説明

導波管

【課題】 使用可能な周波数帯域を広げつつ、寸法誤差により生じる信号波の伝送特性の劣化を抑制することができる導波管を提供する。
【解決手段】 本発明の導波管1は、第一導波管路10と、第二導波管路11と、第一導波管路10の端部と第二導波管路11の端部とを接続する接続空間15とを備えている。接続空間15は、第一導波管路10の端縁10aを基端として第二の方向とは逆方向に延びる第一の壁面15aと、第一の壁面15aに直交して設けられて第二の方向に進む信号波と共振しうる反射波を生じさせる第一の直交壁面15dと、第二導波管路11の端縁11aを基端として第一の方向に延びる第二の壁面15bと、第二の壁面に直交して設けられて第二の方向に進む信号波と共振しうる反射波を生じさせる第二の直交壁面15cとを含む複数の壁面によって画定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波や、ミリ波等を伝送するための導波管に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車等に搭載されるレーダでは、マイクロ波やミリ波等の信号波を送受信するための送受信部と、前記信号波を空間に放射するアンテナとの間には、前記信号波を伝送するための導波管が用いられている。
前記導波管には、信号波を伝送するにあたって、その伝送方向を変換するものがある。このような、伝送方向を変換するための導波管は、不要な反射等を生じさせたり信号波を減衰させたりすることなくスムーズに伝送方向を変換するために、導波管の管路を変換すべき伝送方向に向けて所定の曲率でスムーズに曲げたものや、伝送方向を変換する角部の外側内面に階段状のステップ面を設けたものが用いられることがあった(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記導波管に設けられるステップ面は、伝送する信号波の波長に応じて非常に小さい段差面を精度良く形成する必要があるため、より簡易な構成として、伝送方向を変換する角部に共振部を設けたバックショート構造を採用するものもある。
このバックショート構造とは、図10に示すように、信号波が導入される一の導波管路100と、この一の導波管路100の端部に直角に接続された他の導波管路101との間の角部102に、共振部103が設けられている構造である。このバックショート構造では、共振部103が、当該共振部103に侵入する信号波を短絡終端し、終端したときの反射波の位相を一の導波管路100から導入された信号波と同位相とすることで当該信号波を減衰させないように構成されている。このため、良好な伝送特性を維持しつつ、当該信号波の伝送方向の変換をスムーズに行うことができる。
【0004】
また、上記導波管は、導波管となる溝部を形成した複数の金属板等を組み合わせて構成されることがある。例えば、図10の導波管では、分割線104に沿う面が合わせ面とされた2枚の金属板を組み合わせて構成されている。紙面上側の金属板105には、他の導波管路101及び共振部103となるべき溝部が形成され、紙面下側の金属板106には、一の導波管路100となるべき溝部が形成されている。そして、これら両金属板を組み合わせることで、導波管が構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−246801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のバックショート構造を有する導波管によれば、簡易な構成で信号波の変換をスムーズに行うことができる一方、このバックショート構造は、共振部103による反射波の位相を当該共振部103の長さ寸法によって設定し、信号波の減衰を抑制するものなので、減衰を抑制することが可能な信号波の波長の範囲が限定され、使用可能な信号波の周波数帯域が比較的狭くなるという特性を有している。
【0007】
さらに、使用可能な信号波の周波数帯域が狭いという特性のため、導波管の各部の寸法の相違が、信号波の伝送特性に影響を及ぼすことがあり、金属板105と金属板106とが、合わせ面で所定の位置に対してずれた状態で組み合わされたり、金属板に溝部を形成する際の加工誤差等によって、予め設定された設計寸法に対して誤差を含んだ寸法で導波管として構成されたときに、信号波の伝送特性が劣化する場合があった。