説明

導波路型波長フィルタ、クラッド用屈折率設定システム、クラッド用屈折率設定方法、及びそのプログラム

【課題】導波路型波長フィルタのフィルタ波長のトリミング時に生じる製作誤差であるシフトを有効に矯正し設計値に沿ったフィルタ波長のトリミングを可能とすること。
【解決手段】長さの異なる2本のコアが上下各クラッド13,14に取り巻かれて導波路11,12が構成されその入出力端部に方向性結合器部21,22が各々設けられた導波路型波長フィルタであって、前記クラッドの一部に、前記一方の導波路11を伝搬する特定波長の光がフィルタ波長として通過するのを助成するクラッド屈折率調整領域31,32を設け、このクラッド屈折率調整領域31,32を、各導波路11,12の一部に沿って設置され各導波路11,12に対向した側壁面33b,34bを有する有底溝穴33,34と、この有底溝穴33,34の一方又は双方の内部に排出自在に充填され前記特定のフィルタ波長のシフトを矯正する屈折率調整剤35,36とにより構成したこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導波路型波長フィルタ、クラッド用屈折率設定システム等に係り、特にフィルタ波長を有効にトリミングすることを可能とした導波路型波長フィルタ、クラッド用屈折率設定システム、クラッド用屈折率設定方法、及びそのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光通信用の導波路型波長フィルタに関する研究が近年盛んに行われている。導波路型波長フィルタは、導波路によって構成されたフィルタであり、ある波長の光をフィルタリングする機能を有する。現在、研究段階のものとしては、導波路型波長フィルタの多段構成による光スイッチ回路の実現が報告されている。
【0003】
この種の光スイッチ回路は、光信号を電気信号に変換することなく、光信号を光信号のまま通信経路の切り替えが出来るため、次世代光通信に不可欠な高速かつ低消費電力を実現する光回路と考えられている。
このため、この光スイッチ回路の主構成要素である導波路型波長フィルタは、今後の光通信技術の発展に際しては最も重要な基礎エレメントの1つとして、関係業界では取り扱われている。
【0004】
図9(A)(B)に、導波路型波長フィルタの関連技術である両端部に導波路型の方向性結合器121,122を備えたマッハツェンダー干渉計100について説明する。
【0005】
まず、図9(A)において、符号111a,112aは、所定間隔を隔てて配置された長さの異なる一方と他方のコアを示す。この一方と他方のコア111a,112aの周囲には、その全面に、当該各コア111a,112aに当接して各コア111a,112aとは屈折率の異なる透明部材から成るクラッドが配置され、これによって、各コア111a,112aは一方と他方の各導波路111,112として、それぞれ機能するようになっている。
【0006】
ここで、前述したクラッドについては、各コア111a,112aの外周囲全体に所定の厚さにて付着された膜状のものであっても、或いは各コア111a,112aの外周囲の空間全体に所定の厚さに充填された層状のものであってもよい。又、長さの長い一方のコア111aの中央部には、図9(A)に示すように位相シフター131が装備されている。
【0007】
そして、この図9(A)において、導波路111に入射した光は、方向結合器121によって導波路111と導波路112に分配される。ここでは、全ての方向性結合器121で等しく光電力が分配されるものとする。その後、導波路111を伝播する光は位相シフタ131を通り、方向性結合器部122を通って同図内の右方向に向けて出射される。又、方向性結合器部121によって導波路112に分配された光は、導波路112を伝播し、方向性結合器部122を通り出射される。
【0008】
ここで、導波路111と導波路112に出力される光電力の割合は、当該一方の導波路111と他方の導波路112の光路長差による位相遅延量及び用いる波長によって決定される。
例として、導波路111及び導波路112の等価屈折率を1.480、位相シフタ131の長さを33.2〔μm〕とした場合の、導波路型方向性結合器121,122を用いたマッハツェンダー干渉計のフィルタ特性を、図9(B)の実線で示す。
【0009】
尚、図9(B)に示すフィルタ特性は、波長1310〔nm〕帯での導波路111に入射して当該導波路111から出射される光のフィルタ特性である。この図9(B)の実線では、波長1310〔nm〕の光が全て導波路111に出力されることを示している。
ここで、導波路111に入射した光電力の全てが当該導波路111に出力される場合の波長をフィルタ波長と定義する。図9(B)の実線の例ではフィルタ波長は1310〔nm〕である。
【0010】
次に、製作誤差によって等価屈折率が1.480から1.475に変化した場合のフィルタ特性を図9(B)内では点線で示す。この図9(B)の点線で示されるように、等価屈折率が変化したことによってフィルタ波長が1310〔nm〕から1306〔nm〕へと変化(シフト)したことになる。
【0011】
この場合、即ち、フィルタ波長を1310〔nm〕として設計したところ、製作誤差によって、フィルタ波長が1306〔nm〕になった今回の例では、1310〔nm〕の光は、約0.6〔dB〕の損失を受けることになる。
尚、これらの計算は、〔「光波工学」國分泰雄著、共立出版株式会社、P262、(8.65)式〕を参考にした。
【0012】
しかしながら、現在、商用ベースで導波路型波長フィルタを製造出来るベンダーは、非常に少ない。これは導波路製造時の屈折率制御が大変難しいことに起因している。
この導波路材料の屈折率を高精度に制御することが困難であるため、導波路に使用する導波路材料については、その等価屈折率を制御することが出来ず、これがため、多くの場合、制作した導波路型波長フィルタのフィルタ波長が設計規格値を満たすことができない状態、即ち、製作誤差(波長のシフト)が多発している現状がある。
【0013】
即ち、上記導波路型のマッハツェンダー干渉計あっては、フィルタ波長のシフトという製作誤差に関しては、これを容易に是正する技術は、見当たらない。
【0014】
一方、製造装置の改善や製作トレランスの拡大検討によって、各製造ベンダーはこの問題の解決に向けて取り組んでいる。
上記課題については、その解決策の一つとして、従来より、導波路型波長フィルタの製造後に導波路型波長フィルタの等価屈折率を制御してフィルタ波長を調整するトリミング技術が知られている(特許文献1)。
【0015】
即ち、この特許文献1では、コアを取り巻くクラッドを紫外線感光性を備えた透明部材で形成すると共に導波路型波長フィルタの製造後に紫外線照射を行って当該クラッドの屈折率の変化を促し、これによって当初の目的に合ったフィルタ波長のトリミングを有効に行うようにした技術内容が開示されている。
【0016】
また、制作した導波路型波長フィルタのフィルタ波長のトリミングについては、コアを取り巻くクラッドの温度依存性についての課題があって、制作した導波路型波長フィルタのフィルタ波長が設計規格値を満たすことができない現状があり、これを改善するにクラッドの一部に負の屈折率温度係数の温度保障材料を組み込む技術が提案されている(特許文献2,3,4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2000−075151号公報
【特許文献2】特許第3436937号公報
【特許文献3】特開2000−121850号公報
【特許文献4】特開2007−316335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、上記特許文献1に開示された関連技術である紫外線照射によるフィルタ波長のトリミング技術にあっては、導波路コア又はクラッドに紫外線感光性を持った材料を使用する必要性が生じ、これがため、導波路材料の選定又は製造プロセスに強い制約を受けるという不都合がある。
【0019】
この場合、紫外線照射装置は一般的に高価であり、これがため製造コストを引きあげる要因となる。加えて、紫外線照射は材料の屈折率を非可逆的に変化させるものであるため、トリミングのやり直しができず、従って、過剰にトリミングを行った場合の救済処置がないという不都合がある。
【0020】
又、特許文献2乃至4にかかる関連技術にあっては、環境温度の変化があっても導波路型波長フィルタのトリミングを円滑に維持得ることを意図したものであり、従って、生産時若しくは生産後の光導波路におけるフィルタ波長のシフトに対する調整技術、即ちシフトされた状態のフィルタ波長について、これを調整(矯正)して設計値に等しいフィルタ波長のトリミングを実行する手法については何らの対応も成されてはいない。
即ち、この特許文献2乃至4にかかる関連技術にあっては、特許文献1の場合と同様に、過剰にトリミングを行った場合の救済処置がないという不都合がある。
【0021】
このため、導波路型波長フィルタに関しては、例えば導波路型波長フィルタの導波路材料の選定に特段の制約が無く、且つ安価にトリミングを行うことを可能とし、同時に繰り返しのやり直しができる、導波路型波長フィルタのトリミング技術の開発の必要性が、社会的な要請として従来より多く存在していた。
