説明

導坑を用いた覆工工法及びトンネル施工方法

【課題】導坑内から特殊な補助工法をしなくとも、導坑のみを利用して外殻覆工体を簡単かつ経済的に、しかも、導坑に対する止水を行いながら推進工法により能率的に構築でき、また、地下空間のルーフ部ばかりでなく、地下空間の側壁部及び底部にも導坑を利用した外殻覆工体を同様に構築できるようにする。
【解決手段】2本の導坑2・3の一方の導坑3の内面に、平行な止水レール11・12を導坑3に沿って設けるとともに、その止水レール11・12の間の導坑覆工部を切削可能な切削覆工部としておき、2本の導坑2・3間にわたる長さの掘削機13を覆工部材18を介して推進し、この掘削機13の止水継手部を、導坑3内において平行な止水レール11・12と摺動可能に嵌合させて止水しながら、導坑3の切削覆工部を他方の導坑2の切削覆工部と共に掘削機13で切削しつつ2本の導坑2・3間を掘削し、それに伴い覆工部材18を順次押入して2本の導坑間2・3に外殻覆工体を構築する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、先行して施工した導坑を用いて外殻覆工体を構築する覆工工法、及びその外殻覆工体で囲繞されたトンネルを施工するトンネル施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導坑を用いて外殻覆工体を構築する覆工工法、及びその構築後のトンネル施工方法として、特許文献1(特開2002−266598号公報)に記載の方法がある。
この方法は、シールド工法を応用したもので、次の手順で施工する。
(1)発進立坑から到達立坑まで、任意の距離を隔てて平行に複数の導坑を施工する。
(2)導坑内から地下に向けて、導坑の全長に渡り連続した止水壁を予め構築し、導坑内に立っている止水壁の上部にガイドレールを敷設しておく。
(3)発進立坑からシールド掘進機を発進させ、導坑内のガイドレールによってシールド掘進機の進行方向をガイドし、シールド掘進機に設けた破砕ロータで導坑の支保構造の一部を切削しながら、二本の導坑間の地山を掘削していく。
(4)所定の距離を掘進した後、シールド掘進機後部で袋詰コンクリート覆工により外殻覆工体を構築していく。
(5)このようにして目的とする地下空間のルーフ部となる外殻覆工体を構築した後、隣接する導坑において止水壁の間の地山を掘削し、これを次の隣接する導坑間でも繰り返して、隣接する導坑間の外殻覆工体が一区画のルーフ部となる大断面のトンネルを構築する。
【0003】
しかし、これによると次のような問題点がある。
(ア)導坑内から地下へ延びる止水壁を導坑の全長に渡り構築するので、導坑構築後に、その内部から止水壁を構築する補助工法が必要であり、多大な時間と費用を必要とする。
(イ)止水壁は、外殻覆工体の構築後に、その下側を掘削する際の止水壁となるものの、シールド掘進機で導坑の支保構造の一部を切削しながら導坑間の地山をシールド掘進機で掘削していく際の止水、すなわち、切削される導坑に対する止水については、何らの配慮もされていない。
(ウ)止水壁の上部のガイドレールに沿ってシールド掘進機を推進させて地山を掘削し、シールド掘進機後部から袋詰コンクリート覆工により外殻覆工体を構築していくので、地下駐車場等の地下空間のルーフ部となる外殻覆工体しか構築することができない。
(エ)導坑を、その内部から地下に向けて止水壁を構築することができる充分な大きさの断面で、しかも、底部に覆工のない底部開放形とする必要があり、導坑をヒューム管等の既製のもので簡易に構築することができない。