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、使用可能な周波数帯域を広げることで、寸法誤差により生じる信号波の伝送特性の劣化を抑制することができる導波管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、寸法誤差により生じる信号波の伝送特性の劣化を抑制しつつ伝送方向を変換できる導波管を開発をすべく、上記従来のバックショート構造が有する共振部を構成する空間に着目しつつ、鋭意研究を重ねた。その中で、方向の異なる導波管路を互いに繋いだ接続部に、共振部に相当する空間をより大きく拡張した空間を設ければ、信号波と反射波との間で近接する二つの共振点を生じさせることができることを見出し、これによって、使用可能な周波数帯域を広げることができ、各部が誤差を含んだ寸法で形成されたとしても、その影響が緩和されて信号波の伝送特性の劣化を抑制することができることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、信号波の伝送方向を第一の方向から、前記第一の方向と直交する第二の方向に変換する導波管であって、前記第一の方向に延びる断面方形の第一導波管路と、前記第二の方向に延びる断面方形の第二導波管路と、前記第一導波管路の端部と、前記第二導波管路の端部とを接続する接続空間と、を備え、前記接続空間は、前記第一導波管路の端縁を基端として前記第二の方向とは逆方向に延びる第一の壁面と、前記第一の壁面に直交して設けられて前記第二の方向に進む前記信号波と共振しうる反射波を生じさせる第一の直交壁面と、前記第二導波管路の端縁を基端として前記第一の方向に延びる第二の壁面と、前記第二の壁面に直交して設けられて前記第二の方向に進む前記信号波と共振しうる反射波を生じさせる第二の直交壁面と、を含む複数の壁面により画定され、前記第一及び第二導波管の断面積よりも大きい断面方形の空間であることを特徴としている。
【0011】
上記構成の導波管によれば、第一の壁面に直交して設けられて第二の方向に進む信号波と共振しうる反射波を生じさせる第一の直交壁面と、第二の壁面に直交して設けられて第二の方向に進む信号波と共振しうる反射波を生じさせる第二の直交壁面とを含んだ複数の壁面によって画定された接続空間を有しているので、反射係数における周波数特性において、接続空間で生じる反射波と、信号波との間で、二つの共振点を近接させて生じさせることができる。これによって、有効な反射係数が得られる使用可能な周波数帯域を実質的に広げることができ、各部が誤差を含んだ寸法で形成されたとしても、その影響を緩和して信号波の伝送特性の劣化を抑制することができる。
【0012】
上記導波管において、前記第一の壁面は、前記第一導波管路の端縁と繋がっている前記第二導波管路の管壁と実質的に面一に形成され、前記第二の壁面は、前記第二導波管路の端縁と繋がっている前記第一導波管路の管壁と実質的に面一に形成されていることが好ましい。
ここで、上記「実質的に面一」とは、所定寸法に基づいて誤差なく面一である状態の他、本導波管を製造する上で不可避な加工誤差や組み立て誤差を有することでほぼ面一な状態をも含んだ状態をいう。
この場合、第一導波管路から導入される信号波を速やかに接続空間に導き、接続空間によって生じる反射波と信号波とを共振させることができる。この結果、より効果的に使用可能な周波数帯域を実質的に広げることができる。
【0013】
また、上記導波管において、前記第一導波管路の端縁と、前記第二導波管路の端縁とが繋がっている交差部には、その先端部分を方形状に切り欠いた段差部が形成されていることが好ましく、この場合、反射係数における周波数特性において、上述の二つの共振点の位置関係を広げるように調整することができ、使用可能な周波数帯域をさらに広げることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、使用可能な周波数帯域を広げることで、寸法誤差により生じる信号波の伝送特性の劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る導波管の斜視図である。
【図2】導波管の断面図である。
【図3】本実施形態の導波管の反射係数の周波数特性を示すグラフである。
【図4】本発明の第二の実施形態に係る導波管の断面図である。
【図5】本実施形態(第二の実施形態)の導波管の反射係数の周波数特性を示すグラフである。
【図6】接続空間の寸法と、反射係数の周波数特性との関係を示したグラフであり、(a)は、実施例品1、(b)は、実施例品2、(c)は、比較例品のグラフを示している。
【図7】第一導波管路の相対的な位置をずらしたときの比帯域の変化を示したグラフであり、(a)は、第一導波管路をY軸方向にずらしたときの比帯域の変化、(b)は、第一導波管路をX軸方向にずらしたときの比帯域の変化を示している。