【0022】
〔発明の目的〕
本発明は、上記関連技術の有する不都合を改善し、特に導波路型波長フィルタの生産時又は生産後に見いだされる製作誤差としてのフィルタ波長のシフトに対しては、これに効率よく且つ迅速に対応して設計値に沿ったフィルタ波長を有効に且つ円滑にトリミングすることを可能とし生産性の優れた導波路型波長フィルタ、クラッド用環境構築システム、クラッド環境構築方法、及びそのプログラムを提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記目的を達成するため、本発明にかかる導波路型波長フィルタは、長さの異なる一方と他方の2本のコアと当該コアを取り巻いて層状に配設されたクラッドとを有し、このクラッドに囲まれて前記各コアがそれぞれ一方と他方の導波路を構成すると共に、この各導波路の入力端部と出力端部にそれぞれ方向性結合器部が設けられて成る導波路型波長フィルタであって、
前記クラッドの一部に、前記一方の導波路内を伝搬する光信号の内の予め特定された波長の光がフィルタ波長として通過するのを助成するクラッド屈折率調整領域を設け、
このクラッド屈折率調整領域を、前記各導波路の設置ラインの一部に沿って設置され且つ当該各導波路に対向する対向面を側壁面として備えた有底溝穴と、この有底溝穴の一方又は双方の内部に排出自在に充填されて前記特定のフィルタ波長のシフトを矯正する屈折率調整剤とにより構成したことを特徴とする。
【0024】
上記目的を達成するため、本発明にかかるクラッド用屈折率設定システムは、上記構成の導波路型波長フィルタの一部を成す前記クラッド屈折率調整領域の屈折率を設定するためのクラッド用屈折率設定システムであって、
前記各有底溝穴に対して個別に前記クラッドとは異なった屈折率を有する屈折率調整剤の適量を充填し又は排出する調整剤投入機構と、この調整剤投入機構の動作を制御する動作制御手段とを設け、この動作制御手段の制御動作に必要な前記フィルタ波長にかかる波長情報を、前記一方のコアの出力光から検知して分析すると共に前記フィルタ波長の目標値からのシフト状態を特定するシフト情報特定手段を備えたことを特徴とする。
【0025】
上記目的を達成するため、本発明にかかるクラッド用屈折率設定方法は、前記導波路型波長フィルタが備えている前記クラッド屈折率調整領域の屈折率を設定するためのクラッド用屈折率設定システムにあって、
前記一方の導波路の出力光から前記フィルタ波長のシフト状態をシフト情報特定手段が検出して特定し(シフト情報特定工程)、
このシフト情報特定工程で特定されたフィルタ波長のシフト情報に基づいて前記一方の導波路に対応した前記有底溝穴に、前記フィルタ波長のシフト情報を是正するための一定の屈折率を備えた屈折率調整剤を調整剤投入機構を用いて動作制御手段が充填制御し(調整剤充填制御工程)、
前記調整剤充填制御の工程にあっては、前記フィルタ波長が予め設定された目標値よりも長波長側にシフトされている場合には、前記他方の導波路に対応した有底溝穴に充填されている屈折率調整剤よりも屈折率の小さい屈折率調整剤(空気を含む)を、充填用として前記動作制御手段が選択し充填制御するようにしたことを特徴とする。
【0026】
上記目的を達成するため、本発明にかかるクラッド屈折率設定用制御プログラムは、前記導波路型波長フィルタが備えている前記クラッド屈折率調整領域の屈折率を設定するクラッド用屈折率設定システムにあって、
前記一方の導波路の出力光から前記フィルタ波長のシフト状態を予め装備したシフト情報検出用光センサが検出した場合に、当該検出されたセンサ情報に基づいてフィルタ波長のシフト状態を分析するシフト状態分析機能、
及びこのシフト状態分析機能で特定されたフィルタ波長のシフト情報に基づいて前記一方の導波路に対応した前記有底溝穴に、前記フィルタ波長のシフト情報を是正するための一定の屈折率を備えた屈折率調整剤を、前記有底溝穴に対応して予め配置された調整剤投入機構を駆動制御して充填処理する調整剤充填処理制御機能、を設け、
前記調整剤充填処理制御機能にあっては、前記フィルタ波長が予め設定された目標値よりも長波長側にシフトされている場合には、前記他方の導波路に対応した有底溝穴に充填されている屈折率調整剤よりも屈折率の小さい屈折率調整剤(空気を含む)を、充填用として予め選択する選択処理機能を含む構成とし、
これらの各機能をコンピュータに実現させるようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、上述したように構成したので、これによると、クラッドの一部に設けたクラッド屈折率調整領域が有効に機能して、フィルタ波長のシフトの発生を有効に抑制することができ、導波路型波長フィルタの生産時に見い出されるフィルタ波長のシフトに対しては、当該クラッド屈折率調整領域に注入する屈折率調整剤の設定若しくは再設定により導波路の均等屈折率を変化させてフィルタ波長を長波長側又は短波長側にシフトさせることが可能となり、これにより製作誤差として生じるフィルタ波長のシフトを有効に是正することができ、同時に、クラッドの生成時における材料選定の制約を受けることなく安価にして設定のやり直し(再設定)が何度でも可能となり、これにより、設計値に沿ったフィルタ波長を効率良くトリミングすることができるという生産性の優れた導波路型波長フィルタ、クラッド用屈折率設定システム、クラッド用屈折率設定方法、及びそのプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1実施形態を示す概略平面図である。
【図2】図1に開示した実施形態における断面図で、図2(A)は図1のE−E線に沿った部分断面図、図2(B)は図1のF−F線に沿った部分断面図である。
【図3】図1に開示した実施形態における部分斜視図である。
【図4】図1に開示した実施形態が備えているクラッド屈折率調整領域におけるクラッドの屈折率を設定するためのクラッド用屈折率設定システムの一例を示すブロック図である。
【図5】図4に開示したクラッド用屈折率設定システムの動作の一例を示すフローチャートである。
【図6】図5に開示したクラッド用屈折率設定システムの動作の一例で、図4から分岐した場合に例を示すフローチャートである。
【図7】本発明の第2実施形態を示す概略平面図である。
【図8】図7に開示した第2実施形態が備えているクラッド屈折率調整領域におけるクラッドの屈折率の設定を実行するためのクラッド用屈折率設定システムの一例を示すブロック図である。
【図9】関連技術における両端部に導波路型の方向性結合器を備えたマッハツェンダー干渉計の例を示す図で、図9(A)はその構成回路を示す説明図、図9(B)は図9(A)の動作特性を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
〔第1の実施形態〕
以下、本発明の第1実施形態を図1乃至図6に基づいて説明する。
本第1実施形態は、前述した関連技術におけるフィルタ波長のシフトという製作誤差を容易に且つ有効に是正し得るようにしたものである。
【0030】
(全体構成)
まず、図1乃至図3において、本第1実施形態における導波路型波長フィルタ10は、長さの異なる一方と他方の2本のコア11a,12aと、当該コア11a,12aを取り込んで層状に積層された上クラッド13及び下クラッド14と、これらの各クラッド13,14を支持する基板15とを備えている。
【0031】
この内、一方と他方の2本のコア11a,12aは、上下の各クラッド13,14に囲まれることによってそれぞれ一方と他方の導波路11,12を構成している。更に、この各導波路11,12の入力端部と出力端部には、それぞれ方向性結合器部21,22が設けられている。
【0032】
この図1において、符号40Aはフィルタ波長検出センサを示す。このフィルタ波長検出センサ40Aは、前述した導波路型波長フィルタ10にてトリミングされ一方導波路11から出力されるフィルタ波長を検出する機能を有する。そして、この検出された当該フィルタ波長にかかる情報に基づいて、後述するクラッド用屈折率設定システムが作動し、設計値に沿ったフィルタ波長のトリミングを可能とするためのクラッド屈折率の設定を行い、これによって、各導波路11,12の均等屈折率を変化させて当該フィルタ波長のシフト状態が是正される。
【0033】
上下各クラッド13,14の一部には、前記一方の導波路11内を伝搬する光信号の内の予め特定された波長の光がフィルタ波長として通過するのを助成するクラッド屈折率調整領域31,32が設けられている。
このクラッド屈折率調整領域31,32は、本第1実施形態にあっては、図1に示すように一方と他方の導波路11,12のほぼ中間位置に配置されている。尚、このクラッド屈折率調整領域31,32の配設位置についてはこの中間位置から入力端部側又は出力端部側にずれた位置であってもよい。
【0034】
この内、クラッド屈折率調整領域31,32は、図1乃至図3に示すように、前述した各導波路11,12の一部に沿って配設され且つ当該各導波路11,12に対向する対向面を側壁面33b,34bとして個別に備えた有底溝穴33,34と、この各有底溝穴33,34の一方又は双方の内部に排出自在に充填されて前記特定のフィルタ波長のシフトを矯正する屈折率調整剤35,36(図2参照)とにより構成されている。
