説明

導電加工された天然繊維スライバー及びその製造方法、該スライバーから得られる導電性紡績糸、並びに、該導電性紡績糸を用いた繊維製品。

【課題】天然繊維製品本来の風合いを維持しつつ、優れた制電性を有する繊維製品、これを実現するための導電性紡績糸、及び該導電性紡績糸を得るための導電加工された天然繊維トップを提供する。
【解決手段】天然繊維スライバー1に、電子共役系ポリマーを形成し得るモノマーの溶液2と酸化剤溶液3を付与して、スライバー表面にて電子共役系ポリマーを重合せしめ、しかる後、スライバーをトップ状に巻き取る。これにより、電子共役系ポリマーにより導電加工された天然繊維トップが得られ、該天然繊維トップを紡績することで導電性紡績糸が得られる。そして、該導電性紡績糸を織編処理若しくは絡合処理する紡績糸の一部若しくは全部に使用し、通常の方法に従って、織編処理又は絡合処理することで、天然繊維製品本来の風合いを維持しつつ、優れた制電性を有する繊維製品が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子共役系ポリマーにより導電加工された天然繊維スライバー及びその製造方法、該スライバーから得られる導電性紡績糸、並びに、該導電性紡績糸を用いた繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
羊毛繊維等の獣毛繊維は摩擦等による静電気の発生度合いが高く、衣料において衣服が身体にまつわりついたり、衣服にホコリ等の汚れが付着するといった問題があった。静電気対策として、布帛に帯電防止剤を付着させる方法があるが、耐洗濯性に劣る。又、獣毛繊維に導電性繊維を混紡して制電性を付与する試みもあるが、獣毛のみで静電性を付与することは不可能であった。また、概して導電性繊維は剛直で獣毛繊維との均一混紡が難しく、紡績糸において、特に細番手のものにネップが発生したりするなどの問題があった。
【0003】
一方、織布、編布、不織布などの繊維基材の導電処理方法として、基材にポリピロール等の電子共役系ポリマーの被膜を形成することが知られている。例えば、特許文献1では、その処理方法として、被処理材である繊維基材を処理液中に浸漬し、該処理液中で電子共役系ポリマーを形成し得るモノマーとドーパント作用を有する酸化重合剤とを接触せしめ、かつ酸化重合剤とともにドーパントを併用して電子共役系ポリマーを重合する方法を提案している。また、特許文献2は、特許文献1の方法が、モノマーと酸化剤(酸化重合剤)を含んだ溶液に繊維基材を浸漬処理することから、モノマーを繊維に十分に吸着させるためには多量のモノマーが必要になり、また、長時間の浸漬が必要になるという欠点を指摘し、これらの欠点を解消する方法として、繊維基材への電子共役系ポリマーを形成し得るモノマーの付与と、酸化剤の付与とを別工程で行い、繊維基材表面において該モノマーを重合せしめる方法を提案している。
【0004】
しかしながら、特許文献1、2のいずれの方法においても、
(1)一様に優れた導電性を示す繊維製品を得るべく、構成繊維製品の隅々まで電子共役系ポリマーが付与された処理物を得ようとすると、結果的に、繊維間の空隙等に過剰量の電子共役系ポリマー(或いは、そのモノマーや酸化剤)が担持されることとなって、コスト高になり、また、繊維製品本来の風合いが損われ、天然繊維製品においては、衣類用生地として適さないものになってしまうという問題がある。また、(2)このような問題を回避すべく、電子共役系ポリマーを形成し得るモノマーや酸化剤の使用量を少なくすると、繊維基材全体に一様に電子共役系ポリマーを付与することができず、電子共役系ポリマーが付与されていない領域が形成されて、一様な導電性を有する繊維製品を得ることができないという問題がある。また、(3)ポリピロール等の電子共役系ポリマーは黒色や黒色度の高い色が多く、処理物は黒色(黒色度の高い色)がベタ塗りされた外観となり、得られる繊維製品が美観性に欠けるといった問題も有している。
【特許文献1】特公平6−18083号公報
【特許文献2】特開2004−270062号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、その解決しようとする課題は、天然繊維製品本来の風合いを維持しつつ、優れた制電性を有する繊維製品を実現するための導電性紡績糸、該導電性紡績糸を得るための導電加工された天然繊維スライバー及びその製造方法を提供することである。
また、優れた制電性及び耐洗濯性を有し、美観性も良好な、特に衣類の生地に好適な繊維製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、天然繊維紡績糸の製造工程におけるトップ・スライバー加工において、スライバーまたはその前段階である繊維塊状態において、ポリピロール等の電子共役系ポリマーを付与すると、電子共役系ポリマーを形成し得るモノマーや酸化剤を過剰に使用することなく、一様に導電化されたスライバーが得られ、該スライバーを用いて得られる紡績糸を使用した繊維製品が、天然繊維製品本来の風合いを維持しつつ、優れた制電性を有するものとなることを見出し、該知見に基づいてさらに研究を進めることによって本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は次の通りである。
(1)電子共役系ポリマーが付与されてなることを特徴とする、導電加工された天然繊維スライバー。
(2)電子共役系ポリマーが、ピロール、チオフェン、アニリン又はそれらの誘導体から得られた重合体である、上記(1)記載の導電加工された天然繊維スライバー。
(3)天然繊維が動物繊維である、上記(1)又は(2)記載の導電加工された天然繊維スライバー。
(4)天然繊維が獣毛である、上記(1)又は(2)記載の導電加工された天然繊維スライバー。