【図8】第一導波管路の相対的な位置をずらしたときの共振周波数の変化を示したグラフであり、(a)は、第一導波管路をY軸方向にずらしたときの共振周波数の変化、(b)は、第一導波管路をX軸方向にずらしたときの共振周波数の変化を示している。
【図9】図7、図8の数値データを示す表である。
【図10】従来の導波管の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の第一の実施形態に係る導波管1の斜視図である。
図1中、導波管1は、2枚の板部材2,3を組み合わせることにより構成されており、マイクロ波やミリ波といった信号波が導入されて伝送するための導波管路が、その内部に形成されている。なお、以下の説明では、図中に示すように、板部材2,3の厚み方向をZ方向、板部材の平面上の縦横方向をそれぞれX方向、Y方向として示す。
【0017】
板部材2,3は、例えば、厚みが3.5mmのアルミニウム合金板を用いて形成された部材である。板部材3と重ね合わされる板部材2の下面には、上側方向に凹む溝部2aが形成されている。また、板部材3には、当該板部材3を上下方向(Z方向)に貫通している第一導波管路10が形成されている。
板部材2,3は、互いに組み合わせたときの位置決めを行うための図示しない位置決め手段によって、X−Y方向に所定の位置で組み合わせられる。溝部2aは、両板部材2,3が組み合わせられた状態で、後述の第二導波管路11及び接続空間15を構成する。
【0018】
図2は、導波管1の断面図である。本実施形態の導波管1は、Z方向に沿って形成された第一導波管路10と、Y方向に沿って形成された第二導波管路11と、これら両導波管路10,11を互いに接続している接続空間15とを備えている。
導波管1は、図中の矢印に示すように、第一導波管路10に沿う方向に進行する信号波が導入され、この導入された信号波を第二導波管路11から送出する。つまり、本実施形態の導波管1は、信号波の伝送方向を、第一導波管路10に沿う図中矢印の方向(第一の方向)から、この第一導波管路10に沿う方向と直交する方向である第二導波管路11に沿う図中矢印の方向(第二の方向)に変換する機能を有している。
【0019】
両導波管路10,11は、断面方形の管路とされており、所定の規格に基づいて、管路の幅寸法Aが1.27mm、X方向における管路の幅寸法が2.54mmに設定されている。
【0020】
図2において、板部材2,3は、互いに分割線13によって重ね合わされている。第一導波管路10は、上述のように板部材3に形成されている。また、板部材2の溝部2aは、板部材3の第一導波管路10との間で、X−Y平面上において所定の位置関係となるように形成されており、第二導波管路11、及び接続空間15は、板部材2に形成された溝部2aの壁面と、板部材3の上面とによって画定されることで形成されている。
【0021】
第一導波管路10と、第二導波管路11とは、交差部16において、互いの端部における一端縁同士が直角となるように繋がっている。
接続空間15は、両導波管路10,11が共に連通するように形成されており、両導波管路10,11の端部を互いに接続している。
接続空間15は、第一導波管路10において、Y方向において交差部16に対向する位置の端縁10aを基端として第二の方向とは逆方向に延びる第一の壁面15aと、第一の壁面15aに直交して設けられた第一の直交壁面15dと、X方向において交差部16に対向する位置の端縁11aを基端として第一の方向に延びる第二の壁面15bと、第二の壁面15bに直交して設けられた第二の直交壁面15cとを含む複数の壁面によって画定されている。
第一の直交壁面15dと、第二の直交壁面15cとは、互いに直交して繋がっているので、この接続空間15は、両導波管路10、11の管路方向が互いに交差する曲がり角における外側方向に向けて膨出するように直方体状に形成されている。なお、接続空間15の紙面に直交する方向における寸法は、両導波管路10,11と同様の寸法に設定されている。
従って、接続空間15は、両導波管10、11の断面積よりも大きい断面方形の空間とされている。
【0022】
本実施形態の導波管1では、第一導波管路10から信号波が導入されると、当該信号波は、接続空間15及び第二導波管路11に導かれる。
本発明者は、接続空間15内に信号波が導入されたときに、接続空間15内で生じる反射波と、信号波との共振の状態をコンピュータを用いたシミュレーションにより再現した。その結果、第一の直交壁面15dによる反射波と、信号波とが、紙面左右方向で共振を生じさせているのと同時に、第二の直交壁面15cによる反射波と、信号波とが、紙面上下方向で共振を生じさせていることを見出した。