【0035】
ここで、屈折率調整剤35,36については、本実施形態ではその何れもが状況によって屈折率の異なる厳選された二種類の屈折率調整剤A又はBが使用されているが、3種類以上を予め準備し必要に応じて適宜選択使用するように構成してもよい。
【0036】
この場合、屈折率調整剤Bは屈折率調整剤Aよりも屈折率が大い値に設定されている。この屈折率調整剤A,Bは、後述するクラッド用屈折率設定システム40によって、各有底溝穴33,34にそれぞれ排出自在に充填されるようになっている。
【0037】
この屈折率調整剤A,Bについては、導波路型波長フィルタ10の生産時に、上述したように屈折率の異なった調整剤A又はBが後述するクラッド用屈折率設定システム40によって各有底溝穴33,34に排出自在に充填される。このため、結果的に、状況に応じた最適な屈折率調整剤A,Bが充填されることとなり、これによってフィルタ波長の周波数のシフト状態の発生が有効に抑制され若しくは矯正されることとなる。
【0038】
即ち、このように屈折率調整剤A,Bが充填されるので、この充填された屈折率調整剤A,Bは、前述したように各導波路11,12に均等屈折率を変化させることとなり、これをもって、予め特定された波長の光がフィルタ波長として通過するのを助成することが可能となる。
【0039】
(有底溝穴33,34について)
上記有底溝穴33,34は、図1に示すように一方と他方の各導波路11,12に対応してそれぞれ独立した状態に設けられている。この各有底溝穴33,34は、本実施形態にあっては、前述した上部クラッド13の図1における上面に開口部33A,34Aを有すると共に、当該上部及び下部の各クラッド13,14を貫通して前記基板15に達する深さに設定されている。尚、この各有底溝穴33,34の深さについては、その底面を下部クラッド14内に設定するように構成してもよい。
【0040】
これら一方と他方の各導波路11,12は、前述した関連技術における各導波路111,112(図9参照)と同様の配線状態にて配線され、一方の導波路11の中央部分が図1の外側に突出した平行線部分を有し、この突出した距離分だけ、他方の導波路12よりも物理的な長さが長く設定されている。
【0041】
上述した有底溝穴33は、一方の導波路11の突出した中央部分の図1における上側(一方の導波路11の外側領域)の直線部分に配設されている。又、有底溝穴34は、他方の導波路12の中央領域の直線部分における図1の下側(他方の導波路12の外側領域)に、前述した有底溝穴33とは反転した状態で配設されている。
【0042】
ここで、有底溝穴33,34の溝穴形状について説明する。
まず、一方の有底溝穴33は、一方の導波路11に面して側壁面33bを備えた三角柱状空間部33Bと、この三角柱状空間部33Bの前記一方の導波路11とは反対側に配設された円柱状空間部33Cと、この円柱状空間部33Cと前記三角柱状空間部33Bとを各側面を切除して連通する連通空間33Dとにより構成されている。
【0043】
これにより、有底溝穴33内に所定の屈折率調整剤A又はBが充填された場合に、一方の導波路11に沿って一様に対向する形態となり、当該一方の導波路11の均等屈折率を有効に変化させることが可能となる。
この内、一方の導波路11とこれに面する側壁面33bとの距離eは、本実施形態では数〔μm〕に設定されている。
【0044】
他方の有底溝穴34についても、上記した一方の有底溝穴33の場合とほぼ同様に形成され、他方の導波路12に面して側壁面34bを備えた三角柱状空間部34Bと、この三角柱状空間部34Bの前記他方の導波路12とは反対側に配設された円柱状空間部34Cと、この円柱状空間部34Cと前記三角柱状空間部34Bとを各側面を切除して連通する連通空間34Dとにより構成されている。
又、他方の導波路12とこれに面する側壁面34bとの距離fも、前記一方の有底溝穴33の場合と同様に、数〔μm〕に設定され、これによって当該他方の導波路12の均等屈折率を有効に変化させることが可能となる。
【0045】
そして、上記各有底溝穴33,34の各円柱状空間部33C,34Cは、その直径が例えば数〔mm〕から数〔cm〕の大きさに設定されている。これによって、当該各円柱状空間部34Cに屈折率調整剤35,36が滴下によって充填し易いように、その大きさが設定されている。また、連通空間33D,34Dは、各円柱状空間部33C,34Cに滴下される屈折率調整剤35,36が、前述した三角柱状空間部33B,34Bへ円滑に案内するための空間通路として機能する。
【0046】
(導波路の等価屈折率とフィルタ波長のシフトとの関係)
一方と他方の各導波路11,12内を伝搬する光信号は、各有底溝穴33,34部分では当該有底溝穴33,34内に充填された屈折率調整剤35,36にその波長レベルで影響を受けて伝搬する。具体的には、導波路11,12の等価屈折率は、屈折率調整剤35,36を充填された各有底溝穴33,34部分では、充填前(空気の場合)より屈折率が大きくなる。かかる場合、フィルタ波長は長波長側にシフトする。
【0047】
これに対して、フィルタ波長は一方と他方の各導波路11,12内の光路長によって決定されることから、これを有効に利用して、各有底溝穴33,34に充填する屈折率調整剤35,36を選択することにより、所望するフィルタ波長のトリミングを効果的に実行することが可能となる。
【0048】
これを具体的に説明すると、まず、各有底溝穴33,34に屈折率調整剤A又はBを充填する前は溝に空気が存在し、空気の屈折率がどの導波路の素材の屈折率よりも低いため、導波路11,12の等価屈折率は最も低い状態にある。
この有底溝穴33,34に屈折率調整剤A又はBを充填すると、屈折率調整剤A又はBの屈折率が空気の屈折率より高いため、導波路11,12の等価屈折率が増加する。この等価屈折率の増加により、上述したように、フィルタ波長は長波長側にシフトする。
【0049】
所望の矯正対象のシフト量に見合った屈折率の屈折率調整剤A又はBを屈折率調整剤35,36として有底溝穴33,34に充填すれば、所望するフィルタ波長のトリミングを完遂することが出来る。即ち、設計値よりも実際の等価屈折率が高くなってしまいフィルタ波長を短波長側にシフトさせる必要がある場合は、導波路2側に設けた溝に屈折率調整剤A又はBを充填すればよい。
前述したように、導波路11と導波路12の光路長によってフィルタ波長が決まるため、導波路12の一部の等価屈折率が増加すれば光路長差は小さくなり、結果としてフィルタ波長が長波側にシフトするからである。
【0050】
ここで、有底溝穴33,34内に充填された屈折率調整剤35,36に影響されて各導波路11,12内を光が伝搬するが、この場合、有底溝穴33,34内の屈折率調整剤35,36が急激な屈折率の変化があると、対応する導波路11,12内を伝搬する光信号に歪みが生じやすいことから、導波路11,12内の等価屈折率を徐々に変化させるために、当該各導波路11,12に対向する箇所の屈折率に変化を徐々に大きくし又徐々に小さくするようにし、そのために、当該箇所の断面形状を各導波路11,12に沿って断面三角形状とした。
【0051】
即ち、有底溝穴33,34の前記各導波路11,12に沿って設置された部分の断面形状を三角形状として対応する各導波路11,12内の等価屈折率を徐々に変化させるようにし、これにより、等価屈折率の急激な変化を抑えて特定のフィルタ波長の円滑なトリミングを実行することが可能となる。
【0052】
(クラッド用屈折率設定システム40)
前述したように、本第1実施形態は、フィルタ波長のシフトという制作誤差を容易に且つ有効に是正し得るようにした導波路型波長フィルタ10を実現するためのものであり、そのために、クラッド屈折率調整領域31,32の特定、即ち、前述した有底溝穴33,34内の屈折率調整剤35,36の規律ある充填および排出を実行するクラッド用屈折率設定システム40が必要となる。
【0053】
このクラッド用屈折率設定システム40は、前述した導波路型波長フィルタ10の一部を成すクラッド屈折率調整領域30の特定に際して稼働し、当該クラッド屈折率調整領域30の有底溝穴33,34内に規律ある屈折率調整剤35,36の充填および排出を実行するためのもので、導波路型波長フィルタ10の生産工程上で機能するシステムである。
【0054】
クラッド用屈折率設定システム40は、前述したように、設計値に沿ったフィルタ波長のトリミングを可能とする導波路型波長フィルタ10を得るためのものであり、そのために、導波路型波長フィルタ10からトリミングされて出力されるフィルタ波長のトリミング情報に基づいて、その各種制御動作が実行される。具体的には、各導波路11,12の等価屈折率を最適な状態に設定するように、前述した有底溝穴33,34内の屈折率調整剤35,36の規律ある充填および排出を実行するように機能する。
【0055】
ここで、このクラッド用屈折率設定システム40を、更に詳述する。
図4において、クラッド用屈折率設定システム40は、前述した有底溝穴33,34に対して各導波路11,12の等価屈折率を最適な状態に設定するための屈折率調整剤35,36を充填する調整剤充填機構部41,42と、この一度充填した屈折率調整剤35,36が不適切であった場合(フィルタ波長のシフト状態が改善されない場合)にこれらを当該有底溝穴33,34内から排出する調整剤排出機構部43,44と、これら各機構部の動作を個別に制御する動作制御手段45と、この動作制御手段45が必要とする制御情報を取得し前記フィルタ波長の設計値からのシフト状態を特定するシフト情報特定手段46とを備えている。