(5)オゾン処理されたスライバーに電子共役系ポリマーが付与されたものである、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の導電加工された天然繊維スライバー。
(6)スライバーに電子共役系ポリマーを被覆する樹脂がさらに付与されてなる、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の導電加工された天然繊維スライバー。
(7)天然繊維スライバーに、電子共役系ポリマーを形成し得るモノマーの溶液と酸化剤溶液を付与して、スライバー表面にて電子共役系ポリマーを重合せしめることを特徴とする導電加工された天然繊維スライバーの製造方法。
(8)電子共役系ポリマーを形成し得るモノマーが、ピロール、チオフェン、アニリン又はそれらの誘導体である、上記(7)記載の方法。
(9)電子共役系ポリマーを重合せしめた後、スライバー表面に電子共役系ポリマーを被覆する樹脂をさらに付与する、上記(7)または(8)記載の方法。
(10)天然繊維が動物繊維である、上記(7)〜(9)のいずれかに記載の方法。
(11)天然繊維が獣毛である、上記(7)〜(9)のいずれかに記載の方法。
(12)オゾン処理されたスライバーに、電子共役系ポリマーを形成し得るモノマーの溶液と酸化剤溶液を付与して、スライバー表面にて電子共役系ポリマーを重合せしめる、上記(11)記載の方法。
(13)上記(1)〜(6)のいずれかに記載の導電加工された天然繊維スライバーを紡績してなる導電性紡績糸。
(14)上記(1)〜(6)のいずれか1項記載の導電加工された天然繊維スライバーと、他のスライバーとの混合スライバーを紡績してなる導電性紡績糸。
(15)導電加工された天然繊維スライバーが、導電加工された獣毛スライバーであり、他のスライバーが、獣毛スライバーである、上記(14)記載の導電性紡績糸。
(16)導電加工された天然繊維スライバーが、導電加工された羊毛スライバーであり、他のスライバーが、羊毛スライバーである上記(14)記載の導電性紡績糸。
(17)上記(13)〜(16)のいずれかに記載の導電性紡績糸を含んでなる、制電性繊維製品。
(18)上記(1)〜(6)のいずれかに記載の導電加工された天然繊維スライバーを紡績してなる導電性紡績糸か、或いは、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の導電加工された天然繊維スライバーと、他のスライバーとの混合スライバーを紡績してなる導電性紡績糸を含んでなる繊維基材に対して、電子共役系ポリマーを被覆する樹脂を付与してなる、制電性繊維製品。
(19)衣類の生地用である、上記(17)又は(18)記載の制電性繊維製品。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電子共役系ポリマーを形成し得るモノマーや酸化剤を過剰に使用することなく、一様に導電化されたスライバーを得ることができる。したがって、かかるスライバーを用いて得られる紡績糸は適度な柔軟性と優れた制電性を有するものとなり、それを少なくとも一部に使用して製造される繊維製品は、天然繊維製品本来の風合いと、優れた制電性を有する繊維製品となり、特に衣類の生地に好適なものとなる。また、電子共役系ポリマーを付与したスライバーに電子共役系ポリマーを被覆する樹脂をさらに付与するか、或いは、電子共役系ポリマーを付与したスライバーから得られた紡績糸を含む繊維製品(編地)に電子共役系ポリマーを被覆する樹脂をさらに付与することで、制電性が一層向上するとともに、優れた耐洗濯性および美観性を有する繊維製品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明をより詳細に説明する。
一般に、天然繊維の紡績糸は、トップ工程と紡績工程を経て製造されるが、トップ工程で作製される「トップ」は、平行に繊維を揃えたまま、撚りをかけていない半製品(スライバー)をボール状に巻き取ったものであり、それ単体で商品として流通されることもある。
【0010】
本発明でいう、「導電加工された天然繊維スライバー」とは、トップを構成するスライバーであって、そのスライバーに電子共役系ポリマーが付与されてなるものである。なお、電子共役系ポリマーは、スライバーの前段階である繊維塊状態の段階で付与し、その後平行に繊維を引き揃えてスライバーとしても良いが、薬品ロスを少なくし、しかも連続処理が可能となる点で、スライバーに電子共役系ポリマーを付与することが好ましい。
【0011】
ここで「天然繊維」とは、植物繊維と動物繊維を含み、植物繊維としては、例えば、綿、麻等が挙げられ、動物繊維としては、羊毛、カシミヤ、キャメル、アルパカ、アンゴラ、モヘア、ビキューナ、キャメル等の獣毛繊維や絹繊維が挙げられる。
【0012】
また、本発明でいう、「電子共役系ポリマー」とは、複素環式化合物等の分子構造中に共役二重結合を有するものであって、酸化によって重合を起こす物質(モノマー)の1種又は2種以上を重合せしめた重合体を意味する。具体的には、例えば、ピロール、チオフェン、アニリン、フラン、インドール及びそれらの誘導体等から選ばれるいずれか1種のホモポリマーまたは2種以上のコポリマーが挙げられる。
【0013】
本発明の導電加工された天然繊維スライバー(以下、「導電加工天然繊維スライバー」ともいう)は、前記のとおり、好適には、スライバーに電子共役系ポリマーを付与する処理を行うことによって作製される。
【0014】