【0023】
つまり、上記従来例の導波管では、バックショートによって信号波を短絡終端し信号波と共振しうる反射波を生じさせるのは主として一面だけであるのに対し、本実施形態では、上記シミュレーションの結果から、第一の直交壁面15dと第二の直交壁面15cとが信号波と共振しうる反射波を生じさせる。
【0024】
図3は、本実施形態の導波管1の反射係数の周波数特性を示すグラフである。図中、実線は、本実施形態の導波管1、破線は、上記従来例で示した導波管の特性を示している。
図のように、上記従来例の導波管では、共振点は一箇所しか現れていないが、本実施形態の導波管1では、共振点が近接して二箇所現れていることが判る。
このように、接続空間15内における共振の状態をシミュレーションによって再現した結果と、反射係数の周波数特性とが、結果として一致していることが確認できる。
【0025】
図3のように、反射係数の周波数特性に現れる、上記二箇所の共振点は、近接することで、使用可能な周波数帯域が実質的に広げられる。
すなわち、上記構成の導波管1によれば、第一の壁面15aに直交して設けられて第二の方向に進む信号波と共振しうる反射波を生じさせる第一の直交壁面15dと、第二の壁面15bに直交して設けられて第二の方向に進む信号波と共振しうる反射波を生じさせる第二の直交壁面15cとを含んだ複数の壁面によって画定された接続空間15を有しているので、反射係数における周波数特性において、接続空間15で生じる反射波と、信号波との間で、二つの共振点を近接させて生じさせることができる。これによって、有効な反射係数が得られる使用可能な周波数帯域を実質的に広げることができ、各部が誤差を含んだ寸法で形成されたとしても、その影響を緩和して信号波の伝送特性の劣化を抑制することができる。
【0026】
また、本実施形態では、第一の壁面15aと、第一導波管路10の端縁である交差部16に繋がっている第二導波管路11の管壁11cとは、共に板部材3の上面からなるので、面一に形成されている。
第二の壁面15bは、第二導波管路11の端縁でもある交差部16に繋がっている第一導波管路10の管壁10cと実質的に面一となるように形成されている。
この場合、第一導波管路から導入される信号波を速やかに接続空間15に導き、接続空間15によって生じる反射波と信号波とを共振させることができる。この結果、より効果的に使用可能な周波数帯域を実質的に広げることができる。
【0027】
ここで、本実施形態において、「実質的に面一」とは、所定寸法に基づいて誤差なく面一である状態の他、本導波管を製造する上で不可避な加工誤差や組み立て誤差を有することでほぼ面一な状態をも含んだ状態をいう。
よって、例えば、第二の壁面15bと、第一導波管路10の管壁10cとの位置関係に、板部材2及び3の位置決め精度の影響で組み立て誤差が生じることで、寸法上、厳密には面一でなかったとしても、このような状態は「実質的に面一」である。
【0028】
図4は、本発明の第二の実施形態に係る導波管1の断面図である。
本実施形態と、上記第一の実施形態との違いは、第二導波管路11の管壁11cの端縁と、第一導波管路10の管壁10cの端縁とが繋がっている交差部16に、段差部20が形成されている点である。
この段差部20は、第二導波管路11の管壁11cと、第一導波管路10の管壁10cとを延長したときに交わる先端部分を方形状に切り欠いて形成されている。
本実施形態の導波管1も、上記第一の実施形態と同様、分割線13によって重ね合わされた板部材2,3によって構成されている。
【0029】
図5は、本実施形態(第二の実施形態)の導波管1の反射係数の周波数特性を示すグラフである。図中、実線は、本実施形態の導波管1、破線は、第一の実施形態で示した導波管の特性を示している。
両実施形態の周波数特性は、共に二箇所の共振点が生じているが、本実施形態の導波管1では、二箇所の共振点の周波数位置が広くなっていることが判る。
【0030】
つまり、本実施形態では、交差部16に段差部20を設けることで、二つの共振点の周波数位置を広げるように調整することができ、使用可能な周波数帯域をさらに広げることができる。
【0031】
なお、本発明は、上記各実施形態に限定されるものではない。上記実施形態では、第一導波管路10の上側端部を分割線13が通過するようにX−Y平面上で分割したが、例えば、接続空間15の中間部分をX−Y平面上で分割してもよい。また、Y−Z平面上で分割してもよい。
また、上述の導波管1を、金属製の管材料を用いて形成してもよいし、樹脂板を用いて、その樹脂板内部に各導波管路や接続空間等を形成しその内面に金属めっきをしたもので上述の導波管1を構成することもできる。