【0056】
ここで、調整剤充填機構部41と調整剤吸排出機構部43とにより、有底溝穴33側の調整剤投入機構50Aが構成され、調整剤充填機構部42と調整剤吸排出機構部44とにより、有底溝穴33,34側の調整剤投入機構50Bが構成されている。この各調整剤投入機構50A,50Bは、前述した動作制御部に制御されて稼働し、対応する各有底溝穴33,34に対して、個別に、前述した各クラッド13,14とは異なった屈折率を有する屈折率調整剤を充填し又は吸排出する機能を備えている。
【0057】
又、シフト情報特定手段46は、前述した導波路型波長フィルタ10にてトリミングされ一方の導波路11から出力されるフィルタ波長を検出して出力するフィルタ波長検出センサ40Aと、この検出されたフィルタ波長にかかる情報に基づいてそのシフト状態の有無,その増減方向およびそのシフト量とを特定するフィルタ波長シフト判定部40Bとにより構成されている。
【0058】
更に、動作制御手段45は、具体的には、前述した各調整剤充填機構部41,42及び調整剤排出機構部43,44の内、有底溝穴33に対応して装備され一方の調整剤投入機構50Aを成す調整剤充填機構部41および調整剤吸排出機構部43の各動作を制御する一方の給排系駆動制御部45Bと、有底溝穴34に対応して装備され他方の調整剤投入機構50Bを成す調整剤充填機構部42および調整剤吸排出機構部44の各動作を制御する他方の給排系駆動制御部45Cと、これら各給排系駆動制御部45B,45Cを含む全体的動作を制御する主制御部45Aとにより構成されている。
【0059】
この主制御部45Aには、前述した各給排系駆動制御部45B,45Cに対して必要な制御処理を指示するための状況変化に対応した各種処理手順情報を予め格納して成る記憶部40Mが併設されている。又、上記主制御部45Aには、必要とする各種指令情報等を外部入力する入力部47が併設されている。
【0060】
(調整剤の充填機構部および吸排出機構部)
上記一方の有底溝穴33に対応して装備された調整剤充填機構部41は、有底溝穴33に着脱自在に装着される給液管41Aと、この給液管41Aを介して前記有底溝穴33に屈折率調整剤A又は屈折率調整剤Bを送り込む電磁バルブ41Bと、この電磁バルブ41Bを開閉制御し前記屈折率調整剤A又はBの適量を設定制御するバルブ開閉制御部41Cと、前記電磁バルブ41Bに併設され予め水位の高い位置に装備された調整剤A用の収納タンク51又は調整剤B用の収納タンク52の何れかを前記電磁バルブ41Bに切換え連結する切換え連結部41Dとを備えて構成されている。
【0061】
上記バルブ開閉制御部41Cおよび切換え連結部41Dは、何れも前述した一方の給排系駆動制御部45Bからの指令に基づいてその動作が何れか一方に切り換え操作されるようになっている。
【0062】
又、上記一方の有底溝穴33に対応して装備された調整剤吸排出機構部43は、有底溝穴33に着脱自在に装着される排液管43Aと、この排液管43Aを介して前記有底溝穴33から屈折率調整剤を排出するための電磁バルブ43Bと、この電磁バルブ43Bを開閉制御するバルブ開閉制御部43Cと、前記電磁バルブ43Bに併設され当該電磁バルブ43B及び前記排液管43Aを介して前記有底溝穴33から屈折率調整剤を吸出して排液タンク53に収納する吸出ポンプ43Dとを備えて構成されている。
【0063】
上記バルブ開閉制御部43Cおよび吸出ポンプ43Dは、上記した一方の給排系駆動制御部45Bからの指令に基づいて連動して稼働するようになっている。
【0064】
ここで、上記一方の有底溝穴33には、当該有底溝穴33内に充填される屈折率調整剤の量を検出する充填量検出センサ45Baが着脱自在に装備されている。そして、この充填量検出センサ45Baで得られるセンサ情報に基づいて有底溝穴33に投入される屈折率調整剤の量を、前述した一方の給排系駆動制御部45Bがバルブ開閉制御部41Cを介して調整制御するように構成されている。
【0065】
又、上記他方の有底溝穴34に対応して装備された調整剤充填機構部42は、有底溝穴34に着脱自在に装着される給液管42Aと、この給液管42Aを介して前記有底溝穴34に屈折率調整剤A又は屈折率調整剤Bを送り込む電磁バルブ42Bと、この電磁バルブ42Bを開閉制御し前記屈折率調整剤A又はBの適量を設定制御するバルブ開閉制御部42Cと、前記電磁バルブ42Bに併設され予め水位の高い位置に装備された調整剤A用の収納タンク51又は調整剤B用のを収納タンク52の何れかを前記電磁バルブ42Bに切替え接続する切換え連結部42Dとを備えて構成されている。
【0066】
ここで、上記バルブ開閉制御部42Cおよび切換え連結部42Dは、何れも前述した他方の給排系駆動制御部45Cからの指令に基づいてその動作が何れか一方に切り換え操作されるようになっている。
【0067】
更に、上記他方の有底溝穴34に対応して装備された調整剤吸排出機構部44は、有底溝穴34に着脱自在に装着される排液管44Aと、この排液管44Aを介して前記有底溝穴34から屈折率調整剤を排出するための電磁バルブ44Bと、この電磁バルブ44Bを開閉制御するバルブ開閉制御部44Cと、前記電磁バルブ44Bに併設され当該電磁バルブ44B及び前記排液管44Aを介して前記有底溝穴34から屈折率調整剤を吸出して排液タンク53に収納する前述した吸出ポンプ43Dとを備えて構成されている。この吸出ポンプ43Dは、前述した調整剤排出機構43と共用可能状態に装備されている。
【0068】
そして、ここでは、上記バルブ開閉制御部44Cおよび吸出ポンプ43Dは、上記した他方の給排系駆動制御部45Cからの指令に基づいて、連動して作動するようになっている。
【0069】
ここで、上記他方の有底溝穴34には、当該有底溝穴34内に充填される屈折率調整剤の量を検出するための充填量検出センサ45Caが、着脱自在に装備されている。そして、この充填量検出センサ45Caで得られるセンサ情報に基づいて有底溝穴34に投入される屈折率調整剤の量を、前述した他方の給排系駆動制御部45Cがバルブ開閉制御部42Cを介して調整制御するように構成されている。
【0070】
(屈折率調整剤A,B及び調整剤格納タンク)
屈折率調整剤として、本第1実施形態にあっては、屈折率が異なった二種類の屈折率調整剤A,Bが予め準備されている。この屈折率調整剤A,Bは、予め装備された調整剤格納タンク51,52に格納されている。この調整剤格納タンク51,52は、前述した各有底溝穴33,34よりも水位の高い位置に設置されている。
【0071】
これらの調整剤格納タンク51,52は、配管51a,52bを介して前述した切換え連結部41D,42Dにそれぞれ連通され、当該各切換え連結部41D,42Dの切り換え動作によって何れか一方の屈折率調整剤A又はBが電磁バルブ41B,42Bおよび給液管41A,42Aを介して、前述した各有底溝穴33,34にそれぞれ供給されるようになっている。
【0072】
ここで、屈折率調整剤A,Bについては、本第1実施形態では、屈折率調整剤Bが屈折率調整剤Aよりも屈折率が大きい値に設定されている。
この屈折率調整剤A,Bについては、本第1実施形態にあっては屈折率1.2乃至1.4程度の値を備えたシリコーン系又はエポキシ系の樹脂でゲル状のものが使用されているが、同程度の屈折率を備えた接着剤であってもよい。これらは何れも安価に且つ容易に入手が可能である。
【0073】
又、前述した排液タンク53については、各有底溝穴33,34に充填した屈折率調整剤A又はBが不適合の場合(フィルタ波長のシフト状態が改善されない場合)に、当該各有底溝穴33,34から排出される屈折率調整剤A又はBを収納するものであり、多くは適合するように(フィルタ波長のシフト状態が改善されるように)屈折率の異なった調整剤A又はBが予め準備されることから、廃液タンク53に排出される屈折率調整剤A又はBの量は、実際上は少ない。
【0074】
(全体の動作)
次に、上記第1実施形態における導波路型波長フィルタ10の生産工程において実行されるクラッド屈折率調整領域31,32における屈折率の設定方法について、図5乃至図6に基づいて説明する。
これは、前述したように、クラッド屈折率調整領域31,32が備えている各有底溝穴33,34に屈折率調整剤A又はBをクラッド用屈折率設定システム40によって充填することで、導波路11,12の等価屈折率を変化させ、これにより設計値に沿ったフィルタ波長をトリミングし出力し得るようにしたもので、直接的には、製作誤差として生じるフィルタ波長のシフト状態を新規な発想により修正する工程を示し、その結果、設計値に沿ったフィルタ波長のトリミングを可能とした新規な導波路型波長フィルタ10を提供し得るようにしたものである。
【0075】
まず、導波路型波長フィルタ10の一方の導波路11から出力されるフィルタ波長および当該波長にかかる情報を、フィルタ検出センサ40Aで検出する(図5:ステップS101/フィルタ波長取得工程)。この検出されたフィルタ波長は、トリミングされたフィルタ波長として、フィルタ波長シフト判定部40Bに送り込まれる。ここで、前記フィルタ検出センサ40Aとフィルタ波長シフト判定部40Bとにより、シフト情報特定手段46が構成されている。