【特許文献1】特開2002−266598号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、導坑内から特殊な補助工法をしなくとも、導坑のみを利用して外殻覆工体を簡単かつ経済的に、しかも、導坑に対する止水を行いながら推進工法により能率的に構築でき、また、地下空間のルーフ部ばかりでなく、地下空間の側壁部及び底部にも導坑を利用した外殻覆工体を同様に構築できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る本発明の覆工工法は、2本の導坑の少なくとも一方の内面に、平行な止水レールを導坑に沿って設けるとともに、その止水レールの間の導坑覆工部を切削可能な切削覆工部としておき、2本の導坑間にわたる長さの掘削機を覆工部材を介して推進し、この掘削機の止水継手部を、一方の導坑内において平行な止水レールと摺動可能に嵌合させて止水しながら、一方の導坑の切削覆工部を他方の導坑の切削覆工部と共に掘削機で切削しつつ2本の導坑間を掘削し、それに伴い覆工部材を順次押入して2本の導坑間に外殻覆工体を構築する。
【0006】
その実施形態である請求項2に係る発明は、覆工部材の止水継手部も導坑内で止水レールと摺動可能に嵌合させて止水しながら、覆工部材を推進させる。
【0007】
同じく請求項3に係る発明は、掘削機から張り出した止水プレートを、掘削機の止水継手部よりも導坑内で先行させて切削覆工部との間を止水する。
【0008】
請求項4に係る発明は、2本の導坑のうちの一方の導坑は、平行な止水レールを設けて掘削機の止水継手部との嵌合により止水し、他方の導坑は、その内部に設けた隔壁よりも外側の部分を切削容易な切削覆工部として、この隔壁にて止水する。
【0009】
請求項5に係る発明は、外殻覆工体を構築した後、導坑内に充填材を充填する。
【0010】
請求項6に係る本発明のトンネル施工方法は、上下左右4本の導坑間に上記のような覆工工法により上下左右の外殻覆工体を構築して閉合した後、これらで囲繞されたその内部を掘削する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の覆工工法によれば、導坑の内面に、平行な止水レールを導坑に沿って設けるとともに、その止水レールの間の導坑覆工部を切削可能な切削覆工部としておき、この切削覆工部を切削しながら掘削機を覆工部材を介して推進工法で推進させ、その際に掘削機の止水継手部を、平行な止水レールと摺動可能に嵌合させて止水しながら導坑間を掘削するので、導坑内から特殊な補助工法をしなくとも、導坑のみを利用して外殻覆工体を簡単かつ経済的に、しかも、導坑に対する止水を行いながら推進工法により能率的に構築できる。
【0012】
請求項2に係る発明によれば、覆工部材の止水継手部も導坑内で止水レールと摺動可能に嵌合させて止水しながら、覆工部材を推進させるので、切削覆工部を切削された導坑と外殻覆工体となる覆工部材との間からの浸水も防止できる。
【0013】
請求項3に係る発明によれば、掘削機から張り出した止水プレートを、掘削機の止水継手部よりも導坑内で先行させて切削覆工部との間を止水するので、切削直前の切削覆工部との間を止水プレートで止水しながら、つまり、掘削機先端での止水性を確保しながら切削覆工部を切削できる。
【0014】
請求項4に係る発明によれば、2本の導坑のうちの他方の導坑は、その内部に設けた隔壁よりも外側の部分を切削容易な切削覆工部として、この隔壁にて止水するので、簡易な止水で代用できる。
【0015】
請求項5に係る発明によれば、外殻覆工体を構築した後、導坑内に充填材を充填するので、導坑を外殻覆工体完成後にその一部とすることができる。
【0016】
請求項6に係る本発明のトンネル施工方法は、上下左右の外殻覆工体を上記のようにして構築して閉合した後、これらで囲繞されたその内部を掘削するので、大断面トンネルを効率的にかつ経済的に築造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例】
【0018】
図1に本発明の実施例の全体図を示す。
発進立坑1から平行する上下左右4本の導坑2・3・4・5を推進工法によりヒューム管にて施工する。
今、これら4本の導坑2・3・4・5のうち、上側の左右2本の導坑2・3間に外殻覆工体を構築する場合を例にする。
【0019】