スライバーへの電子共役系ポリマーの付与処理の態様としては、(A)処理液中にスライバーを浸漬し、該処理液中で電子共役系ポリマーを形成し得るモノマーと酸化剤を接触せしめて、電子共役系ポリマーを重合させる態様、(B)スライバーに電子共役系ポリマーを形成し得るモノマーの溶液を付与した後、酸化剤溶液を付与して、スライバー表面にて電子共役系ポリマーを重合せしめる態様等が挙げられるが、後者の態様((B)の態様)が、効率良く、かつ、短時間でスライバーに電子共役系ポリマーを付与することができ、電子共役系ポリマーを形成し得るモノマーと酸化剤の使用量をより少なくできるので、好ましい。
【0015】
電子共役系ポリマーを形成し得るモノマーとしては、例えば、ピロール、チオフェン、アニリン、フラン、インドール及びそれらの誘導体等を挙げることができ、これらのモノマーは、1種を単独で用いることができ、あるいは、2種以上を組み合わせて用いることもできる。これらの中でも、ピロール、チオフェン、アニリン及びそれらの誘導体はスライバーに高い導電性を与え、そのスライバーを紡績して得られる紡績糸がより高い導電性を示すため、好ましい。
【0016】
上記ピロールの誘導体としては、例えば、N−メチルピロールなどのN−置換ピロール、3−メチルピロール、3−オクチルピロールなどの3−置換ピロール、4−メチルピロール−3−カルボン酸メチルなどの3,4−置換ピロール、3,5−ジメチルピロールなどの3,5−置換ピロールなどを挙げることができる。また、チオフェンの誘導体としては、例えば、2−チオフェンカルボン酸などの2−置換チオフェン、3−メチルチオフェン、3−メトキシチオフェン、3−チオフェンカルボン酸などの3−置換チオフェンなどを挙げることができる。また、アニリンの誘導体としては、例えば、o−メチルアニリン、o−メトキシアニリン、o−エトキシアニリン、o−クロルアニリンなどのo−置換アニリン、m−メチルアニリン、m−メトキシアニリン、m−エトキシアニリン、m−クロルアニリンなどのm−置換アニリン、p−メチルアニリン、p−メトキシアニリン、p−エトキシアニリン、p−クロルアニリンなどのp−置換アニリンを挙げることができる。
【0017】
また、上記酸化剤としては、例えば、過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カリウムなどの過マンガン酸塩、三酸化クロム、二クロム酸ナトリウム、二クロム酸カリウム、二クロム酸銀などのクロム酸類、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸銀などの硝酸塩、過酸化水素、過酸化ベンゾイルなどの過酸化物、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸カリウムなどのペルオキソ二硫酸類、次亜塩素酸、次亜塩素酸カリウムなどの酸素酸類、過塩素酸第二鉄、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄、クエン酸第二鉄などの三価の鉄化合物、塩化銅などの遷移金属塩化物などを挙げることができる。これらの酸化剤は、1種を単独で用いることができ、あるいは、2種以上を組み合わせて用いることもできる。これらの中でも、ペルオキソ二硫酸塩は、反応性が良好であり、好ましい。
【0018】
本発明において、上記(A)の態様での処理液に使用する溶媒や、上記(B)の態様における溶液調製に使用する溶媒としては、水又は親水性有機溶媒と水との混合溶媒を挙げることができる。水との混合溶媒を形成する親水性有機溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、t−ブチルアルコール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコールなどのアルコール類、エチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノアセテートなどのグリコール類及びそれらの誘導体、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド類、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルなどを挙げることができる。
【0019】
スライバーに電子共役系ポリマーを付与する場合、電子共役系ポリマーを形成し得るモノマーの付与量は0.5〜20%o.w.f.であることが好ましく、3〜10%o.w.f.であることがより好ましい(すなわち、本発明の導電加工天然繊維スライバーにおいて、電子共役系ポリマーの付与量は0.5〜20%o.w.f.であることが好ましく、3〜10%o.w.f.であることがより好ましい。)。電子共役系ポリマーを形成し得るモノマーの付与量が0.5%o.w.f.未満であると、十分な導電性能が得られないおそれがある。一方、電子共役系ポリマーを形成し得るモノマーの付与量が20%o.w.f.を超えると、モノマー量に見合った導電性能が得られないおそれがある。また、スライバーに付与する酸化剤は、電子共役系ポリマーを形成し得るモノマーに対して3〜20重量%が好ましく、5〜15重量%であることがより好ましい。酸化剤が3重量%未満であると、スライバー表面に電子共役系ポリマーが十分に形成されないおそれがある。一方、酸化剤が20重量%を超えると、スライバーの繊維が酸化により劣化するおそれがある。
【0020】
なお、電子共役系ポリマーを形成し得るモノマーの溶液におけるモノマー濃度は、特に限定はされないが、薬剤ロスを削減する観点から、溶媒に対し1〜20重量%であるのが好ましく、3〜10重量%がより好ましい。また、酸化剤溶液における酸化剤の濃度は特に限定はされないが薬剤ロスの削減、繊維損傷の最小化の観点から、溶媒に対し1〜20重量%であるのが好ましく、5〜10重量%がより好ましい。
【0021】