続いて、フィルタ波長シフト判定部40Bは、送り込まれたフィルタ波長について、シフト状態の有無、その増減方向の有無、およびそのシフト量等を特定する(図5:ステップS102/シフト情報特定工程)。
【0076】
具体的には、まず、フィルタ波長シフト判定部40Bは、検出されたフィルタ波長が設計値よりも大きいか否かが判定される。基準となる設計値については記憶部40Mに予め記憶されている設計値を利用する。この場合、制作誤差が生じてフィルタ波長がシフト状態にある場合には設計値よりも小さくなる。
【0077】
このフィルタ波長がフィルタ波長シフト判定部40Bで設計値よりも小さいと判定された場合は、シフト状態にあるため、かかる情報を主制御部45Aに送り、その後の処理を主制御部45Aに移管する。
【0078】
主制御部45Aでは、一方の給排系駆動制御部45Bを介して一方の有底溝穴33内に屈折率調整剤Aが充填されているか否かの情報を収集する。この場合、一方の給排系駆動制御部45Bには、有底溝穴33に予め装備された充填量検出センサ45Baからセンサ情報が常時送り込まれているため、主制御部45Aは直ちにこのセンサ情報より、有底溝穴33内の状況を把握することができる(図5:ステップ103/屈折率調整剤有無確認工程)。
【0079】
有底溝穴33内に屈折率調整剤Aが充填されている場合、主制御部45Aは、直ちにこの屈折率調整剤Aの排出を一方の給排系駆動制御部45Bを介して調整剤排出機構43に指令する。それは、屈折率調整剤Aよりも屈折率の大きい屈折率調整剤を充填して一方の導波路11の均等屈折率を高めてシフトの存在を少なくするためである。
【0080】
この場合、調整剤吸排出機構部43では、一方の給排系駆動制御部45Bからの指令に基づいて吸出ポンプ43Dを稼働させ、同時にバルブ開閉制御部43Cを介して電磁バルブ43Bを開放制御し、これによって有底溝穴33内の屈折率調整剤Aを全て吸排出する(図5:ステップ104/屈折率調整剤吸排出工程)。
【0081】
かかる状況は、充填量検出センサ45Baからのセンサ情報として、一方の給排系駆動制御部45Bを介して主制御部45Aに収集されている。屈折率調整剤Aの排出が完了した段階で、一方の給排系駆動制御部45Bは、調整剤吸排出機構部43を元の状態に戻すように動作指令を発し、同時に排出完了を主制御部45Aへ通知する。
【0082】
排出完了通知を受信すると、主制御部45Aは直ちに作動し、給排系駆動制御部45Bを介して調整剤充填機構部41に動作指令を発し、屈折率調整剤Bを有底溝穴33内に充填させるように指示する。
【0083】
この指令により、給排系駆動制御部45Bは、直ちに切換得連結部41Dに対し、屈折率調整剤Bを格納したタンク52を連通するように指令を発してタンク52内の屈折率調整剤Bを充填可能な状態に設定し、同時にバルブ開閉制御部41Cを介して電磁バルブ41Bを開放制御するように指令して屈折率調整剤Bの充填を実行させる(図5:ステップ105/屈折率調整剤B充填制御工程:調整剤充填処理制御機能)。
続いて、適量の屈折率調整剤Bの充填状態を充填量検出センサ45Baからのセンサ情報で確認し、調整剤充填機構部41の動作を停止制御して元位置復帰させる。同時に、屈折率調整剤Bの充填完了を主制御部45Aへ通知する。
【0084】
これにより、有底溝穴33内には屈折率の値の大きい屈折率調整剤Bが充填されたことから、一方の導波路11の均等屈折率が高められ、これにより、シフトの存在が大幅に少なくなり設計値に近いフィルタ波長のトリミングが可能となる。
【0085】
この場合の設計値に近いフィルタ波長のトリミングの有無は、前述したフィルタ検知センサ40Aがフィルタ波長を常時検出しており、フィルタ波長シフト判定部40Bがそのシフト状態を常時判定していることから、主制御部45Aは直ちに当該改善状況を情報として得ることが可能となる。実際には、かかる改善の状況はこの主制御部45Aに併設されるモニタにてオペレータに向けて表示されるようになっている。
【0086】
一方、上記ステップS103で、有底溝穴33内に屈折率調整剤Aが充填されていない場合には、主制御部45Aは、直ちにこの屈折率調整剤Aの充填を一方の給排系駆動制御部45Bを介して調整剤吸排出機構部43に指令する。それは、屈折率調整剤Aの充填により、一方の導波路11の均等屈折率を高めてシフトの存在を少なくするためである。
【0087】
即ち、有底溝穴33内には屈折率調整剤Aを充填する前は空気が存在し、空気の屈折率がどの導波路の素材の屈折率よりも低いため、導波路の等価屈折率は最も低い状態にある。このため、有底溝穴33内に屈折率調整剤Aを充填すると、屈折率調整剤Aの屈折率が空気の屈折率より高いため、導波路11の等価屈折率が増加する。等価屈折率の増加により、これまでに記述したように、フィルタ波長は長波長側にシフトする。
【0088】
又、上記図5のステップS102で、最初の判定対象であるフィルタ波長が設計値よりも小さくない場合は、図5中の(1)を介して図6のステップS107へ移行し、フィルタ波長が設計値より大きいか否かが問われる(図6:ステップS107/フィルタ波長再分析工程)。
【0089】
この図6のステップS107で「フィルタ波長は設計値より大きくない」と判定された場合には、「フィルタ波長=設計値」となり、かかる状態のフィルタ波長を得ることが最終目的であることから、設計通りでシフトなしのフィルタ波長のトリミングが実現されたことになり、製作誤差が矯正され、当該動作は完了する。
【0090】
一方、図6のステップS107(フィルタ波長が設計値より大きいか否かが問われるフィルタ波長再分析工程)で、フィルタ波長シフト判定部40Bが「イエス(フィルタ波長が設計値より大きい)」と判定された場合、主制御部45Aでは、一方の給排系駆動制御部45Bを介して一方の有底溝穴33内に屈折率調整剤Bが充填されているか否かの情報を収集する。
【0091】
この場合、一方の給排系駆動制御部45Bには、有底溝穴33に予め装備された充填量検出センサ45Baからセンサ情報が常時送り込まれているため、主制御部45Aは直ちにこのセンサ情報より、有底溝穴33内の状況を把握することができる。同時に、前述した図5のフローの前段との関係及びフィルタ波長が設計値より大きい場合であることから、有底溝穴33内に屈折率調整剤が存在する場合は、屈折率調整剤Bであることが明らかである(図6:ステップS108/屈折率調整剤B確認工程)。
【0092】
続いて、有底溝穴33内に屈折率調整剤Bが充填されている場合、主制御部45Aは、前述したステップS104の場合と同様に、直ちにこの屈折率調整剤Bの排出を一方の給排系駆動制御部45Bを介して調整剤吸排出機構部43に指令し、屈折率調整剤Bの排出を実行する(図6:ステップ109/屈折率調整剤B排出工程)。それは、屈折率調整剤Bよりも屈折率の小さい屈折率調整剤Aを充填して一方の導波路11の均等屈折率を下げてシフトの存在を少なくするためである。
【0093】
かかる状況は、充填量検出センサ45Baからのセンサ情報として、一方の給排系駆動制御部45Bを介して主制御部45Aに収集されている。屈折率調整剤Bの排出が完了した段階で、一方の給排系駆動制御部45Bは、調整剤吸排出機構部43を元の状態に戻すように動作指令を発し、同時に排出完了を主制御部45Aへ通知する。
【0094】
排出完了通知を受信すると、主制御部45Aは直ちに作動し、給排系駆動制御部45Bを介して調整剤充填機構部41に動作指令を発し、屈折率調整剤Aを有底溝穴33内に充填させるように指示し、前述した図5のステップ105の場合と同様に屈折率調整剤Aの充填を実行させる(図6:ステップ110/屈折率調整剤A充填工程)。
続いて、適量の屈折率調整剤Aの充填を充填量検出センサ45Baからのセンサ情報で確認し、調整剤充填機構部41の動作を停止制御して元位置復帰させる。そして、屈折率調整剤Aの充填完了を主制御部45Aへ通知する。
【0095】
これにより、有底溝穴33内には屈折率の値の小さい屈折率調整剤Aが充填されたことから、一方の導波路11の均等屈折率が下げられることにより、設計値より大きいフィルタ波長のシフトの存在が大幅に少なくなり設計値に近いフィルタ波長のトリミングが可能となる。
【0096】
一方、上述した図6のステップS108の屈折率調整剤B確認工程で、フィルタ波長シフト判定部40Bによって屈折率調整剤Bが充填されていないと判定された場合には、同図のステップS111で示すように、他方の導波路12の有底溝穴33内に屈折率調整剤Bを充填する工程が実行される(図6:ステップS111/屈折率調整剤B充填工程)。
【0097】
この場合、フィルタ波長シフト判定部40Bから「屈折率調整剤Bの充填なし」の判定結果を受信すると、主制御部45Aは直ちに作動し、給排系駆動制御部45Cを介して調整剤充填機構部42に動作指令を発し、屈折率調整剤Bを有底溝穴34内に充填させるように指示する。
【0098】