2本の導坑2・3は、図2及び図3に示すように、ヒューム管6にその軸線方向のスリット7を設けて断面C形とし、このスリット7を貧配合モルタル8で補填してその補填した導坑覆工部を切削可能な切削覆工部2a・3aとしたものであるが、内部構造が異なる。
【0020】
すなわち、導坑2は、図3及び図5に示すように、ヒューム管6の内部に隔壁9を設けて、スリット7からこの隔壁9までの間に貧配合モルタル8を充填して切削覆工部2aを形成している。なお、図6に示すように、隔壁9及び貧配合モルタル8による切削覆工部2aで強度が保てない場合には、その外側に、切削可能な素材による切削補強部材10を所要の間隔で設ける。また、スリット7の開口縁を含むその周囲の内外面を覆うように補強用鋼板7aを付設する。
【0021】
一方、導坑3は、図3、図4及び図7に示すように、スリット7に沿って平行な2本の止水レール11・12を内面に設け、スリット7から止水レール11・12の間の途中までに貧配合モルタル8を充填して切削覆工部3aを形成している。止水レール11・12の側縁はC形の嵌合継手部11a・12aとなっている。
【0022】
このような2本の導坑2・3間を掘削する掘削機13は、2本の導坑2・3間に渡る長さの平板状の掘削機であって、その前面に設けたロータリ式カッタ14により地山を掘削するとともに、2本の導坑2・3の切削覆工部2a・3aを切削する。この掘削機13には、導坑3内の止水レール11・12の嵌合継手部11a・12aと摺動自在に嵌合する止水継手部15・16が設けられている。カッタ14は、掘削機13の一端に設けられているカッタ駆動モータ17により導坑3内から駆動される。
【0023】
2本の導坑2・3間に外殻覆工体を構築する場合、掘削機13を発進立坑1から発進させ、導坑2・3間に渡る長さの平板状の覆工部材18を掘削機13の後ろに設置し、これを発進立坑1内から複数の推進ジャッキ19で押して掘削機13を覆工部材18と共に推進させる。なお、推進ジャッキ19は発進立坑1内に設置した反力壁1aで反力をとる。
【0024】
その推進中、掘削機13の止水継手部15・16を導坑3内の止水レール11・12の嵌合継手部11a・12aと摺動自在に嵌合させるとともに、覆工部材18の一端に設けられた止水継手部(図示せず)も、止水レール11・12の嵌合継手部11a・12aと摺動自在に嵌合させる。また、図8に示すように、掘削機13の一側端から止水プレート22を導坑3内で前方へ張り出しておく。この止水プレート22にはワイヤーブラシやパテグリス等を設置しておく。
【0025】
このような状態で掘削機13及び覆工部材18を同時に推進させると、2本の導坑2・3間の地山がスリット状に掘削されるとともに、導坑2・3の切削覆工部2a・3aが切削され、その際、導坑2内では隔壁9により止水され、導坑3内では、止水プレート22が先行して進むことにより、切削直前の切削覆工部3aとの間を止水プレート22で止水しながら切削覆工部3aを切削できるとともに、掘削機13の止水継手部15・16及び覆工部材18の止水継手部20・21が、止水レール11・12の嵌合継手部11a・12aと摺動自在に嵌合していることにより、切削覆工部3aの切削後にできる隙間からの浸水を防止できる。なお、導坑3内では、掘削機13の後方で補強用支保工23を順次建て込んでいく。
【0026】
掘削機13による掘削の進行に伴い、覆工部材18を順次継ぎ足しながら推進することにより、2本の導坑2・3間に覆工部材18によるフラットな外殻覆工体24が構築される。
【0027】
このようにして導坑2・3間に外殻覆工体24を構築した後、図9(A)〜(E)に工程を示すように、導坑2と導坑4との間、導坑3と導坑5との間、導坑4と導坑5との間でも同様にして外殻覆工体25・26・27を構築し、各導坑2・3・4・5内に充填材28を充填して上下左右の外殻覆工体24・25・26・27を閉合した後、これらで囲繞されたその内部を掘削すると、矩形大断面のトンネルが完成する。
【0028】
