理時間を短縮できるとともに、選択の結果とその根拠との因果関係を明確化し得る射撃目標評価方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1はこの発明の実施の形態を示す機能ブロック図である。図1において、主たる処理は影響度評価機能50により実現される。影響度評価機能50は汎用のワークステーションに専用のアプリケーションを実装して実現される。影響度評価機能50には、我部隊移動計画10、敵部隊可能行動20、我部隊装備情報30、および、敵部隊攻撃能力情報40が入力される。影響度評価機能50はこれらの諸データに基づいて評価結果60を算出する。ここで、我部隊移動計画10、敵部隊可能行動20、我部隊装備情報30、および、敵部隊攻撃能力情報40の各情報は、図示しないハードディスクなどのハードウェアからなる記憶装置に記憶されている。
【0011】
図2は現在から将来に渡る影響度の評価方法を説明するための図である。図2において、A0,A1,A2は我部隊Aの時刻T0,T1,T2における位置である。またP0,P1,P2は同様に敵部隊Pの位置である。P0,P1,P2を中心とする円は部隊Pの攻撃範囲を示している。以下の表に、部隊A、Pの各時刻における座標を示す。なお、それぞれの表には部隊Aに関連する部隊Bの座標と、部隊Pに関連する部隊Qの座標とが示される。
【0012】
【表1】

【0013】
【表2】

【0014】
部隊Aは、位置A0において位置P0に存在する部隊Pの攻撃範囲に入っている。この時に部隊Aに対する部隊Pの影響度は、
影響度=部隊Pの兵器数量×部隊Aの装備数量×損耗係数
と求められる。ただし損耗係数とは、部隊Pの兵器種別と部隊Aの装備種別の組み合わせにより次の表から決まる係数である。
【0015】
【表3】

【0016】
さらに部隊Aだけでなく、我部隊の全てについて部隊Pの影響度を評価して足し合わせることによって部隊Pの我部隊全体に対する影響度を定義できる。このようにして、ある時点での全ての敵の影響度を評価することによって、射撃すべき目標を比較することが可能になる。この比較の結果をもとに、射撃すべき目標の選択処理を自動化することができる。
【0017】
影響度は部隊Aがその位置を機動計画に従って、また部隊Pが予測位置にしたがってそれぞれ変化した場合でもそれぞれの位置で評価することができる。図2では部隊Aと部隊Pが時刻T0からT2の間にそれぞれ移動する。位置A0においては、部隊Aは位置P0に存在する部隊Pの攻撃範囲に入っているが、移動することにより位置A1の手前で一旦部隊Pの攻撃範囲から外れる。さらに移動を続けると、部隊Aは再び位置A2の手前で攻撃範囲に入る。
【0018】
このように各部隊の移動に伴い、影響度も大きな値になる時刻と小さな値またはゼロになる時刻とがある。この実施形態では影響度を現在の時刻だけでなく将来の時刻に渡って評価して、それらを加算あるいは積分することにより、将来の状況を考慮した目標選択の指標を作成するようにする。
【0019】
図3は全ての敵部隊の我部隊に対する影響度を現時刻から将来のある時刻まで評価する手順について説明するためのフローチャートである。いま部隊Aが図3に示す計画で移動する場合、一つの区分線形区間、すなわち時刻t(Ti<t<Ti+1,i=0,1)における位置座標xa(t),ya(t)は、次式(1)、(2)に示すように線形補完できるとする。
【0020】
【数1】

【0021】
部隊Pについても同様に、図2で示す計画で移動する場合には式(1)、(2)のaをpに置き換えた式として表現できる。ここで部隊Aが部隊Pの攻撃範囲(半径Rとする)に入る条件を考えた場合、部隊AとPの距離がR以下であればよい。その条件は次式(3)に示される。
【0022】
【数2】

【0023】
式(3)から、部隊Aが部隊Pの攻撃範囲に入る条件は時刻tの二次不等式となり、次式(4)に示される。
【0024】
【数3】

【0025】
式(4)の不等式が実数解を持つ条件は次式(5)に示す判別式Dが0以上であることと等値である。
【0026】
【数4】

【0027】
従って、部隊Aに対する部隊Pの影響度が計算される区間(時刻)は次式(6)、およびTi≦t≦Ti+1の重なる部分である。
【0028】
【数5】

【0029】
さて、図3のフローチャートにおいて、ステップS3〜S5のループにおいて全ての時刻Tiにつき時刻TiからTi+1の影響度を算出し、評価値Eに累積加算する。この手順を全ての敵部隊、および全ての我部隊につき実施することで、影響度の総和を算出することができる(ステップS1,S2)。
【0030】
図4は、区分線形区間ごとの影響度を評価する手順を説明するためのフローチャートである。図4において、まず処理対象の期間における開始時刻と終了時刻との差を求める(ステップS41)。その結果に基づき、開始位置および終了位置におけるX座標の差、およびY座標の差を各部隊ごとに求める(ステップS42,43)。これをもとに各部隊の移動線と攻撃範囲の境界の交点を求める二次方程式の係数を求め(ステップS44)、交点の存在する条件から影響度の計算される範囲を求める(ステップS45)。そして、算出された影響度を全て加算する(ステップS46)ことにより、一つの区分線形区間における影響度を評価することができる。以上の手順によれば、射撃目標となる敵部隊の我部隊に対する影響度を、現在から指定した時刻まで評価することが可能になる。従ってこの実施形態によれば、目標選択の処理を自動化して処理時間を短縮することができるようになり、射撃目標選択の因果関係が説明しやすい意思決定の方法を提供することが可能になる。
【0031】
なおこの発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】この発明の実施の形態を示す機能ブロック図。
【図2】現在から将来に渡る影響度の評価方法を説明するための図。
【図3】全ての敵部隊の我部隊に対する影響度を現時刻から将来のある時刻まで評価する手順を示すフローチャート。
【図4】区分線形区間ごとの影響度を評価する手順を説明するためのフローチャート。
【符号の説明】
【0033】
10…我部隊移動計画、20…敵部隊可能行動、30…我部隊装備情報、40…敵部隊攻撃能力情報、50…影響度評価機能、60…評価結果

【特許請求の範囲】
【請求項1】
敵部隊に含まれる射撃目標への射撃価値を我部隊において評価する射撃目標評価方法であって、
前記敵部隊の兵器数量をPとし、前記我部隊の装備数量をAとし、規定の損耗係数をKとしたとき、
影響度=P×A×K
なる定義式に基づいて影響度の概念を導入し、この影響度を算出してその値に基づいて前記射撃価値を評価することを特徴とする射撃目標評価方法。
【請求項2】
前記我部隊が複数の小部隊から編成される場合に、前記小部隊ごとの個別の影響度を前記定義式により算出し、その総和に基づいて前記射撃価値を評価することを特徴とする請求項1に記載の射撃目標評価方法。
【請求項3】
前記損耗係数は、各兵器と各装備とのそれぞれの組み合わせごとに定義されることを特徴とする請求項1に記載の射撃目標評価方法。
【請求項4】
さらに、前記我部隊の機動計画および前記敵部隊の可能行動予想に基づいて、現時点から未来の任意の時点にわたる期間における前記敵部隊と前記我部隊との位置関係を算出し、その結果に基づいて前記期間内における前記影響度を評価することを特徴とする請求項1に記載の射撃目標評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−258351(P2006−258351A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−75665(P2005−75665)
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(301063496)東芝ソリューション株式会社 (1,478)
【Fターム(参考)】