この指令により、他方の給排系駆動制御部45Cは、直ちに調整剤切換導入部42Dに対し、屈折率調整剤Bを格納したタンク52を連通するように指令を発してタンク52内の屈折率調整剤Bを充填可能な状態に設定し、同時にバルブ開閉制御部42Cを介して電磁バルブ42Bを開放制御するように指令して屈折率調整剤Bの充填を実行させる(図6:ステップ111/屈折率調整剤B充填工程)。
続いて、適量の屈折率調整剤Bの充填状態を充填量検出センサ45Caからのセンサ情報で確認し、調整剤充填機構部42の動作を停止制御して元位置復帰させる。同時に、屈折率調整剤Bの充填完了を主制御部45Aへ通知する。
【0099】
これにより、有底溝穴33内には屈折率の値の大きい屈折率調整剤Bが充填されたことから、他方の導波路12の均等屈折率が高められ、これにより、一方の導波路11から出力される設計値より大きいフィルタ波長のシフトの存在が大幅に少なくなり設計値に近いフィルタ波長のトリミングが可能となる。
以後は、前述した図6中の(2)を介して図5のステップS101に接続される。
【0100】
ここで、上述した各ステップにおける実行工程に内容をプログラム化しコンピュータに実現させるようにしてもよい。
【0101】
このように、所望のシフト量に見合った屈折率の屈折率調整剤を有底溝穴33に充填すれば、トリミングを完遂することが出来る。設計値よりも実際の等価屈折率が高くなってしまい、フィルタ波長を短波長側にシフトさせる必要がある場合は、導波路12側に設けた有底溝穴34に屈折率調整剤A又はBを充填すればよい。
【0102】
これら屈折率調整剤と導波路の等価屈折率との関係は、前述したように導波路11と導波路12の光路長によってフィルタ波長が決まるため、導波路12の一部の等価屈折率が増加すれば光路長差は小さくなり、結果としてフィルタ波長が長波側にシフトするからである。
【0103】
更に、本第1実施形態では、屈折率調整剤を有底溝穴33,34から吸い取ること(排出すること)で、有底溝穴33,34に空気が存在する初期の状態に戻し、フィルタ波長を屈折率調整剤充填前の波長に戻すことができる。従って、屈折率調整剤の選定ミスなどにより過剰にトリミングを行ってしまった場合には、有底溝穴33,34から屈折率調整剤を吸い出して、その後に適度な屈折率をもつ屈折率調整剤を再度充填し、最適なトリミングを行えるようにすることが可能となる。
【0104】
以上のように、本実施形態によると、クラッド13,14の一部に設けたクラッド屈折率調整領域31,32が有効に機能して、フィルタ波長のシフトの発生を有効に抑制することができ、導波路型波長フィルタ10の生産時に生じる制作誤差であるフィルタ波長のシフトに対しては、当該クラッド屈折率調整領域31,32におけるクラッド環境の再設定により導波路の均等屈折率を変化させてフィルタ波長を長波長側又は短波長側にシフトさせることができ、これにより製作誤差として生じるフィルタ波長のシフトを有効に是正することが可能となり、これにより設計値に沿ったフィルタ波長を効率良くトリミングすることができるという優れた導波路型波長フィルタ、クラッド用屈折率設定システム、クラッド用屈折率設定方法、及びそのプログラムを得ることができる。
【0105】
尚、これらのトリミング方法は、導波路材料に制約がなく、またトリミングに当たり屈折率調整剤を必要とするのみでその他の高価な材料や装置を必要としない。トリミングに使用する屈折率調整剤の候補としては、前述したように、屈折率1.2乃至1.4程度を持つシリコーン系/エポキシ系の樹脂・ゲル・接着剤などが挙げられ、これらは安価かつ容易に入手できる。
【0106】
〔第2の実施形態〕
次に、本発明の第2の実施形態を図7乃至図8に基づいて説明する。
ここで、前述した第1実施形態と同一の構成部材については同一の符号を用いるものとする。
この第2の実施形態における導波路型波長フィルタ20では、前述した第1実施形態における導波路型波長フィルタ10が一方の導波路11に対応してクラッド屈折率調整領域31を又他方の導波路に対応してクラッド屈折率調整領域32をそれぞれ一つ保有しているのに対して、図7に示すように、各導波路11,12毎にクラッド屈折率調整領域を二箇所づつ併設した点に特徴を有している。
【0107】
図8において、符号33,34は前述した図1に開示した有底溝穴と同一の有底溝穴を示し、符号63,64は前述した図1に開示した有底溝穴33,34にそれぞれ併設された有底溝穴を示す。この有底溝穴63,64は、それぞれ前述した有底溝穴33,34と全く同一の機能を有し、同一形状に形成されている。
【0108】
この図8に示す有底溝穴33,34内には、前述した図1に開示した有底溝穴33,34の場合と同様に、その一方又は双方の内部に排出自在に充填されて特定のフィルタ波長のシフトを矯正する屈折率調整剤35,36が充填されている。
そして、前述した図4の場合と同様に、この屈折率調整剤35,36とこれを充填した有底溝穴33,34とにより、それぞれクラッド屈折率調整領域31,32が構成されている。
【0109】
又、この図8に示す有底溝穴63,64内にも、上述した図8に開示した有底溝穴33,34の場合と同様に、その一方又は双方の内部に排出自在に充填されて特定のフィルタ波長のシフトを矯正する屈折率調整剤65,66が充填されている。
この屈折率調整剤65,66とこれ充填した有底溝穴63,64とにより、それぞれクラッド屈折率調整領域61,62が構成されている。
【0110】
ここで、有底溝穴33,34は、前述した図1の場合と同様に前記一方と他方の導波路11,12に近接して(微小距離eを隔てて)対向して配置された側壁面33b,34bを備えている。又、有底溝穴63,64も前記有底溝穴33,34の場合と同様に、前記一方と他方の導波路11,12に近接し(微小距離eを隔てて)且つ対向して配置された側壁面63b,64bを備えている。
【0111】
更に、前述したクラッド屈折率調整領域31,32及び61,62における各屈折率調整剤の適切な個別充填を成し得るクラッド用屈折率設定システム80が、この第2実施形態でも設置されている。
【0112】
(クラッド用屈折率設定システム80)
このクラッド用屈折率設定システム80は、前述した第1実施形態におけるクラッド用屈折率設定システム40と同様に機能するものであるが、クラッドの屈折率に設定対象(クラッド屈折率調整領域)がこの第2実施形態の導波路型波長フィルタ20には、4箇所設けられている点が前述した第1実施形態の導波路型波長フィルタ10の場合と著しく相違する(図8参照)。
【0113】
本第2実施形態におけるクラッド用屈折率設定システム80は、図4のクラッド用屈折率設定システム40の場合と同様に、前述した有底溝穴33,34,63,64に対して各導波路11,12の等価屈折率を最適な状態に設定するための屈折率調整剤を個別に充填する調整剤充填機構部41,42,71,72と、この一度充填した屈折率調整剤が不適切であった場合(フィルタ波長のシフト状態が改善されない場合)にはこれらを当該有底溝穴33,34,63,64内から排出する調整剤吸排出機構部43,44,73,74と、これら各機構の動作を後述する第1乃至第4の各給排系駆動制御部45B,45C,45D,45Eを介して個別に制御する動作制御手段45と、この動作制御手段45が必要とする制御情報をリアルタイムで取得し前記フィルタ波長の設計値からのシフト状態を特定するシフト情報特定手段46とを備えている。
【0114】
ここで、本第2実施形態でも、前述した第1実施形態の場合と同様に、有底溝穴33に対応した調整剤充填機構部41と調整剤吸排出機構部43とにより第1の調整剤投入機構50Aが構成され、有底溝穴34に対応した調整剤充填機構部42と調整剤吸排出機構部44とにより第2の調整剤投入機構50Bが構成されている。
【0115】
又、有底溝穴63に対応した調整剤充填機構部71と調整剤吸排出機構部73とにより第3の調整剤投入機構50Cが構成され、有底溝穴64に対応した調整剤充填機構部72と調整剤吸排出機構部74とにより第4の調整剤投入機構50Dが構成されている。
そして、この第3,第4の各調整剤投入機構50C,50Dは、前述した第1,第2の各調整剤投入機構50A,50Bと同一の機能を備え同等に稼働するように構成されている。
【0116】
更に、前述したシフト情報特定手段46は、前述した第1実施形態の場合と同様に、導波路型波長フィルタ20にてトリミングされ一方の導波路11から出力されるフィルタ波長を検出するフィルタ波長検出センサ40Aと、この検出されたフィルタ波長にかかる情報に基づいてそのシフト状態の有無,その増減方向およびそのシフト量とを特定するフィルタ波長シフト判定部40Bとにより構成されている。
【0117】
又、動作制御手段45は、前述した4個の有底溝穴33,34,73,74毎に対応して装備された第1乃至第4の調整剤投入機構50A,50B,50C,50Dを構成する前記調整剤充填機構部および調整剤吸排出機構部の各動作を個別制御する第1乃至第4の各給排系駆動制御部45B,45C,45D,45Eと、これら第1乃至第4の各給排系駆動制御部45B乃至45Eを含むシステム全体の動作を制御する主制御部45Aとを備えている。
【0118】
この主制御部45Aには、前述した各給排系駆動制御部45B乃至45Eに対して必要な制御指令を発信するために、検出されるフィルタ波長のシフト状況の変化に対応した各種処理手順及び必要な基準情報等を予め格納して成る記憶部40Mが併設されている。又、上記主制御部45Aには、必要とする各種指令情報等を外部入力する入力部47が併設されている。