なお、上記の実施例では、2本の導坑2・3のうちの一方の導坑3については、止水レール11・12を設けて掘削機13の止水継手部15・16との嵌合により止水し、他方の導坑2については隔壁9を設けて止水したが、掘削機13の止水継手部15・16と止水レール11・12との嵌合による止水を両方の導坑2・3について行ってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の覆工工法は、トンネル施工に限らず、トンネルの拡幅工法等にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施例の全体斜視図である。
【図2】その水平断面図である。
【図3】図2におけるA−A線位置の断面図である。
【図4】同じくB−B線位置の断面図である。
【図5】2本の導坑のうち隔壁により止水する導坑側の構造を示す斜視図である。
【図6】その他の例を示す斜視図である。
【図7】2本の導坑のうち掘削機の止水継手部と止水レールとの嵌合による止水する導坑側の構造を示す斜視図である。
【図8】図7の状態に加えて掘削機の一側端から止水プレートを前方へ張り出した状態の斜視図である。
【図9】上下左右の導坑施工後から上下左右の外殻覆工体を構築し、それらで囲繞されたその内部を掘削して矩形大断面のトンネルが完成するまでの工程を(A)〜(E)の順に示す説明図である。
【符号の説明】
【0031】
1 発進立坑
1a 反力壁
2・3・4・5 導坑
2a・3a 切削覆工部
6 ヒューム管
7 スリット
8 貧配合モルタル
9 隔壁
10 切削補強部材
11・12 止水レール
11a・12a 嵌合継手部
13 掘削機
14 カッタ
15・16 止水継手部
17 カッタ駆動モータ
18 覆工部材
19 推進ジャッキ
22 止水プレート
23 補強用支保工
24・25・26・27 外殻覆工体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2本の導坑の少なくとも一方の内面に、平行な止水レールを導坑に沿って設けるとともに、その止水レールの間の導坑覆工部を切削可能な切削覆工部としておき、2本の導坑間にわたる長さの掘削機を覆工部材を介して推進し、この掘削機の止水継手部を、一方の導坑内において前記平行な止水レールと摺動可能に嵌合させて止水しながら、一方の導坑の前記切削覆工部を他方の導坑の切削覆工部と共に掘削機で切削しつつ2本の導坑間を掘削し、それに伴い前記覆工部材を順次押入して2本の導坑間に外殻覆工体を構築することを特徴とする導坑を用いた覆工工法。
【請求項2】
覆工部材の止水継手部も導坑内で止水レールと摺動可能に嵌合させて止水しながら、覆工部材を推進させることを特徴とする請求項1に記載の導坑を用いた覆工工法。
【請求項3】
掘削機から張り出した止水プレートを、掘削機の止水継手部よりも導坑内で先行させて切削覆工部との間を止水することを特徴とする請求項1又は2に記載の導坑を用いた覆工工法。
【請求項4】
2本の導坑のうちの一方の導坑は、平行な止水レールを設けて掘削機の止水継手部との嵌合により止水し、他方の導坑は、その内部に設けた隔壁よりも外側の部分を切削容易な切削覆工部として、この隔壁にて止水することを特徴とする請求項1、2又は3に記載の導坑を用いた覆工工法。
【請求項5】
外殻覆工体を構築した後、導坑内に充填材を充填することを特徴とする請求項1、2、3又は4に記載の導坑を用いた覆工工法。
【請求項6】
上下左右4本の導坑間に請求項1〜5のいずれかの覆工工法により上下左右の外殻覆工体を構築して閉合した後、これらで囲繞されたその内部を掘削することを特徴とする導坑を用いたトンネル施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−30231(P2009−30231A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−192110(P2007−192110)
【出願日】平成19年7月24日(2007.7.24)
【出願人】(303057365)株式会社間組 (138)
【Fターム(参考)】