また、電子共役系ポリマーを形成し得るモノマーの溶液及び酸化剤溶液の温度は常温〜40℃の範囲であるのが好ましい。これらの溶液の温度が40℃を超える場合、モノマーが揮発し加工不良の原因となる可能性がある。
【0022】
スライバーへの電子共役系ポリマーを形成し得るモノマーの溶液の付与及び酸化剤溶液の付与は、それぞれ、ディッピング、シャワー(スプレー)、プリント等によって行うことができるが、少なくも一方の溶液の付与は、シャワー(スプレー)またはプリントで行うのが好ましい。溶液をシャワー(スプレー)またはプリントによりスライバーに付与することにより、溶液の過剰使用を防止できる。特に、スライバーを電子共役系ポリマーを形成し得るモノマーの溶液又は酸化剤溶液に含浸し(ディッピング)、モノマー又は酸化剤を十分に吸着させ、搾液した後、酸化剤溶液又は電子共役系ポリマーを形成し得るモノマーの溶液をスライバーにシャワー(スプレー)またはプリントにより付与する態様であれば、スライバーに対して電子共役系ポリマーが一様に付与されやすく、また、電子共役系ポリマーを形成し得るモノマーの溶液と酸化剤溶液とが溶液の状態で混和することがないので、スライバーの表面に付着しない高分子が生成して、モノマーと酸化剤が無駄に消費されるのを抑制することができる。なお、スライバーには電子共役系ポリマーを形成し得るモノマーの溶液と酸化剤溶液の何れを先に付与してもよいが、先に電子共役系ポリマーを形成し得るモノマーの溶液を付与した後、酸化剤溶液を付与するのが好ましい。スライバーにモノマー溶液を先に付与することにより、モノマーが効率よく付与されて損失が抑えられ、一様に導電化されたトップを得ることができる。従って、最も好ましい態様は、スライバーを電子共役系ポリマーを形成し得るモノマーの溶液に含浸(ディッピング)し、搾液したのち、酸化剤溶液をシャワー(スプレー)またはプリントにより付与する態様である。
【0023】
なお、溶液をシャワー(スプレー)により付与する場合、例えば、圧搾空気により溶液を霧状にして吹き付ける方法、液圧霧化方式で溶液を霧状にして吹き付ける方法、スプレーガンと繊維基材の間に静電界を形成して、溶液の粒子を負に帯電させ、正に帯電した繊維基材に効率よく塗着させる方法などを挙げることができる。また、溶液をプリントにより付与する場合、例えば、ローラー捺染機、フラットスクリーン捺染機、ロータリースクリーン捺染機などを用いるプリントを挙げることができる。
【0024】
本発明では、電子共役系ポリマーが付与されたスライバーより得られる紡績糸及び繊維製品により高い導電性を与えるために、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン類、五酸化リンなどのルイス酸、塩酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸、1,5−ナフタレンジスルホン酸、サリチル酸、酢酸、安息香酸などのプロトン酸などの酸類やこれらの可溶性塩をドーパントとして添加することができる。通常、これらは電子共役系ポリマーを形成し得るモノマーの溶液や酸化剤溶液に添加して使用される。
【0025】
また、紡績糸及び繊維製品の導電性(制電性)の耐久性の観点から、スライバーへの電子共役系ポリマーの固着性を向上させるために、電子共役系ポリマーを付与したスライバーにさらに電子共役系ポリマーを被覆する樹脂を付与することができる。この場合、トップ・スライバー加工工程において、電子共役系ポリマーの付与処理の後、スライバーに当該樹脂をさらに付与する処理を行うようにすればよい。このような樹脂としては、好ましくはエポキシ樹脂、シリコン樹脂(シリコーン)等が挙げられる、シリコーン樹脂が特に好ましい。
【0026】
エポキシ樹脂としては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス社製の「デナコールEX−810」、「デナコールEX−811」等)、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス社製の「デナコールEX−850」、「デナコールEX−851」等)、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス社製の「デナコールEX−821」、「デナコールEX−830」、「デナコールEX−832」、「デナコールEX−841」、「デナコールEX−861」等)、プロピレングリコールジグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス社製の「デナコールEX−911」等)、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス社製の「デナコールEX−941」、「デナコールEX−920」、「デナコールEX−931」等)等が挙げられ、中でも、ジエチレングリコールジグリシジルエーテルが好適である。
【0027】
また、シリコン樹脂(シリコーン)としては、例えば、アミノ変性シリコーン高重合度ジメチルポリシロキサン、エポキシ変性シリコーン、カルボキシル変性シリコーン等を挙げることができ、これらの中でも、アミノ変性シリコーンが好適である。なお、アミノ変性シリコーンにおけるアミノ基含有シロキサン単位の含有量は2〜5モル%程度が好適であり、このようなアミノ変性シリコーンとしては例えば、松本油脂製薬株式会社製の「KB88」等が挙げられる。
【0028】
本発明において、電子共役系ポリマーを被覆する樹脂の付与量は、樹脂によっても異なるが、一般的には0.5〜10%o.w.f.であり、1〜5%o.w.f.が好ましい。
【0029】