【0032】
次に、上記導波管1により得られる効果を検証するために、本発明者らが行った検証試験について説明する。
試験方法としては、本発明に係る実施例品と、従来例に係る比較例品について、コンピュータによるシミュレーションによって、導波管1の寸法変化に対する、当該導波管の特性変化を求め、比較評価することで、効果を検証した。
【0033】
実施例品としては、第一の実施形態で示した形状のもの(実施例品1)と、第二の実施形態で示した形状のもの(実施例品2)の2種類を設定した。
実施例品1では、図2中、第一の壁面15aの第二導波管路11に沿う方向の長さ寸法B1を、2.11mm、上記第二の壁面15bの第一導波管路10に沿う方向の長さ寸法B2を、2.11mmに設定した。両導波管路10,11の断面寸法は、上記と同様である。
実施例品2では、図4中、寸法B1及びB2を、1.53mm、段差部20の段差寸法C1及びC2を0.88mmに設定した。両導波管路10,11の断面寸法は、上記と同様である。
比較例品では、図10中、共振部103の寸法B3を、1.27mm、寸法B4を、1.6mmに設定した。導波管路100,101の断面寸法は、上記両実施例品と同様の寸法に設定した。
【0034】
まず、接続空間15の寸法誤差に対する、導波管1の特性を評価した結果について示す。
図6は、接続空間15の寸法と、反射係数の周波数特性との関係を示したグラフであり、(a)は、実施例品1、(b)は、実施例品2、(c)は、比較例品のグラフを示している。図中、横軸は、信号波の周波数、縦軸は、反射係数を示している。また、図中、実線で示したグラフデータは、寸法B1,B2(比較例品は、寸法B4)を、上述の設定値としたときのデータを示している。
また、各実施例品及び比較例品において、製作時の誤差を含んだ状態を再現したものとして、寸法B1,B2を、上述の設定値に対して0.1mm増減させた場合、又は0.2mm増減させた場合のデータを合わせて示している。
なお、図6で示す周波数は、実施例品及び比較例品における共振周波数を0として規格化した周波数で表している。
【0035】
各グラフにおいて、反射係数S11が−20dBにおける周波数帯域幅を比較すると、実施例品1の帯域幅W1は、約3GHz、実施例品2の帯域幅W2は、約5GHz、比較例品の帯域幅W3は、約2GHzとなっており、実施例品1,2は、共に、比較例品と比べて、より広い帯域幅となっている。これにより、実施例品1,2によれば、比較例品よりも使用可能な周波数帯域を広げることができることが判る。さらに、実施例品2は、段差部20が設けられていることにより、実施例品1よりもより広帯域な特性が得られていることも判る。
【0036】
また、寸法B1,B2(比較例品は、寸法B4)を、設定値に対して増減したときの共振周波数のずれは、各実施例品及び比較例品で大きく差はないが、実施例品1,2の方が、比較例品よりも広帯域な特性である分、寸法誤差によって共振周波数がずれたとしても、そのずれを許容することができる。
従って、各実施例品は、比較例品と比べて、接続空間15(共振部103)の寸法誤差による周波数特性の影響が少ないと言える。特に、実施例品1よりもさらに広帯域な特性が得ることができる実施例品2では、寸法誤差による周波数特性の影響がより少ない。
【0037】
次に、上記導波管1において板部材2,3が互いに所定位置からずれた場合に生じる寸法誤差を想定し、第一導波管路10の相対位置に生じる誤差と、導波管1の特性との関係を評価した結果について示す。
【0038】
図7は、第一導波管路10の相対的な位置をずらしたときの比帯域の変化を示したグラフであり、(a)は、第一導波管路をY軸方向にずらしたときの比帯域の変化、(b)は、第一導波管路をX軸方向にずらしたときの比帯域の変化を示している。
図中、横軸は、第一導波管路10の相対位置を示しており、設計値に基づいた定位置(0mm)に対する相対的なずれを示している。また、縦軸は、定位置における比帯域の変化を示している。
ここで、上記比帯域は、反射係数S11が−20dBにおける周波数帯域幅の中心周波数に基づいて求めた値である。
なお、ここでは、定位置に対して、プラス方向とマイナス方向それぞれ0.1mmだけずらした場合の比帯域の変化を示している。
【0039】
図8は、第一導波管路10の相対的な位置をずらしたときの共振周波数の変化を示したグラフであり、(a)は、第一導波管路をY軸方向にずらしたときの共振周波数の変化、(b)は、第一導波管路をX軸方向にずらしたときの共振周波数の変化を示している。
図中、横軸は、第一導波管路10の相対位置を示しており、設計値に基づいた定位置(0mm)に対する相対的なずれを示している。また、縦軸は、定位置における共振周波数を0としたときの共振周波数の変化を示している。