【0119】
ここで、図8における調整剤充填機構部41,42,71,72は、前述した第1実施形態における調整剤充填機構部41(図4参照)の場合と同様に、それぞれ、給液管41A,42A,71A,72Aと、電磁バルブ41B,42B,71B,72Bと、バルブ開閉制御部41C,42C,71C,72Cと、切換え連結部41D,42D,71D,72Dとを備えて構成されている。
【0120】
又、図8における調整剤吸排出機構部43,44,73,74は、前述した第1実施形態における調整剤排出機構部43(図4参照)の場合と同様に、それぞれ、排液管43A,44A,73A,74Aと、電磁バルブ43B,44B,73B,74Bと、バルブ開閉制御部43C,44C,73C,74Cと、上記各電磁バルブ43B,44B,73B,74Bに開放動作に連動して稼働し前記有底溝穴33,34,73,74内に充填された屈折率調整剤を吸い出す吸出ポンプ43Dとを備えて構成されている。
その他の構成、その制御動作、及びその作用効果は、前述した第1の実施形態の場合と同一となっている。
【0121】
このように、本第2の実施形態にあっては、前述した主制御部45Aの指令に従って各給排系駆動制御部45B乃至45Eが作動し、調整剤充填機構部および調整剤吸排出機構部から成る第1乃至第4の各調整剤投入機構50A,50B,50C,50Dを介して個別に各有底溝穴33,34,73,74内に、必要とする屈折率の屈折率調整剤が充填され若しくは排出されて、第2実施形態の導波路型波長フィルタ20における第1および第2の各導波路11,12の均等屈折率が適度に調整されるので、これにより、フィルタ波長のシフト状態を微小単位で限りなく0に近づけて設計値に沿ったフィルタ波長のトリミングを自在に設定し矯正することが可能となるという利点がある。
【0122】
特に、この第2実施形態にあっては、導波路型波長フィルタ20上を通過するフィルタ波長をトリミング情報として検出して分析し、その結果を導波路型波長フィルタ20上の四箇所で自在に屈折率調整剤を充填し若しくは排出することができるので、結果的に、導波路11,12の均等屈折率を微細に可変設定することが可能となり、これにより、フィルタ波長のトリミング量を微細に制御することが可能となるという利点が得られる。
【0123】
その他の構成およびその作用効果は前述した第1実施形態と同一となっている。
尚、この第2実施形態では、クラッド屈折率調整領域31,32及び61,62を4個設けた場合を例示したが、3個でも、或いは5個以上であってもよい。
【0124】
上述した第1乃至第2の各実施形態については、その新規な技術的内容の要点をまとめると、以下の付記のようになる。尚、この付記の内容は、本発明の内容をこれに限定するものではない。
【0125】
(付記1)
長さの異なる一方と他方の2本のコアと当該コアを取り巻いて層状に配設されたクラッドとを有し、このクラッドに囲まれて前記各コアがそれぞれ一方と他方の導波路を構成すると共に、この各導波路の入力端部と出力端部にそれぞれ方向性結合器部が設けられて成る導波路型波長フィルタであって、
前記クラッドの一部に、前記一方の導波路内を伝搬する光信号の内の予め特定された波長の光がフィルタ波長として通過するのを助成するクラッド屈折率調整領域を設け、
このクラッド屈折率調整領域を、
前記各導波路の設置ラインの一部に沿って設置され且つ当該各導波路に対向する対向面を側壁面として備えた有底溝穴と、この有底溝穴の一方又は双方の内部に排出自在に充填されて前記特定のフィルタ波長のシフトを矯正する屈折率調整剤とにより構成したことを特徴とする導波路型波長フィルタ。
【0126】
(付記2)
付記1に記載の導波路型波長フィルタにおいて、
前記有底溝穴を、前記一方と他方の各導波路に対応してそれぞれ個別に設けたことを特徴とする導波路型波長フィルタ。
【0127】
(付記3)
付記2に記載の導波路型波長フィルタにおいて、
前記クラッドを、基板上に積層された下部クラッドと、当該下部クラッド上に前記各コアを取り巻いて当該各コアと共に積層された上部クラッドとにより構成し、
前記有底溝穴を、前記上部クラッドの上面に開口部を有し当該上部及び下部の各クラッドを貫通して前記基板に達する深さに設定したことを特徴とする導波路型波長フィルタ。
【0128】
(付記4)
付記3に記載の導波路型波長フィルタにおいて、
前記有底溝穴は、前記各コアに近い側には三角柱状の溝穴が形成され、これに並列した状態で連なる前記各コアから遠い側には円柱状の溝穴が形成されて成ることを特徴とした導波路型波長フィルタ。
【0129】
(付記5)
付記1乃至4の何れか一つに記載の導波路型波長フィルタにおいて、
前記各有底溝穴は、対向する各コアの外側領域に設置されていることを特徴とした導波路型波長フィルタ。
【0130】
(付記6)
付記1乃至4の何れか一つに記載の導波路型波長フィルタにおいて、
前記各有底溝穴は、前記一方と他方の各コアの各中央領域における直線部分に、設置されていることを特徴とした導波路型波長フィルタ。
【0131】
(付記7)
付記1乃至4の何れか一つに記載の導波路型波長フィルタにおいて、
前記各有底溝穴は、前記一方と他方の各コアの各中央領域における直線部分に、それぞれ2個ずつ併設されていることを特徴とした導波路型波長フィルタ。
【0132】
(付記8)
付記1乃至4の何れか一つにおける導波路型波長フィルタの一部を成す前記クラッド屈折率調整領域の屈折率を設定するためのクラッド用屈折率設定システムであって、
前記各有底溝穴に対して個別に前記クラッドとは異なった屈折率を有する屈折率調整剤の適量を充填し又は排出する調整剤投入機構と、この調整剤投入機構の動作を制御する動作制御手段とを設け、
この動作制御手段の制御動作に必要な前記フィルタ波長にかかる波長情報を、前記一方のコアの出力光から検出して分析すると共に前記フィルタ波長の目標値からのシフト状態を特定するシフト情報特定手段を備えたことを特徴とするクラッド用屈折率設定システム。
【0133】
(付記9)
付記8に記載のクラッド用屈折率設定システムにおいて、
前記調整剤投入機構を、前記有底溝穴内の屈折率調整剤を吸出して排除する調整剤吸排出機構部と、前記有底溝穴内に他の屈折率調整剤を充填する調整剤充填機構部とを備えた構成とし、
前記調整剤充填機構部に、前記屈折率調整剤として屈折率の異なる複数の屈折率調整剤を各別に収納した複数の調整剤格納タンクを配管を介して連結すると共に、
前記調整剤充填機構部が、前記複数の調整剤格納タンクの内の何れか一つを前記配管を介して切り換え連結し特定の屈折率を備えた調整液を取り込む切換え連結部を備えていることを特徴としたクラッド用屈折率設定システム。
【0134】
(付記10)
付記9に記載のクラッド用屈折率設定システムにおいて、
前記動作制御手段を、前記各調整剤投入機構に対応して装備され当該各調整剤投入機構を個別にその動作を制御する複数の給排系駆動制御部と、この各給排系駆動制御部の一又は2以上に対してその動作内容を設定すると共に当該動作を指令する主制御部とにより構成したことを特徴とするクラッド用屈折率設定システム。
【0135】
(付記11)
付記10に記載のクラッド用屈折率設定システムにおいて、
前記シフト情報特定手段を、前記フィルタ波長のシフト状態を含む波長情報を前記一方のコアの出力光から検出するフィルタ波長検出センサと、この検出されたフィルタ波長にかかる情報に基づいてそのシフト状態の有無,その増減方向およびそのシフト量とを特定するフィルタ波長シフト判定部とにより構成したことを特徴とするクラッド用屈折率設定システム。
【0136】
(付記12)
付記1乃至4の何れか一つにおける導波路型波長フィルタが備えている前記クラッド屈折率調整領域の屈折率を設定するためのクラッド用屈折率設定システムにあって、
前記一方の導波路の出力光から前記フィルタ波長のシフト状態をシフト情報特定手段が検出して特定し(シフト情報特定工程)、
このシフト情報特定工程で特定されたフィルタ波長のシフト情報に基づいて前記一方の導波路に対応した前記有底溝穴に、前記フィルタ波長のシフト情報を是正するための一定の屈折率を備えた屈折率調整剤を調整剤投入機構を用いて動作制御手段が充填制御し(調整剤充填制御工程)、
前記調整剤充填制御の工程にあっては、前記フィルタ波長が予め設定された目標値よりも長波長側にシフトされている場合には、前記他方の導波路に対応した有底溝穴に充填されている屈折率調整剤よりも屈折率の小さい屈折率調整剤(空気を含む)を、充填用として前記動作制御手段が選択し特定するようにしたことを特徴とするクラッド用屈折率設定方法。
【0137】
(付記13)
付記12に記載のクラッド用屈折率設定方法において、
前記調整剤充填制御の工程にあっては、前記フィルタ波長が予め設定された目標値よりも短波長側にシフトされている場合には、前記他方の導波路に対応した有底溝穴に充填されている屈折率調整剤(空気を含む)よりも屈折率の大きい屈折率調整剤を、充填用として前記動作制御手段が選択し特定するようにしたことを特徴とするクラッド用屈折率設定方法。
【0138】
(付記14)