通常、これらの樹脂は、水溶液、或いは、エマルジョンの形態で使用される。アミノ変性シリコーンでは、極性基としてアミノ基を構造中に有しているため、有機酸による中和を施すことによって乳化分散性を向上することことができる。これらの樹脂の具体的な付与方法、装置等は、前述の電子共役系ポリマーを形成し得るモノマーの溶液及び酸化剤溶液の付与処理におけるそれと同様の方法、装置等が挙げられる。
【0030】
なお、導電加工された獣毛繊維スライバーを得る場合には、電子共役系ポリマーを付与する処理を行う前に、獣毛繊維スライバーに酸化処理を施すのが好ましい。ここでいう、酸化処理は、獣毛繊維のシスチン結合が部分酸化された状態、すなわち、シスチン結合が切断されて、−SOH、−SOH、−SOH等が生成する前の状態で酸化を停止させた状態となるように行うのが好ましく、このようなシスチン結合が部分酸化された状態は、例えば、塩素、オゾン、過酸化水素、過硫酸水素カリ、過硫酸カリ、過酢酸、過蟻酸等の酸化剤の溶液をスライバーに付し、その薬剤濃度、溶液のpH、反応温度、反応時間等を制御することによって、達成できる。好ましくは、獣毛繊維を前もって酸化剤でその表層部分を一次酸化し、水性処理液中で、オゾンを5ミクロン以下の超微細気泡として含んだ該水性処理液を吹き付けて繊維に衝突させてオゾンガスによる気相反応をさせた後、還元剤で処理することによって行うことができる。このようなスライバーへの処理を行っておくことで、電子共役系ポリマーの付与後のスライバーから得られる紡績糸及び繊維製品により高い導電性(制電性)を与えることができる。
【0031】
本発明の導電加工された天然繊維スライバーは、通常の紡績方法に従って、所望の番手、撚数に設定して紡績することで、導電性の紡績糸(第1態様の導電性紡績糸)となる。なお、紡績の際、導電加工された天然繊維スライバーを、他のスライバー(導電加工をしていないスライバー)と混合することによって、導電性の混合紡績糸(第2態様の導電性紡績糸)とすることもできる。混合紡績糸とする場合は、常法に従い、調合工程にて、導電加工された天然繊維トップのスライバーに他のスライバーを混合し、該混合スライバーを粗紡、精紡すればよい。第1態様の導電性紡績糸は表面が電子共役系ポリマーで覆われた糸となり、第2態様の導電性紡績糸は表面が部分的に電子共役系ポリマーで覆われた糸となる。
【0032】
このように本発明の導電性紡績糸は、紡績工程前のトップ工程でスライバーに電子共役系ポリマーを付与し、それを紡績していることから、電子共役系ポリマーが糸表面の繊維のみならず、糸の表面よりも内部の繊維にまで固着したものとなるため、電子共役系ポリマーが比較的脱落しにくく、それ故、優れた導電性を有するとともに、導電性の持続性(耐久性)にも優れている。
【0033】
第2態様の導電性紡績糸において、混合する他のスライバーは、短繊維、長繊維などの形態は特に限定されず、目的・用途に応じて適宜選択される。例えば、羊毛、カシミヤ、キャメル、アルパカ、アンゴラ、モヘア、ビキューナ、キャメル等の獣毛繊維、絹繊維、綿、麻等の植物繊維、ポリエステル、ポリアミド、アクリル、ポリウレタン、ポリオレフィンなどの合成繊維、レーヨン、キュプラなどの再生繊維、トリアセテートなどの半合成繊維等の種々のスライバーが挙げられる。なお、他のスライバーに導電加工された天然繊維スライバーの繊維と同種の天然繊維のスライバーを使用することで、その天然繊維が有する風合いがより損なわれることなく、導電化された紡績糸を実現することができる。例えば、導電加工された天然繊維スライバーが、導電加工された羊毛スライバーである場合、混合する他のスライバーに、羊毛スライバーを使用することで、羊毛繊維特有の柔軟性、ソフト感がより維持された導電性羊毛繊維紡績糸を得ることができる。
【0034】
第2態様の導電性紡績糸において、導電加工された天然繊維スライバーの混率は所望する導電性(制電性)に応じて適宜選択される。
【0035】
本発明の導電性紡績糸は、通常の方法で、多層構造をもった複合糸にすることもでき、その場合、少なくとも鞘部を本発明の導電加工天然繊維スライバー由来の繊維の束か、若しくは、当該導電加工天然繊維スライバー由来の繊維と他のスライバー由来の繊維とからなる繊維束で構成し、芯部を他のスライバー由来の繊維束で構成する。鞘部が他のスライバー由来の繊維を含む場合、芯鞘構造の複合糸とすることで、芯部には導電性以外の他の要求特性に応じた繊維を選択できるので、糸全体当たりの電子共役系ポリマーの付与量をより少なくでき、材料コストを低減できる上、糸の用途を拡大できる利点がある。また芯部を本発明の導電加工天然繊維スライバー由来の繊維の束か、若しくは、当該導電加工天然繊維スライバー由来の繊維と他のスライバー由来の繊維とからなる繊維束で構成することで、黒色に近い色相を有している当該導電加工天然繊維スライバー由来の繊維を糸表面から隠すことで、ファッション性の高い商品の展開が可能となる。
【0036】
本発明の導電性紡績糸の番手、撚数等は、繊維の種類、目的とする繊維製品の用途等に応じて決定され、特に、限定されない
【0037】
本発明の繊維製品は、上記説明した本発明の導電性紡績糸を少なくとも一部に使用して得られる織布、編布、不織布等からなる繊維製品である。すなわち、本発明の繊維製品は、織編処理若しくは絡合処理する紡績糸の一部若しくは全部に本発明の導電性紡績糸を使用し、通常の方法に従って、織編処理又は絡合処理することで得ることができる。本発明の導電性紡績糸は、上述のとおり、優れた導電性を有するとともに、導電性の持続性(耐久性)にも優れているため、織布、編布又は不織布に優れた制電性を与える。
【0038】