この場合も上記同様、定位置に対して、プラス方向とマイナス方向それぞれ0.1mmだけずらした場合の共振周波数の変化を示している。
また、図9は、上記図7、図8の数値データを示す表である。
【0040】
図7(a)の場合、比較例品では、2.9〜3.0%であるが、実施例品1では、3.1〜3.5%、実施例品2では、5.6〜8.4%であり、比較例品と比べて、本発明の実施例品の方が、Y方向にずれが生じたとしても、より広い帯域幅を維持することが判る。
図7(b)においても、図7(a)と同様の傾向であり、比較例品では、2.9〜3.0%であるが、実施例品1では、3.3〜3.4%、実施例品2では、7.2〜7.3%であり、比較例品と比べて、本発明の実施例品の方が、X方向にずれが生じたとしても、より広い帯域幅を維持することが判る。
【0041】
次に、共振周波数の変化について見ると、図8(a)において、比較例品では、定位置に対してY軸方向への0.1mmのずれによって、共振周波数に0.6〜0.65GHzのずれが生じる。これに対して、実施例品1では、第一導波管路10のずれによる共振周波数のずれは、0.15GHzとなっている。実施例品2では、共振周波数のずれは、0.35GHzとなっている。
【0042】
図8(b)では、比較例品では、定位置に対してX軸方向への0.1mmのずれによって、共振周波数に0.2GHzのずれが生じる。これに対して、実施例品1では、共振周波数のずれは、0.05GHzとなっており、実施例品2では、ほとんどずれが見られない。
【0043】
以上のように、各実施例品は、第一導波管路10の相対位置の誤差による周波数特性の影響が、比較例品と比較して少ないことが判る。
また、各実施例品の寸法は、比較例品の寸法に対して同等か1.3倍程度であり、比較例品に対してサイズを大きく変更することなく、上記のような優れた効果を得ることができる。
【0044】
以上のように、上記検証試験の結果から、本発明に係る各実施例品1,2が、比較例品と比べて、有効な反射係数が得られる使用可能な周波数帯域が広く、これによって、寸法誤差により生じる周波数特性の影響が少なく、信号波の伝送特性の劣化が抑制できるということを確認することができた。
【符号の説明】
【0045】
1 導波管
10 第一導波管路
10a 端縁
10c 管壁
11 第二導波管路
11a 端縁
11c 管壁
15 接続空間
15a 第一の壁面
15b 第二の壁面
15d 第一の直交壁面
15c 第二の直交壁面
16 交差部
20 段差部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号波の伝送方向を第一の方向から、前記第一の方向と直交する第二の方向に変換する導波管であって、
前記第一の方向に延びる断面方形の第一導波管路と、
前記第二の方向に延びる断面方形の第二導波管路と、
前記第一導波管路の端部と、前記第二導波管路の端部とを接続する接続空間と、を備え、
前記接続空間は、前記第一導波管路の端縁を基端として前記第二の方向とは逆方向に延びる第一の壁面と、前記第一の壁面に直交して設けられて前記第二の方向に進む前記信号波と共振しうる反射波を生じさせる第一の直交壁面と、前記第二導波管路の端縁を基端として前記第一の方向に延びる第二の壁面と、前記第二の壁面に直交して設けられて前記第二の方向に進む前記信号波と共振しうる反射波を生じさせる第二の直交壁面と、を含む複数の壁面により画定され、前記第一及び第二導波管の断面積よりも大きい断面方形の空間であることを特徴とする導波管。
【請求項2】
前記第一の壁面は、前記第一導波管路の端縁と繋がっている前記第二導波管路の管壁と実質的に面一に形成され、
前記第二の壁面は、前記第二導波管路の端縁と繋がっている前記第一導波管路の管壁と実質的に面一に形成されている請求項1に記載の導波管。
【請求項3】
前記第一導波管路の端縁と、前記第二導波管路の端縁とが繋がっている交差部には、その先端部分を方形状に切り欠いた段差部が形成されている請求項1又は2に記載の導波管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−98621(P2013−98621A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237207(P2011−237207)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000229737)日本ピラー工業株式会社 (337)
【Fターム(参考)】