付記1乃至4の何れか一つにおける導波路型波長フィルタが備えている前記クラッド屈折率調整領域の屈折率を設定するクラッド用屈折率設定システムにあって、
前記一方の導波路の出力光から前記フィルタ波長のシフト状態を予め装備したシフト情報検出用光センサが検出した場合に、当該検出されたセンサ情報に基づいてフィルタ波長のシフト状態を分析するシフト状態分析機能、
及びこのシフト状態分析機能で特定されたフィルタ波長のシフト情報に基づいて前記一方の導波路に対応した前記有底溝穴に、前記フィルタ波長のシフト情報を是正するための一定の屈折率を備えた屈折率調整剤を、前記有底溝穴に対応して予め配置された調整剤投入機構を駆動制御して充填処理する調整剤充填処理制御機能、を設定し、
前記調整剤充填処理制御機能にあっては、前記フィルタ波長が予め設定された目標値よりも長波長側にシフトされている場合には、前記他方の導波路に対応した有底溝穴に充填されている屈折率調整剤よりも屈折率の小さい屈折率調整剤(空気を含む)を、充填用として予め選択する選択処理機能を含む構成とし、
これらの各機能をコンピュータに実現するようにしたことを特徴としたクラッド屈折率設定用制御プログラム。
【0139】
(付記15)
付記14に記載のクラッド屈折率設定用制御プログラムにおいて、
前記調整剤充填処理制御機能にあっては、前記フィルタ波長が予め設定された目標値よりも短波長側にシフトされている場合には、前記他方の導波路に対応した有底溝穴に充填されている屈折率調整剤(空気を含む)よりも屈折率の大きい屈折率調整剤を、充填用として予め選択する選択処理機能を含む構成とし、
これらの各機能をコンピュータに実現するようにしたことを特徴とするクラッド屈折率設定用制御プログラム。
【産業上の利用可能性】
【0140】
本発明の活用例としては、導波路型波長フィルタの生産性を大幅に向上させることができ、同時に導波路型波長フィルタの信頼性向上も期待できる。
【符号の説明】
【0141】
10,20 導波路型波長フィルタ
11,12 導波路
11a,12a コア
13 上部クラッド
14 下部クラッド
15 基板
31,32,61,62 クラッド屈折率調整領域
33,34,63,64 有底溝穴
33A,34A,63A,64A 開口部
33B,34B,63B,64B 三角柱状の溝穴
33C,34C,63C,64C 円柱状の溝穴
33b,34b,63b,64b 対向面である側壁面
35,36,A,B 屈折率調整剤
40,80 クラッド用屈折率設定システム
40A フィルタ波長検出センサ
40B フィルタ波長シフト判定部
41,42,71,72 調整剤充填機構部
41D,42D,71D,72D,切換え連結部
43,44,73,74 調整剤吸排出機構部
45 動作制御部
45A 主制御部
45B,45C,45D,45E 給排系駆動制御部
46 シフト情報特定手段
50A,50B,50C,50D 調整剤投入機構
51,52 調整剤格納タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長さの異なる一方と他方の2本のコアと当該コアを取り巻いて層状に配設されたクラッドとを有し、このクラッドに囲まれて前記各コアがそれぞれ一方と他方の導波路を構成すると共に、この各導波路の入力端部と出力端部にそれぞれ方向性結合器部が設けられて成る導波路型波長フィルタであって、
前記クラッドの一部に、前記一方の導波路内を伝搬する光信号の内の予め特定された波長の光がフィルタ波長として通過するのを助成するクラッド屈折率調整領域を設け、
このクラッド屈折率調整領域を、
前記各導波路の設置ラインの一部に沿って設置され且つ当該各導波路に対向する対向面を側壁面として備えた有底溝穴と、この有底溝穴の一方又は双方の内部に排出自在に充填されて前記特定のフィルタ波長のシフトを矯正する屈折率調整剤とにより構成したことを特徴とする導波路型波長フィルタ。
【請求項2】
請求項1に記載の導波路型波長フィルタにおいて、
前記有底溝穴を、前記一方と他方の各導波路に対応してそれぞれ個別に設けたことを特徴とする導波路型波長フィルタ。
【請求項3】
請求項2に記載の導波路型波長フィルタにおいて、
前記クラッドを、基板上に積層された下部クラッドと、当該下部クラッド上に前記各コアを取り巻いて当該各コアと共に積層された上部クラッドとにより構成し、
前記有底溝穴を、前記上部クラッドの上面に開口部を有し当該上部及び下部の各クラッドを貫通して前記基板に達する深さに設定したことを特徴とする導波路型波長フィルタ。
【請求項4】
請求項3に記載の導波路型波長フィルタにおいて、
前記有底溝穴は、前記各コアに近い側には三角柱状の溝穴が形成され、これに並列した状態で連なる前記各コアから遠い側には円柱状の溝穴が形成されて成ることを特徴とした導波路型波長フィルタ。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか一つに記載の導波路型波長フィルタにおいて、
前記各有底溝穴は、前記一方と他方の各コアの各中央領域における直線部分に、それぞれ2個ずつ併設されていることを特徴とした導波路型波長フィルタ。
【請求項6】
請求項1乃至4の何れか一つにおける導波路型波長フィルタの一部に設けられたクラッド屈折率調整領域の屈折率を設定するためのクラッド用屈折率設定システムにおいて、
前記各有底溝穴に対して個別に前記クラッドとは異なった屈折率を有する屈折率調整剤の適量を充填し又は排出する調整剤投入機構と、この調整剤投入機構の動作を制御する動作制御手段とを設け、
この動作制御手段の制御動作に必要な前記フィルタ波長にかかる波長情報を、前記一方のコアの出力光から検出して分析すると共に前記フィルタ波長の目標値からのシフト状態を特定するシフト情報特定手段を備えたことを特徴とするクラッド用屈折率設定システム。
【請求項7】
請求項6に記載のクラッド用屈折率設定システムにおいて、
前記調整剤投入機構を、前記有底溝穴内の屈折率調整剤を吸出して排除する調整剤吸排出機構部と、前記有底溝穴内に他の屈折率調整剤を充填する調整剤充填機構部とを備えた構成とし、
前記調整剤充填機構部に、前記屈折率調整剤として屈折率の異なる複数種類の屈折率調整剤を各別に収納した複数の調整剤格納タンクを配管を介して連結すると共に、
前記調整剤充填機構部が、前記複数の調整剤格納タンクの内の何れか一つを前記配管を介して切り換え連結し特定の屈折率を備えた調整剤を取り込む切換え連結部を備えていることを特徴としたクラッド用屈折率設定システム。
【請求項8】
請求項7に記載のクラッド用屈折率設定システムにおいて、
前記シフト情報特定手段を、前記フィルタ波長のシフト状態を含む波長情報を前記一方のコアの出力光から検出するフィルタ波長検出センサと、この検出されたフィルタ波長にかかる情報に基づいてそのシフト状態の有無,その増減方向およびそのシフト量とを特定するフィルタ波長シフト判定部とにより構成したことを特徴とするクラッド用屈折率設定システム。
【請求項9】
請求項1乃至4の何れか一つにおける導波路型波長フィルタが備えている前記クラッド屈折率調整領域の屈折率を設定するためのクラッド用屈折率設定システムにあって、
前記一方の導波路の出力光から前記フィルタ波長のシフト状態をシフト情報特定手段が検出して特定し、
このシフト情報の特定工程で特定されたフィルタ波長のシフト情報に基づいて、前記一方の導波路に対応した前記有底溝穴に前記フィルタ波長のシフト情報を是正するための一定の屈折率を備えた屈折率調整剤を調整剤投入機構を介して動作制御手段が充填制御し、
前記調整剤充填制御の工程にあっては、前記フィルタ波長が予め設定された目標値よりも長波長側にシフトされている場合には、前記他方の導波路に対応した有底溝穴に充填されている屈折率調整剤よりも屈折率の小さい屈折率調整剤を、充填用として前記動作制御手段が選択し充填制御するようにしたことを特徴とするクラッド用屈折率設定方法。
【請求項10】
請求項1乃至4の何れか一つにおける導波路型波長フィルタが備えている前記クラッド屈折率調整領域の屈折率を設定するためのクラッド用屈折率設定システムにあって、
前記一方の導波路の出力光から前記フィルタ波長のシフト状態を予め装備したシフト情報検出用光センサが検出した場合に、当該検出されたセンサ情報に基づいてフィルタ波長のシフト状態を分析するシフト状態分析機能、
及びこのシフト状態分析機能で特定されたフィルタ波長のシフト情報に基づいて前記一方の導波路に対応した前記有底溝穴に、前記フィルタ波長のシフト情報を是正するための一定の屈折率を備えた屈折率調整剤を、前記有底溝穴に対応して予め配置された調整剤投入機構を駆動制御して充填処理する調整剤充填処理制御機能、を設けると共に、
前記調整剤充填処理制御機能にあっては、前記フィルタ波長が予め設定された目標値よりも長波長側にシフトされている場合には、前記他方の導波路に対応した有底溝穴に充填されている屈折率調整剤よりも屈折率の小さい屈折率調整剤を、充填用として予め選択する選択処理機能を含む構成とし、
これらの各機能をコンピュータに実現させるようにしたことを特徴としたクラッド屈折率設定用制御プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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