繊維製品に高度の静電気防止効果(制電効果)を与えるという観点からは、本発明の導電性紡績糸は繊維製品中に1%以上の混率で存在させるのが好ましく、5%以上の混率で存在させるのがより好ましい。なお、本発明の導電性紡績糸は電子共役系ポリマーの付与によって黒色に近い色相を有しており、導電性紡績糸の混率が高い程、繊維製品も黒色に近い外観となる。また、耐ドライクリーング性、耐汗性が余り良くない傾向にある。従って、特に繊維製品を衣類の生地に使用する場合、制電効果と、堅牢性、美観性等とを両立する観点から、導電性紡績糸の混率は1〜50重量%程度とするのが好ましく、5〜30重量%程度がより好ましい。
【0039】
また、本発明の導電性紡績糸は、導電化剤である電子共役系ポリマーの糸(繊維)への固着性は良好であるが、糸が強い摩擦を受けた場合や強度の化学処理をおこなった場合等に、多くはないが、導電性(通電性)が低下するときがある。従って、耐久性に優れた繊維製品とする場合には、本発明の導電性紡績糸として、スライバーに電子共役系ポリマーと電子共役系ポリマーを被覆する樹脂を付与して作製したスライバーを紡績した紡績糸を使用するのが好ましい。また、スライバーに電子共役系ポリマーのみを付与して作製したスライバーを紡績した紡績糸を用いて得られた織布、編布又は不織布に対して、電子共役系ポリマーを被覆する樹脂の付与処理を行ってもよい。
【0040】
本発明の繊維製品において、本発明の導電性紡績糸とともに織編処理若しくは絡合処理する他の糸としては、例えば、羊毛、カシミヤ、キャメル、アルパカ、アンゴラ、モヘア、ビキューナ、キャメル等の獣毛繊維紡績糸、絹繊維の紡績糸、綿、麻等の植物繊維紡績糸、ポリエステル、ポリアミド、アクリル、ポリウレタン、ポリオレフィン等の合成繊維紡績糸及びフィラメント糸、レーヨン、キュプラ等の再生繊維紡績糸及びフィラメント糸、トリアセテートなどの半合成繊紡績糸及びフィラメント糸等が挙げられる。
【0041】
衣類の生地は、通常、わたやスライバーを紡績する前に染色するか、紡績糸を織編処理若しくは絡合処理する前に紡績糸を染色するか、或いは、織編処理若しくは絡合処理して得られた布(織布、編布、不織布)に対して染色処理を施すが、本発明の繊維製品においても同様であり、本発明の繊維製品が衣類用の生地である場合、織編処理若しくは絡合処理する前の紡績糸、及び/又は、織編処理若しくは絡合処理して得られた布(織布、編布、不織布)に対して、通常の方法に従って、染色処理が施される。染色方法としては、繊維の種類に応じて、直接染料を使用する方法、酸性染料を使用する方法、含金属錯塩酸性染料を使用する方法、塩基性染料を使用する方法、酸性媒染染料を使用する方法、反応染料を使用する方法等、種々の方法を採用することができる。
【0042】
本発明の繊維製品は、優れた導電性を有し、かつ、導電性の持続性(耐久性)の良好な導電性紡績糸を用いて、織編処理若しくは絡合処理して得られた繊維製品であるため、製品全体が一様に優れた制電性を示す。また、繊維製品(織布、編布、不織布等)に電子共役系ポリマーを後処理で付与して導電化する従来の導電性繊維製品における柔軟性や外観低下といった問題を軽減乃至解消でき、柔軟性及び美観性も良好な繊維製品となり、特に、衣類用生地に適したものとなる。
【0043】
本発明の繊維製品における目付け量は、繊維の種類、繊維製品の用途等に応じて決定され、特に、限定されない。
【0044】
本発明の繊維製品は、衣類の生地、布団側地、椅子の側地、帽子等の他、IC包装用資材等の種々の産業分野での静電気障害防止用資材に適用される。中でも、特に衣類の生地用に好適である。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を示して、本発明をより具体的に説明する。
[制電性の評価]
JIS L 1094 摩擦帯電圧測定法(20℃×40%RH)によって、摩擦布が綿と毛において開始1分後と停止1分後の摩擦電圧を測定した。
[堅牢度の評価]
JIS L 0849に準拠して、試験を行い、摩擦堅牢度を評価した。評価は「1、1−2、2、2−3、3、3−4、4、4−5」の9段階で行った。
【0046】
(実施例1)
1.導電加工スライバーの製造
図1はスライバーを加工する際の連続製造に使用する設備の一具体例の模式図であり、該設備を使用して導電加工されたスライバーを作製した。
すなわち、スライバー1を2m/minの走行速度で、電子共役系ポリマーを形成し得るモノマーの溶液2を収容したディップ槽10に連続的に供給し、ディップ槽10内の溶液2中を通過させた後、搾液ローラー11a、11bを通過させることで、搾液し、次いで、シャワー装置12から落下する酸化剤溶液3の下を通過させた後、緩衝容器にて2時間静置し、その後、サクションドラム乾燥機13で巻き取りながら乾燥し、導電加工されたスライバーを得た。
処理条件の詳細は以下の通りである。
【0047】
(1)スライバーへの電子共役系ポリマーを形成し得るモノマー溶液の付与処理
オーストラリア産メリノ種羊毛20.5ミクロンのスライバー(25g/m)を下記の組成のモノマー溶液に浸漬後、搾液した。
溶液成分としてF−5363(導電性樹脂モノマー溶液(日華化学株式会社製))を20重量%、ピークロン350(アニオン系活性剤(日華化学株式会社製))を0.3重量%、テキスポートBG(特殊アニオン系浸透剤(日華化学株式会社製))を0.5重量%含んだ水溶液を作製し、これをモノマー溶液とした。常温にてモノマー溶液に浸漬後、搾液ローラーを通過させ、絞り率50%とした。この時のモノマーの付与量は10%o.w.f.であった。
【0048】
(2)酸化剤溶液の付与処理
モノマー溶液で湿潤したスライバーを下記の条件で酸化剤溶液のシャワー処理に付した。
溶液の成分として、F−5259(酸化剤系反応触媒(日華化学株式会社製))を5重量%含んだ水溶液を調製し、これを酸化剤溶液とした。この酸化剤溶液を常温にて、スライバー重量に対し、50〜100%o.w.f.付与するようにシャワー処理を行った。従って、酸化剤はモノマーに対して50重量%付与された(モノマー100重量部に対して50重量部付与された。
(3)静置処理
前記の酸化剤溶液が付与されたスライバー上では、酸化剤を触媒としてモノマーが反応を開始し、この時に反応開始から完了までに数分から数時間かかるため、その間静置して反応を完了させる必要があり、常温にて2時間静置を行った。
【0049】
(4)洗浄処理
静置処理後、導電性樹脂以外の成分や繊維に十分固着していない導電性樹脂成分を洗い落とす為に、サクションドラム式水洗槽にて、2m/minでスライバーを通過させて、水洗を行った。この時の水洗温度は40℃、水槽への浸漬時間は40秒とし、水槽内は非イオン系界面活性剤を1g/L添加した状態で水洗処理を行った。
【0050】
(5)乾燥処理
水洗処理後のスライバーを熱風乾燥機に送り加熱乾燥を行った。この時の乾燥温度は100℃、乾燥機の通過時間は3分であった。
【0051】
2.紡績・製編
上記の導電加工したスライバーとは別に、スライバーへの導電性樹脂の付与を行っていない、未処理のオーストラリア産メリノ種羊毛20.5ミクロンのスライバー(25g/m)を用意し、一般的な紡績工程にて導電加工スライバーと未処理スライバーを調合し、導電加工スライバーの繊維混率が5重量%(未処理スライバーの繊維混率が95重量%)とした。その後、常法の紡績方法により、Z360t/mの撚りで1/32Nmの織糸に紡績し、編密度12本/inch、目付け220g/mの天竺編物を製編した。
【0052】
上記のようにして作製した羊毛繊維編物の制電性を前述の方法で評価した。
【0053】
(実施例2)
未処理スライバーを使用せず、導電加工スライバーの繊維混率100重量%にし、その他は実施例1と同様にして、1/32Nmの織糸を紡績し、編密度12本/inch、目付け220g/mの天竺編物を製編した。そして、こうして作製した編物の制電性、堅牢度を前述の方法で評価した。
【0054】
(実施例3)
実施例2で作製した導電加工スライバーの繊維混率100重量%の編物を、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル(デナコールEX−851(ナガセケムテックス株式会社製))の10%水溶液に浸漬し、絞り(絞り率:50%)、加熱乾燥(温度:100℃、時間:30分)を行って、繊維へのエポキシ樹脂の付与率が5%o.w.f.の編物を作製した。そして、こうして得られた編物の制電性、堅牢度を前述の方法で評価した。
【0055】
(実施例4)
実施例2で作製した導電加工スライバーの繊維混率100重量%の編物を、アミノ変性シリコ−ン(KB88(松本油脂製薬株式会社製))の4%水溶液に浸漬し、絞り(絞り率:50%)、加熱乾燥(温度:100℃、時間:10分)を行って、繊維へのシリコン樹脂の付与率が2%o.w.f.の編物を作製した。そして、こうして得られた編物の制電性、堅牢度を前述の方法で評価した。
【0056】
(実施例5)
導電加工に先立ってオーストラリア産メリノ種羊毛20.5ミクロンのスライバー(25g/m)に下記条件のオゾン処理を施し、また、導電加工におけるモノマー溶液の組成を、F−5363(導電性樹脂モノマー溶液(日華化学株式会社製))を10重量%、ピークロン350(アニオン系活性剤(日華化学株式会社製))を0.5重量%、テキスポートBG(特殊アニオン系浸透剤(日華化学株式会社製))を0.2重量%含む組成に変更した以外は、実施例1と同様にして、導電加工スライバーの製造、紡績・製編を順次行って、編密度12本/inch、目付け220g/mの天竺編物を製編した。そして、こうして得られた編物の制電性、堅牢度を前述の方法で評価した。
【0057】
(実施例6)
未処理スライバーを使用せず、導電加工スライバーの繊維混率100重量%にし、その他は実施例5と同様にして、編密度12本/inch、目付け220g/mの天竺編物を製編し、次に、かかる編物をアミノ変性シリコ−ン(KB88(松本油脂製薬株式会社製))の4%水溶液に浸漬し、絞り(絞り率:50%)、加熱乾燥(温度:100℃、時間:10分)を行って、繊維へのシリコン樹脂の付与率が2%o.w.f.の編物を作製した。そして、こうして得られた編物の制電性、堅牢度を前述の方法で評価した。
【0058】
(実施例7)
エコウォッシュ(オーストラリア産メリノ種羊毛18.5ミクロンのスライバーをオゾン処理したもの(倉敷紡績株式会社製))のスライバーを使用した以外は、実施例5と同様にして、導電加工スライバーを作製した後、この導電加工スライバーに対してアミノ変性シリコ−ンの付与処理を行った。具体的には、導電加工スライバーをサクションドラム式水洗機を用いて、アミノ変性シリコ−ンの(KB88(松本油脂製薬株式会社製))の水溶液(4重量%溶液)に浸漬処理した。この際、2m/minでスライバーを通過させ、2%o.w.f.になるように絞り率を調整し、その後、熱風乾燥機にて加熱乾燥(乾燥温度:100℃、乾燥機通過時間:3分)を行った。
【0059】
次に、こうして作製したシリコン樹脂を付与した導電加工スライバーの繊維混率が5重量%(未処理スライバーの繊維混率95重量%)となるように、該導電加工スライバーと未処理スライバーとを調合し、常法の紡績方法により、Z360t/mの撚りで、1/32Nmの織糸に紡績し、編密度12本/inch、目付け220g/mの天竺編物を製編し、得られた編物の制電性、堅牢度を前述の方法で評価した。
【0060】
(実施例8)
導電加工スライバーの繊維混率を10重量%(未処理スライバーの繊維混率90重量%)にした以外は実施例7と同様にして、1/32Nmの織糸を紡績し、編密度12本/inch、目付け220g/mの天竺編物を製編し、得られた編物の制電性、堅牢度を前述の方法で評価した。
【0061】
(実施例9)
導電加工スライバーの繊維混率を50重量%(未処理スライバーの繊維混率50重量%)にした以外は実施例7と同様にして、1/32Nmの織糸を紡績し、編密度12本/inch、目付け220g/mの天竺編物を製編し、得られた編物の制電性、堅牢度を前述の方法で評価した。
【0062】
(実施例10)
未処理スライバーを使用せず、導電加工スライバーの繊維混率を100重量%にした以外は実施例7と同様にして、1/32Nmの織糸を紡績し、編密度12本/inch、目付け220g/mの天竺編物を製編し、得られた編物の制電性、堅牢度を前述の方法で評価した。
【0063】
(比較例1)
導電加工スライバーを使用せず、その他は実施例1と同様にして、常法の紡績方法によりZ360t/mの撚りで1/32Nmの織糸に紡績し、編密度12本/inch、目付け220g/mの天竺編物を製編し(導電加工スライバーの繊維混率0重量%)、得られた編物の制電性、堅牢度を前述の方法で評価した。
【0064】
下記表1が実施例1〜10及び比較例1の内容と試験結果である。
【0065】
【表1】

【0066】
表1の結果から、本発明の導電加工スライバーを使用することで、優れた制電性の紡績糸及び繊維製品(編地)を実現できることが分かる。特に、導電加工スライバーにシリコーン等の樹脂を付与する処理(加工)を更に行うことにより、優れた制電性と摩擦堅牢度を有する高品質の編地を実現できることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の導電加工された天然繊維スライバーを製造する設備の一例の概略図である。
【符号の説明】
【0068】
1 スライバー
2 電子共役系ポリマーを形成し得るモノマーの溶液
3 酸化剤溶液
10 ディップ槽
11a、11b 搾液ローラー
12 シャワー装置
13 サクションドラム乾燥機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子共役系ポリマーが付与されてなることを特徴とする、導電加工された天然繊維スライバー。
【請求項2】
電子共役系ポリマーが、ピロール、チオフェン、アニリン又はそれらの誘導体から得られた重合体である、請求項1記載の導電加工された天然繊維スライバー。
【請求項3】
天然繊維が動物繊維である、請求項1又は2記載の導電加工された天然繊維スライバー。
【請求項4】
天然繊維が獣毛である、請求項1又は2記載の導電加工された天然繊維スライバー。
【請求項5】
オゾン処理されたスライバーに電子共役系ポリマーが付与されたものである、請求項1〜4のいずれか1項記載の導電加工された天然繊維スライバー。
【請求項6】
スライバーに電子共役系ポリマーを被覆する樹脂がさらに付与されてなる、請求項1〜5のいずれか1項記載の導電加工された天然繊維スライバー。
【請求項7】
天然繊維スライバーに、電子共役系ポリマーを形成し得るモノマーの溶液と酸化剤溶液を付与して、スライバー表面にて電子共役系ポリマーを重合せしめることを特徴とする導電加工された天然繊維スライバーの製造方法。
【請求項8】
電子共役系ポリマーを形成し得るモノマーが、ピロール、チオフェン、アニリン又はそれらの誘導体である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
電子共役系ポリマーを重合せしめた後、スライバー表面に電子共役系ポリマーを被覆する樹脂をさらに付与する、請求項7または8記載の方法。
【請求項10】
天然繊維が動物繊維である、請求項7〜9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
天然繊維が獣毛である、請求項7〜9のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
オゾン処理されたスライバーに、電子共役系ポリマーを形成し得るモノマーの溶液と酸化剤溶液を付与して、スライバー表面にて電子共役系ポリマーを重合せしめる、請求項11記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜6のいずれか1項記載の導電加工された天然繊維スライバーを紡績してなる導電性紡績糸。
【請求項14】
請求項1〜6のいずれか1項記載の導電加工された天然繊維スライバーと、他のスライバーとの混合スライバーを紡績してなる導電性紡績糸。
【請求項15】
導電加工された天然繊維スライバーが、導電加工された獣毛スライバーであり、他のスライバーが、獣毛スライバーである、請求項14記載の導電性紡績糸。
【請求項16】
導電加工された天然繊維スライバーが、導電加工された羊毛スライバーであり、他のスライバーが、羊毛スライバーである請求項14記載の導電性紡績糸。
【請求項17】
請求項13〜16のいずれか1項記載の導電性紡績糸を含んでなる、制電性繊維製品。
【請求項18】
請求項1〜6のいずれか1項記載の導電加工された天然繊維スライバーを紡績してなる導電性紡績糸か、或いは、請求項1〜6のいずれか1項記載の導電加工された天然繊維スライバーと、他のスライバーとの混合スライバーを紡績してなる導電性紡績糸を含んでなる繊維基材に対して、電子共役系ポリマーを被覆する樹脂を付与してなる、制電性繊維製品。
【請求項19】
衣類の生地用である、請求項17又は18記載の制電性繊維製品。

【図1】
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【公開番号】特開2009−102770(P2009−102770A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−275580(P2007−275580)
【出願日】平成19年10月23日(2007.10.23)
【出願人】(000001096)倉敷紡績株式会社 (296)
【Fターム(参考)】